説明

燃料電池システムおよび燃料電池の運転方法

【課題】 氷点下始動時において燃料電池を効率よく起動することができる燃料電池システムおよび燃料電池の運転方法を提供する。
【解決手段】 燃料電池システム(100)は、固体高分子型の燃料電池(11)を複数積層した燃料電池スタック(10)内に設けられた冷媒流路の入口から冷媒を供給するとともに冷媒流路の出口から冷媒を回収して前記入口に循環させる循環手段(40)と、発電中の燃料電池の平均温度が0℃を超える前から0℃を超えるまでの所定の期間において冷媒により燃料電池から持ち去られる熱量が低下するように循環手段を制御する制御手段(50)と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムおよび燃料電池の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、一般的には水素及び酸素を燃料として電気エネルギーを得る装置である。この燃料電池は、環境面において優れかつ高いエネルギー効率が実現できることから、今後のエネルギー供給システムとして広く開発が進められてきている。特に、固体高分子型燃料電池は、各種の燃料電池の中でも比較的低温で作動することから、良好な起動性を有する。そのため、多方面における実用化のために盛んに研究がなされている。
【0003】
固体高分子型燃料電池は、プロトン伝導性を有する固体高分子型電解質からなる電解質膜の両側に、それぞれアノードおよびカソードが設けられた膜−電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)が、セパレータによって挟持された構造を有している。
【0004】
この燃料電池を氷点下において始動させると、カソードで生成された水が凍結して、有効発電面積が減少することがある。そこで、氷点下始動時において、冷媒を間欠的に流して燃料電池を徐々に暖機する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2005−276568号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の技術では、燃料電池の発電電極が全体的に凍結して有効発電面積が減少し、起動までの時間が長くなるおそれがある。
【0007】
本発明は、氷点下始動時において燃料電池を効率よく起動することができる燃料電池システムおよび燃料電池の運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る燃料電池システムは、固体高分子型の燃料電池を複数積層した燃料電池スタック内に設けられた冷媒流路の入口から冷媒を供給するとともに冷媒流路の出口から冷媒を回収して入口に循環させる循環手段と、発電中の燃料電池の平均温度が0℃を超える前から0℃を超えるまでの所定の期間において冷媒により燃料電池から持ち去られる熱量が低下するように循環手段を制御する制御手段と、を備えることを特徴とするものである。
【0009】
本発明に係る燃料電池システムにおいては、発電中の燃料電池の平均温度が氷点下から0℃を超えるまでの期間において冷媒による熱の持ち去り量を低下させることによって、カソード触媒層の温度を効率よく0℃を上回らせることができる。それにより、凍結水分を融解させて有効発電面積を確保することができる。その結果、燃料電池を効率よく起動し、起動後の出力を早期に回復することができる。
【0010】
制御手段は、所定の期間において、冷媒の流量が小さくなるように循環手段を制御してもよい。また、制御手段は、所定の期間において、冷媒の循環が停止するように循環手段を制御してもよい。
【0011】
本発明に係る燃料電池の運転方法は、固体高分子型の燃料電池を複数積層した燃料電池スタック内に設けられた冷媒流路の入口から冷媒を供給するとともに冷媒流路の出口から冷媒を回収して入口に循環させる循環ステップと、発電中の燃料電池の平均温度が0℃を超える前から0℃を超えるまでの所定の期間において冷媒により燃料電池から持ち去られる熱量を低下させる低下ステップと、を含むことを特徴とするものである。
【0012】
本発明に係る燃料電池の運転方法においては、燃料電池の平均温度が氷点下から0℃を超えるまでの期間において冷媒による熱の持ち去り量を低下させることによって、カソード触媒層の温度を効率よく0℃を上回らせることができる。それにより、凍結水分を融解させて有効発電面積を確保することができる。その結果、燃料電池を効率よく起動することができる。
【0013】
低下ステップは、所定の期間において、冷媒の流量を小さくするステップであってもよい。また、低下ステップは、所定の期間において、冷媒の循環を停止するステップであってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、氷点下始動時において燃料電池を効率よく起動することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【実施例1】
【0016】
図1は、本発明の第1実施例に係る燃料電池システム100を説明するための図である。図1(a)は、燃料電池システム100の全体構成を示す模式図である。図1(b)は、後述する燃料電池11の模式的断面図である。図1(a)に示すように、燃料電池システム100は、燃料電池スタック10、燃料ガス供給手段20、酸化剤ガス供給手段30、冷媒循環手段40、制御手段50等を備える。
【0017】
燃料電池スタック10は、複数の燃料電池11が積層された構造を有する。図1(b)に示すように、燃料電池11は、膜−電極接合体110がセパレータ120およびセパレータ130によって挟持された構造を有する。膜−電極接合体110は、電解質膜111のセパレータ120側にアノード触媒層112およびガス拡散層113が順に接合され、電解質膜111のセパレータ130側にカソード触媒層114およびガス拡散層115が順に接合された構造を有する。電解質膜111は、プロトン伝導性を有するパーフルオロスルフォン酸型ポリマー等の固体高分子電解質からなる。
【0018】
アノード触媒層112は、触媒を担持する導電性材料等から構成される。アノード触媒層112における触媒は、水素のプロトン化を促進するための触媒である。例えば、アノード触媒層112は白金担持カーボンからなる。ガス拡散層113は、カーボンペーパ、カーボンクロス等のガス透過性を有する導電性材料からなる。
【0019】
カソード触媒層114は、触媒を担持する導電性材料等から構成される。カソード触媒層114は、プロトンと酸素との反応を促進するための触媒である。例えば、カソード触媒層114は、白金担持カーボンからなる。ガス拡散層115は、カーボンペーパ、カーボンクロス等のガス透過性を有する導電性材料からなる。
【0020】
セパレータ120,130は、ステンレス等の導電性材料から構成される。セパレータ120の膜−電極接合体110側の面には、燃料ガスが流動するための燃料ガス流路121が形成されている。また、セパレータ120の膜−電極接合体110と反対側の面には、冷媒が流動するための冷媒流路122が形成されている。セパレータ130の膜−電極接合体110側の面には、酸化剤ガスが流動するための酸化剤ガス流路131が形成されている。また、セパレータ130の膜−電極接合体110と反対側の面には、冷媒が流動するための冷媒流路132が形成されている。例えば、燃料ガス流路121、酸化剤ガス流路131および冷媒流路122,132は、セパレータの表面に形成された凹部からなる。
【0021】
燃料ガス供給手段20は、燃料電池スタック10の燃料ガス入口を介して燃料ガス流路121に、水素を含有する燃料ガスを供給する装置である。燃料ガス供給手段20は、例えば、水素ボンベ、改質器等からなる。酸化剤ガス供給手段30は、燃料電池スタック10の酸化剤ガス入口を介して酸化剤ガス流路131に、酸素を含有する酸化剤ガスを供給する装置である。酸化剤ガス供給手段30は、エアポンプ等からなる。
【0022】
冷媒循環手段40は、燃料電池スタック10の冷媒入口を介して冷媒流路122,132に冷媒を供給するとともに、燃料電池スタック10の冷媒出口から冷媒を回収して上記冷媒入口に循環させる装置である。冷媒循環手段40は、冷媒ポンプ等からなる。冷媒として、例えば、エチレングリコール等を用いることができる。また、燃料電池スタック10の冷媒出口付近に、冷媒の温度を検出する温度センサ41が設けられている。
【0023】
制御手段50は、CPU(中央演算処理装置)、ROM(リードオンリメモリ)、RAM(ランダムアクセスメモリ)等から構成され、燃料電池システム100の各部の制御を行う手段である。
【0024】
(通常発電)
続いて、図1(a)および図1(b)を参照しつつ、通常発電時の燃料電池システム100の動作について説明する。まず、制御手段50は、燃料ガス流路121に燃料ガスが供給されるように、燃料ガス供給手段20を制御する。この燃料ガスは、ガス拡散層113を透過してアノード触媒層112に到達する。燃料ガスに含まれる水素は、アノード触媒層112の触媒を介してプロトンと電子とに解離する。プロトンは、電解質膜111を伝導してカソード触媒層114に到達する。
【0025】
また、制御手段50は、酸化剤ガス流路131に酸化剤ガスが供給されるように、酸化剤ガス供給手段30を制御する。この酸化剤ガスは、ガス拡散層115を透過してカソード触媒層114に到達する。カソード触媒層114においては、触媒を介してプロトンと酸素とが反応する。それにより、電力が発生するとともに、水が生成される。生成された水は、酸化剤ガス流路131を通って排出される。
【0026】
また、制御手段50は、冷媒流路122,132に冷媒が供給されるように、冷媒循環手段40を制御する。この冷媒の循環によって、燃料電池スタック10の温度が所定の温度に調整される。燃料電池スタック10の冷媒出口から排出される冷媒の温度は、燃料電池スタック10の平均温度にほぼ等しくなる。したがって、温度センサ41は、冷媒の温度を検出しつつ、燃料電池スタック10の平均温度を検出している。
【0027】
(氷点下始動)
続いて、図2を参照しつつ、燃料電池スタック10の氷点下始動の際の燃料電池システム100の動作について説明する。図2は、始動後の経過時間と各部の温度との関係を示す図である。図2において、横軸は始動後の経過時間を示し、左側の縦軸は温度を示し、右側の縦軸は流量を示す。
【0028】
制御手段50は、燃料ガス流路121に燃料ガスが供給されるように燃料ガス供給手段20を制御し、酸化剤ガス流路131に酸化剤ガスが供給されるように酸化剤ガス供給手段30を制御し、冷媒流路122,132に冷媒が供給されるように冷媒循環手段40を制御する。それにより、各燃料電池11において発電が行われる。その結果、発電に伴って発生する熱によって、各燃料電池11の平均温度が上昇する。
【0029】
燃料電池11の平均温度が所定の温度(例えば、−10℃)に到達した場合、制御手段50は、冷媒の循環が停止するように循環手段40を制御する。この場合、燃料電池11から持ち去られる熱量が低下する。それにより、発電反応が継続されるカソード触媒層114の温度上昇率が増加し、カソード触媒層114の温度が0℃を超えやすくなる。その結果、発電に伴う生成水の再氷結が抑制されるとともに凍結した水分が融解し、有効発電面積が確保される。
【0030】
カソード触媒層114の温度が0℃を超えた後、制御手段50は、冷媒の循環が再開されるように循環手段40を制御する。この場合、燃料電池11の平均温度は、冷媒の循環によって一時的に低下するが、すぐに上昇する。有効発電面積が確保されているからである。
【0031】
本実施例のように、燃料電池の平均温度が氷点下から0℃を超えるまでの所定期間において冷媒による熱の持ち去り量を低下させることによって、カソード触媒層の温度を効率よく0℃を上回らせることができる。それにより、凍結水分を融解させて有効発電面積を確保することができる。その結果、燃料電池を効率よく起動することができる。
【0032】
なお、カソード触媒層114の温度が0℃を上回っていることを推定する方法は特に限定されないが、以下のような手法を用いることができる。例えば、冷媒の循環停止後、予め定めておいた規定時間を超えた場合に、カソード触媒層114の温度が0℃を上回っていると推定することができる。また、燃料オフガスおよび酸化剤オフガスの少なくとも一方の温度が0℃を上回った場合に、カソード触媒層114の温度が0℃を上回っていると推定することができる。時間差を考慮して、燃料オフガスおよび酸化剤オフガスの少なくとも一方の温度が0℃を上回ってから所定時間経過後に、カソード触媒層114の温度が0℃を上回ったと推定してもよい。
【0033】
発電電流、発電電圧および発電継続時間から算出した発熱量を燃料電池11の熱容量で除した昇温代が規定温度に達した際に、カソード触媒層114の温度が0℃を上回ったと推定してもよい。なぜなら、電流値は反応量と同じであり、制御電圧が決まれば発熱量が決まり、冷却水による系外への持ち去り熱量が決まれば、系内に蓄積される熱量が決まる。構造体の熱容量は予め求められるため、昇温代の推定が可能となる。また、一定電圧で燃料電池11に発電させた場合において、発電電流値が所定値以上になった際に、カソード触媒層114の温度が0℃を上回ったと推定してもよい。電流値は温度の関数だからである。氷点下の発電では、温度が低いほど燃料電池の発電性能は悪化する。また、同じ温度でも、氷によりガスが触媒まで届かずに有効発電面積が減った場合も性能が悪化する。このため、燃料電池の発電状態を見て、氷点を局所的に突破したか、有効発電面積が回復したかを判断しても大きな間違いにはならないからである。
【0034】
なお、カソード触媒層114の効率的な温度上昇のために、燃料電池11の始動から冷媒の循環を停止することも考えられる。しかしながら、この場合、燃料電池11の平均温度を検出しにくくなるため、燃料電池11の制御が困難になるおそれがある。また、冷媒の循環を停止すると、カソード触媒層114において局所的に温度が上昇することになる。この場合、燃料電池11の各部が損傷するおそれがある。したがって、冷媒はできるだけ循環していることが好ましい。本実施例においては、冷媒の循環停止が所定の期間に制限されることから、燃料電池11の各部の損傷等を抑制しつつ、効率よく燃料電池11を起動することができる。
【0035】
図3は、氷点下始動時のフローチャートの一例を示す図である。図3に示すように、制御手段50は、温度センサ41の検出結果を取得する(ステップS1)。次に、制御手段50は、温度センサ41の検出温度が0℃未満であるか否かを判定する(ステップS2)。ステップS2において温度センサ41の検出温度が0℃未満であると判定されなかった場合、制御手段50は、フローチャートの実行を終了する。
【0036】
ステップS2において温度センサ41の検出温度が0℃未満であると判定された場合、制御手段50は、燃料ガス流路121に燃料ガスが供給されるように燃料ガス供給手段20を制御し、酸化剤ガス流路131に酸化剤ガスが供給されるように酸化剤ガス供給手段30を制御し、冷媒流路122,132に冷媒が供給されるように冷媒循環手段40を制御する(ステップS3)。
【0037】
次に、制御手段50は、温度センサ41の検出結果を取得する(ステップS4)。次いで、制御手段50は、温度センサ41の検出温度が−10℃以上であるか否かを判定する(ステップS5)。ステップS5において温度センサ41の検出温度が−10℃以上であると判定されなかった場合、制御手段50は待機する。ステップS5において温度センサ41の検出温度が−10℃以上であると判定された場合、制御手段50は、冷媒の循環が停止されるように冷媒循環手段40を制御する(ステップS6)。
【0038】
次いで、制御手段50は、規定時間が経過するまで待機する(ステップS7)。次に、制御手段50は、冷媒の循環が再開されるように冷媒循環手段40を制御する(ステップS8)。その後、制御手段50は、フローチャートの実行を終了する。
【0039】
このフローチャートに従えば、燃料電池11の平均温度が−10℃を超えた後に燃料電池11から持ち去られる熱量が低下する。それにより、有効発電面積が確保される。その結果、効率よく起動することができる。なお、ステップS7においては、他の手法を用いてカソード触媒層114の温度が0℃を上回っていると推定してもよい。
【0040】
なお、冷媒循環停止を判定するための温度しきい値を−10℃としているが、氷点下であれば特に限定されるものではない。また、冷媒循環を停止することによってカソード触媒層114の温度を効率よく上昇させているが、必ずしも停止させる必要はない。例えば、冷媒循環量を低下させることによって、カソード触媒層114の温度を上昇させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の第1実施例に係る燃料電池システムを説明するための図である。
【図2】始動後の経過時間と燃料電池の各部の温度との関係を示す図である。
【図3】氷点下始動時のフローチャートの一例を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
10 燃料電池スタック
11 燃料電池
20 燃料ガス供給手段
30 酸化剤ガス供給手段
40 冷媒循環手段
41 温度センサ
50 制御手段
100 燃料電池システム
110 膜−電極接合体
111 電解質膜
114 カソード触媒層
122,132 冷媒流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子型の燃料電池を複数積層した燃料電池スタック内に設けられた冷媒流路の入口から冷媒を供給するとともに、前記冷媒流路の出口から冷媒を回収して前記入口に循環させる循環手段と、
発電中の前記燃料電池の平均温度が0℃を超える前から0℃を超えるまでの所定の期間において、前記冷媒により前記燃料電池から持ち去られる熱量が低下するように前記循環手段を制御する制御手段と、を備えることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記制御手段は、前記所定の期間において、前記冷媒の流量が小さくなるように前記循環手段を制御することを特徴とする請求項1記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記制御手段は、前記所定の期間において、前記冷媒の循環が停止するように前記循環手段を制御することを特徴とする請求項1記載の燃料電池システム。
【請求項4】
固体高分子型の燃料電池を複数積層した燃料電池スタック内に設けられた冷媒流路の入口から冷媒を供給するとともに、前記冷媒流路の出口から冷媒を回収して前記入口に循環させる循環ステップと、
発電中の前記燃料電池の平均温度が0℃を超える前から0℃を超えるまでの所定の期間において、前記冷媒により前記燃料電池から持ち去られる熱量を低下させる低下ステップと、を含むことを特徴とする燃料電池の運転方法。
【請求項5】
前記低下ステップは、前記所定の期間において、前記冷媒の流量を小さくするステップであることを特徴とする請求項4記載の燃料電池の運転方法。
【請求項6】
前記低下ステップは、前記所定の期間において、前記冷媒の循環を停止するステップであることを特徴とする請求項4記載の燃料電池の運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−170313(P2009−170313A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−8441(P2008−8441)
【出願日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】