説明

燃料電池システムの制御方法

【課題】停止時発電処理の実施の有無に拘わらず、次回の燃料電池システムの起動性・発電安定性を低下させない燃料電池システムの制御方法を提供する。
【解決手段】燃料電池システム10の運転停止指令を検出した際、発電停止時処理(O2リーン処理)が実施された後、掃気装置15によるソーク時掃気ガス置換処理が実施される前に起動時燃料ガス置換処理を行う場合の燃料ガスの使用量を、発電停止時処理が実施されないで、掃気装置15によるソーク時掃気ガス置換処理が実施される前に前記起動時燃料ガス置換処理を行う場合に比べて、多い量とすることで、起動時に燃料ガスが不足することを原因とする起動性・発電安定性の低下を回避することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、酸化剤ガス及び燃料ガスの電気化学反応により発電する燃料電池を備える燃料電池システムの制御方法に関し、特に、燃料電池の起動時に、アノード側から多くの燃料ガスを導入しつつアノードオフガスを排出する、いわゆるアノード側の起動時燃料ガス置換処理{OCV(Open Circuit Voltage:開回路電圧)状態(燃料電池から電流を引かない状態)でのパージ処理、略してOCVパージ処理ともいう。}を行う燃料電池システムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料ガス(主に水素を含有するガス、例えば、水素ガス)及び酸化剤ガス(主に酸素を含有するガス、例えば、空気)をアノード電極及びカソード電極に供給して電気化学的に反応させることにより、直流の電気エネルギを得るシステムである。このシステムは、定置用の他、車載用として燃料電池車両に組み込まれている。
【0003】
例えば、固体高分子型燃料電池は、高分子イオン交換膜からなる電解質膜の両側に、それぞれアノード電極及びカソード電極を設けた電解質膜・電極構造体(MEA)を、一対のセパレータによって挟持している。一方のセパレータと電解質膜・電極接合体との間には、アノード電極に燃料ガスを供給するための燃料ガス流路が形成されるとともに、他方のセパレータと前記電解質膜・電極構造体との間には、カソード電極に酸化剤ガスを供給するための酸化剤ガス流路が形成されている。
【0004】
この燃料電池の停止時には、燃料ガス及び酸化剤ガスの供給が停止されるが、燃料ガス流路内に前記燃料ガスが残留する一方、酸化剤ガス流路内に前記酸化剤ガスが残留している。従って、特に燃料電池の停止期間が長くなると、燃料ガスや酸化剤ガスが電解質膜を透過し、前記燃料ガスと前記酸化剤ガスとが混在し反応して電解質膜・電極構造体が劣化するおそれがある。
【0005】
そこで、例えば、特許文献1に開示されている燃料電池システムでは、燃料電池の運転停止時に、アノード側への反応ガスの供給を遮断するとともに、カソード側への反応ガスの供給を少なくして発電を継続し、発電出力をバッテリに充電する、いわゆる停止時発電処理が実施されている。停止時発電処理により、アノード側では水素が消費され、カソード側では酸素が消費されて窒素ガスが充満するので、運転停止後のソーク時における燃料電池システムの劣化が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−22487号公報(図1、[0029])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、燃料電池システムの起動時には、上述したように、アノード側から多くの燃料ガスを導入しつつアノードオフガスを排出する、いわゆるOCVパージ処理が行われるが、上記の停止時発電処理を実施している場合、次回起動時の起動性・発電安定性が、停止時発電処理を実施していない場合に比較して悪化する場合があるという課題が発生している。
【0008】
この発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、停止時発電処理の実施の有無に拘わらず、次回の燃料電池システムの起動性・発電安定性を低下させないことを可能とする燃料電池システムの制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係る燃料電池システムの制御方法は、カソード側に供給される酸化剤ガスとアノード側に供給される燃料ガスとの電気化学反応により発電する燃料電池と、前記燃料電池に前記酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給装置と、前記燃料電池に前記燃料ガスを供給する燃料ガス供給装置と、を備える燃料電池システムの制御方法であって、前記燃料電池の運転停止指令を検出した際、前記燃料ガスの供給を停止する一方、前記酸化剤ガスを前記燃料電池に供給しながら前記燃料電池を発電させる停止時発電処理を実施した後に前記燃料電池の発電を停止し、発電を停止させた後に、前記燃料電池システムの起動指令を検出したとき、前記燃料電池の発電を停止させたときから前記燃料電池システムの前記起動指令を検出するまでの経過時間に基づき、前記経過時間が規定時間より短い場合には、前記経過時間が前記規定時間よりも長い場合に比べて、前記燃料電池システムの起動時におけるアノード側の燃料ガス置換量を多くする起動時燃料ガス置換処理を実施することを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、燃料電池システムの運転停止指令を検出した際、燃料ガスの供給を停止する一方、酸化剤ガスを前記燃料電池に供給しながら前記燃料電池を発電させる停止時発電処理を実施した後に前記燃料電池の発電を停止し、発電を停止させた後に、前記燃料電池システムの起動指令を検出したとき、前記燃料電池の発電を停止させたときから前記燃料電池システムの起動指令を検出するまでの経過時間に基づき、前記経過時間が規定時間より短い場合には、前記経過時間が前記規定時間よりも長い場合に比べて、前記燃料電池の起動時におけるアノード側の燃料ガス置換量を多くする起動時燃料ガス置換処理を実施するようにしたので、起動時に燃料ガスが不足することを原因とする起動性・発電安定性の低下を回避することができる。
【0011】
また、この発明に係る燃料電池システムの制御方法は、カソード側に供給される酸化剤ガスとアノード側に供給される燃料ガスとの電気化学反応により発電する燃料電池と、前記燃料電池に前記酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給装置と、前記燃料電池に前記燃料ガスを供給する燃料ガス供給装置と、前記燃料電池の発電を停止した後のソーク時に前記アノード側を掃気ガスにより掃気してソーク時掃気ガス置換処理を行う掃気装置と、を備え、前記燃料電池の起動時に、アノード側に燃料ガスを供給して、アノードオフガスを排出する起動時燃料ガス置換処理を行う燃料電池システムの制御方法であって、前記燃料電池の運転停止指令を検出した際、前記燃料ガスの供給を停止する一方、前記酸化剤ガスを前記燃料電池に供給しながら前記燃料電池を発電させる停止時発電処理を実施した後に前記燃料電池の運転を停止する第1の手順と、前記第1の手順に係る前記停止時発電処理を実施しないで前記燃料電池の運転を停止する第2の手順と、を選択的に有し、前記燃料電池の運転停止指令を検出した際、前記第1の手順が実施された後、前記掃気装置によるソーク時掃気ガス置換処理が実施される前に前記起動時燃料ガス置換処理を行う場合の前記燃料ガスの使用量を、前記第2の手順が実施された後、前記掃気装置によるソーク時掃気ガス置換処理が実施される前に前記起動時燃料ガス置換処理を行う場合に比べて、多い量とすることを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、燃料電池の運転停止指令を検出した際、停止時発電処理を含む手順(第1の手順)が実施された運転停止後、掃気装置によるソーク時掃気ガス置換処理が実施される前に、起動時アノード側ガス置換処理を行う場合に使用される燃料ガスの使用量を、停止時発電処理を含む手順が不実施の(第2の手順が実施された)後の運転停止後、前記掃気装置によるソーク時掃気ガス置換処理が実施される前に、前記起動時アノード側ガス置換処理を行う場合に比べて、多い量としたので、起動時に燃料ガスが不足することを原因とする起動性・発電安定性の低下を回避することができる。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、燃料電池システムの停止処理中における停止時発電処理の実施の有無に基づき、実施した場合には、次回起動時のアノード側ガスパージ処理で使用される燃料ガスの量を多い量としたので、起動時に燃料ガスが不足することを原因とする起動性・発電安定性の低下を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の実施形態に係る制御方法が実施される燃料電池システムの概略構成図である。
【図2】前記燃料電池システムを構成する回路説明図である。
【図3】前記制御方法を説明するタイミングチャートである。
【図4】前記燃料電池システムの水素ガス系容積部及び空気系容積部の説明図である。
【図5】水素濃度をパラメータとした、ソーク時間に対する劣化度合いの説明図である。
【図6】低酸素ストイキ発電処理(O2リーン発電処理)を実施した場合のガス置換処理のタイミングの説明図である。
【図7】低酸素ストイキ発電処理(O2リーン発電処理)を実施した場合と実施していない場合のガス置換処理のタイミングの比較説明図である。
【図8】低酸素ストイキ発電処理(O2リーン発電処理)の実施の有無の判断に供されるフローチャートである。
【図9】起動時処理の説明に供されるフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1に示すように、この発明の実施形態に係る運転停止方法が実施される燃料電池システム10は、燃料電池スタック12と、燃料電池スタック12に酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給装置14と、燃料電池スタック12に燃料ガスを供給する燃料ガス供給装置16と、燃料電池スタック12に掃気ガスを導入する掃気装置15と、燃料電池スタック12に接続自由なバッテリ(蓄電装置)17と、燃料電池システム10全体の制御を行うコントローラ(制御装置、制御部)18とを備える。
【0016】
コントローラ18は、マイクロコンピュータを含む計算機であり、CPU(中央処理装置)、メモリであるROM(EEPROMも含む。)、RAM(ランダムアクセスメモリ)、その他、A/D変換器、D/A変換器等の入出力装置、時計、計時部としてのタイマ19等を有しており、CPUがROMに記録されているプログラムを読み出し実行することで各種機能実現部(機能実現手段)、たとえば制御部、演算部、及び処理部等として機能する。
【0017】
燃料電池システム10は、燃料電池自動車等の燃料電池車両に搭載される。バッテリ17は、燃料電池車両を通常走行可能であり、例えば、20A、〜500V程度であるとともに、後述する12V電源98よりも高電圧且つ高電力容量である。
【0018】
燃料電池スタック12は、複数の燃料電池(セル又はセルペアともいう。)20を積層して構成される。各燃料電池20は、例えば、パーフルオロスルホン酸の薄膜に水が含浸された固体高分子電解質膜22をカソード電極24とアノード電極26とで挟持した電解質膜・電極構造体(MEA)28を備える。
【0019】
カソード電極24及びアノード電極26は、カーボンペーパ等からなるガス拡散層と、白金合金(又はRu等)が表面に担持された多孔質カーボン粒子が前記ガス拡散層の表面に一様に塗布されて形成された電極触媒層とを有する。電極触媒層は、固体高分子電解質膜22の両面に形成される。
【0020】
電解質膜・電極構造体28をカソード側セパレータ30及びアノード側セパレータ32で挟持する。カソード側セパレータ30及びアノード側セパレータ32は、例えば、カーボンセパレータ又は金属セパレータで構成される。
【0021】
カソード側セパレータ30と電解質膜・電極構造体28との間には、酸化剤ガス流路34が設けられるとともに、アノード側セパレータ32と前記電解質膜・電極構造体28との間には、燃料ガス流路36が設けられる。
【0022】
燃料電池スタック12には、各燃料電池20の積層方向に互いに連通して、酸化剤ガス、例えば、酸素含有ガス(以下、空気ともいう。)を供給する酸化剤ガス入口連通孔38a、燃料ガス、例えば、水素含有ガス(以下、水素ガスともいう)を供給する燃料ガス入口連通孔40a、冷却媒体を供給する冷却媒体入口連通孔(図示せず)、前記酸化剤ガスを排出する酸化剤ガス出口連通孔38b、前記燃料ガスを排出する燃料ガス出口連通孔40b、及び前記冷却媒体を排出する冷却媒体出口連通孔(図示せず)が設けられる。
【0023】
酸化剤ガス供給装置14は、大気からの空気を圧縮して供給するエアポンプ50を備え、前記エアポンプ50が空気供給流路52に配設される。空気供給流路52には、供給ガスと排出ガスとの間で水分と熱を交換する加湿器54が配設される。空気供給流路52は、燃料電池スタック12の酸化剤ガス入口連通孔38aに連通する。
【0024】
酸化剤ガス供給装置14は、酸化剤ガス出口連通孔38bに連通する空気排出流路56を備える。空気排出流路56は、加湿器54の加湿媒体通路(図示せず)に連通するとともに、この空気排出流路56には、エアポンプ50から空気供給流路52を通って燃料電池スタック12に供給される空気の圧力を調整するためのバタフライ弁等の開度調整可能な背圧制御弁(単に、背圧弁ともいう。)58が設けられる。背圧制御弁58は、ノーマルクローズ型(通電されない時に閉じられる)制御弁により構成されることが好ましい。空気排出流路56は、希釈ボックス60に連通する。
【0025】
掃気装置15は、前記酸化剤ガス供給装置14と共用するエアポンプ50と、エゼクタ66の下流側の水素供給流路64と空気供給流路52との間に配設された空気導入流路53と、この空気導入流路53に設けられた空気導入弁55と、を備える。
【0026】
空気導入弁55は、エアポンプ50から空気供給流路52及び空気導入流路53を介し、燃料ガス入口連通孔40aを通じて燃料ガス流路36に圧縮空気を導入するための、いわゆるアノード側空気掃気処理時(アノード側空気置換処理時)に開放される開閉弁である。
【0027】
燃料ガス供給装置16は、高圧水素を貯留し開閉弁であるインタンク電磁弁63が一体的に設けられた水素タンク62を備え、この水素タンク62は、水素供給流路64を介して燃料電池スタック12の燃料ガス入口連通孔40aに連通する。
【0028】
この水素供給流路64には、開閉弁である遮断弁65及びエゼクタ66が設けられる。エゼクタ66は、水素タンク62から供給される水素ガスを、水素供給流路64を通って燃料電池スタック12に供給するとともに、燃料電池スタック12で使用されなかった未使用の水素ガスを含む排ガスを、水素循環路68から吸引して、再度、前記燃料電池スタック12に燃料ガスとして供給する。
【0029】
燃料ガス出口連通孔40bには、オフガス流路70が連通する。オフガス流路70の途上には、水素循環路68が連通するとともに、オフガス流路70には、パージ弁72を介して希釈ボックス60が接続される。希釈ボックス60の排出口側には、排出流路74が接続される。なお、排出流路74には、図示しない貯蔵バッファが配設され、この貯蔵バッファには、大気に連通する排気流路が接続される。
【0030】
コントローラ18は、各種制御処理を実行するために、水素供給流路64に設けられたアノード圧力Paを検出する圧力センサ102、酸化剤ガス出口連通孔38bの近傍に設けられたカソード圧力Pkを検出する圧力センサ103、燃料ガス出口連通孔40bの近傍に設けられた水素温度Thを検出する温度センサ104、図示しない冷却媒体入口連通孔に設けられた冷媒温度Tcを検出する温度センサ106、各燃料電池20の電圧(セル電圧又はセルペア電圧という。)Vcを検出する電圧センサ108、及び燃料電池スタック12から流れ出る電流の電流値Ioを検出する電流センサ110の各信号を取り込み、後述するFCコンタクタ86のオン(閉)オフ(開)、遮断弁65等の弁の開閉及び開度制御、及びエアポンプ50の流量(風量)の調整等のアクチュエータの制御等を行う。
【0031】
図2に示すように、燃料電池スタック12には、主電力線80の一端が接続されるとともに、前記主電力線80の他端がインバータ82に接続される。インバータ82には、三相の車両走行用の駆動モータ84が接続される。なお、主電力線80は、実質的には、2本用いられているが、説明の簡素化を図るために、1本の前記主電力線80で記載する。以下に説明する他のラインにおいても、同様である。
【0032】
主電力線80には、FCコンタクタ(主電源開閉器、燃料電池スタック開閉器)86が配設されるとともに、エアポンプ50が接続される。主電力線80には、電力線88の一端が接続され、電力線88には、DC/DCコンバータ90及びバッテリコンタクタ(蓄電装置開閉器)92を介してバッテリ17が接続される。電力線88には、分岐電力線94が設けられ、分岐電力線94には、ダウンバータ(DC/DCコンバータ)96を介して12V電源98が接続される。なお、12V電源98は、バッテリ17よりも低い電圧であればよく、12Vに限定されるものではない。
【0033】
このように構成される燃料電池システム10の動作について、以下に説明する。
【0034】
先ず、燃料電池システム10の通常運転時(通常発電時、又は通常発電処理時ともいう。)には、酸化剤ガス供給装置14を構成するエアポンプ50を介して、空気供給流路52に空気が送られる。この空気は、加湿器54を通って加湿された後、燃料電池スタック12の酸化剤ガス入口連通孔38aに供給される。この空気は、燃料電池スタック12内の各燃料電池20に設けられている酸化剤ガス流路34に沿って移動することにより、カソード電極24に供給される。
【0035】
使用済みの空気は、酸化剤ガス出口連通孔38bから空気排出流路56に排出され、加湿器54に送られることによって新たに供給される空気を加湿した後、背圧制御弁58を介して希釈ボックス60に導入される。
【0036】
一方、燃料ガス供給装置16では、インタンク電磁弁63及び遮断弁65が開放されることにより、水素タンク62から減圧制御弁(図示せず)により減圧された後、水素供給流路64に水素ガスが供給される。この水素ガスは、水素供給流路64を通って燃料電池スタック12の燃料ガス入口連通孔40aに供給される。燃料電池スタック12内に供給された水素ガスは、各燃料電池20の燃料ガス流路36に沿って移動することにより、アノード電極26に供給される。
【0037】
使用済みの水素ガスは、燃料ガス出口連通孔40bから水素循環路68を介してエゼクタ66に吸引され、燃料ガスとして、再度、燃料電池スタック12に供給される。従って、カソード電極24に供給される空気とアノード電極26に供給される水素ガスとが電気化学的に反応して発電が行われる。
【0038】
一方、水素循環路68を循環する水素ガスには、不純物が混在し易い。このため、不純物を混在する水素ガスは、パージ弁72が開放されることによって希釈ボックス60に導入される。この水素ガスは、希釈ボックス60内で空気オフガスと混合されることにより水素濃度が低下された後、貯蔵バッファ(図示せず)に排出される。
【0039】
通常発電中には、掃気装置15は作動させず、空気導入弁55は、閉じた状態に保持される。空気導入弁55は、ノーマルクローズ型(通電されない時に閉じられる)の開閉弁であることが好ましい。
【0040】
次に、燃料電池システム10の運転停止方法について、図3に示すタイミングチャートに沿って、以下に説明する。
【0041】
図示しない燃料電池自動車に搭載された燃料電池システム10は、上記のように、通常発電運転を行うことにより、所望の走行が行われている。そして、図示しないイグニッションスイッチ(運転スイッチ)がオフされると、コントローラ18は、これを停止指令として検出し(時点t1)、燃料電池システム10の運転停止処理を開始する。
【0042】
先ず、後述するディスチャージ処理(低酸素ストイキ発電処理、停止時発電処理、O2リーン処理、又はO2リーン発電処理ともいう。)後に、燃料電池スタック12内の燃料ガス圧力(アノード圧力Pa)が設定圧力に維持されるように、水素ガス(燃料ガス)の供給圧力が、予め、設定される。具体的には、図4に示すように、水素ガスが充填されて閉じられる水素ガス系容積部200は、燃料電池スタック12内の燃料ガス流路36、燃料ガス入口連通孔40a及び燃料ガス出口連通孔40bと、水素供給流路64のエゼクタ66よりも下流領域と、水素循環路68と、オフガス流路70のパージ弁72よりも上流領域とにより構成される。
【0043】
空気雰囲気を不活性なガスである窒素雰囲気に置換したい空気系容積部202は、燃料電池スタック12内の酸化剤ガス流路34、酸化剤ガス入口連通孔38a及び酸化剤ガス出口連通孔38bと、空気供給流路52と、空気排出流路56と、加湿器54と、希釈ボックス60と、図示しない貯蔵バッファとにより構成される。
【0044】
ディスチャージ処理時には、空気は、酸素ストイキを、通常発電時の酸素ストイキよりも低い低酸素ストイキで供給する。具体的には、低酸素ストイキは、値1前後に設定される。なお、酸素ストイキは、通常発電時には、1.2〜3.0の間に収まることが好ましい。一方、ディスチャージ処理時に、水素ガスは、供給が停止される。
【0045】
このため、空気系容積部202における燃料電池スタック12で窒素雰囲気にしたい残存酸素のモル数nO2(O2は正しくはOと表記される。)及びエアポンプ50により供給される低酸素ストイキにより窒素雰囲気にしたい加湿器54、希釈ボックス60及び貯蔵バッファの酸素のモル数n´O2と、水素ガス系容積部200における残存水素のモル数nH2(H2は正しくはHと表記される。)とは、2(nO2+n´O2)=nH2の関係を有する状態に設定される。なお、上述したように、水素H2は水素Hを意味し、酸素O2は酸素Oを意味している。
【0046】
そして、設定された残存水素のモル数nH2から、n(モル数)=P(圧力)×V(体積)/R(気体常数)×T(絶対温度)の式を用いて、水素ガスの供給圧力(アノード圧力)Pa1が算出される(図3参照)。但し、アノード圧力Pa1は、ディスチャージ完了時に、一定圧力Pa2以上に維持されるように設定される。一定圧力Pa2は、水素の不足や過剰が発生しない程度の圧力である。
【0047】
ここで、空気系容積部202の容量>>水素ガス系容積部200の容量の関係を有する場合には、前記水素ガス系容積部200の容量を増加させるために、アノード圧力Pa1まで増圧させる方法、又は不足する水素の供給を行う方法を採用することができる。
【0048】
一方、水素ガス系容積部200の容量>>空気系容積部202の容量の関係を有する場合には、前記水素ガス系容積部200の容量を減少させるために、アノード圧力Pa1まで減圧させる方法が採用される。
【0049】
図3に示すように、イグニッションスイッチ(運転スイッチ)がオフにされると(時点t1)、インタンク電磁弁63及び遮断弁65の開放作用下に燃料電池スタック12に水素ガスが供給され、燃料電池スタック12内の圧力がアノード圧力Pa1まで上昇する(時点t1〜t2:昇圧処理)。このアノード圧力Pa1は、上記の計算式より算出される。
【0050】
昇圧処理が終了すると(時点t2)、インタンク電磁弁63が閉じられ、インタンク電磁弁63の故障検知処理に移行する。この故障検知処理では、インタンク電磁弁63の直下流の圧力変化の有無により故障検知が行われる。圧力が低下した場合には、インタンク電磁弁63が正常とされる。すなわち、正常に閉弁されたと判断する。
【0051】
インタンク電磁弁63の故障検知処理が終了すると(時点t3)と、カソード掃気処理が行われる。このカソード掃気処理では、カソード側の水滴を含む液滴等を吹き飛ばすための空気による(酸化剤ガス供給装置14による)掃気処理が行われる。この際、高回転数[rpm]に設定されるエアポンプ50を駆動するのに不足する電力は補充される(時点t4〜t5)。
【0052】
カソード掃気処理後には、背圧制御弁58の開度制御が一旦停止されて開放されることで大気に連通し、カソード圧力PkがPk=0[kPag:gはゲージ圧を意味する。]にされる状態が作られる(時点t6〜t7)。さらに、カソード掃気処理終了時点(時点t6)で、酸化剤ガス供給装置14を構成するエアポンプ50は、通常運転時に比べて相当に回転数が減速され、酸化剤ガス中の酸素ストイキを、通常発電時の酸素ストイキよりも低い低酸素ストイキで供給する。具体的には、低酸素ストイキは、1前後に設定される。そして、圧力センサ103の学習処理(0点補正)がなされる。
【0053】
その後、時点t7〜t8において、背圧制御弁58の開度を調整することで、圧力センサ103により検出されるカソード圧力Pkが、低酸素ストイキに対応する所定の低圧力Pk1とされ、さらに、その低圧力Pk1での背圧制御弁58の学習処理がなされる(時点t7〜t8)。以降、エアポンプ50のオフ(時点t9)まで、低圧力Pk1とされる。
【0054】
一方、燃料電池スタック12は、発電が継続されている(時点t1〜t8)。
【0055】
背圧制御弁58の学習処理(時点t7〜t8)後の低酸素ストイキ発電処理(O2リーン発電処理、単にO2リーン処理ともいう。時点t8〜t9)では、燃料電池スタック12から取り出される電流(FC電流)は、固体高分子電解質膜22を透過してアノード側からカソード側に燃料ガスである水素ガスが移動することを阻止する値に設定される。その際、図2において、FCコンタクタ86及びバッテリコンタクタ92がオンされており、燃料電池スタック12の発電時に得られる電力は、DC/DCコンバータ90により電圧を降圧させた後、バッテリ17に充電される。
【0056】
上記のように、燃料電池スタック12では、低酸素ストイキの空気が供給される一方、遮断弁65の閉塞(時点t3)により水素ガスの供給が停止した状態で、発電が行われている。パージ弁72も閉じられている。そして、燃料電池スタック12による発電電力は、バッテリ17に供給されることにより、ディスチャージ{図3中、DCHG(O2リーン処理)}されている。従って、燃料電池スタック12の発電電圧が所定の電圧、すなわち、バッテリ17に供給不能な電圧(バッテリ17の電圧とほぼ同じ電圧)まで低下すると、エアポンプ50にのみ発電電力が供給される。
【0057】
これにより、燃料電池スタック12内では、O2リーン処理(時点t8〜t9)の間にアノード側の水素濃度が低下する一方、カソード側の酸素濃度が低下していく。そこで、例えば、アノード側の水素圧力(アノード圧力Pa)が所定の圧力Pa2以下となった際に、エアポンプ50がオフされるとともに、バッテリコンタクタ92がオフされる(時点t9)。
【0058】
このため、燃料電池スタック12は、内部に残存する水素ガスと空気とにより発電される(時点t9〜t10)。この燃料電池スタック12の発電により発生する電力は、ダウンバータ96を介して降圧された後、12V電源98に充電(図3中、D/V DCHG)されるとともに、必要に応じて図示しないラジエータファン等に電力が供給される。さらに、燃料電池スタック12の発電電圧が、ダウンバータ96の作動限界電圧の近傍まで低下すると、FCコンタクタ86がオフされる(時点t10)。これにより燃料電池システム10は、運転停止状態、いわゆるソーク状態となる。
【0059】
上述したように、イグニッションスイッチがオフされると(時点t1)、水素ガスの供給を停止する前に、燃料電池スタック12内のアノード圧力Paがアノード圧力Pa1まで上昇された後(時点t2)、背圧制御弁58、エアポンプ50、インタンク電磁弁63及び遮断弁65が操作されている。従って、燃料電池スタック12では、この燃料電池スタック12内に残存する水素ガスと低酸素ストイキの空気とにより発電が行われ、発電電力がバッテリ17に供給されてディスチャージされている(時点t2〜t9)。
【0060】
これにより、燃料電池スタック12内のアノード側では、水素濃度が減少するとともに、カソード側では、酸素濃度が減少して窒素濃度が上昇している。このため、カソード側には、排ガスとして高濃度の窒素ガスが発生し、前記窒素ガスが希釈ボックス60まで供給される。
【0061】
従って、図4に示す燃料電池スタック12を含む空気系容積部202内には、不活性なガスである窒素ガスを満たすことができる。
【0062】
その上、水素ガスの供給を停止する前に、燃料電池スタック12に供給される水素ガスの供給圧力を、アノード圧力Pa1まで上昇させている(時点t2)。このため、燃料電池スタック12内に適正な量の水素が充填された状態で、低酸素ストイキによる発電(O2リーン処理)が良好に遂行され、ディスチャージ完了後に、燃料電池スタック12内に過剰な水素ガスが残存したり、水素ガス不足が発生したりすることを、確実に阻止することができるという効果が得られる。
【0063】
さらに、エアポンプ50を停止することにより(時点t9)、空気の供給を停止した状態で、すなわち、燃料電池スタック12内に残存する水素及び酸素のみで、前記燃料電池スタック12が発電されている(図3中、D/V DCHG)。
【0064】
このため、エアポンプ50を介して空気の供給を行いながら、燃料電池スタック12の発電を行った場合、システム内の窒素置換範囲が、燃料電池スタック12内に止まるのに対し、エアポンプ50を停止した後、燃料電池スタック12の発電を行うと、燃料電池スタック12の入口側まで窒素ガスによる置換範囲が拡大される。これにより、燃料電池システム10のカソード側は、比較的長期間にわたって停止されても、燃料電池20の劣化を可及的に阻止することができるという利点がある。
【0065】
一方、燃料電池20の発電が停止するFCコンタクタ86がオフとなる時点(t10)において、アノード側の水素ガス濃度が、それほどには低下していない場合がある。
【0066】
そのため、FCコンタクタ86がオフとなった時点t10{燃料電池システム10(燃料電池20)の発電を停止した時点}以降のソーク中において、図5の点線の劣化特性150に示すように、時点t10のソーク開始時点から所定時間が経過した時点t11からソーク中のセル電圧がOCV付近に保持されていることを原因として発生するラジカル(OHラジカル)等により電解質膜・電極構造体28が時間に比例して劣化が増加する。
【0067】
この劣化を抑制するために、FCコンタクタ86がオフとなったソーク開始時点t10以降に、掃気装置15を構成する空気導入弁55を開放し、エアポンプ50を一定時間駆動して、パージ弁72を間欠的に開放することでアノード中の水素ガスを空気に置換するソーク時掃気ガス置換処理が必要となる。
【0068】
しかし、このソーク時掃気ガス置換処理においては、図5の一点鎖線の劣化特性152に示すように、ソーク時掃気ガス置換処理実施開始時における水素濃度の高低に応じて、電解質膜・電極構造体28の劣化度合いが変化する。すなわち、水素濃度が高い程、劣化量(燃料電池スタック12の発電効率の低下量)が大きくなる特性となっている。
【0069】
劣化特性150と劣化特性152とを合成した(和をとった)実線で示す劣化特性154では、アノード水素濃度が所定値のときに(ソーク時間=t13−t10=Tpのタイミングで)、劣化量が最小となることが分かる。
【0070】
そこで、FCコンタクタ86がオフとなったソーク開始時点t10から所定時間(予め定めたタイミング:予め定めた時間)Tpの経過後に、空気導入弁55を開放し、エアポンプ50を一定時間駆動しながらパージ弁を72を間欠的に開弁して、アノード中の水素ガスを掃気ガスである空気により掃気して空気に置換するソーク時掃気ガス置換処理を行うことにより電解質膜・電極構造体28の劣化度合いを最小限とすることができる。
【0071】
図6は、停止時発電処理である低酸素ストイキ発電処理(O2リーン発電処理)を行った{時点t8〜t10(t9)}ときのガス濃度{アノードの水素濃度Da(O2リーン)とカソードの酸素濃度Dk(O2リーン)}とガス圧力{アノード圧力Pa(O2リーン)}の変化の特性を示している。
【0072】
太い実線で示したカソードの酸素濃度Dk(O2リーン)は、停止時発電処理時(時点t8〜t10)の間に、濃度が減少する特性になっており、ソーク中(ソーク開始時点t10以降)は、低いままとなっている。
【0073】
細い実線で示したアノードの水素濃度Da(O2リーン)は、停止時発電処理中(時点t8〜t10)の間に、発電中であって水素が消費され、徐々に低下する特性となっているが、太い実線で示したアノード圧力Pa(O2リーン)は、急激に低下する特性になっている。
【0074】
その一方、ソーク中(ソーク開始時点t10以降)には、水素が消費されず、アノード圧力Pa(O2リーン)は、徐々に低下する特性となっているが、水素量が少なくなったときに(時点tx)、窒素ガスがカソード側からアノード側へ透過する量が大きくなり、以降、アノード圧力Pa(O2リーン)は、徐々に大きくなる(時点tx〜t13)特性になっている。
【0075】
時点tx〜t13のアノード圧力Pa(O2リーン)の増加に伴い、アノードの水素濃度Da(O2リーン)は、濃度が低下し、閾値濃度Dp(例えば、0[%]〜2[%]程度の値)となったとき(時点t13)、上述した掃気装置15によるソーク時掃気ガス置換処理が開始され(時点t13)、この掃気ガス置換処理(O2リーン)が所定時間実施される(時点t13〜ty)。
【0076】
ここで、停止時発電処理(O2リーン処理)を行った後に、燃料電池システム10が運転停止状態とされたとき(時点t10)から、水素濃度Da(O2リーン)が閾値濃度Dpまで低下する時間(時点t10〜t13)は、車種毎に予め定めることが可能な時間であり、規定時間Tsaとしてコントローラ18のメモリ中に格納されている。
【0077】
なお、停止時発電処理(O2リーン発電処理)を実施しなかった場合{イグニッションオフの時点(時点t1)でFCコンタクタ86をオフにした場合}には、図7に、それぞれ点線で示すカソードの酸素濃度Dk(O2リーンなし)、アノード圧力Pa(O2リーンなし)、及びアノードの水素濃度Da(O2リーンなし)の各特性に示すように、ソーク中(時点t10以降)、カソードの酸素濃度Dkが高いために、水素がアノードからカソードに透過しても消費(反応)により水素がなくなり、水素分圧差が縮まらず、水素圧であるアノード圧力Pa(O2リーンなし)の低下が促進される。水素量が少なくなったとき(時点tz)、酸素がアノードへ透過する量が大きくなり、アノード圧力Pa(O2リーンなし)が上昇する一方で水素濃度Da(O2リーンなし)が低下し、水素濃度Da(O2リーンなし)が閾値濃度Dpとなったとき(時点tx)、掃気装置15によるソーク時掃気ガス置換処理(O2リーンなし)が開始され、掃気ガス置換処理が所定時間実施される(時点tx〜tr)。
【0078】
したがって、イグニッションスイッチをオフした時点t8から所定時間(t10−t8)経過後の時点(時点t10)において、アノード圧力Paを検出(測定)することにより、検出したアノード圧力Paが閾値圧力Path(図7参照)を下回る値であれば、低酸素ストイキ発電(O2リーン発電)が実施された(実施有り)と判断することができる。
【0079】
前記の閾値圧力Pathは、低酸素ストイキ発電(O2リーン発電)を行うと、アノード圧力Pa(O2リーン)がこの閾値圧力Pathを下回り、低酸素ストイキ発電(O2リーン発電)を行わない場合には、アノード圧力Pa(O2リーンなし)がこの閾値圧力Pathを下回らないことを予めシミュレーション及び実験等により確認している値である。
【0080】
なお、前記の停止時発電処理の実施の有無の判断は、燃料電池20の発電停止指令を検出してから発電を停止したときまでの電流積算値{図3中、時点t8〜t9(時点t8〜t10でもよい。)までの電流積算値}に基づいて判断することもできる。この場合、停止時発電処理の実施により所定時間(時点t8〜t10までの時間)内の電流積算値が増加する事象を利用している。通常、燃料電池システム10では、電流センサ110により電流値Ioを検出しており、電流値Ioの電流積算値ΣIoを計算するために、コストが高騰することがない。
【0081】
この実施形態において、図8のフローチャートに示すように、燃料電池システム10の停止処理中に、停止時発電処理(O2リーン処理)の実施有無を、イグニッションスイッチがオフされて遮断弁65が閉じられた時点(時点t3)から運転停止時点(時点t10)まで判断する。
【0082】
すなわち、ステップS1において、アノード圧力Paが閾値圧力Path以下になったか否か、あるいはステップS2において、電流積算値ΣIoが閾値積算値ΣIoth以上になったか否かを判断することにより、判断が肯定的であった場合には、ステップS3において、O2リーン実施フラグ(O2リーン実施バックアップフラグ)Fo2を立て(Fo2←1)、停止時発電処理(O2リーン処理)が実施ありとし、いずれの判断も否定的であった場合には、ステップS4において、O2リーン実施フラグFo2を下げ(Fo2←0)、停止時発電処理(O2リーン処理)が実施なしとする。
【0083】
次いで、時点t10以降のソーク中に、イグニッションスイッチ(運転スイッチ)がオン状態とされたとき(起動指令を検出したとき)の2つの起動時処理(第1起動時処理と第2起動時処理という。)について、図9のフローチャートを参照して説明する。
【0084】
[第1起動時処理についての説明]
この第1起動時処理は、燃料電池システム10の運転停止指令を検出した際(時点t1)、停止時発電処理(O2リーン処理)を実施した後に、燃料電池システム10の発電を停止し、発電を停止させた後に、燃料電池システム10の起動指令を検出したときの処理である。
【0085】
すなわち、ステップS11において、ソーク中に起動指令が発せられたか否かが検出され、起動指令が発生られたとき、ステップS12において、O2リーン実施フラグFo2がFo2=1となっているか否かが判定される。
【0086】
停止時発電処理が実施されていた場合には、このO2リーン実施フラグFo2はFo2=1となっているので、ステップS13以降のO2リーン実施あり用起動時OCVパージ処理が実施される。
【0087】
この場合、ステップS13において、燃料電池システム10の発電を停止させたとき(時点t10)から燃料電池システム10の起動指令を検出するまでの経過時間(ソーク時間)Tsに基づき、経過時間Tsが上述した規定時間Tsa(図7参照)より短い場合(ステップS13:YES、Ts<Tsa)には、経過時間Tsが規定時間Tsaよりも長い場合に比べて、燃料電池システム10の起動時におけるアノード側の燃料ガス置換量を多くする起動時燃料ガス置換処理(ステップS14)を実施する。そうでない場合には(ステップS13:NO、Ts≧Tsa)、燃料ガス置換量が通常とされて起動時燃料ガス置換処理(ステップS14)が実施される。
【0088】
なお起動時燃料ガス置換処理は、インタンク電磁弁63及び遮断弁65が開放され、高圧の水素ガスが圧力制御弁(不図示)を通じて水素タンク62から供給される一方で、パージ弁72が間欠的に複数回開弁され、アノード圧力Paが前記の圧力制御弁により設定されるアノード圧力Paまで増加するようにされことで実施される。
【0089】
停止時発電処理(O2リーン処理)を実施した場合、掃気ガス置換処理(時点t13〜ty)が行われる前は、アノード内が負圧になっていて、水素量も少ないので、次の起動時の水素置換量(OCVパージ量)を多くすることで、水素置換不足を抑制する。なお、パージ量を多くすることができるので、パージによりアノード内の水分を燃料電池スタック12の外(希釈ボックス60)へ排出することができ、起動性及び発電安定性が向上し、素早い起動が可能となり、商品性も向上する。停止時発電処理(O2リーン処理)を実施した場合であっても、掃気ガス置換処理が実施された(ステップS13:NO)後に、起動指令が発せられた場合には、アノード内は空気に置換されてほぼ大気圧となっているので(アノード内は空気に満たされているため)、少ない水素置換量(OCVパージ量)で十分である。水素を多く導入してしまうと、高い濃度の水素を希釈ボックスから排出してしまう可能性があるので、少なく設定している。
【0090】
[第2起動時処理についての説明]
この第2起動時処理は、燃料電池システム10の運転停止指令を検出した際(時点t1)、停止時発電処理(O2リーン処理)を実施しないで、燃料電池システム10の発電を停止し、発電を停止させた後に、燃料電池システム10の起動指令を検出したときの処理である。
【0091】
この場合、ステップS11において、ソーク中に起動指令が発せられたか否かが検出され、起動指令が発生られたとき、ステップS12において、O2リーン実施フラグFo2がFo2=1となっているか否かが判定される。
【0092】
停止時発電処理が実施されていなかった場合には、このO2リーン実施フラグFo2はFo2=0となっているので、ステップS16以降のO2リーン実施なし用起動時OCVパージ処理が実施される。
【0093】
この場合、ステップS16において、燃料電池システム10の発電を停止させたとき(時点t10)から燃料電池システム10の起動指令を検出するまでの経過時間(ソーク時間)Tsに基づき、経過時間Tsが上述した規定時間Tsb(図7参照)より短い場合(ステップS16:YES、Ts<Tsb)には、換言すれば、ソーク中に掃気ガス置換処理が実施されていなかった場合には、ステップS17にて、前記起動時燃料ガス置換処理を行う場合の前記燃料ガスの使用量(ステップS17での使用量)を、前記第2の手順が実施された後、前記掃気装置によるソーク時掃気ガス置換処理が実施される前に前記起動時燃料ガス置換処理を行う場合に比べて(ステップS14での使用量と比べて)、少ない量とする。
【0094】
逆に言えば、掃気ガス置換処理が実施されていない条件下で比較すると、停止時発電処理(O2リーン処理)を実施していた場合には、停止時発電処理(O2リーン)を実施していなかった場合に比較して、アノード圧力Paが概ねより負圧となっているので(図7参照)、ステップS17でのガス使用量より、ステップS14でのガス使用量を多く必要とする。
【0095】
なお、停止時発電処理(O2リーン処理)を実施しなかった場合(ステップS12:NO)であっても、掃気ガス置換処理が実施された(ステップS16:NO)後に、起動指令が発せられた場合には、アノード内は空気に置換されてほぼ大気圧となっているので(アノード内は空気に満たされているため)、ステップS18では、少ない水素置換量(OCVパージ量)で十分である。水素を多く導入してしまうと、高い濃度の水素を希釈ボックスから排出してしまう可能性があるので、少なく設定している(ステップS15での燃料ガス置換量と同じ)。
【0096】
すなわち、燃料ガスの使用量(置換量)は、ステップS14、ステップS17、及びステップS15(S18)の順で少なく設定される。
【0097】
なお、この発明は、上述した実施形態に限らず、この明細書の記載内容に基づき、種々の構成を採りうることができる。
【符号の説明】
【0098】
10…燃料電池システム 12…燃料電池スタック
14…酸化剤ガス供給装置 15…掃気装置
16…燃料ガス供給装置 17…バッテリ
18…コントローラ 19…タイマ
20…燃料電池 22…固体高分子電解質膜
24…カソード電極 26…アノード電極
28…電解質膜・電極構造体 30、32…セパレータ
34…酸化剤ガス流路 36…燃料ガス流路
38a…酸化剤ガス入口連通孔 38b…酸化剤ガス出口連通孔
40a…燃料ガス入口連通孔 40b…燃料ガス出口連通孔
50…エアポンプ 52…空気供給流路
53…空気導入流路 54…加湿器
55…空気導入弁 56…空気排出流路
58…背圧制御弁 60…希釈ボックス
62…水素タンク 63…インタンク電磁弁
64…水素供給流路 65…遮断弁
66…エゼクタ 68…水素循環路
70…オフガス流路 72…パージ弁
74…排出流路 86…FCコンタクタ
90…DC/DCコンバータ 92…バッテリコンタクタ
96…ダウンバータ 98…12V電源
102、103…圧力センサ 104、106…温度センサ
108…電圧センサ 110…電流センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソード側に供給される酸化剤ガスとアノード側に供給される燃料ガスとの電気化学反応により発電する燃料電池と、
前記燃料電池に前記酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給装置と、
前記燃料電池に前記燃料ガスを供給する燃料ガス供給装置と、
を備える燃料電池システムの制御方法であって、
前記燃料電池の運転停止指令を検出した際、前記燃料ガスの供給を停止する一方、前記酸化剤ガスを前記燃料電池に供給しながら前記燃料電池を発電させる停止時発電処理を実施した後に前記燃料電池の発電を停止し、
発電を停止させた後に、前記燃料電池システムの起動指令を検出したとき、
前記燃料電池の発電を停止させたときから前記燃料電池システムの前記起動指令を検出するまでの経過時間に基づき、
前記経過時間が規定時間より短い場合には、前記経過時間が前記規定時間よりも長い場合に比べて、前記燃料電池システムの起動時におけるアノード側の燃料ガス置換量を多くする起動時燃料ガス置換処理を実施する
ことを特徴とする燃料電池システムの制御方法。
【請求項2】
カソード側に供給される酸化剤ガスとアノード側に供給される燃料ガスとの電気化学反応により発電する燃料電池と、
前記燃料電池に前記酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給装置と、
前記燃料電池に前記燃料ガスを供給する燃料ガス供給装置と、
前記燃料電池の発電を停止した後のソーク時に前記アノード側を掃気ガスにより掃気してソーク時掃気ガス置換処理を行う掃気装置と、を備え、
前記燃料電池の起動時に、アノード側に燃料ガスを供給して、アノードオフガスを排出する起動時燃料ガス置換処理を行う燃料電池システムの制御方法であって、
前記燃料電池の運転停止指令を検出した際、前記燃料ガスの供給を停止する一方、前記酸化剤ガスを前記燃料電池に供給しながら前記燃料電池を発電させる停止時発電処理を実施した後に前記燃料電池の運転を停止する第1の手順と、前記第1の手順に係る前記停止時発電処理を実施しないで前記燃料電池の運転を停止する第2の手順と、を選択的に有し、
前記燃料電池の運転停止指令を検出した際、前記第1の手順が実施された後、前記掃気装置によるソーク時掃気ガス置換処理が実施される前に前記起動時燃料ガス置換処理を行う場合の前記燃料ガスの使用量を、前記第2の手順が実施された後、前記掃気装置によるソーク時掃気ガス置換処理が実施される前に前記起動時燃料ガス置換処理を行う場合に比べて、多い量とする
ことを特徴とする燃料電池システムの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−216474(P2012−216474A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−82085(P2011−82085)
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】