説明

燃料電池システム及びその制御方法

【課題】速やかにアイドル停止に移行できるとともに、アイドル停止中の電解質膜の劣化及びセル電圧の低下を抑制でき、且つディスチャージ抵抗を設ける必要が無い燃料電池システム及びその制御方法を提供すること。
【解決手段】反応ガスが供給されることで発電する燃料電池セルを複数積層して構成された燃料電池10と、燃料電池10に反応ガスを供給する供給装置20と、を備える燃料電池システム1において、アイドル発電中に所定条件が成立した場合に、アイドル発電時よりも低流量のエアを燃料電池10に供給しながら、アイドル発電時よりも低電流を燃料電池10から取り出すアイドル停止制御を開始する燃料電池システム1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システム及びその制御方法に関する。詳しくは、アイドル停止中において、低流量の酸化剤ガスを供給するとともに燃料電池から低電流を取り出す燃料電池システム及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の新たな動力源として燃料電池システムが注目されている。燃料電池システムは、例えば、反応ガスを電気化学反応させて発電する燃料電池と、反応ガス流路を介して燃料電池に反応ガスを供給する反応ガス供給装置とを備える。
【0003】
燃料電池は、例えば、数十個から数百個のセルが積層されたスタック構造である。ここで、各セルは、膜電極構造体(MEA)を一対のセパレータで挟持して構成される。膜電極構造体は、アノード電極(陰極)及びカソード電極(陽極)と、これらの電極に挟持された固体高分子電解質膜とで構成される。
【0004】
燃料電池のアノード電極に燃料ガスとして水素を供給し、カソード電極に酸化剤ガスとして空気を供給すると、電気化学反応が進行して発電する。このように燃料電池は、電気化学反応により直接的に電気を得るため、発電効率が高い点で好ましいとされている。また燃料電池は、発電時に無害な水しか生成しないため、環境への影響の点からも好ましいとされている。
【0005】
ところで、このような燃料電池システムを動力源とした燃料電池車両では、例えば信号待ち等の車両停止時にアイドル発電が継続して行われた場合に、酸化剤ガス及び燃料ガスの供給を停止してアイドル発電を停止するアイドル停止が実行される。このアイドル停止を実行することにより、燃料の効率的な利用が可能となる。
【0006】
ところが、このアイドル停止を実行すると、燃料電池システム内に残留する水素及び酸素による発電によって燃料電池が高電位となり、電解質膜が劣化するおそれがある。そこで、アイドル停止時に酸化剤ガス及び燃料ガスの供給を停止した場合であっても、燃料電池から電流を取り出すことで、燃料電池システム内に残留する水素及び酸素を消費し、燃料電池が高電位になるのを防止するとともに、電解質膜の劣化を抑制する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−294304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、燃料電池システムには、燃料ガス濃度の高いガスが排出されるのを防止するために希釈器が設けられている。燃料電池から排出された燃料オフガスは、この希釈器内に導入され、希釈器内に一旦滞留した後、希釈されて排出される。燃料オフガスの希釈には、燃料電池から排出された酸化剤オフガスが利用される。
【0009】
しかしながら特許文献1の技術では、アイドル停止中には酸化剤ガスを供給しないため、希釈器内に滞留する燃料オフガスを希釈するための酸化剤オフガスを確保できない。このため、燃料オフガスを希釈するための希釈ガスを確保すべく、希釈ガスとしての酸化剤ガスを予め希釈室内に導入してからでないとアイドル停止に移行できなかった。
【0010】
また特許文献1の技術では、アイドル停止中に酸化剤ガスを供給しないため、クロスリーク現象の発生時等に電解質膜の近傍で滞留する水素と酸素が高濃度で反応してしまい、電解質膜が劣化するおそれがあった。
【0011】
また、アイドル停止時に燃料ガス及び酸化剤ガスの供給を停止した状態で、燃料電池から電流を取り出すため、アイドル停止に移行後直ぐにセル電圧が低下してしまい、アイドル停止を直ぐに解除しなければならなかった。
【0012】
また、アイドル停止中に酸化剤ガスを供給しないため、アイドル停止中はエアポンプを駆動することがない。このため、蓄電装置に充電可能な状態であるか否かに関わらず、アイドル停止中に燃料電池から電流を取り出すためには、かかる電流を消費するためのディスチャージ抵抗を設ける必要があった。
【0013】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、その目的は、速やかにアイドル停止に移行できるとともに、アイドル停止中の電解質膜の劣化及びセル電圧の低下を抑制でき、且つディスチャージ抵抗を設ける必要が無い燃料電池システム及びその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため本発明に係る燃料電池システム(例えば、後述の燃料電池システム1)は、反応ガス(例えば、後述の水素及び空気)が供給されることで発電する燃料電池セルを複数積層して構成された燃料電池スタック(例えば、後述の燃料電池10)と、前記燃料電池スタックに反応ガスを供給する反応ガス供給手段(例えば、後述のエアポンプ21、水素タンク22、エゼクタ28及びレギュレータ261)と、を備え、アイドル発電中に所定条件が成立した場合に、前記反応ガス供給手段により前記アイドル発電時よりも低流量の酸化剤ガス(例えば、後述の空気)を前記燃料電池スタックに供給しながら、前記アイドル発電時よりも低電流を前記燃料電池スタックから取り出すアイドル停止制御を開始するアイドル停止制御手段(例えば、後述のECU40のアイドル停止制御部及びVCU15)を備えることを特徴とする。
【0015】
先ず本発明によれば、アイドル停止中に燃料電池スタックから電流を取り出すため、出力電流値が0であるOCV状態を回避でき、燃料電池スタックの高電位化による電解質膜の劣化を抑制できる。
また本発明によれば、アイドル停止中に燃料電池スタックから取り出す電流を、アイドル発電時よりも低電流とするため、アイドル停止中のセル電圧の低下を抑制できる。
また本発明によれば、アイドル停止中に酸化剤ガスを燃料電池スタックに供給するため、希釈器(例えば、後述の希釈器50)内に滞留する燃料オフガスを希釈するための酸化剤オフガスを確保できる。このため、予め確保しなければならない希釈ガス(酸化剤ガス、例えば後述の空気)量を低減でき、速やかにアイドル停止に移行できる。これにより、燃費も向上できる。
また本発明によれば、アイドル停止中に酸化剤ガスを供給するため、クロスリーク現象の発生時等に電解質膜の近傍に滞留する酸素量を低減できるため、電解質膜の近傍で水素と酸素が高濃度で反応してしまうのを抑制でき、電解質膜の劣化を抑制できる。
また本発明によれば、アイドル停止中に酸化剤ガスを供給するため、燃料電池スタックから取り出した電流をエアポンプ(例えば、後述のエアポンプ21)の駆動により消費できる。これにより、蓄電装置(例えば、後述の高圧バッテリ16)に充電可能な状態であるか否かに関わらず、燃料電池スタックから取り出した電流を消費できるため、ディスチャージ抵抗を設ける必要が無い。
また本発明によれば、アイドル停止中に燃料電池スタックに供給する酸化剤ガス流量を、アイドル発電時よりも低流量とするため、上述の効果を得つつ、無駄な酸化剤ガスの供給を低減でき、燃料電池システムの効率の悪化を抑制することもできる。
【0016】
この場合、前記アイドル停止制御中に、前記燃料電池スタックの最低セル電圧が所定の最低セル電圧閾値を下回るか否かを判定するセル電圧閾値判定手段(例えば、後述のECU40のセル電圧閾値判定部、セル電圧センサ41及び図2のステップS1の実行に係る手段)と、前記最低セル電圧が前記最低セル電圧閾値を下回ると判定された場合に、前記反応ガス供給手段により前記燃料電池スタックに供給する酸化剤ガスの流量を増加することで、前記燃料電池スタックのセル電圧を回復させるセル電圧回復手段(例えば、後述のECU40のセル電圧回復部及び図2のステップS4、5の実行に係る手段)と、をさらに備えることが好ましい。
【0017】
通常、発電時に生成する水は、供給される反応ガスにより系外に排出される。ところが、本発明のアイドル停止時のように酸化剤ガスの流量が低い場合には、ガス流路内の水が完全に排出されず、ガス流路を閉塞するフラッティング現象が発生する。フラッティング現象が発生すると、酸化剤ガスが流通できなくなるため、電解質膜の近傍で水素と酸素が高濃度で反応してしまい、電解質膜の劣化を抑制できなくなる。
また、フラッティング現象が発生すると、燃料電池スタックの最低セル電圧が大きく低下する。この場合には、アイドル停止からの復帰直後にセル電圧が不安定となり、電流制限が必要となるおそれがある。
そこでこの発明によれば、アイドル停止中において、燃料電池スタックの最低セル電圧が所定の最低セル電圧閾値を下回った場合には、フラッティング現象を解消する必要があると判断し、燃料電池スタックに供給する酸化剤ガスの流量を増加する。これにより、フラッティング現象が解消されるため、電解質膜の劣化を抑制できるとともにセル電圧を回復でき、アイドル停止からの復帰直後に安定したセル電圧を確保できる。
【0018】
この場合、前記アイドル停止制御を開始してから前記燃料電池スタックの最低セル電圧が前記最低セル電圧閾値を下回るまでの時間をセル電圧低下時間として、当該セル電圧低下時間が所定時間内であるか否かを判定するセル電圧低下時間判定手段(例えば、後述のECU40のセル電圧低下時間判定部及び図2のステップS3の実行に係る手段)をさらに備え、前記セル電圧回復手段は、前記セル電圧低下時間が前記所定時間内であると判定された場合に、前記反応ガス供給手段により前記燃料電池スタックに供給する酸化剤ガスの流量を前記アイドル発電時よりも増加することで、前記燃料電池スタックのセル電圧を回復させることが好ましい。
【0019】
アイドル停止制御を開始してから所定時間内に最低セル電圧が所定の最低セル電圧閾値を下回った場合、このセル電圧の異常な低下は、フラッティング現象が過度に発生して多量の水がガス流路内を閉塞していることが原因であると考えられる。このため、燃料電池スタックに供給する酸化剤ガスの流量を増加したとしても、その流量が低い場合には、フラッティング現象を十分に解消できないおそれがある。
そこでこの発明によれば、セル電圧低下時間が所定時間内である場合には、アイドル発電時よりも酸化剤ガスの流量を増加する。これにより、フラッティング現象が確実に解消されるため、電解質膜の劣化を抑制できるとともにセル電圧を回復でき、アイドル停止からの復帰直後に安定したセル電圧を確保できる。
【0020】
この場合、前記セル電圧回復手段は、前記セル電圧低下時間が短いほど、前記反応ガス供給手段により前記燃料電池スタックに供給する酸化剤ガスの流量を増加することで、前記燃料電池スタックのセル電圧を回復させることが好ましい。
【0021】
この発明によれば、セル電圧が急激に低下し、セル電圧低下時間が短いほど、酸化剤ガスの流量を増加する。即ち、フラッティング現象の発生度合に応じて、燃料電池スタックに供給する酸化剤ガス流量を増加する。これにより、フラッティング現象がより確実に解消されるため、電解質膜の劣化を抑制できるとともにセル電圧を回復でき、アイドル停止からの復帰直後に安定したセル電圧を確保できる。
【0022】
また本発明の燃料電池システム(例えば、後述の燃料電池システム1)の制御方法は、反応ガス(例えば、後述の水素及び空気)が供給されることで発電する燃料電池セルを複数積層して構成された燃料電池スタック(例えば、後述の燃料電池10)と、前記燃料電池スタックに反応ガスを供給する反応ガス供給手段(例えば、後述のエアポンプ21、水素タンク22、エゼクタ28及びレギュレータ261)と、を備える燃料電池システムの制御方法であって、アイドル発電中に所定条件が成立した場合に開始し、前記反応ガス供給手段により前記アイドル発電時よりも低流量の酸化剤ガス(例えば、後述の空気)を前記燃料電池スタックに供給しながら、前記アイドル発電時よりも低電流を前記燃料電池スタックから取り出すアイドル停止工程(例えば、後述のECU40のアイドル停止制御部により実行されるアイドル停止制御工程)を備えることを特徴とする。
【0023】
この場合、前記アイドル停止工程中に、前記燃料電池スタックの最低セル電圧が所定の最低セル電圧閾値を下回るか否かを判定するセル電圧閾値判定工程(例えば、後述の図2のステップS1に示す工程)と、前記最低セル電圧が前記最低セル電圧閾値を下回ると判定された場合に、前記反応ガス供給手段により前記燃料電池スタックに供給する酸化剤ガスの流量を増加することで、前記燃料電池スタックのセル電圧を回復させるセル電圧回復工程(例えば、後述の図2のステップS4、5に示す工程)と、をさらに備えることが好ましい。
【0024】
この場合、前記アイドル停止工程を開始してから前記燃料電池スタックの最低セル電圧が前記最低セル電圧閾値を下回るまでの時間をセル電圧低下時間として、当該セル電圧低下時間が所定時間内であるか否かを判定するセル電圧低下時間判定工程(例えば、後述の図2のステップS3に示す工程)をさらに備え、前記セル電圧回復工程では、前記セル電圧低下時間が前記所定時間内であると判定された場合に、前記反応ガス供給手段により前記燃料電池スタックに供給する酸化剤ガスの流量を前記アイドル発電時よりも増加することで、前記燃料電池スタックのセル電圧を回復させることが好ましい。
【0025】
この場合、前記セル電圧回復工程では、前記セル電圧低下時間が短いほど、前記反応ガス供給手段により前記燃料電池スタックに供給する酸化剤ガスの流量を増加することで、セル電圧を回復させることが好ましい。
【0026】
これら燃料電池システムの制御方法は、それぞれ、上述の燃料電池システムを方法の発明として展開したものであり、上述の燃料電池システムと同様の効果を奏する。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、速やかにアイドル停止に移行できるとともに、アイドル停止中の電解質膜の劣化及びセル電圧の低下を抑制でき、且つディスチャージ抵抗を設ける必要が無い燃料電池システム及びその制御方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態に係る燃料電池システムを示すブロック図である。
【図2】上記実施形態に係るアイドル停止制御中にセル電圧を回復するセル電圧回復制御処理の手順を示すフローチャートである。
【図3】上記実施形態に係るセル電圧回復制御において、セル電圧の低下が通常である場合の制御例を示すタイムチャートである。
【図4】上記実施形態に係るセル電圧回復制御において、セル電圧の低下が異常である場合の制御例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る燃料電池システム1のブロック図である。
燃料電池システム1は、燃料電池スタックとしての燃料電池10と、この燃料電池10に反応ガスを供給する反応ガス供給手段としての供給装置20と、これら燃料電池10及び供給装置20を制御する電子制御ユニット(以下、「ECU」という)40とを備える。この燃料電池システム1は、例えば、燃料電池10により発電された電力を動力源とする図示しない燃料電池車両に搭載される。
【0030】
燃料電池10は、例えば、数十個から数百個の燃料電池セルが電気的に直列に接続されて積層されたスタック構造である。各セルは、膜電極構造体(MEA)を一対のセパレータで挟持して構成される。膜電極構造体は、アノード電極(陰極)及びカソード電極(陽極)の2つの電極と、これら電極に挟持された固体高分子電解質膜とで構成される。通常、両電極は、固体高分子電解質膜に接して酸化・還元反応を行う触媒層と、この触媒層に接するガス拡散層とから形成される。
【0031】
このような燃料電池10は、アノード電極(陰極)側に形成されたアノード電極流路13に燃料ガスとしての水素が供給され、カソード電極(陽極)側に形成されたカソード電極流路14に酸素を含む酸化剤ガスとしての空気(エア)が供給されると、水素と酸素の電気化学反応が進行して発電する。
【0032】
また燃料電池10は、電流制限器(VCU)15を介して、蓄電装置としての高圧バッテリ16及び電気負荷としての駆動モータ17に接続されている。高圧バッテリ16及び駆動モータ17には、燃料電池10で発電された電力が供給される。
【0033】
VCU15は、図示しないDCDCコンバータ等を備え、ECU40から出力される電流指令値に基づいて、燃料電池10のディスチャージ電流を制御する。
高圧バッテリ16は、燃料電池10の出力電圧よりも高圧バッテリ16の電圧が低い場合には、燃料電池10で発電した電力を蓄電する。一方、必要に応じて駆動モータ17に電力を供給し、駆動モータ17の駆動を補助する。この高圧バッテリ16は、例えば、リチウムイオン電池等の二次電池や、キャパシタ等により構成される。
【0034】
供給装置20は、カソード電極流路14にエアを供給する酸化剤ガス供給手段としてのエアポンプ21と、アノード電極流路13に水素を供給する燃料ガス供給手段としての水素タンク22、エゼクタ28及びレギュレータ261と、を含んで構成される。
【0035】
エアポンプ21は、エア供給路23を介してカソード電極流路14の一端側に接続されている。カソード電極流路14の他端側には、エア排出路24が接続され、このエア排出路24の先端側には、後述の希釈器50が接続されている。エア排出路24は、燃料電池10から排出されたエア(酸化剤オフガス)を希釈器50に導入する。
また、背圧弁241は、エア排出路24に設けられている。この背圧弁241は、エア供給路23やカソード電極流路14内の圧力を所定の圧力に制御する。
【0036】
また、エア供給路23には、エアポンプ21で圧縮されたエアを、希釈器50に希釈ガスとして導入する希釈ガス流路25が分岐して設けられている。希釈ガス流路25の先端側は、希釈器50に接続されている。希釈ガス流路25には、希釈ガス流路25を開閉する図示しない希釈ガス遮断弁が設けられている。
【0037】
水素タンク22は、水素供給路26を介して、アノード電極流路13の一端側に接続されている。エゼクタ28は、この水素供給路26に設けられている。また、水素供給路26のうち水素タンク22とエゼクタ28との間には、水素供給路26を開閉する図示しない水素遮断弁と、水素タンク22から供給される水素の流量を制御するレギュレータ261が設けられている。
【0038】
レギュレータ261には、エアポンプ21から水素供給路26に向かうエアの圧力が、図示しないオリフィスが設けられた配管31を介して信号圧(パイロット圧力)として入力される。レギュレータ261は、入力されたエアの圧力に基づいて水素の圧力を制御し、これにより、供給される水素の流量が制御される。
【0039】
アノード電極流路13の他端側には、水素還流路27が接続されている。この水素還流路27の先端側は、エゼクタ28に接続されている。水素還流路27は、燃料電池10から排出された水素(燃料オフガス)をエゼクタ28に導入する。エゼクタ28は、水素還流路27を流通する水素を回収し、水素供給路26に還流する。
【0040】
水素還流路27には、水素還流路27から分岐して水素(燃料オフガス)を排出するための水素排出路29が設けられている。水素排出路29の先端側には、希釈器50が接続されている。
水素排出路29には、水素排出路29を開閉するパージ弁291が設けられている。このパージ弁291が開いてパージ処理が実行されることで、燃料電池10から排出された水素(燃料オフガス)が希釈器50に導入される。
【0041】
希釈器50は、水素排出路29を介して導入され希釈器50内に滞留した燃料オフガスを、エア排出路24を介して導入された酸化剤オフガス及び希釈ガス流路25を介して導入された酸化剤ガスにより希釈する。燃料オフガスは、パージ弁291が開いてパージ処理が実行されることで希釈器50内に導入され、希釈器50内で希釈されてから、大気に放出される。
【0042】
本実施形態では、カソード電極流路14、エア供給路23、エア排出路24及び希釈ガス流路25が、酸化剤ガス又は酸化剤オフガスが流通する酸化剤ガス系流路であり、図1では黒矢印で示している。また、アノード電極流路13、水素供給路26、水素還流路27及び水素排出路29が、燃料ガス又は燃料オフガスが流通する燃料ガス系流路であり、図1では白矢印で示している。
【0043】
上述のエアポンプ21、背圧弁241、希釈ガス遮断弁、水素遮断弁及びパージ弁291は、ECU40に電気的に接続されており、ECU40により制御される。
【0044】
ECU40は、各種センサからの入力信号波形を整形し、電圧レベルを所定のレベルに修正し、アナログ信号値をデジタル信号値に変換する等の機能を有する入力回路と、中央演算処理ユニット(以下、「CPU」という)とを備える。この他、ECU40は、CPUで実行される各種演算プログラム及び演算結果等を記憶する記憶回路と、エアポンプ21、背圧弁241、希釈ガス遮断弁、水素遮断弁及びパージ弁291等に制御信号を出力する出力回路とを備える。
【0045】
また、ECU40には、燃料電池10のセル電圧を検出するセル電圧センサ41が接続されている。このセル電圧センサ41は、燃料電池10を構成する複数の燃料電池セル毎のセル電圧を検出する。検出信号はECU40に送信され、検出された燃料電池セル毎のセル電圧のうち、最も低いセル電圧を最低セル電圧とする。
なお、セル電圧センサ41は、複数の燃料電池セルのうち2つ以上を1つの燃料電池セル群とし、これら燃料電池セル群毎の電圧を検出するように構成してもよい。この場合には、燃料電池セル群毎の電圧のうち、最も低い電圧を最低セル電圧とする。
【0046】
ECU40は、後述するアイドル停止制御及びセル電圧回復制御を実行するためのモジュールとして、アイドル停止制御部と、セル電圧閾値判定部と、セル電圧低下時間判定部と、セル電圧回復部と、を備える。
【0047】
アイドル停止制御部は、アイドル発電中に所定条件が成立した場合に、後述のアイドル停止制御を開始する。
ここで、車両走行時の通常発電時に比して低ストイキで発電を行うアイドル発電は、例えば車速が所定時間、継続してゼロである場合に実行される。
また、所定条件が成立した場合とは、例えば、希釈器50内の現在の水素濃度が所定の水素濃度以下であり、希釈器50内の燃料オフガスの希釈が完了したと判定された場合である。所定の水素濃度は、後述するアイドル停止制御を実行した場合に高濃度の水素が車外に排出されない濃度に設定される。
希釈器50内の現在の水素濃度は、例えば、パージ弁291が開かれて燃料オフガスが希釈器50内に導入されてから、つまり前回パージ処理から希釈器50内に導入された希釈ガス量の積算値に基づいて算出される。即ち、前回パージ処理後、希釈器50内に導入された希釈ガス量の積算値が所定値以上である場合、希釈器50内の現在の水素濃度は所定の水素濃度以下であると判定可能である。前回パージ処理からの希釈ガス量の積算値は、前回パージ処理からの電流積算値に基づいて算出される。
なお、希釈が完了したか否かは、例えば希釈器50から排出されるガス中の水素濃度を検出する水素濃度センサの検出信号に基づいて判定してもよい。
【0048】
アイドル停止制御部は、上記の所定条件が成立したことに応じて、アイドル発電時よりも低流量のエアを燃料電池10に供給しながら、アイドル発電時よりも低電流を燃料電池10から取り出すアイドル停止制御を開始する。
具体的には、アイドル停止制御部は、アイドル発電時の電流指令値(以下、「アイドル発電用電流指令値」という)よりも低い電流指令値(以下、「アイドル停止用電流指令値」という)をVCU15に出力し、燃料電池10のディスチャージ電流を制御する。これにより、アイドル発電時よりもディスチャージ電流が低下する。このディスチャージ電流は、エアポンプ21の駆動に利用される。
なお、このアイドル停止制御は、燃料電池10の最低セル電圧が後述の最低セル電圧閾値を下回り、後述のセル電圧回復制御が実行された場合、又は運転者からの加速要求があった場合に解除される。
【0049】
また、アイドル停止制御部は、アイドル停止用電流指令値に応じて、アイドル発電時よりも低流量のエア流量を設定し、設定されたエア流量に応じたエアポンプ回転数の指令値をエアポンプ21に出力する。これにより、アイドル発電時よりも低流量のエアが燃料電池10に供給される。また、本実施形態の燃料電池システム1では、低流量のエアに対応した信号圧がレギュレータ261に入力され、アイドル発電時よりも低流量の水素が燃料電池10に供給される。即ち、アイドル発電時よりもさらに低ストイキでの発電が行われる。例えば、アイドル発電ではストイキ比が約2.0に設定されるところ、本実施形態のアイドル停止制御ではストイキ比が約1.0に設定される。
【0050】
セル電圧閾値判定部は、上記のアイドル停止制御中に、燃料電池10の最低セル電圧が所定の最低セル電圧閾値を下回るか否かを判定する。
より詳しくは、セル電圧閾値判定部は、セル電圧センサ41で検出された燃料電池セル毎のセル電圧のうち、最も低い最低セル電圧を取得し、取得した最低セル電圧が所定の最低セル電圧閾値を下回るか否かを判定する。
ここで、所定の最低セル電圧閾値は、車両走行時の通常発電時に燃料電池10の保護の観点から電流制限を開始するセル電圧以下であり、且つ負電圧にはならない値に設定される。これにより、電流制限を開始する必要があるにも関わらず、ディスチャージ電流指令値を増加させてしまうのが回避され、安定したセル電圧が確保される。
【0051】
セル電圧低下時間判定部は、上記のアイドル停止制御を開始してから、燃料電池10の最低セル電圧が上記の最低セル電圧閾値を下回るまでの時間(以下、「セル電圧低下時間」という)が、所定時間(以下、「セル電圧異常低下判断時間」という)内であるか否かを判定する。
より詳しくは、セル電圧低下時間判定部は、上記のセル電圧低下時間をタイマにより計測して取得し、取得されたセル電圧低下時間が上記のセル電圧異常低下判断時間内であるか否かを判定する。ここで、セル電圧異常低下判断時間は、予め実験を行うことにより設定される。
【0052】
セル電圧回復制御部は、上記のアイドル停止制御中に、セル電圧を回復するセル電圧回復制御を実行する。
具体的には、セル電圧回復制御部は、上記のセル電圧閾値判定部により、燃料電池10の最低セル電圧が最低セル電圧閾値を下回ると判定された場合には、燃料電池10に供給するエアの流量を増加する。
また、上記のセル電圧低下時間判定部により、セル電圧低下時間がセル電圧異常低下判断時間内であると判定された場合には、アイドル発電時よりもエア流量を増加する。具体的には、アイドル発電用電流指令値よりも高い電流指令値(以下、「異常セル電圧回復用電流指令値」という)をVCU15に出力することで、アイドル発電時よりもディスチャージ電流が高くなる。また、異常セル電圧回復用電流指令値に応じて、アイドル発電時よりも高流量のエア流量を設定し、設定されたエア流量に応じたエアポンプ回転数の指令値をエアポンプ21に出力する。これにより、アイドル発電時よりも高流量のエアが燃料電池10に供給される。また、高流量のエアに対応した信号圧がレギュレータ261に入力され、アイドル発電時よりも高流量の水素が燃料電池10に供給される。即ち、アイドル発電時よりも高ストイキでの発電が行われる。
また、セル電圧回復制御部は、セル電圧低下時間がセル電圧異常低下判断時間内であると判定された場合には、セル電圧低下時間が短いほど、エア流量を増加する。即ち、セル電圧低下時間に応じた電流指令値をVCU15に出力し、かかる電流指令値に応じたエアポンプ回転数の指令値をエアポンプ21に出力する。これにより、セル電圧低下時間、即ちフラッティング現象の発生度合に応じて、エア流量及び水素流量が増量される。
【0053】
以下、ECUによるアイドル停止制御中にセル電圧を回復するセル電圧回復制御について、図2を参照して詳しく説明する。
【0054】
図2は、ECUによるアイドル停止制御中にセル電圧を回復するセル電圧回復制御処理の手順を示すフローチャートである。図2に示す処理は、アイドル停止制御中において、ECUにより所定の制御周期毎に繰り返し実行される。
【0055】
ステップS1では、アイドル停止制御中に、燃料電池の最低セル電圧が所定の最低セル電圧閾値を下回るか否かを判別する。この判別がYESの場合には、フラッティング現象が発生し、フラッティング現象を解消してセル電圧を回復する必要があると判断し、ステップS3に移る。この判別がNOの場合には、まだセル電圧を回復する必要は無いと判断し、ステップS2に移る。
【0056】
ステップS2では、アイドル停止用電流指令値をVCUに出力し、アイドル停止用電流指令値に応じた低流量のエア及び水素の供給を継続する。即ち、アイドル停止制御を継続し、本処理を終了する。
【0057】
ステップS3では、セル電圧低下時間が所定のセル電圧異常低下判断時間内であるか否かを判別する。この判別がYESの場合には、フラッティング現象の発生によりセル電圧の異常低下が認められ、アイドル発電時よりもエア流量を増加させないとフラッティング現象は解消できないと判断し、ステップS5に移る。この判別がNOの場合には、セル電圧の通常低下が認められ、アイドル発電時と同量のエア流量に増加させればフラッティング現象は解消できると判断し、ステップS4に移る。
【0058】
ステップS4では、アイドル発電用電流指令値をVCUに出力し、アイドル停止用電流指令値に応じた流量よりも高い、アイドル発電用電流指令値に応じた流量のエア及び水素を供給する。より高い流量のエア及び水素が供給されるようになる結果、フラッティング現象が解消され、電解質膜の劣化が抑制されるとともに、セル電圧が回復する。これにより、アイドル停止制御が解除され、本処理を終了する。
【0059】
ステップS5では、異常セル電圧回復用電流指令値をVCUに出力し、アイドル発電用電流指令値に応じた流量よりもさらに高い、異常セル電圧回復用電流指令値に応じた流量のエア及び水素を供給する。さらに高い流量のエア及び水素が供給されるようになる結果、フラッティング現象がより確実に解消され、電解質膜の劣化が抑制されるとともに、セル電圧が回復する。これにより、アイドル停止制御が解除され、本処理を終了する。
【0060】
図3は、本実施形態に係るセル電圧回復制御において、セル電圧の低下が通常である場合の制御例を示すタイムチャートである。
なお、上述したように本実施形態の燃料電池システムでは、電流指令値に応じてエア流量が設定され、設定されたエア流量に基づくエア圧に応じて水素流量が設定されるため、エアの流量(圧力、ストイキ)、水素の流量(圧力、ストイキ)及び出力電流はいずれも同様の変化を示す。このため図3では、これらのうちエア流量のみを示す(後述の図4においても同様とする)。
【0061】
先ず、時刻t10〜t11では、アイドル発電を実行する。具体的には、アイドル発電用電流指令値をVCUに出力し、かかるアイドル発電用電流指令値に応じたエアポンプ回転数の指令値をエアポンプに出力する。これにより、車両走行時の通常運転時と比べて低流量のエア及び水素が供給されるとともに、通常発電時と比べてディスチャージ電流が低下する。なおこのとき、平均セル電圧と最低セル電圧はほぼ同等であり、セル電圧の異常は確認されない。
【0062】
次に、時刻t11〜t13では、本実施形態のアイドル停止制御を実行する。具体的には上述したように、アイドル停止用電流指令値をVCUに出力し、かかるアイドル停止用電流指令値に応じたエアポンプ回転数の指令値をエアポンプに出力する。これにより、アイドル発電時よりも低流量のエア及び水素が供給され、図3に示すようにエア流量は低下する。また、アイドル発電時よりもディスチャージ電流が低下するため、時刻t11において、平均セル電圧及び最低セル電圧はいずれも若干高くなる。その後、時刻t13までの間、平均セル電圧に大きな変化は見られない一方、最低セル電圧は徐々に減少している。
なお、アイドル停止制御を開始した時刻t11から、セル電圧異常低下判断時間が経過した時刻t12において、最低セル電圧は最低セル電圧閾値を下回っていない。このため、時刻t12ではセル電圧の回復はまだ不要であり、低流量のエアの供給を継続する(図2のステップS2参照)。
【0063】
次に、時刻t13では、最低セル電圧が最低セル電圧閾値を下回ったため、フラッティング現象が発生し、フラッティング現象を解消してセル電圧を回復させる必要があると判断し、エアの流量を増加してセル電圧を回復させる。このとき、アイドル停止制御を開始した時刻t11からセル電圧異常低下判断時間はすでに経過しているため、アイドル発電時のエア流量にまで増加させればフラッティング現象を解消できると判断し、アイドル発電用電流指令値をVCUに出力し、かかるアイドル発電用電流指令値に応じたエアポンプ回転数の指令値をエアポンプに出力する(図2のステップS4参照)。これにより、図3に示すようにエア流量がアイドル発電時と同量にまで増加し、最低セル電圧は直ぐに回復する。
【0064】
また図4は、本実施形態に係るセル電圧回復制御において、セル電圧の低下が異常である場合の制御例を示すタイムチャートである。
先ず、時刻t20〜t21では、アイドル発電を実行する。具体的には、アイドル発電用電流指令値をVCUに出力し、かかるアイドル発電用電流指令値に応じたエアポンプ回転数の指令値をエアポンプに出力する。これにより、車両走行時の通常運転時と比べて低流量のエア及び水素が供給されるとともに、通常発電時と比べてディスチャージ電流が低下する。なおこのとき、最低セル電圧は平均セル電圧と比べて若干低く、セル電圧に若干の異常が確認される。
【0065】
次に、時刻t21〜t22では、本実施形態のアイドル停止制御を実行する。具体的には上述したように、アイドル停止用電流指令値をVCUに出力し、かかるアイドル停止用電流指令値に応じたエアポンプ回転数の指令値をエアポンプに出力する。これにより、アイドル発電時よりも低流量のエアが供給され、図4に示すようにエア流量は低下する。また、アイドル発電時よりもディスチャージ電流が低下するため、時刻t21において平均セル電圧及び最低セル電圧はいずれも若干高くなる。その後、時刻t22までの間、平均セル電圧に大きな変化は見られない一方、最低セル電圧は急激に減少している。
【0066】
次に、時刻t22では、最低セル電圧が最低セル電圧閾値を下回ったため、フラッティング現象が発生し、フラッティング現象を解消してセル電圧を回復させる必要があると判断し、エア流量を増加してセル電圧を回復させる。このとき、アイドル停止制御を開始した時刻t21からの時間がセル電圧異常低下判断時間内であるため、フラッティング現象が過度に発生してセル電圧の低下が異常であり、アイドル発電時よりもエア流量を増加させなければフラッティング現象は十分解消できないと判断し、異常セル電圧回復用電流指令値をVCUに出力し、かかる異常セル電圧回復用電流指令値に応じたエアポンプ回転数の指令値をエアポンプに出力する(図2のステップS5参照)。これにより、図4に示すようにエア流量がアイドル発電時よりも増加し、最低セル電圧は直ぐに回復する。
またこのとき、エア流量の増加量(図4の増加量A)は、アイドル停止制御の実行を開始した時刻t21から、最低セル電圧が最低セル電圧閾値を下回った時刻t22までの時間(図4のセル電圧低下時間T)に応じて設定される。具体的には、セル電圧低下時間Tが短いほど、フラッティング現象の発生が顕著でセル電圧の低下が異常であると判断されるため、より確実にフラッティング現象を解消してセル電圧を回復させるべく、増加量Aを大きく設定する。
【0067】
本実施形態によれば、以下のような効果が奏される。
(1)先ず本実施形態によれば、アイドル停止中に燃料電池10から電流を取り出すため、出力電流値が0であるOCV状態を回避でき、燃料電池10の高電位化による電解質膜の劣化を抑制できる。
また本実施形態によれば、アイドル停止中に燃料電池10から取り出す電流を、アイドル発電時よりも低電流とするため、アイドル停止中のセル電圧の低下を抑制できる。
また本実施形態によれば、アイドル停止中にエアを燃料電池10に供給するため、希釈器50内に滞留する燃料オフガス(水素)を希釈するための酸化剤オフガス(エア)を確保できる。このため、予め確保しなければならない希釈ガス(エア)量を低減でき、速やかにアイドル停止に移行できる。これにより、燃費も向上できる。
また本実施形態によれば、アイドル停止中にエアを供給するため、クロスリーク現象の発生時等に電解質膜の近傍に滞留する酸素量を低減できるため、電解質膜の近傍で水素と酸素が高濃度で反応してしまうのを抑制でき、電解質膜の劣化を抑制できる。
また本実施形態によれば、アイドル停止中にエアを供給するため、燃料電池10から取り出した電流をエアポンプ21の駆動により消費できる。これにより、高圧バッテリ16に充電可能な状態であるか否かに関わらず、燃料電池10から取り出した電流を消費できるため、ディスチャージ抵抗を設ける必要が無い。
また本実施形態によれば、アイドル停止中に燃料電池10に供給するエア流量を、アイドル発電時よりも低流量とするため、上述の効果を得つつ、無駄なエアの供給を低減でき、燃料電池システム1の効率の悪化を抑制することもできる。
【0068】
(2)通常、発電時に生成する水は、供給される反応ガスにより系外に排出される。ところが、本実施形態のアイドル停止時のようにエアの流量が低い場合には、例えばエア供給路23やカソード電極流路14内の水が完全に排出されず、これらの流路を閉塞するフラッティング現象が発生する。フラッティング現象が発生すると、エアが流通できなくなるため、電解質膜の近傍で水素と酸素が高濃度で反応してしまい、電解質膜の劣化を抑制できなくなる。
また、フラッティング現象が発生すると、燃料電池10の最低セル電圧が大きく低下する。この場合には、アイドル停止からの復帰直後にセル電圧が不安定となり、電流制限が必要となるおそれがある。
そこで本実施形態によれば、アイドル停止中において、燃料電池10の最低セル電圧が所定の最低セル電圧閾値を下回った場合には、フラッティング現象を解消する必要があると判断し、燃料電池10に供給するエアの流量を増加する。これにより、フラッティング現象が解消されるため、電解質膜の劣化を抑制できるとともにセル電圧を回復でき、アイドル停止からの復帰直後に安定したセル電圧を確保できる。
【0069】
(3)アイドル停止制御を開始してから所定時間内に最低セル電圧が所定の最低セル電圧閾値を下回った場合、このセル電圧の異常な低下は、フラッティング現象が過度に発生して多量の水がエア供給路23やカソード電極流路14内を閉塞していることが原因であると考えられる。このため、燃料電池10に供給するエアの流量を増加したとしても、その流量が低い場合には、フラッティング現象を十分に解消できないおそれがある。
そこで本実施形態によれば、セル電圧低下時間が所定時間内である場合には、アイドル発電時よりもエアの流量を増加する。これにより、フラッティング現象が確実に解消されるため、電解質膜の劣化を抑制できるとともにセル電圧を回復でき、アイドル停止からの復帰直後に安定したセル電圧を確保できる。
【0070】
(4)本実施形態によれば、セル電圧が急激に低下し、セル電圧低下時間が短いほど、エアの流量を増加する。即ち、フラッティング現象の発生度合に応じて、燃料電池10に供給するエア流量を増加する。これにより、フラッティング現象がより確実に解消されるため、電解質膜の劣化を抑制できるとともにセル電圧を回復でき、アイドル停止からの復帰直後に安定したセル電圧を確保できる。
【0071】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
例えば上記実施形態では、アイドル停止制御中に、低流量のエア及び水素を供給する構成としたがこれに限定されず、例えば、水素を供給せず低流量のエアのみを供給する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0072】
1…燃料電池システム
10…燃料電池
15…VCU(アイドル停止制御手段)
21…エアポンプ(反応ガス供給手段)
22…水素タンク(反応ガス供給手段)
28…エゼクタ(反応ガス供給手段)
261…レギュレータ(反応ガス供給手段)
40…ECU(アイドル停止制御手段、セル電圧閾値判定手段、セル電圧低下時間判定手段、セル電圧回復手段)
41…セル電圧センサ(セル電圧閾値判定手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応ガスが供給されることで発電する燃料電池セルを複数積層して構成された燃料電池スタックと、
前記燃料電池スタックに反応ガスを供給する反応ガス供給手段と、を備える燃料電池システムであって、
アイドル発電中に所定条件が成立した場合に、前記反応ガス供給手段により前記アイドル発電時よりも低流量の酸化剤ガスを前記燃料電池スタックに供給しながら、前記アイドル発電時よりも低電流を前記燃料電池スタックから取り出すアイドル停止制御を開始するアイドル停止制御手段を備えることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記アイドル停止制御中に、前記燃料電池スタックの最低セル電圧が所定の最低セル電圧閾値を下回るか否かを判定するセル電圧閾値判定手段と、
前記最低セル電圧が前記最低セル電圧閾値を下回ると判定された場合に、前記反応ガス供給手段により前記燃料電池スタックに供給する酸化剤ガスの流量を増加することで、前記燃料電池スタックのセル電圧を回復させるセル電圧回復手段と、をさらに備えることを特徴とする請求項1記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記アイドル停止制御を開始してから前記燃料電池スタックの最低セル電圧が前記最低セル電圧閾値を下回るまでの時間をセル電圧低下時間として、当該セル電圧低下時間が所定時間内であるか否かを判定するセル電圧低下時間判定手段をさらに備え、
前記セル電圧回復手段は、前記セル電圧低下時間が前記所定時間内であると判定された場合に、前記反応ガス供給手段により前記燃料電池スタックに供給する酸化剤ガスの流量を前記アイドル発電時よりも増加することで、前記燃料電池スタックのセル電圧を回復させることを特徴とする請求項2記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記セル電圧回復手段は、前記セル電圧低下時間が短いほど、前記反応ガス供給手段により前記燃料電池スタックに供給する酸化剤ガスの流量を増加することで、前記燃料電池スタックのセル電圧を回復させることを特徴とする請求項3記載の燃料電池システム。
【請求項5】
反応ガスが供給されることで発電する燃料電池セルを複数積層して構成された燃料電池スタックと、
前記燃料電池スタックに反応ガスを供給する反応ガス供給手段と、を備える燃料電池システムの制御方法であって、
アイドル発電中に所定条件が成立した場合に開始し、前記反応ガス供給手段により前記アイドル発電時よりも低流量の酸化剤ガスを前記燃料電池スタックに供給しながら、前記アイドル発電時よりも低電流を前記燃料電池スタックから取り出すアイドル停止工程を備えることを特徴とする燃料電池システムの制御方法。
【請求項6】
前記アイドル停止工程中に、前記燃料電池スタックの最低セル電圧が所定の最低セル電圧閾値を下回るか否かを判定するセル電圧閾値判定工程と、
前記最低セル電圧が前記最低セル電圧閾値を下回ると判定された場合に、前記反応ガス供給手段により前記燃料電池スタックに供給する酸化剤ガスの流量を増加することで、前記燃料電池スタックのセル電圧を回復させるセル電圧回復工程と、をさらに備えることを特徴とする請求項5記載の燃料電池システムの制御方法。
【請求項7】
前記アイドル停止工程を開始してから前記燃料電池スタックの最低セル電圧が前記最低セル電圧閾値を下回るまでの時間をセル電圧低下時間として、当該セル電圧低下時間が所定時間内であるか否かを判定するセル電圧低下時間判定工程をさらに備え、
前記セル電圧回復工程では、前記セル電圧低下時間が前記所定時間内であると判定された場合に、前記反応ガス供給手段により前記燃料電池スタックに供給する酸化剤ガスの流量を前記アイドル発電時よりも増加することで、前記燃料電池スタックのセル電圧を回復させることを特徴とする請求項6記載の燃料電池システムの制御方法。
【請求項8】
前記セル電圧回復工程では、前記セル電圧低下時間が短いほど、前記反応ガス供給手段により前記燃料電池スタックに供給する酸化剤ガスの流量を増加することで、セル電圧を回復させることを特徴とする請求項7記載の燃料電池システムの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−227008(P2012−227008A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94155(P2011−94155)
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】