説明

燃料電池システム及び制御方法

【課題】冷却媒体や燃料ガス/酸化ガスを供給、排出するマニホールドの圧力損失による冷却液や燃料ガス/酸化ガスの分配ばらつきに起因する湿潤状態のばらつきを抑制する。
【解決手段】ECU90は、燃料電池1の積層方向のセル間の湿潤状態のばらつきを推定し、ばらつきが閾値以上あると判定した場合に、冷却水流量、ガス流量、ガス圧力を制御して湿潤状態のばらつきを閾値より小さくなるように抑制する。ECU90は、冷却水流量を他のパラメータよりも優先的に制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池システム及び制御方法に関し、特に、スタック積層方向における湿潤状態のばらつき抑制に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、燃料極に燃料ガスが供給されるとともに、酸化剤極に酸化ガスが供給され、これらのガスを電気化学的に反応させて発電を行う燃料電池を備えた燃料電池システムが知られている。
【0003】
特許文献1には、燃料電池における温度の分布を検出し、温度の分布が所定の不均一状態にあると判定したときに、冷却液制御手段を制御して燃料電池に供給する冷却液の単位時間当たりの液量を増加させることが開示されている。温度分布としては、燃料電池内に流入する冷却液の温度と、燃料電池から排出される冷却液の温度との差を検出することが開示されている。
【0004】
特許文献2には、スタックを構成するセル間の湿潤状態のばらつきを検出し、あるセルが別のセルよりも所定レベル以上乾燥している場合に、燃料電池を加湿する制御を行うことが開示されている。具体的には、燃料ガス加湿器及び酸化ガス加湿器を制御して、燃料電池に供給される燃料ガス及び酸化ガスの加湿量を通常よりも増大させることが開示されている。
【0005】
特許文献3には、燃料電池の異なる計測箇所において計測された電圧の差から水分の偏在状況を推定し、燃料電池に供給されるガスの湿度、ガスの流量及びガス圧のうち少なくともいずれかを調整することで水分の偏在状況を制御することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−340734号公報
【特許文献2】特開2008−21448号公報
【特許文献3】特開2009−193817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、燃料電池の各セルに冷却液あるいは燃料ガス/酸化ガスを供給し排出するマニホールドは、当該燃料電池を車両等の移動体に搭載する場合には、搭載に必要なサイズや重量の制約上、マニホールドを必要以上に大きくすることはできない。また、マニホールド内の水分排出等を考慮すると、マニホールド内の流量確保のため、マニホールドの径はある程度小さくする必要がある。このため、マニホールドには圧力損失が必ず存在することとなり、この圧力損失のため冷却液や燃料ガス/酸化ガスの分配ばらつきが生じることとなる。このような分配ばらつきは、ガスによる水分の持ち去り量の相違や冷却液流量の相違、セル間の温度分布を生じる。このため、スタックの積層方向でセル間に湿潤状態のばらつきが生じ、セル電圧低下や出力制限等が生じ得る。
【0008】
上記の特許文献3に開示されているように、ガスの湿度、ガスの流量、ガス圧を調整することで湿潤状態をある程度制御することが可能であるが、さらに効率的に湿潤状態のばらつきを抑制する技術が望まれている。
【0009】
本発明の目的は、冷却媒体や燃料ガス/酸化ガスを供給、排出するマニホールドの圧力損失による冷却液や燃料ガス/酸化ガスの分配ばらつきに起因する湿潤状態のばらつきを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、燃料ガスと酸化ガスの電気化学反応により発電する燃料電池と、前記燃料電池の積層方向におけるセル間の湿潤状態のばらつきを検出する検出手段と、前記湿潤状態のばらつきが閾値以上ある場合に前記湿潤状態のばらつきを抑制する制御手段であって、少なくとも前記セルを冷却する冷却媒体の流量を制御することで前記湿潤状態のばらつきを抑制する制御手段とを備えることを特徴とする。
【0011】
本発明の1つの実施形態では、前記制御手段は、前記セルを冷却する冷却媒体の流量に加え、前記燃料ガスと前記酸化ガスのガス流量及び/又は前記燃料ガスと前記酸化ガスのガス圧力を制御することで前記湿潤状態のばらつきを抑制する。
【0012】
また、本発明の他の実施形態では、前記制御手段は、前記燃料電池の積層方向におけるセルのうち、燃料ガスと酸化ガス及び冷却媒体の入口側のセルの湿度とその反対側のエンドセルの湿度が等しくなるように制御する。
【0013】
また、本発明は、燃料ガスと酸化ガスの電気化学反応により発電する燃料電池システムの制御方法であって、(a)前記燃料電池の積層方向におけるセル間の湿潤状態のばらつきを検出する検出ステップと、(b)前記湿潤状態のばらつきが閾値以上ある場合に、少なくとも前記セルを冷却する冷却媒体の流量を制御することで前記湿潤状態のばらつきを抑制する抑制ステップとを備え、前記湿潤状態のばらつきが前記閾値より小さくなるまで前記(b)ステップを繰り返し実行することを特徴とする。
【0014】
本発明の1つの実施形態では、前記(b)ステップでは、前記セルを冷却する冷却媒体の流量に加え、前記燃料ガスと前記酸化ガスのガス流量及び/又は前記燃料ガスと前記酸化ガスのガス圧力を制御することで前記湿潤状態のばらつきを抑制する。
【0015】
本発明の他の実施形態では、前記(b)ステップは、(b1)現在の冷却媒体の流量が許容最大流量より小さいか否かを判定するステップと、(b2)現在の冷却媒体の流量が前記許容最大流量より小さいと判定された場合に前記冷却媒体の流量を制御し、現在の冷却媒体の流量が前記許容最大流量に達している判定された場合に前記燃料ガスと前記酸化ガスのガス流量及び/又は前記燃料ガスと前記酸化ガスのガス圧力を制御するステップとを備える。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、冷却媒体や燃料ガス/酸化ガスを供給、排出するマニホールドの圧力損失による冷却液や燃料ガス/酸化ガスの分配ばらつきに起因する湿潤状態のばらつきを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】燃料電池システムの構成図である。
【図2】燃料電池システムにおけるセルの構成図である。
【図3】実施形態の処理フローチャートである。
【図4】温度Tと飽和水蒸気圧との関係を示すグラフ図である。
【図5】冷却水とガスの分配ばらつきを示す説明図である。
【図6】ばらつき抑制の一例を示す詳細フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。
【0019】
1.燃料電池システムの基本構成
まず、燃料電池システムの基本構成について説明する。図1に、燃料電池システムの構成を示す。燃料電池システムは、燃料電池1と、燃料ガスを貯蔵するガスタンク21と、燃料ガス通路22と、循環通路25と、燃料オフガス通路30と、空気ブロワ51と、酸化ガス通路52と、酸化オフガス通路53と、計測装置60と、加湿器70と、冷却水供給部80と、電子制御ユニットECU90を備える。燃料電池システムは、ガスタンク21より燃料ガス通路22を通って供給される燃料ガスと、空気ブロワ51より酸化ガス通路52を通って供給される酸化ガスによる電気化学的反応を燃料電池1内で進行させて発電する。
【0020】
燃料ガス通路22には、減圧弁23及び流量制御弁24が設けられる。ガスタンク21から燃料電池1に供給される燃料ガスは、減圧弁23により所定の圧力に減圧され、流量制御弁24により流量が調整され、燃料ガス通路22を通って燃料電池1に供給される。燃料電池1内を通過した燃料ガスは、循環通路25に排出される。
【0021】
循環通路25には、循環ポンプ26が設けられる。循環ポンプ26により、燃料電池1から排出された燃料ガスを燃料ガス通路22に戻し、燃料電池1に単位時間当たりに供給される燃料ガス流量を増大させることができる。
【0022】
燃料オフガス通路30には、パージ弁31が設けられる。燃料ガスは、循環によりガス内のガス濃度(水素ガス濃度)が低下するため、パージ弁31を制御することによりガス濃度の低い燃料オフガスを循環通路25から燃料オフガス通路30に排出し、流量制御弁24を制御することにより、ガスタンク21からガス濃度の高い燃料ガスを供給する。
【0023】
計測装置60は、燃料電池1の各セルの電圧等の各種状態を計測する。計測装置60により計測された各セルの電圧等は、ECU90に供給される。
【0024】
冷却水供給部80は、燃料電池1に冷却液としての冷却水を循環供給する。冷却水供給部80は、循環ポンプやラジエータを備える。冷却水は、例えばエチレングリコース等の不凍水が用いられる。
【0025】
ECU90は、燃料電池システム全体を制御する。ECU90は、パージ弁31、減圧弁23、流量調整弁24を制御する。ECU90は、燃料電池内の湿潤状態に基づいて、燃料電池の発電効率が最適となるようにこれらの弁を制御する。具体的には、ECU90は、計測装置60により検出された各セルの電圧等に基づいて燃料電池1のスタックの積層方向における湿潤状態のばらつきを判定し、この判定結果に応じて、湿潤状態のばらつきを抑制ないし解消するように冷却水の流量、ガス流量、及びガス圧力を調整する。調整方法の詳細については後述する。
【0026】
図2に、燃料電池1を構成するセルの断面図を示す。燃料電池1は、セル10が複数個積層されることで構成されるスタックを備え、各セル10は、酸化ガス流路(酸化ガスマニホールド)16及び冷却水流路(冷却水マニホールド)を内面に有するカソード側セパレータ11、カソード側ガス拡散層12、膜電極接合体MEA13、アノード側ガス拡散層14、燃料ガス流路(燃料ガスマニホールド)17及び冷却水流路(冷却水マニホールド)を内面に有するアノード側セパレータ15が順に積層されて構成される。燃料電池1は、供給される反応ガスによる電気化学反応を、カソード側触媒層13c、電解質膜13b、アノード側触媒層13aが積層された膜電極接合体13において進行させることで発電する。酸化ガスはカソード側ガス拡散層12に供給され、燃料ガスはアノード側ガス拡散層14に供給される。なお、酸化ガス及び燃料ガスは、それぞれセルの面上を蛇行するように形成された流路を通ってガス拡散層へ拡散され、酸化ガス流路16と燃料ガス流路17は、酸化ガスと燃料ガスが互いに対向する方向に流れるように配置される。
【0027】
このような構成において、酸化ガス流路16、カソード側ガス拡散層12、燃料ガス流路17及びアノード側ガス拡散層14は、膜電極接合体MEA13に対して均一に酸化ガス及び燃料ガスが拡散されるように考慮された形状をなしているが、既述したようにそれぞれの流路には圧力損失があるため不均一が生じる。このため、スタックの積層方向において各セルに湿潤状態のばらつきが生じる。より具体的には、スタックは、両端に設けられたエンドプレートにより挟まれており、ガスは片方のエンド(供給・排出エンド)から供給され、スタック内の全てのセル10に分配され、セル10から排出されたガスは同エンドから排出される。供給・排出エンドの反対側のエンドでは供給排出口を有するエンドに比べてガスの流れが弱まること、エンドプレート近傍のセル(端セル)はスタック中央付近のセル(中央セル)よりも放熱の影響により温度が低く、水が液化しやすいことにより水の偏在が生じる。
【0028】
そこで、本実施形態では、ECU90が各セルの湿潤状態のばらつきを検出すると、冷却水流量、ガス流量、ガス圧力を総合的に制御して湿潤状態のばらつきを抑制ないし解消する。
【0029】
2.実施形態の制御方法
次に、ECU90における制御の内容について説明する。
【0030】
図3に、本実施形態における制御のフローチャートを示す。図において、ECU90は、酸化ガス、燃料ガス及び冷却水を燃料電池1に供給して通常運転の制御を実行する(S101)。そして、通常運転の制御を実行している間の所定のタイミング(割り込み処理)で、燃料電池1のスタックの積層方向の湿潤状態、すなわち水分布を推定する(S102)。この水分布の推定は公知の任意の方法を用いることができる。例えば、スタックの端セルの電圧と中央セルの電圧の差を演算する。そして、電圧差が所定しきい値以上となった場合に湿潤状態にばらつきがある、すなわち水分布に偏在があると判定する(S103)。一般には、燃料電池1の運転開始時点においては、端セルが湿潤状態にあり、中央セルが若干乾燥している状態であり、運転が継続されるに従って中央セルの含水量が上昇して発電効率が上昇し、その後、中央セルが湿潤となるとともに、徐々に端セルへの水分の偏在が発生し、端セルと中央セルの電圧差が所定の電圧以上に至る。なお、この状態を放置して運転をそのまま継続すると、セル間の電圧差がさらに増大し、フラッディングの発生によるセル落ちや出力低下を招くことになる。
【0031】
電圧差がしきい値以上であって湿潤状態のばらつき(乾湿のばらつき)があると判定された場合(S103でYES)、湿潤状態のばらつき(乾湿のばらつき)を抑制する制御に移行する(S104)。この抑制処理は、電圧差がしきい値より小さくなるまで実行する。そして、電圧差がしきい値より小さくなると(S103でNO)、乾燥制御及び水排出制御を行い(S105)、燃料電池1の出力が回復し、含水量が回復し、かつ、水が排出されるまで実行する(S106)。
【0032】
以下、S104における湿潤状態のばらつきを抑制する方法について説明する。まず、冷却水と温度との関係について考察する。燃料電池1の電流I、標準起電圧V0、実際の起電圧V、冷却水流量Qfcc、温度Tとの間には、
I・(V0−V)=k・Gfcc・dT/dt+放熱
の関係がある。すなわち、燃料電池1の温度TはQfccの関数であり、
T=f(Qfcc) ・・・(1)
の関係にある。
【0033】
一方、ガスによる水の持ち去り量Qwatは、ガス流量Qdry、ガス全圧力Pall、水蒸気分圧Pwatから、
Qwat={Pwat/(Pall−Pwat)}・Qdry ・・・(2)
の関係にある。
【0034】
また、飽和水蒸気圧Psatは、図4に示すように温度Tに依存して決定されるから、
Psat=g(T) ・・・(3)
と規定することができる。(1)式と(3)式から、関数hを用いて
Psat=h(Qfcc) ・・・(4)
と表すことができる。
【0035】
また、飽和水蒸気圧Psatと水蒸気分圧Pwetと湿度(%RH)との間には、
%RH=(Pwet/Psat)・100 ・・・(5)
の関係があるから、(2)式、(4)式、(5)式を用いて、
Pwat=%RH・h(Qfcc)/100 ・・・(6)
と表することができる。
【0036】
図5(a)に、燃料電池の各セルに供給されるガス、冷却水の分配比率を模式的に示す。図において、ガスや冷却水は図の右側の入口から供給され、出口から排出されるものとする。このとき、入口側(分配管側)ではガスや冷却水の流量は相対的に多く、その反対側のエンドセル側ではガスや冷却水の流量は相対的に少ない。いま、入口側(分配管側)の流量を1と規格化した場合に、エンドセル側の相対的なガス流量をx、冷却水流量をyとする(x<1、y<1)。また、図5(b)に、燃料電池の各セルのガス全圧力を示す。入口側(分配管側)の圧力を1と規格化した場合に、エンドセル側の相対的なガス圧力をzとする。すなわち、分配管側のガス流量、冷却水流量、ガス圧力をそれぞれQdry、Qwat、Pallとすると、エンドセル側のガス流量、冷却水流量、ガス圧力は、それぞれx・Qdry、y・Qwat、z・Pallとなる。ここで、(x,y,z)の値は、S102の水分布推定により得られる。
【0037】
このとき、(2)式、(6)式より、エンドセル側において、
Qwat={(%RH・h(y・Qfcc)/100)/(z・Pall−%RH・h(Qfcc)/100)}・x・Qdry ・・・(7)
であり、分配管側において、
Qwat=(%RH・h(Qfcc)/100)/(Pall−%RH・h(Qfcc)/100) ・・・(8)
が成り立つ。従って、エンドセル側において、湿度%RHは、
%RH=(100Qwat・z・Pall)/((h(yQfcc)・(x・Qdry+Qwat)) ・・・(9)
であり、分配管側において、湿度%RHは、
%RH=(100Qwat・Pall)/(h(Qfcc)(Qdry+Qwat) ・・・(10)
である。湿潤状態のばらつきを抑制するためには、分配管側の湿度と、エンドセル側の湿度が等しくなるように制御すればよいから、(9)式と(10)式の湿度%RHが等しくなるように冷却水流量Qfcc、ガス流量Qdry、ガス圧力Pallを調整すればよい。ECU80は、このような原理に基づいて、(9)式の値と(10)式の値がほぼ等しくなるように、推定された(x,y,z)に基づいて冷却水流量Qfcc、ガス流量Qdry、ガス圧力Pallを調整する。すなわち、ECU90は、
(100Qwat・z・Pall)/((h(yQfcc)・(x・Qdry+Qwat))=(100Qwat・Pall)/(h(Qfcc)(Qdry+Qwat) ・・・(11)
が成り立つように、冷却水流量Qfcc、ガス流量Qdry、ガス圧力Pallを(x,y,z)に応じて調整する。関数h(Qfcc)は、予め実験で求めてECU90のメモリにテーブルあるいは関数として記憶しておく。
【0038】
具体的に一例を挙げると以下のようである。すなわち、S103で湿潤状態のばらつきが閾値以上であると判定された場合、ECUは、冷却水流量Qfccを優先的に制御すべく、図6に示すように、まず、現在の冷却水流量Qfccが冷却水ポンプの最大回転数から定まる最大冷却水流量αよりも小さいか否かを判定する(S1041)。そして、現在の冷却水流量Qfccがポンプの最大回転数から定まる最大冷却水流量αよりも小さい場合には、冷却水流量Qfccを増大させる余地があるものとして、冷却水流量Qfccを制御する(S1042)。一方、現在の冷却水流量Qfccがポンプの最大回転数から定まる最大冷却水流量αに既に達している場合には、冷却水流量Qfccを調整する余地がないので、他のパラメータ、具体的にはガス流量Qdryを制御する(S1043)。一般に、エアコンプレッサよりも冷却水ポンプの動力損の方が小さいため、冷却水ポンプによる冷却水流量の制御が可能な範囲ではこちらを優先的に制御する方が効率的である。
【0039】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、種々の変更が可能である。
【0040】
例えば、本実施形態において、図3のS102における水分布の推定方法として任意の方法を使用できるが、積層された各セルの電流値を測定することで水分布を推定してもよく、あるいは各セルの抵抗値を測定することで水分布を推定してもよい。
【0041】
また、本実施形態において、ECU90は、冷却水流量Qfcc、ガス流量Qdry,ガス圧力Pallの全てを制御してもよく、冷却水流量Qfccを制御するとともに、さらにガス流量とガス圧力の少なくともいずれかを制御してもよい。また、冷却水流量Qfcc、ガス流量Qdry,ガス圧力Pallの中で優先順位を設定し、この優先順位に従って制御してもよい。好適には、まず冷却水流量Qfccを制御し、その後にガス流量Qdryあるいはガス圧力Pallを制御するのがよい。この意味で、ECU90は、少なくとも冷却水流量Qfccを制御することで湿潤状態のばらつきを抑制するといえる。冷却水は冷却媒体の一例であるから、ECU90は、少なくとも冷却媒体流量Qfccを制御することで湿潤状態のばらつきを抑制するといえる。
【0042】
また、本実施形態では、図3の処理フローチャートに示すように、スタックの水バランスを制御する機構(S105,S106の処理)と組み合わせて湿潤状態のばらつきを抑制しているが、S105、S106の処理を行うことなく、S104の処理を繰り返し実行して湿潤状態を制御することもできる。
【0043】
さらに、本実施形態では、基本的に(11)式が成立するように冷却水の流量等を制御しているが、(11)式以外の式を用いてもよく、あるいは湿潤状態のばらつきが閾値以上となった場合に、冷却水流量を所定量ずつ増大制御してその都度湿潤状態のばらつきを監視し、閾値より小さくなるまで冷却水の増大制御を繰り返し実行する制御を行ってもよい。要するに、湿潤状態のばらつきが検出された場合に、このばらつきが許容範囲まで小さくなるまで冷却水流量を優先的に制御すればよい。
【符号の説明】
【0044】
1 燃料電池、10 セル、60 計測装置、70 加湿器、80 冷却媒体供給部、90 ECU(電子制御装置)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料ガスと酸化ガスの電気化学反応により発電する燃料電池と、
前記燃料電池の積層方向におけるセル間の湿潤状態のばらつきを検出する検出手段と、
前記湿潤状態のばらつきが閾値以上ある場合に前記湿潤状態のばらつきを抑制する制御手段であって、少なくとも前記セルを冷却する冷却媒体の流量を制御することで前記湿潤状態のばらつきを抑制する制御手段と、
を備えることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池システムにおいて、
前記制御手段は、前記セルを冷却する冷却媒体の流量に加え、前記燃料ガスと前記酸化ガスのガス流量及び/又は前記燃料ガスと前記酸化ガスのガス圧力を制御することで前記湿潤状態のばらつきを抑制することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項3】
請求項1、2のいずれかに記載の燃料電池システムにおいて、
前記制御手段は、前記燃料電池の積層方向におけるセルのうち、燃料ガスと酸化ガス及び冷却媒体の入口側のセルの湿度とその反対側のエンドセルの湿度が等しくなるように制御することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項4】
燃料ガスと酸化ガスの電気化学反応により発電する燃料電池システムの制御方法であって、
(a)前記燃料電池の積層方向におけるセル間の湿潤状態のばらつきを検出する検出ステップと、
(b)前記湿潤状態のばらつきが閾値以上ある場合に、少なくとも前記セルを冷却する冷却媒体の流量を制御することで前記湿潤状態のばらつきを抑制する抑制ステップと、
を備え、前記湿潤状態のばらつきが前記閾値より小さくなるまで前記(b)ステップを繰り返し実行することを特徴とする燃料電池システムの制御方法。
【請求項5】
請求項4記載の制御方法において、
前記(b)ステップでは、前記セルを冷却する冷却媒体の流量に加え、前記燃料ガスと前記酸化ガスのガス流量及び/又は前記燃料ガスと前記酸化ガスのガス圧力を制御することで前記湿潤状態のばらつきを抑制することを特徴とする燃料電池システムの制御方法。
【請求項6】
請求項4記載の制御方法において、
前記(b)ステップは、
(b1)現在の冷却媒体の流量が許容最大流量より小さいか否かを判定するステップと、
(b2)現在の冷却媒体の流量が前記許容最大流量より小さいと判定された場合に前記冷却媒体の流量を制御し、現在の冷却媒体の流量が前記許容最大流量に達している判定された場合に前記燃料ガスと前記酸化ガスのガス流量及び/又は前記燃料ガスと前記酸化ガスのガス圧力を制御するステップと、
を備えることを特徴とする燃料電池システムの制御方法。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれかに記載の制御方法において、
前記(b)ステップでは、前記燃料電池の積層方向におけるセルのうち、燃料ガスと酸化ガス及び冷却媒体の入口側のセルの湿度とその反対側のエンドセルの湿度が等しくなるように制御することを特徴とする燃料電池システムの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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