説明

燃料電池システム及び残留水分排出方法

【課題】排水処理のために用いるガス量や電力量を抑えつつ、燃料電池内の残留水分を排出することを可能とする技術を提供する。
【解決手段】電解質膜と、電解質膜に接するアノードと、電解質膜を挟んでアノードに対峙するカソードと、アノードとカソードとのうち、いずれか一方の極側について排水処理を行う排水部と、を備えた燃料電池システムにおいて、アノードとカソードとは、互いに熱容量が異なり、排水部は、アノードとカソードとのうち、熱容量がより小さい小容量極側についてのみ排水処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池内部の残留水分を排出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電解質層として固体高分子電解質膜を有する燃料電池では、電解質膜が湿潤環境下において高いプロトン導電性を示すことから、電気化学反応に用いられる反応ガス(燃料ガス及び酸化ガス)を加湿することが多い。また、燃料電池のカソードでは、電気化学反応に伴って水が生成される。このような燃料電池内部で生じた水や、反応ガス内に含まれる水蒸気に起因して、燃料電池において種々な不都合が発生する。例えば、これらの水分が燃料電池の運転停止後も燃料電池内部に留まり、反応ガスを電解質膜に拡散するための拡散層において凝縮すると、拡散層が目詰まりして反応ガスの拡散が阻害され、燃料電池の起動時において発電能力が不安定となる。
【0003】
そこで、このような残留水分を排出するために、反応ガスや窒素ガス等の不活性ガスを燃料電池に供給して掃気する燃料電池が提案されている(例えば下記特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2002−305017号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の燃料電池は、カソード側とアノード側とで、それぞれ、反応ガスの流量を増大させてガス流路内の残留水を量的に外部に排出させた後に、圧力を上昇させてから低下させることで、反応ガスの流速を高めてガス流路内に残った水分を排出する構成である。従って、この上記特許文献1に記載の燃料電池では、アノード側において掃気を実行するために多量の水素ガスが残留水分と共に排出されてしまい、燃費の低下を招くという問題がある。なお、反応ガスに代えて、窒素ガス等の不活性ガスを掃気用ガスとして用いた場合においても、不活性ガスを多量に消費してしまうという問題がある。また、掃気用ガスの消費量を抑えるために、掃気用ガスを循環させて掃気する構成も考えられるが、掃気用ガスを循環させるためのポンプ等を両極において動作させるので、多量の電力を消費することとなる。それ故、ポンプがバッテリー駆動の構成では、バッテリー上がり等が発生するおそれもある。
【0006】
本発明は、上述した従来の問題を解決するためになされたものであり、排水処理のために用いるガス量や電力量を抑えつつ、燃料電池内部の残留水分を排出することを可能とする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の燃料電池システムは、電解質膜と、前記電解質膜に接するアノードと、前記電解質膜を挟んで前記アノードに対峙するカソードと、前記アノードと前記カソードとのうち、少なくともいずれか一方の極側について排水処理を実行する排水部と、を備え、前記アノードと前記カソードとは、互いに熱容量が異なり、前記排水部は、前記アノードと前記カソードとのうち、熱容量がより小さな小容量極側について、熱容量がより大きな大容量極側に比べて、より多量の水分を排出するように前記排水処理を実行することを要旨とする。
【0008】
このように、本発明の燃料電池システムでは、排水処理部はアノードとカソードとのうち、熱容量がより小さい小容量極側について、大容量極に比べて、より多量の水分を排出するように排水処理を実行するので、両極について同程度の量の水分を排出する場合に比べて、排水処理のために用いるガス量や電力量を押さえつつ残留水分を排出することができる。ここで、小容量極は、大容量極に比べて、燃料電池システムの動作停止後の温度低下の速度が速い。従って、燃料電池システムの動作停止後において、大容量極に比べて水蒸気分圧が小さくなり、大容量極側から小容量電極側に残留水分が移動することとなる。それゆえ、小容量極側についてより多量の水分を排出するように排水処理を行うことで、残留水分を十分に排出することができる。
【0009】
上記燃料電池システムにおいて、前記排水部は、前記小容量極側からのみ水分を排出するように、前記排水処理を実行するようにしてもよい。
【0010】
このようにすることで、大容量極側については水分を排出しないので、大容量極側の排水処理のために用いるガス量や電力量を抑えつつ、残留水分を排出することができる。
【0011】
上記燃料電池システムにおいて、前記排水部は、前記排水処理を行う対象極側に所定のガスを供給することで、前記排水処理を実行するようにしてもよい。
【0012】
このようにすることで、所定のガスを用いて対象電極側を掃気して、残留水分を排出することができる。
【0013】
上記燃料電池システムにおいて、前記排水部は、前記所定のガスを供給して前記対象極側の圧力を高めておき、その後、前記対象極側の圧力を低下させることで前記排水処理を実行するようにしてもよい。
【0014】
このようにすることで、対象極側の残留水分を排出する際に、圧力を低下させるだけでよく、掃気用ガスを送り込むために、例えばコンプレッサやポンプ等を動作させなくてよい。それゆえ、残留水分が対象極側に移動するのに長時間を要することとなっても、残留水分を排出する際にコンプレッサ等を動作させないので、静寂性を保つことができる。
【0015】
上記燃料電池システムにおいて、前記排水部は、前記排水処理を行う対象極側を吸引することで、前記排水処理を実行するようにしてもよい。
【0016】
このようにすることで、対象極側の残留水分を排出することができる。
【0017】
上記燃料電池システムにおいて、前記小容量極は、前記カソードであってもよい。
【0018】
このようにすることで、残留水を排出する際に、カソード側の反応ガスである空気を用いて掃気して排水処理を実行する、或いは、カソード側の反応ガスである空気を吸引して排水処理を実行することができるので、アノード側の反応ガスである燃料ガスを用いずに排水処理が実行でき、燃費の低下を抑制することができる。
【0019】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、残留水分排出方法や、残留水分排出方法または燃料電池システムの機能を実現するためのコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した記録媒体、そのコンピュータプログラムを含み搬送波内に具現化されたデータ信号、等の形態で実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための最良の形態を実施例に基づいて以下の順序で説明する。
A.第1の実施例:
B.第2の実施例:
C.変形例:
【0021】
A.第1の実施例:
A1.燃料電池システムの構成:
図1は、本発明の第1の実施例としての燃料電池システムの概略構成を示す説明図である。この燃料電池システム1000は、燃料電池スタック10と、水素タンク30と、ラジエータ40と、制御ユニット50と、温度センサ70と、圧力センサ75と、気液分離器80と、を備える。燃料電池スタック10は、積層された複数の燃料電池モジュール20を備える。制御ユニット50は、CPU51、RAM52、ROM53を備えるマイクロコンピュータとして構成されており、ROM53に記憶されたプログラムに従ってシステムの運転を制御する。かかる燃料電池システム1000は、モータで駆動する電気車両に電源として搭載されている。運転者が車両に備えられたアクセルを操作すると、図示せざるアクセル開度センサによって検出された操作量に応じて、水素ガス及び空気の供給が行われて発電が行われ、その電力によって車両は走行することができる。なお、燃料電池システム1000は車載用である必要はなく、据え置き型など種々の構成を採ることができる。
【0022】
燃料電池システム1000の運転時において、燃料電池スタック10には、電池反応に用いられる反応ガス及び冷却媒体が供給される。具体的には、水素タンク30から、配管305,350aを介して燃料ガスとしての水素ガスが供給される。なお、この燃料ガスは、加湿器(図示省略)で加湿されて燃料電池スタック10に供給される。これは、各燃料電池モジュール20が有する電解質膜(後述)が、湿潤環境下において高いイオン交換能力を発揮するためである。燃料電池スタック10に供給された燃料ガスは、各燃料電池モジュール20のアノードにおいて電気化学反応に使用され、オフガスとして配管350bから排出される。このオフガスには、電気化学反応に使用されずに排出された水素ガスの他に、電気化学反応で生成された水や、加湿で用いられた水を含んでいる。このオフガスは、配管350bに設けられた気液分離器80において水分を除去されて、配管350aに戻されて再び燃料電池スタック10に循環される。配管350bには、循環のための循環ポンプ340が配置されている。
【0023】
また、燃料電池スタック10には、配管250aに配置されたエアコンプレッサ260によって、エアフィルタ205を通した空気が酸化ガスとして供給される。燃料電池スタック10に供給された酸化ガスは、各燃料電池モジュール20のカソードにおいて電気化学反応に使用され、オフガスとして配管250bを介して大気中に放出される。なお、配管250bには、温度センサ70及び圧力センサ75が配置されており、配管250bにおける温度(燃料電池スタック10内のカソード側の温度)及びカソード側圧力を測定することが可能であり、これら測定値を制御ユニット50に通知する。
【0024】
また、燃料電池スタック10には、ラジエータ40から配管450aを介して冷却媒体としての水が供給される。燃料電池スタック10から排出された冷却水は、配管450bを介してラジエータ40に送られて再び燃料電池スタック10に循環される。配管450bには、循環のための循環ポンプ410が配置されている。
【0025】
なお、上述した配管305には、電磁弁310が配置されている。この電磁弁310は、制御ユニット50によって開閉が制御される。同様にして、配管250aには電磁弁270が、配管250bには電磁弁280が、それぞれ配置されており、それぞれ制御ユニット50によって開閉が制御される。また、配管350bの気液分離器80の下流側には配管370が分岐して配置されている。この配管370は、配管250bと接続されており、大気への排出路を形成している。なお、配管370には電磁弁360が配置されており、制御ユニット50によって開閉が制御される。
【0026】
なお、制御ユニット50とエアコンプレッサ260と電磁弁270,280とは、請求項における排水部に相当する。
【0027】
図2は、図1に示す燃料電池モジュール20の詳細構成を示す分解斜視図である。この燃料電池モジュール20は、シール一体型膜電極接合体(以下、シール一体型MEAと呼ぶ。)21及びセパレータ25を備えている。そして、燃料電池モジュール20は、これらシール一体型MEA21及びセパレータ25が交互に積層されて構成されている。なお、図2では、それぞれ1つずつ示している。
【0028】
シール一体型MEA21は、MEA部60と、MEA部60を囲むシール部61と、を備えている。MEA部60は、電解質膜(後述)を有する。かかる電解質膜として、フッ素樹脂系イオン交換膜のNafion(登録商標)やFlemion(登録商標)やAciplex(登録商標)等を用いることができる。なお、図2では、シール一体型MEA21は、上面がカソード面であり、下面がアノード面である。このシール部61は、燃料ガス供給マニホールド形成部211aと、燃料ガス排出マニホールド形成部211bと、酸化剤ガス供給マニホールド形成部212aと、酸化剤ガス排出マニホールド形成部212bと、冷却媒体供給マニホールド形成部213aと、冷却媒体排出マニホールド形成部213bと、を有する。これらの各マニホールド形成部211a,211b,212a,212b,213a,213bは、シール部61を厚さ方向に貫通する貫通部として形成されている。なお、シール部61は、シリコンゴムから成る。
【0029】
セパレータ25は、アノード側プレート22と、中間プレート23と、カソード側プレート24と、を備えている。アノード側プレート22は、シール一体型MEA21のアノード面に対向し、カソード側プレート24は、図面下方において隣接することとなるシール一体型MEA(図示省略)のカソード面に対向する。中間プレート23は、これらアノード側プレート22及びカソード側プレート24に挟持されている。
【0030】
アノード側プレート22は、シール一体型MEA21と同じ位置に、燃料ガス供給マニホールド形成部221aと、燃料ガス排出マニホールド形成部221bと、酸化剤ガス供給マニホールド形成部222aと、酸化剤ガス排出マニホールド形成部222bと、冷却媒体供給マニホールド形成部223aと、冷却媒体排出マニホールド形成部223bと、を有する。これらの各マニホールド形成部221a,221b,222a,222b,223a,223bは、アノード側プレート22を厚さ方向に貫通する貫通部として形成されている。また、アノード側プレート22は、シール一体型MEA21のMEA部60に対向する部分に、複数個の燃料ガス供給孔225と、複数個の燃料ガス排出孔226と、を有する。これら燃料ガス供給孔225及び燃料ガス排出孔226は、アノード側プレート22を厚さ方向に貫通する貫通部として形成されている。
【0031】
カソード側プレート24は、シール一体型MEA21と同じ位置に、燃料ガス供給マニホールド形成部241aと、燃料ガス排出マニホールド形成部241bと、酸化剤ガス供給マニホールド形成部242aと、酸化剤ガス排出マニホールド形成部242bと、冷却媒体供給形成部マニホールド243aと、冷却媒体排出マニホールド形成部243bと、を有する。これらの各マニホールド形成部241a,241b,242a,242b,243a,243bは、カソード側プレート24を厚さ方向に貫通する貫通部として形成されている。また、カソード側プレート24は、複数個の酸化剤ガス供給孔245と、複数個の酸化剤ガス排出孔246と、を有する。これら酸化剤ガス供給孔245及び複数個の酸化剤ガス排出孔246は、カソード側プレート24を厚さ方向に貫通する貫通部として形成されている。
【0032】
中間プレート23は、アノード側プレート22及びカソード側プレート24と同じ位置に、燃料ガス供給マニホールド形成部231aと、燃料ガス排出マニホールド形成部231bと、酸化剤ガス供給マニホールド形成部232aと、酸化剤ガス排出マニホールド形成部232bと、を有している。これらの各マニホールド形成部231a,231b,232a,232bは、中間プレート23を厚さ方向に貫通する貫通部として形成されている。さらに、中間プレート23は、複数の長孔である、燃料ガス供給流路形成部235と、燃料ガス排出流路形成部236と、酸化剤ガス供給流路形成部237と、酸化剤ガス排出流路形成部238と、を備えている。これらの各流路形成部235〜238の一端は、それぞれ各マニホールド形成部231a,231b,232a,232bと連通している。また、燃料ガス供給流路形成部235及び燃料ガス排出流路形成部236の他端は、それぞれ、積層状態においてアノード側プレート22に形成された燃料ガス供給孔225及び燃料ガス排出孔226と連通している。同様にして、酸化剤ガス供給流路形成部237及び酸化剤ガス排出流路形成部238の他端は、それぞれ、カソード側プレート24に形成された酸化剤ガス供給孔245及び酸化剤ガス排出孔246に連通している。また、中間プレート23は、中間プレートを縦断する長孔の冷却媒体流路形成部239を複数個有している。そして、上述した中間プレート23における各流路形成部235〜239は、中間プレート23を厚さ方向に貫通する貫通部として形成されている。
【0033】
上述した中間プレート23及びカソード側プレート24は、いずれもチタン製の薄板に上述した各貫通部を形成することにより製造されている。一方、アノード側プレート22は、カーボン製の厚板に、上述した各貫通部を形成することにより製造されている。ここで、アノード側プレート22厚さは、カソード側プレート24の厚さに比べて大きい。そして、アノード側プレート22と、カソード側プレート24と、で熱容量を比べた場合、カソード側プレート24は、カーボン板に比べて体積熱容量のより小さなチタンで構成されており、かつ、アノード側プレート22に比べて薄いので、アノード側プレート22に比べて熱容量が小さい。
【0034】
図3は、シール一体型MEA21及びセパレータ25を積層した状態での、図2におけるA−A断面を示す断面図である。なお、説明の便宜上、図2とは異なり、シール一体型MEA21のアノード側に配置されているセパレータ(以下、「セパレータ25a」と呼ぶ)の他に、シール一体型MEA21のカソード側に配置されているセパレータ(以下、「セパレータ25b」と呼ぶ)も記載している。
【0035】
シール一体型MEA21のMEA部60は、電解質膜60cを挟んでアノード側ガス拡散層60a及びカソード側ガス拡散層60bを備えている。これらアノード側ガス拡散層60a及びカソード側ガス拡散層60bは、互いに同じ素材で構成され、また、厚さは同じなので熱容量はほぼ等しい。なお、MEA部60は、触媒層や電極を備えているが、説明の便宜上省略している。
【0036】
前述のアノード側プレート22、または、アノード側プレート22及びアノード側ガス拡散層60aは、請求項におけるアノードに相当する。また、カソード側プレート24、または、カソード側プレート24及びカソード側ガス拡散層60bは、請求項におけるカソードに相当する。
【0037】
図3の例では、燃料ガス供給マニホールド形成部211a,221a,231a,241aにより燃料供給マニホールドが形成されており、また、酸化剤ガス供給マニホールド212a,222a,232a,242aにより酸化剤ガス供給マニホールドが形成されている。また、中間プレート23における貫通部である冷却媒体流路形成部239と、アノード側プレート22と、カソード側プレート24と、で囲まれた空間(以下、「冷却媒体流路」と呼ぶ。)が複数形成されている。また、中間プレート23における貫通部である燃料ガス供給流路形成部235と、アノード側プレート22と、カソード側プレート24と、で囲まれた空間(以下、「燃料ガス供給流路」と呼ぶ。)が形成されている。この燃料ガス供給流路の一端は、燃料ガス供給孔225に連通し、他端は燃料ガス供給マニホールドに連通している。同様にして、酸化剤ガス供給流路形成部237と、アノード側プレート22と、カソード側プレート24と、で囲まれた空間(以下、「酸化剤ガス供給流路」と呼ぶ。)が形成されている。この酸化剤ガス供給流路の一端は、酸化剤ガス供給孔245に連通し、他端は酸化剤ガス供給マニホールドに連通している。
【0038】
図4は、シール一体型MEA21及びセパレータ25を積層した状態での、図2におけるB−B断面を示す断面図である。なお、図3と同様に、セパレータ25aの他に、セパレータ25bも記載している。
【0039】
図4の例では、燃料ガス排出マニホールド形成部211b,221b,231b,241bにより燃料ガス排出マニホールドが形成されており、また、酸化剤ガス排出マニホールド形成部212b,222b,232b,242bにより酸化剤ガス排出マニホールドが形成されている。また、中間プレート23における貫通部である燃料ガス排出流路形成部236と、アノード側プレート22と、カソード側プレート24と、で囲まれた空間(以下、「燃料ガス排出流路」と呼ぶ。)が形成されている。この燃料ガス排出流路の一端は、燃料ガス排出孔226に連通し、他端は燃料ガス排出マニホールドに連通している。同様にして、酸化剤ガス排出流路形成部238と、アノード側プレート22と、カソード側プレート24と、で囲まれた空間(以下、「酸化剤ガス排出流路」と呼ぶ。)が形成されている。この酸化剤ガス排出流路の一端は、酸化剤ガス排出孔246に連通し、他端は酸化剤ガス排出マニホールドに連通している。
【0040】
A2.燃料電池スタック10内部の動作:
燃料電池スタック10に供給された燃料ガスとしての水素は、図3に示す燃料供給マニホールドを、図面上方から下方に流れる。一方、各燃料電池モジュール20から排出される水素を含むアノード側オフガスは、図4に示す燃料ガス排出マニホールドを図面下方から上方に流れる。ここで、図3に示すセパレータ25aの中間プレート23において、燃料ガス供給マニホールド形成部231aを通過する水素の一部は、燃料ガス供給流路に流入し、燃料ガス供給孔225を通ってアノード側プレート22に対向するシール一体型MEA21のアノード側ガス拡散層60aに供給される。そして、この供給された水素は、電解質膜60c全体に亘って拡散して電気化学反応に供される。
【0041】
電気化学反応後、余剰水素は、図4に示すセパレータ25aのアノード側プレート22の燃料ガス排出孔226を通って、燃料ガス排出流路に流入し、燃料ガス排出マニホールドを通って燃料電池スタック10から排出される。
【0042】
上述した水素とは逆に、燃料電池スタック10に供給された酸化剤ガスとしての空気は、図3に示す酸化剤ガス供給マニホールドを、図面下方から上方に流れる。一方、各燃料電池モジュール20から排出される空気を含むカソード側オフガスは、図4に示す酸化剤ガス排出マニホールドを図面上方から下方に流れる。
【0043】
ここで、図3に示すセパレータ25bの中間プレート23において、酸化剤ガス供給マニホールド形成部232aを通過する空気の一部は、酸化剤ガス供給流路に流入し、酸化剤ガス供給孔245を通ってシール一体型MEA21のカソード側ガス拡散層60bに供給される。そして、この供給された空気は、電解質膜60c全体に亘って拡散して電気化学反応に供される。
【0044】
電気化学反応後、余剰空気は、図4に示すセパレータ25bのカソード側プレート24の酸化剤ガス排出孔246を通って、酸化剤排出流路に流入し、酸化剤ガス排出マニホールドを通って燃料電池スタック10から排出される。
【0045】
上述したカソード側における電気化学反応で生成された水や、反応ガスを加湿するための水分は、一部はオフガスとして、図4に示す燃料ガス排出マニホールド及び酸化ガス排出マニホールドから排出される。しかしながら、一部の水分は、燃料電池システム1000の運転停止後において、MEA部60の内部に留まることとなる。この残留水分は、運転停止後の低温環境下において凝縮して、触媒(図示省略)を被覆して触媒能を劣化させたり、多孔質体であるガス拡散層60a,60bの目詰まりを引き起こしてガス拡散を阻害したりする。そこで、燃料電池システム1000では、後述する残留水分排出処理を行うことで、MEA部60内部の残留水分を排出するように構成されている。
【0046】
A3.残留水分排出処理:
図5は、燃料電池システム1000における残留水分排出処理の手順を示すフローチャートである。ユーザが電気車両のイグニッションスイッチをオフすると、燃料電池システム1000において残留水分排出処理が実行される。図5に示す残留水分排出処理が開始されると、CPU51(図1)は、電磁弁310を閉塞して水素ガスの供給を止める(ステップS505)。次に、CPU51は、カソード排出側の電磁弁280を閉じて酸化ガス(空気)の供給を続け、所定の圧力となるまでカソード側の圧力を上昇させる(ステップS510)。次に、CPU51は、エアコンプレッサ260を止めてカソード供給側の電磁弁270を閉じて、カソード側を閉じた系とする(ステップS515)。
【0047】
図6は、ステップS515の処理後のガスの流れを示す説明図である。図6における各構成要素は図1と同じであるので説明を省略する。なお、図6では、図1と異なり、破線で示す配管は、ガスが流れていない配管を示し、太い実線で示す配管は、ガスの流れがある(自然排出含む)配管を示す。図6に示すように、ステップS515の後には、燃料電池スタック10のカソード側は、電磁弁270及び電磁弁280によってガス(酸化ガス)の流れが遮断されて、閉じた系となっている。なお、同様にアノード側についても電磁弁310及び電磁弁360によって閉じた系となっている。
【0048】
次に、CPU51は、カソード側温度が所定温度まで低下したか判定し(ステップS520)、所定温度まで低下したと判定した場合に、カソード排出側の電磁弁280を開いてカソード側圧力を低下させ、残留するガスを一気に排出する(ステップS525)。
【0049】
図7は、残留水分排出処理における残留水分の移動状況を模式的に示す説明図である。図7に示すセパレータ25a,25b及びシール一体型MEA21は、図4に示すセパレータ25a,25b及びシール一体型MEA21と同じである。なお、図7では、シール一体型MEA21と、セパレータ25bのカソード側プレート24と、セパレータ25aのアノード側プレート22と、の一部についての拡大図を、円で囲って示している。
【0050】
前述のステップS515においてカソード側を閉じた系とした後、MEA部60内部の残留水分は、アノード側からカソード側へと移動する。これは以下の理由による。MEA部60に接するアノード側プレート22及びカソード側プレート24は、残留水分排出処理の実行前には、電気化学反応による反応熱により高温となっている。そして、残留水分排出処理が開始され、発電が停止すると反応熱の供給が止まり、アノード側プレート22及びカソード側プレート24の温度は低下していく。ここで、カソード側プレート24の熱容量はアノード側プレート22の熱容量に比べて小さいので、カソード側プレート24は、アノード側プレート22に比べてより早く温度が低下することとなる。それ故、カソード側は、アノード側に比べて飽和水蒸気量が少なくなり水蒸気分圧が低くなる。従って、水蒸気分圧のより高いカソード側から、水蒸気分圧のより低いアノード側に残留水分が移動することとなる。
【0051】
なお、温度が低下するに従って、温度差に起因する飽和水蒸気量の差(水蒸気分圧の差)は小さくなるので、残留水分の移動量も少なくなる。そこで、所定温度まで低下して、残留水分の移動量が少なくなったところで前述のステップS525の処理を実行して、カソード側から残留水分を一気に排出することができる。
【0052】
以上のように、燃料電池システム1000では、残留水分をカソード側に移動させて、カソード側を空気で掃気して排水するので、排水処理のために用いる水素ガスの量を抑えることができる。また、排水処理のために必要とする電力は、主として、カソード側の圧力を上昇させるために動作させるエアコンプレッサ260のための電力であり、アノード側については排水処理のための電力をほとんど要せず、従って、排水処理に要する電力量を抑えることができる。なお、上述した実施例では、ステップS525において残留水分を排出する際に、エアコンプレッサ260を動作させることはない。従って、ステップS515の後、カソード側が所定の温度まで低下するまでに長時間を要するようになった場合でも、エアコンプレッサ260を動作させずに静粛性を保ったまま排水処理が行える。また、燃料電池システム1000の運転が完全に止まった状態において、コンプレッサ等を動作させないので、燃料電池システム1000が備える2次バッテリー(図示省略)の電力を消費することがなく、バッテリー上がりを抑制することもできる。
【0053】
B.第2の実施例:
図8は、第2の実施例における残留水分排出処理における残留水分の移動状況を模式的に示す説明図である。上述した第1の実施例では、アノード側とカソード側とで熱容量が異なる部分は、セパレータ(アノード側プレート22及びカソード側プレート24)であった。しかしながら、本実施例では、MEA部60’において、アノード側ガス拡散層60a’と、カソード側ガス拡散層60b’と、で熱容量が異なるように構成されている。
【0054】
具体的には、アノード側プレート22’は、カソード側プレート24と同じ素材であるチタンで製造されており、厚さが同じである。一方、カソード側ガス拡散層60b’は、アノード側ガス拡散層60a’と同じ素材で製造されているが、アノード側ガス拡散層60a’の厚さに比べて薄くなるように構成されている。他の構成については、図1に示す燃料電池システム1000と同じである。また、残留水分排出処理の手順も図5に示す手順と同じである。
【0055】
このように、カソード側ガス拡散層60b’の厚さが、アノード側ガス拡散層60a’の厚さに比べて薄いと、カソード側ガス拡散層60b’の熱容量は、アノード側ガス拡散層60a’の熱容量に比べて小さくなる。従って、残留水分は、熱容量のより小さなカソード側ガス拡散層60b’に移動することとなる。それ故、第1の実施例と同様に、ステップS525の処理でカソード側圧力を低下させて、残留水分を燃料電池スタック10の外部に排出することが可能となる。
【0056】
C.変形例:
なお、上記各実施例における構成要素の中の、独立クレームでクレームされた要素以外の要素は、付加的な要素であり、適宜省略可能である。また、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0057】
C1.変形例1:
上述した各実施例では、残留水分をカソード側に移動させておいて排水するようにしていたが、カソードに代えて、アノード側に残留水分を移動させるようにしてもよい。この場合、アノード側を熱容量がより小さくなるように構成し、カソード側を熱容量がより大きくなるように構成する。そして、アノード側に圧力を高めるように燃料ガスを封入しておき、所定の温度まで低下したら電磁弁360を開放して排水するようにすればよい。このようにすることで、カソード側については掃気を行わずに済むので、エアコンプレッサ260の消費電力を抑えることができる。
【0058】
C2.変形例2:
上述した第1の実施例では、アノード側プレート22とカソード側プレート24とで、異なる素材を用いて厚さを異なるようにして、熱容量が異なるように構成されていたが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の種々の方法でアノードとカソードとが異なる熱容量を有するように構成することができる。例えば、厚さは同じであって異なる素材を用いることで熱容量を異なるように構成したり、同じ素材を用いるが、厚さが異なるようにすることで熱容量を異なるように構成してもよい。これらの構成であってもアノード側とカソード側とで熱容量を異なるようにすることができるので、熱容量がより小さい側に残留水分を移動させることができる。なお、第2の実施例についても、アノード側ガス拡散層60a’と、カソード側ガス拡散層60b’とで、厚さを同じとして熱容量が異なる素材を用いるようにして構成してもよい。
【0059】
C3.変形例3:
上述した各実施例では、カソード側に移動した残留水分を排出するのに、予めカソード側の圧力を高めて閉じた系として、カソード側温度が所定の温度まで低下したら、カソード側の圧力を低下させて排出していたが、本発明はこれに限定されるものではなく、これ以外の任意の排水処理を採用することができる。例えば、予めカソード側の圧力を上昇させたり、カソード側を閉じた系とすることなく、カソード側温度が所定の温度まで低下したら、エアコンプレッサ260で空気を送って残留水分を吹き飛ばして排出するようにしてもよい。また、空気を用いて掃気するのに代えて、カソード側を吸引することで、残留水分を排出するようにしてもよい。例えば、エアコンプレッサ260を通常の発電時とは逆に作動させることでバキュームポンプとして作動させて、カソード側の残留水分を吸引するようにしてもよい。
【0060】
C4.変形例4:
上述した各実施例では、カソード側温度を測定して、カソード側温度が所定の温度まで低下した場合に、残留水分を排出するようにしていたが、本発明はこれに限定されるものではなく、一般に所定の条件が成立したときに排水処理を開始することができる。例えば、ステップS515においてカソード側を閉じた系としてからの経過時間を測定し、所定時間だけ経過した場合に、残留水分を排出するようにしてもよい。このようにしても、残留水分がカソード側に十分に移動するだけ待って排水処理を行うことができる。
【0061】
C5.変形例5:
上述した第1の実施例では、セパレータ25は、3枚のプレートから成る3層セパレータであったが、本発明はこれに限定されるものではなく、任意の枚数のプレートから成るセパレータを用いた構成を採用することができる。このようにしても、アノード側のプレートと、カソード側のプレートと、で熱容量を異なるように構成することで、残留水分を熱容量のより小さな一方の極に移動させることが可能となる。
【0062】
C6.変形例6:
上述した各実施例では、燃料電池システムは、複数の燃料電池モジュール20が積層した燃料電池スタック10を備えるものとしたが、1つの燃料電池モジュール20のみで構成されるものであってもよい。このような構成であっても、かかる燃料電池モジュール内部の残留水分を十分に排出することができる。
【0063】
C7.変形例7:
上述した各実施例では、カソード側についてのみ、残留水分を排出するようにしていたが、本発明はこれに限定されるものではなく、カソード側と共にアノード側についても残留水分を排出し、かつ、カソード側がアノード側に比べてより多量の水分を排出する構成にも適用することができる。具体的には、図5のステップ525において、カソード側の残留ガス(残留水分)を排出するのと合わせて、燃料ガスをアノード側に供給して掃気するようにしてもよい。このようにすることで、カソード側については、上述した実施例と同様にアノード側から移動してきた多量の水分を排出することができ、また、アノード側についても、カソード側に移動せずにアノード側に残っている少量の残留水分を排出することができる。また、かかる構成の場合、掃気に用いる燃料ガスの量を、カソード側に残留水分を移動させずに掃気するような従来の構成に比べて少なくすることができる。従って、従来の構成に比べて燃費の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の第1の実施例としての燃料電池システムの概略構成を示す説明図。
【図2】図1に示す燃料電池モジュール20の詳細構成を示す分解斜視図。
【図3】シール一体型MEA21及びセパレータ25を積層した状態での図2におけるA−A断面を示す断面図。
【図4】シール一体型MEA21及びセパレータ25を積層した状態での図2におけるB−B断面を示す断面図。
【図5】燃料電池システム1000における残留水分排出処理の手順を示すフローチャート。
【図6】ステップS515の処理後のガスの流れを示す説明図。
【図7】残留水分排出処理における残留水分の移動状況を模式的に示す説明図。
【図8】第2の実施例における残留水分排出処理における残留水分の移動状況を模式的に示す説明図。
【符号の説明】
【0065】
10…燃料電池スタック
20…燃料電池モジュール
22…アノード側プレート
22…アノード側プレート
23…中間プレート
24…カソード側プレート
25,25a,25b…セパレータ
30…水素タンク
40…ラジエータ
50…制御ユニット
51…CPU
60a…アノード側ガス拡散層
60b…カソード側ガス拡散層
60c…電解質膜
61…シール部
70…温度センサ
75…圧力センサ
80…気液分離器
205…エアフィルタ
250a,250b,305,350a,350b,370,450a,450b…配管
260…エアコンプレッサ
270,280,310,360…電磁弁
340,410…循環ポンプ
1000…燃料電池システム
21…シール一体型MEA

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池システムであって、
電解質膜と、
前記電解質膜に接するアノードと、
前記電解質膜を挟んで前記アノードに対峙するカソードと、
前記アノードと前記カソードとのうち、少なくともいずれか一方の極側について排水処理を実行する排水部と、
を備え、
前記アノードと前記カソードとは、互いに熱容量が異なり、
前記排水部は、前記アノードと前記カソードとのうち、熱容量がより小さな小容量極側について、熱容量がより大きな大容量極側に比べて、より多量の水分を排出するように前記排水処理を実行することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池システムにおいて、
前記排水部は、前記小容量極側からのみ水分を排出するように、前記排水処理を実行する、
燃料電池システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の燃料電池システムにおいて、
前記排水部は、前記排水処理を行う対象極側に所定のガスを供給することで、前記排水処理を実行する、
燃料電池システム。
【請求項4】
請求項3に記載の燃料電池システムにおいて、
前記排水部は、前記所定のガスを供給して前記対象極側の圧力を高めておき、その後、前記対象極側の圧力を低下させることで前記排水処理を実行する、
燃料電池システム。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の燃料電池システムにおいて、
前記排水部は、前記排水処理を行う対象極側を吸引することで、前記排水処理を実行する、
燃料電池システム。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の燃料電池システムにおいて、
前記小容量極は、前記カソードである、
燃料電池システム。
【請求項7】
電解質膜と、前記電解質膜に接するアノードと、前記電解質膜を挟んで前記アノードに対峙するカソードと、を備えた燃料電池システムにおいて、前記燃料電池システム内部の残留水分を排出するための残留水分排出方法であって、
前記アノードと前記カソードとのうち、熱容量がより小さな小容量極側について、熱容量がより大きな大容量極側に比べて、より多量の水分を排出するように排水処理を実行する工程を備える残留水分排出方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2007−335103(P2007−335103A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−162243(P2006−162243)
【出願日】平成18年6月12日(2006.6.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】