説明

燃料電池システム

【課題】 燃料電池スタック内の温度分布を小さくした、効率てきで安定した運転が可能な燃料電池システムを提供する。
【解決手段】 上面に空気流入口が形成され下面に空気排出口が形成された直方体状の燃料電池スタックの空気排出口に、排出される空気流の温度が設定温度以上に上昇した部分の空気流量を他の部分に比べて大きくするように変形する整流板が配置されたことを特徴とする燃料電池システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに関するものであって、特に燃料電池スタックの温度分布を均一化することができる燃料電池システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料極と酸素極を電解質膜等を介して配置した単位燃料電池を複極板を介在させて電気的に直列に積層したものを複数個を直列、あるいは直並列に接続して、燃料電池スタックを形成している。
燃料電池スタックの燃料極には燃料供給手段によって水素等の燃料が供給されている。また、燃料電池スタックの酸素極に対して空気を供給する空気供給ファンからの空気を供給する空気供給ダクトとともに、燃料電池反応で生じた水を含んだ空気を排出する空気排気ダクトが結合されている。
【0003】
燃料電池スタックに対して加圧した空気を供給する加圧作動型では、燃料電池の出力を高めたることが可能であると言う特徴を有しているものの、空気の加圧手段が必要となる。
しかしながら、改質器等の排出ガスで作動するターボチャージャ等が利用可能な場合でも、燃料電池で発生した電力を自己消費することとなるので、これらのエネルギーを使用できない小型の燃料電池においては加圧式は取り出すことができるエネルギー効率が小さいので有効なものとは言えない。
そこで、本出願人は、常圧作動型であって、空気供給ファンにより導入された空気が空気導入ダクトを介して燃料電池スタックへ均一に供給されるようにした燃料電池システムを提案している。
【0004】
図5は、燃料電池システムの一例を説明する図であり、側面図である。
燃料電池システム1に設けた燃料電池スタック100には空気供給ダクト54が接続されており、空気ファン122によって燃料電池スタック100に送られる。燃料電池スタック100の上面から酸素極に送られた空気は、燃料電池スタック100の下部から排出される。
供給された空気は電池反応に必要な酸素の供給とともに、電池反応によって発生する熱を除去し、燃料電池スタックを所定の温度に保持する作用を果たしている。
ところが、燃料電池スタック100は、外周部101は周囲への放熱量が大きいものの、中心部102は供給される空気、あるいは空気とともに供給される冷却水によって冷却されるのみであるので、燃料電池の運転条件によっては中心部102の温度が他の部分に比べて上昇し、燃料電池スタックに温度分布が生じることあった。
【0005】
そこで、このような問題点を解決するために、端部側単位燃料電池に形成された冷却ガス流路を供給側で閉鎖する冷却ガス閉鎖手段を備えた燃料電池の冷却ガス供給装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、冷却ガス流路を供給側で閉鎖するものであって、排出される気体の温度によって制御するものでなく、燃料電池スタック内の温度分布を充分に反映したものということはできず、また冷却ガス流路と電池反応に必要なカソードガス供給路を設けるものであって、複雑な構造を有するものであった。
【特許文献1】特開2005−197133号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、外気温等の外部環境や、運転状況が変化しても、燃料電池スタック内において生じる温度分布を小さくした燃料電池システムを提供することを課題とするものである。
また、燃料電池スタック内での温度分布による、燃料電池の発電効率の低下、安定性の低下、あるいは燃料電池が損傷を受けることを防止することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上面に空気流入口が形成され下面に空気排出口が形成された直方体状の燃料電池スタックの空気排出口に、排出される空気流の温度が設定温度以上に上昇した部分の空気流量を他の部分に比べて大きくするように変形する整流板が配置された燃料電池システムである。
また、整流板は、排出される空気流の温度が設定温度以上に上昇した時に、単位燃料電池の空気排出流路に平行で燃料電池スタックの空気排出口面の中心と直交する垂直面を境にして、互いに反対方向に変形する燃料電池システムである。
燃料電池スタックの空気排出口は複数の流路に区画され、各流路に空気流の温度が設定温度以上に上昇した時に、該流路の空気流量を大きくする整流板が配置された前記の燃料電池システムである。
整流板が設定温度において変形する形状記憶合金からなる前記の燃料電池システムである。
空気流入口に結合された空気供給ダクトを通して常圧空気を供給する空気供給手段を備えた前記の燃料電池システムである。
【発明の効果】
【0008】
請求項1記載の発明によれば、燃料電池スタックの空気排出口に、排出される空気流の温度が設定温度以上に上昇した部分の空気流量を他の部分に比べて大きくするように変形する整流板が配置されたので、燃料電池スタックの温度分布を均一化することができるので、効率的で安定した燃料電池システムを提供することができる。
また請求項2記載の発明によれば、周囲への放熱量が小さく温度上昇が大きくなり易い中央部の温度上昇を小さくした燃料電池システムを提供することができる。
【0009】
また、請求項3記載の発明によれば、空気流の排出口が複数個に区画されており、それぞれの区画の流量を個別に制御することが可能となるので、様々な構造の燃料電池において燃料電池スタックの温度分布を均一化することができる。
また、請求項4記載の発明によれば、制御手段、駆動手段を設けたり、燃料電池の出力電流を消費することなく、排出空気流の流量分布の調整が可能となるので、エネルギー効率に優れた燃料電池システムが得られる。
【0010】
また、請求項5記載の発明によれば、供給空気の加圧に大きなエネルギー消費が不要な常圧作動型の燃料電池において、より効率的で安定した運転が可能な燃料電池システムを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、燃料電池スタックの空気排出口に、排出空気流の温度が設定値以上に上昇した場合には、変形して空気流量を増加させる整流板を配置することにより、整流板を駆動する制御機構が不要で、発生電力の消費することがなく、温度が上昇した部分からの放熱量を大きくして温度分布を均一化して、発電効率を高めるとともに、安定した運転が可能な、電池反応の分布を小さくした燃料電池システムの提供が可能であることを見いだしたものである。
【0012】
まず、本発明の燃料電池システムを図1を参照して説明する。
燃料供給系10の構成について説明する。
圧縮水素ボンベ、水素吸蔵合金等の水素貯蔵手段11は、燃料ガス供給流路201A、201Bを介して燃料電池スタック100の燃料取入口101に接続されている。燃料ガス供給流路201Aには、水素元バルブ18、一次圧センサS0、レギュレータ19、二次圧センサS1、第1ガス供給弁20及び水素調圧弁21、第2ガス供給弁22、三次圧センサS2が順に設けられ、この燃料ガス供給流路201Aは、燃料ガス供給流路201Bの一端に接続している。燃料ガス供給流路201Bの他端は、燃料電池スタック100の燃料取入口101に接続されている。
【0013】
燃料電池スタック100の燃料排出口102には、燃料排出流路202の一端が接続され、その他端は、燃料ガス供給流路201Bに接続され、燃料ガスの循環路が構成される。ガス排出流路202には、燃料電池スタック100のガス排出口側から順に、トラップ24、循環ポンプ25、循環電磁弁26が配置されている。
トラップ24には、水レベルセンサS10が取り付けられ、さらに、ガス導出路203の一端が接続されている。ガス導出路203の他端は、空気ダクト124に接続されている。ガス導出路203には、排気電磁弁27が設けられている。
【0014】
次に空気供給系12について説明する。空気供給系12は、空気導入路123と、空気供給ダクト54と、空気排出路である空気排出ダクト124とを備えている。空気導入路123には、フィルタ121、空気ファン122、空気供給ダクト54の順で空気の流れる方向に沿って設けられている。
【0015】
空気導入路123内には、拡散手段である板状のメッシュ、ハニカム等で構成された拡散部材123mが設けられ、更に、その下流側には、空気供給ダクト54内の直前の位置に、加湿冷却水を空気導入路123内へ向けて噴射するノズル55が設けられている。このノズル55は、空気導入ダクト54内に設けられていてもよい。
空気導入路123の空気導入側端部の取入口には、送風手段としての空気ファン122が接続されている。空気ファン122の吸引口には、フィルタ121が設けられ、吸引時に、粉塵等のゴミが除去される。空気ファン122は、回転翼を回転させることにより、送風する遠心ブロアであり、回転翼を回転させるためのモータMが、回転翼の回転軸に接続されている。
【0016】
拡散部材123mは、空気導入路123の横断面全面を覆い、空気マニホールド54へ送られる空気は、拡散部材123mを通過する際に拡散されて、空気導入路内を均一に流れるように構成されている。
【0017】
次に、燃料電池の空気の排気側について説明する。燃料電池スタック100の空気の出口側には、燃料電池スタック100の空気排出口には、直方体状の燃料電池スタックの空気排出口に、空気排出ダクト124が設けられている。
【0018】
また、排出口には、排出される空気流の温度が設定温度以上に上昇した部分の空気流量を他の部分に比べて大きくするように変形する整流板が配置されており、燃料電池スタックの発熱量が大きな部分の空気流量を大きくして放熱量を大きくし、その結果燃料電池スタックにおける温度分布を小さくし、燃料電池の効率的な運転を可能としている。
【0019】
また、空気排出ダクト124から流出した空気を、凝縮器51を介して外部へ排出する。空気ダクト124の終端部には、ファンが取り付けられた凝縮器51が設けられ、続いてフィルタ125が接続されている。凝縮器51は、空気から水分を取り出す。また、ノズル55から供給された水のうち燃料電池スタック100内で蒸発した水分も、ここで回収される。
【0020】
次に、水供給系について説明する。水供給系50は、貯水手段としての水タンク531と、凝縮器51で回収した水を水タンク531へ導く導水管57と、水タンク531の水を上述したノズル55へ導く給水管56とを有する。導水管57には、回収ポンプ62が設けられている。回収ポンプ62は、凝縮器51で排気から取り出された水を、水タンク531へ送り込む。また、給水管56には、フィルタ64、水供給手段である供給ポンプ61が順に設けられている。水タンク531には、貯水量検出手段であるタンク水位センサS7が設けられている。
【0021】
燃料電池スタック100には、負荷系7が接続されており、燃料電池スタック100で出力される電力は、この負荷系7に供給される。燃料電池スタック100の電極端は配線71を介してインバータ73に接続され、インバータ73からモータなどの負荷に電力が供給される。インバータ73には、IGBT等の半導体スイッチング素子等のスイッチング手段75を介して補助電源76が接続されている。補助電源76は、例えば、二次電池、電池二重層キャパシタなどで構成することができる。
【0022】
燃料電池システム1の制御系は、各センサS0〜S2、S7、S10の検出値が入力され、レギュレータ19、各電磁弁18〜19、20、22、26、27、各ポンプ25、61、62、空気ファン122、凝縮器51のファン、インバータ73、スイッチング手段75を制御する制御装置(ECU)を備えている。この制御装置には、図示しないイグニッションスイッチが接続され、車両を駆動させる駆動モータの駆動や停止の指示信号が入力される。
【0023】
図2は、本発明の燃料電池システムの実施態様を説明する図である。
図2(A)は、本発明の燃料電池システムの一実施態様を説明する斜視図であり、整流板が温度上昇によって作動する前のものであり、図2(B)は、作動後の側面図である。
図2(A)に示す燃料電池システム1では、複数の単位燃料電池が積層された燃料電池スタック100の上部に空気供給ダクト54が結合されている。
また、空気供給ダクト54には、空気を吸引して送風する空気ファン122が接続されている。空気は全圧約30kPaの能力を持つ送風機、例えば空気ファンによって供給される圧力(以下、常圧と称する)で送風される。また、空気供給ダクト54内に結合した空気導入路123には空気を拡散する拡散部材123mが設けられている。
【0024】
燃料電池スタック100の下部の空気排出口104には、複数個の整流板130が配置されている。整流板130は、形状記憶合金から作製されており、空気排出口104の面に対して垂直に配置されている。
図2(B)に示すように、整流板130は、温度上昇時に単位燃料電池の空気排出流路に平行で燃料電池スタックの空気排出口面の中心と直交する垂直面を境にして、互いに反対方向に変形するように配置されており、この例では、所定の温度以上に加熱されると、それぞれの上部が外側に向けて変形するように配置されている。
燃料電池スタックは周縁部101からは周囲へ熱の放熱が行われるのに対して、中央部102は熱の放熱は周囲に比べて少ないので、温度が高い部分が生じやすくなる。
【0025】
そのため、中央部流路131の近傍に配置した整流板は、他の部分に比べて大きく変形するとともに、中央部から外側に向かって変形するように配置されているので、中央部流路131の断面積が大きくなって周辺部流路132に比べてより多くの空気が通過し、中央部からの放熱を大きくする。その結果、燃料電池スタック100の中央部の温度上昇を所定の範囲に抑制し、更には温度分布を均一化することが可能となる。
【0026】
図3は、本発明の他の燃料電池システムの実施態様を説明する図であり、側面図である。
この実施態様の燃料電池システムの整流板130は、温度上昇時に単位燃料電池の空気排出流路に平行で燃料電池スタックの空気排出口面の中心と直交する垂直面を境にして、互いに反対方向に変形するように配置されており、所定の温度以上に加熱されると、それぞれの整流板の高さ方向の中央部がそれぞれ外周部に向かって凸面を形成するように変形するものであることを特徴としている。
【0027】
そして、温度上昇による変形の結果、中央部流路131が形成されるのに対して、周辺部流路132は流路の断面積が小さいので、温度上昇が大きな中央部流路131は周辺部流路132に比べてより多くの空気が通過し、中央部からの放熱を大きくする。その結果、燃料電池スタック100の中央部の温度上昇を所定の範囲に抑制して温度分布を均一化することが可能となる。
【0028】
以上の実施態様は、中央部の温度上昇が大きくなる傾向にある積層型の燃料電池スタックに特に有効なものである。
【0029】
図4は、本発明の他の実施態様を説明する図であり、燃料電池システムの側面図である。
この実施態様の燃料電池システムにおいては、空気排出口104は区画部材140によって複数の流路に区画されており、各区画には、形状記憶合金からなる整流板130が配置されており、それぞれの整流板130は、作動しない場合には、各整流板は各区画の空気排出口の流路を制限するように配置されている。
【0030】
燃料電池スタック100内部に高温部102が生じると、高温部に対応した位置の整流板130Aには、温度の高い空気が排出されるので、整流板130Aは変形を生じて温度上昇部141の流路を開き、他の部分に比べて大量の空気を排出するようになる。
その結果、高温部102の温度が低下して燃料電池スタック内部の温度分布が小さくすることが可能となる。
【0031】
本発明の整流板に使用可能な形状記憶合金としては、変態温度が20℃ないし100℃程度のTi−Ni合金を用いることができる。Ti−Ni合金は燃料電池システムの使用環境において耐食性が大きく安定した性能を発揮することができる。
また、本発明の燃料電池システムにおいては、電池反応によって生成した水、あるいは空気流とともに供給された水が、整流板の下部に水が滞留することなく速やかに落下して分離されることが好ましく、下部は傾斜面を形成していることが好ましい。
なお、本実施の形態では、整流板を形状記憶合金で形成したが、温度変化で変位する他の素子としてバイメタルを用いても良い。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の燃料電池システムは、燃料電池スタックの空気排出口に、排出空気流の温度に応じて変形して、排出空気流の温度が高い部分の空気流量を他の部分に比べて大きくする様な整流板を配置したので、格別の動力、制御装置を用いることなく、排出空気流によって燃料電池スタックの周辺部と中央部のように場所による温度分布を小さくすることができる。その結果、温度分布の不均一によって生じる特性の劣化を防止することができる。また、常圧作動型の燃料電池システムに極めて有用である
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の燃料電池システムを説明する図である。
【図2】図2は、本発明の燃料電池システムの実施態様を説明する図である。
【図3】図3は、本発明の他の実施態様を説明する図である。
【図4】図4は、本発明の他の実施態様を説明する図である。
【図5】図5は、燃料電池システムの一例を説明する図であり、側面図である。
【符号の説明】
【0034】
1…燃料電池システム、
100…燃料電池スタック、101…燃料電池スタックの周縁部
102…中央部、104…空気排出口
123…空気導入路、123m…拡散部材、124…空気排気ダクト
54…空気供給ダクト
130…整流板、131…中央部流路、132…周辺部流路、140…区画部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面に空気流入口が形成され下面に空気排出口が形成された直方体状の燃料電池スタックの空気排出口に、排出される空気流の温度が設定温度以上に上昇した部分の空気流量を他の部分に比べて大きくするように変形する整流板が配置されたことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
整流板は、排出される空気流の温度が設定温度以上に上昇した時に、単位燃料電池の空気排出流路に平行で燃料電池スタックの空気排出口面の中心と直交する垂直面を境にして、互いに反対方向に変形することを特徴とする請求項1記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記燃料電池スタックの空気排出口は複数の流路に区画され、各流路に空気流の温度が設定温度以上に上昇した時に、該流路の空気流量を大きくする整流板が配置されたことを特徴とする請求項1記載の燃料電池度システム。
【請求項4】
整流板が設定温度において変形する形状記憶合金からなることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項記載の燃料電池システム。
【請求項5】
空気流入口に結合された空気供給ダクトを通して常圧空気を供給する空気供給手段を備えたことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項記載の燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−277088(P2008−277088A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−118392(P2007−118392)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】