説明

燃料電池システム

【課題】燃料電池の端部セルの状態に応じて最適な量の燃料ガスを燃料電池に供給する燃料電池システムを提供する。
【解決手段】アノードおよびカソードを有する単セル5が複数積層されてなるセル積層体6と、セル積層体6のアノード側に燃料ガスを供給する燃料ガス供給手段31と、セル積層体6のアノード側の燃料ガス濃度を所定のパラメータに基づいて算出する制御手段4と、を備えた燃料電池システム1であって、制御手段4は、算出した燃料ガス濃度をセル積層体6の端部セル5a、5bの状態に基づいて補正し、燃料ガス供給手段31は、補正された燃料ガス濃度に基づいて燃料ガスを供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに関し、特に、燃料電池システムの燃料ガス濃度の算出に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、固体高分子電解質膜(以下、電解質膜)の両側にアノードとカソードとを備え、アノード側に例えば水素ガス等の燃料ガスを供給する一方で、カソード側に例えば空気等の酸化ガスを供給し、燃料ガス及び酸化ガス(以下、反応ガスともいう)の酸化還元反応による化学エネルギーを電気エネルギーとして直接取り出すことのできる燃料電池を備えた燃料電池システムの開発が進められている。
【0003】
このような燃料電池システムにおいては、特に燃料電池を長期間停止した後などでは、カソードからアノードへ窒素等の不純物が電解質膜を通って移動してアノード側の不純物濃度が高くなり燃料ガス濃度が相対的に低くなっている。そのため、システムの起動時等においては、アノードへ新たな燃料ガスを供給するとともに窒素ガス等の不純物を含む燃料オフガスを外部に排出(パージ)することで、アノード側の燃料ガス濃度を高めるようになっている。
【0004】
このとき、適切な燃料ガスの供給量及びパージ量を決定するためには、燃料電池のアノード側の燃料ガス濃度や不純物濃度を算出する必要がある。例えば、特許文献1には、システム停止からの経過時間や温度変化を不純物濃度に関連するパラメータとして用いて、システム起動時の不純物濃度を推定する方法が提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開2004−172026号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような従来の濃度の算出方法においては、系の平均的な不純物濃度や燃料ガス濃度が推定されるのみであった。そして、このような平均的な濃度情報に基づいて燃料ガスの供給を行った場合、燃料ガスの供給量がセル積層体のある単セルについては十分であっても他の単セルにとっては不十分であるといったことが起りうる。より具体的には、例えばシステム起動時においては、セル積層体の両端部に位置する単セル(端部セル)に水が残留していることが多く、端部セルは他の単セルに比べて相対的に燃料ガス濃度が少なくなっている。そのため、系の平均的な燃料ガス濃度に応じてセル積層体に燃料ガスを供給した場合、端部セルにおいて燃料ガスの供給量が不足し、安定運転ができなくなってしまう。他方、常に多量の燃料ガスを供給するとすれば、燃料電池システム全体の燃費が低下してしまう。
【0007】
そこで、本発明は、上記従来技術の課題に鑑みてなされたものであり、燃料電池の端部セルの状態に応じて最適な量の燃料ガスを燃料電池に供給する燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明においては、上記課題を解決するために、以下の手段を採用した。すなわち、本発明は、アノードおよびカソードを有する単セルが複数積層されてなるセル積層体と、前記セル積層体のアノード側に燃料ガスを供給する燃料ガス供給手段と、前記セル積層体のアノード側の燃料ガス濃度を所定のパラメータに基づいて算出する制御手段と、を備えた燃料電池システムであって、前記制御手段は、前記算出した燃料ガス濃度を前記セル積層体の端部セルの状態に基づいて補正し、前記燃料ガス供給手段は、前記補正された燃料ガス濃度に基づいて燃料ガスを供給するようになっている。
【0009】
この構成によれば、算出した燃料ガス濃度が端部セルの状態に応じて補正され、当該補正された燃料ガス濃度に基づいてセル積層体に燃料ガスが供給されるので、特に端部セルは他の単セルに比べ温度が低下して水が溜まりやすくその分燃料ガス濃度が低下しやすいが、そのような端部セルに対しても燃料ガスを不足なく供給することができる。そして、系全体の燃料ガス濃度を算出した上で、最も条件の厳しい端部セルの状態を加味して補正しているので、他の単セルにおいて燃料ガスの供給量が不足することはないし、端部セルにおいても必要な量を超えてまで燃料ガスが供給されることはない。したがって、燃費の低下も抑制できる。
【0010】
尚、本明細書において「端部セル」とは、典型的にはセル積層体の積層方向両端部の単セルを示すが、セル積層体の枚数や大きさ等のセル積層体の構造によっては該単セル近傍の複数個の単セルをも含む。
【0011】
また、上記構成において、前記制御手段は、システム起動時において前記補正を行うようにしてもよい。
【0012】
システム起動時には、アノードの燃料ガス濃度が低下しており燃料ガスを供給する必要性がそもそも高いうえ、システム起動時においては、端部セルの状態が他の単セルの状態と乖離していることが多いので(例えば、残留水の量等)、システム起動時に端部セルの状態に基づいて燃料ガス濃度を補正して燃料ガスを供給するメリットはとりわけ大きい。
【0013】
また、上記構成において、前記所定のパラメータは、前回の運転停止時のセル積層体の温度、システム起動時のセル積層体の温度及び前回の運転停止時からシステム起動時までの経過時間を含むようにしてもよい。
【0014】
この構成によれば、システム起動時における系全体の燃料ガス濃度を算出することができる。
【0015】
また、上記構成において、前記セル積層体から排出された燃料オフガスを前記セル積層体のアノード側に循環させる循環経路と、前記循環経路に設けられ、前記燃料オフガスの一部を外部に排出する排出手段と、をさらに備え、前記排出手段は、前記補正された燃料ガス濃度に応じて燃料オフガスを排出するようにしてもよい。
【0016】
この構成によれば、燃料オフガスを循環させることで効率が上がるとともに、補正された燃料ガス濃度に基づいて燃料オフガスの一部を外部に排出するので、燃料ガスを余分に排出して燃料ガスを浪費してしまうことを防止できる。
【0017】
また、上記構成において、前記端部セルの状態は、前記セル積層体の他の単セルに対する該端部セルの温度差であるようにしてもよい。
【0018】
この構成によれば、上記温度差から、端部セルと他の単セルの燃料ガスの濃度差を求めることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、燃料電池の端部セルの状態に応じて最適な量の燃料ガスを燃料電池に供給する燃料電池システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る燃料電池システムについて、以下の順番で説明する。尚、各図面において、同一の部品には同一の符号を付している。
1.本発明の実施の形態に係る燃料電池システムの全体構成
2.同燃料電池システムの起動時における水素ガス濃度の算出
3.同燃料電池システムの変形例
【0021】
1.本発明の実施の形態に係る燃料電池システムの全体構成
まず、図1及び図2を用いて、本発明の実施形態に係る燃料電池システム1の全体構成について説明する。ここで、図1は、本発明の実施の形態に係る燃料電池システムの構成図、図2は、同燃料電池システムの燃料電池を模式的に示す斜視図である。なお、本実施形態においては、本発明を燃料電池車両(移動体)の車載発電システムに適用した例について説明する。
【0022】
図1に示すように、本実施形態に係る燃料電池システム1は、反応ガス(酸化ガス及び燃料ガス)の供給を受けて電力を発生する燃料電池10を備えるとともに、燃料電池10に酸化ガスとしての空気を供給する酸化ガス配管系2、燃料電池10に燃料ガスとしての水素を供給する水素ガス配管系3、システム全体を統合制御する制御装置4等を備えている。
【0023】
燃料電池10は、図2に示すように、基本単位である単セル5を積層してなるセル積層体6を有する。セル積層体6は、同一種、つまり互いに同一構造の単セル5を多数積層してなる(以下、単セル5が積層された方向を「積層方向」という)。セル積層体5の積層方向両端に位置する単セル5a、5b(以下、「端部セル5a、5b」という。)の外側には、それぞれ順次、集電板7、絶縁板8、及びエンドプレート9が配置される。単セル5はいずれも図示省略したが、イオン交換膜からなる電解質膜と、電解質膜を両面から挟んだ一対のアノードおよびカソードとで構成され、また内部を冷却用の冷媒(例えばエチレングリコール等の不凍液)が環流するようになっている。
【0024】
図1に戻って説明を続ける。カソードには、酸化ガス配管系2により所定の圧力の酸化ガス(空気)が供給され、アノードには水素ガス配管系3により所定の圧力の水素ガスが供給される。この両ガスの電気化学反応により各単セルの起電力が得られる。
【0025】
燃料電池10により発生した電力は、PCU(Power Control Unit)11に供給される。PCU11は、燃料電池10とトラクションモータ12との間に配置されるインバータやDC‐DCコンバータ等を備えている。また、燃料電池10には、発電中の電流を検出する電流センサ13が取り付けられている。
【0026】
酸化ガス配管系2は、加湿器20により加湿された酸化ガス(空気)を燃料電池10に供給する酸化ガス供給手段としての酸化ガス供給流路21と、燃料電池10から排出された酸化オフガスを加湿器20に導く酸化ガス排出流路22と、加湿器20から希釈器40を介して外部に酸化オフガスを導くための排気流路23と、を備えている。酸化ガス供給流路21には、大気中の空気を取り込んで加湿器20に圧送するコンプレッサ24が設けられている。酸化ガス排出流路22には、燃料電池10内の酸化ガスの圧力を検出するためのカソード側圧力センサ25と、一次圧の変化に応じて酸化オフガスの流量を調整することにより、燃料電池10内の酸化ガスの圧力を調整する背圧弁26が配置されている。背圧弁26は、例えばバタフライ弁で構成される。
【0027】
水素ガス配管系3は、高圧の水素ガスを貯留した燃料供給源としての水素タンク30と、水素タンク30の水素ガスを燃料電池10に供給するための燃料ガス供給手段としての水素供給流路31と、燃料電池10から排出された水素オフガスを水素供給流路31に戻すための循環流路32と、を備えている。なお、水素タンク30に代えて、炭化水素系の燃料から水素リッチな改質ガスを生成する改質器と、この改質器で生成した改質ガスを高圧状態にして蓄圧する高圧ガスタンクと、を燃料供給源として採用することもできる。また、水素吸蔵合金を有するタンクを燃料供給源として採用してもよい。
【0028】
水素供給流路31には、水素タンク30からの水素ガスの供給を遮断又は許容する遮断弁33と、水素ガスの圧力を調整するレギュレータ34と、インジェクタ35と、が設けられている。また、インジェクタ35の上流側には、水素供給流路31内の水素ガスの圧力及び温度を検出するインジェクタ上流側圧力センサ41及び温度センサ42が設けられている。また、インジェクタ35の下流側であって水素供給流路31と循環流路32との合流部A1の上流側には、燃料電池10内の水素ガスの圧力を検出するためのアノード側圧力センサ43が設けられている。
【0029】
レギュレータ34は、その上流側圧力(一次圧)を、予め設定した二次圧に調圧する装置である。本実施形態においては、一次圧を減圧する機械式の減圧弁をレギュレータ34として採用している。機械式の減圧弁の構成としては、背圧室と調圧室とがダイアフラムを隔てて形成された筺体を有し、背圧室内の背圧により調圧室内で一次圧を所定の圧力に減圧して二次圧とする公知の構成を採用することができる。本実施形態においては、図1に示すように、インジェクタ35の上流側にレギュレータ34を2個配置することにより、インジェクタ35の上流側圧力を低減させている。
【0030】
インジェクタ35は、弁体を電磁駆動力で直接的に所定の駆動周期で駆動して弁座から離隔させることによりガス流量やガス圧を調整することが可能な電磁駆動式の開閉弁である。インジェクタ35は、水素ガス等の気体燃料を噴射する噴射孔を有する弁座を備えるとともに、その気体燃料を噴射孔まで供給案内するノズルボディと、このノズルボディに対して軸線方向(気体流れ方向)に移動可能に収容保持され噴射孔を開閉する弁体と、を備えている。本実施形態においては、インジェクタ35の弁体は電磁駆動装置であるソレノイドにより駆動され、このソレノイドに給電されるパルス状励磁電流のオン・オフにより、噴射孔の開口面積を2段階又は多段階に切り替えることができるようになっている。制御装置4から出力される制御信号によってインジェクタ35のガス噴射時間及びガス噴射時期が制御されることにより、水素ガスの流量及び圧力が高精度に制御される。インジェクタ35は、弁体及び弁座を電磁駆動力で直接開閉駆動するものであり、その駆動周期が高応答の領域まで制御可能であるため、高い応答性を有する。
【0031】
インジェクタ35は、その下流に要求されるガス流量を供給するために、インジェクタ35のガス流路に設けられた弁体の開口面積(開度)及び開放時間の少なくとも一方を変更することにより、下流側(燃料電池10側)に供給されるガス流量(又は水素モル濃度)を調整する。なお、インジェクタ35の弁体の開閉によりガス流量が調整されるとともに、ガス要求に応じて所定の圧力範囲の中で要求圧力に一致するようにインジェクタ35の上流ガス圧の調圧量(減圧量)を変化させることが可能になっている。
【0032】
なお、本実施形態においては、図1に示すように、水素供給流路31と循環流路32との合流部A1より上流側にインジェクタ35を配置している。また、図1に破線で示すように、燃料供給源として複数の水素タンク30を採用する場合には、各水素タンク30から供給される水素ガスが合流する部分(水素ガス合流部A2)よりも下流側にインジェクタ35を配置するようにする。
【0033】
循環流路32には、気液分離器36及びパージバルブ37を介して、排出流路38が接続されている。気液分離器36は、水素オフガスから水分を回収するものである。パージバルブ37は、制御装置4からの指令によって作動することにより、気液分離器36で回収した水分と、循環流路32内の不純物を含む水素オフガス(燃料オフガス)と、を外部に排出(パージ)するものである。また、循環流路32には、循環流路32内の水素オフガスを加圧して水素供給流路31側へ送り出す水素ポンプ39が設けられている。
【0034】
希釈器40は、パージバルブ37及び排出流路38を介して排出される水素オフガスを、排気流路23を介して排出される酸化オフガスによって希釈し、外部に排出するようになっている。
【0035】
制御装置4は、車両に設けられた加速操作部材(アクセル等)の操作量を検出し、加速要求値(例えばトラクションモータ12等の負荷装置からの要求発電量)等の制御情報を受けて、システム内の各種機器の動作を制御する。なお、負荷装置とは、トラクションモータ12のほかに、燃料電池10を作動させるために必要な補機装置(例えばコンプレッサ24、水素ポンプ39、冷却ポンプのモータ等)、車両の走行に関与する各種装置(変速機、車輪制御装置、操舵装置、懸架装置等)で使用されるアクチュエータ、乗員空間の空調装置(エアコン)、照明、オーディオ等を含む電力消費装置を総称したものである。
【0036】
制御装置4は、図示していないコンピュータシステムによって構成されている。かかるコンピュータシステムは、CPU、ROM、RAM、HDD、入出力インタフェース及びディスプレイ等を備えるものであり、ROMに記録された各種制御プログラムをCPUが読み込んで実行することにより、各種制御動作が実現されるようになっている。
【0037】
具体的には、制御装置4は、燃料電池10の運転状態(電流センサ13で検出した燃料電池10の発電時の電流値等)に基づいて、燃料電池10で必要とされる酸化ガス及び水素ガスの供給量を算出する。そして、制御装置4は、背圧弁26およびインジェクタ35を制御することで所望の流量、圧力の酸化ガス、水素ガスを燃料電池10に供給する。
【0038】
2.燃料電池システムの起動時における水素ガス濃度の算出
システム起動時は、システム停止中に単セル5のカソードから電解質膜を通ってアノードに移動してきた窒素等の不純物及び残留水等により、燃料電池10のアノード側の水素ガス濃度が低下している。そこで、制御装置4はこの水素ガス濃度を算出し、燃料電池10のアノード側の水素ガス濃度が所定の目標濃度(燃料電池10に固有の値で、一般には最大負荷がかかっても不足なく発電が可能な濃度)になるように、算出した水素ガス濃度に基づいて必要な水素ガスを燃料電池10に供給する。このとき、不純物を含む水素オフガスは、算出した水素ガス濃度に基づいて必要な量だけパージバルブ37から排出流路38を介して希釈器40に排出され、酸化オフガスによって希釈されたのち、燃料電池システム1の外部(本実施の形態においては、車両の外すなわち大気中)に排出される。これにより、燃料電池10のアノード側の不純物濃度が減少し、水素ガス濃度が上昇する。制御装置4は、燃料電池10内の水素ガス濃度が所定の目標濃度に達したらシステム起動処理を終了し、以降通常運転に移行する。
【0039】
制御装置4は、システム起動時に算出した水素ガス濃度に基づいて、その水素ガス濃度が所定の目標濃度に達するのに必要な流量の水素ガスを燃料電池10に供給し、あわせて水素オフガスをパージする。すなわち、システム起動処理における水素ガスの供給量及び水素オフガスのパージ量は、システムの起動時に算出した水素ガス濃度に基づいて決定される。ここで制御装置4は、上記システムの起動時における水素ガス濃度を算出する際に、燃料電池10の端部セル5a、5b(図2参照)の状態を加味して補正を加える。これは、システム起動時には、端部セル5a、5bに水が残留していることが多く他の単セルに比べて相対的に燃料ガス濃度が少ないためである。すなわち、こうした端部セルの状態5a、5bを加味せずに水素ガス濃度を算出し水素ガスを供給すると、端部セル5a、5bにおいて水素ガスの供給不足が生じるからである。ここで、システム起動時において端部セル5a、5bの水分量が他の単セルに比べての多いのは、端部セル5a、5bは、集電板7、絶縁板8及びエンドプレート9等からの放熱の影響を受け温度が低下し、これにより生じたセル積層体6の温度不均衡によりセル積層体6内の水蒸気が端部セル5a、5bに移動して凝縮するからである。
【0040】
以下、この端部セル5a、5bの状態を加味した水素ガス濃度の算出につき、図3乃至図5を用いて詳細に説明する。ここで、図3は、本実施の形態にかかる燃料電池システムの終了時及び起動時の処理を示すタイムチャート、図4は、同燃料電池システムの終了時の処理を示すフローチャート、図5は、同燃料電池システムの起動時の水素ガス濃度算出処理を示すフローチャートである。
【0041】
図3に示すように、燃料電池車両(移動体)の車載発電システムにおいて、移動体のイグニッションキー(IG)がOFFにされると、一定期間経過後に燃料電池システム1の電源(ECU)がOFFにされ、燃料電池システム1の運転が停止する。この期間に制御装置4にてシステム終了時の処理Aが行われる。
【0042】
より具体的には、図4に示すように、制御装置4は、システム終了時の燃料電池システム1の運転状態を記憶する(ステップS1)。ここでは、運転状態として、セル積層体6内部を環流する冷却用の冷媒(エチレングリコール等の不凍液)の温度を測定し記憶する。そして、制御装置4は、システム終了時の時刻を測定し、記憶する(ステップS2)。
【0043】
次に、システム起動時の水素ガス濃度算出処理について説明する。図3に示すように、移動体のイグニッションキー(IG)がONにされると、同時に燃料電池システムの電源(ECU)がONにされ燃料電池システム1の運転か開始される。この時、制御装置4にてシステム起動時の処理Bが行われる。この処理Bについて、図5を用いて詳細に説明する。
【0044】
はじめに、図5に示すように、制御装置4は、前トリップ(前回終了時)の運転条件を読み込む(S1)。ここでは、前回のシステム終了時に記憶された冷却用の冷媒の温度が読み込まれる。
【0045】
次に、制御装置4は、前回のシステム終了時からの経過時間すなわちソーク時間を算出する(ステップS2)。ソーク時間は、記憶されている前回のシステム終了時の時刻と現在の時刻とから算出する。
【0046】
次に、制御装置4は、燃料電池10のアノード側の水素ガス濃度を算出する(ステップS3)。具体的には、燃料電池10のアノード側圧力、アノード側の水の分圧及び不純物のN2分圧に基づいて水素ガス分圧を求めることにより、水素ガスの濃度を算出する。アノード側圧力は、アノード側圧力センサ43により計測する。アノード側の水の分圧は、システム終了時の冷媒の温度及びシステム起動時の冷媒の温度をパラメータとする水分量推定マップから算出する。アノード側に移動してきた不純物のN2分圧については、ソーク時間をパラメータとするN2透過量マップを用いて算出する。これら水分量推定マップ及びN2透過量マップは、燃料電池システム1ごとに実験または解析によって決定することができる。尚、ここで挙げたパラメータ以外にも、水やN2量に相関のある他のパラメータを追加して推定算出の精度を高めるようにしてもよい。以上により求められた水素ガス濃度の算出値は、燃料電池10のアノード側の系の平均的な水素ガス濃度を示すことになる。
【0047】
次に、制御装置4は、端部セル5a、5bの状態を加味した端部セル濃度補正値を算出する(ステップS4)。より具体的には、ソーク時間、システム終了時の冷媒の温度及びシステム起動時の冷媒の温度から端部セルと他の単セルとの温度差を推定し、当該温度差から系の平均的な水素ガス濃度との差分値を算出する。これら推定及び算出には、燃料電池システム1ごとに実験または解析によって決定されるマップを用いることができる。もちろん、ここで挙げたパラメータ以外にも、端部セルの状態に相関のある他のパラメータを追加して推定算出の精度を高めるようにしてもよい。
【0048】
次に、制御装置4は、ステップS3で求めた系の平均的な水素ガス濃度を、ステップS4により求めた端部セル濃度補正値により補正して、当該補正した水素ガス濃度(系の平均水素ガス濃度より小さくなる)に基づいて、システム起動時に水素供給流路31から供給する水素ガス供給量及びパージバルブ37から排出するパージ量を算出する(ステップS5)。
【0049】
以上のようにして、制御装置4は、系の平均的な水素ガス濃度を端部セル5a、5bの状態を加味して補正するので次のような効果がある。すなわち、システム起動時においては、特に端部セル5a、5bは他の単セルに比べ水分量が多く、その分水素ガス濃度低くなっているが、そのような端部セル5a、5bに対しても燃料ガスを不足なく供給することができ安定運転が可能になる。そして、系全体の燃料ガス濃度を算出した上で、最も条件の厳しい端部セル5a、5bの状態を加味して補正しているので、他の単セルにおいて燃料ガスの供給が不足することもないし、端部セル5a、5bで必要な量を超えてまで燃料ガスが供給されることもない。したがって、燃料電池システム1の燃費の低下を抑制できる。
【0050】
3.本発明の実施の形態に係る燃料電池システムの変形例
以上本発明の実施形態を示したが、本発明はこの実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において様々な態様での実施が可能である。例えば以下のような変形例が可能である。
【0051】
本実施の形態においては、システム起動時の処理において、水素ガス濃度を端部セルの状態を加味して補正する場合で説明したが、これに限られず、端部セル5a、5bの状態が他の単セルの状態と乖離するような場合であれば、他の燃料電池システムの運転モードでも適用可能である。
【0052】
さらに、上記実施の形態においては、補正を加えた水素ガス濃度に基づいて、水素ガスの供給及びパージを行う場合で説明したが、これにかぎられず、例えば、当該補正を加えた水素ガス濃度に基づいて、冷媒の温度を調整する場合等にも適用可能である。すなわち、端部セル5a、5bの状態が燃料電池10の制御条件を律即するような制御場面において幅広く適用可能である。
【0053】
また、上記実施の形態においては、循環流路32に、水素ポンプ39を設けて、循環流路32内の水素オフガスを加圧して水素供給流路31側へ循環させている。このような循環流路を有する燃料電池システムは系の不純物濃度が高くなりやすいため本発明の有用性は特に高いが、一方で、水素ポンプ39を設けず、水素を水素供給流路31へ循環させないような 非循環型のシステムにおいても本発明は適用可能である。
【0054】
また、上記実施形態においては、本発明に係る燃料電池システムを燃料電池車両に搭載した例を示したが、燃料電池車両以外の各種移動体(ロボット、船舶、航空機等)に本発明に係る燃料電池システムを搭載することもできる。また、本発明に係る燃料電池システムを、建物(住宅、ビル等)用の発電設備として用いられる定置用発電システムに適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施の形態に係る燃料電池システムの構成図。
【図2】同燃料電池システムの燃料電池を模式的に示す斜視図。
【図3】同燃料電池システムの終了時及び起動時の処理を示すタイムチャート
【図4】同燃料電池システムの終了時の処理を示すフローチャート
【図5】同燃料電池システムの起動時の水素ガス濃度算出処理を示すフローチャート
【符号の説明】
【0056】
1 ……燃料電池システム
2 ……酸化ガス配管系
3 ……水素ガス配管系
4 ……制御装置
10……燃料電池
11……PCU
12……トランクションモータ
13……電流センサ
20……加湿器
21……酸化ガス供給流路(酸化ガス供給手段)
22……酸化ガス排出流路
23……排気流路
24……コンプレッサ
25……カソード側圧力センサ
26……背圧弁
27……ステップモータ
30……水素タンク
31……水素供給流路(燃料ガス供給手段)
32……循環流路
33……遮断弁
34……レギュレータ
35……インジェクタ
36……気液分離器
37……パージバルブ
38……排出流路
39……水素ポンプ
40……希釈器
41……インジェクタ上流側圧力センサ
42……温度センサ
43……アノード側圧力センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードおよびカソードを有する単セルが複数積層されてなるセル積層体と、
前記セル積層体のアノード側に燃料ガスを供給する燃料ガス供給手段と、
前記セル積層体のアノード側の燃料ガス濃度を所定のパラメータに基づいて算出する制御手段と、を備えた燃料電池システムであって、
前記制御手段は、前記算出した燃料ガス濃度を前記セル積層体の端部セルの状態に基づいて補正し、
前記燃料ガス供給手段は、前記補正された燃料ガス濃度に基づいて燃料ガスを供給する燃料電池システム。
【請求項2】
前記制御手段は、システム起動時において前記補正を行う請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記所定のパラメータは、前回の運転停止時のセル積層体の温度、システム起動時のセル積層体の温度及び前回の運転停止時からシステム起動時までの経過時間を含む請求項2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記セル積層体から排出された燃料オフガスを前記セル積層体のアノード側に循環させる循環経路と、
前記循環経路に設けられ、前記燃料オフガスの一部を外部に排出する排出手段と、をさらに備え、
前記排出手段は、前記補正された燃料ガス濃度に基づいて燃料オフガスを排出する請求項1から請求項3に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記端部セルの状態は、前記セル積層体の他の単セルに対する該端部セルの温度差である請求項1から求項4いずれかに記載の燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−146619(P2009−146619A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−320160(P2007−320160)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】