説明

燃料電池システム

【課題】燃料電池の運転状態に応じてエアバイパス弁の動作を最適に制御することが可能な燃料電池システムを提供する。
【解決手段】ECUは、急速暖機B中にエアバイパス弁の開度を0%に戻すタイミングが到来したと判断すると、原点突き当て処理を開始する(ステップS100→ステップS200)。ECUは、原点突き当て処理を行っている間に急速暖機の必要性等からエアバイパス弁を開く指示があった場合には(ステップS200→ステップS300)、この指示を優先して原点突き当て処理をキャンセルし、所望のタイミングでエアバイパス弁を開く制御を行う(ステップS400→ステップS500)。これにより、エアストイキ比過多により燃料電池スタックの出力に異常が生じてしまう等の問題を未然に防止することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池システムに関し、特に、燃料電池の容量成分に対する充放電量を考慮しながら運転制御する燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料を電気化学プロセスによって酸化させることにより酸化反応に伴って放出されるエネルギーを電気エネルギーに直接変換する発電システムであり、水素イオンを選択的に輸送するための電解質膜の両側面を多孔質材料から成る一対の電極によって挟持して成る膜−電極アッセンブリを複数積層して成るスタック構造を有している。なかでも、固体高分子膜を電解質として用いる固体高分子電解質型燃料電池は、低コストでコンパクト化が容易であり、しかも高い出力密度を有することから、車載電力源としての用途が期待されている。
【0003】
この種の燃料電池は、一般に70〜80℃が発電に最適な温度域とされているが、寒冷地などの環境では、起動してから最適温度域に達するまでに長時間を要する場合があるので、各種の暖機システムが検討されている。例えば下記特許文献1には、通常運転に比して発電効率の低い低効率運転を実施することにより燃料電池の自己発熱量を制御し、燃料電池を暖機する手法について開示されている。かかる手法によれば、燃料電池による自己暖機が可能であるため、暖機用の装置を搭載する必要がなく、利便性に優れている。
【特許文献1】特願2007−541078号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記構成の燃料電池システムには、ガス供給路を流れる酸化ガスの一部を、燃料電池をバイパスして排出通路へ導くバイパス通路や、酸化ガスのバイパス量を調整するエアバイパス弁が設けられている。このエアバイパス弁の弁開度(0〜100%)を制御することで燃料電池に供給する酸化ガスのストイキ比(エアストイキ比)等が調整される。従来、一定開度に調整されたエアバイパス弁を全閉する場合には、確実に閉状態が形成されるように(すなわち、エアバイパス弁の閉じ不良を防止するために)、次のような原点突き当て処理(原点学習処理)が常に行われていた。
【0005】
図8はエアバイパス弁の原点突き当て処理を説明する図であり、横軸にエアバイパス弁の弁開度をコントロールするモータの駆動ステップ数及び弁開度を示し、縦軸に燃料電池に供給される酸化ガス流量を示す。
【0006】
エアバイパス弁を全閉する際には、モータ駆動ステップが0stepで終了していることを前提に、さらに12stepだけ閉方向にモータを駆動させて突き当てた後(図8に示す原点突き当て位置に存在)、4stepだけ開方向に戻すことで0stepの位置に戻す。かかる原点突き当て処理を行う際、突き当て処理時のモータの駆動速度は、跳ね返りによる位置ずれ(いわゆる、バウンスバック)を防止するために通常駆動時よりも遅く設定され、例えば通常駆動時のモータの駆動速度は250(pps)程度に設定されるのに対し、突き当て処理時のモータの駆動速度は16.5(pps)程度に設定される。
【0007】
よって、実際にエアバイパス弁の全閉が指示されてから該エアバイパス弁が全閉し終わるまでには時間がかかるが、従来、突き当て処理を行っている間に急速暖機の必要性等からエアバイパス弁を開く指示があっても、この原点突き当て処理が常に優先されていたために、所望のタイミングでエアバイパス弁が開かれず、エアストイキ比過多等により燃料電池の出力に異常(過電流異常など)が生じてしまう等の問題が発生していた。
【0008】
本発明は以上説明した事情を鑑みてなされたものであり、燃料電池の運転状態に応じてエアバイパス弁の動作を最適に制御することが可能な燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明に係る燃料電池システムは、通常運転に比して発電効率の低い低効率運転を行うことにより、燃料電池を暖機する燃料電池システムであって、燃料電池のガス供給路を流れるカソードガスの一部を、該燃料電池をバイパスして排出通路へ導くバイパス通路と、前記カソードガスのバイパス量を制御するバイパス弁と、前記バイパス弁を全閉する際に原点学習処理を行う学習処理手段と、前記低効率運転中であって前記原点学習処理を行っている間に、前記バイパス弁を開くべき指示があった場合には、前記原点学習処理を強制終了し、該指示に従って前記バイパス弁の開度を調整する弁開度制御手段とを具備することを特徴とする。
【0010】
かかる構成によれば、低効率運転中であって原点学習処理(原点突き当て処理)を行っている間に急速暖機の必要性等からカソードガス(酸化ガス)のバイパス弁を開く指示があった場合には、この指示を優先して原点学習処理を強制終了(キャンセル)し、該バイパス弁を開く制御を行う(図6に示すα2、及び太線部分参照)。これにより、エアストイキ比過多等により燃料電池スタックの出力に異常が生じてしまう等の問題を未然に防止することが可能となる。
【0011】
ここで、上記構成にあっては、前記低効率運転には、第1の低効率運転と、第1の低効率運転よりも発電効率の低い第2の低効率運転が存在し、前記弁開度制御手段は、前記第1の低効率運転中であって前記原点学習処理を行っている間に、前記第1の低効率運転から前記第2の低効率運転へ切り換えるべき指示があり、前記バイパス弁を開くべきと判断した場合には、前記原点学習処理を強制終了し、該指示に従って前記バイパス弁の弁開度を調整する態様が好ましい。
【0012】
また、本発明に係る別の燃料電池システムは、通常運転に比して発電効率の低い低効率運転を行うことにより、燃料電池を暖機する燃料電池システムであって、燃料電池のガス供給路を流れるカソードガスの一部を、該燃料電池をバイパスして排出通路へ導くバイパス通路と、前記カソードガスのバイパス量を制御するバイパス弁と、前記バイパス弁を全閉すべき場合に、当該時点における燃料電池の運転状態を把握し、把握結果に基づき原点学習処理を禁止するか許可するかを判断する判断手段と、前記判断手段によって許可された場合に前記原点学習処理を行う学習処理手段とを具備することを特徴とする。
【0013】
このように、燃料電池の運転状態に応じて原点学習処理を禁止するか許可するかを判断することによっても、エアストイキ比過多等により燃料電池の出力に異常が生じてしまう等の問題を未然に防止することが可能となる。
【0014】
ここで、上記構成にあっては、前記判断手段は、当該時点における燃料電池の運転状態が前記低効率運転の場合に、前記原点学習処理を禁止すべきと判断する態様が好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、燃料電池の運転状態に応じてエアバイパス弁の動作を最適に制御することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
A.第1実施形態
以下、各図を参照しながら本発明に係わる実施形態について説明する。
図1は本実施形態に係る車両に搭載された燃料電池システム10のシステム構成を示す。なお、以下の説明では車両の一例として燃料電池自動車(FCHV;Fuel Cell Hybrid Vehicle)を想定するが、電気自動車やハイブリッド自動車にも適用可能である。また、車両のみならず各種移動体(っ問えば、船舶や飛行機、ロボットなど)や定置型電源、さらには携帯型の燃料電池システムにも適用可能である。
【0017】
燃料電池システム10は、燃料電池車両に搭載される車載電源システムとして機能するものであり、反応ガス(燃料ガス、酸化ガス)の供給を受けて発電する燃料電池スタック20と、酸化ガスとしての空気を燃料電池スタック20に供給するための酸化ガス供給系30と、燃料ガスとしての水素ガスを燃料電池スタック20に供給するための燃料ガス供給系40と、電力の充放電を制御するための電力系50と、燃料電池スタック20を冷却するための冷却系60と、システム全体を制御するコントローラ(ECU)70とを備えている。
【0018】
燃料電池スタック20は、複数のセルを直列に積層してなる固体高分子電解質型セルスタックである。燃料電池スタック20では、アノード極において(1)式の酸化反応が生じ、カソード極において(2)式の還元反応が生じる。燃料電池スタック20全体としては(3)式の起電反応が生じる。
2 → 2H++2e- …(1)
(1/2)O2+2H++2e- → H2O …(2)
2+(1/2)O2 → H2O …(3)
【0019】
燃料電池スタック20には、燃料電池スタック20の出力電圧を検出するための電圧センサ71、及び発電電流を検出するための電流センサ72が取り付けられている。
【0020】
酸化ガス供給系30は、燃料電池スタック20のカソード極に供給される酸化ガスが流れる酸化ガス通路34と、燃料電池スタック20から排出される酸化オフガスが流れる酸化オフガス通路36とを有している。酸化ガス通路34には、フィルタ31を介して大気中から酸化ガスを取り込むエアコンプレッサ32と、燃料電池スタック20のカソード極へ供給される酸化ガスを加湿するための加湿器33と、酸化ガス供給量を調整するための絞り弁35とが設けられている。酸化オフガス通路36には、酸化ガス供給圧を調整するための背圧調整弁37とが設けられている。ここで、加湿器33は、酸化ガス通路34を流れる低湿潤状態の酸化ガスと、酸化オフガス通路36を流れる高湿潤状態の酸化オフガスとの間で水分交換を行い、燃料電池スタック20に供給される酸化ガスを適度に加湿する。
【0021】
酸化ガス通路34と酸化オフガス通路36との間は、酸化ガス通路34を流れる酸化ガスの一部を、燃料電池スタック20をバイパスして排出通路(図示略)へ導くバイパス通路38と、バイパス通路38を流れる酸化ガス流量(すなわち、酸化ガスのバイパス量)を調整するエアバイパス弁39とが配設されている。なお、エアバイパス弁39には、各種の駆動弁(モータ駆動弁やソレノイド弁など)を適用することができる。本実施形態では、エアバイパス弁39の開度調整や上述した原点突き当て処理(原点学習処理)の実行は、燃料電池スタック20の運転状態に応じてECU70により制御される(後に詳述)。
【0022】
燃料ガス供給系40は、燃料ガス供給源41と、燃料ガス供給源41から燃料電池スタック20のアノード極に供給される燃料ガスが流れる燃料ガス通路45と、燃料電池スタック20から排出される燃料オフガスを燃料ガス通路45に帰還させるための循環通路46と、循環通路46内の燃料オフガスを燃料ガス通路43に圧送する循環ポンプ47と、循環通路47に分岐接続される排気排水通路48とを有している。
【0023】
燃料ガス供給源41は、例えば、高圧水素タンクや水素吸蔵合金などで構成され、高圧(例えば、35MPa〜70MPa)の水素ガスを貯留する。遮断弁42を開くと、燃料ガス供給源41から燃料ガス通路45に燃料ガスが流出する。燃料ガスは、レギュレータ43やインジェクタ44により、例えば、200kPa程度まで減圧されて、燃料電池スタック20に供給される。
【0024】
尚、燃料ガス供給源41は、炭化水素系の燃料から水素リッチな改質ガスを生成する改質器と、この改質器で生成した改質ガスを高圧状態にして蓄圧する高圧ガスタンクとから構成してもよい。
レギュレータ43は、その上流側圧力(一次圧)を、予め設定した二次圧に調圧する装置であり、例えば、一次圧を減圧する機械式の減圧弁などで構成される。機械式の減圧弁は、背圧室と調圧室とがダイアフラムを隔てて形成された筺体を有し、背圧室内の背圧により調圧室内で一次圧を所定の圧力に減圧して二次圧とする構成を有する。
【0025】
インジェクタ44は、弁体を電磁駆動力で直接的に所定の駆動周期で駆動して弁座から離隔させることによりガス流量やガス圧を調整することが可能な電磁駆動式の開閉弁である。インジェクタ44は、燃料ガス等の気体燃料を噴射する噴射孔を有する弁座を備えるとともに、その気体燃料を噴射孔まで供給案内するノズルボディと、このノズルボディに対して軸線方向(気体流れ方向)に移動可能に収容保持され噴射孔を開閉する弁体とを備えている。
【0026】
排気排水通路48には、排気排水弁49が配設されている。排気排水弁49は、コントローラ70からの指令によって作動することにより、循環通路46内の不純物を含む燃料オフガスと水分とを外部に排出する。排気排水弁49の開弁により、循環通路46内の燃料オフガス中の不純物の濃度が下がり、循環系内を循環する燃料オフガス中の水素濃度を上げることができる。
【0027】
排気排水弁49を介して排出される燃料オフガスは、酸化オフガス通路34を流れる酸化オフガスと混合され、希釈器(図示せず)によって希釈される。循環ポンプ47は、循環系内の燃料オフガスをモータ駆動により燃料電池スタック20に循環供給する。
【0028】
電力系50は、DC/DCコンバータ51、バッテリ52、トラクションインバータ53、トラクションモータ54、及び補機類55を備えている。DC/DCコンバータ51は、バッテリ52から供給される直流電圧を昇圧してトラクションインバータ53に出力する機能と、燃料電池スタック20が発電した直流電力、又は回生制動によりトラクションモータ54が回収した回生電力を降圧してバッテリ52に充電する機能とを有する。DC/DCコンバータ51のこれらの機能により、バッテリ52の充放電が制御される。また、DC/DCコンバータ51による電圧変換制御により、燃料電池スタック20の運転ポイント(出力電圧、出力電流)が制御される。
【0029】
バッテリ52は、余剰電力の貯蔵源、回生制動時の回生エネルギー貯蔵源、燃料電池車両の加速又は減速に伴う負荷変動時のエネルギーバッファとして機能する。バッテリ52としては、例えば、ニッケル・カドミウム蓄電池、ニッケル・水素蓄電池、リチウム二次電池等の二次電池が好適である。
トラクションインバータ53は、例えば、パルス幅変調方式で駆動されるPWMインバータであり、コントローラ70からの制御指令に従って、燃料電池スタック20又はバッテリ52から出力される直流電圧を三相交流電圧に変換して、トラクションモータ54の回転トルクを制御する。トラクションモータ54は、例えば、三相交流モータであり、燃料電池車両の動力源を構成する。
【0030】
補機類55は、燃料電池システム10内の各部に配置されている各モータ(例えば、ポンプ類などの動力源)や、これらのモータを駆動するためのインバータ類、更には各種の車載補機類(例えば、エアコンプレッサ、インジェクタ、冷却水循環ポンプ、ラジエータなど)を総称するものである。
【0031】
冷却系60は、燃料電池スタック20内部を循環する冷媒を流すための冷媒通路61、62,63,64、冷媒を圧送するための循環ポンプ65、冷媒と外気との間で熱交換するためのラジエータ66、冷媒の循環経路を切り替えるための三方弁67、及び冷媒温度を検出するための温度センサ74を備えている。暖機運転が完了した後の通常運転時には燃料電池スタック20から流出する冷媒が冷媒通路61,64を流れてラジエータ66にて冷却された後、冷媒通路63を流れて再び燃料電池スタック20に流れ込むように三方弁67が開閉制御される。一方、システム起動直後における暖機運転時には、燃料電池スタック20から流出する冷媒が冷媒通路61,62,63を流れて再び燃料電池スタック20に流れ込むように三方弁67が開閉制御される。
【0032】
コントローラ70は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インタフェース等を備えるコンピュータシステムであり、燃料電池システム10の各部(酸化ガス供給系30、燃料ガス供給系40、電力系50、及び冷却系60)を制御するための制御手段として機能する。例えば、コントローラ70は、イグニッションスイッチから出力される起動信号IGを受信すると、燃料電池システム10の運転を開始し、アクセルセンサから出力されるアクセル開度信号ACCや、車速センサから出力される車速信号VCなどを基にシステム全体の要求電力を求める。
【0033】
システム全体の要求電力は、車両走行電力と補機電力との合計値である。補機電力には車載補機類(加湿器、エアコンプレッサ、水素ポンプ、及び冷却水循環ポンプ等)で消費される電力、車両走行に必要な装置(変速機、車輪制御装置、操舵装置、及び懸架装置等)で消費される電力、乗員空間内に配設される装置(空調装置、照明器具、及びオーディオ等)で消費される電力などが含まれる。
そして、コントローラ70は、燃料電池スタック20とバッテリ52とのそれぞれの出力電力の配分を決定し、発電指令値を演算するとともに、燃料電池スタック20の発電量が目標電力に一致するように、酸化ガス供給系30及び燃料ガス供給系40を制御する。更にコントローラ70は、DC/DCコンバータ51を制御して、燃料電池スタック20の出力電圧を調整することにより、燃料電池スタック20の運転ポイント(出力電圧、出力電流)を制御する。コントローラ70は、アクセル開度に応じた目標トルクが得られるように、例えば、スイッチング指令として、U相、V相、及びW相の各交流電圧指令値をトラクションインバータ53に出力し、トラクションモータ54の出力トルク、及び回転数を制御する。
【0034】
図2は燃料電池スタック20のC−V特性(サイクリックボルタノグラム)を示している。
このC−V特性は、燃料電池スタック20の動的な電気特性を示すものであり、燃料電池スタック20の電圧を一定の電圧上昇率で昇圧させると、外部から燃料電池スタック20へ流れ込む方向(マイナス方向)に電流が流れ、燃料電池スタックの電圧を一定の電圧下降率で降圧させると、燃料電池スタック20から外部へ流れる方向(プラス方向)に電流が流れる。このような動的な電気特性は、燃料電池スタック20が寄生的に有する容量成分によるものであることが判明している。
【0035】
ここで、発電電流を急激に増減させると、燃料電池スタック20を構成する各セルの電解質膜のオーム抵抗に起因するオーム電圧降下は、発電電流の変化に対して応答性よく追従していくが、電気二重層に生じる活性化過電圧は、発電電流の変化に対して応答性よく追従することができず、ある程度の時間をかけてゆっくりと平衡状態に落ち着く。このような相違が生じる理由は、電解質膜22の電気特性は、抵抗素子としてモデル化できるのに対し、電気二重層の電気特性は、キャパシタとしてモデル化できるためである。
【0036】
図3は燃料電池スタック20の動的な電気特性をモデル化した等価回路図である。
燃料電池スタック20は、理想燃料電池28とキャパシタ29とが並列接続されてなる回路構成を有している。理想燃料電池28は、上述のC−V特性を有しない仮想的な燃料電池をモデル化したものであり、電気特性上、可変電源と等価な振る舞いをする。キャパシタ29は、上記界面に形成される電気二重層の電気的な振る舞いを容量素子としてモデル化したものである。外部負荷56は電力系50をモデル化した等価回路である。理想燃料電池28から流れ出す電流をIfc、理想燃料電池28の出力電圧(燃料電池スタック20の出力電圧)をVfc、キャパシタ29に流れ込む電流をIc、燃料電池スタック20から外部負荷56に流れ出す電流をIs、キャパシタ29の容量をC、時間をtとすると、以下に示す(4)〜(5)式が成立する。
Ifc=Ic+Is …(4)
Ic=C・ΔVfc/Δt …(5)
【0037】
(4)〜(5)式に示すように、出力電圧Vfcを昇圧すると、単位時間あたりの変化量ΔVfc/Δtに応じて、キャパシタ29に流れ込む電流Icが増加するので、燃料電池スタック20から外部負荷56に流れ出す電流Isは減少する。一方、出力電圧Vfcを降圧すると、単位時間あたりの変化量ΔVfc/Δtに応じて、キャパシタ29に流れ込む電流Icが減少するので、燃料電池スタック20から外部負荷56に流れ出す電流Isは増加する。このように、出力電圧Vfcの単位時間あたりの昇降圧量を制御することにより、燃料電池スタック20から外部負荷56に流れ出す電流Isを加減することができる(以下、便宜上、ΔV制御と呼ぶ)。
【0038】
ΔV制御の応用例として、例えば、低効率運転時に燃料電池スタック20への発電要求が急減したときに、出力電圧Vfcを制御することによりキャパシタ29に余剰電力を吸収する方法がある。低効率運転とは、例えばエアストイキ比を1.0未満に設定して燃料電池スタック20への反応ガス供給量を制御することにより、電力損失を高めて、低い発電効率で運転することをいう。エアストイキ比とは、酸素余剰率をいい、水素と過不足なく反応するのに必要な酸素に対して供給酸素がどれだけ余剰であるかを示す。エアストイキ比を低く設定して低効率運転を実施すると、通常運転時よりも濃度過電圧が大きくなるので、水素と酸素との反応によって取り出せるエネルギーのうち熱損失(電力損失)が増大する。
【0039】
低効率運転は、例えば、低温起動時(スタック温度が所定温度以下の起動時)において熱損失を意図的に増大させることによって、燃料電池スタック20を急速暖機するための手段として、車両走行前の起動時や車両停止時、又は車両走行中に実施される。なお、以下の説明では、車両起動時や車両停止時に必要に応じて行われる低効率運転による急速暖機を「急速暖機A」と呼び、車両走行時に必要に応じて行われる低効率運転による急速暖機を「急速暖機B」と呼ぶ。
【0040】
車両起動時や車両停止時に行われる低効率運転(第2の低効率運転)による急速暖機Aは、補機類などの小さな電力が得られるように燃料電池スタック20への酸化ガス量を調整しながら、スタック温度が所定温度(例えば70℃)に昇温するまで実施される。そして、スタック温度が所定温度に達すると、通常運転に切り換えられる。
【0041】
一方、車両走行中に行われる低効率運転(第1の低効率運転)による急速暖機Bは、スタック温度が所定温度(例えば70℃)に昇温するまで実施される点で急速暖機Aと同様であるが、車両走行中(例えばシフトポジションDなど)に実施されるため、トラクションモータ54を駆動するために大きな電圧を確保する必要がある点で急速暖機Aと異なる。
【0042】
図4は燃料電池スタック20のI−V特性を示す図である。
通常運転時には、発電効率を高めるため運転ポイント(出力電流Ifc、出力電圧Vfc)がI−V特性曲線(電流対電圧特性曲線)200上に位置するように運転制御する。
これに対し、車両起動時や停止時に行われる低効率運転による急速暖機Aの運転ポイントは、I−V特性曲線200よりもかなり低い運転ポイント、例えば、出力電圧Vfc=V1、出力電流Ifc=I1に設定される一方、車両走行時に行われる低効率運転による急速暖機Bの運転ポイントは、I−V特性曲線200よりも低いが急速暖機Aの運転ポイントよりは高い運転ポイント、例えば出力電圧Vfc=V2、出力電流Ifc=I2に設定される。このように、急速暖機Bの運転ポイントが急速暖機Aの運転ポイントよりも高く設定される理由は、上述したように、車両走行中の負荷(トラクションモータや各種補機など)からの要求電圧等は、車両起動時や車両停止時の要求電圧等に比べて高く設定されるためである。
【0043】
次に、通常運転、急速暖機A、急速暖機Bが行われる場合の燃料電池スタック20の運転制御方法について、図5を参照しながら説明する。
図5は、燃料電池スタック20の運転状態の遷移を示す状態遷移図である。
図5に示すように、通常運転ではI−V制御が行われ、急速暖機Aでは暖機時電圧制御が行われ、急速暖機BではΔV制御と固定電圧制御が行われる。各運転制御について説明すると、まず、通常運転時に行われる「I−V制御」とは、I−V特性曲線200上に運転ポイントが位置するように運転を制御することをいい、DC/DCコンバータ51によって燃料電池スタック20の出力電圧Vfcを制御するとともに、燃料電池スタック20に供給される酸化ガス量を制御することで出力電流Ifcを調整する。
【0044】
一方、急速暖機A時に行われる「暖機電圧制御」とは、上記の如くI−V特性曲線200よりもかなり低い運転ポイント、例えば、出力電圧Vfc=V1、出力電流Ifc=I1に設定するように運転を制御することをいい、DC/DCコンバータ51によって燃料電池スタック20の出力電圧Vfcを制御するとともに、燃料電池スタック20に供給される酸化ガス量を大幅に絞ること(例えばエアストイキ比を1.0以下に絞るなど)によって出力電流Ifcを調整する。
【0045】
また、急速暖機B時に行われる「固定制御」とは、燃料電池スタック20の出力電圧Vfcを急速暖機目標電圧に固定(すなわち、一定に固定)するとともに、燃料電池スタック20に供給される酸化ガス流量を制御し、出力電流Ifcを調整することで燃料電池スタック20からの出力電力を制御(すなわち、パワーコントロール)することをいう。
【0046】
さらに、急速暖機B時に行われる「ΔV制御」とは、上記の如く図3に示す燃料電池スタック20の容量成分を考慮し、出力電圧Vfcの単位時間あたりの昇降圧量を制御することにより、燃料電池スタック20から外部負荷56に流れ出す電流Isを加減することで、燃料電池スタック20から外部負荷56へ供給される電力(燃料電池スタック20の発電電力とキャパシタ29からの放電電力との総和)を制御することをいう。
【0047】
図6は、急速暖機Bから急速暖機Aに切り換えられたときの燃料電池スタック20の運転制御を示すタイミングチャートである。
【0048】
例えば、温度センサ74によって検知される燃料電池スタック20の温度が閾値温度Tth(例えば70℃)を満たさない場合には、車両走行中であっても低効率運転による急速暖機Bが行われる。ここで、急速暖機Bが行われている間に、例えば運転手によりアクセルオンからアクセルオフに切り換えられ、燃料電池スタック20に対する発電要求が急減すると、ECU70は燃料電池スタック20の運転制御を固定電圧制御からΔV制御へ切り換えるとともに、出力電圧Vfcの上昇に応じてエアストイキ比を下げるべく、エアバイパス弁39の弁開度を0%(全閉)から25%に開く制御を行う(図6に示すt1参照)。この際、エアコンプレッサ32の回転数も調整される。
【0049】
ΔV制御によって余剰電力の吸収等を行うと、ECU70は燃料電池スタック20の運転制御を再びΔV制御から固定電圧制御へと切り換えるとともに、エアストイキ比を上げるべく、エアバイパス弁39の弁開度を25%から0%に閉じる制御(すなわち全閉制御)を行う(図6に示すt2参照)。
【0050】
エアバイパス弁39について全閉制御が開始されると、前述したように、ECU70はエアバイパス弁39の原点突き当て処理を開始する。
ここで、従来の燃料電池システムにおいては、いったんエアバイパス弁39の全閉が指示され、原点突き当て処理を開始すると、たとえ原点突き当て処理を行っている間に急速暖機の必要性等からエアバイパス弁39を開く指示があっても、原点突き当て処理が常に優先されていた(図6に示すα1、及び一点鎖線部分参照)。このため、所望のタイミングでエアバイパス弁39が開かれず、エアストイキ比過多により燃料電池スタック20の出力に異常(過電流異常など)が生じてしまう等の問題が発生していた(発明が解決しようとする課題の項及び図8参照)。
【0051】
これに対し、本実施形態では、原点突き当て処理を開始した後であっても、原点突き当て処理を行っている間に急速暖機の必要性等からエアバイパス弁39を開く指示があった場合には(ここでは、急速暖機Bから急速暖機Aへの切り換え指示;図6に示すt3参照)、この指示を優先して原点突き当て処理をキャンセル(強制終了)し、所望のタイミングでエアバイパス弁39を開く制御を行う(図6に示すα2、及び太線部分参照)。これにより、エアストイキ比過多により燃料電池スタック20の出力に異常が生じてしまう等の問題を未然に防止することが可能となる。
【0052】
以下、全閉制御が開始された後、急速暖機Bから急速暖機Aへの切り換えにより、バイパス弁39を開く指示(ここでは全開指示)があった場合の動作について詳細に説明する。
ECU70は、全閉制御が開始された後、例えば運転手によるシフトポジションDレンジからPレンジへの操作が行われ、かかる操作に応じて燃料電池スタック20の運転停止指示を受け取ると、走行中の低効率運転による急速暖機Bから停止時の低効率運転による急速暖機Aへと切り換えを行う。詳述すると、燃料電池スタック20の運転ポイントの制御については急速暖機Bの固定電圧制御から暖機電圧制御へと切り換える一方、エアバイパス弁39については、既に開始されている原点突き当て処理をキャンセルし(図6に示すα2参照)、エアバイパス弁39の開度を0%から100%へ切り換える制御を行う。原点突き当て処理をキャンセルする処理(原点突き当て制御処理)については、図7に示すフローを参照しながら説明する。
【0053】
図7は、ECU70によって実行される原点突き当て制御処理を示すフローチャートである。
ECU(学習処理手段)70は、急速暖機B中に、エアバイパス弁39の開度を0%に戻すタイミング(すなわち、全閉制御のタイミング)が到来したと判断すると、原点突き当て処理を開始する(ステップS100→ステップS200)。
ECU70は、その後、エアバイパス弁39の開度の変更タイミング(すなわち、エアバイパス弁39の開度を0%よりも大きな値に設定すべきタイミング)が到来したか否かを判断する(ステップS300)。具体的には、運転手によるシフトポジションDレンジからPレンジへの操作が行われ、かかる操作に応じて燃料電池スタック20の運転停止指示を受け取り、走行中の低効率運転による急速暖機Bから停止時の低効率運転による急速暖機Aへと切り換える場合、ECU70はエアバイパス弁39の開度の変更タイミング(ここでは、開度を0%から100%に変更すべきタイミング)が到来したと判断する。
【0054】
ECU(弁開度制御手段)70は、エアバイパス弁39の開度の変更タイミングが到来したと判断すると(ステップS300;YES)、燃料電池スタック20の運転ポイントの制御については急速暖機Bの固定電圧制御から暖機電圧制御へと切り換える一方、エアバイパス弁39については、既に開始されている原点突き当て処理をキャンセルし(ステップS400)、エアバイパス弁39の開度を0%から100%へ切り換える制御(調整)を行った後(ステップS500)、処理を終了する。
【0055】
一方、ECU70は、未だエアバイパス弁39の変更タイミングは到来していないと判断すると(ステップS300;NO)、原点突き当て処理が終了したか否かを判断する(ステップS600)。ECU70は、未だ原点突き当て処理が終了していないと判断した場合には(ステップS600;NO)、ステップS300に戻り、上記ルーチンを繰り返し実行する一方、原点突き当て処理が終了したと判断すると(ステップS600;YES)、処理を終了する。
【0056】
以上説明したように、本実施形態によれば、原点突き当て処理を行っている間に急速暖機の必要性等からエアバイパス弁を開く指示があった場合には、この指示を優先して原点突き当て処理をキャンセル(強制終了)し、所望のタイミングでエアバイパス弁を開く制御を行う(図6に示すα2、及び太線部分参照)。これにより、エアストイキ比過多により燃料電池スタックの出力に異常が生じてしまう等の問題を未然に防止することが可能となる。
【0057】
B.変形例
(1)上述した実施形態では、急速暖機Bから急速暖機Aへの切り換え時点において原点突き当て処理が行われている場合に、原点突き当て処理をキャンセルしたが、例えば急速暖機A中に原点突き当て処理が行われている場合や、急速暖機B中に原点突き当て処理が行われている場合など、低効率運転中に原点突き当て処理が行われている場合に、原点突き当て処理をキャンセルしても良い。
【0058】
(2)上述した実施形態では、急速暖機Bから急速暖機Aへの切り換えの際、当該切り換え時点において原点突き当て処理が行われている場合には、この原点突き当て処理をキャンセルしたが、急速暖機Bから急速暖機Aへ移行する可能性がある場合には原点突き当て処理を禁止しても良い。具体的には、急速暖機B中に、エアバイパス弁39の開度を0%に戻すタイミングが到来した場合(エアバイパス弁39を全閉すべき場合)には、ECU70は、当該時点における燃料電池スタック20の運転状態を把握する。
【0059】
ここで、ECU(判断手段)70は、燃料電池スタック20の運転状態が急速暖機B中である場合には、急速暖機Bから急速暖機Aへ移行する可能性があるとして、原点突き当て処理を禁止すべきと判断する。一方、ECU(判断手段)70は、燃料電池スタック20の運転状態が通常運転中である場合には、原点突き当て処理を許可すべきと判断する。ECU(学習処理手段)70は、かかる判断結果に基づき、燃料電池スタック20の運転状態が急速暖機B中である場合には、原点突き当て処理を禁止する一方、燃料電池スタック20の運転状態が通常運転である場合には、原点突き当て処理を許可して当該原点突き当て処理を行う。このように、燃料電池スタック20の運転状態に応じて原点突き当て処理を禁止するか許可するかを判断することによっても、エアストイキ比過多により燃料電池スタック20の出力に異常が生じてしまう等の問題を未然に防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】第1実施形態に係る燃料電池システムのシステム構成図である。
【図2】燃料電池スタックのC−V特性図である。
【図3】燃料電池スタックの等価回路図である。
【図4】燃料電池スタックの運転ポイントの説明図である。
【図5】燃料電池スタックの運転状態の遷移を示す状態遷移図である。
【図6】急速暖機Bから急速暖機Aに切り換えられたときの燃料電池スタックの運転制御を示すタイミングチャートである。
【図7】原点突き当て制御処理を示すフローチャートである。
【図8】エアバイパス弁の原点突き当て処理を説明する図である。
【符号の説明】
【0061】
10・・・燃料電池システム、20・・・燃料電池スタック、30・・・酸化ガス供給系、40・・・燃料ガス供給系、50・・・電力系、60・・・冷却系、70・・・コントローラ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通常運転に比して発電効率の低い低効率運転を行うことにより、燃料電池を暖機する燃料電池システムであって、
燃料電池のガス供給路を流れるカソードガスの一部を、該燃料電池をバイパスして排出通路へ導くバイパス通路と、
前記カソードガスのバイパス量を制御するバイパス弁と、
前記バイパス弁を全閉する際に原点学習処理を行う学習処理手段と、
前記低効率運転中であって前記原点学習処理を行っている間に、前記バイパス弁を開くべき指示があった場合には、前記原点学習処理を強制終了し、該指示に従って前記バイパス弁の開度を調整する弁開度制御手段と
を具備することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記低効率運転には、第1の低効率運転と、第1の低効率運転よりも発電効率の低い第2の低効率運転が存在し、
前記弁開度制御手段は、前記第1の低効率運転中であって前記原点学習処理を行っている間に、前記第1の低効率運転から前記第2の低効率運転へ切り換えるべき指示があり、前記バイパス弁を開くべきと判断した場合には、前記原点学習処理を強制終了し、該指示に従って前記バイパス弁の弁開度を調整することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
通常運転に比して発電効率の低い低効率運転を行うことにより、燃料電池を暖機する燃料電池システムであって、
燃料電池のガス供給路を流れるカソードガスの一部を、該燃料電池をバイパスして排出通路へ導くバイパス通路と、
前記カソードガスのバイパス量を制御するバイパス弁と、
前記バイパス弁を全閉すべき場合に、当該時点における燃料電池の運転状態を把握し、把握結果に基づき原点学習処理を禁止するか許可するかを判断する判断手段と、
前記判断手段によって許可された場合に前記原点学習処理を行う学習処理手段と
を具備することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項4】
前記判断手段は、当該時点における燃料電池の運転状態が前記低効率運転の場合に、前記原点学習処理を禁止すべきと判断することを特徴とする請求項3に記載の燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−152131(P2009−152131A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−330660(P2007−330660)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】