説明

燃料電池システム

【課題】燃料電池システムのコンバータ制御において運転状態に応じて電力フィードバック制御モードと電圧フィードバック制御モードとを切り替える場合に、フィードバックの切替に起因する急激な応答性の低下を抑制する。
【解決手段】燃料電池2と負荷装置との間に設けられたコンバータ10と、コンバータ10の動作を制御する制御手段7と、を備える燃料電池システム1である。制御手段7は、燃料電池2の出力電力に基づいてコンバータ10の動作を制御する電力フィードバック制御モードと、燃料電池2の出力電圧に基づいてコンバータ10の動作を制御する電圧フィードバック制御モードと、を切り替えて実施し、切替前後のフィードバック変数に所定の閾値以上の差がある場合に、切替前のフィードバック変数から切替後のフィードバック変数へとフィードバック変数を漸次変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、反応ガス(燃料ガス及び酸化ガス)の供給を受けて発電を行う燃料電池を蓄電池等の二次電池とともに搭載して構成したハイブリッド電力供給装置が提案されている。例えば、主電源部(燃料電池)と、補助電源部(バッテリ)と、主電源部の出力電圧を所定の直流電圧に調整して出力する電圧調整部(DC−DCコンバータ等)と、を備えるハイブリッド電力供給装置が従来提案されている(特許文献1参照)。このような装置の電圧調整部は、主電源部の動作パラメータに応じて、フィードフォワード駆動モード及びフィードバック駆動モードの何れか一方で動作するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−178287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、現在においては、燃料電池を備えるハイブリッド電力供給装置において、燃料電池から供給される直流電圧をより大きい直流電圧に変換するための大電力用の多相コンバータを設ける技術が提案されている。このような多相コンバータにおいては、フィードバック制御を採用して各駆動相のスイッチング素子のデューティ比を調整している。
【0005】
近年においては、システムの運転状態に応じて電力フィードバック制御モードと電圧フィードバック制御モードとを切り替える多相コンバータ制御の開発が進められている。このような切替制御は、通常の運転状態においては燃料電池の出力電力に応じて多相コンバータを制御する(電力フィードバック制御モード)一方、燃料電池の出力電圧が上限値を上回る(又は下限値を下回る)ような運転状態においては出力電圧に応じて多相コンバータを制御する(電圧フィードバック制御モード)ものである。
【0006】
ところが、前記したような切替制御においては、電力フィードバック制御モードから電圧フィードバック制御モードへと(又は電圧フィードバック制御モードから電力フィードバック制御モードへと)切り替える際に、切替前後のフィードバック変数に隔たりが生じる場合がある。このように切替前後のフィードバック変数に隔たりがあると、例えば多相コンバータによって供給される直流電圧がフィードバックモードの切替後に急激に低下し、その結果、要求電力に対する燃料電池の出力電力の応答性が急激に低下するという問題が発生し得る。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、燃料電池システムのコンバータ制御において運転状態に応じて電力フィードバック制御モードと電圧フィードバック制御モードとを切り替える場合に、フィードバックモードの切替に起因する急激な応答性の低下を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明に係る燃料電池システムは、燃料電池と負荷装置との間に設けられたコンバータと、このコンバータの動作を制御する制御手段と、を備える燃料電池システムであって、制御手段は、燃料電池の出力電力に基づいてコンバータの動作を制御する電力フィードバック制御モードと、燃料電池の出力電圧に基づいてコンバータの動作を制御する電圧フィードバック制御モードと、を切り替えて実施するものであって、切替前後のフィードバック変数に所定の閾値以上の差がある場合に、切替前のフィードバック変数から切替後のフィードバック変数へとフィードバック変数を漸次変化させるものである。
【0009】
かかる構成を採用すると、電力フィードバック制御モードから電圧フィードバック制御モードへと(又は電圧フィードバック制御モードから電力フィードバック制御モードへと)切り替える際に、切替前後のフィードバック変数に所定の閾値以上の差があった場合においても、フィードバック変数を漸次変化させることができる。従って、切替前後のフィードバック変数に隔たりがあることに起因する急激な応答性の低下を抑制することができる。
【0010】
本発明に係る燃料電池システムにおいて、電力フィードバック制御モードから電圧フィードバック制御モードへと切り替える際のフィードバック変数の変化速度と、電圧フィードバック制御から電力フィードバック制御へと切り替える際のフィードバック変数の変化速度と、を異ならせる制御手段を採用することができる。例えば、電力フィードバック制御モードから電圧フィードバック制御モードへと切り替える際のフィードバック変数の変化速度よりも、電圧フィードバック制御から電力フィードバック制御へと切り替える際のフィードバック変数の変化速度を大きく設定することができる。
【0011】
また、本発明に係る燃料電池システムにおいて、電力フィードバック制御モードにおけるフィードバック変数を電流補正値IPとし、電圧フィードバック制御モードにおけるフィードバック変数を電流補正値IVとし、切替率をα(0<α<1)とした場合に、変化させるフィードバック変数としての電流補正値Iを以下の式
I=α×IP+(1−α)×IV
により算出する制御手段を採用することができる。
【0012】
また、本発明に係る燃料電池システムにおいて、電力フィードバック制御モードから電圧フィードバック制御モードへの切替が完了した時点で、前記電力フィードバック制御モードにおけるフィードバック変数を初期化する(所定の初期値に設定する)制御手段を採用することができる。同様に、電圧フィードバック制御モードから電力フィードバック制御モードへの切替が完了した時点で、電圧フィードバック制御モードにおけるフィードバック変数を初期化する(所定の初期値に設定する)制御手段を採用することもできる。
【0013】
かかる構成を採用すると、補正項の蓄積で応答性が低下することを抑制することができる。
【0014】
また、本発明に係る燃料電池システムにおいて、各フィードバック制御モードにおいてフィードバック変数を算出する際に積分フィードバックゲインを採用し、かつ、算出されたフィードバック変数が所定の上限値を上回る(又は所定の下限値を下回る)場合において、積分フィードバックゲインを零に設定する(積分項の蓄積を停止する)こともできる。
【0015】
かかる構成を採用すると、応答性の低下をさらに効果的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、燃料電池システムのコンバータ制御において運転状態に応じて電力フィードバック制御モードと電圧フィードバック制御モードとを切り替える場合に、フィードバックモードの切替に起因する急激な応答性の低下を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係る燃料電池システムの構成図である。
【図2】図1に示す燃料電池システムのFCコンバータ制御を説明するためのブロック図である。
【図3】図1に示す燃料電池システムのFCコンバータ制御におけるフィードバックモードフラグの時間履歴を示すタイムチャートである。
【図4】図1に示す燃料電池システムのFCコンバータ制御におけるフィードバック変数の切替率の時間履歴を示すタイムチャートである。
【図5】図1に示す燃料電池システムのFCコンバータ制御におけるフィードバックモード切替状態の時間履歴を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る燃料電池システム1について説明する。本実施形態に係る燃料電池システム1は、燃料電池車両に搭載された発電システムである。
【0019】
燃料電池システム1は、図1に示すように、燃料電池2やバッテリ3で発生させた電力を、インバータ4を介してトラクションモータ5に供給することにより、トラクションモータ5を回転駆動するものである。燃料電池システム1は、燃料電池2とインバータ4との間に設けられたFCコンバータ10、バッテリ3とインバータ4との間に設けられたバッテリコンバータ6、システム全体を統合制御するコントローラ7等を備えている。
【0020】
燃料電池2は、複数の単電池を直列に積層して構成した固体高分子電解質型セルスタックである。燃料電池2においては、アノード電極において以下の(1)式の酸化反応が生じ、カソード電極において以下の(2)式の還元反応が生じ、燃料電池2全体としては以下の(3)式の起電反応が生じる。
【0021】
2→2H++2e- ・・・(1)
(1/2)O2+2H++2e-→H2O ・・・(2)
2+(1/2)O2→H2O ・・・(3)
【0022】
燃料電池2を構成する単電池は、高分子電解質膜をアノード電極及びカソード電極の二つの電極で挟み込んで構成した膜・電極接合体(MEA)を、燃料ガス及び酸化ガスを供給するためのセパレータで挟み込んだ構造を有している。燃料電池2には、燃料ガスをアノード電極に供給する系統、酸化ガスをカソード電極に供給する系統、冷却液をセパレータ内に供給する系統が設けられており、コントローラ7からの制御信号に応じて燃料ガスの供給量や酸化ガスの供給量が制御されることにより、所望の電力を発生させることができるようになっている。
【0023】
FCコンバータ10は、燃料電池2の出力電圧を制御する機能を果たす。本実施形態におけるFCコンバータ10は、図1に示すように、U相コンバータ11、V相コンバータ12、W相コンバータ13、X相コンバータ14の4相を並列に接続した多相コンバータである。FCコンバータ10は、トラクションモータ5等の負荷装置の負荷(要求電力)に応じて、1相(例えばU相)のみを使用する1相駆動、2相(例えばU相とV相)を使用する2相駆動、3相(例えばU相とV相とW相)を使用する3相駆動、全ての駆動相を使用する4相駆動、といった駆動相の切替を行うことができるようになっている。
【0024】
FCコンバータ10は、燃料電池2の出力電圧を目標出力に応じた電圧となるように制御する。なお、FCコンバータ10の出力電圧や出力電流は、図示していない電圧センサ及び電流センサにより検出することができるようになっている。また、本実施形態においては、各駆動相のリアクトルに流れる電流(リアクトル電流)を検出するためのリアクトル電流センサが設けられている。
【0025】
FCコンバータ10の各駆動相(U相、V相、W相、X相)に用いられるスイッチング素子の種類としては、例えば、接合ショットキーダイオード、p−i−n/ショットキー複合ダイオード、MOS障壁ショットキーダイオード等のダイオード類、バイポーラ接合型トランジスタ(BJT)やダーリントンといった電流制御型トランジスタ、通常サイリスタやGTO(Gate Turn Off)サイリスタ等のサイリスタ類、MOS電界効果(FET)トランジスタ、絶縁ゲートバイポーラ型トランジスタ(IGBT)、注入促進型絶縁ゲートトランジスタ(IEGT)等の電圧制御型トランジスタ、等を挙げることができる。これらの中では、サイリスタ類及び電圧制御型トランジスタが好ましい。
【0026】
バッテリ3は、トラクションモータ5に対して燃料電池2と並列に接続されており、余剰電力や回生制動時の回生エネルギを蓄える機能を有するとともに、燃料電池車両の加速又は減速に伴う負荷変動時のエネルギーバッファとして機能するものである。バッテリ3としては、例えば、ニッケル・カドミウム蓄電池、ニッケル・水素蓄電池、リチウム二次電池等の二次電池を採用することができる。
【0027】
バッテリコンバータ6は、インバータ4の入力電圧を制御する機能を果たすものであり、例えばFCコンバータ10と同様の回路構成を有するものを採用することができる。バッテリコンバータ6としては、昇圧型のコンバータを採用してもよいが、これに代えて昇圧動作及び降圧動作が可能な昇降圧型のコンバータを採用してもよく、インバータ4の入力電圧の制御が可能なあらゆる構成を採用することができる。
【0028】
インバータ4は、例えばパルス幅変調方式で駆動されるPWMインバータを採用することができ、コントローラ7からの制御指令に従って、燃料電池2やバッテリ3から供給される直流電力を三相交流電力に変換して、トラクションモータ5の回転トルクを制御する。
【0029】
トラクションモータ5は、燃料電池車両の動力となる回転トルクを発生させるものであり、減速時には回生電力を発生させるようにも構成されている。トラクションモータ5の回転トルクは、減速装置8によって所定の回転数に減速させられた上で、シャフト8aを介してタイヤ9に伝達される。なお、本実施形態においては、燃料電池2から供給される電力を受けて作動する全ての機器(トラクションモータ5及び減速装置8を含む)を負荷装置と総称することとする。
【0030】
コントローラ7は、燃料電池システム1を統合制御するためのコンピュータシステムであり、例えばCPU、RAM、ROM等を有している。コントローラ7は、各種センサから供給される信号(例えば、アクセル開度を表す信号、車速を表す信号、燃料電池2の出力電流や出力電圧を表す信号等)の入力を受けて、負荷装置の負荷(要求電力)を算出する。
【0031】
負荷装置の負荷は、例えば車両走行電力と補機電力との合計値である。補機電力には、車載補機類(エアコンプレッサ、水素ポンプ、冷却水循環ポンプ等)で消費される電力、車両走行に必要な装置(変速機、車輪制御装置、操舵装置、懸架装置等)で消費される電力、乗員空間内に配置される装置(空調装置、照明器具、オーディオ等)で消費される電力、等が含まれる。
【0032】
そして、コントローラ7は、燃料電池2とバッテリ3との各々の出力電力の配分を決定し、発電指令値を算出する。コントローラ7は、燃料電池2及びバッテリ3に対する要求電力を算出すると、これらの要求電力が得られるようにFCコンバータ10及びバッテリコンバータ6の動作を制御する。すなわち、コントローラ7は、本発明における制御手段として機能するものである。
【0033】
本実施形態におけるコントローラ7は、FCコンバータ10の動作を制御する際に、燃料電池2の出力電力に基づいてFCコンバータ10の動作を制御する「電力フィードバック制御モード」と、燃料電池2の出力電圧に基づいてFCコンバータ10の動作を制御する「電圧フィードバック制御モード」と、を切り替えて実施する。
【0034】
ここで、図2〜図5を用いて、コントローラ7によるFCコンバータ制御の詳細について説明する。
【0035】
<電力フィードバック制御モード>
最初に、燃料電池2の出力電力に基づいてFCコンバータ10の動作を制御する「電力フィードバック制御モード」について説明する。コントローラ7は、燃料電池2の運転状態を監視し、通常の運転状態においては、FCコンバータ10の動作を制御する際に電力フィードバック制御モードを採用する。
【0036】
まず、コントローラ7は、要求電力等に基づいて電力指令値PREFを算出するとともに、燃料電池2の出力電力PMESを検出する。そして、コントローラ7は、図2に示すように、電力指令値PREFに対する出力電力PMESの偏差(PREF−PMES)と、電力フィードバックゲインKFB_Pと、に基づいて、電力フィードバックによる電流補正値IPを算出する。
【0037】
次いで、コントローラ7は、要求電力等に基づいて算出した電流指令値IREFに、電力フィードバックによる電流補正値IPを加算することにより、電力フィードバックにより補正した電流指令値IREF_P(=IREF+IP)を算出するとともに、燃料電池2の出力電流IMESを検出する。そして、コントローラ7は、電力フィードバックにより補正した電流指令値IREF_Pに対する出力電流IMESの偏差(IREF_P−IMES)と、電流フィードバックゲインKFB_Iと、に基づいて、電力・電流フィードバックによるデューティ項DFB_Pを算出する。また、コントローラ7は、電力フィードバックにより補正した電流指令値IREF_Pに電流フィードフォワードゲインKFF_Iを乗じることにより、電力フィードバック・電流フィードフォワードによるデューティ項DFF_Pを算出する。
【0038】
その後、コントローラ7は、電力・電流フィードバックによるデューティ項DFB_Pと、電力フィードバック・電流フィードフォワードによるデューティ項DFF_Pと、を加算することにより電力フィードバックによるデューティ指令値D(=DFB_P+DFF_P)を算出し、このデューティ指令値Dを用いてFCコンバータ10の動作を制御する。なお、各種フィードバックゲイン(電力フィードバックゲインKFB_Pや電流フィードバックゲインKFB_I)としては、比例ゲインや積分ゲインを採用することができる。
【0039】
<電圧フィードバック制御モード>
次に、燃料電池2の出力電圧に基づいてFCコンバータ10の動作を制御する「電圧フィードバック制御モード」について説明する。コントローラ7は、燃料電池2の運転状態を監視し、燃料電池2の出力電圧が所定の上限値を上回る(又は所定の下限値を下回る)ような特殊な運転状態において、FCコンバータ10の動作を制御する際に電圧フィードバック制御モードを採用する。電圧フィードバック制御モードは、燃料電池2の劣化抑制や最低電力確保等を目的とするものである。
【0040】
まず、コントローラ7は、燃料電池2の仕様(上限電圧値や下限電圧値)を考慮して電圧指令値VREFを算出するとともに、燃料電池2の出力電圧VMESを検出する。そして、コントローラ7は、図2に示すように、電圧指令値VREFに対する出力電圧VMESの偏差(VREF−VMES)と、電圧フィードバックゲインKFB_Vと、に基づいて、電圧フィードバックによる電流補正値IVを算出する。
【0041】
次いで、コントローラ7は、要求電力等に基づいて算出した電流指令値IREFに、電圧フィードバックによる電流補正値IVを加算することにより、電圧フィードバックにより補正した電流指令値IREF_V(=IREF+IV)を算出するとともに、燃料電池2の出力電流IMESを検出する。そして、コントローラ7は、電圧フィードバックにより補正した電流指令値IREF_Vに対する出力電流IMESの偏差(IREF_V−IMES)と、電流フィードバックゲインKFB_Iと、に基づいて、電圧・電流フィードバックによるデューティ項DFB_Vを算出する。また、コントローラ7は、電圧フィードバックにより補正した電流指令値IREF_Vに電流フィードフォワードゲインKFF_Iを乗じることにより、電圧フィードバック・電流フィードフォワードによるデューティ項DFF_Vを算出する。
【0042】
その後、コントローラ7は、電圧・電流フィードバックによるデューティ項DFB_Vと、電圧フィードバック・電流フィードフォワードによるデューティ項DFF_Vと、を加算することにより電圧フィードバックによるデューティ指令値D(=DFB_V+DFF_V)を算出し、このデューティ指令値Dを用いてFCコンバータ10の動作を制御する。なお、電圧フィードバックゲインKFB_Vとしては、比例ゲインや積分ゲインを採用することができる。
【0043】
<フィードバックモード切替制御>
続いて、フィードバックモード切替制御について説明する。コントローラ7は、通常の運転状態においては電力フィードバック制御モードを採用してFCコンバータ10の動作を制御する一方、燃料電池2の出力電圧が所定の上限値を上回る(又は所定の下限値を下回る)ような特殊な運転状態においては電圧フィードバック制御モードを採用してFCコンバータ10の動作を制御する。
【0044】
コントローラ7は、燃料電池2の運転状態が通常の運転状態から特殊な運転状態に移行したものと判断した場合に、切替信号SSを出力して、電力フィードバック制御モードから電圧フィードバック制御モードへとFCコンバータ10の制御モードを切り替える。なお、コントローラ7は、燃料電池2の出力電圧が所定の上限値(例えば300V)を上回った場合、又は、燃料電池2の出力電圧が所定の下限値(例えば150V)を下回った場合に、通常の運転状態から特殊な運転状態に移行したものと判断することができる。
【0045】
コントローラ7は、電力フィードバック制御モードから電圧フィードバック制御モードへと切り替える際に、切替前のフィードバック変数(電流補正値IP)に対する切替後のフィードバック変数(電流補正値IV)の偏差ΔI(=IP−IV)の絶対値を算出する。そして、コントローラ7は、この偏差ΔIの絶対値が所定の閾値以上である場合に、切替前のフィードバック変数(電流補正値IP)から切替後のフィードバック変数(電流補正値IV)へとフィードバック変数を漸次変化させる。
【0046】
また、コントローラ7は、燃料電池2の運転状態が特殊な運転状態から通常な運転状態に移行したものと判断した場合においても、切替信号SSを出力して、電圧フィードバック制御モードから電力フィードバック制御モードへとFCコンバータ10の制御モードを切り替える。この際においても、コントローラ7は、切替前のフィードバック変数(電流補正値IV)に対する切替後のフィードバック変数(電流補正値IP)の偏差ΔI(=IV−IP)の絶対値を算出し、この偏差ΔIの絶対値が所定の閾値以上である場合に、切替前のフィードバック変数(電流補正値IV)から切替後のフィードバック変数(電流補正値IP)へとフィードバック変数を漸次変化させる。
【0047】
本実施形態において、コントローラ7は、フィードバック変数の切替率をα(0<α<1)とした場合に、変化させるフィードバック変数としての電流補正値Iを以下の式
I=α×IP+(1−α)×IV
により算出する。
【0048】
ここで、図3〜図5のタイムチャートを用いて、本実施形態におけるフィードバックモード切替制御を時間軸に沿って説明する。図3のタイムチャートは、フィードバックモードフラグの時間履歴を示すものであり、電力フィードバック制御モードのフラグを「1」、電圧フィードバック制御モードのフラグを「0」としている。図4のタイムチャートは、切替率αの時間履歴を示すものである。図5のタイムチャートは、フィードバックモード切替状態の時間履歴を示すものであり、電力フィードバック制御モードを実施している状態を「0」、電力フィードバック制御モードから電圧フィードバック制御モードへと遷移している状態を「1」、電圧フィードバック制御モードを実施している状態を「2」、電圧フィードバック制御モードから電力フィードバック制御モードへと遷移している状態を「3」で表している。
【0049】
コントローラ7は、図3〜図5に示されるように、フィードバックモードフラグが「1」から「0」へと切り替わった時点(フィードバックモード切替状態が「0」から「1」へと切り替わった時点)から、切替率αを1から線形的に減少させ、時間T1が経過した時点で切替率αを0とする。この時点で、フィードバックモード切替状態が「1」から「2」へと切り替わることとなる。所要時間T1で1から0まで減少する切替率αは、以下のような時間tの線形関数となる。
α=1−(1/T1)×t
この場合、電流補正値Iは、以下のような時間tの線形関数で表される。
I=IP−(IP−IV)/T1×t=IP−ΔI/T1×t
【0050】
一方、コントローラ7は、フィードバックモードフラグが「0」から「1」へと切り替わった時点(フィードバックモード切替状態が「2」から「3」へと切り替わった時点)から、切替率αを0から線形的に増加させ、時間T2が経過した時点で切替率αを1とする。この時点で、フィードバックモード切替状態が「3」から「0」へと切り替わることとなる。所要時間T2で0から1まで増加する切替率αは、以下のような時間tの線形関数となる。
α=(1/T2)×t
この場合、電流補正値Iは、以下のような時間tの線形関数で表される。
I=IV+(IP−IV)/T2×t=IV+ΔI/T2×t
【0051】
本実施形態においては、電力フィードバック制御モードから電圧フィードバック制御モードへと切り替える際の切替率αの減少時間T1よりも、電圧フィードバック制御モードから電力フィードバック制御モードへと切り替える際の切替率αの増加時間T2を短く設定している(T1>T2)。換言すると、本実施形態においては、電力フィードバック制御モードから電圧フィードバック制御モードへと切り替える際のフィードバック変数の変化速度(ΔI/T1)よりも、電圧フィードバック制御モードから電力フィードバック制御モードへと切り替える際のフィードバック変数の変化速度(ΔI/T2)を大きく設定している。
【0052】
以上説明した実施形態に係る燃料電池システム1においては、電力フィードバック制御モードから電圧フィードバック制御モードへと(又は電圧フィードバック制御モードから電力フィードバック制御モードへと)切り替える際に、切替前後のフィードバック変数に所定の閾値以上の差があった場合においても、フィードバック変数を漸次変化させることができる。従って、切替前後のフィードバック変数に隔たりがあることに起因する急激な応答性の低下を抑制することができる。
【0053】
すなわち、燃料電池2の運転状態が通常の運転状態から特殊な運転状態へと移行した場合に、電力フィードバック制御モードから電圧フィードバック制御モードへと徐々に移行させることができるので、FCコンバータ10によって供給される直流電圧がフィードバックモードの切替後に急激に低下することがなく、要求電力に対する燃料電池2の出力電力の応答性が急激に低下することがない。一方、燃料電池2の運転状態が特殊な運転状態から通常の運転状態へと復帰した場合には、電圧フィードバック制御モードから本来の電力フィードバック制御モードへと比較的速やかに移行させることができるので、要求電力に対して出力電力を速やかに応答させることができる。
【0054】
なお、本実施形態においては、時間tの線形関数としての切替率αを含む所定の式を用いて、フィードバック変数(電流補正値I)を線形的に変化させた例を示したが、フィードバック変数の変化態様はこれに限られるものではない。例えば、所定のマップを参照して切替率αを非線形的に変化させ、これに伴ってフィードバック変数を非線形的に変化させることもできる。
【0055】
また、本実施形態においては、FCコンバータ10の動作を制御する際に、電力フィードバック制御モードと電圧フィードバック制御モードと、を切り替えて実施するコントローラ7について例示したが、このコントローラ7に以下のような付加的な機能を付与することもできる。
【0056】
例えば、コントローラ7は、電力フィードバック制御モードから電圧フィードバック制御モードへの切替が完了した時点(図5に示すフィードバックモード切替状態が「1」から「2」へと切り替わった時点)で、電力フィードバック制御モードにおけるフィードバック変数(電流補正値IP)を初期化する(所定の初期値に設定する)ことができる。同様に、コントローラ7は、電圧フィードバック制御モードから電力フィードバック制御モードへの切替が完了した時点(図5に示すフィードバックモード切替状態が「3」から「0」へと切り替わった時点)で、電圧フィードバック制御モードにおけるフィードバック変数(電流補正値IV)を初期化する(所定の初期値に設定する)ことができる。このようにすると、補正項の蓄積で応答性が低下することを抑制することができる。
【0057】
また、コントローラ7は、各フィードバック制御モードにおいて算出されたフィードバック変数としての電流補正値(IP又はIV)やデューティ指令値(D)が所定の上限値を上回る(又は所定の下限値を下回る)場合において、各フィードバック制御モードの積分フィードバックゲインを零に設定する(積分項の蓄積を停止する)こともできる。このようにすると、応答性の低下をさらに効果的に抑制することができる。
【0058】
また、コントローラ7は、要求電力に応じてFCコンバータ10の駆動相数が変化した場合に、駆動相数に応じてフィードバック変数(電流補正値)の上限値や下限値を変化させることもできる。
【0059】
なお、以上の実施形態においては、本発明に係る燃料電池システムを燃料電池車両に搭載した例を示したが、燃料電池車両以外の各種移動体(ロボット、船舶、航空機等)に本発明に係る燃料電池システムを搭載することもできる。また、本発明に係る燃料電池システムを、建物(住宅、ビル等)用の発電設備として用いられる定置用発電システムに適用してもよい。さらには、携帯型の燃料電池システムにも適用可能である。
【符号の説明】
【0060】
1…燃料電池システム、2…燃料電池、5…トラクションモータ(負荷装置)、7…コントローラ(制御手段)、10…FCコンバータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池と負荷装置との間に設けられたコンバータと、前記コンバータの動作を制御する制御手段と、を備える燃料電池システムであって、
前記制御手段は、前記燃料電池の出力電力に基づいて前記コンバータの動作を制御する電力フィードバック制御モードと、前記燃料電池の出力電圧に基づいて前記コンバータの動作を制御する電圧フィードバック制御モードと、を切り替えて実施するものであって、切替前後のフィードバック変数に所定の閾値以上の差がある場合に、切替前のフィードバック変数から切替後のフィードバック変数へとフィードバック変数を漸次変化させるものである、
燃料電池システム。
【請求項2】
前記制御手段は、前記電力フィードバック制御モードから前記電圧フィードバック制御モードへと切り替える際のフィードバック変数の変化速度と、前記電圧フィードバック制御モードから前記電力フィードバック制御モードへと切り替える際のフィードバック変数の変化速度と、を異ならせるものである、
請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記制御手段は、前記電力フィードバック制御モードから前記電圧フィードバック制御モードへと切り替える際のフィードバック変数の変化速度よりも、前記電圧フィードバック制御モードから前記電力フィードバック制御モードへと切り替える際のフィードバック変数の変化速度を大きく設定するものである、
請求項2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記制御手段は、前記電力フィードバック制御モードにおけるフィードバック変数を電流補正値IPとし、前記電圧フィードバック制御モードにおけるフィードバック変数を電流補正値IVとし、切替率をα(0<α<1)とした場合に、変化させるフィードバック変数としての電流補正値Iを、以下の式
I=α×IP+(1−α)×IV
により算出するものである、
請求項1から3の何れか一項に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記制御手段は、前記電力フィードバック制御モードから前記電圧フィードバック制御モードへの切替が完了した時点で、前記電力フィードバック制御モードにおけるフィードバック変数を初期化するものである、
請求項1から4の何れか一項に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記制御手段は、前記電圧フィードバック制御モードから前記電力フィードバック制御モードへの切替が完了した時点で、前記電圧フィードバック制御モードにおけるフィードバック変数を初期化するものである、
請求項1から5の何れか一項に記載の燃料電池システム。
【請求項7】
前記制御手段は、前記各フィードバック制御モードにおいてフィードバック変数を算出する際に積分フィードバックゲインを採用し、かつ、算出されたフィードバック変数が所定の上限値を上回る場合において、前記積分フィードバックゲインを零に設定するものである、
請求項1から6の何れか一項に記載の燃料電池システム。
【請求項8】
前記制御手段は、前記各フィードバック制御モードにおいてフィードバック変数を算出する際に積分フィードバックゲインを採用し、かつ、算出されたフィードバック変数が所定の下限値を下回る場合において、前記積分フィードバックゲインを零に設定するものである、
請求項1から7の何れか一項に記載の燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−33611(P2013−33611A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168440(P2011−168440)
【出願日】平成23年8月1日(2011.8.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】