説明

燃料電池システム

【課題】燃料電池の劣化抑制と蓄電装置の過充電防止とを高度に両立させることができる燃料電池システムを提供する。
【解決手段】燃料電池スタック20の出力電圧が下限高電位回避電圧となるように運転制御している場合は、相対的にバッテリ52の充電速度が高い状態であるから、バッテリ52の充電量が上限閾値に到達することが予測されれば、充電速度を下げるべく高電位回避電圧を上昇させる。その結果、より適切なタイミングで高電位回避電圧を上昇させることができる。更に、単位上昇電圧という概念を導入し、充電量が上限閾値を超えないように、下限高電位回避電圧に単位上昇電圧を加えた中間高電位回避電圧を用いて燃料電池スタック20を運転制御するので、より適切な幅で高電位回避電圧を上昇させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の出力電圧を開放端電圧(OCV)よりも低い高電位回避電圧を上限として運転制御する燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
このような燃料電池システムとして、燃料電池が発電する電力の少なくとも一部を充電する蓄電装置を備える燃料電池システムが知られている。具体的には、その蓄電装置は、燃料電池スタックから供給される電流が負荷の要求する電流より小さいときに、負荷にその要求電流を供給する一方で、負荷が回収した回生電力及び燃料電池スタックの残余の発電電力を蓄電する。
【0003】
ところで、燃料電池スタックの出力電圧が高電位領域に遷移すると、燃料電池スタックの劣化が促進される。これは、膜−電極アッセンブリの触媒層に含まれる白金触媒が高電位環境下において、イオン化して溶出するためである。このような事態を回避するため、燃料電池スタックの出力電圧が、開放端電圧(OCV)よりも低い所定の上限電圧すなわち高電位回避電圧を超えないように、いわゆる高電位回避制御が行われている(例えば、下記特許文献1参照)。
【0004】
高電位回避制御を行うと、燃料電池スタックへの発電要求がない場合であっても、電流の取り出しを継続して電圧上昇を抑制するため、燃料電池スタックの発電が生じる。このような高電位回避制御の特性から、例えばアイドルストップといった低負荷時には、燃料電池スタックの発電電力の行き場が蓄電装置のみになる。蓄電装置の充電量に十分な余裕がある場合は、燃料電池スタックの発電電力を蓄電することが可能であるけれども、蓄電装置の充電量が所定の閾値を超えた場合には過充電防止の方策を取る必要がある。
【0005】
低負荷時であっても燃料電池スタックが発電を継続するのは高電位回避制御を行うためであるから、蓄電装置の充電量が所定の閾値を超えそうな場合、高電位回避制御を取りやめて燃料電池スタックを開放端電圧まで昇圧するか、若しくは開放端電圧に近い電圧まで高電位回避電圧を引き上げて出力電圧を抑制することが行われる。
【0006】
このように、高電位回避制御と蓄電装置の過充電防止とはトレードオフの関係にあるから、蓄電装置の過充電防止に最大限の配慮をしつつ、高電位回避制御の実施時間を可能な限り延長することが好ましいものである。そこで下記特許文献2では、蓄電装置の充電量が少ない場合に高電位回避電圧を低く設定し、充電量が多い場合に高電位回避電圧を高く設定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−109569号公報
【特許文献2】特開2009−129647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、蓄電装置の充電量の多少に応じて単純に高電位回避電圧の高低を変化させるだけでは、燃料電池スタックの劣化防止と蓄電装置の過充電防止とを高度に両立させることが困難である。燃料電池スタックの発電状態が常に変わらなければ、蓄電装置の充電余力に対して燃料電池スタックの発電による充電速度を正確に把握し、高電位回避電圧の高低を変化させることのみで対応することも可能である。しかしながら、例えば車両に搭載される燃料電池システムでは、燃料電池スタックの発電状態は時々刻々と変化するものであり、蓄電装置の充電量の多少を把握したとしても、その充電余力に対してどれくらいの時間充電可能かを把握することはできない。
【0009】
従って、蓄電装置の過充電防止に主眼を置けば、蓄電装置の充電量にかなり余裕をもたせる必要があるから、高電位回避電圧を引き上げる充電量の閾値を低めに設定せざるを得ず、結果として開放端電圧に近い電圧まで引き上げられる頻度が高まる。これは、実質的に高電位回避電圧制御の効果を低減させるものであり、何らかの対策が必要である。
【0010】
一方、高電位回避電圧を低く抑えることに主眼を置けば、高電位回避電圧を引き上げる充電量の閾値を高めに設定せざるを得ず、結果として頻繁に過充電状態となるおそれがある。これは、過充電防止に配慮していないことになり、やはり何らかの対策が必要である。
【0011】
本発明は上述した課題を解決するためになされたものであって、燃料電池の劣化抑制と蓄電装置の過充電防止とを高度に両立させることができる燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明に係る燃料電池システムは、反応ガスの供給を受けて発電する燃料電池と、前記燃料電池が発電する電力の少なくとも一部を充電する蓄電装置と、前記燃料電池の出力電圧をその開放端電圧よりも低い高電位回避電圧を上限として運転制御する制御部と、を備える。前記制御部は、前記高電位回避電圧を設定する高電位回避電圧値を、前記開放端電圧よりも低い電圧を設定する上限高電位回避電圧値を上限とし、前記上限高電位回避電圧値よりも低い下限高電位回避電圧値を下限として運転制御する。前記制御部は、前記高電位回避電圧値が前記下限高電位回避電圧値となるように運転制御している場合に、前記蓄電装置の充電量が前記上限充電閾値に到達することが予測されると、前記充電量が前記上限充電閾値を超えないように、前記高電位回避電圧値を、前記上限高電位回避電圧値と前記下限高電位回避電圧値との差分以下の単位上昇電圧値を前記下限高電位回避電圧値に加えた中間高電位回避電圧値として運転制御する。
【0013】
本発明によれば、高電位回避電圧値が下限高電位回避電圧値となるように運転制御している場合は、相対的に蓄電装置の充電速度が高い状態であるから、蓄電装置の充電量が上限充電閾値に到達することが予測されれば、充電速度を下げるべく高電位回避電圧を上昇させることができる。単に蓄電装置における充電量に基づいて高電位回避電圧値を上昇させるのではなく、蓄電装置の充電量が上限充電閾値に到達することが予測される場合に高電位回避電圧値を上昇させるので、より適切なタイミングで高電位回避電圧値を上昇させることができる。更に、単位上昇電圧値という概念を導入し、充電量が上限充電閾値を超えないように、下限高電位回避電圧値に単位上昇電圧値を加えた中間高電位回避電圧値を用いて燃料電池を運転制御するので、より適切な幅で高電位回避電圧を上昇させることができる。従って、より適切な幅で増加させた中間高電位回避電圧値を用い、より適切なタイミングで高電位回避制御を実行することができるので、燃料電池の劣化抑制と蓄電装置の過充電防止とを高度に両立させることができる。
【0014】
また本発明に係る燃料電池システムでは、前記制御部は、前記蓄電装置の上限充電閾値に対して前記蓄電装置が充電可能な充電量である充電余力量を取得し、この充電余力量の増減傾向に基づいて前記単位上昇電圧値を設定することも好ましい。
【0015】
この好ましい態様では、蓄電装置の充電余力量を取得すると共に、その充電余力量の増減傾向に基づいて単位上昇電圧値を設定するので、充電余力量が減少傾向にあればその減少度合いに応じて単位上昇電圧値を増やすことができ、高電位回避制御を継続しつつ蓄電装置への充電持続時間を確保することができる。
【0016】
また本発明に係る燃料電池システムでは、前記制御部は、前記燃料電池の発電に基づく余剰電力量から前記充電余力量の増減傾向を求めることも好ましい。
【0017】
この好ましい態様では、余剰電力量が多ければ充電余力量が減少する傾向を高めることが求められるので、より的確に充電余力量を取得することができる。充電余力量を的確に把握すると、触媒溶出量が少なくなる酸化皮膜被覆率をみながら燃料電池の出力電圧を極力抑制することができるので、酸化皮膜被覆率を十分に高めることができる。従って、酸化皮膜によって触媒の溶出が抑制される。
【0018】
また本発明に係る燃料電池システムでは、前記制御部は、前記中間高電位回避電圧値の設定を繰り返し行うことも好ましい。
【0019】
蓄電装置の充電状態や余剰電力量は、燃料電池システム全体の運転状況に応じて時々刻々と変化するものである。従って、中間高電位回避電圧値の設定を繰り返すことで、そのタイミングに最も適した値に設定することが可能となり、燃料電池の劣化抑制と蓄電装置の過充電防止とを高度に両立させることができる。より具体的には、最適な中間高電位回避電圧値を設定することで、触媒溶出量が少なくなる酸化皮膜被覆率をみながら燃料電池の出力電圧を極力抑制することができるので、酸化皮膜被覆率を十分に高めることができる。
【0020】
また本発明に係る燃料電池システムでは、前記制御部は、前記燃料電池に用いられている触媒の溶出速度を算出し、当該溶出速度がピークを超えた後に前記中間高電位回避電圧値の設定を行うことも好ましい。
【0021】
この好ましい態様では、触媒の溶出反応よりも酸化皮膜が生成する速度が若干遅いので、溶出速度がピークを超えると酸化皮膜の生成がピークを迎えることを利用している。具体的には、触媒溶出量抑制のため、酸化皮膜被覆率が上限となったと推測されるタイミングで電圧を上昇させるものとしている。従って、電圧を上昇させる前の電圧値における酸化皮膜の形成が十分になされてから電圧を上昇させることになるので、酸化皮膜によって触媒の溶出が抑制される。
【発明の効果】
【0022】
以上のように本発明によれば、燃料電池の劣化抑制と蓄電装置の過充電防止とを高度に両立させることができる燃料電池システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態に係る燃料電池システムの構成を概略的に示す構成図である。
【図2】燃料電池スタックを構成するセルの分解斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る燃料電池システムの処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】本発明の一実施形態に係る燃料電池システムの処理の流れを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添の図面を参照しつつ本発明の一実施形態を説明する。図1は、燃料電池車両の車載電源システムとして機能する本発明の一実施形態に係る燃料電池システム10のシステム構成を示すブロック図である。
【0025】
燃料電池システム10は、燃料電池車両に搭載される車載燃料電源システムとして機能するものであり、反応ガス(燃料ガス、酸化ガス)の供給を受けて発電する燃料電池すなわち燃料電池スタック20と、酸化ガスとしての空気を燃料電池スタック20に供給する酸化ガス供給系30と、燃料ガスとしての水素ガスを燃料電池スタック20に供給する燃料ガス供給系40と、電力の充放電を制御する電力系50と、燃料電池システム10の全体を統括制御するコントローラ60と、を備えている。
【0026】
燃料電池スタック20は、多数のセルを直列に積層して形成される固体高分子電解質型セルスタックである。燃料電池スタック20では、アノード極において以下の(1)式の酸化反応が生じ、カソード極において以下の(2)式の還元反応が生じる。燃料電池スタック20全体としては以下の(3)式の起電反応が生じる。
【0027】
2 → 2H++2e- (1)
(1/2)O2+2H++2e- → H2O (2)
2+(1/2)O2 → H2O (3)
【0028】
燃料電池スタック20には、燃料電池スタック20の出力電圧(FC電圧)を検出する電圧センサ71と、出力電流(FC電流)を検出する電流センサ72とが、取り付けられている。
【0029】
酸化ガス供給系30は、燃料電池スタック20のカソード極に供給される酸化ガスを流す酸化ガス通路33を有している。酸化ガス通路33には、フィルタ31を介して大気中から酸化ガスを取り込むエアコンプレッサ32と、エアコンプレッサ32により加圧される酸化ガスを加湿する加湿器35と、燃料電池スタック20への酸化ガスの供給を遮断する遮断弁A1と、が設けられている。
【0030】
酸化ガス供給系30は、燃料電池スタック20から排出される酸化オフガスを流す酸化オフガス通路34をさらに有している。酸化オフガス通路34には、燃料電池スタック20からの酸化オフガスの排出を遮断する遮断弁A2と、酸化ガス供給圧を調整する背圧調整弁A3と、酸化ガス(ドライガス)と酸化オフガス(ウェットガス)との間で水分交換する加湿器35と、が設けられている。
【0031】
燃料ガス供給系40は、燃料ガス供給源41と、燃料ガス供給源41から燃料電池スタック20のアノード極に供給される燃料ガスを流す燃料ガス通路43と、燃料電池スタック20から排出される燃料オフガスを燃料ガス通路43に帰還させる循環通路44と、循環通路44内の燃料オフガスを燃料ガス通路43に圧送する循環ポンプ45と、循環通路44に接続される排気排水通路46と、を有している。
【0032】
燃料ガス供給源41は、例えば、高圧水素タンクや水素吸蔵合金などで構成され、高圧(例えば35MPa〜70MPa)の水素ガスを貯留する。遮断弁H1を開くと、燃料ガス供給源41から燃料ガス通路43に燃料ガスが流出する。なお、燃料ガス供給源41は、炭化水素系の燃料から水素リッチな改質ガスを生成する改質器と、この改質器で生成した改質ガスを高圧状態にして蓄圧する高圧ガスタンクと、から構成されてもよい。
【0033】
燃料ガス通路43には、燃料ガス供給源41からの燃料ガスの供給を遮断又は許容する遮断弁H1と、燃料ガスの圧力を調整するレギュレータH2と、燃料電池スタック20への燃料ガス供給量を制御するインジェクタ42と、燃料電池スタック20への燃料ガス供給を遮断する遮断弁H3と、圧力センサ74と、が設けられている。燃料ガスは、レギュレータH2やインジェクタ42によって、例えば200kPa程度まで減圧されて燃料電池スタック20に供給される。
【0034】
循環通路44には、燃料電池スタック20からの燃料オフガス排出を遮断する遮断弁H4と、循環通路44から分岐する排気排水通路46と、が接続されている。排気排水通路46には排気排水弁H5が設けられている。排気排水弁H5は、コントローラ60からの指令によって作動することにより、循環通路44内の不純物を含む燃料オフガスと水分とを外部に排出する。排気排水弁H5の開放により、循環通路44内の燃料オフガス中の不純物の濃度が下がり、循環系内を循環する燃料オフガス中の水素濃度を上げることができる。
【0035】
排気排水弁H5を介して排出される燃料オフガスは、酸化オフガス通路34を流れる酸化オフガスと混合されて希釈器(図示せず)によって希釈される。循環ポンプ45は、循環系内の燃料オフガスをモータ駆動により燃料電池スタック20に循環供給する。
【0036】
電力系50は、DC/DCコンバータ51と、蓄電装置すなわちバッテリ52と、トラクションインバータ53と、トラクションモータ54と、補器類55と、を備えている。燃料電池システム10は、DC/DCコンバータ51とトラクションインバータ53とが並列に燃料電池スタック20に接続されるパラレルハイブリッドシステムとして構成されている。
【0037】
DC/DCコンバータ51は、バッテリ52から供給される直流電圧を昇圧してトラクションインバータ53に出力する機能と、燃料電池スタック20が発電した直流電力、又は回生制御によりトラクションモータ54が回収した回生電力を降圧してバッテリ52に充電する機能と、を有している。DC/DCコンバータ51のこれらの機能により、バッテリ52の充放電が制御される。また、DC/DCコンバータ51による電圧変換制御により、燃料電池スタック20の運転ポイント(出力電圧、出力電流)が制御される。
【0038】
バッテリ52は、余剰電力の貯蔵源、回生制動時の回生エネルギー貯蔵源、燃料電池車両の加速又は減速に伴う負荷変動時のエネルギーバッファとして機能する。バッテリ52としては、例えば、ニッケル・カドミウム蓄電池、ニッケル・水素蓄電池、リチウム二次電池等の二次電池が好適に用いられる。バッテリ52には、バッテリ52の充電量すなわちSOC(State of charge)を検出するためのSOCセンサ73が取り付けられている。充電量は、所定の時間間隔で継続的にSOCセンサ73からコントローラ60に出力される。
【0039】
また、バッテリ52には、貯蔵可能な電力量の上限を示す上限閾値が設定されている。この上限閾値は例えばバッテリ52の耐久性に基づいて決定されており、上限閾値を超えた電力量の貯蔵がバッテリ52で繰り返されると、バッテリ52では充電や放電の容量が著しく劣化する。従って、バッテリ52の充電量は、原則として上限閾値を下回るように制御される。
【0040】
トラクションインバータ53は、例えば、パルス幅変調方式で駆動されるPWMインバータであり、コントローラ60からの制御指令に従って、燃料電池スタック20又はバッテリ52から出力される直流電圧を三相交流電圧に変換して、トラクションモータ54の回転トルクを制御する。トラクションモータ54は、例えば、三相交流モータであり、燃料電池車両の動力源を構成する。
【0041】
補器類55は、燃料電池システム10内の各部に配置されている各モータ(例えばポンプ類などの動力源)や、これらのモータを駆動するためのインバータ類、さらには、例えばエアコンプレッサ、インジェクタ、冷却水循環ポンプ、ラジエータ、車両走行に必要な変速機、車輪制御装置、操舵装置、懸架装置など、乗員空間内に配置される空調装置、照明器具、オーディオ、カーナビゲーションシステムなどの各種の車載補器類を総称するものである。
【0042】
コントローラ60は、制御部すなわちCPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェースを備えるコンピュータシステムであり、燃料電池システム10の各部を制御する。コントローラ60は、イグニッションスイッチから出力される起動信号IGを受信すると、燃料電池システム10の運転を開始し、アクセルセンサから出力されるアクセス開度信号ACCや、車速センサから出力される車速信号VCなどに基づいて、車両走行電力や補機消費電力を算出する。そして、コントローラ60は、車両走行電力と補機消費電力との合計値から算出する発電指令値と、高電位回避電圧から算出される発電指令値とのうちの大きい方を燃料電池スタック20に対する発電指令値として発電制御する。
【0043】
コントローラ60はさらに、燃料電池スタック20とバッテリ52とのそれぞれの出力電力の配分を決定し、燃料電池スタック20の発電量が目標電力に一致するように、酸化ガス供給系30及び燃料ガス供給系40を制御するとともに、DC/DCコンバータ51を制御して、燃料電池スタック20の出力電圧を制御する。さらに、コントローラ60は、アクセル開度に応じた目標トルクが得られるように、例えばスイッチング指令としてU相、V相及びW相の各交流電圧指令値をトラクションインバータ53に出力し、トラクションモータ54の出力トルク及び回転数を制御する。
【0044】
図2は燃料電池スタック20を構成するセル21の分解斜視図である。セル21は、高分子電解質膜22と、アノード極23と、カソード極24と、セパレータ26、27と、を備えている。アノード極23及びカソード極24は、高分子電解質膜22を両側から挟んでサンドイッチ構造を形成する拡散電極である。ガス不透過の導電性部材から形成されるセパレータ26、27は、このサンドイッチ構造をさらに両側から挟みつつ、アノード極23及びカソード極24との間にそれぞれ燃料ガス及び酸化ガスの流路を形成する。
【0045】
セパレータ26には断面凹状のリブ26aが形成されている。このリブ26aにアノード極23が当接することによって、リブ26aの開口部が閉塞され、燃料ガス流路が形成される。同様に、セパレータ27にも断面凹状のリブ27aが形成されている。リブ27aにカソード極24が当接することによって、リブ27aの開口部が閉塞され、酸化ガス流路が形成される。
【0046】
アノード極23は、白金系の金属触媒(Pt、Pt−Fe、Pt−Cr、Pt−Ni、Pt−Ruなど)を担持するカーボン粉末を主成分とし、高分子電解質膜22に接する触媒層23aと、この触媒層23aの表面に形成されて通気性及び電子導電性を有するガス拡散層23bと、を有している。同様に、カソード極24は、前述の白金系の金属触媒を担持するカーボン粉末を主成分とし、高分子電解質膜22に接する触媒層24aと、この触媒層24aの表面に形成されて通気性及び電子導電性を有するガス拡散層24bと、を有している。
【0047】
より詳細には、触媒層23a、24aは、白金、又は白金と他の金属とから形成される合金を担持したカーボン粉を適当な有機溶媒に分散させ、電解質溶液を適量添加してペースト状にし、高分子電解質膜22上にスクリーン印刷したものである。ガス拡散層23b、24bは、炭素繊維から形成される糸から形成したカーボンクロス、カーボンペーペー、又はカーボンフェルトから形成される。高分子電解質膜22は、固体高分子材料、例えば、フッ素系樹脂から形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜であり、湿潤状態で良好な電気伝導性を発揮する。高分子電解質膜22と、アノード極23、及びカソード極24によって膜電極アセンブリ25が形成される。
【0048】
ここで、カーボン粉末に担持された白金系の金属触媒では、燃料電池スタック20の出力電圧の上昇によってイオン化して溶出反応が生じる。その一方で、金属触媒の表面には酸素が吸着することによって金属触媒の表面には酸化被膜が形成される。この酸化被膜は金属触媒の溶出を抑制する。従って、この酸化被膜が金属触媒の表面を被覆する割合を示す被覆率が増大するにつれて、金属触媒の溶出は抑制されていく。この被覆率と燃料電池スタック20のIV特性との相対関係は、予め算出されてコントローラ60で保持されている。従って、コントローラ60は、例えば燃料電池スタック20の出力電圧の変化から酸化被膜の被覆率の変化に基づいて金属触媒の溶出速度の変化を算出することができる。
【0049】
次に、燃料電池システム10の運転制御方法について説明する。図3は燃料電池システム10の処理の流れを示すフローチャートであり、図4は燃料電池システム10の処理の流れを示すグラフである。燃料電池システム10の運転中、コントローラ60は、開放端電圧(OCV)よりも低い高電位回避電圧を上限として運転制御する。コントローラ60は、高電位回避電圧を設定する高電位回避電圧値を、開放端電圧よりも低い電圧を設定する上限高電位回避電圧値を上限とし、この上限高電位回避電圧値よりも低い下限高電位回避電圧値を下限として燃料電池システム10を運転制御する。本実施形態では、コントローラ60は、高電位回避電圧値が下限高電位回避電圧値となるように運転制御する。ここでは、図4のtの時点で以下の処理を実行する場面を想定する。
【0050】
本実施形態では、燃料電池システム10の運転中、コントローラ60には、バッテリ52の充電量(SOC)、余剰電力、車速、燃料電池スタック20の出力電力及び出力電圧、ナビゲーションシステムから出力される地形情報、渋滞情報、金属触媒の被覆率などが入力される。ここで、余剰電力は、負荷に必要な電力量よりも燃料電池スタック20の発電量が大きい時の、負荷に必要な電力量と燃料電池スタック20の発電量との間の差分を示している。
【0051】
ステップS1で、コントローラ60はバッテリ52の充電量の変化を検出する。検出した充電量の変化に基づいて、ステップS2で、充電量が増加傾向にあるか減少傾向にあるかが判定される。換言すれば、バッテリ52の上限充電閾値に対してバッテリ52が充電可能な充電量である充電余力量が減少傾向にあるか増加傾向にあるか判定される。具体的には、例えば燃料電池車両の運転状態(例えば間欠運転中などの同等の運転状態)に基づいて充電量の増加傾向が線形予測される。あるいは、バッテリ52の能力に応じて決まる充電電力あたりの充電量の上昇率とバッテリ52の発電傾向(余剰電力傾向)とから増加傾向が予測される。図4に示すように、例えば燃料電池車両の加速時に余剰電力はなくなり、充電量の増加速度はゼロ又は負であるので(ステップS2、NO)、処理はステップS1に戻り、ステップS1及びS2の処理が繰り返される。
【0052】
その一方で、燃料電池車両の減速時、回生電力とアイドルストップとに基づいて余剰電力が増加する。この場合、図4のtの時点で充電量の増加速度(充電速度)は正であるので(ステップS2、YES)、処理はステップS3に進む。ステップS3で、算出した充電量の増加速度に基づいて、充電量の上限充電閾値に到達するまでに要する所要時間Aが算出される。同時に、これから燃料電池車両が走行する予定の走路の地形情報や渋滞情報、あるいはこれまでの過去の運転履歴に基づいて、充電量の増加傾向が継続することが想定される継続時間Bが算出される。これら所要時間A及び継続時間Bに基づいて、後述するように、バッテリ52の充電余力と、燃料電池スタック20の発電傾向に沿った充電速度と、が比較される。
【0053】
ここで、地形情報には、燃料電池車両がこれから走行する走路が、例えば連続した下り坂であることや連続した上り坂であることを示す情報が含まれる。例えば走路が連続した下り坂である場合には、回生電力とバッテリ52の充電電力あたりの充電量の上昇率とから継続時間Bを算出することができる。また、渋滞情報には、燃料電池車両がこれから走行する走路が、どの程度の距離にわたって渋滞しているか、どの程度の速度で走行することができるか、などを示す情報が含まれる。この場合、例えば渋滞時にある程度一定の低速度での走行に必要な負荷の要求電力量と補器類55の使用による電力量とに基づいて継続時間Bを算出することができる。算出した継続時間Bは、ステップS4で、前述の所要時間Aと比較される。
【0054】
所要時間Aが継続時間Bを上回る場合には(ステップS4、YES)、充電量が上限充電閾値に到達する前に充電量の増加傾向が収まるので、充電量は上限充電閾値に到達しないことが予測される。その結果、処理はステップS1に戻る。その一方で、所要時間Aが継続時間B以下である場合には(ステップS4、NO)、処理はステップS5に進む。ステップS5で、コントローラ60は、単位上昇電圧値ΔCだけ上昇させた場合の高電位回避電圧の電圧値に基づいて燃料電池スタック20の出力電力量を算出する。電圧値は単位上昇電圧値ΔC分だけ上昇する場合、燃料電池スタック20の出力電力は上昇前よりも減少する。コントローラ60は、算出した出力電力量に基づいて充電量の増加速度を算出する。ここで、単位上昇電圧値ΔCは、上限高電位回避電圧値と下限高電位回避電圧値との差分以下に設定される。
【0055】
コントローラ60は、ステップS6で、算出した増加速度に基づいて充電量の上限充電閾値に到達するまでに要する所要時間A’を改めて算出する。上述したように、高電位回避電圧の電圧値が単位上昇電圧値ΔC分上昇した場合には充電量の増加速度は低下するので、算出した所要時間A’は前述の所要時間Aよりも増大する。こうして算出した所要時間A’は前述の継続時間Bと再度比較される。その結果、所要時間A’が継続時間Bを上回る場合には、充電量が上限充電閾値に到達しないこと、すなわち、バッテリ52が過充電とならないことが予測される。このときの単位上昇電圧値ΔCは、走行に必要な負荷の要求電力量及び補器類55の消費電力量と、高電位回避電圧の電圧値時の燃料電池スタック20の発電量とのバランスにおいて余剰電力がゼロになる大きさに設定されることが好ましい。
【0056】
ステップS8で、コントローラ60は、バッテリ52のみの保護を優先するか、又は、バッテリ52に加えて又はバッテリ52に代えて燃料電池スタック20も保護するかを判定する。バッテリ52のみの保護の優先を選択する場合(ステップS8、YES)、処理はステップS9に進む。ステップS9でコントローラ60は、燃料電池スタック20の下限高電位回避電圧値に前述の単位上昇電圧値ΔC分を加える。こうして導き出された値は中間高電位回避電圧値に設定され、コントローラ60は中間高電位回避電圧値を目標値として燃料電池スタック20の出力電圧を運転制御する。その結果、充電量が上限充電閾値に到達する前に充電量の増加傾向が収まるので、バッテリ52の充電量は上限充電閾値に到達せず、バッテリ52の過充電を回避することがきる。その後、処理はステップS9からステップS1に戻る。
【0057】
その一方で、所要時間A’が継続時間B以下である場合には(ステップS7、NO)、処理はステップS5に戻り、単位上昇電圧値ΔCが再設定され、さらに単位上昇電圧値ΔCだけ上昇させた場合の高電位回避電圧の電圧値に基づいて燃料電池スタック20の出力電力量が算出される。その後、ステップS6及びS7の処理が繰り返される。こうしてステップS6及びS7の処理が繰り返されると、高電位回避電圧の電圧値の所定の上昇分によって所要時間A’が継続時間Bを上回る(ステップS7、YES)。このとき、処理はステップS8に進む。所要時間A’が継続時間Bを上回る場合には、充電量が上限充電閾値に到達しないこと、すなわち、バッテリ52が過充電とならないことが予測される。
【0058】
その一方で、ステップS8で、コントローラ60が燃料電池スタック20の保護も選択した場合(ステップS8、NO)、処理はステップS10に進む。ステップS10で、コントローラ60は、白金触媒の溶出速度の変化を算出する。算出にあたって、まず、燃料電池スタック20の出力電圧の電圧値の変化に基づいて酸化被膜の被覆率の変化が算出される。この被覆率の変化に基づいて白金触媒の溶出速度の変化が算出される。その結果、現時点で前回の電圧上昇時における溶出速度のピークを超えている場合には(ステップS11、YES)、処理は前述のステップS9に進む。その一方で、溶出速度のピークを超えていない場合(ステップS11、NO)、ステップS11の処理が繰り返される。
【0059】
燃料電池スタック20では、図4から明らかなように、燃料電池スタック20の出力電圧に比例して酸化被膜の被覆率は変化する。すなわち、出力電圧の増減に応じて酸化被膜の被覆率が増減する。このとき、酸化被膜の被膜率が上昇すると、酸化被膜によって白金触媒の表面が保護されて溶出が抑制される。溶出の反応よりも酸化被膜が生成される反応の方が少し遅れるため、及び、酸化被膜に被覆されても完全に溶出を抑制できないため、出力電圧の上昇後約10秒程度までの間に白金触媒の溶出速度のピークが存在する。このピークを超えると白金触媒の溶出速度は低下していく。従って、溶出速度のピークを超えた後、すなわち、白金触媒の溶出が減少傾向にある場合に電圧値を中間高電位回避電圧値に上昇させることによって、白金触媒の溶出を抑制することができる。言い替えれば、白金触媒の溶出が増加傾向にある場合には、下限高電位回避電圧値の上昇は見送られる。
【0060】
なお、ステップS11の処理を繰り返す場合、繰り返しているうちにバッテリ52の充電量の上限閾値に到達する所要時間A’を経過することが考えられる。この場合、コントローラ60は、バッテリ52の充電量が一時的に上限充電閾値を超えることを許容してもよい。あるいは、コントローラ60は、バッテリ52の充電量の上限充電閾値を一時的に上昇させてもよい。こうして、中間高電位回避電圧への電圧値の上昇は、白金触媒の溶出速度がピークを超えた後に実行されるので、燃料電池スタック20では、電圧値の上昇によるさらなる白金触媒の溶出を抑制することができる。
【0061】
以上のような燃料電池システム10によれば、燃料電池スタック20を下限高電位回避電圧値を用いて運転制御している場合は、相対的にバッテリ52の充電速度が高い状態であるから、バッテリ52の充電量が上限充電閾値に到達することが予測されれば、充電速度を下げるべく高電位回避電圧を上昇させる。単にバッテリ52の充電量に基づいて、高電位回避電圧を上昇させるのではなく、バッテリ52の充電量が上限閾値に到達することが予測される場合に高電位回避電圧を上昇させるので、より適切なタイミングで高電位回避電圧を上昇させることができる。更に、単位上昇電圧値という概念を導入し、充電量が上限充電閾値を超えないように、下限高電位回避電圧値に単位上昇電圧値を加えた中間高電位回避電圧値を用いて燃料電池スタック20を運転制御するので、より適切な幅で高電位回避電圧を上昇させることができる。従って、より適切な幅で上昇させた中間高電位回避電圧値を用い、より適切なタイミングで高電位回避制御を実行することができるので、燃料電池スタック20の劣化抑制とバッテリ52の過充電防止とを高度に両立させることができる。
【0062】
なお、上述の実施形態では、燃料電池システム10を車載電源システムとして用いる利用形態を例示したものの、燃料電池システム10の利用形態は、この例に限定されるものではない。例えば、燃料電池システム10を燃料電池車両以外の移動体(ロボット、船舶、航空機など)の電力源としてその移動体に搭載してもよい。また、本実施形態に係る燃料電池システム10を住宅やビルなどの発電設備(定置用発電システム)として用いてもよい。
【符号の説明】
【0063】
10:燃料電池システム
20:燃料電池スタック
21:セル
22:高分子電解質膜
23:アノード極
23a:触媒層
23b:ガス拡散層
24:カソード極
24a:触媒層
24b:ガス拡散層
25:膜電極アセンブリ
26:セパレータ
26a:リブ
27:セパレータ
27a:リブ
30:酸化ガス供給系
31:フィルタ
32:エアコンプレッサ
33:酸化ガス通路
34:酸化オフガス通路
35:加湿器
40:燃料ガス供給系
41:燃料ガス供給源
42:インジェクタ
43:燃料ガス通路
44:循環通路
45:循環ポンプ
46:排気排水通路
50:電力系
51:コンバータ
52:バッテリ
53:トラクションインバータ
54:トラクションモータ
55:補器類
60:コントローラ
71:電圧センサ
72:電流センサ
73:センサ
74:圧力センサ
A:所要時間
A1:遮断弁
A2:遮断弁
A3:背圧調整弁
ACC:アクセス開度信号
B:継続時間
H1:遮断弁
H2:レギュレータ
H3:遮断弁
H4:遮断弁
H5:排気排水弁
IG:起動信号
VC:車速信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応ガスの供給を受けて発電する燃料電池と、
前記燃料電池が発電する電力の少なくとも一部を充電する蓄電装置と、
前記燃料電池の出力電圧をその開放端電圧よりも低い高電位回避電圧を上限として運転制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記高電位回避電圧を設定する高電位回避電圧値を、前記開放端電圧よりも低い電圧を設定する上限高電位回避電圧値を上限とし、前記上限高電位回避電圧値よりも低い下限高電位回避電圧値を下限として運転制御するものであって、
前記高電位回避電圧値が前記下限高電位回避電圧値となるように運転制御している場合に、前記蓄電装置の充電量が前記上限充電閾値に到達することが予測されると、
前記充電量が前記上限充電閾値を超えないように、前記高電位回避電圧値を、前記上限高電位回避電圧値と前記下限高電位回避電圧値との差分以下の単位上昇電圧値を前記下限高電位回避電圧値に加えた中間高電位回避電圧値として運転制御することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記制御部は、前記蓄電装置の上限充電閾値に対して前記蓄電装置が充電可能な充電量である充電余力量を取得し、この充電余力量の増減傾向に基づいて前記単位上昇電圧値を設定することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記制御部は、前記燃料電池の発電に基づく余剰電力量から前記充電余力量の増減傾向を求めることを特徴とする請求項2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記制御部は、前記中間高電位回避電圧値の設定を繰り返し行うことを特徴とする請求項3に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記制御部は、前記燃料電池に用いられている触媒の溶出速度を算出し、当該溶出速度がピークを超えた後に前記中間高電位回避電圧値の設定を行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−98052(P2013−98052A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240526(P2011−240526)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】