説明

燃料電池セパレータ及びその製造方法

【課題】導電性と成形加工性とに優れるものとなるよう、膨張黒鉛を主原料とする予備成形体のプレス成形によって作成される燃料電池セパレータを、その予備成形体を抄造法を用いて作成するように工夫することにより、機械的強度、可撓性、ガス不透過性の各特性が改善され、自動車用等に好適となる軽量、コンパクト化が可能となるようにする。
【解決手段】板状に形成された予備成形体14を、成形型を用いて熱プレス成形することによって作成される燃料電池セパレータにおいて、予備成形体14が、膨張黒鉛に繊維質充填材が加えられて成る原料を用いての抄造によって得られる第1シート14Aの一対の間に、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂に天然黒鉛が40〜75重量%で含まれる材料による厚みが40〜250μmの第2シート14Bを介装して成るサンドイッチ構造のものとして形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状に形成された予備成形体を、成形型を用いてプレス成形することによって作成される燃料電池セパレータ、並びにその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池セパレータとは、MEA(膜・電極接合体)を適切に燃料電池セル(燃料電池セパレータの間にMEAを挟み込んだ単位体)内に保持するとともに前記電気化学反応に必要な燃料(水素)及び空気(酸素)を供給する役割、さらには燃料電池として機能するための電気化学反応により得られた電子を損失なく集電する役割等を担っている。これらの役割を担うために燃料電池セパレータには、1.機械的強度、2.可撓性、3.導電性、4.成形加工性、5.ガス不透過性という特性が要求される。
【0003】
従来、この種の燃料電池セパレータの材料としては、耐食性に優れたものとする点から黒鉛を主原料とするものが一般的であり、開発の初期段階では、焼結カーボンを切削することによって燃料電池セパレータを製作していた。しかしながら、コスト的な問題から近年ではフェノール樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂と黒鉛とのコンパウンドを成形材料として作成し、そのコンパウンドを圧縮成形することによって燃料電池セパレータとする手段が採られていた。成形材料のコンパウンドは、通常、粉末の状態で供給されるので、一旦樹脂の反応しない低温で予備成形体を作成する一次成形を行ってから、二次成形であるプレス成形型に送られるようになる。このように、一次成形によって一旦予備成形体を作ってから二次成形を行うことで、前記成形加工性に優れる燃料電池セパレータやその製造方法としては特許文献1において開示されたものが知られている。
【0004】
一方、燃料電池セパレータの主原料である黒鉛として膨張黒鉛を用いるものがあり、例えば特許文献2において開示されたものが知られている。膨張黒鉛を用いた燃料電池セパレータでは、膨張黒鉛が本来有する耐熱性、耐食性、電気特性(導電性)、熱伝導特性等を有効に利用して所定の電池性能を発揮させることができる手段として望ましいものである。つまり、前記導電性に優れるものとすることができる。そして、数百枚〜千枚といった多量のセパレータを用いる自動車用等として求められる軽量でコンパクトな燃料電池とするには、セパレータ単体での厚さを、必要な機能を損なうことなく極力薄くすることが必要になる。
【0005】
しかしながら、膨張黒鉛を主原料とする従来の燃料電池セパレータでは、薄くすると割れ易くなるとともに、ガスを透過し易くなるので、前述の機械的強度、ガス不透過性の各点で難点がある。また、カーボン材料(黒鉛)は脆性材料であって、やはり薄くすると割れ易い。
【特許文献1】特開2004−216756号公報
【特許文献2】特開2000−231926号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明の目的は、導電性と成形加工性とに優れるものとなるよう、膨張黒鉛を主原料とする予備成形体のプレス成形によって作成される燃料電池セパレータを、その予備成形体を抄造法を用いて作成するように工夫することにより、機械的強度、可撓性、ガス不透過性の各特性が改善され、自動車用等に好適となる軽量、コンパクト化が可能となるようにする点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、板状に形成された予備成形体14を、成形型を用いてプレス成形することによって作成される燃料電池セパレータにおいて、
前記予備成形体14が、膨張黒鉛に繊維質充填材が加えられて成る原料を用いての抄造によって得られる第1シート14Aの一対の間に、熱可塑性樹脂による第2シート14Bが介装されるサンドイッチ構造に構成されていることを特徴とするものである。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の燃料電池セパレータにおいて、前記熱可塑性樹脂がPP又は変性PPE又はPPS又はLCP又はPAであることを特徴とするものである。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の燃料電池セパレータにおいて、前記第2シート14Bが、前記熱可塑性樹脂に黒鉛をその重量比率が40〜75%の範囲で有する材料によって形成されていることを特徴とするものである。
【0010】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3の何れか一項に記載の燃料電池セパレータにおいて、前記第2シート14Bの厚みが40〜250μmに形成されていることを特徴とするものである。
【0011】
請求項5に係る発明は、板状に形成された予備成形体14を、成形型15を用いてプレス成形する二次成形工程S2を有する燃料電池セパレータの製造方法において、
膨張黒鉛に繊維質充填材が加えられて成る原料を用いての抄造によって得られる第1シート14Aの一対と、熱可塑性樹脂による第2シート14Bとを用意し、
前記第1シート14Aの一対の間に前記第2シート14Bが介装されて成る積層体sを成形型15で加熱加圧させることにより、前記第1シート14Aの一対及び前記第2シート14Bとが一体化されるとともに表面に所定の凹凸が施される熱プレス工程eを有することを特徴とするものである。
【0012】
請求項6に係る発明は、請求項5に記載の燃料電池セパレータの製造方法において、前記熱可塑性樹脂としてPP又は変性PPE又はPPS又はLCP又はPAを用いることを特徴とするものである。
【0013】
請求項7に係る発明は、請求項5又は6に記載の燃料電池セパレータの製造方法において、前記第2シート14Bとして、前記熱可塑性樹脂に黒鉛をその重量比率が40〜75%の範囲で有する材料によって形成されるものを用いることを特徴とするものである。
【0014】
請求項8に係る発明は、請求項5〜7の何れか一項に記載の燃料電池セパレータの製造方法において、前記第2シート14Bとして、その厚みが40〜250μmのものを用いることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、詳しくは実施形態の項において説明するが、予備成形体が、抄造による第1シートの一対の間に熱可塑性樹脂による第2シートが介装されて熱圧着されるサンドイッチ構造を有するもの、要するに機械的、電気的特性に優れ、薄肉で、かつ、固有抵抗値等の特性のばらつきが少なく、大量生産が容易で製造コストも有利となる抄紙シートである第1シートに、熱可塑性樹脂による第2シートが重ねられて熱圧着されて形成されている。従って、熱可塑性樹脂が配合されることによる一般的な作用、効果に加えて、抄造された抄紙シートの隙間に熱可塑性樹脂が入り込んで隙間を埋めるようになり、ガス不透過性が明確に向上する。そして、可撓性も良好になり、成型加工性にも優れるようになる。
【0016】
その結果、導電性と成形加工性とに優れるものとなるよう、膨張黒鉛を主原料とする予備成形体のプレス成形によって作成される燃料電池セパレータを、その予備成形体を抄造法を用いて作成するように工夫することにより、機械的強度、可撓性、導電性を良好なものとしながらガス不透過性を改善することができ、自動車用等に好適となる軽量、コンパクト化が可能となる燃料電池用セパレータを提供することができる。そして、添加される樹脂が熱可塑性のものであるから、容易に再利用が可能であって、優れたリサイクル性を有する利点もある。
【0017】
請求項2のように、熱可塑性樹脂として一般的な材料で入手し易いPP又は変性PPE又はPPS又はLCP又はPAを用いれば性能面及び生産性の各点において好都合であり、請求項3のように、熱可塑性樹脂に含まれる黒鉛の重量比率を40〜75%の範囲とすれば、導電性等の電気的特性も良好なものとすることができる利点がある。また、請求項4のように、第2シートの厚みを40〜250μmとすれば一層好都合である。
【0018】
請求項5〜8の発明は、請求項1〜4の発明に対応して方法化されたものであり、請求項5は請求項1と、請求項6は請求項2と、請求項7は請求項3と、そして請求項8は請求項4とそれぞれ同等の作用や効果を発揮可能な燃料電池用セパレータの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明による燃料電池セパレータの実施の形態を、図面を参照しながら説明する。図1〜図3は、スタック構造の分解斜視図、セパレータの外観正面図、セル構造を示す要部の拡大断面図、図4は別構造の単セルを示す要部の拡大図、図5,6はセパレータの製造原理例を示す概略の工程図、図7,8はセパレータの各種実施例や比較例の特性表を示す図である。尚、以下においては「燃料電池セパレータ」を、単に「セパレータ」と略称する。また、ポリプロピレンを「PP」と省略することもある。
【0020】
まず最初に、本発明のセパレータを備えた固体高分子電解質型燃料電池の構成及び動作について、図1〜図3を参照して簡単に説明する。固体高分子電解質型燃料電池Eは、例えばフッ素系樹脂より形成されたイオン交換膜である電解質膜1と、炭素繊維糸で織成したカーボンクロスやカーボンペーパー或いはカーボンフェルトにより形成され、上記電解質膜1を両側から挟みサンドイッチ構造をなすガス拡散電極となるアノード2及びカソード3と、そのサンドイッチ構造をさらに両側から挟むセパレータ4,4とから構成される単セル5の複数組を積層し、その両端に図示省略した集電板を配置したスタック構造に構成されている。電解質膜1、アノード2、カソード3でMEAが構成される。
【0021】
両セパレータ4は、図2に示すように、その周辺部に、水素を含有する燃料ガス孔6,7と酸素を含有する酸化ガス孔8,9と冷却水孔10とが形成されており、前記単セル5の複数組を積層した時、各セパレータ4の各孔6,7、8,9、10がそれぞれ燃料電池E内部をその長手方向に貫通して燃料ガス供給マニホールド、燃料ガス排出マニホールド、酸化ガス供給マニホールド、酸化ガス排出マニホールド、冷却水路を形成するようになされている。各セパレータ4は、基本の断面形状が角波型となるように表裏に凸条(リブ)11が形成されており、アノード2と各凸条11とが当接することによる燃料ガス流路12、及びカソード3と各凸条11とが当接することによる酸化ガス流路13が形成されている。また、電解質膜1の存在側を内とした場合において、各セパレータ4,4における外向き凸条11の裏側(内側)部分が隣合わされることにより、独立した冷却水通路10に形成することができる。
【0022】
前記構成の固体高分子電解質型燃料電池Eにおいては、外部に設けられた燃料ガス供給装置から燃料電池Eに対して供給された水素を含有する燃料ガスが上記燃料ガス供給マニホールドを経由して各単セル5の燃料ガス流路12に供給されて各単セル5のアノード2側において電気化学反応を呈し、その反応後の燃料ガスは各単セル5の燃料ガス流路12から燃料ガス排出マニホールドを経由して外部に排出される。同時に、外部に設けられた酸化ガス供給装置から燃料電池Eに対して供給された酸素を含有する酸化ガス(空気)が上記酸化ガス供給マニホールドを経由して各単セル5の酸化ガス流路13に供給されて各単セル5のカソード3側において電気化学反応を呈し、その反応後の酸化ガスは各単セル5の酸化ガス流路13から上記酸化ガス排出マニホールドを経由して外部に排出される。
【0023】
前述の電気化学反応に伴い、燃料電池E全体としての電気化学反応が進行して、燃料が有する化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換することで、所定の電池性能が発揮される。なお、この燃料電池Eは、電解質膜1の性質から約80〜100℃の温度範囲で運転されるために発熱を伴う。そこで、燃料電池Eの運転中は、外部に設けられた冷却水供給装置から燃料電池Eに対して冷却水を供給し、これを前記冷却水路に循環させることによって、燃料電池E内部の温度上昇を抑制している。
【0024】
尚、セルの構造としては、図4に示す構造のものでも良い。即ち、図4のセルは、各セパレータ4を、その表面が縦横に点状のリブ(所定形状のリブ)11の多数が均等間隔毎に並べられて成るものとして、それらリブ11とアノード2の表面との間に縦横の燃料ガス流路12が形成されるとともに、リブ11とカソード3の表面との間に縦横の酸化ガス流路13が形成される構造のものに構成してある。
【0025】
次に、セパレータ4についてその作り方(製造方法)の例も交えて説明する。セパレータ4は、図3,図5,図6に示すように、板状に形成された予備成形体14を、成形型を用いてプレス成形することによって作成されるものである。予備成形体14は、膨張黒鉛に繊維質充填材が加えられて成る原料を用いての抄造によって得られる第1シート14Aの一対の間に、熱可塑性樹脂による第2シート14Bが介装される3層のサンドイッチ構造のものに構成されている。尚、三枚の第1シート14Aと二枚の第2シート14Bとを交互に積層一体化して成る5層構造の予備成形体としても良い。
【0026】
セパレータ4の製造方法は、図5,図6に示すように、セパレータの大きさに近似した板状の予備成形体14を作成する一次成形工程S1と、その予備成形体14を成形金型20で加圧して最終形状のセパレータ4を形成する二次成形工程S2とから成る。ここで、セパレータ4の目標とする特性は、厚さ0.2mm以下において、接触抵抗が10mΩ・cm以下、ガス透過係数が2×10−9mol・m/m・s・MPa以下、曲げ強度(曲げ強さ)が35MPa以上である。尚、曲げ歪が0.7%以上、固有抵抗が10mΩ・cm以下、という目標特性を掲げても良い。
【0027】
一次成形工程S1は、図5に示すように、抄造工程aと一体化工程bとを有している。まず、抄造工程aは、膨張黒鉛に繊維質充填材が加えられて成る原料を用いての抄造によって抄紙シートである第1シート14Aを作成する工程であり、主原料である膨張黒鉛(導電材)と繊維質充填材と(その他配合材もある)を所定の配合比率で有する原料を用いて抄造し、それによって予備成形体14用の第1シート14Aを形成する。抄造の本来の意味は「紙の原料をすいて紙を作ること」であるが、ここで言う抄造は『抄紙シート用の上記材料をすいて抄紙シートを作ること』である。
【0028】
一体化工程b(一体化装置I)は、図5,6に示すように、PP樹脂、即ちポリプロピレン樹脂(熱可塑性樹脂の一例)による第2シート14Bを、一対の第1シート14A,14Aの間に挟んでの熱圧着で一体化されて成る予備成形体14を得る工程であり、積層工程cと一体化処理工程dとを有している。積層工程cは、一対の第1シート14Aの間に第2シート14Bを介装して三層の積層体sを形成する工程である。一体化処理工程dは、積層体sを加熱及び加圧して一対の第1シート14A,14A及び第2シート14Bの三者を熱圧着させる工程である。
【0029】
即ち、図6に示すように、抄造工程で作成されてドラム(リールコア)20に巻回されている状態の第1シート14Aの二つと、ドラム(リールコア)16に巻回されている状態の第2シート(PPシート)14Bの一つと、ドラム(リールコア)19に巻回されている状態の離型フィルム18の二つとが用意されており、離型フィルム18,第1シート14A,第2シート14B,第1シート14A,離型フィルム18という順番で上下に積層される状態に上下一対の誘導ローラ17,17間に導くように、各ドラム20,16,19が相対配置されている。積層工程cにおいて、一対の第1シート14Aと第2シート14Bとが互い違いに積層されて3層構造の積層体sが形成されるとともに、その上下両面に離型フィルム18が積層された計5層のものが一対の誘導ローラ17,17間で形成され、次の予備過熱工程eへ送られる。
【0030】
予備過熱工程eは、上下に離型フィルム18を有する積層体sを、複数の転動ローラ21に掛け渡して搬送しつつ、それら転動ローラ21の上下に配した予備加熱器22によって積層体sを予備加熱させる工程である。予備加熱された離型フィルム付積層体sは、加熱加圧機23によって上下に(厚み方向に)加圧及び加熱されながら搬送され、ポリプロピレン樹脂の溶融によって2層の第1シート14Aと1層の第2シート14Bによる積層体sが一体化され、3層構造の予備成形体14が作成される。
【0031】
つまり、加熱加圧機23により、積層体sを熱圧着しての一体化によって予備成形体14とする本加熱加圧工程fが行われる。本加熱加圧工程fでは、互いに隣合う第1シート14A,14Aの間に介装されている第2シート14Bが溶融して各第1シート14A,14Aに浸透し、各第1シート14Aの目詰めを行うとともに第1シート14Aどうしを接着させる機能も生じるのであり、言わば、第1シート14AにPP樹脂を後含浸(熱可塑性樹脂を後含浸)させるような工程とも言える。
【0032】
本加熱加圧工程fで形成された予備成形体14は、上下の複数の送りローラ24で搬送されながら冷却される冷却工程gの後に、上下一対の仕分けローラ25によって上下の離型フィルム18が各々の巻取りドラム26に巻き取られて行くとともに、一対の離型フィルム18が除去された3層構造の予備成形体14を仕上げドラム27に巻き取って行く仕上げ工程hが行われる。従って、本実施例による一体化処理工程dは、予備過熱工程eと本加熱加圧工程fと冷却工程gと仕上げ工程hとを含む工程に設定されている。以上のように、一次成形工程S1においては、膨張黒鉛に繊維質充填材が加えられて成る原料を用いての抄造によって得られる第1シート14Aの一対の間に、PP等の熱可塑性樹脂による第2シート14Bが介装されるサンドイッチ構造の予備成形体14が構成される。
【0033】
二次成形工程S2は、図5に示すように、一次成形工程S1で作成され、かつ、適宜の長さに切断された3層構造の予備成形体14を、例えば、上金型15aと下金型15bから成り、かつ、熱せられた状態の成形金型15を用いてのプレスによって加圧することにより、所定の最終形状を呈するセパレータ4を作成する工程である。つまり、第1シート14Aの一対の間に第2シート14Bが介装されて成る積層体sを成形型15で加熱加圧することにより、第1シート14Aの一対及び第2シート14Bとが一体化されるとともに表面に所定の凹凸が施される熱プレス工程jを有している。次に、作り方やその実施例等について説明する。
【0034】
まず、一次成形工程S1における抄造工程aに関しては、次のようである。炭素繊維3%、アクリル繊維10%、PET繊維5%を配合して成る繊維質充填材を、家庭用ミキサーを用いて離解し、所定のパルプ濃度(例:1%)に調整する。調整後のパルプスラリーに、例えば40μmの膨張黒鉛を82%添加し、さらに水を追加して固形分濃度0.1%に再調整してから、若干のその他の配合材[硫酸バンド、歩留り向上材〔ハイモロックNR11−LH(商品名)〕]を添加して抄紙用原料として抄造(図5参照)し、シート状体の第1シート14Aを得る。尚、この段階で、標準角型シートマシンを用いて加工することにより、坪量70g/mで25cm角シート形状の第1シートを得ることも可能である。抄造による第1シート14Aは、曲げ難い等、成形性にはやや劣る面があるが、優れた機械的及び電気的特性を持っている。
【0035】
一次成形工程S1において別途作成されるポリプロピレン樹脂(PP樹脂)製の第2シート14Bは、図示は省略するが、その厚みが40〜250μmの範囲に設定されるものであり、場合により、種々の導電性フィラー(天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック等)が添加される。本実施形態においては、導電性フィラーとしてカーボンブラックと天然黒鉛とを用いており、天然黒鉛の第2シート14Bに対する重量比率が40〜75%の範囲に設定されている。樹脂カーボンであるシート状体14Bは、機械的特性の点では劣るが成形性には優れている。二次成形工程S2に関しては、一次成形工程S1によって作成された3層構造の予備成形体14を、一例として、170℃の金型(成形型15)を用いて20MPaの面圧で5分間加熱加圧成形し、所定形状のセパレータ4を得る。
【0036】
上述の製造方法を用いて作成されたセパレータ4の各比較例及び各実施例における緒元(組成)や特性を図7,図8に示す。図7,8における「PPフィルムの厚み」の『PPフィルム』とは第2シート14Bのことであり、「最終成形体厚み」の『最終成形体』とは予備成形体14のことである。
【0037】
実施例1〜実施例9においては、第2シート14Bの厚みが40〜250μmであり、かつ、天然黒鉛の重量%が40〜75に設定される予備成形体14を用いて形成されている。これら実施例1〜9のものの厚みは0.149〜0.154mmとなっている。比較例1〜比較例3においては、第2シート14Bの厚みが35μmであって「40〜250μm」という条件より少ない設定であり、比較例4〜比較例6においては、天然黒鉛含有量が40〜75重量%よりも少ないか多いかの設定となっている。また、比較例7,8においては、第2シート14Bの厚みが260μmであって「40〜250μm」という条件より多い設定である。これら比較例1〜8のものの厚みは0.135〜0.168mmとなっている。
【0038】
図7,図8に示す特性表から、実施例1〜9における第2シート14Bの厚みは0.149〜0.154mmとなっている。第2シート14B(PP樹脂フィルム)の厚みが40〜250μmの範囲よりも小さい(35μm)比較例1〜3のものでは、ガス透過係数が目標値(2×10−9mol・m/m・s・MPa以下)をクリアできず、NGである。天然黒鉛含有量が40重量%未満(0、30)である比較例4,5のものでは、接触抵抗が目標値(10mΩ・cm以下)をクリアできず、NGである。
【0039】
そして、天然黒鉛含有量が75重量%超(80)である比較例6のものでは、曲げ強さが目標値(35MPa以上)をクリアできないとともに、ガス透過係数も目標値をクリアできていない。加えて、第2シート14B(PP樹脂フィルム)の厚みが40〜250μmの範囲よりも大きい(260μm)比較例7,8のものは、接触抵抗が目標値(10mΩ・cm以下)をクリアできず、やはりNGである。これに対して、第2シート14Bの厚みが40〜250μmの範囲内にあり、かつ、天然黒鉛含有量が40〜75重量%の範囲内にある実施例1〜実施例9のものは、全ての項目で目標値をクリアしていることが理解できる。
【0040】
本発明によるセパレータ4では、一対の第1シート14A,14間に第2シート14Bを介装して成るサンドイッチ構造の予備成形体14を有しており、二次成形工程S2における熱プレスにより、溶融する第2シート14Bが流動して主に凹凸や起伏を形成するとともに、その溶融した第2シート14Bが各第1シート14Aの隙間を満たすように浸潤してゆく後含浸のような作用を伴いながらそれら三者14A,14B,14Aが一体化される。
【0041】
故に、ガス不透過性能が向上し、機械的強度や可撓性も良好であり、成型加工性も良好である。全くのシート化生産なので、量産化に好適なものとなっており、低コストセパレータを提供することができる。第1シート14Aの主原料に膨張黒鉛を使用しているので導電性は良好であり、表面層に樹脂層が無く接触抵抗も低い。この場合、ポリプロピレン樹脂に膨張黒鉛、カーボンブラック等の導電性フィラーを添加すれば、層間の導電性が向上し、尚一層効果がある。
【0042】
〔別実施例〕
熱可塑性樹脂としてはPPの他、変性PPE(ポリフェニレンエーテル)、PPS、LCP、PAでも良く、その他の合成樹脂でも良い。また、一次成形工程S1においては、一対の第1シート14A,14Aと第2シート14Bの三者が単に積層されるに止まり(積層工程s迄)、二次成形工程S2における熱プレス工程jにより、加熱時における第2シート14Bの優れた流動性を活かして所定の起伏や凹凸を形成しつつ前記三者14A,14B,14Aを一体化させる、という製造方法、並びにそれによって得られる燃料電池セパレータも可能である。また、三層の第1シート14Aと二層の第2シート14Bとが交互に積層されて成る5層構造や7層以上の燃料電池セパレータも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】固体高分子電解質型燃料電池のスタック構造を示す分解斜視図
【図2】固体高分子電解質型燃料電池のセパレータを示す正面図
【図3】単セルの構成を示す要部の拡大断面図
【図4】別構造によるセルの構成を示す要部の拡大断面図
【図5】概略のセパレータ製造方法を示すブロック図
【図6】一体化工程の概要を示す作用図
【図7】実施例1〜9のセパレータの特性表を示す図表
【図8】比較例1〜8のセパレータの特性表を示す図表
【符号の説明】
【0044】
14 予備成形体
14A 第1シート
14B 第2シート
15 成形型
S2 二次成形工程
j 熱プレス工程
s 積層体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状に形成された予備成形体を、成形型を用いてプレス成形することによって作成される燃料電池セパレータであって、
前記予備成形体が、膨張黒鉛に繊維質充填材が加えられて成る原料を用いての抄造によって得られる第1シートの一対の間に、熱可塑性樹脂による第2シートが介装されるサンドイッチ構造に構成されている燃料電池セパレータ。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂がPP又は変性PPE又はPPS又はLCP又はPAである請求項1に記載の燃料電池セパレータ。
【請求項3】
前記第2シートが、前記熱可塑性樹脂に黒鉛をその重量比率が40〜75%の範囲で有する材料によって形成されている請求項1又は2に記載の燃料電池セパレータ。
【請求項4】
前記第2シートの厚みが40〜250μmに形成されている請求項1〜3の何れか一項に記載の燃料電池セパレータ。
【請求項5】
板状に形成された予備成形体を、成形型を用いてプレス成形する二次成形工程を有する燃料電池セパレータの製造方法であって、
膨張黒鉛に繊維質充填材が加えられて成る原料を用いての抄造によって得られる第1シートの一対と、熱可塑性樹脂による第2シートとを用意し、
前記第1シートの一対の間に前記第2シートが介装されて成る積層体を成形型で加熱加圧することにより、前記第1シートの一対及び前記第2シートとが一体化されるとともに表面に所定の凹凸が施される熱プレス工程を有する燃料電池セパレータの製造方法。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂としてPP又は変性PPE又はPPS又はLCP又はPAを用いる請求項5に記載の燃料電池セパレータの製造方法。
【請求項7】
前記第2シートとして、前記熱可塑性樹脂に黒鉛をその重量比率が40〜75%の範囲で有する材料によって形成されるものを用いる請求項5又は6に記載の燃料電池セパレータの製造方法。
【請求項8】
前記第2シートとして、その厚みが40〜250μmのものを用いる請求項5〜7の何れか一項に記載の燃料電池セパレータの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−123360(P2010−123360A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−295176(P2008−295176)
【出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【出願人】(000229737)日本ピラー工業株式会社 (337)
【Fターム(参考)】