説明

燃料電池セルの製造方法

【課題】ガスケット成形に特殊な成形型を使用することなく、ガスケット成形効率を向上させて燃料電池セルの製造時間を大幅に短縮できる、燃料電池セルの製造方法を提供する。
【解決手段】膜電極接合体3と、ガス透過層と、その側方に張り出している箇所に流体貫通孔7aを有して、これに連通する冷却媒体用流路7bを具備するセパレータ7と、が積層されて積層体10を成し、その周縁にガスケットが成形されている、燃料電池セル20の製造方法であり、流体貫通孔7aの周囲に第1のシール材91を予め形成しておき、冷却媒体が流通する冷却媒体用開口K2aを具備する成形型K内に積層体10を形成し、流体貫通孔7aと冷却媒体用開口K2aが対応する位置に配されている第1の工程、冷却媒体用開口K2a、流体貫通孔7aを介して冷却媒体を冷却媒体用流路7bに提供しながら成形型K内に樹脂を注入してガスケットを成形する第2の工程、からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池スタックを構成する燃料電池セルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池の燃料電池セルは、イオン透過性の電解質膜と、該電解質膜を挟持するアノード側およびカソード側の触媒層とから膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)が形成され、このMEAとこれを挟持するアノード側およびカソード側のガス拡散層(GDL)とから電極体(MEGA:Membrane Electrode & Gas Diffusion Layer Assembly)が形成され、電極体に燃料ガスもしくは酸化剤ガスを提供するとともに電気化学反応によって生じた電気を集電するための金属多孔体からなるガス流路層とセパレータが電極体の両側に配されて構成されている。なお、セパレータにガス流路溝が形成された燃料電池セルも従来一般のものであり、この形態の場合にはガス流路層となる金属多孔体は不要である。実際の燃料電池スタックは、所要電力に応じた基数の燃料電池セルが積層され、スタッキングされることによって形成されている。
【0003】
上記構成の燃料電池セルにおいては、膜電極接合体に供給される燃料ガスや酸化剤ガス、さらにはセルの昇温を抑止するための冷却水などの流体をシールするためのガスケットが膜電極接合体およびガス透過層の周縁に形成されている。このガスケットは燃料電池セルごとに形成されており、膜電極接合体およびガス透過層の周縁にガスケットを有した燃料電池セルを所定の基数だけ積層した後にスタッキングがおこなわれている。このガスケット成形は一般に射出成形や圧縮成形にておこなわれており、射出成形を取り上げて説明すると、まず、成形型のキャビティ内にセパレータを収容し、次いで、アノード側もしくはカソード側の一方のガス透過層を収容し、次いで膜電極接合体を収容し、次いでアノード側もしくはカソード側の他方のガス透過層を収容した姿勢で、膜電極接合体およびガス透過層の周縁のガスケット成形用キャビティに樹脂を注入するものである(射出成形)。なお、このように射出成形にて成形されたガスケットにて膜電極接合体やガス透過層が一体化された燃料電池セルが特許文献1に開示されている。
【0004】
上記するセパレータは、たとえばチタンやステンレスからなる2枚のプレートの間に流路が形成されたプレートが介層された3層構造のものや、中間層を樹脂製の枠材とし、2枚のプレートの一方から多数のディンプルや流路を画成するリブを突出させて冷却水流路を形成するもの(これも3層構造に含まれる)などがある。この3層構造のセパレータは、当該セル自体のアノード側もしくはカソード側のいずれか一方のセパレータであると同時に、積層姿勢において隣接するセルのアノード側もしくはカソード側の他方のセパレータとなるものである。すなわち、この3層構造セパレータを有する燃料電池セルのセル構成部材は、一つの3層構造セパレータと、アノード側およびカソード側のガス透過層(エキスパンドメタルや金属発泡焼結体などの金属多孔体からなるガス流路層)と、電極体(膜電極接合体およびガス拡散層)と、からなり、複数の燃料電池セルが積層された姿勢において、任意の燃料電池セルは、その両端にアノード側およびカソード側のセパレータを有することとなる。
【0005】
ところで、上記するガスケットの射出成形では、その樹脂素材として、ブチル系ゴムやウレタン系ゴム、シリコーンRTVゴム、耐メタノール性を有するエポキシ系樹脂、エポキシ変性シリコーン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、炭化水素樹脂などが使用されているが、これらの硬化温度(最適硬化温度)はいずれも150℃程度かそれ以上の温度であることが特定されており、その一方で、膜電極接合体を構成する、たとえばフッ素系の電解質膜(その融点:Tgは100〜130℃程度)や、その側面に形成された触媒層を構成する高分子電解質(アイオノマ)が熱劣化することなく、耐え得る温度はせいぜい130℃程度であることもまた、特定されている。
【0006】
そのため、ガスケットの成形効率を高めるべく、成形型(金型)内の温度を樹脂の最適な硬化温度である150℃程度もしくはそれ以上の温度にしようとすると、膜電極接合体を構成する電解質膜や触媒層が熱劣化等してしまうことから、樹脂の最適な硬化温度雰囲気とすることができない。そのため、樹脂の硬化温度よりも低い、より具体的には、膜電極接合体の耐え得る温度以下でガスケットの射出成形等をおこなう必要があるため、注入樹脂が硬化し、ガスケットが成形されるまでの時間が長時間に及び、これが、燃料電池セルの製造に要する時間の決定要因の一つになっているという現状がある。
【0007】
なお、特殊な成形型を使用し、この成形型内に膜電極接合体等が載置された姿勢において、膜電極接合体が載置される領域に断熱帯域が設けられ、この断熱帯域として、冷却ブロックなどが適用される成形型を使用したガスケット成形方法が特許文献2に開示されている。
【0008】
しかし、このような成形型自体を製作することに多大な製作コストを要すことは理解に易く、燃料電池セルの大量生産に際しては、ガスケット成形用の成形型も多数必要になってくることに鑑みれば、製造コストの高い成形型を多数使用することにより、燃料電池の製造に要するコストが一層高騰することは必至である。したがって、特許文献2に開示のごとき特殊な成形型を用いたガスケット成形は現実的と言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−171613号公報
【特許文献2】特開2007−80549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、射出成形等にて膜電極接合体の周囲にガスケットを成形する燃料電池セルの製造方法に関し、そのガスケット成形効率を従来の製造方法に比して格段に向上させ、もって、燃料電池セルの製造時間を大幅に短縮することができ、さらに、該ガスケット成形に特殊な成形型を一切必要とせず、したがってガスケット成形時のコスト増が齎されることのない、燃料電池セルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成すべく、本発明による燃料電池セルの製造方法は、電解質膜とその両側の触媒層とからなる膜電極接合体と、該膜電極接合体の両側に配された第1のガス透過層および第2のガス透過層と、一方のガス透過層側に配されて前記膜電極接合体やガス透過層よりも側方に張り出し、該張り出している箇所にガスや冷却媒体が流通する流体貫通孔を有するとともに、冷却媒体が流通する冷却媒体用流路を具備するセパレータと、が積層され、該セパレータの前記張り出している箇所の上方であって膜電極接合体の周縁において、ガスや冷却媒体が流通するマニホールドを具備するガスケットが成形されている、燃料電池セルの製造方法であって、少なくとも、セパレータの前記流体貫通孔の周囲に第1のシール材を形成しておき、該セパレータと、第1のガス透過層と、膜電極接合体と、第2のガス透過層と、が順に積層された積層体を、冷却媒体が流通する冷却媒体用開口を具備する成形型内に形成し、この形成姿勢において、セパレータの前記流体貫通孔と成形型の前記冷却媒体用開口が対応する位置に配されている、第1の工程、前記冷却媒体用開口および前記流体貫通孔を介して冷却媒体をセパレータの前記冷却媒体用流路に提供しながら、成形型内に樹脂を注入してガスケットを成形する、第2の工程、からなるものである。
【0012】
本発明の燃料電池セルの製造方法は、特に成形型内においてガスケット成形用樹脂の最適な硬化温度程度の高温雰囲気下でのガスケットを成形する際に、膜電極接合体を構成する電解質膜や触媒層の熱劣化を防止するべく、セパレータに設けられた冷却媒体用流路に冷却水等の冷却媒体を提供しながらガスケットを射出成形もしくは圧縮成形する、燃料電池セルの製造方法に関するものである。
【0013】
この製造方法では、まず、第1の工程として、セパレータと、第1のガス透過層と、膜電極接合体と、第2のガス透過層と、が順に積層された積層体を成形型内に載置する。なお、この積層体は、予め積層体を形成した上で成形型内に移載してもよいし、成形型内に順に各構成部材を積層していく方法であってもよい。
【0014】
ここで、「(第1、第2の)ガス透過層」とは、ガス拡散層とガス流路層の双方を含む意味であり、その一方がアノード側のガス透過層であり、他方がカソード側のガス透過層である。したがって、ガス流路層を具備しないセル形態において、「ガス透過層」は「ガス拡散層」を意味するものであり、ガス拡散層とガス流路層の双方を具備するセル形態において、「ガス透過層」は「ガス拡散層」と「ガス流路層」の双方もしくはいずれか一方を意味するものである。さらに、膜電極接合体のアノード側とカソード側の双方に拡散層基材と集電層からなるガス拡散層を具備する形態、アノード側とカソード側のいずれか一方は集電層のみを具備する(拡散層基材が廃された)形態の双方を含むものである。
【0015】
また、セパレータに関しては、板状のセパレータであって、その膜電極接合体側の側面にガス流路溝が形成され、その他方側面に冷却媒体用の流路溝(冷却媒体用流路)が形成されたものや、いわゆるフラットタイプのセパレータであって、第1のプレートと、第2のプレートと、これらのプレートの間に介層された中間層と、からなる3層構造を呈しており、その中間層の中央領域に冷却媒体を流通させる冷却媒体用流路が形成されたもの、の双方を含むものである。
【0016】
上記積層体に関しては、その構成部材であるセパレータが、膜電極接合体やガス透過層よりも側方に張り出し、この張り出している箇所にガスや冷却媒体が流通する流体貫通孔を有しており、この流体貫通孔と上記する冷却媒体用流路が連通しているものである。
【0017】
さらに、セパレータの流体貫通孔の周囲には、たとえばゴム製のシール材(第1のシール材)が形成されており、成形型のキャビティ内に積層体が載置され、該成形型を構成する可動型と固定型が型閉めされた姿勢において、このシール材が該キャビティの上面(成形型の内側上面)と当接するようになっている。
【0018】
一方、成形型には、冷却媒体が流通する冷却媒体用開口が形成されている。たとえば、下方に固定型が、上方に可動型が存在する成形型に関して言えば、下方の固定型に冷却媒体用開口が形成されており、この固定型のキャビティ面にセパレータが載置される際に、このセパレータに形成された上記流体貫通孔と成形型(固定型)の冷却媒体用開口が連通するようになっており(成形型内に積層体を載置した際に、双方が連通するように設定されている)、この姿勢において、セパレータに形成された流体貫通孔は、第1のシール材と成形型の内面とで完全にシールされながら、成形型の冷却媒体用開口と、セパレータの流体貫通孔と、さらには、セパレータの冷却媒体用流路と、を流体連通させることができる。
【0019】
次いで、冷却媒体用開口および流体貫通孔を介して冷却媒体をセパレータの冷却媒体用流路に提供しながら、成形型内に樹脂を注入し、ガスケットが射出成形もしくは圧縮成形される。
【0020】
冷却媒体用流路に冷却媒体が提供されることで、成形時の成形型内の温度が、たとえば、上記するガスケット用樹脂の硬化温度である150℃程度もしくはそれ以上の温度、すなわち、膜電極接合体を構成する電解質膜や触媒層が本来的に熱劣化し得る高温雰囲気であっても、膜電極接合体自体は冷却媒体にてクーリングされるため、該膜電極接合体に作用する温度を電解質膜等が熱劣化しない程度の温度に調整することができる。
【0021】
したがって、その硬化温度が150℃かそれ以上の熱硬化性樹脂等でガスケットを成形する場合であっても、成形型内をその硬化温度程度の高温雰囲気とできるため、熱硬化性樹脂等が硬化してガスケットが成形されるまでの時間を従来の製造方法に比して格段に短縮することができる。
【0022】
ここで、前記流体貫通孔をシールする第2のシール材が前記セパレータと対向する前記成形型の内側面であって前記冷却媒体用開口の周りに形成されており、該第2のシール材上にセパレータが載置されるのが好ましい。
【0023】
たとえば、上記するように下方に固定型が存在する成形型においては、そのキャビティ面であって該固定型に形成された冷却媒体用開口の周りにたとえばゴム製のシール材(第2のシール材)が形成され、この第2のシール材上にセパレータが載置されるものである。
【0024】
この載置姿勢においては、セパレータに形成された流体貫通孔も同時に第2のシール材でシールされており、したがって、成形型の冷却媒体用開口と、セパレータの流体貫通孔および冷却媒体用流路と、の流体連通姿勢を形成した際に、より一層高いシール性を保障することができる。
【0025】
また、本発明による燃料電池セルの製造方法の他の実施の形態は、前記第1の工程において、2以上の前記積層体が成形型内に形成され、各積層体の流体貫通孔が各第1のシール材によってシールされながら流体連通しており、前記第2の工程では、成形型の前記冷却媒体用開口から提供された冷却媒体が、各積層体の前記流体貫通孔を介して前記冷却媒体用流路に提供され、成形されるガスケットにて各積層体が一体化されて、複数の燃料電池セルからなる一つのモジュールが形成されるものである。
【0026】
本実施の形態の製造方法が製造対象とする燃料電池セルは、一つの燃料電池セルを構成する、セパレータと、第1のガス透過層と、膜電極接合体と、第2のガス透過層と、が積層されてなる積層体を、2以上有し、したがって、複数の燃料電池セルの構成部材が積層され、これらがガスケットにて一体成形されてなるモジュールからなるものである。
【0027】
複数の燃料電池セルを一つのモジュールとして形成し、このモジュールを複数積層して一つの燃料電池スタックが形成されるものであってもよいし、一つのモジュールのみをもって燃料電池スタックが形成されるものであってもよい。
【0028】
このように複数の燃料電池セルがガスケットにて一体成形されてなるモジュールは、以下の効果がある。
膜電極接合体を構成する電解質膜は、気孔を有するガス拡散層や金属多孔体などのガス透過層を介して外部に流体連通した状態となっている。この電解質膜は、異種材料のコンタミネーションによってその特性を大きく劣化させるものである。したがって、すべての燃料電池セルがそれぞれ単独で射出成形され、次いでそれらを単に積層させている現状においては、この積層の際にすべての燃料電池セルの電解質膜が異種材料によってコンタミネートされる危険性を有している。このような観点からも、燃料電池セルごとに射出成形等にてガスケットを形成し、これを積層させて燃料電池スタックを形成するという製造方法の見直しや改善、この製造方法によってできる燃料電池スタックの構造の改良は必至であり、そのための開発が急務の課題である。
【0029】
このような課題に対して、たとえばガスケットの射出成形に先行して複数の燃料電池セルを積層しておくことで、燃料電池スタックを構成するほとんどの燃料電池セルの電解質膜は、このような製造過程において異種材料とコンタミネートされることから効果的に防護される。さらには、性能不良となった燃料電池セルを、該セルを含むモジュール単位で抜き取ることにより、メンテナンス効率を格段に向上させることができるものである。たとえば一つのモジュールが30基の燃料電池セルから構成される場合においては、射出成形や圧縮成形に際して、その両端以外の内部の28基の燃料電池セルの膜電極接合体は外部から完全に遮断されることとなり、異種材料が膜電極接合体を構成する電解質膜にコンタミネートすることを抑止できる。
【0030】
なお、複数の燃料電池セルが積層され、それぞれの燃料電池セルが一体成形されたガスケットで繋がれることで1つのモジュールを形成し(ガスケットが当該ガスケットを構成要素とするセルのセパレータと密着するとともに、積層姿勢で隣接する他のセルを構成するセパレータと密着する)、複数のモジュールを積層してスタッキングすることで形成されることから、「多セル1モジュール型の燃料電池」と称することもできる。
【0031】
このモジュールを構成するガスケットを成形する際に上記する本発明の製造方法を適用することで、その効果は一層顕著となる。
すなわち、上記する特許文献1に開示の技術をはじめ、従来構造の成形型では、そのキャビティの表面のみをクーリングできるに留まるものであるため、モジュールのごとく、複数の積層体が成形型内で積層された状態においては、その内側に存在する積層体(の膜電極接合体)を十分にクーリングすることは極めて難しく、積層体の基数が増加するにつれてその問題は一層顕著となる。
【0032】
それに対して、本発明の製造方法では、冷却媒体をすべての積層体(を構成するセパレータ)に提供できるため、その基数に左右されることなく、すべての積層体を効果的にクーリングしながら、成形型内をガスケット成形用樹脂の硬化温度雰囲気とすることが可能となる。
【0033】
上記する本発明の製造方法によって製造された燃料電池セルからなる燃料電池は、家庭用の定置型燃料電池や車載用燃料電池など、その適用分野は他方面に亘るが、特に、近時その生産が拡大しており、車載機器に一層の高性能化とその製造時間の短縮の双方を要求する電気自動車やハイブリッド車に好適である。
【発明の効果】
【0034】
以上の説明から理解できるように、本発明の燃料電池セルの製造方法によれば、成形型内で燃料電池セルを構成する各種部材からなる積層体の側方にガスケットを成形する際に、該積層体を冷却媒体にて効果的にクーリングすることで、成形型内をガスケット成形用樹脂の硬化温度雰囲気かそれ以上の高温雰囲気に保持でき、もって、膜電極接合体を列劣化等させることなく、ガスケット成形に要する製造時間を従来の製造方法に比して格段に短縮することができる。また、成形型で複数の積層体を積層させ、それらをガスケットにて一体成形して多セル1モジュール型の燃料電池を製造する場合であっても、冷却媒体を各積層体に提供しながらガスケット成形が実行できるため、上記と同様の効果を期待することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の燃料電池セルの製造方法の一実施の形態を説明した模式図である。
【図2】セパレータを平面的に見た模式図であって、シール材(第1のシール材)の配設位置、冷却媒体の流れを説明した図である。
【図3】ガスケットが成形された燃料電池セルの一実施の形態を示した縦断面図である。
【図4】本発明の燃料電池セル(モジュール)の製造方法の他の実施の形態を説明した模式図である。
【図5】複数の燃料電池セルがガスケットにて一体成形されてなるモジュールを示した縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。なお、図示例は、固定型のキャビティ面にシール材(第2のシール材)が設けられた成形型を使用するものであるが、セパレータと成形型のキャビティ面との流体シール性が十分に担保される場合には、この第2のシール材は必ずしも必要なものではない。
【0037】
図1〜図3を参照して、本発明の燃料電池セルの製造方法の一実施の形態を説明する。なお、図1は、本発明の燃料電池セルの製造方法の一実施の形態を説明した模式図であり、図2は、セパレータを平面的に見た模式図であって、シール材(第1のシール材)の配設位置、冷却媒体の流れを説明した図であり、図3は、製造された燃料電池セルを示したものである。また、図1,3で示す縦断面図は、冷却媒体用のマニホールドを通る断面を示すものである。
【0038】
まず、図1で示す可動型K1と固定型K2からなる成形型K(金型)を用意し、その型開き姿勢において、そのキャビティ内に燃料電池セルの積層体10を形成する。
【0039】
ここで、積層体10は、その各構成部材を順次成形型K内に積層して該積層体10を形成してもよいし、予め形成された積層体10を成形型K内に一気に収容する方法であってもよい。
【0040】
積層体10は、その下方から順に、3層構造のセパレータ7、アノード側のガス流路層6’(ガス透過層)、電極体5、カソード側のガス流路層6(ガス透過層)から構成されている。
【0041】
また、電極体5は、その下方から順に、アノード側のガス拡散層4’(ガス透過層)、膜電極接合体3、カソード側のガス拡散層4(ガス透過層)からなり、その膜電極接合体3は、電解質膜1をカソード側の触媒層2、アノード側の触媒層2’が挟持してなるものである。
【0042】
図示するように、積層体10を構成するセパレータ7は、ステンレスやチタン等からなる2つのプレート71,72と、その間の中間層73と、からなる3層構造を呈しており、中間層73には、冷却媒体が流通する冷却媒体用流路7bが形成されている。さらに、セパレータ7は、電極体5やガス流路層6,6’よりも側方に張り出しており、この張り出している箇所には、3層構造を貫く流体貫通孔7aが形成されている。
【0043】
このセパレータ7の張り出している箇所の上面には、流体貫通孔7aの周りにたとえばゴム製で無端状の第1のシール材91が設けてあり、このシール材91は、その上端が型閉め姿勢における可動型K1のキャビティ面にまで延びている。
この第1のシール材91は、少なくともセパレータ7が成形型K内に収容される前に該セパレータ7に取り付けられるのが好ましい。
【0044】
一方、固定型K2には、冷却水等の冷却媒体が流通する冷却媒体用開口K2aが開設されており、そのキャビティ面のうち、該却媒体用開口K2aの周囲には、たとえばゴム製の無端状の第2のシール材92が取り付けられている。
【0045】
成形型K内に積層体10を収容した姿勢においては、図示するように、第2のシール材92で形成された流路上にセパレータ7の流体貫通孔7aが位置決めされるようにして該セパレータ7が載置される。したがって、成形型K内における積層体10の収容姿勢において、固定型K2の冷却媒体用開口K2a、セパレータ7の流体貫通孔7aおよび冷却媒体用流路7bが、第2のシール材92を介して流体連通する。
【0046】
本発明の製造方法では、上記のごとく、冷却媒体を所望に流すような態様で積層体10を成形型K内に収容するまでが第1の工程となる。なお、セパレータ7の上面には、可動型K1のキャビティ面にまで伸びる無端状の第1のシール材91が流体貫通孔7aを包囲していることで、冷却媒体用開口K2aから成形型K内に提供される冷却媒体は、セパレータ7の冷却媒体用流路7bに流体シール性を担保されながら提供される。
【0047】
提供された冷却媒体は、たとえば図2で示すような平面的な流れで冷却媒体用流路7bを介して流体出口に相当する流体貫通孔7a’に流れ(X1方向)、該流体貫通孔7a’を介して冷却媒体用開口K2a’に送られる。このような態様で冷却媒体が流れることで、その上方もしくは下方に位置する電極体5(の特に膜電極接合体3)を効果的にクーリングすることが可能となる。なお、図2に関し、平面視矩形のセパレータ7(プレート71)において、冷却媒体用の流体貫通孔7a、7a’の側方には酸化剤ガス用の流体貫通孔7c、7c’が配されており、これらに直行する方向には、燃料ガス用の流体貫通孔7d、7d’が配されている。
【0048】
次に、成形型Kを型閉めし、冷却媒体を冷却媒体用流路7bに流通させた姿勢で、たとえば可動型K1に開設された複数箇所の注入孔K1aを介して(X2方向)、ガスケット成形用の樹脂を成形型K内に注入する(射出成形)。
【0049】
ここで、成形型K内は、注入樹脂の最適な硬化温度(たとえば150℃程度)と同等かそれ以上の高温雰囲気に調整されており、したがって、射出成形後の樹脂が可及的に短時間で硬化され、ガスケットが成形される。なお、このガスケット用樹脂としては、ブチル系ゴムやウレタン系ゴム、シリコーンRTVゴム、耐メタノール性を有するエポキシ系樹脂、エポキシ変性シリコーン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、炭化水素樹脂などを挙げることができ、耐酸性、耐久性等の観点から言えば、熱硬化性樹脂を使用するのがよい。
上記する製造方法を経て成形型Kを型開きし、取り出された燃料電池セル20を図3に示している。
【0050】
成形されたガスケット81と、先行してセパレータ7に取り付けられていた第1のシール材91とからガスケット8が構成され、その内部に流体(図示断面では冷却媒体)が通じるマニホールドMが形成されるが、ガスケット81と第1のシール材91双方を同素材の樹脂から成形することで、それらのなじみも良好となる。
【0051】
なお、積層体10の各構成部材の素材種を以下で説明する。
膜電極接合体3を構成する電解質膜1は、たとえば、スルホン酸基やカルボニル基を持つフッ素系イオン交換膜、置換フェニレンオキサイドやスルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリアリールエーテルスルホン、スルホン化フェニレンスルファイドなどの非フッ素系のポリマーなどから形成される。
【0052】
また、触媒層2,2’は、触媒が担持された導電性担体(粒子状のカーボン担体など)と、電解質と、分散溶媒(有機溶媒)と、を混合して触媒溶液(触媒インク)を生成し、これを電解質膜1やガス拡散層4,4’等の基材に塗工ブレードにて層状に引き伸ばして塗膜を形成し、温風乾燥炉等で乾燥することで触媒層が形成される。ここで、触媒溶液を形成する電解質は、プロトン伝導性ポリマーである、有機系の含フッ素高分子を骨格とするイオン交換樹脂、例えばパーフルオロカーボンスルフォン酸樹脂、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレン等のスルホン化プラスチック系電解質、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルケトン、スルホアルキル化ポリエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリスルホン、スルホアルキル化ポリスルフィド、スルホアルキル化ポリフェニレンなどのスルホアルキル化プラスチック系電解質などを挙げることができる。なお、市販素材としては、ナフィオン(Nafion)(登録商標、デュポン社製)やフレミオン(Flemion)(登録商標、旭硝子株式会社製)などを挙げることができる。また、分散溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、プロピレンカーボネート、酢酸エチルや酢酸ブチルなどのエステル類、芳香族系あるいはハロゲン系の種々の溶媒を挙げることができ、さらには、これらを単独で、もしくは混合液として使用することができる。さらに、触媒が担持された導電性担体に関し、この導電性担体としては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどの炭素材料のほか、炭化ケイ素などに代表される炭素化合物などを挙げることができ、この触媒(金属触媒)としては、たとえば、白金や白金合金、パラジウム、ロジウム、金、銀、オスミウム、イリジウムなどのうちのいずれか一種を使用することができ、好ましくは白金または白金合金を使用するのがよい。さらに、この白金合金としては、たとえば、白金と、アルミニウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、ガリウム、ジルコニウム、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、バナジウム、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、チタンおよび鉛のうちの少なくとも一種との合金を挙げることができる。
【0053】
また、ガス拡散層4,4’は、拡散層基材と集電層(MPL)からなるものであり、拡散層基材としては、電気抵抗が低く、集電を行えるものであれば特に限定されるものではないが、たとえば、導電性無機物質を主とするものを挙げることができ、この導電性無機物質としては、ポリアクリロニトリルからの焼成体、ピッチからの焼成体、黒鉛及び膨張黒鉛等の炭素材やこれらのナノカーボン材料、ステンレススチール、モリブデン、チタン等を挙げることができる。また、拡散層基材の導電性無機物質の形態は特に限定されるものではなく、たとえば繊維状あるいは粒子状で用いられるが、ガス透過性の点から無機導電性繊維であって、特に炭素繊維が好ましい。無機導電性繊維を用いた拡散層基材としては、織布あるいは不織布いずれの構造のものも使用することができ、カーボンペーパーやカーボンクロスなどを挙げることができる。織布としては、平織、紋織、綴織など、特に限定されるものではなく、不織布としては、抄紙法、ニードルパンチ法、ウォータージェットパンチ法によるものなどが挙げられる。さらに、この炭素繊維としては、フェノール系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維などを挙げることができる。さらに、集電層はアノード側、カソード側の触媒層2,2’から電子を集める電極の役割を果たすとともに、生成水を排水する撥水作用を奏するものであり、導電性材料である、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、金、銀、銅及びこれらの化合物または合金、導電性炭素材料などと、フッ素樹脂(PTFE)などから形成できる。
【0054】
次に、図4,5を参照して、本発明の燃料電池セル(モジュール)の製造方法の他の実施の形態を説明する。
図示する製造方法は、成形型K内に、複数の積層体10,…を収容し、射出成形することで、成形されるガスケットにより、各積層体10,…ひいては各燃料電池セルを一体に固定する製造方法であり、多セル1モジュール型の燃料電池を製造する方法となる。
【0055】
この製造方法においては、積層される積層体10を構成する流体貫通孔7a,7a’がそれぞれ対応するように位置決めされ、第2のシール材92上には、最下層のセパレータ7がその流体貫通孔7a,7a’を冷却媒体用開口K2a、K2a’に位置決めされた姿勢で載置される。
【0056】
成形型K内において、射出成形に先行して各積層体10,…の各セパレータ7に冷却媒体を提供し(各セパレータ7におけるX1の流れ)、次いで、射出成形をおこなうことで、注入樹脂が各積層体10の側方に流れ込む(X2方向の流れ)。
【0057】
この製造方法においても、成形型K内は注入樹脂の硬化温度と同等かそれ以上の高温雰囲気に調整されており、したがって、射出成形後の樹脂が可及的に短時間で硬化され、多セル1モジュール型の燃料電池(セル)が短時間で製造される。
【0058】
なお、図4からも明らかなように、この製造方法は、積層体をクーリングする機構を備えた成形型を使用するものでなく、各積層体10,…に満遍なく冷却媒体が提供されることから、キャビティ面に近い積層体のみならず、中央に位置する積層体をも効果的にクーリングしながら、積層体全体を一体化するガスケットを成形することができる。
【0059】
図5は、この製造方法にて製造されたモジュール100を示したものである。
このモジュール100を構成する燃料電池セル20の基数は任意であり、たとえば一つの燃料電池スタックが300基の燃料電池セルからなる場合において、300基の燃料電池セルからモジュール100が形成されるものであってもよいし、50基の燃料電池セルからモジュール100が形成され、このモジュール100を6基積層して燃料電池スタックを形成するような形態であってもよい。
【0060】
なお、実際に電気自動車等に車載される燃料電池システムは、図3で示す燃料電池セル20が積層されてなる燃料電池スタック、図5で示す単数もしくは複数のモジュール100からなる燃料電池スタックと、水素ガスや空気を収容する各種タンク、これらのガスを燃料電池に提供するためのブロア、燃料電池を冷却するためのラジエータ、燃料電池で生成された電力を蓄電するバッテリ、この電力で駆動する駆動モータ等から大略構成されるものである。
【0061】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0062】
1…電解質膜、2…触媒層(カソード側)、2’…触媒層(アノード側)、3…膜電極接合体、4…ガス拡散層(ガス透過層、カソード側)、4’…ガス拡散層(ガス透過層、アノード側)、5…電極体、6…ガス流路層(ガス透過層、金属多孔体、カソード側)、6’…ガス流路層(ガス透過層、金属多孔体、アノード側)、7…セパレータ、7a,7a’…流体貫通孔、7b…冷却媒体用流路、71、72…プレート、73…中間層、8…ガスケット、81…ガスケット、91…第1のシール材、92…第2のシール材、10…積層体、20…燃料電池セル、100…モジュール、M…マニホールド(冷却媒体用)、K…成形型、K1…可動型、K1a…注入孔、K2…固定型、K2a,K2a’…冷却媒体用開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜とその両側の触媒層とからなる膜電極接合体と、該膜電極接合体の両側に配された第1のガス透過層および第2のガス透過層と、一方のガス透過層側に配されて前記膜電極接合体やガス透過層よりも側方に張り出し、該張り出している箇所にガスや冷却媒体が流通する流体貫通孔を有するとともに、該流体貫通孔に連通する冷却媒体用流路を具備するセパレータと、が積層され、該セパレータの前記張り出している箇所の上方であって膜電極接合体の周縁において、ガスや冷却媒体が流通するマニホールドを具備するガスケットが成形されている、燃料電池セルの製造方法であって、
少なくとも、セパレータの前記張り出している箇所の前記流体貫通孔の周囲に第1のシール材を予め形成しておき、該セパレータと、第1のガス透過層と、膜電極接合体と、第2のガス透過層と、が順に積層された積層体を、冷却媒体が流通する冷却媒体用開口を具備する成形型内に形成し、この形成姿勢において、セパレータの前記流体貫通孔と成形型の前記冷却媒体用開口が対応する位置に配されている、第1の工程、
前記冷却媒体用開口および前記流体貫通孔を介して冷却媒体をセパレータの前記冷却媒体用流路に提供しながら、成形型内に樹脂を注入してガスケットを成形する、第2の工程、からなる、燃料電池セルの製造方法。
【請求項2】
前記第1の工程において、2以上の前記積層体が成形型内に形成され、各積層体の流体貫通孔が各第1のシール材によってシールされながら流体連通しており、
前記第2の工程では、成形型の前記冷却媒体用開口から提供された冷却媒体が、各積層体の前記流体貫通孔を介して前記冷却媒体用流路に提供され、成形されるガスケットにて各積層体が一体化されて、複数の燃料電池セルからなる一つのモジュールが形成される、燃料電池セルの製造方法。
【請求項3】
前記流体貫通孔をシールする第2のシール材が前記セパレータと対向する前記成形型の内側面であって前記冷却媒体用開口の周りに形成されており、該第2のシール材上にセパレータが載置される、請求項1または2に記載の燃料電池セルの製造方法。
【請求項4】
前記セパレータは、第1のプレートと、第2のプレートと、これらのプレートの間に介層された中間層と、からなる3層構造を呈しており、
前記流体貫通孔は、前記第1のプレート、中間層および第2のプレートを貫通しており、
前記冷却媒体用流路は、前記中間層に形成されている、請求項1〜3のいずれかに記載の燃料電池セルの製造方法。
【請求項5】
前記ガス透過層が、ガス拡散層、もしくは、金属多孔体からなるガス流路層、もしくはそれらの積層体のいずれか一方からなる、請求項1〜4のいずれかに記載の燃料電池セルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−23321(P2011−23321A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−169977(P2009−169977)
【出願日】平成21年7月21日(2009.7.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】