説明

燃料電池セルスタック

【課題】冷却機構を複数のセル毎に設けることにより、良好な発電性能が得られる燃料電池セルスタックを提供する。
【解決手段】燃料電池セルスタック1は、第1高分子電解質膜4aと、この第1高分子電解質膜4aの両面に形成された第1アノードガス拡散層7a、第1カソードガス拡散層7bと第1アノード触媒層6a、第1カソード触媒層6bとを有する一対の電極層から構成される。積層された複数の燃料電池単セルごとに冷却流路が設けられており、一対の電極層それぞれは、燃料電池単セルの積層方向に順に配置されており、第1冷却流路10aと隣り合う燃料電池単セルにおいて、第1冷却流路10aが配置されている側の第1アノードガス拡散層7aの熱伝導率が、第1冷却流路10aが配置されていない側の第1カソードガス拡散層7bの熱伝導率よりも大きくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池セルスタックに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、高効率でクリーンなエネルギー源の開発が求められており、それに対する一つの候補として燃料電池が注目を浴びている。燃料電池(例えば高分子電解質形燃料電池)は、水素を含有する燃料ガス(水素リッチなガス)と、酸素を含有する空気等の酸化剤ガスとを電気化学反応(発電反応)させることにより、電力と熱とを同時に発生させる装置である。
【0003】
例えば、高分子電解質形燃料電池は図9に示すように構成されている。図9は従来の高分子電解質形燃料電池の概略構成の一例を示す断面図である。図9に示すように、高分子電解質形燃料電池の単電池、すなわち燃料電池単セル(燃料電池セル)100は、膜電極接合体110(MEA:Membrane-Electrode-Assembly)を含んでいる。そして、MEA110の両面には一対の板状の導電性のセパレータ120が配置され、この一対のセパレータ120により挟持されている。
【0004】
MEA110は、水素イオンを選択的に輸送する高分子電解質膜(イオン交換樹脂膜)111と、この高分子電解質膜111の両面に形成された一対の電極層112とを備えてなる構成である。
【0005】
電極層112は、白金属触媒を坦持したカーボン粉末を主成分とする触媒層113と、集電作用とガス透過性と撥水性とを併せ持つガス拡散層114(GDL)とを備えてなる構成である。一対の電極層112それぞれの触媒層113は、高分子電解質膜111を挟持するように配置されている。また、各触媒層113における高分子電解質膜111が配される側とは反対側の面上にはガス拡散層114(GDL)が形成されている。
【0006】
ガス拡散層114は、炭素繊維からなる基材115と、カーボンと撥水材とからなるコーティング層(撥水カーボン層)116とで構成されており、高分子電解質膜111の側からコーティング層(撥水カーボン層)116、基材115の順に配置される。
【0007】
一対のセパレータ120において、一対のガス拡散層114のうちの一方のガス拡散層114と当接するセパレータ120の主面に燃料ガスを流すための燃料ガス流路溝121が設けられている。また、他方のガス拡散層114と当接するセパレータ120の主面に酸化剤ガスを流すための酸化剤ガス流路溝122がそれぞれ設けられている。
【0008】
また、一対のセパレータ120それぞれにおいて、燃料ガス流路溝121または酸化剤ガス流路溝122が設けられている主面とは反対側の面に、冷却水などが通る冷却流路溝123が設けられている。
【0009】
そして、上記した構成を有する燃料電池単セル100では、燃料ガス流路溝121および酸化剤ガス流路溝122を通じて一対の電極層112にそれぞれ燃料ガス及び酸化剤ガスが供給されることで、電気化学反応が起こり、電力と熱とを発生させる。
【0010】
また燃料電池単セル100は、図9に示すように複数個、電気的に直列に接続されて、積層体(以下、スタックという)として使用されるのが一般的である。なお、このときスタックは、燃料ガス及び酸化剤ガスがリークしないように且つ接触抵抗を減らすために、ボルトなどの締結部材130により所定の締結圧にて加圧締結される。
【0011】
従って、MEA110とセパレータ120とは所定の圧力で面接触することになる。また、電気化学反応に必要なガスが外部に漏れるのを防ぐために、セパレータ120,120の間には、触媒層113とガス拡散層114の側面を覆うようにシール材(ガスケット)117が配置されている。
【0012】
このように構成されるスタックにおいて、特許文献1には冷却流路溝123を複数の燃料電池単セル100・・・毎に設ける技術が開示されている。このようにすることで、セパレータの枚数を減らすことができ、スタック積層方向の短尺化を実現するとともに、セパレータのコストを抑えることができる。
【0013】
しかしながら、特許文献1のスタックのように冷却流路溝123を複数の燃料電池単セル100・・・毎に設けた構成の場合、冷却流路溝123と燃料電池単セル100との位置関係によって、燃料電池単セル100を冷却できる能力が異なる。このため、スタックにおける燃料電池単セル100間に温度ばらつきが生じやすいという課題があった。特に冷却流路溝123が、燃料ガス流路溝121、または、酸化剤ガス流路溝122と隣接している場合、そこを流れる燃料ガス、または、酸化剤ガスの温度が低くなりやすく、フラッディングを生じるおそれがある。
【0014】
そこで、冷却流路溝123が隣接する位置での上述したフラッディングを抑制するための技術として特許文献2の燃料電池が提案されている。より具体的には、特許文献2には、冷却流路溝123と隣接する、活物質流体流路の排水能力が、冷却流路溝123と隣接しない、活物質流体流路の排水能力よりも高くなるように、流路特性を変化させる技術が開示されている。このようにすることで、冷却流路溝123が隣接する活物質流体流路内におけるフラッディングを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2004−87311号公報
【特許文献2】特開2009−16200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ところで、燃料電池に供給する燃料ガスまたは酸化剤ガスなどのガスに含まれる水分量が少ない条件(以下、低加湿条件)で燃料電池を稼動させた場合、上記のフラッディングに加えて、以下の現象により燃料電池の性能が低下するという問題がある。すなわち、燃料電池セルスタックにおけるガスの供給路の上流部で、高分子電解質膜の水分が蒸発してしまうドライアップである。
【0017】
上述のように、冷却流路溝を複数のセル毎に設けた構成においては、冷却流路溝と燃料電池単セルとの位置関係によって、燃料電池単セル100を冷却できる能力が異なる。したがって、冷却されにくいセルは温度が高くなり、ドライアップによる性能低下が顕著になるという問題が生じる。よって、低加湿条件で燃料電池を稼動させた場合、上述した構成に特許文献2に開示された技術を適用して、フラッディングについては抑制できたとしても上記したドライアップを抑制することができない。このため、燃料電池は十分な発電性能を得ることができない。
【0018】
本発明は、以上の問題を鑑みてなされたものであり、冷却機構を複数の燃料電池単セル毎に設ける構成において良好な発電性能が得られる燃料電池セルスタックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明に係る燃料電池セルスタックは、上記した課題を解決するために、高分子電解質膜と、この高分子電解質膜の両面に形成された一対の電極層とを含む燃料電池セルと、冷却機構と、を備え、前記燃料電池セルは前記高分子電解質膜の厚み方向に積層されており、順に積層された複数の燃料電池セルのセットであるセルブロックと前記厚み方向で隣り合う位置に前記冷却機構が設けられており、前記一対の電極層それぞれは、前記高分子電解質膜の片面に順に積層された触媒層とガス拡散層とを含み、前記セルブロックにおける前記冷却機構と隣り合う燃料電池セルにおいて、前記冷却機構が配置されている側の電極層のガス拡散層である第1ガス拡散層の熱伝導率が、冷却機構が配置されていない側の電極層のガス拡散層である第2ガス拡散層の熱伝導率よりも大きい。
【発明の効果】
【0020】
本発明は以上に説明したように構成され、冷却機構を複数の燃料電池単セル毎に設ける構成において良好な発電性能が得られるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る知見を実証するための燃料電池単セルの発電性能に関する実験結果の一例を示す表である。
【図2】本発明に係る知見を実証するために構成した燃料電池セルスタックの一例を示す断面図である。
【図3】本発明に係る知見における2セル構成の燃料電池セルスタックにおける各燃料電池単セルの発電電圧を示すグラフである。
【図4】本発明に係る知見を実証するためにシミュレートした結果を示すものであり、冷却流路の入口から15mm下流までの各位置における、高分子電解質膜の温度をプロットしたグラフである。
【図5】本発明に係る知見を実証するためにシミュレートした冷却流路の最上流位置から高分子電解質膜までの距離と、この高分子電解質膜の温度との関係を示すグラフである。
【図6】本発明に係る知見を実証するためにシミュレートした冷却流路の最上流位置から高分子電解質膜までの距離と、この高分子電解質膜の温度との関係を示すグラフである。
【図7】本発明に係る知見を実証するためにシミュレートした冷却流路の最上流位置から高分子電解質膜までの距離と、この高分子電解質膜の温度との関係を示すグラフである。
【図8】本実施の形態に係る燃料電池セルスタックの概略構成の一例を示す断面図である。
【図9】従来の高分子電解質形燃料電池の概略構成の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。また、本実施形態では、水素イオンを選択的に輸送する高分子電解質膜(イオン交換樹脂膜)と、この高分子電解質膜の両面に形成された一対の電極層とを有するMEAを備えた構成を燃料電池単セルと称するものとして説明する。
【0023】
(電極層の多孔率について)
まず、本実施の形態に係る燃料電池単セルが複数積層された燃料電池セルスタック1について説明する前に、燃料電池単セルの電極層における多孔率と該燃料電池単セルの特性との関係について説明する。出願人は多孔率と燃料電池単セルの特性との関係について、以下の実験例を通して鋭意検討を行なった結果以下の知見を得た。
【0024】
まず、低加湿条件での、燃料電池単セルの発電に関する性能(発電性能)について詳しく調べるために、以下に示す4種類の燃料電池単セル(燃料電池単セルAからD)を用意し、それぞれについて発電試験を行なった。
【0025】
具体的には燃料電池単セルAとして、アノード側のガス拡散層およびカソード側のガス拡散層ともに多孔率が50%である燃料電池単セルを用意した。燃料電池単セルBとしては、アノード側のガス拡散層およびカソード側のガス拡散層ともに多孔率が70%である燃料電池単セルを用意した。また、燃料電池単セルCとしては、アノード側のガス拡散層の多孔率が50%、カソード側のガス拡散層の多孔率が70%である燃料電池単セルを用意した。また、燃料電池単セルDとしては、アノード側のガス拡散層の多孔率が70%、カソード側のガス拡散層の多孔率が50%である燃料電池単セルを用意した。なお、ガス拡散層の多孔率とは、このガス拡散層において空隙が占める比率を示す値である。
【0026】
そして、これら燃料電池単セルA〜Dについて、以下の条件下で発電試験を行い、その性能を調べた。
【0027】
(発電試験)
発電試験の条件は、以下のとおりである。
【0028】
アノードに供給する燃料ガスとして水素75%、二酸化炭素25%となるガスを用いた。また、この燃料ガスの露点温度を60℃、燃料電池単セルにおける水素利用率は50%とした。
【0029】
一方、カソードに供給する酸化剤ガスとして空気を用いた。この空気は無加湿であり、燃料電池単セルにおける空気中の酸素の利用率は55%であった。
【0030】
そして、これらアノードに供給されるガスとカソードに供給されるガスとは並行して流れるようにして供給された(並行流)。また、燃料電池単セルの起動温度を50℃、燃料電池単セルのセル保温温度を65℃、運転電流密度を0.24A/cmとした。
【0031】
以上の条件下において、燃料電池単セルの温度を50℃に保った状態から発電を開始し、この発電を継続させたまま、ヒーターの温度を65℃まで昇温した。
【0032】
ここで、燃料電池単セルA〜Dについて発電開始6分後と4時間後との電圧の値について調べた。この調べた結果を図1の表に示す。図1は本発明に係る知見を実証するための燃料電池単セルの発電性能に関する実験結果の一例を示す表である。
【0033】
発電開始6分後の電圧は、65℃への昇温が十分でないため、比較的低い温度での発電性能を示している。一方、発電開始4時間後の電圧は、セルの温度が65℃に保持され、MEA内部の水分状態が定常状態に達したときの発電性能を示している。
【0034】
まず、燃料電池単セルAを見ると、6分後の電圧の方が4時間後の電圧よりも低くなっていることがわかる。これは、6分後においては燃料電池単セルの温度が低いため、生成水によるフラッディングによって性能が低下するのに対し、4時間後においては、燃料電池単セルの温度が十分上昇し、フラッディングが解消されることで、性能が改善されたためである。つまり、燃料電池単セルAは、発電開始から数分の間はフラッディングの影響を受け、発電性能が低下することが分かった。
【0035】
また、図1の表によると燃料電池単セルAの6分後の電圧よりも燃料電池単セルB〜Dそれぞれの6分後の電圧の方が高くなっている。これは、燃料電池単セルB〜Dではアノード側のガス拡散層およびカソード側のガス拡散層のうち少なくともいずれか一つに多孔率70%のガス拡散層が用いられている。このため、燃料電池単セルAと比較して生成水の排水性が改善され、フラッディングによる性能低下が抑制されたためである。
【0036】
さらにまた、燃料電池単セルBの4時間後の電圧は、燃料電池単セルA、C、Dと比べて大幅に低くなっている。これは、アノード側のガス拡散層およびカソード側のガス拡散層の多孔率を70%としたため、水蒸気をMEA内部に閉じ込める効果が低下してしまったからである。このため、燃料電池単セルBは温度が高くなると、高分子電解質膜のドライアップが発生し、発電性能が低下してしまった。つまり、燃料電池単セルBは、発電開始から一定の時間が経過し、MEA内部の水分状態が定常状態に達したとき、高分子電解質膜のドライアップが発生し発電性能が低下することが分かった。
【0037】
以上より、フラッディングに対しては、多孔率の大きいガス拡散層を用いることが、ドライアップに対しては多孔率が小さいガス拡散層を用いることが有効であることを発見した。さらにまた、燃料電池単セルC、Dのように、多孔率50%のガス拡散層と多孔率70%のガス拡散層とを組み合わせることで、フラッディングとドライアップとを同時に抑制し、発電性能の高い燃料電池を構成できることがわかった。また、ガス拡散層における多孔率の大小関係は、アノード側のガス拡散層の多孔率を大きくカソード側のガス拡散層の多孔率を小さくした場合、逆にアノード側のガス拡散層の多孔率を小さく、カソード側のガス拡散層の多孔率を大きくした場合、いずれについても良好な発電性能が得られることが分かった。
【0038】
次に、この排水性および保湿性を両立させる良好な結果が得られた燃料電池単セルを使って、冷却流路を複数の燃料電池単セルのセット(set)であるセルブロック毎に隣り合うセルブロックの間に設けた構成に適用してみた。具体的には、図2に示すように冷却流路が設けられる間隔が、2つの燃料電池単セルのセットであるセルブロックごととなっている(すなわち奇数番目の燃料電池単セルのアノード側に冷却流路が、偶数番目の燃料電池単セルのカソード側に冷却流路が設けられる)構成において以下の燃料電池単セルを採用した。なお、以下では、2つの燃料電池単セルごとに1つの冷却流路が設けられた燃料電池セルスタックの構成を2セル構成と称するものとする。また、図2は本発明に係る知見を実証するために構成した燃料電池セルスタックの一例を示す断面図である。
【0039】
具体的には、図2に示すように、2セル構成の燃料電池セルスタックにおいてアノード側を多孔率50%とし、カソード側を多孔率70%とした第1MEA(燃料電池単セルC)を1番目から3番目の燃料電池単セルとして採用した。また、4番目から6番目までの燃料電池単セルには、アノード側を多孔率50%、カソード側を多孔率70%とした第2MEA(燃料電池単セルD)を採用した。また、図2では図示していないが、これら6セル積層の外側を集電板および絶縁板で挟み、締結具で締結することによって燃料電池セルスタックが作製される。
【0040】
上記のようにして作製した燃料電池セルスタックについて、以下の条件で発電試験を行い、各燃料電池単セルの発電性能を調べた。
【0041】
(2セル構成の燃料電池セルスタックの発電試験)
発電試験の条件は、以下のとおりである。
【0042】
アノードに供給する燃料ガスとして水素75%、二酸化炭素25%となるガスを用いた。また、この燃料ガスの露点温度を60℃、燃料電池単セルにおける水素利用率は、80%とした。
【0043】
一方、カソードに供給する酸化剤ガスとして空気を用いた。この空気は無加湿であり、燃料電池単セルにおける空気中の酸素の利用率は40%とした。
【0044】
そして、これらアノードに供給されるガスとカソードに供給されるガスとは並行して流れるようにして供給された(並行流)。また、燃料電池セルスタックに流入する冷却水の温度は、冷却流路の入口(最上流位置)が57℃、冷却流路の出口(最下流位置)が71℃とした。また、燃料電池セルスタックの運転電流密度を0.24A/cmとした。
【0045】
以上の条件下において、2セル構成の燃料電池セルスタックにおける各燃料電池単セルの発電電圧を調べた結果、図3に示すグラフのようになった。図3は、本発明に係る知見における2セル構成の燃料電池セルスタックにおける各燃料電池単セルの発電電圧を示すグラフである。図3では、各燃料電池単セル(1番目から3番目までの第1MEA、4番目から6番目までの第2MEA)の発電電圧がプロットされている。
【0046】
図3に示すように、1番目から3番目までの燃料電池単セル(第1MEA)については、奇数番目に配される燃料電池単セルの電圧が大きくなり、偶数番目に配される燃料電池単セルの電圧は小さくなった。一方、4番目から6番目までの燃料電池単セルについては、奇数番目に配される燃料電池単セルの電圧が小さくなり、偶数番目に配される燃料電池単セルの電圧が大きくなった。
【0047】
このように、第1MEAを2セル構成に適用した場合、偶数番目に配される燃料電池単セルの電圧出力結果が良好とならなかった。逆に、第2MEAを2セル構成に適用した場合、奇数番目に配される燃料電池単セルの電圧出力結果が良好とならなかった。
【0048】
次に、第1MEAを2セル構成に適用した場合、奇数番目に配置される燃料電池単セルと偶数番目に配置される燃料電池単セルとについて、高分子電解質膜の温度を調べた。発電状態における高分子電解質膜の温度を直接計測することは難しいため、前記構成における燃料電池の発電状態を、計算機シミュレーションを用いて模擬し、高分子電解質膜の温度を算出した。その結果は、図4に示すグラフのようになった。図4は、本発明に係る知見を実証するためにシミュレートした結果を示すものであり、冷却流路の入口から15mm下流までの各位置における、高分子電解質膜の温度をプロットしたグラフである。
【0049】
図4に示すグラフにおいて、冷却流路入口からの距離が同じである、奇数番目のセルと偶数番目のセルで高分子電解質膜の温度を比較した。この場合、常に奇数番目のセルの方が、偶数番目のセルよりも温度が低くなることが分かった。
【0050】
逆に、第2MEAを上記した2セル構成に適用した場合について、上記と同様の方法で高分子電解質膜の温度を算出した。その結果は、図5に示すグラフのようになった。
【0051】
図5に示すグラフにおいて、冷却流路入口からの距離が同じである、奇数番目のセルと偶数番目のセルで高分子電解質膜の温度を比較した。この場合、常に偶数番目に配置される燃料電池単セルの方が、奇数番目に配置される燃料電池単セルよりも温度が低いことが分かった。
【0052】
さらに、上記した2セル構成において、奇数番目に第1MEAを、偶数番目に第2MEAを配置するように構成し、上記と同様の方法で高分子電解質膜の温度を算出した。その結果は、図6に示すグラフのようになった。
【0053】
図6に示すグラフにおいて、冷却流路入口からの距離が同じである、奇数番目のセルと偶数番目のセルで高分子電解質膜の温度を比較した。この場合、奇数番目に配置される燃料電池単セルも、偶数番目に配置されるも共に同じような低い温度となっていることが分かる。つまり、燃料電池セルスタックにおいて各燃料電池単セルが効率よく冷却されていることが分かる。
【0054】
逆に、上記した2セル構成において、奇数番目に第2MEAを、偶数番目に第1MEAを配置するように構成し、上記と同様の方法で高分子電解質膜の温度を算出した。その結果は、図7に示すグラフのようになった。
【0055】
図7に示すグラフにおいて、冷却流路入口からの距離が同じである、奇数番目のセルと偶数番目のセルで高分子電解質膜の温度を比較した。この場合、奇数番目に配置される燃料電池単セルも、偶数番目に配置されるも共に同じような高い温度となっていることが分かる。
【0056】
以上の実験結果より以下のことが言える。すなわち、図4、図5それぞれの実験結果から、燃料電池単セルの温度(高分子電解質膜)の温度が低くなればなるほど、燃料電池単セルの出力電圧が大きくなることが分かった。
【0057】
また、図6の結果から、冷却流路に近いほうの電極層の多孔率が小さくなるように、奇数番目に第1MEAを偶数番目に第2MEAを配置した構成のとき、各燃料電池単セルの温度が低くなることが分かった。逆に図7の結果から、冷却流路と隣り合う電極層の多孔率の方が大きくなるように、奇数番目に第2MEAを偶数番目に第1MEAを配置した構成のとき、各燃料電池単セルの温度が高くなることが分かった。
【0058】
次に、電極層の多孔率と燃料電池単セル(特には高分子電解質膜)の温度との関係について考察する。
【0059】
まず、燃料電池単セルの電極層(ガス拡散層)での熱伝導率は以下の数式(1)により求めることができる。
【0060】
熱伝導率=(気相部の熱伝導率)×(多孔率÷100)+(固相部の熱伝導率)×(1−多孔率÷100) ・・・(1)
ここで、酸素の熱伝導率を0.0246(W/m-k)、窒素の熱伝導率を0.0242(W/m-k)、ガス拡散層の熱伝導率を1.19(W/m-k)とすると、空気雰囲気で多孔率70%の電極層の熱伝導率は数式(1)に当てはめて計算すると以下の数式(2)に示す結果となる。
【0061】
(0.0242×0.8+0.0246×0.2)×0.7+1.19×0.3=0.374(W/m-k) ・・・(2)
一方、空気雰囲気で多孔率50%の電極層の熱伝導率は数式(1)に当てはめて計算すると以下の数式(3)に示す結果となる。
【0062】
(0.0242×0.8+0.0246×0.2)×0.5+1.19×0.5=0.607(W/m-k) ・・・(3)
すなわち、多孔率が50%の電極層の方が、多孔率が70%の電極層よりも1.6倍熱伝導率が大きくなる。そして、図6および図7の結果から冷却流路に最も近い電極層の多孔率を他方の多孔率よりも小さく(50%)としたとき燃料電池単セルにおける冷却効率が大きくなることが分かった。また、冷却効率を向上させることでセルの温度を低下させ、高分子電解質膜のドライアップを抑制することができるため、燃料電池単セルの発電性能が向上することが分かった。
【0063】
以上の知見より、2セル構成の燃料電池セルスタックにおいて、冷却流路と隣り合う電極層の多孔率が小さくなるように第1MEAおよび第2MEAを交互に配する構成とする。この構成により、アノード側、カソード側いずれを冷却する場合においても効率よく燃料電池単セルを冷却することができることが分かった。
【0064】
上記した知見に基づき、冷却流路を複数組みの燃料電池単セル毎に設けた燃料電池セルスタックの実施形態として以下の燃料電池セルスタック1を提案する。以下、図8に基づき本実施の形態に係る燃料電池セルスタック1の構成について説明する。図8は、本実施の形態に係る燃料電池セルスタック1の概略構成の一例を示す断面図である。
【0065】
なお、便宜上、燃料電池セルスタック1は、2つのMEA(第1MEA2aおよび第2MEA2b)と、これら2つのMEAを挟持する3つのセパレータ(第1セパレータ3a、第2セパレータ3b、および第3セパレータ3c)から構成されるものとして簡略化して説明する。なお、第1MEA2aおよび第2MEA2b、第1セパレータ3a、第2セパレータ3b、および第3セパレータ3cそれぞれを区別して説明する必要がない場合は、単にMEA2、セパレータ3のように称する。
【0066】
(燃料電池セルスタックの構成)
図8に示すように本実施の形態に係る燃料電池セルスタック1は、MEA2の高分子電解質膜4a,4bその厚み方向(積層方向)に第2セパレータ3b、第1MEA2a、第1セパレータ3a、第2MEA2b、第3セパレータ3cの順に積層されている。ここで、第1MEA2a及び第2MEA2bがそれぞれ燃料電池セルを構成している。また、これら2つの燃料電池セル(2a,2b)は、順に積層された複数(ここでは2つ)の燃料電池セルのセットであるセルブロックを構成している。また、順に積層された複数の燃料電池セルは、他の物(例えば、本実施の形態における第1セパレータ3a)を挟むようにして順に積層されていてもよい。
【0067】
(第1MEAの構成)
第1MEA2aは、水素イオンを選択的に輸送する高分子膜である第1高分子電解質膜4aと、この第1高分子電解質膜4aの両面に形成された一対の電極層5(第1アノード5a、第1カソード5b)とを備えている。なお、第1アノード5a、第1カソード5b、さらには後述する第2MEA2bの第2アノード5c、第2カソード5dを特に区別して説明する必要がない場合、単に電極層5と称する。
【0068】
一対の電極層5のうち第1カソード5bは、例えば、白金属触媒を坦持したカーボン粉末を主成分とする第1カソード触媒層6b、集電作用とガス透過性と撥水性とを併せ持つガス拡散層である第1カソードガス拡散層7bとを備える。
【0069】
また、第1アノード5aは、例えば、白金属触媒を坦持したカーボン粉末を主成分とする第1アノード触媒層6a、集電作用とガス透過性と撥水性とを併せ持つガス拡散層である第1アノードガス拡散層7aとを備える。第1アノードガス拡散層7aは第1アノード側カーボンシート8aと第1アノード側カーボン層9aとを備えてなる構成である。一方、第1カソードガス拡散層7bは第1カソード側カーボンシート8bと第1カソード側カーボン層9bとを備えてなる構成である。
【0070】
第1高分子電解質膜4aの両面を挟持するように、第1カソード5bの第1カソード触媒層6bと第1アノード5aの第1アノード触媒層6aとが配されている。そして、第1カソード触媒層6bにおける第1高分子電解質膜4aが配される側とは反対側の面に第1カソードガス拡散層7bが、第1アノード触媒層6aにおける第1高分子電解質膜4aが配される側とは反対側の面に第1アノードガス拡散層7aがそれぞれ形成されている。なお、第1MEA2aの第1アノードガス拡散層7aの熱伝導率は、第1カソードガス拡散層7bの熱伝導率よりも大きくなっている。つまり、第1アノードガス拡散層7aの多孔率が50%であり、第1カソードガス拡散層7bの多孔率が70%となっている。
【0071】
(第2MEAの構成)
第2MEA2bは、第1MEA2aと同様な構成を有するが、第2MEA2bの第2アノードガス拡散層7cの熱伝導率が、第2カソードガス拡散層7dの熱伝導率よりも小さい点で、第1MEA2aと異なっている。つまり、第2カソードガス拡散層7dの多孔率が50%であり、第2アノードガス拡散層7cの多孔率が70%となっている。これら以外は、第2MEA2bの構成は第1MEA2aの構成と同様であるため説明は省略する。
【0072】
なお、第1高分子電解質膜4a,第2高分子電解質膜4bを特に区別して説明する必要がないときは単に高分子電解質膜4と称する。また、第1アノードガス拡散層7a,第1カソードガス拡散層7b,第2アノードガス拡散層7c,第2カソードガス拡散層7dそれぞれを特に区別して説明する必要がないときは単にガス拡散層7と称し、第1アノード触媒層6a,第1カソード触媒層6b,第2アノード触媒層6c,第2カソード触媒層6dを特に区別して説明する必要が無い場合は単に触媒層6と称する。
【0073】
(触媒層)
次にMEA2の電極層5が備える触媒層6について説明する。
【0074】
触媒層6は、好ましくは、水素または酸素の酸化還元反応に対する触媒を含む層である。触媒層6は、導電性を有し、かつ水素および酸素の酸化還元反応に対する触媒能を有するものであれば特に限定されない。
【0075】
また、触媒層6は、例えば白金族金属触媒を担持したカーボン粉末とプロトン導電性を有する高分子材料とを主成分とした多孔質な部材から構成される。触媒層6に用いるプロトン導電性高分子材料は、高分子電解質膜4と同じ種類であっても、異なる種類であってもよい。
【0076】
(ガス拡散層の構成)
次にMEA2の電極層5が備えるガス拡散層7について説明する。
【0077】
ガス拡散層7は、好ましくは、導電性を有する多孔質の部材である。ガス拡散層7は、導電性を有し、かつ反応ガスが拡散できるものであれば特に限定されない。
【0078】
例えば、ガス拡散層7は、炭素繊維を基材として用いたタイプであっても良いし、カーボンの微粉末をバインダーとともに混練してシート化したタイプのものや、金属の微粉末を焼結したタイプのものであっても良い。
【0079】
炭素繊維を基材として用いたタイプのものとしては、カーボンクロス、カーボンペーパー、カーボンフェルト等が挙げられる。
【0080】
炭素微粉末としては、グラファイト、カーボンブラック、活性炭、炭素繊維粉末などが挙げられる。前記カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、バルカンなどが挙げられる。また、前記炭素繊維微粉末としては、気相成長法炭素繊維(VGCF)、ミルドファイバー、カットファイバー、チョップファイバーなどが挙げられる。これらのうち、いずれか一種類を用いても良いし、複数混合したものを用いても良い。カーボンブラックと炭素繊維を混合することが、コスト、電気伝導性、強度の観点から好ましい。さらに、カーボンブラックとしては、アセチレンブラックを用いることが、不純物含有量が少なく、電気伝導性が高いという観点から好ましい。
【0081】
バインダーとしては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、PVDF(ポリビニリデンフルオライド)、ETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)などが挙げられる。これらの中でもバインダーとしてPTFEが使用されることが、耐熱性、撥水性、耐薬品性の観点から好ましい。PTFEの原料形態としては、ディスパージョン、粉末状などがあげられる。それらの中でもPTFEの原料形態としてディスパージョンが採用されることが、作業性の観点から好ましい。
【0082】
金属微粉末としては、遷移金属微粉末、および、遷移金属合金微粉末が挙げられる。中でも、電気伝導性および耐酸性を有し、比較的安価である、チタン、ニッケル、ステンレス等を用いることが好ましい。
【0083】
ガス拡散層7は、カソード側及びアノード側において同じガス拡散層7を用いても、異なるガス拡散層7を用いてもよい。
【0084】
(セパレータの構成)
第1セパレータ3aは、第1MEA2aと第2MEA2bとの間に配置されており、第1MEA2aと接する側の面に第1酸化剤ガス流路11aが、その面の反対面で第2MEA2bと接する側の面に第1燃料ガス流路12aがそれぞれ形成されている。
【0085】
第2セパレータ3bは、第1MEA2aを挟んで第1セパレータ3aと対向する位置に配置されている。そして、第2セパレータ3bにおいて第1MEA2aと接する側の面に第2燃料ガス流路12bが形成され、その第2燃料ガス流路12bが形成された面とは反対側の面に第1冷却流路10aが形成されている。
【0086】
第3セパレータ3cは、第2MEA2bを挟んで第1セパレータ3aと対向する位置に配置されている。そして、第3セパレータ3cにおいて第2MEA2bと接する側の面に第2酸化剤ガス流路11bが形成され、その第2酸化剤ガス流路11bが形成された面とは反対側の面に第2冷却流路10bが形成されている。
【0087】
上記した第1セパレータ3a、第2セパレータ3b、および第3セパレータ3cそれぞれは、熱伝導性および導電性を兼ね備えている。
【0088】
また、第1冷却流路10a,第2冷却流路10b、第1酸化剤ガス流路11a,第2酸化剤ガス流路11b、第1燃料ガス流路12a,第2燃料ガス流路12bそれぞれについて特に区別して説明する必要がないときは、単に冷却流路10、酸化剤ガス流路11、燃料ガス流路12と称する。
【0089】
次に、上記した構成を有する燃料電池セルスタック1の作製例について説明する。なお、第1MEA2aと第2MEA2bとでは、上述したように第1アノードガス拡散層7aと第1カソードガス拡散層7bとの熱伝導率の大小関係と、第2アノードガス拡散層7cと第2カソードガス拡散層7dとの熱伝導率の大小関係とが異なる点を除き、構成は同様である。このため、以下では、第1MEA2aを例に挙げて作製例を説明する。
【0090】
(膜−触媒層接合体の作製)
まず、第1MEA2aの構成要素である膜−触媒層接合体の作成方法について説明する。
【0091】
ケッチェンブラック(導電性カーボンブラック)に白金コバルト合金を担持した触媒(田中貴金属、36E52)と、水素イオン伝導性を有する高分子電解質溶液(旭硝子、Flemion)とを、エタノールと水との混合分散媒(質量比1:1)に分散させてカソード触媒層形成用インクを調製する。このとき、カーボン粉末の質量WCat−Cに対する高分子電解質の質量WPの比(WP/WCat−C)が1.0となるように、高分子電解質溶液の質量が調整されている。
【0092】
次に、得られたカソード触媒層形成用インクを用い、第1高分子電解質膜4a(ジャパンゴアテックス、GSIII)の一方の面に、スプレー法によって塗布し、白金担持量が0.3mg/cmで寸法が60mm×60mmの第1カソード触媒層6bを形成する。
【0093】
また、ケッチェンブラックに白金ルテニウム合金を担持した触媒(田中貴金属、61E54)と、高分子電解質溶液(旭硝子(株)製のFlemion)を、エタノールと水との混合分散媒(質量比1:1)に分散させてアノード触媒層形成用インクを調製する。このとき、カーボン粉末の質量WCat−Cに対する高分子電解質の質量WPの比(WP/WCat−C)が0.8となるように、高分子電解質溶液の質量を調整する。
【0094】
次に、得られたアノード触媒層形成用インクを、第1高分子電解質膜4aの第1カソード触媒層6bが形成された面とは反対側の面(第1高分子電解質膜4aの他方の面)に、スプレー法によって塗布し、白金担持量が0.1mg/cmで寸法が60mm×60mmの第1アノード触媒層6aを形成した。以上のようにして膜−触媒層接合体を作製する。
【0095】
(ガス拡散層の作製)
次に、第1アノード触媒層6aの、第1高分子電解質膜4aが配される面とは反対側の面に形成される第1アノードガス拡散層7a、ならびに第1カソード触媒層6bの第1高分子電解質膜4aが配される面とは反対側の面に形成される第1カソードガス拡散層7bの作製方法について説明する。
【0096】
(カーボンシートの作製)
まず第1アノードガス拡散層7aにおける第1アノード側カーボンシート8aの作製方法について説明する。
【0097】
まず、アセチレンブラック(電気化学工業、デンカブラック(登録商標))50gと、グラファイト(和光純薬工業)80gと、VGCF(登録商標)(vapor grown carbon fibe;昭和電工、繊維径0.15μm、繊維長15μm)3gと、界面活性剤(トライトンX)4gと、水200gとを、ミキサーに投入し、混練する。続いて、ミキサーにPTFE(ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene))ディスパージョン(旭硝子、AD911、固形分比60重量%)25gを投入し、さらに5分間攪拌して混練物を得る。
【0098】
得られた混練物をミキサーの中から20g取り出し、延伸ロール機(ギャップ600μm)にて、厚み600μmのシート状混練物とする。この後、シート状混練物を焼成炉にて300℃で2時間熱処理し、混練物中の界面活性剤と水を除去する。
【0099】
界面活性剤と水を除去したシート状混練物を焼成炉から取り出し、再び延伸ロール機(ギャップ400μm)にて圧延して厚さ調整及び厚さバラツキの低減を行ったのち、6cm角に裁断する。このようにして、厚さ400μmのゴム状の第1アノード側カーボンシート8aを作製することができる。
【0100】
なお、第1アノード側カーボンシート8aの重量と体積、および用いた材料の密度からこの第1アノード側カーボンシート8aの多孔率を計算すると約50%となる。
【0101】
また上述したように第1アノードガス拡散層7aと第1カソードガス拡散層7bとにおいて熱伝導率が異なる。このため、上述した第1アノードガス拡散層7aの作製方法に対して第1カソードガス拡散層7bの作製方法は以下の点で異なる。
【0102】
すなわち、アセチレンブラック(電気化学工業、デンカブラック(登録商標))115gと、グラファイト(和光純薬工業)15gと、VGCF(登録商標)、(vapor grown carbon fibe;昭和電工、繊維径0.15μm、繊維長15μm)3gと、界面活性剤(トライトンX)4gと、水200gとを、ミキサーに投入する点で相違する。つまり、投入するアセチレンブラックとグラファイトとの分量がそれぞれ異なる。それ以降は第1アノードガス拡散層7aの第1アノード側カーボンシート8aと同様にして、第1カソードガス拡散層7bの第1カソード側カーボンシート8bを作製する。
【0103】
なお、第1カソード側カーボンシート8bの重量と体積、および用いた材料の密度からこの第1カソード側カーボンシート8bの多孔率を計算すると約70%となる。
【0104】
(カーボン層の作製)
次に、第1アノードガス拡散層7aにおける第1アノード側カーボン層9a(あるいは、第1カソードガス拡散層7bにおける第1カソード側カーボン層9b)の作製方法について説明する。
【0105】
水151gと、界面活性剤(トライトンX)1gを容器に投入し、自公転攪拌脱泡器にて界面活性剤の分散処理を行う。続いて、アセチレンブラック(電気化学工業、デンカブラック(登録商標))10gと、PTFEディスパージョン(旭硝子、AD911、固形分比60重量%)5.5gとを容器に投入し、自公転攪拌脱泡器にてアセチレンブラックとPTFEの分散処理を行う。さらに、フィルター(SUS製、200mesh)を用いて粗大粒子を取り除いた後、自公転攪拌脱泡器を用いて脱泡処理を行うことで、分散液を得ることができる。
【0106】
得られた分散液を、ホットプレート上に置かれた第1アノード側カーボンシート8a、および第1カソード側カーボンシート8bそれぞれの一方の面に、スプレー法によって塗布する。そして、ホットプレート(摂氏60度)により分散液のほぼ全量を乾燥により除去することで、分散液層を作製する。より具体的には、乾燥後の分散液層の重量が2.0mg/cmとなるように調整する。この後、分散液層が形成された第1アノード側カーボンシート8a、および第1カソード側カーボンシート8bを、焼成炉にて摂氏240度で2時間熱処理し、分散液層中の界面活性剤の除去を行う。以上のようにして、第1アノード側カーボン層9aおよび第1カソード側カーボン層9bを作製することができる。
【0107】
(MEAの作製)
次に、第1MEA2aの作製方法について以下に説明する。
【0108】
まず、上述の「膜−触媒層接合体の作製」にて述べたようにして作製した膜−触媒層接合体と、上述の「ガス拡散層の作製」にて述べたようにして作製したガス拡散層7(第1アノードガス拡散層7a、第1カソードガス拡散層7b)とを用意する。そして、第1アノードガス拡散層7aが第1アノード触媒層6aに、第1カソードガス拡散層7bが第1カソード触媒層6bに接するように、膜―触媒層接合体をこれら2枚のこれらガス拡散層7によって挟持し、第1MEA2aを作製する。
【0109】
なお、第2MEA2bは、上述したように第1MEA2aとは、第2アノードガス拡散層7c、第2カソードガス拡散層7dそれぞれの熱伝導率が第1アノードガス拡散層7a第1カソードガス拡散層7bそれぞれの熱伝同率と逆になるが、それ以外は同様の構成である。このため、第2MEA2bの作製においては、上述した第1アノードガス拡散層7aの作製方法によって第2カソードガス拡散層7dを作製し、第1カソードガス拡散層7bの作製方法によって第2アノードガス拡散層7cを作製する。
【0110】
(燃料電池セルスタックの作製)
次に本実施の形態に係る燃料電池セルスタック1の作製方法について説明する。
【0111】
上記したように作製された第1MEA2aおよび第2MEA2bに加えて、第1セパレータ3a、第2セパレータ3b、第3セパレータ3cを用意する。
【0112】
第1セパレータ3aは、その一面に第1燃料ガス流路12aを、その反対面に第1酸化剤ガス流路11aを形成している。また第2セパレータ3bは、その一面に第2燃料ガス流路12bを、その反対面に第1冷却流路10aを形成している。さらまた第3セパレータ3cは、その一面に第2酸化剤ガス流路11bを、その反対面に第2冷却流路10bを形成している。
【0113】
各セパレータ(第1セパレータ3a〜第3セパレータ3c)の流体流路の周辺部にガスケット(不図示)を配置する。そして、第1燃料ガス流路12a,第2燃料ガス流路12bが第1アノード5a,第2アノード5c側で、第1酸化剤ガス流路11a、第2酸化剤ガス流路11bが第1カソード5b,第2カソード5d側で接するように、厚み方向に第2セパレータ3b、第1MEA2a、第1セパレータ3a、第2MEA2b、第3セパレータ3cの順で積層する。これらの積層構造を繰り返して、例えば、6セル分を積層する。そして6セル分を積層したその外側(積層方向における両端部)の集電板および絶縁板を配置し、これら集電板および絶縁板により積層されたセルを挟み、締結具で締結する。これにより、本実施の形態に係る燃料電池セルスタック1を作製することができる。
【0114】
以上の作製方法によって作製された燃料電池セルスタック1では、一対の電極層5のうち冷却流路10に近いほうの電極層5のガス拡散層7の多孔率の方が、遠いほうの電極層5のガス拡散層7の多孔率よりも小さくなっている。
【0115】
より具体的には、第1MEA2aにおいて、第2セパレータ3bに形成された第1冷却流路10aに近い側の電極層5、すなわち第1アノードガス拡散層7aの多孔率が50%である。これに対して、第1冷却流路10aに遠い側の電極層5、第1カソードガス拡散層7bの多孔率が70%である。
【0116】
また、第2MEA2bにおいて、第3セパレータ3cに形成された第2冷却流路10bに近い側の電極層5、すなわち第2カソードガス拡散層7dの多孔率が50%である。これに対して、第2冷却流路10bに遠い側の電極層5、すなわち第2アノードガス拡散層7cの多孔率が70%である。
【0117】
このように2セル構成において、冷却流路10に近い側の電極層5のガス拡散層7の熱伝導性が高くなるように(多孔率50%)に配置することで、上記した知見にて述べたように、冷却効率を高め、高分子電解質膜4のドライアップを抑制することができる。このため、2セル構成において燃料電池セルスタック1の発電性能を向上させることができる。
【0118】
なお、上記では一対のガス拡散層7において、各ガス拡散層7の多孔率を異ならせることで熱伝導率が異なるガス拡散層7の組を実現していた。しかしながら、熱伝導率を異ならせる条件はガス拡散層7における多孔率に限定されるものではない。例えば、一対のガス拡散層7において一方のガス拡散層7の厚みを他方のガス拡散層7の厚みより厚くなるように形成してもよい。
【0119】
さらには、ガス拡散層7を構成する材料自体の熱伝導率を変えるように形成してもよい。材料自体の熱伝導率を変えるために、例えば、一対のガス拡散層7において一方のガス拡散層7に含まれる炭素繊維の量を他方のガス拡散層7に含まれる炭素繊維の量よりも大きくする(または小さくする)ことで熱伝導率を変えることができる。あるいは、ガス拡散層7を構成する炭素繊維の量と、炭素繊維よりも熱伝導率の高い金属成分の量との比率を変えてもよい。さらには、一対のガス拡散層7において、一方のガス拡散層7に含まれる金属成分の量を他方のガス拡散層7に含まれる金属成分の量よりも大きくする(または小さくする)ことで熱伝導率を変えることができる。あるいは、一対のガス拡散層7において、一方のガス拡散層7に含まれる金属成分の方が他方のガス拡散層に含まれる金属成分よりも熱伝導率が大きい(または小さい)材料を採用することで熱伝導率を変えることもできる。
【0120】
また、本実施の形態に係る燃料電池セルスタック1では、その冷却機構としてセパレータ(第2セパレータ3b、第3セパレータ3c)に冷却流路10(第1冷却流路10a、第2冷却流路10b)が形成され、該冷却流路10を流れる冷却水により冷却がなされる構成であった。また、例えば第1セパレータ3aには、第1酸化剤ガス流路11aが、その面の反対面で第1燃料ガス流路12aがそれぞれ形成される構成であった。
【0121】
すなわち、本実施形態では、セパレータ3に燃料ガス、酸化剤ガス、及び冷却水用の各マニホールド孔を設けて積層した際に燃料ガス、酸化剤ガス、及び冷却水の各供給マニホールドが形成されるように構成した内部マニホールド方式のものを例示して説明した。
【0122】
しかしながら、燃料電池セルスタック1の側面に燃料ガス、酸化剤ガス、及び冷却水の各供給マニホールドを設けた、所謂、外部マニホールド方式のものにも、同様に適用でき、同様の効果を得ることができる。
【0123】
あるいは、本実施形態の構成において、セパレータ3を多孔状の導電材にて形成し、冷却流体の冷却流路10を通流する圧力が、燃料ガス流路12を通流する燃料ガスの圧力よりも高くなるようにしてもよい。そして、冷却水の一部を電極面側にセパレータ3を透過させて、高分子電解質膜4を湿らせる、所謂、内部加湿型に構成してもよい。
【0124】
また、セパレータ3は、薄い板を折り曲げて冷却流路10を形成したものであってもよい。またセパレータ3の呼び名は、様々であり、例えばフローフィールドプレート(双極板)などであってもよい。
【0125】
また、上記では、2つの燃料電池単セルごとに1つの冷却流路10が設けられた燃料電池セルスタック1の構成(2セル構成)を例に挙げて説明したが、この構成に限定されるものではない。例えば、3つの燃料電池単セルごと、4つの燃料電池単セルごとなど3以上の燃料電池単セルごとに冷却流路10が設けられた構成であってもよい。
【0126】
(効果)
以上のように本実施の形態に係る燃料電池セルスタック1は、以下の構成を有するものともいえる。
【0127】
すなわち、本実施の形態に係る燃料電池セルスタック1は、高分子電解質膜4と、この高分子電解質膜4の両面に形成された一対の電極層5(第1アノード5a,第1カソード5b,第2アノード5c,第2カソード5d)とを含む燃料電池単セルと、冷却流路10(第1冷却流路10a、第2冷却流路10b、冷却機構)と、を備えている。燃料電池単セルが高分子電解質膜4の厚み方向に積層されセルブロックを形成している。そして、隣り合う2つのセルブロック間には冷却流路10が設けられている。また、一対の電極層5それぞれは、高分子電解質膜4の片面に順に積層された触媒層6(第1アノード触媒層6a,第1カソード触媒層6b,あるいは第2アノード触媒層6c,第2カソード触媒層6d)とガス拡散層7(第1アノードガス拡散層7a,第1カソードガス拡散層7b,あるいは第2アノードガス拡散層7c,第2カソードガス拡散層7d)とを含む。
【0128】
そして、隣り合う2つのセルブロックにおいて、各セルブロックの中で冷却流路10と隣り合う燃料電池単セルでは、冷却流路10が配置されている側の電極層5のガス拡散層である第1アノードガス拡散層7aまたは第2カソードガス拡散層7dの熱伝導率が、冷却流路10が配置されていない側の電極層のガス拡散層である第1カソードガス拡散層7bまたは第2アノードガス拡散層7c)の熱伝導率よりも大きくなるように構成されている。
【0129】
ところで、第1ガス拡散層と第2ガス拡散層との位置関係は、燃料電池単セルと隣り合う冷却流路10までの距離が前者の方が後者よりも近くなる。
【0130】
上記構成によると、第1ガス拡散層の方が、第2ガス拡散層よりも熱伝導率が大きい。すなわち、熱伝導率が異なるガス拡散層7を有する燃料電池単セルにおいて、冷却流路10までの距離が近いほうに熱伝導率が大きいガス拡散層(第1ガス拡散層)が配置されることとなる。
【0131】
このため、燃料電池セルスタック1では、冷却流路10を複数組みの燃料電池単セル毎に設けた構成において、この冷却流路10によって効率的に燃料電池単セル、特に、高分子電解質膜4を冷却することができる。また、高分子電解質膜4を効率的に冷却することができるため、燃料電池単セルにおいて高分子電解質膜4のドライアップが生じるのを抑制することができる。
【0132】
よって、燃料電子セルスタック1は、冷却機構を複数の燃料電池単セル毎に設ける構成において良好な発電性能が得られるという効果を奏する。
【0133】
また、本実施の形態に係る燃料電池セルスタック1は、ガス拡散層7において空隙が占める比率を示す値である多孔率が、第1ガス拡散層よりも第2ガス拡散層の方が大きくなるように構成されていてもよい。
【0134】
ここで、多孔率が小さいガス拡散層の方が、多孔率が大きいガス拡散層よりも熱伝導率が大きくなる。
【0135】
上記構成によると、第1ガス拡散層よりも第2ガス拡散層の方が、多孔率が大きくなる。換言すると、第1ガス拡散層よりも第2ガス拡散層の方が、熱伝導率が小さくなる。よって、冷却流路10までの距離が近いほうに熱伝導率が大きいガス拡散層7(第1ガス拡散層)が配置されることとなる。
【0136】
このため、燃料電池セルスタック1では、冷却流路10を複数の燃料電池単セル毎(セルブロック毎)に設けた構成において、この冷却流路10によって効率的に燃料電池単セル、特に、高分子電解質膜4を冷却することができる。また、高分子電解質膜4を効率的に冷却することができるため、燃料電池単セルにおいて高分子電解質膜4のドライアップが生じるのを抑制することができる。
【0137】
さらに、燃料電池セルスタック1では、一対の電極層5の各ガス拡散層7(第1アノードガス拡散層7aと第1カソードガス拡散層7b、または第2アノードガス拡散層7cと第2カソードガス拡散層7d)において、それぞれの多孔率が異なっている。このため、それぞれの多孔率を適切に設定することで適切な燃料電池単セルの保湿性および排水性を実現することもできる。
【0138】
また、燃料電池セルスタック1では、第1ガス拡散層の厚みは、第2ガス拡散層の厚みよりも小さくなるように構成されていてもよい。ここで、ガス拡散層の厚みが小さい方が、熱伝導率が大きくなる。
【0139】
上記構成によると第1ガス拡散層の方が第2ガス拡散層の厚みよりも小さくなる。換言すると、第1ガス拡散層の方が第2ガス拡散層よりも熱伝導率が大きくなる。よって、冷却流路10までの距離が近いほうに熱伝導率が大きいガス拡散層(第1ガス拡散層)が配置されることとなる。
【0140】
このため、燃料電池セルスタック1では、冷却流路10を複数の燃料電池単セル毎(セルブロック毎)に設けた構成において、この冷却流路10によって効率的に燃料電池単セル、特に、高分子電解質膜4を冷却することができる。また、高分子電解質膜4を効率的に冷却することができるため、燃料電池単セルにおいて高分子電解質膜4のドライアップが生じるのを抑制することができる。
【0141】
また、燃料電池セルスタック1は、以上のように、第1ガス拡散層を構成する材料の熱伝導率は、第2ガス拡散層を構成する材料の熱伝導率よりも大きくなるように構成されてもよい。
【0142】
上記構成によると第1ガス拡散層を構成する材料の方が第2ガス拡散層を構成する材料よりも熱伝導率が大きくなる。よって、冷却流路10までの距離が近いほうに熱伝導率が大きいガス拡散層(第1ガス拡散層)が配置されることとなる。
【0143】
このため、燃料電池セルスタック1では、冷却流路10を複数の燃料電池単セル毎(セルブロック毎)に設けた構成において、この冷却流路10によって効率的に燃料電池単セル、特に、高分子電解質膜4を冷却することができる。また、高分子電解質膜4を効率的に冷却することができるため、燃料電池単セルにおいて高分子電解質膜4のドライアップが生じるのを抑制することができる。
【0144】
また、燃料電池セルスタック1は、以上のように、第1ガス拡散層及び第2ガス拡散層は、それぞれを構成する材料として炭素繊維を含んでおり、第1ガス拡散層に含まれる炭素繊維の量が第2ガス拡散層に含まれる炭素繊維の量よりも多くなるように構成されていてもよい。
【0145】
上記構成によると、第1ガス拡散層の方が第2ガス拡散層よりも含まれる炭素繊維の量が多くなる。換言すると第1ガス拡散層の方が第2ガス拡散層よりも熱伝導率が大きくなる。よって、冷却流路10までの距離が近いほうに熱伝導率が大きいガス拡散層(第1ガス拡散層)が配置されることとなる。
【0146】
このため、燃料電池セルスタック1では、冷却流路10を複数の燃料電池単セル毎(セルブロック毎)に設けた構成において、この冷却流路10によって効率的に燃料電池単セル、特に、高分子電解質膜4を冷却することができる。また、高分子電解質膜4を効率的に冷却することができるため、燃料電池単セルにおいて高分子電解質膜4のドライアップが生じるのを抑制することができる。
【0147】
また、燃料電池セルスタック1は、以上のように、第1ガス拡散層及び第2ガス拡散層は、それぞれを構成する材料として同じ金属成分を含んでおり、第1ガス拡散層に含まれる金属成分の量が第2ガス拡散層に含まれる金属成分の量よりも多くなるように構成されていてもよい。
【0148】
上記構成によると熱伝導率が高い金属成分の量が第2ガス拡散層よりも第1ガス拡散層の方が多くなる。換言すると第1ガス拡散層の方が第2ガス拡散層よりも熱伝導率が大きくなる。よって、冷却流路10までの距離が近いほうに熱伝導率が大きいガス拡散層(第1ガス拡散層)が配置されることとなる。
【0149】
このため、燃料電池セルスタック1では、冷却流路10を複数の燃料電池単セル毎(セルブロック毎)に設けた構成において、この冷却流路10によって効率的に燃料電池単セル、特に、高分子電解質膜4を冷却することができる。また、高分子電解質膜4を効率的に冷却することができるため、燃料電池単セルにおいて高分子電解質膜4のドライアップが生じるのを抑制することができる。
【0150】
また、燃料電池セルスタック1は、第1ガス拡散層及び第2ガス拡散層は、それぞれを構成する材料として異なる金属成分を含んでおり、第1ガス拡散層に含まれる金属成分の熱伝導率は、第2ガス拡散層に含まれる金属成分の熱伝導率よりも大きくなるように構成されていてもよい。
【0151】
上記構成によると第2ガス拡散層よりも第1ガス拡散層の方が、熱伝導率が高い金属成分を含む。換言すると第1ガス拡散層の方が第2ガス拡散層よりも熱伝導率が大きくなる。よって、冷却流路10までの距離が近いほうに熱伝導率が大きいガス拡散層(第1ガス拡散層)が配置されることとなる。
【0152】
このため、燃料電池セルスタック1では、冷却流路10を複数の燃料電池単セル毎(セルブロック毎)に設けた構成において、この冷却流路10によって効率的に燃料電池単セル、特に、高分子電解質膜4を冷却することができる。また、高分子電解質膜4を効率的に冷却することができるため、燃料電池単セルにおいて高分子電解質膜4のドライアップが生じるのを抑制することができる。
【0153】
上記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良や他の実施形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明の精神を逸脱することなく、その構造及び/又は機能の詳細を実質的に変更できる。
【産業上の利用可能性】
【0154】
本発明の燃料電池セルスタックは、冷却機構を複数の燃料電池単セル毎に設け、コストダウンと短尺化を図った燃料電池セルスタックに好適に利用される。
【符号の説明】
【0155】
1 燃料電池セルスタック
2 MEA
3 セパレータ
3a 第1セパレータ
3b 第2セパレータ
3c 第3セパレータ
4 高分子電解質膜
4a 第1高分子電解質膜
4b 第2高分子電解質膜
5 電極層
5a 第1アノード
5b 第1カソード
5c 第2アノード
5d 第2カソード
6 触媒層
6a 第1アノード触媒層
6b 第1カソード触媒層
6c 第2アノード触媒層
6d 第2カソード触媒層
7 ガス拡散層
7a 第1アノードガス拡散層
7b 第1カソードガス拡散層
7c 第2アノードガス拡散層
7d 第2カソードガス拡散層
8a 第1アノード側カーボンシート
8b 第1カソード側カーボンシート
9a 第1アノード側カーボン層
9b 第1カソード側カーボン層
10 冷却流路
10a 第1冷却流路
10b 第2冷却流路
11 酸化剤ガス流路
11a 第1酸化剤ガス流路
11b 第2酸化剤ガス流路
12 燃料ガス流路
12a 第1燃料ガス流路
12b 第2燃料ガス流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質膜とこの高分子電解質膜の両面に形成された一対の電極層とを含む燃料電池セルと、冷却機構と、を備え、
複数の前記燃料電池セルが前記高分子電解質膜の厚み方向に積層され、セルブロックを形成しており、
隣り合う2つの前記セルブロック間には前記冷却機構が設けられており、
前記一対の電極層それぞれは、前記高分子電解質膜の片面に順に積層された触媒層とガス拡散層とを含み、
隣り合う2つの前記セルブロックにおいて、各セルブロックの中で前記冷却機構と隣り合う燃料電池セルでは、前記冷却機構が配置されている側の電極層のガス拡散層である第1ガス拡散層の熱伝導率が、冷却機構が配置されていない側の電極層のガス拡散層である第2ガス拡散層の熱伝導率よりも大きい、燃料電池セルスタック。
【請求項2】
前記ガス拡散層において空隙が占める比率を示す値である多孔率が、前記第1ガス拡散層よりも前記第2ガス拡散層の方が大きい、請求項1に記載の燃料電池セルスタック。
【請求項3】
前記第1ガス拡散層の厚みは、前記第2ガス拡散層の厚みよりも小さい、請求項1に記載の燃料電池セルスタック。
【請求項4】
前記第1ガス拡散層を構成する材料の熱伝導率は、前記第2ガス拡散層を構成する材料の熱伝導率よりも大きい、請求項1に記載の燃料電池セルスタック。
【請求項5】
前記第1ガス拡散層及び前記第2ガス拡散層は、それぞれを構成する材料として炭素繊維を含んでおり、
前記第1ガス拡散層に含まれる炭素繊維の量が前記第2ガス拡散層に含まれる炭素繊維の量よりも多い、請求項4に記載の燃料電池セルスタック。
【請求項6】
前記第1ガス拡散層及び前記第2ガス拡散層は、それぞれを構成する材料として同じ金属成分を含んでおり、
前記第1ガス拡散層に含まれる金属成分の量が前記第2ガス拡散層に含まれる金属成分の量よりも多い、請求項4に記載の燃料電池セルスタック。
【請求項7】
前記第1ガス拡散層及び前記第2ガス拡散層は、それぞれを構成する材料として異なる金属成分を含んでおり、
前記第1ガス拡散層に含まれる金属成分の熱伝導率は、前記第2ガス拡散層に含まれる金属成分の熱伝導率よりも大きい、請求項4に記載の燃料電池セルスタック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−84486(P2013−84486A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224449(P2011−224449)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】