説明

燃料電池セル

【課題】 固体電解質層と酸素極層との接触抵抗を高めることなく、両層の密着強度が高められ、初期において高い発電性能を得ることができるとともに、長期に亘って高い発電性能を維持できる固体電解質型燃料電池セルを提供する。
【解決手段】 酸素極層と燃料極層との間にペロブスカイト型固体電解質層が配置されている燃料電池セルにおいて、前記固体電解質層と前記酸素極層との間に、CeOとLn(Lnは希土類元素)からなる複合酸化物で構成された中間層が形成されており、前記酸素極層が、第1の酸素極層と第2の酸素極層との2層構造を有し、第1の酸素極層は、前記中間層上に設けられた第2の酸素極層上に位置し、且つペロブスカイト型酸化物から形成され、前記中間層上に設けられた第2の酸素極層は、前記中間層形成用複合酸化物と前記ペロブスカイト型酸化物とから形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質型燃料電池セルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
次世代エネルギーとして、近年、燃料電池セルのスタックを収納容器内に収容した燃料電池が種々提案されている。例えば、図4は、従来の固体電解質型燃料電池のセルスタックを示すもので、このセルスタックは、複数の燃料電池セル1(1a、1b)を整列集合させ、一方の燃料電池セル1aと他方の燃料電池セル1bとの間に金属フェルトからなる集電部材5を介在させ、一方の燃料電池セル1aの燃料極7と他方の燃料電池セル1bの酸素極11とを電気的に接続して構成されていた。即ち、この燃料電池セル1(1a、1b)は、円筒状の金属からなる燃料極7の外周面に、固体電解質9、導電性セラミックスからなる酸素極11を順次設けて構成されており、固体電解質9、酸素極11から露出した燃料極7には、酸素極11に接続しないようにインターコネクタ12が設けられ、燃料極7と電気的に接続している。
【0003】
上記の燃料電池セル1(1a、1b)におけるインターコネクタ12は、燃料極7の内部を流れる燃料ガスと、酸素極11の外側を流れる酸素含有ガスとを確実に遮断するため緻密で、燃料ガス及び酸素含有ガスで変質しにくい導電性セラミックスで形成されている。また、一方の燃料電池セル1aと他方の燃料電池セル1bとの電気的接続は、一方の燃料電池セル1aの燃料極7を、該燃料極7に設けられたインターコネクタ12、集電部材5を介して、他方の燃料電池セル1bの酸素極11に接続することにより行われていた。
【0004】
燃料電池は、上記セルスタックを収納容器内に収容して構成され、燃料極7内部に燃料(水素)を流し、酸素極11に空気(酸素)を流して1000℃程度で発電される。
【0005】
このような燃料電池を構成する燃料電池セルでは、一般に、燃料極7が、Niと、Yを含有する安定化ジルコニア(YSZ)とからなり、固体電解質9が安定化ジルコニア(YSZ)からなり、酸素極11がLaMnO系ペロブスカイト酸化物から構成されている。
【0006】
ところで、近年になって、安定化ジルコニアよりも高い酸素イオン伝導性が得られる物質として、下記式:
(La1−xSr)(Ga1−yMg)O
で表されるランタンガリウムペロブスカイト型酸化物(以下LSGM又はランタンガレートと略す)が注目されており、多くの研究が行われている。
【0007】
上記のLSGM焼結体は、600〜800℃という低温でも酸素イオン伝導性の低下が少ない物質で、LaやGaの一部が、それより低原子価のSrやMg等に、置換固溶により置き代わったものであり、これにより、焼結体の酸素イオン伝導性が大きくなるという性質を有する。この材料は、現在では最も優れた酸化物イオン伝導体と考えられている。
【0008】
しかしながら、上記のようなLSGMにより固体電解質層を形成した燃料電池セルでは、低温作動であるものの、酸素極層と固体電解質層との接触抵抗が高くなり、初期における燃料電池セルの性能低下を引き起こすという問題があった。
【0009】
上記のような問題を解決する方法として、酸素極層と固体電解質層との界面に、ペロブスカイト型酸化物からなる中間層を形成させた構造が提案されている(特許文献1、2参照)。
【特許文献1】特開2000−188117号公報
【特許文献1】特開2002−52722号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記のような中間層を設けた燃料電池セルでは、固体電解質層のイオン伝導度が低下し、燃料電池セルの性能低下を引き起こすという問題があった。即ち、本発明者等の研究によると、このような燃料電池セルでは、酸素極層と中間層と固体電解質層とが全て同じペロブスカイト型結晶構造を有しているため、層間での元素の拡散が円滑に進行してしまい、各層間の組成が連続的に変化する濃度勾配が生成し、密着強度が向上する一方で、長時間に亘って発電を行うと、元素の拡散に起因して固体電解質層のイオン伝導度が低下してしまい、この結果として、燃料電池セルの性能低下を生じてしまうことが判った。
【0011】
従って、本発明の目的は、固体電解質層と酸素極層との接触抵抗を高めることなく、両層の密着強度が高められ、初期において高い発電性能を得ることができるとともに、長期に亘って高い発電性能を維持できる固体電解質型燃料電池セルを提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題について鋭意検討した結果、固体電解質層と酸素極層との間にイオン伝導性を有する材料で構成された非ペロブスカイト系の複合酸化物により形成された中間層を設け、且つ酸素極層を、ペロブスカイト型酸化物からなる第1の層と、前記中間層形成材料と上記ペロブスカイト型酸化物とからなる第2の層との2層構造とすることにより、初期において高い発電性能を得ることができるとともに、長期に亘って高い発電性能を維持できることを見出し、本発明に至った。
【0013】
即ち、本発明によれば、酸素極層と燃料極層との間にペロブスカイト型固体電解質層が配置されている燃料電池セルにおいて、
前記固体電解質層と前記酸素極層との間に、CeOとLn(Lnは希土類元素)からなる複合酸化物で構成された中間層が形成されており、
前記酸素極層が、第1の酸素極層と第2の酸素極層との2層構造を有し、第1の酸素極層は、前記中間層上に設けられた第2の酸素極層上に位置し、且つペロブスカイト型酸化物から形成され、前記中間層上に設けられた第2の酸素極層は、前記中間層形成用複合酸化物と前記ペロブスカイト型酸化物とから形成されていることを特徴とする燃料電池セルが提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の燃料電池セルでは、固体電解質層と酸素極層との間に、CeOとLn(Lnは希土類元素)からなるCe−希土類元素系複合酸化物により形成された中間層を設けると同時に、酸素極層を2層構造とし、該中間層に隣接する第2の酸素極層を、Ce−希土類元素系複合酸化物と第1の酸素極層形成材料であるペロブスカイト型酸化物とにより形成することにより、固体電解質層と酸素極層との密着性を高め、両層の接触抵抗を低減させることができ、製造時等におけるこれらの層の剥離を防止し、製造歩留まりを高めることができる。しかも、このような層構造によれば、酸素極層、中間層、固体電解質層において、各層の結晶構造が異なるため、元素拡散が起こりにくく、その結果として、長時間に亘って発電を行った場合の固体電解質層のイオン伝導性の劣化を防止することができ、燃料電池セルの性能低下を有効に回避することができる。
【0015】
本発明においては、前記中間層を構成する複合酸化物(Ce−希土類元素系複合酸化物)は、下記式:
(CeO1−x(LnO1.5
式中、Lnは、La、Sm、Yの少なくとも1種であり、
xは、0.1≦x≦0.3を満足する数である、
で表される組成を有していることが好ましい。かかる組成のCe−希土類元素系複合酸化物を使用することにより、中間層の熱膨張係数を、他のセル構成層である固体電解質層や酸素極層或いは燃料極層等との熱膨張係数に近似させることができ、熱膨張差によるクラックの発生や層剥離を有効に防止することができる。また、このようなCe−希土類元素系複合酸化物は、固体電解質と機能し、イオン導電性と電子伝導性とを有する混合導電体であるため、燃料電池セルの発電性能に悪影響を与えることはない。
【0016】
また、上記中間層の厚みが10μm以下であることが好ましい。中間層の厚みを必要以上に厚くすると、中間層自身が抵抗成分となってしまい、酸素極層と固体電解質層との界面の接触抵抗が若干高くなってしまう。従って、燃料電池セルの発電性能を十分に発揮させるためには、中間層の厚みを上記範囲内とすることが好適となる。
【0017】
さらに、前記固体電解質層がランタンガレート系ペロブスカイト型酸化物から形成されていることが好ましい。既に述べたように、かかるペロブスカイト型酸化物は、現在では最も優れた酸化物イオン伝導体であり、このような酸化物によって固体電解質層を形成することにより、例えば500〜700℃の低温で燃料電池セルを作動させ、高出力を得ることができる。
【0018】
また、本発明においては、前記燃料極層が導電性支持基板上に設けられており、該燃料極層上に、前記固体電解質層、中間層及び酸素極層が設けられていることが、強度特性を確保する上で好適である。特に、上記のランタンガレート系ペロブスカイト型酸化物により形成された固体電解質層は低強度であるが、導電性支持基板を用い、この上にセル構成層を形成することにより、強度低下を有効に回避することができる。
【0019】
さらには、上述した2層構造の酸素極層においては、第2の酸素極層の気孔率Bと第1の酸素極層の気孔率Aとの気孔率比B/Aが、0.5よりも低く、第2の酸素極層の厚みCが第1の酸素極層の厚みDよりも薄く、且つ第1の酸素極層の厚みDが35〜85μmであることが、発電のために使用される空気等の酸素含有ガスを電気化学的反応場に効率よく供給し、セル抵抗を増大させず、しかも中間層と酸素極層との接合強度を高め、長期間にわたって高い発電性能を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、添付図面に示す具体例に基づいて、本発明を説明する。
図1は、本発明の燃料電池セルの代表的な構造を示す図であり、図1中(a)は、横断面図であり、(b)は部分斜視図である。
図2は、本発明の燃料電池セルの他の例の構造を示す図であり、図2中(a)は、横断面図であり、(b)は部分斜視図である。
図3は、本発明の燃料電池セルにおける発電部分の層構造を示す概略横断面図である。
【0021】
本発明の燃料電池セルの代表的な構造を示す図1において、全体として30で示す燃料電池セルは、中空平板型で棒板形状であり、断面が扁平状で、全体的に見て楕円柱状の導電性支持基板31を備えている。支持基板31の内部には、適当な間隔で複数の燃料ガス通路31aが長さ方向に貫通して形成されており、燃料電池セル30は、この支持基板31上に各種のセル構成部材が設けられた構造を有している。
【0022】
図1の例において、支持基板31は、平坦部と平坦部の両端の弧状部とからなっている。平坦部の両面は互いにほぼ平行に形成されており、平坦部の一方の面と両側の弧状部を覆うように燃料極層32が設けられており、さらに、この燃料極層32を覆うように、緻密質な固体電解質層33が積層されており、この固体電解質層33の上には、燃料極層32と対面するように、平坦部の一方の表面に、中間層34を介して酸素極35が積層されている。また、燃料極層32及び固体電解質層33が積層されていない平坦部の他方の表面には、インターコネクタ37が形成されている。図1から明らかな通り、燃料極層32及び固体電解質層33は、インターコネクタ37の両サイドにまで延びており、支持基板31の表面が外部に露出しないように構成されている。
【0023】
上記のような構造の燃料電池セルでは、燃料極層32の酸素極層35と対面している部分が燃料極として作動して発電する。即ち、酸素極層35の外側に空気等の酸素含有ガスを流し、且つ支持基板31内のガス通路に燃料ガス(水素)を流し、所定の作動温度まで加熱することにより、酸素極層35で下記式(1)の電極反応を生じ、また燃料極層32の燃料極となる部分では例えば下記式(2)の電極反応を生じることによって発電し、かかる発電によって生成した電流は、インターコネクタ37を介して集電される。
酸素極層: 1/2O+2e → O2− (固体電解質) (1)
燃料極層: O2− (固体電解質)+ H → HO+2e…(2)
【0024】
即ち、上記のような構造の燃料電池セル30の複数を、集電部材40により互いに直列に接続することによりセルスタックを形成し、このセルスタックを所定の収容容器に収容して、燃料ガス(水素)及び酸素含有ガスを所定の部位に流すことにより、燃料電池として機能させることができる。
【0025】
(支持基板31)
支持基板31は、燃料ガスを燃料極まで透過させるためにガス透過性であること、及びインターコネクタ37を介しての集電を行うために導電性であることが要求される。このことから、支持基板31は、例えば鉄属等の金属成分と特定の希土類酸化物とから支持基板31を構成することが望ましい。
【0026】
鉄族金属には、鉄、ニッケル及びコバルトがあり、本発明では、何れをも使用することができるが、安価であること及び燃料ガス中で安定であることからNi及び/またはNiOを鉄族成分として用いることが好ましい。
【0027】
また希土類酸化物成分は、支持基板31の熱膨張係数を、固体電解質層33と近似させるために使用されるものであり、高い導電率を維持し且つ固体電解質層33等への拡散を防止するために、Y,Lu,Yb,Tm,Er,Ho,Dy,Gd,Sm,Prからなる群より選ばれた少なくとも1種の希土類元素を含む酸化物が、上記鉄族成分と組合せで使用される。このような希土類酸化物の具体例としては、Y、Lu、Yb、Tm、Er、Ho、Dy、Gd、Sm、Prを例示することができ、特に安価であるという点で、Y、Ybが好適である。
【0028】
尚、支持基板31を構成する鉄族金属成分と希土類酸化物成分とは、良好な導電率を維持し且つ適度な熱膨張係数を有するために、一般に、鉄族金属成分:希土類酸化物成分=35:65乃至65:35の体積比で存在することが好適である。
【0029】
また、支持基板31の平坦部の長さは、通常、15〜35mm、支持基板31の厚みは2.5〜5mm程度であることが望ましい。これにより、セル構成成分の実抵抗値を低くできるからである。
【0030】
本発明において、上記のような支持基板31を用い、この支持基板31に各種のセル構成部材を設けることにより、セルの機械的強度を高めることができる。
【0031】
(燃料極層32)
燃料極層32は、前述した式(2)の電極反応を生じせしめるものであり、それ自体公知の多孔質の導電性セラミックスから形成される。例えば、希土類元素が固溶しているセリア(CeO)と、Ni及び/またはNiOとから形成される。
【0032】
燃料極層32中の希土類元素が固溶しているセリア含量は、35乃至65体積%の範囲にあるのが好ましく、またNi或いはNiO含量は、65乃至35体積%であるのがよい。さらに、この燃料極層32の開気孔率は、15%以上、特に20乃至40%の範囲にあるのがよく、その厚みは、5〜30μmであることが望ましい。例えば、燃料極32の厚みがあまり薄いと、性能が低下するおそれがあり、またあまり厚いと、固体電解質層33と燃料極層32との間で熱膨張差による剥離等を生じるおそれがある。
【0033】
(固体電解質層33)
支持基板31上に設けられている固体電解質層33は、それ自体公知であり、例えば各種のペロブスカイト型酸化物から形成されるが、特にランタンガレート系酸化物が好適に使用される。このランタンガレート系酸化物は、ABO型のペロブスカイト型酸化物であり、AサイトにLaを有し、BサイトにGaを有している。特に、下記式:
(La,Sr)(Ga,Mg)O
で表されるように、Laの一部(特に10〜20原子%)がSrで置換され、さらにGaの一部(特に10〜20原子%)がMgで置換されたランタンガレートは、優れた酸化物イオン伝導体であり、このような酸化物によって固体電解質層33を形成することにより、例えば500〜700℃の低温で燃料電池セルを作動させ、高出力を得ることができる。また、上記のランタンガレートは、Ga位置にさらにCo、Fe、Ni、Cu等を1〜20原子%置換することにより、さらにイオン伝導度を高めることができる。
【0034】
さらに、上記の固体電解質層33には、上記のペロブスカイト型酸化物以外に、Al、MgO、Si、SiC等の微粉末フィラーが、例えば2質量%以下の量で含有されていてもよく、このような微粉末フィラーにより、固体電解質層33の強度を高めることもできる。
【0035】
また、この固体電解質層33は、ガス透過を防止するという点から、相対密度(アルキメデス法による)が93%以上、特に95%以上の緻密質であることが望ましく、且つその厚みが10〜50μmであることが望ましい。
【0036】
(中間層34)
本発明において、固体電解質層33と酸素極層35との間に設けられる中間層34は、CeOとLn(Lnは希土類元素)からなるCe−希土類元素系複合酸化物により形成される。即ち、このCe−希土類元素系複合酸化物は、固体電解質と機能し、イオン導電性と電子伝導性とを有する混合導電体であるため、燃料電池セルの発電性能に悪影響を与えることがないばかりか、固体電解質層33や後述する酸素極層35のようにペロブスカイト型酸化物を含有せず、各層の結晶構造が異なるため、元素拡散が起こりにくく、その結果として、長時間に亘って発電を行った場合の固体電解質層のイオン伝導性の劣化を防止することができ、燃料電池セルの性能低下を有効に回避することができる。
【0037】
また、このようなCe−希土類元素系複合酸化物としては、下記式(3):
(CeO1−x(LnO1.5 (3)
式中、Lnは、La、Sm、Yの少なくとも1種であり、
xは、0.1≦x≦0.3を満足する数である、
で表される組成を有していることが好ましい。即ち、希土類元素LnがLa、Sm或いはYであり、且つ上記組成を有するものにより中間層34を形成した場合には、中間層34の熱膨脹係数を他のセル構成部材熱膨張係数に近づけることができため、熱膨張差に起因するクラックの発生や剥離を抑制することができる。
【0038】
本発明においては、中間層34の厚みが10μm以下、特に2乃至7μmの範囲にあることが好ましい。中間層34の厚みを必要以上に厚くすると、中間層34自身が抵抗成分となってしまい、酸素極層35と固体電解質層34との界面の接触抵抗が若干高くなるおそれがあり、また、あまり薄いと、中間層34の元素拡散防止機能が十分に発現せず、長時間に亘って発電を行った場合の固体電解質層33のイオン伝導性が劣化するおそれがあるからである。
【0039】
(酸素極層35)
酸素極層35は、通常、ABO型のペロブスカイト型酸化物から形成されるが、特に本発明においては、この酸素極層35を第1の酸素極層35aと第2の酸素極層35bとの2層構造とすることが重要である。即ち、この第1の酸素極層35aは、中間層34上に設けられている第2の酸素極層35b上に形成され、この第1の酸素極層35aを、ABO型のペロブスカイト型酸化物から形成し、中間層34に設けられている第2の酸素極層35bを、上記のペロブスカイト型酸化物と中間層34を形成しているCe−希土類元素系複合酸化物とから形成することが重要である。即ち、このような2層構造とすることにより、第2の酸素極層35bが第1の酸素極層35aと中間層34との接着剤層的な役割を果たし、両層の密着強度を高め、これら層の剥離を有効に防止することができ、長期にわたって安定した発電性能を確保することができる。しかも、第2の酸素極層35b中のCe−希土類元素系複合酸化物は、イオン導電性と電子伝導性を有する混合導電体であるため、ペロブスカイト型酸化物と混合されることで所謂3相界面を形成し、酸素極層35中に電子の反応場である3層界面が増加することとなり、燃料電池セル10の出力を高めることができる。従って、第2の酸素極層35b中のCe−希土類元素系複合酸化物としては、中間層34と同様、前記式(3)で表される組成を有するものが好適である。
【0040】
また、第1の酸素極層35a或いは第2の酸素極層35bにおけるペロブスカイト型酸化物としては、遷移金属ペロブスカイト型酸化物、特にAサイトにLaを有するLa系ペロブスカイト型酸化物(例えばLaMnO系酸化物、LaFeO系酸化物、LaCoO系酸化物)が好適であり、600〜1000℃程度の作動温度での電気伝導性が高いという点から、LaFeO系酸化物が特に好適である。尚、上記ペロブスカイト型酸化物においては、AサイトにLaと共にSrなどが存在していてもよいし、さらにBサイトには、FeとともにCoやMnが存在していてもよい。さらに、第2の酸素極層35bにおけるCe−希土類元素系複合酸化物と上記ペロブスカイト型酸化物との量比は、重量基準で、Ce−希土類元素系複合酸化物:ペロブスカイト型酸化物=1:9乃至3:7の範囲であることが好ましい。
【0041】
また、このような2層構造の酸素極層35は、ガス透過性を有していなければならず、従って、その開気孔率が20%以上、特に30乃至50%の範囲にあることが望ましい。
【0042】
さらに、本発明においては、第2の酸素極層35bの気孔率Bと第1の酸素極層35aの気孔率Aとの比B/Aが、0.5よりも小さいことが好ましく、特には、0.01<B/A<0.3の範囲にあることが好適である。即ち、第2の酸素極層35bを第1の酸素極層35aに比して緻密に形成することにより、酸素極層35の外側に供給される酸素を電気化学的反応場に供給しやすくなり、セルの抵抗成分を低下させることができる。
【0043】
また、第2の酸素極層35bの厚みCが第1の酸素極層35aの厚みDよりも薄いことが好ましく、特に第2の酸素極層35bの厚みCが、3〜30μmであることが最も好適である。第2の酸素極層35bの厚みCが第1の酸素極層35aの厚みDよりも厚いと、機械的接合強度が弱くなり、中間層34と酸素極層35との間で剥離が生じ易くなり、しかもセルの抵抗が高くなって、発電特性が低下するおそれがある。さらに、十分な発電機能を確保し、長期にわたって高い発電性能を維持するためには、特に第1の酸素極層の厚みDが35〜85μm、特に40〜60μmの範囲にあることが好ましい。
【0044】
(接合層36)
本発明においては、インターコネクタ37を支持基板31に接合するために、接合層36を設けることができる。かかる接合層36は、Ni金属及び/又はNi金属の酸化物と希土類で安定化したジルコニアからなり、接合層36中の安定化ジルコニア含量は、35乃至45体積%の範囲にあるのが好ましく、またNi或いはNiO含量は、65乃至55体積%であるのがよい。即ち、燃料極層32のNi含有量より接合層36中のNi含有量の方を大きくすることで、接合層36による電位降下を小さくすることができるため、発電性能の低下を回避することができる。
【0045】
このような接合層36の厚みは、インターコネクタ37でのクラック発生、或いはインターコネクタ37の支持基板31からの剥離を抑えるために、10μm以下であることが望ましく、特に7μm以下であることが好適である。
【0046】
(インターコネクタ37)
上記の酸素極層32に対面するように、支持基板31上に設けられているインターコネクタ37は、導電性セラミックスからなるが、燃料ガス(水素)及び酸素含有ガスと接触するため、耐還元性、耐酸化性を有していることが必要である。このため、かかる導電性セラミックスとしては、一般に、ランタンクロマイト系のペロブスカイト型酸化物(LaCrO系酸化物)が使用される。また、支持基板31の内部を通る燃料ガス及び支持基板31の外部を通る酸素含有ガスのリークを防止するため、かかる導電性セラミックスは緻密質でなければならず、例えば93%以上、特に95%以上の相対密度を有していることが好適である。
【0047】
かかるインターコネクタ37は、ガスのリーク防止と電気抵抗という点から、100〜500μmの厚みを有していることが望ましい。即ち、この範囲よりも厚みが薄いと、ガスのリークを生じやすく、またこの範囲よりも厚みが大きいと、電気抵抗が大きく、電位降下により集電機能が低下してしまうおそれがあるからである。
【0048】
(P型半導体層38)
また、図1に示されているように、インターコネクタ37の外面(上面)には、P型半導体層38を設けることが好ましい。即ち、この燃料電池セルから組み立てられるセルスタック(図示せず)では、インターコネクタ37には、導電性の集電部材が接続される。この集電部材を、P型半導体層38を介してインターコネクタ37に接続させることにより、接触抵抗による電位降下を少なくし、集電性能の低下を有効に回避することが可能となり、例えば、一方の燃料電池セル30の酸素極層35からの電流を、他方の燃料電池セル30の支持基板31に効率良く伝達できる。このようなP型半導体としては、遷移金属ペロブスカイト型酸化物を例示することができる。具体的には、インターコネクタ37を構成するLaCrO系酸化物よりも電子伝導性が大きいもの、例えば、BサイトにMn、Fe、Coなどが存在するLaMnO系酸化物、LaFeO系酸化物、LaCoO系酸化物などの少なくとも一種からなるP型半導体セラミックスを使用することができ、特に酸素極層35の形成に使用されている材料から形成することが望ましい。
【0049】
このようなP型半導体層38の厚みは、一般に、30乃至100μmの範囲にあることが好ましい。また、P型半導体層38は、開気孔率が20%以上、特に30〜50%の範囲にあることが望ましい。
【0050】
(反応防止層39)
本発明においては、燃料極層32と固体電解質層33との相互元素拡散による界面抵抗層の形成を回避するために、燃料極層32上に反応防止層39を設けることが好ましい。この反応防止層39は、Laが固溶したCeO、又はCeが固溶したLa、あるいはそれらの混合体から形成される。このような複合酸化物は、一般に、下記式(4):
(CeO1−y(LaO1.5 (4)
式中、yは、0.3<y≦0.6を満足する数である、
であらわされる組成を有していることが、燃料極層32から固体電解質層33へのNiの拡散を遮断または抑制する効果を高くできるという点で好ましい。特に式(4)中のyの値が0.35≦y≦0.45の範囲にあるものは、反応防止層39の熱膨脹係数を他のセル構成部材の値に近づけることができ、熱膨張差に起因するクラックの発生や剥離を抑制することができるという点で最も好適である。
【0051】
また、この反応防止層39中には、元素拡散を遮断または抑制する効果を高くするために、La以外の他の希土類元素、例えばSc,Y,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu等の酸化物を含有していてもよい。
【0052】
また、反応防止層39を構成する上記の複合酸化物は、イオン導電性と電子伝導性を有する混合導電体であるが、固体電解質層33と比較して導電性は低い。しかし、反応防止層39の厚みを1〜20μm程度とすることにより、所望の元素拡散防止効果を維持しつつ、燃料電池セルの発電性能に殆ど影響を与えないようにすることができる。
【0053】
(集電補助層40)
また、本発明においては、P型半導体層38の上面及び酸素極層35の上面には、集電補助層40を設けることが好ましい。即ち、この燃料電池セルから組み立てられるセルスタック(図示せず)では、インターコネクタ37には、導電性の集電部材が接続されるが、集電部材をP型半導体層38に接続すると、接触抵抗が大きいため、電位降下が大きくなってしまい、集電性能が低下してしまう。しかるに、集電部材を、集電補助層40及びP型半導体層38を介してインターコネクタ37に接続させることにより、接触抵抗が小さくなり、電位降下を少なくし、集電性能の低下を有効に回避することが可能となり、例えば、一方の燃料電池セル30の酸素極層35からの電流を、他方の燃料電池セル30の支持基板31に効率良く伝達できる。このような集電補助層40としては、貴金属を例示することができ、特に酸素含有ガス雰囲気下で酸化され難く、高融点であるPt、Ag、Pd等により集電補助層40を形成することが好適である。このような集電補助層40の厚みは、一般に、10〜80μmの範囲にあることが好ましい。
【0054】
上述した図1に示す構造の本発明の燃料電池セル30は、所謂扁平楕円形の断面を有する形状を有しているが、本発明は、このような形状に限定されず、例えば図2に示すような円筒型燃料電池セルに本発明を適用することもできる。
【0055】
この図2の円筒型燃料電池セルにおいては、実質上円筒形状の導電性支持体31の外面に、一部の空間を残して、燃料極層32、反応防止層39、固体電解質層33、中間層34及び酸素極層35(第1の酸素極層35a,第2の酸素極層35b)が、この順に積層された構造となっており、これらが積層されていない空間部分に、接合層36を介して、集電機能を有するインターコネクタ37が設けられた構造となっている。また、外面の中間層34及び酸素極層35は、電気的リークを防止するために、インターコネクタ37とは非接触に形成されている。
【0056】
図2の燃料電池セルにおいて、セルの構成部分は、全て図1と同じ材料で形成されているが、円筒状の導電性支持基板31の内部空間が燃料ガスを流すガス流路となっており、酸素含有ガスはこのセルの外部(酸素極層35の外側)に流されるようになっている。セルスタックを形成する場合には、このセルを積み重ね、例えばインターコネクタ37上のP型半導体層38及び集電補助層40を介して、一のセルのインターコネクタ37が上方のセルの酸素極層35に接合された構造とすればよい。このような燃料電池セルにおいても、図1の燃料電池セル10と全く同様の効果を示す。
【0057】
尚、図2の燃料電池セルにおいては、層構造を逆にすることもでき、例えば円筒状支持基板31の内側に、燃料極層32、固体電解質層33及び酸素極層35が形成された層構造とすることも可能である。この場合には、支持基板31の内部空間に酸素含有ガスが流され、外部に燃料ガスが流されることとなる。
【0058】
即ち、本発明においては、図3の発電部の概略断面構造に示されているように、導電性支持基板31の一方の面に、燃料極層32及び固体電解質層33が形成され、さらに、その上に中間層33を介して2層の酸素極層35が形成されている限り、種々の構造を取ることができ、さらには、所定の強度が保持される限り、導電性支持基板31を設けず、例えば燃料極層32自体で、このような支持基板を形成することも可能である。
【0059】
(燃料電池セルの製造)
以上のような構造を有する燃料電池セルは、以下のようにして製造される。
【0060】
先ず、所定の鉄族金属成分(例えばNiやNiO)の粉末と、希土類元素酸化物(例えばY)の粉末と、有機バインダーと、溶媒と、必要により市販の造孔剤とを混合して成形用スラリーを調製し、このスラリーを用いて、常法にしたがい、所定形状の支持基板用成形体を作製する。
【0061】
また、所定の微細な粒径を有する希土類元素が固溶したCeO粉末と、Ni及び/又はNiO粉末とを所定量比で混合した混合粉末に、有機バインダーと、溶媒と、市販の分散剤とを加えてスラリーを調製し、このスラリーを用いて、スクリーン印刷等の方法で、上記の支持基板用成形体の所定位置に、塗布し、乾燥することにより、燃料極コーティング層を形成する。
【0062】
次に、Laが固溶したCeO粉末或いはCeが固溶したLa粉末などの複合酸化物粉末と、有機バインダー(アクリル樹脂)と、溶媒(トルエン)とを混合した反応防止層用ペーストを、スクリーン印刷等で、上記の燃料極コーティング層上に塗布し、乾燥させることにより、反応防止層用のコーティング層を形成することにより、支持基板用成形体の一方の面に、燃料極コーティング層及び反応防止層用コーティング層が積層された積層成形体を得る。
【0063】
さらに、ランタンガレート粉末等の固体電解質原料粉末に、トルエン等の溶媒、バインダー、市販の分散剤を加えて成形用スラリーを調製し、ドクターブレード等の方法により成形して、シート状の固体電解質成形体を作製する。この場合、固体電解質原料粉末は、ペチニ法等の液相法で作製されたものであることが、不純物量が少なく、合成率が非常に高いという点で好ましい。また、この固体電解質原料粉末の平均粒径は、0.5〜1.5μm、特に0.6〜1.2μmの範囲にあることが、より低温で焼結できるという点で好適である。即ち、このような微粒の原料粉末を用いて成形されたLSGM固体電解質成形体は、例えば、以下に述べる低温での焼成により、緻密な(例えば相対密度が98%以上)の固体電解質層33を形成することが可能となるため、焼成時における支持基板31や酸素極層35から固体電解質層33への元素の拡散を抑えるという点で極めて有利である。
【0064】
次いで、上記の固体電解質成形体を、先に得られた積層成形体の反応防止層用コーティング層上に積層し、乾燥させ、必要により600乃至1000℃程度の温度で仮焼する。
【0065】
一方、前記式(3)で表される組成のCe−希土類元素系複合酸化物粉末などの中間層形成用原料粉末を、溶媒や、アクリルバインダーなどの有機バインダーと混合して中間層形成用スラリーを調製し、このスラリーをスクリーン印刷などにより、上記の積層成形体の固体電解質成形体上に塗布し、乾燥することにより、中間層用コーティング層を形成する。尚、上記の中間層形成用原料粉末は、必要により、解砕、仮焼及び再度の解砕などにより、粒子形状や粒度調整して使用することもできる。
【0066】
また、ランタンクロマイト酸化物などのインターコネクタ用原料粉末を、溶媒や有機バインダーと混合してスラリーを調製し、このスラリーを用いてドクターブレード法などによってシート状のインターコネクタ用成形体を作製する。このインターコネクタの一方の面には、Ni粉末や安定化ジルコニア粉末などを含む混合粉末を用いて調製されたスラリーを塗布し、接合層用コーティング層を形成しておく。また、インターコネクタの他面に、P型半導体層の原料粉末を含むスラリー乃至ペーストを塗布し乾燥してP型半導体層用コーティング層を形成しておく。
【0067】
次いで、上記のインターコネクタ成形体を、上記の積層成形体の所定部位に、接合層用コーティング層が対面するようにして積層し、脱脂処理した後、酸素含有雰囲気中で、例えば1200乃至1450℃の温度で同時焼成を行い、P型半導体層/インターコネクタ/接合層/支持基板/燃料極層/反応防止層/固体電解質層/中間層からなる積層焼結体を作製する。(尚、P型半導体層は、この積層焼結体のインターコネクタ上にコーティング層を形成し、このコーティング層を、以下に述べる酸素極層と同時に焼付けることによって形成することもできる。
【0068】
この後、ペロブスカイト酸化物粉末とCe−希土類元素系複合酸化物粉末とを含む第2酸素極層用原料粉末を、トルエン等の溶媒、有機バインダー、市販の分散剤などと混合してスラリーを調製し、このスラリーを、スクリーン印刷等の方法で上記積層焼結体の中間層上に塗布し、乾燥することにより、第2酸素極層用コーティング層を形成する。
【0069】
また、ペロブスカイト酸化物粉末などの第1酸素極層用原料粉末を、溶媒及び市販の分散剤等と混合してスラリーを調製し、このスラリーを、上記第2酸素極層用コーティング層上に塗布し、乾燥及び焼付けを行うことにより、第2酸素極層上に第1酸素極層が設けられた2層構造の酸素極層を形成することができる。この場合、第2酸素極層の気孔率Bと第1酸素極層の気孔率Aとの気孔率比B/Aを前述した範囲に調製するためには、第2酸素極層の形成に際してはスラリー塗布をスクリーン印刷法などの印刷法により行い、第1酸素極層の形成に際しては、スプレー噴霧により行うことが好ましい。即ち、スプレー噴霧によるコーティング層を焼き付けることにより形成される第1酸素極層は、印刷法による第2酸素極層に比して気孔率が高くなり、気孔率比B/Aを前述した所定の範囲に調整することができる。また、スプレー噴霧によりスラリーの塗布を行うために、かかるスラリー(第1酸素極形成用スラリー)は、バインダーを使用せずに調製されることが好ましく、さらに、該スラリー層の焼付けは、高温(例えば900乃至1200℃程度)で行うこともできる。
【0070】
上記のようにして第1及び第2の酸素極層を形成した後、第1酸素極層及びP型半導体層上に、集電補助層としてPtペースト等の貴金属ペーストを塗布し、130℃〜200℃程度で乾燥することで、図1或いは図2に示すような燃料電池セルを作製することができ、このような燃料電池セルの複数を直列に接続してセルスタックとし、これを所定の収容容器に配置し、所定の部位に燃料ガス及び酸素含有ガスを流し、所定の作動温度に加熱することにより、燃料電池として機能させることができる。
【0071】
尚、燃料電池セル30は、酸素含有雰囲気での焼成により、燃料極層32中のNi成分が、NiOとなっているため、その後、ガス流路31aから還元性の燃料ガスを流し、NiOを800〜1000℃で還元処理する。また、この還元処理は発電時に行ってもよい。
【実施例】
【0072】
本発明を次の実験例で説明する。
【0073】
(実験例1)
先ず、平均粒径0.5μmのNiO粉末と平均粒径0.9μmのY粉末とを、焼成―還元後における体積比率をNiが48体積%、Yが52体積%となるように混合し、有機バインダーと溶媒にて作製したスラリーを押し出し成型法にて成形し、乾燥、脱脂して支持基板成形体を作製した。
【0074】
次に平均粒径0.5μmのNi粉末と、Yを20モル%固溶したCeO(以下YDC20と略す)粉末又はSmを20モル%固溶したCeO(以下SDC20と略す)粉末とを、有機バインダー及び溶媒に混合してスラリーを調製し、前記支持基板成形体に、スクリーン印刷法にて塗布、乾燥して、燃料極層用のコーティング層を形成した。
【0075】
を40モル%固溶したCeO(以下YDC40と略す)粉末と、有機バインダーと溶媒とを混合してスラリーを調製し、支持基板成形体上の燃料極層用のコーティング層の上に、スクリーン印刷法にて塗布、乾燥して、反応防止層用のコーティング層を形成した。
【0076】
次に、ペロブスカイト型の(La0.9Sr0.1)(Ga0.8Mg0.2)O粉末と有機バインダーと溶媒とを混合してスラリーを調製し、このスラリーを用いてドクターブレード法にて厚み30μmの固体電解質層用シートを作製し、上記の反応防止層用のコーティング層上に貼り付け、乾燥して積層成形体を作製した。
【0077】
上記で作製された積層成形体を、600℃、4時間で脱脂処理し、次いで1000℃で1時間、仮焼処理した。
【0078】
次に、Laを20モル%固溶したCeO(以下LDC20と略す)粉末を、振動ミルにて24時間解砕した後、900℃で4時間仮焼処理を行い、再度ボールミルにて解砕処理を行い、粉体の凝集度(レーザー回折による粒径/比表面積から計算した疑似球形状粒径)を10〜20に調整した。この粉末に、アクリル系バインダーとトルエンとを添加混合して中間層用のスラリー調製し、このスラリーを、上記積層仮焼体の固体電解質成形体の表面に、スクリーン印刷法にて塗布し、乾燥した。
【0079】
また、平均粒径が0.3μmのLaCrO粉末と、有機バインダーと溶媒を混合してスラリーを調製し、このスラリーをドクターブレード法にて成形し、シート状のインターコネクタ成形体を作製した。
【0080】
さらに、YDC20粉末又はSDC20粉末とNiO粉末とを、45:55の体積比で混合し、有機バインダーと溶媒とを添加して接合層用スラリーを調製し、スクリーン印刷法にて、このスラリーをインターコネクタ成形体に塗布し、接合層用コーティング層を形成した。
【0081】
次いで、このインターコネクタ成形体を、上記の仮焼体の支持基板成形体露出面に積層し、酸素含有雰囲気中で、1400℃で2時間、同時焼成を行い、積層焼結体を得た。
【0082】
また、酸素極層用ペロブスカイト酸化物粉末として、平均粒径が0.8μmの下記のLSCF粉末を用意した。
(La0.6Sr0.4)(Co0.6Fe0.4)O粉末:6464と略す。
(La0.6Sr0.4)(Co0.2Fe0.8)O粉末:6428と略す。
【0083】
先に用いたLDC20粉末と上記のLSCF粉末とを、表1に示す割合で混合し、有機バインダーと溶媒とを添加してスラリー調製し、このスラリーを、スクリーン印刷法にて積層焼結体に形成されている中間層上に種々の厚みで塗布し、130℃にて乾燥して、第2酸素極層を形成した。
【0084】
また、表1に示すLSCF粉末とイソプロピルアルコールとを混合してスラリーを調製し、このスラリーを、第2酸素極層用コーティング層上に噴霧塗布し、第1酸素極層用コーティング層を形成し、表1で示した温度で焼き付け、2層構造の酸素極層を形成し、燃料電池セルを得た。
【0085】
得られた燃料電池セルを、走査型電子顕微鏡を用いて第1及び第2酸素極層の厚みを測定し表1に示した。また、第1及び第2酸素極層の気孔率も測定し、表1に示した。尚、気孔率は、作製された燃料電池セルを横断面方向に一部切り出し、樹脂に埋め込んだ後、観察面を研磨し、該研磨面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察し、画像解析装置により算出した。
【0086】
なお、作製した燃料電池セルの寸法は25mm×200mmで、支持基板の厚さは3mm、開気孔率35%、燃料極層の厚さは10μm、開気孔率24%、酸素極層のトータル厚みは50μm(開気孔率40%)、固体電解質層の厚さは25μm、相対密度は97%、反応防止層の厚みは10μm、中間層の厚みは5μmであった。
【0087】
次に、この燃料電池セルの内部に、水素ガスを流し、850℃で、支持基板及び燃料極層の還元処理を施した。この後、得られた燃料電池セルの燃料ガス流路に燃料ガスを流通させ、セルの外側に酸素含有ガスを流通させ、燃料電池セルを、電気炉を用いて850℃まで加熱し、発電試験を行った。このときの発電特性を確認し、表1に示した。
【0088】
【表1】

【0089】
表1の結果から、第2酸素極層を持たない試料No.1は、表面拡散に対する反応場が少なく、第2酸素極層の体積拡散に頼っているため出力密度が低い。また、第2酸素極層にLDC20を含まない試料No2、4は、第2酸素極層での表面拡散が空気極内部での反応場の数が少なく、充分に生かし切れていない為に出力密度が低い。
【0090】
一方、第2酸素極層の厚みが25μmを越えると(試料No.3)、酸素ガスが第2酸素極層に到達しても厚みが厚く、電解質界面の反応場への移動が体積拡散のみとなり、発電特性が低い。
【0091】
また、第1酸素極層にて体積拡散で供給される酸素イオンと第1酸素極層の空隙を通って第2酸素極層に供給された空気を表面拡散で反応場へ酸素を送る機構のバランスの取れた試料No.5〜18は高い出力特性を示していることから、第2酸素極層のLDC20とLSCFの重量比率は1:9〜3:7の間が良く、第2酸素極層の厚みは5μm〜20μmがよい。LSCFの組成は焼き付け時のCoの分解を考えた温度域で有れば特に影響しない。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明の燃料電池セルの代表的な構造を示す図であり、図1中(a)は、横断面図であり、(b)は部分斜視図である。
【図2】本発明の燃料電池セルの他の例の構造を示す図であり、図2中(a)は、横断面図であり、(b)は部分斜視図である。
【図3】本発明の燃料電池セルにおける発電部分の層構造を示す概略横断面図である。
【図4】従来の燃料電池セルからなるセルスタックを示す横断面図である。
【符号の説明】
【0093】
30・・・燃料電池セル
31・・・支持基板
31a・・・燃料ガス通路
32・・・燃料極層
33・・・固体電解質層
34・・・中間層
35a・・・第2酸素極層
35b・・・第1酸素極層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素極層と燃料極層との間にペロブスカイト型固体電解質層が配置されている燃料電池セルにおいて、
前記固体電解質層と前記酸素極層との間に、CeOとLn(Lnは希土類元素)からなる複合酸化物で構成された中間層が形成されており、
前記酸素極層が、第1の酸素極層と第2の酸素極層との2層構造を有し、第1の酸素極層は、前記中間層上に設けられた第2の酸素極層上に位置し、且つペロブスカイト型酸化物から形成され、前記中間層上に設けられた第2の酸素極層は、前記中間層形成用複合酸化物と前記ペロブスカイト型酸化物とから形成されていることを特徴とする燃料電池セル。
【請求項2】
前記中間層を構成する複合酸化物は、下記式:
(CeO1−x(LnO1.5
式中、Lnは、La、Sm、Yの少なくとも1種であり、
xは、0.1≦x≦0.3を満足する数である、
で表される組成を有している請求項1に記載の燃料電池セル。
【請求項3】
前記中間層の厚みが10μm以下である請求項1または2に記載の燃料電池セル。
【請求項4】
前記固体電解質層がランタンガレート系ペロブスカイト型酸化物から形成されている請求項1乃至3のいずれかに記載の燃料電池セル。
【請求項5】
前記燃料極層が導電性支持基板上に設けられており、該燃料極層上に、前記固体電解質層、中間層及び酸素極層が設けられている請求項1乃至4のいずれかに記載の燃料電池セル。
【請求項6】
第2の酸素極層の気孔率Bと第1の酸素極層の気孔率Aとの気孔率比B/Aが、0.5よりも低く、第2の酸素極層の厚みCが第1の酸素極層の厚みDよりも薄く、且つ第2の酸素極層の厚みDが35〜85μmである請求項1乃至5のいずれかに記載の燃料電池セル。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の燃料電池セルの複数を電気的に直列に接続してなる少なくとも1個のセルスタックを収容容器に収容してなることを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−73230(P2006−73230A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−252234(P2004−252234)
【出願日】平成16年8月31日(2004.8.31)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】