説明

燃料電池用のアッセンブリー及びそれの製造法

本発明は、電極、電解質(E)及びキャリア支持材を備えたアッセンブリーに関する。該アッセンブリーは燃料電池に適している。電極と電解質(E)との間に、電極に電解質(E)を適応させるためのアダプテーション層(AD)が配置され、この際、アダプテーション層(AD)の平均孔径は、電極の平均孔径よりも小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極及び電解質を備えた燃料電池用アッセンブリー、並びにこのアッセンブリーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高温燃料電池の製造では、通常は、支持材が使用され、その上に電解質と二つの電極(カソード及びアノード)が施与される。例えば、先ず、支持材上にアノード、その後電解質、そして最後にカソードを施与する。燃料電池のこの層状に施与された構成要素は、電気化学的に活性な電池層であり、そして例えばDE10343652A1(特許文献1)から知られるように、カソード−電解質−アノードユニット(KEAユニット)とも称される。支持材は、KEAユニット用の機械的キャリアとして働き、そして例えばセラミックまたは金属として形成される。DE10343652A1(特許文献1)には、金属製支持材、例えば焼結またはプレスした金属粒子からなる多孔体が企図されている。金属製支持材は、所謂インターコネクタに対する良好な熱適合性、及びこのインターコネクタとの技術的に簡単な電気接触を可能にするという利点を有する。インターコネクタ(これは、バイポーラプレートまたは集電体とも称される)は、二つの燃料電池間に配置され、そして個々の燃料電池を直列に電気的に接続する。更に、インターコネクタは、燃料電池を機械的に支持し、そしてアノード側及びカソード側での反応ガスの分離及び案内をもたらす。
【0003】
アノードとカソードとの間には電解質が配置される。電解質は、多くの要求を満たさなければならない。これは酸素イオンを伝導し、同時に電子絶縁性でなければならない。更に、電解質を気密化しなければならない。また更には、電解質とそれに隣接する電極との間の望ましくない化学反応は避けなければならない。これらの要求を満たすために、DE102007015358A1(特許文献2)では、少なくとも三つの層からなる電解質の多層構造が企図されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】DE10343652A1
【特許文献2】DE102007015358A1
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】T.S.Smith:”Morphological Characterization of Porous Coatings.“ In:”Quantitative Characterization and Performance of Porous Implants for Hard Tissue Applications“,ASTM STP953,J.E.Lemmons,Hrsg.,American Society for Testing and Materials,Philadelphia,1987,S.92−102
【非特許文献2】M.I.Mendelson:”Average Grain Size in Polycrystalline Ceramics“,J.Am.Ceram.Soc.52[8](1969),443−446
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、燃料電池の構成を簡素化するアッセンブリーを提供するという課題に基づくものである。更に、本発明は、このようなアッセンブリーを製造する方法を提供するという課題にも基づく。
【課題を解決するための手段】
【0007】
これらの課題は、請求項1の特徴の組み合わせを有するアッセンブリー、並びに請求項14の特徴の組み合わせを有するアッセンブリーの製造方法によって解決される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、還元されたアノード構造(Ni/8YSZ)の表面を示す。
【図2】図2は、電解質で覆われた図1のアノード構造の横断面図を示す。
【図3】図3は、アノード構造上に施与されたアダプテーション層の表面構造を示す。
【図4】図4は、図3のアダプテーション層及びそれの上に施与された電解質の横断面部を示す。
【図5】図5は、拡散バリアDが設けられた金属製多孔性支持材S(ITM)上に、多孔性アノード構造Aが施与された燃料電池の構造の例を示す。
【図6】図6は、金属製多孔性支持材S(ITM)の上に多孔性カソードKが施与された燃料電池の構造の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明では、アッセンブリー中で、電極及び電解質との間にアダプテーション層が設けられる。このアダプテーション層は電極に対して電解質の良好な接合または適応をもたらす。更に、これは、金属製の多孔性キャリア支持体が電極及び電解質に用意される場合には、アッセンブリーまたは燃料電池の平坦な構造を支持する。
【0010】
金属製多孔性キャリア支持体は、一方では、セラミック製キャリア支持体と比べて、機械的により安定しており、かつ非常に薄い支持材厚をもって提供できる。他方で、気密な電解質をできるだけ薄く形成するべきである。これは、電解質上に配置される電極表面(例えばアノード表面)上のできるだけ小さい粗さを前提とする。応じて、電極材料は、この望ましい小さい表面粗さが電極上に達成されるようにキャリア支持体上に施与しなければならない。これは、金属製多孔性キャリア支持材の比較的大きな表面粗さと矛盾する。電極上の望ましい小さい表面粗さの達成は、電極(特にアノードとしての電極)が還元されたプロセス条件下に焼結を用いてキャリア支持材上に形成される場合に更に余分に困難になる、というのも、それによって、電極表面上により大きな粗さが生ずるからである。これらの問題は、アダプテーション層の平均孔径が、電解質の平均孔径よりも小さいことによって、本発明により解消される。平均孔径のこのような関係は、少なくとも、電極層及びアダプテーション層の電解質側表面の表面付近の層領域に適用される。好ましくは、上記の関係は、電極層及びアダプテーション層の全層厚に対し適用される。平均孔径の上記の関係を用いることによって、該アッセンブリーでは、気密な薄層電解質の施与を技術的に簡素化する表面構造が提供される。特に、アダプテーション層を用いて、特に薄い電解質層(<10μm)を、例えば物理気相堆積(PVD)により、特に電子ビーム蒸着法もしくはスパッタープロセスまたはゾルゲル法を介して、気密に施与することができる。それ故、アダプテーション層の材料に依存して、一つの薄い電解質層だけで、燃料電池の適切な作動のために十分であり、このことが燃料電池の製造を簡素化する。加えて、燃料電池の内部セル抵抗が、十分な気密性のために約40μmの層厚を必要とするプラズマ溶射された電解質を備えた燃料電池を比べて、かなり減少され、それによってより高い出力収量を達成することができる。
【0011】
該アダプテーション層は、材料及び構造、特に孔構造に関して、電解質がアダプテーション層を中間層として挟んで常に電極(アノードまたはカソード)上に設けられ得るように選択することができる。
【0012】
このアダプテーション層は、有利には、気密な電解質層をその上に直接設けることができない程にアノード層構造を薄くして使用される。このような薄くしたアノード層構造は、例えば金属製支持材と関連して与えられる。これらの支持材は、好ましくは粉末冶金法により製造され、この際特に平坦に提供される。この支持材の中央の領域は通常は多孔性であり、そして電気化学的に活性のセル層のための機械的なキャリアとして働く。これらのセル層は、例えば、湿式化学的コーティング(例えばスクリーン印刷または湿式粉末噴霧)し、次いで焼結することによって、または熱噴霧法(例えばプラズマ溶射または高速溶射)によって製造できる。金属キャリア支持材は、セラミック製キャリア支持材と比べて、より熱負荷性が高くかつ運転中にレドックス安定性であるという利点を有する。しかし、製造中のキャリア支持材の酸化は避けなければならない、というのも、金属酸化物の形成は、キャリア支持材中で体積の変化を招き、これは、キャリア支持材上での電極及び電解質の欠陥のない施与を危うくするであろうからである。更に、酸化性キャリア支持材では、その電気抵抗が高まり、これは、後の電池性能に対し不利に作用するであろう。それ故、キャリア支持材上に施与されたアノード構造の焼結は還元された雰囲気中で行われ、それによってアノード構造は、還元された多孔性の形態で存在する。焼結前にアノード構造中に含まれる酸化ニッケルは焼結の間に還元されて、これは、その高い焼結活性の故にそれの粒度の粗大化を招きそして比較的大きな直径(例えば2μm)を有する孔が生ずる。アノードのこのような表面構造は、気密な薄層電解質をアノード構造上に直接施与するのにはしばしば適していない。特に、電解質の所望の気密性は、これを、気相堆積(例えばPVD法)によりアノード構造上に施与すべき場合には保証されない。この問題は、上記のアダプテーション層によって解決される。
【0013】
表面の物理的な特徴付けには、粗さを使用し得る。その一次プロフィルは最適に測定し(共焦点レーザートポグラフ)、そしてフィルターした粗さプロフィル及び粗さ値はDIN EN ISO 11562及び4287に従い算出した。横断パス(l)、測定パス(l)及び個々の測定パス(l)の長さを、DIN EN ISO 4288に従い選択した。DIN EN ISO 4287に従い、算術平均粗さRは、粗さプロフィルの全てのプロフィル値の額の算術平均を示す。二乗平均粗さR(平均表面粗さRとも称される)は、全てのプロフィル値の二乗平均値であり、そして算術平均粗さ値Rよりも強く偏差に重みをつける。平均粗さ深さRは、DIN EN ISO 4287に従い、全ての個々の測定パスの個々の粗さ深さの算術値として定義される。この際、個々の粗さ深さとは、個々の測定パスにおける最も高い先端部と最も深い溝との間の間隔を意味する。この際、総測定パスは、5つの同じ長さの相並んだセグメント(個々の測定パス)に区分される。R値は、最も深い谷と最も高い先端から求められるため、これは、特に、使用される測定法に依存する。ここで使用される光学的方法とは異なり、例えば、機械的なプロフィル法(Tastschnittverfahren)では、使用する先端ジオメトリに依存して、全ての尖った谷が感知されるわけではないことを考慮しなければならない。
【0014】
DIN EN ISO 4288では、粗さ値の計算から排除される波形成分(大きな波長)及び実際の粗さ成分(短い波長)への一次プロフィルの区分は、達成される粗さ値に依存してフィルターカットオフ波長によって決められる。それで、例えば、0.02μmより大きくかつ2.00μm以下の算術平均粗さ値Rには、0.8mmのカットオフ波長λが企図される(l=λ)。しかし、特に気相から堆積した層(PVD)では、このような波長の凹凸は、層の品質及び気密性に重大な役割を果たさず、むしろ明らかにより短い波長を有する凹凸が大きな役割を果たす。それ故、本発明では、DINに依る粗さの他に、いわゆる微小粗さが使用され、これは、他の点では同じ総測定パスにおいて、0.15mmのカットオフ波長に基づく。この際、個々の測定パスの数(通常5)は相応して多くなる、なぜならば常にl=λとしなければならないからである。この微小粗さは、応じて、
【0015】
【数1】

【0016】
を用いて特徴付けられた。
【0017】
焼結された層の性質を表すための更に別の特徴的なパラメータとして、平均孔径と焼結粒径を使用できる。両方の測定値は、断面の走査電子顕微鏡写真で線形切断法(Linienschnittverfahren)を介して、任意の組織、また開口孔系の組織でさえも測定できる。このためには、先ず、顕微鏡写真で個々の相(粒子、孔)を、コントラスト差、粒形または元素分析(例えば、エネルギー分散型X線分析、EXD)を介して相応してマーキングし、次いで統計的な直線を記入し、そして異なる相間の変わり目での切断点をマーキングする。一つの相中に存在するこうして生じたセクションの全ての長さの平均値は、この相の平均切片長(Schnittlinienlaenge)を表す(例えば孔)。この平均切片長は、対応する形状ファクタと乗算することによって実際の粒径または孔径に換算される。形状ファクターとしては、通常利用される14面体の粒の周りの孔のモデルコンセプトの仮定の下に、参考文献(非特許文献1)に従い1.68の値がそして粒径については1.56の値(非特許文献2)が使用された。更に本発明において、焼結粒度について言及する時は、組織から形態学的に読み取れる粒度が意味される。試料は分析の前はエッチングしなかった。
【0018】
最大孔径は、一連の走査電子顕微鏡写真から、全ての孔の最も大きな内径から求めた。この際、孔の内径とは、孔中に伸びる最も長い直線区間の長さを指し示す。
【0019】
求めるべき孔径及び粒径のためには、電子顕微鏡写真において適切な拡大に注意すべきである。特に、求めるべき孔径及び粒径は解像され、それと同時に完全に画像細部によって捕捉されなければならない。
【0020】
既に述べたように、アダプテーション層は、電解質を直接施与することを可能とし、そのため、燃料電池の簡素化された省スペースの構造の意味で、電解質とアダプテーションとの間の追加の中間層を無しで済ませることができる。
【0021】
好ましくは、アダプテーション層の平均孔径は、最大でも、電極の平均孔径の半分の大きさである。それ故、気密な薄層電解質(<10μm)を、PVD法、特に電子ビーム蒸着法もしくはスパッタープロセスまたはゾル−ゲル技術により施与することもできる。
【0022】
好ましくは、アダプテーション層の孔の平均孔径(少なくとも、電解質側の層表面の表面付近の層領域における孔の平均孔直径)は最大でも500nmである。それによって、アダプテーション層上での電解質材料の均一な成長(例えばPVD層として)が援助される。500nmを超える平均孔径では、孔が、薄い電解質層で気密に閉じられ得ないという虞がある。特に、アダプテーション層の平均孔径は(少なくとも、電解質側の層表面のそれの表面付近の層領域において)最大でも350nm、更に好ましくは最大でも250nmである。
【0023】
好ましくは、アダプテーション層は、平均表面粗さとして、2.5μm未満、好ましくは大きくとも1.5μm、更に好ましくは大きくても0.1μmの二乗平均粗さ値Rを有する。2.5μmを超える二乗平均粗さ値Rは、次の薄層電解質において潜在的な漏れを招く。それで、例えば次のPVD層の成長の際に柱間の中間スペースが生じ得る。ゾル−ゲル薄層電解質では、より大きい粗さ値は、プロフィルの先端部の濡れがもはや保証され得ないということかまたはプロフィルの谷において臨界的な層厚を超えてしまい、これが薄層電解質の割れを起こすということ招く。
【0024】
好ましくは、キャリア支持材と電極(特にアノード)との間には、拡散バリアが配置される。これは、支持材と電極との間での金属相互拡散及び他の反応を阻止し、それによってアッセンブリーの長期安定性およびより長い耐用期間に寄与し得る。
【0025】
好ましくは、アダプテーション層は、3〜20μmの厚さを有する。3μmの層厚を下回ると、アダプテーション層は、その下にある電極層の粗さを完全にならすことができず、これは、均一な層成長での薄層電解質の気密な施与を不可能にする。20μmの層厚を上回ると、その層系(アダプテーション層及び電解質)のオーム抵抗が、プラズマ溶射した電解質を有する従来の金属支持型SOFC(=固体酸化物燃料電池)と比べて出力上の大きな利点を供しない範囲内のものとなろう。
【0026】
アダプテーション層上に設けられる電解質は、好ましくは、0.2〜10μmの層厚を有する。0.2μmの層厚を下回ると、電解質層の必要な気密性が保証されない。電解質の層厚の増大はオーム抵抗の大きな上昇を伴い、その結果、燃料電池の出力が減少する。そのため、層厚は最大で10μmであるのが好ましい。
【0027】
電解質及びアダプテーション層を備えた該アッセンブリーは、好ましくは、燃料電池、特に高温燃料電池に使用される。高温燃料電池には、酸化物セラミック燃料電池(SOFCとも称される)が含まれる。SOFCは、電気効率が高くかつ高い運転温度で生ずる廃熱を利用できるために、燃料電池として特に適している。
【0028】
金属製支持材のための材料としては、例えばフェライトFeCrMx合金、並びにクロムベースの合金が適している。FeCrMx合金は、通常、鉄の他に、16〜30重量%のクロム含量を有し、更に追加的に少なくとも一種の合金元素を0.01〜2重量%の割合で含み、この合金元素は、希土元素またはそれの酸化物、例えばY、Y、Sc、Scの群またはTi、Al、Mn、MoまたはCoの群に由来する。
【0029】
ここで、適当なフェライト鋼の例としては、Tyssen Krupp社のフェロクロム(1.4742)、CrAl20 5(1.4767)及びCroFer22APU、Technetics社のFeCrAlY、Hitachi Metals社のZMG232、Nippon Steel社のSUS430HA及びSUS430Na、並びにPlansee社のITMクラスのODS鉄ベース合金の全て、例えばITM Fe−26Cr−(Mo,Ti,Y)が挙げられる。
【0030】
またその代わりに、多孔性金属支持材として、クロムベースの、すなわち65重量%超のクロム含有率を有する合金、例えばCr5FelYまたはCr5FelYを使用できる。
【0031】
用意した金属製多孔性支持材上には、燃料電池の個々の層が施与される。好ましくは、以下の機能または層が相次いで設けられる:
1)任意に、拡散バリア層(支持材と電極、特にアノードとの間の金属相互拡散を阻止するためのもの)、
2)第一の電極(アノードまたはカソード)、
3)電解質、
4)任意に、特にLSCF(ランタン−ストロンチウム−コバルト−フェライト)からできた高性能カソードの場合に、電解質と電極との間の反応を阻止するための拡散バリア層、
5)第二の電極(カソードまたはアノード)。
【0032】
拡散バリア層は、例えば、ランタン−ストロンチウム−マンガナイト(LSM)、ランタン−ストロンチウム−クロマイト(LSCR)または酸化ガドリニウムドープド酸化セリウム(CGO)からなる。アノードは、多層型層複合体としてもまたは単一層としても構成することができる。これと同様のことが原則的にカソードにも言える。先ず、第一の電極を、例えば湿式化学的方法によって、支持材上に施与する。
【0033】
電極上には、既に説明したように、多孔性のアダプテーション層が施与される。このアダプテーション層上には、電解質をプロセス上の僅かな手間で気密に施与することできる。というのも、アダプテーション層の平均孔径が、電極の平均孔径よりも小さいからである。
【0034】
有利には、アダプテーション層を電極上に湿式化学的に施与することによってアダプテーション層の適した層厚が達成される。これは、例えばスクリーン印刷、ディップコーティングまたはスリップキャスティングによって行うことができる。
【0035】
任意に、アダプテーション層を多層に施与してもよい。この場合、アダプテーション層の材料を複数のプロセスステップで繰り返し施与する。例えば、電極を繰り返しディップコートし、そして各コーティング工程の間に乾燥する。多層型施与は、均一に構成されたアダプテーション層を支援する。アダプテーション層の不規則な表面プロフィルは避けられる。これは、他方で、アダプテーション層上に電解質材料を施与するための有利な物理的条件を作り出す。
【0036】
好ましい実施形態の一つでは、アダプテーション層は、純粋なイオン伝導性の、すなわち電子非伝導性の材料からなる。それにより、両電極(アノード及びカソード)間の必要な電気絶縁が既にアダプテーション層により保証される。更なる電子絶縁層は省略でき、そうして燃料電池の構成が簡素化される。それ故、気密な電解質は、(例えば燃料電池の運転条件下に)かなりの電子伝導性を示す、層からなることができる。これは、例えば高温(>650℃)下での酸化ガドリニウムドープド酸化セリウム(CGO)からできた電解質の場合に該当する。
【0037】
電子非伝導性アダプテーション層の材料としては、好ましくは酸化物セラミック、例えばドープド酸化ジルコニウムが使用される。ドーピングとしては、Y、Sc、Al、Sr、Caの群からのドーピング元素の少なくとも一種の酸化物が適している。それで、アダプテーション層は、YSZ層(酸化イットリウム安定化二酸化ジルコニウム)として形成することができる。
【0038】
代替的に、アダプテーション層には、イオン及び電子伝導性材料(混合伝導体)が使用される。これに特に適したものは、ドープド酸化セリウムである。ドーピングとしては、有利には、Gd、Smなどの希土元素の群及び/またはY、Sc、Al、Sr、Caの群からのドーピング元素の少なくとも一種の酸化物が企図される。それで、アダプテーション層はCGO層として形成することができる。この場合、両電極間の電気絶縁は、気密な電解質層によって担われるのがよい。ここで、電子非伝導性の薄層電解質のための材料としては、好ましくは酸化物セラミック、例えばドープド酸化ジルコニウムが使用される。ドーピングとしては、Y、Sc、Al、Sr、Caの群からのドーピング元素の少なくとも一種の酸化物が適している。それで、この薄層電解質はYSZ層(酸化イットリウム安定化二酸化ジルコニウム)として形成することができる。アダプテーション層について上述した材料を、使用事例に応じて電解質にも使用することができる。それで、CGO材料でできた電解質の場合には、ZrOと反応性のSr成分、例えばランタン−ストロンチウム−コバルト−フェライト(LSCF)またはランタン−ストロンチウム−コバルタイト(LSC)として形成されたカソードをこの電解質上に直接施与することもできる。
【0039】
電極上に施与されたアダプテーション層は好ましくは焼結される。焼結温度は特に950℃〜1300℃であり、そうすると燃料電池の運転中(例えばSOFC、最大850℃)、不所望な構造変化がアダプテーション層中に起こることが予期され得ない。十分な機械的安定性を達成するためには、アダプテーション層には、好ましくは30〜500nm、特に150nmの平均粒径を持つ粉末が使用される。それによって、更に、多孔性電極層(例えばアノード層)中への強すぎる浸潤が避けられる。
【0040】
該アダプテーション層は、気相堆積法を用いて安定でかつ気密な電解質層構造を製造する可能性を供する。該方法は、格別薄い電解質層を可能にする。例えば、アダプテーション層上には、0.2〜10μm、好ましくは1〜3μm、更に好ましくは1〜2μmの層厚を有する電解質を堆積することができる。これにはPVD法(物理蒸着)が特に適している。
【0041】
代替的に、電解質はゾル−ゲル技術を用いて施与することができる。
【実施例】
【0042】
以下に、本発明を、幾つかの図面及び具体的な実施例に基づいてより詳しく説明する。
【0043】
図1は、還元されたアノード構造(Ni/8YSZ)の表面を示し、これは、ここには図示していないが多孔性の金属製支持材(ITM)上に設けられている。アノード構造上の孔の形状/寸法は比較的大きい。
【0044】
図2は、電解質で覆われた図1のアノード構造の横断面図を示す。多層電解質を、PVDコート法を用いてアノード構造上に施与した。これは、CGO層(E1)、8YSZ層(E2)及び更に別のCGO層(E3)からなる。扇状の不規則な成長で電解質が柱状に層成長していることがはっきりと分かる。特にNi粒子上での電解質層のこの不均一な成長は、電解質の必要な気密な層構造を妨げる。
【0045】
図3は、アノード構造上に施与されたアダプテーション層の表面構造を示す。図1のアノード構造と比べて、アダプテーション層の孔の孔径がかなり小さくなっていることがはっきりと分かる。
【0046】
図4は、図3のアダプテーション層及びそれの上に施与された電解質の横断面図を示す。電解質は、CGOから単一層として形成され、そしてPVD法によって施与された。電解質層の成長は中断なく均一であり、そのため電解質の必要な気密性が達成される。
【0047】
本発明のアッセンブリーまたは燃料電池の構造の例は、図5及び6から図解的に読み取ることができる。
【0048】
図5(変形A)では、拡散バリアDが設けられた金属製多孔性支持材S(ITM)上に、多孔性アノード構造Aが施与される。このアノード構造上には、次の層が相次いで施与される: 多孔性アダプテーション層AD、気密な電解質層E、多孔性カソードK。この構造では、例えば以下の材料が使用される。
S: FeCr合金またはCFY合金。
D: LSMまたはCGOでできた拡散バリア。
A: Ni/8YSZ(ニッケルと、8モル%の酸化イットリウムで安定化された二酸化ジルコンとからなるサーメット混合物)またはNiO/8YSZ(酸化ニッケルと、8モル%の酸化イットリウムで安定化された二酸化ジルコンとの混合物)。
AD: YSZ(酸化イットリウム安定化二酸化ジルコニウム)またはScSZ(酸化スカンジウム安定化二酸化ジルコニウム)。
E: CGO。
K: LSCGまたはLSMまたはLSC。
【0049】
図6(変形B)では、金属製多孔性支持材S(ITM)の上に多孔性カソードKが施与される。このカソードKの上に次の層が相次いで施与される: 多孔性アダプテーション層AD、気密な電解質層E、多孔性アノードA。この構造では、例えば次の材料が使用される。
S: FeCr合金またはCFY合金。
K: LSMまたはLSCFまたはLSC。
AD: CGO。
E: YSZまたはScSZ。
A: Ni/8YSZまたはNiO/8YSZ。
【0050】
気密な薄層電解質の施与は、その下にある層構造に対して粗さ及び/または孔径に関して或る要求を課し、これは、アダプテーション層によって満たすことができる。粉末冶金学的多孔性支持材(例えば<125μmの粒径を有するもの)をアノード構造でコーティングする場合には、後者は、1.5μmまでの孔径を有することができる(図1参照)。このアノード構造の表面の粗さは、二乗平均粗さ値Rに関しては3μm未満、好ましくは2μm未満、
【0051】
【数2】

【0052】
に関しては、1μm未満、好ましくは0.6μm未満、そして平均粗さ深さRに関しては10μm未満、好ましくは6μm未満、並びに
【0053】
【数3】

【0054】
に関しては4μm未満、好ましくは2μmであるのがよい。
【0055】
粗さの測定のためには、共焦点レーザーセンターLT9010を備えたレーザートポグラフCT200(Cybertechnolgies GmbH,Ingolstadt)を使用した(スポットサイズ 約2μm、垂直解像度 10nm)。1μmステップ幅で測定した一次プロフィルを、DIN規格の適用の前に、多重反射に基づく個々の疑似信号を最小化するために、ガウスフィルタ(α=In(2)、フィルター長 5μm)を用いてフィルターした。
【0056】
線形切断法を介して測定した焼結した組織の粒径及び孔径については、パラメータ毎にそれぞれ、層の横断面の少なくとも三つの走査電子顕微鏡写真を評価した。この際、一つの写真当たり500〜1000本の線を記入した。1024×768ピクセルの走査電子写真のピクセル数で、アダプテーション層には5〜15μm幅の全細部(Gesamtausschnitt)を選択した。
【0057】
アダプテーション層には、平均分散性一次粒径が150nmで比表面積が13m/gの8YSZ粉末を使用した(TZ−8Y,Tosoh Corp.,Japan)。浸漬用懸濁液を直径5〜10mmの粉砕ビードと混ぜ、そしてRollenbank 48で48時間ホモジナイズした。この浸漬用懸濁液は、67.2重量%のDBE溶媒(二塩基性エステル、Lemro Chemieprodukte Michael Mrozyk KG、Grevenbroich)、30.5重量%の8YSZ粉末(TZ−8Y)及びバインダーとしての2.3重量%のエチルセルロース(Fluka,3〜5.5mPa s,Sigma−Aldrich Chemie GmbH,Muenchen)からなる。アノード構造が施与されたキャリア支持材を、この懸濁液中に垂直に浸漬し、そして乾燥ステップの後にH雰囲気中で1200℃で3時間焼結した。コーティングパラメータ(浸漬速度、排液時間)に依存して、10〜20μmのアダプテーション層厚が生じた。こうして施与されたアダプテーション層は、1.2μmの二乗平均粗さ値R及び5.8μmの平均粗さ深さRzを示した。
【0058】
【数4】

【0059】
粗さ値のこれらの若干の低下の他、アダプテーション層の表面の所で平均孔径の明らかな減少が生じた。アノード構造の表面は約610nmの平均孔径を示したが(図1参照)、この場合のアダプテーション層の平均孔径は約240nmであった(図3参照)。アダプテーション層上には、気相堆積法(870℃での電子ビーム蒸着、EB−PVD)を用いて、GdドープドCeO(CGO)からできた気密の電解質層を約1.7μmの層厚で施与できた。この電解質の気密性は、He漏れ試験を用いて、圧力差が1000hPaの場合に3.4×10−3(hPa dm3)/(s cm2)と測定された。この値は、還元された状態の通例のアノード支持型燃料電池に相当する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極(A、K)、電解質(E)、並びに電極(A、K)及び電解質(E)のためのキャリアとしての金属製多孔性キャリア支持材(S)を備えた、燃料電池用のアッセンブリーであって、電極(A、K)と電解質(E)との間に、電極(A、K)に電解質(E)を適応させるためのアダプテーション層(AD)が配置され、この際、アダプテーション層(AD)の平均孔径が、電極(A、K)の平均孔径よりも小さいことを特徴とする、前記アッセンブリー。
【請求項2】
アダプテーション層(AD)の平均孔径が、電極(A、K)の平均孔径と比べて最大でもその半分の大きさであることを特徴とする、請求項1のアッセンブリー。
【請求項3】
アダプテーション層(AD)の平均孔径が最大でも500nm、好ましくは最大でも350nmであることを特徴とする、請求項1または2のアッセンブリー。
【請求項4】
アダプテーション層(AD)が、2.5μm未満の、好ましくは最大でも1.5μm、更に好ましくは最大でも1.0μmの平均表面粗さRを有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一つのアッセンブリー。
【請求項5】
キャリア支持材(S)と電極(A、K)との間に拡散バリア(D)を有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一つのアッセンブリー。
【請求項6】
電極がアノード(A)として形成されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一つのアッセンブリー。
【請求項7】
電解質(E)が、アダプテーション層(AD)の電解質(E)側の層表面に直接配置されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一つのアッセンブリー。
【請求項8】
アダプテーション層(AD)が、3〜20μm、好ましくは3〜7μmの厚さを有することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一つのアッセンブリー。
【請求項9】
電解質(E)が、0.2〜10μm、好ましくは1〜3μmの厚さを有することを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一つのアッセンブリー。
【請求項10】
電子非伝導性材料からできたアダプテーション層(AD)及び/または電解質(E)を特徴とする、請求項1〜9のいずれか一つのアッセンブリー。
【請求項11】
ドープド酸化ジルコニウムからできたアダプテーション層及び/または電解質(E)であって、ドーピングが、Y、Sc、Al、Sr、Caの群からのドーピング元素の少なくとも一種の酸化物を含むことを特徴とする、請求項10のアッセンブリー。
【請求項12】
イオン及び電子伝導性材料からできたアダプテーション層(AD)及び/または電解質(E)を特徴とする、請求項1〜9のいずれか一つのアッセンブリー。
【請求項13】
ドープド酸化セリウムからできたアダプテーション層(AD)及び/または電解質(E)であって、この際、ドーピングが、Gd、Smなどの希土元素の群及び/またはY、Sc、Al、Sr、Caの群からのドーピング元素の少なくとも一種の酸化物を含むことを特徴とする、請求項12のアッセンブリー。
【請求項14】
電極(A、K)及び電解質(E)を備えた、燃料電池用のアッセンブリーの製造方法であって、次のプロセスステップ;
a)電極(A、K)及び電解質(E)のためのキャリアとしての金属製多孔性キャリア支持材(S)を用意するステップ、
b)キャリア支持材(S)上に電極(A、K)を施与するステップ、
c)電極(A、K)に電解質(E)を適応させるために、電極(A、K)上に多孔性アダプテーション層(AD)を施与するステップ、但しここで、アダプテーション層(AD)の平均孔径は、電極(A、K)の平均孔径よりも小さく、及び
d)アダプテーション層(AD)上に電解質(E)を施与するステップ、
を含む、前記方法。
【請求項15】
キャリア支持材(S)と電極(A、K)との間で、キャリア支持材(S)上に拡散バリア(D)が施与されることを特徴とする、請求項14の方法。
【請求項16】
アダプテーション層(AD)が電極(A、K)上に湿式化学的に施与されることを特徴とする請求項14または15の方法。
【請求項17】
アダプテーション層(AD)が多層状に施与されることを特徴とする、請求項14〜16のいずれか一つの方法。
【請求項18】
施与されたアダプテーション層(AD)が焼結によって処理されることを特徴とする、請求項14〜17のいずれか一つの方法。
【請求項19】
焼結温度が950〜1300℃であることを特徴とする、請求項18の方法。
【請求項20】
電解質材料が、気相堆積法またはゾル−ゲル法によってアダプテーション層(AD)上に施与されることを特徴とする、請求項14〜19のいずれか一つの方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2013−511799(P2013−511799A)
【公表日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−539224(P2012−539224)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【国際出願番号】PCT/EP2010/007002
【国際公開番号】WO2011/060928
【国際公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(390035448)フォルシュングスツェントルム・ユーリッヒ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (100)
【Fターム(参考)】