説明

燃料電池用の膜・電極触媒構造体

【課題】電解質膜の熱による劣化を抑制するのに貢献することができ、電解質膜の長寿命化を図り得る燃料電池用の膜・電極触媒構造体を提供する。
【解決手段】燃料電池用の膜・電極触媒構造体は、触媒物質を有するアノード側触媒層と、触媒物質を有するカソード側触媒層と、アノード側触媒層及びカソード側触媒層で挟装されたプロトン伝導性をもつ電解質膜とを備える。アノード側触媒層及びカソード側触媒層のうちの少なくとも一方は、電解質膜に近い側に配置された第1層と、第1層よりも電解質膜に遠い側に配置された第2層とを有する。第1層は第1担体と第1担体に担持された第1触媒物質とを有すると共に、第2層は第2担体と第2担体に担持された第2触媒物質とを有する。第1層の第1担体は無機物質を基材としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池用の膜・電極触媒構造体に関する。本発明は、触媒物質をもつ電極と電解質膜とを積層状態に接合した燃料電池用の膜・電極接合体(MEA)に適用することができる。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、触媒物質を有するアノード側触媒層をもつアノード(燃料極ともいう)と、触媒物質を有するカソード側触媒層をもつカソード(空気極ともいう)と、アノード側触媒層及びカソード側触媒層で挟装されたプロトン伝導性をもつ電解質膜とを備えている。燃料電池の運転時には、アノード側に燃料含有ガス(一般的には水素含有ガス)が供給され、カソード側に酸素含有ガス(一般的には空気)が供給される。そしてアノード側触媒層では、燃料含有ガスからプロトン(H)と電子とが生成し、プロトン(H)が電解質膜を透過する。
【0003】
ところで、アノード側に供給された燃料含有ガスがアノード側から電解質膜を透過してカソード側にクロスオーバーするおそれがある。またカソード側に供給された酸素含有ガスが電解質膜を透過してカソード側からアノード側にクロスオーバーするおそれがある。クロスオーバーは、一方の極に供給された燃料含有ガスまたは酸素含有ガスが電解質膜を透過して反対側の極に漏れることをいう。このように燃料含有ガスや酸素含有ガスのクロスオーバーが生じると、燃料電池の発電性能を向上させるためには好ましくない。殊に、燃料含有ガスのクロスオーバーが生じると、燃料含有ガスの酸化(燃焼)がカソードで生じ、発生した熱の影響のため、電解質膜の更なる長寿命化には限界が生じやすい。
【0004】
従来、電解質膜におけるガスのクロスオーバーは、電解質膜の厚みを一定以上にすることにより抑えられていたが、電解質膜の厚みを厚くすると、プロトン導電性の抵抗が大きくなるため、得られる電流密度の増加にも限界が生じやすい。
【0005】
そこで、クロスオーバーによる弊害を抑えるべく、下記の特許文献1,2,3には、電解質膜の内部に、白金や金等の触媒金属を埋設し、クロスオーバーした燃料含有ガス、酸素含有ガスを電解質膜の内部の触媒金属により反応させて水を生成する旨が記載されている。また下記の特許文献2には、触媒金属を埋設された電解質膜の内部にシリカ、チタニア等のセラミックス粒子または繊維を埋設させる技術が開示されている。このものによれば、シリカ、チタニア等のセラミックスによる保水性、ひいては電解質膜の乾燥防止を期待したものである。
【特許文献1】特許第3271801号公報(特開平6−103992号公報)
【特許文献2】特開平7−90111号公報
【特許文献3】特開平8−298128号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した特許文献1,2,3によれば、前述したように、電解質膜の内部に白金や金等の触媒金属を埋設することにしている。このためクロスオーバーした燃料含有ガスの酸化(燃焼)による熱が電解質膜に直接伝達され易く、電解質膜が熱で劣化し、電解質膜の長寿命化には限界がある。
【0007】
本発明は上記した実情に鑑みなされたものであり、電解質膜の熱による劣化を抑制するのに貢献することができ、電解質膜の長寿命化を図り得る燃料電池用の膜・電極触媒構造体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)第1発明に係る燃料電池用の膜・電極触媒構造体は、触媒物質を有するアノード側触媒層と、触媒物質を有するカソード側触媒層と、アノード側触媒層及びカソード側触媒層で挟装されたプロトン伝導性をもつ電解質膜とを備えた燃料電池用の膜・電極触媒構造体において、
アノード側触媒層及びカソード側触媒層のうちの少なくとも一方は、
電解質膜に近い側に配置された第1層と、第1層よりも電解質膜に遠い側に配置された第2層とを有しており、
第1層は第1担体と第1担体に担持された第1触媒物質とを有すると共に、第2層は第2担体と第2担体に担持された第2触媒物質とを有しており、
第1層の第1担体は無機物質を基材としていることを特徴とするものである。
【0009】
仮にクロスオーバーに起因して発熱が第1層側に生じたとしても、第2発明によれば、第1層の第1担体はセラミックス等の無機物質を基材としているため、熱容量が大きく、電解質膜の過剰な温度上昇を抑えることができ、電解質膜の長寿命化に貢献することができる。更に第1層の第1担体はセラミックス等の無機物質を基材としているため、高い耐熱性及び高い耐食性を有しており、熱や反応による劣化が抑制され、電解質膜の長寿命化に一層貢献することができる。
【0010】
更に撥水性をもつカーボン系よりもセラミックス等の無機物質は一般的には親水性をもつものが多い。この場合、水分が担体に保持され易くなり、水の蒸発に伴う気化熱による冷却効果を期待でき、熱による電解質膜の劣化が抑制され、電解質膜の長寿命化に一層貢献することができる。更にまた、第1層の第1担体は電気絶縁性をもつセラミックス等の無機物質を基材としているため、アノードとカソードとの間における電気的短絡防止性を高める効果も期待できる。
【0011】
(2)第2発明に係る燃料電池用の膜・電極触媒構造体は、触媒物質を有するアノード側触媒層と、触媒物質を有するカソード側触媒層と、アノード側触媒層及びカソード側触媒層で挟装されたプロトン伝導性をもつ電解質膜とを備えた燃料電池用の膜・電極触媒構造体において、
アノード側触媒層及びカソード側触媒層のうちの少なくとも一方は、
電解質膜に近い側に配置された第1層と、第1層よりも電解質膜に遠い側に配置された第2層とを有しており、
第1層は、第1担体と第1担体に担持された第1触媒物質とプロトン伝導性をもつ高分子材料を基材とする第1電解質部とを有すると共に、第2層は、第2担体と第2担体に担持された第2触媒物質とプロトン伝導性をもつ高分子材料を基材とする第2電解質部とを有しており、
単位体積当たりにおいて、第1層の第1電解質部の量は、第2層の第2電解質部の量よりも相対的に小さく設定されていることを特徴とするものである。
【0012】
第1電解質部及び第2電解質部はプロトン伝導性をもつため、プロトンを第1触媒物質や第2触媒物質に搬送するのに貢献することができる。しかし第1電解質部及び第2電解質部は高分子材料を基材としており、金属と異なり熱伝導性が低い。このため仮にクロスオーバーに起因して発熱が第1層側に生じたとき、第3発明によれば、単位体積当たりにおいて、第1層の第1電解質部の量は、第2層の第2電解質部の量よりも相対的に小さく設定されているため、電解質膜に近い第1層における熱こもりを小さくするのに貢献することができる。
【0013】
更に第2発明によれば、前述したように、単位体積当たりにおいて第1層の第1電解質部の量は第2層の第2電解質部の量よりも相対的に小さく設定されているため、第1層におけるガス拡散性を高めるのに有利となり、クロスオーバーしたガスの酸化(燃焼)が局部的に集中することを抑制できる。
【0014】
このため第2発明によれば、仮にクロスオーバーに起因して発熱が第1層側に生じたとしても、電解質膜に近い側の第1層の過剰な温度上昇は抑制される。ひいては電解質膜への熱伝導も抑制され、熱による電解質膜の劣化が抑制され、電解質膜の長寿命化に貢献することができる。
【発明の効果】
【0015】
(1)第1発明によれば、第1層の第1担体はセラミックス等の無機物質を基材としている。仮にクロスオーバーに起因して発熱が第1層側に生じたとしても、第1発明によれば、第1層の第1担体はセラミックス等の無機物質を基材としているため、熱容量が大きく、電解質膜の過剰な温度上昇を抑えることができ、電解質膜の長寿命化に貢献することができる。耐熱性を有しており、熱による劣化が抑制され、電解質膜の長寿命化に貢献することができる。更に撥水性をもつカーボン系よりもセラミックス等の無機物質は一般的には親水性をもつため、水の蒸発に伴う気化熱による冷却効果を期待でき、熱による劣化が抑制され、電解質膜の長寿命化に貢献することができる。更にまた、第1層の第1担体は電気絶縁性をもつセラミックス等の無機物質を基材としているため、アノードとカソードとの間における電気的短絡を防止する効果も期待できる。
【0016】
(2)第2発明によれば、単位体積当たりにおいて、第1層の第1電解質部の割合は、第2層の第2電解質部の割合よりも相対的に小さく設定されている。第1電解質部及び第2電解質部はプロトン伝導性をもつため、プロトンを第1触媒物質や第2触媒物質に搬送するのに貢献することができる。しかし第1電解質部及び第2電解質部は金属と異なり、熱伝導性が低い。このため仮にクロスオーバーに起因して発熱が第1層側に生じたとき、第2発明によれば、単位体積当たりにおいて、第1層の第1電解質部の割合は、第2層の第2電解質部の割合よりも相対的に小さく設定されているため、電解質膜に近い第1層における熱伝導に対する抵抗を小さくするのに貢献することができる。
【0017】
更に第2発明によれば、前述したように、単位体積当たりにおいて第1層の第1電解質部の割合は第2層の第2電解質部の割合よりも相対的に小さく設定されているため、第1層におけるガス拡散性は高まり、クロスオーバーしたガスの酸化(燃焼)が第1層において局部的に集中することを抑制でき、局部的過熱を抑制できる。
【0018】
このため第2発明によれば、仮にクロスオーバーに起因して発熱が第1層側に生じたとしても、電解質膜に近い側の第1層の過剰な温度上昇は抑制される。ひいては電解質膜への熱伝導も抑制され、熱による電解質膜の劣化が抑制され、電解質膜の長寿命化に貢献することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
・燃料電池用の膜・電極触媒構造体は、触媒物質を有するアノード側触媒層をもアノードと、触媒物質を有するカソード側触媒層をもつカソードと、アノード側触媒層及びカソード側触媒層で挟装されたプロトン伝導性をもつ電解質膜とを備えている。触媒物質としては一般的には触媒金属を採用できる。触媒金属としては白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、金からなる群から選ばれた少なくとも1種を例示できる。
【0020】
アノード側触媒層及びカソード側触媒層のうちの少なくとも一方は、電解質膜に近い側に配置された第1層と、第1層よりも電解質膜に遠い側に配置された第2層とを有している。第1層は、第1担体と第1担体に担持された第1触媒物質とを有すると共に、第2層は、第2担体と第2担体に担持された第2触媒物質とを有する。第1層の平均厚みとしては0.1〜50マイクロメートル、殊に0.5〜5マイクロメートルを例示できる。第2層の平均厚みとしては0.5〜50マイクロメートル、殊に1〜10マイクロメートルを例示できる。但しこれらに限定されるものではない。第1担体及び第2担体としては、粒子状または繊維状等の微小担体とすることができる。
【0021】
・本発明の好ましい態様によれば、単位体積当たりにおいて第1層は第2層よりも熱容量が大きく設定されている。この場合、単位体積当たりにおいて第1層は第2層よりも熱容量が大きく設定されているため、仮にクロスオーバーに起因して発熱が第1層側に生じたとしても、電解質膜に近い側の第1層の過剰な温度上昇は抑制される。ひいては電解質膜への熱伝導も抑制され、熱による電解質膜の劣化が抑制され、電解質膜の長寿命化に貢献することができる。
【0022】
本発明の好ましい態様によれば、第1層の第1担体の平均サイズは、第2層の第2担体の平均サイズよりも相対的に大きく設定されていることができる。このように第1担体の平均サイズが第2担体の平均サイズよりも相対的に大きく設定されていれば、第1担体の熱容量を大きくするのに有利となり、第1担体の過剰な温度上昇が抑制される。このため仮に発熱が第1層側に生じたとしても、電解質膜に近い側の第1層の過剰な温度上昇を抑制するのに有利となる。なお燃料電池の種類にもよるが、第1担体の平均サイズは、20ナノメートル以上で500ナノメートル以下を例示でき、殊に30〜200ナノメートル、なかでも40〜100ナノメートルとすることができるが、これに限定されるものではない。第2担体の平均サイズは第1担体31の平均サイズよりも相対的に小さく設定されており、例えば、5〜200ナノメートルとするができ、殊に10〜100ナノメートル、なかでも20〜50ナノメートルとすることができるが、これに限定されるものではない。
【0023】
なお、上記した担体がカーボンブラックのように凝集し易いものである場合には、担体の平均サイズは凝集状態のサイズを意味する。
【0024】
第1担体及び第2担体は一般的には導電性及び耐食性の確保を考慮すると、カーボン系を例示できる。この場合、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン等に代表されるカーボン粒子、カーボンナノファイバに代表されるカーボン繊維等のうちの少なくとも1種を例示できる。コスト、発電性能等を考慮すると、伝熱性に優れたハイストラクチャカーボンブラックを採用できる。ハイストラクチャカーボンブラックは、カーボンブラック粒子が凝集したものである。酸化抑制を考慮すると、黒鉛化が進行したカーボン系を例示できる。場合によっては、第1担体及び第2担体としては、熱による劣化を抑えるためにはセラミックスの粒子または繊維を採用しても良い。
【0025】
第1発明の好ましい態様によれば、第1層の第1触媒物質の平均サイズは、第2層の第2触媒物質の平均サイズよりも相対的に大きく設定されていることができる。このように第1触媒物質の平均サイズが第2担体の第2触媒物質の平均サイズよりも相対的に大きく設定されていれば、第1触媒物質自体の熱容量が大きくなり、第1触媒物質の過剰な温度上昇を抑制するのに有利となる。このため仮に発熱が第1層側に生じたとしても、電解質膜に近い側の第1層の過剰な温度上昇は抑制される。なお燃料電池の種類にもよるが、第1触媒物質の平均サイズは、2ナノメートル以上で、20ナノメートル以下を例示でき、例えば、2〜20ナノメートルとするができ、殊に3〜15ナノメートル、なかでも5〜10ナノメートルとすることができる。第2触媒物質の平均サイズは第2触媒物質の平均サイズよりも相対的に小さく設定されており、例えば、0.5〜10ナノメートルとするができ、殊に1〜5ナノメートル、なかでも1.5〜3ナノメートルとすることができる。但し第1触媒物質及び第2触媒物質の平均サイズは上記した領域に限定されるものではない。第1触媒物質及び第2触媒物質としては、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、金からなる群から選ばれた少なくとも1種を例示できる。
【0026】
・第1層の第1担体は無機物としてのセラミックス、ガラス等の無機物質を基材としている。仮にクロスオーバーに起因して発熱が第1層側に生じたとしても、第1発明によれば、第1層の第1担体はセラミックス等の無機物質を基材としているため、熱容量を大きくするのに有利であり、電解質膜の過剰な温度上昇を抑えることができ、電解質膜の長寿命化に貢献することができる。更に撥水性をもつカーボン系よりも、セラミックス等の無機物質は一般的には親水性をもつため、水の蒸発に伴う気化熱による冷却効果を期待できる。よって、熱による電解質膜の劣化が抑制され、電解質膜の長寿命化に貢献することができる。セラミックスとしては、酸化物、炭化物、窒化物、ほう化物等の公知のものを例示でき、炭化珪素、窒化アルミニウム、酸化チタン、酸化珪素、ジルコニア、アルミナ、ムライト、窒化珪素、窒化ホウ素、ベリリア等を例示できる。熱伝導性が良好な高熱伝導性セラミックス、特に炭化珪素、窒化アルミニウム等を例示できる。あるいは、親水性をもつ酸化チタン、酸化珪素等を例示できる。
【0027】
・第2発明によれば、第1層は、第1担体と第1担体に担持された第1触媒物質とプロトン伝導性をもつ第1電解質部とを有すると共に、第2層は、第2担体と第2担体に担持された第2触媒物質とプロトン伝導性をもつ第2電解質部とを有しており、単位体積当たりにおいて、第1層の第1電解質部の量は、第2層の第2電解質部の量よりも相対的に小さく設定されている。この場合、第1電解質部及び第2電解質部はプロトン伝導性をもつため、プロトン(H)を第1触媒物質や第2触媒物質に搬送するのに貢献することができる。しかし高分子材料を基材とする第1電解質部及び第2電解質部は金属と異なり、熱伝導性が低いため、仮にクロスオーバーに起因して発熱が第1層側に生じたとき、熱こもりが生じるおそれがある。この点第2発明によれば、単位体積当たりにおいて、第1層の第1電解質部の量は、第2層の第2電解質部の量よりも相対的に小さく設定されているため、電解質膜に近い第1層における熱伝導に対する抵抗を小さくするのに貢献することができ、第1層における熱こもりを抑制できる。このため仮にクロスオーバーに起因して発熱が第1層側に生じたとしても、電解質膜に近い側の第1層の過剰な温度上昇は抑制される。ひいては電解質膜への熱伝導も抑制され、熱による電解質膜の劣化が抑制され、電解質膜の長寿命化に貢献することができる。
【0028】
第1層における第1担体に対する第1電解質部の重量比としては0.3〜1.2の範囲、殊に0.40〜1.00の範囲を例示できる。第2層における第2担体に対する第2電解質部の重量比としては、0.4〜2.0の範囲、殊に0.6〜1.5の範囲を例示できる。この場合、第2発明によれば、第1電解質部の重量比と第2電解質部の重量比とが重複しないようにする。従って、第1層における第1担体に対する第1電解質部の重量比が0.4〜0.8未満の範囲内のときには、重複しないように、第2層における第2担体に対する第2電解質部の重量比として0.8以上〜2.0の範囲内、0.8以上〜1.5の範囲内とすることができる。
【0029】
また、第1層における第1担体に対する第1電解質部の重量比が0.4〜0.9未満の範囲内のときには、第2層における第2担体に対する第2電解質部の重量比としては0.9以上〜2.0の範囲内、0.9以上〜1.5の範囲内とすることができる。また、第1層における第1担体に対する第1電解質部の重量比が0.3〜0.6未満の範囲内のときには、第2層における第2担体に対する第2電解質部の重量比としては0.6以上〜2.0の範囲内、0.6以上〜1.5の範囲内とすることができる。
【0030】
ここで、第1層における第1担体に対する第1電解質部の重量比が0.4であるとは、重量比で、第1担体:第1電解質部=1:0.4という意味である。第1電解質部及び第2電解質部の材質としては、プロトン伝導性をもつものであれば良く、電解質膜と同材質、同系材質、類似材質または異材質とすることができる。
【実施例】
【0031】
(第1実施例,第2発明の実施例に相当)
以下、本発明の第1実施例の概念について図1を参照して説明する。図1は、本実施例に係る燃料電池用の膜・電極触媒構造体の概念図を示す。図1に示すように、燃料電池用の膜・電極触媒構造体は、アノード側触媒層1と、カソード側触媒層2と、アノード側触媒層1及びカソード側触媒層2で挟装されたプロトン伝導性をもつ固体高分子膜形の薄膜状をなす電解質膜6とを備えている。
【0032】
更に図1には図示はしないものの、アノード側触媒層1の外側には、導電性及びガス拡散性をもつ多孔質のガス拡散電極層7が配置されている。アノード側触媒層1とガス拡散電極層7とでアノード(燃料極ともいう)100が形成されている。カソード側触媒層2の外側には、導電性及びガス拡散性をもつ多孔質のガス拡散電極層8が配置されている。カソード側触媒層2とガス拡散電極層8とでカソード(酸化剤極、空気極ともいう)200が形成されている。これによりMEAが形成されている。
【0033】
燃料電池の運転時には、アノード側触媒層1の外側に配置されているガス拡散電極層7に燃料含有ガス(水素含有ガス)が供給されると共に、カソード側触媒層2の外側に配置されているガス拡散電極層8に空気(酸素含有ガス)が供給される。ガス拡散電極層7に供給された燃料含有ガス(水素含有ガス)はアノード側触媒層1に浸透し、燃料含有ガスに含まれている水素から、アノード側触媒層1の触媒作用によりプロトン(H)と電子とが生成する。アノード側触媒層1及びカソード側触媒層2は外部導電経路600,負荷601を経て電気的に接続されている。周知のように、発電反応で生成された上記電子は、外部導電経路600を経て負荷601で電気的仕事を行い、カソード側触媒層2に至る。発電反応で生成されたプロトン(H)は、電解質膜6の内部を透過しカソード側触媒層2に至る。そしてプロトン(H)は、カソード側触媒層2の後述の第1電解質部51を透過して第1層21内を移動すると共に、後述の第2電解質部52を透過して第2層22内を移動する。ガス拡散電極層8に供給された空気はカソード側触媒層2に浸透する。カソード側触媒層2の触媒作用により、酸素とプロトン(H)と電子とが反応して水が生成される。
【0034】
本実施例はカソード側触媒層2を改良したものである。カソード側触媒層2は、図1に示すように、電解質膜6に対面するように電解質膜6に近い側に配置された第1層21と、第1層21よりも電解質膜6に遠い側(外側)に配置された第2層22とで形成されている。カソード200では、カソード200に供給された酸化剤含有ガスとしての空気に含まれている酸素と、電解質膜6を透過したプロトン(H)と、アノード100から外部導電経路600を経て供給された電子とが反応する発電反応が発生する。従って第2層22は、発電反応に寄与する触媒反応層として機能する。
【0035】
第1層21は、カーボン微粒子で形成された粒子状の第1担体31と、第1担体31の表面に担持された第1触媒物質としての第1触媒金属41と、第1担体31及び第1触媒金属41に混在された第1電解質部51とを有する。第1触媒金属41は第1担体31のサイズよりも相対的に小さなサイズをもつ超微粒子状であり、白金を基材とする。第1電解質部51は基本的には電解質膜6と同じ材質または類似した材質の高分子材料で形成されており、電解質膜6を透過したプロトンを透過させることにより、プロトンを第1層21において移動させる機能をもつ。
【0036】
第1層21は、クロスオーバーにより電解質膜6を透過した燃料含有ガスの酸化(燃焼)を行う触媒燃焼層として機能すると共に、第1担体31が導電性をもつカーボン微粒子を基材として形成されているため、上記した発電反応に寄与する触媒反応層として機能することができる。第1層21は第2層22と材質、構造が近似しているものの、後述するように、単位体積当たりの熱容量が第2層22よりも相対的に大きく設定されているため、クロスオーバーにより電解質膜6を透過した燃料含有ガスの酸化(燃焼)が生じて熱が発生したとき、第1層21の過剰な温度上昇をできるだけ抑制し、電解質膜6の過剰な温度上昇をできるだけ抑制し、熱による電解質膜6のダメージを低減させる役割を果たす。
【0037】
図1に示すように、第2層22は、カーボン微粒子で形成された粒子状の第2担体32と、第2担体32の表面に担持された第2触媒物質としての第2触媒金属42と、第2担体32及び第2触媒金属42に混在された第2電解質部52とを有する。第2触媒金属42は第2担体32のサイズよりも相対的に小さなサイズをもつ超微粒子状であり、白金を基材とする。第1電解質部51は基本的には第2電解質部52と同じ材質または類似の材質とされており、電解質膜6を透過したプロトンを透過させることにより、プロトンを第2層22において移動させる機能をもつ。第1担体31及び第2担体32はカーボンブラックとされており、耐酸化性向上のため黒鉛化されている。
【0038】
なお第1層21の平均厚みは1〜10マイクロメートルとされている。第2層22の平均厚みは5〜10マイクロメートルとされている。但しこれらに限定されるものではない。
【0039】
本実施例によれば、第1層21の微粒子状の第1担体31の平均サイズは、触媒燃焼反応による過剰な温度上昇を抑制すべく、図1に模式的に示すように、第2層22の微粒子状の第2担体32の平均サイズよりも相対的に大きく設定されている。具体的には、第1担体31の平均粒径は、30〜70ナノメートルの範囲内であり、第2担体32の平均粒径は20〜50ナノメートルの範囲内である。カーボン微粒子がカーボンブラックのように凝集し易いものである場合には、上記した担体の平均サイズは凝集状態の粒径(平均1次粒径)を意味する。
【0040】
また図1に示すように、第1層21の超微粒子状の第1触媒金属41の平均サイズは、第2層22の超微粒子状の第2触媒金属42の平均サイズよりも相対的に大きく設定されている。具体的には、第1触媒金属41の平均1次粒径は2〜10ナノメートルの範囲内に設定されており、具体的には5ナノメートルである。第2触媒金属42の平均粒径は1〜5ナノメートルの範囲内に設定されており、具体的には2.0ナノメートルである。
【0041】
また本実施例によれば、単位体積当たり、第1層21における第1電解質部51の添加割合αは、第2層22における第2電解質部52の添加割合βよりも相対的に小さく設定されている(α<β)。換言すると、単位体積当たり、第2層22における第2電解質部52の添加割合βは、第1層21における第1電解質部51の添加割合αよりも相対的に大きく設定されている。
【0042】
添加割合αは、第1担体31(触媒金属の重量を含まず)に対して重量比で1.0以下に設定されており、具体的には0.4〜1.0の範囲とされている。添加割合βは、第2担体32(触媒金属を含まず)に対する重量比で1.5以下に設定されており、具体的には0.6〜1.5の範囲内において第1電解質部51の添加割合αよりも相対的に大きく設定されている。
【0043】
本実施例によれば、アノード側触媒層2は従来と同様とされており、図1に示すように、第2層22における第2担体32と同種の第3担体43と、第2触媒金属42と同種の第3触媒金属43を用い、第3担体43の表面に第3触媒金属43を担持させたものを用い、第3電解質部53を混在させている。
【0044】
以上説明したように本実施例によれば、図1に示すように、第1層21における第1担体31の平均サイズが第2層22における第2担体32の平均サイズよりも相対的に大きく設定されているため、単位体積当たりの第1担体31の熱容量が大きくなる。従って、単位体積当たりの第1層21の熱容量は第2層22よりも相対的に大きくなる。故に、電解質膜6に近い側の第1層21の過剰な温度上昇が抑制される。このため仮に電解質膜6をクロスオーバーした燃料含有ガスがカソード200で酸化(燃焼)し、カソード200の第1層21において発熱が生じたとしても、電解質膜6に近い側の第1層21の過剰な温度上昇を抑制するのに有利となる。従って、電解質膜6の過剰な温度上昇を抑制するのに有利となり、電解質膜6の熱による劣化を抑制して、電解質膜6の長寿命化に貢献することができる。
【0045】
更に本実施例によれば、第1触媒金属41の平均サイズが第2触媒金属42の平均サイズよりも相対的に大きく設定されているため、単位体積当たりの第1触媒金属41の熱容量が大きくなる。従って、単位体積当たりの第1層21の熱容量は第2層22よりも相対的に大きくなる。この意味においても、電解質膜6に近い側の第1層21の過剰な温度上昇を抑制するのに有利となる。
【0046】
第1電解質部51及び第2電解質部52はプロトン伝導性をもつ高分子材料を基材とするため、プロトンを第1触媒金属41や第2触媒金属42に移行させるのに貢献することができる。しかし第1電解質部51及び第2電解質部52は高分子材料で形成されており、金属と異なり、熱伝導性が低い。このため仮にクロスオーバーに起因して発熱がカソード側触媒層2の第1層21側に生じたとき、本実施例によれば、単位体積当たりにおいて、第1層21の第1電解質部51の量は、第2層22の第2電解質部52の量よりも相対的に小さく設定されているため、電解質膜6に近い第1層21における熱こもりを小さくするのに貢献することができる。このため仮にクロスオーバーに起因して発熱が第1層21側に生じたとしても、電解質膜6に近い側の第1層21の過剰な温度上昇は抑制される。ひいては電解質膜6への熱伝導も抑制され、熱による電解質膜6の劣化が抑制され、電解質膜6の長寿命化に貢献することができる。
【0047】
なお、第1層21の第1触媒金属41を担持した第1担体31はカーボン微粒子であるため、導電性を有している。このため燃料電池のOCV(open circuit voltage,開回路)状態では、第1層21は、水素の酸化(燃焼)を第1触媒金属41を利用して行う触媒燃焼層として機能する。また燃料電池の放電時(発電時)には、導電性を有する第1層21は、アノード100で生じた電子を受け取って発電反応を行うため、触媒反応層としても機能できる。
【0048】
(第1試験例)
第1試験例は第1実施例に相当する。第1試験例においては、電解質膜6として、膜厚50マイクロメートルのナフィオン膜を用いた。カソード側触媒層2の第1層21を形成するべく、黒鉛化したカーボンブラック(平均粒径:50ナノメートル)からなるカーボン微粒子で形成された第1担体31に、平均粒径が5.0ナノメートルの白金粒子の第1触媒金属41を担持した白金担持カーボン微粒子を用いた。更に、この白金担持カーボン微粒子とナフィオン溶液(第1電解質部51)とを混合した第1触媒インクを用いた。
【0049】
この第1触媒インクにおける白金担持カーボン微粒子は、重量比で白金が20%を占め、カーボン微粒子が80%占める。そして白金が所定の白金目付量(0.1mgPt/cm)となるように、この第1触媒インクを電解質膜6の一方の面にスプレー塗布し、これにより第1層21を形成した。ここで、第1触媒インクは、ナフィオン溶液を第1担体31に対して0.6の重量比で混合して形成した。即ち、この第1触媒インクでは後述の第2触媒インクよりもナフィオン溶液が少な目であり、重量比で、カーボン微粒子からなる第1担体31:ナフィオン溶液(第1電解質部51)=1:0.6とした。
【0050】
カソード触媒層2の第2層22を形成すべく、カーボンブラック(平均粒径:30ナノメートル)で形成されたカーボン微粒子からなる第2担体32に、平均粒径が2.0ナノメートルの白金粒子(触媒金属)を担持した白金担持カーボン微粒子を用いた。この白金担持カーボン微粒子とナフィオン溶液(第2電解質部52)とを混合した第2触媒インクを用いた。
【0051】
この第2触媒インクにおける白金担持カーボン微粒子は、重量比で、白金が50%、カーボン微粒子が50%占める。そして白金が所定の白金目付量(0.3mgPt/cm)となるように、この第2触媒インクを電解質膜6の第1層21の上にスプレー塗布し、これにより第2層22を形成した。ここで、第2触媒インクは、上記した第1触媒インクよりもナフィオン溶液の重量割合が多く設定されており、カーボン微粒子からなる第2担体32に対してナフィオン溶液を1.0の重量比で混合して形成した。即ち、第2層22を形成する第2触媒インクでは重量比でカーボン微粒子からなる第2担体32:ナフィオン溶液=1:1とした。
【0052】
アノード側触媒層1を形成すべく、カーボンブラック(平均粒径:30ナノメートル)で形成されたカーボン微粒子からなる第3担体33に、平均粒径が1.5ナノメートルの白金粒子の第3触媒金属43を担持した白金担持カーボン微粒子を用いた。この白金担持カーボン微粒子とナフィオン溶液(第3電解質部53)とを混合した第3触媒インクを用いた。この白金担持カーボン微粒子は、第1層21の場合と同様に、重量比で、白金が20%、カーボン微粒子が80%占める。
【0053】
そして白金が所定の白金目付量(0.1mgPt/cm)となるように、つまり第1層21の場合と同様の白金目付量となるように、この第3触媒インクを電解質膜6の他方の表面にスプレー塗布し、これによりアノード側触媒層1を形成した。この第3触媒インクは、カーボンブラックからなるカーボン微粒子で形成された第3担体33に対してナフィオン溶液を1.0の重量比で混合して形成した。即ち、この第3触媒インクでは重量比でカーボン微粒子からなる第3担体33:ナフィオン溶液=1:1とした。
【0054】
そして上記したようにアノード側触媒層1とカソード側触媒層2とで挟まれた電解質膜6を用い、撥水処理を施したカーボンペーパ(多孔質のガス拡散電極層7)をアノード側触媒層1に配置すると共に、撥水処理を施したカーボンぺーパ(多孔質のガス拡散電極層8)をカソード側触媒層2に配置した。そして厚み方向の両側から熱プレスすることにより接合し、MEAを形成した。
【0055】
1個のMEAについて初期性能及び耐久性能を試験した。この場合、燃料含有ガスである純水素ガスのゲージ圧力としては0.1MPaとし、空気のゲージ圧力としては0.1MPaとし、発電を行った。図2は初期性能の試験結果を示し、図3は耐久性能の試験結果を示す。図2において横軸は電流密度(相対表示)、縦軸は電圧(相対表示)を示す。図3において横軸は燃料電池の放電時間(相対表示)、縦軸は電圧(相対表示)を示す。
【0056】
(第1比較例)
第1比較例は第1試験例に対応するものである。第1比較例のMEAについて次のように形成した。即ち、電解質膜として、第1試験例と同様に膜厚50マイクロメートルのナフィオン膜を用いた。カソード側触媒層として、第1試験例に係る第2層22と同様に形成した。そして所定の白金目付量(0.3mgPt/cm)となるように、つまり第2層22の白金目付量と同じとなるようにした。
【0057】
比較例に係るアノード側触媒層として、第1試験例に係るアノード側触媒層と同様に形成した。
【0058】
そして第1試験例の場合と同様に、カーボンペーパ(多孔質のガス拡散電極層)を配置し、厚み方向の両側から熱プレスすることにより接合し、第1比較例に係るMEAを形成した。第1比較例に係るMEAについて初期性能及び耐久性能を、第1試験例の場合と同様に試験した。図2は初期性能の試験結果を示し、図3は耐久性能の試験結果を示す。
【0059】
試験結果によれば、図2に示すように、触媒燃焼層を有しない第1比較例に係るMEAに比べて、触媒燃焼層として機能する第1層21を有する第1試験例に係るMEAは出力電圧が高く、初期性能が優れていた。また図3に示すように、燃料電池の放電時間が長くなったとしても、触媒燃焼層として機能する第1層21を有する第1試験例に係るMEAは、第1比較例に係るMEAに比べて電圧の低下が少なく、電圧は安定しており、耐久性が向上している。第1層21による電解質膜6の保護性が高いためと推察される。
【0060】
(第2実施例,第1発明および第2発明の実施例に相当)
以下、本発明の第2実施例について説明する。図4は第2実施例に係る概念図を示す。第2実施例は第1実施例と基本的には同様の構成であり、基本的には同様の作用効果を奏する。本実施例に係る燃料電池用の膜・電極触媒構造体は、図4に示すように、アノード側触媒層1Bと、カソード側触媒層2B と、アノード側触媒層1B及びカソード側触媒層2Bで挟装されたプロトン伝導性をもつ薄膜状の電解質膜6Bとを備えている。
【0061】
本実施例はカソード側触媒層2Bを改良したものである。カソード側触媒層2Bは、図4に示すように、電解質膜6Bに対面するように電解質膜6Bに近い側に配置された触媒燃焼層として機能する第1層21Bと、第1層21Bよりも電解質膜6に遠い側に配置された触媒反応層として機能する第2層22Bとで形成されている。
【0062】
第1層21Bは第2層22Bと構造が近似しているものの、単位体積当たりの第1層21Bの熱容量は、単位体積当たりの第2層22Bの熱容量よりも相対的に大きく設定されている。このため電解質膜6Bをクロスオーバーした燃料含有ガスの酸化(燃焼)が生じ、カソード側で発熱が生じたとしても、第1層21Bの過剰な温度上昇をできるだけ抑制することができる。ひいては電解質膜6Bの過剰な温度上昇をできるだけ抑制することができ、熱による電解質膜6Bのダメージを低減させる役割を果たす。
【0063】
図4に示すように、第1層21Bは、セラミックスの微粒子(炭化珪素、窒化アルミニウム、酸化チタン、酸化珪素等のうちの少なくとも1種)で形成された粒子状の第1担体31Bと、第1担体31Bの表面に担持された第1触媒物質としての第1触媒金属41Bと、第1担体31B及び第1触媒金属41Bに混在された第1電解質部51Bとを有する。第1触媒金属41Bは第1担体31Bのサイズよりも相対的に小さなサイズをもつ超微粒子状であり、白金を基材とする。第1電解質部51Bは基本的には電解質膜6Bと同じ材質とされており、電解質膜6Bを透過したプロトンを透過させる機能をもつ。
【0064】
図4に示すように、第2層22Bは、カーボンブラックからなるカーボン微粒子で形成された粒子状の第2担体32Bと、第2担体32Bの表面に担持された第2触媒物質としての第2触媒金属42Bと、第2担体32B及び第2触媒金属42Bに混在された第2電解質部52Bとを有する。第2触媒金属42Bは第2担体32Bのサイズよりも相対的に小さなサイズをもつ超微粒子状であり、白金を基材とする。第1電解質部51Bは基本的には第2電解質部52Bと同じ材質とされており、電解質膜6Bを透過したプロトンを透過させる機能をもつ。第2担体32Bはカーボンブラックとされており、耐酸化性向上のため黒鉛化が進行している。
【0065】
本実施例によれば、第1層21Bの微粒子状の第1担体31Bの平均サイズは、第1層21Bにおける過剰な温度上昇を抑制すべく、第2層22Bの微粒子状の第2担体32Bの平均サイズよりも相対的に大きく設定されており、単位体積当たりの熱容量が相対的に大きくされている。具体的には、セラミックスで形成された第1担体31Bの平均粒径は40〜200ナノメートルの範囲内に設定されており、カーボン微粒子で形成された第2担体32Bの平均粒径は20〜100ナノメートルの範囲内に設定されている。また第1層21Bの超微粒子状の第1触媒金属41Bの平均サイズは、第2層22Bの超微粒子状の第2触媒金属42Bの平均サイズよりも相対的に大きく設定されている。具体的には、第1触媒金属41Bの平均粒径は2〜20ナノメートルの範囲内に設定されており、具体的には5ナノメートルである。第2触媒金属42Bの平均粒径は1〜5ナノメートルの範囲内に設定されており、具体的には2.0ナノメートルである。
【0066】
また単位体積あたり、第1層21Bにおける第1電解質部51Bの添加割合αは、第2層22Bにおける第2電解質部52Bの添加割合βよりも相対的に小さく設定されている(α<β)。添加割合αとしては、第1担体31Bに対する重量比で0.3以上で1.0以下に設定されており、具体的には0.40〜0.80の範囲に設定されている。添加割合βとしては、重量比で0.6以上で2.0以下に設定されており、具体的には0.81〜1.50の範囲に設定されている。
【0067】
本実施例によれば、アノード側触媒層1Bは従来と同様とされており、第2層22Bにおける第2担体32Bと同種の第3担体33Bと、第2触媒金属42Bと同種の第3触媒金属43Bとが採用されており、第3電解質部53Bが混在している。
【0068】
仮に燃料含有ガスのクロスオーバーに起因してカソード側触媒層2Bにおいて、発熱が第1層21B側に生じたとしても、本実施例によれば、第1層21Bの第1担体31Bはセラミックスを基材としているため、熱容量が大きく、第1層21Bの過剰な温度上昇をできるだけ抑えることができ、電解質膜6Bの過剰な温度上昇をできるだけ抑えることができ、ひいては電解質膜6Bの長寿命化に貢献することができる。
【0069】
更に本実施例によれば、第1層21Bの第1担体31Bは平均サイズが第2担体32Bの平均サイズよりも相対的に大きく設定されているため、この意味においても、単位体積当たりの第1担体31Bの熱容量が大きくなる。この意味においても、電解質膜6Bに近い側の第1層21Bの過剰な温度上昇が抑制される。このため仮にクロスオーバーに起因して燃料含有ガスがアノード側で酸化(燃焼)し、アノード側の第1層21Bにおいて発熱が生じたとしても、電解質膜6Bに近い側の第1層21Bの過剰な温度上昇を抑制するのに有利となる。従って、第1層21Bに対面する電解質膜6Bの過剰な温度上昇を抑制するのに有利となり、電解質膜6の長寿命化に貢献することができる。
【0070】
更に本実施例によれば、第1触媒金属41Bの平均サイズが第2触媒金属42Bの平均サイズよりも相対的に大きく設定されているため、単位体積当たりの第1触媒金属41Bの熱容量が大きくなり、故に電解質膜6Bに近い側の第1層21Bの過剰な温度上昇を抑制するのに一層有利となる。
【0071】
また本実施例によれば、第1担体31Bを構成するセラミックスは、撥水性をもつカーボン系よりも一般的には表面に水を保持しやすい。特に酸化チタンや酸化珪素からなるセラミックスは親水性をもつため、表面に水を保持しやすい。このため撥水性をもつカーボン系を第1担体として採用している場合に比較して、水の蒸発に伴う気化熱による冷却効果を期待できる。ひいては、熱による電解質膜6Bの劣化が抑制され、電解質膜6Bの長寿命化に貢献することができる。
【0072】
加えて本実施例によれば、第1層21Bの第1担体31Bは電気絶縁性をもつセラミックスを基材としているため、カソード2Bとアノード1Bとの間における電気的短絡を防止する効果も期待できる。
【0073】
第1電解質部51B及び第2電解質部52Bはプロトン伝導性をもつため、プロトンを第1触媒金属41Bや第2触媒金属42Bに移行させるのに貢献することができる。しかし第1電解質部51B及び第2電解質部52Bは高分子材料を基材としており、金属と異なり熱伝導性が低い。このため仮にクロスオーバーに起因して発熱がカソード側触媒層2Bの第1層21B側に生じたとき、本実施例によれば、単位体積当たりにおいて、第1層21Bの第1電解質部51Bの量は、第2層22Bの第2電解質部52Bの量よりも相対的に小さく設定されているため、電解質膜6Bに近い第1層21Bにおける熱こもりを小さくするのに貢献することができる。このため仮にクロスオーバーに起因して発熱が第1層21B側に生じたとしても、電解質膜6Bに近い側の第1層21Bの過剰な温度上昇は抑制される。ひいては電解質膜6Bへの熱伝導も抑制され、熱による電解質膜6Bの劣化が抑制され、電解質膜6Bの長寿命化に貢献することができる。
【0074】
更に前述したように、単位体積当たり、第1層21Bの第1電解質部51Bの量は、第2層22Bの第2電解質部52Bの量よりも相対的に小さく設定されているため、反応が局部的に集中しないようにガス透過性を確保することができ、故に燃料含有ガスの酸化(燃焼)の局部的な集中を低減でき、電解質膜6の熱ダメージの低減に貢献することができる。
【0075】
燃料電池のOCV状態が長い時間継続する場合には、第1層21Bにおけるセラミックスの第1担体31Bとしては、伝熱性に優れた炭化珪素、窒化アルミニウムが好ましい。
【0076】
燃料電池のOCV状態(水は生成されにくい)と放電状態(水生成可能)とが短いサイクルで繰り返される場合には、電解質膜6の乾燥を抑えるべく、第1層21Bにおけるセラミックスの第1担体31Bとしては、保水性に優れた酸化チタン、酸化珪素等が好ましい。
【0077】
(第2試験例)
第2試験例は第2実施例に相当する。第2試験例においては、電解質膜6Bとして膜厚50マイクロメートルのナフィオン膜を用いた。カソード側触媒層2の第1層21Bとして、セラミックス(炭化珪素)で形成された微粒子状の第1担体31B(平均粒径:100ナノメートル)に、平均粒径が5.0ナノメートルの白金粒子(第1触媒金属41B)を担持して形成した白金担持セラミックス微粒子を用いた。この白金担持セラミックス微粒子とナフィオン溶液(第1電解質部51B)とを混合した第1触媒インクを用いた。第1触媒インクにおける白金担持セラミックス微粒子は、重量比で白金が10%を占め、セラミックス微粒子が90%占める。そして白金が所定の白金目付量(0.1mgPt/cm)となるように、第1触媒インクを電解質膜6Bの一方の面にスプレー塗布し、これによりセラミックスを基材とする第1層21Bを形成した。
【0078】
ここで、この第1触媒インクは、セラミックスで形成された第1担体31Bに対してナフィオン溶液を重量比で0.6の重量比で混合して形成した。即ち、第2試験例に係る第1触媒インク(第1層21B)では後述の第2触媒インク(第2層22B)よりもナフィオン溶液が少な目であり、重量比で、セラミックスで形成された第1担体31B:ナフィオン溶液=1:0.6とした。
【0079】
カソード側に設けられる触媒層2Bの第2層22Bを形成すべく、カーボンブラック(平均1次粒径:30ナノメートル)からなる第2担体32Bに、平均粒径が2.0ナノメートルの白金粒子の第2触媒金属42Bを担持して形成した白金担持カーボン微粒子を用いた。
【0080】
この白金担持カーボン微粒子とナフィオン溶液(第2電解質部52B)とを混合した第2触媒インクを用いた。この第2触媒インクにおける白金担持カーボン微粒子は、重量比で、白金が50%、カーボン微粒子が50%占める。そして白金が所定の白金目付量(0.3mgPt/cm)となるように、第2触媒インクを電解質膜6Bの第1層21Bの上にスプレー塗布し、これにより第2層22Bを形成し、以てカソード側触媒層2Bを形成した。
【0081】
ここで、試験例2に係る第2層22Bを形成する第2触媒インクは、第1層21Bを形成する第1触媒インクよりもナフィオン溶液の重量割合が多く設定されており、第2担体32Bに対してナフィオン溶液を重量比で1.0の重量比で混合して形成した。即ち、第2触媒インクでは重量比で、カーボン微粒子からなる第2担体32B:ナフィオン溶液=1:1とした。
【0082】
試験例2に係るアノード側触媒層1Bとして、カーボンブラック(平均粒径:30ナノメートル)からなる第3担体33Bに、平均粒径が1.5ナノメートルの白金粒子の第3触媒金属43Bを担持した白金担持カーボン微粒子を用いた。この白金担持カーボン微粒子とナフィオン溶液(第3電解質部53B)とを混合した第3触媒インクを用いた。
【0083】
この白金担持カーボン微粒子は、重量比で、白金が20%、カーボン微粒子が80%占める。そして白金が所定の白金目付量(0.1mgPt/cm)となるように、この第3触媒インクを電解質膜6Bの他方の面にスプレー塗布し、これによりアノード側触媒層1Bを形成した。ここで、試験例2に係るアノード側触媒層1Bを形成する第3触媒インクは、カーボン微粒子からなる第3担体33Bに対してナフィオン溶液を重量比で1.0の重量比で混合して形成した。即ち、第3触媒インクでは重量比で、カーボン微粒子からなる第3担体33B:ナフィオン溶液=1:1とした。
【0084】
そして、上記したようにアノード側触媒層1Bとカソード側触媒層2Bとで挟まれた電解質膜6Bを用い、撥水処理を施したカーボンペーパ(多孔質のガス拡散電極層7)をアノード側触媒層1Bに配置すると共に、撥水処理したカーボンぺーパを(多孔質のガス拡散電極層8)カソード側触媒層2Bに配置した。そして厚み方向の両側から熱プレスすることにより接合し、第2実施例に係るMEAを形成した。このMEAについて初期性能及び耐久性能を第1試験例の場合と同様に試験した。図5は初期性能の試験結果を示し、図6は耐久性能の試験結果を示す。図5において横軸は電流密度(相対表示)、縦軸は電圧(相対表示)を示す。図6において横軸は燃料電池の放電時間(相対表示)、縦軸は電圧(相対表示)を示す。
【0085】
(第2比較例)
第2比較例は第2試験例に対応するものである。第2比較例のMEAについて次のように形成した。即ち、第2試験例と同様に電解質膜として膜厚50マイクロメートルのナフィオン膜を用いた。カソード側触媒層として、第2試験例に係る第2層22Bと同様に形成し、白金が所定の白金目付量(0.3mgPt/cm)となるように、つまり第2層22Bにおける白金目付量となるように形成した。第2比較例に係るアノード側触媒層については、第2試験例に係るアノード1Bの場合と同様に形成した。そして第2試験例の場合と同様にカーボンペーパ(多孔質のガス拡散電極層)を配置し、熱プレスすることにより接合し、第2比較例に係るMEAを形成した。第2比較例に係るMEAについて初期性能及び耐久性能を同様に試験した。図5は初期性能の試験結果を示し、図6は耐久性能の試験結果を示す。
【0086】
図5に示すように、第2比較例に係るMEAに比べて第2実施例に係るMEAは出力電圧がやや低いものの、ほぼ匹敵しており、初期性能が良好であった。図6に示すように、第1層21Bを有する第2試験例に係るMEAは、第2比較例に係るMEAに比べて、燃料電池の放電時間が長くなったとしても、電圧の低下がかなり少なく、電圧が安定しており、耐久性がかなり向上している。
【0087】
(第3実施例,第2発明の実施例に相当)
以下、本発明の第3実施例について説明する。図7は第3実施例に係る概念図を示す。第3実施例は第1実施例と基本的には同様の構成であり、基本的には同様の作用効果を奏する。本実施例に係る燃料電池用の膜・電極触媒構造体は、図7に示すように、アノード側触媒層1Cと、カソード側触媒層2Cと、アノード側触媒層1C及びカソード側触媒層2Cで挟装されたプロトン伝導性をもつ薄膜状の電解質膜6Cとを備えている。本実施例は、電解質膜6Cの熱劣化を抑制すべく、カソード側触媒層2Cを改良したものである。カソード側触媒層2Cは、図7に示すように、電解質膜6Cに対面するように電解質膜6Cに近い側に配置された触媒燃焼層として機能する第1層21Cと、第1層21Cよりも電解質膜6Cに遠い側に配置された触媒反応層として機能する第2層22Cとで形成されている。第1層21Cは第2層22Cと近似しているものの、燃料含有ガスのクロスオーバーが生じたとき、クロスオーバーしたガスの触媒燃焼によるダメージを低減させる役割を果たす。
【0088】
第1層21Cは、カーボンブラックからなるカーボン微粒子で形成された粒子状の第1担体31Cと、第1担体31Cの表面に担持された第1触媒物質としての第1触媒金属41Cと、第1担体31C及び第1触媒金属41Cに混在された第1電解質部51Cとを有する。第1触媒金属41Cは第1担体31Cのサイズよりも相対的に小さなサイズを有する超微粒子状であり、白金を基材とする。第1電解質部51Cは基本的には電解質膜6Cと同じ材質または類似した材質とされており、電解質膜6Cを透過したプロトンを透過させる機能をもつ。
【0089】
第2層22Cは、カーボンブラックからなるカーボン微粒子で形成された第2担体32Cと、第2担体32Cの表面に担持された第2触媒物質としての第2触媒金属42Cと、第2担体32C及び第2触媒金属42Cに混在された第2電解質部52Cとを有する。第2触媒金属42Cは第2担体32Cのサイズよりも相対的に小さなサイズを有する超微粒子状であり、第1触媒金属41Cのサイズと同程度とされており、白金を基材とする。第1電解質部51Cは基本的には第2電解質部52Cと同じ材質または類似した材質とされており、電解質膜6Cを透過したプロトンを透過させる機能をもつ。第1担体31C及び第2担体32Cの耐酸化性向上のため、第1担体31C及び第2担体32Cは黒鉛化が進行したカーボンブラックとされている。
【0090】
本実施例によれば、第1担体31Cの平均粒径は20〜50ナノメートルの範囲内に設定されており、第2担体32Cの平均粒径は20〜50ナノメートルの範囲内に設定されている。第1触媒金属41Cは第2触媒金属42Cのサイズと同程度とされており、1.5〜3ナノメートルとされている。
【0091】
また単位体積当たり、第1電解質部51Cの添加割合αは、第2電解質部52Cの添加割合βよりも相対的に小さく設定されている。添加割合αとしては、第1担体31Cに対する重量比で1.0以下に設定されており、具体的には0.40〜0.80の範囲に設定されている。換言すると、単位体積当たり、第2層22Cにおける第2電解質部52Cの添加割合βは、第1層21Cにおける第1電解質部51Cの添加割合αよりも相対的に大きく設定されている。添加割合βとしては、第2担体32に対する重量比で1.5以下に設定されており、具体的には0.81〜1.50の範囲とされている。
【0092】
第1電解質部51C及び第2電解質部52Cはプロトン伝導性をもつため、プロトンを第1触媒金属41Cや第2触媒金属42Cに搬送するのに貢献することができる。しかし第1電解質部51C及び第2電解質部52Cは高分子材料を基材としており、金属と異なり熱伝導性が低い。このため仮にクロスオーバーに起因して発熱がカソード側触媒層2Cの第1層21C側に生じたとき、本実施例によれば、単位体積当たりにおいて、第1層21Cの第1電解質部51Cの量は、第2層22Cの第2電解質部52Cの量よりも相対的に小さく設定されている。このため電解質膜6Cに近い第1層21Cにおける熱こもりを小さくするのに貢献することができる。このため仮にクロスオーバーに起因して発熱が第1層21C側に生じたとしても、電解質膜6Cに近い側の第1層21Cの過剰な温度上昇は抑制される。ひいては電解質膜6Cへの熱伝導も抑制され、熱による電解質膜6Cの劣化が抑制され、電解質膜6Cの長寿命化に貢献することができる。更に第1層21Cの第1電解質部51Cの量は、第2層22Cの第2電解質部52Cの量よりも相対的に小さく設定されているため、第1層21Cにおけるガス透過性を確保することができ、従って、クロスオーバーした燃料含有ガスの酸化反応(燃焼反応)が第1層21Cにおいて局部的に集中しないようにすることができる。
【0093】
(第3試験例)
第3試験例は第3実施例に相当する。第3試験例においては、電解質膜6Cとして膜厚50マイクロメートルのナフィオン膜を用いた。カソード側触媒層2Cの第1層21Cとして、カーボンブラック(平均粒径:30ナノメートル)で形成されたカーボン微粒子からなる粒子状の第1担体31Cに、平均粒径が2.0ナノメートルの白金粒子の第1触媒金属41Cを担持した白金担持カーボン微粒子を用いた。この白金担持カーボン微粒子とナフィオン溶液(第1電解質部51C)とを混合した第1触媒インクを用いた。第1触媒インクにおける白金担持カーボン微粒子は、重量比で白金が50%を占め、カーボン微粒子が50%占める。そして白金が所定の白金目付量(0.1mgPt/cm)となるように、第1触媒インクを電解質膜6Cの一方の面にスプレー塗布し、これにより第1層21Cを形成した。この第1触媒インクは、カーボン微粒子からなる第1担体31Cに対してナフィオン溶液を重量比で0.6の重量比で混合して形成した。即ち、第1触媒インクでは後述の第2触媒インクよりもナフィオン溶液が少な目であり、重量比で、カーボン微粒子からなる第1担体31C:ナフィオン溶液=1:0.6とした。
【0094】
カソード側に設けられる触媒層2Cの第2層22Cとして、カーボンブラック(平均粒径:30ナノメートル)からなるカーボン微粒子で形成された第2担体32Cに、平均粒径が2.0ナノメートルの白金粒子の第2触媒金属42Cを担持した白金担持カーボン微粒子を用いた。
【0095】
この白金担持カーボン微粒子とナフィオン溶液(第2電解質部52C)とを混合した第2触媒インクを用いた。この第2触媒インクにおける白金担持カーボン微粒子は、重量比で、白金が50%、カーボン微粒子が50%占める。そして白金が所定の白金目付量(0.3mgPt/cm)となるように、第2触媒インクを電解質膜6Cの第1層21Cの上にスプレー塗布し、これにより第2層22Cを形成し、以てカソード側触媒層2Cを形成した。ここで、第2触媒インクは、第1触媒インクよりもナフィオン溶液の重量割合が多く設定されており、カーボン微粒子からなる第2担体32Cに対してナフィオン溶液を重量比で1.0の重量比で混合して形成した。即ち、第2触媒インクでは重量比で、カーボン微粒子からなる第2担体32C:ナフィオン溶液=1:1とした。
【0096】
第3試験例に係るアノード側触媒層1Cとして、カーボンブラック(平均粒径:30ナノメートル)からなる第2担体32Cに、平均粒径が1.5ナノメートルの白金粒子の第3触媒金属43Cを担持した白金担持カーボン微粒子を用いた。この白金担持カーボン微粒子とナフィオン溶液(第3電解質部53C)とを混合した第3触媒インクを用いた。この白金担持カーボン微粒子は、重量比で、白金が20%、カーボン微粒子が80%占める。そして白金が所定の白金目付量(0.1mgPt/cm)となるように、第3触媒インクを電解質膜6Cの他方の面にスプレー塗布し、これによりアノード側触媒層1Cを形成した。ここで、第3触媒インクは、カーボン微粒子からなる第3担体33Cに対してナフィオン溶液を重量比で1.0の重量比で混合して形成した。即ち、第3触媒インクでは重量比で、カーボン微粒子からなる第3担体33C:ナフィオン溶液=1:1とした。
【0097】
そして、上記したようにアノード側触媒層1Cとカソード側触媒層2Cとで挟まれた電解質膜6Cを用い、撥水処理を施したカーボンペーパ(多孔質のガス拡散電極層7)をアノード側触媒層1Cに配置すると共に、撥水処理したカーボンぺーパ(多孔質のガス拡散電極層8)をカソード側触媒層2Cに配置した。そして、厚み方向の両側から熱プレスすることにより接合し、第3実施例に係るMEAを形成した。このMEAについて初期性能及び耐久性能を試験した。図8は耐久性能の試験結果を示す。図8において横軸は燃料電池の放電時間(相対表示)、縦軸は電圧(相対表示)を示す。
【0098】
(第3比較例)
第3比較例は第3試験例に対応するものである。第3比較例のMEAについて次のように形成した。即ち、第3試験例と同様に、電解質膜として膜厚50マイクロメートルのナフィオン膜を用いた。カソード側触媒層として、第3試験例に係る第2層22Cの場合と同様に形成した。但し、白金が所定の白金目付量(0.4mgPt/cm)となるようにした。
【0099】
第3比較例に係るアノード側触媒層について、第3試験例に係るアノード側触媒層1Cと同様に形成した。そして、上記した第3試験例と同様に、撥水処理を施したカーボンペーパ(多孔質のガス拡散電極層)を配置し、厚み方向の両側から熱プレスすることにより接合し、第3比較例に係るMEAを形成した。第3比較例に係るMEAについて初期性能及び耐久性能を同様に試験した。試験結果を図8に示す。図8に示すように、触媒燃焼層として機能できる第1層21Cを有する第3試験例に係るMEAは、第3比較例に係るMEAに比べて、燃料電池の放電時間が長くなったとしても、電圧の低下が少なく、電圧が安定しており、耐久性が向上している。
【0100】
(第4実施例,第1発明および第2発明に相当)
以下、本発明の第4実施例について説明する。図9は第4実施例に係る概念図を示す。第4実施例は第2実施例と基本的には同様の構成であり、基本的には同様の作用効果を奏する。但し、電解質膜6Bに対面する触媒燃焼層として機能する第1層21Bには、セラミックスの微粒子(炭化珪素、窒化アルミニウム、酸化チタン、酸化珪素等のうちの少なくとも1種)で形成された粒子状の第1担体31Bの他に、カーボン微粒子で形成された第1担体31Eが混在している。第1担体31Eには第1触媒金属41Eが担持されている。このように触媒燃焼層として機能する第1層21Bは、カーボン微粒子で形成された第1担体31Eを有するため、導電性を期待できる。
【0101】
(その他)
上記した例においては、担体としてカーボンブラックを採用しているが、これに限らず、黒鉛、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノファイバとすることもでき、担体は要するに触媒担持性及び導電性を有すれば良い。上記した試験例においては、ガス拡散電極層7,8としてカーボンペーパを用いているが、これに限定されるものではなく、カーボンクロスでも良く、要するにガス浸透性及び導電性をもつものであれば良い。
【0102】
上記した第1実施例によれば、第1層21の超微粒子状の第1触媒金属41の平均サイズは、第2層22の超微粒子状の第2触媒金属42の平均サイズよりも相対的に大きく設定されているが、これに限られるものではなく、第1触媒金属41の平均サイズと第2触媒金属42の平均サイズとを基本的には同じとしても良い。第2実施例に係る第1触媒金属41B、第2触媒金属42Bの平均サイズについても同様である。
【0103】
上記した第2実施例によれば、第1層21Bの微粒子状の第1担体31Bの平均サイズは、第2層22Bの微粒子状の第2担体32Bの平均サイズよりも相対的に大きく設定されているが、これに限られるものではなく、第1担体31Bの平均サイズと第2担体32Bの平均サイズとを基本的には同じとしても良い。上記した第2実施例によれば、単位体積当たりにおいて第1層21Bの第1電解質部51Bの割合αは、第2層22Bの第2電解質部52Bの割合βよりも相対的に小さく設定されているが、これに限らず、割合αは割合βと基本的に同じとしても良い。
【0104】
上記した各実施例によれば、カソード側触媒層2,2B,2Cに適用しているが、アノード側触媒層1,1B,1Cに適用することもできる。その他、本発明は上記した実施例、試験例のみに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できるものである。発明の実施の形態、実施例に記載の語句は一部であっても、請求項に記載できるものである。上記した記載から次の技術的思想も把握である。
[付記項1]触媒物質を有するアノード側触媒層と、触媒物質を有するカソード側触媒層と、前記アノード側触媒層及び前記カソード側触媒層で挟装されたプロトン伝導性をもつ電解質膜とを備えた燃料電池用の膜・電極触媒構造体において、
前記アノード側触媒層及び前記カソード側触媒層のうちの少なくとも一方は、
前記電解質膜に近い側に配置された第1層と、前記第1層よりも前記電解質膜に遠い側に配置された第2層とを有しており、単位体積当たりにおいて前記第1層は前記第2層よりも熱容量が大きく設定されていることを特徴とする燃料電池用の膜・電極触媒構造体。単位体積当たりにおいて第1層は第2層よりも熱容量が大きく設定されている。このため仮にクロスオーバーに起因して発熱が第1層側に生じたとしても、電解質膜に近い側の第1層の過剰な温度上昇は抑制される。ひいては電解質膜への熱伝導も抑制され、熱による電解質膜の劣化が抑制され、電解質膜の長寿命化に貢献することができる。
[付記項2]付記項1において、前記第1層は第1担体と前記第1担体に担持された第1触媒物質とを有すると共に、前記第2層は第2担体と前記第2担体に担持された第2触媒物質とを有しており、前記第1層の第1担体の平均サイズは、前記第2層の第2担体の平均サイズよりも相対的に大きく設定されていることを特徴とする燃料電池用の膜・電極触媒構造体。
[付記項3]付記項1,2において、前記第1層は第1担体と前記第1担体に担持された第1触媒物質とを有すると共に、前記第2層は第2担体と前記第2担体に担持された第2触媒物質とを有しており、前記第1層の第1触媒物質の平均サイズは、前記第2層の第2触媒物質の平均サイズよりも相対的に大きく設定されていることを特徴とする燃料電池用の膜・電極触媒構造体。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】第1実施例に係り、電解質膜付近を模式的に示す断面図である。
【図2】第1実施例に係り、電流密度と電圧との関係を示すグラフである。
【図3】第1実施例に係り、放電時間と電圧との関係を示すグラフである。
【図4】第2実施例に係り、電解質膜付近を模式的に示す断面図である。
【図5】第2実施例に係り、電流密度と電圧との関係を示すグラフである。
【図6】第2実施例に係り、放電時間と電圧との関係を示すグラフである。
【図7】第3実施例に係り、電解質膜付近を模式的に示す断面図である。
【図8】第3実施例に係り、放電時間と電圧との関係を示すグラフである。
【図9】第4実施例に係り、電解質膜付近を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0106】
図中、1はアノード側触媒層、2はカソード側触媒層、21は第1層、22は第2層、31は第1担体、32は第2担体、41は第1触媒金属(第1触媒物質)、42は第2触媒金属(第2触媒物質)、51は第1電解質部、52は第2電解質部、6は電解質膜を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒物質を有するアノード側触媒層と、触媒物質を有するカソード側触媒層と、前記アノード側触媒層及び前記カソード側触媒層で挟装されたプロトン伝導性をもつ電解質膜とを備えた燃料電池用の膜・電極触媒構造体において、
前記アノード側触媒層及び前記カソード側触媒層のうちの少なくとも一方は、
前記電解質膜に近い側に配置された第1層と、前記第1層よりも前記電解質膜に遠い側に配置された第2層とを有しており、
前記第1層は第1担体と前記第1担体に担持された第1触媒物質とを有すると共に、前記第2層は第2担体と前記第2担体に担持された第2触媒物質とを有しており、
前記第1層の第1担体は無機物質を基材としていることを特徴とする燃料電池用の膜・電極触媒構造体。
【請求項2】
請求項1において、前記無機物質は炭化珪素、窒化アルミニウム、酸化チタン、酸化珪素、窒化ホウ素、ジルコニア、アルミナ、ムライト、窒化珪素、ベリリアから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする燃料電池用の膜・電極触媒構造体。
【請求項3】
請求項1または2において、前記第2層の前記第2担体はカーボンを基材としていることを特徴とする燃料電池用の膜・電極触媒構造体。
【請求項4】
触媒物質を有するアノード側触媒層と、触媒物質を有するカソード側触媒層と、前記アノード側触媒層及び前記カソード側触媒層で挟装されたプロトン伝導性をもつ電解質膜とを備えた燃料電池用の膜・電極触媒構造体において、
前記アノード側触媒層及び前記カソード側触媒層のうちの少なくとも一方は、
前記電解質膜に近い側に配置された第1層と、前記第1層よりも前記電解質膜に遠い側に配置された第2層とを有しており、
前記第1層は、第1担体と前記第1担体に担持された第1触媒物質とプロトン伝導性をもつ高分子材料を基材とする第1電解質部とを有すると共に、前記第2層は、第2担体と前記第2担体に担持された第2触媒物質とプロトン伝導性をもつ高分子材料を基材とする第2電解質部とを有しており、
単位体積当たりにおいて、前記第1層の第1電解質部の量は、前記第2層の第2電解質部の量よりも相対的に小さく設定されていることを特徴とする燃料電池用の膜・電極触媒構造体。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のうちの一項において、前記第1層の第1担体は、無機物質を基材とする担体と、カーボン微粒子で形成された担体とを有することを特徴とする燃料電池用の膜・電極触媒構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−251549(P2008−251549A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−181107(P2008−181107)
【出願日】平成20年7月11日(2008.7.11)
【分割の表示】特願2002−271317(P2002−271317)の分割
【原出願日】平成14年9月18日(2002.9.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】