説明

燃料電池用の高分子電解質膜及びその製造方法

本発明は、高融点を有し、有機溶媒に不溶性であり、且つ気孔特性に優れたナノウェブにイオン伝導体を最適の条件で充填した構造にし、全体厚さを減らすことによって、抵抗損失が減少し、材料費が低減し、耐熱性が高く、且つ厚さ膨脹率が低いためイオン伝導度が長時間低下しない高分子電解質膜に関するものである。この高分子電解質膜は、300℃以上の融点を有し、常温でNMP、DMF、DMA、またはDMSOの有機溶媒に不溶性である多孔性ナノウェブと、該多孔性ナノウェブの気孔内に充填され、常温で有機溶媒に溶解性である炭化水素系物質を含むイオン伝導体と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に用いられる電解質膜に係り、特に、高分子電解質膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料の酸化によって生じる化学エネルギーを電気エネルギーに直接変換させる電池で、高いエネルギー効率性と少ない汚染物の排出といった環境親和的な特徴から、次世代エネルギー源として脚光を浴びている。
【0003】
燃料電池は、一般に、電解質膜を挟んで、両側に酸化極(Anode)と還元極(Cathode)がそれぞれ形成された構造を有し、このような構造を膜−電極接合体(Membrane Electrode Assembly:MEA)と称する。
【0004】
燃料電池は、電解質膜の種類によって、アルカリ電解質燃料電池、高分子電解質燃料電池(Polymer Electrolyte Membrane Fuel Cell:PEMFC)などに分類でき、特に、高分子電解質燃料電池は、100℃未満の低い作動温度、速い始動及び応答特性、並びに優れた耐久性などの特長から、携帯用、車両用及び家庭用の電源装置として脚光を浴びている。
【0005】
かかる高分子電解質燃料電池の代表には、水素ガスを燃料とするプロトン交換膜燃料電池(Proton Exchange Membrane Fuel Cell:PEMFC)などがある。
【0006】
高分子電解質燃料電池で起きる反応を要約すると、まず、水素ガスのような燃料が酸化極に供給されると、酸化極では、水素の酸化反応により水素イオン(H)と電子(e)が生成される。生成された水素イオン(H)は、高分子電解質膜を通って還元極に伝達され、生成された電子(e)は、外部回路を通って還元極に伝達される。還元極では、酸素が供給されて、酸素が水素イオン(H)及び電子(e)と結合し、酸素の還元反応により水が生成される。
【0007】
高分子電解質膜は、酸化極で生成された水素イオン(H)が還元極に伝達される通路であるから、基本的に水素イオン(H)の伝導度に優れていなければならない。なお、高分子電解質膜は、酸化極に供給される水素ガスと還元極に供給される酸素とを分離する分離能に優れていなければならない他、機械的強度、寸法安全性、耐化学性などにも優れていなければならず、さらに、高電流密度において抵抗損失(ohmic loss)が小さくなければならないなどの特性が要求される。
【0008】
現在用いられている高分子電解質膜には、フッ素系樹脂としてペルフルオロスルホン酸樹脂(以下、「フッ素系イオン伝導体」という。)がある。しかるに、フッ素系イオン伝導体は、機械的強度が弱く、長時間使用するとピンホール(pinhole)ができるため、エネルギー転換効率が落ちるという問題がある。機械的強度を補強するために、フッ素系イオン伝導体の膜厚さを増加させて使用する試みもあるが、こうすると、抵抗損失が増加し、しかも高価な材料の使用が増加してもしまい、経済性が低下する問題につながる。
【0009】
このような問題を解決するために、フッ素系樹脂である多孔性ポリテトラフルオロエチレン樹脂(商品名:テフロン)(以下、「テフロン樹脂」という。)に液状のフッ素系イオン伝導体を含浸させることによって機械的強度を向上させた高分子電解質膜が提案されたことがある。この場合は、フッ素系イオン伝導体単独からなる高分子電解質膜に比べてイオン伝導度は多少落ちることがあるが、機械的強度に相対的に優れているため、電解質膜の厚さを減らすことができ、抵抗損失が減少する等の利点が得られる。
【0010】
しかしながら、テフロン樹脂は接着性が非常に低いため、イオン伝導体の選択には限定があり、フッ素系イオン伝導体を適用した製品は、炭化水素系に比べて燃料のクロスオーバー現象が大きいという欠点がある。また、フッ素系イオン伝導体はもとより多孔性テフロン樹脂は高価なため、量産に向けては安価な新しい材料を開発する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記従来の問題点を解決するために、本発明は、高融点で、有機溶媒に不溶性で、かつ気孔特性に優れたナノウェブに、イオン伝導体を最適の条件で充填した構造にし、全体厚さを減らすことによって、抵抗損失が低減し、材料費が減少し、優れた耐熱性を有し、厚さ膨脹率が低いためイオン伝導度が長時間低下しない、という効果を奏する高分子電解質膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するための本発明の一側面として、300℃以上の融点を有し、常温でNMP、DMF、DMA、またはDMSOの有機溶媒に不溶性である多孔性ナノウェブと、前記多孔性ナノウェブの気孔内に充填され、常温で前記有機溶媒に溶解性である炭化水素系物質を含むイオン伝導体と、を含む高分子電解質膜を提供する。
【0013】
前記高分子電解質膜は、10%以下の厚さ膨脹率を有することを特徴とする。
【0014】
前記高分子電解質膜は、下記の式
ナノウェブの厚さ比率=[A/(B+C)]×100
(式中、Aは、ナノウェブの平均厚さであり、Bは、上部イオン伝導体の平均厚さであり、Cは、下部イオン伝導体の平均厚さである。)
により測定された前記ナノウェブの厚さ比率が、20%以上であることを特徴とする。
【0015】
前記ナノウェブは、ポリイミド(polyimide)、ポリベンゾオキサゾール(polybenzoxazole)、それらの共重合物、またはそれらの混合物を含むことができる。
【0016】
前記ナノウェブは、0.005〜5μmの平均直径を有するナノ繊維からなることを特徴とする。
【0017】
前記ナノウェブは、1〜20μmの平均厚さを有することを特徴とする。
【0018】
前記ナノウェブは、多孔度が50〜98%であり、気孔の平均直径が0.05〜30μmであることを特徴とする。
【0019】
前記イオン伝導体は、S−PI(sulfonated polyimide)、S−PAES(sulfonated polyarylethersulfone)、S−PEEK(sulfonated polyetheretherketone)、スルホン化ポリベンゾイミダゾール(sulfonated polybenzimidazole:S−PBI)、スルホン化ポリスルホン(sulfonated polysulfone:S−PSU)、スルホン化ポリスチレン(sulfonated polystyrene:S−PS)、スルホン化ポリホスファゼン(sulfonated polyphosphazene)またはそれらの混合物を含むことができる。
【0020】
前記高分子電解質膜は、機械的強度が10MPa以上であることを特徴とする。
【0021】
上記目的を達成するための本発明の他の側面として、前駆体を紡糸溶媒に溶解させて紡糸溶液を製造する工程と、前記紡糸溶液を電気紡糸して、平均直径0.005〜5μmのナノ繊維からなる多孔性ナノウェブを製造する工程と、前記多孔性ナノウェブがNMP、DMF、DMA、またはDMSOの有機溶媒に不溶性となるように、前記多孔性ナノウェブを後処理する工程と、前記有機溶媒に溶解性である炭化水素系物質を含むイオン伝導体を前記有機溶媒に溶解させて、イオン伝導体溶液を製造する工程と、前記後処理された多孔性ナノウェブの気孔内に、下記の式
ナノウェブの厚さ比率=[A/(B+C)]×100
(式中、Aはナノウェブの平均厚さであり、Bは、上部イオン伝導体の平均厚さであり、Cは、下部イオン伝導体の平均厚さである。)
により測定された前記ナノウェブの厚さ比率が20%以上となるように、前記イオン伝導体溶液を充填した後、前記有機溶媒を除去する工程と、を含む高分子電解質膜の製造方法を提供する。
【0022】
前記前駆体は、0.5重量%以下の水分を含むことができる。
【0023】
前記後処理する工程は、熱処理工程または化学的処理工程を含むことができる。
【0024】
前記多孔性ナノウェブは、ポリイミド(polyimide)またはポリベンゾオキサゾール(polybenzoxazole)を含むことができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、下記のような効果がある。
【0026】
第一に、本発明に係る高分子電解質膜は、耐熱性に優れており、かつ有機溶媒に不溶性であるナノウェブの気孔内にイオン伝導体を最適の条件で充填した構造にしたため、電解質膜の全体厚さを減らすことができ、よって、イオン伝導度が向上し、抵抗損失が減少し、かつ、厚さ膨脹率が下げられるため性能を長時間維持することが可能である。
【0027】
第二に、本発明に係る高分子電解質膜は、ナノウェブ及びイオン伝導体が両方とも炭化水素系高分子物質で構成されるため、両者間の接着力が高くなり、耐久性に優れた効果を奏する。
【0028】
第三に、本発明に係る高分子電解質膜は、従来のような高価のフッ素系イオン伝導体またはテフロン樹脂などを用いず、相対的に安価な炭化水素系高分子物質を用いるため、量産時に経済性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明一実施例に係る高分子電解質膜の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の技術的思想及び範囲を逸脱しない範囲内で本発明の種々の変更及び変形が可能であるということは、当業者には自明である。したがって、本発明は、特許請求の範囲に記載された発明及びそれと均等な範囲におけるあらゆる変更及び変形をも含む。
【0031】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0032】
本発明に係る高分子電解質膜は、多孔性ナノウェブ、及び該多孔性ナノウェブの気孔内に充填されたイオン伝導体を含む。
【0033】
多孔性ナノウェブは、高分子電解質膜の機械的強度を増大させ、水分による体積膨脹を抑えることによって、形態安全性を増大させる役割を果たす。なお、多孔性ナノウェブは、価格面においても有利な炭化水素系高分子からなる。
【0034】
特に、多孔性ナノウェブは、常温においてNMP、DMF、DMA、またはDMSOの有機溶媒に不溶性であるから、ナノウェブの気孔内にイオン伝導体を充填する工程を行い易いという利点がある。すなわち、イオン伝導体をナノウェブの気孔内に充填するには、イオン伝導体を有機溶媒に溶解させてイオン伝導体溶液を用意した後、該イオン伝導体溶液を多孔性ナノウェブの気孔内に充填することになるが、多孔性ナノウェブが有機溶媒に溶解すると、イオン伝導体溶液を多孔性ナノウェブの気孔内に充填する工程中にナノウェブが溶解してしまい、所望の構造の高分子電解質膜を得ることができない。そのため、多孔性ナノウェブは、有機溶媒に不溶性である炭化水素系物質を含んで構成される。
【0035】
多孔性ナノウェブは、300℃以上の融点を有する炭化水素系物質を含む。このように、多孔性ナノウェブは、高温の融点を有するため、高温の環境でも安定した形態を維持し、電極と分離し難いため、長時間性能を維持できるという利点がある。
【0036】
以上述べた全ての要求特性を満たす多孔性ナノウェブには、ポリイミド(Polyimide)、ポリベンゾオキサゾール(Polybenzoxazole)、それらの共重合物、またはこれらの混合物を用いることができる。
【0037】
多孔性ナノウェブは、所定の繊維で構成された、3次元的につながるウェブ形態とされており、この場合、繊維の太さは0.005〜5μmの範囲でよい。ナノウェブを構成する繊維の太さが0.005μmより小さいと、多孔性ナノウェブの機械的強度が低下することがあり、繊維の太さが5μmより大きいと、多孔性ナノウェブの多孔度調節がし難くなることがある。
【0038】
多孔性ナノウェブは、5〜20μmの厚さに形成することができる。多孔性ナノウェブの厚さが5μmより小さいと、高分子電解質膜の機械的強度及び形態安全性が低下することがあり、多孔性ナノウェブの厚さが20μmより大きいと、高分子電解質膜の抵抗損失が増加することがある。
【0039】
多孔性ナノウェブは、70〜98%の多孔度を有すればよい。多孔性ナノウェブの多孔度が70%より小さいと、高分子電解質膜のイオン伝導度が低下することがあり、多孔性ナノウェブの多孔度が98%より大きいと、高分子電解質膜の機械的強度及び形態安全性が低下することがある。
【0040】
イオン伝導体は、高分子電解質膜の主機能であるイオン伝導機能を果たすもので、高いイオン伝導機能を有し且つ価格面においても有利な炭化水素系高分子を用いればよい。特に、前述のように、多孔性ナノウェブの気孔内にイオン伝導体を充填する工程を容易にさせるために、有機溶媒に溶解性である炭化水素系物質を含んで構成するとよい。このような要求特性を全て満たすものとして、イオン伝導体に用いることができる炭化水素系高分子には、S−PI(sulfonated polyimide)、S−PAES(sulfonated polyarylethersulfone)、S−PEEK(sulfonated polyetheretherketone)、スルホン化ポリベンゾイミダゾール(sulfonated polybenzimidazole:S−PBI)、スルホン化ポリスルホン(sulfonated polysulfone:S−PSU)、スルホン化ポリスチレン(sulfonated polystyrene:S−PS)、スルホン化ポリホスファゼン(sulfonated polyphosphazene)またはそれらの混合物を挙げることができるが、必ずしもこれに限定されるわけではない。ここで、「有機溶媒に溶解性」とは、常温でNMP、DMF、DMA、またはDMSOの有機溶媒に溶解する特性のことを意味する。
【0041】
イオン伝導体は、多孔性ナノウェブの気孔内に充填されるもので、燃料電池の運転中に温度または湿度などの作動条件が変わる場合、イオン伝導体と多孔性ナノウェブとの接着性が低下することがあるが、本発明では、イオン伝導体、多孔性ナノウェブの両方とも炭化水素系高分子を含んで構成されているため、基本的に両者間の接着性は優れている。さらに、イオン伝導体に含まれた炭化水素系物質と多孔性ナノウェブに含まれた炭化水素系物質とを互いに同じ物質系で構成してもよく、具体的には、イオン伝導体にはS−PI(sulfonated polyimide)を用い、多孔性ナノウェブにはポリイミドを用いると、イオン伝導体と多孔性ナノウェブとの接着性が非常に高くなる。
【0042】
このように多孔性ナノウェブとイオン伝導体との接着力を高くすることから、これらで構成された電解質膜は、水分による3次元的な膨脹が抑えられ、長さ及び厚さの膨脹率が相対的に低くなる。
【0043】
上述したように、優れた気孔特性を有する多孔性ナノウェブと該多孔性ナノウェブの気孔に十分に充填されたイオン伝導体とを含む高分子電解質膜は、10%以下の厚さ膨脹率を有する。すなわち、高分子電解質膜の水分に対する厚さ方向への変形度合である厚さ膨脹率は、10%以下であると好ましい。 高分子電解質膜は、燃料電池に用いることができ、このような 高分子電解質膜は、高湿状態に晒されると膨脹及び収縮を反復し、もし高分子電解質膜の厚さ膨脹率が高すぎると電極から分離されることがある。このように電極と高分子電解質膜とが分離されると、燃料電池の性能が急激に低下することがある。
【0044】
高分子電解質膜の厚さ膨脹率は、下記の式から測定される。
【0045】
厚さ膨脹率(%)=[(T1−T0)/T0)]×100
ここで、T0は、水に膨脹する前の高分子電解質膜の平均厚さであり、T1は、水に膨脹した後の高分子電解質膜の平均厚さである。
【0046】
このような厚さ膨脹率は、構成素材に最も影響を受けるが、電解質膜の形態にも大きく影響を受ける。例えば、電解質膜がイオン伝導体のみからなる単一膜の場合、イオン伝導体の特性の上ごく大きい水分率を示し、そのため、単一膜は水分により直接的に影響を受け、厚さ膨脹率が非常に大きくなることがある。
【0047】
また、繊維が3次元的に絡み合ってなるウェブにイオン伝導体が充填されてなる電解質膜は、水分による3次元的な膨脹を抑制でき、長さ及び厚さの膨脹率が相対的に低くなる。特に、支持体の役目を果たすウェブとイオン伝導体とが強く付着されている場合は、電解質膜の厚さ膨脹率はより低くなる。支持体の役目を果たすウェブは通常、疏水性であるから、水分により膨脹がよく起こらず、このようなウェブに強く付着されているイオン伝導体は、ウェブの水分膨脹特性に影響を受けるため、厚さ膨脹率がさらに低くなるわけである。
【0048】
なお、上記ウェブが直径の小さい繊維からなると、表面積が増加し、多孔度が高くなり、かつ方向性がないため、最適の3次元的な構造を有するものとなり、これにより製造された電解質膜は、より低い厚さ膨脹率を有することが可能になる。
【0049】
本発明の高分子電解質膜は、ナノ繊維を最適の条件で積層してなる、表面積及び多孔性に優れたナノウェブと、該ナノウェブに強く付着されるイオン伝導体と、からなるため、10%以下の低い厚さ膨脹率を有することとなる。
【0050】
この高分子電解質膜は、下記の式により測定されたナノウェブの厚さ比率が、20%以上であればよい。
【0051】
ナノウェブの厚さ比率=[A/(B+C)]×100
ここで、Aは、ナノウェブの平均厚さであり、Bは、上部イオン伝導体の平均厚さであり、Cは、下部イオン伝導体の平均厚さである。
【0052】
もし、ナノウェブの厚さ比率が20%より小さいと、電解質膜の支持体の役目を果たす部分が低すぎになり、機械的物性が急激に低下するため、耐久性が著しく低下することがあり、厚さ膨脹率が増加するため、電池性能が低下することがある。
【0053】
本発明に係る高分子電解質膜は、多孔性ナノウェブの気孔内にイオン伝導体を充填した構造であるため、機械的強度が10MPa以上と優れている。また、機械的強度が増大することから高分子電解質膜の全体厚さを80μm以下と減少させることができるため、イオン伝導速度が速くなり、抵抗損失が低減し、且つ材料費が減少するという利点がある。
【0054】
また、本発明は、高分子電解質膜を構成する多孔性ナノウェブ、イオン伝導体の両方を炭化水素系高分子物質で構成することによって接着力を向上させたため、耐久性に優れている。さらに、従来のような高価のフッ素系イオン伝導体またはテフロン樹脂などを用いず、相対的に安価な炭化水素系高分子物質を用いたため、量産時に経済性が高い。
【0055】
以下では、本発明一実施例に係る高分子電解質膜の製造方法について説明する。高分子の種類、重量比などを含め前述と同一の部分についての具体的な説明は省略する。
【0056】
まず、高分子電解質膜の製造方法は、有機溶媒に不溶性である炭化水素系物質を含む多孔性ナノウェブを製造する工程、及び有機溶媒に溶解性である炭化水素系物質を含むイオン伝導体を有機溶媒に溶解させてイオン伝導体溶液を製造する工程と、を含む。
【0057】
ナノウェブ製造とイオン伝導体溶液の製造において、工程順序が特に限定されることはない。
【0058】
多孔性ナノウェブは、有機溶媒に不溶性である炭化水素系物質を含むため、有機溶媒に溶解する前駆体を用いてナノウェブを形成した後、所定の反応を通じて製造できる。
【0059】
具体的には、前駆体(precursor)を紡糸溶媒に溶解させて紡糸溶液を製造し、次いで、該製造された紡糸溶液を電気紡糸して、平均直径0.005〜5μmのナノ繊維からなる多孔性ナノウェブを製造し、該製造されたナノウェブを後処理することで、多孔性ナノウェブを製造できる。
【0060】
この多孔性ナノウェブは、高い多孔度、微小な孔隙及び薄膜を得るために、電気紡糸工程を通じて製造する。
【0061】
一方、有機溶媒に不溶性である多孔性ナノウェブは、電気紡糸工程を通じて直接製造することはできない。すなわち、多孔性ナノウェブを形成するポリイミドまたはポリベンゾオキサゾールは、NMP、DMF、DMA、またはDMSOのような溶媒に溶解し難いため、紡糸溶液を製造することが困難である。
【0062】
そこで、まず、有機溶媒に溶解しやすい前駆体を用いて前駆体ナノウェブを製造した後、製造された前駆体ナノウェブが上記有機溶媒に溶解しないように後処理し、有機溶媒に不溶性である多孔性ナノウェブとする。
【0063】
ここで、前駆体は、0.5%以下の水分率を有すると好ましい。前駆体の水分率が0.5%より高いと、水分により紡糸溶液の粘度が低下し、紡糸後に水分によりフィラメントが切断し、工程性が低下することがあり、これは欠点として作用して物性の低下を招くことがある。
【0064】
この前駆体ナノウェブを、不溶性の多孔性ナノウェブにするための後処理方法には、熱処理方法または化学的処理方法がある。特に、熱処理方法は、高温及び高圧に設定されたホットプレス(hot press)を用いて行うことができる。
【0065】
本発明の一実施例に係るポリイミド多孔性ナノウェブの製造方法について説明する。
【0066】
ポリアミン酸(polyamicacid)前駆体を電気紡糸してナノウェブ前駆体を形成した後、ホットプレス(hot press)を用いてナノウェブ前駆体をイミド化(imidization)させてポリイミド多孔性ナノウェブとすることができる。
【0067】
さらに説明すると、テトラヒドロフラン(THF)溶媒にポリアミン酸を溶解させて前駆体溶液を製造し、この前駆体溶液を、20〜100℃の温度及び1〜1,000kVの高電圧が印加された状態で紡糸ノズルから吐出させ、集電体(collector)にポリアミン酸ナノウェブを形成した後、該ポリアミン酸ナノウェブを、80〜400℃温度に設定されたホットプレスで熱処理することで、ポリイミド多孔性ナノウェブが完成できる。
【0068】
本発明の他の実施例に係るポリベンゾオキサゾール多孔性ナノウェブは、ポリヒドロキシアミド(polyhydroxyamide)前駆体を用いて上述の方法と類似の方法で電気紡糸した後、熱処理して製造できる。
【0069】
このように、高融点を有し、有機溶媒に不溶性であるポリイミドまたはポリベンゾオキサゾール多孔性ナノウェブは、電解質膜の耐熱性、耐化学性、及び機械的物性を向上させる役割を果たす。
【0070】
その後、多孔性ナノウェブの気孔内にイオン伝導体溶液を充填する。
【0071】
多孔性ナノウェブの気孔内にイオン伝導体溶液を充填する工程は、担持工程としてもよいが、これに限定されるものではなく、ラミネーティング工程、スプレー工程、スクリーンプリンティング工程、ドクターブレード工程などを含め、当業界に公知となった種々の方法を用いればよい。
【0072】
浸漬工程を用いる場合は、常温で5〜30分間2〜5回浸漬工程を行うことが好ましい。
【0073】
イオン伝導体溶液を充填した後には、イオン伝導体溶液内の有機溶媒を除去し、多孔性ナノウェブの気孔内にイオン伝導体が埋め込まれるようにする。有機溶媒を除去する工程は、60〜150°の熱風オーブンで2〜5時間乾燥する工程とすればよい。
【実施例】
【0074】
実施例1
濃度12重量%のポリアミン酸/THF紡糸溶液を、30kVの電圧が印加された状態で電気紡糸し、ポリアミン酸ナノウェブ前駆体を形成した後、350℃のオーブンで5時間熱処理して15μmの平均厚さを有するポリイミド多孔性ナノウェブを得た。ここで、電気紡糸は、25℃でスプレーゼットノズルに30kVの電圧を印加した状態で行った。
【0075】
N−メチル−2−ピロリドン(N−methyl−2−pyrrolidone;NMP)にS−PEEK(sulfonated polyetheretherketone)を溶解させ、10重量%のイオン伝導体溶液を得た。
このイオン伝導体溶液に多孔性ナノウェブを浸漬する。具体的には、常温で20分間3回浸漬工程を行い、この時、微小気泡除去のために減圧雰囲気を約1時間適用した。各浸漬後、80℃に維持された熱風オーブンで3時間乾燥してNMPを除去することで、45μmの平均厚さを有する高分子電解質膜にした。
【0076】
実施例2
電気紡糸条件を調節して多孔性ナノウェブの平均厚さを10μmに変更し、イオン伝導体の浸漬量を調節して電解質膜の平均厚さを50μmに変更した以外は、上記実施例1と同様の方法にして高分子電解質膜を製造した。
【0077】
比較例1
N−メチル−2−ピロリドン(N−methyl−2−pyrrolidone;NMP)にS−PEEK(sulfonated polyetheretherketone)を溶解させ、15重量%のイオン伝導体溶液を得た。これを、ガラス板上においてドクターブレードを用いて膜にし、これを、80℃に維持された熱風オーブンで3時間乾燥してNMPを除去することで、厚さ50μmの単一膜の高分子電解質膜を製造した。
【0078】
比較例2
DMAc溶液にポリスルホン25重量%とPVP 5重量%を混合して溶解させた後、ガラス板にドクターブレードを用いて膜を形成し、これを常温の水に浸漬した。これを再び超純水に一日浸漬して残存溶媒を除去した後、80℃に維持された熱風に24時間乾燥して、厚さ30μmの多孔性ポリスルホン膜にした。このように製造されたポリスルホン多孔膜に、アルコールに分散されたナフィオン溶液を、上記実施例と同一の方法で浸漬、乾燥することで、45μmの平均厚さを有する高分子電解質膜を製造した。
【0079】
比較例3
電気紡糸条件を調節して多孔性ナノウェブの平均厚さを8μmに変更し、イオン伝導体浸漬量を調節して高分子電解質膜の平均厚さを50μmに変更した以外は、実施例1と同様の方法にして高分子電解質膜を製造した。
【0080】
実施例及び比較例により製造された多孔性ナノウェブ及び多孔性高分子電解質膜の物性を下記の方法で測定し、下記の表1にまとめた。
【0081】
多孔性ナノウェブ及び高分子電解質膜の厚さ(μm)
マイクロメーターを用いてサンプル10ポイントの厚さを測定し、平均値で多孔性ナノウェブ及び高分子電解質膜の厚さを評価した。
【0082】
ナノウェブの厚さ比率(%)
図1に示すように、電子顕微鏡を用いた高分子電解質膜の断面写真から得られたナノウェブの平均厚さ(A)及びイオン伝導体の平均厚さ(B+C)から、下の式を用いてナノウェブの厚さ比率を測定した。
【0083】
ナノウェブの厚さ比率(%)=[A/(B+C)]×100
高分子電解質膜の機械的強度(MPa)
ASTM 638によって測定した。ここで、具体的な測定条件は、下記の通りである。
【0084】
引張速度:25cm/分
グリップ間隔:6.35cm
温度及び湿度:25℃×50%
高分子電解質膜の厚さ膨脹率(%)
実施例及び比較例で得られた各高分子電解質膜から10cm×10cmのサンプルを製造し、各サンプルを80℃で3時間真空乾燥した後、厚さ(T0)を測定した。次いで、各サンプルを常温の水に3時間浸漬して取り出しその表面の水を除去した後、厚さ(T1)を測定した。続いて、得られた膨潤前後のサンプル厚を用いて、下の式から高分子電解質膜の厚さ膨脹率(%)を測定した。
【0085】
厚さ膨脹率(%)=[(T1−T0)/T0)]×100
【0086】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の電解質膜は、耐久性及びイオン伝導度に優れており、かつ厚さ膨脹率が低いため、燃料電池の分離膜などを含め様々な分野に広く用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
300℃以上の融点を有し、常温でNMP、DMF、DMA、またはDMSOの有機溶媒に不溶性である多孔性ナノウェブと、
前記多孔性ナノウェブの気孔内に充填され、常温で前記有機溶媒に溶解性である炭化水素系物質を含むイオン伝導体と、
を含む高分子電解質膜。
【請求項2】
前記高分子電解質膜は、10%以下の厚さ膨脹率を有することを特徴とする、請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項3】
下記の式
ナノウェブの厚さ比率=[A/(B+C)]×100
(式中、Aは、ナノウェブの平均厚さであり、Bは、上部イオン伝導体の平均厚さであり、Cは、下部イオン伝導体の平均厚さである。)
により測定された前記ナノウェブの厚さ比率が、20%以上であることを特徴とする、請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項4】
前記ナノウェブは、ポリイミド(polyimide)、ポリベンゾオキサゾール(polybenzoxazole)、それらの共重合物、またはそれらの混合物を含む、請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項5】
前記ナノウェブは、0.005〜5μmの平均直径を有するナノ繊維からなることを特徴とする、請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項6】
前記ナノウェブは、1〜20μmの平均厚さを有することを特徴とする、請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項7】
前記ナノウェブは、多孔度が50〜98%であり、気孔の平均直径が0.05〜30μmであることを特徴とする、請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項8】
前記イオン伝導体は、S−PI(sulfonated polyimide)、S−PAES(sulfonated polyarylethersulfone)、S−PEEK(sulfonated polyetheretherketone)、スルホン化ポリベンゾイミダゾール(sulfonated polybenzimidazole:S−PBI)、スルホン化ポリスルホン(sulfonated polysulfone:S−PSU)、スルホン化ポリスチレン(sulfonated polystyrene:S−PS)、スルホン化ポリホスファゼン(sulfonated polyphosphazene)またはそれらの混合物を含む、請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項9】
機械的強度が10MPa以上であることを特徴とする、請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項10】
前駆体を紡糸溶媒に溶解させて紡糸溶液を製造する工程と、
前記紡糸溶液を電気紡糸して、平均直径0.005〜5μmのナノ繊維からなる多孔性ナノウェブを製造する工程と、
前記多孔性ナノウェブがNMP、DMF、DMA、またはDMSOの有機溶媒に不溶性となるように、前記多孔性ナノウェブを後処理する工程と、
前記有機溶媒に溶解性である炭化水素系物質を含むイオン伝導体を前記有機溶媒に溶解させて、イオン伝導体溶液を製造する工程と、
前記後処理された多孔性ナノウェブの気孔内に、下記の式
ナノウェブの厚さ比率=[A/(B+C)]×100
(式中、Aはナノウェブの平均厚さであり、Bは、上部イオン伝導体の平均厚さであり、Cは、下部イオン伝導体の平均厚さである。)
により測定された前記ナノウェブの厚さ比率が20%以上となるように、前記イオン伝導体溶液を充填した後、前記有機溶媒を除去する工程と、
を含む高分子電解質膜の製造方法。
【請求項11】
前記前駆体は、0.5重量%以下の水分を含む、請求項10に記載の高分子電解質膜の製造方法。
【請求項12】
前記後処理する工程は、熱処理工程または化学的処理工程を含む、請求項10に記載の高分子電解質膜の製造方法。
【請求項13】
前記多孔性ナノウェブは、ポリイミド(polyimide)またはポリベンゾオキサゾール(polybenzoxazole)を含む、請求項10に記載の高分子電解質膜の製造方法。

【図1】
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【公表番号】特表2013−503436(P2013−503436A)
【公表日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−526651(P2012−526651)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【国際出願番号】PCT/KR2010/005699
【国際公開番号】WO2011/025259
【国際公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(597114649)コーロン インダストリーズ インク (99)
【出願人】(512042466)コーロン ファッション マテリアル インク (1)
【Fターム(参考)】