説明

燃料電池用エゼクタ装置

【課題】ノズル孔とニードルとの間の開口面積が最大となる位置を安定して且つ精度良く保持すること。
【解決手段】インレットポート32aを介して供給された水素を吐出するノズル孔62aを有するノズル62と、前記ノズル孔62aから吐出される水素と循環通路24を介して燃料電池12から排出されて戻された水素オフガスとを混合するディフューザ78と、エゼクタ本体22aに固定されるステータ56と、前記ステータ56に固定されて前記ノズル62の中空部内に軸方向に沿って延在するニードル58と、ノズル62と一体的に変位するホルダ48に設けられて前記ステータ56と当接することにより、前記ノズル孔62aと前記ニードル58の先端部の外周面との間隙68における開口面積を最大位置に保持する環状フランジ部48dとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに組み込まれ、燃料電池から排出される燃料オフガスを新たに供給される燃料ガスと混合させて再循環させる燃料電池用エゼクタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、燃料電池システムでは、燃料電池の発電効率を向上させるために、燃料電池から排出される燃料オフガス(水素オフガス)を新たに供給される燃料ガス(水素ガス)と混合させて再循環させるエゼクタが用いられている。
【0003】
この種のエゼクタに関し、例えば、特許文献1には、ノズルのノズル孔に沿って変位可能に設けられたニードルと、前記ノズルの内部に設けられ燃料供給管を介して燃料ガスが供給される流体通路と、前記ニードルの基端部に固定され前記流体通路の上流端を閉塞する第1ダイヤフラムと、前記ニードルの基端部に固定され前記第1ダイヤフラムと対向配置された第2ダイヤフラムとを設け、前記流体通路に供給される燃料ガスの圧力と、前記第1ダイヤフラムと前記第2ダイヤフラムとの間の室に供給される第1流体圧力と、前記第2ダイヤフラムと筐体との間の室に供給される第2流体圧力とによって、ノズルから吐出される流体流量を機械的に制御する可変流量エゼクタが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−227799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献1に開示された可変流量エゼクタでは、ニードルや第1ダイヤフラムが燃料供給管を介して供給される燃料ガスの供給圧力の影響を受け易く、ノズル孔とニードルの外周面との間隙における開口面積の最大位置にニードルを精度良く保持することが困難となるおそれがある。
【0006】
本発明は、前記の点に鑑みてなされたものであり、ノズル孔とニードルとの間の開口面積が最大となる位置を安定して且つ精度よく保持することが可能な燃料電池用エゼクタ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するために、本発明は、燃料ガス供給手段から燃料ガスが供給されるインレットポートと、燃料電池に連通する燃料ガス供給通路に接続されるアウトレットポートと、循環通路に接続され燃料電池から排出されて戻された燃料オフガスが吸入される吸引ポートとが設けられたエゼクタ本体と、前記インレットポートを介して供給された燃料ガスを吐出するノズル孔を有するノズルと、前記ノズル孔から吐出される燃料ガスと前記循環通路を介して燃料電池から排出されて戻された燃料オフガスとを混合するディフューザと、前記エゼクタ本体に固定されるステータと、前記ステータに固定されて前記ノズルの中空部内に軸方向に沿って延在するニードルと、前記ノズルを前記ニードルの軸方向に沿って変位させる変位機構と、前記ノズルのノズル孔と前記ニードルの先端部の外周面との間隙における開口面積を最大位置に保持する最大位置保持手段とを備え、前記最大位置保持手段は、前記ノズルと一体的に変位するホルダに設けられて前記ステータと当接するフランジ部からなることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、ホルダに設けられたフランジ部がエゼクタ本体に固定されたステータに当接(着座)することにより、ノズル孔とニードルとの間隙における開口面積が最大となる位置に安定して且つ精度よく保持することができる。この結果、本発明では、ノズルのノズル孔から吐出される燃料ガスの安定した流量制御特性を得ることができる。
【0009】
換言すると、本発明では、ノズル及びホルダが一体的に変位した後に初期状態に復帰する際、前記ホルダのフランジ部がエゼクタ本体に固定されたステータに当接するだけで、燃料ガス(水素)が吐出される間隙を最大開口面積に容易に設定することができる。従って、本発明では、例えば、電磁弁等の電気的な制御によりノズルとニードルとを相対的に変位させて最大開口面積を設定することが不要となる。この結果、本発明では、電気的な制御を不要として消費電力を抑制することができると共に、簡素な機械的構造によって簡便に製造することができる。
【0010】
また、本発明によれば、ホルダには、ステータの外径面に沿って摺動しホルダを軸方向に沿って案内するガイド部が設けられることにより、ノズルとニードルとの同芯度を確保しながらホルダ及びノズルを円滑に一体的に変位させることができる。
【0011】
さらに、本発明によれば、ガイド部がフランジ部と略直交する方向に延在し且つフランジ部と一体的に近接して設けられることにより、部品点数を削減して製造コストを低減させることができると共に、ホルダのフランジ部がガイド部によって案内されながらステータに当接した際、当接時における振動がガイド部側に伝播して振動の発生が抑制される。従って、当接時に発生する振動が図示しない燃料電池自動車の車室内に伝達されることを抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、ノズル孔とニードルとの間の開口面積が最大となる位置を安定して且つ精度よく保持することが可能な燃料電池用エゼクタ装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係るエゼクタが組み込まれた燃料電池システムのブロック構成図である。
【図2】前記エゼクタの軸方向に沿った縦断面図である。
【図3】前記エゼクタを構成するノズル及びホルダの概略説明図である。
【図4】図2のエゼクタにおいて、ノズル及びホルダが一体的に変位してノズル孔の開口面積が変化した状態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係るエゼクタが組み込まれた燃料電池システムのブロック構成図である。
【0015】
図1に示されるように、燃料電池システム10は、燃料電池12と、内部に高圧の水素ガスが充填され、前記燃料電池12に対し燃料ガスとして前記水素ガスを供給する水素タンク(燃料ガス供給手段)14と、前記燃料電池12に対して酸化剤ガス(酸素)を含む圧縮エアを供給するエアコンプレッサ16と、前記燃料電池12から排出された未反応の水素を気体(水素)と液体(水)とに分離すると共に、前記分離された水素を、前記燃料電池12から排出される未反応のエアによって希釈する気液分離及び希釈部18とを備えて構成される。
【0016】
燃料電池12は、例えば、固体高分子電解質型燃料電池(PEFC)からなり、図示しない燃料電池自動車等の車両に搭載される。この燃料電池12は、複数の単セル(図示せず)が積層して構成された図示しないスタック本体を有し、燃料ガスとして水素が供給されるアノードと、酸化剤ガスとして、例えば、酸素を含むエアが供給されるカソードとを備える。
【0017】
前記水素タンク14と前記燃料電池12との間には、水素供給通路(燃料ガス供給通路)20が設けられ、前記水素供給通路20中には、燃料電池用エゼクタ装置として機能するエゼクタ22が配設される。このエゼクタ22は、燃料電池12から排出された燃料オフガスである未反応の水素(以下、水素オフガスという)をフィードバックさせる循環通路24に接続され、水素タンク14から新たに供給される水素と燃料電池12からフィードバックされる水素オフガスとを混合させて燃料電池12に対して再供給(再循環)するものである。
【0018】
なお、前記水素タンク14と前記エゼクタ22との間には、エアコンプレッサ16からのエアをパイロット圧信号として導入し、燃料電池12に対して供給される水素の圧力を所定圧力に調圧するレギュレータ等を含む水素圧力調圧部(図示せず)が設けられる。
【0019】
前記エアコンプレッサ16と前記燃料電池12との間には、エア供給通路26が設けられ、前記エア供給通路26には、前記エアコンプレッサ16から供給された乾燥エアを加湿する加湿器28が配設される。前記加湿器28によって加湿されたエアは、エア供給通路26を介して燃料電池12のカソード側に導入される。
【0020】
また、前記エアコンプレッサ16と前記加湿器28との間には、エア供給通路26から分岐する分岐通路30が設けられる。前記分岐通路30の下流側は、エゼクタ22に接続され、前記分岐通路30を介して供給されるエア(圧縮エア)は、前記エゼクタ22に対してエア信号圧として導入される。
【0021】
前記気液分離及び希釈部18には、例えば、燃料電池12のアノードに溜まった水やカソードから電解質膜を透過してアノードに混入した窒素ガスを含む燃料ガスを図示しない希釈器側にパージする図示しない水素パージ弁や、燃料電池12から排出される水分を含んだ水素ガスを、水素と水とに分離する図示しないキャッチタンクや、前記キャッチタンクに溜まったドレンを排出する管路を開閉する図示しないドレン弁等が設けられる。
【0022】
次に、エゼクタ22について説明する。図2は、前記エゼクタの軸方向に沿った縦断面図、図3は、前記エゼクタを構成するノズル及びホルダの概略説明図である。
図2に示されるように、このエゼクタ22は、エゼクタ本体22aを有し、前記エゼクタ本体22aは、後記するように複数のブロック体が一体的に結合されて構成される。
【0023】
前記エゼクタ本体22aは、図示しないフィルタを介して水素供給通路20に接続され水素タンク14から比較的高圧な水素が供給されるインレットポート32aと、燃料電池12に連通する水素供給通路20に接続され前記水素タンク14から供給された水素と水素オフガスとが混合された混合ガスが排出されるアウトレットポート32bとを有する。
【0024】
また、エゼクタ本体22aは、循環通路24に接続され前記循環通路24を介して水素オフガスが吸入される吸引ポート32cと、分岐通路30に接続され前記分岐通路30を介してエアコンプレッサ16から導出されたエアが供給されるエア供給ポート32dと、大気に連通する呼吸ポート32eとを有する。
【0025】
前記エゼクタ本体22aは、エア供給ポート32dが設けられた第1ブロック体34aと、呼吸ポート32eが設けられた第2ブロック体34bと、第3ブロック体34cと、インレットポート32aが設けられた第4ブロック体34dと、アウトレットポート32b及び吸引ポート32cが設けられた第5ブロック体34eとを有する。前記第1〜第3ブロック体34a〜34cは、周方向に沿って所定角度離間する複数の第1固定用ボルト36によって一体的に締結され、また、第3〜第5ブロック体34c〜34eは、周方向に沿って所定角度離間する複数の第2固定用ボルト38によって一体的に締結される。
【0026】
第1ブロック体34aと第2ブロック体34bとの間には、比較的大径な第1ダイヤフラム40が配設され、前記第1ダイヤフラム40の外周縁部が第1ブロック体34aと第2ブロック体34bによって挟持される。また、第3ブロック体34cと第4ブロック体34dとの間には、比較的小径な第2ダイヤフラム42が第1ダイヤフラム40と対向して配設され、前記第2ダイヤフラム42の外周縁部が第3ブロック体34cと第4ブロック体34dによって挟持される。さらに、第4ブロック体34dと第5ブロック体34eとの間には、比較的小径な第3ダイヤフラム44が第2ダイヤフラム42と対向して配設され、前記第3ダイヤフラム44の外周縁部が第4ブロック体34dと第5ブロック体34eとの間で挟持される。この場合、第2ダイヤフラム42と第3ダイヤフラム44の受圧面積は、略同一に設定される。
【0027】
また、エゼクタ本体22aの内部には、第1ダイヤフラム40を表裏両面で挟持する円板部55aが設けられた第1保持部材46a及び第2保持部材46bと、第2ダイヤフラム42を表裏両面で挟持する円板部55aが設けられた第2保持部材46b及び第3保持部材46cと、前記第1〜第3保持部材46a〜46cの中心部を貫通し前記第1〜第3保持部材46a〜46cを一体的に保持するホルダ48と、ワッシャを介して前記ホルダ48のねじ部に締結されるナット部材50と、複数のボルト52によってエゼクタ本体22aの第4ブロック体34dに固定され、ホルダ48の一端部が臨む環状凹部54が形成されたステータ56とがそれぞれ設けられる。
【0028】
さらに、エゼクタ本体22aの内部には、前記ステータ56の孔部に基端部が固定され、後記するノズル62の中空部内に軸方向に沿って延在するニードル58と、前記ステータ56の貫通孔60に挿通されてホルダ48とノズル62とを連結する連結用ボルト64と、前記連結用ボルト64を介してホルダ48と連結され、ニードル58の先端部58aが臨むノズル孔62aが形成されたノズル62と、ノズル62の内壁に固定されて前記ノズル62と一体的に変位し、前記ニードル58に沿って摺動する摺動孔66a及び流体が流通する流通孔66bを有する軸受部材66とがそれぞれ設けられる。この場合、第1〜第3保持部材46a〜46cは、ホルダ48の段部48bとナット部材50との間で一体的に締結される。
【0029】
本実施形態では、エゼクタ本体22aに固定されたステータ56によってニードル58が保持されて固定側とし、連結用ボルト64を介してホルダ48にノズル62が連結されて前記ホルダ48及びノズル62が一体的に変位する可動側としているが、前記とは反対に、ノズル62が固定側でニードル58を可動側としてノズル62とニードル58とが相対的に変位するように設けられるようにしてもよい。
【0030】
なお、第1〜第3ダイヤフラム40、42、44、第1〜第3保持部材46a〜46c、ホルダ48及び連結用ボルト64は、ノズル62をニードル58の軸方向に沿って変位させる変位機構として機能するものである。
【0031】
ホルダ48は、図3に示されるように、軸方向に沿って所定長だけ延在するロッド部48aと、前記ロッド部48aに連続し前記ロッド部48aの外周面から半径外方向に僅かに拡径する環状の段部48bと、前記段部48bに連続しスリーブ状に形成されたガイド部48cと、前記ガイド部48cの外周面から半径外方向に向かって所定長だけ突出する環状フランジ部48dとを有する。
【0032】
この場合、ホルダ48の環状フランジ部48dは、最大位置保持手段(フランジ部)として機能するものであり、前記環状フランジ部48dがステータ56の円板部56aに当接してその変位が規制されることにより、ノズル62のノズル孔62aとニードル58の先端部58aの外周面との間隙68における開口面積を最大位置に保持(設定)することができる。なお、ステータ56の円板部56aに当接するホルダ48の部位は、環状フランジ部48dに限定されるものではなく、非環状のフランジ部であってもよい。
【0033】
また、ホルダ48のガイド部48cは、前記ホルダ48がノズル62と一体的に変位する際、ステータ56の外径面56bに沿って摺動することにより、前記ホルダ48を軸方向に沿って案内する機能を営む。また、前記ガイド部48cは、環状フランジ部48dと略直交する方向に延在し前記環状フランジ部48dと一体的に近接して設けられる。
【0034】
図2に戻り、第1ブロック体34aの内壁と第1ダイヤフラム40とに仕切られて第1室70aが形成され、前記第1室70aはエア供給ポート32dと連通するように設けられる。また、第1ダイヤフラム40と第2ダイヤフラム42とに仕切られて第2室70bが形成され、前記第2室70bは、呼吸ポート32eと連通するように設けられる。さらに、第2ダイヤフラム42と第3ダイヤフラム44とに仕切られて第3室70cが形成され、前記第3室70cは、インレットポート32aと連通するように設けられる。さらにまた、第4ブロック体34dの内壁と第3ダイヤフラム44に仕切られて第4室70dが形成され、前記第4室70dは、吸引ポート32cと連通するように設けられる。
【0035】
第1室70aには、一端部がエンドキャップ71に係着され他端部が第1保持部材46aに係着される第1ばね部材72aが設けられ、前記第1ばね部材72aは、ばね力によって第1〜第3保持部材46a〜46c及びホルダ48をノズル62側に向かって押圧(付勢)するように設けられる。また、第4室70dには、一端部がリテーナ74に係着され他端部が第4ブロック体34dの内壁の受座面76に係着される第2ばね部材72bが設けられる。前記第2ばね部材72bは、ばね力によってノズル62をホルダ48側に向かって押圧(付勢)するように設けられる。
【0036】
この場合、第1ばね部材72aのばね力は、第2ばね部材72bのばね力よりも大きく設定され、第1室70a及び第4室70d内に圧力流体が供給されていない場合、第1ばね部材72aと第2ばね部材72bとのばね力の差によってホルダ48の環状フランジ部48dがステータ56の円板部56aに当接し、ノズル62のノズル孔62aとニードル58の先端部58aの外周面との間隙68における開口面積が最大位置に保持された初期状態にある。
【0037】
さらに前記エゼクタ本体22aの第4ブロック体34dの内部には、前記ノズル62の軸方向に沿った一端部側に配設され、前記ノズル62と同軸状に設けられたディフューザ78を有する。
【0038】
前記ニードル58は、図3に示されるように、ノズル孔62aに臨み、鋭く尖った頂点を含む先端部58aと、前記先端部58aから延在する小径部58bと、前記小径部58bから延在し徐々に拡径するテーパ部58cと、前記テーパ部58cから延在し軸方向に沿って外径が略一定に設定される外径部58dとを有する。
【0039】
図2に戻り、ディフューザ78は、ノズル孔62aを有するノズル62の一部を囲繞するラッパ状の拡径部78aと、前記拡径部78aに連続する円筒体からなり内部にアウトレットポート32bに向かって徐々に拡径する直線状の通路を有するスロート部78bとから構成される。
【0040】
この場合、ノズル62、ニードル58及びディフューザ78は、それぞれ同軸(3者の軸線が一致する)となるように配設される。前記ノズル62と前記ディフューザ78との間には、吸入室80が形成され、前記吸入室80は、吸引ポート32cと連通するように設けられる。
【0041】
第1室70a内に導入されるエア信号圧と第4室70d内に導入される水素オフガスの圧力との関係で、第1〜第3ダイヤフラム40、42、44が撓曲することによりホルダ48及びノズル62が一体的に矢印X1方向に変位し、ディフューザ48に向かって水素が噴射されるノズル孔62aとニードル58の先端部58aとの間隙68における開口面積を変化させることができる。
【0042】
本実施形態に係るエゼクタ22が組み込まれた燃料電池システム10は、基本的に以上のように構成されるものであり、次にその作用効果について説明する。
【0043】
先ず、燃料電池12の発電停止時には、図示しない遮断弁によって水素タンク14から水素の供給が遮断され、エゼクタ22のインレットポート32aに対する水素の供給が停止された状態にある。同時に、エアコンプレッサ16の駆動が停止された状態にあり、エゼクタ22のエア供給ポート32dに対する圧縮エアの供給が停止された状態にある。
【0044】
この場合、第1ばね部材72aのばね力は、第2ばね部材72bのばね力よりも大きく設定されているため、第1ばね部材72aと第2ばね部材72bとのばね力の差によってホルダ48の環状フランジ部48dがステータ56の円板部56aに当接し、ノズル62のノズル孔62aとニードル58の先端部58aの外周面との間隙68における開口面積が最大位置に保持された初期状態にある(図2参照)。
【0045】
この初期状態では、図3の実線で示されるように、ニードル58の先端部58aがノズル孔62aから外部に向かって僅かに突出する。従って、水素が吐出されるノズル孔62aの開口面積(間隙68)は、ノズル孔62aの内径面積からニードル58の先端部58aの外径面積が減算されたものとなる。
【0046】
一方、燃料電池12の発電時では、図示しない遮断弁が開弁状態となって、水素タンク14から水素供給通路20を介して燃料電池12のアノードに対して水素が供給されると共に、エアコンプレッサ16が駆動され、加湿器28で加湿されたエアがエア供給通路26を介して燃料電池12のカソードに供給される。
【0047】
エゼクタ22では、水素タンク14からの比較的高圧な水素がインレットポート32aを通じて供給され、エゼクタ本体22a内で第2ダイヤフラム42と第3ダイヤフラム44で仕切られた第3室70cに供給される。同時に、エアコンプレッサ16からの圧縮エアが分岐通路30及びエア供給ポート32dを通じて第1ダイヤフラム40で仕切られた第1室70a内に供給される。
【0048】
その際、第4室70d内に導入される水素オフガスの圧力が第1室70a内の圧縮エアの圧力(エア信号圧)以下であるとき、初期状態と同様に、ホルダ48の環状フランジ部48dがステータ56の円板部56aに当接し、ノズル62のノズル孔62aとニードル58の先端部58aの外周面との間隙68における開口面積が最大位置に保持された状態に継続される。
【0049】
エゼクタ22の第3室70c内に導入された水素は、さらに、ノズル62に内嵌された軸受部材66の流通孔66bを介してノズル62の中空部内に導入された後、ノズル孔62aとニードル58の先端部58aの間隙68(最大開口面積)を通じてディフューザ78側に向かって吐出される。このノズル孔62aによって流量が絞られて加速された水素は、ディフューザ78のスロート部78bに沿って流通し、アウトレットポート32bから水素供給通路20に沿って燃料電池12に供給される。
【0050】
同時に、ノズル62のノズル孔62aの先端からディフューザ78に向かって水素が噴射(吐出)される際、ノズル62とディフューザ78の拡径部78aとの間の部位において、いわゆるジェットポンプ効果によって負圧作用が発生する。この負圧作用によって吸入室80内の水素オフガスが吸い込まれ、ノズル62から吐出された水素と吸引ポート32cを通じて吸引された水素オフガスとがディフューザ78で混合され、アウトレットポート32bから水素供給通路20に導出される。
【0051】
図4は、図2のエゼクタにおいて、ノズル及びホルダが一体的に変位してノズル孔の開口面積が変化した状態を示す縦断面図である。
燃料電池12の運転状態において、分岐通路30及びエア供給ポート32dを介して第1室70a内に導入された圧縮エアの圧力(エア信号圧)に対して、吸引ポート32cを介して導入された第4室70d内の水素オフガスの圧力が高くなった場合、水素オフガスによる押圧力が第1ばね部材72aのばね力に打ち勝って第1〜第3ダイヤフラム40、42、44を撓曲させ、ホルダ48のガイド部48cの案内作用下に、ホルダ48及びノズル62が矢印X1方向に沿って一体的に変位する(図4参照)。
【0052】
従って、図3の二点鎖線で示されるように、ニードル58の先端部58a、小径部58b及びテーパ部58cは、ノズル62のノズル孔62aの先端から外部に突出して露呈した状態となる。この結果、ノズル62の中空部内に導入された水素は、ノズル孔62aの微小な間隙68を通じてディフューザ78に向かって吐出されるため、比較的小流量の水素を燃料電池12に対して供給することができる。このように、ホルダ48及びノズル62の変位によって、比較的大流量の水素の供給から比較的小流量の水素の供給へ切り換えることができる。
【0053】
本実施形態では、ステータ56の円板部56aに当接してホルダ48の変位を規制する環状フランジ部48dを、ホルダ48の半径外方向に向かって突出して形成された部位に設けている。本実施形態では、ホルダ48に環状フランジ部48dを設けることにより、第1室70aと第4室70dとの圧力関係によってホルダ48及びノズル62が一体的に矢印X1方向に向かって変位した後、第1ばね部材72aのばね力によって矢印X2方向に向かって変位して再び初期状態に復帰する際、ホルダ48に設けられた環状フランジ部48dがステータ56の円板部56aに当接(着座)することにより、ノズル孔62aとニードル58との間隙68における開口面積が最大となる位置に安定して且つ精度よく保持することができる。この結果、本実施形態では、ノズル62のノズル孔62aから吐出される水素の安定した流量制御特性を得ることができる。
【0054】
換言すると、本実施形態では、ノズル62と共に変位するホルダ48の環状フランジ部48dが初期状態に復帰する際、ホルダ48の環状フランジ部48dをエゼクタ本体22aに固定されたステータ56の円板部56aに当接させるだけで、水素が吐出される間隙68を最大開口面積に容易に設定することができ、例えば、電磁弁等の電気的な制御によりノズル62とニードル58とを相対的に変位させて最大開口面積を設定することが不要となる。この結果、本実施形態では、電気的な制御を不要として消費電力を抑制することができると共に、簡素な機械的構造によって簡便に製造することができる。
【0055】
また、本実施形態では、分岐通路30及びエア供給ポート32dを介して供給される圧縮エアによって第1〜第3ダイヤフラム40、42、44を撓曲させ前記第1〜第3ダイヤフラム40、42、44に連動してホルダ48及びノズル62を変位させることにより、電気的な制御を不要として消費電力をより一層抑制することができる。
【0056】
さらに、本実施形態では、ステータ56の外径面56bに沿って摺動し前記ホルダ48を軸方向に沿って案内するガイド部48cがホルダ48に設けられることにより、ノズル62とニードル58との同芯度を確保しながらホルダ48及びノズル62を円滑に変位させることができる。この場合、ホルダ48のガイド部48cがステータ56の環状凹部54内に進入可能に設けられることにより、ステータ56の外径面56bを摺動するガイド部48cの長さを延長させてガイド機能を増大させることができる。
【0057】
さらにまた、本実施形態では、ガイド部48cが環状フランジ部48dと略直交する方向に延在し且つ環状フランジ部48dと一体的に近接して設けられることにより、部品点数を削減して製造コストを低減させることができると共に、ホルダ48の環状フランジ部48dがガイド部48cによって案内されながらステータ56の円板部56aに当接した際、当接時における振動がガイド部48c側に伝播して振動の発生が抑制される。従って、当接時に発生する振動が図示しない燃料電池自動車の車室内に伝達されることを抑制することができる。
【符号の説明】
【0058】
10 燃料電池システム 12 燃料電池
14 水素タンク(燃料ガス供給手段)
20 水素供給通路(燃料ガス供給通路
22 エゼクタ(燃料電池用エゼクタ装置) 22a エゼクタ本体
24 循環通路 32a インレットポート
32b アウトレットポート 32c 吸引ポート
40、42、44 ダイヤフラム(変位機構)
48 ホルダ 48c ガイド部
48d 環状フランジ部(最大位置保持手段) 56 ステータ
56b 外径面 58 ニードル
58a 先端部 62 ノズル
62a ノズル孔 68 間隙
78 ディフューザ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料ガス供給手段から燃料ガスが供給されるインレットポートと、燃料電池に連通する燃料ガス供給通路に接続されるアウトレットポートと、循環通路に接続され燃料電池から排出されて戻された燃料オフガスが吸入される吸引ポートとが設けられたエゼクタ本体と、
前記インレットポートを介して供給された燃料ガスを吐出するノズル孔を有するノズルと、
前記ノズル孔から吐出される燃料ガスと前記循環通路を介して燃料電池から排出されて戻された燃料オフガスとを混合するディフューザと、
前記エゼクタ本体に固定されるステータと、
前記ステータに固定されて前記ノズルの中空部内に軸方向に沿って延在するニードルと、
前記ノズルを前記ニードルの軸方向に沿って変位させる変位機構と、
前記ノズルのノズル孔と前記ニードルの先端部の外周面との間隙における開口面積を最大位置に保持する最大位置保持手段と、
を備え、
前記最大位置保持手段は、前記ノズルと一体的に変位するホルダに設けられて前記ステータと当接するフランジ部からなることを特徴とする燃料電池用エゼクタ装置。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池用エゼクタ装置において、
前記ホルダには、前記ステータの外径面に沿って摺動し前記ホルダを軸方向に沿って案内するガイド部が設けられることを特徴とする燃料電池用エゼクタ装置。
【請求項3】
請求項2記載の燃料電池用エゼクタ装置において、
前記ガイド部は、前記フランジ部と略直交する方向に延在し前記フランジ部と一体的に設けられることを特徴とする燃料電池用エゼクタ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−69310(P2011−69310A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−221878(P2009−221878)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000141901)株式会社ケーヒン (1,140)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】