説明

燃料電池用エゼクタ装置

【課題】ノズルから吐出される圧力流体の流量特性をより一層向上させること。
【解決手段】ノズル62と、ノズル孔62aから吐出される水素と循環通路24を介して燃料電池12から排出されて戻された水素オフガスとを混合するディフューザ78と、エゼクタ本体22a側に固定されるニードル58とを備え、ニードル58の内部には、ノズル62の中空部63内の水素を導入する導入通路59が形成され、導入通路59の一端部は、背圧室57に連通し、導入通路59の他端部には、ノズル孔62aに向かって内径が徐々に縮径するテーパ部62bと対向する開口部58cが設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに組み込まれ、燃料電池から排出される燃料オフガスを新たに供給される燃料ガスと混合させて再循環させる燃料電池用エゼクタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、燃料電池システムでは、燃料電池の発電効率を向上させるために、燃料電池から排出される燃料オフガス(水素オフガス)を新たに供給される燃料ガス(水素ガス)と混合させて再循環させるエゼクタが用いられている。
【0003】
この種のエゼクタに関し、例えば、特許文献1には、水素ガスが供給される第1流体室と、棒状のニードルと、第1流体室に供給された水素ガスを吐出口(ノズル孔)から吐出するノズルと、水素オフガスが導入される第2流体室と、ノズルの吐出口側に設けられたディフューザと、エアが供給される第3流体室とを備えるエゼクタが開示されている。
【0004】
特許文献1に開示されたエゼクタでは、ノズルの胴部とニードルの基部との間に第1流体室に連通する背圧室を設け、前記第1流体室から前記背圧室への圧力流体の導入を、ニードルに設けられた弁座に対してノズルに設けられた弁体が着座するシート位置近傍で行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−185391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、この種のエゼクタでは、背圧室を設けることによってノズルから吐出される圧力流体の流量特性を良好とすることができるが、さらに、より一層流量特性を向上させたいという要請がある。
【0007】
本発明は、前記の点に鑑みてなされたものであり、ノズルから吐出される圧力流体の流量特性をより一層向上させることが可能な燃料電池用エゼクタ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するために、本発明は、燃料ガスが供給されるインレットポートと、燃料電池に連通するアウトレットポートと、循環通路に接続され燃料電池から排出されて戻された燃料オフガスが吸入される吸引ポートと、酸化剤ガスが供給される酸化剤ガス供給ポートが設けられたエゼクタ本体と、前記インレットポートを介して供給された燃料ガスを吐出するノズル孔を有するノズルと、前記ノズル孔から吐出される燃料ガスと前記循環通路を介して前記燃料電池から排出されて戻された燃料オフガスとを混合するディフューザと、前記エゼクタ本体側に固定され、前記ノズルの中空部内に軸方向に沿って延在するニードルと、を備え、前記ニードルの内部には、前記ノズルの中空部内の燃料ガスを導入する導入通路が形成され、前記導入通路の一端部は、背圧室に連通し、前記導入通路の他端部には、前記ノズル孔に向かって内径が徐々に縮径するテーパ部と対向する開口部が設けられることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、ノズルのノズル孔からディフューザに向かって燃料ガスが吐出される際、ノズル孔に向かって流入する燃料ガスの流速が速くなり、ノズル内壁のテーパ部と対向するニードルの開口部において前記燃料ガスの流速に対応した負圧が発生する。この負圧の発生により、導入通路を通じて背圧室が減圧され、前記背圧室の減圧作用によって、ノズルを開き側の方向へ変位させることができる。この結果、ニードルの先端部とノズルのノズル孔との間隙が大きくなって、より多くの流量を吐出することが可能となり、流量特性を向上させることができる。
【0010】
また、本発明は、ノズル内に、ニードルを軸方向に沿って軸支すると共に、ノズルと共に一体的に変位する軸受部材が設けられ、前記軸受部材は、エゼクタ本体に設けられた弁座に着座するシート部を有することを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、ノズル内に配置される軸受部材にシート部を設けることにより、ノズルの端面にシート部を設けた場合と比較して、その直径が縮径されたシート部を得ることができる。また、シート部の直径を縮径することにより、従来と比較してシート面の面圧が増大しシート部のシート性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、ノズルから吐出される圧力流体の流量特性をより一層向上させることが可能な燃料電池用エゼクタ装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】燃料電池システムに組み込まれた本発明の実施形態に係るエゼクタの軸方向に沿った縦断面図である。
【図2】エゼクタの初期状態におけるノズル孔とニードルとの位置関係を示す部分拡大縦断面図である。
【図3】図2の初期状態からノズル及びホルダが一体的に変位して、ノズル孔の開口面積が変化した状態を示す部分拡大縦断面図である。
【図4】エゼクタ本体内に配設された複数のダイヤフラムを太実線で示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の実施形態に係るエゼクタが組み込まれた燃料電池システムについて説明した後、前記エゼクタについて適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
図1に示されるように、燃料電池システムは、燃料電池12と、内部に高圧の水素ガスが充填され、前記燃料電池12に対し燃料ガスとして前記水素ガスを供給する水素タンク14と、前記燃料電池12に対して酸化剤ガス(酸素)を含む圧縮エアを供給するエアコンプレッサ16と、前記燃料電池12から排出された未反応の水素を気体(水素)と液体(水)とに分離すると共に、前記分離された水素を、前記燃料電池12から排出される未反応のエアによって希釈する気液分離及び希釈部(図示せず)とを備えて構成される。
【0016】
燃料電池12は、例えば、固体高分子電解質型燃料電池(PEFC)からなり、燃料電池自動車等の車両に搭載される。この燃料電池12は、複数の単セル(図示せず)が積層して構成された図示しないスタック本体を有し、燃料ガスとして水素が供給されるアノードと、酸化剤ガスとして、例えば、酸素を含むエアが供給されるカソードとを備える。
【0017】
前記水素タンク14と前記燃料電池12との間には、水素供給通路20が設けられ、前記水素供給通路20中には、燃料電池用エゼクタ装置として機能するエゼクタ22が配設される。このエゼクタ22は、燃料電池12から排出された燃料オフガスである未反応の水素(以下、水素オフガスという)をフィードバックさせる循環通路24に接続され(図1参照)、水素タンク14から新たに供給される水素と燃料電池12からフィードバックされる水素オフガスとを混合させて燃料電池12に対して再供給(再循環)するものである。
【0018】
なお、前記水素タンク14と前記エゼクタ22との間には、エアコンプレッサ16からのエアをパイロット圧信号として導入し、燃料電池12に対して供給される水素の圧力を所定圧力に調圧するレギュレータ等を含む水素圧力調圧部(図示せず)が設けられる。
【0019】
前記エアコンプレッサ16と前記燃料電池12との間には、エア供給通路26が設けられ、前記エア供給通路26には、前記エアコンプレッサ26から供給された乾燥エアを加湿する加湿器28が配設される。前記加湿器28によって加湿されたエアは、エア供給通路26を介して燃料電池12のカソード側に導入される。
【0020】
また、前記エアコンプレッサ16と前記加湿器28との間には、エア供給通路26から分岐する分岐通路30が設けられる(図1参照)。前記分岐通路30の下流側は、エゼクタ22に接続され、前記分岐通路30を介して供給されるエア(圧縮エア)は、前記エゼクタ22に対してエア信号圧として導入される。なお、前記分岐通路30には、エアコンプレッサ16から供給された圧縮エアを所定流量に絞るオリフィス(図示せず)が設けられるとよい。
【0021】
気液分離及び希釈部には、例えば、燃料電池12のアノードに溜まった水やカソードから電解質膜を透過してアノードに混入した窒素ガスを含む燃料ガスを図示しない希釈器側にパージする図示しない水素パージ弁や、燃料電池12から排出される水分を含んだ水素ガスを、水素と水とに分離する図示しないキャッチタンクや、前記キャッチタンクに溜まったドレンを排出する管路を開閉する図示しないドレン弁等が設けられる。
【0022】
次に、エゼクタ22について説明する。
図1に示されるように、このエゼクタ22は、エゼクタ本体22aを有し、前記エゼクタ本体22aは、後記するように複数のブロック体が一体的に結合されて構成される。
【0023】
前記エゼクタ本体22aは、図示しないフィルタを介して水素供給通路20に接続され水素タンク14から比較的高圧な水素(燃料ガス)が供給されるインレットポート32aと、燃料電池12に連通する水素供給通路20に接続され前記水素タンク14から供給された水素と水素オフガスとが混合された混合ガスが排出されるアウトレットポート32bとを有する。
【0024】
また、エゼクタ本体22aは、循環通路24に接続され前記循環通路24を介して水素オフガス(燃料オフガス)が吸入される吸引ポート32cと、分岐通路30に接続され前記分岐通路30を介してエアコンプレッサ16から導出された圧縮エア(酸化剤ガス)が供給されるエア供給ポート(酸化剤ガス供給ポート)32dとを有する。
【0025】
前記エゼクタ本体22aは、エア供給ポート32dが設けられた第1ブロック体34aと、後記する通気路45が設けられた第2ブロック体34bと、インレットポート32aが設けられた第3ブロック体34cと、アウトレットポート32b及び吸引ポート32cが設けられた第4ブロック体34dとを有する。前記第1〜第3ブロック体34a〜34cは、周方向に沿って所定角度離間する複数の第1固定用ボルト36によって一体的に締結され、また、第2〜第4ブロック体34b〜34dは、周方向に沿って所定角度離間する複数の第2固定用ボルト38によって一体的に締結される。
【0026】
第1ブロック体34aと第2ブロック体34bとの間には、比較的大径な第3ダイヤフラム44が配設され、前記第3ダイヤフラム44の外周縁部が第1ブロック体34aと第2ブロック体34bによって挟持される。また、第2ブロック体34bと第3ブロック体34cとの間には、比較的中径な第1ダイヤフラム40が前記第3ダイヤフラム44と対向して配設され、第1ダイヤフラム40の外周縁部が第2ブロック体34bと第3ブロック体34cによって挟持される。さらに、第3ブロック体34cと第4ブロック体34dとの間には、比較的小径な第2ダイヤフラム42が第1ダイヤフラム40と対向して配設され、前記第2ダイヤフラム42の外周縁部が第3ブロック体34cと第4ブロック体34dとの間で挟持される。
【0027】
エゼクタ本体22a内には、第1ブロック体34aの内壁と第3ダイヤフラム44とによって仕切られた第3室70cが形成され、前記第3室70cは、エア供給ポート32dと連通してエア信号圧が供給される。また、エゼクタ本体22a内には、第3ダイヤフラム44と第1ダイヤフラム40とによって仕切られた大気圧室70dが形成され、前記大気圧室70dは、通気路45を介して大気と連通するように設けられる。さらに、エゼクタ本体22a内には、第1ダイヤフラム40と第2ダイヤフラム42とによって仕切られた第1室70aが形成され、前記第1室70aは、インレットポート32aと連通して水素(供給圧)が供給される。さらにまた、エゼクタ本体22a内には、第3ブロック体34cの内壁と第2ダイヤフラム42とによって仕切られた第2室70bが形成され、前記第2室70bは、吸引ポート32cと連通して水素オフガスが導入される。
【0028】
この場合、図4に示されるように、相互に対向配置され第1室70a内に供給される水素の供給圧力がそれぞれ付与される第1ダイヤフラム40の受圧面積S1と第2ダイヤフラム42の受圧面積S2とは同一ではなく、第1ダイヤフラム40の受圧面積S1は、第2ダイヤフラム42の受圧面積S2よりも大きく設定されている(S1>S2)。
【0029】
すなわち、水素が供給される第1室70aを間にして相互に対向配置された第1ダイヤフラム40の受圧面積S1と第2ダイヤフラム42の受圧面積S2とを同一としないで、エア供給ポート(酸化剤ガス供給ポート)32d側(エア信号圧側)に近接配置された第1ダイヤフラム40の受圧面積S1を、吸引ポート32c側(水素オフガス側)に近接配置された第2ダイヤフラム42の受圧面積S2よりも大きく設定することにより、第1ダイヤフラム40と第2ダイヤフラム42との受圧面積差(S1−S2)に対応し、ノズル62を閉じ側(矢印X1方向)に向かって変位させる力が発生する。後記するように、このノズル62を閉じ側(矢印X1方向)に向かって変位させる力と、水素の供給圧力が印加されたときに発生するノズル62を開き側(矢印X2方向)に向かって変位させる力とが相互に相殺される。
【0030】
なお、本実施形態では、水素が供給される第1室70aと圧縮エアが供給される第3室70cとの間に大気圧室70dを介在させて第1〜第3ダイヤフラム40、42、44からなる3枚のダイヤフラムを配置しているが、受圧面積差(S1−S2)で前記ノズル62を閉じ側(矢印X1方向)に向かって変位させる力は、基本的に、第1ダイヤフラム40及び第2ダイヤフラム42からなる2枚のダイヤフラムによって発生させることが可能であり、第3ダイヤフラム44を省略することができる。
【0031】
また、本実施形態では、第3ダイヤフラム44の受圧面積S3が、第1ダイヤフラム40の受圧面積S1よりも大きく設定されている(S3>S1)。この結果、各ダイヤフラムの受圧面積の大小関係は、第3ダイヤフラム44の受圧面積S3が最も大きく設定され、続いて、第1ダイヤフラム40の受圧面積S1、第2ダイヤフラム42の受圧面積S2の順序で大きく設定されている(S3>S1>S2)。なお、図4中では、各ダイヤフラムの受圧面積S1、S2、S3を、ダイヤフラムの受圧面の直径に対応させて、便宜的に示している。
【0032】
図1に示されるように、エゼクタ本体22aの下部側には、第3ダイヤフラム44及び第1ダイヤフラム40で仕切られた大気圧室70dと外部とを連通させる通気路45が形成され、前記通気路45の開口部にはキャップ47が装着されている。前記キャップ47内には、例えば、周知のゴアテックス(登録商標)からなり、空気の出入りを許容しつつ水の出入りを阻止する透湿防水素材49が配設されている。
【0033】
このように透湿防水素材49を有するキャップ47を装着することにより、大気圧室70d内への水や塵埃等の浸入を阻止すると共に、大気圧室70d内へのエアの出入りを円滑とすることにより、第1ダイヤフラム40及び第3ダイヤフラム44の安定した撓曲作用を発揮させ、且つ、耐久性を向上させることができる。
【0034】
エゼクタ本体22aの内部には、第3ダイヤフラム44を表裏両面で挟持する第1保持部材46a及び第2保持部材46bと、第1ダイヤフラム40を表裏両面で挟持する第2保持部材46b及び第3保持部材46cと、前記第1〜第3保持部材46a〜46cの中心部を貫通し前記第1〜第3保持部材46a〜46cを一体的に保持するホルダ48と、ワッシャを介して前記ホルダ48のねじ部に締結されるナット部材50と、複数のボルト52によってエゼクタ本体22aの第3ブロック体34cに固定され、ホルダ48の一端部が当接する当接面(ストッパ面)が形成されたステータ56とがそれぞれ設けられる。
【0035】
さらに、エゼクタ本体22aの内部には、前記ステータ56の孔部に基端部が固定され、後記するノズル62の中空部63内に軸方向に沿って延在するニードル58と、前記ステータ56の貫通孔60に挿通されてホルダ48とノズル62とを締結する連結用ボルト64と、前記連結用ボルト64を介してホルダ48と連結され、ニードル58の先端部58aが臨むノズル孔62aを有するノズル62と、ノズル62の内壁に固定されて前記ノズル62と一体的に変位する軸受部材66と、ステータ56に近接するホルダ48の一端部に形成された凹部48aと前記凹部48aに臨むニードル58のフランジ部58bとの間で形成され、後記する導入通路59を介して水素が導入される背圧室57とがそれぞれ設けられる。なお、第1〜第3保持部材46a〜46cは、ホルダ48の拡径段部とナット部材50との間で一体的に締結される。
【0036】
図2に示されるように、ニードル58の内部には、前記ニードル58の軸方向に沿って所定長だけ延在し、ノズル62の中空部63内の水素を導入する導入通路59が形成される。この場合、導入通路59の軸方向に沿った一端部は、背圧室57に連通するように設けられ、前記導入通路59の軸方向に沿った他端部には、ノズル孔62aに向かって内径が徐々に縮径するテーパ部62bと対向する開口部58cが形成される。この開口部58cは、例えば、ニードル58の軸方向と略直交し、且つ、ニードル58の周方向に沿って所定角度離間するように複数個配置されるとよい。図2及び図3では、その一例として、開口部58cがニードル58の軸方向と直交する上下方向に2個形成された場合を示している。
【0037】
背圧室57は、導入通路59の開口部58cを介して、ノズル62の中空部63、すなわち第1室70aと連通するように設けられる。ニードル58に形成される開口部58cの位置は、軸受部材66とノズル孔62aとの間であって、ノズル62のテーパ部62bと対向する部位に形成されるとよいが、ノズル孔62a側により近接する部位に形成されると一層好適である。
【0038】
ノズル孔62aに近接する部位では、ノズル孔62aに向かって流入する水素の流速が速くなり、ノズル62のテーパ部62bと対向するニードル58の開口部58cでは、前記水素の流速に対応して負圧が発生する。この負圧の発生により、導入通路59を通じて背圧室57が減圧され、前記背圧室57の減圧作用によって、ホルダ48及び連結用ボルト64を介して、ノズル62を開き側の方向(矢印X2方向)へ変位させることができる。この結果、ニードル58の先端部58aとノズル62のノズル孔62aとの間隙68が大きくなってより多くの流量を吐出することが可能となり、流量特性を向上させることができる。
【0039】
また、背圧室57が減圧されることにより、可動側のノズル62の開き側の方向(矢印X2方向)への動作が迅速となり(動作し易くなり)、応答速度を良好とすることができる。
【0040】
軸受部材66は、ニードル58の外周面に沿って摺動する摺動孔66aと、流体が流通することによって第1室70aとノズル62の中空部63とを連通させる流通孔66bとを有する。軸受部材66の軸方向に沿った一端面には、環状溝66cが形成され、前記環状溝66cに対してゴム製のシート部106が装着(接着)される。軸受部材66の一端面にシート部106を設けた場合、ノズル62の一端部に図示しないシート部を形成した場合と比較して、軸受部材66に形成されたシート部106の直径を縮径することができる。また、シート部106の直径を縮径することにより、従来と比較してシート面の面圧が増大しシート部106のシート性を向上させることができる。なお、ノズル62の内径面と軸受部材66の外径面との間には、ノズル62と軸受部材66との結合部位をシールするOリング108が設けられる。
【0041】
この場合、可動側(弁体側)である軸受部材66の環状溝66c内に装着されるシート部106を、例えば、ゴム等の弾性材料で形成し、且つ、前記軸受部材66のシート部106が着座するステータ56側(エゼクタ本体)の弁座を、前記軸受部材66側に向かって突出する断面山形状の環状突起部112からなる金属製材料で形成することにより、軸受部材66を軽量化することができ、エゼクタ10全体の重量における軽量化を達成することができる。
【0042】
また、固定側であるステータ56の円筒部56aの内周面には、ニードル58の外径面に形成された雄ねじと嵌合するねじ部116と、ニードル58の外径面が嵌挿される円筒状のインロー部118とが連接して設けられている。このねじ部116とインロー部118とをニードル58の軸方向に沿って連接して配置することにより、固定側のステータ56に対してニードル58の軸心を高精度に芯出しした状態で組み付けることができる。
【0043】
さらに、ニードル58の先端部58aと軸方向に沿って反対側の端部には、他の部位と比較して拡径するフランジ部58bが設けられる。このフランジ部58bの内側側壁119は、Oリング120が装着される環状溝122の一部を形成している。
【0044】
図1に示されるように、第3室70cには、一端部がエンドキャップ71に係着され他端部が第1保持部材46aに係着される第1ばね部材72aが設けられ、前記第1ばね部材72aは、ばね力によって第1〜第3保持部材46a〜46c及びホルダ48をノズル62側に向かって押圧(付勢)するように設けられる。また、第2室70bには、一端部がリテーナ74に係着され他端部が第4ブロック体34dの内壁の受座面に係着される第2ばね部材72bが設けられる。前記第2ばね部材72bは、ばね力によってノズル62をホルダ48側に向かって押圧(付勢)するように設けられる。
【0045】
この場合、第1ばね部材72aのばね力は、第2ばね部材72bのばね力よりも大きく設定され、第3室70c及び第2室70b内に圧力流体が供給されていない場合、第1ばね部材72aと第2ばね部材72bとのばね力の差によってホルダ48の環状フランジ部がステータ56に当接し、ノズル62のノズル孔62aとニードル58の先端部58aの外周面との間隙68における開口面積が最大位置に保持された初期状態にある。
【0046】
さらに前記エゼクタ本体22aの第4ブロック体34dの内部には、前記ノズル62の軸方向に沿った一端部側に配設され、前記ノズル62と同軸状に設けられたディフューザ78を有する。前記ニードル58は、ノズル孔62aに臨み、鋭く尖った頂点を含む先端部58aを有する。
【0047】
ディフューザ78は、ノズル孔62aを有するノズル62の一部を囲繞するラッパ状の拡径部78aと、前記拡径部78aに連続する円筒体からなり内部にアウトレットポート32bに向かって徐々に拡径する直線状の通路を有するスロート部78bとから構成される。
【0048】
この場合、ノズル62、ニードル58及びディフューザ78は、それぞれ同軸(3者の軸線が一致する)となるように配設される。前記ノズル62と前記ディフューザ78との間には、吸入室80が形成され、前記吸入室80は、吸引ポート32cと連通するように設けられる。
【0049】
第3室70c内に導入されるエア信号圧と第2室70b内に導入される水素オフガスの圧力との関係で、第1〜第3ダイヤフラム40、42、44が撓曲することによりホルダ48及びノズル62が一体的に矢印X1方向(閉じ側)に変位し、ディフューザ78に向かって水素が噴射されるノズル孔62aとニードル58の先端部58aとの間隙68における開口面積を変化させることができる。
【0050】
燃料電池システムに組み込まれた本実施形態に係るエゼクタ22は、基本的に以上のように構成されるものであり、次にその作用効果について説明する。
【0051】
図2は、エゼクタの初期状態におけるノズル孔とニードルとの位置関係を示す部分拡大縦断面図である。
先ず、燃料電池12の発電停止時には、図示しない遮断弁によって水素タンク14から水素の供給が遮断され、エゼクタ22のインレットポート32aに対する水素の供給が停止された状態にある。同時に、エアコンプレッサ16の駆動が停止された状態にあり、エゼクタ22のエア供給ポート32dに対する圧縮エアの供給が停止された状態にある。
【0052】
この場合、第1ばね部材72aのばね力は、第2ばね部材72bのばね力よりも大きく設定されているため、第1ばね部材72aと第2ばね部材72bとのばね力の差によってホルダ48の環状フランジ部がステータ56に当接し、ノズル62のノズル孔62aとニードル58の先端部58aの外周面との間隙68における開口面積が最大位置に保持された初期状態にある。
【0053】
この初期状態では、図2に示されるように、ニードル58の先端部58aがノズル孔62aから外部に向かって僅かに突出する。従って、水素が吐出されるノズル孔62aの開口面積(間隙68)は、ノズル孔62aの内径面積からニードル58の先端部58aの外径面積が減算されたものとなる。
【0054】
一方、燃料電池12の発電時では、図示しない遮断弁が開弁状態となって、水素タンク14から水素供給通路20を介して燃料電池12のアノードに対して水素が供給されると共に、エアコンプレッサ16が駆動され、加湿器28で加湿されたエアがエア供給通路26を介して燃料電池12のカソードに供給される。
【0055】
エゼクタ22では、水素タンク14からの比較的高圧な水素がインレットポート32aを通じて供給され、エゼクタ本体22a内で第1ダイヤフラム40と第2ダイヤフラム42で仕切られた第1室70aに供給される。同時に、エアコンプレッサ16からの圧縮エアが分岐通路30及びエア供給ポート32dを通じて第3ダイヤフラム44で仕切られた第3室70c内に供給される。
【0056】
その際、第2室70b内に導入される水素オフガスの圧力が第3室70c内の圧縮エアの圧力(エア信号圧)以下であるとき、初期状態と同様に、ホルダ48の環状フランジ部がステータ56に当接し、ノズル62のノズル孔62aとニードル58の先端部58aの外周面との間隙68における開口面積が最大位置に保持された状態に継続される。
【0057】
エゼクタ22の第1室70a内に導入された水素は、さらに、ノズル62に内嵌された軸受部材66の流通孔66bを介してノズル62の中空部63内に導入された後、ノズル孔62aとニードル58の先端部58aの間隙68を通じてディフューザ78側に向かって吐出される。このノズル孔62aによって流量が絞られて加速された水素は、ディフューザ78のスロート部78bに沿って流通し、アウトレットポート32bから水素供給通路20に沿って燃料電池12に供給される。
【0058】
同時に、ノズル62のノズル孔62aの先端からディフューザ78に向かって水素が噴射(吐出)される際、ノズル62とディフューザ78の拡径部78aとの間の部位において、いわゆるジェットポンプ効果によって負圧作用が発生する。この負圧作用によって吸入室80内の水素オフガスが吸い込まれ、ノズル62から吐出された水素と吸引ポート32cを通じて吸引された水素オフガスとがディフューザ78で混合され、この混合された水素ガスがアウトレットポート32bから水素供給通路20を介して燃料電池12に導出される。
【0059】
本実施形態では、ノズル62のノズル孔62aの先端からディフューザ78に向かって水素が噴射(吐出)される際、ノズル孔62aに向かって流入する水素の流速が速くなり、ノズル62のテーパ部62bと対向するニードル58の開口部58cにおいて前記水素の流速に対応して負圧が発生する。この負圧の発生により、導入通路59を通じて背圧室57が減圧され、前記背圧室57の減圧作用によって、ホルダ48及び連結用ボルト64を介して、ノズル62を開き側の方向(矢印X2方向)へ変位させることができる。この結果、ニードル58の先端部58aとノズル62のノズル孔62aとの間隙68が大きくなって、より多くの流量を吐出することが可能となり、流量特性を向上させることができる。
【0060】
また、本実施形態では、背圧室57が減圧されることにより、可動側のノズル62の開き側の方向への動作が迅速となり(動作し易くなり)、応答速度を良好とすることができる。
【0061】
図3は、図2の初期状態からノズル及びホルダが一体的に変位して、ノズル孔の開口面積が変化した状態を示す部分拡大縦断面図である。
燃料電池12の運転状態において、分岐通路30及びエア供給ポート32dを介して第3室70c内に導入された圧縮エアの圧力(エア信号圧)に対して、吸引ポート32cを介して導入された第2室70b内の水素オフガスの圧力が高くなった場合、水素オフガスによる押圧力が第1ばね部材72aのばね力に打ち勝って第1〜第3ダイヤフラム40、42、44を撓曲させ、ホルダ48の円筒部の案内作用下に、ホルダ48及びノズル62が矢印X1方向(閉じ側)に向かって一体的に変位する。
【0062】
従って、ニードル58の先端部58aを含む一部は、ノズル62のノズル孔62aの先端から外部に突出して露呈した状態となる。この結果、ノズル62の中空部63内に導入された水素は、ノズル孔62aの微小な間隙68を通じてディフューザ78に向かって吐出されるため、比較的小流量の水素を燃料電池12に対して供給することができる。このように、ホルダ48及びノズル62の変位によって、比較的大流量の水素の供給から比較的小流量の水素の供給へ切り換えることができる。
【0063】
ここで、ホルダ48及びノズル62の閉じ側(矢印X1方向)への変位がさらに進んだ場合、ノズル62に形成されたシート部106が、エゼクタ本体22a側の環状突起部(弁座)112に着座し、ノズル62の位置がノズルシート位置(締切位置)となる(図3参照)。この場合、ノズル62のノズル孔62aから吐出される水素流量をゼロとすることができる。
【0064】
ところで、第3室70c内に供給されるエア信号圧よりも第2室70b内に導入される水素オフガスの圧力が高いときに、ノズル62の位置が所定位置、例えば、ノズルシート位置(図3参照)にあるとする。このとき、第1室70aに供給される水素の供給圧力が印加された場合、ノズル62を開き側の方向(矢印X2方向)に向かって変位(移動)させる力が発生し、この力によってノズル62がノズルシート位置から開き側(矢印X2方向)に向かって変位しようとする。水素の供給圧力の印加によって発生するこの力は、例えば、ノズル62の基端面であるシート部106の面積やノズル孔62aからのガス吐出圧力等に起因するものと推量される。
【0065】
これに対して、本実施形態では、第1室70aを間にして相互に対向配置されたエア信号圧側の第1ダイヤフラム40の受圧面積S1が水素オフガス側の第2ダイヤフラム42の受圧面積S2よりも大きく設定されているため(S1>S2)、ノズル62を閉じ側の方向(矢印X1方向)に向かって変位させる力が作用する。このノズル62を閉じ側に向かって変位させる力は、第1ダイヤフラム40の受圧面積S1と第2ダイヤフラム42の受圧面積S2の受圧面積差(S1−S2)に対応する力からなる。
【0066】
従って、本実施形態では、第1室70aに対し水素の供給圧力が印加されることによって発生するノズル62を開き側(矢印X2方向)に向かって変位させる力と、第1及び第2ダイヤフラム40、42の受圧面積差(S1−S2)に対応するノズル62を閉じ側(矢印X1方向)に向かって変位させる力とが相互に相殺され、ノズル62は、ノズルシート位置(図3参照)に保持されたままとなる。これにより、固定側のニードル58に対して可動側のノズル62が開き側(矢印X2方向)へ変位することを防止することができる。
【0067】
この結果、本実施形態では、第1室70aに対し水素の供給圧力が印加された場合であっても、固定側のニードル58に対する可動側のノズル62の開き側への変位を好適に阻止することが可能となる。
【0068】
また、本実施形態では、ノズル62の開き側への変位が阻止されてノズル62がノズルシート位置に保持されることから、ノズル62のノズル孔62aから吐出される吐出圧が過大となることが防止される。
【0069】
さらに、本実施形態では、ノズル62がノズルシート位置に保持されることから、ノズルシート位置からのノズル制御が可能となるため、ノズル孔62aから吐出される吐出圧の制御の幅を拡大(吐出圧の制御領域を増大)させて制御安定性を向上させることができる。
【0070】
なお、本実施形態では、ノズル62における所定位置の一例をノズルシート位置として説明しているが、これに限定されるものではなく、ノズル移動可能範囲において、シート位置の近傍位置、低開度位置、又は中間開度位置等の任意の位置としてもよい。この場合、任意の位置は、第3室70c内に供給されるエア信号圧よりも第2室70b内に導入される水素オフガスの圧力が高いときに、エア信号圧を低下方向に変化させる(エア減圧制御)ことで行われる。また、本実施形態では、本発明を、ノズル62がシート部106を備えるエゼクタ22に適用しているが、ノズルがシート部を備えていないエゼクタ(シート部が設けられていないノズルを有するエゼクタ)に適用するようにしてもよい。
【0071】
さらにまた、本実施形態では、第3ダイヤフラム44の受圧面積S3が、他の第1ダイヤフラム40の受圧面積S1及び第2ダイヤフラム42の受圧面積S2よりも大きく設定されている(S3>S1>S2)。従って、第3室70cに供給されるエア信号圧を増大させて第3ダイヤフラム44を撓曲させ、この第3ダイヤフラム44の撓曲動作を第1ダイヤフラム40及び第2ダイヤフラム42に作用させることにより、ノズル62を閉じ側の位置から開き側に向かって変位させ、水素が吐出されるノズル孔62aの開口面積(間隙68)を増大させることができる。
【符号の説明】
【0072】
22 エゼクタ(燃料電池用エゼクタ装置) 22a エゼクタ本体
24 循環通路 32a インレットポート
32b アウトレットポート 32c 吸引ポート
32d エア供給ポート(酸化剤ガス供給ポート) 57 背圧室
58 ニードル 58c 開口部
59 導入通路 62 ノズル
62a ノズル孔 62b テーパ部
63 中空部 66 軸受部材
78 ディフューザ 106 シート部
112 環状突起部(弁座)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料ガスが供給されるインレットポートと、燃料電池に連通するアウトレットポートと、循環通路に接続され燃料電池から排出されて戻された燃料オフガスが吸入される吸引ポートと、酸化剤ガスが供給される酸化剤ガス供給ポートが設けられたエゼクタ本体と、
前記インレットポートを介して供給された燃料ガスを吐出するノズル孔を有するノズルと、
前記ノズル孔から吐出される燃料ガスと前記循環通路を介して前記燃料電池から排出されて戻された燃料オフガスとを混合するディフューザと、
前記エゼクタ本体側に固定され、前記ノズルの中空部内に軸方向に沿って延在するニードルと、
を備え、
前記ニードルの内部には、前記ノズルの中空部内の燃料ガスを導入する導入通路が形成され、
前記導入通路の一端部は、背圧室に連通し、
前記導入通路の他端部には、前記ノズル孔に向かって内径が徐々に縮径するテーパ部と対向する開口部が設けられることを特徴とする燃料電池用エゼクタ装置。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池用エゼクタ装置において、
前記ノズル内には、前記ニードルを軸方向に沿って軸支すると共に、前記ノズルと共に一体的に変位する軸受部材が設けられ、前記軸受部材は、前記エゼクタ本体に設けられた弁座に着座するシート部を有することを特徴とする燃料電池用エゼクタ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−188981(P2012−188981A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52421(P2011−52421)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000141901)株式会社ケーヒン (1,140)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】