説明

燃料電池用ガス拡散体、燃料電池用セパレータ及び燃料電池

【課題】 薄型、軽量で高耐久性を具えると共に、高出力で安定した発電運転を可能とする。
【解決手段】 固体高分子形燃料電池を構成するガス拡散層が発泡金属多孔体1で構成され、発泡金属多孔体1の表面が導電性のポリピロール及びカーボンブラック3を含む高分子膜2で被覆されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池(PEFC)や直接メタノール形燃料電池(DMFC)などの高分子電解質膜を備えた燃料電池、並びにこれを構成するのに好適な燃料電池用ガス拡散体及び燃料電池用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水素と酸素の電気化学反応によって発電する燃料電池がエネルギー供給源として注目されている。イオン交換樹脂膜を用いた燃料電池などでは、一般に高分子電解質であるイオン交換樹脂膜がアノード電極とカソード電極との間に狭持された膜電極接合体を一対のセパレータで狭持して構成されており、各電極とセパレータとの間には、発電用のガスを挿通するためのガス流路が形成されている。また、各電極は、下記式(1)〜(3)で示す電気化学反応(電池反応)を担う触媒層と集電体として機能するガス拡散層とで構成することができる。なお、式(1) 、式(2)は各々アノード側、カソード側での反応を示し、式(3)は燃料電池での全反応である。
【0003】
2 → 2H++2e- …(1)
(1/2)O2+2H++2e- → H2O …(2)
2+(1/2)O2 → H2O …(3)
【0004】
近年、燃料電池、特に上記のようにイオン交換樹脂膜を用いて構成された燃料電池の薄型/軽量化が強く望まれており、この薄型/軽量化にはセパレータの形態に寄与するところが大きい。従来の燃料電池用のセパレータは、カーボン材料を用いたカーボン樹脂成形体による構成が通例であり、このカーボン樹脂成形体は機械的強度が非常に脆く、薄肉して軽量化しようとすると充分な強度を確保することはできない。そのため、従来のカーボン樹脂成形体を金属材料に代え、セパレータを金属で構成する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、金や白金等の貴金属材料を除くほとんどの金属は、燃料電池の電池反応が進行する内部環境下では腐食を受けやすいため、セパレータを金属で構成しようとする場合には一般に、セパレータの金属表面を金や白金等の耐腐食性の高い材料や炭素粉を用いてめっき処理(金属表面の導電性被覆処理)による防食処理を施すことが行なわれている。
【0006】
ところが、金や白金による場合はコスト高になるほか、欠陥がなく緻密に被覆されるようにして防食処理を行なうことは実質上困難であり、被覆後に被覆膜が容易に剥離したり表面親水性が強いなどの問題もある。炭素粉による場合も、緻密で欠陥のない被覆が困難であることは同様であるほか、炭素が燃料電池の内部環境下で腐食してしまう等の問題もある。また、防食処理には樹脂被覆による方法もあるが、樹脂は金属面に馴染みにくく、また、樹脂を用いた被覆は塗布によるのが一般的で、塗布等ではやはり緻密で欠陥のない被覆は難しく、導電性付与の点でも課題がある。
【0007】
したがって、膜欠陥を起点とした腐食を完全に回避し得るような、耐食性の飛躍的な向上効果は期待できず、腐食に対する若干の延命効果しか得られないのが実状であり、また、高度の導電性を確保することも燃料電池として不可避であるが、耐腐食性と導電性との両立の点で実用に供するまでには至っていない。
【0008】
一方、ガス拡散層は一般に、炭素繊維からなる糸で織成したカーボンクロスや、炭素繊維からなるカーボンペーパー、カーボンフェルト等のカーボン材料を用いて多孔構造に形成されている(例えば、特許文献1参照)。すなわち、ガス拡散層は、燃料電池を発電運転させた場合、アノード側、カソード側にそれぞれ必要に応じて加湿された燃料、酸化剤ガスが供給されると、これら燃料等を拡散して上記の電池反応に供され電気を取り出すと共に、カソード側では発電に伴なって水が生成されるため〔式(2)〕、生成された生成水を系外に排出可能なように構成されている。
【0009】
特に固体高分子形燃料電池(PEFC)や直接メタノール形燃料電池(DMFC)など、高分子電解質膜を備えた燃料電池においては、発電可能領域のワイドレンジ化、すなわち電池(セル)内での相対湿度が低〜高に変化する中でのロバスト性の向上に対する技術的改善が求められており、そのためにはガス拡散層による電池内部の水管理性が重要とされている。
【0010】
ガス拡散層には、電池内部で生成された生成水の速やかな系外への水排出性が求められるが、この水排出性を高めて電池内部の水管理性を向上させるためには、ガス拡散層の空孔率及び平均空孔径を高める必要がある。ところが、従来のように炭素繊維からなるカーボン多孔体で構成された拡散層では、空孔率及び平均空孔径を高めようとすると、硬度や剛性などの機械的強度が著しく低下する等の背反を伴なうことが避けられず、実用に供するまでに至っていない。つまり、空孔率及び平均空孔径の向上と機械的強度との両立は困難とされていた。
【0011】
したがって、剛性の高い金属材料を選定し、発泡金属などの金属製に構成されたガス拡散層が提案されている。しかしながら、金属製のガス拡散層とした場合、空孔率及び平均空孔径を高めることは可能であるものの、上記したように白金や金等の耐腐食性の高い材料を除いては燃料電池の内部環境で耐用し得る材料はなく、金や白金等あるいは樹脂でガス拡散層の金属表面に防食処理を施すことが一般的に行なわれてきた。
【0012】
しかしながら、やはり防食処理による被覆を欠陥がなくかつ緻密に行なうのは実質上困難であり、また逆に白金や金等の材料を用いるとコストが高くなりすぎてしまい、いずれにしても実用に供するには課題があった。
【0013】
他方、最近では有機導電性高分子が注目されている。これは、有機導電性高分子が電子伝導体となることのほか、金属と接触させた状態とした場合に金属に作用して金属表面の耐食性を助長することができることによるものである。後者の耐食作用は、金属表面を覆うようにして塗膜を形成した場合に、塗膜の少なくとも一部に有機導電性高分子を含むことにより得られ、塗膜に多少の欠陥が存在していた場合でも地金の腐食を防止することができる。
【0014】
これに関連する技術として、有機導電性高分子で表面を被覆したセパレータが開示されている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、有機導電性高分子を用いるのみでは、耐食性向上の点で有用なものの、導電性の点では不充分であり、従来より用いられてきたカーボン材料並みの導電性能を確保することはできず、しかも燃料電池の内部環境下で安定なものはない。また、高分子材料の中にはより導電性の高いものもあるが、導電性の高いものの多くは電池環境下での耐性に劣る。
【0015】
また、導電性樹脂を用いた燃料電池、具体的には燃料電池を構成する触媒層とガス拡散層との間に導電性樹脂層として、フッ素樹脂及びカーボンブラックからなる混合層が設けられた燃料電池(例えば、特許文献3参照)や、導電性粒子を有機バインダーに含ませた導電性樹脂を金属セパレータ表面に設けた燃料電池が開示されている(例えば、特許文献4参照)。
【0016】
しかし、これらの導電性樹脂は樹脂成分と導電性粒子との混合よりなるもので、樹脂自体が導電性を有するのではなく、導電性粒子とのいわゆるコンポジット材であるため、導電性樹脂中の粒子分布に濃淡が生じて導電性に高低(不均一)を伴なって良好な導電性は得られなかったり、塗膜とした場合に膜欠陥が存在するときには該欠陥を起点に地金の腐食が進行してしまう。
【特許文献1】特開2003−272671号公報
【特許文献2】特開2002−8685号公報
【特許文献3】特開2001−135326号公報
【特許文献4】特開2000−260441号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
以上のように、燃料電池の薄型/軽量化並びに、電池内部で生成される生成水の排出性を改善して発電効率を高めようとする技術は、種々検討がなされているものの、セパレータについては燃料電池の薄型化、軽量化の点で薄肉、軽量化が重要であるが、従来のカーボン材料を用いた樹脂成形体では機械的強度を確保できず、また、ガス拡散体については発電性能の点で電池内の水管理性が重要であり、この水管理性を高めるには、ガス拡散層の空孔率、平均空孔径を高めて生成水の外部排出性を確保することが重要であるが、従来の炭素繊維からなるカーボン材料では空孔率及び平均空孔径を飛躍的に高めるのは困難であると共に、機械的強度も確保できず、これらが確保されても燃料電池としての長期耐久性(耐腐食性)が得られない等、これまでの技術では安価に構成しながら実用化するまでに至っていない。
【0018】
したがって、高耐久性を有しながら、燃料電池、特に高分子電解質を備えた燃料電池(特にPEFCやDMFCなど)の発電効率の向上、並びに発電可能領域のワイドレンジ化、すなわち相対湿度が低〜高に至る電池(セル)内環境でのロバスト性の向上が課題とされている。
【0019】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、薄型、軽量で高耐久性を具えると共に、高出力で安定した発電運転が可能な燃料電池を提供することを目的とし、並びに、電池反応環境下で高度の耐腐食性を有し、内部生成水の水排出性に優れると共に、導電性能に優れ、湿度等の内部環境に拘わらず高出力で安定した発電運転を可能とするガス拡散体及び、電池反応環境下で高度の耐腐食性を有し、導電性能に優れ、高出力の発電運転を可能とする燃料電池用セパレータを提供することを目的とし、これら目的を達成することを本発明の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、燃料電池の薄型化、軽量化並びに、燃料電池を構成するガス拡散体の多孔度化を実現しようとする場合、従来のカーボン材料を用いた構成では機械的強度を確保できず、また、カーボン材料に代えて金属を用いた構成としたときには金属表面を単に樹脂や貴金属等で被覆するのみでは耐腐食性及び導電性を確保できず、有機導電性高分子と導電性粒子とを併用した膜を採用するのが、機械的強度と高度の耐腐食性及び導電性(電気伝導性)の付与との両立の点で有効であるとの知見を得、かかる知見に基づいて達成されたものである。
【0021】
前記目的を達成するために、第1の発明である燃料電池は、有機導電性高分子と導電性粒子とを含む被膜を設けて構成したものである。燃料電池の構成に樹脂被膜を設ける場合に、導電性の樹脂材料(有機導電性高分子)に加えて導電性粒子を併用することで電流パスが形成されるので、電気的な接触抵抗を効果的に低減することが可能であり、電気伝導性を飛躍的に向上させることができる。その結果、導電性の有無に拘わらず樹脂のみによる構成あるいは非導電性樹脂及び導電性粒子のコンポジット材による構成などの従来の構成に比し、より高出力での電力供給が可能な燃料電池を提供することができる。
【0022】
上記した有機導電性高分子と導電性粒子とを含む被膜は、燃料電池を構成する金属材料の少なくとも一部、すなわち金属材料の表面の一部もしくは全部に設けるようにするのが効果的である。上記のように、導電性粒子による電気伝導性の向上効果が得られると共に、金属の表面に有機導電性高分子を存在させるようにし、金属の電池反応環境下で受ける腐食に対する耐性を助長させ、金属材料に高度の耐腐食性を付与することができる。具体的には、例えばセパレータやガス拡散層を構成する金属材料の表面を、有機導電性高分子を一部にあるいは全部に含む樹脂被膜で被覆するようにすることで、被膜欠陥に起因して進行する金属腐食を効果的に防止でき、燃料電池の耐久性を向上させることができる。
【0023】
第1の発明である燃料電池においては、金属材料として、Ni、Nb、Ta、Ti、Zr、Fe、Cr、Al、Au、Pt、及びこれらの合金(ステンレス鋼(SUS)を含む。)若しくは複合体を用いた構成が望ましい。これらの金属材料を用いて、機械的強度と電気伝導性及び耐腐食性との双方を両立する場合に特に有効である。本発明においては、これら金属より一種、又は二種以上を目的等に応じて適宜選択することができる。中でも、Ti、ステンレス鋼(SUS)が特に好ましい。
【0024】
第1の発明において好適な有機導電性樹脂は、ポリアセチレン系樹脂、ポリアセン系樹脂、ポリ芳香族ビニレン系樹脂、ポリピロール系樹脂、ポリアニリン系樹脂、ポリチオフェン系樹脂、及びこれらの誘導体である。さらに、ドーパントを含有していてもよく、上記の導電性樹脂の一種、又は二種以上を目的等に応じて適宜選択することができる。
【0025】
また、有機導電性樹脂が撥水性を有する態様はより望ましい。例えばガス拡散体などにおいて撥水性を有する場合は、水排出性をさらに向上させることができる。
【0026】
また、第1の発明において好適な導電性粒子は、C(カーボン)、B、N、O、H、F、並びに、Ni、Nb、Ta、Ti、Zr、Fe、Cr、Al、Au、Pt、及びこれらの合金(ステンレス鋼(SUS)を含む。)若しくは複合体を用いた構成が望ましい。前記C(カーボン)には、カーボンブラック、カーボンフィラー、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンファイバーなどが含まれる。これらの導電性粒子を用いると、電気伝導性の付与の点で特に効果的である。本発明においては、これら導電性粒子より一種、又は二種以上を目的等に応じて適宜選択することができる。中でも、C(カーボン)、Au、Ptが特に好ましい。
【0027】
第1の発明である燃料電池は、高分子電解質膜と、触媒層及びガス拡散層を含み、前記高分子電解質膜を狭む電極対(アノード極及びカソード極)とを有する膜電極接合体並びに、前記膜電極接合体を挟むと共に、前記電極対の一方(アノード極)との間に燃料(水素ガス等)が通過する燃料流路及び他方(カソード極)との間に酸化ガスが通過する酸化ガス流路を形成する一対のセパレータを備えた電池セル(単セル)に構成することができ、所望によりこの電池セルを複数積層したスタック構造に構成することができる。
【0028】
そして上記のうち、ガス拡散層及びセパレータの少なくとも一方が金属材料を用いて構成され、この金属材料の少なくとも一部、すなわち金属材料の例えば表面の一部もしくは全部に、有機導電性高分子と導電性粒子とを含む被膜を設けるようにすることができる。また、スタック構造は単一であるほか、スタック構造に構成された複数のサブスタックが接続されたものでもよい。
【0029】
ガス拡散層(後述の本発明の燃料電池用ガス拡散体を含む。)は、従来より用いられてきたカーボンペーパー等をはじめとするカーボン繊維(カーボン材料)を金属材料(例えば発泡金属や金属ファイバーなどを用いた多孔体等)による金属製の拡散層に代替した構成とするので、カーボン材料以上に空孔率、平均空孔径を高めた多孔構造とすることが可能で、電池反応により内部生成された生成水の外部排出性(水排出性)を効果的に向上させ得る。すなわち、構造上一般に相反するとされる、空孔率及び空孔径の増大と機械的強度(剛性及び硬度を含む。)の確保との両立が可能である。
【0030】
本発明において、ガス拡散層が多孔体を用いて構成される場合、多孔体は、孔の多い構造部位を有するものであり、具体的には、発泡金属、繊維(金属繊維を含む)の不織布(例えば金属不織布)などが含まれる。
【0031】
更に既述のように、金属製の拡散層の少なくとも一部は、有機導電性高分子を一部にあるいは全部に含む樹脂被膜で被覆されるようにするので、被覆を簡易に行ない得ると共に電池反応環境下での被膜欠陥に起因して生じ得る腐食が効果的に抑えられ、また、有機導電性高分子と共に導電性粒子を含むので、例えば固体高分子形燃料電池(PEFC)とした場合に、良導性の集電体として機能し得、電流密度の高い高出力での電力供給が行なえる。
【0032】
以上により、電池構造上必要とされる機械的強度(剛性及び硬度を含む。)を保ちつつ高度の水排出性を確保し、同時に高度の耐久性能(特に耐腐食性)及び導電性能をも確保でき、長期間にわたり高い発電効率での安定した発電運転を行なえる長期信頼性を付与することができる。
【0033】
また、セパレータ(後述の本発明の燃料電池用セパレータを含む。)は、従来より用いられてきたカーボン材料を金属材料で代替した構成とするので、機械的強度を保持しつつ薄肉化でき、薄型で軽量の構成とすることが可能である。上記同様に、金属材料で構成された金属製のセパレータの少なくとも一部は、有機導電性高分子を一部にあるいは全部に含む樹脂被膜で被覆されるようにするので、被覆を簡易に行ない得ると共に、電池反応環境下での被膜欠陥に起因して生ずる腐食を効果的に抑止することができ、また、有機導電性高分子と共に導電性粒子を含むので、高い電気伝導性を有し、高出力での電力供給に有用である。
【0034】
以上により、電池構造上必要とされる機械的強度(剛性及び硬度を含む。)を保ちつつ、高度の耐久性能(特に耐腐食性)及び導電性能を確保でき、長期間にわたり高い発電効率での安定した発電運転を行なえる長期信頼性を付与することができる。
【0035】
第2の発明である燃料電池用ガス拡散体は、金属材料を用い、該金属材料の少なくとも一部に有機導電性高分子と導電性粒子とを含む被膜を設けて構成したものである。
【0036】
上記の本発明の燃料電池を構成するガス拡散層と同様に、金属材料を用いるので、機械的強度(剛性及び硬度を含む。)を確保しつつ、カーボン材料以上に空孔率、平均空孔径を高めた多孔構造とすることが可能で、電池内部で生成された生成水の外部排出性(水排出性)を効果的に向上させ得ると共に、導電性粒子による導電パスの形成によって電気伝導性の向上効果が得られ、さらに金属材料(好ましくは金属表面)の少なくとも一部に有機導電性高分子を存在させることで、簡易な方法で被膜形成した場合でも、電池反応環境下で被膜欠陥に起因して生じ得る金属の腐食に対する耐性を助長させ、金属材料に高度の耐腐食性を付与することができる。
【0037】
これにより、燃料電池、例えば固体高分子形燃料電池(PEFC)を構成した場合に、良導性の集電体として機能し、長期間にわたり高い発電効率での安定した発電運転を行なえる長期信頼性(高耐久性)を付与することができる。
【0038】
第3の発明である燃料電池用セパレータは、上記同様に金属材料を用い、該金属材料の少なくとも一部に有機導電性高分子と導電性粒子とを含む被膜を設けて構成したものである。
【0039】
上記の本発明の燃料電池を構成するセパレータと同様に、金属材料を用いるので、機械的強度を保持しつつ薄型で軽量の構成とすることが可能であると共に、導電性粒子による導電パスの形成によって電気伝導性の向上効果が得られ、さらに金属材料(好ましくは金属表面)の少なくとも一部に有機導電性高分子を存在させることで、簡易な方法で被膜形成した場合でも、電池反応環境下で被膜欠陥に起因して生じ得る金属の腐食に対する耐性を助長させ、金属材料に高度の耐腐食性を付与することができる。
【0040】
これにより、燃料電池、例えば固体高分子形燃料電池(PEFC)を構成した場合に、薄型、軽量で長期間にわたり高い発電効率での安定した発電運転を行なえる長期信頼性(高耐久性)を付与することができる。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、薄型、軽量で高耐久性を具えると共に、高出力で安定した発電運転が可能な燃料電池を提供することができる。
【0042】
また、電池反応環境下で高度の耐腐食性を有し、内部生成水の水排出性に優れると共に、導電性能に優れ、湿度等の内部環境に拘わらず高出力で安定した発電運転を可能とするガス拡散体及び、電池反応環境下で高度の耐腐食性を有し、導電性能に優れ、高出力の発電運転を可能とする燃料電池用セパレータを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下、図1〜図5を参照して、本発明の燃料電池の実施形態について詳細に説明すると共に、該説明を通じて本発明の燃料電池用ガス拡散体及び燃料電池用セパレータの詳細についても具体的に説明する。
【0044】
なお、下記の実施形態において、発電運転に用いる燃料として水素ガスを、酸化剤ガスとして空気(酸素)を用いた固体高分子形燃料電池(PEFC)を中心に説明する。但し、本発明においては下記実施形態に制限されるものではない。
【0045】
本実施形態は、SUS(ステンレス鋼)多孔体の表面全体にポリピロール及びカーボンブラックを含む導電性高分子膜が電解重合により被覆形成されてなるガス拡散層と、該ガス拡散層との間に流路を形成するためのリブが設けられている面の全体にポリピロール及びカーボンブラックを含む導電性高分子膜が設けられたチタン製のセパレータとを設けて構成したものである。
【0046】
図1に示すように、本実施形態における燃料電池(単セル)100は、フッ素系イオン交換樹脂膜(高分子電解質膜)10がアノード極20とカソード極30との間に狭持されてなる膜電極接合体40と、膜電極接合体40を更に狭持すると共に、アノード極20との間に水素ガスが通過する、すなわち給排される水素ガス流路(燃料ガス流路)21と、カソード極30との間に空気(エア)が通過する、すなわち給排されるエア流路(酸化ガス流路)31とを形成する一対のセパレータ50,60とで構成されている。
【0047】
アノード極20は、フッ素系イオン交換樹脂膜10の側から順次、既述した電池反応(電気化学反応)を担う触媒層22と集電体として機能するガス拡散層23とが積層されてなり、カソード極30も同様に、フッ素系イオン交換樹脂膜10の側から順次触媒層32とガス拡散層33とが積層されてなるものである。
【0048】
ガス拡散層23,33は、SUS316製の発泡金属多孔体(厚さ500μm、空孔率80%以上、平均空孔径150μm;SUS多孔体)を用いて立体構造に構成されており、図2に示すように、発泡金属多孔体1の表面は一様に導電性を有する高分子からなる被膜(膜厚20μm;高分子膜)2で被覆されている。
【0049】
高分子膜2は、図2のように、発泡金属多孔体1に接触するように直に膜厚10μmの第1の樹脂膜4を設けると共に、該第1の樹脂膜4上に更に膜厚10μmの第2の樹脂膜5が積層された積層構造に構成されている。
【0050】
第1の樹脂膜4は、導電性を有するポリピロール(有機導電性高分子)中に平均粒径20nmのカーボンブラック(導電性粒子)3を分散して含む構成となっており、発泡金属多孔体1と接触する樹脂膜4を構成する高分子材料に導電性を持たせることで、高分子膜2に膜欠陥が存在する場合にSUS露出部の電池反応環境下における腐食が効果的に抑止されるようになっている。また、樹脂膜4を有機導電性高分子で構成すると共にさらに導電性粒子をも含有し、燃料電池に求められる導電性能を確保することができる。
【0051】
前記ポリピロール(ポリピロール系樹脂)以外には、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレン、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリインドール、ポリ−2,5−ジアミノアントラキノン、ポリ(o−フェニレンジアミン)、ポリ(キノリニウム)塩、ポリ(イソキノリニウム)塩、ポリピリジン、ポリキノキサリン、ポリフェニルキノキサリン等を挙げることができ、これらの有機導電性高分子は種々の置換基を有していてもよい。置換基を有する場合の該置換基の具体例としては、アルキル基、水酸基、アルコキシ基、アミノ基、カルボキシル基、スルホン酸基、ハロゲン基、ニトロ基、シアノ基、アルキルスルホン酸基、ジアルキルアミノ基、等を挙げることができる。
【0052】
樹脂膜を構成するポリピロールの厚みとしては、0.1〜30μmが好ましく、1〜10μmがより好ましい。該厚みが、0.1μm未満であると均一な被覆ができないばかりか、防食能が低下することがあり、30μmを超えると欠陥のない被覆が可能なものの、被膜の密着強度が低下して被膜が剥離することがある。
【0053】
さらに、有機導電性高分子はドーパントを含有していてもよく、上記の有機導電性高分子を一種単独で用いる以外に、二種以上を目的等に応じて適宜選択することも可能である。
【0054】
第1の樹脂膜4は、ポリピロール(有機導電性高分子)と共に、非導電性の他の高分子材料を含んでいてもよい。他の高分子材料としては、例えば、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル・メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等の含フッ素樹脂などが挙げられ、特に含フッ素樹脂が好ましい。
【0055】
前記含フッ素樹脂としては、例えば、テトラフルオロエチレン、トリフルオロモノクロロエチレン、トリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、1,1−ジフルオロ−2,2−ジクロロエチレン、1,1−ジフルオロ−2−クロロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロピレン、オクタフルオロイソブチレン、エチレン、塩化ビニル、及びアルキルビニルエステル等の第1群モノマーと、下記一般式(1)で表される群より選択される第2群モノマーとを含む2種または3種以上のモノマーの共重合体、前記第2群モノマーの少なくとも一種よりなる重合体などが挙げられる。
【0056】
〜一般式(1)〜
Y-(CF2)a-(CFRf)b-(CFRf')c-O-〔CF(CF2X)-CF2-O〕n-CF=CF2
【0057】
前記一般式(1)において、Yは−SO2F、−SO3NH、−COOH、−CN、−COF、−COOR(Rは炭素数1〜10のアルキル基を表す。)、−PO32、−PO3Hを表す。aは0〜6の整数を表し、bは0〜6の整数を表し、cは0または1を表し、a+b+c≠0を満たす。nは、0〜6を表し、Xは、塩素原子、臭素原子、フッ素原子またはこれらの混合物を表す。RfおよびRf'は各々独立に、フッ素原子、塩素原子、炭素数1〜10のフルオロアルキル基および炭素数1〜10のフルオロクロロアルキル基よりなる群より選択される基を表す。
【0058】
ポリピロール(有機導電性高分子)の、高分子膜2(ここでは、樹脂膜4及び樹脂膜5の両方)中における含有量としては、高分子膜2の総質量の40質量%以上が好適であり、より好ましくは50質量%以上であり、特に好ましくは50〜60質量%である。該含有量を特に上記範囲とすると、耐腐食性を効果的に向上させることができ、高度の耐久性能を付与することができる。
【0059】
導電性粒子としては、上記のカーボンブラック以外に、他のカーボン粒子(カーボンフィラー、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンファイバーなど)、Ni、Nb、Ta、Ti、Zr、Fe、Cr、Al、Au、Pt等を、場合により適宜選択して用いることができる。中でも、カーボンブラック、カーボンナノチューブが好ましい。
【0060】
カーボンブラック(導電性粒子)の高分子膜2(ここでは、樹脂膜4及び樹脂膜5の両方)中における含有量としては、高分子膜2の総質量の40質量%以上が好適であり、より好ましくは50質量%以上であり、特に好ましくは50〜60質量%である。該含有量を特に上記範囲とすると、燃料電池に求められる導電性を確保することができ、電流密度の高い高出力での電力供給を行ない得る点で効果的である。
【0061】
第2の樹脂膜5は、エポキシ樹脂中に、第1の樹脂膜4に含有されている導電性粒子と同様のカーボンブラック(平均粒径100μm)を分散して含む構成となっており、カーボンブラックにより樹脂層4及び5間に導電パスが形成され、導電性を確保できるようになっている。
【0062】
樹脂膜5は、エポキシ樹脂以外に、例えば、ポリエステル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル・メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、及びポリフッ化ビニリデンやポリテトラフルオロエチレン等の含フッ素樹脂等の高分子材料を用いることができ、場合により適宜選択することができる。中でも特に、含フッ素樹脂が好ましい。含フッ素樹脂については、既述の記載の通りである。
【0063】
また、樹脂膜5の一部としてこれらの高分子材料と共に、あるいは樹脂膜5の全部に、上記した有機導電性高分子を含んでいてもよい。後者の場合には、高分子膜2は図3に示すような単一膜に構成される。
【0064】
樹脂膜5に含有される導電性粒子には、樹脂膜4における場合と同様の導電性粒子を挙げることができ、上記のカーボンブラック以外に、他のカーボン粒子(カーボンフィラー、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンファイバーなど)、Ni、Nb、Ta、Ti、Zr、Fe、Cr、Al、Au、Pt等を、場合により適宜選択して用いることができる。中でも、カーボンフィラー、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンファイバーが好ましい。
【0065】
第1の樹脂膜4(r4)と第2の樹脂膜5(r5)との膜厚比(r4/r5)については、場合により適宜選択することができるが、1/1が好適である。
【0066】
高分子膜2の膜厚は、上記膜厚以外に、0.1〜30μmが好適であり、より好ましくは1〜10μmである。該膜厚を特に上記範囲とすると、高度の腐食耐性が得られ、耐久性能の点で望ましい。また、ポリピロール以外の他の有機導電性高分子による場合も同様である。
【0067】
高分子膜2は、上記のように二層の積層構造に構成された一方(SUS接触側)の膜中にのみ有機導電性高分子を含む形態や、単一膜もしくは複数積層膜に局部的に有機導電性高分子を含む形態など、高分子膜2の一部に有機導電性高分子が含有された構成とするほか、高分子膜2の全部が有機導電性高分子を用いてなる単一膜もしくは複数積層膜よりなる構成であってもよい。
【0068】
高分子膜2を単一膜で構成する場合、例えば図3に示すように、発泡金属多孔体1の表面に、導電性を有するポリピロール(有機導電性高分子)中に平均粒径10nmのカーボンブラック(導電性粒子)3を分散して含む単一の高分子膜5(すなわち高分子膜2)を設けることによって構成することができる。
【0069】
上記において、高分子膜2が単一膜又は複数積層膜のいずれの形態よりなるものであっても、ガス拡散層を構成する基材をなす金属材料(ここではSUS多孔体)に接触させるようにして有機導電性高分子を設けることが、耐腐食性を飛躍的に向上させる点で効果的である。
【0070】
また、高分子膜2に撥水性を付与することで、より水排出性を向上させ得る。上記した二層の積層構造など、複数積層膜よりなる構成では、金属材料(ここではSUS多孔体)から最も遠い最表膜(ここでは第2の樹脂膜5)を撥水性に構成することにより、また、高分子膜2が単一膜よりなる構成では撥水性を持つ有機導電性高分子や他の高分子材料を用いることにより、撥水性を付与できる。
【0071】
発泡金属多孔体1上に高分子膜2を設けて被覆する場合、発泡金属多孔体1の表面が露出した露出部が形成されないように行なうのが望ましいが、上記のように発泡金属多孔体1に接触させて、有機導電性高分子(ここではポリピロール)と導電性粒子(ここではカーボンブラック)とで構成された樹脂膜4を設けるようにするので、必ずしも膜欠陥のない緻密な被膜形成を行なう必要はない。したがって、SUS多孔体に膜形成用に調製された調製液を塗布したり(塗布法)、噴霧する方法(スプレー法)や、前記調製液にSUS多孔体を浸漬する浸漬法、SUS多孔体及びこれと対極をなす例えばPt板を前記調製液に浸し両極間に電圧印加する電気めっき法、あるいはSUS多孔体の表面で電解重合させる電解重合法など、公知の方法から目的等に応じて適宜選択した方法により被膜を形成することができる。
【0072】
上記の発泡金属多孔体を格子状に絡めて成形されたSUS多孔体のように、内部構造が複雑なときには、外部表面のみならず全孔内部のSUS材表面に欠陥がなく緻密で均一な膜形成を行ない得る点で、電解重合法が好適である。電解重合によると孔の内部表面に均一に緻密な被膜を設けることができるほか、多孔体の腐食劣化を効果的に抑止でき、耐腐食性を飛躍的に向上させ得る。
【0073】
次に、SUS多孔体を構成する発泡金属多孔体1の表面に高分子膜2を形成する方法として、第1の樹脂膜4を電解重合法により、第2の樹脂膜5を浸漬法により形成する場合を例により具体的に説明する。
【0074】
水及び必要に応じ水に相溶性の有機溶剤(例えばアルコール等)の水系溶媒にピロールモノマー(電解質)をカーボンブラックと共に加えて電解質溶液を調製し、調製した電解質溶液にSUS多孔体を浸漬する。そして、このSUS多孔体を電源と接続して正極とし、これと対極をなす負極として例えば白金(Pt)を電解質溶液中に設けて、両極間に電圧印加できるように電気的に接続する。この状態で電圧印加し定電流を流すことで、SUS多孔体の外側表面及び孔内部表面の全面(電解質溶液と接触する表面)で電解重合し、浸漬部位である全面をカーボンブラックが分散されたポリピロール膜(樹脂膜4)で覆うことができる。電解重合を行なう条件(液温度、電圧、印加時間など)については、常法に準じて場合により適宜選択すればよい。続いて、含フッ素系樹脂溶解液を調製し、この樹脂溶解液中に樹脂膜4で覆われたSUS多孔体を浸漬し、その後取出して乾燥させることにより、SUS多孔体上の樹脂膜4の上に更にエポキシ膜(樹脂膜5)を積層して成膜することができる。以上のようにして、二層構造よりなる高分子膜2を形成することができる。
【0075】
SUS多孔体の空孔率は、特に制限されるものではないが、水排出性の観点から高い程望ましく、高分子膜2を形成することを考慮し、70%以上であるのが好ましく、80%以上であるのがより好ましい。また、同様の理由から、平均孔径としては、10〜500μmが好ましく、100〜400μmがより好ましい。
【0076】
また、SUS(ステンレス鋼)材以外の前記金属、あるいは格子状に成形された多孔体以外の形態、例えば発泡金属等に構成された場合も同様である。
【0077】
ガス拡散層を発泡金属を用いて構成する場合、発泡金属は公知の方法により作製することができる。例えば、溶融させた金属にガスを吹き込む方法や、中空バルーンを混入する方法、TiH2等の発泡剤を導入して発泡させた後に凝固させる方法など、また、特に高融点の金属を用いる場合には、例えば、水溶性高分子(例えばポリビニールアルコール)及び粉末状にした金属(金属粉)を発泡剤(例えば炭酸水素ナトリウム)と共に混合し、混合後発泡させて乾燥し焼結する方法、金属粉を水溶性高分子と混合、混練してスラリーを調製し、調製されたスラリーにパラフィンワックス等の油成分の溶融物(必要に応じ界面活性剤等を混合)を気泡状に分散し、成形して凍結、室温乾燥させた後、油成分(パラフィンワックス等)を抽出し焼結する方法、等によって好適に行なうことができる。
【0078】
上記より、本実施形態のガス拡散層においては、SUS材を基材として強度(剛性、硬度)を保つと共に、多孔度が確保されており、良好な水排出性を得ることができる。また、二層に構成された高分子膜2は、有機導電性高分子がSUS材に接するようにして形成されており、発電運転させて電池反応環境に曝されたときの腐食を効果的に防止し、高耐久性(耐腐食性)で、電池内部の湿度環境などの変化に拘わらず、長期にわたり高出力で安定した電力供給が行なえるようになっている。
【0079】
ガス拡散層の多孔性の程度としては、空孔率が10〜80%であるの好ましく、平均空孔径が100〜400μmであるのが好ましい。
【0080】
セパレータ50,60は、膜電極接合体40を更に狭持するように設けられると共に、膜電極接合体40を構成するアノード極20との間に水素ガス流路21を形成し、カソード極30との間にエア流路31を形成する。
【0081】
セパレータ50は、導電性の基材51と、基材51のアノード極20と対向する面を一様に覆う膜厚10μmの導電性を有する高分子膜52とで構成されており、基材51は高分子膜52によって電池反応環境下で受け得る腐食から保護されるようになっている。セパレータ50と同様に、セパレータ60もまた、導電性の基材61と、基材61のカソード極30と対向する面を一様に覆う膜厚10μmの導電性を有する高分子膜62とで構成されており、電池反応環境下において基材61が腐食から保護されるようになっている。
【0082】
各セパレータを構成する基材51,61は、厚み(図1中の幅A)0.3mmの薄板状に成形された、ガス不透過のSUSを用いて構成されている。
【0083】
高分子膜52,62はいずれも、同様の構造に構成されている。カソード側を例に説明すると、高分子膜62は図4に示すように、SUS基材61上に、SUS基材61に接触させて直に膜厚10μmの第1の樹脂膜63を設けると共に、該第1の樹脂膜63上に更に膜厚10μmの第2の樹脂膜64が積層された積層構造に構成されている。
【0084】
第1の樹脂膜63は、導電性を有するポリピロール(有機導電性高分子)中に平均粒径100nmのカーボンブラック(導電性粒子)65が分散されており、既述したガス拡散層における第1の樹脂膜4と同様に構成されている。
【0085】
すなわち、SUS基材61と接触する樹脂膜63を構成する高分子材料に導電性を持たせることで、高分子膜62に膜欠陥が存在する場合にチタン露出部の電池反応環境下における腐食が効果的に抑止されると共に、樹脂膜63を有機導電性高分子で構成すると共にさらに導電性粒子65をも含有し、燃料電池に求められる導電性能を確保することができるようになっている。
【0086】
第1の樹脂膜63についても、既述の第1の樹脂膜4と同様に、ポリピロール以外のポリピロール樹脂並びに、ポリアセチレン系樹脂及びその誘導体、ポリアセン系樹脂及びその誘導体、ポリ芳香族ビニレン系樹脂及びその誘導体、ポリアニリン系樹脂及びその誘導体、ポリチオフェン系樹脂及びその誘導体を有機導電性高分子として好適に用いることが可能であり、具体的な化合物例については既述の通りである。また、有機導電性高分子は、更にドーパントを含んでいてもよく、一種単独で用いる以外に二種以上を目的等に応じて適宜選択してもよい。また、第1の樹脂膜63は、ポリピロール(有機導電性高分子)以外に、非導電性の他の高分子材料を含んでいてもよく、他の高分子材料もまた既述した通りである。さらに、導電性粒子の例及びその好ましい態様についても、既述の通りである。
【0087】
セパレータを構成する高分子膜62(ここでは、樹脂膜63及び樹脂膜64の両方)中におけるポリピロール(有機導電性高分子)、及びカーボンブラック(導電性粒子)の含有量は、以下の通りである。なお、ポリピロール以外の有機導電性高分子、カーボンブラック以外の導電性粒子を用いた場合も同様である。
【0088】
すなわち、ポリピロールの含有量としては、高分子膜62の総質量の40質量%以上が好適であり、より好ましくは50質量%以上であり、特に好ましくは50〜60質量%である。該含有量を特に上記範囲とすると、耐腐食性を効果的に向上させることができ、高度の耐久性能を付与することができる。また、カーボンブラックの含有量としては、高分子膜2の総質量の40質量%以上が好適であり、より好ましくは50質量%以上であり、特に好ましくは50〜60質量%である。該含有量を特に上記範囲とすると、燃料電池に求められる導電性を確保することができ、電流密度の高い高出力での電力供給を行ない得る点で効果的である。
【0089】
第2の樹脂膜64は、エポキシ樹脂中に、第1の樹脂膜63に含有されている導電性粒子と同様のカーボンブラック(平均粒径100nm)を分散して含む構成となっており、カーボンブラックにより樹脂層63及び64間に導電パスが形成され、導電性を確保できるようになっている。この樹脂膜64についても、既述したガス拡散層における第2の樹脂膜5と同様に、エポキシ樹脂以外の高分子材料を用いることが可能であり、具体的な化合物例については既述の通りである。また、樹脂膜64の一部あるいは全部に既述の有機導電性高分子を含んでいてもよい。また、樹脂膜64に含有される導電性粒子には、樹脂膜63(すなわち既述の樹脂膜4)における場合と同様の導電性粒子を挙げることができ、好ましい態様も同様である。
【0090】
セパレータを構成する高分子膜62において、第1の樹脂膜63(r63)と第2の樹脂膜64(r64)との膜厚比(r63/r64)については、場合により適宜選択することができるが、1/1が好適である。
【0091】
高分子膜62の膜厚は、上記膜厚以外に、0.1〜30μmが好適であり、より好ましくは1〜30μmである。該膜厚を特に上記範囲とすると、高度の腐食耐性が得られ、耐久性能の点で望ましい。また、ポリピロール以外の他の導電性樹脂による場合も同様である。
【0092】
高分子膜62の膜構造については、上記のように二層の積層構造に構成された一方(SUS基材と接触する側)の膜中にのみ有機導電性高分子を含む形態や、単一膜もしくは複数積層膜に局部的に有機導電性高分子を含む形態など、高分子膜62の一部に有機導電性高分子が含有された構成とするほか、高分子膜62の全部が有機導電性高分子を用いてなる単一膜もしくは複数積層膜よりなる構成であってもよい。
【0093】
高分子膜62を単一膜で構成する場合、例えば図5に示すように、SUS基材61の表面に、導電性を有するポリピロール(有機導電性高分子)中に平均粒径100nmのカーボンブラック(導電性粒子)65を分散して含む単一の高分子膜66(即ち高分子膜62)を設けることによって構成することができる。
【0094】
また、ガス拡散層における場合と同様に、高分子膜62の膜構造に拘わらず有機導電性高分子をセパレータを構成する基材をなす金属材料(ここではSUS基材)に接触させるようにして設けることが、耐腐食性を飛躍的に向上させる点で効果的である。また、高分子膜62に撥水性を付与することも可能であり、より水排出性を向上させ得る。撥水性に関する詳細については既述の通りである。
【0095】
SUS基材61の上に高分子膜62を設けて被覆する場合、基本的にはSUS基材61の表面が露出する露出部が形成されないように行なうのが望ましいが、上記のようにSUS基材61に接触させて、有機導電性高分子(ここではポリピロール)と導電性粒子(ここではカーボンブラック)とで構成された樹脂膜63を設ける場合には、必ずしも膜欠陥のない緻密な被膜形成を行なう必要はない。したがって、既述のガス拡散層における場合と同様の公知の方法から、目的等に応じて適宜選択した方法により被膜を形成することができる。
【0096】
次に、セパレータを構成するSUS基材61の表面に高分子膜62を形成する方法として、第1の樹脂膜63を電解重合法により、第2の樹脂膜64を塗布法により形成する場合を例により具体的に説明する。
【0097】
ピロールモノマー(電解質)0.1モル/l(リットル;以下同様)とパラトルエンスルホン酸0.03モル/lとカーボンブラック10質量%(対母液)と共に、イソプロピルアルコールを5%量(質量;対母液)となるように加え、電解重合に用いる電解質溶液を調製し、調製後15℃に調温された電解質溶液中にSUS基材を浸漬し、5Vの電圧を印加してSUS基材の表面(電解質溶液との接触面)において電解酸化重合させる。電解酸化重合は、例えば、5分毎に電圧の向きを逆転させて正味60分間通電して行なうことができる。この電解酸化重合により、ポリピロールで被覆した後、イオン交換水で充分に洗浄し110℃で乾燥させ、SUS基材表面がポリピロール膜(樹脂膜63)で被覆されたポリピロール導電膜被覆SUS基材が得られる。
【0098】
続いて、同様にカーボンブラックが分散されたアモルファスフッ素樹脂(サイトップCTX−807AP、旭硝子(株)製)のポリテトラフルオロエチレン溶液を調製し、この溶液を、更に樹脂膜63上に塗布して乾燥させ、SUS基材上の樹脂膜63の上に更に樹脂膜64を積層することによって、二層構造よりなる高分子膜62を形成することができる。
【0099】
SUS基材の厚み(図1中の幅A)は、最終的に構成される燃料電池の薄型/軽量化の点で薄い方が望ましく、0.1〜0.5mmが特に好ましい。
【0100】
アノード側の高分子膜52を構成する第1及び第2の樹脂膜についても、上記したカソード側の高分子膜62の場合と同様である。
【0101】
上記したセパレータは、単セルを複数積層してスタック構造をなすときには一つのセパレータが二つの膜電極接合体の間で共有され、セパレータの両側の面において流路が形成されるようになっている。
【0102】
触媒層22,32は、フッ素系イオン交換樹脂膜10の表面に、触媒としての白金又は白金と他の金属とからなる合金を塗布してなるものである。塗布は、白金又は白金と他の金属とからなる合金を担持したカーボン粉を作製し、このカーボン粉を適当な有機溶剤に分散させ、これに電解質溶液(例えば、Aldrich Chemical社、Nafion Solution)を適量添加してペースト化し、フッ素系イオン交換樹脂膜上にスクリーン印刷する方法などによって行なえる。また、前記カーボン粉を含有するペーストを膜成形したシートをフッ素系イオン交換樹脂膜上にプレスしたり、白金等をフッ素系イオン交換樹脂膜と対向する側のガス拡散層の表面に塗布するようにしてもよい。
【0103】
フッ素系イオン交換樹脂膜(高分子電解質膜)10は、イオン導電性を有する電解質で構成することができ、一般にパーフルオロスルホン酸膜などが用いられる。本実施形態は、ナフィオン膜(デュポン社製)で構成した例である。この膜は通常、イオン導電性を高める点から湿潤状態とされ、水素ガスが供給されて得たアノード側の水素イオンは該膜を良好にイオン伝導してカソード側に移動することができる。この湿潤状態は、燃料である水素ガス及び/又はカソード側の酸素を含む空気に加水(加湿)することによって形成できる。
【0104】
燃料電池100は、図1に示すように、アノード側に設けられた水素ガス流路21に水素(H2)密度の高い水素ガスが供給され、カソード側に設けられたエア流路31に酸素(O2)を含む空気(Air)が供給されると、既述した式(1)〜(3)で示す電気化学反応(電池反応)を起こして、外部に電力を供給することができる。そして、本発明の燃料電池においては、相対湿度の高〜低に至る電池内環境下、広範囲な電流密度領域で良好な発電性能が得られる。
【0105】
上記では、SUS製の発泡金属で成形されたSUS多孔体を用いてガス拡散層を構成するようにしたが、SUS材以外の既述の他の金属、特にNi、Nb、Ta、Ti、Zr、Fe、Cr、Al、Au、又はPt、あるいはこれらの合金若しくは複合体を成形した場合も同様である。また、発泡金属を用いた成形体を多孔体として用いたが、SUS材を格子状に絡める等の他の多孔形態とした場合も同様である。
【0106】
また、セパレータを構成する金属基材としてチタンを用いた場合を説明したが、チタン以外の他の金属を用いた場合も同様である。
【0107】
本実施形態では、有機導電性高分子としてポリピロールを用いた場合を説明したが、ポリピロール以外の既述の他の有機導電性高分子を用いた場合においても同様である。上記したガス拡散層においては、SUS多孔体の外側表面と孔内部表面の全面を被覆するようにしたが、目的や場合により必ずしも多孔体の全面(全体)を覆う形態とする必要はなく、多孔体の表面を部分的に覆うようにすることもできる。例えば、多孔体の全孔のうち一部の孔内部、例えば電池反応は電極とプロトン伝導性物質とが接する部分、すなわち三相界面に原料ガスが供給されることで起こるため、反応場である該三相界面付近及びこれに近い領域に存在する孔の内部表面を中心に覆うようにしてもよい。比較的高い耐腐食性の金属(SUSなど)を撥水性の高い導電性樹脂(フッ素置換ポリピロールなど)と組合せた形態に構成する場合など、部分的な被覆によっても発電性能を損なわない水排出性を確保でき、耐腐食性を大きく損なわないような場合に有効である。
【0108】
本発明の燃料電池は、既述の本発明の燃料電池用ガス拡散体及び/又は燃料電池用セパレータを用いて好適に作製することができる。既述のように、この燃料電池用ガス拡散体及び燃料電池用セパレータもまた、(好ましくは金属材料の表面の)少なくとも一部が導電性粒子と(好ましくは電解重合により合成された)有機導電性高分子とを含む被膜で覆われてなるものであるため、必要とされる導電性の保持と電池反応で生成された生成水の水排出性との両立に大きく寄与し、特に金属材料で構成されているときには更に、電池構造上必要とされる強度及び耐腐食性を確保することができる。したがって、これらを備えた燃料電池は、薄型/軽量で高耐久性を有すると共に低廉で、高出力での発電運転を安定的に行なうことが可能である。
【実施例】
【0109】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0110】
(実施例1)
[ガス拡散体の作製]
1)SUS多孔体
SUS316製の発泡金属多孔体(厚さ500μm、空孔率80%以上、平均空孔径150μm)を準備した。
【0111】
2)被覆処理
まず、ピロールモノマー(電解質)0.1モル/l(リットル;以下同様)とパラトルエンスルホン酸0.03モル/lと共に、イソプロピルアルコールを5%量(質量;対母液)となるように加え、電解重合に用いる電解質溶液を調製し、調製した電解質溶液を電解槽に収容して15℃に調温した。
【0112】
次に、収容された電解質溶液中に、表面処理したカーボンブラックを5g/dm3となるように加え、15分間超音波を照射して液中に分散させた。そして、この電解質溶液中に上記の発泡金属多孔体を浸漬し、この発泡金属多孔体と接続された、電圧供給用の電圧供給装置により5Vの電圧を印加し、発泡金属多孔体の外側表面及び全孔の内部表面の全面(電解質溶液との接触面)において電解酸化重合させた。電解酸化重合は、5分毎に電圧の向きを逆転させて正味60分間通電して行ない、ポリピロールで被覆した。その後、イオン交換水で充分に洗浄した後、110℃で乾燥させ、発泡金属多孔体の外側表面及び全孔の内部表面の全面をポリピロール導電膜で被覆した。続いて、カーボンブラックが分散されたアモルファスフッ素樹脂(サイトップCTX−807AP、旭硝子(株)製)のポリテトラフルオロエチレン溶液を調製し、この溶液をポリピロール導電膜上に更に塗布して乾燥させた。このように、発泡金属多孔体上のポリピロール導電膜の上に更にフッ素樹脂膜を積層することによって、二層構造よりなる導電性高分子膜で被覆されてなる、導電膜被覆発泡金属多孔体(本発明のガス拡散体A)を得た。
【0113】
[セパレータの作製]
セパレータ基材として、上記と同一の成分構成からなる厚み0.3mmのSUS316を用意し、燃料電池セルを作製したときにガス拡散体Aと対向する側のSUS表面、すなわちガス拡散体Aとの間に流路を形成するためのリブが設けられている面(リブ間の凹部を含む)の全体に、上記のガス拡散体Aと同様の方法によりカーボンブラック含有のポリピロール導電膜63及びフッ素樹脂膜64を形成した。このようにして、ガス拡散層(ガス拡散体A)と対向する側のSUS表面が、図4に示すように二層構成の高分子膜62で被覆された本発明のセパレータBを作製した。なお、厚みは図6中の幅Aをさす。
【0114】
[燃料電池セルの作製]
次に、得られたガス拡散体A及びセパレータBを用いて、以下のようにして図6に示す構成の燃料電池セル(単セル)200Aを作製した。
【0115】
まず、高分子電解質膜10としてデュポン社製のナフィオン膜(パーフルオロスルホン酸膜)を準備し、各々のナフィオン膜の表面に、白金を担持したカーボン粉を2−プロパノールに分散させた分散溶液(固形分6質量%)5部に更にナフィオンソリューション(Aldrich Chemical社製;電解質溶液)5部を添加してペースト化してなる触媒層用調製液を乾燥膜厚10〜30μmとなるように塗布し、触媒層22,32を設けた。
【0116】
次いで、触媒層22,32の各々の表面に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE;撥水化材)30%及びカーボンブラック70%を混練しその混練物を延伸圧延して厚み30μmのシート状に成形したPTFE膜を、マイクロポーラス層(緩衝層)24,34として設けた。このPTFE膜は、電池反応で生じた生成水の排出性をより確保するために設けたものである。
【0117】
次いで、マイクロポーラス層(PTFE膜)24,34の表面にガス拡散層23,33として、上記より得たガス拡散体Aを配設し、高分子電解質膜10がアノード拡散電極20'とカソード拡散電極30'との間に狭持されてなる膜電極接合体40'を形成した。これに更に、膜電極接合体40'を狭持する一対のセパレータ50,60として上記より得たセパレータBを設け、アノード拡散電極20'とセパレータ50との間に水素ガス流路21を、カソード拡散電極30'とセパレータ60との間にエア流路31をそれぞれ形成して、本発明の燃料電池セル(単セル)200Aとした。
【0118】
[評価]
上記より得た本発明のガス拡散体A(及び本発明のセパレータB)並びに燃料電池セル200Aについて、以下の評価を行なった。評価、計測した結果は下記表1及び図7に示す。なお、セパレータBの耐腐食性については、ガス拡散層体Aの評価にて代用することとした。
【0119】
−耐腐食性の評価−
ガス拡散体Aを、80℃に調温された3.5%塩化ナトリウム水溶液(pH=2;HClにて調整)中に浸漬して、24時間毎に塩化ナトリウム水溶液を採取し、ICP発光分析装置(ICP-AES)を用いて定量を行ない、液中に溶出した地金Feの溶出量を計測した。この溶出量を腐食量を示す指標とし、腐食耐性の評価を行なった。
【0120】
−発電性能の評価−
燃料電池セル200Aに対して、セル設定温度を80℃として2気圧下、80℃で加湿を行ないながら各極に水素ガス又は空気を供給して発電運転を行ない、電圧に対する電流密度(A/cm2)を計測した。計測結果として図7に、横軸を電流密度Iとし、縦軸をセル電圧VとしたI−V曲線を示す。
【0121】
(比較例1)
実施例1の発泡金属多孔体(SUS多孔体)に金めっき処理を行なって、SUS多孔体の外側表面及び全孔の内部表面の全面が金で被覆されてなる、金被覆発泡金属多孔体(比較のガス拡散体a)を得、実施例1と同様にして耐腐食性の評価を行なった。結果は下記表1に示す。
【0122】
(比較例2)
実施例1の「ガス拡散体の作製」及び「セパレータの作製」において、「2)被覆処理」で行なった電解重合による被覆を、下記の樹脂塗布液を用いた塗布による被覆に代えたこと以外、実施例1と同様にして、比較のガス拡散体bを作製し、耐腐食性の評価を行なった。結果は下記表1に示す。
【0123】
〈樹脂塗布液の調製〉
平均粒径0.1μmの炭素粉とアモルファスフッ素樹脂(サイトップCTX−807AP、旭硝子(株)製)とを混合し、導電性樹脂ペースト(樹脂塗布液)を調製した。
【0124】
(比較例3)
実施例1において、ガス拡散体Aを、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)で撥水化処理された炭素繊維からなるカーボンペーパー(空孔率70%;カーボン多孔体)に代えたこと以外、実施例1と同様にして、燃料電池セル(単セル)200aを作製し、発電性能の評価を行なった。結果は図7に示す。
【0125】
【表1】

【0126】
前記表1に示すように、約100時間経過した時点において、本発明のガス拡散体Aでは、地金であるFeの溶出が多かった比較のガス拡散体a及びbに比して、地金Feの溶出量が少なく(ガス拡散体b>ガス拡散体a>本発明のガス拡散体A)、酸性環境の影響による腐食を受けにくかった。すなわち、金属めっき又は非導電性樹脂を用いた塗布による保護では、緻密さに欠けて膜欠陥が多いためにガス拡散体に求められる耐性が得られなかったのに対し、導電性の高分子及び粒子を用いたSUS表面での電解重合による保護では、緻密で耐食性を損なう欠陥の発生のない被膜が行なえ、耐腐食性を向上させることができた。
【0127】
上記において、本発明のガス拡散体Aが良好なの耐腐食性を示したのは更に、ポリピロールが金属表面の電位を引き上げる作用に伴なう、導電性の高分子に固有の耐腐食効果によるものである。この点を確認するため、H2SO4溶液(酸性水溶液)に浸漬した状態で、ポリピロールで被覆した被覆SUS鋼及び、被覆を行なっていない非被覆SUS鋼(いずれも前記SUS多孔体と同一組成のもの)の両者の浸漬電位(V)を測定した。その結果、被覆SUS鋼の浸漬電位は+0.2V(vsAg/AgCl)、非被覆SUS鋼の浸漬電位は−0.6Vであり、電位は明らかに貴な方向にシフトするのが認められた。
【0128】
また、図7のI−V曲線で示すように、本発明のガス拡散体A及びセパレータBを備えた本発明の燃料電池セル200Aでは、比較の燃料電池セル200aに比し、セル内の水排出性(水管理性)が著しく向上しており、広い電流密度領域にわたり良好な発電性能を示し、特に高電流密度域での発電性に優れていた。また、従来型のセパレータを用いた比較の燃料電池セル200bに比し、導電性能の低下を伴なうことなく、薄型で軽量な構成とすることができた。
【0129】
上記したように、本発明のガス拡散体は高い水排出性と高度の耐久性とを兼ね備え、また、本発明のセパレータは高度の導電性及び耐久性を備えており、高い発電効率での安定した発電運転性能と高度の耐久性とに基づく長期信頼性を具えた燃料電池を提供することができる。
【0130】
また、本発明のガス拡散体及びセパレータ、並びに燃料電池は、電気自動車等の車両や船舶、航空機等への電力供給源としての用途に好適に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0131】
【図1】本発明の実施形態に係る燃料電池セルを示す概略断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る燃料電池セルを構成するガス拡散層の膜構成を示す概略断面図である。
【図3】燃料電池セルを構成する他のガス拡散層の膜構成を示す概略断面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る燃料電池セルを構成するセパレータを示す概略断面図である。
【図5】燃料電池セルを構成する他のセパレータを示す概略断面図である。
【図6】本発明の実施形態に係る他の燃料電池セルを示す概略断面図である。
【図7】燃料電池セルにおける電流密度−電圧特性を示すI−V曲線である。
【符号の説明】
【0132】
1…発泡金属多孔体
2,6,52,62,66…導電性の高分子膜
3,65…カーボンブラック
4,63…第1の樹脂膜
5,64…第2の樹脂膜
10…フッ素系イオン交換樹脂膜(高分子電解質膜)
20,20'…アノード拡散電極
22,32…触媒層
23,33…ガス拡散層
30,30'…カソード拡散電極
40,40'…膜電極接合体
50,60…セパレータ
51,61…チタン基材
A…セパレータの厚み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機導電性高分子と導電性粒子とを含む被膜を有してなる燃料電池。
【請求項2】
金属材料を含み、前記金属材料の少なくとも一部に前記有機導電性高分子と前記導電性粒子とを含む被膜を有する請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
高分子電解質膜と、触媒層及びガス拡散層を含み、前記高分子電解質膜を狭む電極対とを有する膜電極接合体並びに、前記膜電極接合体を挟むセパレータを備えた燃料電池であって、前記ガス拡散層及び前記セパレータの少なくとも一方が、前記被膜を少なくとも一部に有する前記金属材料を含む請求項2に記載の燃料電池。
【請求項4】
前記金属材料が、Ni、Nb、Ta、Ti、Zr、Fe、Cr、Al、Au、及びPtより選択される少なくとも一種である請求項2又は3に記載の燃料電池。
【請求項5】
前記有機導電性高分子が、ポリアセチレン系樹脂、ポリアセン系樹脂、ポリ芳香族ビニレン系樹脂、ポリピロール系樹脂、ポリアニリン系樹脂、及びポリチオフェン系樹脂、並びにこれらの誘導体より選択される少なくとも一種である請求項1〜4のいずれか1項に記載の燃料電池。
【請求項6】
前記導電性粒子が、C、B、N、O、H、F、Ni、Nb、Ta、Ti、Zr、Fe、Cr、Al、Au、及びPtより選択される少なくとも一種を含む請求項1〜5のいずれか1項に記載の燃料電池。
【請求項7】
金属材料を含んでなり、前記金属材料の少なくとも一部に有機導電性高分子と導電性粒子とを含む被膜を有する燃料電池用ガス拡散体。
【請求項8】
金属材料を含んでなり、前記金属材料の少なくとも一部に有機導電性高分子と導電性粒子とを含む被膜を有する燃料電池用セパレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−66750(P2007−66750A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−252402(P2005−252402)
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】