説明

燃料電池用ガス拡散層

【課題】 カーボン繊維によるようなGDL材料による電極間の突き抜けの問題が生じにくく、ガス拡散性の良い固体高分子型燃料電池に使用できるGDLを提供する。
【解決手段】 カーボン粒子および撥水剤粒子からなる比較的小径の貫通孔を無数に持つ多孔体焼結粗粒子が、適度に隙間を持ちつつ前記多孔体焼結粗粒子同士が連なって比較的大径の貫通孔を無数に形成してなることを特徴とする、比較的小径の貫通孔と比較的大径の貫通孔を無数に持つ燃料電池用ガス拡散層。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用のガス拡散層(以下、単にGDLとも称する。)、並びにこれを用いた燃料電池用の膜−電極接合体(以下、単にMEAとも称する。)及び燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー・環境問題を背景とした社会的要求や動向と呼応して、常温でも作動して高出力密度が得られる燃料電池が移動体用電源、定置型電源として注目されている。燃料電池は、電極反応による生成物が原理的に水であり、地球環境への悪影響がほとんどないクリーンな発電システムである。特に、電解質に固体高分子電解質を用いた固体高分子型燃料電池は、比較的低温で作動することから、燃料電池自動車から携帯機器(例えば、携帯電話、携帯情報端末、携帯音楽プレイヤ、ノート型パソコンなど)まで幅広い分野での移動体用電源として期待されている。
【0003】
こうした固体高分子型燃料電池のGDLは、反応層(電極触媒層)へのガスの供給、排出、電子及び熱の受け渡しの役割を持つ。そのため、固体高分子型燃料電池のGDLでは、こうした役割を達成するのに適している150μm程度のカーボンペーパー又はカーボンクロスが、通常用いている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開昭60−140668号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載されているようなGDL用の従来のカーボンペーパー又はカーボンクロスの材料は、カーボン繊維を紙又は布状に加工した物である。当該カーボン繊維の径は10μm程度で該繊維は硬く強靱であるため、固体電解質を突き抜けアノード極(燃料極)とカソード極(空気極)とが短絡する欠点があった。また、GDLとバイポーラプレート等のセパレータとの接触抵抗を下げるため締め付け圧力を上げると脆いために繊維が崩れてしまう欠点もある。
【0005】
この突き抜けの心配のないGDLとして、食塩電解の酸素陰極に用いられているように、カーボンブラック粒子とポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEともいう)粒子で構成することができる。しかしながら、この食塩電解の酸素陰極をGDLとして適用しようとした場合には、0.1μm程度の平均空孔(細孔)しか持たないので固体高分子型燃料電池用には空孔径(細孔径)が小さすぎ、ガス拡散性が低すぎるものであった。その結果、かかるGDLを燃料電池に適用した場合には、電池性能が低くなるという問題があった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、カーボン繊維によるようなGDL材料による電極間の突き抜けの問題が生じにくく、ガス拡散性の良い固体高分子型燃料電池に使用できるGDLを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、カーボン粒子および撥水剤粒子からなる比較的小径の貫通孔を無数に持つ多孔体焼結粗粒子が、適度に隙間を持ちつつ前記多孔体焼結粗粒子同士が連なって比較的大径の貫通孔を無数に形成してなることを特徴とする、比較的小径の貫通孔と比較的大径の貫通孔を無数に持つ燃料電池用ガス拡散層により上記目的が達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明のGDLによれば、多孔体焼結粗粒子の中のカーボン粒子および/または撥水剤粒子同士の隙間に形成される比較的小さい空孔(小径の貫通孔)と、多孔体焼結粗粒子同士の隙間に形成される比較的大きな空孔(大径の貫通孔)とを有する。このように大小2つの空孔(貫通孔)を持つことにより、水を比較的大きな空孔を通じて速やかに給水・排水することができる。また、ガスについては、水が排水または給水中で比較的大きな空孔(貫通孔)内部を通過中であっても、多孔体焼結粗粒子内部に存在する無数の比較的小さな空孔(貫通孔)を通じてガス拡散(透過)させることができる。そのため、給・排水によりガス拡散経路(貫通孔)が塞がれにくい構造とすることができる。その結果、ガスの拡散が飛躍的に増大するので、当該GDLを用いた燃料電池の性能を格段に向上させることができる。また、多孔体焼結粗粒子は、焼結を行って得られた焼結体由来であるため緻密かつ非常に強固で安定なため、大小いずれの空孔(貫通孔)も潰れにくい構造となっている。そのため、本発明のGDLでは、該GDLを燃料電池に組み込んだ場合の高加圧状態で長期にわたり変形しないので燃料電池の耐久性を大幅に向上することができる点も優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に係るGDLは、カーボン粒子および撥水剤粒子からなる比較的小径の貫通孔を無数に持つ多孔体焼結粗粒子が、適度に隙間を持ちつつ前記多孔体焼結粗粒子同士が連なって比較的大径の貫通孔を無数に形成してなることを特徴とする、比較的小径の貫通孔と比較的大径の貫通孔を無数に持つGDLである。
【0010】
別言すれば、多孔体焼結粗粒子を用いて構成された燃料電池用ガス拡散層であって、前記多孔体焼結粗粒子が、カーボン粒子と撥水剤粒子とを用いて形成されており、前記カーボン粒子および/または撥水剤粒子同士の隙間に多数形成される空孔の平均孔径が、前記多孔体焼結粗粒子同士の隙間に多数形成される空孔の平均孔径より小さいことを特徴とするものであるともいえる。また、本発明に係る燃料電池用膜−電極接合体(MEA)は、本発明のGDLを使用したことを特徴とするものであり、本発明に係る燃料電池は、本発明のMEAを使用したことを特徴とするものである。なお、本発明では、MEAの構成部材に、GDLを含めるものとする。
【0011】
本発明のGDLでは、上記したように多孔体焼結粗粒子の中のカーボン粒子および/または撥水剤粒子同士の隙間に形成される比較的小さい空孔(平均孔径0.2μm以下の比較的小径の貫通孔)と、前記多孔体焼結粗粒子同士の間に形成される比較的大きな空孔(平均孔径0.5μm以上の比較的大径の貫通孔)を無数に持つ。これにより、比較的小さな小径の貫通孔は主にガスの透過、比較的大きな大径の貫通孔は主に水の透過に寄与させることができる。また、多孔体焼結粗粒子同士の間に形成される比較的大きな空孔を通じて水を容易に供給・排水させることができ、なおかつ比較的小さな空孔と比較的大きな空孔の双方を通じてガスについても容易に拡散(透過)させることができる。そのため、本発明のGDLでは、ガスの拡散が飛躍的に増大するので、当該GDLを用いた燃料電池の性能を格段に向上させることができる。また、多孔体焼結粗粒子という粒子物(縦横比か小さいもの)を用いて構成されているため、カーボン繊維(縦横比か非常に大きいもの)によるようなGDL材料による電極間の突き抜けの問題が生じにくい構造(構成)とすることもできる。また、本発明のGDLを構成する多孔体焼結粗粒子は、撥水剤をフィブリル化しない条件で製造しているため、緻密かつ非常に強固で安定なため、大小いずれの空孔(貫通孔)も潰れにくい構造となっている。そのため、本発明のGDLを燃料電池に組み込んだ場合の高加圧状態で長期にわたり変形しないので、燃料電池の耐久性を大幅に向上することができる点も優れている。なお、上記した食塩電解の酸素陰極に用いられているようなGDLでは、カーボンブラック粉末とPTFE粒子を分散させた分散液を濾過するためにイソプロピルアルコールで凝集させる、このときPTFE粒子同士が集合し、フィブリル化の基が作られる。濾過物は乾燥後、ソルベントナフサを加えられ、混練、ロール工程で剪断力が加わりPTFEが容易にフィブリル化する。ソルベントナフサが除去された大きな穴(空孔)は、ホットプレス時の加温、加圧下で潰れてしまう。そのため、平均空孔(細孔)が0.1μm程度と比較的狭い空孔しかなかったために、当該狭い空孔内への水(生成水など)の給・排水しにくく、該空孔内を給・排水移動する際に狭い空孔内を塞ぐことになり、ガス拡散に利用できる空孔(経路)が減少し、GDL全体のガス拡散性が十分でなく、低すぎる結果となっていたといえる。その結果、かかるGDLを燃料電池に適用した場合には、電池性能が低くなるという問題があった。
【0012】
以下、図面を用いて本発明で用いられうる燃料電池について説明する。図1は、本発明の構成を有するGDLを使用した燃料電池の基本構成(単セル構成)を模式的に表した断面概略図である。本発明はこれに限定されない。図2Aは、本発明のGDLを使用したMEAの基本構成を模式的に表した断面概略図である。図2Bは、図2AのGDLを構成する多孔体焼結粗粒子及び多孔体焼結粗粒子同士の間に形成される比較的大きな空孔(大径貫通孔)の様子が分かるように、GDLの一部を拡大して模式的に表した概略図である。図2Cは、図2Bの多孔体焼結粗粒子を構成するカーボン粒子と撥水剤粒子、並びにカーボン粒子および/または撥水剤粒子同士の間に形成される比較的小さな空孔(小径貫通孔)の様子が分かるように、1つの多孔体焼結粗粒子を拡大して模式的に表した概略図である。図2Dは、基材と本発明の構成を有するカーボン粒子層(MIL)からなるGDLを使用したMEAの基本構成を模式的に表した断面概略図である。
【0013】
図1において燃料電池(単セル)10は、電解質膜11の両側に、アノード側触媒層12aとカソード側触媒層12bとがそれぞれ対向して配置されている。さらにアノード側触媒層12aとカソード側触媒層12bの両側(外側)に、アノード側GDL13aおよびカソード側GDL13bとがそれぞれ対向して配置され、MEA14を構成している。この各GDL13a、13bの両側(外側)にアノード及びカソードパレータ15a、15bが配置されている。該セパレータ15a、15bの内部にはガス流路(溝)16a、16bが設けられている。このガス流路(溝)16a、16bを通じて、水素含有ガス(例えば、Hガスなど)及び酸素含有ガス(例えば、Airなど)がアノード側及びカソード側のGDL13a、13bを通して触媒層12a、12bにそれぞれ供給される。さらに、ガスが外部へ漏洩することを防止するために、電解質膜11の外周領域とセパレータ15a、15bとの間にガスケット17がそれぞれ配置されている。
【0014】
以下、本発明の特徴部分であるGDL、更にこれを用いてなる固体高分子形用燃料電池につき、構成要件ごとに説明する。
【0015】
(1)GDL13
図1、2Aに示すように、触媒層12に隣接するようにGDL13を配置することにより、触媒層12、更には電解質膜11が均一に加湿されて、高い水素イオン伝導性を発現することができる。詳しくは、カソード側GDL13bでは、酸化剤ガスを連続的に供給することができ、カソード側の化学反応をスムーズに行うことができ、さらに、化学反応により発生した水を分散させて触媒活性の低下を防止させることができる。アノード側GDL13aでは、水素含有ガスを連続的に供給することができ、アノード側の化学反応をスムーズに行うことができる。GDL13は、アノード側及びカソード側の両方に配置してもよいし、アノード側またはカソード側のどちらか片面にのみ配置してもよい。好ましくは、図1、2Aにあるように、アノード側及びカソード側の両方に配置するのが望ましい。
【0016】
本発明のGDL13においては、図2B、2Cに示すように、多孔体焼結粗粒子21を用いて構成されたものであって、前記多孔体焼結粗粒子21が、カーボン粒子211と撥水剤粒子212とを用いて形成されている。そして、前記カーボン粒子211および/または撥水剤粒子212同士の間に形成される空孔(小径貫通孔)213が、前記多孔体焼結粗粒子21同士の間に形成される空孔(大径貫通孔)22より小さいことを特徴とするものである。
【0017】
ここで、多孔体焼結粗粒子21は、焼結体であり、焼結時にPTFE等の撥水剤粒子212が溶融しバインダとして作用し、カーボン粒子211および/または撥水剤粒子212同士が、相互に接合(結着)した構造となっている。ただし、焼結時にせんだん応力がかからないので、撥水剤粒子212はフィブリル化せず粒子形態のまま、多孔体焼結粗粒子21が形成されている。そして、カーボン粒子211および/または撥水剤粒子212同士の間に生じる隙間が無数(多数)の空孔(小径貫通孔)213を形成している。即ち、多孔体焼結粗粒子21は、無数の小径貫通孔213を有する焼結多孔体となっている。かかる多孔体焼結粗粒子23の空孔(小径貫通孔)213の孔径は小さく、水分不透過でかつガス透過し得るサイズの細孔領域を形成することができるのが望ましいものである。
【0018】
またGDL13は、成形体であり、多孔体焼結粗粒子21を加温、加圧下で成形時に、各多孔体焼結粗粒子21表面にある撥水剤粒子212が溶融しバインダとして作用し、多孔体焼結粗粒子21同士が、相互に接合(結着)した構造となっている。なお、成形時にせん断応力が加えられても、撥水剤粒子の集合体が形成されていないので多孔体焼結粗粒子21は非常に強固で変形しにくい。そして、多孔体焼結粗粒子21粒子同士の間に生じる隙間が無数(多数)の空孔(大径貫通孔)22を形成している。即ち、GDL13は大小2つの空孔(小径貫通孔)213及び空孔(大径貫通孔)22を有する多孔成形体となっている。かかる多孔体焼結粗粒子21間の空孔(大径貫通孔)22の孔径は、空孔(小径貫通孔)213よりも大きく、水分及びガス透過し得るサイズの空孔領域を形成することができるのが望ましいものである。
【0019】
上記したように、本発明のGDL13は、硬い緻密な多孔体焼結粗粒子21同士が適度な隙間(大径貫通孔)22を持って連なった構造を有している。図3は、本発明のGDLを構成する多孔体焼結粗粒子同士の連なりの様子を表したGDLの切断面の走査型電子顕微鏡写真である。図3Aは、平均粒径150μmの多孔体焼結粗粒子により形成されたGDLの切断面の走査型電子顕微鏡写真であり、図3Bは、平均粒径250μmの多孔体焼結粗粒子により形成されたGDLの切断面の走査型電子顕微鏡写真である。
【0020】
本発明のGDLでは、多孔体焼結粗粒子がこの粗粒子に最近接している隣の該粗粒子と相互に接合した構造を有していることが望ましい。これら多孔体焼結粗粒子間の相互接合の様子は、図3A、Bに示すように、いずれも多孔体焼結粗粒子同士が、乱積み、玉石谷積み、玉石布積みの如く、該粒子間に隙間を持ちつつ石垣状に連なって接合した構造(以下、石垣構造ともいう)を有しているのが望ましい。こうした石垣構造は、硬い緻密な焼結体を粉砕して得られる多孔体焼結粗粒子21が石垣石のような形状に粉砕されるためと考えられる。したがって、本発明のGDLでは、硬い緻密な焼結体を粉砕して得られる多孔体焼結粗粒子21が丸みを帯びて球状になるよう粉砕すれば、図2Bに示すように球状の多孔体焼結粗粒子同士が連なって接合した構造とすることも可能である。
【0021】
なお、上記石垣構造(石積構造)には、大きく分けて乱積み、谷積み、布積みの3種類ある。このうち本発明のGDLでは、図3A、Bのように、GDL表面の電子顕微鏡写真に表される多孔体焼結粗粒子同士の連なり方が、これら多孔体焼結粗粒子をいわば石に見立てた場合に、石垣(石積)における乱積み構造、玉石谷積み構造、玉石布積み構造のように、いずれも石同士の間に隙間が存在する石垣構造(石積構造)を有しているのが望ましいものである。図4A〜4Cは、実際の石垣(石積)における乱積み構造、玉石谷積み構造、玉石布積み構造モデルを模式的に表した概略図である。なお、図4D〜4Hに示すように、石垣(石積)における整層積み、乱層積み、乱整層積み、切石布積み、切石乱積みの如く、多孔体焼結粗粒子同士が、該粒子間に隙間を持たないように石垣状に連なって接合した構造は、本発明でいう、石垣構造には含めないものとする。本発明では、図4Aの乱積みの石垣構造が作りやすく、得られやすいといえる(図3A、Bで実際に得られた石垣構造でもある。)。
【0022】
本発明のGDLにおいて、カーボン粒子211と撥水剤粒子212とを用いて形成された多孔体焼結粗粒子21による構成としたのは、第1に、カーボン繊維によるようなGDL材料による電極間の突き抜けの問題が生じにくい構成とすることができるためである。第2に、カーボン粒子211と撥水剤粒子212を焼結し微粉砕して得られる多孔体焼結粗粒子21は、焼結体であるため緻密かつ非常に強固で安定なため、大小いずれの空孔(貫通孔)22、213も潰れにくい構造を実現することができる。かかる構造のGDLを燃料電池に組み込んだ場合に、当該GDLは高加圧状態で長期にわたり変形しないので燃料電池の耐久性を大幅に向上するのに貢献することができるためである。
【0023】
以下、GDLを構成する多孔体焼結粗粒子について説明する。
【0024】
前記多孔体焼結粗粒子21は、上記したように硬い緻密な焼結体を粉砕して得られるものであり、引っ張り強度が20kgf/cm以上、好ましくは20〜40kgf/cmであり、破断変形率が20%以下、好ましくは15%以下、より好ましくは5〜10%の範囲であるのが望ましい。ここで、多孔体焼結粗粒子21の引っ張り強度が20kgf/cm以上であれば、大径孔が潰れない。かかる粒子21同士を適度な隙間を持って連ねることで形成される小さい空孔213と大きな空孔22が、製造過程や燃料電池内で加温、加圧状態におかれても潰れにくい粒子の内部構造及び粒子間構造を提供することができる。多孔体焼結粗粒子21の破断変形率が20%以下であれば、成型後シート(GDL)の形状安定性に優れ、取り扱い性に優れる。
【0025】
前記多孔体焼結粗粒子21の平均粒径は、多孔体焼結粗粒子21同士の隙間に生じる空孔(貫通孔)22が所望の大きさ(詳しくは水分及びガス透過し得る範囲、具体的には0.5μm以上)となるように、適宜決定すればよいい。具体的には、前記多孔体焼結粗粒子の平均粒径が、1〜500μm、好ましくは5〜200μm、より好ましくは5〜100μmの範囲である。このように多孔体焼結粗粒子のサイズ違いで比較的大きなサイズの貫通孔(空孔)の径、分布数を、本発明の作用効果を有効に奏するように制御することができるものである。こうした比較的大きなサイズの貫通孔のサイズ、分布数の変更により、例えば、水の透過性を有効且つ効果的に制御することができる点で優れている。多孔体焼結粗粒子の平均粒径が1μm以上であれば、液水を容易に通過せしめる比較的大きな空孔を得ることが出来る。また、多孔体焼結粗粒子の平均粒径が500μm以下であれば、成膜が容易となる。
【0026】
また、大小2つの空孔の大きさとしては、上記したように、ガス透過性を高めることができることが望ましく、かかる観点から前記カーボン粒子および/または撥水剤粒子同士間に形成される比較的小さな空孔(小径貫通孔)は、平均孔径が0.2μm以下、好ましくは0.05〜0.2μm、より好ましくは0.07〜0.1μmの小径貫通孔を多数(無数)に有するのが望ましい。一方、前記多孔体焼結粗粒子同士間に形成される比較的大きな空孔は、平均孔径が0.5μm以上、好ましくは0.5〜100μm、より好ましくは1〜50μmの大径貫通孔を多数(無数)有するのが望ましい。
【0027】
上記小径貫通孔の平均孔径、大径貫通孔の平均孔径の上限に関しては特に制限が無いが、が0.05μm以上であれば、ガス透過が可能であるほか、液水不透過でかつ水蒸気が透過し得るサイズの空孔領域とすることができる。なお、水分透過性は、小径貫通孔の孔径の大きさに加え、撥水剤粒子による撥水作用により、小径貫通孔の入口表面で水が弾かれて、小径貫通孔内部に浸入しにくい構造となっている。そのため、当該小径貫通孔の孔径に関しては、撥水作用も考慮して、最適なガス透過性となる小径貫通孔の孔径を決定するのが望ましい。上記小径貫通孔の平均孔径が0.2μm以下であれば、液水は容易に進入できないほか、緻密で強固な粒子構造を保持した上で、液水不透過でかつガス透過し得るサイズの空孔領域を形成することができる。
【0028】
上記大径貫通孔の平均孔径が0.5μm以上であれば、水分及びガス透過し得るサイズの空孔領域とすることができる。また、大径貫通孔の平均孔径の上限に関しては特に制限が無いが、100μm以下であれば、シートの取り扱い性が容易であり、水分及びガス透過し得るサイズの空孔領域を形成し、高いガス拡散性を発現することができる。
【0029】
また、上記多孔体焼結粗粒子は、(1)カーボン粒子と撥水剤粒子とを非イオン性界面活性剤の存在下で水中に分散させてカーボン・撥水剤粒子分散液を調製し、前記カーボン・撥水剤粒子分散液を非イオン性界面活性剤の相分離現象を用い濃縮し、さらに前記相分離濃縮したものを乾燥、加熱焼結して混合焼結体を形成し、前記混合焼結体を微粉化して得られたものであることが望ましい。あるいは(2)カーボン粒子と撥水剤粒子とを非イオン性界面活性剤の存在下で水中に分散させてカーボン・撥水剤粒子分散液を調製し、前記カーボン・撥水剤粒子分散液を電着して固形分を析出し、前記固形分を焼結して混合焼結体を形成し、前記混合焼結体を微粉化して得られたものであることが望ましい。これらの詳細に関しては、以下の多孔体焼結粗粒子の製造方法の説明において、図面を用いて説明するため、ここでの説明は省略する。
【0030】
なお、本発明のGDLでは、上記多孔体焼結粗粒子以外に、本発明の作用効果を損なわない範囲内であれば、他の構成部材を適量含有していても良い。具体的には、例えば、カーボンナノチューブ、球状活性炭、球状黒鉛などが挙げられるが、これらに制限されるものではない。
【0031】
次に、上述した多孔体焼結粗粒子の構成部材につき、カーボン粒子及び撥水剤粒子を中心に説明する。
【0032】
(i)カーボン粒子211
上記多孔体焼結粗粒子21を構成するカーボン粒子の材質(種類)としては、GDLに導電性(電気伝導性)及び多孔質性を付与することができるように、従来公知のGDL材料であるカーボンペーパーやカーボンクロスなどに用いられていたのと同様の導電性カーボン材料を用いることができる。具体的には、例えば、黒鉛、膨張黒鉛などの従来一般的なものであればよい。なかでも、電子伝導性に優れ、比表面積が大きいことから、オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックが好ましく挙げられる。
【0033】
上記カーボン粒子の形状は、従来のカーボン繊維のように電極間を突き抜けアノード極(燃料極)とカソード極(空気極)とが短絡することがないように、粒子状であることが望ましい。具体的には、カーボン粒子の縦横比(アスペクト比)が1〜3、好ましくは1〜2の範囲である。
【0034】
上記カーボン粒子の平均二次粒径としては、上記平均孔径の小径貫通孔を持つ上記平均粒径を有する多孔体焼結粗粒子を形成することができるものが望ましく、200〜1000nm、好ましくは300〜600nmの範囲である。カーボン粒子の平均1次粒径が30nm以上で比表面積は100m/g以下が好ましい。
【0035】
カーボン粒子の粒径は、例えば、SEM(走査型電子顕微鏡)観察、TEM(透過電子顕微鏡)観察などにより測定することができる(図9A参照)。なお、カーボン粒子の中には、上記したように縦横比が違う粒子が含まれている場合もある。したがって、上記でいう粒径などは、粒子の形状が一様でないことから、絶対最大長で表すものとする。この点は、後述する撥水剤粒子の粒径等においても同様である。ここで、絶対最大長とは、粒子(例えば、カーボン粒子や撥水剤粒子等)の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の長さをとるものとする。
【0036】
上記カーボン粒子の配合比率は、上記した導電性(電気伝導性)を有効に発揮する観点から、GDL全量に対して80〜50質量%、好ましくは70〜60質量%の範囲である。カーボン粒子の配合比率が50質量%以上であれば良好な導電性を確保できる。一方、カーボン粒子の配合比率が80質量%以下であれば撥水材による結着作用により必要な強度が得られるものである。
【0037】
(ii)撥水剤粒子212
上記多孔体焼結粗粒子21を構成する撥水剤粒子212の材質(種類)としては、GDL13でも触媒層12と同様に撥水性を高めてフラッディング現象を防ぐことができるように、従来GDLに用いられていた撥水剤(例えば、撥水材料や表面だけを撥水処理した材料等)と同様のものを用いることができる。かかる撥水剤粒子の材質(種類)としては、特に限定されないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系の高分子材料、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。なかでも、撥水性、電極反応時の耐食性などに優れることから、フッ素系の高分子材料が好ましく用いられる。特に好ましくは、カーボン粒子同士を結着させ、かつ撥水性表面を形成させることができることから、PTFE、FEPのフッ素系の高分子材料が特に望ましいものである。さらに、こうした好適な撥水性材料を用いることで、電気抵抗の低減と、撥水性細孔(主に比較的小さな空孔)による液水の透過防止(ガス通路優先)機能を付与することができるものである。
【0038】
上記撥水剤粒子の形状は、従来のカーボン繊維のように電極間を突き抜けアノード極(燃料極)とカソード極(空気極)とが短絡することがないように、粒子状であることが望ましい。具体的には、撥水剤粒子の縦横比(アスペクト比)が1〜4、好ましくは1〜2の範囲である。
【0039】
言い換えれば、前記撥水剤粒子は、撥水剤粒子の60%以上、好ましくは80%以上、特に好ましくは100%(全撥水剤粒子)がフィブリル化していないことが望ましいものである。よって、撥水剤粒子(例えば、PTFE)がフィブリル化していないとは、撥水剤粒子が縦横比の小さい形状、例えば、粒状形状または層状形状で存在しているものと言える。このように撥水剤粒子(例えば、PTFE)がフィブリル化(繊維化)していないため、多孔体焼結粗粒子やGDLの構造を強固にでき、電極間の短絡などの問題も防止できる点で優れている。
【0040】
撥水剤粒子のフィブリル化は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM画像)により観察することができる(図9A、Bを対比参照のこと)。
【0041】
上記撥水剤粒子の引っ張り強度は、撥水剤粒子100%で焼結体とし測定されるものとする。撥水剤粒子の引っ張り強度が10MPa以上、好ましくは10〜30MPaの範囲であるのが望ましい。撥水剤粒子の引っ張り強度が10MPa以上であれば、強固な焼結粗粒子を得ることが出来るのであり好ましい。また、撥水剤粒子の引っ張り強度の上限値としては特に制限されるものではない。
【0042】
上記撥水剤粒子の平均粒径としては、上記平均孔径の小径貫通孔を持つ上記平均粒径を有する多孔体焼結粗粒子を形成することができるものが望ましく、100〜500nm、好ましくは200〜300nmの範囲である。撥水剤粒子の粒径は、例えば、SEM観察、AFM(原子間力顕微鏡:Atomic Force Microscope)観察などにより測定することができる(図9A参照)。なお、撥水剤粒子の中には、上記したように縦横比が違う粒子が含まれている場合もあり、粒子の形状が一様でないことから、粒径は絶対最大長で表すものとする。絶対最大長については、上記カーボン粒子の粒径において説明した通りである。
【0043】
また、上記カーボン粒子と撥水剤粒子との混合比は、カーボン粒子が多過ぎると期待するほど撥水性が得られない恐れがあり、撥水剤粒子が多過ぎると十分な電子伝導性が得られない恐れがある。これらを考慮して、当該GDLにおけるカーボン粒子と撥水剤粒子との混合比は、質量比で、8:2〜4:6、好ましくは7:3〜5:5の範囲とするのがよい。
【0044】
次に、上記カーボン粒子の平均粒径(d1)と撥水剤粒子の平均粒径(d2)とは、上記した導電性(電気伝導性)と撥水性が発揮でき、これら粒子同士の間に生じる空孔の数及び径を制御する上で、d1/d2は0.5〜5、好ましくは1〜2の範囲である。d1/d2が5を超える場合には十分な電子伝導性が得らない。一方、d1/d2が0.5未満であれば十分な引っ張り強度が得られないのである。
【0045】
(iii)多孔体焼結粗粒子21を構成する任意の構成部材
上記多孔体焼結粗粒子21は、上記カーボン粒子と撥水剤粒子から構成されるものであるが、更に本発明の作用効果を損なわない範囲内であれば、他の構成部材を含んでいてもよい。具体的には、例えば、導電性(電気伝導性)を備えてなるカーボンナノチューブ、粒状活性炭、粒状黒鉛などを用いてもよい。
【0046】
ここで、カーボン粒子とカーボンナノチューブとの混合比率は、カーボン粒子100質量部に対し、カーボンナノチューブが2〜25質量部、好ましくは5〜15質量部の範囲が望ましい。カーボン粒子100質量部に対しカーボンナノチューブの配合量が2質量部以上であれば導電性の向上が見られる。一方、カーボン粒子100質量部に対しカーボンナノチューブの配合量が25質量部以下であれば膜への突き刺さりなどの問題もなく、成膜性を損なわないものである。
【0047】
上記カーボンナノチューブの長さは、1〜20μm、好ましくは5〜15μmの範囲である。長さが1μm以上であれば導電性が増し、長さが20μm以下であれば分散性も良好である。焼結体を粉砕して多孔体焼結粗粒子21を得る際に、該カーボンナノチューブが多孔体焼結粗粒子21同士を数珠状ないし網目状につないだ状態となることなく、多孔体焼結粗粒子21を得ることができる。またカーボンナノチューブのチューブ直径(太さ)は150〜10nm、好ましくは100〜20nmの範囲である。
【0048】
(iv)カーボン粒子および/または撥水剤粒子同士の隙間に形成される空孔(小径貫通孔)
前記カーボン粒子および/または撥水剤粒子同士の隙間に形成される空孔(小径貫通孔)の大きさ(平均孔径)については、既に説明した通りであるので、ここでの説明は省略する。
【0049】
多孔体焼結粗粒子の空孔(小径貫通孔)の数としては、良好なガス拡散性が得られるものであればよい。
【0050】
また、本発明におけるGDL13a、13bの厚さは、燃料ガスの拡散性などを向上させるには薄い方が望ましい。従って、所望の特性を有するMEA(燃料電池)が得られるように適宜決定すればよい。具体的には、GDL13a、13bの厚さは、それぞれ30〜500μmが好ましく、より好ましくは100〜200μmである。GDLの厚さが30μm以上であると取り扱い性に優れ、所望する電極出力を十分に確保することができる点で好ましく、500μm以下であれば必要な燃料ガスの供給が可能である。
【0051】
次に、本発明のGDLの製造方法につき、図面を用いて説明する。
【0052】
図5は、本発明のGDLに用いる多孔体焼結粗粒子の製造方法の代表的な実施形態(製法1と称する)として、多孔体焼結粗粒子用の混合焼結体を形成するまでの製造過程を表した工程概略図である。図6は、本発明のGDLに用いる多孔体焼結粗粒子の製造方法の代表的な他の実施形態(製法2と称する)として、多孔体焼結粗粒子用の焼結体を形成するまでの製造過程を表した工程概略図である。図7は、製法1または2で得られた多孔体焼結粗粒子用の混合焼結体を用いたGDLの製造方法の代表的な実施形態を表した工程概略図である。以下、多孔体焼結粗粒子の製造方法と、これにより得られた多孔体焼結粗粒子を用いたGDLの製造方法に分けて説明する。
【0053】
(1)多孔体焼結粗粒子の製造方法(製法1)について(図5、図7A〜B参照)
本発明のGDLに用いる多孔体焼結粗粒子の製造方法の代表的な実施形態(製法1と称する)としては、カーボン粒子と撥水剤粒子とを非イオン性界面活性剤の存在下で水中に分散させてカーボン・撥水剤粒子分散液を調製し(カーボン・撥水剤粒子分散液の調製工程ともいう)、前記カーボン・撥水剤粒子分散液を非イオン性界面活性剤の相分離現象を用い濃縮し(相分離濃縮工程ともいう)、さらに前記相分離濃縮したものを加熱焼結して混合焼結体を形成し(混合焼結体の形成工程ともいう)、前記混合焼結体を微粉化して所望の多孔体焼結粗粒子を得る(混合焼結体の微粉化工程ともいう)ことができる。本発明の製造方法(製法1、更には後述する製法2〜4)では、カーボン粒子と撥水剤粒子を剪断応力が加わらないために(撥水剤粒子のフィブリル化を起こさないように液体状態から)乾燥し、撥水剤粒子の融点以上で焼結(焼成)することができ、ヤング率の高い、引っ張り強度はほぼ同程度で脆く、圧縮変形がし難い焼結体が得られることを見いだし、これを粉砕し、再インク化してGDLを形成すれば、所望のGDLが得られることを知得するに至ったものである。
【0054】
(i)カーボン・撥水剤粒子分散液の調製工程(図5A、B参照)
本工程では、カーボン粒子と撥水剤粒子とを非イオン性界面活性剤の存在下で水中に分散させてカーボン・撥水剤粒子分散液を調製する。
【0055】
ここで、カーボン粒子及び撥水剤粒子については、既に説明したとおりであるので、ここでの説明は省略する。
【0056】
上記カーボン粒子の配合量としては、カーボン・撥水剤粒子分散液に対して1〜10質量%、好ましくは5〜9質量%の範囲である。上記撥水剤粒子の配合量としては、カーボン・撥水剤粒子分散液に対して1〜10質量%、好ましくは3〜6質量%の範囲である。
【0057】
上記非イオン性界面活性剤としては、上記カーボン粒子及び撥水剤粒子を凝集させることなく、微粒化した状態で、溶媒である水中に分散、好ましくは均一に高分散させることができることができるものであればよい。上記非イオン性界面活性剤としては、具体的には、Triton X−100等のポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルであるN−100などを挙げることができるが、これらに何ら制限されるものではない。好ましくは相分離の観点から、適度な曇点を有するTriton X−100、N−100が好適である。また、これら非イオン性界面活性剤は、1種単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0058】
上記非イオン性界面活性剤の配合量としては、カーボンブラック等のカーボン粒子の比表面積に比例して界面活性剤の添加量は増減するが、ここではアセチレンブラックAB−6(デカン製)を例に説明する。この場合、非イオン性界面活性剤の配合量としては、カーボン・撥水剤粒子分散液に対して0.5〜20質量%、好ましくは0.5〜8質量%の範囲である。非イオン性界面活性剤の配合量が0.5質量%以上であれば、良好に分散されるのである。一方、非イオン性界面活性剤の配合量が0.5質量%未満であれば、カーボンブラック等のカーボン粒子が分散できないおそれがある。また、非イオン性界面活性剤の配合量が20質量%以下であれば、本発明の作用効果を損なうことなく良好に分散されるものである。
【0059】
また、本工程では、図5Aに示すように、まず、非イオン性界面活性剤を含む水に、カーボン粒子を添加し、適当な分散装置、例えば、超音波分散機、ジェットミル、ビーズミル等で、平均粒径300〜600μmまで分散してカーボン粒子分散液51を調製する。これは、カーボン粒子は、2次凝集して塊状化しているため、分散装置を用いて、適当な大きさになるまで微粒化し、界面活性剤を表面に吸着させて安定な分散液を得るものである。
【0060】
次に、図5Bに示すように、上記により得られたカーボン粒子分散液に、市販の撥水剤粒子ディスパージョンを必要量添加、混合し、適当な撹拌装置、例えば、攪拌機等で過度の応力が掛からないように緩やかに撹拌することで、カーボン・撥水剤粒子分散液52を調製する。最適な界面活性剤を用いた分散液は過度の剪断応力をかけ無い限り安定である。例えば、通常の攪拌、震とう、超音波照射等では撥水剤粒子が凝集フィブリル化することはない。
【0061】
ここで、撥水剤粒子ディスパージョンを用いたのは、撥水剤粒子の撥水作用により、撥水剤粒子を単独で添加したのでは、水中に分散させるのが不可能なためである。かかる撥水剤粒子ディスパージョンとしては、ダイキン工業株式会社、旭硝子株式会社、三井フロロケミカル株式会社等で市販されているものを容易に入手できる。
【0062】
上記瀘過には、カーボン粒子の二次凝集サイズ及び撥水剤粒子ディスパージョンでの粒子サイズを考慮して、これらを十分瀘別可能な濾紙(例えば、0.2μmの濾紙)を用いて濾過する。この場合、例えば、0.2μmの濾紙を用いて減圧吸引濾過するには、数日間を要する。
【0063】
(ii)相分離濃縮工程(図5C参照)
本工程では、前記カーボン・撥水剤粒子分散液を相分離濃縮するものである。これは、前記カーボン・撥水剤粒子分散液を固形化して焼結するまでに剪断応力をかけると撥水剤粒子が凝集フィブリル化してしまうので液体状態から応力が加わらない固形化方法で固形化するのが望ましいためである。アルコール等の凝集剤を用いずに、前記カーボン・撥水剤粒子分散液から水分を除く、例えば、瀘過により固形分を集める方法(瀘過法)、遠心分離する方法などを用いて分離濃縮する方法も使用できる。濾過法では凝集剤を使えないため著しく濾過時間を要する(例えば、0.2μmの濾紙では2日間かけて濾過しないと瀘過固形分が得られにくい)欠点がある。また、遠心分離法では分散液を5000G程度で60分間遠心することで固形分50%程度にすることができる。これを乾燥、焼結することで混合焼結体を得ることもできる。ここでは非イオン性界面活性剤の相分離現象を用いて液体状態から応力が加わらない固形化方法で固形化して固形分53を得る。
【0064】
相分離濃縮法とは非イオン性界面活性剤の相分離現象を用いる。非イオン性界面活性剤を含む水溶液を加熱していくと白濁する温度がある。この現象は非イオン性界面活性剤の場合におこり、非イオン性界面活性の場合には、ポリオキシエチレン基(CH−CH−O))と水分子との水素イオン結合が曇点以上の温度で熱運動のため切断されるので、界面活性剤は溶けにくくなる。これは非イオン性界面活性剤分子がこの温度以上で不溶化するためである。非イオン性界面活性剤を含む分散液を昇温していくと分散粒子表面に吸着している非イオン性界面活性剤分子が不溶化するために分散微粒子が沈降して濃厚相と希薄相に相分離することを用いる。これにより、固形分濃度40%wt程度まで濃縮することができる。
【0065】
例えば、4%Triton X−100(非イオン性界面活性剤)を含む分散液(固形分13%wt)をガラス瓶に入れて70.0℃のウオーターバスの中に24時間放置することで、該分散液は上部が低濃度となり下部が高濃度となって分離する。上部の液を取り除くことで、固形分44.6%の濃縮液を得ることができる。この場合、固形分の収率は99%であり、相分離濃縮法では、上記濾過法等に比して短時間で極めて効率よく濃縮できる。これを乾燥することで容易に固形分を得ることができるものである。
【0066】
(iii)混合焼結体の形成工程(図5D、E参照)
本工程では、さらに前記相分離濃縮したもの(固形分)を加熱焼結して混合焼結体を形成するものである。
【0067】
本工程では、図5Dに示すように、前記相分離濃縮した固形分53を、適当な基材54などに塗布し、必要に応じて乾燥し、加熱焼成して、混合焼結体55を形成する。これを、基材54から剥離することで、図5Eに示すように、混合焼結体55の緻密な膜56を得ることができる。
【0068】
ここで、基材54には、乾燥、焼成段階で熱的、化学的に安定なものであればよく、例えば、Al箔、硝子板、カプトンシート、チタン箔などを用いることができる。好ましくは、混合焼結体55を基材54から剥離するのが容易なように剥離性に優れたものが望ましく、例えば、Al箔などを好適に利用することができる。
【0069】
上記乾燥段階でも、剪断応力を加えずに、撥水剤粒子のフィブリル化を起こさない乾燥条件とするのが望ましい。かかる観点から、乾燥条件としては、70〜120℃で1〜5時間程度であればよい。乾燥温度までの昇温速度は、10〜100℃/分、好ましくは20〜50℃/分の範囲で行うのが望ましい。乾燥段階でも、剪断応力を加えずに、撥水剤粒子のフィブリル化を起こさない乾燥条件とするのが望ましい。
【0070】
次に、焼成条件としては、撥水剤粒子の融点以上、好ましくは撥水剤粒子の融点より5〜50℃高い温度域で0.5〜3時間焼成することで、混合焼結体55が得られる。なお、焼成温度までの昇温速度は、10〜200℃/分、好ましくは50〜150℃/分の範囲で行うのが望ましい。
【0071】
また、混合焼結体55の厚さは、生産性の観点から0.2〜5mm、好ましくは0.5〜2mm程度に調整するのが望ましい。
【0072】
該混合焼結体55を基材54から剥離することで、図5Eに示すように、混合焼結体55の緻密な膜56を得ることができる。該混合焼結体55の緻密な膜(シート)56の物性は、上述したように、引っ張り強度が20kgf/cm以上、好ましくは20〜40kgf/cmであり、破断変形率が20%以下、好ましくは10%以下であることが望ましい。このように、カーボン粒子と撥水剤粒子とを剪断応力を加えずに(撥水剤粒子のフィブリル化を起こさないで)、乾燥、撥水剤粒子の融点以上で焼結すればヤング率の高い、引っ張り強度は同程度で脆く、圧縮変形がし難い、緻密で強固な焼結体を得ることができる。これを後述するように、粉砕して多孔体焼結粗粒子とし、該粒子を再インク化して成膜することで、適度に隙間を持ちつつ該粒子同士が連なってなるGDLを得ることができる。即ち、非常に強固で緻密な多孔体焼結粗粒子が連なって出来たGDLにおいて、多孔体焼結粗粒子間に適当なサイズの貫通孔が形成されている。この貫通孔は、焼結体である多孔体焼結粗粒子が非常に強固で安定なため、電池スタック内で長期にわたり加圧条件下にあっても撥水剤粒子がフィブリル化していないので潰れない。そのため優れたガス拡散性を長期間、安定した保持することができるものである。
【0073】
なお、混合焼結体55を基材54から剥離する段階では、既に硬い焼結体となっており、ある程度剪断応力を加えても撥水剤粒子がフィブリル化を起こさないため、基材54から混合焼結体55を引き剥がしてもよい。これは、次工程で、該混合焼結体55の緻密な膜56を粉砕するため、同程度のせん断応力が加わっても問題ないためである。
【0074】
(iv)混合焼結体の微粉化工程(図7A、B参照)
本工程では、前記混合焼結体55を微粉化して所望の多孔体焼結粗粒子を得るものである。
【0075】
本工程では、図7A、Bに示すように、製法1で得られた前記混合焼結体の緻密な膜71(図5Eの混合焼結体55の緻密な膜56)を、適当な粉砕装置、例えば、ミキサー、などを用いて微粉砕し、適当な分級装置、例えば、ふるい、分級機などを用いて分級し、所望の大きさの(ここでは、一定粒度以下に分級された)多孔体焼結粗粒子72を得ることができる。粉砕するとき混合焼結体は液体窒素等で冷却しておくことが望ましい。
【0076】
(2)多孔体焼結粗粒子の製造方法(製法2)について(図6、図7A〜B参照)
本発明のGDLに用いる多孔体焼結粗粒子の製造方法の代表的な実施形態(製法2と称する)としては、カーボン粒子と撥水剤粒子とを非イオン性界面活性剤の存在下で水中に分散させてカーボン・撥水剤粒子分散液を調製し(カーボン・撥水剤粒子分散液の調製工程ともいう)、前記カーボン・撥水剤粒子分散液を電着して固形分を析出し(電着工程ともいう)、さらに前記固形分を焼結して混合焼結体を形成し(混合焼結体の形成工程ともいう)、前記混合焼結体を微粉化して所望の多孔体焼結粗粒子を得る(混合焼結体の微粉化工程ともいう)ものである。
【0077】
(i)カーボン・撥水剤粒子分散液の調製工程(図6A、B参照)
本工程では、カーボン粒子と撥水剤粒子とを非イオン性界面活性剤の存在下で水中に分散させてカーボン・撥水剤粒子分散液を調製する。
【0078】
本工程は、製法1のカーボン・撥水剤粒子分散液の調製工程と同様であり、製法1の図5A、Bでの説明に変えて製法2では図6A、Bを用いたものである。即ち、図5Aのカーボン粒子分散液51を、図6Aではカーボン粒子分散液61とし、図5Bのカーボン・撥水剤粒子分散液52を、6Bではカーボン・撥水剤粒子分散液62としたものであり、実質的に何らかわるものではない。
【0079】
(ii)電着工程(図6C参照)
本工程では、前記カーボン・撥水剤粒子分散液を電着して固形分を堆積させるものである。本製法でも、製法1と同様に、前記カーボン・撥水剤粒子分散液を固形化して焼結するまでに剪断応力をかけると撥水剤粒子が凝集フィブリル化してしまうので液体状態から応力が加わらない固形化方法で固形化するのが望ましいためである。
【0080】
したがって、本工程では、前記カーボン・撥水剤粒子分散液を適当な電着法、例えば、泳動電着で陽極64に固形分を電積させる方法、図6Cに示すように、液体状態から応力が加わらない固形化方法で固形化して電着固形分65を得る。
【0081】
本製法2では、製法1のように瀘過にて固形分を集める場合に比して、比較的短時間に固形分を集めることができる点で優れている。
【0082】
(iii)混合焼結体の形成工程(図6D、E参照)
本工程では、さらに前記固形分を焼結して混合焼結体を形成するものである。
【0083】
本工程では、製法1の混合焼結体の形成工程と基本的には同様であり、図6Dに示すように、前記固形分65を、図6Eに示すように、必要に応じて乾燥し、泳動電着用陽極(電極基材)64から剥離後、焼成して、混合焼結体の緻密な膜66を得ることができる。
【0084】
ここで、電極基材(泳動電着用陽極)64には、電気化学的に溶解せずに安定なものが望ましく、例えば、白金板、白金被覆チタン板、イリジウム被覆チタン板などを用いることができる。上記工程で用いた電極(泳動電着用陰極)63には、電極(泳動電着用陽極)64のような乾燥段階での特性は特に必要がないことから、従来公知の各種電極材料を用いることができる。例えば、ニッケルメッシュなどを利用することできる。以下の乾燥、焼結、微粉化工程は前述と同様であるので省略した。
【0085】
(3)製法1,2により得られた多孔体焼結粗粒子を用いたGDLの製造方法(製法3)について
本発明のGDLの製造方法の代表的な実施形態(製法3と称する)としては、上記製法1または製法2により得られた多孔体焼結粗粒子を、溶剤に分散させて多孔体焼結粗粒子分散液を形成し(多孔体焼結粗粒子分散液の調整工程ともいう)、前記多孔体焼結粗粒子分散液を基材に塗布し、乾燥後ホットプレスして成膜し、前記基材と分離してGDLを得る(GDL成膜工程)ものである。かかる製造方法により、10〜200μm程度の、厚みムラの少ないGDLを成膜することが出来る点で優れている。
【0086】
(i)多孔体焼結粗粒子分散液の調整工程(再インク化工程ともいう;図7C参照)
本工程では、上記製法1または製法2により得られた多孔体焼結粗粒子を、溶剤に分散させて多孔体焼結粗粒子分散液を形成する(再インク化する)。
【0087】
ここで、上記溶剤としては、上記製法1または製法2により得られた多孔体焼結粗粒子を分散、好ましくは均一に高分散させることができるものであればよく、特に制限されるものではない。該溶剤としては、例えば、ソルベントナフサ;デカン、ドデカンなどのアルカン炭化水素(C2n+2:ここでn=10〜16である。);などを用いることができる。また、これら溶剤は、1種単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。好ましくは、撥水性の高い多孔体焼結粗粒子を容易に分散できることから、アルカン炭化水素(C2n+2;ここで、n=10〜16)およびこれらを含む溶剤よりなる群から選ばれてなる少なくとも1種の溶剤が望ましいものである。具体的には、デカンおよび/またはドデカンなどが挙げられる。
【0088】
また、多孔体焼結粗粒子分散液には、本発明の作用効果を損なわない範囲内で、必要に応じて、造孔剤などの各種添加剤を適宜、適量用いても良い。
【0089】
上記造孔剤は、次工程のホットプレスによりガス化し、GDL成膜内部の多孔体焼結粗粒子同士間に形成される空孔(大径貫通孔)の径と数を制御する目的で用いられるものである。特に、造孔剤の添加量や粒径を揃えることなどにより、比較的簡単に孔径サイズのそろった比較的大きな空孔(大径貫通孔)を作ることができる。これにより、設計どおりの孔径と分布を得ることができる点で優れている。
【0090】
上記造孔剤としては、特に制限されるものではなく、例えば、NaClなどの塩の粒子、銅、亜鉛などの金属粒子を用いることができる。ただし、本発明では、これらに何ら制限されるものではない。また、これら造孔剤は、1種単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。なお、造孔剤に金属粒子を用いる場合には、例えば、次工程のホットプレスの際に、外部からの磁力作用などを利用して該金属粒子をGDLから外部に取り出すことで、GDL成膜内部の多孔体焼結粗粒子同士間に形成される空孔(大径貫通孔)の径と数を制御するようにしてもよい。
【0091】
上記造孔剤の大きさは、目的とする大径貫通孔の孔径が得られるように適宜調整すればよく、1〜50μm、好ましくは5〜30μmの範囲である。
【0092】
上記造孔剤の配合量としては、多孔体焼結粗粒子分散液(造孔剤を含む)に対して5〜25質量%、好ましくは10〜20質量%の範囲である。造孔剤の配合量が25質量%を超えると、強度が低下し、比抵抗が増加するものである。一方、造孔剤の配合量が5質量%未満の場合には、効果が少ないものである。
【0093】
本工程では、図6Cに示すように、まず、溶剤に、多孔体焼結粗粒子72(図7B参照)を添加し、さらに必要に応じて造孔剤などの添加剤を加え、適当な撹拌装置で混合して多孔体焼結粗粒子分散液(再インク)73を調製する。
【0094】
なお、造孔剤などの添加剤は、予め溶剤に添加し、混合分散させた後に(撹拌しながら)、多孔体焼結粗粒子72を添加し、分散させてもよいなど、特に制限されるものではない。
【0095】
(ii)GDL成膜工程(図7D,E参照)
本工程では、前記多孔体焼結粗粒子分散液を基材に塗布し、乾燥後ホットプレスして成膜し、前記基材と分離してGDLを得るものである。
【0096】
本工程では、図7Dに示すように、前記多孔体焼結粗粒子分散液73を適当な基材74に、適当な方法にて塗布し、乾燥し、ホットプレスしてGDL75を成膜する。これを、基材74から適当な方法で分離(基材剥離)することで、図7Eに示すように、GDLの膜(シート)76を得ることができる。
【0097】
ここで、基材74には、乾燥、ホットプレス段階で熱的、機械的、化学的に安定なものであればよく、例えば、Al箔、カラス板、ステンレス板などを用いることができる。好ましくは、GDL75を基材74から剥離するのが容易なように剥離性に優れたものが望ましく、例えば、Al箔などを好適に利用することができる。
【0098】
ここで、前記多孔体焼結粗粒子分散液73を基材74に塗布する方法としては、特に制限されるものではなく、従来公知の各種塗布方法を利用することができるものである。具体的には、例えば、ダイコーターなどを用いて塗布することができる。本塗布段階では、既に焼成後であるため撥水剤粒子のフィブリル化は起こらないので、特にせん断応力などに留意することなく、最適な塗布方法を適用すればよい。したがって、スプレーなどの塗布方法なども利用可能である。
【0099】
上記乾燥条件としては、50〜150℃で1〜6時間程度であればよい。乾燥温度までの昇温速度は、10〜100℃/分、好ましくは20〜50℃/分の範囲で行うのが望ましい。本乾燥段階では、既に焼成後であるため撥水剤粒子のフィブリル化は起こらないので、特にせん断応力などに留意することなく、最適な乾燥方法を適用すればよい。したがって、減圧乾燥や真空乾燥なども利用可能である。
【0100】
ホットプレス条件としては、撥水剤粒子の融点以上、好ましくは撥水剤粒子の融点より5〜50℃高い加熱温度で、圧力20kg/cm以上、好ましくは10〜50kg/cmで、5秒間〜5分間、好ましくは30秒間〜2分間ホットプレスすることで、GDL75を成膜することができる。
【0101】
また、GDL75の厚さは、既に説明したとおりである。
【0102】
該GDL75を基材74から剥離することで、図7Eに示すように、GDLの(緻密な)膜76を得ることができる。こうして、得られたGDL膜76には、図3に示すように、硬い緻密な粒子(多孔体焼結粗粒子)の中に存在する比較的小径の貫通孔(平均細孔径0.2μm以下、好ましくは0.1μm以下)と、該粒子間に存在する比較的大径の貫通孔(平均細孔径0.5μm以上、好ましくは5μm以上)とが無数にあり、ホットプレスをしても粒子間に存在する比較的大径の貫通孔が残っている。尚、硬い緻密な粒子(多孔体焼結粗粒子)の中に存在する比較的小径の貫通孔に関しても、上述したように焼成までにせん断応力をかけないようにすることで、撥水剤粒子のフィブリル化が抑えられるため、ホットプレスをしても比較的小径の貫通孔も潰れないまま残っている。そのため、該GDL膜76では、既存のカーボンクロスなどのGDLと同様に優れた水透過性及びガス拡散性を有するものであり、なおかつ、カーボン繊維、更にはフィルリル化された撥水剤粒子を含まない為、電池スタック内で長期にわたり加圧条件下にあっても、カーボン繊維による電極間の突き抜けによる短絡や撥水剤のフィルリル化による大径貫通孔の潰れながなく、優れたガス拡散性を長期間、安定した保持することができるものである。
【0103】
すなわち、得られたGDL膜76の物性としては、ガス透過能は大きな空孔(粒子間に存在する比較的大きな大径貫通孔)があるので、同じカーボン粒子と撥水剤粒子を用いてロール法で作製したGDLに対し10倍以上、好ましくは20〜50倍を有する。また、GDL膜76の引っ張り強度は20kgf/cm以上、好ましくは20〜40kgf/cmであり、比抵抗は0.25Ωcm以下、好ましくは0.2Ωcm以下であるのが望ましい。
【0104】
(4)製法1,2により得られた多孔体焼結粗粒子を用いたGDLの製造方法(製法4)について
本発明のGDLの製造方法の代表的な他の実施形態(製法4と称する)としては、上記製法1または製法2により得られた多孔体焼結粗粒子を、金型に充填してホットプレスすることでGDLを得る(GDL作製工程)ものである。かかる製造方法により、製造工数が少なく、10〜200μm程度の、厚みムラの少ないGDLを作製することが出来る点で優れている。また、製法3のように、溶剤を用いない為、溶剤回収設備など環境対策が容易である点でも優れている。
【0105】
(i)GDL作製工程
本製法4では、上記製法1または製法2により得られた多孔体焼結粗粒子を、金型に充填してホットプレスすることでGDLを得るものである(図示せず)。
【0106】
本製法では、上記製法1または製法2によって分級された一定粒径以下、例えば、150μm以下(平均粒径120μm程度)の多孔体焼結粗粒子、更に必要に応じて、造孔剤などの各種添加剤を適宜、適量加えて均一に混合したものを、適当な金型(治具)に入れ、ホットプレスしてGDLを作製する。
【0107】
上記造孔剤などの添加剤については、製法3と同様である。
【0108】
また、適当な金型(治具)としては、特に制限されるものではなく、従来公知のホットプレス用金型を利用することができる。
【0109】
ホットプレス条件としては、撥水剤粒子の融点以上、好ましくは撥水剤粒子の融点より5〜20℃高い加熱温度で、圧力10kg/cm以上、好ましくは20〜150kg/cmで、0.5〜3分間、好ましくは1〜2分間ホットプレスすることで、GDLを作製することができる。
【0110】
また、GDLの構成および厚さは、既に説明したとおりである。
【0111】
さらに、GDLの物性に関しても、製法3で説明したと同様である。
【0112】
なお、本発明のGDLの上記製法3、4においては、ホットプレスにおいて、インプリント技術、特に、本発明に適したナノインプリント技術を用いて、多孔体焼結粗粒子同士間に形成される空孔の径と数を制御するようにしてもよい。すなわち、ホットメルトに用いる金型やモールドにインプリント技術により、所望大径貫通孔(大径貫通孔の孔径及び数及び配列)に対応する凹凸パターンを形成しておくことで、ホットメルト時に型押し、所望のパターンをGDL膜に転写することで、多孔体焼結粗粒子同士間に形成される空孔の径と数を制御することができるものである。
【0113】
以上が、本発明のGDLに関する説明である。但し、本発明では、図2Dに示すように、GDL13a、13bをそれぞれ基材13−2a、13−2bとカーボン粒子層(以下、単にMILともいう)131a、131bとからなる2層構造としてもよい。この場合、通常は、導電性及び多孔質性を有するシート状材料の基材132a、132b上に、撥水剤を含むカーボン粒子の集合体からなるMIL131a、131bを有する構成とするものである。本発明では、上記した本発明に係るGDL13a、13bの構成を、基材132a、132bとMIL131a、131bのいずれに適用してもよいが、好ましくは下記(a)のようにMIL131a、131bに本発明のGDLの大小2つの空孔(貫通孔)を持つ構成(図2B、2C参照)を適用するのが望ましい。GDLを基材とMILの2層に分けて用いる場合でも、本発明の作用効果を十分に奏することができるものである。特に下記(a)では、従来、薄く高精度のMILを作成するのは困難であり、また従来のMILの構成としては、従来技術で説明したようにカーボンブラック粒子とPTFE粒子で構成されており、従来技術で説明したと同様の課題を有するものであった。本発明では、当該MIL131a、131bの構成に、上述した本発明のGDLの大小2つの空孔(貫通孔)を持つ構成(図2B、2C参照)を適用することで、薄く高精度のMILを作成することができ、なおかつ、従来技術で説明したと同様の課題を解決することができるものである。
【0114】
即ち、GDLを基材とMILの2層に分けて用いる場合には、(a)既存の基材+本発明のGDLの構成を有するMIL、または(b)本発明のGDLの構成を有する基材+既存のMIL、の組み合わせのいずれでもよい。なお、基材とMILの双方に本発明のGDLの構成する場合には、2つに分けることなく、1つのGDLとして適用すればよいことになり、既に本発明に係るGDLとして上述した通りである。
【0115】
上記(a)での既存の基材としては、特に制限されるものではなく、公知のものが同様にして使用でき、例えば、炭素製の織物、紙状抄紙体、フェルト、不織布といった導電性及び多孔質性を有するシート状材料を基材とするものなどが挙げられる。前記基材132a、132bの厚さは、それぞれMIL131a、131bを加えたGDL13a、13bの全体の特性を考慮して適宜決定すればよいが、50〜500μm、好ましくは100〜200μmとするのが望ましい。厚さが、50μm未満であると十分な機械的強度などが得られない恐れがあり、500μmを超えるとガスや水などが透過する距離が長くなり望ましくない。
【0116】
前記基材132a、132bは、撥水性をより高めてフラッディング現象などを防ぐことを目的として、前記基材に撥水剤を含ませることが好ましい。前記撥水剤としては、特に限定されないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系の高分子材料、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。
【0117】
上記(a)でのMIL131a、131bに関しては、上記した本発明のGDL13a、13bの構成が適用できるため、ここでの説明は省略する。
【0118】
ただし、上記(a)でのMIL131a、131bの厚さも、それぞれ上記既存の基材132a、132bを加えたGDL13a、13bの全体の特性を考慮して適宜決定すればよいが、10〜100μm、好ましくは20〜50μmとすればよい。厚さが、10μm未満であると、取り扱い性が困難であるほか、十分な機械的強度などが得られない恐れがあり、100μmを超えると、ガスや水などが透過する距離が長くなり望ましくない。
【0119】
次に、上記(b)でのMIL131a、131bに関しては、上記した本発明のGDL13a、13bの構成が適用できるため、ここでの説明は省略する。
【0120】
上記(b)での既存のMIL131a、131bとしては、撥水性をより向上させるために、本発明のGDLの構成を適用した基材上に、撥水剤を含むカーボン粒子の集合体からなる既存のMILを用いてもよい。
【0121】
上記(b)のMIL131a、131bに用いられるカーボン粒子としては、特に限定されず、カーボンブラック、黒鉛、膨張黒鉛などの従来一般的なものであればよい。なかでも、電子伝導性に優れ、比表面積が大きいことから、オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックが好ましく挙げられる。前記カーボン粒子の平均粒径は、10〜100nm程度とするのがよい。これにより、毛細管力による高い排水性が得られるとともに、触媒層との接触性も向上させることが可能となる。
【0122】
上記(b)のMIL131a、131bに用いられる撥水剤としては、上記(a)の既存の基材132a、132bに用いられる上述した撥水剤と同様のものが挙げられる。なかでも、撥水性、電極反応時の耐食性などに優れることから、フッ素系の高分子材料が好ましく用いられる。
【0123】
上記(b)のMIL131a、131bにおける、カーボン粒子と撥水剤との混合比は、カーボン粒子が多過ぎると期待するほど撥水性が得られない恐れがあり、撥水剤が多過ぎると十分な電子伝導性が得られない恐れがある。これらを考慮して、当該MILにおけるカーボン粒子と撥水剤との混合比は、質量比で、90:10〜40:60程度とするのがよい。
【0124】
上記(b)のMIL131a、131bの厚さは、それぞれ本発明のGDL13a、13bの構成を適用した基材を加えたGDL全体の撥水性を考慮して適宜決定すればよい。
【0125】
上記(a)や(b)において、GDLの基材やMILに撥水剤を含有させる場合には、一般的な撥水処理方法を用いて行えばよい。例えば、GDLに用いられる基材を撥水剤の分散液に浸漬した後、オーブン等で加熱乾燥させる方法などが挙げられる。
【0126】
上記(a)や(b)のGDLにおいて、転写用台紙上にMILを形成する場合には、カーボン粒子、撥水剤等を、水、パーフルオロベンゼン、ジクロロペンタフルオロプロパン、メタノール、エタノール等のアルコール系溶媒などの溶媒中に分散させることによりスラリーを調製し、前記スラリーを転写用台紙上に塗布し乾燥、もしくは、前記スラリーを一度乾燥させ粉砕することで粉体にし、これを前記基材上に塗布する方法などを用いればよい。その後、マッフル炉や焼成炉を用いて250〜400℃程度で熱処理を施すのが好ましい。
【0127】
(2)電解質膜11
本発明のMEA及びこれを用いた燃料電池に用いることのできる電解質膜11は、高いプロトン伝導性を有していればよい。高いプロトン伝導性を有する膜としては、−SOH基などのイオン交換基を有するモノマーの重合体または共重合体;またはイオン交換基を有するモノマーと他のモノマーとの重合体などの公知の材料からなる膜を用いることができる。かかる電解質膜11の材質としては、具体的には、ポリマー骨格の全部又は一部がフッ素化されたフッ素系樹脂であってイオン交換基を備えた電解質、または、ポリマー骨格にフッ素を含まない芳香族系炭化水素樹脂であってイオン交換基を備えた電解質、などが挙げられる。
【0128】
前記イオン交換基としては、特に制限されないが、−SOH、−COOH、−PO(OH)、−POH(OH)、−SONHSO−、−Ph(OH)(Phはフェニル基を表す)等の陽イオン交換基、−NH、−NHR、−NRR’、−NRR’R’’、−NH等(R、R’、R’’は、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基等を表す)等の陰イオン交換基などが挙げられる。
【0129】
前記フッ素系樹脂であってイオン交換基を備えた電解質としては、具体的には、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)等のパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー、ポリトリフルオロスチレンスルフォン酸系ポリマー、パーフルオロカーボンホスホン酸系ポリマー、トリフルオロスチレンスルホン酸系ポリマー、エチレンテトラフルオロエチレン−g−スチレンスルホン酸系ポリマー、エチレン‐テトラフルオロエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン−g−ポリスチレンスルホン酸系ポリマー、ポリフッ化ビニリデン−g−ポリスチレンスルホン酸系ポリマーなどが好適な一例として挙げられる。
【0130】
前記芳香族系炭化水素樹脂であってイオン交換基を備えた電解質としては、具体的には、ポリサルホンスルホン酸系ポリマー、ポリエーテルエーテルケトンスルホン酸系ポリマー、ポリベンズイミダゾールアルキルスルホン酸系ポリマー、ポリベンズイミダゾールアルキルホスホン酸系ポリマー、架橋ポリスチレンスルホン酸系ポリマー、ポリエーテルサルホンスルホン酸系ポリマー等が好適な一例として挙げられる。
【0131】
電解質膜11の材質は、高いイオン交換能を有し、化学的耐久性・力学的耐久性、などに優れることから、前記フッ素系ポリマーであってイオン交換基を備えた電解質を用いるのが好ましく、なかでも、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)などがより好ましく利用できる。
【0132】
電解質膜11の膜厚は、得られる燃料電池の特性を考慮して適宜決定することができるが、5〜300μmが好ましく、より好ましくは10〜200μm、特に好ましくは15〜150μmである。電解質膜の膜厚が5μm以上であると製膜時の強度や燃料電池作動時の耐久性の点から好ましく、300μm以下であると燃料電池作動時の出力特性の点から好ましい。
【0133】
なお、本発明では、燃料電池のアノード及びカソードの両電極間に介在される電解質成分を含有してなる構成部材を、電解質膜と称したが、決してその名称に拘泥されるものではなく、燃料電池に用いられる使用目的からみて、例えば、電解質層や電解質などと称される場合であっても、本発明でいう電解質膜に含まれる場合があることはいうまでもない。他の構成要件についても同様であり、その名称に拘泥されるものではなく、使用目的に照らしてその同一性を判断すればよい。
【0134】
(3)触媒層12
本発明のMEA及びこれを用いた燃料電池に用いることのできるアノードおよびカソード触媒層12a、12bは、主として、導電性担体に触媒粒子が担持されてなる電極触媒(触媒物質)と、プロトン導電性を有する電解質(バインダないしアイオノマとも称する)とで構成されている。以下、これらの構成部材ごとに説明する。
【0135】
(i)電極触媒
電極触媒は、触媒粒子が導電性担体に担持されてなるものである。
【0136】
ここで、カソード触媒層に用いられる触媒粒子は、酸素の還元反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。また、アノード触媒層に用いられる触媒粒子もまた、水素の酸化反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。具体的には、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属、及びそれらの合金等などから選択される。これらのうち、触媒活性、一酸化炭素等に対する耐被毒性、耐熱性などを向上させるために、少なくとも白金を含むものが好ましく用いられる。前記合金の組成は、合金化する金属の種類にもよるが、白金が30〜90原子%、合金化する金属が10〜70原子%とするのがよい。カソード触媒をして合金を使用する場合の合金の組成は、合金化する金属の種類などによって異なり、当業者が適宜選択できるが、白金が30〜90原子%、合金化する他の金属が10〜70原子%とすることが好ましい。なお、合金とは、一般に金属元素に1種以上の金属元素または非金属元素を加えたものであって、金属的性質をもっているものの総称である。合金の組織には、成分元素が別個の結晶となるいわば混合物である共晶合金、成分元素が完全に溶け合い固溶体となっているもの、成分元素が金属間化合物または金属と非金属との化合物を形成しているものなどがあり、本願ではいずれであってもよい。この際、カソード触媒層に用いられる触媒粒子及びアノード触媒層に用いられる触媒粒子は、上記の中から適宜選択できる。以下の説明では、特記しない限り、カソード触媒層及びアノード触媒層用の触媒粒子についての説明は、両者について同様の定義であり、一括して、「触媒粒子」と称する。しかしながら、カソード触媒層及びアノード触媒層用の触媒粒子は同一である必要はなく、上記したような所望の作用を奏するように、適宜選択される。
【0137】
触媒粒子の形状や大きさは、特に制限されず公知の触媒粒子と同様の形状及び大きさが使用できるが、触媒粒子は、粒状であることが好ましい。この際、触媒インクに用いられる触媒粒子の平均粒子径は、小さいほど電気化学反応が進行する有効電極面積が増加するため酸素還元活性も高くなり好ましいが、実際には平均粒子径が小さすぎると却って酸素還元活性が低下する現象が見られる。従って、触媒インクに含まれる触媒粒子の平均粒子径は、1〜30nm、より好ましくは1.5〜20nm、さらにより好ましくは2〜10nm、特に好ましくは2〜5nmの粒状であることが好ましい。担持の容易さという観点から1nm以上であることが好ましく、触媒利用率の観点から30nm以下であることが好ましい。なお、本発明における「触媒粒子の平均粒径」は、X線回折における触媒粒子の回折ピークの半値幅より求められる結晶子径あるいは透過型電子顕微鏡像より調べられる触媒粒子の粒子径の平均値により測定することができる。
【0138】
前記導電性担体としては、触媒粒子を所望の分散状態で担持させるための比表面積を有し、集電体として十分な電子導電性を有しているものであればよく、主成分がカーボンであるのが好ましい。具体的には、カーボンブラック、活性炭、コークス、天然黒鉛、人造黒鉛などからなるカーボン粒子が挙げられる。なお、本発明において「主成分がカーボンである」とは、主成分として炭素原子を含むことをいい、炭素原子のみからなる、実質的に炭素原子からなる、の双方を含む概念である。場合によっては、燃料電池の特性を向上させるために、炭素原子以外の元素が含まれていてもよい。なお、実質的に炭素原子からなるとは、2〜3質量%程度以下の不純物の混入が許容されることを意味する。
【0139】
前記導電性担体のBET比表面積は、触媒粒子を高分散担持させるのに十分な比表面積であればよいが、好ましくは20〜1600m/g、より好ましくは80〜1200m/gとするのがよい。前記比表面積が、20m/g以上であると前記導電性担体への触媒粒子および高分子電解質の分散性が向上し、十分な発電性能が得られる点で優れている。一方、1600m/g以下であると触媒粒子および高分子電解質の高い有効利用率を有効に保持することができる点で優れている。
【0140】
また、前記導電性担体の大きさは、特に限定されないが、担持の容易さ、触媒利用率、触媒層の厚みを適切な範囲で制御するなどの観点からは、平均粒子径が5〜200nm、好ましくは10〜100nm程度とするのがよい。
【0141】
前記導電性担体に触媒粒子が担持された電極触媒において、触媒粒子の担持量は、電極触媒の全量に対して、好ましくは10〜80質量%、より好ましくは30〜70質量%とするのがよい。前記担持量が、80質量%以下であると、触媒粒子の導電性担体上での優れた分散度を有効に保持することができ、担持量の増加に見合った発電性能の向上効果を有効に発現させることができる利点がある。また、前記担持量が、10質量%以上であると、単位質量あたりの触媒活性に優れ、担持量に応じた所望の発電性能を得ることができる。そのため、所望の電池性能を確保するための担持量設計が比較的容易になし得る点で優れている。なお、触媒粒子の担持量は、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP)によって調べることができる。
【0142】
また、導電性担体への触媒粒子の担持は公知の方法で行うことができる。例えば、含浸法、液相還元担持法、蒸発乾固法、コロイド吸着法、噴霧熱分解法、逆ミセル(マイクロエマルジョン法)などの公知の方法が使用できる。または、電極触媒は、市販品を用いてもよい。
【0143】
(ii)電解質
本発明のカソード触媒層/アノード触媒層(単に「触媒層」とも称する)には、電極触媒の他に、電解質が含まれる。前記電解質としては、特に限定されず、上記膜に用いたものと同様の高分子電解質が使用できる。前記膜に用いられる電解質と、各触媒層に用いられる電解質とは、同じであっても異なっていてもよいが、各触媒層と膜との密着性を向上させる観点から、同じものを用いるのが好ましい。すなわち、前記電解質としては、特に限定されず公知のものを用いることができるが、少なくとも高いプロトン伝導性を有する部材であればよい。この際使用できる電解質は、ポリマー骨格の全部又は一部にフッ素原子を含むフッ素系電解質と、ポリマー骨格にフッ素原子を含まない炭化水素系電解質とに大別される。
【0144】
前記フッ素系電解質として、具体的には、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)等のパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー、ポリトリフルオロスチレンスルフォン酸系ポリマー、パーフルオロカーボンホスホン酸系ポリマー、トリフルオロスチレンスルホン酸系ポリマー、エチレンテトラフルオロエチレン−g−スチレンスルホン酸系ポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリビニリデンフルオリド−パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーなどが好適な一例として挙げられる。
【0145】
前記炭化水素系電解質として、具体的には、ポリスルホンスルホン酸、ポリアリールエーテルケトンスルホン酸、ポリベンズイミダゾールアルキルスルホン酸、ポリベンズイミダゾールアルキルホスホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリエーテルエーテルケトンスルホン酸、ポリフェニルスルホン酸等が好適な一例として挙げられる。
【0146】
高分子電解質は、耐熱性、化学的安定性などに優れることから、フッ素原子を含むのが好ましく、なかでも、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)などのフッ素系電解質が好ましく挙げられる。
【0147】
上記電解質と触媒担持体との質量比は、順に、0.6:1〜1:1が好ましく、より好ましくは0.7:1〜0.9:1である。触媒担持体質量に対して高分子電解質の質量比が0.6倍以上であると触媒層内の良好なイオン伝導性の点で好ましく、1倍以下であると触媒層内のガス拡散及び水の排出の点で好ましい。
【0148】
各触媒層、特に触媒担持体表面や高分子電解質には、さらに、撥水性高分子や、その他の各種添加剤が被覆ないし含まれていてもよい。撥水性高分子が含まれていることにより、得られる触媒層の撥水性を高めることができ、発電時に生成した水などを速やかに排出することができる。撥水性高分子の混合量は、本発明の作用効果に影響を与えない範囲で適宜決定することができる。上述の撥水性高分子として例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、または、PTFE、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレンもしくはこれらのモノマーの共重合体(例えば、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体など)などのフッ素系の高分子材料などを用いることができる。
【0149】
本発明における触媒層の厚さは、特に限定されないが、0.1〜100μmが好ましく、より好ましくは1〜20μmである。触媒層の厚さが0.1μm以上であると所望する発電量が得られる点で好ましく、100μm以下であると高出力を維持できる点で好ましい。
【0150】
(4)セパレータ15
アノード及びカソードセパレータ15a、15bとしては、カーボンペーパー、カーボンクロス、緻密カーボングラファイト、炭素板等のカーボン製や、ステンレス等の金属製のものなど、特に制限されるものではなく、従来公知のものを用いることができる。また、前記セパレータ15a、15bは、空気と燃料ガスとを分離する機能を有するものであり、それらの流路を確保するために所望の形状に加工されたガス流路(溝)16a、16bが形成されているのが望ましく、従来公知の技術を適宜利用することができる。セパレータ15a、15bの厚さや大きさ、ガス流路溝16a、16bの形状などについては、特に限定されず、得られる燃料電池の出力特性などを考慮して適宜決定すればよい。
【0151】
(5)ガスケット17
上記ガスケット17は、気体、特に酸素や水素ガスに対して不透過であればよいが、一般的には、ガス不透過材料からなるOリングなどの単一の不透過部により構成されていればよい。さらに、必要に応じて、電解質膜11や酸素極及び燃料極触媒層12a、12bのエッジとの接着を目的とする接着部を設けてなる、接着剤付きのガスシールテープ等のような複合的な構成としてもよい。Oリングやガスシールテープの不透過部を構成する材料は、設置後に所定の圧力がかかった状態で、酸素や水素ガスに対して不透過性を示すものであれば特に制限されない。
【0152】
こうした不透過部を構成する材料のうち、Oリングを構成する材料としては、例えば、フッ素ゴム、シリコンゴム、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、ポリイソブチレンゴム等のゴム材料、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等のフッ素系の高分子材料、ポリオレフィンやポリエステル等の熱可塑性樹脂などが挙げられる。
【0153】
一方、ガスシールテープ等の不透過部を構成する材料としては、例えば、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)などが挙げられる。また、ガスシールテープ等の接着部を構成する材料としては、電解質膜11や酸素極及び燃料極触媒層12a、12bと、ガスケット17を密接に接着できるものであれば特に制限されないが、ポリオレフィン、ポリプロピレン、熱可塑性エラストマー等のホットメルト系接着剤、アクリル系接着剤、ポリエステル、ポリオレフィン等のオレフィン系接着剤などが使用できる。
【0154】
上記ガスケット17の形成方法は、特に制限されず、公知の方法が使用できる。例えば、電解質膜11上に、あるいは触媒層12のエッジを被覆しながら電解質膜11上に、上記接着剤を、5〜30μmの厚みになるように塗布した後、上記したようなガス不透過材料を10〜200μmの厚みになるように塗布し、これを25〜150℃で、10秒〜10分間加熱することによって硬化させる方法が使用できる。または、予め、ガス不透過材料をシート状に成形した後に、この不透過膜に接着剤を塗布して、ガスケット17を形成した後、これを電解質膜11上に、あるいはガスケット17の一部を被覆しながら電解質膜11上に、貼り合わせてもよい。この際、不透過部の厚みは、特に制限されないが、15〜40μmが好ましい。また、接着部の厚みは、特に制限されないが、10〜25μmが好ましい。
【0155】
上記ガスケット17については、市販のものを購入して用いてもよい。ここでいう市販のものには、購入者側の仕様(寸法、形状、材料、特性など)に応じてメーカーが製造したような発注品ないし特注品等も含まれるものとする。
【0156】
本発明のMEA14の構成を有する燃料電池において、触媒層12、GDL13、および電解質膜11の厚さは、燃料ガスの拡散性などを向上させるには薄い方が望ましいが、薄すぎると十分な電極出力が得られない。従って、所望の特性を有するMEA(燃料電池)が得られるように適宜決定すればよい。
【0157】
また、本発明のMEA14および燃料電池は、上記の電極触媒層12を内側、GDL13を外側とし、固体高分子電解質膜11を用い、該電解質膜11を両側から電極触媒層12で挟んで、適当にホットプレスすることによりMEA14を作製することができる。
【0158】
かかるホットプレス条件としては、適当な温度、圧力を設定するのが望ましい。具体的には、130〜200℃、好ましくは140〜160℃に加温し、1MPa〜5MPa、好ましくは2MPa〜4MPaで1〜10分間、好ましくは3〜7分間、ホットプレスするのが望ましい。ホットプレス温度が130℃以上であれば(膜の軟化が見られ、接合が容易である。またホットプレス温度が200℃以下であれば、膜の分解が防げる。また、ホットプレス圧が1MPa以上であれば、接合が容易である。またホットプレス圧が5MPa以下であれば、膜の穴あきなどの不具合が防止できる。更にホットプレス時間が1分間以上であれば、接合が容易である。またホットプレス時間が10分間以下であれば、膜の穴あきなどの不具合が防止できる。また、ホットプレスの際の雰囲気は、MEAに影響を及ぼさない雰囲気で行うのが望ましく、窒素中などの雰囲気で行うのが望ましい。
【0159】
また、本発明の燃料電池の製造方法としては、特に制限されるものではなく、従来公知の製造技術を用いて組み立てることができる。
【実施例】
【0160】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。
【0161】
実施例1
100gのカーボンブラック(1次粒子の平均粒径46nm)、960gの純水及び40gの非イオン界面活性剤Triton X−100を混合させ、ジェットミルでカーボンブラック粒子の2次粒子(1次粒子が凝集した粒状物)を平均粒径0.5μmまで分散した。このカーボンブラック分散液に40%相当のPTFEディスパージョン(PTFE粒子の平均粒径250nm、PTFE粒子60wt%相当)を添加混合しカーボンブラックPTFE分散液を得た。このカーボンブラックPTFE分散液を泳動電着槽に入れ、電着を行うことで厚さ2mmの電着物(電着固形分)を得た。得られた電着物(電着固形分)を熱風乾燥機により150℃で6時間乾燥した。その後、電着物を電極(陽極)表面から剥離した後、電熱焼結炉により360℃で2時間焼成焼結して、厚さ1.9mmの混合焼結体の膜(シート)を得た(多孔体焼結粗粒子の製造方法(製法2)及び図6参照)。この混合焼結体の膜(シート)の物性は、引っ張り強度35kgf/cm、破断変形率5%、比抵抗0.25Ωcmであった。
【0162】
この混合焼結体の膜(シート)をミキサーで粉砕し、ふるいで分級して、粒径150μm以下の多孔体焼結粗粒子を得た。この粒径150μm以下(平均粒径120μm)の多孔体焼結粗粒子をホットプレス用の金型(治具)に充填し、360℃、100kg/cmで60秒間ホットプレスしてGDLを得た。得られたGDLは、厚さ0.22mmで、多孔体焼結粗粒子同士の隙間に0.1mm程度の空孔(大径貫通孔)が無数形成されており、この多孔体焼結粗粒子同士が石垣状に連なって接合した構造を有していることが、GDLのSEM観察により確認された(図3A参照)。このことから、硬い緻密な多孔体焼結粗粒子の充填物をホットプレスをしても、該多孔体焼結粗粒子内の撥水性粒子やカーボン粒子は流動せず、該多孔体焼結粗粒子間の間隙を埋めるように多孔体焼結粗粒子自身の形状が変形したり、押し潰されたり、多孔体焼結粗粒子が小さな粒子サイズに細粒化されてしまうこともなく、多孔体焼結粗粒子間の間隙(比較的大きな空孔)及び多孔体焼結粗粒子の中の間隙(比較的小さな空孔)が存在する(残る)ことが分かった。
【0163】
また、本実施例で得られたGDLのガス透過能は、ロール法で作製したGDLと比べ21.3倍優れていた。また、本実施例のGDLの物性は、引っ張り強度19kgf/cm、比抵抗0.15Ωcmであった。
【0164】
比較例1
実施例1と同様にしてカーボンブラックPTFE分散液を作製した。このカーボンブラックPTFE分散液に同量のイソプロピルアルコールを添加混合してPTFEを凝集させた後、濾過した。濾過物を乾燥ソルベントナフサとともに混練し、ロールでシート化することで厚さ1mmの固形分シートを得た。この固形分シートを乾燥機により150℃で6時間乾燥してソルベントナフサを完全に蒸発させた後、電熱焼結炉により360℃で2時間焼成して、厚さ1mmの混合焼結体の膜(シート)を得た。得られた混合焼結体の膜(シート)の物性は、引っ張り強度6kg/cm、破断変形率110%、比抵抗5.6Ωcmであった。
【0165】
この混合焼結体の膜(シート)をミキサーで粉砕し、ふるいで分級して、粒径150μm以下の多孔体焼結粗粒子を得た。この粒径150μm以下(平均粒径125μm)の多孔体焼結粗粒子をホットプレス用の金型(治具)に充填し、360℃、100kg/cmで60秒間ホットプレスしてGDLを得た。得られたGDLは、厚さ0.2mmで、多孔体焼結粗粒子の中に平均孔径0.1μmの空孔のみが無数形成されており、この多孔体焼結粗粒子同士は隙間無く密着(再融合)して接合した一体構造を有していることが、GDLの細孔測定により観察された(図示せず)。このことから、瀘過前に凝集したPTFE層は、ホットプレスをすると流動しやすいので、多孔体焼結粗粒子同士の隙間を塞いでしまい、多孔体焼結粗粒子同士の隙間に大きな空孔は存在しない(残らない)ことが分かった。
【0166】
比較的大きな空孔の数は粗粒子数の1から2倍となるので小粒径ほど多数となる。
【0167】
また、本比較例で得られたGDLのガス透過能は、ロール法で作製したガス拡散層と比べほぼ同じであった。また、本比較例のGDLの物性は、引っ張り強度36kgf/cm、比抵抗0.28Ωcmであった。
【0168】
実施例2
上記した多孔体焼結粗粒子の製造方法(製法1)により、相分離濃縮した固形分53を乾燥焼成して得られた厚さ500μmの混合焼結体55の緻密な膜(表1では乾燥焼成シートと記す)56(図5参照)を作製した。
【0169】
具体的には、上記製法2と同様にして得られたカーボンブラック−PTFE分散液を、比較例1のように瀘過前に凝集させることなく、4%Triton X−100(非イオン性界面活性剤)を含む分散液(固形分13%)をガラス瓶に入れて70.0℃のウオーターバスの中に24時間放置したところ下部に沈殿した。上部の液を取り除き固形分44.6%の濃縮液を得た。固形分の収率は99%であった。この濃縮液を80℃で水分を蒸発させ、150℃で6時間乾燥した後、360℃で3時間焼結して混合焼結体の膜(乾燥焼結シート)を得た。
【0170】
得られた混合焼結体の膜(乾燥焼結シート)の物性は、引っ張り強度23kgf/cm、切断変形率4%、比抵抗0.26Ωcm、耐水圧評価試験による耐水圧強度は18kgf/cmであった。
【0171】
耐水圧評価試験は、図8に示すように、耐水圧試験装置83内の耐圧多孔体85上に、サンプルシート(乾燥焼成シート)81をセットし、該シート81の上面側全体に水圧を徐々に加え、サンプルシート81から漏れ出すときの水圧(耐水圧強度)を測定した。結果を表1に示した。
【0172】
実施例3
上記した多孔体焼結粗粒子の製造方法(製法2)により、電着して析出した固形分65を乾燥焼成して厚さ500μmの混合焼結体の緻密な膜(表1では電着シートと記す)66(図6参照)のサンプルを作製した。
【0173】
具体的には、100gのカーボンブラック、非イオン界面活性剤としてTritonX−100、40g、純水900gを混合させ、ジェットミルで平均粒径0.5μmまで分散した。このカーボンブラック分散液に40%相当のPTFEディスパージョンを添加混合しカーボンブラック−PTFE分散液を得た。このカーボンブラック−PTFE分散液を泳動電着槽に入れ厚さ2mmの電着物を得た。150℃で4時間乾燥した後、360℃(なお、撥水剤粒子であるPTFEの融点は327℃である)で2時間焼結して、厚さ1.6mmの電着シートを作製した。
【0174】
得られた電着シートの物性は、引っ張り強度36kgf/cm、切断変形率5%、比抵抗0.25Ωcm、耐水圧評価試験による耐水圧強度は16kgf/cmであった。なお、耐水圧評価試験は、実施例2と同様にして行い、結果を表1に示した。
【0175】
実施例4
上記したGDLの製造方法(製法4)により、実施例2と同様にして得られた乾燥焼成シートをミキサーで粉砕し、ふるいで分級して得られた多孔体焼結粗粒子を用いて、ホットプレスしてGDL(表1では再成膜シートと記す)のサンプルを作製した。
【0176】
具体的には、実施例2と同様にして得られた乾燥焼成シートをミキサーで粉砕し、ふるいで分級して粒径150μm以下の多孔体焼結粗粒子を得た。この粒径150μm以下(平均粒径120μm)の多孔体焼結粗粒子をホットプレス用の金型(治具)に充填し、360℃、100kg/cmで60秒間ホットプレスして、厚さ500μmのGDL(再成膜シート)を作製した。得られた再成膜シートには、平均細孔径0.1μm(0.2μm以下の小径の貫通孔)と5μm以上(1μm以上の大径の貫通孔)の貫通孔が無数にあった。また、再成膜シートは、ホットプレスをしても大きな径の空孔(大径貫通孔)が残っていた(図3参照のこと)。また再成膜シートのガス透過能は大きな径の空孔(大径貫通孔)があるのでロール法で作製したGDLと比べ20倍を有していた。
【0177】
得られた再成膜シートの物性は、引っ張り強度20kgf/cm、比抵抗0.26Ωcm、耐水圧評価試験による耐水圧強度は1kgf/cm以下であった(引っ張り強度と大きく異なる値を示すことがわかった)。なお、耐水圧評価試験は、実施例2と同様にして行い、結果を表1に示した。
【0178】
【表1】

【0179】
実施例5
上記した多孔体焼結粗粒子の製造方法(製法1)により、相分離濃縮した固形分を乾燥焼成して混合焼結体の膜(図5参照)を作製した。
【0180】
具体的には、上記製法2と同様にして得られたカーボンブラック−PTFE分散液を、比較例1のように瀘過前に凝集させることなく、4%Triton X−100(非イオン性界面活性剤)を含む分散液(固形分13%)をガラス瓶に入れて70.0℃のウオーターバスの中に24時間放置したところ下部に沈殿した。上部の液を取り除き固形分42%の濃縮液を得た。この42%濃縮液を80℃で水分を蒸発させ150℃で乾燥し、360℃で1時間焼結して混合焼結体の緻密な膜(構造体シート)を得た。
【0181】
得られた混合焼結体の膜(構造体シート)をミキサーで粉砕し、ふるいで分級して、粒径150μm以下の多孔体焼結粗粒子を得た。図9Aに、本実施例5で得られたこの多孔体焼結粗粒子断面のSEM画像を表した図面を示す。
【0182】
さらに、混合焼結体の膜(構造体シート)の細孔径データを図10に示す。ここで、混合焼結体の膜(シート)の細孔径データの測定では、接触角は平滑なPTFE表面の値である114゜を使用した。ほぼ水銀ポロシメーターの結果と一致した。試料表面の接触角は140゜以上が観測されるが凹凸の効果である。
【0183】
比較例2
比較例1と同様にして混合焼結体の膜(シート)を作製し、この混合焼結体の膜(シート)をミキサーで粉砕し、ふるいで分級して、粒径150μm以下の多孔体焼結粗粒子を得た。図9Bに、本比較例2で得られた多孔体焼結粗粒子断面のSEM画像を表した図面を示す。
【0184】
実施例5の図9A及び比較例2の図9BのSEM画像から、本発明の多孔体焼結粗粒子では、PTFE(撥水剤粒子)のフィブリル化がほとんど見られないことが確認された。一方、従来の食塩電解の酸素陰極に用いられているようなGDLと同様にして作製した比較例1の多孔体焼結粗粒子では、PTFE(撥水剤粒子)のフィブリル化が見られることが確認できた。
【0185】
また、実施例5の図10の水ポロシメータによる細孔分布の測定結果から、本発明の多孔体焼結粗粒子内部には、0.2μm(200nm)以下、特に平均孔径70nm程度の比較的小径の空孔が潰れることなく多数形成されていることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0186】
【図1】本発明のGDLを使用した燃料電池の基本構成(単セル構成)を模式的に表した断面概略図である。
【図2】図2Aは、本発明のGDLを使用したMEAの基本構成を模式的に表した断面概略図である。図2Bは、図2AのGDLを構成する多孔体焼結粗粒子及び多孔体焼結粗粒子同士の間に形成される比較的大きな空孔(大径貫通孔)の様子が分かるように、GDLの一部を拡大して模式的に表した概略図である。図2Cは、図2Bの多孔体焼結粗粒子を構成するカーボン粒子と撥水剤粒子、並びにカーボン粒子および/または撥水剤粒子同士の間に形成される比較的小さな空孔(小径貫通孔)の様子が分かるように、1つの多孔体焼結粗粒子を拡大して模式的に表した概略図である。図2Dは、基材と本発明の構成を有するカーボン粒子層(MIL)からなるGDLを使用したMEAの基本構成を模式的に表した断面概略図である。
【図3】図3は、本発明のGDLを構成する多孔体焼結粗粒子同士の連なりの様子を表したGDLの表面の顕微鏡写真である。図3Aは、平均粒径150μmの多孔体焼結粗粒子により形成されたGDLの表面写真であり、図3Bは、平均粒径250μmの多孔体焼結粗粒子により形成されたGDLの表面写真である。
【図4】図4A〜4Cは、本発明でいう石垣構造に含まれる、実際の石垣(石積)における乱積み構造、玉石谷積み構造、玉石布積み構造モデルを模式的に表した概略図である。図4D〜4Hは、本発明でいう石垣構造に含まれない、実際の石垣(石積)における整層積み、乱層積み、乱整層積み、切石布積み、切石乱積み構造モデルを模式的に表した概略図である。
【図5】本発明のGDLに用いる多孔体焼結粗粒子の製造方法の代表的な実施形態(製法1と称する)として、多孔体焼結粗粒子用の混合焼結体を形成するまでの製造過程を表した工程概略図である。
【図6】本発明のGDLに用いる多孔体焼結粗粒子の製造方法の代表的な他の実施形態(製法2と称する)として、多孔体焼結粗粒子用の焼結体を形成するまでの製造過程を表した工程概略図である。
【図7】製法1または2で得られた多孔体焼結粗粒子用の混合焼結体を用いたGDLの製造方法の代表的な実施形態を表した工程概略図である。
【図8】実施例で用いた耐水圧評価試験装置の概要のみを極めて簡潔に示した概略図面である。
【図9】図9Aは、実施例5で得られた多孔体焼結粗粒子断面のSEM画像を表した図面である。図9Bは、比較例2で得られた多孔体焼結粗粒子断面のSEM画像を表した図面である。
【図10】実施例5で得られた混合焼結体の膜(構造体シート)の細孔径データ(水ポロシメータによる細孔分布)を表す図面である。
【符号の説明】
【0187】
10 燃料電池セル、
11 電解質膜、
12 燃料電池電極触媒層、
12a アノード触媒層、
12b カソード触媒層、
13 ガス拡散層、
13a アノードガス拡散層、
13b カソードガス拡散層、
131a アノードガス拡散層のMIL、
131b カソードガス拡散層のMIL、
132a アノードガス拡散層の基材、
132b カソードガス拡散層の基材、
14 MEA、
15a アノードパレータ、
15b カソードパレータ、
16a アノード側ガス流路(溝)、
16b カソード側ガス流路(溝)、
17 ガスケット、
21 多孔体焼結粗粒子、
211 カーボン粒子、
212 撥水剤粒子、
213 多孔体焼結粗粒子の中の小径の貫通孔、
22 多孔体焼結粗粒子間の大径の貫通孔、
51、61 カーボン粒子分散液、
52、62 カーボン・撥水剤粒子分散液、
53 相分離濃縮による固形分、
54 基材、
55 混合焼結体、
56、66、71 混合焼結体の緻密な膜(シート)、
63 泳動電着用陰極、
64 泳動電着用陽極、
65 電着固形分(電着物)、
72 多孔体焼結粗粒子、
73 多孔体焼結粗粒子分散液(再インク)、
74 基材、
75 GDL、
76 GDLの膜(シート)、
81 サンプルシート(乾燥焼成シート、電着シート、再成膜シート)
83 耐水圧試験装置、
85 耐圧多孔体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボン粒子および撥水剤粒子からなる比較的小径の貫通孔を無数に持つ多孔体焼結粗粒子が、適度に隙間を持ちつつ前記多孔体焼結粗粒子同士が連なって比較的大径の貫通孔を無数に形成してなることを特徴とする、比較的小径の貫通孔と比較的大径の貫通孔を無数に持つ燃料電池用ガス拡散層。
【請求項2】
多孔体焼結粗粒子を用いて構成された燃料電池用ガス拡散層であって、
前記多孔体焼結粗粒子が、カーボン粒子と撥水剤粒子とを用いて形成されており、
前記カーボン粒子および/または撥水剤粒子同士の隙間に多数形成される空孔の平均孔径が、前記多孔体焼結粗粒子同士の隙間に多数形成される空孔の平均孔径より小さいことを特徴とする燃料電池用ガス拡散層。
【請求項3】
前記多孔体焼結粗粒子に最近接している隣の該粗粒子と相互に接合した構造を有していることを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【請求項4】
前記多孔体焼結粗粒子は、引っ張り強度が20kgf/cm以上であり、破断変形率が20%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【請求項5】
前記多孔体焼結粗粒子の平均粒径が、1〜500μmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【請求項6】
前記カーボン粒子および/または撥水剤粒子同士間に形成される平均孔径0.2μm以下の空孔ないし比較的小径の貫通孔と、前記多孔体焼結粗粒子同士間に形成される平均孔径0.5μm以上の空孔ないし比較的大径の貫通孔を多数ないし無数に持つことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【請求項7】
前記撥水剤粒子は、引っ張り強度が10MPa以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【請求項8】
前記撥水剤粒子が、ポリテトラフルオロエチレン粒子であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【請求項9】
前記撥水剤粒子が、フィブリル化していないことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【請求項10】
前記多孔体焼結粗粒子が、カーボン粒子と撥水剤粒子とを非イオン性界面活性剤の存在下で水中に分散させてカーボン・撥水剤粒子分散液を調製し、
前記カーボン・撥水剤粒子分散液を非イオン性界面活性剤の相分離現象を用い濃縮し、
さらに前記相分離濃縮したものを乾燥、加熱焼結して混合焼結体を形成し、
前記混合焼結体を微粉化して得られたものであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【請求項11】
前記多孔体焼結粗粒子が、カーボン粒子と撥水剤粒子とを非イオン性界面活性剤の存在下で水中に分散させてカーボン・撥水剤粒子分散液を調製し、
前記カーボン・撥水剤粒子分散液を電着して固形分を析出し、
前記固形分を焼結して混合焼結体を形成し、
前記混合焼結体を微粉化して得られたものであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【請求項12】
請求項10または11に記載の多孔体焼結粗粒子を、溶剤に分散させて多孔体焼結粗粒子分散液を形成し、
前記多孔体焼結粗粒子分散液を基材に塗布し、乾燥後ホットプレスして成膜し、前記基材と分離して得られたことを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【請求項13】
前記溶剤が、アルカン炭化水素(C2n+2;ここで、n=10〜16)およびこれらを含む溶剤よりなる群から選ばれてなる少なくとも1種の溶剤であることを特徴とする請求項12に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【請求項14】
造孔剤にて多孔体焼結粗粒子同士間に形成される空孔ないし比較的大径の貫通孔の径と数を制御したことを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【請求項15】
厚さ100〜200μmのガス拡散層の基材に、請求項1〜14のいずれか1項に記載のガス拡散層をカーボン粒子層として接合してなることを特徴とする燃料電池用ガス拡散層。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれかに記載の燃料電池用ガス拡散層を用いてなることを特徴とする燃料電池用膜−電極接合体。
【請求項17】
前記燃料電池用ガス拡散層表面に、電極触媒と電解質とを含む触媒層を設けて、電解質膜の両面に配し、ホットプレスしてなることを特徴とする請求項16に記載の燃料電池用膜−電極接合体。
【請求項18】
請求項16または17に記載の燃料電池用膜−電極接合体を用いてなることを特徴とする燃料電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図3】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2007−242378(P2007−242378A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−61910(P2006−61910)
【出願日】平成18年3月7日(2006.3.7)
【出願人】(304023994)国立大学法人山梨大学 (223)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】