説明

燃料電池用セパレータの製造方法

【課題】セパレータ同士の接触抵抗や該接触抵抗により生じる内部抵抗を効果的に低減し、優れたシール性を発揮し得る燃料電池用セパレータを高い生産性の下で製造する方法を提供する。
【解決手段】燃料電池用セパレータ2を製造する方法であって、炭素質粉末および樹脂結合材を含む組成物をセパレータ形状に成形して予備成形体を作製する工程と、得られた予備成形体の少なくとも冷却水流路用の溝4が設けられた側の主表面を、表面平均粗さRaが0.10〜1.00μm、十点平均粗さRzが10.00μm未満となるようにウェットブラスト処理する工程とを有することを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用セパレータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料が有する化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換するもので、電気エネルギーへの変換効率が高く、騒音や振動も少ないことから、携帯機器、自動車、鉄道、コジェネレーション等の多様な分野における電源として今後の発展が期待されている。
【0003】
燃料電池のうち、固体高分子形燃料電池は、図1に断面図で示すように、イオン伝導性を有する高分子膜(イオン交換膜)mの両面を白金などの触媒を担持させたアノード電極板およびカソード電極板1、1で挟み込み、その両外側に板状セパレータ2、2を配してなる単セルを基本構成単位とし、この単セルを数十〜数百個積層させたスタックとその外側に設けた2つの集電体等から構成されてなるものであり、代表的には、水素等の燃料ガス及び空気等の酸化剤ガスの流路としての溝を、(図1に符号3で示すように)各セパレータの表面に刻設したリブ付セパレータ方式と、各電極板のセパレータ側表面に刻設したリブ付電極方式等がある(例えば、特許文献1(特開2000−21421号公報)参照)。
【0004】
このように、燃料電池を構成する部材であるセパレータ2には、一方の主表面には発電用のガス流通用の流路3が形成されているが、図1に示すように、もう一方の主表面(ガス流路3が設けられた主表面の背面側の主表面)には、発電によって発生した熱を排熱し燃料電池スタック全体の温度を制御する冷却水流路用の溝4が形成されている。
【0005】
従来より、発電により生じた水が排出されずに流路3に残留する結果、ガスの流通および拡散を阻害してしまい、燃料電池の発電効率や出力が低下するフラッディング現象が指摘されており、このフラッディング現象を抑制するために、ガス流通用の流路3の流路面の形態や性状を変更する等の提案が数多く行われているが、一方で冷却水流路用の溝4についての検討はほとんどなされていないのが実状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−21421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
固体高分子形燃料電池を作製する場合、図1に示すように、溝4、4が設けられたセパレータ2、2の主表面同士を対面させつつ、これ等の主表面の外周部(縁部)にゴムシールを介在させた状態で両者を接触させ、締結することにより、溝4、4が相対する冷却水流通用の流路を成す。しかしながら、本発明者の検討によれば、この場合、セパレータ2、2同士が接触するセパレータ2の主表面に設けられた凸部(セパレータ2の溝間に形成される山部)において、接触抵抗の増大に伴って内部抵抗が上昇することが判明した。
すなわち、セパレータ2、2は、通常、炭素質粉末と樹脂結合材を混合してなる組成物を成形し、硬化することにより形成されてなるものであるが、その表面には樹脂のスキン層が形成されており、このスキン層の存在により隣り合うセパレータ2、2間の接触抵抗が増大し、内部抵抗が上昇することにより、十分な発電性能が得られないことが判明した。
【0008】
また、本発明者の検討によれば、セパレータ2、2の表面に離型剤が残留する場合があり、この場合には、セパレータ2、2の接触、締結時にゴムシールが接着不良を起こし易いことが判明した。
【0009】
このような状況下、本発明は、セパレータ同士の接触抵抗や該接触抵抗により生じる内部抵抗を効果的に低減し、優れたシール性を発揮し得る燃料電池用セパレータを高い生産性の下に製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記技術課題を解決するために本発明者がさらに検討したところ、燃料電池用セパレータの製造方法として、炭素質粉末および樹脂結合材を含む組成物をセパレータ形状に成形して予備成形体を作製する工程と、得られた予備成形体の少なくとも冷却水流路用の溝が設けられた側の主表面を、表面平均粗さRaが0.10〜1.00μm、十点平均粗さRzが10.00μm未満となるようにウェットブラスト処理する工程とを有する方法を採用することにより、上記技術課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1)燃料電池用セパレータを製造する方法であって、
炭素質粉末および樹脂結合材を含む組成物をセパレータ形状に成形して予備成形体を作製する工程と、
得られた予備成形体の少なくとも冷却水流路用の溝が設けられた側の主表面を、表面平均粗さRaが0.10〜1.00μm、十点平均粗さRzが10.00μm未満となるようにウェットブラスト処理する工程と
を有することを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法、
(2)前記ウェットブラスト処理に用いる研磨材の算術平均粒子径が6〜30μmである上記(1)に記載の燃料電池用セパレータの製造方法、
(3)前記炭素質粉末が粒子径1〜30μmの粒子を30〜90質量%含むものである上記(1)または(2)に記載の燃料電池用セパレータの製造方法、
(4)前記炭素質粉末、樹脂結合材を含む組成物をセパレータ形状に成形して予備成形体を作製する工程が、
炭素質粉末および樹脂結合材とともに、さらに分散剤および有機溶剤を含むスラリー状の組成物を作製した後、該スラリー状の組成物をドクターブレード法によりグリーンシート化し、得られたグリーンシートを積層してセパレータ形状に熱圧成形する工程である
上記(1)〜(3)のいずれかに記載の燃料電池用セパレータの製造方法、および
(5)得られる燃料電池用セパレータが、冷却水流通用の流路が設けられた側の主表面を対面させつつ燃料電池用セパレータ同士を接触させたときに、接触抵抗が2〜10mΩ・cmであるものである上記(1)〜(4)のいずれかに記載の燃料電池用セパレータの製造方法
を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、冷却水流路用の溝が設けられた側の主表面をウェットブラスト処理して、所定の表面平均粗さRaおよび十点平均粗さRzを有する梨地状の凹凸を設けることにより、表面のスキン層を除去して接触抵抗や該接触抵抗により生じる内部抵抗を効果的に低減するとともに、表面に残存する離型剤を除去して、優れたシール性を発揮し得る燃料電池用セパレータを高い生産性の下に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】燃料電池の断面構造を示す図である。
【図2】グリーンシートの形態例を示す図である。
【図3】セパレータ形状を有する予備成形体の断面構造を示す図である。
【図4】接触抵抗の測定方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の燃料電池用セパレータの製造方法は、
炭素質粉末および樹脂結合材を含む組成物をセパレータ形状に成形して予備成形体を作製する工程と、
得られた予備成形体の少なくとも冷却水流路用の溝が設けられた側の主表面を、表面平均粗さRaが0.10〜1.00μm、十点平均粗さRzが10.00μm未満となるようにウェットブラスト処理する工程と
を有することを特徴とするものである。
【0015】
本発明においては、先ず、炭素質粉末および樹脂結合材を含む組成物をセパレータ形状に成形して予備成形体を作製する工程が施される。
本工程は、炭素質粉末および樹脂結合材とともにさらに分散剤および有機溶剤を含むスラリー状の組成物を作製した後、該スラリー状の組成物をドクターブレード法によりグリーンシート化し、得られたグリーンシートを積層してセパレータ形状に熱圧成形する工程であることが好ましい。
本工程のさらに具体的な態様としては、熱硬化性樹脂結合材と分散剤を、必要に応じてフェノール樹脂硬化剤や硬化促進剤とともに有機溶剤に溶解してバインダー樹脂液を作製する工程(バインダー樹脂液作製工程)と、該バインダー樹脂液に炭素質粉末を分散させてスラリー状の組成物を作製する工程(スラリー状組成物作製工程)と、該スラリー状の組成物をフィルム上に塗布し、乾燥した後、離型してグリーンシートを作製する工程(グリーンシート作製工程)と、得られたグリーンシートを成形型内に積層、充填して熱圧成形する工程(熱圧成形工程)とを施す方法を挙げることができる。
以下、本発明における予備成形体を作製する工程の内容について、具体的態様に基づいて詳述するものとする。
【0016】
(1)バインダー樹脂液作製工程
バインダー樹脂液は、熱硬化性樹脂結合材と後述する炭素質粉末を分散し得る量の分散剤とを、必要に応じフェノール樹脂硬化剤や硬化促進剤とともに攪拌、混合し、所望の質量比で適宜な有機溶剤に攪拌、溶解することにより作製することができる。
【0017】
熱硬化性樹脂結合材としては、スルホン酸などの電解質に対する耐酸性および燃料電池の作動温度に耐える耐熱性を有するものであれば特に限定されず、例えば、レゾールタイプのフェノール樹脂、ノボラックタイプのフェノール樹脂に代表されるフェノール樹脂系、フルフリルアルコール樹脂、フルフリルアルコールフルフラール樹脂、フルフリルアルコールフェノール樹脂などのフラン系樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカルボジイミド樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ピレン−フェナントレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、2官能脂肪族アルコールエーテル型エポキシ樹脂や多官能フェノール型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂、ユリア樹脂、ジアリルフタレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂などが挙げられ、これらを単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
熱硬化性樹脂結合材としては、2官能脂肪族アルコールエーテル型エポキシ樹脂、多官能フェノール型エポキシ樹脂、2官能脂肪族アルコールエーテル型エポキシ樹脂と多官能フェノール型エポキシ樹脂とを組み合わせてなる混合樹脂が好ましい。
【0019】
2官能脂肪族アルコールエーテル型エポキシ樹脂としては、数平均分子量が1500〜3500であるとともに、数平均分子量/エポキシ当量が2以上である、下記一般式(I)で表される2官能脂肪族アルコールエーテル型エポキシ樹脂が好ましい。
【0020】
G−O−(R−O)−G (I)
(ただし、Gはグリシジル基、Oは酸素原子、Rは炭素数が2〜10のアルキレン基、kは1以上の整数であり、kが2以上の整数である場合、複数のRは同一であっても異なっていてもよい。)
【0021】
一般式(I)で表されるエポキシ樹脂において、2つのグリシジル基G、G間に存在するk個のアルキレン基Rに含まれる総炭素数が120超であると、樹脂の柔軟性が高くなるので得られるセパレータの破断歪みは大きくなるが、曲げ強度は例えば30MPa未満と低くなる。また、上記総炭素数が30未満では2つのグリシジル基G、G間の分子鎖が短すぎるので柔軟性が低くなる。また、kは8〜30であることが好ましく、15〜25であることがより好ましい。
【0022】
一般式(I)で表される2官能脂肪族アルコールエーテル型エポキシ樹脂としては、例えば、ヘキサンジオール型エポキシ樹脂、ポリエチレングリコール型エポキシ樹脂、ポリプロピレングリコール型エポキシ樹脂、ポリオキシテトラメチレングリコール型エポキシ樹脂などを挙げることができ、これ等の樹脂の中でも酸素原子数の割合が相対的に低いものが好ましく、酸素原子数の割合が相対的に低くなると、耐水性が向上し、得られるセパレータの吸水膨潤性を抑制することができる。
【0023】
一般式(I)で表される2官能脂肪族アルコールエーテル型エポキシ樹脂は直鎖単結合構造であるため、分子鎖が可動し易く、柔軟性を有し、ゴム弾性を発揮しやすい構造を有しているため、セパレータに優れた可撓性、伸縮性、破断歪み特性を付与することができる。
【0024】
一方、多官能フェノール型エポキシ樹脂は、分子中にフェノール骨格を有し、エポキシ基を2個以上有する化合物であれば特に制限されず、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン骨格含有型エポキシ樹脂などを挙げることができる。
【0025】
ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、2官能フェノール型エポキシ樹脂を挙げることができる。
【0026】
2官能フェノール型エポキシ樹脂は分子中に2個のエポキシ基を有するものであり、2官能フェノール型エポキシ樹脂としては、例えば、一般式(II)で表されるビスフェノールA型エポキシ樹脂を挙げることができる。
【0027】
【化1】

【0028】
一般式(II)で表される2官能フェノール型エポキシ樹脂において、nは1〜10の整数であり、1〜5の整数であることが好ましく、2〜3の整数であることがより好ましい。
【0029】
一般式(II)で表されるビスフェノールA型エポキシ樹脂は、平面的なベンゼン環を有することから分子が運動し難く、柔軟性が低いが、その構造上、セパレータに高い曲げ強度を付与することができる。
【0030】
また、多官能フェノール型エポキシ樹脂としては、例えば、3以上の官能基を有する多官能フェノール型エポキシ樹脂を挙げることができる。このような多官能フェノール型エポキシ樹脂としては、例えば、一般式(III)で表されるエポキシ樹脂を挙げることができる。
【0031】
【化2】

【0032】
一般式(III)で表される多官能フェノール型エポキシ樹脂において、mは3〜8の整数であり、4〜8の整数であることが好ましく、5〜7の整数であることがより好ましい。
【0033】
一般式(III)で表される多官能フェノール型エポキシ樹脂のうち、例えば、5官能フェノール型エポキシ樹脂(一般式(III)において、mが3であるエポキシ樹脂)は、分子中に5個のエポキシ基を有するとともに、分子骨格にベンゼン環を有するものであり、硬化すると三次元構造を形成して硬質でかつ脆い性質を示すが、その構造上、セパレータに高い曲げ強度を付与することができる。
【0034】
また、本発明において、熱硬化性樹脂結合材として、2官能脂肪族アルコールエーテル型エポキシ樹脂と多官能フェノール型エポキシ樹脂との混合樹脂を用いた場合には、得られるセパレータが薄肉化した場合であっても、十分な可撓性(柔軟性)と曲げ強度を付与することができる。
【0035】
一般に、炭素質粉末と樹脂結合材とを混合して成形してなるセパレータは、脆く割れ易くなる傾向があるが、この傾向は、セパレータの薄肉化に伴いさらに顕在化し易くなる。
本発明においては、樹脂結合材として、2官能脂肪族アルコールエーテル型エポキシ樹脂、多官能フェノール型エポキシ樹脂、2官能脂肪族アルコールエーテル型エポキシ樹脂と多官能フェノール型エポキシ樹脂とを組み合わせてなる混合樹脂を採用することにより、破断歪みが改善され、割れにくくなり、振動等に対する耐久性が著しく向上することとなる。
【0036】
バインダー樹脂液中に含まれる熱硬化性樹脂結合材の含有量は、熱硬化性樹脂結合材と、下記フェノール樹脂硬化剤および硬化促進剤との合計量が、後述する炭素質粉末100質量部に対して、10〜35質量部であることが好ましく、12.5〜32.5質量部であることがより好ましく、15〜30質量部であることがさらに好ましい。
熱硬化性樹脂結合材の量が少ないと得られるセパレータの強度が低下し易くなるが、逆に熱硬化性樹脂結合材量が多くなると電気抵抗が高くなり易い。
【0037】
本発明において、フェノール樹脂硬化剤としては、分子中にフェノール構造を有するものであれば特に限定されず、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、キシレン型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、ビスフェノール型ノボラック樹脂などのノボラック樹脂、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールAなどのビスフェノール類、該ビスフェノール類を該ビスフェノール類のジグリシジルエーテルで高分子量化したり、エピクロルヒドリンと上記ビスフェノール類とを後者が過剰となる割合で反応させて得られるビスフェノール系樹脂などが挙げられる。
【0038】
フェノール樹脂硬化剤の含有割合は、熱硬化性樹脂結合材として多官能フェノール型エポキシ樹脂を用いる場合、該エポキシ樹脂中における全エポキシ基に対するフェノール樹脂中における全フェノール性水酸基の当量比(フェノール樹脂中における全フェノール性水酸基/エポキシ樹脂中における全エポキシ基)が0.5〜1.5であることが好ましく、0.7〜1.5であることがより好ましく、0.9〜1.1であることがさらに好ましく、1.0程度であることが特に好ましい。上記当量比が0.5未満であるか1.5を超えると、未反応の混合樹脂あるいはフェノール樹脂硬化剤の残存量が多くなるため、効率が低下してしまう。
【0039】
また、バインダー樹脂液を構成する硬化促進剤としては、リン系化合物、第3級アミン、イミダゾール、有機酸金属塩、ルイス酸、アミン錯塩などから選ばれる1種以上を挙げることができ、熱硬化性樹脂結合材として、多官能フェノール型エポキシ樹脂を用いる場合、通常、樹脂100質量部に対し0.05〜3質量部の範囲で添加することができる。
【0040】
本発明において、分散剤(界面活性剤)としては、非イオン性界面活性剤、陽イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤等を挙げることができる。本発明においては、樹脂結合材とともに界面活性剤を添加することにより、炭素質粉末を安定して分散させることができる。
【0041】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、芳香族エーテル型、カルボン酸エステル型、アクリル酸エステル型、リン酸エステル型、スルホン酸エステル型、脂肪酸エステル型、ウレタン型、フッ素型、アミノアマイド型、アクリルアマイド型の各種ポリマーからなるものが挙げられる。
【0042】
陽イオン界面活性剤としては、アンモニウム基、スルホニウム基、ホスホニウム基を含有する各種ポリマーからなるものが挙げられる。
【0043】
陰イオン界面活性剤としては、カルボン酸型、リン酸型、スルホン酸型、ヒドロキシ脂肪酸型、脂肪酸アマイド型の各種ポリマーからなるものが挙げられる。
【0044】
上記各界面活性剤の分子量は、炭素質粉末を上記有機溶媒中に分散させるために、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算重量平均分子量で、2,000〜100,000の範囲にあることが望ましい。上記重量平均分子量が、2,000未満であると、分散剤が炭素質粉末表面に吸着した際にポリマー成分が充分な立体反発層を形成することができず、分散粒子の再凝集が起こるため好ましくない。また、上記重量平均分子量が、100,000を越えると製造再現性が低下したり、凝集剤として作用する場合がある。
【0045】
これらの分散剤(界面活性剤)は単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
分散剤は、後述する炭素質粉末100質量部に対して0.1〜5質量部加えることが好ましい。分散剤の使用量が、炭素質粉末100質量部に対して0.1質量部より少なくなると、炭素質粉末が分散せずにすぐに沈降してしまう。また、同添加量が炭素質粉末100質量部に対して5質量部より多くなると、樹脂特性を低下させ、結果的にセパレータの機械的特性の悪化(強度低下)を招くばかりか、耐薬品性、特に硫酸酸性液中における特性劣化を招くことになる。
【0046】
バインダー樹脂液を構成する有機溶媒としては、一般に入手可能なもので、熱硬化性樹脂結合材を溶解させ得るものであれば特に限定されず、例えば、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類が多く用いられ、これ等の有機溶媒のうち、後述するスラリーをドクターブレード成形してグリーンシート化する際の、スラリーの安定性や粘度、シートの乾燥速度などを考慮すると、メチルエチルケトンが最も好ましい。
【0047】
有機溶媒量が多くなると、炭素質粉末の沈降が速くなり、後述するグリーンシートの表裏に組織差が発生して反り上がりを生じる場合があり、逆に有機溶媒量が少なくなると、後述するスラリーの粘度が上昇し、グリーンシート形成時にブレードが凝集した炭素質粉末を引きずって表面に凹凸を生じるため、シート化が困難になるため、有機溶媒量は、これ等の点を考慮した上で適宜決定することが好ましい。
【0048】
また、バインダー樹脂液は、上記分散剤のほかにも、必要に応じて、例えば、濡れ浸透剤、防腐剤、消泡剤、表面調整剤、湿潤剤、色別れ防止剤などの添加剤を、本発明の目的を阻害しない範囲で適宜含有することできる。これ等の添加剤を含有することにより、安定したスラリーを作製して、表面の滑らかなグリーンシートを得ることができる。
【0049】
バインダー樹脂液は、上記有機溶媒中に、熱硬化性樹脂結合材および分散剤を、必要に応じて、フェノール樹脂硬化剤および硬化促進剤等とともに添加して、攪拌機にて攪拌、混合することにより作製することができる。攪拌時間は1時間程度が好ましく、攪拌機の回転数は、100〜1000回転/分程度であることが好ましい。
【0050】
(2)スラリー状組成物作製工程
上記(1)工程で得たバインダー樹脂液と、炭素質粉末とを混合して、炭素質粉末が分散したスラリー状の組成物を作製する。
【0051】
本発明において、炭素質粉末としては、人造黒鉛粉末、天然黒鉛粉末、膨張黒鉛粉末、あるいは、これらの混合物などの黒鉛粉末を挙げることができ、これらのうち、曲げ強度や破断歪み等のセパレータの機械的特性を考慮すると、人造黒鉛粉末単独あるいは人造黒鉛粉末と天然黒鉛粉末の混合粉末が好ましく、また、上記各黒鉛粉末は、適宜粉砕機により粉砕し篩分けして粒度調整してから使用することが好ましい。
【0052】
本発明において、炭素質粉末は、粒子径1〜30μmの粒子を30〜90質量%含み、最大粒子径が50〜150μmであるものが好ましい。
【0053】
炭素質粉末を構成する粒子径1〜30μmの粒子の量が30〜90質量%であることにより、溶液量を少なくしても流動性がよく安定なスラリーとなり、グリーンシート成形時に乾燥収縮によるひび割れの発生を抑制して緻密化を図ることができ、機械的強度が向上したセパレータを得ることができる。さらには、炭素質粉末の充填効果により得られるセパレータの表面が平滑になり、表面粗さも小さくなるため、ウェットブラスト後にシール性の確保および、接触抵抗の低減を容易に図ることができる。
【0054】
一方、炭素質粉末を構成する粒子径1〜30μmの粒子の量が30質量%未満であると、得られるセパレータの機械的強度が低下し、90質量%を超えるとセパレータの抵抗値が上昇してしまう。また、炭素質粉末の最大粒子径が50μm未満であるとセパレータの抵抗値が増加してしまい、最大粒子径が150μmを超えるとガス不透過性が低下してしまう。さらに、炭素質粉末が粒子径1〜30μmの粒子と粒子径50〜150μmの粒子の両者を含むことにより、グリーンシートの作製時に大きな粒子の間隙に小さな粒子が入り込む充填効果もあって、緻密なグリーンシートを得ることができる。
【0055】
上記粒径分布を有する炭素質粉末は、上記篩分けにより粒度調整した炭素質粉末を適宜な量比に混合することにより作製することができる。
【0056】
上記バインダー樹脂液と炭素質粉末とを混合、分散処理して、スラリー状組成物を作製する。
【0057】
炭素質粉末は、熱硬化性樹脂結合材、フェノール樹脂硬化剤および硬化促進剤の合計量(樹脂成分合計量)に対して、質量比で、樹脂成分合計量:炭素質粉末=10:90〜35:65となるようにバインダー樹脂液と混合することが好ましい。樹脂成分合計量の質量割合が10%未満であり、炭素質粉末の質量割合が90%超であると、熱硬化性樹脂結合材量が低減するので、成形時の流動性が低下して均一に混合することが困難になり、組成が不均一になり易い。一方、樹脂成分合計量の質量割合が35%超であり、炭素質粉末の質量割合が65%未満であると、成形性は向上するが、炭素質粉末と熱硬化性樹脂結合材からなる成形体の電気抵抗が大きくなり、得られるセパレータを用いて燃料電池を作製した際に、燃料電池の性能低下を招くことになる。
【0058】
バインダー樹脂液と炭素質粉末との混合、分散処理は、万能撹拌機、超音波処理装置、カッターミキサー、三本ロール等の分散機を用いて行うことが好ましく、バインダー樹脂液中に炭素質粉末を分散させ、さらに適宜有機溶剤を添加して粘度が100〜1000mPa・s、好ましくは200〜1000mPa・sになるように調整し、スラリー化することが好ましい。スラリーの粘度が100mPa・sを下回ると、グリーンシートの作製時にドクターブレードから原料スラリーが流出し、シートが広がるため、均質な厚さのシートを形成することができなくなる。また、スラリーの粘度が1000mPa・sを超えると、グリーンシートの作製時に、ブレードが凝集した炭素質粉末を引きずって表面に凹凸を生じるため、シート化が困難になる。
【0059】
なお、グリーンシートの作製時において、上記混合、分散処理によって巻き込んだエアが、グリーンシート表面に凹凸を形成し均質性を低下する場合があるので、遠心処理や真空脱気等の手法により上記スラリー中のエアを脱気した上で、グリーンシートを作製することが望ましい。
【0060】
(3)グリーンシート作製工程
上記(2)工程で調製したスラリー状の組成物を、ドクターブレード法によりポリエステルなどのフィルム上に塗布する。この際、ドクターブレードとフィルム間のギャップを好適には0.2〜0.8mm程度に調整した後、ドクターブレードのスラリーホッパーにスターラーでよく攪拌したスラリーを流し込み、好ましくは離型剤を塗布したフィルム上に均等な厚みに塗布する。
【0061】
得られるグリーンシートの厚みは、ドクターブレードとフィルムとのギャップ間隔やスラリー濃度を調整することにより調整することができ、乾燥後の厚みで0.1〜1.0mmになるように制御することが好ましい。
【0062】
得られたグリーンシートは、自然乾燥させたり、所望により、ある程度の長さにカットした上で扇風機などを用いて送風乾燥して、目視にて溶媒分が揮発するまで乾燥させることが好ましい。また、溶媒分が揮発し、表面が乾いた状態となってから、所定の寸法にカッターナイフで切れ目を入れたり、打ち抜き型で所定形状、寸法にした上で、更に所定時間、乾燥、或いは冷却することでフィルムから離形し易くしてから表面のフィルムを剥がして離型することが好ましい。
【0063】
このように、ドクターブレード法は、炭素質粉末、熱硬化性樹脂結合材、分散剤、有機溶剤等からなるスラリーをドクターブレード装置を用いてキャリヤフィルム上に一定の厚みになるように連続塗工した後、乾燥して有機溶剤を揮発・蒸発させることにより、グリーンシートを得る方法であり、シート成形、乾燥、巻き取り、打ち抜き加工等を連続的に行う生産方法であることから、高い生産効率でセパレータ形成材であるグリーンシートを作製することができる。このため、スラリー状の原料混合物を乾燥させ、粉砕して成形粉を作製した上でセパレータを製造する従来法に比べ、セパレータ製造時における作業効率や生産性を向上させることができる。
【0064】
このようにして得られたグリーンシートは、緻密な樹脂膜から構成されてなるものであることから、得られるセパレータのガス不透過性を向上させることができる。
【0065】
このようにして得られるグリーンシートは、厚さ0.1〜1.0mmであることが適当であり、0.15〜0.8mmであることがより適当であり、0.2〜0.6mmであることがさらに適当である。
【0066】
(4)熱圧成形工程
上記(3)工程で得たグリーンシートを、得ようとするセパレータの厚さに応じて適宜複数枚積層した上で熱圧成形することにより、セパレータ形状を有する予備成形体を作製することができる。
【0067】
グリーンシートの熱圧成形は、例えば、グリーンシートを所望枚数重ね合せた状態で金型内に配置し、ホットプレート等を用いて熱硬化性樹脂結合材の融点以上の温度或いは熱硬化性樹脂結合材を溶融して加熱硬化できる温度まで金型ごと予熱した後、プレス機に投入して加圧することにより行うことができる。加圧成形物は、金型の温度が室温まで低下する前に取り出すことが好ましい。
【0068】
燃料電池用セパレータは、主表面の外周部(縁部)がシール部として肉厚になっており(材料必要量が多く)、主表面の中央部が発電部分としてガス流路または冷却水流路用の溝を設けた凹凸状になっているので、主表面の中央部は縁部に比べて肉厚が薄くなっている(材料必要量が少なくなっている)。従って、グリーンシートを積層する場合、縁部は積層数を多く、中央部(発電部分)は積層数を少なくしなければならず、例えば図2に示すように、平板状のグリーンシートaと、内部をくり抜いたグリーンシートbとを積層した状態で金型にセットし、熱圧成形することが好適である。
上記のように、得られるセパレータの立体形状を考慮しつつ積層するグリーンシートの形状を適宜選択することにより、薄くても厚さバラツキが小さく、かつ高度のガス不透過性を確保したセパレータを得ることができる。
【0069】
セパレータ形状を有する予備成形体は、上記グリーンシートを2〜6枚積層してなるものであることが好ましい。
グリーンシートとして、図2に示すように、平板状のグリーンシートaと内部をくり抜いたグリーンシートbとを使用する場合、平板状のグリーンシートaを1〜3枚、内部をくり抜いたグリーンシートbを1〜3枚積層し、熱圧成形することが好ましい。
【0070】
成形型としては、一対の上型と下型からなるものを挙げることができ、得ようとするセパレータ形状に応じた成形面形状を有するものを挙げることができる。例えば、得ようとするセパレータが図2に示すような断面形状を有するものである場合は、上型および下型のいずれか一方の型の成形面にガス流路形状に対応したコルゲート状の凹凸成形面が形成されてなり、もう一方の型の成型面に冷却水流路用の溝に対応したコルゲート状の凹凸面が形成されてなるものを挙げることができる。成形型の成形面には、適宜離型剤を塗布してもよい。
【0071】
上記熱圧成形時の圧力は10〜100MPaであることが好ましく、20〜80MPaであることがより好ましく、20〜60MPaであることがさらに好ましい。また、熱圧成形時の温度は、150〜250℃であることが好ましい。熱圧成形時の加圧時間は1秒〜600秒が適当であり、1秒〜300秒がより適当であり、1秒〜30秒がさらに適当である。また、上記加圧時においては、加圧状態を連続的に維持するのではなく、適時加圧状態を開放して、ガス抜きを行ってもよい。加圧時の圧力が上記範囲内にあることにより、得られるセパレータに所望の強度およびガス不透過性を付与することができる。
【0072】
得られた予備成形体は、必要に応じて更に機械加工してもよく、また、必要に応じて、適宜150〜250℃程度の温度でアフターキュアを行ってもよい。
【0073】
本発明において、セパレータ形状を有する予備成形体は、例えば、図3に示す断面形状を有するものである。
セパレータ形状を有する予備成形体の厚さは、0.05〜0.5mmであることが適当であり、0.075〜0.4mmであることがより適当であり、0.1〜0.3mmであることがさらに適当である。
本発明において、セパレータ形状を有する予備成形体が、図3に示すような断面形状を有するものである場合、図3にtで示す厚さが予備成形体の厚さに相当するものとする。
【0074】
得られるセパレータ形状を有する予備成形体は、上記緻密構造を有するグリーンシートから成るものであることから、厚さが薄い場合でも高度のガス不透過性を有するセパレータを作製することができる。
【0075】
本発明において、スラリー状の成形材料からグリーンシートを作製し、このグリーンシートを用いてセパレータ形状を有する予備成形体を作製した場合には、原料混合物の乾燥物を粉砕等する工程を省略することができ、さらに、粉砕物でなくシート状物として成形型中に供給できることから、成形型への充填操作をより容易に行うことができ、生産性を向上することができる。
【0076】
本発明は、上記セパレータ形状を有する予備成形体の少なくとも冷却水流路用の溝が設けられた側の主表面を、表面平均粗さRaが0.10〜1.00μm、十点平均粗さRzが10.00μm未満となるようにウェットブラスト処理する工程を有するものである。
【0077】
ウェットブラスト処理とは、水等の液体により分散した研磨材のスラリーを投射ガンに導入し、上記スラリーとは別経路から導入した圧縮エアーによって霧化させながら投射ガンから被処理物に研磨材(砥粒)を投射することにより行われる表面処理を意味する。
【0078】
本発明において、ウェットブラストに使用する研磨材は、その形状が略球形であることが好ましい。また、ウェットブラストに使用する研磨材の平均粒子径は6〜30μmであることが好ましく、6〜25μmであることがより好ましく、6〜20μmであることがさらに好ましい。
研磨材の平均粒子径が6μm未満であると、予備成形体表面のスキン層を除去時間が増えるため加工効率が悪く、平均粒子径が30μm超であると、表面が荒れやすくなり、表面平均粗さRaが1.00μm超となり易くなる。
なお、本出願書類において、研磨材の平均粒子径は、レーザー光散乱回折法粒度測定機を用いて測定したときの、平均粒子径D50(体積積算粒度分布における積算粒度で50%の粒径)を意味する。
【0079】
本発明において、ウェットブラスト処理に用いる研磨材は、アルミナ、炭化珪素、樹脂、ガラス、ジルコニアおよびステンレスから選ばれる1種以上からなるものであることが好ましい。
【0080】
本発明において、ウェットブラスト処理に使用するスラリーにおいて、研磨材を分散する分散媒としては、特に限定されないが、水であることが好ましい。
上記研磨材を含むスラリー中の研磨材の濃度は、5〜25体積%であることが好ましく、7.5〜22.5体積%であることがより好ましく、10〜20体積%であることがさらに好ましい。
【0081】
スラリー中における研磨材の濃度が5体積%未満であると十分な加工を行い難く、研磨材の濃度が25体積%を超えても、研磨材粒子同士の衝突によりエネルギー効率が低下してしまうため、加工効率が低下してしまう。
【0082】
本発明において、ウェットブラスト処理に供する圧縮エアーの圧力は0.15〜0.30MPaが好ましく、0.15〜0.275MPaがより好ましく、0.15〜0.25MPaがさらに好ましい。
圧縮エアーの圧力が上記範囲内にあることにより、研磨材を含むスラリーを均一に霧化して、予備成形体の表面を均一に処理することができる。
【0083】
本発明において、被処理対象物(セパレータ形状を有する予備成形体)の研削面における単位面積当りの研磨材の噴出量に相当する噴射密度は0.1〜2.0g/cmが好ましく、0.2〜19g/cmがより好ましく、0.3〜18g/cmがさらに好ましい。
【0084】
本発明において、上記噴射速度が0.1g/cm未満である場合には、単位面積当りの研磨材の衝突回数が少なく、予備成形体表面のスキン層を除去することができ難くなるため、接触抵抗が高くなり易く、セパレータの濡れ張力も低くなり易い。また、上記噴射速度が2.0g/cmを超えると単位面積当りの研磨材の衝突回数が多くなる為、表面が粗れ易く、接触抵抗が高くなり易い。
【0085】
本発明において、研磨材を含むスラリーの投射ガンから被処理対象物(セパレータ形状を有する予備成形体)までの距離(投射距離)は、5mm〜50mmであることが好ましく、7.5mm〜45mmであることがより好ましく、10mm〜40mmであることがさらに好ましい。
【0086】
本発明において、研磨材を含むスラリーの投射角度は、被処理対象物(セパレータ形状を有する予備成形体)の成形面に対し、45〜135°であることが好ましく、60〜120°であることがより好ましく、75〜105°であることがさらに好ましい。
【0087】
本発明において、ウェットブラスト処理に使用する投射ガンは、特に限定されず、例えば、サイフォン式ガン、幅広スリット式ガン等を挙げることができる。
【0088】
本発明において、ウェットブラスト処理される予備成形体の被処理面は、少なくとも冷却水流路用の溝が設けられた側の主表面であり、得られるセパレータを燃料電池に用いたときに性能上特に支障がない限りにおいては、予備成形体のその他の面にウェットブラスト処理を施しても構わない。
【0089】
本発明においては、予備成形体の少なくとも冷却水流路用の溝が設けられた側の主表面における表面平均粗さRaが0.10〜1.00μm、十点平均粗さRzが10.00μm未満となるようにウェットブラスト処理する。
上記表面平均粗さRaが、0.10〜1.00μmとなるように処理することが好ましく、0.10〜0.90μmとなるように処理することがより好ましい。
また、上記十点平均粗さRzが、1〜10μmとなるように処理することが好ましく、1〜9μmとなるように処理することがより好ましい。
【0090】
本発明においては、予備成形体の少なくとも冷却水流路用の溝が設けられた側の主表面における表面平均粗さRaが0.10〜1.00、十点平均粗さRzが10.00μm未満となるようにウェットブラスト処理することにより、燃料電池に組み込んだ際に、対向するセパレータの冷却水流路形成用の溝の山部(凸部)同士が接触する面積が増加し、接触抵抗が低くなる結果、内部抵抗を低減して燃料電池の発電効率を向上させ得ると考えられる。
また、上記十点平均粗さRzが10.00μm未満となるようにウェットブラスト処理することにより、燃料電池に組み込んだ際に、対向するセパレータ主表面の外周部(縁部)において、特段のマスキングを行わなくても、シール性を損うことなく接触抵抗を低減することができる。
【0091】
本出願書類において、上記表面平均粗さRaおよび十点平均粗さRzは、JIS B 0601の規定により測定した値を意味する。
【0092】
本発明においては、予備成形体の少なくとも冷却水流路用の溝が設けられた側の主表面における表面平均粗さRaが0.10〜1.00、十点平均粗さRzが10.00μm未満となるようにウェットブラスト処理して梨地状の凹凸を設けることにより、表面のスキン層を除去して接触抵抗や該接触抵抗により生じる内部抵抗を効果的に低減するとともに、表面に残存する離型剤を除去して、シール性を向上し得る燃料電池用セパレータを高い生産性の下に製造することができる。
【0093】
一般に、ブラスト処理としては、ウェットブラスト処理の他に研磨材のみを高速で投射するドライブラスト処理があるが、ドライブラスト処理では研磨材に対する空気抵抗が大きいため、均一なブラスト処理を施し難い。しかし、ウェットブラストは水等の液体媒体が研磨材を被処理物(予備成形体)表面まで運んでくれるため、予備成形体表面を均一に処理することができる。
【0094】
本発明の方法で得られる燃料電池用セパレータは、冷却水流通用の流路が設けられた側の主表面を対面させつつ燃料電池用セパレータ同士を接触させたときに、接触抵抗が2〜10mΩ・cmであるものが好適であり、2〜9mΩ・cmであるものがより好適であり、2〜8mΩ・cmであるものがさらに好適である。
本出願書類において、上記接触抵抗は、図4に示すように、ウェットブラスト処理した主表面同士を対向させつつ接触させたセパレータ2、2の接触面とは反対側の主表面上にそれぞれ銅箔からなる電極5、5を配置した後、得られた積層物に1MPaの面圧を加えた状態で1Aの電流を通電し、4端子法により電圧を測定したときの電圧降下を求め、下記式により算出したときの値を意味する。
接触抵抗=(電圧降下/接触面積)/電流
【0095】
本発明の方法で得られたセパレータは、固体高分子形燃料電池用セパレータとして好適に用いることができる。
【実施例】
【0096】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0097】
(実施例1)
(1)バインダー樹脂液の作製工程
熱硬化性樹脂結合材であるエポキシ樹脂(多官能フェノール型エポキシ樹脂、DIC(株)製、EPICLON N−680、軟化点85℃)、硬化剤であるノボラック型フェノール樹脂(明和化成(株)製、H−1、軟化点85℃)、硬化促進剤である2−エチル−4−メチルイミダゾールとを、これ等の合計量が(樹脂成分合計量が)後述する炭素質粉末である黒鉛粉末80質量部に対して20質量部となるように溶剤であるメチルエチルケトン(MEK)中で混合して樹脂溶液を得た。
上記混合樹脂の作製に当たっては、多官能フェノール型エポキシ樹脂66質量部に対し、硬化剤33質量部と、硬化促進剤1質量部となるように配合し、また、MEKは後述する炭素質粉末である黒鉛粉末100質量部に対して110質量部となるように配合した。
上記樹脂溶液に対し、分散剤である陰イオン界面活性剤(ポリカルボン酸型ポリマー、花王社製ホモゲノールL−18)を後述する黒鉛粉末100質量部に対して1質量部の割合になるように添加してバインダー樹脂液を得た。
得られたバインダー樹脂液を構成する熱硬化性樹脂結合材の硬化温度は120℃とみなすことができる。
【0098】
(2)スラリー状組成物作製工程
(1)工程で得たバインダー樹脂液の所望量に、粒子径1〜30μmの粒子を60質量%含み、最大粒子径150μmに粒度調整した鱗片状天然黒鉛粉末を所望量投入して、適宜メチルエチルケトン(MEK)を添加しつつ、撹拌機により十分に混練して粘度を200mPa・sに調整した後、遠心法により巻き込んだ空気を脱気することにより、(1)工程で得たバインダー樹脂液を構成する熱硬化性樹脂結合材、フェノール樹脂硬化剤、硬化促進剤の合計量(樹脂成分合計量)に対して、質量比で、樹脂成分合計量:炭素質粉末=20:80となるように混合したスラリー状の組成物を得た。
【0099】
(3)グリーンシート作製工程
(2)工程で得たスラリー状の組成物を、ドクターブレードを有するグリーンシート成形装置内に注入して、ドクターブレード法によりシート状物を作製し、十分に乾燥することにより、厚さ0.3mm程度のグリーンシートを成形した。
【0100】
(4)熱圧成形工程
(3)工程で得られたグリーンシートを打ち抜き型で所定形状に打ち抜き、グリーンシートをフィルムから剥がした後、図2に示す形態を有する、平板状のグリーンシートaを2枚積層し、さらにその上に内部をくり抜いたグリーンシートbを2枚積層することによって所定厚みになるように調整して、グリーンシート積層物を得た。
次いで、成形型として、一対の上型と下型からなり、上型および下型の成形面には、200×200mmの範囲内に幅1mm、深さ0.6mmの溝形状が彫刻され、成形面にフッ素系の離型剤が塗布された、外形270×270mmの成形金型中に、上記グリーンシート積層物を挿入した。
そして、上記グリーンシート積層物を挿入した状態で、180℃の温度条件下40MPaの圧力で60秒間加圧することにより、図3に示すようなセパレータ形状を有する予備成形体を作製した。得られた予備成形体は、最薄部の厚さtが0.20mmであるものである。
【0101】
(5)ウェットブラスト処理工程
上記セパレータ形状を有する予備成形体に対し、幅広スリット式投射ガンを備えたウェットブラスト装置(マコー(株)社製PFE300)を用いてウェットブラスト処理を行うことにより、目的とするセパレータを作製した。ウェットブラスト処理は、平均粒子径が7μm(JIS♯2000)であるアルミナからなる研磨材(砥粒)を水中に分散して15体積%の濃度に調整したスラリーを、圧縮エアーの圧力0.20MPaで、投射ガンから20mm離れた予備成型体の冷却水流路用の溝が設けられた側の主表面に対し、投射角度が90°になるように投射することにより行った。このとき、予備成形体主表面における噴射密度は0.5g/cmであった。
【0102】
得られたセパレータの表面平均粗さRa、十点平均粗さRz、固有抵抗率、接触抵抗および濡れ張力を以下の方法で測定した。結果を表2に示す。
【0103】
<表面平均粗さRa、十点平均粗さRz>
プローブ先端径5μmの表面粗さ計((株)東京精密製、ハンディサーフ E−35B)を用いて、JIS B 0601の規定により測定した。
【0104】
<固有抵抗率(mΩ・cm)>
JIS C2525の規定により測定した。
【0105】
<接触抵抗(mΩ・cm)>
図4に示すように、上記で得られたセパレータ2、2を冷却水流通用の流路が設けられた側の主表面を対面させつつ燃料電池用セパレータ同士を2枚接触して重ね合わせ、その上下に銅電極5、5を配置した。この積層物に1MPaの面圧をかけた状態で、1Aの電流を通電した。この時にセパレータサンプル間を4端子法により電圧を測定し、各電圧値より電圧降下を求め、下記式により接触抵抗を算出した。
接触抵抗=(電圧降下/接触面積)/電流
【0106】
<濡れ張力>
JIS K6768 プラスチック−フィルムおよび濡れ張力試験方法の規定により測定した。
【0107】
(実施例2〜実施例6)
実施例1の(5)ウェットブラスト処理工程において、研磨材の平均粒子径(砥粒粒径)、圧縮エアーの圧力(エアー圧)、噴射密度を表1に示すとおりとした以外は、実施例1と同様にしてセパレータを作製した。
得られた各セパレータにおいて、実施例1と同様にして表面平均粗さRa、十点平均粗さRz、固有抵抗率、接触抵抗および濡れ張力を測定した。結果を表2に示す。
【0108】
(比較例1〜比較例3)
比較例1においては、実施例1の(5)ウェットブラスト処理工程において、研磨材の平均粒子径を50μmとした以外は、実施例1と同様にしてセパレータを作製した。
比較例2においては、実施例1の(5)ウェットブラスト処理工程において、研磨材の平均粒子径を50μmとし、ブラスト装置として((株)不二精機製HD−R)を用い、ウェットブラストに代えてドライブラスト処理を施した以外は、実施例1と同様にしてセパレータを作製した。
比較例3においては、実施例1の(5)ウェットブラスト処理工程を施さず、実施例1の(1)〜(4)工程を経て得られた予備成形体をそのままセパレータとした。
得られた各セパレータにおいて、実施例1と同様にして表面平均粗さRa、十点平均粗さRz、固有抵抗率、接触抵抗および濡れ張力を測定した。結果を表2に示す。
【0109】
【表1】

【0110】
【表2】

【0111】
表2より、実施例1〜実施例6で得られたセパレータは、炭素質粉末および樹脂結合材を含む組成物をセパレータ形状に成形して予備成形体を作製した後、得られた予備成形体の冷却水流路用の溝が設けられた側の主表面を、表面平均粗さRaが0.10〜1.00μm、十点平均粗さRzが10.00μm未満となるようにウェットブラスト処理することにより、接触抵抗が3.4〜9.2mΩ・cm)と低く、優れた濡れ張力を有し、優れたシール性を発揮し得る燃料電池用セパレータを高い生産性の下に製造できることが分かる。
【0112】
これ対して、比較例1および比較例2においては、平均粗さRaが1.17〜1.79μmと大きかったり(比較例1および比較例2)、十点平均粗さRzが12.2μmと大きいために(比較例1)、接触抵抗が大きなセパレータしか得られないことが分かる。また、比較例3においては、ブラスト処理を施しておらず、予備成形体表面のスキン層が除去されていない為に接触抵抗が13.6mΩ・cmと高いセパレータしか得られないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明によれば、セパレータ同士の接触抵抗や該接触抵抗により生じる内部抵抗を効果的に低減し、優れたシール性を発揮し得る燃料電池用セパレータを高い生産性の下に製造する方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0114】
1 電極板
2 セパレータ
3 ガス流路
4 冷却水流路用の溝
5 銅箔からなる電極
m 高分子膜
a、b グリーンシート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池用セパレータを製造する方法であって、
炭素質粉末および樹脂結合材を含む組成物をセパレータ形状に成形して予備成形体を作製する工程と、
得られた予備成形体の少なくとも冷却水流路用の溝が設けられた側の主表面を、表面平均粗さRaが0.10〜1.00μm、十点平均粗さRzが10.00μm未満となるようにウェットブラスト処理する工程と
を有することを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項2】
前記ウェットブラスト処理に用いる研磨材の算術平均粒子径が6〜30μmである請求項1記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項3】
前記炭素質粉末が粒子径1〜30μmの粒子を30〜90質量%含むものである請求項1または請求項2に記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項4】
前記炭素質粉末、樹脂結合材を含む組成物をセパレータ形状に成形して予備成形体を作製する工程が、
炭素質粉末および樹脂結合材とともにさらに分散剤および有機溶剤を含むスラリー状の組成物を作製した後、該スラリー状の組成物をドクターブレード法によりグリーンシート化し、得られたグリーンシートを積層してセパレータ形状に熱圧成形する工程である
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項5】
得られる燃料電池用セパレータが、冷却水流通用の流路が設けられた側の主表面を対面させつつ燃料電池用セパレータ同士を接触させたときに、接触抵抗が2〜10mΩ・cmであるものである請求項1〜請求項4のいずれかに記載の燃料電池用セパレータの製造方法。

【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−89322(P2012−89322A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234339(P2010−234339)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(000219576)東海カーボン株式会社 (155)
【Fターム(参考)】