説明

燃料電池用セパレータの製造装置及び製造方法

【課題】プレス成形後の型開き時において、成形品が上型に張り付くことを抑制し、確実に下型に固定されることを可能とする燃料電池用セパレータの製造装置、製造方法を提供する。
【解決手段】燃料電池用セパレータを製造するプレス成形装置であって、上型と下型との間に配置された金属製平板をプレスして凹凸を形成する工程S102と、セパレータの外形を打ちぬく工程S103を備えたプレス成形装置において、下型の表面粗さを上型の表面粗さより大きくし、さらに上型に備えられた押え具と、下型に備えられた吸引具により成形品を下型へ固定しS104、成形品が確実に下型に残るようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用セパレータの製造装置、及びその製造装置を用いた燃料電池用セパレータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素と酸素の電気化学的な反応によりエネルギーを発生させるものであり、リン酸型燃料電池、溶融炭酸塩型燃料電池、固体電解質型燃料電池、固体高分子型燃料電池等様々な種類がある。中でも、固体高分子用燃料電池は低温領域での運転が可能であり、車載用電源や家庭用電源などへの利用が期待されている。固体高分子型燃料電池は、プロトン伝導性を備える電解質膜の両面に触媒層およびガス拡散層が順に積層された電極構造体を有し、この電極構造体をセパレータで挟持した単セルを複数組み合わせて燃料電池スタックを形成する。アノード(負極)では、水素を含有する燃料ガスが供給され、下式(1)に示す電気化学反応により燃料ガスからプロトンを生成する。生成されたプロトンは電解質膜を通ってカソード(正極)へ移動する。他方のカソード(正極)では、酸素を含有する酸化剤ガスが供給され、アノード(負極)から移動してきたプロトンと反応して下式(2)に示す電気化学反応により水を生成する。これら一対の電極構造体の電解質膜側の表面で生じる電気化学反応を利用して電極から電気エネルギを取り出す。アノード反応:H → 2H + 2e …(1)、カソード反応:2H + 2e +(1/2)O → HO …(2)
電極へ供給される燃料ガスおよび酸化剤ガスはセパレータのガス拡散層側表面に形成された燃料ガス流路及び酸化剤流路を通過するが、この燃料ガス流路及び酸化剤流路は凹凸形状からなる溝で構成されている。凹凸形状の溝は、セパレータの表裏に一体に形成されており、一方の面は燃料ガス流路及び酸化剤流路として用いられ、他方の面は冷却水の流路として用いられる。具体的には、アノード(負極)側セパレータでは、拡散層側の凹凸部を燃料ガスが通過し、拡散層とは反対側の凹凸部を冷却水が通過する。また、カソード(正極)側セパレータでは、拡散層側の凹凸部を酸化剤ガスが通過し、拡散層とは反対側の凹凸部を冷却水が通過する。また、セパレータに形成された凹凸部は、ガス及び冷却水の流路としての機能だけでなく、電気化学反応により得られた電気を集電する機能も有する。
【0003】
このように、燃料電池用セパレータの面上にはガス流路、冷却流路、及び集電体を構成するために複雑な凹凸構造が施されており、その製造方法としてプレス成形方法が知られている。例えば、特許文献1にあるように、金属板部材を、上型と下型で挟み押圧することによって、金属板部材に凹部状の流路を形成し、メタルセパレータを得る手法が知られている。また特許文献2は、特許文献1と同様に金属板部材を上型と下型で挟み押圧することで波形状の凹凸を形成し、さらに凸部分に孔を打ち抜き加工にて形成する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−4291
【特許文献2】特開平5−29009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、セパレータ用部材が薄板である場合、成形品が上型へ張り付きやすく、また張り付き程度に偏りが生じやすくなるため、上型へ張り付いた成形品は型開き時に落下、破損するおそれがある。さらに、打抜き工程後の成形品とスクラップとの間に生じる摩擦抵抗によっても、成形品の上型への張り付き程度に偏りが生じる。特に、セパレータの形状が複雑である場合、具体的には、単なる長方形ではなく、複数の変曲部、角を有する形状である場合、変曲部、角において成形品とスクラップとが干渉しやすくなり、これにより成形品の外周部にまくれが生じるおそれがある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、板厚の薄い金属製のセパレータ用部材を用い、プレス成形、打ち抜き成形を行う場合においても、成形品とスクラップとが干渉することなく、成形品が破損・変形を防ぐことが可能な燃料電池用セパレータの製造装置、製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
燃料電池用セパレータのプレス製造装置であって、上型と下型とを備え、上型と下型との間に配置された平板をプレスして凹凸を形成するプレス成形手段と、平板を打抜きセパレータの外形を形成する打ち抜き加工手段とを有し、下型の表面粗さを上型の表面粗さより大きくしたことを特徴とする。
【0008】
上記構成において、燃料電池用セパレータのプレス製造装置は、上型に形成され、型開き時に成形品を下型に固定する押え具を備えることが好ましい。また押さえ具は、成形品において流路、集電機能を持たない部位にて成形品を固定することが好ましい。更に、下型には吸引装置を備え、型開き時に吸引力により成形品を下型へ固定することが好ましい。吸引装置は、成形品において流路、集電機能を持たない部位にて成形品と接触し、吸引固定することが好ましい。
【0009】
また、燃料電池用セパレータの製造方法において、上型と下型の間に配置された平板をプレスして凹凸を形成するプレス成形工程と、平板を打抜きセパレータの外形を形成する打ち抜き加工工程と、型開き時に成形品を下型に固定する工程と、を備え、型開き時に成形品を下型に固定する工程は、下型とセパレータとの間に生じる摩擦抵抗により固定される工程であり、摩擦抵抗は上型と下型の表面粗さを調整することによって得られることを特徴とする。
【0010】
上記構成において成形品を下型に固定する工程は、上型に形成される押さえ具により、型開き時に成形品を下型に押圧固定する工程を有することが好ましい。更に、成形品を下型に固定する工程は、下型に備えられた吸引装置により、片開き時に成形品を下型へ吸引固定する工程を有することが好ましい。なお、吸引装置による固定部位は、成形品において流路、集電機能を有さない部位であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、板厚の薄いセパレータ用部材を用いてプレス成形、打ち抜き成形を行う場合において、プレス成形後の型開き時に成形品が下型へ確実に固定されるため、上型への張り付きを抑制出来る。これにより、成形品の上型からの落下による破損、打抜き後のスクラップとの干渉による破損、変形を防ぐことが可能な燃料電池用セパレータの製造装置、製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態における燃料電池用セパレータの製造装置及び製造方法により成形される成形品の一例を示した平面図である。
【図2】本発明の実施の形態における燃料電池用セパレータの製造装置の一例を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態における燃料電池用セパレータの製造方法の一例を示すフロー図である。
【図4】表面粗さの算出方法を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0014】
図1(a)は、燃料電池用セパレータ1の平面図、図1(b)はセパレータ1のA−A断面図である。セパレータ1は0.1mm程度の金属薄板部材からなり、金属薄板部材の例としてはアルミニウム、ステンレス、チタン等の金属からなる導電性薄板部材が好ましい。セパレータ1の外形は、長方形であって、長辺中央部分が内側へ凹んだ凹み部を備え、これにより外形に複数の変曲部、角を有する。セパレータ1の中央部分には燃料ガス及び冷却水の流路2を形成する複数の凹凸状の溝を有する。流路2の断面(A−A断面)は波形状を有しており、凹凸形状は表面と裏面とで反転した関係となっている。波形状の溝幅、深さは適宜選択可能であるが、例えば、溝幅が1mm、深さが0.5mmの波形状などが用いられる。また、セパレータ1の長手方向の端部付近には、マニホールド4を有し、酸化ガス、水素ガス、及び冷却水の出入口を形成する。流路2及びマニホールド4の周囲には、燃料電池セルの積層時にシール部材(図示省略)を配置するためのガスケットシールライン5(破線部)が形成されている。さらに、ガスケットシールライン5より外側は平坦な構造かつセパレータ機能を持たない外周部8を有する。セパレータ1は以下に示す製造装置及び製造方法によりプレス加工され、また、セパレータ1の外形は、プレス加工時に金属薄板部材を打ち抜き加工することによって形成される。
【0015】
以下、本実施形態におけるセパレータ1の製造装置を説明する。図2は本発明の実施の形態における燃料電池用セパレータの製造装置10の一例を示す図であり、(a)はプレス成形前を、(b)はプレス成形後の型開き時を示す図である。製造装置10は、合金工具鋼材、例えばSKD材(ダイス鋼)などから構成されており、上型12、下型14、抜き刃16、押え具18、吸引具28を有する。上型12と下型14との間にセパレータ用平板30を配置した後、押圧し打抜くことによりセパレータ1を得る。尚、本実施形態においては、プレス成形、打抜き成形前の薄金属薄板をセパレータ用平板30と称し、成形後の打抜かれた部材をセパレータ1、その他外周部分をスクラップ34と称する。
【0016】
上型12、下型14は、セパレータ1における流路2部分を形成するための凹凸部22、24をそれぞれ有し、両者の凹凸は互いに噛み合う構成となっている。具体的には、上型12の凹部には下型14の凸部が対応し、上型12の凸部には下型14の凹部が対応する。これらの凹凸部22、24により、上型12と下型14との間に配置され、押圧されたセパレータ用平板30に流路2が形成される。また、下型14の凹凸部24における表面粗さは、上型12の凹凸部22における表面粗さより大きい構成を有する。
【0017】
ここで、表面粗さとは部品を加工したときの加工面の表面の状態を示すものであり、例えば、JIS B0601−2001に基づいた中心線平均粗さなどがある。中心線平均粗さは、
図4に示すように、成形面の表面(粗さ曲線)を中心線から折り返し、その粗さ曲線と中心線によって得られた面積を長さLで割った値をナノメートル(nm)で表わされるものである。上型より下型の表面粗さを大きくする手法としては、具体的には、綿布・麻など、柔軟性のある素材でできた軟らかいバフにダイアモンドなどの砥粒を付着させ、このバフを高速回転させながら上型に押し当てて表面を磨く方法(バフ研磨)が用いられる。尚、表面粗さの調整方法は、上記バフ研磨に限られるものではなく、上型より下型の表面粗さが大きくなればよく、その手法は適宜選択可能である。
【0018】
抜き刃16は、上型12における凹凸部22の外周側に配置され、セパレータ用平板30を、押圧時にセパレータ1の外形に合わせて打抜く。セパレータ用平板30が、上型12と下型14の間に配置され、ピン32にて固定された後、上型と下型が押圧され抜き刃16によって打抜かれる。尚、本実施形態においては、抜き刃16による打抜き成形を例としてあげたが、レーザー加工等の他の打抜き加工を行ってもよい。
【0019】
押え具18は、上型12において凹凸部22と抜き刃16との間に配置され、バネ19により伸張可能に形成されている。プレス成形後の型開き時に、バネ19が伸張してセパレータ1の外周部8を支持し、下型12にセパレータ1を押圧固定する。押え具18はセパレータ1の外周部8の一部分を支持し、具体的には図1の支持部6にて支持することが好ましいが、セパレータ1の外周部8全面にて支持しても良い。
【0020】
吸引具28は、下型14内部を上下方向に貫通するように形成され、一端は下型14の上面(プレス面)かつ凹凸部24の外周側に形成された開口部20に接続され、他端は下型14の下面から外部の吸引装置(図示省略)に接続される。開口部20は、下型14においてセパレータ1の外周部8に対応する位置に複数個形成される。具体的には、下型14において図1の支持部6と当接する位置に開口部20が設けられ、支持部6にてセパレータ1を支持する。これにより、外部吸引装置の吸引力によって開口部20から支持部6にてセパレータ1を吸引し、下型14に固定する。尚、開口部はセパレータ1の支持部6に当接する位置に限られず、外周部8全面でも良い。また、セパレータ1において押え具18と吸引具28の支持部が同一部位である場合には、より確実に下型14へセパレータ1を固定することが可能である。
【0021】
次に、図3を用いて本実施形態におけるセパレータ1の製造方法を説明する(適宜、図2参照)。図3は、本発明の実施の形態における燃料電池用セパレータの製造方法の一例を示すフロー図である。
【0022】
まず、セパレータ用平板30を上型12と下型14との間に配置し、ピン32にて下型14にセパレータ用平板30を固定する(S101)。ピン32にて固定される位置は抜き刃16より外側であり、打抜き後のスクラップ34に対応する部位である。
【0023】
次に、上型12と下型14を加圧し、セパレータ用平板30を押圧する(S102)。上型12の凹凸部22と下型14の凹凸部24に挟まれ押圧されることにより、セパレータ用平板30の中央部分に凹凸が形成され、これがセパレータ1において流路2として機能する。そして、凹凸が形成されたセパレータ用平板30の凹凸部の外周部分を、抜き刃16により打抜き、セパレータ1の外形を形成する(S103)。尚、本実施形態では、プレス成形(S102)の後に打抜き成形(S103)を行う例を示したが、両工程が同時に行われても良い。
【0024】
続いて、セパレータ1を下型14に固定する(S104)。バネ19の伸張に伴い、上型12に備えられた押え具18がセパレータ1の上面に当接、押圧することによりセパレータ1を下型14へ押圧固定する。押え具18とセパレータ1との当接部分は、図1における斜線部分、セパレータ1の外周部8において支持される。さらに、下型14に備えられた吸引具28が、セパレータ1の下面に当接、吸引することにより、セパレータ1を下型14へ吸引固定する。吸引具28とセパレータ1との当接部分は、押え具18との場合と同様に、図1における斜線部分、セパレータ1の外周部8において支持される。尚、本実施形態においては、セパレータ1を下型14に固定する手法として、押え具18及び吸引具28双方を用いた場合としているが、どちらか一方の手法による固定としても良い。また、本実施形態においては、セパレータ1を固定する工程をプレス成形、打抜き成形後としたが、両成形前、即ちセパレータ用平板30をピン32にて固定する際に併せて行ってもよい。この場合、セパレータ用平板30は、プレス成形及び打抜き成形の工程中も継続して押え具18及び吸引具28により固定される。
【0025】
最後に、セパレータ1が下型14に固定された状態で、上型12と下型14とを開くこと(型開き)によって、成形品であるセパレータ1を得る(S105)。この時、セパレータ1は押え具18及び吸引具28により下型14に固定されているため、上型12に張り付くことなく、下型上に残る。スクラップ34も、ピン32にて下型14に固定されるため、型開き時に下型に残る。
【0026】
以上、本発明の実施形態における、燃料電池用セパレータの製造装置及び製造方法によれば、プレス成形後、打抜き成形後の型開き時において、成形品であるセパレータが上型に張り付くことを防ぎ、確実に下型上に残すことが可能となる。これにより、上型へ張り付いた成形品が型開き時に落下したり、打ち抜き後のスクラップと成形品が干渉することによって成形品が破損、変形することを防ぐことが可能となる。
【符号の説明】
【0027】
1 セパレータ、2 流路、4 マニホールド、5 ガスケットシールライン、6 支持部、8 セパレータ外周部、10 製造装置、12 上型、14 下型、16 抜き刃、18 押え具、19 バネ、20 開口部、22 上型の凹凸部、24 下型の凹凸部、28 吸引具、30 セパレータ用平板、32 ピン、34 スクラップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池用セパレータのプレス製造装置であって、
上型と下型とを備え、
上型と下型との間に配置された金属製平板をプレスして凹凸を形成するプレス成形手段と、
金属製平板を打抜きセパレータの外形を形成する打ち抜き加工手段とを有し、
下型の表面粗さを上型の表面粗さより大きくしたことを特徴とする燃料電池用セパレータの製造装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記上型は押え具を備え、
前記押え具は、型開き時に成形品を下型へ押圧固定することを特徴とする燃料電池用セパレータの製造装置。
【請求項3】
請求項1若しくは請求項2に記載の燃料電池用セパレータの製造装置において、
前記下型は吸引具を備え、
前記吸引具は、型開き時に吸引力により成形品を下型へ固定することを特徴とする燃料電池用セパレータの製造装置。
【請求項4】
燃料電池用セパレータの製造方法において、
上型と下型の間に配置された平板をプレスして凹凸を形成するプレス成形工程と、
型開き時に、成形品を下型に固定する工程とを備え、
前記成形品を下型に固定する工程は、
下型とセパレータとの間の摩擦抵抗により固定される工程であり、
前記摩擦抵抗は、上型と下型の表面粗さを調整して得られることを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の燃料電池用セパレータの製造方法において、
成形品を下型に固定する工程は、
上型に形成された押え具にて押圧固定する工程を含むことを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項6】
請求項4に記載の燃料電池用セパレータの製造方法において、
成形品を下型に固定する工程は、
下型に形成された吸引装置にて成形品を吸引固定する工程を含むことを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−99371(P2012−99371A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−246921(P2010−246921)
【出願日】平成22年11月3日(2010.11.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】