説明

燃料電池用担持触媒、その製造方法、及び燃料電池

【課題】高い活性を示す燃料電池用担持触媒及びその製造方法を提供すると共に、このような燃料電池用担持触媒を備えた燃料電池を提供する。
【解決手段】本発明に係る燃料電池用担持触媒は、導電性担体と、前記導電性担体に担持され、白金を含み、不活性ガス融解−非分散型赤外線吸収法を用いて測定した酸素濃度を4質量%以下に抑えた触媒粒子とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用担持触媒、その製造方法、及び燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、発電効率が高く、小型化が容易であり、且つ環境への悪影響が少ない電力源として広く注目されている。特に固体高分子型燃料電池は、室温作動が可能であり、出力密度も高いため、自動車用途等に適した形態として、活発に研究されている。
【0003】
固体高分子型燃料電池は、アノードにおける水素の酸化反応とカソードにおける酸素の還元反応との組み合わせにより起電力を発生する。したがって、固体高分子型燃料電池の性能を向上させるためには、上記の各反応を効率的に行う必要がある。
【0004】
この目的で、固体高分子型燃料電池では、白金等の触媒金属を含んだアノード及び/又はカソード触媒層を使用することで、上記反応の効率を高め、性能を向上させている。例えば、特許文献1には、白金又は白金合金を担持したカーボン担体を含んだアノード及び/又はカソード触媒層を備えた固体高分子型燃料電池が記載されている。また、特許文献2には、炭素粉末担体と、白金と鉄又はコバルトとの合金からなる触媒粒子とを含んだ触媒が開示されている。このような構成を採用すると、触媒の耐久性と活性とを、比較的高い水準で両立させることができる。
【0005】
しかしながら、近年の燃料電池技術の発展に伴って、燃料電池用担持触媒には、更なる高活性化が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−015745号公報
【特許文献2】特開2003−142112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、高い活性を示す燃料電池用担持触媒及びその製造方法を提供すると共に、このような燃料電池用担持触媒を備えた燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1側面によると、導電性担体と、前記導電性担体に担持され、白金を含み、不活性ガス融解−非分散型赤外線吸収法を用いて測定した酸素濃度を4質量%以下に抑えた触媒粒子とを具備した燃料電池用担持触媒が提供される。
【0009】
本発明の第2側面によると、第1側面に係る燃料電池用担持触媒を含有したカソード触媒層を具備した燃料電池が提供される。
【0010】
本発明の第3側面によると、第1側面に係る燃料電池用担持触媒の製造方法であって、導電性担体を含んだ酸性の分散液と、1g/Lの白金濃度及び420nmの波長における吸光度が1.5〜3であるジニトロジアンミン白金硝酸溶液とを混合することと、得られた分散液を還元処理に供することと、前記還元処理後の前記分散液を濾過して得られる固体を熱処理に供することとを具備した製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、高い活性を示す燃料電池用担持触媒及びその製造方法を提供すると共に、このような燃料電池用担持触媒を備えた燃料電池を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一態様に係る燃料電池を概略的に示す断面図。
【図2】触媒粒子中の酸素濃度と単セルのECSA(Electro-Chemical Surface Area)との関係の一例を示すグラフ。
【図3】触媒粒子中の酸素濃度と単セルの比活性との関係の一例を示すグラフ。
【図4】触媒粒子中の酸素濃度と単セルの質量活性との関係の一例を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明の一態様に係る燃料電池を概略的に示す断面図である。図1には、一例として、固体高分子型燃料電池用の膜/電極接合体を示している。
【0015】
この膜/電極接合体1は、アノード触媒層2及びカソード触媒層3と、それらの間に介在すると共にプロトン伝導性固体電解質を含んだプロトン伝導性固体電解質層4とを備えている。
【0016】
アノード触媒層2は、担持触媒5aとプロトン伝導性固体電解質6とを含んでいる。カソード触媒層3は、担持触媒5bとプロトン伝導性固体電解質6とを含んでいる。また、プロトン伝導性固体電解質層4は、プロトン伝導性固体電解質6を含んでいる。
【0017】
膜/電極接合体1は、アノード触媒層2側から水素ガスを供給すると共にカソード触媒層3側に酸素又は空気を供給すると、アノード触媒層2とカソード触媒層3との間に起電力を生じる。より詳細には、アノード触媒層2では、白金の触媒作用によって水素分子が酸化され、プロトンと電子とを生じる。ここで生じた電子はカーボン担体等の導電性担体を導体路としてアノード触媒層2から外部回路へと取り出され、プロトンはアノード触媒層2からプロトン伝導性固体電解質層4を経由してカソード触媒層3へと移動する。カソード触媒層3に到達したプロトンは、白金の触媒作用によって、外部回路からカーボン担体等を導体路として供給される電子及び酸素分子と反応して水を生じる。この膜/電極接合体1は、このような現象を利用して、水素ガスと酸素ガスとから電気エネルギーを生成する。
【0018】
カソード触媒層3が含んでいる担持触媒5bは、導電性担体に、白金を含み且つ後述する条件を満たしている触媒粒子を担持させたものである。
【0019】
上記導電性担体としては、例えば、炭素質材料からなるカーボン担体を使用する。この炭素質材料としては、例えば、黒鉛、活性炭、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、及びこれらの組み合わせが挙げられる。典型的には、この炭素質材料として、カーボンブラックを用いる。
【0020】
上記触媒粒子では、不活性ガス融解−非分散型赤外線吸収法を用いて測定した酸素濃度が4質量%以下に抑えられている。この酸素濃度は、4.0質量%以下とすることが好ましく、3.8質量%以下とすることがより好ましい。なお、上記酸素濃度の下限値には、特に制限はない。
【0021】
本発明者らは、触媒粒子の酸素濃度を上記範囲内とすると、その触媒活性を、大幅に向上させ得ることを見出した。その理由又は機構は必ずしも明らかではないが、本発明者らは、以下のように推測している。
【0022】
触媒粒子の酸素濃度、特には、触媒粒子の表面における酸素濃度が高い場合、以下の問題が生じ得る。即ち、触媒粒子の表面への酸素の吸着が弱くなる。また、触媒粒子の表面からの水の脱離が生じ難くなる。更には、触媒粒子の電解質に対する分散性が悪くなる。したがって、触媒粒子の酸素濃度が高くなると、触媒反応の効率が低下する。
【0023】
これに対し、触媒粒子の酸素濃度、特には、触媒粒子の表面における酸素濃度を低くすると、先と逆の現象が起こる。即ち、触媒粒子の表面への酸素の吸着が強くなり、生成した水の脱離が生じ易くなり、触媒粒子の電解質に対する分散性が良くなる。それゆえ、触媒粒子の酸素濃度を低くすると、触媒反応の効率を向上させることができる。
【0024】
また、触媒粒子の酸素濃度が4質量%より大きい場合、触媒粒子中の白金の多くは、PtO以外の酸化物、例えば、PtOの形態で存在している。これに対し、触媒粒子の酸素濃度が4質量%以下である場合、触媒粒子中の白金の多くは、Pt又はPtOの形態で存在している。本発明者らは、この差異が、触媒粒子の酸素濃度を4質量%以下に抑えることにより触媒活性が大幅に向上した原因の1つであると推測している。
【0025】
不活性ガス融解−非分散型赤外線吸収法による上記酸素濃度の測定は、以下のようにして行う。測定装置としては、例えば、株式会社堀場製作所製の酸素−窒素分析計(EMGA−920)を用いる。そして、不活性ガス中、触媒粒子をインパルス加熱及び融解することにより、当該粒子中の酸素原子を、一酸化炭素に変換する。そして、この一酸化炭素の濃度を、非分散型赤外線吸収法を用いて検出する。このようにして、触媒粒子が含んでいる酸素量を測定し、これを質量換算する。そして、得られた酸素の質量を、測定に供した触媒粒子の質量で除することにより、上記の酸素濃度を得る。
【0026】
上記触媒粒子の平均粒子径は、例えば、2nm乃至20nmの範囲内とする。こうすると、担持触媒の性能を更に向上させることができる。なお、この平均粒子径は、X線回折(XRD)スペクトルのPt(111)面に対応したピークの半値幅から求めた値を意味している。
【0027】
上記の触媒粒子は、白金以外の金属を実質的に含んでいないことが好ましい。即ち、上記の触媒粒子は、金属として、実質的に白金のみを含んでいることが好ましい。触媒粒子が白金以外の金属を含んでいる場合、当該金属の酸化物の生成に起因して、触媒粒子の酸素濃度が高くなることがある。したがって、この場合、担持触媒の触媒活性が低下することがある。
【0028】
なお、アノード触媒層2が含んでいる担持触媒5aには、特に制限はない。この担持触媒5aは、例えば、上記の導電性担体に、白金又は白金合金を含んだ触媒粒子を担持させたものである。
【0029】
白金を含み且つ酸素濃度を4質量%以下に抑えた触媒粒子を含有した担持触媒は、例えば、以下のようにして製造する。即ち、この担持触媒は、例えば、以下の担持工程及び熱処理工程によって製造される。
【0030】
(担持工程)
まず、導電性担体を含んだ酸性の分散液を準備する。分散媒としては、例えば、水を用いる。酸性化処理は、例えば、硝酸を用いて行う。分散液を酸性とすることにより、後述する白金溶液の添加の際における沈殿の発生を抑制することが可能となる。
【0031】
次いで、上記の分散液と、1g/Lの白金濃度及び420nmの波長における吸光度が1.5〜3であるジニトロジアンミン白金硝酸溶液とを混合する。典型的には、上記の分散液に、上記のジニトロジアンミン白金硝酸溶液を添加する。これにより、両者を十分になじませる。なお、このジニトロジアンミン白金硝酸溶液については、後で詳しく説明する。
【0032】
その後、得られた分散液を、還元処理に供する。より具体的には、例えば、還元剤の存在下、加熱処理を行う。この還元剤としては、例えば、エタノールを用いる。また、加熱温度及び加熱時間は、還元剤の種類に応じて、適宜設定する。
【0033】
次いで、還元処理後の分散液を濾過し、必要に応じて、洗浄処理を行う。次いで、得られた粉末を乾燥させる。
以上のようにして、導電性担体上に、白金を担持させる。
【0034】
なお、導電性担体上に、白金とそれ以外の金属との合金を担持させる場合、触媒粒子の表面の少なくとも一部が、未固溶の上記金属によって被覆されることがある。この未固溶の金属は、触媒活性に悪影響を与える。そのため、これを除去する必要がある。一般に、このような未固溶の金属を除去するためには、酸溶液による表面処理が必要である。しかしながら、このような酸処理を行うと、酸溶液による酸化に起因して、触媒粒子の酸素濃度が高くなり易い。そのため、この場合、上述した酸素濃度の条件を満たした触媒粒子を製造することは、不可能であるか又は極めて困難である。
【0035】
(熱処理工程)
続いて、上記担持工程により得られた粉末を、熱処理に供する。この熱処理は、典型的には、アルゴンなどの不活性雰囲気中で行う。熱処理の温度は、後述する熱処理後の還元処理を行わない場合には、例えば700℃乃至900℃の範囲内とし、この還元処理を行う場合には、例えば700℃乃至950℃の範囲内とする。この熱処理を行うことにより、触媒粒子中の酸素濃度を低下させることができる。
【0036】
上記の熱処理の後、必要に応じて、更なる還元処理を行う。この還元処理は、例えば、水素を含んだガスを用いて行う。この還元処理の際の温度は、例えば、100℃乃至400℃の範囲内とする。熱処理後の還元処理を行うことにより、触媒粒子の表面に存在する酸素原子(例えば、白金酸化物に含まれる酸素原子)を、更に除去することができる。それゆえ、この処理を行うことにより、触媒粒子の酸素濃度を、更に低下させることができる。
以上のようにして、担持触媒を得る。
【0037】
ここで、上記の担持工程で用いるジニトロジアンミン白金硝酸溶液について説明する。
【0038】
この溶液は、1L当りの白金の質量が1gとなるように純水で希釈した場合に、420nmの波長における吸光度が1.5〜3である。この吸光度は、2〜3であることがより好ましい。
【0039】
本発明者らは、このようなジニトロジアンミン白金硝酸溶液を用いると共に、担持工程において上述した還元処理を行うことにより、本発明に係る担持触媒を製造できることを見出している。
【0040】
まず、上記のジニトロジアンミン白金硝酸溶液の調製方法について説明する。この溶液は、以下の熟成条件を採用することにより調製できる。
最初に、1)白金:純硝酸の質量比が1:0.7未満となり且つ白金濃度が50〜200g/Lとなるように、ジニトロジアンミン白金結晶を、硝酸と純水の混合溶液に溶解させる。上記質量比以上に硝酸を添加することは、熟成進行速度が非常に遅くなるため、好ましくない。また、上記白金濃度以外の範囲では、熟成の調整が困難である。
【0041】
次に、2)上記溶液を、常圧下、90〜105℃、好ましくは97〜102℃の温度で、5〜100時間煮沸する。当該段階において、溶液中の白金の価数が2価から4価へと増大する反応が進行し、白金溶液の熟成が行われる。なお、上記温度以外では、当該反応の効率が低いため、好ましくない。
【0042】
このようにして、1L当りの白金の質量が1gとなるように純水で希釈した場合に、420nmの波長における吸光度が1.5〜3である白金溶液が得られる。ここで、420nmの波長は、貴金属の重合度を判断する指標として使用され、この波長における吸光度が高いほど重合度は高く、この吸光度が低いほど重合度は低いと考えられる。上記吸光度をこの範囲内とすることにより、溶液を担体に担持させたときの白金の初期粒径分布を改善すると共に、担持効率及び触媒の活性を向上させることができる。
【0043】
なお、上記吸光度は、分光光度計U−2000A(日立製作所)を用いて測定される値である。測定セルとしては、石英セルを用いる。対照液としては、純水を用いる。
【0044】
上記の白金溶液は、アルカリ消費量が0.15〜0.35であることが好ましく、0.15〜0.3であることがより好ましい。こうすると、白金溶液中に高濃度で白金が含まれている場合にも、高い効率で、それらを担体に担持させることができる。
【0045】
なお、アルカリ消費量とは、上記白金溶液の酸濃度を示す指標であり、0.1Nの水酸化ナトリウムによる中和滴定反応に基づいて、以下の式:
【数1】

【0046】
から算出される。具体的には、まず、50mlメスフラスコ中で、5mlの試料を、純水を用いて50mlにメスアップする。次いで、この溶液を5ml分取して、100mlビーカに注ぎ、エタノールを約75ml添加する。得られた溶液について、電位差自動滴定装置(AT−400、ATB−410;京都電子工業(株))を用いて、pHが7になるまでに要する0.1N水酸化ナトリウムの添加量を測定する。この量と試料中の白金量とから、上式に基づいて、アルカリ消費量を算出する。
【0047】
なお、以上において説明した白金溶液に関しては、特開2005−306700号公報においても、詳細に説明されている。
【0048】
図1に示す燃料電池1において、アノード触媒層2、カソード触媒層3及びプロトン伝導性固体電解質層4中のプロトン伝導性固体電解質6は、例えば、水を含んでいる。プロトン伝導性固体電解質6としては、例えば、−SO3- 基を有するプロトン伝導性固体電解質を使用することができる。そのようなプロトン伝導性固体電解質としては、例えばナフィオン(登録商標)に代表されるパーフルオロスルホン酸イオノマーを使用することができる。また、図1に示す膜/電極接合体1では、アノード触媒層2とカソード触媒層3とプロトン伝導性固体電解質層4とに同種のプロトン伝導性固体電解質6を使用してもよく、或いは、互いに異なる種類のプロトン伝導性固体電解質6を使用してもよい。
【実施例】
【0049】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、それらに限定されるものではない。
【0050】
<ジニトロジアミン白金硝酸溶液の調製>
(溶液S1の調製)
1g/Lの白金濃度及び420nmの波長における吸光度が1.5〜3であるジニトロジアンミン白金硝酸溶液S1を、以下のようにして調製した。
【0051】
167gのジニトロジアミン白金結晶に対し、白金:硝酸の質量比が1:0.7未満となり且つ最終的なアルカリ消費量が0.294となるように、硝酸を添加した。次いで、全体で1Lとなるように、純水を添加した。この溶液を、攪拌しながら、約100℃で38時間に亘って加熱した。このようにして、溶液S1を得た。なお、この溶液S1の上記吸光度は、2.2であった。
【0052】
(溶液S2の調製)
83.3gのジニトロジアミン白金結晶に対し、白金:硝酸の質量比が1:0.7以上となり且つ最終的なアルカリ消費量が1.533となるように、硝酸を添加した。次いで、全体で1Lとなるように、純水を添加した。この溶液を、攪拌しながら、約95℃で15時間に亘って加熱した。このようにして、溶液S2を得た。なお、この溶液S2の上記吸光度は、0.8であった。
【0053】
<担持触媒の調製>
(例1)
まず、1.05gのケッチェンブラック(三菱化学製)を、純水中に分散させた。次に、この分散液に硝酸を添加し、酸性とした。得られた酸性の分散液に、0.45gの白金に相当する量の溶液S1を添加した。その後、還元剤としてのエタノールを純水に溶解させたものを添加し、これを加熱した。加熱後の分散液を濾過して、濾過ケークを得た。これを洗浄した後、80℃で15時間に亘って、送風乾燥に供した。このようにして、ケッチェンブラック上に白金を含んだ粒子が担持された粉末を得た。以下、この粉末を「粉末P1」と呼ぶ。
【0054】
次いで、粉末P1を、アルゴン雰囲気中、900℃で2時間に亘る熱処理に供した。続いて、熱処理後の粉末P1を、2質量%の水素を含んだガス中、200℃で1時間に亘る還元処理に供した。
【0055】
以上のようにして、担持触媒を製造した。以下、これを「触媒C1」と呼ぶ。
【0056】
(例2)
熱処理後の還元処理において、保持時間を2時間としたことを除いては、触媒C1について説明したのと同様にして、担持触媒を製造した。以下、これを「触媒C2」と呼ぶ。
【0057】
(例3)
熱処理後の還元処理において、加熱温度を300℃としたことを除いては、触媒C1について説明したのと同様にして、担持触媒を製造した。以下、これを「触媒C3」と呼ぶ。
【0058】
(例4)
熱処理における加熱温度を700℃とすると共に、熱処理後の還元処理を省略したことを除いては、触媒C1について説明したのと同様にして、担持触媒を製造した。以下、これを「触媒C4」と呼ぶ。
【0059】
(例5)
熱処理における加熱温度を850℃とすると共に、熱処理後の還元処理を省略したことを除いては、触媒C1について説明したのと同様にして、担持触媒を製造した。以下、これを「触媒C5」と呼ぶ。
【0060】
(例6:比較例)
熱処理後の還元処理を省略したことを除いては、触媒C1について説明したのと同様にして、担持触媒を製造した。以下、これを「触媒C6」と呼ぶ。
【0061】
(例7:比較例)
熱処理における加熱温度を950℃とすると共に、熱処理後の還元処理を省略したことを除いては、触媒C1について説明したのと同様にして、担持触媒を製造した。以下、これを「触媒C7」と呼ぶ。
【0062】
(例8:比較例)
熱処理における保持時間を5時間としたことを除いては、触媒C7について説明したのと同様にして、担持触媒を製造した。以下、これを「触媒C8」と呼ぶ。
【0063】
(例9:比較例)
熱処理における加熱温度を300℃とすると共に、熱処理後の還元処理を省略したことを除いては、触媒C1について説明したのと同様にして、担持触媒を製造した。以下、これを「触媒C9」と呼ぶ。
【0064】
(例10:比較例)
溶液S1の代わりに溶液S2を用いたことを除いては、触媒C9について説明したのと同様にして、担持触媒を製造した。以下、これを「触媒C10」と呼ぶ。
【0065】
(例11)
溶液S1の代わりに溶液S2を用いたことを除いては、触媒C1について説明したのと同様にして、担持触媒を製造した。以下、これを「触媒C11」と呼ぶ。
【0066】
下記表1に、触媒C1乃至C11の各々について、製造条件の一部を纏める。
【表1】

【0067】
<触媒粒子の酸素濃度の測定>
触媒C1乃至C11の各々が含んでいる触媒粒子について、酸素濃度の測定を行った。この測定は、株式会社堀場製作所製の酸素−窒素分析計(EMGA−920)を用いて、以下のようにして行った。
【0068】
まず、触媒C1を、黒鉛からなる坩堝に入れて、ヘリウム雰囲気下、2500℃まで加熱した。そして、2500℃において、30秒間に亘って保持した。このようにして、触媒C1を融解させると共に、触媒粒子中に含まれている酸素を、一酸化炭素に変換した。なお、導電性担体(ケッチェンブラック)中に含まれ得る酸素については、上記のヘリウム雰囲気下における昇温過程において、別途除去されている。
【0069】
次いで、この一酸化炭素の濃度を、非分散型赤外線吸収法により測定した。得られた一酸化炭素の濃度から、触媒粒子中に含まれていた酸素の質量を求めた。また、触媒C1の質量と導電性担体(ケッチェンブラック)の質量との差を計算することにより、触媒C1に含まれる触媒粒子の質量を求めた。そして、測定した酸素の質量を、計算した触媒粒子の質量で除することにより、触媒粒子中の酸素濃度を求めた。以上の操作を、触媒C2乃至C11の各々についても行った。これらの結果を、上記表1に示す。
【0070】
表1に示す通り、触媒C1乃至C5では、触媒粒子の酸素濃度が4質量%以下であった。他方、触媒C6乃至C11では、触媒粒子の酸素濃度が4質量%より大きかった。
【0071】
<触媒粒子の平均粒子径の測定>
触媒C1乃至C11の各々が含んでいる触媒粒子について、平均粒子径の測定を行った。この測定は、リガク製のX線回折装置(RINT−2500)を用いて、以下のようにして行った。
【0072】
まず、触媒C1の粉末に対して、X線を照射し、回折パターンを測定した。この際、ターゲットはCuとし、出力は40kV及び40mAとした。次いで、Ptの(111)面に対応した2θ=39゜付近のピークパターンに、正規分布をフィッティングした。そして、この正規分布の半値幅を求めた。この半値幅から、公知の手法により、白金を含んだ触媒粒子の平均粒子径を求めた。以上の操作を、触媒C2乃至C11の各々についても行った。これらの結果を、上記表1に示す。
【0073】
<単セルの作製>
触媒C1乃至C11の各々を用いて、以下の方法により、固体高分子形燃料電池用の単セルを作製した。
【0074】
まず、触媒C1を有機溶媒に分散させ、得られた分散液をテフロン(登録商標)シート上に塗布して、アノード及びカソード触媒層を形成した。次いで、これら電極を、高分子電解質膜を介してホットプレスにより貼り合わせ、その両側に拡散層をさらに設置して、単セルを作製した。以下、これを「単セルSC1」と呼ぶ。
【0075】
同様に、触媒C2乃至C11の各々を用いて、単セルを作製した。以下、これらを、それぞれ、「単セルSC2」乃至「単セルSC11」と呼ぶ。
【0076】
<電気化学的評価>
単セルSC1乃至SC11の各々について、電気化学的な評価を行った。この評価は、セル温度を80℃とし且つ両極の相対湿度を100%とした条件下、株式会社東陽テクニカ製のスモール単セル評価装置システムを用いて、以下のようにして行った。
【0077】
(ECSA)
各単セルのECSAを、サイクリックボルタンメトリ(CV)測定により求めた。ESCAは、電極上の反応に寄与している触媒の有効面積を意味している。この値が高いほど、触媒の電解質に対する分散性に優れており、触媒の表面が有効に利用されていることを示している。
【0078】
まず、電圧範囲を0.05V乃至1.2Vの範囲内とし、走査速度を100mV/sとして、電位走査を5回繰り返した。そして、5度目のCVにおけるH吸着領域の電荷量から、公知の方法により、ESCAを測定した。これらの結果を、上記表1に示す。
【0079】
(比活性)
各単セルの比活性を、電流−電圧(IV)測定により求めた。比活性は、触媒の表面積当りの酸化還元活性を意味している。この値が高いほど、触媒の質が優れていることを示している。
【0080】
まず、0.01A/cmから0.1A/cmの範囲内で、電流を変化させた。そして、電圧が0.9Vとなるときの電流値を求め、これを、各単セルが含んでいる白金の質量で除した。次いで、このようにして得られた白金の単位質量当りの電流値を、ECSAで除することにより、比活性を算出した。これらの結果を、上記表1に示す。
【0081】
(質量活性)
ESCAと比活性との積を計算することにより、各単セルの質量活性を求めた。これらの結果を、上記表1に示す。質量活性は、触媒の質量当りの酸化還元活性を意味している。この値が高いほど、高出力を達成できることを示している。
【0082】
以上の電気化学的な評価の結果を、図2乃至図4に示す。図2は、触媒粒子中の酸素濃度と単セルのECSAとの関係の一例を示すグラフである。図3は、触媒粒子中の酸素濃度と単セルの比活性との関係の一例を示すグラフである。図4は、触媒粒子中の酸素濃度と単セルの質量活性との関係の一例を示すグラフである。
【0083】
図2から分かるように、例1乃至例5に係る単セルは、高いECSAを有していた。特に、例2乃至例5に係る単セルでは、50m/g以上のESCAを達成できた。
【0084】
また、図3乃至図4から分かるように、例1乃至例5に係る単セルは、例6乃至例11に係る単セルと比較して、高い比活性及び質量活性を有していた。即ち、これらの結果から、触媒粒子の酸素濃度を4質量%以下に抑えることにより、比活性及び質量活性を向上させることができることが示唆された。
【符号の説明】
【0085】
1…膜/電極接合体、2…アノード触媒層、3…カソード触媒層、4…プロトン伝導性固体電解質層、5a…担持触媒、5b…担持触媒、6…プロトン伝導性固体電解質。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性担体と、
前記導電性担体に担持され、白金を含み、不活性ガス融解−非分散型赤外線吸収法を用いて測定した酸素濃度を4質量%以下に抑えた触媒粒子と
を具備した燃料電池用担持触媒。
【請求項2】
前記導電性担体は炭素質材料からなる請求項1に記載の燃料電池用担持触媒。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の燃料電池用担持触媒を含有したカソード触媒層を具備した燃料電池。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の燃料電池用担持触媒の製造方法であって、
導電性担体を含んだ酸性の分散液と、1g/Lの白金濃度及び420nmの波長における吸光度が1.5〜3であるジニトロジアンミン白金硝酸溶液とを混合することと、
得られた分散液を還元処理に供することと、
前記還元処理後の前記分散液を濾過して得られる固体を熱処理に供することと
を具備した製造方法。
【請求項5】
前記熱処理の後に、更なる還元処理を行う請求項4に記載の燃料電池用担持触媒の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−69438(P2012−69438A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−214472(P2010−214472)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(000104607)株式会社キャタラー (161)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】