説明

燃料電池用拡散層の製造方法およびその製造装置

【課題】構成を複雑化することなしに、拡散層を構成する繊維状導電体による電解質膜の損傷を防止することのできる拡散層を提供する。
【解決手段】第1のホッパ120およびブレード122により、第1の撥水ペーストPS1をシート状に形成する(第1の工程)。次いで、第1の加熱炉124により、上記形成したシート状の第1の撥水ペーストを乾燥硬化する(第2の工程)。続いて、シート状の硬化物SLの一方の面に、第2の撥水ペーストPS2を介して拡散層を隣接させる(第3の工程)。その後、シート状の硬化物SL、第2の撥水ペーストPS2および拡散層BSを積層方向に押圧し、前記第2の撥水ペーストPS2を乾燥硬化する(第4の工程)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に用いる拡散層の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質膜上に触媒層(電極に相当する)を介して拡散層を接合したMEGA(Membrane Electrode &GasDiffusion Layer Assembly:膜・電極・拡散層接合体)と、セパレータと、を交互に積層することによって構成される。MEGAの一方側の拡散層(ガス拡散層とも呼ぶ)にセパレータを介して酸素を含む酸化剤ガスを供給し、他方側の拡散層にセパレータを介して水素を含む燃料ガスを供給することにより、水素と酸素とを電気化学的に反応させて直接的に電気エネルギを取り出すことができる。
【0003】
前記反応の途中において水が生成されるが、従来、この水により電極の閉塞(フラッディング)現象が起こりやすい。このフラッディング現象を防止するための燃料電池として、触媒層と拡散層との間に撥水層を形成したものがある。なお、撥水層と拡散層とは一体化されて、撥水層付きの拡散層として製造されることが多く、この撥水層付きの拡散層を使用して燃料電池は製造される。上記撥水層付きの拡散層は、具体的には、拡散層の表面に撥水ペーストを塗布することにより製造される。
【0004】
ところで、前記従来の撥水層付きの拡散層では、拡散層を構成するカーボン繊維などの繊維状導電体が局所的に毛羽立った場合に、図4に示すように、前記撥水ペーストは、その毛羽立った繊維状導電体を直立させるように作用することから、繊維状導電体が外側に突出したままとなった。このために、撥水層付きの拡散層を使用して燃料電池を構成したときに、拡散層から突出した繊維状導電体が電解質膜に突き刺さることにより、前記電解質膜に損傷を与える問題が発生した。
【0005】
なお、拡散層の繊維状導電体が毛羽立ち、電解質膜に突き刺さることを防止する燃料電池として、突き刺し防止用の保護層を触媒層と拡散層との間に設けたものが提案されている(例えば、特許文献1,2)が、これらの燃料電池は、保護層という余分な構成を付加する必要があることから、構成が複雑化する問題があった。
【0006】
【特許文献1】特開2006−114397号公報
【特許文献2】特開2004−220843号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたもので、構成を複雑化することなしに、拡散層を構成する繊維状導電体による電解質膜の損傷を防止することのできる拡散層を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
[適用例1]
撥水層が付設された燃料電池用拡散層の製造方法であって、
第1の撥水ペーストをシート状に形成する第1の工程と、
前記第1の工程により得られたシート状の第1の撥水ペーストを乾燥硬化する第2の工程と、
前記第2の工程により得られたシート状の硬化物の一方の面に、第2の撥水ペーストとともに拡散層を隣接させる第3の工程と、
前記シート状の硬化物、前記第2の撥水ペーストおよび前記拡散層を積層方向に押圧し、前記第2の撥水ペーストを乾燥硬化する第4の工程と
を備える燃料電池用拡散層の製造方法。
【0009】
適用例1の燃料電池用拡散層の製造方法によれば、第1の工程によりシート状に形成された第1の撥水ペーストを第2の工程により乾燥硬化し、その後、そのシート状の硬化物の一方の面に拡散層を、第3の工程および第4の工程により形成している。このために、この製造方法により製造された燃料電池用拡散層によれば、拡散層の繊維状導電体が例え毛羽立っていたとしても、上記シート状の硬化物で繊維状導電体を押さえつけるために、繊維状導電体がその硬化物、すなわち撥水層の外側に突出することがない。したがって、拡散層を構成する繊維状導電体による電解質膜の損傷を防止することができる。しかも、従来必要な撥水層で電解質膜の損傷を防止するものであることから、特別な構成を付加することで構成を複雑化することもない。
【0010】
[適用例2]
適用例1に記載の燃料電池用拡散層の製造方法であって、前記第1および第2の撥水ペーストは、導電性材料と撥水剤と溶媒との混合物である、燃料電池用拡散層の製造方法。この構成によれば、第2の工程および第4の工程において乾燥硬化させるに容易な撥水ペーストを容易に得ることができる。
【0011】
[適用例3]
適用例2に記載の燃料電池用拡散層の製造方法であって、前記導電性材料は、カーボン粉末またはカーボン繊維である、燃料電池用拡散層の製造方法。この構成によれば、撥水層を備えながらも十分な導電性の確保が可能となる。
【0012】
[適用例4]
適用例2に記載の燃料電池用拡散層の製造方法であって、前記撥水剤は、フッ素系ポリマーである、燃料電池用拡散層の製造方法。この構成によれば撥水性能に優れた燃料電池用拡散層を提供することができる。
【0013】
[適用例5]
撥水層が付設された燃料電池用拡散層の製造装置であって、
第1の撥水ペーストをシート状に形成する撥水ペーストシート化手段と、
前記撥水ペーストシート化手段により得られたシート状の第1の撥水ペーストを乾燥硬化する乾燥硬化手段と、
前記乾燥硬化手段により得られたシート状の硬化物の一方の面に、第2の撥水ペーストとともに拡散層を隣接させる拡散層付設手段と、
前記シート状の硬化物、前記第2の撥水ペーストおよび前記拡散層を積層方向に押圧し、前記第2の撥水ペーストを乾燥硬化する押圧・乾燥硬化手段と
を備える燃料電池用拡散層の製造装置。
【0014】
適用例5の燃料電池用拡散層の製造装置によれば、適用例1の燃料電池用拡散層の製造方法と同様に、構成を複雑化することなしに、拡散層を構成する繊維状導電体による電解質膜の損傷を防止することのできる燃料電池用拡散層の製造を行うことができる。
【0015】
[適用例6]
適用例5に記載の燃料電池用拡散層の製造装置であって、前記第1の撥水ペーストを載せるための帯状の積層用シートを所定の方向に搬送する搬送手段を備え、前記撥水ペーストシート化手段、乾燥硬化手段、拡散層付設手段および押圧・乾燥硬化手段は、前記搬送手段の経路に沿って配置された構成である、燃料電池用拡散層の製造装置。
【0016】
この構成によれば、製造ラインでもって燃料電池用拡散層の製造を行うことができることから、生産性に優れている。
【0017】
本発明は、上記適用例以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、本発明の燃料電池用拡散層の製造方法を用いて燃料電池の製造方法とした形態等で実現することが可能である。また、例えば、上記各適用例において、前記電解質は、固体高分子膜とすることができる。この構成によれば、燃料電池の取り扱いの利便がよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明の実施の形態を実施例に基づいて以下に説明する。
A.燃料電池の構成:
図1は、本発明の一実施例に係る製造方法により製造された拡散層を含む燃料電池10を概略的に示す説明図である。燃料電池10は、多数の単セル12が積層されたスタック構造を有している。単セル12は、主として、固体高分子電解質膜(以下、単に「電解質膜」と呼ぶ)20の両面に電極30,40が配置されたMEGA(Membrane Electrode &GasDiffusion Layer Assembly:膜・電極・ガス拡散層接合体)50と、MEGA50を両面から挟み込むセパレータ60,60とを備えている。
【0019】
MEGA50は、電解質膜20を二つの電極、つまり燃料極であるアノード30と酸素極であるカソード40とで挟みこんだものである。ここで、電解質膜20は、湿潤状態で良好なプロトン伝導性を有する固体高分子材料で作製された膜であり、具体的にはフッ素系樹脂により形成された膜(デュポン社製のナフィオン膜等)などが挙げられる。
【0020】
アノード30及びカソード40は、それぞれ触媒層32,42と撥水層34,44と拡散層36,46とによって構成されている。触媒層32,42は、電解質膜20に接触する側に位置し、白金微粒子を担持させた導電性カーボンブラックに電解質溶液(アイオノマー)を混入して形成したものである。この触媒層32,42が狭義には電極を構成する。拡散層36,46は、セパレータ60に接触する側に位置し、カーボン繊維からなる糸で織成したカーボンクロスにより形成されている。撥水層34,44は、触媒層32,42と拡散層36,46との間に位置し、撥水ペーストを乾燥硬化させて形成したものである。
【0021】
なお、触媒層32,42に含まれる白金は、水素をプロトンと電子に分けるのを促進したり酸素とプロトンと電子から水を生成する反応を促進する作用を有するものであるが、同様の作用を有するものであれば白金以外のものを用いてもよい。撥水層34,44のもととなる撥水ペーストの材料は後ほど述べるが、本実施例では、撥水層が付設された拡散層(以下、「撥水層付き拡散層」と呼ぶ)を先に製造し、その撥水層付き拡散層を用いてMEGA50は製造される。なお、撥水層付き拡散層の製造方法については後ほど詳述する。
【0022】
セパレータ60は、ガスを透過しない緻密質であると共に、電気伝導性を有する材料で形成される。例えばセパレータ60の形成には、圧縮成型された緻密質カーボン、金属、導電性樹脂を用いることができる。セパレータ60は、一方の面が一のMEGA50のカソード側の拡散層46と隣接しており、他方の面が他のMEA50のアノード側の拡散層36と隣接している。セパレータ60の両表面には溝が形成されており、組み付け後には、カソード側の拡散層46と接する面に形成された溝と拡散層46との間に単セル内酸化剤ガス流路62が形成されると共に、アノード側の拡散層36と接する面に形成された溝と拡散層36との間に単セル内燃料ガス流路64が形成される。また、セパレータ60内に冷媒流路を設けることとしてもよい。
【0023】
単セル内燃料ガス流路64は、図示しないマニホールドを介して図示しない外部の水素タンクに接続され、水素を含む燃料の供給を受ける。単セル内酸化剤ガス流路62は、図示しないマニホールドを介して図示しない外部のコンプレッサ等に接続され、酸化剤ガスとしての空気の供給を受ける。この結果、燃料電池10に備えられる各単セル12の内部に燃料ガスや酸化剤ガスが滞りなく供給される。この結果、燃料電池10の各単セル12は、水素と酸素とを電気化学的に反応させて、化学エネルギを直接電気エネルギに変換する。
【0024】
B.拡散層の製造方法:
図2は、燃料電池用拡散層の製造装置100の概略構成を示す説明図である。この燃料電池用拡散層の製造装置100は、前述した撥水層付き拡散層を製造するものである。
【0025】
図2に示すように、燃料電池用拡散層の製造装置(以下、単に「製造装置」と呼ぶ)100は、帯状の積層用シートSHを送り出す送出ローラ110と、積層用シートSHを搬送するための複数の搬送ローラ112と、積層用シートSHを巻き取る巻取ローラ114と、後ほど拡散層36,46を構成する拡散層基材BSを供給する供給部116と、完成された撥水層付き拡散層RDを回収する回収部118とを備える。積層用シートSHは例えば鉄製である。送出ローラ110は製造装置100の一方端側(図中、左側)にあり、巻取ローラ114は製造装置100の他方端側(図中、右側)にあり、積層用シートは送出ローラ110から送り出され、巻取ローラ114の方向に搬送ローラ112により送られる。
【0026】
搬送ローラ112による搬送路の前記送出ローラ110近くの上方には、第1の撥水ペーストPS1が貯蔵された第1のホッパ120が配置されており、第1のホッパ120から積層用シートSH上に第1の撥水ペーストPS1が供給される。第1の撥水ペーストPS1は、カーボン粉末またはカーボン繊維と、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等のフッ素系ポリマーと、溶媒との混合物である。積層用シートSHは搬送ローラ112により搬送されており、積層用シートSH上の第1の撥水ペーストPS1は、移動する積層用シートSHとブレード122の間で延ばされ、所要の厚さのシート状に成形される。
【0027】
成形された第1の撥水ペーストPS1は、さらに積層用シートSHによって搬送され、第1の加熱炉124を通過する。第1の加熱炉124は、第1の温度(例えば100℃)に設定されている。第1の加熱炉124により加熱されることで、第1の撥水ペーストPS1は、溶媒が飛ばされ、乾燥硬化される。すなわち、前記第1の温度は、第1の撥水ペーストに含まれる溶媒が飛ばされるに十分な温度であり、この第1の温度で第1の撥水ペーストPS1を加熱することで、第1の撥水ペーストPS1を乾燥硬化する。なお、第1の温度は前記100℃に限る必要はなく、第1の撥水ペーストに含まれる溶媒が飛ばされるに十分な温度であればいずれの温度とすることもできる。
【0028】
乾燥硬化された第1の撥水ペーストPS1の硬化物SLは、さらに積層用シートSHによって搬送され、第2のホッパ126が配置された位置を通過する。第2のホッパ126は、第2の撥水ペーストPS2を貯蔵する。第2の撥水ペーストPS2は、第1の撥水ペーストPS1と同様に、カーボン粉末またはカーボン繊維と、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等のポリマーと、溶媒との混合物である。ここでは、第1の撥水ペーストPS1と第2の撥水ペーストPS2は同一材料であるものとする。第2のホッパ126から積層用シートSH上の硬化物SLの表面に第2の撥水ペーストPS2が供給される。
【0029】
第2の撥水ペーストPS2が表面に載った硬化物SLは、さらに積層用シートSHによって搬送され、帯状の拡散層基材BSと隣接される。拡散層基材BSは、供給部116により供給されたもので、第2の撥水ペーストPS2を介して硬化物SLと隣接される。
【0030】
その後、上記硬化物SL、第2の撥水ペーストPS2および拡散層基材BSの集合物は、積層用シートSHによって搬送され、押圧ローラ128および第2の加熱炉130を順に通過する。押圧ローラ128は、搬送される積層用シートSHの面に垂直な方向、すなわち、上記硬化物SL、第2の撥水ペーストPS2および拡散層基材BSの集合体の積層方向に圧力を掛ける構成である。第2の加熱炉130は、第2の温度(例えば300℃)に設定されている。上記硬化物SL、第2の撥水ペーストPS2および拡散層基材BSの集合体は、積層用シートSHごと、押圧ローラ128によってプレスされ、第2の加熱炉130により、乾燥硬化される。このプレスと乾燥硬化により、硬化物SLと拡散層基材BSとの間に介在された第2の撥水ペーストPS2に含まれるフッ素系ポリマーは、融解し全面に至り、硬化物SLと拡散層基材BSとの間を接着するように働く。この結果、拡散層基材BSの一方(図中下方)の表面上に、第2の撥水ペーストPS2の硬化物が接着層ADとして積層され、その接着層ADの表面上に、第1の撥水ペーストPS1の硬化物SLがさらに積層された撥水層付き拡散層RDが製造される。
【0031】
なお、前記第2の温度は、第2の撥水ペーストPS2に含まれるフッ素系ポリマーを融解するのに十分な温度である。したがって、第2の温度は前記300℃に限る必要はなく、第2の撥水ペーストPS2に含まれるフッ素系ポリマーを融解するのに十分な温度であればいずれの温度とすることもできる。なお、前記第2の温度は前記第1の温度よりも通常高くなる。
【0032】
上記製造された撥水層付き拡散層RDは、その後、積層用シートSHから分離され、回収部118に回収される。こうして製造された撥水層付き拡散層RDは、所望のサイズの矩形に切断された上で、MEGA50の製造に用いられる。すなわち、撥水層付き拡散層RDは、MEGA50が備える撥水層34(44)と拡散層36(46)として利用される。すなわち、撥水層付き拡散層RDの拡散層基材BSは拡散層36(46)に対応し、撥水層付き拡散層RDの接着層ADおよび硬化物SLは撥水層34(44)に対応したものとなる。
【0033】
なお、第1のホッパ120およびブレード122による処理工程が本発明でいう「第1の工程」に相当し、第1の加熱炉124による処理工程が本発明でいう「第2の工程」に相当し、第2のホッパ126による処理工程と供給部116から供給された拡散層基材BSを硬化物SLに隣接させる処理工程が本発明でいう「第3の工程」に相当し、押圧ローラ128および第2の加熱炉130による処理工程が本発明でいう「第4の工程」に相当する。
【0034】
C.作用、効果:
以上詳述したように、本実施例の燃料電池用拡散層の製造装置100によれば、シート状に形成された第1の撥水ペーストPS1を第1の加熱炉124により乾燥硬化し、その後、そのシート状の硬化物SLの一方の面に拡散層を形成している。このために、この製造装置100により製造された撥水層34,44付きの拡散層36,46によれば、図3に示すように、拡散層36,46を構成するカーボン繊維の糸CSが例え毛羽立っていたとしても、上記シート状の硬化物SLで糸CSを押さえつけるために、糸CSが撥水層34,44の外側に突出することがない。したがって、拡散層36,46を構成するカーボン繊維の糸CSによる電解質膜20の損傷を防止することができる。しかも、従来必要な撥水層で電解質膜20の損傷を防止するものであることから、特別な構成を付加することで構成を複雑化することもない。
【0035】
また、本実施例の燃料電池用拡散層の製造装置100により製造された燃料電池によれば、第1の撥水ペーストPS1の硬化物SLにより撥水層の拡散層へのめり込み量を抑えることができる。また、第1の撥水ペーストPS1の量を調整することで、拡散層と触媒層との間のクリアランスを容易に調整することができる。
【0036】
また、本実施例の燃料電池用拡散層の製造装置100によれば、第1の撥水ペーストPS1を載せる作業場としての積層用シートSHを搬送ローラ112によって搬送し、その搬送経路に沿って第1のホッパ120、ブレード122、第1の加熱炉124、第2のホッパ126、押圧ローラ128および第2の加熱炉130を配置する構成とすることで、製造ラインでもって燃料電池用拡散層の製造を可能としている。このため、生産性に優れている。
【0037】
D.他の実施形態:
なお、この発明は上記の実施例や変形例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能であり、例えば次のような他の実施形態も可能である。
【0038】
(1)前記実施例では、作業場としての積層用シートSHを搬送ローラ112によって搬送することで、前述したように製造ラインでもって燃料電池用拡散層の製造を可能としているが、これに換えて、積層用シートSHを固定した状態で、製造装置の各手段を順に切り替えて作業を進める構成としてもよい。また、本実施例では、長尺な撥水層付き拡散層を製造して、使用の用途に合わせて所望のサイズに切断することで燃料電池に使用していたが、必ずしも長尺である必要はなく、予め前記所望のサイズでもって製造するように構成してもよい。
【0039】
(2)前記実施例では、拡散層36,46は、カーボンクロスにより形成されていたが、これに換えて、カーボン繊維からなるカーボンペーパまたはカーボンフェルトによって形成してもよい。また、カーボン繊維から構成されるものに限る必要もなく、十分なガス拡散性および導電性を有し、かつ繊維状導電体で構成されるものであれば、いずれの構成の拡散層としてもよい。
【0040】
(3)前記実施例では、第1および第2の撥水ペーストPS1、PS2は、カーボン粉末またはカーボン繊維と、フッ素系ポリマーと、溶媒との混合物であったが、カーボン粉末またはカーボン繊維はカーボンナノチューブ、Auなどの金属粒子等の他の導電性材料に換えることもできるし、フッ素系ポリマーはポリフッ化ビニリデン (PVDF)、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)等の他のポリマーに換えることもできる。また、第1および第2の撥水ペーストPS1、PS2は、導電性材料と撥水剤と溶媒との混合物に換えて、他の材料によって構成してもよい。さらに、前記実施例では、第1および第2の撥水ペーストPS1、PS2は同一材料としたが、必ずしも同一である必要はなく、例えば、第1の撥水ペーストPS1はポリマーをPTFEとし、第2の撥水ペーストPS2はポリマーをFEPとした構成のように第1および第2の撥水ペーストPS1、PS2を異なる材料としてもよい。
【0041】
(4)前記第1の工程により形成するシート状の第1の撥水ペーストの平面形状は、矩形はもちろんのこと、所定のパターン形状に形成されたものであってもよい。
【0042】
(5)前記実施例では、第3の工程において、第2の工程により得られた第1の撥水ペーストPS1の硬化物SLの一方の面に、第2の撥水ペーストPS2を介して拡散層としての拡散層基材BSを隣接する構成であったが、これに換えて、硬化物SLの一方の面に拡散層基材BSを直接載せて、この拡散層基材BSと硬化物SLの境界領域に第2の撥水ペーストPS2を流し込む構成としてもよい。要は、硬化物SLの一方の面に、第2の撥水ペーストPS2とともに拡散層基材BSを隣接させる構成であればいずれの構成としてもよい。
【0043】
(6)前記実施例では、第4の工程として、押圧ローラ128で押圧し、その後、第2の加熱炉130により乾燥硬化する構成としたが、これに換えて、ホットプレス機により、押圧と乾燥硬化を同時に行う構成としてもよい。
【0044】
(7)前記実施例では、燃料電池は固体高分子型燃料電池としたが、固体酸化物型燃料電池やリン酸型燃料電池等、異なる種類の燃料電池に適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の一実施例に係る製造方法により製造された拡散層を含む燃料電池10を概略的に示す説明図である。
【図2】燃料電池用拡散層の製造装置の概略構成を示す説明図である。
【図3】前記実施例の作用効果を示す説明図である。
【図4】従来例の課題を示す説明図である。
【符号の説明】
【0046】
10…燃料電池
12…単セル
20…電解質膜
30…アノード
32…触媒層
34…撥水層
36…拡散層
40…カソード
42…触媒層
44…撥水層
46…拡散層
60…セパレータ
62…単セル内酸化剤ガス流路
64…単セル内燃料ガス流路
100…燃料電池用拡散層の製造装置
110…送出ローラ
112…搬送ローラ
114…巻取ローラ
116…供給部
118…回収部
120…第1のホッパ
122…ブレード
124…第1の加熱炉
126…第2のホッパ
128…押圧ローラ
130…第2の加熱炉
RD…拡散層
AD…接着層
SH…積層用シート
SL…硬化物
BS…拡散層基材
PS1…第1の撥水ペースト
PS2…第2の撥水ペースト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撥水層が付設された燃料電池用拡散層の製造方法であって、
第1の撥水ペーストをシート状に形成する第1の工程と、
前記第1の工程により得られたシート状の第1の撥水ペーストを乾燥硬化する第2の工程と、
前記第2の工程により得られたシート状の硬化物の一方の面に、第2の撥水ペーストとともに拡散層を隣接させる第3の工程と、
前記シート状の硬化物、前記第2の撥水ペーストおよび前記拡散層を積層方向に押圧し、前記第2の撥水ペーストを乾燥硬化する第4の工程と
を備える燃料電池用拡散層の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池用拡散層の製造方法であって、
前記第1および第2の撥水ペーストは、
導電性材料と撥水剤と溶媒との混合物である、燃料電池用拡散層の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の燃料電池用拡散層の製造方法であって、
前記導電性材料は、カーボン粉末またはカーボン繊維である、燃料電池用拡散層の製造方法。
【請求項4】
請求項2に記載の燃料電池用拡散層の製造方法であって、
前記撥水剤は、フッ素系ポリマーである、燃料電池用拡散層の製造方法。
【請求項5】
撥水層が付設された燃料電池用拡散層の製造装置であって、
第1の撥水ペーストをシート状に形成する撥水ペーストシート化手段と、
前記撥水ペーストシート化手段により得られたシート状の第1の撥水ペーストを乾燥硬化する乾燥硬化手段と、
前記乾燥硬化手段により得られたシート状の硬化物の一方の面に、第2の撥水ペーストとともに拡散層を隣接させる拡散層付設手段と、
前記シート状の硬化物、前記第2の撥水ペーストおよび前記拡散層を積層方向に押圧し、前記第2の撥水ペーストを乾燥硬化する押圧・乾燥硬化手段と
を備える燃料電池用拡散層の製造装置。
【請求項6】
請求項5に記載の燃料電池用拡散層の製造装置であって、
前記第1の撥水ペーストを載せるための帯状の積層用シートを所定の方向に搬送する搬送手段を備え、
前記撥水ペーストシート化手段、乾燥硬化手段、拡散層付設手段および押圧・乾燥硬化手段は、前記搬送手段の経路に沿って配置された構成である、燃料電池用拡散層の製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−181891(P2009−181891A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−21523(P2008−21523)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】