説明

燃料電池用触媒及びその製造方法、並びに燃料電池

【課題】導電性担体の一次細孔及び二次細孔に含有される電解質成分の量を最適化すると共に、導電性担体の二次細孔の保水性を高めることにより、様々な条件(特に、高温低加湿条件)下において、プロトンの供給、反応ガスの拡散及び反応生成水の排出の全てを円滑に行い得る燃料電池用触媒を提供する。
【解決手段】導電性担体に担持された電極触媒と、前記導電性担体の細孔内に含有されたイオン伝導性ポリマーとを有する燃料電池用触媒であって、前記イオン伝導性ポリマーが、ポリマー電解質及び無機粒子からなり且つ動的散乱法によるストークス粒径が50nm以上のイオン伝導性物質と、ポリマー電解質及び無機粒子からなり且つ動的散乱法によるストークス粒径が20nm以下のイオン伝導性物質、又はポリマー電解質とからなることを特徴とする燃料電池用触媒とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学反応を利用して発電する燃料電池に使用される燃料電池用触媒及びその製造方法、並びに燃料電池に関するものであり、特に、電気自動車や家庭等で利用される固体高分子形燃料電池に使用される燃料電池用触媒及びその製造方法、並びに燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質を介して一対の電極を接触させ、この一方の電極に燃料を、他方の電極に酸化剤を供給し、電池内で電気化学的に反応させる(すなわち、燃料の酸化を行う)ことにより、化学エネルギーを電気エネルギーに直接変換する装置である。この燃料電池は、電解質の種類によって幾つかの種類に分類されるが、近年、高出力が得られる燃料電池として、固体高分子電解質膜を電解質に用いた固体高分子形燃料電池が注目されている。
【0003】
固体高分子形燃料電池の発電部分は、図3に示すように、アノード触媒層7a及びガス拡散層(図示していない)から成る燃料極(アノード)と、カソード触媒層7b及びガス拡散層(図示していない)から成る空気極(カソード)と、両極間に狭持された固体高分子電解質膜1とから構成されている。この燃料電池では、燃料極(アノード)に水素ガスを、空気極(カソード)に酸素ガス(一般的には、酸素を含む空気)を供給し、外部回路により電流を取り出す際に下記のような反応が生じる。
アノード反応:H→2H+2e (1)
カソード反応:2H+2e+1/2O→HO (2)
【0004】
燃料極に供給された水素ガスはアノード触媒層7aで酸化されてプロトン(水素イオン)となり、固体高分子電解質膜1を通ってカソード触媒層7bに移動する。固体高分子電解質膜1としては、パーフルオロスルホン酸ポリマー等のプロトン伝導性ポリマーが一般的に使用されており、プロトン伝導性ポリマーを十分に加湿することによってプロトンの伝導性が確保されている。カソード触媒層7bに到達したプロトンは、酸化剤である空気中の酸素及び外部回路を流れてきた電子と反応して水を生成する。
【0005】
次に、燃料電池用触媒(アノード触媒層7a及びカソード触媒層7b)の基本構成について説明する。代表的な燃料電池用触媒としては、カーボンブラック等の導電性担体に担持された水素酸化能や酸素還元能を有するナノサイズの電極触媒と、固体高分子電解質膜から電極触媒にプロトンを供給するためのイオン伝導性ポリマー(アイオノマー)等の電解質成分とから構成されている。
導電性担体であるカーボンブラックは、微粒子化した電極触媒を担持させるために非常に大きな比表面積(例えば、100〜1000m/g)を有しており、導電性担体を構成する粒子の間には複雑な細孔構造が形成されている。具体的には、非特許文献1に示されるように、カーボンブラックの細孔構造は、カーボンブラックの一次粒子間に形成される一次細孔(20nm以上40nm未満)と、カーボンブラックの一次粒子が凝集した凝集物(二次粒子)間に形成される二次細孔(40nm以上)とに大きく分類される。
【0006】
電解質成分であるアイオノマーは、電極触媒を担持した導電性担体を含浸させることで、導電性担体中に形成された細孔内に導入することができる。電極触媒に十分な量のプロトンを供給するためには、細孔内に導入するアイオノマー量を増加させるのが効果的である。
しかしながら、アイオノマー量を必要以上に多くすると、導電性担体中の一次細孔及び二次細孔の全てが閉塞されてしまう。その結果、電極触媒表面への反応ガスの供給が不十分となったり、反応で生成した水の電極外部への排出が滞ったりすることで、電極性能が低下してしまうという問題が生じる。電極触媒へのプロトン及び反応ガスの供給を両立させると共に、反応生成水の排出を円滑に行うためには、導電性担体中の一次細孔及び二次細孔に適量のアイオノマーを導入することが重要となる。
【0007】
アイオノマーとしては、ナフィオンという商標名でデュポン社から販売されているパーフルオロスルホン酸ポリマーの溶液が知られている。このナフィオン溶液では、幾つかのナフィオン分子が会合状態を形成しており、会合したナフィオン分子の分子量は、特別な熱処理を施さない限り、数10万〜数100万g/molの範囲で二峰性分布を示すことが非特許文献2において知られている。
会合度の小さな一部のナフィオン分子は、導電性担体中の一次細孔に導入することが可能であるが、会合度の大きなナフィオン分子は、一次細孔に導入することができず、二次細孔のみに導入される。導電性担体中の一次細孔へのナフィオン分子の不十分な導入は、電極触媒へのプロトンの供給が阻害されるため、触媒利用効率の低下、電池電圧の低下をもたらす。
【0008】
導電性担体中の一次細孔に対するアイオノマーの不十分な導入の問題を解決する方法として、特許文献1には、無機粒子とハイブリッド化したポリマー電解質の粒径を一次細孔径よりも小さくし、これを電解質成分として用いることにより、一次細孔に対するアイオノマーの十分な導入を達成する方法が提案されている。この方法によれば、導電性担体中の一次細孔にアイオノマーを十分に導入することが可能となるため、電気化学的に活性な触媒表面積が増大し、その結果として電池電圧が向上することも確認されている。
また、特許文献1と同様に、無機粒子とハイブリッド化したポリマー電解質を電解質成分として用いる方法が、特許文献2にも記載されている。この特許文献2の方法では、ポリマー電解質と粒径100ミクロン以下の層状珪酸塩粒子とから構成される電解質成分を導電性担体中の細孔に導入している。この方法によれば、導電性担体中の細孔に層状珪酸塩粒子を導入することができるので、優れた自己加湿機能を与え、発電性能を低下させることなく低加湿運転を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2007/029346号公報
【特許文献2】特許第3962548号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Makoto Uchida、外4名、「Effects of Microstructure of Carbon Support in the Catalyst Layer on the Performance of Polymer-Electrolyte Fuel Cells」、J. Electrochem. Soc.、1996年、第143巻、第7号、p.2245−2252
【非特許文献2】R. Daniel Lousenberg、「Molar Mass Distributions and Viscosity Behavior of Perfluorinated Sulfonic Acid Polyelectrolyte Aqueous Dispersions」、J. Polymer. Sci.、2005年、第43巻、p.421−428
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1の方法では、無機粒子とハイブリッド化したポリマー電解質(アイオノマー)は、その粒径が小さいため、一次細孔に容易に導入されると共に、一次細孔よりも大きな二次細孔にも当然に導入されると考えられるが、一次細孔にあわせてアイオノマー量を最適化すると、二次細孔中のアイオノマー量が最適化されない。そして、二次細孔中のアイオノマー量が少ない場合には、電極触媒と固体高分子電解質膜との間のプロトン伝導パスが不十分となり、電極触媒へのプロトン移動が不足するという問題がある。一方、二次細孔中のアイオノマー量を最適化するために、アイオノマー量を多くすると、一次細孔の閉塞や、それに伴う反応ガスの拡散及び反応生成水の排出が阻害されるという問題がある。
【0012】
また、特許文献1の方法では、無機粒子とハイブリッド化したポリマー電解質と同時に、無機粒子とハイブリッド化していないポリマー電解質を用いる方法も開示されている。しかしながら、ハイブリッド化していないポリマー電解質は、ナフィオン分子と同様に分子同士が会合し易いため、会合したポリマー電解質の分子量(分子の大きさ)は幅広い範囲で分布している。つまり、ハイブリッド化していないポリマー電解質は、一次細孔に導入できる小さなポリマー電解質と、一次細孔に導入できない大きなポリマー電解質とが共存している状態にあるため、これをハイブリッド化したポリマー電解質と共に電解質成分として用いても、二次細孔のアイオノマー量を最適化することが難しいという問題がある。加えて、無機粒子とハイブリッド化したポリマー電解質とハイブリッド化していないポリマー電解質とを混合すると、無機粒子とハイブリッド化したポリマー電解質が凝集してしまうため、一次細孔中のアイオノマー量を最適化することでさえも難しくなるという問題もある。
【0013】
さらに、無機粒子は、その表面ないし結晶構造内部に水分を保持し易いため、無機粒子とハイブリッド化したポリマー電解質が導入される一次細孔では、高温低加湿条件でもプロトン伝導性の低下が起こり難いが、ハイブリッド化していないポリマー電解質が導入される二次細孔では、無機粒子を含有していないために水分を保持し難く、プロトン伝導性が低下するという問題がある。特に、カソードでは、高温低加湿条件下において、反応で生じる生成水が常に存在する一次細孔よりも、電極触媒表面から離れ、ガス拡散パスとしても機能している二次細孔の方が乾燥し易いため、高温低加湿条件下における二次細孔の保水性を高める必要がある。
【0014】
一方、特許文献2の方法では、粒径が100ミクロン以下の層状珪酸塩粒子を使用しているため、大きな粒径の層状珪酸塩粒子によって二次細孔が閉塞してしまい、一次細孔に電解質成分を十分に導入することができないという問題がある。
【0015】
本発明は、上記のような問題を解消するためになされたものであり、導電性担体の一次細孔及び二次細孔に含有される電解質成分の量を最適化すると共に、導電性担体の二次細孔の保水性を高めることにより、様々な条件(特に、高温低加湿条件)下において、プロトンの供給、反応ガスの拡散及び反応生成水の排出の全てを円滑に行い得る燃料電池用触媒及びその製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、様々な条件(特に、高温低加湿条件)下においても性能低下が少ない燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者等は、上記のような問題を解決すべく鋭意研究した結果、導電性担体の細孔内に含有させるイオン伝導性ポリマーとして、ポリマー電解質及び無機粒子からなり且つ動的散乱法によるストークス粒径が50nm以上のイオン伝導性物質と、ポリマー電解質及び無機粒子からなり且つ動的散乱法によるストークス粒径が20nm以下のイオン伝導性物質、又はポリマー電解質とを用いることで、導電性担体の一次細孔及び二次細孔に含有される電解質成分の量を最適化すると共に、導電性担体の二次細孔における保水性を高め得ることを見出した。
すなわち、本発明は、導電性担体に担持された電極触媒と、前記導電性担体の細孔内に含有されたイオン伝導性ポリマーとを有する燃料電池用触媒であって、前記イオン伝導性ポリマーが、ポリマー電解質及び無機粒子からなり且つ動的散乱法によるストークス粒径が50nm以上のイオン伝導性物質と、ポリマー電解質及び無機粒子からなり且つ動的散乱法によるストークス粒径が20nm以下のイオン伝導性物質、又はポリマー電解質とからなることを特徴とする燃料電池用触媒である。
【0017】
また、本発明は、電極触媒を担持した導電性担体を、動的散乱法によるストークス粒径が20nm以下のイオン伝導性物質の分散液又はポリマー電解質の溶液に含浸させた後、動的散乱法によるストークス粒径が50nm以上のイオン伝導性物質の分散液に含浸させることを特徴とする燃料電池用触媒の製造方法である。
また、本発明は、電極触媒を担持した導電性担体を、動的散乱法によるストークス粒径が20nm以下のイオン伝導性物質の分散液又はポリマー電解質の溶液と攪拌混合した後、その混合物に動的散乱法によるストークス粒径が50nm以上のイオン伝導性物質の分散液を加えて攪拌混合することを特徴とする燃料電池用触媒の製造方法である。
さらに、本発明は、上記燃料電池用触媒を有する燃料電池である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、導電性担体の一次細孔及び二次細孔に含有される電解質成分の量を最適化すると共に、導電性担体の二次細孔における保水性を高めることにより、様々な条件(特に、高温低加湿条件)下において、プロトンの供給、反応ガスの拡散及び反応生成水の排出の全てを円滑に行い得る燃料電池用触媒及びその製造方法を提供することができる。
また、本発明は、様々な条件(特に、高温低加湿条件)下においても性能低下が少ない燃料電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施の形態2の燃料電池を構成する電極構造体の断面図である。
【図2】一次細孔及び二次細孔に対するイオン伝導性物質及びポリマー電解質の導入量の結果を示すグラフである。
【図3】触媒層−電解質接合体の平面図及び断面図である。
【図4】実施例1〜2及び比較例1〜3で得られた燃料電池単セルにおける電流電圧特性の結果を示すグラフである。
【図5】実施例1〜2及び比較例1〜3で得られた燃料電池単セルにおける電流電圧特性の結果(高温低加湿条件)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
実施の形態1.
本発明の燃料電池用触媒は、動的散乱法によるストークス粒径が50nm以上の所定のイオン伝導性物質と、動的散乱法によるストークス粒径が20nm以下の所定のイオン伝導性物質、又はポリマー電解質とからなるイオン伝導性ポリマーを、電極触媒を担持した導電性担体の細孔内に含有する。
以下、本発明の燃料電池用触媒及びその製造方法の好適な実施の形態について説明する。
イオン伝導性物質は、ポリマー電解質及び無機粒子から構成される。
ポリマー電解質としては、プロトンや水酸化物イオン等の各種イオンを伝導するものであれば特に限定されない。その中でもポリマー電解質は、高温低加湿条件下でのプロトン伝導性を確保する観点から、プロトン伝導性ポリマーであることが好ましい。ここで、プロトン伝導性ポリマーとは、スルホン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基、アルキルスルホン酸基、アルキルカルボン酸基、アルキルホスホン酸基、リン酸基、及びフェノール性水酸基等のプロトン酸基を有するポリマーを意味する。
【0021】
プロトン伝導性ポリマーとしてはスルホン化ポリマーが好ましい。スルホン化ポリマーとしては、特に限定されないが、フッ素系や炭化水素系が好ましく、例えば、スルホン酸基含有ポリエーテルスルホン、スルホン酸基含有ポリエーテルケトン、スルホン酸基含有ポリエーテルエーテルケトン、及びスルホン酸基含有ポリイミド等が挙げられる。スルホン化ポリマーの具体例としては、パーフルオロスルホン酸ポリマー、SPEEK:スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、SPEK:スルホン化ポリエーテルケトン、SPES:ポリエーテルスルホン、SP30:ポリ(2,6−ジフェニル−4−フェニレンオキサイド)、SPPBP:スルホン化ポリ(4−フェノキシベンゾイル−1,4−フェニレン)、SPPO:スルホン化ポリフェニレンオキサイド又はポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンオキサイド)、SPPQ:ポリ(フェニルキノザリン)、SPS:スルホン化ポリスチレン、SPSF:スルホン化ポリスルホン、SPSU:スルホン化ポリスルホンウデル(sulfonated polysulfoneUdel)が挙げられる。これらは、単独又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
また、上記のポリマー電解質は、一般に市販されており、例えば、デュポン社から販売されているナフィオン(商標名)等を用いることもできる。
【0022】
無機粒子としては、当該技術分野において公知のものを用いることができるが、高温低加湿条件下でのプロトン伝導性を確保する観点から、プロトン伝導性であることが好ましい。無機粒子は、その表面ないし結晶構造内部に水分を保持し易いため、無機粒子を含むイオン伝導性物質を導電性担体の細孔内に導入することで、細孔内の保水性を確保し、プロトン伝導性の低下を防止することができる。無機粒子としては、例えば、ジルコニウム化合物、チタン化合物、セリウム化合物、ウラン化合物、スズ化合物、バナジウム化合物、アンチモン化合物、並びにカルシウム・ヒドロキシアパタイト及び水和カルシウム・ヒドロキシアパタイトが挙げられる。その中でも、無機粒子はジルコニウム化合物であることが好ましい。これらの化合物は、酸化物又はその水和物、リン酸塩又はその水和物、硫酸塩又はその水和物であることができ、単独又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
無機粒子は、イオン伝導性物質の粒径を所定の範囲とするために、動的光散乱法によるストークス粒径が、好ましくは20nm未満、より好ましくは10nm以下、さらに好ましくは5nm以下である。ストークス粒径が20nm以上であると、特に20nm以下のストークス粒径を有するイオン伝導性物質が得られないことがある。ただし、50nm以上のストークス粒径を有するイオン伝導性物質を作製する場合には、無機粒子はナノレベルの大きさである必要はなく、燃料電池用触媒の厚さ(一般に10ミクロン)以下の粒径のものを用いることも可能である。
【0024】
上記のような特性を有する無機粒子は、ゾルゲル法等の公知の手法により調製することができる。例えば、無機化合物を有機溶剤に加えてゾルを調製し、乾燥させてゲルを得た後、粉末化させればよい。ゾルを調製する際には、無機化合物の加水分解や凝集等を防止するために、アセチルアセトン等の表面改質剤を配合することもできる。有機溶剤としては、特に限定されず、イソプロピルアルコール等が挙げられる。その他の各種条件については、使用する無機化合物の種類や量等に応じて適宜設定すればよい。
【0025】
上記のポリマー電解質及び無機粒子から構成されるイオン伝導性物質は、導電性担体の各細孔を効率的に導入するために二種類の範囲の動的光散乱法によるストークス粒径を有する。
イオン伝導性物質は、導電性担体の一次細孔にイオン伝導性物質を選択的且つ効率的に導入する観点から、20nm以下、好ましくは10nm以下のストークス粒径を有する。ストークス粒径が20nmを超えると、導電性担体の一次細孔にイオン伝導性物質を選択的且つ効率良く導入することができない。逆に、ストークス粒径が小さいほど、導電性担体の一次細孔にイオン伝導性物質を選択的且つ効率良く導入することができる。
また、上記のイオン伝導性物質の代わりとしてポリマー電解質を用いることもできる。ポリマー電解質としては、上記で説明した通りである。このポリマー電解質は、一般的に幅広い分布の粒径を有しているため、導電性担体の一次細孔のみに選択的に導入することはできないが、導電性担体の一次細孔に導入する電解質成分としては十分に使用可能である。
【0026】
また、イオン伝導性物質は、導電性担体の二次細孔にイオン伝導性物質を選択的且つ効率的に導入する観点から、50nm以上、好ましくは100nm以上、より好ましくは200nm以上のストークス粒径を有する。ストークス粒径が50nm未満であると、導電性担体の二次細孔にイオン伝導性物質を選択的且つ効率良く導入することができない。逆に、ストークス粒径が大きいほど、導電性担体の二次細孔にイオン伝導性物質を選択的且つ効率良く導入することができる。
また、上記したように、カソードでは、高温低加湿条件下において、反応で生じる生成水が常に存在する一次細孔よりも、電極触媒表面から離れ、ガス拡散パスとしても機能している二次細孔の方が乾燥し易いため、二次細孔での乾燥がプロトン伝導性の低下の主な原因となるが、本実施の形態の燃料電池用触媒では、表面ないし結晶構造内部に水分を保持し易い無機粒子を含むイオン伝導性物質を導電性担体の二次細孔に導入しているので、二次細孔での保水性を高めることができ、二次細孔でのプロトン伝導性の低下を防止することが可能となる。
【0027】
上記のイオン伝導性物質やポリマー電解質が導入される導電性担体としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。具体的には、導電性担体としては、導電性酸化物や導電性高分子等のように導電性を有するものであればよく、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、グラファイト、カーボンファイバ、カーボンナノチューブ、フラーレン、活性炭、グラスカーボン等が挙げられる。カーボンブラック等の粒子から導電性担体が構成される場合、その粒径は、好ましくは300nm以下、より好ましくは100nm以下、さらに好ましくは30nm以下である。
導電性担体に担持される電極触媒としては、特に限定されず、貴金属触媒等の公知のものを用いることができる。貴金属触媒としては、特に限定されないが、例えば、PtやPt−Ru等のPt系触媒が挙げられる。貴金属触媒は、粒径が好ましくは30nm以下、より好ましくは10nm以下、さらに好ましくは3nm以下である。
【0028】
導電性担体の細孔に含有されるイオン伝導性物質やポリマー電解質の量は、細孔の数や大きさ等に依存するので、一義的には定義することはできない。そのため、使用する導電性担体の種類等にあわせて適宜設定する必要がある。
【0029】
本実施の形態の燃料電池用触媒は、上記の材料を用いて製造される。すなわち、本発明の燃料電池用触媒の製造方法は、電極触媒を担持した導電性担体を、動的散乱法によるストークス粒径が20nm以下のイオン伝導性物質の分散液又はポリマー電解質の溶液に含浸させた後、動的散乱法によるストークス粒径が50nm以上のイオン伝導性物質の分散液に含浸させることを特徴とする。
ストークス粒径が20nm以下のイオン伝導性物質の分散液は、ポリマー電解質を極性溶媒に溶解した溶液と、無機粒子を極性溶媒に分散させた分散液とを混合することによって調製することができる。
ポリマー電解質を溶解及び無機粒子を分散させる極性溶媒としては、特に限定されず、使用するポリマー電解質及び無機粒子にあわせて適宜選択することができる。例えば、極性溶媒としては、N−メチルピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、1−メチルピロリドン、及びN−メチルアセトアミド等が挙げられ、これらは単独又は複数を組み合わせて用いることができる。
【0030】
ポリマー電解質を極性溶媒に溶解した溶液は、ポリマー電解質の含有量が好ましくは0.1質量%以上1質量%以下、より好ましくは0.2質量%以上0.5質量%以下である。ポリマー電解質の含有量が0.1質量%未満であると、電極触媒を担持した導電性担体と混合したときに溶媒量が多くなりすぎてしまい、低粘度となるため、塗工に適した粘度のペーストを調製することが難しくなることがある。一方、ポリマー電解質の含有量が1質量%を超えると、無機粒子と混合したときに凝集してゲル化したり、電極触媒を担持した導電性担体と混合したときに高粘度となるため、導電性担体の一次細孔へのポリマー電解質のスムーズな導入が妨げられたりすることがある。
無機粒子を極性溶媒に分散させた分散液は、無機粒子の含有量が好ましくは0.1質量%以上1質量%以下、より好ましくは0.2質量%以上0.5質量%以下である。無機粒子の含有量が0.1質量%未満であると、電極触媒を担持した導電性担体と混合したときに、溶媒量が多くなりすぎてしまい、低粘度となるため、塗工に適した粘度のペーストを調製することが難しくなることがある。一方、無機粒子の含有量が1質量%を超えると、ポリマー電解質を極性溶媒に溶解した溶液と混合したときに凝集してゲル化することがある。
【0031】
ポリマー電解質を極性溶媒に溶解した溶液と、無機粒子を極性溶媒に分散させた分散液との配合割合は、質量比で好ましくは5:1〜1:5、より好ましくは5:1〜1:1である。ポリマー電解質を極性溶媒に溶解した溶液の比率が多すぎると、ポリマー電解質に比べて無機粒子が少なすぎるため、無機粒子とハイブリッド化されないポリマー電解質が多くなり、ポリマー電解質のストークス径が20nm以下にならないことがある。一方、ポリマー電解質を極性溶媒に溶解した溶液の比率が少なすぎると、イオン導電性が低下し、電池性能が低下してしまうことがある。
【0032】
ポリマー電解質を極性溶媒に溶解した溶液と、無機粒子を極性溶媒に分散させた分散液との混合方法は、特に限定されず、公知の攪拌装置を用いて混合すればよい。
上記のポリマー電解質を極性溶媒に溶解した溶液と、上記の無機粒子を極性溶媒に分散させた分散液とを混合すると、沈殿のない透明な液が得られる。この透明液では、ポリマー電解質によって無機粒子の一部又は全部が被覆等されたストークス粒径が20nm以下のイオン伝導性物質が分散している。
【0033】
ストークス粒径が20nm以下のイオン伝導性物質の分散液の代わりにポリマー電解質の溶液を用いる場合、ポリマー電解質の含有量は好ましくは0.1質量%以上20質量%以下、より好ましくは0.1質量%以上5質量%以下である。ポリマー電解質の含有量が0.1質量%未満であると、ポリマー電解質の量が少なすぎるため、ポリマー電解質の一次細孔への導入が十分でないことがある。一方、ポリマー電解質の含有量が20質量%を超えると、凝集したものが多くなるため、一次細孔への導入が十分でないことがある。
【0034】
ストークス粒径が50nm以上のイオン伝導性物質の分散液は、ポリマー電解質を極性溶媒に溶解した溶液と、無機粒子を極性溶媒に分散させた分散液とを混合することによって調製することができる。
ポリマー電解質を溶解及び無機粒子を分散させる極性溶媒としては、特に限定されず、上記と同じものを用いることができる。
ポリマー電解質を極性溶媒に溶解した溶液は、ポリマー電解質の含有量が好ましくは1質量%超過20質量%以下、より好ましくは5質量%以上10質量%以下である。ポリマー電解質の含有量が1質量%以下であると、電極触媒を担持した導電性担体と混合したときに溶媒量が多くなりすぎてしまい、低粘度となるため、塗工に適した粘度のペーストを調製することが難しくなることがある。一方、ポリマー電解質の含有量が20質量%を超える場合も、電極触媒を担持した導電性担体と混合したときに高粘度となるため、塗工に適した粘度のペーストを調製することが難しくなることがある。
【0035】
無機粒子を極性溶媒に分散させた分散液は、無機粒子の含有量が好ましくは0.5質量%以上20質量%以下、より好ましくは1質量%以上10質量%以下である。無機粒子の含有量が0.5質量%未満であると、ポリマー電解質を極性溶媒に溶解した溶液と混合した際に凝集せず、ストークス粒径が50nm以上にならないことがある。一方、無機粒子の含有量が20質量%を超えると、無機粒子が極性溶媒に分散しないことがある。
ポリマー電解質を極性溶媒に溶解した溶液と、無機粒子を極性溶媒に分散させた分散液との配合割合は、質量比で好ましくは5:1〜1:5、より好ましくは2:1〜1:2である。ポリマー電解質を極性溶媒に溶解した溶液の比率が多すぎると、無機粒子と凝集せずに20nm以下のポリマー電解質が分散液中に残存してしまうことがある。一方、ポリマー電解質を極性溶媒に溶解した溶液の比率が少なすぎると、イオン導電性が低下し電池性能が低下してしまうことがある。
【0036】
ポリマー電解質を極性溶媒に溶解した溶液と、無機粒子を極性溶媒に分散させた分散液との混合方法は、特に限定されず、上記と同様に公知の攪拌装置を用いて混合すればよい。
上記のポリマー電解質を極性溶媒に溶解した溶液と、上記の無機粒子を極性溶媒に分散させた分散液とを混合すると、白濁した液が得られる。この白濁液では、ポリマー電解質が無機粒子間を架橋した架橋凝縮と呼ばれるメカニズムによって凝集している。この凝集物は、内部には極性溶媒を多く含有したストークス粒径が50nm以上のイオン伝導性物質であり、架橋によりポリマー電解質の強固なネットワークが形成されているのでイオン伝導性に優れている。なお、燃料電池用触媒を最終的に得る段階では、極性溶媒が除去されるが、凝集物内部の極性溶媒が除去されることによって、反応ガスの拡散や反応生成水の排出に適した細孔が形成される。
【0037】
ストークス粒径が20nm以下のイオン伝導性物質の分散液又はポリマー電解質の溶液、及びストークス粒径が50nm以上のイオン伝導性物質の分散液に対する電極触媒を担持した導電性担体の含浸順序は、導電性担体の一次細孔及び二次細孔への電解質成分の導入量に多大な影響を与える。そのため、本実施の形態の燃料電池用触媒の製造方法では、ストークス粒径が20nm以下のイオン伝導性物質の分散液又はポリマー電解質の溶液に電極触媒を担持した導電性担体を含浸させた後、ストークス粒径が50nm以上のイオン伝導性物質の分散液に電極触媒を担持した導電性担体をさらに含浸させる。この順序を逆にすると、ストークス粒径が50nm以上のイオン伝導性物質が電極触媒の二次細孔に先に導入されてしまうため、ストークス粒径が20nm以下のイオン伝導性物質又はポリマー電解質が導電性担体の一次細孔に導入され難くなることがある。また、これらの分散液や溶液を同時に混合して電極触媒を担持した導電性担体を含浸させると、ストークス粒径が20nm以下のイオン伝導性物質が凝集等してしまい、ストークス粒径が20nm以下のイオン伝導性物質が導電性担体の一次細孔に導入され難くなることがある。
【0038】
各分散液やポリマー電解質の溶液に電極触媒を含浸させる方法としては、特に限定されず、例えば、電極触媒を担持した導電性担体と、イオン伝導性物質の分散液やポリマー電解質の溶液とを攪拌混合し、所定のイオン伝導性物質やポリマー電解質が各細孔に導入されるように十分に含浸させればよい。含浸時間は、特に限定されず、導電性担体等の種類や大きさにあわせて適宜設定すればよい。
また、イオン伝導性物質の分散液やポリマー電解質の溶液には、電極触媒を担持した導電性担体をそれぞれ別個に含浸させてよいが、製造工程を簡略化させる観点から、電極触媒を担持した導電性担体を、ストークス粒径が20nm以下のイオン伝導性物質の分散液又はポリマー電解質の溶液と攪拌混合した後、その混合物にストークス粒径が50nm以上のイオン伝導性物質の分散液を加えて攪拌混合してもよい。
【0039】
電極触媒を担持した導電性担体と、ストークス粒径が20nm以下のイオン伝導性物質の分散液又はポリマー電解質の溶液との混合物に、ストークス粒径が50nm以上のイオン伝導性物質の分散液を加える場合、ストークス粒径が20nm以下のイオン伝導性物質の分散液又はポリマー電解質の溶液よりも少ない質量のストークス粒径が50nm以上のイオン伝導性物質の分散液を加えることが好ましい。具体的には、ストークス粒径が20nm以下のイオン伝導性物質の分散液又はポリマー電解質の溶液と、ストークス粒径が50nm以上のイオン伝導性物質の分散液との質量比は、4:1〜1.2:1であることが好ましい。ストークス粒径が20nm以下のイオン伝導性物質の分散液又はポリマー電解質の溶液と、ストークス粒径が50nm以上のイオン伝導性物質の分散液との質量比とが1:1である場合や、ストークス粒径が20nm以下のイオン伝導性物質の分散液又はポリマー電解質の溶液よりもストークス粒径が50nm以上のイオン伝導性物質の分散液の方が多い場合、導電性担体の一次細孔に対するストークス粒径が20nm以下のイオン伝導性物質やポリマー電解質の導入量が低下し、電池性能が低下する場合がある。
【0040】
なお、上記の方法によれば、電極触媒を担持した導電性担体を、ストークス粒径が20nm以下のイオン伝導性物質の分散液又はポリマー電解質の溶液と予め攪拌混合することによって、ストークス粒径が20nm以下のイオン伝導性物質やポリマー電解質を先に導電性担体の一次細孔に導入できるので、ストークス粒径が20nm以下のイオン伝導性物質の分散液又はポリマー電解質の溶液と、ストークス粒径が50nm以上のイオン伝導性物質の分散液とを混合することによって、ストークス粒径が20nm以下のイオン伝導性物質又はポリマー電解質が凝集等したとしても電極触媒の二次細孔に導入されることになるため、導電性担体の一次細孔及び二次細孔への電解質成分の導入選択性は十分確保される。
【0041】
電極触媒を担持した導電性担体と、ストークス粒径が20nm以下のイオン伝導性物質の分散液又はポリマー電解質の溶液、及びストークス粒径が50nm以上のイオン伝導性物質の分散液との混合物は、所定の形状(例えば、層状)の燃料電池用触媒を形成するために、極性溶媒を適度に蒸発させて塗工用ペーストとすることができる。極性溶媒の蒸発方法は特に限定されず、加熱等の公知の手法によって蒸発させればよい。
得られた塗工用ペーストは離型性基材に塗布した後、極性溶媒が除去される。ここで、塗布方法としては、特に限定されず、スクリーン印刷法等の公知の方法を用いることができる。また、離型性基材も特に限定されず、離型処理が施された公知の基材を用いることができる。さらに、極性溶媒の除去方法も特に限定されず、使用する極性溶媒にあわせて適宜加熱等を行えばよい。極性溶媒が除去されると、各細孔に導入されたイオン伝導性物質やポリマー電解質が体積収縮して適度な空隙を形成する。この空隙によって、反応ガスの拡散及び反応生成水の排出を円滑に行うことができるようになる。このようにして製造される燃料電池用触媒は、導電性担体の一次細孔及び二次細孔に導入される電解質成分(イオン伝導性物質やポリマー電解質)が最適化されているため、プロトンの供給も円滑に行うことができる。
【0042】
実施の形態2.
本発明の燃料電池は、上記の燃料電池用触媒を有するものである。
以下、本発明の燃料電池の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。図1は、本実施の形態の燃料電池を構成する電極構造体の断面模式図である。図1において、電極構造体は、固体高分子電解質膜1と、固体高分子電解質膜1を狭持する燃料極2及び空気極3と、固体高分子電解質膜1、燃料極2及び空気極3を狭持する燃料極側セパレータ4及び空気極側セパレータ5と、燃料極2及び空気極3の側面を封止するガスシール6とから構成されている。そして、燃料極2はアノード触媒層7aとガス拡散層8aとから構成され、空気極3は、カソード触媒層7bとガス拡散層8bとから構成されている。また、燃料極2と燃料極側セパレータ4との間には燃料流路9が形成されており、空気極3と空気極側セパレータ5との間には空気流路10が形成されている。さらに、燃料極側セパレータ4及び空気極側セパレータ5には負荷装置11が接続されている。本実施の形態の燃料電池は、この電極構造体が複数積層された構造を有する。電極構造体の積層数は、特に限定されず、使用用途にあわせて適宜設定することができる。また、触媒層(アノード触媒層7a及びカソード触媒層7b)以外の材料は、特に限定されず、公知のものを用いることができる。
【0043】
本実施の形態の燃料電池は、燃料極2及び空気極3の触媒層(アノード触媒層7a及びカソード触媒層7b)に上記の燃料電池用触媒を有する。かかる燃料電池用触媒は、上記したように、導電性担体の一次細孔及び二次細孔に含有される電解質成分の量を最適化すると共に、導電性担体の二次細孔の保水性を高めることにより、様々な条件(特に、高温低加湿条件)下において、プロトンの供給、反応ガスの拡散及び反応生成水の排出の全てを円滑に行い得るため、本実施の形態の燃料電池は、様々な条件(特に、高温低加湿条件)下においても性能低下が少なくなる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明の詳細を説明するが、これらによって本発明が限定されるものではない。
(無機粒子の調製)
ジルコニウムアルコキシドをイソプロピルアルコールに加えてジルコニウムアルコキシド溶液(ジルコニウムアルコキシドの含有量:0.05M)を調製した。次に、ジルコニウムアルコキシド溶液中にアセチルアセトン(表面改質剤)を攪拌しながら滴下し、2時間攪拌を続けた。次に、1Mの硝酸溶液を加水分解触媒として用い、激しく攪拌しながらジルコニウムアルコキシド溶液中に加えることによって、透明で安定なジルコニアゾルを得た。このジルコニアゾルを更に一晩攪拌した後、90℃で有機溶媒を留去してジルコニアゲルを得た。その後、空気乾燥器中で1日間、90〜100℃で乾燥して粉末化させることにより、ジルコニア粉体を調製した。
このジルコニア粉体の極性溶剤(N−メチルピロリドン)に対する分散性を、動的光散乱器(MELVERN,Nano−2004,UK)を用いてストークス粒径を測定することによって調査した。その結果、ストークス粒径が2〜3nmのジルコニアゾルが得られていることを確認した。
【0045】
(ストークス粒径が20nm以下のイオン伝導性物質の分散液の調製)
パーフルオロスルホン酸ポリマー(ナフィオン、デュポン社製)をN−メチルピロリドン(極性溶媒)に溶解させて溶液を調製した。この溶液においてパーフルオロスルホン酸ポリマーの含有量を0.5質量%とした。次に、上記の無機粒子をN−メチルピロリドン(極性溶媒)に分散させて分散液を調製した。この分散液において無機微粒子の含有量を0.2質量%とした。これらの溶液と分散液とを1:1の質量比で混合し、攪拌することによって、沈殿のない透明な液を得た。この液について、動的光散乱器(MELVERN,Nano−2004,UK)を用いてストークス粒径を測定することによって調査したところ、約10nmのストークス粒径を有するイオン伝導性物質の分散液であることがわかった。
【0046】
(ストークス粒径が50nm以上のイオン伝導性物質の分散液の調製)
パーフルオロスルホン酸ポリマー(ナフィオン、デュポン社製)をN−メチルピロリドン(極性溶媒)に溶解させて溶液を調製した。この溶液においてパーフルオロスルホン酸ポリマーの含有量を10質量%とした。次に、上記の無機粒子をN−メチルピロリドン(極性溶媒)に分散させて分散液を調製した。この分散液において無機微粒子の含有量を5質量%とした。これらの溶液と分散液とを1:1の質量比で混合し、攪拌することによって、白濁した液を得た。この液について、動的光散乱器(MELVERN,Nano−2004,UK)を用いてストークス粒径を測定することによって調査したところ、0.1〜1μmのストークス粒径を有するイオン伝導性物質の分散液であることがわかった。
【0047】
(ポリマー電解質の溶液の調製)
パーフルオロスルホン酸ポリマー(ナフィオン、デュポン社製)をN−メチルピロリドン(極性溶媒)に溶解させて溶液を調製した。この溶液においてパーフルオロスルホン酸ポリマーの含有量を5質量%とした。
【0048】
(各細孔に対するイオン伝導性物質及びポリマー電解質の導入量の評価)
各細孔に対する上記のイオン伝導性物質及びポリマー電解質の導入量の評価を行うために、細孔体積測定用サンプルを作製した。具体的には、白金を担持したカーボンブラックと、電解質成分(イオン伝導性物質又はポリマー電解質)との質量比が1:1となるようにして、白金を担持したカーボンブラックと上記のイオン伝導性物質の分散液又はポリマー電解質の溶液とをそれぞれ配合し、粘度変化がなくなるまで攪拌混合した。その後、この混合物をポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シート上にキャスティングした後、真空減圧下で十分に乾燥させることによって、細孔体積測定用サンプルとした。
【0049】
得られた3種類の細孔体積測定用サンプルを用い、水銀圧入法により一次細孔(40nm未満)及び二次細孔(40nm以上1μm以下)の体積を測定した。その結果を図2に示す。
図2に示されているように、ストークス粒径が20nm以下のイオン伝導性物質(イオン伝導性物質A)の分散液を用いて作製したサンプルでは、二次細孔の体積は大きいのに対して、一次細孔の体積が小さいことから、ストークス粒径が20nm以下のイオン伝導性物質は一次細孔に選択的に導入され易いことがわかる。一方、ストークス粒径が50nm以上のイオン伝導性物質(イオン伝導性物質B)の分散液を用いて作製したサンプルでは、二次細孔の体積は小さいのに対して、一次細孔の体積が大きいことから、ストークス粒径が50nm以上のイオン伝導性物質は二次細孔に選択的に導入され易いことがわかる。また、ポリマー電解質の溶液を用いて作製したサンプルでは、上記2つの分散液を用いて作製した燃料電池用触媒サンプルの中間的な性質を示したことから、ポリマー電解質は、各細孔に対する選択性が少なく、一次細孔及び二次細孔の両方に導入され易いことがわかる。
【0050】
<実施例1>
(燃料電池用触媒の作製)
白金を担持したカーボンブラックと、上記のストークス粒径が20nm以下のイオン伝導性物質の分散液とを配合し、粘度変化がなくなるまで攪拌混合した。次に、この混合物に、上記のストークス粒径が50nm以上のイオン伝導性物質の分散液を加えて攪拌混合した後、極性溶媒を揮発させることによって、電極塗工に適した粘度を有するペーストを得た。ここで、ストークス粒径が20nm以下のイオン伝導性物質の分散液と、ストークス粒径が50nm以上のイオン伝導性物質の分散液との配合割合は、質量比で2:1とした。
得られたペーストを、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シート上にスクリーン印刷で50mm×50mmの正方形状に塗布した。PTFEシート上に塗布したペーストを乾燥させた後、これを固体高分子電解質膜(ナフィオン膜、デュポン社製)の両面に重ね合わせ、電解質成分のガラス転位点付近の温度でホットプレスし、両者を熱融着させた。その後、PTFEシートを除去することによって、図3に示すような、固体高分子電解質膜1の両面に2つの触媒(アノード触媒層7a及びカソード触媒層7b)を形成し、触媒層−電解質接合体を得た。
【0051】
(燃料電池単セルの作製)
上記で得られた触媒層−電解質接合体を用いて、図1に示すような、燃料電池を構成する電極構造体(単セル)を作製した。具体的には、上記の触媒層−電解質接合体に、ガス拡散層8a、8bとして撥水処理を施したカーボンペーパー(TGP−H−120、東レ株式会社製)を触媒層7a、7b上に重ね合わせ、電解質成分のガラス転位点付近の温度でホットプレスし、両者を熱融着させた。触媒層7a、7bとガス拡散層8a、8bとから構成される燃料極2及び空気極3の側面にガスシール6を貼り付けた後、これらをカーボン製の燃料極側セパレータ4及び空気極側セパレータ5で挟み込み、燃料電池単セルを得た。
【0052】
<実施例2>
ストークス粒径が20nm以下のイオン伝導性物質の分散液の代わりにポリマー電解質の溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、燃料電池用触媒及び燃料電池単セルを作製した。
【0053】
<比較例1>
カーボンブラックの細孔内に電解質成分を導入するために、ポリマー電解質の溶液のみを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、燃料電池用触媒及び燃料電池単セルを作製した。
<比較例2>
カーボンブラックの細孔内に電解質成分を導入するために、ストークス粒径が20nm以下のイオン伝導性物質の分散液のみを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、燃料電池用触媒及び燃料電池単セルを作製した。
<比較例3>
ストークス粒径が50nm以上のイオン伝導性物質の分散液の代わりにポリマー電解質の溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、燃料電池用触媒及び燃料電池単セルを作製した。
【0054】
実施例1〜2及び比較例1〜3で得られた燃料電池単セルについて、発電特性(電流電圧特性)を評価した。発電特性は、燃料電池単セルを70℃に昇温した後、燃料電池単セルと同じ温度の露点まで加湿した水素及び空気を供給し、電流密度を0〜500mA/cmの範囲で変化させて、セル電圧を測定した。その結果を図4に示す。
図4に示されているように、実施例1〜2の燃料電池単セルのセル電圧は、比較例1〜3の燃料電池単セルのセル電圧に比べて高かった。
【0055】
また、実施例1では、ストークス粒径が20nm以下のイオン伝導性物質の分散液と、ストークス粒径が50nm以上のイオン伝導性物質の分散液との配合割合を質量比で2:1としたが、この質量比を種々変えて実験を行ったところ、ストークス粒径が20nm以下のイオン伝導性物質の分散液をストークス粒径が50nm以上のイオン伝導性物質の分散液よりも多い質量比で配合した場合にセル電圧が高くなる傾向にあった。これは、ストークス粒径が50nm以上のイオン伝導性物質の分散液が多くなると、一次細孔へのイオン伝導性物質の導入量が少なくなり、電極触媒にプロトンが十分供給されず、セル電圧が低下するためであると考えられる。また、ストークス粒径が50nm以上のイオン伝導性物質の分散液の配合は、少量でもセル電圧向上の効果が得られた。これは、比較的大きなストークス粒径のイオン伝導性物質は、少量でも粒子同士の連続性が高く、良好なプロトン伝導パスが二次細孔に形成されたためであると考えられる。
【0056】
次に、実施例1〜2及び比較例1〜3で得られた燃料電池単セルについて、高温低加湿条件下での発電特性(電流電圧特性)を評価した。高温低加湿条件での発電特性は、燃料電池単セルを80℃に昇温した後、露点65℃まで加湿した水素及び空気を供給し、電流密度を0〜500mA/cmの範囲で変化させて、セル電圧を測定した。その結果を図5に示す。
図5に示されているように、実施例1〜2の燃料電池単セルのセル電圧は、比較例1〜3の燃料電池単セルのセル電圧に比べて高かった。
【0057】
この結果を考察すると、実施例1〜2の燃料電池単セルでは、乾燥ガスに直接曝される二次細孔中に、保水性の高い無機粒子を含むイオン伝導性物質が導入されているため、高温低加湿条件でもプロトン伝導性の低下が小さく、良好なセル電圧を維持できると考えられる。これに対して、比較例3の燃料電池単セルでは、保水性の高い無機粒子を含むイオン伝導性物質が一次細孔中に主に導入されているため、乾燥しやすい二次細孔中の電解質成分の保水性が維持できずにプロトン伝導性が低下し、セル電圧の低下が大きくなったと考えられる。また、比較例2の燃料電池単セルでは、ストークス粒径が20nm以下のイオン伝導性物質のみが電解質成分であるため、二次細孔中に電解質成分が十分に導入されずにプロトン伝導性が低下し、セル電圧の低下が大きくなったと考えられる。
【0058】
以上の結果からわかるように、本発明によれば、導電性担体の一次細孔及び二次細孔に含有される電解質成分の量を最適化すると共に、導電性担体の二次細孔の保水性を高めることにより、様々な条件(特に、高温低加湿条件)下において、プロトンの供給、反応ガスの拡散及び反応生成水の排出の全てを円滑に行い得る燃料電池用触媒及びその製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、様々な条件(特に、高温低加湿条件)下においても性能低下が少ない燃料電池を提供することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 固体高分子電解質膜、2 燃料極、3 空気極、4 燃料極側セパレータ、5 空気極側セパレータ、6 ガスシール、7a アノード触媒層、7b カソード触媒層、8a、8b ガス拡散層、9 燃料流路、10 空気流路、11 負荷装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性担体に担持された電極触媒と、前記導電性担体の細孔内に含有されたイオン伝導性ポリマーとを有する燃料電池用触媒であって、
前記イオン伝導性ポリマーが、ポリマー電解質及び無機粒子からなり且つ動的散乱法によるストークス粒径が50nm以上のイオン伝導性物質と、ポリマー電解質及び無機粒子からなり且つ動的散乱法によるストークス粒径が20nm以下のイオン伝導性物質、又はポリマー電解質とからなることを特徴とする燃料電池用触媒。
【請求項2】
前記イオン伝導性物質における前記ポリマー電解質及び前記無機粒子の少なくとも一方は、プロトン伝導性を有することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用触媒。
【請求項3】
前記無機粒子は、ジルコニウム化合物、チタン化合物、セリウム化合物、ウラン化合物、スズ化合物、バナジウム化合物、アンチモン化合物、カルシウム・ヒドロキシアパタイト及び水和カルシウム・ヒドロキシアパタイトからなる群から選択される少なくとも1種の粒子であり、且つその動的散乱法によるストークス粒径が20nm未満であることを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料電池用触媒。
【請求項4】
電極触媒を担持した導電性担体を、動的散乱法によるストークス粒径が20nm以下のイオン伝導性物質の分散液又はポリマー電解質の溶液に含浸させた後、動的散乱法によるストークス粒径が50nm以上のイオン伝導性物質の分散液に含浸させることを特徴とする燃料電池用触媒の製造方法。
【請求項5】
電極触媒を担持した導電性担体を、動的散乱法によるストークス粒径が20nm以下のイオン伝導性物質の分散液又はポリマー電解質の溶液と攪拌混合した後、その混合物に動的散乱法によるストークス粒径が50nm以上のイオン伝導性物質の分散液を加えて攪拌混合することを特徴とする燃料電池用触媒の製造方法。
【請求項6】
動的散乱法によるストークス粒径が20nm以下のイオン伝導性物質の分散液又はポリマー電解質の溶液よりも少ない質量の動的散乱法によるストークス粒径が50nm以上のイオン伝導性物質の分散液を加えることを特徴とする請求項5に記載の燃料電池用触媒の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の燃料電池用触媒を有する燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−238411(P2010−238411A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−82886(P2009−82886)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】