説明

燃料電池用触媒層、燃料電池用ガス拡散電極、燃料電池用膜・電極接合体、及び燃料電池、並びにフィルム基材付き燃料電池用触媒層

【課題】 再現性にすぐれ、良好な成形性を有し、無加湿状態で高いプロトン伝導性を有するプロトン伝導性電解質及び触媒粒子で構成される燃料電池用触媒層、これを用いた、燃料電池用ガス拡散電極、燃料電池用膜・電極接合体、及び燃料電池、並びにフィルム基材付き燃料電池用触媒層を提供する。
【解決手段】 本発明による燃料電池用触媒層は、金属リン酸塩及びリン酸類で構成されたプロトン伝導性電解質と、触媒粒子で構成されている。金属リン酸塩は、下記式(1)で表される化合物からなる。
1−x ・・・(1)
(ここで、M,Nは金属元素、Xは0≦X<0.5であり、MがZr,Cs,Sn,Ti,Si,Ge,Pb,Ca,Mg及びAlの群から選ばれる1種であり、NがAl,In,B,Ga,Sc,Yb,Ce,La及びSbの群から選ばれる1種である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用触媒層、燃料電池用ガス拡散電極、燃料電池用膜・電極接合体、及び燃料電池、並びにフィルム基材付き燃料電池用触媒層に関し、特に、金属リン酸塩及びリン酸並びに触媒粒子を用いた、燃料電池用触媒層、燃料電池用ガス拡散電極、燃料電池用膜・電極接合体、及び燃料電池、並びにフィルム基材付き燃料電池用触媒層に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境意識の高まりとともに、COや汚染物質を排出しないクリーンエネルギーとして燃料電池が注目されている。その中でも、エネルギー効率が高く、温度領域が100℃前後と一般用に取り扱いやすい固体高分子電解質を用いたPEFC(固体高分子形燃料電池)の開発に注力がなされている。
【0003】
プロトンを伝導する高分子電解質としては、一般的にNafion(登録商標)で知られているパーフルオロスルホン酸等が用いられているが、プロトン伝導機構がHの状態でプロトンを伝導するVehicle(運搬)機構であるため、加湿機構を備える必要があり、このためシステムが煩雑になるという問題点がある。
【0004】
加湿の問題を改善した電解質としては、リン酸を含浸させたPBI(ポリベンズイミダゾール)膜が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、この膜は90%以上が液体リン酸で構成されているため、強酸であるリン酸がしみ出しやすいことや、液体シールを厳密に行わなければならないこと、さらにセルを作製する際にリン酸のしみ出しによりMEA(膜・電極接合体)の作製が困難であること、等の問題点がある。
【0005】
一方、無加湿状態でプロトン伝導性を有するプロトン伝導性電解質として金属リン酸塩が知られている(例えば、特許文献2参照。)。また、金属リン酸塩の一部に別種の金属をドープしたものも開示されている(例えば、特許文献3,4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2001−510931号公報
【特許文献2】特開2005−294245号公報
【特許文献3】特開2008−53224号公報
【特許文献4】特開2008−53225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記金属リン酸塩は、電解質膜として用いられる以外に、触媒層や触媒電極にも用いることができる。
しかしながら、上記金属リン酸塩の場合、合成過程で必要となる350℃以上の熱処理の際に、リン酸が消失するおそれがあるため、製造物の再現性が得られず、合成条件のコントロールが困難であるといった問題がある。また、触媒層の形成においては、金属リン酸塩が粉体であるため、成形が困難であるといった問題点がある。
【0008】
本発明の目的は、再現性にすぐれ、良好な成形性を有し、無加湿状態で高いプロトン伝導性を有するプロトン伝導性電解質及び触媒粒子で構成される燃料電池用触媒層、これを用いた、燃料電池用ガス拡散電極、燃料電池用膜・電極接合体、及び燃料電池、並びにフィルム基材付き燃料電池用触媒層を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、金属リン酸塩及びリン酸類で構成されたプロトン伝導性電解質と、触媒で構成されたことを特徴とする燃料電池用触媒層である。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、前記金属リン酸塩が、下記式(1)で表される化合物からなることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用触媒層である。
1−x ・・・(1)
(ここで、M,Nは金属元素、Xは0≦X<0.5であり、MがZr,Cs,Sn,Ti,Si,Ge,Pb,Ca,Mg及びAlの群から選ばれる1種であり、NがAl,In,B,Ga,Sc,Yb,Ce,La及びSbの群から選ばれる1種である。)
【0011】
また、請求項3に記載の発明は、前記MがSn又はCsであり、前記NがIn又はAlであり、前記M及び前記Nの原子数をそれぞれ[M]及び[N]、前記金属リン酸塩及びリン酸類のリンの原子数の合計を[P]として、[M],[N]及び[P]の関係が下記式(2)で表されることを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料電池用触媒層である。
2< [P]/([M]+[N]) ≦ 4 ・・・(2)
【0012】
また、請求項4に記載の発明は、バインダーを含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池用触媒層である。
【0013】
また、請求項5に記載の発明は、前記バインダーが、フッ素系又は炭化水素系ポリマーであることを特徴とする請求項4に記載の燃料電池用触媒層である。
【0014】
また、請求項6に記載の発明は、前記バインダーが、フッ素系又は炭化水素系イオノマーであることを特徴とする請求項4に記載の燃料電池用触媒層である。
【0015】
また、請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか1項に記載の燃料電池用触媒層が、50〜300℃で熱処理されたことを特徴とする燃料電池用触媒層である。
【0016】
また、請求項8に記載の発明は、請求項1〜7のいずれか1項に記載の燃料電池用触媒層が、ガス拡散層上に配置されて構成されたことを特徴とする燃料電池用ガス拡散電極である。
【0017】
また、請求項9に記載の発明は、請求項1〜7のいずれか1項に記載の燃料電池用触媒層が、電解質膜上に配置されて構成されたことを特徴とする燃料電池用膜・電極接合体である。
【0018】
また、請求項10に記載の発明は、請求項8に記載の燃料電池用ガス拡散電極が、電解質膜上に配置されて構成されたことを特徴とする燃料電池用膜・電極接合体である。
【0019】
また、請求項11に記載の発明は、前記電解質膜が、フッ素系又は炭化水素系電解質膜であることを特徴とする請求項9又は10に記載の燃料電池用膜・電極接合体である。
【0020】
また、請求項12に記載の発明は、前記電解質膜が、金属リン酸塩及びリン酸類で構成されたことを特徴とする請求項9又は10に記載の燃料電池用膜・電極接合体である。
【0021】
また、請求項13に記載の発明は、前記電解質膜が、リン酸ドープポリベンズイミダゾール膜で構成されたことを特徴とする請求項9又は10に記載の燃料電池用膜・電極接合体である。
【0022】
また、請求項14に記載の発明は、請求項9〜13のいずれか1項に記載の燃料電池用膜・電極接合体と、一対のセパレータとを備え、前記燃料電池用膜・電極接合体が、前記セパレータに挟持されたことを特徴とする燃料電池である。
【0023】
また、請求項15に記載の発明は、請求項1〜7のいずれか1項に記載の燃料電池用触媒層が、フィルム基材上に配置されて構成されたことを特徴とするフィルム基材付き燃料電池用触媒層である。
【0024】
また、請求項16に記載の発明は、前記フィルム基材が、金属箔、ポリイミドフィルム及びフッ素樹脂膜から選ばれる1種であることを特徴とする請求項15に記載のフィルム基材付き燃料電池用触媒層である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、再現性にすぐれ、良好な成形性を有し、無加湿状態で高いプロトン伝導性を有するプロトン伝導性電解質及び触媒粒子で構成される燃料電池用触媒層、これを用いた、燃料電池用ガス拡散電極、燃料電池用膜・電極接合体、及び燃料電池、並びにフィルム基材付き燃料電池用触媒層を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第2の実施の形態に係るフィルム基材付き燃料電池用触媒層の模式的断面図。
【図2】本発明の第3の実施の形態に係る燃料電池用ガス拡散電極の模式的断面図。
【図3】本発明の第4の実施の形態に係る燃料電池用膜・電極接合体の模式的断面図。
【図4】本発明の第5の実施の形態に係る燃料電池用膜・電極接合体の模式的断面図。
【図5】本発明の第6の実施の形態に係る燃料電池の模式的断面図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の第1乃至第6の実施の形態を説明する。以下に示す第1乃至第6の実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための材料や製造方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は、材料や製造方法等を下記のものに特定するものでない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0028】
[第1の実施の形態]
(燃料電池用触媒層)
本発明の第1の実施の形態に係る燃料電池用触媒層は、金属リン酸塩及びリン酸類で構成されたプロトン伝導性電解質と、触媒で構成される。
【0029】
本実施の形態において、リン酸類(以下、単に「リン酸」ともいう。)とは、オルトリン酸及びリン酸縮合体をいい、リン酸縮合体としては、ピロリン酸,トリリン酸,メタリン酸(ポリリン酸)等が挙げられる。
【0030】
本実施の形態に係る金属リン酸塩としては、オルトリン酸塩,ピロリン酸塩等の化合物を挙げることができる。具体的には、リン酸スズ,リン酸ジルコニウム,リン酸セシウム等を挙げることができる。好ましくは、スズやセシウム等の金属の一部がインジウム,アルミニウムやアンチモン等のドーピング金属元素で置換されたピロリン酸塩であるのが良い。
【0031】
本実施の形態において、金属リン酸塩は、下記式(1)で表される化合物で構成されるのが好ましい。
【0032】
1−x ・・・(1)
(ここで、M,Nは金属元素、Xは0≦X<0.5であり、MはZr,Cs,Sn,Ti,Si,Ge,Pb,Ca,Mg及びAlの群から選ばれる1種であり、Nはドーピング金属元素であり、Al,In,B,Ga,Sc,Yb,Ce,La及びSbの群から選ばれる1種である。)
【0033】
本実施の形態に係る金属リン酸塩は、1種以上の金属酸化物とリン酸を加熱して、熱処理することにより合成することができる。
【0034】
金属酸化物としては、リン酸と結晶性塩を生成可能なものであれば、特に限定されない。例えば、以下の金属元素からなる酸化物を挙げることができる。すなわち、Zr,Cs,Sn,Ti,Si,Ge,Pb,Ca,Mg及びAl等の金属元素である。
【0035】
上記金属を主金属として、主金属と異なる金属をドープしてもよい。ドープ金属を用いた場合、上記主金属のうちリン酸塩としての安定性の点から、Sn,Cs,Ti及びZrを用いるのが望ましい。
【0036】
ドープ金属としては、例えば、Snを主金属として用いた場合、主金属と固溶可能なものであることから、In,Alが好適である。主金属とドープ金属の配合比率は固溶限界により異なるがSnを主金属、Inをドープ金属として用いる場合、例えば、Sn:In=7:3〜9.8:0.2の範囲が望ましい。
【0037】
本実施の形態に係るプロトン伝導性電解質は、金属リン酸塩の金属元素及びドープされる金属元素の原子数をそれぞれ[M]及び[N]、金属リン酸塩のリンの原子数とリン酸のリンの原子数の合計を[P]とした場合、下記式(2)を満たすことが好ましい。
【0038】
2<[P]/([M]+[N])≦4 ・・・・・(2)
より好ましくは、下記式(3)を満たすことが好ましい。
【0039】
2.4≦[P]/([M]+[N])≦3.2 ・・・・・(3)
【0040】
上記式(2)を満たすことにより、高いプロトン伝導性が得られるとともに、成形性が良好なものとなる。
【0041】
(触媒)
本実施の形態における触媒は、燃料電池におけるアノード及びカソード反応を促進する物質であれば、特に限定されない。例えば、白金担持カーボン,白金−ルテニウム担持カーボン,白金−コバルト担持カーボン、金担持カーボン,銀担持カーボン,鉄−コバルト−ニッケル担持カーボンなどの金属担持カーボンや、白金ブラック,白金−ルテニウムブラック,白金−コバルトブラック,金ブラック,銀ブラックなどの金属微粒子,或いはモリブデンカーバイド等の無機物質を挙げることができる。このうち触媒活性の高い白金担持カーボン,リン酸被毒の少ないモリブデンカーバイド等が好適である。
【0042】
(バインダー)
本実施の形態における燃料電池用触媒層は、バインダーを含有してもよい。触媒層の形成には、上記金属リン酸塩と触媒のみでも成形可能であるが、これらにバインダーを添加してペースト化したものを塗工・成形することにより、機械強度にすぐれた触媒層を得ることができる。
【0043】
使用するバインダーは、例えば、pHが約1〜3程度における耐酸性、温度が約50〜300℃程度における耐熱性を有するものが好ましい。また、プロトン伝導性を有していても良い。
【0044】
このようなバインダーとして、フッ素系又は炭化水素系ポリマー,フッ素系又は炭化水素系イオノマーであることが好ましい。
【0045】
フッ素系ポリマーとしては、テトラフルオロエチレン(PTFE),ポリフッ化ビニリデン,四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体(FEP),四フッ化エチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)などのフッ素樹脂等を用いることができる。
【0046】
炭化水素系ポリマーとしては炭化水素系化合物を主骨格とする高分子であって、ポリイミド,ポリアミドイミド,ポリスチレンスルファイド,ポリベンズイミダゾール,ポリピリジン,ポリピリミジン,ポリイミダゾール,ポリベンゾチアゾール,ポリベンゾオキザソール,ポリオキサジアゾール,ポリキリノン,ポリキノキサリン,ポリチアジアゾール,ポリテトラザビレン,ポリオキサゾール,ポリチアゾール,ポリビニールピリジン及びポリビニールイミダゾール等が挙げられる。
【0047】
フッ素系イオノマーとしては、デュポン社のNafion(登録商標),旭硝子社のフレミオン(登録商標) ,旭化成社のアシプレックス(登録商標)のようなパーフルオロスルホン酸や、アクイヴィオン(登録商標)のようなスルホニルフロリドビニルエーテル(SFVE)−テトラフルオロエチレン共重合体等が挙げられる。
【0048】
炭化水素系イオノマーとしては、ポリアリーレンエーテルスルホン酸,ポリスチレンスルホン酸,シンジオタクチックポリスチレンスルホン酸,ポリフェニレンエーテルスルホン酸,変性ポリフェニレンエーテルスルホン酸,ポリエーテルスルホンスルホン酸,ポリエーテルエーテルケトンスルホン酸,及びポリフェニレンサルファイドスルホン酸等を挙げることができる。
【0049】
これらのバインダーの中でも、耐久性・結着性の点よりPTFE,ポリフッ化ビニリデン,パーフルオロスルホン酸,スルホニルフロリドビニルエーテル(SFVE)−テトラフルオロエチレン共重合体が好適に用いられる。
【0050】
(燃料電池用触媒層の製造方法)
本実施の形態に係る燃料電池用触媒層の製造方法は、金属リン酸塩とリン酸類からなるプロトン伝導性電解質を熱処理した後、触媒を混合して触媒ペーストを作製する工程と、触媒ペーストを転写基材等の上に塗布して成形した後、熱処理又は乾燥する工程とを備える。
以下、詳細に説明をする。
【0051】
(a)まず、金属リン酸塩を以下のようにして、作製する。
スズ等の主金属及びインジウム等のドーピング金属を含む、それぞれの金属酸化物、金属水酸化物、金属塩化物、或いは金属硝酸化物等と液体リン酸を所定のモル数で配合する。次いで、これに水を加えて、温度、約100〜300℃程度で、約1〜3時間程度スターラー等を用いて攪拌して分散させる。この分散液を坩堝に入れて、例えば、約300〜700℃程度の温度で焼成する。焼成する時間は、例えば、約1〜3時間程度である。上記高温状態ではリン酸が消失するおそれがあるため、液体リン酸のモル数は大目、例えば、モル当量の約1.1〜1.5倍程度加えるのが望ましい。
【0052】
焼成時におけるリン酸消失の問題を回避するため、液体リン酸に代えて固体リン酸を用いても良い。固体リン酸を用いる場合は、例えば、リン酸1水素アンモニウム、リン酸2水素アンモニウム等を用いて、スズ等の主金属及びインジウム等のドーピング金属を含む、それぞれの金属酸化物とを所定のモル数で混合する。金属酸化物は、主金属を含む酸化物とドーピング金属を含む酸化物が、主金属とドーピング金属のモル比を、例えば、約9:1〜1:1にして混合されたものがよい。これらを坩堝に投入し、例えば、約300〜650℃程度の温度で、約1〜3時間程度で焼成する。次いで、焼成で得られた生成物をめのう鉢で粉砕して、所望の金属リン酸塩を得ることができる。
固体リン酸を用いることにより、モル当量のリン酸が、金属酸化物と反応し、余剰物は高温により揮発するため余剰のリン酸が付着せず再現性の良い金属リン酸塩を得ることができる。
【0053】
また、共沈法で作製することも可能である。例えば、スズ等の主金属イオン及びインジウム等のドーピング金属イオンのモル比が、例えば、約9:1〜1:1の割合で混合されたリン酸溶液にリン酸を過剰に添加することにより所望の金属リン酸塩を沈殿させて得ることができる。共沈法によれば、所望の複数の金属イオンを含む溶液から複数種類の難溶性塩を同時に沈殿させることで、均一性の高い粉体を調製することができる。
【0054】
(b)次に、得られた金属リン酸塩をめのう鉢等で粉砕し、これに液体リン酸を混合し熱処理を行い、この熱処理を行った金属リン酸塩とリン酸の混合物に白金担持カーボン等の触媒とバインダーを所定量添加して触媒ペーストを作製する。
熱処理温度は、例えば、約50〜300℃程度、好ましくは約100〜250℃であるのがよい。熱処理温度が、約50℃程度より低いとリン酸中に含まれる水が除去できず、約300℃程度を超えるとリン酸が揮発するため好ましくない。また、熱処理時間は、例えば、約10分〜5時間程度、好ましくは約10分〜3時間程度である。
【0055】
なお、熱処理は、この工程(b)或いは後述の工程(c)のいずれかで行ってもよく、また、いずれの工程でも行わなくてもよい。
【0056】
金属リン酸塩とリン酸類の配合量は質量比で5:0.2〜5:2、好ましくは5:0.3〜5:1.2、より好ましくは5:0.8〜5:1、最も好ましくは5:0.9になるように調整する。
【0057】
バインダーを用いる場合、(触媒)対(金属リン酸塩及びバインダー)の質量比(固形分)は、1:2〜1:0.1、好ましくは、1:1〜1:0.25である。この場合、上記バインダーの溶液もしくはディスパージョンに溶剤を加えて作製してもよい。溶媒は、バインダーを凝集させないものが用いられる。具体的には水,エタノール,メタノール,1−ブタノール,t−ブタノール,プロパノール,N−メチルピロリドン,ジメチルアセトアミド等を挙げることができる。
【0058】
次いで、これらを分散機で混合・分散して触媒ペーストを得る。分散機としては、超音波分散機、ホモゲナイザー、遊星ボールミル等を用いることができる。
【0059】
(c)次に、上記触媒ペーストを、例えば、転写基材や電解質膜、電極等の上に塗工して、熱処理又は乾燥をすることにより、燃料電池用触媒層を作製することができる。
熱処理を行う場合、その温度は、例えば、約50〜300℃程度であるのがよい。熱処理温度が、約50〜300℃程度であるとリン酸中に含まれる水が除去でき、リン酸の揮発を防止できる。また、熱処理時間は、例えば、約10分〜5時間程度、好ましくは約10分〜3時間程度である。
【0060】
また、乾燥方法は、自然乾燥,遠赤乾燥,熱風乾燥,減圧乾燥、加熱等の方法が挙げられる。好ましくは、乾燥時間の観点から、及び塗工膜の面内ばらつき防止のため熱風乾燥又は減圧乾燥であるのがよい。
【0061】
上記金属リン酸塩と液体リン酸を熱処理することにより、リン酸に含まれる水を揮発させるとともに、金属リン酸塩上のオルトリン酸が縮合してピロリン酸が生成される。そして、このピロリン酸を介して金属リン酸塩が架橋される等により金属リン酸塩周辺にリン酸とのネットワークが形成され、電荷を有するリン酸が高密度に集積することにより良好なプロトン伝導性が発現するとともに、電解質の強度が増大するものと考えられる。
【0062】
本実施の形態によれば、再現性にすぐれ、良好な成形性を有し、無加湿状態で高いプロトン伝導性を有する燃料電池用触媒層を提供することができる。
【0063】
[第2の実施の形態]
(フィルム基材付き燃料電池用触媒層)
本発明の第2の実施の形態に係るフィルム基材付き燃料電池用触媒層11は、図1に示すように、第1の実施の形態に記載の燃料電池用触媒層2,3が、フィルム基材7上に配置されて構成される。
【0064】
フィルム基材7としては、シート状或いはフィルム状のものであれば、特に限定されないが、例えば、金属箔、高分子フィルム等が挙げられる。これらの他、アート紙,コート紙,軽量コート紙等の塗工紙,ノート用紙,コピー用紙等の非塗工紙等であってもよい。
【0065】
高分子フィルムとしては、ポリイミド,ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリパルバン酸アラミド,ポリアミド(ナイロン),ポリサルホン,ポリエーテルサルホン,ポリフェニレンサルファイド,ポリエーテル・エーテルケトン,ポリエーテルイミド,ポリアリレート,ポリエチレンナフタレート等が挙げられる。
【0066】
また、ポリエチレンテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE),FEP,PFA,PTFE等の耐熱性フッ素樹脂を用いることもできる。
【0067】
本実施の形態に係るフィルム基材付き触媒層11は、第1の実施の形態で示したのと同様の触媒ペーストをフィルム基材7上の一方の面に形成し、熱処理することにより触媒層2,3を形成して製造することができる。
【0068】
触媒層2,3の厚みは、電極基材の種類、電解質膜の厚み等を考慮して適宜決定すればよいが、通常約100〜3000μm程度、好ましくは、約300〜2000μm程度であるのがよい。
【0069】
触媒ペーストのフィルム基材7上への形成方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、ナイフコーター,バーコーター,スプレー,ディップコーター,スピンコーター,ロールコーター,ダイコーター,カーテンコーター,スクリーン印刷,圧延法等の一般的な方法を適用することができる。 厚塗りの場合は、圧延法を用いるのが好ましい。
【0070】
なお、上述の熱処理は行ってもよく、又は行わなくてもよい。好ましくは、熱処理するのがよい。熱処理をする場合、熱処理温度は、例えば、約50〜300℃程度であるのがよい。熱処理温度が、約50〜300℃程度であるとリン酸中に含まれる水が除去でき、リン酸の揮発を防止できる。また、熱処理時間は、例えば、約10分〜5時間程度、好ましくは約10分〜3時間程度である。
【0071】
本実施の形態によれば、再現性にすぐれ、良好な成形性を有し、無加湿状態で高いプロトン伝導性を有するフィルム基材付き燃料電池用触媒層11を提供することができる。
【0072】
[第3の実施の形態]
(燃料電池用ガス拡散電極)
本発明の第3の実施の形態に係る燃料電池用ガス拡散電極12は、図2に示すように、第1の実施の形態に記載の燃料電池用触媒層2,3が、ガス拡散層4,5上に配置されて構成される。
【0073】
ガス拡散層4,5としては、カーボンペーパー,カーボンクロス,カーボンフェルト等が用いられる。また、これらに撥水処理を行ったものを用いても良い。
また、ガス拡散層4,5に触媒ペーストを塗工した場合のしみこみを防ぐため平坦化層を設けたガス拡散層を用いることが望ましい。
【0074】
本実施の形態に係る燃料電池用ガス拡散電極12は、第1の実施の形態で示したのと同様の触媒ペーストをガス拡散層4,5上の一方の面に形成し、熱処理することにより触媒層2,3を形成して製造することができる。
【0075】
触媒ペーストの塗工量としては、例えば、白金担持カーボンを用いる場合、白金担持量として約0.1〜3.0mg/cm程度、好ましくは、約0.2〜1.0mg/cm程度であるのがよい。
【0076】
ガス拡散層4,5への触媒ペーストの塗工方法は、特に限定されるものではなく、例えば、スクリーン印刷,ブレードコート,ダイコート,スプレー塗工,ディスペンサー塗工,インクジェット塗工を用いることができる。このうち触媒ペーストの簡便さよりスクリーン印刷,ブレードコートを用いるのが好ましい。
【0077】
なお、上述の熱処理は行ってもよく、又は行わなくてもよい。好ましくは、熱処理するのがよい。熱処理をする場合、熱処理温度は、例えば、約50〜300℃程度であるのがよい。熱処理温度が、約50〜300℃程度であるとリン酸中に含まれる水が除去でき、リン酸の揮発を防止できる。また、熱処理時間は、例えば、約10分〜5時間程度、好ましくは約10分〜3時間程度である。
【0078】
また、本実施の形態に係る燃料電池用ガス拡散電極12は、第2の実施の形態におけるフィルム基材付き触媒層11を用いて、デカール法によりガス拡散層4,5上に触媒層2,3を形成し、フィルム基材7を剥離することにより燃料電池用膜・電極接合体13を製造することも可能である。
【0079】
本実施の形態によれば、再現性にすぐれ、良好な成形性を有し、無加湿状態で高いプロトン伝導性を有する燃料電池用ガス拡散電極12を提供することができる。
【0080】
[第4の実施の形態]
(燃料電池用膜・電極接合体)
本発明の第4の実施の形態に係る燃料電池用膜・電極接合体13は、図3に示すように、第1の実施の形態に記載の燃料電池用触媒層2,3が、電解質膜1上に配置されて構成される。
【0081】
電解質膜1としては、フッ素系又は炭化水素系電解質膜であるのがよい。また、上記した金属リン酸塩及びリン酸で構成されたプロトン伝導性電解質からなる電解質膜1であってもよい。また、リン酸ドープポリベンズイミダゾールからなる電解質膜1を用いることもできる。
【0082】
フッ素系電解質膜として、例えば、パーフルオロスルホン酸等からなる電解質膜を挙げることができる。炭化水素系電解質膜としては、ポリアリーレンエーテルスルホン酸,ポリスチレンスルホン酸,シンジオタクチックポリスチレンスルホン酸,ポリフェニレンエーテルスルホン酸,変性ポリフェニレンエーテルスルホン酸,ポリエーテルスルホンスルホン酸,ポリエーテルエーテルケトンスルホン酸,ポリフェニレンサルファイドスルホン酸等からなる電解質膜を挙げることができる。
【0083】
好ましくは、触媒層2,3に用いる金属リン酸塩複合体との密着性のよい塩基性ポリマーと強酸を含んでなるリン酸ドープポリベンズイミダゾール膜であるのがよい。
【0084】
塩基性ポリマーとしては、この分野で公知のものを広く使用でき、好ましい塩基性ポリマーとして、例えば、ポリベンズイミダゾール,ポリピリジン,ポリピリミジン,ポリイミダゾール,ポリベンゾチアゾール,ポリベンゾオキザソール,ポリオキサジアゾール,ポリキリノン,ポリキノキサリン,ポリチアジアゾール,ポリテトラザビレン,ポリオキサゾール,ポリチアゾール,ポリビニールピリジン及びポリビニールイミダゾール等が挙げられる。これらの中でも、ポリベンズイミダゾールがより好ましい。
【0085】
塩基性ポリマーの質量平均分子量は、機械的強度、粘度等の高分子特性、成形の容易性等の観点から、約1,000〜1000,000程度の範囲が好ましく、約200,000〜500,000程度の範囲がより好ましい。塩基性ポリマーの質量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)等の公知の手法により測定可能である。
【0086】
強酸としては、リン酸、硫酸等の無機酸が挙げられる。なお、強酸としてリン酸を使用する場合には、イオン伝導度及び製造容易性の見地から、濃度が約85〜122%(HPO)程度であることが好ましく、約95〜110%(HPO)程度であることがより好ましい。
【0087】
強酸の質量は、塩基性ポリマー及び強酸の総質量の約5〜99.9%程度であることが好ましく、約30〜75%程度であることがより好ましい。強酸の質量が、上記範囲であると、イオン伝導性が一段と良好になり、電解質膜1として優れた機能が発揮される。
【0088】
本実施の形態に係る燃料電池用膜・電極接合体13は、第1の実施の形態で示したのと同様の触媒ペーストを電解質膜1上の両面に形成し、熱処理することにより触媒層2,3を形成して製造することができる。
【0089】
触媒ペーストの塗工量としては、例えば、白金担持カーボンを用いる場合、白金担持量として約0.1〜3.0mg/cm程度、好ましくは、約0.2〜1.0mg/cm程度であるのがよい。
【0090】
電解質膜1上への触媒ペーストの塗工方法は、特に限定されるものではなく、例えば、スクリーン印刷,ブレードコート,ダイコート,スプレー塗工,ディスペンサー塗工,インクジェット塗工を用いることができる。このうち触媒ペーストの簡便さよりスクリーン印刷,ブレードコートを用いるのが好ましい。
【0091】
なお、上述の熱処理は行ってもよく、又は行わなくてもよい。好ましくは、熱処理するのがよい。熱処理をする場合、熱処理温度は、例えば、約50〜300℃程度であるのがよい。熱処理温度が、約50〜300℃程度であるとリン酸中に含まれる水が除去でき、リン酸の揮発を防止できる。また、熱処理時間は、例えば、約10分〜5時間程度、好ましくは約10分〜3時間程度である。
【0092】
また、本実施の形態に係る燃料電池用膜・電極接合体13は、第2の実施の形態におけるフィルム基材付き触媒層11を用いて、デカール法により電解質膜1上に触媒層2,3を形成し、フィルム基材7を剥離することにより燃料電池用膜・電極接合体13を製造することも可能である。
【0093】
本実施の形態によれば、再現性にすぐれ、良好な成形性を有し、無加湿状態で高いプロトン伝導性を有する燃料電池用膜・電極接合体13を提供することができる。
【0094】
[第5の実施の形態]
(燃料電池用膜・電極接合体)
本発明の第5の実施の形態に係る燃料電池用膜・電極接合体14は、図4に示すように、電解質膜1の両面に、触媒層2(3)及びガス拡散層4(5)がこの順に接合して配置されて構成される。
【0095】
電解質膜1としては、第4の実施の形態における電解質膜1を用いればよい。
【0096】
本実施の形態に係る燃料電池用膜・電極接合体14は、第3の実施の形態で示したのと同様の燃料電池用ガス拡散電極12を触媒層2,3が第4の実施の形態で示したのと同様の電解質膜1に接するように形成した後、電解質膜1の両側にホットプレス等の熱プレス処理をすることにより製造することができる。なお、この熱プレス処理には、各種のプレス機を用いることができる。
【0097】
熱プレスする際の加圧レベルは、限定的ではないが、例えば、通常約0.5〜10MPa程度、好ましくは、1〜10MPa程度に加圧すればよい。
【0098】
熱プレスする際の加熱温度は、限定的ではないが、例えば、通常約30〜200℃程度、好ましくは、50〜170℃程度に加熱すればよい。
【0099】
また、プレス時間は、加熱温度に応じて適宜決定されるが、例えば、通常約10〜240秒程度、好ましくは、30〜150秒程度とすればよい。
【0100】
電解質膜ペーストは、第4の実施の形態で示したのと同様の電解質膜の組成物を超音波分散機、ホモゲナイザー、遊星ボールミル等の分散機を用いて混合・分散して得ることができる。
【0101】
また、本実施の形態に係る燃料電池用膜・電極接合体14は、第4の実施の形態における燃料電池用膜・電極接合体13の両面に、第3の実施の形態で示したのと同様のガス拡散層4,5を圧着により形成して製造してもよい。
【0102】
本実施の形態によれば、再現性にすぐれ、良好な成形性を有し、無加湿状態で高いプロトン伝導性を有する燃料電池用膜・電極接合体14を提供することができる。
【0103】
[第6の実施の形態]
(燃料電池)
本発明の第6の実施の形態に係る燃料電池10は、図5に示すように、第5の実施の形態で示した図4と同様の膜・電極接合体14と、一対のセパレータ22,23とを備える。膜・電極接合体14は、セパレータ22,23に挟持されている。その他の構成は、第5の実施の形態と同様であるので説明は省略する。
【0104】
(セパレータ)
セパレータ22は、酸化剤ガスをガス拡散層4に供給するためのものであり、酸化剤ガスを流通するための酸化剤ガス流路24を有する。一方、セパレータ23は、燃料をガス拡散層5に供給するためのものであり、燃料を流通するための燃料流路25を有する。
【0105】
セパレータ22,23の材質としては、燃料電池10内の環境においても安定な導電性を有するものであればよい。一般的には、カーボン板に流路を形成したものが用いられる。また、セパレータ22,23は、ステンレススチール等の金属により構成し、その金属の表面にクロム,白金族金属又はその酸化物,導電性ポリマーなどの導電性材料からなる被膜を形成したものであってもよい。
【0106】
なお、セパレータ22,23は、燃料電池10を複数個積層して構成した燃料電池に用いる場合、集電体としての機能を有することができる。
【0107】
(動作原理)
燃料流路25に水素ガスあるいはメタノールなどの水素供給可能な燃料が、アノード側ガス拡散層5を介してアノード側触媒層3に供給され、この燃料からプロトン(H)と電子(e)が生成される。生成されたプロトンはプロトン伝導性電解質膜1によってカソード側触媒層2側へと搬送される。一方、酸化剤ガス流路24には空気あるいは酸素ガス等の酸化剤ガスがカソード側ガス拡散層4を介してカソード側触媒層2に供給され、プロトン伝導性電解質膜1によって搬送されてきたプロトンと外部回路6からくる電子及び酸化剤ガスとが反応して水が生成される。このようにして燃料電池として機能する。
【0108】
本実施の形態に係る燃料電池10の製造方法は、セパレータ22,23を膜・電極接合体14に形成する方法が第5の実施の形態における製造方法と異なる点であり、他は第5の実施の形態と同様であるので、重複した説明は省略する。
【0109】
本実施の形態に係る燃料電池10の製造方法において、酸化剤ガス流路24が形成されたセパレータ22を酸化剤ガス流路24がカソード側ガス拡散層4側に接するように配置し、燃料流路25が形成されたセパレータ23を燃料流路25がアノード側ガス拡散層5側に接するように配置することにより、図5に示す燃料電池10を製造することができる。
【0110】
本実施の形態によれば、再現性にすぐれ、良好な成形性を有し、無加湿状態で高いプロトン伝導性を有する燃料電池用触媒層2,3を用いるので、安定性に優れ、高性能な燃料電池10を提供することができる。
【実施例】
【0111】
以下において、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更実施可能である。
【0112】
[実施例1]
(ガス拡散電極)
まず、金属リン酸塩を以下のようにして作製した。酸化スズ(SnO:Nano Tec社製)13.56g(0.09モル)及び酸化インジウム(In:ナカライテスク社製)1.40g(0.0050モル)にリン酸水素2アンモニウム(ナカライテスク社製)27.99g(0.212モル)を加え、これらを薬さじで混合した。
【0113】
得られた混合物を坩堝に投入し、約650℃で、約2時間程度焼成し、焼結後得られた生成物をめのうばちで粉砕し金属リン酸塩Sn0.9In0.1を得た。
【0114】
次に、金属リン酸塩5gに85%リン酸水溶液0.9g、白金担持カーボン(TEC10E50E、田中貴金属社製)10g、水50g、ビーズ4gを用いて遊星ボールミルにより約24時間混合した。これをブレードコーターを用いてガス拡散層4(5)(SGL34BC、SGLカーボン社製)に白金担持量が約0.5mg/cmとなるように塗工し、約140℃で、約30分間乾燥して触媒層2(3)を形成しガス拡散電極12を得た。
【0115】
(電解質膜)
次に、電解質膜1として、リン酸ドープポリベンズイミダゾール膜を作製した。
まず、90gのN,N’−ジメチルアセトアミドに、10gのPBI(質量平均分子量:約70,000)を加え、10質量%のPBI溶液を作製した。室温にて、200mLビーカー中の85%リン酸90gに10質量%PBI溶液100gを撹拌しながら徐々に添加した。得られた混合物を、170℃の温度で2〜3日乾燥して、残存しているN,N’−ジメチルアセトアミドを除去した。続いて、PBI及びリン酸を含む固形物を、ジェットミルにて粉体状にした。粒径分布測定装置を用いて、得られた粉体の体積平均粒径を測定したところ、50μmであった。
【0116】
次に、上記工程によって得られたPBI及びリン酸を含む粉体15gとPTFE3gを室温で湿式混合した。得られた混合物を、圧延機を用いて圧延し、厚みが320μmのシートを作製した。このシートを120℃の温度で2時間乾燥して、残存している溶媒を除去することにより、電解質膜1を得た。
【0117】
次に、得られた電解質膜1の両面にガス拡散電極12を接合して、JARI標準セルにセル組みした。
なお、JARI標準セルとは、(財)日本自動車研究所(JARI:Japan Automobile Research Institute)において、PEFCの基礎研究およびPEFC用材料(膜、電極触媒、構成部品等)の評価試験用として開発されたセルである。
【0118】
[実施例2]
実施例1と同様に作製した金属リン酸塩5gに、85%リン酸水溶液0.9g、白金担持カーボン(TEC10E50E、田中貴金属社製)10g、60%PTFEディスパージョン(ポリフロンD1-E:ダイキン工業社製)1g、水50g、ビーズ4gを用いて遊星ボールミルにより約24時間混合した。これをスクリーン印刷を用いて、実施例1と同様のリン酸ドープポリベンズイミダゾール膜(10cm×10cm角)の両面に白金担持量0.5mg/cm2となるよう触媒層面積5cm×5cmに塗工し、約120℃で、約30分間乾燥して触媒層2(3)を形成し膜・電極接合体13を作製した。
【0119】
次に、得られた膜・電極接合体13の両面にガス拡散層4(5)(SGL34BC、SGLカーボン社製)を接合して、JARI標準セルにセル組みした。
【0120】
[実施例3]
実施例1と同様に作製した金属リン酸塩5gに、85%リン酸水溶液0.9g、白金担持カーボン(TEC10E50E、田中貴金属社製)10g、水50g、ビーズ4gを用いて遊星ボールミルにより約24時間混合した。これをブレードコーターを用いて、50μmカプトンフィルムに白金担持量0.5mg/cmとなるように塗工し、約160℃で、約30分間乾燥して触媒層2(3)を形成しフィルム基材付き触媒層11を作製した。
【0121】
次に、得られたフィルム基材付き触媒層11の5cm×5cm角を、実施例1と同様のリン酸ドープポリベンズイミダゾール膜(10cm×10cm角)の両面に転写し、フィルム基材を剥離し、膜・電極接合体13を作成した。
【0122】
次に、得られた膜・電極接合体13の両面にガス拡散層4,5(SGL34BC、SGLカーボン社製)を接合して、JARI標準セルにセル組みした。
【0123】
[実施例4]
実施例1と同様に作製した金属リン酸塩5gに、85%リン酸塩0.9gを混合し160℃、30分熱処理した金属リン酸塩複合体5gを、白金担持カーボンTEC10E50E10g、アクイヴィオンD83-20B( ソルベイソレクシス社製、スルホニルフロリドビニルエーテル‐テトラフルオロエチレン共重合体20%水溶液)16gにビーズを4g加え、遊星ボールミルで24時間混合し触媒ペーストを得た。これをカーボンペーパーSGL35BC(SGLカーボン社製)にブレードコーターを用いて白金担持量が0.5mg/cmになるよう塗工し、95℃、20分間乾燥して触媒層2(3)を形成しガス拡散電極12を作製した。
【0124】
また、金属リン酸塩5g、85%リン酸1.8g、アクイヴィオンD83-20B( ソルベイソレクシス社製、スルホニルフロリドビニルエーテル‐テトラフルオロエチレン共重合体20%水溶液)10g、水5gを加え遊星ボールミルで24時間混合して作製した電解質膜ペーストを離型PETフィルム上にブレードコーターで膜厚100μmになるよう塗工・剥離、95℃、30分乾燥後剥離し電解質膜とした。
この電解質膜の両面にガス拡散電極12を配置し、4MPa、150℃の条件で120秒ホットプレスすることにより、膜・電極接合体14を作製した。
【0125】
[実施例5]
実施例1と同様に作製した金属リン酸塩5gに、85%リン酸塩0.9gを混合し、200℃、2時間熱処理した金属リン酸塩複合体5gを、白金担持カーボンTEC10E50E10g、TPSポリマー( アドベント社製、ポリピリジン)の3%N-メチルピロリドン溶液10gにビーズを4g加え、遊星ボールミルで24時間混合し触媒ペーストを得た。これをカーボンペーパーSGL35BC(SGLカーボン社製)にブレードコーターを用いて白金担持量が0.5mg/cmになるよう塗工し、95℃、120分間乾燥してガス拡散電極12を形成した。
【0126】
上記と同様に予め熱処理した金属リン酸塩複合体5gとPMポリマー( アドベント社製)の3%N-メチルピロリドン溶液17gを遊星ボールミルで24時間分散して作製した電解質膜ペーストを厚み100μmとなるように離型PET上に塗工し、96℃、120分間乾燥後剥離して電解質膜1を形成した。この膜の両面に上記のガス拡散電極12を両面に配置し4MPa、150℃の条件で120秒ホットプレスすることにより、膜・電極接合体14を得た。
【0127】
[比較例1]
実施例1と同様の金属リン酸塩5gに、白金担持カーボン(TEC10E50E、田中貴金属社製)10g、60%PTFEディスパージョン(ポリフロンD1-E:ダイキン工業社製)1g、水100gを加えて、分散機で分散し触媒ペーストを作製した。これをブレードコーターを用いてガス拡散層(SGL34BC、SGLカーボン社製)に白金担持量が約0.5mg/cm2となるように塗工し、約140℃で、約30分間乾燥して触媒層2(3)を形成し、ガス拡散電極12を得た。
【0128】
次に、実施例1と同様に作製した電解質膜1の両面にガス拡散電極12を接合して、JARI標準セルにセル組みした。
【0129】
[比較例2]
比較例1と同様の触媒ペーストをスクリーン印刷を用いて、実施例1と同様のリン酸ドープポリベンズイミダゾール膜(10cm×10cm角)の両面に白金担持量0.5mg/cm2となるよう触媒層面積5cm×5cmに塗工し、約120℃で、約30分間乾燥して触媒層2(3)を形成し膜・電極接合体13を作成した。
【0130】
次に、得られた膜・電極接合体13の両面にガス拡散層4,5(SGL34BC、SGLカーボン社製)を接合して、JARI標準セルにセル組みした。
【0131】
[比較例3]
比較例1と同様の触媒ペーストをブレードコーターを用いて、50μmカプトンフィルムに白金担持量0.5mg/cmとなるように塗工し、約160℃で、約30分間乾燥して触媒層2(3)を形成しフィルム基材付き触媒層11を作製した。
【0132】
次に、得られたフィルム基材付き触媒層11の5cm×5cm角を、実施例1と同様のリン酸ドープポリベンズイミダゾール膜(10cm×10cm角)の両面に転写し、膜・電極接合体13を作成した。
【0133】
次に、得られた膜・電極接合体13の両面にガス拡散層4,5(SGL34BC、SGLカーボン社製)を接合して、JARI標準セルにセル組みした。
【0134】
(起電力の測定)
実施例1〜5、比較例1〜3で得られた各セルについて、温度;120℃、ガス供給;(アノード側)無加湿水素,75ml/min、(カソード側)無加湿空気,315ml/minの条件の下で、I−V測定を行い、300mA/cmにおける各セルの起電力を調べた。結果を表1に示した。
【0135】
【表1】

【0136】
表1に示すように、本発明の範囲内にある実施例1〜5では、300mA/cm2において良好な起電力を示した。これに対して、比較例1〜3では、実施例に比べて極端に低い起電力を示した。
【0137】
以上のことから、本発明による燃料電池用触媒層は、再現性にすぐれ、良好な成形性を有し、無加湿状態で高いプロトン伝導性を有することがわかった。
【符号の説明】
【0138】
1・・・電解質膜
2・・・燃料電池用触媒層(カソード側)
3・・・燃料電池用触媒層(アノード側)
4・・・ガス拡散層(カソード側)
5・・・ガス拡散層(アノード側)
6・・・外部回路
7・・・フィルム基材
10・・・燃料電池
11・・・フィルム基材付き燃料電池用触媒層
12・・・燃料電池用ガス拡散電極
13,14・・・燃料電池用膜・電極接合体
22・・・セパレータ(カソード側)
23・・・セパレータ(アノード側)
24・・・酸化剤ガス流路
25・・・燃料流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属リン酸塩及びリン酸類で構成されたプロトン伝導性電解質と、触媒で構成されたことを特徴とする燃料電池用触媒層。
【請求項2】
前記金属リン酸塩が、下記式(1)で表される化合物からなることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用触媒層。
1−x ・・・(1)
(ここで、M,Nは金属元素、Xは0≦X<0.5であり、MがZr,Cs,Sn,Ti,Si,Ge,Pb,Ca,Mg及びAlの群から選ばれる1種であり、NがAl,In,B,Ga,Sc,Yb,Ce,La及びSbの群から選ばれる1種である。)
【請求項3】
前記MがSn又はCsであり、前記NがIn又はAlであり、前記M及び前記Nの原子数をそれぞれ[M]及び[N]、前記金属リン酸塩及びリン酸類のリンの原子数の合計を[P]として、[M],[N]及び[P]の関係が下記式(2)で表されることを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料電池用触媒層。
2< [P]/([M]+[N]) ≦ 4 ・・・(2)
【請求項4】
バインダーを含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池用触媒層。
【請求項5】
前記バインダーが、フッ素系又は炭化水素系ポリマーであることを特徴とする請求項4に記載の燃料電池用触媒層。
【請求項6】
前記バインダーが、フッ素系又は炭化水素系イオノマーであることを特徴とする請求項4に記載の燃料電池用触媒層。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の燃料電池用触媒層が、50〜300℃で熱処理されたことを特徴とする燃料電池用触媒層。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の燃料電池用触媒層が、ガス拡散層上に配置されて構成されたことを特徴とする燃料電池用ガス拡散電極。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の燃料電池用触媒層が、電解質膜上に配置されて構成されたことを特徴とする燃料電池用膜・電極接合体。
【請求項10】
請求項8に記載の燃料電池用ガス拡散電極が、電解質膜上に配置されて構成されたことを特徴とする燃料電池用膜・電極接合体。
【請求項11】
前記電解質膜が、フッ素系又は炭化水素系電解質膜であることを特徴とする請求項9又は10に記載の燃料電池用膜・電極接合体。
【請求項12】
前記電解質膜が、金属リン酸塩及びリン酸類で構成されたことを特徴とする請求項9又は10に記載の燃料電池用膜・電極接合体。
【請求項13】
前記電解質膜が、リン酸ドープポリベンズイミダゾール膜で構成されたことを特徴とする請求項9又は10に記載の燃料電池用膜・電極接合体。
【請求項14】
請求項9〜13のいずれか1項に記載の燃料電池用膜・電極接合体と、
一対のセパレータと
を備え、前記燃料電池用膜・電極接合体が、前記セパレータに挟持されたことを特徴とする燃料電池。
【請求項15】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の燃料電池用触媒層が、フィルム基材上に配置されて構成されたことを特徴とするフィルム基材付き燃料電池用触媒層。
【請求項16】
前記フィルム基材が、金属箔、ポリイミドフィルム及びフッ素樹脂膜から選ばれる1種であることを特徴とする請求項15に記載のフィルム基材付き燃料電池用触媒層。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−245019(P2010−245019A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−198317(P2009−198317)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】