説明

燃料電池用触媒担持体およびその製造方法

【課題】担持した金属粒子の触媒機能を有効に発揮することのできる燃料電池用触媒担持体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】電子顕微鏡により測定した算術平均粒子径dnとディスクセントリフュージ装置(DCF)により測定したストークスモード径Dstとの比、Dst/dnが2以下の粒子性状を有し、X線回折法により測定した結晶子格子面間隔(d002 )が0.350nm以下の結晶性状を備え、その結晶構造が同心多面体の入れ子構造である炭素球状体からなることを特徴とする燃料電池用触媒担持体。その製造方法は、炭化水素ガスを水素ガスとともに熱分解炉の予熱帯域に導入し、引き続く加熱帯域において炭化水素ガス濃度を0.5〜40vol%、レイノルズ数を1〜20、温度を1100〜1300℃に設定して熱分解し、得られた炭素球状体を非酸化性雰囲気中で2000℃以上の温度で熱処理することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固体高分子型燃料電池やリン酸型燃料電池などの燃料電池の触媒電極を構成する触媒担持体、および、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池は、スルホン酸基を有するフッ素樹脂系イオン交換膜のような高分子イオン交換膜からなる電解質膜と、その両面に白金やルテニウムなどの触媒を担持させた触媒電極と、それぞれの電極に水素などの燃料ガスあるいは酸素や空気などの酸化剤ガスを供給する反応ガス供給用の流路となる溝を設けたセパレータなどからなる単セルを数十から数百層に積層したスタック、およびその外側に設けた2つの集電体などから構成されている。
【0003】
単セルの構造は、図1に示すようにフッ素系樹脂のイオン交換膜からなる固体高分子の電解質膜1を挟んで形成した一対の電極、すなわちアノード2およびカソード3と、これを両側から挟持するガス不透過性の緻密質材料からなるセパレータ8、ガス供給用のガス流路となる溝9などから構成されている。そして、アノード2は触媒を担持したアノード側触媒電極4とアノード側ガス拡散層6、カソード3は触媒を担持したカソード側触媒電極5とカソード側ガス拡散層7とから構成されている。なお、10はシール材である。
【0004】
そして、溝9から供給された燃料ガス(水素ガス)はアノード側ガス拡散層6を拡散して、触媒を担持したアノード側触媒電極4においてイオン化してH+ となり、電解質膜1を透過していく。一方、溝9から供給された酸化剤ガス(酸素ガス)はカソード側ガス拡散層7を拡散して、触媒を担持したカソード側触媒電極5においてH+ と電気化学的に反応して、下記の反応によって生じる電子(e- )の流れを電気エネルギーとして外部に取り出すものである。
【0005】
アノード;H2 →2H+ +2e-
カソード;1/2O2 +2H+ +2e- →H2
全反応 ;H2 +1/2O2 →H2
【0006】
燃料電池を構成するこれらの各部材には導電性や耐久性が要求されるため、触媒電極やセパレータには炭素系の材料が有用されており、触媒担持体としては、特許文献1に示されているようにカーボンブラック、黒鉛化カーボンブラック、グラファイト、活性炭などの炭素粉末が使用されている。触媒層の形成は、例えば、白金、ルテニウム、それらの合金などの触媒粉末と炭素粉末をペースト状にしてシートに塗布する方法などで行われている。
【0007】
一般に炭素系材料は結晶子の格子欠陥を起点として腐食反応が進行するため、耐食性を向上させるためには結晶構造を黒鉛の結晶構造に近づけるように結晶を十分に発達させ、完全な格子配列とすることが望ましいことになる。
【0008】
したがって、活性炭は比表面積が著しく大きいので触媒担持体として広く使用されているが、結晶構造が非晶質であるため耐酸化性や耐食性が十分でなく、燃料電池の触媒電極に使用する触媒担持体に用いるには耐久性の面で問題がある。
【0009】
また、天然黒鉛に代表される黒鉛粉末は結晶構造が高度に発達しているので、酸化や腐食に対して安定性が高く、長期使用に耐える材質性状を備えている。しかしながら、白金やルテニウムなどの触媒金属粒子は主に黒鉛構造のエッジ面部分に担持され、ベーサル面には担持され難いため、触媒金属粒子はエッジ面に集中的に担持され易い傾向がある。そして、触媒金属粒子がエッジ面に集中的に担持されると、発電時すなわち電気化学反応を継続している間に触媒金属粒子が凝集または焼結して、触媒金属粒子の表面積が低下するため、触媒活性が低下する難点がある。
【0010】
そこで、触媒担持体の炭素粉末としてカーボンブラックが有用されており、例えば特許文献2には燃料電池の触媒担持体として使用される高い活性を有するカーボンブラックとして、H含量、芳香族炭化水素のH原子および黒鉛化炭化水素のH原子に対する非共役H原子のピーク積分比を特定したファーネスカーボンブラックが提案されている。
【0011】
また、特許文献3には電極における反応ガスの触媒への拡散性を向上させるのに適した細孔構造を有し触媒用担体として好適なカーボンブラックとして、DBP吸油量、比表面積、一次粒子径が特定範囲にあり、半径10〜30nmである細孔の合計容積が0.40cm3 /g以上であるファーネスブラックが提案されている。
【0012】
カーボンブラックは結晶構造が非晶質(アモルファス)であるので結晶のエッジ面がランダムに表面に出ているため、触媒金属粒子を均一に分散した状態で担持できるメリットがある。しかし、結晶構造が非晶質なため耐酸化性や耐食性が十分でないという欠点があり、長期間に亘って安定に使用することができず、燃料電池の触媒電極に使用する触媒担持体に用いるには耐久性の面で問題がある。
【0013】
そこで、高温下に熱処理して結晶構造を改善したカーボンブラックが提案されており、例えば特許文献4には一次粒径100nm以下でX線結晶子面間隔C0 が0.680nm未満のカーボンブラックを用いた固体高分子型燃料電池用触媒が開示されている。
【0014】
また、特許文献5には燃料電池用触媒担体として、DBP吸収量、遠心沈降粒子径のモード径(DCPモード径)と該モード径の半値幅(ΔD50)の比が特定範囲にあるカーボンブラックを加熱して黒鉛化させたグラファイト粉末が開示されている。
【0015】
なお、特許文献6には黒鉛結晶構造が高度に発達したカーボンナノホーンが球状に集合したカーボンナノホーン集合体を触媒担持体とする燃料電池用触媒電極が提案されているが、カーボンナノホーンは生産性が極めて低いため、高価になるという欠点がある。
【特許文献1】特開平11−250918号公報
【特許文献2】特開2001−123091号公報
【特許文献3】特開2003−201417号公報
【特許文献4】国際公開WO01/92151A1
【特許文献5】特開2004−099355号公報
【特許文献6】特開2004−152489号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、カーボンブラックの粒子は、粒子径が数十nm程度の微細な一次粒子が不規則な鎖状に枝分かれして三次元方向に融着、結合したストラクチャーと呼ばれる複雑な凝集体(二次粒子)を形成した構造からなり、そして一次粒子が結合したくびれ部分(ネック部)に担持された触媒金属粒子は凝集し易く、触媒表面が有効に機能し難い問題点がある。
【0017】
したがって、黒鉛結晶構造が十分に発達しているとともにストラクチャーが小さく、触媒金属粒子の凝集を避けるために黒鉛結晶のエッジ面が適度に分散しており、金属粒子の触媒機能が有効に作用する単一粒子形状の炭素材料が望まれている。
【0018】
そこで、本発明者らは燃料電池の触媒担持体として好適な単一粒子形状の炭素材料の開発について鋭意研究を行った結果、本発明の開発に至った。
【0019】
すなわち、本発明は、黒鉛の結晶構造が十分に発達しているため耐酸化性や耐食性が高く、また、黒鉛結晶のエッジ面が適度な間隔で分布しているので触媒金属粒子の凝集が防止され、かつ、形状が単一球体であるので担持した金属粒子の触媒機能を有効に発揮することのできる燃料電池用触媒担持体およびその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記の目的を達成するための本発明による燃料電池用触媒担持体は、電子顕微鏡により測定した算術平均粒子径dnとディスクセントリフュージ装置(DCF)により測定したストークスモード径Dstとの比、Dst/dnが2以下の粒子性状を有し、X線回折法により測定した結晶子格子面間隔(d002 )が0.350nm以下の結晶性状を備え、その結晶構造が同心多面体の入れ子構造である炭素球状体からなることを構成上の特徴とする。
【0021】
また、上記の燃料電池用触媒担持体の製造方法は、炭化水素ガスをキャリアガスとともに熱分解炉の予熱帯域に導入し、引き続く加熱帯域において炭化水素ガス濃度を0.5〜40vol%、レイノルズ数を1〜20、温度を1100〜1300℃に設定して熱分解し、得られた炭素球状体を非酸化性雰囲気中で2000℃以上の温度で熱処理することを構成上の特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、粒子間の凝集が極めて少なく実質的に単一の粒子形状を有しており、また黒鉛の結晶構造が十分に発達しているので耐酸化性や耐食性が高く、黒鉛結晶のエッジ面も適度な間隔で分布しているため触媒金属粒子の凝集や焼結を抑制することができ、優れた触媒機能を発揮する燃料電池用触媒担持体およびその製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の燃料電池用触媒担持体を形成する炭素球状体は、電子顕微鏡により測定した算術平均粒子径dnとディスクセントリフュージ装置(DCF)により測定したストークスモード径Dstとの比、Dst/dnの値を2以下とすることを第1の特徴とする。炭素球状体は単一粒子の形態であることが望ましいが、粒子の単一性を定量的に示す一般的方法は未だないので、本発明においては本出願人が先に提案(特開2004−211012号公報)した手法に準じて単一粒子形状の程度を定義した。
【0024】
ストークスモード径Dstは炭素粒子が凝集した凝集構造体の大きさを表す指標となるもので、この値が大きくなると凝集した炭素粒子の個数が多く、凝集体径が大きくなる。したがって、Dstとdnとの比は単一の炭素粒子に対する、炭素粒子が融着結合した凝集体の大きさを示すことになる。そして、炭素粒子の凝集が全くなく単一粒子のみとすれば、Dst=dnとなるから、Dst/dn=1であり、凝集炭素数が多くなるにともないDst/dnの値は大きくなる。そして、本発明の炭素球状体は球体相互の凝集が極めて少なく、Dst/dnの値が2以下の粒子性状を備えており、単一粒子の存在比率が極めて高く、実質的に単一球状形態を有しているとみなせる点に特徴がある。なお、本発明においては粒子径は特に限定しないが900nm以下であることが好ましく、また粒子径が小さいほど表面に露出するエッジ面が多くなるので、触媒金属粒子を多く担持したい場合は更に粒子径が小さいことが好ましい。
【0025】
なお、電子顕微鏡による算術平均粒子径dn(nm)は下記の方法によって測定した値である。
試料を超音波分散器により28kHzの周波数で30秒間クロロホルムに分散させたのち、分散試料をカーボン支持膜に固定する(固定法は、例えば「粉体物性図説」粉体工学研究会編、P68(C) "水面膜法" に記載されている)。これを電子顕微鏡で直接倍率10000倍、総合倍率100000倍に撮影し、得られた写真からランダムに1000個の粒子直径を計測し、14nmごとに区分して作成したヒストグラムから算術平均粒子直径を求める。
【0026】
また、ストークスモード径Dst(nm)は下記の方法によって測定した値である。
乾燥した試料を少量の界面活性剤を含む20容量%エタノール水溶液と混合して分散濃度0.1kg/m3 の分散液を作成し、これを超音波で十分に分散させて測定用試料とする。ディスク・セントリフュージ装置(DCF 英国JoyesLobel社製)を100 s-1の回転数に設定し、スピン液(2重量%グリセリン水溶液、25℃)を0.015dm3 加えた後、0.001dm3 のバッファー液(20容量%エタノール水溶液、25℃)を注入する。次いで、温度25℃の炭素分散液0.0005dm3 を注射器で加えた後、遠心沈降を開始し、同時に記録計を作動させて図2に示す分布曲線(横軸;炭素分散液を注射器で加えてからの経過時間、縦軸;炭素試料の遠心沈降に伴い変化した特定点での吸光度)を作成する。この分布曲線より各時間Tを読み取り、次式(数1)に代入して各時間に対応するストークス相当径を算出する。
【0027】
【数1】

【0028】
数1において、ηはスピン液の粘度(0.935×10-3Pa・S)、Nはディスク回転スピード(100s-1)、r1 は分散液注入点の半径(0.0456m)、r2 は吸光度測定点までの半径(0.0482m)、ρCBは炭素の密度(kg/m3 )、ρ1 はスピン液の密度(1.00178kg/m3 )である。
【0029】
このようにして得られたストークス相当径と吸光度の分布曲線(図3)における最大頻度のストークス相当径をストークスモード径Dst(nm)とする。
【0030】
更に、本発明の燃料電池用触媒担持体を形成する炭素球状体は、この粒子性状に加えてX線回折法により測定した結晶子格子面間隔(d002 )が0.350nm以下の結晶性状を備えていることを第2の特徴とする。結晶子格子面間隔(d002 )が0.350nmを越える場合は、黒鉛の結晶構造の発達が低いため酸化や腐食に対する安定性が低くなるためである。
【0031】
更に、本発明の燃料電池用触媒担持体を形成する炭素球状体は、上記の粒子性状と結晶性状に加えて、その結晶構造が同心多面体の入れ子構造であることが必要である。炭素粒子を高温下で熱処理して黒鉛化していくと、図4、図5に示すように黒鉛の結晶構造に同心多面体の入れ子構造が観察される。なお、図4は同心多面体の入れ子構造を模式的に示したものであり、図5は同心多面体の入れ子構造を有する黒鉛材の透過型電子顕微鏡による観察写真を例示したものである。触媒金属粒子が担持されるのは黒鉛結晶の表層に一定間隔で露出したエッジ部分のみであるから、この結晶構造とすることにより担持した触媒金属粒子の凝集や焼結は起こり難くなる。
【0032】
この粒子性状、結晶性状および結晶構造を有する炭素球状体は、炭化水素ガスをキャリアガスとともに熱分解炉の予熱帯域に導入し、引き続く加熱帯域において炭化水素ガス濃度を0.5〜40vol%、レイノルズ数を1〜20、温度を1100〜1300℃に設定して熱分解し、得られた炭素球状体を非酸化性雰囲気中で2000℃以上の温度で熱処理する方法により製造することができる。
【0033】
図6は本発明の燃料電池用触媒担持体となる炭素球状体を製造するための装置の全体構成を例示した説明図で、本出願人が先に提案(特開2004−211012号公報)したものと同じである。11、12は高純度水素ガスが夫々充填されたガスボンベで、13、14は流量計である。15は炭化水素を貯蔵した原料タンクで、例えばトルエン等を液状で貯蔵し、水素ガスボンベ11からパイプ16を経由して所定流量の水素ガスをトルエン中に吹き込みトルエンをバブリングしてトルエンガスを水素ガスとともに加熱炉20に導入する。加熱炉20は原料である炭化水素ガスを熱分解して炭素球状体に転化するための加熱炉で、予熱帯域21と加熱帯域23とから構成されている。加熱炉20のガス導入側の外側にはヒータ22を設置して予熱帯域21とし、予熱帯域21に隣接した部分の外側にはヒータ25を設置して加熱帯域23としている。ヒータ22及びヒータ25には電熱加熱方式や高周波誘導加熱方式が適用される。
【0034】
加熱帯域23には、混合ガスの流速を制御するために反応管24が内挿できるようになっている。反応管24の外側と加熱帯域23との間隙は断熱材で閉塞して混合ガスの侵入を阻止している。予熱帯域21の温度は熱電対で検出して温度調節器26で所定の温度に制御し、加熱帯域23の温度は放射温度計28で検出して温度調節器27で所定の温度に制御している。加熱炉20内の圧力は圧力計19、圧力制御バルブ31、真空ポンプ32により所定の圧力に制御されている。熱分解後の炭素球状体を含む分解ガスは冷却管29で冷却したのち、捕集室30で炭素球状体を分離捕集したのち、水槽33を経由して燃焼装置34で完全燃焼させて系外に排出される。
【0035】
炭素球状体は、炭化水素ガスをキャリアガスとともに熱分解することにより製造され、原料となる炭化水素はメタン、エタン、プロパン、ブタン、エチレン、プロピレン、ブタジエン等の脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の単環式芳香族炭化水素、ナフタレン、アントラセン等の多環式芳香族炭化水素、あるいはこれらの混合物や液化天然ガスなどが用いられる。なお、原料炭化水素が常温で液体または固体の場合には気化させて、ガス状で熱分解炉に供給される。キャリアガスとしては水素、ヘリウム、窒素、アルゴン、ネオンなどのガスが用いられる。
【0036】
炭化水素ガスは例えば水素ガスをキャリアガスとして水素ガスとともに熱分解炉に供給され、炭化水素ガスと水素ガスの混合ガスを比較的低温で、緩やかに熱分解させることにより、粒度分布がシャープで粒子凝集構造が小さく、実質的に単一な球状形態を有する炭素球状体を製造することができる。
【0037】
この場合、炭化水素ガスの濃度を低く設定すると、分解反応の過程における炭素球状体の前駆体である中間生成粒子の濃度も低くなり、中間生成粒子の衝突機会が少なくなる結果粒子間の結合が抑制され、粒子凝集体の形成が防止される。すなわち、単一球状で粒度分布もシャープな炭素球状体の生成が可能となる。
【0038】
更に、炭化水素ガスと水素ガスの混合ガスの流速が遅く、層流状態で熱分解反応させると、分解反応過程における炭素球状体の前駆体である中間生成粒子相互間の衝突機会が減少するので、粒子間の凝集が抑制され、粒度分布がシャープで単一球状形態の炭素球状体を生成することができる。
【0039】
このような理由により、原料となる炭化水素ガスの濃度を0.01〜40vol%に、炭化水素ガスと水素ガスの混合ガスのレイノルズ数を1〜20に、分解温度を1100〜1300℃の条件に設定して熱分解反応を行うことにより、本発明の粒子性状を有する炭素球状体を製造することができる。
【0040】
すなわち、原料炭化水素ガスの濃度〔=(炭化水素ガス流量)/(炭化水素ガス流量+水素ガス流量)〕を0.01〜40vol%に設定するのは、炭化水素ガス濃度が40Vol%を越える場合には微細な粒子径で、粒子凝集体の小さい炭素粒子を生成することができず、一方0.01Vol%を下回る低いガス濃度では製造効率が低いばかりでなく反応ガス中における炭化水素ガスが少ないために炭素粒子の生成反応が円滑に進まず、粒子性状等が不均一化して、粒度分布もブロード化するためである。
【0041】
原料炭化水素ガスと水素ガスの混合ガスのレイノルズ数を1〜20に設定するのは、レイノルズ数が20を越える場合には中間生成粒子の相互衝突する機会が増えるために凝集粒子が形成され易くなり、単一球状形態の炭素球状体を生成させることが困難となるからである。一方、レイノルズ数が1を下回る場合には炭素球状体の生成効率が著しく低下することになり、また粒子性状の不均一化を招くためである。
【0042】
また、熱分解温度を1100〜1300℃の条件に設定するのは、1300℃を越える温度では熱分解反応が促進される結果、中間生成粒子の相互衝突する機会が大きくなるため粒子間の凝集が進み、単一な球体を生成させることが難しくなり、更に粒度分布もブロード化するためである。なお、分解温度が1100℃未満では炭素球状体の生成効率の低下が著しくなるためである。
【0043】
このようにして得られた炭素球状体を非酸化性雰囲気中で2000℃以上の温度で熱処理することにより、X線回折法により測定した結晶子格子面間隔(d002 )が0.350nm以下の結晶性状を備え、その結晶構造が同心多面体の入れ子構造を示す炭素球状体を製造することができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の実施例を比較例と対比して詳細に説明する。
【0045】
実施例1〜2、比較例1〜2
図5に示した装置において、加熱炉20の内径を145mm、長さを1500mm、予熱帯域21の長さを200mm、加熱帯域23の長さを400mm、反応管24の内径を20mm、長さを450mmとし、原料炭化水素にトルエンを用いて水素ガスによりバブリングして気化し、また水素ガス供給量を変えて加熱炉20に導入した。このようにして反応管24におけるトルエンガス濃度、トルエンガスと水素ガスの混合ガスの流速、温度などを変えて2時間熱分解した。得られた炭素球状体をアルゴン雰囲気中で熱処理して黒鉛化した。
【0046】
比較例3〜6
市販のアセチレンブラック(比較例3)、市販のアセチレンブラックをアルゴン雰囲気中2800℃で熱処理(比較例4)、市販の天然黒鉛粉(比較例5)、カーボンマイクロビーズ(比較例6)を試料とした。
【0047】
これらの各試料の製造条件を表1に示した。
【0048】
【表1】

【0049】
これらの試料について、電子顕微鏡により算術平均粒子径dnおよびディスクセントリフュージ(DCF)装置を用いてストークスモード径Dstを測定し、また、X線回折法により結晶子格子面間隔(d002 )を測定し、更に、透過型電子顕微鏡でその結晶構造を観察した。
【0050】
これらの試料に常法により1wt%の白金を担持させ、X線回折法により担持された白金の粒径を測定して白金の表面積を算出した。次に、燃料電池用触媒金属粒子としての能力を評価するために、フッ素系イオン交換樹脂(商品名;ナフィオン、デュポン社製)の1wt%溶液と混合してペースト化し、ガラス状カーボン製の電極表面に塗布して、回転電極法によりサイクリックボルタモグラムを測定し、触媒として有効に作用する白金の表面積を求めた。そして、X線回折法により求めた白金の表面積とサイクリックボルタモグラムにより求めた有効に作用する白金の表面積の比から有効に作用する白金粒子の割合を求めた。
【0051】
次に、上記のペーストを多孔質カーボン(商品名;TGP-H-120 、東レ製)へ塗布して触媒電極を作製した。この触媒電極2枚でフッ素系イオン交換樹脂(商品名;ナフィオン、デュポン社製)を挟み、更に溝付きセパレータ板(商品名;G347B 、東海カーボン社製)2枚で挟んで固体高分子型燃料電池の単セルを構成した。この単セルに水素と空気を流して、最大出力が得られる条件にて90日間連続運転した。この連続運転後の触媒担持体の重量残存率を測定して耐酸化性を評価した。また、透過型電子顕微鏡により担持した白金粒子の凝集、焼結の度合いを観察した。得られた結果を表2に示した。
【0052】
【表2】

【0053】
以上の結果から、本発明の製造方法を適用して製造し、本発明で特定した粒子性状および結晶性状を備えた実施例1〜2の炭素球状体は有効に作用する白金の割合が高く、連続運転後の耐酸化性(重量残存率)も高く、凝集も少ないことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】固体高分子型燃料電池の単セルの概略構造を示す一部断面図である。
【図2】Dstの測定時における炭素試料の分散液を加えてからの経過時間と炭素の遠心沈降による吸光度の変化を示した分布曲線である。
【図3】Dstの測定時に得られたストークス相当径と吸光度の関係を示す分布曲線である。
【図4】炭素微小球の同心多面体の入れ子構造を例示した模式図である。
【図5】同心多面体の入れ子構造を有する炭素球状体の透過型電子顕微鏡写真である。
【図6】炭素球状体の製造装置の全体構成を例示した説明図である。
【符号の説明】
【0055】
1 電解質膜
2 アノード
3 カソード
4 アノード側触媒電極
5 カソード側触媒電極
6 アノード側ガス拡散層
7 カソード側ガス拡散層
8 セパレータ
9 反応ガス流路
10 シール材
11、12 水素ガスボンベ
13、14 流量計
15 原料タンク
16、17、18 ステンレスパイプ
19 圧力計
20 加熱炉
21 予熱帯域
22、25 ヒータ
23 加熱帯域
24 反応管
26、27 温度調節器
28 放射温度計
29 冷却管
30 捕集室
31 圧力制御バルブ
32 真空ポンプ
33 水槽
34 燃焼装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子顕微鏡により測定した算術平均粒子径dnとディスクセントリフュージ装置(DCF)により測定したストークスモード径Dstとの比、Dst/dnが2以下の粒子性状を有し、X線回折法により測定した結晶子格子面間隔(d002 )が0.350nm以下の結晶性状を備え、その結晶構造が同心多面体の入れ子構造である炭素球状体からなることを特徴とする燃料電池用触媒担持体。
【請求項2】
炭化水素ガスをキャリアガスとともに熱分解炉の予熱帯域に導入し、引き続く加熱帯域において炭化水素ガス濃度を0.5〜40vol%、レイノルズ数を1〜20、温度を1100〜1300℃に設定して熱分解し、得られた炭素球状体を非酸化性雰囲気中で2000℃以上の温度で熱処理することを特徴とする請求項1記載の燃料電池用触媒担持体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−127942(P2006−127942A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−315514(P2004−315514)
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(000219576)東海カーボン株式会社 (155)
【Fターム(参考)】