説明

燃料電池用電極触媒及びその製造方法並びに燃料電池用電極

【課題】非貴金属化合物からなる高性能なカソード用電極触媒及びその製造方法を提供する。
【解決手段】酸窒化物を構成するLa,Ba,Ca,Sr,Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Mo,W,Ge,Ga等の群から選ばれる少なくとも1種の金属塩と、電導性のよい炭素粒子とを原料として、カソード触媒能を持つ酸窒化物を含む燃料電池用電極触媒を製造する。この方法は、金属塩を錯体重合することによってポリマー化する工程と、そのポリマー化する工程の前又は後に炭素粒子を分散配合する工程と、ポリマー化した金属塩と分散配合した炭素粒子とからなる複合材料を酸窒化処理する工程とを有する。製造された電極触媒は、カソード触媒能を持つ金属酸窒化物を含み、その酸窒化物を構成する金属元素が酸窒化物として電導性のよい炭素粒子に均一に担持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用電極触媒及びその製造方法並びに燃料電池用電極に関し、更に詳しくは、固体高分子型燃料電池に用いられるカソード触媒及びその製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池は、その実用化が国内外において非常に多く検討されている。しかしながら、現在のところ市場に普及する段階までは至っていない。その原因として最も深刻な問題は、燃料電池の電極に使用される白金の量である。固体高分子型燃料電池において、白金は高い表面積を有するカーボンに担持され、例えばH→2H+2eの反応が起こるアノードと、例えばO+4e+4H→2HOの反応が起こるカソードの両電極に用いられている。現在のところ、100kW出力の自動車につきおよそ100gの白金が必要であり、特に酸素を水に還元するカソード側は、白金を用いても酸素過電圧が大きく低活性であるため、白金使用量を多くして要求特性を満足させている。
【0003】
こうした状況下において、白金が非常に高価である点や、供給量に限界があるといった点から、白金の使用量の低減化、あるいは、白金を代替する触媒の開発が行われている。白金を代替する触媒として、白金と、鉄、コバルト、ニッケル等の金属との合金触媒(非特許文献1を参照。)、イリジウム、ロジウム、パラジウム等の貴金属触媒、又はそうした貴金属と白金との貴金属合金触媒等が、白金触媒よりも高い酸素還元活性を示すことが報告されている。しかし、前者の合金触媒は酸性溶液中で極めて不安定であるため、また、後者の貴金属触媒は不安定な国際情勢の価格変動により却って白金よりも高価になるおそれがあり、いずれも実用的であるとは言えない。
【0004】
ところで、光触媒ではあるが、白金や貴金属を含まない代替材料として、La、Ta、Nb、Ti、Zrからなる群から選択される少なくとも1つの遷移金属を含むオキシナイトライドからなる光触媒が提案されている(例えば、特許文献1,2及び非特許文献2を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−161203号公報
【特許文献2】特開2002−66333号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J.Fernandez et al., J.Am.Chem.Soc., 127, 13100(2005)
【非特許文献2】M.Hara et al., Catal.Today., 78, 555(2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したオキシナイトライドを燃料電池用電極触媒として用いて電極を作製した場合、電極特性の再現性にバラツキが見られるという問題や、作製した電極を用いてもマイクロアンペアオーダーの低い電流値しか得られないという問題があった。さらに、得られた電極触媒を各部で均一な触媒特性が得られる膜にすること(膜化という。)も難しかった。
【0008】
本発明は、上記課題を解決したものであって、その目的は、非貴金属化合物からなる高性能なカソード用電極触媒及びその製造方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、燃料電池用電極触媒を有する燃料電池用電極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明の燃料電池用電極触媒は、カソード触媒能を持つ金属酸窒化物を含む燃料電池用電極触媒であって、前記酸窒化物を構成するLa,Ba,Ca,Sr,Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Mo,W,Ge,Ga等の群から選ばれる少なくとも1種の金属元素が酸窒化物として炭素粒子に担持されていることを特徴とする。
【0010】
この発明の燃料電池用電極触媒は、カソード触媒能を持つ非貴金属酸窒化物が良電導性・高表面積材料である炭素粒子を担持体として含むので、高い電導性を有するものとなる。その結果、この電極触媒を用いて燃料電池用電極を構成すれば、高い値のカソード電流を得ることが可能となる。さらに、この燃料電池用電極触媒は、金属塩を錯体重合によりポリマー化し、そのポリマー化前後に炭素粒子を分散配合する工程を経て作製されるものであるので、担持体である炭素粒子上に非貴金属酸窒化物が均一に担持する。その結果、得られた電極触媒は一様な触媒特性を示すので、この電極触媒を用いて燃料電池用電極を構成すれば、再現性のある電極特性を持つ安定した燃料電池用電極を作製することが可能となる。
【0011】
本発明の燃料電池用電極触媒において、前記炭素粒子が、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、ナノグラファイト粒子、カーボンナノホーン、フラーレン及び活性炭から選ばれる微粒子であることが好ましい。これらの材料は燃料電池用電極触媒を構成する炭素粒子として好ましく用いることができる。
【0012】
本発明の燃料電池用電極触媒において、前記炭素粒子が全体の20重量%以上99重量%以下の範囲で含まれていることが好ましい。この範囲内で炭素粒子が含まれることにより、高い電導性を有する電極触媒とすることができる。
【0013】
上記課題を解決する本発明の燃料電池用電極は、上記本発明の燃料電池用電極触媒を含むことを特徴とする。
【0014】
この発明によれば、高い電導性を有する燃料電池用電極触媒を用いるので、高い値のカソード電流を得ることが可能となる。さらに、用いる燃料電池用電極触媒は、金属塩を錯体重合によりポリマー化し、そのポリマー化前後に炭素粒子を分散配合する工程を経て作製されるものであるので、担持体である炭素粒子上に非貴金属酸窒化物が均一に担持して一様な触媒特性を示す。その結果、この電極触媒を用いた本発明の燃料電池用電極は、再現性のある安定した電極特性を示すことができる。
【0015】
上記課題を解決する本発明の燃料電池用電極触媒の製造方法は、酸窒化物を構成するLa,Ba,Ca,Sr,Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Mo,W,Ge,Ga等の群から選ばれる少なくとも1種の金属塩と、炭素粒子とを原料として、カソード触媒能を持つ酸窒化物を含む燃料電池用電極触媒を製造する方法であって、前記金属塩を錯体重合することによってポリマー化する工程と、前記ポリマー化する工程の前又は後に炭素粒子を分散配合する工程と、前記ポリマー化した金属塩と前記分散配合した炭素粒子とからなる複合材料を酸窒化処理する工程と、を有することを特徴とする。
【0016】
この発明によれば、金属塩を錯体重合によりポリマー化し、そのポリマー化前後に良電導性・高表面積材料である炭素粒子を分散配合する工程を経るので、担持体である炭素粒子上に非貴金属酸窒化物が均一に担持する。その結果、得られた電極触媒は高い電導性を有しかつ一様な触媒特性を示すので、得られた電極触媒を用いて燃料電池用電極を構成すれば、再現性のある電極特性を持つ、安定した燃料電池用電極を作製することが可能となる。
【0017】
本発明の燃料電池用電極触媒の製造方法において、前記炭素粒子がカーボンブラック、カーボンナノチューブ、ナノグラファイト粒子、カーボンナノホーン、フラーレン及び活性炭から選ばれる微粒子であり、前記金属塩と前記炭素粒子との合計に対する炭素粒子の割合を20重量%以上99重量%以下の範囲となるように分散配合することが好ましい。この発明によれば、この範囲内で炭素粒子が含まれることにより、高い電導性を有する電極触媒を製造することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の燃料電池用電極触媒は高い電導性を有するので、この電極触媒を用いて燃料電池用電極を構成すれば、高い値のカソード電流を得ることが可能となる。さらに、本発明の燃料電池用電極触媒は、担持体である炭素粒子上に非貴金属酸窒化物が均一に担持して一様な触媒特性を示すので、この電極触媒を用いて燃料電池用電極を構成すれば、再現性のある電極特性を持つ安定した燃料電池用電極を作製することが可能となる。さらに、一様な触媒特性を示す本発明の燃料電池用電極触媒を用いれば、膜化も容易となり、燃料電池用電極(MEA)を作製することができ、白金を代替する実用可能な電極触媒として極めて期待できる。
【0019】
本発明の燃料電池用電極によれば、高い値のカソード電流を得ることができ、再現性のある安定した電極特性を示すことができ、さらに、膜化も容易な実用的な白金代替電極として極めて期待できる。
【0020】
本発明の燃料電池用電極触媒の製造方法によれば、担持体である炭素粒子上に非貴金属酸窒化物が均一に担持することができる。こうして得られた電極触媒を用いて燃料電池用電極を構成すれば、再現性のある電極特性を持つ、安定した燃料電池用電極を作製することができる。
【0021】
以上、本発明によれば、安価で埋蔵量も多い非貴金属酸窒化物を白金代替材料として用いた電極触媒及び燃料電池用電極を提供できるので、固体高分子型燃料電池における電極のコストを格段に低減することができ、具体的には1/100〜1/10程度に低減することができ、その結果、燃料電池自動車等が広く普及することが期待できると共に、今後の世界規模の燃料電池の普及及び実用化を考える上で、極めて有望である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実験例1、実験例6、実験例12及び参考実験例1の電極触媒についての酸化還元反応の触媒能を評価するサイクリックボルタモグラムである。
【図2】実験例1〜6の電極触媒についての酸化還元反応の触媒能を評価するサイクリックボルタモグラムである。
【図3】実験例1,8,9の電極を用いたときの酸素還元電流の値を示すグラフである。
【図4】実験例13〜15及び比較実験例4の電極触媒についての酸化還元反応の触媒能を評価するサイクリックボルタモグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の耐酸性電極触媒について詳しく説明する。
【0024】
(燃料電池用電極触媒)
本発明の燃料電池用電極触媒は、カソード触媒能を持つ金属酸窒化物を含む電極触媒であって、前記酸窒化物を構成するLa,Ba,Ca,Sr,Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Mo,W,Ge,Ga等の群から選ばれる少なくとも1種の金属元素が酸窒化物として炭素粒子に担持されているものである。
【0025】
金属酸窒化物は、カソード触媒能を持つ燃料電池用電極触媒として作用する化合物である。「カソード触媒能」とは、例えば所定の酸性電解質(例えば0.1M HSO水溶液)中での標準水素電極電位基準で、酸素還元電位が高いという性能であり、望ましくは0.8V以上の酸素還元電位であるが、0.6V以上の電位であってもよい。
【0026】
金属酸窒化物は、La,Ba,Ca,Sr,Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Mo,W,Ge,Ga等の群から選ばれる少なくとも1種の金属元素を構成成分として有する酸窒化物であり、具体的には、Sr又はBaを含むニオブ酸窒化物、Laを含むチタン酸窒化物、Sr又はBaを含むジルコニウム酸窒化物等を一例として挙げることができる。これらの金属酸窒化物はいずれも非貴金属元素を有するいわゆる非貴金属酸窒化物であるので、白金の代替材料として資源量や価格の点で好ましい。なお、酸窒化物ではないが、Geを含むβ−ゲルマニウム窒化物(β−Ge)や、Nbを含むニオブ酸化物(NbO)も好ましく挙げることができる。
【0027】
上記の酸窒化物のうち、特に、BaとNbからなる酸窒化物及びBaとZrからなる酸窒化物が好ましく、高い酸素還元電位を有する。ここで、BaとNbからなる酸窒化物及びBaとZrからなる酸窒化物の化学量論組成は、1:1が好ましいが、必ずしもその通りでなくてもよく、±0.5以内であればよい。なお、上記以外の酸窒化物であっても、今後確認される、好ましいカソード触媒能を持つ酸窒化物であれば、本発明を構成する金属酸窒化物として好ましく用いることができる。
【0028】
金属酸窒化物は、酸素還元電位を高めるように作用するドーパントを含んでいてもよい。ドーパントとしては、B、C、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、Pb、La、Sm、Ce等が挙げられる。
【0029】
炭素粒子は、金属酸窒化物の担持体として燃料電池用電極触媒に含まれている。炭素粒子は、高い電導性と大きな表面積を持っているので、そうした特徴を有する各種の炭素系粒子を適用可能であるが、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、ナノグラファイト粒子、カーボンナノホーン、フラーレン及び活性炭から選ばれる微粒子は燃料電池用電極触媒を構成する炭素粒子として好ましく用いることができる。例えば、カーボンブラックは安価な高表面積の微粒子担持体という利点があり、カーボンナノチューブは電気伝導性の向上と反応ガス拡散の効率化という利点があり、ナノグラファイトは高結晶性に由来する高い電気伝導性と耐腐食性という利点がある。
【0030】
炭素粒子は、燃料電池用電極触媒の全体重量の20重量%以上99重量%以下の範囲で含まれていることが好ましい。この範囲内で炭素粒子が含まれることにより、高い電導性を有する電極触媒とすることができる。燃料電池用電極触媒は、この炭素粒子と上記金属酸窒化物とを含むので、炭素粒子の割合は、炭素粒子と金属酸窒化物との合計に対する炭素粒子の割合ということができる。炭素粒子の割合が20重量%未満では、燃料電池用電極触媒において、予定した程の電導度が得られず期待した程の酸素還元電流が得られないことがあり、一方、炭素粒子の割合が95重量%を超えると、カソード触媒能を有する金属酸窒化物の量が相対的に少なくなるので、高い酸素還元電位で所望の酸素還元電流が得られないことがある。なお、特に好ましい炭素粒子の割合は、50重量%以上90重量%以下である。なお、本願では、重量は質量と同義である。
【0031】
なお、現時点では未だ確認していないが、炭素粒子の代わりとして他の電子伝導性粉末を金属酸窒化物の担持体として用いたものも実用上の可能性があると我々は考えている。例えば、酸化タングステン粉末、酸化イリジウム粉末等、各種の電子伝導性粉末を用いることができそうであり、したがって、本願が明示乃至示唆するところは、炭素粒子に代表されるような電子伝導性粉末を、カソード触媒能を有する非貴金属元素を含む酸窒化物、窒化物又は酸化物の担持体として用いて燃料電池用電極触媒を構成することにより、高い酸素還元電位を備えるとともに、高い酸素還元電流を流すことができる燃料電池用電極触媒とすることを示すものである。そして、こうした燃料電池用電極触媒にナフィオン(Dupont社の登録商標)を加えた触媒ペーストを用いてMEA(電解質膜と電極触媒の接合体:Membrane Electrode Assembly)を作製すれば、安価で、安定した電極触媒能を有した燃料電池用電極を構成することができる。
【0032】
本発明の燃料電池用電極触媒のカソード触媒能の評価は、後述の実験例で示すように、酸性溶液中でのサイクリックボルタンメトリーで行った結果で判断できる。本発明の燃料電池用電極触媒を固体高分子型燃料電池に適用する場合には、その燃料電池で通常使用される強酸性のナフィオン(登録商標)で実際に評価すればよいが、本願では、後述の実験例に記載のように、0.1M HSO溶液中での酸素還元電位と酸素還元電流を評価し、酸素還元電位は標準水素電極電位基準で高いほど好ましく、また、酸素還元電流も高いほど好ましいとして評価している。具体的には、従来の非貴金属酸窒化物では実現できていなかった、酸素還元電位:0.6V以上(より好ましくは0.8V以上)かつ酸素還元電流:ミリアンペアオーダーであることが好ましい。
【0033】
電極触媒の酸素還元能の評価条件としては、酸素雰囲気、室温(約25℃)下で、カウンター電極としてカーボン電極を用い、参照電極としてAg/AgCl電極を用いて、サイクリックボルタンメトリー(走査速度:5mV/秒)による酸化還元反応の結果から得ている。Ag/AgCl電極電位基準と標準水素電極電位基準とは0.2V異なっているので、標準水素電極電位基準への換算は、Ag/AgCl電極電位基準での電位に0.2V加えて算出すればよい。また、標準水素電極電位基準での酸素還元電位の特定は、酸素雰囲気で酸素還元ピークが立ち上がる電位で特定することができる。
【0034】
なお、電位の上限は電極触媒の安定性の問題で決まり、標準水素電極電位基準でおよそ1.6Vまで使用可能である。電位が標準水素電極電位基準で1.6Vを超えると、本発明の燃料電池用電極触媒の表面からの酸素発生と同時に除々に酸化が起こって酸化物になってしまう。なお、標準水素電極電位基準で0.6V未満では、安定性の観点では特に問題はないが、酸素還元触媒という観点からの有用性は乏しい。
【0035】
以上説明した本発明の燃料電池用電極触媒は、カソード触媒能を持つ非貴金属酸窒化物が良電導性・高表面積材料である炭素粒子を担持体として含んでおり、高い電導性を有している。その結果、後述する実験例で示すように、この電極触媒を用いて後述の燃料電池用電極を構成すれば、高い値のカソード電流を安定して得ることが可能となる。さらに、この燃料電池用電極触媒は、後述のように、金属塩を錯体重合によりポリマー化し、そのポリマー化前後に炭素粒子を分散配合する工程を経て作製されるものであるので、担持体である炭素粒子上に非貴金属酸窒化物が均一に担持する。その結果、得られた電極触媒は一様な触媒特性を示すので、膜化も容易となり、この電極触媒を用いて後述の燃料電池用電極を構成すれば、再現性のある電極特性を持つ安定した燃料電池用電極を作製することが可能となる。
【0036】
(燃料電池用電極)
本発明の燃料電池用電極は、上記本発明の燃料電池用電極触媒を含むことに特徴がある。燃料電池用電極の構成は詳細には種々挙げられているが、一般的には、電解質膜と、電解質膜の一方の面に配置されるアノードとしての燃料極と、電解質膜の他方の面に配置されるカソードとしての空気極、ガス拡散層、セパレータとで構成される。燃料電池用電極触媒は上述の通りであるのでここではその説明を省略する。
【0037】
ガス拡散層とセパレータについては特に限定されず、各種のものを任意に適用することができる。ガス拡散層の例としては、カーボンペーパー、カーボンフェルト、金属多孔体を一例として挙げることができ、また、セパレータの例としては、合成黒鉛、膨張黒鉛、黒鉛樹脂モールド材、ステンレス鋼、アルミニウム合金、チタン合金を一例として挙げることができる。
【0038】
本発明の燃料電池用電極は、ガス拡散層とセパレータとともに、高い電導性を有する燃料電池用電極触媒を用いるので、高い値のカソード電流を得ることが可能となる。さらに、用いる燃料電池用電極触媒は、金属塩を錯体重合によりポリマー化し、そのポリマー化前後に炭素粒子を分散配合する工程を経て作製されるものであるので、担持体である炭素粒子上に非貴金属酸窒化物が均一に担持して一様な触媒特性を示す。その結果、この電極触媒を用いた本発明の燃料電池用電極は、再現性のある安定した電極特性を示すことができ、膜化も容易な実用的な白金代替電極として極めて期待できる。
【0039】
(燃料電池用電極触媒の製造方法)
本発明の燃料電池用電極触媒の製造方法は、酸窒化物を構成するLa,Ba,Ca,Sr,Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Mo,W,Ge,Ga等の群から選ばれる少なくとも1種の金属塩と、炭素粒子とを原料として、カソード触媒能を持つ酸窒化物を含む燃料電池用電極触媒を製造する方法であって、前記金属塩を錯体重合することによってポリマー化する工程と、前記ポリマー化する工程の前又は後に炭素粒子を分散配合する工程と、前記ポリマー化した金属塩と前記分散配合した炭素粒子とからなる複合材料を酸窒化処理する工程と、を有している。
【0040】
原料としては、カソード触媒能を持つ酸窒化物を構成するLa,Ba,Ca,Sr,Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Mo,W,Ge,Ga等の群から選ばれる少なくとも1種の金属塩と、炭素粒子とが用いられる。金属塩としては、例えば、硝酸ランタン、炭酸バリウム、硝酸バリウム、炭酸ストロンチウム、塩化ニオブ、ニオブエトキシド、塩化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、ジルコニウムエトキシド、塩化チタン、チタンテトライソプロボキシド、等の各種の金属塩を例示できる。
【0041】
本発明では、先ず、上記金属塩を錯体重合することによってポリマー化する。いわゆる錯体重合法でポリマー化する。具体的には、エチレングリコールやプロピレングリコールなどのグリコール溶液中に、クエン酸などのオキシカルボン酸を過剰に含ませ、その中に上記金属塩を溶解させると金属オキシカルボン酸錯体が得られる。この状態で、120℃〜150℃程度の温度で加熱処理すると、オキシカルボン酸のカルボキシル基とグリコールのヒドロキシル基との間で脱水エステル反応が起こって、ポリエステル化したポリエステル高分子ゲルが得られる。この方法で得られたゲルは、その中の金属元素が均一な状態で含まれている。
【0042】
配合する材料の配合割合は特に限定されず、具体例は後述の実験例に示すように、目的の特性が得られるように任意に調整して決定される。一例を示せば、金属塩:1〜10モル%、クエン酸:5〜50モル%、エチレングリコール:15〜99モル%、メタノール:任意、となる例を挙げることができる。なお、分散配合手段は、例えば、電気モーター攪拌機、エアーモーター攪拌機、マグネチックスターラー等の攪拌手段等が好ましく適用される。
【0043】
こうした工程により、金属酸窒化物を構成する金属元素をゲル中に均一に分散させることができるので、例えば複数種の金属元素を配合する場合に金属元素毎に偏って析出する等の問題が生じにくいという利点がある。その結果、その後の加熱処理によって各金属元素が均一に分散してなる酸窒化物を常に安定した状態で容易に得ることができる。また、この工程では、溶液内に必要に応じてドーパントの塩類を配合すれば、微量のドーパントを均一に分散配合させることができる。ドーパントは上記したものの中から任意に選択して配合できる。
【0044】
次に、上記ポリマー化する工程の前又は後に炭素粒子を分散配合する。すなわち、炭素粒子は、上記錯体重合法でポリエステル高分子ゲルとした後、つまり加熱処理した後に分散配合してもよいし、上記錯体重合法でポリエステル高分子ゲルとする前、つまり加熱処理する前に分散配合してもよい。
【0045】
炭素粒子の配合割合は、最終的に得られる金属酸窒化物中の重量%で20重量%〜99重量%の範囲になるように調整して配合される。炭素粒子としては、上記したように、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、ナノグラファイト粒子、カーボンナノホーン、フラーレン及び活性炭から選ばれることが好ましいが、所望のカソード触媒能を示すことができれば他の伝導性微粒子であってもよい。
【0046】
配合する炭素粒子の粒径も特に限定されないが、この炭素粒子が金属酸窒化物の担持体として作用し、金属酸窒化物を均一分散させるとともに、炭素粒子の電気伝導性によって高いカソード触媒能を実現するという作用を持つことから、その平均粒径は5nm以上、好ましくは10nm以上、また、1000nm以下、好ましくは100nm以下である。特にこの発明では、得られる燃料電池用電極触媒粉末の大きさが、ここでの炭素粒子の大きさによってほぼ決まるので、この炭素粒子の大きさを調整することによって所望の大きさの燃料電池用電極触媒を得ることができる。なお、このときの「平均粒径」は、透過型電子顕微鏡あるいは走査型電子顕微鏡で測定した値で評価した。さらに、炭素粒子の電気伝導度は、酸素還元電流を高めることができるという観点から5000Ω・cm以下であることが好ましい。
【0047】
なお、炭素粒子をポリマー化工程前又はポリマー化工程後に均一に分散配合させる手段は、上記同様、電気モーター攪拌機、エアーモーター攪拌機、マグネチックスターラーを適用することが好ましい。なお、ポリマー化工程後に炭素粒子を分散配合する場合には、炭素粒子を均一に分散配合するという観点から、ゲル化したスラリーの粘度を0.001〜10000Pa・sの範囲に調整することが望ましい。
【0048】
次に、ポリマー化した金属塩と分散配合した炭素粒子とからなる複合材料を加熱処理して所望の化合物を作製する。所望の化合物としては、酸窒化物、窒化物、酸化物等があるので、それに応じた雰囲気ガス中での加熱処理が行われる。例えば、金属酸窒化物を作製する場合は、ポリマー化したゲルに炭素粒子を分散配合したものを、先ず、窒素雰囲気下で室温以上1600℃以下の範囲内の任意の温度で1分〜100時間程度の加熱処理を施して金属酸化物を作製し、その後、アンモニアガス雰囲気下で400℃以上1500℃以下の範囲内の任意の温度で1分〜100時間程度の加熱処理を施して金属酸窒化物を作製する方法を例示できる。
【0049】
ここで、アンモニアガス雰囲気下での金属酸化物とアンモニアとの反応では、窒化の進行とともに酸素がとれるのでアンモニアは還元剤かつ窒化剤として作用する。したがって、アンモニアの供給速度や反応温度を変化させることにより、窒化の程度を制御できる。この反応の際に、アンモニアに加えて水蒸気と窒素の混合気体としてアンモニアの分圧を変化させ、窒化速度を下げることによって、窒化の度合いの場所による差が小さい均一に窒化された酸窒化物を得ることも可能である。
【0050】
こうした工程を経て、上記した本発明に係るカソード触媒能を持つ所望の金属酸窒化物を作製することができる。なお、酸化物については、窒化処理を行わないことによって得ることができ、窒化物については、窒素雰囲気下での加熱処理を行わず、最初からアンモニアガス雰囲気下での加熱処理を行うことにより得ることができる。このときの熱処理条件は任意に設定される。
【0051】
なお、この方法で得られた燃料電池用電極触媒は、例えばNafion(Dupont社の登録商標)とエタノール等の溶媒と配合し、燃料電池用集電体に塗布して容易に膜化することができる。膜化した電極触媒は、集電体上の各部で均一なカソード触媒能を示し、再現性のある安定した電極触媒とすることができる。
【0052】
以上説明した本発明の燃料電池用電極触媒の製造方法は、金属塩を錯体重合によりポリマー化し、そのポリマー化前後に良電導性・高表面積材料である炭素粒子を分散配合する工程を経るので、担持体である炭素粒子上に非貴金属酸窒化物が均一に担持することができる。その結果、得られた電極触媒は高い電導性を有しかつ一様な触媒特性を示すので、得られた電極触媒を用いて燃料電池用電極を構成すれば、再現性のある電極特性を持つ、安定した燃料電池用電極を作製することが可能となる。
【0053】
以上、燃料電池用電極触媒とその製造方法、及び燃料電池用電極について説明したが、これら本発明によれば、安価で埋蔵量も多い非貴金属酸窒化物を白金代替材料として用いた電極触媒及び燃料電池用電極を提供できるので、固体高分子型燃料電池における電極のコストを格段に低減することができ、具体的には1/100〜1/10程度に低減することができ、その結果、燃料電池自動車等が広く普及することが期待できると共に、今後の世界規模の燃料電池の普及及び実用化を考える上で、極めて有望である。
【実施例】
【0054】
実験例と比較実験例を挙げて本発明の耐酸性電極触媒を更に具体的に説明する。以下の例は、本発明の燃料電池用電極触媒一例を挙げたものであり、本発明の範囲が以下の実験例のみに限定されないことは言うまでもない。
【0055】
[実験例1]
炭酸バリウム(BaCO、1.56モル部)と塩化ニオブ(NbCl、0.78モル部)を金属塩原料とし、これをエチレングリコール(HOCHCHOH、46.8モル部)とクエン酸(HOOCCHC(OH)(COOH)CHCOOH、11.7モル部)とメタノール(CHOH)とからなる溶液中に攪拌溶解させ、さらにこのときカーボンブラック(Cabot社製、VulcanXC72R、平均粒径:30nm、塩化ニオブに対し5倍モル量)を添加した。その後、攪拌しながら、空気雰囲気下で150℃で加熱しながら攪拌することで、オキシカルボン酸のカルボキシル基とグリコールのヒドロキシル基との間で脱水エステル反応が起こってポリエステル化したポリエステル高分子ゲルを得た。このゲル内には配合した炭素粒子が均一に分散した黒色スラリーが得られた。その後、100mL/分の窒素気流雰囲気下で、500℃、3時間の加熱処理を行い、さらにその後、500mL/分のアンモニアガス(純度99.999%)気流雰囲気下で、850℃、10時間の加熱処理を行って、実験例1に係る[Ba−Nb−O−N/カーボンブラック]からなる電極触媒を作製した。
【0056】
得られた電極触媒5mgを、エタノール1mL及び5重量%Nafion(Dupont社製)0.05mLと混合し、超音波で20分間攪拌した。その後、その溶液0.025mLを面積1cmに加工したカーボンペーパー(Toray社製、TGP−H−120)に滴下し、空気中で120℃で乾燥させてカーボンペーパー上に膜化して測定用電極を作製した。
【0057】
[実験例2〜6]
上記実験例1の電極触媒作製時において、窒素気流雰囲気下での加熱温度を、400℃、600℃、700℃、800℃、1000℃として[Ba−Nb−O−N/カーボンブラック]からなる電極触媒を作製した以外は、実験例1と同様にして、それぞれ実験例2〜6の測定用電極を作製した。
【0058】
[実験例7]
上記実験例1の測定用電極作製時において、実験例1で得られた電極触媒0.050mLをカーボンペーパー上に滴下して測定用試料を作製した以外は、実験例1と同様にして、実験例7の測定用電極を作製した。
【0059】
[実験例8]
上記実験例1の測定用電極作製時において、実験例1で得られた電極触媒0.250mLをカーボンペーパー上に滴下して測定用試料を作製した以外は、実験例1と同様にして、実験例8の測定用電極を作製した。
【0060】
[実験例9]
上記実験例1の測定用電極作製時において、実験例1で得られた電極触媒0.500mLをカーボンペーパー上に滴下して測定用試料を作製した以外は、実験例1と同様にして、実験例9の測定用電極を作製した。
【0061】
[実験例10]
上記実験例1において、塩化ニオブ(NbCl、2.34モル部)のみを金属塩原料として用いた以外は、実験例1と同様にして、実験例10に係る[Nb−O−N/カーボンブラック]からなる電極触媒と測定用電極を作製した。
【0062】
[実験例11]
上記実験例10の電極触媒作製時において、窒素気流雰囲気下での加熱温度を1000℃として電極触媒を作製した以外は、実験例10と同様にして、実験例11の測定用電極を作製した。
【0063】
[実験例12]
炭酸バリウム(BaCO、1.56モル部)と塩化ジルコニウム(ZrCl、0.78モル部)を金属塩原料として用いた以外は、実験例1と同様にして、実験例12に係る[Ba−Zr−O−N/カーボンブラック]からなる電極触媒と測定用電極を作製した。
【0064】
[実験例13〜15]
(i)炭酸バリウム(BaCO、1.56モル部)と塩化ニオブ(NbCl、0.78モル部)を金属塩原料として用い、(ii)100mL/分の窒素気流雰囲気下での加熱処理温度を750℃(3時間)とし、(iii)100mL/分のアンモニアガス(純度99.999%)気流雰囲気下での窒化処理温度を、900℃、1000℃、1100℃(いずれも10時間)として電極触媒を作製した他は、実験例1と同様にして、実施例13〜15に係る[Ba−Zr−O−N/カーボンブラック]からなる電極触媒と測定用電極を作製した。
【0065】
[比較実験例1]
上記実験例1において、カーボンブラックを配合せずに作製した以外は、実験例1と同様にして、比較実験例1に係る[Ba−Nb−O−N]からなる電極触媒と測定用電極を作製した。
【0066】
[比較実験例2]
上記実験例10において、カーボンブラックを配合せずに作製した以外は、実験例10と同様にして、比較実験例2に係る[Nb−O−N]からなる電極触媒と測定用電極を作製した。
【0067】
[比較実験例3]
上記実験例12において、カーボンブラックを配合せずに作製した以外は、実験例12と同様にして、比較実験例3に係る[Ba−Zr−O−N]からなる電極触媒と測定用電極を作製した。
【0068】
[比較実験例4]
上記実験例13において、100mL/分のアンモニアガス(純度99.999%)気流雰囲気下での窒化処理を行わずに作製した以外は、実験例13と同様にして、比較実験例4に係る[Ba−Zr−O/カーボンブラック]からなる電極触媒と測定用電極を作製した。
【0069】
[参考実験例1]
ブランク用の測定用電極として、実験例1から金属塩原料を除き、その他は実験例1と同様にして、参考実験例1に係る[カーボンブラック]からなる電極触媒と測定用電極を作製した。すなわち、参考実験例1は、カーボンブラックのみに対する製造工程の影響を確認するためのものである。
【0070】
[電気化学測定]
実験例1〜15、比較実験例1,2,4及び参考実験例1で作製した測定用電極を作用電極とし、対極にはカーボンペーパーを用い、参照電極にはAg/AgCl電極を用い、室温(約25℃)下のAr又は酸素雰囲気中、0.1M(mol/dm)のHSO水溶液にてサイクリックボルタンメトリー(走査速度:5mV/秒、サイクル回数:10回)測定を行い、電極の安定性、酸素還元電位の測定を行った。Ag/AgCl電極電位基準と標準水素電極電位基準とは0.2V異なっているので、標準水素電極電位基準への換算は、Ag/AgCl電極電位基準での電位に0.2V加えて算出した。また、酸素還元電位の特定は、酸素雰囲気で酸素還元ピークが立ち上がる電位で特定した。酸素雰囲気下で測定するのは、固体高分子型燃料電池では燃料として酸素ガスが用いられるため、同じ条件となるからである。また、酸素雰囲気での結果を正確に評価するため、図1〜図4の結果は、酸素雰囲気下での測定データからアルゴン雰囲気下での測定データを差し引いたデータで示している。
【0071】
[結果]
図1は実験例1、実験例6、実験例12及び参考実験例1の電極触媒についての酸化還元反応の触媒能を評価するサイクリックボルタモグラムである。また、図2は、実験例1〜6の電極触媒についての酸化還元反応の触媒能を評価するサイクリックボルタモグラムである。また、図3は、実験例1,8,9の電極を用いたときの酸素還元電流の値を示すグラフである。図4は、実験例13〜15及び比較実験例3の電極触媒についての酸化還元反応の触媒能を評価するサイクリックボルタモグラムである。
【0072】
図1に示すように、実験例1,6の電極は0.80V(NHE)で酸素還元電位が立ち上がっているのが確認され、また、実験例12の電極は0.88V(NHE)で酸素還元電位が立ち上がっているのが確認され、いずれの酸素還元電流も、カーボンブラックを含まない比較実験例1の結果に比べて、5〜100倍高い電流値を示しているのが確認された。また、図2に示すように、窒素気流雰囲気下での熱処理温度を変化させた実験例1〜6の結果からは、その温度範囲で熱処理した電極であれば、0.80V(NHE)で立ち上がる酸素還元電位と、高い酸素還元電流が確認された。また、図3に示すように、得られた電極触媒とNafionとを混ぜた溶液で膜化した際に、その滴下量と酸素還元電流値とは比例関係であり、滴下量を多くして膜化すれば、高い酸素還元電流を得ることができることを確認した。
【0073】
また、実験例10,11に係る[Nb−O−N/カーボンブラック]からなる電極触媒及び実験例12に係る[Ba−Zr−O−N/カーボンブラック]からなる電極触媒についても、上記実験例1〜9の結果と同様に、カーボンブラックを配合しないで作製した比較実験例2,3の測定用電極に比べ、酸素還元電流は5〜50倍程度の高い値を示しているのが確認された。
【0074】
また、図4に示すように、アンモニアガス気流雰囲気下での窒化処理温度を変化させた実験例13〜15の結果より、酸素還元電流は窒化処理温度によって変化することが確認された。1000℃(実施例14)の窒化処理温度範囲で熱処理した電極触媒は、0.80V(NHE)〜0.85V(NHE)の高い酸素還元電位で立ち上がり、高い酸素還元電流が確認された。実施例14の[Ba−Zr−O−N/カーボンブラック]からなる電極触媒は、[Ba−Nb−O−N/カーボンブラック]からなる電極触媒(例えば実施例1)よりも2倍程度高い酸素還元電流(この測定系では0.4V(Ag/AgCl基準)で約20μA)を示すことが確認できた。なお、1100℃(実施例15)の窒化処理温度範囲で熱処理した電極は、高い酸素還元電流は確認されなかった。
【0075】
なお、図1、図2及び図4において、横軸の電位はAg/AgCl電極基準で表しているが、最終的には図3に示すように標準水素電極基準に換算して評価した。また、図1〜図4において、縦軸の電流値は作用電極として用いた測定試料の面積(1cm)あたりの電流値である。
【0076】
以上の結果から、本発明に係る実験例の電極触媒は、ミリアンペアオーダーの高い電流密度を発生させる燃料電池用電極の作製に有効であるとともに、安定した特性を示していることも上記実験のなかで併せて確認された。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の耐酸性電極触媒は、水電解、有機電解、燃料電池等の分野において酸性電解質中で用いられる電気化学システム用の電極触媒として有用であり、特に固体高分子型燃料電池のカソード触媒として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソード触媒能を持つ金属酸窒化物を含む燃料電池用電極触媒であって、前記酸窒化物を構成するLa,Ba,Ca,Sr,Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Mo,W,Ge,Ga等の群から選ばれる少なくとも1種の金属元素が酸窒化物として炭素粒子に担持されている、燃料電池用電極触媒。
【請求項2】
前記炭素粒子が、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、ナノグラファイト粒子、カーボンナノホーン、フラーレン及び活性炭から選ばれる微粒子である、請求項1に記載の燃料電池用電極触媒。
【請求項3】
前記炭素粒子が全体の20重量%以上99重量%以下の範囲で含まれている、請求項1又は2に記載の燃料電池用電極触媒。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池用電極触媒を含む、燃料電池用電極。
【請求項5】
酸窒化物を構成するLa,Ba,Ca,Sr,Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Mo,W,Ge,Ga等の群から選ばれる少なくとも1種の金属塩と、炭素粒子とを原料として、カソード触媒能を持つ酸窒化物を含む燃料電池用電極触媒を製造する方法であって、
前記金属塩を錯体重合することによってポリマー化する工程と、
前記ポリマー化する工程の前又は後に炭素粒子を分散配合する工程と、
前記ポリマー化した金属塩と前記分散配合した炭素粒子とからなる複合材料を酸窒化処理する工程と、を有する燃料電池用電極触媒の製造方法。
【請求項6】
前記炭素粒子がカーボンブラック、カーボンナノチューブ、ナノグラファイト粒子、カーボンナノホーン、フラーレン及び活性炭から選ばれる微粒子であり、前記金属塩と前記炭素粒子との合計に対する炭素粒子の割合を20重量%以上99重量%以下の範囲となるように分散配合する、請求項5に記載の燃料電池用電極触媒の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−208070(P2009−208070A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−19002(P2009−19002)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、新エネルギー・産業技術総合開発機構、固体高分子形燃料電池実用化戦略的技術開発事業、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】