説明

燃料電池用電解質シートの製造方法

【課題】シートの破損を抑制しつつ、シートに発生するうねり及び反りを低減できる、燃料電池用電解質シートの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の製造方法は、(I)セラミックセッター上に、最下層及び最上層にセラミック多孔質スペーサが配置されるように、前記スペーサとジルコニア系グリーンシートとを交互に積み重ねて、前記スペーサと前記グリーンシートとからなる積層体を配置する工程と、(II)前記グリーンシートにかかる荷重が0.1〜3.0g/cm2となるように、前記積層体上に重しを載置し、前記グリーンシートを1000〜1300℃で焼成して電解質シート前駆体を作製する工程と、(III)前記工程(II)の後、前記電解質シート前駆体にかかる荷重が3.0〜80.0g/cm2となるように、前記積層体上に重しを載置し、前記電解質シート前駆体を1350〜1500℃で焼成する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用電解質シート、詳しくは固体酸化物形燃料電池用電解質シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池はクリーンエネルギー源として注目されている。燃料電池のうち、電解質に固体のセラミックを使用している固体酸化物形燃料電池は、作動温度が高いため排熱を利用でき、さらに高効率で電力を得ることができる等の長所を有しており、家庭用電源から大規模発電まで幅広い分野での活用が期待されている。
【0003】
固体酸化物形燃料電池のセルは、基本構造として、カソード(空気極)とアノード(燃料極)との間にセラミックからなる電解質を配置した構造を有する。例えば平型の固体酸化物形燃料電池は、カソード、電解質シート及びアノードを重ね合わせたものを単セルとし、この単セルがインターコネクタを挟んで複数積み重ねられることによって高出力を得る。このように、カソード、電解質シート及びアノードを複数積み重ねる構造の場合、電解質シートの割れ等の破損を防ぐために、電解質シートには高い平坦性が要求される。
【0004】
固体酸化物形燃料電池の電解質には、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)及びスカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)等のジルコニア系セラミック材料が好適に用いられる。したがって、電解質シートを得るためには、これらのジルコニア系セラミック材料からなる平坦性の高いシートを製造する必要がある。
【0005】
セラミック材料からなるシート(セラミックシート)は、通常、セラミック原料粉末、バインダー及び溶剤等を混合及び粉砕して得られるスラリーをドクターブレード法等によりシート状に成形してグリーンシートを作製し、このグリーンシートを焼成することによって作製できる。
【0006】
しかし、このような方法で得られるセラミックシートにはうねり及び反りが発生しやすく、平坦性の高いシートが得られにくいという問題がある。なお、ここでの「うねり」とは、シートの周縁部に存在する連続した2つ以上の山脈状の変形(シートの局部的な変形)あり、「反り」とは、シートの周縁部が反りあがった弓状のシート全体の変形のことである。以下、本明細書において、「うねり」及び「反り」を同様の意味で用いる。
【0007】
従来、セラミックシートのうねり及び反りの発生を抑制するための様々な技術が提案されている。
【0008】
例えば、特許文献1には、セラミックグリーンシートを1600〜1800℃の温度で本焼成し、その後、反りが生じた焼結シートに対して1400〜1500℃の温度で反り修正焼成を行う方法が開示されている。
【0009】
特許文献2には、セラミックグリーンシートを表面が平滑な耐火性の複数の板で挟持して400〜1000℃の温度で予備焼成し、次いで、予備焼成後のシートを、耐火性の複数の板からはずしてから、1000℃を超える温度で焼成する方法が開示されている。
【0010】
特許文献3には、セラミックグリーンシートのみを多段に重ねて所定の温度(本来の焼成温度)よりも低い温度で焼成し、その後、得られたセラミック基板をセッターと交互に重ねて多段に積層して前記所定の温度で焼成する方法が開示されている。
【0011】
特許文献4に開示されているシート状のジルコニア焼結体の製造方法では、重しを使用して、ジルコニアのグリーンシートに荷重をかけた状態で、このグリーンシートを焼成する。このときの重しは、重しの単位面積あたりの重量をW(g/cm2)、個々の重しの面積をS(cm2)、グリーンシートの単位面積あたりにかかる荷重をG(g/cm2)としたときに、S≦200、G≦5、W/G≧0.5の条件を満たすものとする。
【0012】
特許文献5には、セラミックセッターの上にセラミックグリーンシートとセラミック多孔質スペーサとを交互に積み重ねて積層体とし、この積層体の最上部に、重しとして、静的曲げ弾性率が5〜15MPa、材質がアルミナ、ジルコニア、ムライト及び/又はコージェライト、かさ比率が0.8〜2、通気率が0.01〜0.1cm2、気孔率が50〜75%である多孔質焼成用治具を載置して焼成する、セラミックシートの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平5−136544号公報
【特許文献2】特開昭63−295480号公報
【特許文献3】特開平2−311370号公報
【特許文献4】特開平6−9268号公報
【特許文献5】特開2007−302515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、特許文献1〜3に開示されているような2段階で焼成を行う方法では、うねり及び反り発生の抑制効果が不十分であった。例えば、特許文献1に開示されている、反りが生じている焼結シートに対して修正焼成を行う方法の場合、焼結シートに一旦生じてしまった反りをさらなる焼成で修正することは非常に難しく、例えば修正焼成に長時間を要する等の問題があった。
【0015】
また、特許文献4及び5に開示されているような、荷重をかけながら焼成を行う方法では、うねり及び反りの発生をさらに低減させるために荷重をかけすぎると、シートが割れたりシートにクラックが入ったりしてしまうという問題が発生するため、うねり及び反りのさらなる低減は困難であった。
【0016】
そこで、うねり及び反りの発生をさらに低減できるセラミックシートの製造方法が求められている。特に、固体酸化物形燃料電池に用いられる電解質シートは、ScSZのような高価格材料からなるため、コスト低減のためにも、うねり及び反りの発生をさらに低減する必要があった。
【0017】
本発明は、シートの破損を抑制しつつ、且つ従来の方法を用いた場合よりもシートに発生するうねり及び反りを低減できる、燃料電池用電解質シートの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の課題を解決するために、本発明者は、電解質シートに発生するうねり及び反りについて検討を行い、うねり及び反り(特にうねり)はセラミックの本来の焼成温度で焼成する時よりも、この焼成温度よりも低い温度域で熱処理を行う時(例えば、グリーンシートの脱脂工程中等)に発生しやすいこと、さらにうねり及び反りを低減するための効果的な荷重のかけ方を見出し、以下の本発明の製造方法を完成するに至った。
【0019】
本発明の燃料電池用電解質シートの製造方法は、
(I)セラミックセッター上に、最下層及び最上層にセラミック多孔質スペーサが配置されるように、セラミック多孔質スペーサとジルコニア系グリーンシートとを交互に積み重ねて、前記セラミック多孔質スペーサと前記グリーンシートとからなる積層体を配置する工程と、
(II)前記積層体中の前記グリーンシートにかかる荷重が0.1〜3.0g/cm2の範囲内となるように、前記積層体の最上層に配置された前記セラミック多孔質スペーサ上に重しを載置して、前記積層体中の前記グリーンシートを1000〜1300℃の温度で焼成して電解質シート前駆体を作製する工程と、
(III)前記工程(II)の後に、前記積層体中の前記電解質シート前駆体にかかる荷重が3.0〜80.0g/cm2の範囲内となるように、前記積層体の最上層に配置された前記セラミック多孔質スペーサ上に重しを載置して、前記積層体中の前記電解質シート前駆体を1350〜1500℃の温度で焼成する工程と、
を含む。
【発明の効果】
【0020】
本発明の燃料電池用電解質シートの製造方法によれば、シートの破損を抑制しつつ、従来の方法と比較してシートに発生するうねり及び反りを低減できる。すなわち、本発明の燃料電池用電解質シートの製造方法によれば、高い生産性を維持しながら、高品質の電解質シートを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、具体的に説明する。
【0022】
本実施の形態における燃料電池用電解質シートの製造方法は、
(I)セラミックセッター上に、最下層及び最上層にセラミック多孔質スペーサが配置されるように、セラミック多孔質スペーサとジルコニア系グリーンシートとを交互に積み重ねて、前記セラミック多孔質スペーサと前記グリーンシートとからなる積層体を配置する工程と、
(II)前記積層体中の前記グリーンシートにかかる荷重が0.1〜3.0g/cm2の範囲内となるように、前記積層体の最上層に配置された前記セラミック多孔質スペーサ上に重しを載置して、前記積層体中の前記グリーンシートを1000〜1300℃の温度で焼成して電解質シート前駆体を作製する工程と、
(III)前記工程(II)の後に、前記積層体中の前記電解質シート前駆体にかかる荷重が3.0〜80.0g/cm2の範囲内となるように、前記積層体の最上層に配置された前記セラミック多孔質スペーサ上に重しを載置して、前記積層体中の前記電解質シート前駆体を1350〜1500℃の温度で焼成する工程と、
を含む。なお、工程(II)において1000〜1300℃の温度で焼成するとは、焼成時の最高温度が1000〜1300℃の範囲内であるということであり、工程(III)において1350〜1500℃の温度で焼成するとは、焼成時の最高温度が1350〜1500℃の範囲内であるということである。
【0023】
まず、工程(I)で用いられるジルコニア系グリーンシートについて説明する。本実施の形態の製造方法において用いられるジルコニア系グリーンシートは、例えば、ジルコニア系原料粉末に、バインダー及び溶剤を添加し、さらに必要に応じて分散剤、可塑剤、潤滑剤及び消泡剤等を添加してスラリーを調製し、このスラリーをシート状に成形して乾燥させることによって得ることができる。ジルコニア系原料粉末としては、MgO、CaO、SrO及びBaO等のアルカリ土類金属酸化物;Sc23、Y23、La23、CeO2、Pr23、Nd23、Sm23、Eu23、Gd23、Tb23、Dy23、Ho23、Er23及びYb23等の希土類元素酸化物;及び、Bi23及びIn23等の酸化物、から選択される1種もしくは2種以上を、安定化剤として含有するジルコニアの粉末を例示できる。さらに、その他の添加剤として、SiO2、Ge23、B23、SnO2、Ta25及びNb25から選択される何れかの酸化物が含まれていてもよい。これらの中でも、より高レベルの酸素イオン伝導性、強度及び靭性を確保する上で好ましいのは、スカンジア、イットリア、セリア及びイッテルビアからなる群から選択される少なくとも何れか1種を安定化剤として含む、安定化ジルコニアである。安定化ジルコニア全体における安定化剤の含有量は、スカンジアで4〜12モル%、イットリアで3〜10モル%、セリアで0.5〜2モル%、イッテルビアで4〜15モル%である。結晶系は正方晶系であってもよいし立方晶系であってもよいが、スカンジアを含むジルコニアの場合、スカンジアの含有量が多くなると結晶系が菱面体晶に転移することがあるので、結晶系を立方晶系に安定化するために、第三成分としてセリアやアルミナ等を加えてもよい。以下、例えば、4モル%のスカンジアで安定化されたジルコニア(「4モル%のスカンジアを安定化剤として含むジルコニア」という意味。以下、同様の表現を同様の意味で用いる。)を4ScSZ、10モル%のスカンジア及び1モル%のセリアで安定化されたジルコニアを10Sc1CeSZ、8モル%のイットリアで安定化されたジルコニアを8YSZと表記する。
【0024】
本実施の形態で用いられるジルコニア系グリーンシートは、以上のようなジルコニア系原料粉末を用いて作製されるものであり、スカンジア、イットリア、セリア及びイットリビアからなる群から選択される少なくともいずれか1種を含むジルコニア系シートであることが好ましい。また、本実施の形態の製造方法は、スカンジアを含むジルコニア系グリーンシートに対してより効果を得やすい(うねり及び反りを低減しやすい)ので、スカンジア安定化ジルコニアの粉末や、スカンジア−セリア安定化ジルコニアの粉末等が、ジルコニア系原料粉末として好適に用いられる。例えばスカンジア安定化ジルコニアは、イットリア安定化ジルコニアに比べて、焼成時の最高温度が20〜60℃低い温度であっても、理論密度に対するアルキメデス法で測定した電解質シート密度は、いずれも98%以上でほぼ同等となる傾向を有する。このことから、スカンジア安定化ジルコニアは、イットリア安定化ジルコニアと比較して、熱に対してより敏感で反応性が高い特性を有していると判断される。このような理由から、スカンジアを含むジルコニア系グリーンシートは、本実施の形態の製造方法における工程(III)の焼成によって、うねり及び反りが矯正されやすいと推察される。
【0025】
グリーンシートの作製に用いられるバインダーの種類には制限がなく、従来の電解質シートの製造方法で公知となっている有機バインダーの中から適宜選択できる。有機バインダーとしては、エチレン系共重合体、スチレン系共重合体、アクリレート系及びメタクリレート系共重合体、酢酸ビニル系共重合体、マレイン酸系共重合体、ビニルアセタール系樹脂、ビニルホルマール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ビニルアルコール系樹脂、エチルセルロース等のセルロース類及びワックス類等が例示される。これらの中でもグリーンシートの成形性や強度、特に量産のために大量焼成するときの熱分解性などの点から、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等の炭素数10以下のアルキル基を有するアルキルアクリレート類;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート等の炭素数20以下のアルキル基を有するアルキルメタクリレート類;ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート等のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシアルキルアクリレート又はヒドロキシアルキルメタクリレート類;ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート等のアミノアルキルアクリレート又はアミノアルキルメタクリレート類;(メタ)アクリル酸、マレイン酸、モノイソプロピルマレート等のマレイン酸半エステル等のカルボキシル基含有モノマー等の中から少なくとも1種を重合又は共重合させることによって得られるポリマーが好ましく使用される。
【0026】
グリーンシートの作製に用いられる溶剤の種類には制限がなく、従来の電解質シートの製造方法で公知となっている溶剤の中から適宜選択できる。例えば、炭素数が2〜4のエタノール、イソプロパノール、n−ブタノール等のアルキルアルコール;1−ヘキサノール等のアルコール類;アセトン、2−ブタノン等のケトン類;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類、等の中から適宜選択した溶剤を使用できる。これらの溶剤は、単独で使用してもよいし、2種以上を適宜混合して使用してもよい。
【0027】
必要に応じて用いられる分散剤、可塑剤、潤滑剤及び消泡剤には、従来の製造方法で電解質シートを製造する際に用いられる公知の分散剤、可塑剤、潤滑剤及び消泡剤を、それぞれ用いることができる。
【0028】
ジルコニア系原料粉末、バインダー及び溶剤等を混合して作製されたスラリーを、通常の方法、例えばドクターブレード法、押出成形法又はカレンダーロール法等によりシート状に成形し、乾燥させて、所定の形状に切断することによって、ジルコニア系グリーンシートを作製できる。グリーンシートの大きさ及び厚さは、目的とする電解質シートの大きさ及び厚さと、焼成による収縮率とから求められる。本実施の形態の製造方法で用いられるグリーンシートは、最終的に得られる電解質シートが50〜1000cm2の面積を有し、且つ0.05〜0.5mmの厚さを有するように、大きさ及び厚さを有することが好ましい。
【0029】
グリーンシートの形状は、電解質シートが適用される固体酸化物形燃料電池の形状に応じて適宜決定されればよいため、特に制限されない。
【0030】
セラミックセッター上に、最下層及び最上層にセラミック多孔質スペーサが配置されるように、セラミック多孔質スペーサと、上記のように作製されたグリーンシートとを交互に積み重ねて、セラミック多孔質スペーサとグリーンシートとからなる積層体を配置する。積み重ねられるグリーンシートの枚数は、その寸法にもよるが、例えば2〜20枚であり、好ましくは4〜12枚である。なお、セラミックセッター及びセラミック多孔質スペーサには、電解質シートを作製する際に一般的に用いられる、公知のセラミックセッター及びセラミック多孔質スペーサが使用できる。
【0031】
本実施の形態の製造方法において用いられるセラミック多孔質スペーサは、アルミナ、ジルコニア及びムライトからなる群から選択される少なくともいずれか1種を含む多孔質体からなることが好ましい。これらは、耐クリープ性及び耐スポーリング性に優れており、高温雰囲気下でジルコニアとの反応性が低いためである。
【0032】
セラミック多孔質スペーサの気孔率は、30%以上70%以下が好ましい。セラミック多孔質スペーサがこのような気孔率を有することにより、セラミック多孔質スペーサとジルコニア系グリーンシートとを交互に積み重ねた状態でジルコニア系グリーンシートを焼成する際に、バインダー、可塑剤及び分散剤等の有機成分の熱分解によって生成するガス成分を速やかに外部に放出させて脱脂効果を促進できるからである。気孔率が30%未満である多孔質スペーサを使用すると、通気性の低下によって有機成分の燃焼及び有機成分分解ガスの放出が不十分となり、積層体上に重しを載置しても、電解質シートに発生するうねり及び反りの高さが大きく、且つ多くなり、クラックや割れが生じる原因になる。一方、気孔率が70%を超える多孔質スペーサを使用すると、有機成分の燃焼及び有機成分分解ガスの効率的な放出が行われてうねり及び反りの発生は低減されるが、多孔質スペーサ自体の強度が不十分となるため、ハンドリング性が著しく低下して複数回の使用に耐えられなくなる他、多孔質スペーサ表面の平滑性も悪くなって電解質シートにクラックや割れが生じやすくなる等の問題が生じる。多孔質スペーサのより好ましい気孔率は35%以上65%以下であり、さらに好ましい気孔率は40%以上60%以下である。
【0033】
なお、ここでいう気孔率とは、JIS R2205の「耐火れんがの見掛気孔率の測定方法」に準拠して求められる気孔率のことである。試料の見掛気孔率(P0)は、乾燥試料の質量(W1)、飽水試料の水中の質量(W2)、飽水試料の質量(W3)から、下記式(1)で算出される。
0={(W3−W1)/(W3−W2)}×100 ・・・(1)
【0034】
また、多孔質スペーサの厚さが100μm未満では、気孔率が上記の好ましい範囲内であっても多孔質スペーサ自体のハンドリング強度が十分でなく、一方、厚さが500μmを超えると、ハンドリング強度は十分であるがジルコニア系グリーンシートからの有機成分分解ガスが効率良く放散されにくくなり、電解質シートにうねり及び反りが発生しやすくなる。多孔質スペーサのより好ましい厚さは120μm以上400μm以下であり、さらに好ましい厚さは150μm以上350μm以下である。
【0035】
多孔質スペーサの面積及び形状は、目的とする電解質シートの面積及び形状から特定されるジルコニア系グリーンシートの面積及び形状に基づいて決定される。したがって、多孔質スペーサの形状は、焼成するグリーンシートの形状と相似形であることが好ましく、円形、楕円形、角形又はR(アール)を持った角形等、いずれでもよく、これらの形状内に円形、楕円形、角形又はR(アール)を持った角形等の穴を有するものであってもよい。
【0036】
ジルコニア系グリーンシートは、多孔質スペーサと交互に積み重ねられた状態で焼成されるので、ジルコニア系グリーンシートにかかる荷重が均一になるようにする必要がある。そのためには、多孔質スペーサの面積は、ジルコニア系グリーンシートの面積よりも若干大きく、且つジルコニア系グリーンシートが多孔質スペーサの周縁からはみ出ないようにすることが好ましい。具体的には、ジルコニア系グリーンシートの周縁から多孔質スペーサがはみ出る寸法は、0.5〜5mmの範囲が好ましく、さらに好ましくは1〜3mm、特に好ましくは1〜2mmの範囲内である。そのための多孔質スペーサの好ましい面積は80cm2以上500cm2以下であり、より好ましい面積は100cm2以上400cm2以下となる。なお、多孔質スペーサの面積とは、スペーサに穴が設けられている場合は、当該穴の面積を含んだ多孔質スペーサ表面の面積(外形によって決定される面積)を意味する。
【0037】
本実施の形態の製造方法において用いられるセラミックセッターは、一般に、主に電子部品やガラスの焼成に使用されるセラミック製の焼成用治具のことであり、棚板や敷板とも呼ばれる。本実施の形態で用いられるセラミックセッターは、アルミナ、シリカ、マグネシア及びジルコニア等の酸化物、及び/又は、コージェライト、ジルコン及びムライト等の複合酸化物を含み、厚さが5〜30mm程度で、一辺が150〜400mm程度の平板状であり、セラミック多孔質スペーサが載置される敷板であることが好ましい。
【0038】
次に、セラミックセッター上に配置された積層体中のグリーンシートに対して、前焼成(工程(II)における焼成)を施す。このとき、積層体中のグリーンシートにかかる荷重が0.1〜3.0g/cm2の範囲内となるように、積層体の最上層に配置されたセラミック多孔質スペーサ上に重しを載置する。重しには、例えば板状又はブロック状の多孔質セラミックが使用される。重しによってグリーンシートにかけられる荷重は、セラミック多孔質スペーサの重量によってグリーンシートにかけられる荷重も考慮して、適宜調整される。すなわち、積層体中のグリーンシートにかかる、セラミック多孔質スペーサによる荷重と、重しによる荷重との合計が、0.1〜3.0g/cm2の範囲内となるように調整する。前焼成における焼成温度は、1000〜1300℃の範囲内とする。
【0039】
上記のような荷重条件及び温度条件の下で前焼成を行うことにより、後の本焼成(工程(III)における焼成)の荷重条件に適したジルコニア系の電解質シート前駆体が得られる。すなわち、後の本焼成において、前焼成で電解質シート前駆体に生じたうねり及び反りを矯正し、さらに、本焼成によってうねり及び反りが発生することを抑制するために、高荷重をかけて焼成を行った場合でも、その高荷重に耐え得る強度を備えた電解質シート前駆体を得ることができる。さらに、このような荷重条件及び温度条件の下で前焼成を行うことにより、前焼成による電解質シート前駆体の割れ及びクラックの発生も生じにくい。
【0040】
前焼成時にグリーンシートにかけられる荷重は、好ましくは0.15g/cm2以上、より好ましくは0.2g/cm2以上であり、また、好ましくは2.75g/cm2以下、より好ましくは2.5g/cm2以下である。前焼成時の焼成温度は、好ましくは1020℃以上、より好ましくは1050℃以上であり、また、好ましくは1280℃以下、より好ましくは1250℃以下である。このような荷重条件及び温度条件とすることにより、前焼成によって電解質シート前駆体に発生する割れ及びクラックをより確実に抑制でき、さらに、前焼成で生じるうねり及び反りを後の本焼成によってより確実に矯正できる。
【0041】
前焼成の後、セラミックセッター上の積層体に対して本焼成を行う。本焼成は、前焼成時の積層体を組み替えることなく、前焼成からの積層状態を維持したまま連続して行われる。ただし、積層体中の電解質シート前駆体にかかる荷重が3.0〜80.0g/cm2の範囲内となるように、積層体の最上層に配置された前記セラミック多孔質スペーサ上に重しを載置する。本焼成における焼成温度は、1350〜1500℃の範囲内とする。
【0042】
このような荷重条件及び温度条件の下で本焼成を行うことにより、前焼成で電解質シート前駆体に生じたうねり及び反りを矯正し、且つ本焼成によるうねり及び反りの発生を抑制できる。さらに、このような荷重条件及び温度条件の下で本焼成を行うことにより、本焼成によって得られる電解質シートの割れ及びクラックの発生も生じにくい。
【0043】
本焼成時に電解質シート前駆体にかけられる荷重は、好ましくは5.3g/cm2以上、より好ましくは6.0g/cm2以上であり、また、好ましくは70.0g/cm2以下、より好ましくは60.0g/cm2以下である。本焼成時に電解質シート前駆体にかける荷重は、前焼成時の荷重よりも高いことが望ましい。前焼成時の荷重と本焼成時の荷重とをこのような関係とすることで、前焼成によって発生した電解質シート前駆体のうねり及び反りを、本焼成によってより効果的に矯正することができる。前焼成時の焼成温度は、好ましくは1370℃以上、より好ましくは1390℃以上であり、また、好ましくは1480℃以下、より好ましくは1450℃以下である。このような荷重条件及び温度条件とすることにより、本焼成によって得られる電解質シートの割れ及びクラックの発生をさらに抑制し、且つ前焼成で生じたうねり及び反りをより確実に矯正できる。
【0044】
本焼成後に得られた焼結シートは、うねり及び反りが低減された、平坦性に優れているシートであり、固体酸化物形燃料電池の電解質シートとして利用される。
【実施例】
【0045】
次に、本発明について、実施例を用いて具体的に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施例によって何ら限定されるものではない。
【0046】
<ジルコニア系グリーンシートの作製方法>
[スカンジア部分安定化ジルコニア(4ScSZ)のグリーンシート]
市販のスカンジア部分安定化ジルコニア(4ScSZ)(以下、「4ScSZ」と記載する。)粉末(第一稀元素化学工業株式会社製、商品名「4ScSZ」、平均粒径:0.6μm)100質量部に対して、メタクリレート系共重合体からなるバインダー(分子量:1000000、ガラス転移温度:−8℃、固形分濃度:50質量%)を固形分換算で15質量部、分散剤としてソルビタン酸トリオレート2質量部、可塑剤としてジブチルフタレート3質量部、溶剤としてトルエン/イソプロパノール混合溶剤(質量比:3/2)50質量部を、ジルコニアボールが装入されたナイロンポケットに入れ、35時間混練して4ScSZスラリーを調製した。得られたスラリーを、碇型の攪拌機を備えた内容積50Lのジャケット付丸底円筒型減圧脱法容器へ移し、攪拌機を30rpmの速度で回転させながら、ジャケット温度40℃として減圧下(約4〜21kPa)で濃縮脱泡して粘度を5Pa・sに調整し、塗工用スラリーとした。この塗工用スラリーを塗工装置のスラリーダムに移し、ドクターブレード法によってポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に塗工し、塗工部に続く乾燥部(50℃、80℃及び110℃の3ゾーンを有する乾燥部)を0.4m/分の速度で通過させて乾燥させることにより、厚さ180μmの4ScSZグリーンシートを得た。このグリーンシートを切断して、直径が約118mmの円形の4ScSZグリーンシートを得た。
【0047】
[イットリア部分安定化ジルコニア(8YSZ)のグリーンシート]
市販のイットリア部分安定化ジルコニア(8YSZ)(以下、「8YSZ」と記載する。)粉末(第一稀元素化学工業株式会社製、商品名「HSY−8」、平均粒径:0.4μm)を用いたこと以外は、4ScSZグリーンシートと同様の方法で8YSZグリーンシートを作製した。ただし、得られた8YSZグリーンシートの厚さは325μmであった。
【0048】
[スカンジア−セリア安定化ジルコニア(10Sc1CeSZ)グリーンシート]
市販のスカンジア−セリア安定化ジルコニア(10Sc1CeSZ)(以下、「10Sc1CeSZ」と記載する。)粉末(第一稀元素化学工業株式会社製、商品名「10Sc1CeSZ」、平均粒径:0.5μm)を用いたこと以外は、4ScSZグリーンシートと同様の方法で10Sc1CeSZグリーンシートを作製した。ただし、得られた10Sc1CeSZグリーンシートの厚さは300μmであった。
【0049】
<セラミック多孔質スペーサの作製>
市販の低ソーダアルミナ粉末(昭和電工株式会社製、商品名「AL−13」、平均粒径:55μm)100質量部に対して、グリーンシートの作製時に用いた上記バインダー12質量部、上記分散剤1質量部、上記可塑剤2質量部及び上記溶剤35質量部を加え、さらに、気孔形成剤としてカーボンブラック10質量部を加えて、グリーンシート作製時と同様の方法でアルミナスラリーを調製した。このアルミナスラリーの粘度を、グリーンシート作製時と同様の方法で10Pa・sに調整して、塗工用スラリーとした。この塗工用スラリーを、グリーンシート作製時と同様の方法でPETフィルム上に塗工し、さらに乾燥させた。ただし、乾燥部の通過速度は0.8m/分であった。これにより、厚さ200μmのアルミナグリーンシートを得た。このアルミナグリーンシートを切断して、直径が約130mmの円形のアルミナグリーンシートを得た。
【0050】
切断された円形のアルミナグリーンシートを、表面が研磨されたアルミナ板上に載置し、その上に刷毛を用いてコーンスターチを均一に塗布した。その上に、さらに円形のアルミナグリーンシートを重ね合わせた。同様の操作を繰り返して、合計10枚のアルミナグリーンシートを、コーンスターチを介して重ね合わせた。その上に、さらに厚さ1.5mmのアルミナ板(三井金属工業株式以外社製、商品名「Y−1」、気孔率:約26%)を載置した。この状態で、大気雰囲気下で500℃にて脱脂を行い、その後1580℃で2時間焼成して、セラミック多孔質スペーサを得た。得られたスペーサは、厚さ180μm、直径120mm、気孔率55%、質量3.6gであった。
【0051】
<ジルコニア系グリーンシートの前焼成(本発明における工程(II)の焼成)>
300mm角セラミックセッターの上に、上記の方法で作製されたセラミック多孔質スペーサ及び4ScSZグリーンシートからなる積層体を配置した。具体的には、300mm角セラミックセッターの上にセラミック多孔質スペーサを4枚並べて載置し、それぞれの上に4ScSZグリーンシートを載置した。これら4ScSZグリーンシートそれぞれの上に、さらに、セラミック多孔質スペーサ及び4ScSZグリーンシートを交互に積み重ねて、最終的に、最下層及び最上層にセラミック多孔質スペーサが配置された、6枚のセラミック多孔質スペーサと5枚のグリーンシートとからなる4組の積層体をセラミックセッター上に配置した。積層体の最上層に位置するセラミック多孔質スペーサ上に、重しとして、ムライトとアルミナの結晶相を持つ多孔質ブロック(気孔率52%)を、表1に示された荷重となるように載置した。4組の積層体が配置されたセラミックセッター10枚(合計40組の積層体)を、コンベアベルト上に載置し、間口340mm、高さ20mm、前方が約500℃以下で温度設定可能な脱脂ゾーン、後方が約1500℃以下で温度設定可能な焼成ゾーンとなっているトンネル炉式の連続加熱炉に走行速度0.3m/時間で投入して、表1に示された温度を最高温度として前焼成を行った。なお、8YSZグリーンシート及び10Sc1CeSZグリーンシートについても、それぞれ同様の方法にて前焼成を行った。このような前焼成によって、電解質シート前駆体が得られた。
【0052】
<電解質シート前駆体の本焼成(本発明における工程(III)の焼成)>
上記のように前焼成された、4ScSZ電解質シート前駆体とセラミック多孔質スペーサとからなる積層体の最上層に位置するセラミック多孔質スペーサ上に、重しによる荷重が表1に示すとおりとなるように多孔質ブロックを追加して、再度上記連続加熱炉に走行速度1.0m/時間で投入して、表1に示された温度を最高温度として本焼成を行った。この本焼成によって、厚さの平均値が162μmで直径約100mmの円形の4ScSZ電解質シートを得た。なお、8YSZ電解質シート前駆体及び10Sc1CeSZ電解質シート前駆体についても、それぞれ同様の方法にて前焼成を行い、厚さの平均値が299μmで直径約100mmの円形の8YSZ電解質シート及び厚さの平均値が262μmで直径約100mmの円形の10Sc1CeSZ電解質シートを得た。
【0053】
<割れ・クラック発生率、シート破損率の算出>
前焼成後の電解質シート前駆体及び本焼成後の電解質シートについて、割れ及びクラックの有無を目視で観察し、割れ・クラック発生率及びシート破損率を、以下の式(2)〜(4)を用いてそれぞれ算出した。結果は、表1に示すとおりである。
前焼成後の割れ・クラック発生率(%)
={(前焼成後の割れ・クラック発生枚数)/200}×100 ・・・(2)
本焼成後の割れ・クラック発生率(%)
={(本焼成後の割れ・クラック発生枚数)/(200−(前焼成後の割れ・クラッ ク発生枚数)}×100 ・・・(3)
シート破損率(%)
={(前焼成後の割れ・クラック発生枚数+本焼成後の割れ・クラック発生枚数)/
200}×100 ・・・(4)
【0054】
<うねり高さ及び反り高さの測定>
前焼成後の電解質シート前駆体及び本焼成後の電解質シートについてのうねり高さ及び反り高さは、レーザ光学式非接触三次元形状測定装置(UBM社製、商品名「UBM1−14型 マイクロフォーカス エキスパート」、光源:半導体レーザ(780nm)、スポット径:1μm、垂直分離能:0.01μm)を使用して測定された。装置ワーク台上の目視でうねり及び反りが観察される電解質シート前駆体表面にレーザ光を照射し、スキャンさせて測定される最大高さ位置と最低高さ位置との差から求めた。うねり高さの測定の場合、スキャン方向はうねりの山頂部と谷底部とを通る方向であり、1つの電解質シート前駆体内に複数のうねりが観察される場合は、大きいと判断される順に4方向スキャンさせて測定した。また、反り高さの測定の場合のスキャン方向は直径方向であり、1つの電解質シート前駆体内に複数の反りが観察される場合は、大きいと判断される順に4方向スキャンさせて測定した。測定された前焼成後の電解質シート前駆体の反り高さ及びうねり高さのうち最大のものを、「最大反り高さ」及び「最大うねり高さ」として表1に示す。また、本焼成後の電解質シートについても、同様に反り高さ及びうねり高さを測定し、それぞれ最大のものを「最大反り高さ」及び「最大うねり高さ」として表1に示す。さらに、前焼成後の電解質シート前駆体の最大反り高さに対する、本焼成後の電解質シートの最大反り高さの前焼成後の電解質シート前駆体の最大反り高さからの減少を、反り高さ矯正率として表1に示す。同様に、前焼成後の電解質シート前駆体の最大うねり高さに対する、本焼成後の電解質シートの最大うねり高さの前焼成後の電解質シート前駆体の最大うねり高さからの減少を、うねり高さ矯正率として表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
表1に示すように、単位面積あたりの荷重が0.1〜3.0g/cm2の範囲内で、且つ焼成温度が1000〜1300℃の範囲内で前焼成を行った後、単位面積あたりの荷重が3.0〜80.0g/cm2の範囲内で、且つ焼成温度が1350〜1500℃の範囲内で本焼成を行った、試験例1,2,5,6,7,9,10で得られた焼結シートは、焼成による破損率が5%以下でありながら、うねり高さ及び反り高さの矯正率が40%以上であった。すなわち、本発明の製造方法によって得られた焼結シートは、割れやクラックの発生が抑制され、且つうねり高さ及び反り高さが低減されていた。
【0057】
これに対し、試験例8のように、前焼成時の荷重が3.0g/cm2よりも大きいと、前焼成の段階で割れ及びクラックの発生率が非常に大きくなってしまった。そのため、試験例8のように前焼成時に大きな荷重をかける方法は、本焼成を行うまでもなく、適切でないことがわかった。
【0058】
試験例3のように、本焼成時の荷重が3.0g/cm2よりも小さいと、破損率は小さくできるが、前焼成で発生したうねり及び反りはその高さがほとんど矯正されず、矯正率は20%以下であった。試験例4のように本焼成時の荷重が80.0g/cm2よりも大きいと、割れやクラックの発生が非常に大きくなり、シート破損率が20%近くまで高くなった。
【0059】
試験例11では、本焼成における荷重条件及び温度条件は試験例1と同じであったが、前焼成は行われなかった。そこで、試験例1と試験例11とを比較すると、試験例11ではシート破損率が10%を超えており、試験例1に対してシート破損率が2倍以上高くなっていた。さらに、試験例11で得られるシートは、最大うねり高さ及び最大反り高さが試験例1で得られるシートよりも大きかった。この結果から、前焼成を行わない1段階焼成において、シートのうねり及び反りを抑制するために従来よりも高い荷重をかけて本焼成を行った場合、発生したうねりや反りがその荷重に耐えられずに破損しやすくなると考えられる。さらに、この結果から、1段焼成で荷重を大きくするだけでは、シートに発生するうねり及び反りを十分に抑制することが困難であることもわかった。すなわち、本発明で特定された荷重条件及び温度条件の下でグリーンシートの前焼成を行うことによって、本焼成時の大きい荷重に耐えられる状態の電解質シート前駆体を得ることができ、この電解質シート前駆体に対して大きい荷重をかけて本焼成を行うことによって、シート破損率が低く、且つうねり及び反りが低減された電解質シートを得ることができる。
【0060】
また、試験例12のように、前焼成を行わない1段焼成において、シートの破損を抑制するために荷重を1.8g/cm2まで小さくすると、試験例11の場合よりも破損率を低くすることはできたが、うねり高さ及び反り高さが非常に大きくなった。一方、試験例13のように、1段焼成において荷重を100.0g/cm2とすると、試験例11の場合よりもうねり高さ及び反り高さを低くすることはできたが、破損率は非常に大きくなり40%を超えてしまった。
【0061】
試験例14〜17は、前焼成及び本焼成の2段焼成を行い、前焼成時の荷重及び本焼成時の荷重が本発明において特定された範囲内であるが、前焼成及び/又は本焼成の温度が本発明において特定された温度範囲外である試験例である。試験例14は、前焼成時の温度が1000℃よりも低く、本焼成時の温度が1350℃よりも低かった。この試験例14では、シート破損率は1.0%と非常に低かったが、うねり高さ及び反り高さの矯正率は15%以下と低かった。本焼成の温度が1500℃を超える試験例15では、本焼成での割れ及びクラック発生率が大きく、シート破損率は30%近くであった。また、前焼成の温度が1300℃を超えており、且つ、本焼成の温度が1350℃よりも低い試験例16では、うねり高さ及び反り高さの矯正率が10%以下と非常に低かった。前焼成の温度が1300℃を超えており、且つ、本焼成の温度が1500℃を超えている試験例17では、シート破損率が20%を超えていた。
【0062】
次に、最終的に得られた電解質シートを、同じシート材料同士で比較する。スカンジアを含むジルコニアをシート材料として用いた試験例1,3,5,7,9〜14及び16では、本発明の製造方法を満たしている試験例1,5,7,9及び10によって得られた電解質シートの最大うねり高さ及び最大反り高さが、本発明の製造方法を満たしていない他の試験例よりも低かった。他の試験例のうち、最大うねり高さ及び最大反り高さが比較的低かった試験例13は、シート破損率が非常に高く、生産性の点から電解質シートの製造方法として適切ではないと考えられた。
【0063】
以上の結果、本発明の製造方法によれば、シート生産性とシート品質との両方を満足する電解質シートが得られることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の燃料電池用電解質シートの製造方法は、平坦性の高い電解質シートを生産性高く提供できるので、例えば電解質シートが高価格材料からなる場合であっても、電解質シートの製造方法として好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(I)セラミックセッター上に、最下層及び最上層にセラミック多孔質スペーサが配置されるように、セラミック多孔質スペーサとジルコニア系グリーンシートとを交互に積み重ねて、前記セラミック多孔質スペーサと前記グリーンシートとからなる積層体を配置する工程と、
(II)前記積層体中の前記グリーンシートにかかる荷重が0.1〜3.0g/cm2の範囲内となるように、前記積層体の最上層に配置された前記セラミック多孔質スペーサ上に重しを載置して、前記積層体中の前記グリーンシートを1000〜1300℃の温度で焼成して電解質シート前駆体を作製する工程と、
(III)前記工程(II)の後に、前記積層体中の前記電解質シート前駆体にかかる荷重が3.0〜80.0g/cm2の範囲内となるように、前記積層体の最上層に配置された前記セラミック多孔質スペーサ上に重しを載置して、前記積層体中の前記電解質シート前駆体を1350〜1500℃の温度で焼成する工程と、
を含む、燃料電池用電解質シートの製造方法。
【請求項2】
前記グリーンシートが、スカンジア、イットリア、セリア及びイッテルビアからなる群から選択される少なくともいずれか1種を含むジルコニア系グリーンシートである、
請求項1に記載の燃料電池用電解質シートの製造方法。
【請求項3】
前記セラミック多孔質スペーサが、アルミナ、ジルコニア及びムライトからなる群から選択される少なくともいずれか1種を含む多孔体である
請求項1又は2に記載の燃料電池用電解質シートの製造方法。
【請求項4】
前記製造方法によって得られる燃料電池用電解質シートが、50〜1000cm2の面積を有し、且つ0.05〜0.5mmの厚さを有する、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池用電解質シートの製造方法。


【公開番号】特開2012−74207(P2012−74207A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217364(P2010−217364)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】