説明

燃料電池用電解質複合層および燃料電池、燃料電池用電解質複合層の製造方法

【課題】燃料電池の発電性能を向上させる技術を提供する。
【解決手段】燃料電池100は、電極31,32で狭持された電解質複合層20を備える。電解質複合層20は、水素を選択的に透過する水素透過性金属膜15と、水素透過性金属膜15に積層された電解質層10とを有する。電解質層10は、厚み方向に連通するとともに曲折する複数の細孔11pが設けられた多孔質薄膜11を母材として構成されており、プロトン伝導性を有する無機質の電解質12が、多孔質薄膜11の細孔11p内に含浸されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池としては、プロトン伝導性を有する無機質の電解質を有する電解質層を備えるものがある(下記特許文献1等)。こうした燃料電池では、発電性能を向上させるために、電解質層を薄型化して、そのプロトン伝導性を向上させることが要求されてきた。しかし、電解質層を薄型化するのみでは、プロトン伝導性は十分に向上せず、燃料電池の発電性能は十分に向上していなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−310606号公報
【特許文献2】国際公開WO2005/088749号パンフレット
【特許文献3】特開2007−273429号公報
【特許文献4】特開2007−250312号公報
【特許文献5】特開2007−214008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、燃料電池の発電性能を向上させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]
燃料電池用電解質複合層であって、水素を選択的に透過する水素透過性金属膜と、前記水素透過性金属膜に積層され、厚み方向に連通するとともに曲折する複数の連通孔が設けられた多孔質層と、を備え、前記多孔質層は、前記連通孔内に含浸されたプロトン伝導性を有する無機質の電解質を含む、燃料電池用電解質複合層。
この燃料電池用電解質複合層であれば、多孔質層にプロトン伝導性を有する電解質を含浸させることにより構成される電解質層を、水素透過性金属膜に積層させることによって、反応ガスのクロスリークを抑制しつつ薄型化することが可能である。また、多孔質層の連通孔が曲折しているため、連通孔内に含浸される電解質と多孔質層との接触界面を増加させることができ、プロトン伝導層におけるプロトン伝導性を、より向上させることができる。従って、この燃料電池用電解質複合層であれば、燃料電池の発電効率を向上させることができる。
【0007】
[適用例2]
適用例1記載の燃料電池用電解質複合層であって、前記多孔質層が、リン酸シリケートにより構成されている、燃料電池用電解質複合層。
この燃料電池用電解質複合層であれば、多孔質層がリン酸シリケートによって構成されるため、より良好なプロトン伝導性を得ることができる。
【0008】
[適用例3]
燃料電池であって、適用例1または2に記載の燃料電池用電解質複合層と、前記燃料電池用電解質複合層の両側に配置される電極とを備える、燃料電池。
この燃料電池によれば、プロトン伝導性が良好な燃料電池用電解質複合層を用いているため、発電性能が向上する。
【0009】
[適用例4]
燃料電池用電解質複合層の製造方法であって、
(a)水素を選択的に透過する水素透過性金属膜を準備する工程と、
(b)前記水素透過性金属膜の面上に、厚み方向に連通する曲折した複数の連通孔が設けられた多孔質層を形成する工程と、
(c)前記多孔質層の前記連通孔内に、プロトン伝導性を有する無機質の電解質を含浸させる工程と、
を備える、製造方法。
この製造方法によれば、プロトン伝導性の良好な燃料電池用電解質複合層を得ることができる。
【0010】
[適用例5]
適用例4記載の製造方法であって、前記工程(b)は、前記多孔質層の構成元素を含む材料と溶媒とを混合した混合溶液を、静電力を利用して、前記水素透過性金属膜に向かって噴霧することにより前記多孔質層を形成する工程を含む、製造方法。
この製造方法によれば、薄型化された多孔質層を水素透過性金属膜の面上に、容易に形成することができる。
【0011】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、燃料電池、その燃料電池を備えた燃料電池システム、その燃料電池システムを搭載した車両等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】燃料電池の構成を示す概略図。
【図2】単セルの製造工程を工程順に示す模式図。
【図3】静電噴霧法による多孔質薄膜の成膜工程をより詳細に説明するための模式図。
【図4】細孔への電解質の含浸工程を説明するための模式図。
【図5】本発明の発明者が静電噴霧法を行ったときの処理条件を示す説明図。
【図6】本発明の発明者が作成した多孔質薄膜層のサンプルの画像を示す説明図。
【図7】実施例および比較例の発電体のI−V特性を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
A.実施形態:
図1は本発明の一実施形態としての燃料電池の構成を示す概略図である。この燃料電池100は、発電体である単セル50が複数個積層されたスタック構造を有しており、反応ガスとして水素と酸素の供給を受けて発電する。単セル50は、プロトン伝導性を有する電解質複合層20と、電解質複合層20を両側から狭持する第1と第2の電極31,32とを備える。また、単セル50は、電解質複合層20と2つの電極31,32とが積層された積層体40を外側から狭持する第1と第2のセパレータ41,42を備える。
【0014】
電解質複合層20は、プロトン伝導層である電解質層10と、水素分離膜とも呼ばれる水素透過性金属膜15とを備える。電解質層10は、水素透過性金属膜15の外表面に形成された多孔質薄膜11の細孔11pに、プロトン伝導性を有する無機質の固体酸である電解質12を含浸させた、プロトン伝導性を有する層である。なお、細孔11pは、多孔質薄膜11の両面を連通する曲折した連通孔であり、多孔質薄膜11の全体に渡ってほぼ均一に分散して形成されている。
【0015】
ここで、燃料電池における電解質層は、電解質の単層として形成するより、多孔質な基材を母材(マトリックス)として、その細孔内に電解質を含浸させた方が向上することが知られている(後述する参考例を参照)。本発明の発明者らは、独自に行った実験の結果から、その多孔質な基材と電解質との接触面積が大きいほど、プロトン伝導性がより向上するとの推察を得た。そこで、本実施形態の燃料電池100では、電解質層10を構成する多孔質薄膜11の細孔11pを曲折する連通孔として構成することにより、電解質12と多孔質薄膜11との接触面積を増大させている。
【0016】
多孔質薄膜11は、例えばリン酸シリケートによって構成することができる。電解質12としては、例えば、硫酸水素セシウム(CsHSO4)や、リン酸二水素セシウム(CsH2PO4)、リン酸五水素セシウム(CsH5(PO42)などを用いることができる。この電解質層10の製造方法については後述する。
【0017】
水素透過性金属膜15は、水素を選択的に透過する緻密な金属薄膜であり、反応ガスが電解質複合層20を透過して供給された側の電極とは反対側の電極へと反応ガスが透過する、いわゆるクロスリークを抑制する。また、本実施形態の燃料電池100では、水素透過性金属膜15を、電解質層10を支持するための支持基材としても機能させることにより、電解質層10を薄型化し、電解質複合層20におけるプロトン伝導性を向上させている。
【0018】
水素透過性金属膜15としては、例えば、パラジウム(Pd)やPd合金を用いることができる。また、その他に、バナジウム(V)やニオブ(Nb)、タンタル(Ta)等の5族金属の単体、あるいは、それら5族金属を含む合金を用いることができる。なお、水素透過性金属膜15として後者の5族金属を用いる場合、水素透過性金属膜15の両面には、PdもしくはPd合金の被覆層が形成されることが好ましい。この理由は、水素透過性金属膜15の電解質膜10とは反対側の面に形成された被覆層をアノード電極触媒として機能させ、電解質膜10側の面に形成された被覆層を水素透過性金属膜15の酸化防止層として機能させることができるためである。
【0019】
第1の電極31は、アノードとして水素透過性金属膜15側に配置され、第2の電極32は、カソードとして電解質層10側に配置される。これら2つの電極31,32は、ガス拡散性を有する導電性部材によって構成され、電解質複合層20の全体に反応ガスを行き渡らせるガス流路としても機能する。2つの電極31,32は、炭素繊維や黒鉛繊維などの繊維基材や、発泡金属、金属メッシュなどの多孔質金属部材によって構成することができる。
【0020】
電極31,32の電解質複合層20側の面には、電気化学反応を促進するための触媒層が形成されている。触媒としては、例えば、白金(Pt)を用いることができる。ただし、燃料電池100では、アノード側に水素のプロトン化を促進する水素透過性金属膜15が配置されているため、第1の電極31(アノード)側の触媒層は省略されても良い。なお、電解質複合層20に電極31,32が接合された積層体40は、MEA(Membrane Electrode Assembly)とも呼ばれる。
【0021】
第1のセパレータ41は、積層体40のアノード側に配置され、第2のセパレータ42は、積層体40のカソード側に配置される。各セパレータ41,42は、金属板などのガス不透過の導電性を有する部材によって構成され、それぞれの電極31,32側の面には、反応ガスのための流路溝43が形成されている。なお、2つのセパレータ41,42の内部や外側の面には、各単セル50同士の間に冷媒を流入させるための冷媒流路が設けられるものとしても良い。
【0022】
図2(A)〜(D)は、単セル50の製造工程を工程順に示す模式図である。第1工程では、水素透過性金属膜15を準備する(図2(A))。第2工程では、水素透過性金属膜15の一方の面に、静電噴霧法(ESD;Electrostatic Spray Deposition)によって、細孔11pを有する多孔質薄膜11を形成する(図2(B))。ここで、「静電噴霧法」とは、材料の溶液を、静電力を利用して、基材に向かって噴霧することにより、基材表面に薄膜を形成する方法である。
【0023】
図3は、第2工程における静電噴霧法による多孔質薄膜11の成膜工程をより詳細に説明するための模式図である。図3(A)は、水素透過性金属膜15に多孔質薄膜11を形成する成膜装置200の構成を示す概略図である。成膜装置200は、ノズル210と、シリンジ装置212と、基台220と、直流電源230とを備える。ノズル210は、基台220の上方において、基台220に向かって開口するように設置されている。シリンジ装置212は、配管213を介してノズル210と接続されており、材料の溶液をノズル210に供給する。
【0024】
基台220の台面上には、ノズル210の開口部211と対向するように、電極板221が配置されている。成膜の際には、電極板15の板面上に、成膜基材である水素透過性金属膜15が載置される。なお、ノズル210の開口部211と電極板15との間の距離は任意に調整可能である。
【0025】
基台220の内部には、載置された水素透過性金属膜15を加熱可能なようにヒータ222が設けられている。また、基台220の内部には、ヒータ222による加熱温度を検出するための熱電対が設けられているが、その図示は省略する。直流電源230は、直流電源ライン231を介して、電極板221と、ノズル210とに電気的に接続されている。直流電源230は、ノズル210を陽極とし、電極板221を陰極として、ノズル210と電極板221との間に高電圧(例えば4〜6kV)を印加する。
【0026】
図3(B)は、ノズル210の開口部211からの材料溶液の噴霧を説明するための模式図である。この成膜装置200による成膜工程では、ノズル210と電極板221との間に高電圧が印加された状態で、シリンジ装置212からノズル210に、材料の溶液が供給される。ノズル210の開口部211では、材料の溶液が正の電荷を帯びて陰極側(下方の電極板221側)へと引っ張られ、その液面Sが先細り状となって垂下する。電極板221からの引力と、液面Sにおける電荷同士の斥力との合力が、液面Sの表面張力より大きくなったときに、溶液の液滴が、液面Sの先端から、電極板221に載置された水素透過性金属膜15に向かって、連続的に吐出される。
【0027】
吐出された液滴は、水素透過性金属膜15の外表面に近づくに従って、液滴内における電荷同士の斥力によってより細かい液滴へと分裂し、噴霧状に拡散する。また、基台220のヒータ222の加熱により溶媒が蒸発するため、液滴は、水素透過性金属膜15の外表面に近づくほど縮小していく。水素透過性金属膜15へと到達した材料が付着・堆積することにより、水素透過性金属膜15の外表面には薄膜が形成される。この水素透過性金属膜15に形成された薄膜を所定の時間だけ焼成することにより、多孔質薄膜11が形成される(図2(B))。
【0028】
なお、多孔質薄膜11の厚みや、細孔11pの孔径、気孔率などの多孔質薄膜11の構造は、成膜装置200における処理条件によって異なってくる。具体的な処理条件としては、ノズル210と水素透過性金属膜15との間の距離(以後、「噴霧距離」と呼ぶ)や、直流電源230による印加電圧、シリンジ装置212からの溶液の供給流量、処理時間(「堆積時間」とも呼ぶ)、ヒータ222による加熱温度(「堆積温度」とも呼ぶ)、材料溶液の濃度などがある。
【0029】
図4は、第3工程として、多孔質薄膜11の細孔11pへ電解質12を含浸させる工程を説明するための模式図である。この工程では、溶液槽300に、加熱融解した電解質溶液301を貯める。そして、溶液槽300の槽内を吸引ポンプ310によって減圧させた状態で、多孔質薄膜11が形成された水素透過性金属膜15を、電解質溶液301に所定の時間だけ浸漬させる。これによって、多孔質薄膜11の細孔11pに電解質12を含浸させることができ、電解質複合層20が形成される(図2(C))。
【0030】
第4工程(図2(D))では、電解質複合層20の両側に電極31,32を配置して積層体40を形成する。具体的には、電極31,32の基材(例えばカーボンペーパ)の一方の面に、触媒担持カーボンを塗布し、その塗布面と電解質複合層20とを接触させてホットプレスすることにより接合する。次に、この第4工程では、積層体40をセパレータ41,42によって狭持することにより単セル50を構成する。これらの工程により製造された複数の単セル50を積層・締結することにより、燃料電池100が完成する。
【0031】
このように、本実施形態の燃料電池100では、電解質複合層20が水素透過性金属膜15を有することにより、電解質複合層20を介した反応ガスのクロスリークを抑制しつつ、電解質層10を薄型化することができる。また、電解質層10において、電解質12を保持するための母材である多孔質薄膜11の細孔11pを曲折した連通孔として構成することにより、電解質12と多孔質薄膜11との間の接触面積が増加している。従って、電解質複合層20におけるプロトン伝導性が向上されている。この電解質複合層20を用いた燃料電池100であれば、その発電性能が向上する。
【0032】
B.多孔質薄膜層の作成例:
図5,図6は本発明の発明者が行った静電噴霧法による多孔質薄膜11の作成例を説明するための説明図である。図5には、本発明の発明者が静電噴霧法を行ったときの処理条件を作成サンプルごとにまとめた表が示されている。本発明の発明者は、以下に説明する条件下で、多孔質薄膜11の作成サンプルとして3つのサンプルS1〜S3を作成した。
【0033】
各サンプルS1〜S3の共通の作成条件は以下の通りである。
<材料溶液>
いずれのサンプルS1〜S3も、次の材料溶液を用いて形成した。即ち、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(C8183;ナカライテスク社製)を溶媒として、リン酸(H3PO4;和光純薬社製)と、オルトケイ酸テトラエチル((C25O)4Si;和光純薬社製、特級)とを混合した混合溶液を材料溶液として用いた。なお、材料溶液の濃度は、各サンプルS1〜S3ごとに変えた。
<成膜基板>
いずれのサンプルS1〜S3も、厚さ100μmのPd基板を水素透過性金属膜15として、その表面上に成膜した。
<その他>
なお、ヒータ222による水素透過性金属膜15の加熱温度は熱電対により検出して制御した。さらに、静電噴霧法によって成膜された薄膜は、400℃で6時間かけて焼成した。
【0034】
次に、各サンプルS1〜S3ごとに異なる作成条件は、以下の通りである。
<サンプルS1>
サンプルS1は、H3PO4の体積モル濃度が0.04mol/Lであり、(C25O)4Siの体積モル濃度が0.016mol/Lである混合溶液を材料として用いた。また、噴霧距離を40mmとし、直流電源230による印加電圧を5.4kVとし、シリンジ装置212からの溶液の供給流量を2.0ml/hとし、水素透過性金属膜15の温度を250℃に制御し、処理時間を24時間とした。
<サンプルS2>
サンプルS2は、H3PO4の体積モル濃度が0.01mol/Lであり、(C25O)4Siの体積モル濃度が0.004mol/Lである混合溶液を材料として用いた。また、噴霧距離を25mmとし、直流電源230による印加電圧を4.5kVとし、シリンジ装置212からの溶液の供給流量を4.0ml/hとし、水素透過性金属膜15の温度を300℃に制御し、処理時間を3時間とした。
<サンプルS3>
サンプルS3は、H3PO4の体積モル濃度が0.04mol/Lであり、(C25O)4Siの体積モル濃度が0.016mol/Lである混合溶液を材料として用いた。また、噴霧距離を40mmとし、直流電源230による印加電圧を4.9kVとし、シリンジ装置212からの溶液の供給流量を2.0ml/hとし、水素透過性金属膜15の温度を275℃に制御し、処理時間を24時間とした。
【0035】
図6(A)〜(F)は、上記の処理条件により作成されたサンプルS1〜S3を撮影した画像である。図6(A)はサンプルS1の表面を撮影した画像であり、図6(B)はサンプルS1の断面を撮影した画像である。図6(C)はサンプルS2の表面を撮影した画像であり、図6(D)はサンプルS2の断面を撮影した画像である。図6(E)はサンプルS3の表面を撮影した画像であり、図6(F)はサンプルS3の断面を撮影した画像である。なお、図6(A)〜(F)の各画像には、画像の縮尺を示すスケールが付してある。また、図6(B),(D),(F)には、各サンプルS1〜S3の厚みが示してある(サンプルS1:18μm、サンプルS2:11.5μm、サンプルS3:17μm)。
【0036】
サンプルS1は、サンプルS1〜S3の中で、細孔の目の粗さが中程度であり、膜の厚みが最も厚くなった。サンプルS2は、サンプルS1〜S3の中で、細孔の目の粗さが最も粗くなったが、膜の厚みが最も薄く形成された。即ち、サンプルS2を用いれば、電解質複合層20を形成したときに、プロトンの伝導経路の距離(膜の厚み)を最も短くすることができるとともに、曲折した細孔によって電解質12と多孔質薄膜11との接触面積を増加させることができる。サンプルS3は、サンプルS1〜S3の中で最も目が細かい細孔が形成された。即ち、サンプルS3を用いれば、電解質複合層20を形成したときに、電解質12と多孔質薄膜11との接触面積を最も大きくすることができる。
【0037】
C.実施例:
図7は、本発明の発明者による実験結果を示すグラフである。本発明の発明者は、本発明の実施例として、上記のサンプルS2を用いて電解質層を形成するとともに、その電解質層の両側に電極を配置して発電体を構成し、そのI−V特性を測定した。具体的には、以下のように実験を行った。
【0038】
多孔質薄膜に含浸させる電解質としては、CsH5(PO42を用いた。CsH5(PO42は、H3PO4(和光純薬社製)と、炭酸セシウム(Cs2CO3;Aldrich社製、99%)とを、モル比4:1で混合した水溶液を、12時間程度、100℃で加熱・乾燥させることにより粉末として得た。なお、この粉末をXRD測定した結果、全てのピークがCsH5(PO42相に帰属していたことを確認した(JCPDSカードの24−0252に一致)。
【0039】
このCsH5(PO42粉末を融解させた電解質溶液(温度160℃)に、上記のサンプルS2を、8hPaの圧力下で、30分程度浸漬させることにより、サンプルS2の細孔にCsH5(PO42を含浸させた。こうして形成された電解質層の両側に、電極として、白金担持カーボンを塗布したカーボンペーパを接着した。なお、電極の単位面積あたりの白金担持量は、1mg/cm2とした。発電試験は、それぞれの電極に、加湿度30%の水素と、加湿度30%の酸素とを供給し、温度200℃で行った。
【0040】
ここで、本発明の発明者は、以下に説明する比較例としての発電体を作成し、そのI−V特性も測定した。比較例の発電体は、電解質が含浸される多孔質薄膜の構成が異なる点以外は、実施例の発電体と同様の構成により形成された。比較例の発電体では、多孔質薄膜として、共晶分解シリカによって構成され、厚み方向にほぼ直線状に延びる細孔が、規則的に配列されるように形成されたものを用いた。具体的には、比較例の多孔質薄膜は、水素透過性金属膜(Pd基板)の表面に、スパッタ法により成膜することにより得られた。成膜の原料(ターゲット)としては、酸化鉄(FeO)と、酸化ケイ素(SiO2)とが7:3の割合で混合された混合物を用いた。なお、薄膜が形成されたPd基板を、温度600℃で、2時間程度焼成することにより、薄膜のFeOとSiO2とを共晶化した。また、濃度15%の塩酸水溶液を用いて、薄膜をエッチングし、酸化鉄部分を除去することにより、薄膜に上述したような細孔群を形成した。比較例の発電体のI−V特性は、実施例の発電体と同様な条件下で測定した。
【0041】
図7のグラフには、実施例の発電体のI−V特性が実線で示され、比較例の発電体のI−V特性は一点鎖線で示されている。これらのグラフが示すように、実施例の発電体の方が、低電圧・高電流密度の発電が可能であり、発電効率が向上していた。この実験から、曲折した細孔を有する多孔質薄膜を用いてプロトン伝導層を形成することにより、燃料電池の発電性能を向上させることができることがわかる。
【0042】
D.参考例:
本発明の参考例として、下記の参考文献に記載された電解質層の構成の相違による導電率の温度依存特性の変化について説明する。
[参考文献]
Toshiaki MATSUI,Hiroki MUROYAMA,Ryuji KIKUCHI,and Koichi EGUCHI,"Development of Novel Proton Conductors Consisting of Solid Acid/pyrophosphate Composite for Intermediate-temperature Fuel Cells ",Journal of the Japan Petroleum Institute,53,(1),1-11(2010)
この参考文献のFig.4には、実験によって得られた4種類の電解質層の導電率についての温度依存特性が、縦軸を導電率の対数とし、横軸を絶対温度の逆数とするグラフにより示されている。
【0043】
ここで、Fig.4において、「●」でプロットされたグラフは、SiP27をマトリックスとして、その細孔に無機電解質であるCsH2PO4を含浸させた電解質層(以下、「第1の電解質層」と呼ぶ)についてのグラフである。なお、第1の電解質層は、CsH2PO4とSiP27とのモル比が1:2である。「◇」でプロットされたグラフは、マトリックスを設けず、CsH2PO4の単層として構成された電解質層(以下、「第2の電解質層」と呼ぶ)についてのグラフである。
【0044】
「▽」でプロットされたグラフは、SiO2をマトリックスとして、その細孔に無機電解質であるCsH2PO4を含浸させた電解質層(以下、「第3の電解質層」と呼ぶ)についてのグラフである。なお、第3の電解質層は、CsH2PO4とSiO2とのモル比が2:1である。「×」でプロットされたグラフは、マトリックスを設けず、SiP27の単層として構成した電解質層(以下、「第4の電解質層」と呼ぶ)についてのグラフである。
【0045】
第1の電解質層についてのグラフと、第2の電解質層についてのグラフとを比較すると、以下のことがわかる。即ち、マトリックスを有していない第2の電解質層が、ある温度(約230℃)より低下したときに導電率が著しく低下しているのに対し、マトリックスを有する第1の電解質層の方は、温度変化にかかわらず導電率が比較的安定的に高い。また、第1の電解質層についてのグラフと、第3の電解質層についてのグラフとを比較すると、以下のことがわかる。即ち、マトリックスを有している場合であっても、マトリックスにリン酸を含む第1の電解質層の方が、リン酸を含まない第2の電解質層よりも温度変化にかかわらず安定的に高い導電率を示している。
【0046】
このように、参考文献において示されたこれらのグラフからもわかるように、電解質層は、マトリックスを有することが好ましい。また、そのマトリックスが、リン酸シリケートのようにリン酸を含む部材によって構成されていることが、さらに好ましい。
【0047】
E.変形例:
なお、この発明は上記の実施形態や実施例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0048】
E1.変形例1:
上記実施形態では、静電噴霧法を用いて多孔質薄膜11を形成していた。しかし、多孔質薄膜11は、他の方法により形成されるものとしても良い。例えば、多孔質薄膜11は、材料を溶かした有機溶剤をドクターブレード法などによって、水素透過性金属膜15の表面に略均一に塗布し、焼成することにより形成されるものとしても良い。
【0049】
E2.変形例2:
上記実施形態では、電解質複合層20は、多孔質薄膜11を水素透過性金属膜15の表面に直接的に成膜することにより形成されていた。しかし、電解質複合層20は、別個に準備された多孔質薄膜11と水素透過性金属膜15とを積層し、接着することにより形成されるものとしても良い。ただし、多孔質薄膜11を水素透過性金属膜15の表面に直接的に成膜することにより形成することにより、多孔質薄膜11をより薄型化することができるため、電解質複合層20におけるプロトン伝導性をより向上させることが可能である。
【0050】
E3.変形例3:
上記実施例において、多孔質薄膜11は、リン酸シリケートによって構成されていた。しかし、多孔質薄膜11は、他の部材によって構成されるものとしても良い。例えば、多孔質薄膜11は、シリカによって構成されるものとしても良い。ただし、多孔質薄膜11をリン酸シリケートによって構成した方が、電解質複合層20におけるプロトン伝導性をより向上させることができる。なお、多孔質薄膜11のリン酸シリケートによってプロトン伝導性が向上する理由としては、リン酸シリケートを構成するリン酸がプロトン伝導に寄与するためであると推察される。
【0051】
E4.変形例4:
上記実施例において、電解質12を融解した溶液に、多孔質薄膜11を浸漬させることにより、細孔11pに電解質12を含浸させていた。しかし、細孔11pへの電解質12の含浸は、他の方法によって実行されるものとしても良い。例えば、電解質12を融解した溶液を細孔11pに向かって注入するものとしても良い。
【符号の説明】
【0052】
10…電解質層
11…多孔質薄膜
11p…細孔
12…電解質
15…水素透過性金属膜
20…電解質複合層
31…第1の電極
32…第2の電極
40…積層体
41…第1のセパレータ
42…第2のセパレータ
43…流路溝
50…単セル
100…燃料電池
200…成膜装置
210…ノズル
211…開口部
212…シリンジ装置
213…配管
220…基台
221…電極板
222…ヒータ
230…直流電源
231…直流電源ライン
300…溶液槽
301…電解質溶液
310…吸引ポンプ
S…液面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池用電解質複合層であって、
水素を選択的に透過する水素透過性金属膜と、
前記水素透過性金属膜に積層され、厚み方向に連通するとともに曲折する複数の連通孔が設けられた多孔質層と、
を備え、
前記多孔質層は、前記連通孔内に含浸されたプロトン伝導性を有する無機質の電解質を含む、燃料電池用電解質複合層。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池用電解質複合層であって、
前記多孔質層が、リン酸シリケートにより構成されている、燃料電池用電解質複合層。
【請求項3】
燃料電池であって、
請求項1または2に記載の燃料電池用電解質複合層と、
前記燃料電池用電解質複合層の両側に配置される電極と、
を備える、燃料電池。
【請求項4】
燃料電池用電解質複合層の製造方法であって、
(a)水素を選択的に透過する水素透過性金属膜を準備する工程と、
(b)前記水素透過性金属膜の面上に、厚み方向に連通する曲折した複数の連通孔が設けられた多孔質層を形成する工程と、
(c)前記多孔質層の前記連通孔内に、プロトン伝導性を有する無機質の電解質を含浸させる工程と、
を備える、製造方法。
【請求項5】
請求項4記載の製造方法であって、
前記工程(b)は、前記多孔質層の構成元素を含む材料と溶媒とを混合した混合溶液を、静電力を利用して、前記水素透過性金属膜に向かって噴霧することにより前記多孔質層を形成する工程を含む、製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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