説明

燃料電池発電システム及びその性能回復方法並びに性能回復プログラム

【課題】長期的な性能維持効果と短期的な電圧回復効果の最適化を図って、長期的にも短期的にも優れた耐久性能・発電効率を発揮可能である、燃料電池発電システム及びその性能回復方法並びに性能回復プログラムを提供する。
【解決手段】システムの累積運転時間が20,000時間以下の場合では、第1の電圧回復ステップを実行して、燃料電池スタック1に発生する平均セル電圧の低下量を300mV以下に抑え、酸化剤極1bでのカーボン腐食を防ぐ。一方、システムの累積運転時間が20,000時間を超えた場合には、第2の電圧回復ステップを実行して、燃料電池スタック1に発生する平均セル電圧が100mV以下となるまで低下させ、十分な触媒還元処理を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池発電システムの性能回復技術に係り、特に、酸化剤極電位の一時的な低下により酸化剤極触媒の還元処理を行って電圧回復を図る燃料電池発電システム及びその性能回復方法並びに性能回復プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池を利用した発電システムが注目を集めている。燃料電池とは、電解質を挟んで燃料極と酸化剤極とを配置してなる単電池(セル)を複数備えた発電装置であり、電解質の違い等によっていくつかのタイプがある。例えば、電解質に固体高分子電解質膜を用いた固体高分子形燃料電池等が知られている。
【0003】
燃料電池発電システムでは、燃料極に水素等の燃料を、酸化剤極に空気等の酸化剤を、それぞれ供給し、これらガス状の燃料及び酸化剤が、電解質に向かって各電極中を拡散していく過程で電気化学的に反応することで、燃料の持つ化学エネルギーを、直接的に電気エネルギーに変換するようになっている。このような燃料電池を用いた発電システムは、比較的小型であって、化学エネルギーから直接電気エネルギーを取り出すので発電効率が高く、さらには温暖化ガスの排出量が少ないため、環境性に優れているといった長所がある。
【0004】
しかも、燃料電池の発電に伴って生じる熱エネルギーを、温水や蒸気として回収することができる。したがって、コジェネレーションシステムとしての適用が可能である。中でも、固体高分子形燃料電池を利用した発電システムは、低温動作性や高出力密度等の特徴を有しているため、一般家庭用を視野に入れた小型コジェネレーションシステムや電気自動車用の動力源として好適であり、今後、市場規模が急激に拡大することが予想されている。
【0005】
ここで、一般家庭用の小型コジェネレーションシステムを例にとって、固体高分子形燃料電池を利用した燃料電池発電システムの概要について説明する。すなわち、燃料電池発電システムは、燃料電池スタック、改質装置、空気ブロワ、電気制御装置、システム制御装置、燃料電池スタックに対する燃料及び酸化剤の供給ライン及び排出ライン、並びに熱利用系等が設けられている。
【0006】
燃料電池スタックは、電解質を挟んで燃料極及び酸化剤極を配置した単電池を複数積層したものであり、燃料及び酸化剤の供給ライン及び排出ラインが接続されている。改質装置は、都市ガスやLPG等に代表される炭化水素系の燃料から水素含有ガスを製造し、製造した水素含有ガスを、燃料の供給ラインを通じて燃料電池スタックの燃料極に供給する装置である。空気ブロワは酸化剤として大気中から空気を取り入れ、酸化剤の供給ラインを介して燃料電池スタックの酸化剤極に供給するようになっている。
【0007】
電気制御装置は、燃料電池スタックの負荷電流を制御し、燃料電池スタックで発生した電気エネルギーを外部負荷に供給する装置である。システム制御装置には、燃料電池スタックに対する燃料及び酸化剤の供給量を制御する燃料流量制御機能及び酸化剤流量制御機能が組み込まれている。
【0008】
これらの流量制御機能は、システム制御装置からの制御信号により、燃料及び酸化剤の供給ラインに設けられた流量制御弁の開度やブロワ回転数を変更することで実現される。熱利用系は、燃料電池スタックの発電に伴う発熱の回収系であって、コジェネレーションシステムを成立させる構成要素となっている。
【0009】
以上のような構成を有する燃料電池発電システムでは、発電システムの運転に際して、燃料の投入が前提となっており、燃料の投入量に対して、どの程度の発電量が得られるのかが、システムの性能を左右する。ここで、燃料投入量に対する発電量を発電効率と定義すると、この発電効率が燃料電池発電システムの性能を示す指標となる。つまり、システムの発電効率が高ければ高いほど、燃料の使用量を削減することができ、ユーザーメリットは大きくなる。
【0010】
ところで、燃料電池発電システムにおいて、実際に発電機能を担っている燃料電池スタックは、運転に伴う様々な要因により経時的に電圧が低下するので、結果として発電効率が低くなる。したがって、燃料電池発電システムにおいて高い発電効率を得るためには、燃料電池スタックの経時的な電圧低下を抑制することが最も重要なポイントになっている。
【0011】
燃料電池スタックにおける電圧低下の要因には、抵抗分極や拡散分極等、いくつか挙げられるが、運転初期における支配的な電圧低下要因として、酸化剤極触媒の活性低下に起因する活性化分極の増大がある。通常、燃料電池スタックの酸化剤極には、白金微粒子をカーボン粒子に担持したカーボン担持白金触媒が用いられているが、このような白金触媒を代表とする酸化剤極触媒は、酸化剤の継続的な供給により酸化皮膜が生成する。そのため、触媒活性が低下し、活性化分極が大きくなる。
【0012】
そこで、燃料電池スタックの運転初期に生じる電圧低下を抑制する対策としては、触媒への酸化皮膜生成による活性化分極を抑えることが有効であり、酸化剤極触媒の酸化皮膜に対して還元処理を実施し、触媒活性の回復を図っている。例えば、特許文献1には、燃料電池発電システムの発電中に負荷電流を低下させることなく、燃料電池スタックの酸化剤極への酸化剤を供給不足の状態にすることで、酸化皮膜の還元処理を行い、燃料電池スタックの電圧を回復させる方法が記載されている。
【0013】
また、特許文献2に記載された方法では、燃料電池発電中に間欠的にあるいは局所的に酸化剤を欠乏させることにより、酸化皮膜を還元し、触媒活性を回復させて電圧低下を抑制させている。さらに、特許文献3には、一時的に酸化剤極の電位を0.66V以下、より好ましくは0.1V以下にすることで電池性能を回復させる操作方法が記載されている。
【0014】
また、特許文献4には、燃料電池を起動時に短絡させることで、電池電圧を0V以上0.3V以下に1〜10秒間、強制的に低下させ、燃料極でのCO被毒を解消する方法が記載されている。この特許文献4に記載の方法は、酸化剤極触媒に直接的に作用するものではないが、燃料電池に固定抵抗を接続(短絡)して、負荷電流密度を増大させ、燃料極の過電圧の上昇により吸着したCOを酸化除去するというものである。したがって、結果的には負荷電流密度の上昇に伴って酸化剤の欠乏が生じることになり、特許文献1〜3の技術と同様な効果も得られることが予想される。
【0015】
すなわち、上記特許文献1乃至4に記載された方法は、酸化剤極へ供給する酸化剤を欠乏させることにより酸化剤極の電位を一時的に低下させ、酸化剤極触媒の酸化皮膜を還元して、触媒活性の回復を図り、これにより燃料電池スタックの電圧を回復させるといった点で共通している。
【0016】
ところが、以上の従来技術には次のような問題点が指摘されていた。すなわち、酸化剤を欠乏させて酸化剤極電位を低下させた後、この電位を元のレベルに戻す場合に、酸化剤極に酸化剤を再投入することは不可欠である。このとき、酸化剤極電位は上昇するので、白金微粒子を担持しているカーボン粒子に、微小な腐食が生じた。酸化剤極においてカーボン腐食が生じると、せっかく酸化剤極触媒の酸化皮膜を還元して触媒活性の回復を図ったとしても、期待通りに燃料電池スタックの電圧回復効果が発揮できないことがあった。
【0017】
ここで、カーボン腐食に関して説明する。酸化剤極に酸化剤を再投入する場合、酸化剤極では微小なカーボン腐食が生じる。非特許文献1に記載されているように、酸化剤極におけるカーボン腐食量は、燃料電池スタックに発生する平均セル電圧の変動幅に比例して増大することが知られている。
【0018】
つまり、酸化剤極の電位上昇速度が高いほど、あるいは電位上昇幅が大きいほど、酸化剤極の腐食が生じ易い環境となる。触媒担体であるカーボンが腐食すると、不可逆的な触媒有効表面積の減少によって、活性化分極が増大する。さらに、カーボン腐食により酸化剤極での親水性が増加するため、酸化剤が拡散しにくくなって、ガス拡散性が低下し、拡散分極が増大する。その結果、長期的には燃料電池スタックの不可逆的性能低下を招いた。
【0019】
以上説明したように、酸化剤欠乏により酸化剤極電位を一時的に低下させて電圧回復を図る技術では、還元処理により酸化皮膜を除去可能なので、可逆的な電池電圧低下に対して性能回復効果は得られるものの、その効果は短期的であった。すなわち、酸化剤の供給を再開したときに微小なカーボン腐食が生じるため、酸化剤触媒の劣化が起き、長期的に見ると、燃料電池スタックの経時的に生じる不可逆的な電圧低下を十分に抑制することが困難であった。
【0020】
そこで、上述の酸化剤極触媒における酸化皮膜の還元操作時に生じるカーボン腐食対策として、特許文献5記載の技術が提案されている。この技術では、システム性能の回復操作として、酸化剤極へ供給する酸化剤を欠乏させることで酸化剤極電位の一時的な低下を実施する場合に、燃料電池スタックの平均セル電圧の低下量、つまり下げ幅を500mV未満、より好ましくは200〜400mVとしたことを特徴としている。
【0021】
このような燃料電池発電システムの性能回復方法によれば、燃料電池スタックにおける平均セル電圧の変動幅を抑えることで、カーボン腐食量の低減化を図っている。これにより、不可逆的な触媒有効表面積の減少を抑制すると同時に、酸化剤極の親水性が増加することもなく、酸化剤極における不可逆的なガス拡散性低下をある程度回避でき、燃料電池スタックの性能を長期にわたって維持することが可能である。
【特許文献1】特公平8−24050号公報
【特許文献2】WO/01/01508
【特許文献3】特表2003−536232号公報
【特許文献4】特許第3460793号
【特許文献5】特開2007−287674号公報
【非特許文献1】ECS Transactions,11(1)981-992(2007)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
しかしながら、本発明者等が燃料電池の劣化要因を解明すべく、種々の検討を重ねたところ、上述した燃料電池発電システムの性能回復技術には、依然として以下のような解決すべき課題が残されていることが分かった。すなわち、特許文献5に記載の従来技術では、酸化剤極における不可逆的なカーボン腐食の抑制を目指しているため、酸化剤極電位を低くすることよりも、燃料電池スタックに発生する平均セル電圧の変動幅(より具体的には電圧下げ幅)を抑えることを優先している。
【0023】
酸化剤極における電圧下げ幅が少ないと、酸化剤極触媒の酸化皮膜が十分に還元されない可能性がある。さらに、燃料電池発電システムを長期にわたって運転していると、触媒粒子のシンタリング等の触媒劣化の進行によって、触媒表面積の絶対量が低下するため、平均セル電圧の変動幅を抑制したことで、酸化皮膜の生成に伴う可逆的な触媒有効表面積の低下に対する回復効果が不十分となる。
【0024】
このとき、触媒有効表面積の絶対量の低下により、セル平面内の電流分布が増加する。この電流分布の増大は、酸素濃度の低い酸化剤極出口近傍におけるガス拡散性低下による電流密度低下を示唆しており、セル全体では拡散分極の増大として検出される。したがって、燃料電池スタックの電圧低下を招き、燃料電池発電システムの性能回復が難しくなっていた。
【0025】
以上の点に関して、図13のグラフを用いて具体例を説明する。図13のグラフにおいて、横軸は燃料電池発電システムの累積運転時間、縦軸はガス拡散性低下を起因とする拡散分極の大きさを示している。このグラフは、燃料電池スタックに発生する平均セル電圧の電圧変化量を300mVに抑えた酸化剤極の性能変化を示しており、電圧変化量を300mVに抑えたことで、カーボン腐食量のミニマム化を実現している。したがって、不可逆的な触媒有効表面積の減少を抑制することができ、触媒活性の低下が小さいことを表している。
【0026】
ただし、図13のグラフから明らかなように、燃料電池発電システムの累積運転時間が20,000時間を超えると、拡散分極の増加が急速に進むことに分かった。これは、燃料電池スタックの平均セル電圧の変化量を300mVとし、酸化剤極電位の下げ幅を比較的少なくしたので、酸化剤極電位の低下による触媒還元効果が小さくなり、触媒有効表面積の絶対量の低下により、酸素濃度の低い酸化剤極出口近傍において、ガス拡散性が急速に低下したことが原因と考えられる。
【0027】
上述したように、酸化剤極への酸化剤欠乏による電圧回復を優先して、燃料電池スタックに発生する平均セル電圧の変動幅を大きく設定した場合には、酸化剤極触媒の酸化皮膜還元処理を十分に実施でき、電池性能の回復効果は向上する。しかし、その反面、酸化剤を再投入したとき、平均セル電圧の変動幅を大きいのでカーボン担体の腐食が起き易く、長期的には酸化剤極の不可逆的な触媒活性低下やガス拡散性低下を招いた。
【0028】
一方、カーボン腐食による酸化剤極の劣化防止を優先して、燃料電池スタックに発生する平均セル電圧の変動幅を抑制した場合には、長期的に見れば不可逆的な酸化剤極の触媒活性やガス拡散性を維持できるものの、酸化剤極電位の低下が十分でないため、酸化剤極触媒の酸化皮膜を完全に除去することは難しく、触媒の還元処理が不十分となっていた。その結果、短期的な観点から見ると、電池性能の回復効果は弱かった。
【0029】
以上説明したように、酸化剤極電位の一時的な低下による電圧回復技術では、その効果が及ぶ時間的なスパンは短期的であって、長期的な性能低下とのトレードオフとなっていた。つまり、燃料電池スタックの経時的な電圧低下を抑制してシステム性能を高めようとする場合に、短期的なスパンでの性能回復と、長期的スパンでの性能維持との間でバランスが取られておらず、両者の最適化が実現されていないことが課題となっていた。
【0030】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、性能回復操作時に生じるカーボン腐食を防いで酸化剤極の劣化を最小限に抑えつつ、酸化剤極電位の一時的低下による電圧回復効果を最大限に引き出すことにより、長期的な性能維持効果と短期的な電圧回復効果の最適化を図って、長期的にも短期的にも優れた耐久性能・発電効率を発揮可能である、燃料電池発電システム及びその性能回復方法並びに性能回復プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0031】
上述した目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、電解質を挟んで配置した燃料極と酸化剤極とを有する単電池を複数積層して構成される燃料電池スタックと、前記燃料電池スタックに供給する燃料及び酸化剤をそれぞれ制御する燃料流量制御手段及び酸化剤流量制御手段と、前記燃料電池スタックの負荷電流を制御する負荷電流制御手段を備えた燃料電池発電システムに用いられる方法であって、前記燃料電池発電システムの発電中に前記酸化剤流量制御手段により前記酸化剤極に供給する酸化剤を一時的に欠乏させる燃料電池発電システムに用いられる性能回復方法において、次のような特徴を有するものである。
【0032】
すなわち、前記燃料電池発電システムは、予め設定された基準値に基づいて、前記酸化剤極の性能低下の度合いを判定する酸化剤極性能の判定手段を備え、前記燃料電池発電システムの発電中に前記酸化剤流量制御手段により前記酸化剤極に供給する酸化剤を一時的に欠乏させるに際して、前記酸化剤極の性能低下の度合いが基準値以下であると判定した場合には、前記酸化剤流量制御手段による酸化剤流量制御及び前記負荷電流制御手段による負荷電流の制御によって、前記燃料電池スタックに発生する平均セル電圧の低下量をカーボン腐食が最大となる電圧低下量未満とする第1の電圧回復ステップを実行し、前記酸化剤極の性能低下の度合いが基準値を超えたと判定した場合には、前記酸化剤流量制御手段による酸化剤流量制御及び前記負荷電流制御手段による負荷電流の制御によって、前記燃料電池スタックに発生する平均セル電圧の低下量がカーボン腐食を最大とする電圧低下量を超え、かつ前記平均セル電圧が設定値以下となるまで前記平均セル電圧を低下させる第2の電圧回復ステップを実行することを特徴とするものである。
【0033】
また、請求項10及び11に記載の燃料電池発電システムの性能回復プログラム及び燃料電池発電システムは、請求項1に記載の燃料電池発電システムの性能回復方法の発明に関して、コンピュータプログラム及びシステムの観点から把握したものである。
【0034】
以上のような本発明では、酸化剤極の性能低下の度合いに関して基準値以下の場合には、第1の電圧回復ステップを実行して、燃料電池スタックに発生する平均セル電圧の低下量をカーボン腐食が最大となる電圧低下量未満に抑えることで、酸化剤極でのカーボン腐食を確実に防ぐ。一方、酸化剤極の性能低下の度合いが基準値を超えた場合では、第2の電圧回復ステップを実行して、燃料電池スタックに発生する平均セル電圧がカーボン腐食を最大とする電圧低下量を超えた上で、かつ前記平均セル電圧が設定値以下となるまで低下させることにより、十分な触媒還元処理を実現している。
【発明の効果】
【0035】
本発明の燃料電池発電システム及びその性能回復方法並びに性能回復プログラムによれば、酸化剤極の性能低下の度合いに応じて、酸化剤極触媒担体であるカーボンの腐食を防いで酸化剤極の劣化を抑制する操作と、酸化剤極触媒の十分な還元処理を実施してする操作を、択一的に選ぶことにより、長期的な性能維持効果と短期的な電圧回復効果の最適化が実現し、長期的にも短期的にも優れた耐久性能・発電効率を発揮することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
(1)代表的な実施形態
以下、本発明を適用した実施形態について、図1、図2を参照して具体的に説明する。図1は本発明を適用した第1の実施形態に係る燃料電池発電システムの構成図であって、図1中において、ブロック間を接続する実線はガス配管の結線図、破線は電気配線の結線図をそれぞれ示している。また、図2は電気制御装置の内部構成図であり、実線矢印は制御の流れを示している。
【0037】
(1−1)構成
図1に示すように、本実施形態に係る燃料電スタック発電システムは、燃料電池スタック1、改質装置2、電気制御装置3、空気ブロワ4、システム制御装置100から構成されている。
【0038】
なお、図1中では、簡略化の観点から、燃料電池スタック1は燃料極1aと酸化剤極1bから構成されているように示しているが、実際の燃料電池スタック1は、電解質を挟んで配置した燃料極1aと酸化剤極1bとを有する単電池を複数積層して構成されている。
【0039】
燃料電池スタック1には該燃料電池スタック1に対し、改質ガス及び空気の供給・排出を行う各ライン11〜14が接続されている。すなわち、燃料電池スタック1の燃料極1aには、改質装置2によって都市ガス(13A)を水蒸気改質して得た改質ガスが、燃料供給ライン11を通じて供給されると共に、燃料排出ライン12を通じて排出される。また、酸化剤極1bには空気ブロワ4を用いて空気が、酸化剤供給ライン13を通じて供給され、さらに酸化剤排出ライン14を通じて排出される。
【0040】
電気制御装置3は、燃料電池スタック1で得られた電気エネルギーを、外部負荷である交流系統電源5へ供給するように構成されている。図2に示すように、電気制御装置3には、インバーター31と、このインバーター31を制御する制御装置32とが内蔵されている。インバーター31には、燃料電池スタック1の直流電力を交流に変換する機能と、交流系統電源5からの交流電力を直流電力に変換する機能が組み込まれている。
【0041】
また、電気制御装置3は、負荷運転モードと電圧制御モードを有している。このうち、負荷運転モードでは、燃料電池スタック1の発電時に、燃料電池スタック1の起電力から電気エネルギーを取り出して交流系統電源5に供給する燃料電池負荷電流を制御するようになっている。
【0042】
電気制御装置3は、電圧制御モードでは、交流系統電源5を電源として、酸化剤極1bからこの電気制御装置3を含む外部回路を経由して燃料極1aへ直流電流を流す際に、燃料電池スタック1の平均セル電圧を所定の値に制御するようになっている。この電圧制御モードでは、後段で述べるシステム制御装置100での判定結果に基づいて、燃料電池スタック1に発生する平均セル電圧の低下量を300mV以下とする第1の電圧制御モードと、燃料電池スタック1に発生する平均セル電圧を100mV以下にまで低下させる第2の電圧制御モードのいずれか一方を選択的に実施する。
【0043】
電気制御装置3が第1の電圧制御モードを取る場合、システム全体としては第1の電圧回復ステップを実施して回復操作1を行うものとする。また、電気制御装置3が第2の電圧制御モードを取る場合、システム全体としては第2の電圧回復ステップを実施して回復操作2を行うものとする。
【0044】
システム制御装置100は、制御指令により、燃料電池スタック1を除く燃料電池発電システムの各部を制御する装置であって、電気制御装置3におけるモード切替や起動・停止を制御するようになっている。同様に、改質装置2、空気ブロワ4、及び4つのバルブ、すなわち燃料極入口バルブ15、燃料極出口バルブ16、酸化剤極入口バルブ17、酸化剤極出口バルブ18についても、システム制御装置100は、制御指令に基づいて起動・停止または開閉するようになっている。また、システム制御装置100は、制御指令によって、改質装置2から燃料極1aへ供給する改質ガス量を、負荷電流の大きさに応じて決定する機能と、平均セル電圧をモニターして負荷電流を制御する機能を有している。
【0045】
さらに、システム制御装置100は、酸化剤極1bの性能低下の度合いの判定基準として、システムの累積運転時間が20,000時間に達したことを予め設定しておき、この基準時間を超えたか否かを判定する機能を有している。システム制御装置100は、この機能を果たすことで酸化剤極1aの性能判定ステップを実施し、酸化剤極1aの性能低下の度合いを判定する役割を担っている。
【0046】
なお、図1中の一点鎖線は、システム制御装置100と各部との間でやり取りされる制御指令などの信号を示している。このようなシステム制御装置100は、具体的には、本発明に係る燃料電池発電システム用に特化したプログラムを記憶させたマイコンにより実現される。
【0047】
(1−2)性能回復操作手順
続いて、本実施形態に係る燃料電池発電システムの性能回復方法における操作手順について、図3のフローチャートを用いて説明する。すなわち、燃料電池発電システムの発電中、システム制御装置100において、システム性能の回復操作指令がなされた場合、改質装置2から燃料極1aへ水素リッチな改質ガスの供給を継続した状態で、電気制御装置3を負荷運転モードから電圧制御運転モードとし(S101)、負荷電流を一定に制御する。
【0048】
この時点での燃料電池スタック1に発生する平均セル電圧値は、酸化剤供給停止前の平均セル電圧Vrとしてシステム制御装置100により計測・記憶される(S102)。計測・記憶された酸化剤供給停止前の燃料電池スタック1の平均セル電圧Vrは後段の手順で使用される。
【0049】
その後、システム制御装置100からの制御指令により、酸化剤供給ライン13に設けた酸化剤極入口バルブ17を閉止し、酸化剤極1bへの空気の供給を停止する(S103)。そして、システム制御装置100では、酸化剤極1bの性能低下の度合いの判定基準である基準運転時間To=システム累積発電時間20,000時間に応じて酸化剤極1bの性能判定を行い、判定結果に基づいて電気制御装置3は電圧制御モードを選択する。
【0050】
すなわち、システム制御装置100がシステムの累積発電時間Tに関して20,000時間以下であると判断した場合には(S104のYes)、電気制御装置3は第1の電圧制御モードを取り、システム全体として回復操作1を開始する(S105)。また、システム制御装置100がシステムの累積発電時間Tに関して20,000時間より長いと判断した場合には(S104のNo)、電気制御装置3は第2の電圧制御モードを取り、システム全体として回復操作2を開始する(S111)。
【0051】
(1−2−1)回復操作1の手順
回復操作1では、燃料電池スタック1に発生する平均セル電圧Vが、酸化剤停止前の平均セル電圧Vrからの電圧低下量が300mVとなるまで、電気制御装置3により負荷電流を一定に制御することによって、発電を継続する(S106のNo)。
【0052】
そして、燃料電池スタック1の平均セル電圧Vが、酸化剤供給の停止前の平均セル電圧Vrから300mV分だけ、低下した時点(S106のYes)で、酸化剤極入口バルブ17を開放して酸化剤極1bに対する空気の供給を再開する(S107)。さらに、燃料電池スタック1の平均セル電圧Vが、酸化剤供給停止前の平均セル電圧Vrを上回った時点(S108のYes)で、回復操作1を終了し(S109)、電気制御装置3を負荷運転モードに切り替える(S110)。
【0053】
(1−2−2)回復操作2の手順
一方、回復操作2では、燃料電池スタック1の平均セル電圧Vが、酸化剤停止前の平均セル電圧Vrが100mV以下に達するまで、電気制御装置3により負荷電流を一定に制御することによって、発電を継続する(S112のNo)。
【0054】
そして、燃料電池スタック1の平均セル電圧Vが100mV以下となった時点(S112のYes)で、酸化剤極入口バルブ17を開放して酸化剤極1bへの空気の供給を再開する(S113)。さらに、燃料電池スタック1の平均セル電圧Vが、酸化剤供給停止前の平均セル電圧Vrを上回った時点(S114のYes)で、回復操作2を終了し(S115)、電気制御装置3を負荷運転モードに切り替える(S110)。
【0055】
(1−3)作用
以上の構成を有する本実施形態の作用について、図4〜図7を用いて説明する。図4、図5は、本実施形態に係る燃料電池発電システムの性能回復操作方法において、性能回復動作を示すタイミングチャートであり、システム制御装置100からシステム各部への制御指令のタイミング、及び燃料電池スタック1の平均セル電圧の時間的な変化を示している。
【0056】
また、図6は、単電池電圧を矩形波状に変化させた場合の単電池電圧のトレンドとその際に酸化剤極出口から排出されるCO濃度のトレンドを示したグラフである。また、図7は、図6で得られた結果から求めた燃料電池スタック1における平均セル電圧低下量とカーボン腐食量の関係を示したグラフである。
【0057】
より詳しくは、電流密度0.2A/cmで燃料電池スタック1の発電を実施し、その平均セル電圧が800mVとなった状態で、酸化剤である酸素をいったん停止し、燃料電池スタック1の平均セル電圧を低下させた後、再度、酸素を供給した場合の下限電圧と、カーボン腐食量の関係を示した単電池による要素試験の結果である。
【0058】
(1−3−1)回復操作1の作用
まず、本実施形態の回復操作1の作用について、図4を参照して説明する。本実施形態に係る燃料電池発電システムでは、システムの運転初期から累積運転時間Tが20,000時間に達するまでは、システム制御装置100は酸化剤極1bのガス拡散性能低下が見られない領域であると判断する。
【0059】
酸化剤極1bの性能低下が無いと判断したシステム累積運転時間Tが20,000時間以下のタイミングでは、燃料電池スタック1の平均セル電圧Vの電圧低下量を300mVとする回復操作1を実施し、これによりカーボン腐食量の抑制を図っている。この本実施形態の回復操作1の作用について、図4を参照して説明する。
【0060】
図4に示すように、燃料電池スタック1が通常の発電状態にあるとき、燃料電池スタック1の平均セル電圧Vを800mVとする。このとき、定格電流値Irの負荷電流が流れ、燃料極1aには水素リッチな改質ガスが供給され、酸化剤極1bには空気が供給されている。
【0061】
この状態でシステムの回復操作1の指令がなされた場合、電気制御装置3が電圧制御モード(図中、A点)とされ、負荷電流が一定(定格電流値Ir)に制御され、改質ガス供給が継続される一方で、空気供給が停止(図中、B点)される。この結果、平均セル電圧が低下する。
【0062】
そして、燃料電池スタック1の平均セル電圧Vの電圧低下量を300mVとする、つまり燃料電池スタック1の平均セル電圧を500mVまで低下させた時点で、空気供給を再開する(図中、C点)。これにより、燃料電池スタック1の平均セル電圧Vを上昇させ、平均セル電圧Vが800mVを上回った時点で電気制御装置3を負荷運転モードに切り替える(図中、D点)。
【0063】
以上のような回復操作1を実施した本実施形態では、燃料電池スタック1において、酸化剤を一時的に欠乏させる際の電位変動幅が300mV以下となるように負荷電流および空気流量を制御することによって、回復操作シーケンスによる運転制御を実施している。このため、酸化剤極1bへの空気供給再開時における酸化剤極1bの電位上昇による酸化剤極1bの電位分布量を300mV程度とすることができる。
【0064】
図7のグラフでは、酸化剤を再供給した場合の下限電圧とカーボン腐食量の関係を示しており、酸化剤停止前の燃料電池スタック1の平均セル電圧Vr、すなわち800mVから下限電圧を引いた値が電圧低下量となる。このグラフから明らかなように、下限電圧が500mV以上の領域、すなわち、本実施形態の回復操作1による電圧低下量300mV以下の領域では、一回の操作当たりのカーボン腐食量を最大値の4分の1以下に抑制できたことを示している。これにより、不可逆的なカーボン腐食を抑制することができるので、酸化剤極1bの触媒活性やガス拡散性に関して、長期的な維持が可能である。
【0065】
(1−3−2)回復操作2の作用
次に、本実施形態の回復操作2の作用について、図5を参照して説明する。すなわち、本実施形態に係る燃料電池発電システムでは、累積運転時間Tが20,000時間を越えると、酸化剤極1bのガス拡散性の低下が進み、システム制御装置100は酸化剤極1bの性能低下が大きい領域であると判断する。
【0066】
システム累積運転時間Tが20,000時間超の領域では、燃料電池スタック1の平均セル電圧Vを100mVまで低下させる回復操作2を実施し、これにより酸化剤触媒を完全に還元することができる。この本実施形態の回復操作2の作用について、図5を参照して説明する。図5のタイミングチャートは、図4のタイミングチャートとほぼ同じであるが、平均セル電圧を100mVまで低下させた時点で、空気供給を再開する(図中、C点)点だけが異なっている。
【0067】
図5に示すように、燃料電池スタック1が通常の発電状態にあるときには、燃料電池スタック1の平均セル電圧は、例えば800mVであり、定格電流値Irの負荷電流が流れ、燃料極1aには水素リッチな改質ガスが供給され、酸化剤極1bには空気が供給されている。
【0068】
この状態でシステムの回復操作2の指令がなされた場合、電気制御装置3が電圧制御モード(図中、A点)とされ、負荷電流が一定(定格電流値Ir)に制御され、改質ガス供給が継続される一方で空気供給が停止(図中、B点)される結果、燃料電池スタック1の平均セル電圧が低下する。
【0069】
この場合、燃料電池スタック1の平均セル電圧を100mVまで低下させた時点で、空気供給を再開する(図中、C点)。これにより、燃料電池スタック1の平均セル電圧を上昇させ、平均セル電圧が800mVを上回った時点で電気制御装置3を負荷運転モードに切り替える(図中、D点)。
【0070】
以上のような回復操作2を実施した本実施形態では、酸化剤を一時的に欠乏させる際の燃料電池スタック1の平均セル電圧を、100mVまで低下するように負荷電流および空気流量を制御している。つまり、酸化剤極1bにおいて大幅な電位低下を実施しており、酸化剤触媒の還元処理を十分に行うことができる。したがって、長期間の運転により生成した酸化剤触媒表面の酸化皮膜を、確実に除去可能である。
【0071】
上記非特許文献1にも記載されているように、酸化剤極1bにおけるカーボン腐食量は、燃料電池スタック1に発生する平均セル電圧の変動幅に比例するが、図7のグラフから分かるように、下限電圧が300mV以下の領域では、電圧低下量が大きくなったとしても(つまり、平均セル電圧の変動幅が増加した場合でも)、カーボン腐食量が増大することはなく、下限電圧が低いほどカーボン腐食量が低下することを示している。
【0072】
これは、一般的な運転電位500mV以上の領域から、燃料電池スタック1の平均セル電圧を低下させた場合に、触媒に用いられている白金等の貴金属に対し水素が吸着する300mV以下の領域、特に100mV以下の領域では、白金に水素が吸着するので、電圧上昇時のカーボン腐食と、白金に吸着していた水素の酸化が競合する状態となり、結果的にカーボン腐食が緩和されることを示唆している。
【0073】
すなわち、本実施形態では回復操作2の実行により、上述した酸化皮膜の十分な除去という作用に加えて、燃料電池スタック1の平均セル電圧を100mVまで低下させたことにより、一回の操作当たりのカーボン腐食量を最大値の3分の1以下に抑えることが可能であるという作用がある(図7のグラフ参照)。
【0074】
(1−4)効果
続いて、本実施形態の持つ効果について、図8〜図10のグラフを用いて説明する。図8は、燃料電池発電システムの運転時間が8時間経過する毎に、燃料電池発電システムの回復操作を実施したときの燃料電池スタック1の平均セル電圧の時間変化をプロットしたものである。本実施形態は図8〜図10中、丸マークで示されている。
【0075】
なお、図8〜図10には、本実施形態の効果を把握するために、本実施形態と比べる例として、燃料電池発電システムの累積運転時間に関係なく(つまり、酸化剤極1bの性能低下の度合いを勘案することなく)、システムの性能回復操作を実施した比較例1、2を挙げ、これについても評価した。
【0076】
図8〜図10中、三角マークで示した比較例1では、システムの性能回復操作時に、酸化剤極1bの空気を一時的に停止し、燃料電池スタック1の平均セル電圧の電圧低下量を300mVとして低下させた後、再び空気を供給した従来の性能回復方法である。また、図8〜図10中、四角マークで示した比較例2では、酸化剤極1bの空気を一時的に停止し、燃料電池スタック1の平均セル電圧が100mVとなるまで低下させた後、再び空気を供給した従来の性能回復法である。
【0077】
図8のグラフに示したように、本実施形態の回復操作を実行した燃料電池スタック1での平均セル電圧の経時特性は、従来の性能回復方法を採用した比較例1および比較例2よりも改善していることがわかる。このような電圧低下の抑制要因を解析した結果を図9及び図10のグラフに示す。図9は触媒活性を表す活性化分極の経時変化を示し、図10は拡散分極の経時変化を示している。
【0078】
図9、図10から明らかなように、比較例1では、燃料電池スタック1の平均セル電圧の電圧変化量を300mVに抑えたので、カーボン腐食量をミニマム化することができ、触媒有効表面積の低下を抑制でき、且つ触媒活性の低下も小さい。しかしながら、燃料電池発電システムの累積運転時間が20,000時間以降、酸化剤極1bの経時劣化が進み、ガス拡散性の低下等に起因する電圧低下が生じて、システムの累積運転時間が30,000時間の時点での燃料電池スタック1の平均セル電圧の経時特性は最も悪い結果となった。
【0079】
一方、比較例2は、性能回復操作時、燃料電池スタック1の平均セル電圧を100mVまで低下させたため、燃料電池スタック1の平均セル電圧の電圧変動幅が大きくなり、カーボン腐食量は比較例1よりも多く、触媒活性の低下が大きいことがわかる。しかしながら、比較例1で観測されたようなガス拡散性低下は、カーボン腐食の影響で若干早く出現するものの、100mVまで十分に触媒を還元処理したため、ガス拡散性低下が抑制されている。
【0080】
これは、燃料電池スタック1の平均セル電圧を十分に低く下げ、酸化剤触媒の還元処理を確実に実施したことにより、セル面内の電流分布を緩和することができ、電流集中を効率よく抑制したためであると考えられる。このため、燃料電池スタック1の平均セル電圧の経時変化は比較例1よりも優れる結果となった。
【0081】
上記のような比較例1、2と比べて、本実施形態は、システムの累積運転時間が20,000時間以前の段階では、酸化剤極1bの劣化が少なく、酸化剤極1bは所定の性能を維持していると判断して、回復操作1を実行した。すなわち、燃料電池スタック1に発生する平均セル電圧の低下量を300mV以下に抑えて、酸化剤極1bでのカーボン腐食を確実に防いでいる。
【0082】
また、システムの累積運転時間が20,000時間を超えた場合には、酸化剤極1bの劣化が進んだと判断して、回復操作2を実行した。これにより、燃料電池スタック2に発生する平均セル電圧を100mV以下まで低下させ、十分な触媒還元処理を実現している。
【0083】
以上述べたように、本実施形態に係る燃料電池発電システムの性能回復方法によれば、酸化剤極1bへ供給していた空気停止に伴う酸化剤極1bの電位低下によって、酸化剤極触媒の酸化皮膜を還元除去し、酸化剤極1bの触媒活性の改善を実現して短期的な性能回復を確実に実現することが可能である。
【0084】
また、本実施形態によれば、これに加えて、従来問題となっていた回復操作中に発生する微小な酸化剤極1bのカーボン腐食を抑制することができ、酸化剤極1bの触媒有効表面積の低下や、ガス拡散性の低下を防止して、燃料電池スタックの経時的な電圧低下を抑制することができる。
【0085】
このように、本実施形態では、酸化剤極でのカーボン腐食の抑制を優先した回復操作1と、十分な還元処理を優先した回復操作2を、酸化剤極1bの性能低下の度合いに応じて、選択的に実施することができ、従来ではトレードオフの関係となっていた、短期的な電圧回復効果と、長期的なカーボン腐食による性能低下のバランスを取りつつ、燃料電池スタック1の経時的な電圧低下を抑制することができる。これにより、短期的なスパンでの性能回復と、長期的スパンでの性能維持との最適化を図ることが可能であり、長期的にも短期的にも優れた耐久性能・発電効率を発揮する燃料電池発電システムを提供することができる。
【0086】
(2)他の実施形態
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で多種多様な変形例が実施可能である。例えば、酸化剤極の性能低下の度合いに関する判定基準として、システムの累積運転時間以外にも、燃料電池スタック1の平均セル電圧の低下率や低下速度を判定基準としても同様な作用効果が得られる。
【0087】
具体的には、図11のフローチャートに示すように、電圧回復操作実行前の燃料電池スタック1の平均セル電圧が初期の平均セル電圧800mVに対して5%未満の性能低下を示す760mV以上であれば、酸化剤極1bの性能低下の度合いが基準値以下であると判定し、燃料電池スタック1の平均セル電圧が初期平均セル電圧の5%以上の性能低下を示す760mV未満であれば、酸化剤極1bの性能低下の度合いが基準値を超えたと判定する(S204)ようにしてもよい。
【0088】
ここで設定した初期の平均セル電圧に対する5%の性能低下は、以下の根拠により算定されたものである。前記実施形態で引用した図8、図9における比較例1、および比較例2において、初期平均セル電圧800mVに対する5%の性能低下、すなわち平均セル電圧が760mVを下回る時点から、拡散分極の増大が顕著となり始めることがわかる。したがって、初期平均セル電圧の5%性能低下を判定基準として用いることにより、前記実施形態のシステムと同様に性能低下を抑制することができる。
【0089】
一方、図12のフローチャートに示すように、電圧回復操作実行前の燃料電池スタック1の定格負荷における平均セル電圧に対し、同様に定格負荷における初期の平均セル電圧の差分を取り、さらに累積発電時間で除した値により平均セル電圧低下速度を算定し(S303)、算定された平均セル電圧低下速度が2μV未満であれば、酸化剤極1bの性能低下の度合いが基準値以下であると判定し、燃料電池スタック1の平均セル電圧低下速度が毎時2μV以上であれば、酸化剤極1bの性能低下の度合いが基準値を超えたと判定する(S304)ようにしてもよい。
【0090】
ここで設定した初期の平均セル電圧低下速度毎時2μVの基準値は、以下の根拠により算定されたものである。前記実施形態で引用した図8、図9における比較例1では20,000時間以降において、平均セル電圧の低下量が40mVを上回ると共に、拡散分極の増大が顕著となり始め、電圧低下速度が増大し、毎時2μVの電圧低下速度を上回ることがわかる。したがって、平均セル電圧の低下速度を判定基準として用いることにより、前記実施形態のシステムと同様に性能低下を抑制することができる。
【0091】
ここで、システムの累積運転時間の長さや燃料電池スタック1の平均セル電圧の値等、酸化剤極の性能低下の度合いに関する判定基準は適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明に係る燃料電池発電システムの性能回復方法の代表的な実施形態を実現するための燃料電池発電システムの構成図。
【図2】本実施形態における電気制御装置の構成を示す図。
【図3】本実施形態における電圧回復操作手順を示すフローチャート。
【図4】本実施形態の回復操作1における電圧回復動作を示すタイミングチャート。
【図5】本実施形態の回復操作1における電圧回復動作を示すタイミングチャート。
【図6】本実施形態の作用を説明するための図であり、単電池電圧を矩形波状に変化させた場合の単電池電圧のトレンドとその際に酸化剤極出口から排出されるCO2濃度のトレンドを示したグラフ。
【図7】本実施形態の作用を説明するための図であり、図6で得られた結果から求めた燃料電池スタックにおける平均セル電圧低下量とカーボン腐食量の関係を示したグラフ。
【図8】本実施形態の効果を説明するための図であり、システムの累積運転時間と燃料電池スタックの定格負荷における平均セル電圧との関係を示すグラフ。
【図9】本実施形態の効果を説明するための図であり、システムの累積運転時間と活性化分極との関係を示すグラフ。
【図10】本実施形態の効果を説明するための図であり、システムの累積運転時間と定格負荷における拡散分極との関係を示すグラフ。
【図11】本発明に係る燃料電池発電システムの性能回復方法の他の実施形態における電圧回復操作手順を示すフローチャート。
【図12】本発明に係る燃料電池発電システムの性能回復方法の他の実施形態における電圧回復操作手順を示すフローチャート。
【図13】従来の燃料電池発電システムの性能回復方法の持つ課題を説明するためのグラフ。
【符号の説明】
【0093】
1…燃料電池スタック
1a…燃料極
1b…酸化剤極
2…改質装置
3…電気制御装置
31…インバーター
32…制御装置
4…空気ブロワ
5…交流系統電源
11…燃料供給ライン
12…燃料排出ライン
13…酸化剤供給ライン
14…酸化剤排出ライン
15…燃料極入口バルブ
16…燃料極出口バルブ
17…酸化剤極入口バルブ
18…酸化剤極出口バルブ
100…システム制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質を挟んで配置した燃料極と酸化剤極とを有する単電池を複数積層して構成される燃料電池スタックと、前記燃料電池スタックに供給する燃料及び酸化剤をそれぞれ制御する燃料流量制御手段及び酸化剤流量制御手段と、前記燃料電池スタックの負荷電流を制御する負荷電流制御手段を備えた燃料電池発電システムに用いられる方法であって、前記燃料電池発電システムの発電中に前記酸化剤流量制御手段により前記酸化剤極に供給する酸化剤を一時的に欠乏させる燃料電池発電システムの性能回復方法において、
前記燃料電池発電システムは、予め設定された基準値に基づいて、前記酸化剤極の性能低下の度合いを判定する酸化剤極性能の判定手段を備え、
前記燃料電池発電システムの発電中に前記酸化剤流量制御手段により前記酸化剤極に供給する酸化剤を一時的に欠乏させるに際して、
前記酸化剤極の性能低下の度合いが基準値以下であると判定した場合には、前記酸化剤流量制御手段による酸化剤流量制御及び前記負荷電流制御手段による負荷電流の制御によって、前記燃料電池スタックに発生する平均セル電圧の低下量をカーボン腐食が最大となる電圧低下量未満とする第1の電圧回復ステップを実行し、
前記酸化剤極の性能低下の度合いが基準値を超えたと判定した場合には、前記酸化剤流量制御手段による酸化剤流量制御及び前記負荷電流制御手段による負荷電流の制御によって、前記燃料電池スタックに発生する平均セル電圧の低下量がカーボン腐食を最大とする電圧低下量を超え、かつ前記平均セル電圧が設定値以下となるまで前記平均セル電圧を低下させる第2の電圧回復ステップを実行することを特徴とする燃料電池発電システムの性能回復方法。
【請求項2】
前記電圧低下量を300mVとすることを特徴とする請求項1記載の燃料電池システムの性能回復方法。
【請求項3】
前記平均セル電圧の設定値を100mVと設定することを特徴とする請求項1記載の燃料電池システムの性能回復方法。
【請求項4】
前記酸化剤極における性能低下の度合いを判定する基準値として、前記燃料電池発電システムの累積運転時間を用いることを特徴とする請求項1記載の燃料電池発電システムの性能回復方法。
【請求項5】
前記酸化剤極における性能低下の度合いを判定する基準値として適用した累積運転時間を20,000時間に設定することを特徴とする請求項4記載の燃料電池システムの性能回復方法。
【請求項6】
前記酸化剤極の性能低下の度合いを判定する基準値として、前記燃料電池スタックの平均セル電圧低下量を用いることを特徴とする請求項1記載の燃料電池発電システムの性能回復方法。
【請求項7】
前記酸化剤極の性能低下の度合いを判定する基準として適用した前記燃料電池スタックの平均セル電圧低下量を、初期平均セル電圧の5%に設定することを特徴とする請求項6記載の燃料電池発電システムの性能回復方法。
【請求項8】
前記酸化剤極の性能低下の度合いを判定する基準値として、前記燃料電池スタックの平均セル電圧低下速度を用いることを特徴とする請求項1記載の燃料電池発電システムの性能回復方法。
【請求項9】
前記酸化剤極の性能低下の度合いを判定する基準値として適用した前記燃料電池スタックの平均セル電圧低下速度を毎時2μVVに設定することを特徴とする請求項8記載の燃料電池発電システムの性能回復方法。
【請求項10】
電解質を挟んで配置した燃料極と酸化剤極とを有する単電池を複数積層して構成される燃料電池スタックと、前記燃料電池スタックに供給する燃料及び酸化剤をそれぞれ制御する燃料流量制御手段及び酸化剤流量制御手段と、前記燃料電池スタックの負荷電流を制御する負荷電流制御手段と、予め設定された基準値に基づいて、前記酸化剤極の性能低下に関して前記基準値を超えたかどうかを判定する酸化剤極性能の判定手段を備えた燃料電池発電システムに用いられるプログラムであって、前記燃料電池発電システムの発電中に前記酸化剤流量制御手段により前記酸化剤極に供給する酸化剤を一時的に欠乏させる操作をコンピュータに実現させる燃料電池発電システムの性能回復プログラムにおいて、
前記酸化剤極性能の判定手段により、前記酸化剤極の性能低下の度合いが前記基準値を超えたかどうかを判定する酸化剤極性能の判定操作と、
前記燃料電池発電システムの発電中に前記酸化剤流量制御手段により前記酸化剤極に供給する酸化剤を一時的に欠乏させるに際して、
前記酸化剤極性能の判定手段が前記酸化剤極の性能低下の度合いに関して前記基準値以下であると判定した場合には、前記酸化剤流量制御手段による酸化剤流量制御及び前記負荷電流制御手段による負荷電流の制御によって、前記燃料電池スタックに発生する平均セル電圧の低下量をカーボン腐食が最大となる電圧低下量未満とする第1の電圧回復操作と、
前記酸化剤極性能の判定手段が前記酸化剤極の性能低下の度合いに関して前記基準値を超えたと判定した場合には、前記酸化剤流量制御手段による酸化剤流量制御及び前記負荷電流制御手段による負荷電流の制御によって、前記燃料電池スタックに発生する平均セル電圧の低下量がカーボン腐食を最大とする電圧低下量を超え、かつ前記平均セル電圧が下限値以下となるまで平均セル電圧を低下させる第2の電圧回復操作、をコンピュータに実現させることを特徴とする燃料電池発電システムの性能回復プログラム。
【請求項11】
電解質を挟んで配置した燃料極と酸化剤極とを有する単電池を複数積層して構成される燃料電池スタックと、前記燃料電池スタックに供給する燃料及び酸化剤をそれぞれ制御する燃料流量制御手段及び酸化剤流量制御手段と、前記燃料電池スタックの負荷電流を制御する負荷電流制御手段を備えた燃料電池発電システムであって、自システムの発電中に前記酸化剤流量制御手段により前記酸化剤極に供給する酸化剤を一時的に欠乏させるように構成した燃料電池発電システムにおいて、
予め設定された基準値に基づいて、前記酸化剤極の性能低下の度合いに関して前記基準値を超えたかどうかを判定する酸化剤極性能の判定手段を備え、
前記負荷電流制御手段は、
前記燃料電池スタックで得られた電気エネルギーを外部負荷に供給するための負荷電流を制御する負荷運転モードを取り、
前記燃料電池発電システムの発電中に前記酸化剤流量制御手段により前記酸化剤極に供給する酸化剤を一時的に欠乏させるに際して、
前記酸化剤極性能の判定手段が前記酸化剤極の性能低下の度合いに関して前記基準値以下であると判定した場合には、前記燃料電池スタックに発生する平均セル電圧の低下量を、カーボン腐食が最大となる電圧低下量未満とする第1の電圧制御モードを取り、
前記酸化剤極性能の判定手段が前記酸化剤極の性能低下の度合いに関して前記基準値を超えたと判定した場合には、前記燃料電池スタックに発生する平均セル電圧の低下量が前記カーボン腐食を最大とする電圧低下量を超え、かつ前記平均セル電圧が下限値以下となるまで低下させる第2の電圧制御モードを取るように構成したことを特徴とする燃料電池発電システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−27298(P2010−27298A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−185199(P2008−185199)
【出願日】平成20年7月16日(2008.7.16)
【出願人】(301060299)東芝燃料電池システム株式会社 (358)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】