説明

燃料電池部材用樹脂組成物

溶出イオン量が少ない燃料電池部材用樹脂組成物を提供する。
下記ポリプロピレン60〜85重量%及び、下記タルク40〜15重量%を含んでなる燃料電池部材用樹脂組成物。(1)ホモポリプロピレン、ブロックポリプロピレン、又はホモポリプロピレンとブロックポリプロピレンのブレンド物であって、メルトフローレイトが2〜40g/10分のポリプロピレン(2)白色度が96%以上で、平均粒子径が4〜10μmのタルク

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池部材用樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料電池、従来型の二次電池のシステムに用いられる材料は、冷却効率を維持したり、配管の詰りや腐蝕を防止するために金属材としては最もイオン溶出が低いとされるSUS316が使用されてきた。しかしながら、成形加工性、賦形性の自由度の高さから樹脂化が望まれ、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデンといった樹脂材の使用が検討されている。
【0003】
例えば、自動車用燃料電池の場合、熱交換器や冷却液の循環配管の材料にイオン溶出の極めて少ない材料(例えば、SUS316等)を使用することで対応していたが、そのようにすると、熱交換器の形状や製造方法等に制約を受けることとなり、熱交換器の大型化や重量増大、コストアップ等を引き起こした。金属材料を使用すると、それ自体から金属イオンを徐々に溶出したり、ちょっとした表面の傷から腐蝕が進むことがある。また、イオン溶出を低減するように熱交換器等の内部にコーティングを施す等で対処する方法もあるが、コーティングが劣化するとイオンが溶け出す場合もある(例えば、特開2001−035519号公報,特開2003−123804号公報参照)。
【0004】
従って、それに替わるものとして樹脂材料の開発が望まれている。しかし樹脂材は単体で用いた場合に製品に反りや変形を生じたり、使用環境によっては耐熱性、剛性が不足することが挙げられる。これらを補うためにタルク、マイカ、ガラス繊維、炭酸カルシウム等の充填材の配合が試みられている。
【0005】
ところで、これら充填材は鉱物を微粉砕した無機粉末であり金属イオンを溶出し易い。例えば、タルクの場合、その主成分は二酸化珪素、酸化マグネシウムであり、その他に、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化カルシウム等が含まれており、溶出される陽イオンとしては、珪素イオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、鉄イオン、カルシウムイオン等が検出される。また、その他に不純物陽イオンとして、ナトリウムイオン、カリウムイオン、亜鉛イオン、陰イオンとして、塩化物イオン、水酸化物イオン等が検出される。従って、充填剤を配合した複合組成物は金属イオンの溶出が大きくなり、長期に渡る物性の安定性にも劣るため、使用することができないという問題がある。
従って、本発明の目的は、溶出イオン量が少ない燃料電池部材用樹脂組成物を提供することである。
【発明の開示】
【0006】
成形加工性に優れたポリプロピレンと、補強効果が高く安価な充填材であるタルクとの組み合わせに着目し、鋭意検討した結果、特定性状を持つタルク(白色度、粒径、比表面積)及びタルクの配合量を調整することで金属イオンの溶出が抑えられ、長期の物性も安定した材料が得られることを見出した。
【0007】
本発明によれば、下記の燃料電池部材用樹脂組成物が提供される。
1.下記ポリプロピレン60〜85重量%及び、下記タルク40〜15重量%を含んでなる燃料電池部材用樹脂組成物。
(1)ホモポリプロピレン、ブロックポリプロピレン、又はホモポリプロピレンとブロックポリプロピレンのブレンド物であって、メルトフローレイトが2〜40g/10分のポリプロピレン
(2)白色度が96%以上で、平均粒子径が4〜10μmのタルク
2.前記タルクの比表面積が7〜45m/gである1に記載の燃料電池部材用樹脂組成物。
3.前記ポリプロピレンと前記タルクを合わせて100重量部としたとき、カーボンブラックを0.01〜1重量部含む1又は2に記載の燃料電池部材用樹脂組成物。
4.電導度が、2μS/cm以下である1〜3のいずれかに記載の燃料電池部材用樹脂組成物。
5.前記燃料電池部材が、燃料電池冷却回路部品、燃料電池イオン交換部品又は燃料電池イオン交換カートリッジである1〜4のいずれかに記載の燃料電池部材用樹脂組成物。
【0008】
本発明によれば、溶出イオン量が少ない燃料電池部材用樹脂組成物が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例及び比較例において電気伝導度の測定に用いた装置を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について説明する。
本発明の樹脂組成物に用いるポリプロピレンとしては、ホモポリプロピレン、ブロックポリプロピレン、又はホモポリプロピレンとブロックポリプロピレンとのブレンド物が挙げられる。
ブロックポリプロピレンのコモノマーの例としては、エチレン、ブテン−1が挙げられ、特にエチレンが好ましい。
このポリプロピレンのメルトフローレイト(MFR)は、2〜40g/10分であり、好ましくは6〜30g/10分、より好ましくは6〜15g/10分である。MFRは、樹脂温度230℃、荷重21.18N(2.16kgf)の条件で、JIS K 7210−1999に準拠して測定する。
MFRが2g/10分未満であると成形性が悪くなり、40g/10分を超えると強度に劣る恐れがある。
MFRを上記範囲にするためには、例えば、ポリプロピレンの重合時に水素濃度を調節する等して分子量を調整したり、過酸化物で分解すればよい。
【0011】
本発明の樹脂組成物に用いるタルクは、白色度が96%以上である。白色度はJIS P 8123に準拠して測定する。白色度は、好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上である。
白色度96%未満であると、溶出されるイオン量が多く、燃料電池部材用組成物として使用できず、また、長期の物性安定性が低下する恐れがある。
白色度を上記範囲にするためには、例えば、産地の選定、粉砕、洗浄による不純物除却、表面処理等がある。
【0012】
タルクの平均粒子径は、4〜10μm、好ましくは4.5〜8μmであり、より好ましくは5〜8μmである。平均粒子径は、レーザー解析法で測定できる。
平均粒径が10μmを超えると、金属イオンの溶出が増大し、4μm未満であると、粒径が細かいためポリプロピレンへの分散が悪くなったり、製造時に粉塵として舞い上がりハンドリングが悪くなる恐れがある。
平均粒径を上記範囲にするためには、例えば、粉砕、高速攪拌による微粉化、特定粒径分取のための分級処理等がある。
【0013】
タルクの比表面積は、7〜45m/g、好ましくは7〜40m/gであり、より好ましくは30〜40m/gである。比表面積は、BET法で測定できる。
比表面積が7m/g未満であると、金属イオンの溶出が増大し、45m/gを超えると、ポリプロピレンへの分散が悪くなったり、製造時に粉塵として舞い上がりハンドリングが悪くなる恐れがある。
比表面積を上記範囲にするためには、例えば、高速攪拌による微粉化、再凝集防止のための処理剤の使用がある。
【0014】
本発明の樹脂組成物において、ポリプロピレンとタルクの組成比は、ポリプロピレン:タルク=60〜85重量%:40〜15重量%、好ましくは68〜78重量%:32〜22重量%であり、より好ましくは70〜80重量%:30〜25重量%である。
タルク量が15重量%未満であると、成形時にヒケや反りが発生し、剛性に劣る恐れがある。40重量%を超えると、溶出されるイオン量が多く、燃料電池部材用組成物として使用できない恐れがある。
【0015】
本発明の樹脂組成物は、黒く着色するために、カーボンブラックを含むことができる。カーボンブラックは、好ましくは、ポリプロピレンとタルクを合わせて100重量部としたとき、0.01〜1重量部添加する。
【0016】
本発明の樹脂組成物は、その特性を損なわない範囲で、その他の添加剤を含むことができる。必用に応じて、各種の添加剤、例えば、分散剤、滑剤(ステアリン酸マグネシウム等)、可塑剤、難燃剤、酸化防止剤(フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤)、帯電防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、結晶化促進剤(造核剤)、発泡剤、架橋剤、抗菌剤等の改質用添加剤、顔料、染料等の着色剤(酸化チタン、ベンガラ、アゾ顔料、アントラキノン顔料、フタロシアニン)、炭酸カルシウム、マイカ、クレー等の粒子状充填剤、ワラストナイト等の短繊維状充填剤、チタン酸カリウム等のウィスカー等の添加剤を添加することができる。これらの添加剤は、製造時に添加しもよいし、マスターバッチ(M/B)化して製造時に添加してもよい。
【0017】
本発明の樹脂組成物は、上記の成分を直接押出機に投入して製造してもよいし、全ての成分をミキシングロール、バンバリーミキサ、ニーダー等で混練分散した後、押出機に投入して製造してもよい。タンブラー式ブレンダー、ヘンシェルミキサ、リボンミキサでドライブレンドしてもよい。また、上記成分のM/Bをあらかじめ作製して、それを前記方法で混合して製造することもできる。M/B化する方法が好ましい。
【0018】
本発明の樹脂組成物は、溶出されるイオン量が少ないため、燃料電池部材用として好適に使用できる。
本発明の樹脂組成物の電気伝導度は、好ましくは2μS/cm以下、より好ましくは2〜0.5μS/cmである。電気伝導度は、超純水を使用して測定する。
電気伝導度が2μS/cm以下であると、溶出されるイオン量が少なく、燃料電池部材用組成物としてより好適に使用できる。
【0019】
本発明の樹脂組成物を成形する際は、射出成形法、押出成形法、中空成形法、圧縮成形法、射出圧縮成形法,ガス注入射出成形、又は発泡射出成形等の公知の成形法をなんら制限なく適用できる。特に射出成形法、圧縮成形法及び射出圧縮成形法が好ましい。
【0020】
本発明の樹脂組成物から製造される燃料電池部材の例として、自動車用、家庭用燃料電池部品及びその周辺部品が含まれ、例えば、燃料電池冷却回路部品、燃料電池イオン交換部品及び燃料電池イオン交換カートリッジ等が挙げられる。
【実施例】
【0021】
実施例1
以下の成分をブレンドし、射出成形して成形品を作製した。
(a)ポリプロピレン(PP)(J−784HV、出光石油化学(株)製、ブロックPP、MFR=12g/10分) 75重量%
(b)タルク(TP−A25、富士タルク工業製、白色度98%、平均粒子径4.96μm、比表面積40m/g、45μm篩残分0.002%) 25重量%
(c)酸化防止剤(アデカスタブA0−20、旭電化工業(株)製) 0.2重量部
酸化防止剤(ヨシトミDMTP、吉富ファインケミカル(株)製) 0.2重量部
(d)ステアリン酸マグネシウム(エフコケムMGS−1、旭電化工業(株)製)
0.2重量部
(e)カーボンブラックM/B(キャボット社製のバルカン9の50重量%ポリプロピレンM/B) 0.5重量部
(c)〜(e)は、ブロックPPとタルクを合わせて100重量部としたときの、重量部である。
【0022】
この成形品の物性を以下の方法により測定した。結果を表1に示す。
(1)電気伝導度の測定
図1に示す装置を用いて、以下の手順により測定した。
1.実施例及び比較例毎にサンプル1(64mm×12.7mm×3.2mm)を7枚(セット)用意した。
2.500mLのPFA製(フッ素樹脂製)容器2を用意した。
3.容器2を純水にてオーバーフロー洗浄した。
4.容器2を純水にてシェイク洗浄した。
5.容器2を超純水にてシェイク洗浄した。
6.容器2を乾燥した。
7.容器2を超純水にてシェイク洗浄した。
8.サンプル1を超純水にてカップ洗浄した。
9.サンプル1を容器2へ移した。
10.容器2とサンプル1を超純水にて供洗いした。
11.超純水3を、UPレベルラインまで入れた。
12.80℃で24時間攪拌した。
13.10時間経過後、容器2を恒温槽より取出し、常温になるまで冷却した。
14.導電率計4を確認した。
実施例と比較例毎のサンプルセットを変えるたびに、サンプルを入れないブランク測定もした。
【0023】
(2)曲げ強さ
ASTM D790に準拠して測定した(温度23℃)。
サンプル片:127mm×12.7mm×3.2mm
(3)曲げ弾性率
ASTM D790に準拠して測定した(温度23℃)。
サンプル片:127mm×12.7mm×3.2mm
(4)Izod衝撃強さ
ASTM D256に準拠して測定した(温度23℃)。
サンプル片:64mm×12.7mm×3.2mm、ノッチ付き
(5)耐熱老化性
150℃、1200時間後の引張り保持率を測定した。引張り強度はASTM D638に準拠して測定した。
サンプル片:ASTMタイプI、ダンベル厚み3.2mm
【0024】
【表1】

【0025】
実施例2
実施例1のポリプロピレン75重量%を70重量%、タルク25重量%を30重量%、カーボンブラックM/B0.5部を0部にした以外は実施例1と同様に実施した。
【0026】
実施例3
実施例1のタルク(TP−A25、富士タルク工業製、白色度98%、平均粒子径4.96μm、比表面積40m/g、45μm篩残分0.002%)をタルク(LMK−100、富士タルク工業製、白色度97%、平均粒子径5.83μm、比表面積30m/g、45μm篩残分0.003%)に変えた以外は実施例1と同様に行った。
【0027】
比較例1
実施例1のポリプロピレン75重量%を90重量%、タルク25重量%を10重量%にした以外は実施例1と同様に実施した。
【0028】
比較例2
実施例1のポリプロピレン75重量%を55重量%、タルク25重量%を45重量%にした以外は実施例1と同様に実施した。
【0029】
比較例3
実施例1のタルク(TP−A25、富士タルク工業製、白色度98%、平均粒子径4.96μm、比表面積40m/g、45μm篩残分0.002%)をタルク(B−8、浅田製粉(株)製、白色度91%、平均粒子径20.6μm、比表面積6m/g、45μm篩残分0.24%)に変えた以外は実施例1と同様に行った。
【0030】
表1に示すように、実施例の樹脂組成物の電気伝導度は、2.0μS/cm以下であった。また、長期耐熱試験による引張り強度の保持率が90%以上であり、長期にわたり物性が維持された。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の燃料電池部材用樹脂組成物は、燃料電池部材に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記ポリプロピレン60〜85重量%及び、下記タルク40〜15重量%を含んでなる燃料電池部材用樹脂組成物。
(1)ホモポリプロピレン、ブロックポリプロピレン、又はホモポリプロピレンとブロックポリプロピレンのブレンド物であって、メルトフローレイトが2〜40g/10分のポリプロピレン
(2)白色度が96%以上で、平均粒子径が4〜10μmのタルク
【請求項2】
前記タルクの比表面積が7〜45m/gである請求項1に記載の燃料電池部材用樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリプロピレンと前記タルクを合わせて100重量部としたとき、カーボンブラックを0.01〜1重量部含む請求項1に記載の燃料電池部材用樹脂組成物。
【請求項4】
電導度が、2μS/cm以下である請求項1に記載の燃料電池部材用樹脂組成物。
【請求項5】
前記燃料電池部材が、燃料電池冷却回路部品、燃料電池イオン交換部品又は燃料電池イオン交換カートリッジである請求項1〜4のいずれか一項に記載の燃料電池部材用樹脂組成物。

【図1】
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【国際公開番号】WO2005/017028
【国際公開日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【発行日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513201(P2005−513201)
【国際出願番号】PCT/JP2004/011825
【国際出願日】平成16年8月18日(2004.8.18)
【出願人】(505130112)株式会社プライムポリマー (180)
【出願人】(000223034)東洋▲ろ▼機製造株式会社 (51)
【Fターム(参考)】