説明

燃料電池電極用撥水ペースト

【課題】燃料電池電極用撥水ペーストにおいて、繊維状フィラーを適量配合することによって撥水層の気孔率を増大させ、もってガス拡散性及び発生水分の除去能力を向上させて燃料電池の特性を向上させること。
【解決手段】繊維状フィラーを含有していない比較例1は気孔率が66%であるのに比べて実施例1は気孔率が71%、実施例2は気孔率が75%、実施例3は気孔率が84%、実施例4は気孔率が87%といずれも向上しており、特に実施例1,実施例2,実施例3と繊維状フィラーとしてのカーボン繊維の含有率が増えるにしたがって、気孔率も71%,75%,84%と急激に増大している。これらの実施例1乃至実施例4及び比較例1に係る燃料電池電極用撥水ペーストを用いてMEAを作製し、その電池性能を測定した。気孔率が増加するにしたがって発生電圧も大きくなることが分かった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子型燃料電池に用いられる電極の拡散層を形成する燃料電池電極用撥水ペーストに関し、特に気孔率を大きくすることによって固体高分子型燃料電池の高出力化を図ることができる燃料電池電極用撥水ペーストに関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池においては、高分子電解質膜の両面にカソード側電極及びアノード側電極を形成しており、通常、これらのカソード側電極及びアノード側電極は、白金等の触媒を担持したカーボンブラックとイオン交換樹脂からなる触媒層と、カーボンクロスやカーボンペーパー等のカーボン基材に導電性を付与するためのカーボンブラック粉末等の粒子状導電性フィラーと撥水性を付与するためのポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」という。)ディスパージョン等のフッ素系樹脂ディスパージョンを混練した撥水ペーストを塗布してなるガス拡散層によって構成されている。
【0003】
ここで、粒子状導電性フィラーとフッ素系樹脂ディスパージョンの混合物を塗布しただけでは、ガス拡散層内の空間が目詰まりを起こし、ガス拡散性及び発生水分の除去能力(排水性)が低下して燃料電池の性能が低下することが判明した。
【0004】
そこで、特許文献1に開示された発明においては、触媒層及び/またはガス拡散層の触媒層との界面の少なくとも一部に繊維状炭素を有することを特徴とする燃料電池について提案している。これによって、触媒層内の「ぬれ」を抑制し、電気抵抗を減少させることができるとともに、ガス流路を確保しガス透過性を向上させ、更に加湿コントロールを簡便に行うことができる燃料電池となるとしている。
【0005】
また、特許文献2に開示された発明においては、撥水層に繊維径1μm〜100μm、アスペクト比50以上の炭素繊維を、炭素粒子の含有量をMとしたとき0.1M〜0.2Mの割合で含有する触媒層及び/または拡散層とすることによって、内部に閉鎖空間を有することなく、かつガス透過性及び導電性に優れた触媒層及び/または拡散層を有する燃料電池となるとしている。
【0006】
更に、特許文献3に開示された発明においては、ガス拡散層の撥水層に撥水性樹脂・導電性粉粒体及び選択的に疎水処理された繊維物を含み、疎水処理された繊維物が導電性粉粒体に対して10重量%〜50重量%含有されていることを特徴とする燃料電池について提案している。これによって、繊維物としてカーボン繊維のような親水性の繊維を用いた場合のように余剰の水分が溜まって排水性が不十分になることがなく、ガス拡散性及び排水性に優れたガス拡散層を有する燃料電池となるとしている。
【特許文献1】特開2004−119398号公報
【特許文献2】特開2005−294115号公報
【特許文献3】特開2006−92920号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1及び特許文献2に記載された技術においては、ガス透過用の通路を確保することはできても、撥水ペーストを塗布してガス拡散層の一部を構成する撥水層を形成する点には変わりがないことから、ガス拡散層の気孔率が小さくなってガス拡散性及び発生水分の除去能力が低下すること、特に発生水分の除去能力(排水性)が大幅に低下することは避けられないという問題点があった。
【0008】
また、上記特許文献3に記載された技術においては、繊維物を疎水処理しなければならないことから、フッ素ガス雰囲気において繊維物を加熱することによりその表面をフッ素化させるフッ素ガス処理や、PTFE等のフッ素系樹脂により繊維物表面を被覆するフッ素系樹脂コート処理等の疎水処理工程を付加しなければならず、製造工程が長くなって疎水処理工程を行うための装置も必要となり、燃料電池のコストアップになるという問題点があった。
【0009】
更に、本発明者らは、繊維物としてカーボン繊維のような親水性の繊維を用いた場合であっても、必ずしも排水性が劣化することはなく燃料電池としての性能が向上することを見出した。そこで、本発明は、繊維状フィラーを適量配合して燃料電池電極用撥水ペーストを製造することによって撥水層の気孔率を増大させ、もってガス拡散性及び発生水分の除去能力を向上させて燃料電池の特性を向上させることができる燃料電池電極用撥水ペーストの提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明にかかる燃料電池電極用撥水ペーストは、高分子電解質膜を中心として構成される固体高分子型燃料電池のガス拡散層を形成するための撥水ペーストであって、粒子状導電性フィラーとフッ素系樹脂ディスパージョンと繊維状フィラーとを含有するものである。ここで、「粒子状導電性フィラー」としてはカーボンブラック等があり、「フッ素系樹脂ディスパージョン」としてはPTFEディスパージョン等があり、「繊維状フィラー」としては針状酸化チタン、酸化亜鉛ウィスカー、チタン酸カリ繊維等がある。
【0011】
請求項2の発明にかかる燃料電池電極用撥水ペーストは、請求項1の構成において、前記繊維状フィラーは導電性を有する導電性繊維状フィラーとしたものである。ここで、「導電性を有する導電性繊維状フィラー」としては、カーボン繊維、カーボンナノチューブ等がある。
【0012】
請求項3の発明にかかる燃料電池電極用撥水ペーストは、請求項1または請求項2の構成において、前記繊維状フィラーの添加量は前記粒子状導電性フィラーと前記繊維状フィラーとを合わせたフィラー全体の20重量%〜100重量%であるものである。
【0013】
請求項4の発明にかかる燃料電池電極用撥水ペーストは、高分子電解質膜を中心として構成される固体高分子型燃料電池のガス拡散層を形成するための撥水ペーストであって、フィラーとして導電性を有する導電性繊維状フィラーのみとフッ素系樹脂ディスパージョンとを含有するものである。ここで、「導電性繊維状フィラー」としては、カーボン繊維、カーボンナノチューブ等がある。
【0014】
請求項5の発明にかかる燃料電池電極用撥水ペーストは、請求項1乃至請求項4のいずれか1つの構成において、更に造孔剤を添加したものである。ここで、「造孔剤」としては、ポリ乳酸粒子等がある。
【0015】
請求項6の発明にかかる燃料電池電極用撥水ペーストは、請求項1乃至請求項5のいずれか1つの構成において、前記繊維状フィラー(導電性繊維状フィラーを含む)の径は0.1μm〜15μmの範囲内であり、長さは1μm〜1mmの範囲内であるものである。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明にかかる燃料電池電極用撥水ペーストは、高分子電解質膜を中心として構成される固体高分子型燃料電池のガス拡散層を形成するための撥水ペーストであって、粒子状導電性フィラーとフッ素系樹脂ディスパージョンと繊維状フィラーとを含有するものである。ここで、「粒子状導電性フィラー」としてはカーボンブラック等があり、「フッ素系樹脂ディスパージョン」としてはPTFEディスパージョン等があり、「繊維状フィラー」としては針状酸化チタン、酸化亜鉛ウィスカー、チタン酸カリ繊維等がある。
【0017】
このように、燃料電池電極用撥水ペーストに繊維状フィラーを含有させることによって、繊維状フィラーが互いに絡まったりして空間を形成するために、カーボンペーパー等の基材に燃料電池電極用撥水ペーストを塗布して焼成することによって、形成される撥水層の気孔率が大きくなる。したがって、触媒層と一体化させて燃料電池電極(アノード及びカソード)を形成して、更に燃料電池を構成して運転した場合に、ガス拡散性及び発生水分の除去能力が大きいために、優れた電力特性(発生電圧)を示すことになる。
【0018】
このようにして、繊維状フィラーを適量配合して燃料電池電極用撥水ペーストを製造することによって撥水層の気孔率を増大させ、もってガス拡散性及び発生水分の除去能力を向上させて燃料電池の特性を向上させることができる燃料電池電極用撥水ペーストとなる。
【0019】
請求項2の発明にかかる燃料電池電極用撥水ペーストにおいては、繊維状フィラーが導電性を有する導電性繊維状フィラーとした。ここで、「導電性を有する導電性繊維状フィラー」としては、カーボン繊維、カーボンナノチューブ等がある。
【0020】
これによって、燃料電池電極用撥水ペーストに繊維状フィラーを含有させることで繊維状フィラーが互いに絡まったりして空間を形成するために、カーボンペーパー等の基材に燃料電池電極用撥水ペーストを塗布して焼成することによって、形成される撥水層の気孔率が大きくなる。更に、請求項1に記載の効果に加えて、繊維状フィラーが導電性を有するためにガス拡散層全体としても導電性が向上し、電力を効率良く取り出すことができる。
【0021】
このようにして、導電性を有する導電性繊維状フィラーを適量配合して燃料電池電極用撥水ペーストを製造することによって、撥水層の気孔率を増大させるとともに導電性をも増大させ、もってガス拡散性及び発生水分の除去能力を向上させて燃料電池の特性を向上させることができる燃料電池電極用撥水ペーストとなる。
【0022】
請求項3の発明にかかる燃料電池電極用撥水ペーストは、繊維状フィラーの添加量が粒子状導電性フィラーと繊維状フィラーとを合わせたフィラー全体の20重量%〜100重量%である。この理由は、繊維状フィラーの添加量がフィラー全体の20重量%未満であると、撥水層の気孔率を増大させる効果が少ししか得られないためである。
【0023】
また、繊維状フィラーの添加量がフィラー全体の100重量%である場合には、繊維状フィラーの少なくとも一部は導電性を有する導電性繊維状フィラーである必要がある。
【0024】
このようにして、導電性を有する導電性繊維状フィラーを適量配合して燃料電池電極用撥水ペーストを製造することによって、撥水層の気孔率を増大させるとともに導電性をも増大させ、もってガス拡散性及び発生水分の除去能力を向上させて燃料電池の特性を向上させることができる燃料電池電極用撥水ペーストとなる。
【0025】
請求項4の発明にかかる燃料電池電極用撥水ペーストは、高分子電解質膜を中心として構成される固体高分子型燃料電池のガス拡散層を形成するための撥水ペーストであって、フィラーとして導電性を有する導電性繊維状フィラーのみとフッ素系樹脂ディスパージョンとを含有するものである。ここで、「導電性繊維状フィラー」としては、カーボン繊維、カーボンナノチューブ等がある。
【0026】
導電性繊維状フィラーを用いた場合には、導電性繊維状フィラーによって撥水層の導電性を確保することができるため、カーボンブラック等の繊維状でない粒子状導電性フィラーを配合する必要がない。これによって、カーボン繊維等の導電性繊維状フィラーとPTFEディスパージョン等のフッ素系樹脂ディスパージョンのみを混合するだけで、カーボンペーパー等の基材に塗布して焼成することによって、形成される撥水層の気孔率が大きくなる燃料電池電極用撥水ペーストを得ることができる。
【0027】
このようにして、導電性繊維状フィラーを適量配合して燃料電池電極用撥水ペーストを製造することによって、撥水層の気孔率を増大させるとともに導電性をも増大させ、もってガス拡散性及び発生水分の除去能力を向上させて燃料電池の特性を向上させることができる燃料電池電極用撥水ペーストとなる。
【0028】
請求項5の発明にかかる燃料電池電極用撥水ペーストは、更に造孔剤を添加したものである。ここで、「造孔剤」としては、ポリ乳酸粒子等がある。これによって、請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載の効果に加えて、造孔剤のあった位置にも焼成後に空間が生ずるので気孔率が一段と高くなる。
【0029】
このようにして、繊維状フィラーを適量配合して燃料電池電極用撥水ペーストを製造することによって撥水層の気孔率を増大させ、もってガス拡散性及び発生水分の除去能力を向上させて燃料電池の特性を向上させることができる燃料電池電極用撥水ペーストとなる。
【0030】
請求項6の発明にかかる燃料電池電極用撥水ペーストにおいては、繊維状フィラー(導電性繊維状フィラーを含む)の径が0.1μm〜15μmの範囲内であり、長さが1μm〜1mmの範囲内、より好ましくは1μm〜50μmの範囲内である。
【0031】
本発明者らは、燃料電池電極用撥水ペーストに配合する繊維状フィラー(導電性繊維状フィラーを含む)の大きさについて、鋭意実験研究を重ねた結果、繊維状フィラーの径が0.1μm〜15μmの範囲内であり、長さが1μm〜1mmの範囲内、より好ましくは1μm〜50μmの範囲内である場合に最も好ましい結果が得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させたものである。
【0032】
このようにして、適切な径及び長さを有する繊維状フィラーを適量配合して燃料電池電極用撥水ペーストを製造することによって撥水層の気孔率を増大させ、もってガス拡散性及び発生水分の除去能力を向上させて燃料電池の特性を向上させることができる燃料電池電極用撥水ペーストとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態にかかる燃料電池電極用撥水ペーストについて、図1及び図2を参照して説明する。図1は本発明の実施の形態にかかる燃料電池電極用撥水ペーストを基材に塗布して焼成してなるガス拡散層の構造を示す断面図である。図2は本発明の実施の形態にかかる燃料電池電極用撥水ペーストを用いて作製したMEA(Membrane Electrode Assembly:膜電極接合体)の電力特性を示すグラフである。
【0034】
まず、本発明の実施の形態にかかる燃料電池電極用撥水ペーストの作製方法、及び気孔率の評価方法について説明する。本実施の形態にかかる燃料電池電極用撥水ペーストは、粒子状導電性フィラーとしてのカーボンブラック、フッ素系樹脂ディスパージョンとしてのPTFEディスパージョン、繊維状フィラー(導電性繊維状フィラー)としてのカーボン繊維、造孔剤としてのポリ乳酸等を含有するペースト状混合物である。
【0035】
本実施の形態においては、燃料電池電極用撥水ペーストとして成分・配合を変えて実施例1乃至実施例4の燃料電池電極用撥水ペーストを作製し、また比較例1として従来の燃料電池電極用撥水ペーストをも作製した。実施例1乃至実施例4及び比較例1の配合を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
表1に示されるように、実施例1及び実施例2は、粒子状導電性フィラーとしてのカーボンブラックと、フッ素系樹脂ディスパージョンとしてのPTFEディスパージョンと、繊維状フィラー(導電性繊維状フィラー)としてのカーボン繊維とを含有する燃料電池電極用撥水ペーストであり、請求項1及び請求項2の発明に対応する。また、実施例3は、フィラーとして導電性を有する導電性繊維状フィラーとしてのカーボン繊維のみとフッ素系樹脂ディスパージョンとしてのPTFEディスパージョンとを含有する燃料電池電極用撥水ペーストであり、請求項4の発明に対応する。更に、実施例4は、カーボン繊維とPTFEディスパージョンと造孔剤としてのポリ乳酸を含有する燃料電池電極用撥水ペーストであり、請求項5の発明に対応するものである。
【0038】
そして、繊維状フィラー(導電性繊維状フィラー)としてのカーボン繊維は径が0.15μmであり、長さが20μmであって、請求項6の発明に対応しているものである。更に、実施例1における繊維状フィラーとしてのカーボン繊維の含有率は、カーボンブラックと合わせたフィラー全体の20重量%であり、実施例2におけるカーボン繊維の含有率はフィラー全体の40重量%であり、実施例3及び実施例4においては100重量%であるので、いずれも請求項3の発明の条件を満たしている。
【0039】
なお、表1に示される「その他」の成分は大部分が水であり、あとは少量の界面活性剤が含まれている。したがって、「その他」の成分は、カーボンブラック、PTFEディスパージョン、カーボン繊維、ポリ乳酸の各成分を混合してペースト化するための溶媒であり、焼成後においては消失するものである。
【0040】
これらの実施例1乃至実施例4及び比較例1の配合成分をそれぞれ十分に混合して、5種類の燃料電池電極用撥水ペーストを作製した。そして、各ペーストを350℃で焼成して、得られた焼成物の気孔率をポロシメーターで測定した。気孔率の測定結果を、表1の最下段に示す。表1に示されるように、従来の撥水ペーストであり、繊維状フィラーを含有していない比較例1においては気孔率が66%であったのに比べて、実施例1は気孔率が71%、実施例2は気孔率が75%、実施例3は気孔率が84%、実施例4は気孔率が87%、といずれも向上していることが分かる。
【0041】
特に、実施例1,実施例2,実施例3と、繊維状フィラーとしてのカーボン繊維の含有率が増えるにしたがって、気孔率も71%,75%,84%と急激に増大している。これによって、燃料電池電極用撥水ペースト内において、繊維状フィラーとしてのカーボン繊維が互いに絡まったりして空間を形成することによって、気孔率を増大させているものと考えられる。
【0042】
次に、これらの実施例1乃至実施例4及び比較例1に係る燃料電池電極用撥水ペーストを用いて、それぞれMEA(Membrane Electrode Assembly:膜電極接合体)を作製し、その電池性能を測定した。作製したMEAのうち、ガス拡散層の構造を図1に示す。図1に示されるように、基材となるカーボンペーパー5(厚さ約200μm)に燃料電池電極用撥水ペーストを塗布して焼成することによって、繊維状フィラーとしてのカーボン繊維3とフッ素樹脂としてのPTFE4からなる撥水層2(厚さ約100μm)が形成される。
【0043】
なお、図1に示されるガス拡散層1は、本実施の形態のうち導電性繊維状フィラー100%からなる実施例3に係るものであり、実施例1及び実施例2の場合には、撥水層2に更にカーボンブラックが含有される。こうして形成された本実施の形態に係るガス拡散層1を、高分子電解質膜を挟んで両面に形成された触媒層にそれぞれ密着させて、MEA(膜電極接合体)を作製した。
【0044】
MEAの運転条件は、水素利用率80%、エアー利用率45%、アノード加湿条件がバブラーで57℃、カソード加湿条件がバブラーで60℃、一気圧に換算すると(水/乾燥空気)の比が(0.21mol/0.25mol)である。その結果、図2に示されるように、気孔率が増加するにしたがって発生電圧も大きくなることが分かった。図2に示される実験結果は、左から順に、比較例1,実施例1,実施例2,実施例3,実施例4であり、電流値が0.8A/cm2 の場合の発生電圧を示すものである。
【0045】
比較例1は気孔率が66%であり、MEAの発生電圧は570mVであるのに対して、実施例1は気孔率が71%でMEAの発生電圧は600mV、実施例2は気孔率が75%でMEAの発生電圧は610mV、実施例3は気孔率が84%でMEAの発生電圧は630mV、実施例4は気孔率が87%でMEAの発生電圧は同じく630mVであった。
【0046】
このように、繊維状フィラーとしてのカーボン繊維の含有率が増えるにしたがって撥水層の気孔率が増加し、気孔率が増加するにしたがって燃料電池(MEA)の発生電圧が大きくなる。このようにして、本実施の形態に係る燃料電池電極用撥水ペーストにおいては、繊維状フィラーを適量配合して燃料電池電極用撥水ペーストを製造することによって撥水層の気孔率を増大させ、もってガス拡散性及び発生水分の除去能力を向上させて燃料電池の特性を向上させることができる。
【0047】
本実施の形態においては、繊維状フィラーとして導電性を有する導電性繊維状フィラーとしてのカーボン繊維を用いた場合について説明したが、繊維状フィラーとしてはこれに限られるものではなく、針状酸化チタン、酸化亜鉛ウィスカー、チタン酸カリ繊維等の導電性を有しない繊維を用いることもできる。
【0048】
本発明を実施するに際しては、燃料電池電極用撥水ペーストのその他の構成、成分、材料、配合、形状、大きさ、製造方法等についても、本実施の形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】図1は本発明の実施の形態にかかる燃料電池電極用撥水ペーストを基材に塗布して焼成してなるガス拡散層の構造を示す断面図である。
【図2】図2は本発明の実施の形態にかかる燃料電池電極用撥水ペーストを用いて作製したMEA(Membrane Electrode Assembly:膜電極接合体)の電力特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0050】
1 ガス拡散層
2 撥水層
3 繊維状フィラー
4 フッ素樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質膜を中心として構成される固体高分子型燃料電池のガス拡散層を形成するための撥水ペーストであって、
粒子状導電性フィラーとフッ素系樹脂ディスパージョンと繊維状フィラーとを含有することを特徴とする燃料電池電極用撥水ペースト。
【請求項2】
前記繊維状フィラーは、導電性を有する導電性繊維状フィラーとしたことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池電極用撥水ペースト。
【請求項3】
前記繊維状フィラーの添加量は、前記粒子状導電性フィラーと前記繊維状フィラーとを合わせたフィラー全体の20重量%〜100重量%であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の燃料電池電極用撥水ペースト。
【請求項4】
高分子電解質膜を中心として構成される固体高分子型燃料電池のガス拡散層を形成するための撥水ペーストであって、
フィラーとして導電性を有する導電性繊維状フィラーのみとフッ素系樹脂ディスパージョンとを含有することを特徴とする燃料電池電極用撥水ペースト。
【請求項5】
更に、造孔剤を添加したことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載の燃料電池電極用撥水ペースト。
【請求項6】
前記繊維状フィラーの径は0.1μm〜15μmの範囲内であり、長さは1μm〜1mmの範囲内であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1つに記載の燃料電池電極用撥水ペースト。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−117563(P2008−117563A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−297709(P2006−297709)
【出願日】平成18年11月1日(2006.11.1)
【出願人】(000100780)アイシン化工株式会社 (171)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】