説明

燃料電池

【課題】燃料電池の過酸化水素イオンによる電解質膜の劣化を防止して、燃料電池の耐久性を向上させる。
【解決手段】電解質と、電解質を挟んで配置された一対の電極であるアノード極とカソード極とを備える燃料電池において、カソード極を、触媒粒子と捕捉粒子とを含むように構成する。ここで触媒粒子は、酸素から水酸化物イオンを生成する反応に対する触媒作用を有する粒子とし、捕捉粒子は、過酸化水素イオンを捕捉する機能を有する粒子とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は燃料電池に関する。更に、具体的には、電解質とその両側に配置された一対の電極とを備え、各電極のそれぞれに供給された反応剤(燃料及び酸化剤)の反応によって起電力を発する燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、燃料電池としては、アルカリ型、リン酸型、溶融炭酸塩型、固体電解質型、固体高分子型などがある。例えばアルカリ型燃料電池の場合、カソード極は、供給された大気中の酸素と、水とから、水酸化物イオンを生成する触媒作用を有している。ここで生成された水酸化物イオンが電解質を通過してアノード極に達し、アノード極の触媒作用によって水素と水酸化物イオンが反応して水が生成される。このような燃料と大気との反応によって、燃料電池は起電力を発する。
【0003】
例えば、特表平4−502980号公報には、特にアルカリ型燃料電池の電極触媒として好適な電極触媒物質が開示されている。この電極触媒物質は、微粒活性炭を支持物質として微粒活性炭表面に(100)面を有する金粒子の単結晶を析出させたものである。上記従来技術によれば、この電極触媒粒子は、酸素を水又は水酸化物へ還元すると共に、過酸化水素イオンが存在する環境下では過酸化水素イオンを水に還元する、高い触媒活性を有するとしている。
【0004】
【特許文献1】特表平4−502980号公報
【特許文献2】特表昭62−500271号公報
【特許文献3】特開2006−236776号公報
【特許文献4】特開2004−319300号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来技術の電極触媒物質となる金は、高価な材料である。従って、このような電極触媒物質を電極触媒として用いる場合には、その燃料電池のコストが増大することが考えられる。このため、よりコストの低い材料で構成され、かつ高い触媒活性を有する電極触媒物質の開発が望まれる。
【0006】
また、特にカソード極では、酸素から水酸化物イオンを生成する過程において過酸化水素イオンが発生することがある。過酸化水素イオンの反応性は強く、過酸化水素イオンがそのまま電解質に到達すると、電解質にダメージを与え、電解質を劣化させることが考えられる。このため、カソード極において発生した過酸化水素イオンをカソード極内で捕捉あるいは分解することで、過酸化水素イオンの電解質への到達を抑えることが望まれる。
【0007】
この発明は、上記の課題を解決することを目的として、コストダウンを図りつつ、高い触媒活性を有し、かつ、過酸化水素イオンの電解質への到達を抑えることができるように改良した電極を有する燃料電池を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、燃料電池であって、
電解質と、
前記電解質を挟んで配置された一対の電極であるアノード極と、カソード極と、を備え、
前記カソード極は、
酸素から水酸化物イオンを生成する反応に対し触媒作用を有する触媒粒子と、
前記過酸化水素イオンを捕捉する機能を有する捕捉粒子と、
を備えることを特徴とする。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、前記捕捉粒子は、過酸化水素イオンから、水酸化物イオンを生成する反応に対する触媒作用をも有することを特徴とする。
【0010】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記捕捉粒子は、酸化ニオブ、酸化チタン、合成ゼオライト、活性炭及び希土類元素からなる群のうち1以上の粒子を含むことを特徴とする。
【0011】
第4の発明は、第1又は第2の発明において、前記捕捉粒子は、フラーレンであることを特徴とする。
【0012】
第5の発明は、第1から第4のいずれかの発明において、前記カソード極は、
前記電解質の一面側に接するように配置され、前記捕捉粒子を含んで構成された捕捉層と、
前記捕捉層に接するように配置され、前記触媒粒子を含んで構成された触媒層と、
を備えることを特徴とする。
【0013】
第6の発明は、第1から第4のいずれかの発明において、前記カソード極は、
前記電解質に接するように配置され、前記触媒粒子及び/又は前記捕捉粒子を含む複数の電極層を、備え、
前記複数の電極層は、前記電解質に接する側の電極層から順に、前記電解質から離れるにつれて、該電極層中の前記触媒粒子と前記捕捉粒子とを含む全粒子に対する前記捕捉粒子の比率が、小さくなるように配置されていることを特徴とする。
【0014】
第7の発明は、第1から第6のいずれかの発明において、前記電解質は、陰イオンを選択的に通過させる機能を有する電解質であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
第1の発明によれば、カソード極は、酸素から水酸化物イオンを生成する触媒作用を有する触媒粒子と、過酸化水素イオンを捕捉する機能を有する捕捉粒子とを備えている。これによりカソード極に過酸化水素イオンが存在する状態においても、過酸化水素イオンを捕捉粒子によって確実に捕捉することができるため、電解質への過酸化水素イオンの到達量を低減することができる。従って、過酸化水素イオンによる電解質の劣化を抑えることでき、燃料電池の耐久性を向上させることができる。
【0016】
第2の発明によれば、捕捉粒子は、過酸化水素イオンから、水酸化物イオンを生成する触媒作用をも有する。従って、カソード極における水酸化物イオンの生成量を増大させることができ、燃料電池の発電性能を向上させることができる。
【0017】
第3又は第4の発明によれば、捕捉粒子は、酸化ニオブ、酸化チタン、合成ゼオライト、活性炭及び希土類元素からなる群のうち1以上の粒子を含む粒子か、又はフラーレンである。これにより、確実に過酸化水素イオンを捕捉することができるため、電解質の劣化を抑えることができる。
【0018】
第5の発明によれば、カソード極は、捕捉粒子を含む捕捉層と、触媒粒子を含む触媒層とを含む。また、捕捉層が電解質に接するようにして配置され、捕捉層に接して触媒層が配置される。これにより、例えば、触媒層における反応により過酸化水素イオンが発生した場合にも、捕捉層によってこれを捕捉することができる。従って、過酸化水素イオンが電解質に到達するのを確実に抑えることができ、電解質の劣化を効果的に抑えることができる。
【0019】
第6の発明によれば、カソード極は複数の電極層を備え、この複数の電極層は、電解質に接する側の電極層から順に、電解質から離れるにつれて、その電極層中の全粒子に対する捕捉粒子の比率が小さくなるように配置されている。つまり、電解質に接する側には捕捉粒子の比率が高い電極層が配置され、電解質から離れた外側の電極層には触媒粒子の比率が高い電極層が配置される。これにより、外側の電極層における水酸化イオン生成の反応において過酸化水素イオンが発生した場合にも、電解質側に移動する過程で、この過酸化水素イオンを捕捉粒子によって捕捉することができる。従って、過酸化水素イオンが電解質に到達するのを確実に抑えることができ、電解質の劣化を効果的に抑えることができる。
【0020】
ところで、特に、陰イオンを通過する電解質は、陰イオンである過酸化水素イオンに接することにより特に、ダメージを受けやすい。この点、第7の発明によれば、陰イオンを通過する電解質を有するアルカリ型の燃料電池のカソード極に捕捉層を設けることで、電解質の過酸化水素イオンによるダメージを抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、各図において、同一または相当する部分には同一符号を付してその説明を簡略化ないし省略する。
【0022】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1の燃料電池の構成について説明するための模式図である。図1に示す燃料電池はアルカリ型燃料電池である。燃料電池はアニオン交換膜10(電解質)を有している。アニオン交換膜10の両側にはアノード極20及びカソード極30が配置されている。アノード極20及びカソード極30の両外側には集電板40が配置されている。アノード極20側の集電板40には燃料経路50が接続され、燃料経路50には燃料供給源(図示せず)が接続されている。燃料供給源から、燃料経路50及び集電板40を介してアノード極20に燃料が供給され、アノード極20から燃料経路50側に未反応の燃料等が排出される。一方、カソード極30側の集電板40には酸素経路60が接続されている。酸素経路60及び集電板40を介してカソード極30に大気が供給され、カソード極30から酸素経路60側に、未反応の酸素を含む大気オフガスが排出される。
【0023】
燃料電池の発電の際にはアノード極20には燃料として、例えばエタノール等の水素を含む燃料が供給される。一方、カソード極30には大気(又は酸素)が供給される。アノード極20に燃料が供給されると、アノード極20の電極触媒層の作用により燃料中の水素原子と、アニオン交換膜10を通過した水酸化物イオンとが応して水が生成されると共に、電子が放出される。アノード極20での反応は、純水素を燃料とする場合には、次式(1)のようになり、エタノールを燃料とする場合には次式(2)のようになる。
+2OH → 2HO+2e ・・・(1)
CHCHOH+12OH → 2CO+9HO+12e ・・・(2)
【0024】
一方、カソード極30に大気が供給されると、大気中の酸素分子は後述するカソード極30の触媒層の作用により、いくつかの段階を経て、電極から電子を受け取って水酸化物イオンが生成される。水酸化物イオンはアニオン交換膜10を通過してアノード極20側に移動する。カソード極30での反応は、次式(3)のようになる。
1/2O+HO+2e → 2OH ・・・・(3)
【0025】
以上のようなアノード極20側とカソード極30側における反応をまとめると、燃料電池全体では次式(4)のように水の生成反応が起き、このときの電子が両極側の集電板40を介して移動し、これにより電流が流れて発電することになる。
+1/2O → HO ・・・・(4)
【0026】
上記のようなアルカリ型の燃料電池において、アニオン交換膜10は、カソード極30の電極触媒で生成される水酸化物イオン(OH-)をアノード極20に移動させることができる媒体であれば特に限定されない。具体的にアニオン交換膜10としては、例えば、1〜3級アミノ基、4級アンモニウム基、ピリジル基、イミダゾール基、4級ビリジウム基、4級イミダゾリウム基などのアニオン交換基を有する固体高分子膜(アニオン交換樹脂)があげられる。また、固体高分子の膜としては、例えば、炭化水素系及びフッ素系樹脂などがあげられる。
【0027】
図2は、図1の点線(A)で囲む部分を拡大して表した模式図である。図2に示すように、アノード極20は触媒層により構成される。アノード極20、即ち触媒層は、カーボン等からなる担体粒子22に触媒粒子24を担持させた触媒電極用の担持体(以下「触媒担持体」とする)からなる。アノード極20は、この触媒担持体をアニオン交換膜10と同じ電解質膜を溶かした溶液に混合し、これをアニオン交換膜10の表面に塗布することで形成されている。
【0028】
一方、カソード極30は少なくとも触媒層32と捕捉層34とを有している。触媒層32は、アノード極20の触媒層と同一のものである。つまり、触媒層32は、カーボン等からなる担体22に、触媒粒子24を担持させた触媒担持体からなる。カソード極30は、更に、触媒層32とアニオン交換膜10との間に、捕捉層34を有している。捕捉層34は、後述するようにカーボン等の担体36に、捕捉粒子として酸化チタン38を担持させた捕捉層用の担持体(以下「捕捉担持体」)からなる。
【0029】
カソード極30における触媒層32の厚さは400[μm]であり、捕捉層34の厚さは、5〜30[μm]の範囲である。また、捕捉層34の中で、酸化チタン38の捕捉担持体全体の体積に対する比率は、10〜50[Vol.%]の範囲内である。
【0030】
捕捉層34は、捕捉担持体をアニオン交換膜10と同様の電解質膜を溶かした溶液に混入し、これを、アニオン交換膜10のアノード極20とは反対側の表面に塗布することで形成されている。触媒層32は、触媒担持体を電解質溶液に混入し、これを捕捉層34の表面に塗布することで形成されている。
【0031】
ここで、アノード極20の触媒層は、上記(1)又は(2)式のように、供給される燃料中から水素原子を取り出し、アニオン交換膜10を通過した水酸化物イオンと反応させて水(H2O)を生成すると共に、集電板40に電子(e-)を放出する触媒作用を有している。また、カソード極30の触媒層32は、上記(3)式のように、集電板40から電子(e-)を受け取って、酸素(O2)と水(H2O)とから水酸化物イオンを生成させる触媒作用を有している。
【0032】
両触媒層の触媒担持体は、このようなアノード極20及びカソード極30の触媒反応を活性化させるものであれば、特に限定されるものではない。具体的には、例えば、触媒粒子24として、Fe、Co、Ni、あるいはPtのいずれか、又はこれらの合金を用いることが考えられる。また、担体22としてはカーボン等を用いることが考えられる。
【0033】
ところで、カソード極30の触媒層32では、(3)式のように、供給された酸素の全てが水酸化イオンとはならず、水酸化イオン生成の過程で、次式(5)のように、過酸化水素イオン(HO2-)が発生し残留する場合がある。
+HO+2e → HO+OH ・・・・(5)
【0034】
従来の燃料電池のように、触媒層がアニオン交換膜に接するように配置されている場合、発生した過酸化水素イオンは、水酸化物イオンと共に、アニオン交換膜にそのまま到達しアニオン交換膜内に浸入することとなる。過酸化水素イオンは、水酸化物イオンよりも反応性が強く、アニオン交換膜内に浸入すると、アニオン交換膜にダメージを与え、アニオン交換膜を劣化させる場合がある。
【0035】
これに対し、実施の形態1の燃料電池では、発生した過酸化水素イオンがアニオン交換膜10に到達するのを防止するべく、発生した過酸化水素イオンを捕捉する(トラップする)捕捉層34がアニオン交換膜10に接するようにして配置されている。具体的に、捕捉層34の酸化チタン38は、過酸化水素イオンをカソード極30において捕捉するか、あるいは次式(6)のように、過酸化水素イオンと水とを反応させ、水酸化イオンを生成する触媒作用を有している。
HO+HO+2e → 3OH ・・・・(6)
【0036】
従って、捕捉層34より外側(アニオン交換膜10とは反対側)の触媒層32における触媒反応の過程で過酸化水素イオンが生成された場合にも、捕捉層34を通過する過程で捕捉層34において、過酸化水素イオンは水酸化物イオンとされるか、そのまま酸化チタン38にトラップされる。従って、アニオン交換膜10には、水酸化物イオンのみが到達することとなる。これにより、アニオン交換膜10の過酸化水素イオンによる劣化を防止することができる。また、同時に、過酸化水素イオンから水酸化物イオンが生成されることで、酸素の利用率を向上させることができる。従って、燃料電池の発電効率を向上させることができる。
【0037】
図3(a)は、捕捉層34中の酸化チタン38の比率(添加量)[Vol.%]を変化させた場合の電圧[V]の変化を表している。図3(a)は、捕捉層34の厚さ10μm、電流密度0.05[A/cm2]の条件下で検出したものである。図3(a)に示すように、酸化チタンの比率が0の場合(即ち、従来のMEAのみの場合)と比較すると、酸化チタン38の比率が10、30、60[Vol.%]のいずれの場合にも、電圧[V]が高くなっていることがわかる。つまり、酸化チタンの比率に関わらず、酸化チタン38を有する捕捉層34を設けることで、ある程度セル電圧を上昇させることができることがわかる。但し、より高い発電性能を得るためには、その比率は10〜50[Vol.%]であることが好ましい。
【0038】
図3(b)は、捕捉層34の厚さ[μm]を変化させた場合のセル電圧[V]の変化を検出した結果を表している。ここでは、捕捉層34中の酸化チタン38の含有率を10[Vol.%]とし、電流密度を0.05[A/cm2]とした条件下で測定が行われた。捕捉層34の厚さが0の場合、即ち、カソード極30が捕捉層34を有さないMEAの場合と比較すると、捕捉層34がどのような厚さの場合にもセル電圧[V]が高くなっていることが判る。このことから、捕捉層34の厚さに関わらず、捕捉層34を設けることで、従来の燃料電池に比べて、発電効率を向上させることができると考えられる。但し、より確実にその機能を発揮して発電性能を向上させるためには、その厚さは5-30[μm]の範囲内にあることが好ましい。
【0039】
実施の形態1では捕捉層34の捕捉粒子として酸化チタン38を用いるものについて説明した。しかし、この発明において捕捉粒子は酸化チタン38に限るものではない。例えば、捕捉粒子としては、酸化チタン38のほかに、酸化ニオブ、合成ゼオライト、活性炭、ランタン等の希土類元素等の粒子を用いることができると考えられる。
【0040】
図4はこれらのうちいずれかの粒子を捕捉層34の捕捉粒子として用いた場合の、アニオン交換膜10の水素のクロスリーク量が2[%]に達するまでの時間[Hr]を表している。ここで、アニオン交換膜10の水素のクロスリーク量が増加することは、アニオン交換膜10の劣化が進んでいる状態であると考えることができる。従って、ここでは、クロスリーク量2[%]をアニオン交換膜の劣化状態の基準とし、この基準に達するまでの時間[Hr]を検査している。
【0041】
図4から、通常の捕捉層34を有さないMEAに比べて、酸化ニオブ、酸化チタン、合成ゼオライト、活性炭、及び希土類元素の何れを用いた場合であっても、捕捉層34を有するものである場合には、アニオン交換膜10の劣化までの時間が遅く、劣化の進行が抑えられていることがわかる。また、中でも希土類元素を用いた場合には、クロスリーク量2[%]に達するまでの時間が長く、特に、捕捉層34として、過酸化水素イオンをトラップする機能が高いことがわかる。但し、捕捉層34の捕捉粒子は、過酸化水素イオンをトラップする作用の他に、過酸化水素イオンから水酸化物イオンを生成する反応に対する触媒活性の高さや、それ自体の抵抗の低さなどを考慮して決定することが好ましい。
【0042】
なお、上記のような粒子の種類は、この発明における捕捉粒子を限定するものではなく、捕捉層34として、過酸化水素イオンをトラップできるものであれば、他の粒子を用いるものであってもよい。また、捕捉層34は、これらの捕捉粒子を担体に担持させた担持体によって構成されるものではなく、例えば、これらの捕捉粒子を直接用いるもの等であってもよい。なお、捕捉粒子の種類に関する上記の事項は、実施の形態2においても同様である。
【0043】
また、実施の形態1では上記のように捕捉層34の厚さ、粒子の比率(添加量)について、その効果を検討したが、この発明の捕捉層34は、上記に記載した厚さや比率に限定されるものではない。例えば、捕捉層34の厚さは、触媒層32の厚さを考慮して決定することもできる。具体的に、酸化チタン38を捕捉粒子として用いる場合には、その捕捉層と触媒層の厚さの比率は、触媒層32の厚さに対して、捕捉層34の厚さが15〜100%、更に好ましくは、50〜100%となるものがよいと考えられる。なお、これについては、実施の形態3についても同様である。
【0044】
また、両極の触媒層は、触媒粒子24を担体22に担持させた触媒電極用の粒子からなる場合について説明した。しかし、この発明において触媒層はこのような触媒担持体に限るものではなく、例えば、Fe、Co、Ni、あるいはPt等により構成されたもの、あるいは、これらの金属原子を中心金属とする有機金属錯体、あるいは、このような有機金属錯体を担体に担持させたもの等を用いることができる。また、各電極の触媒層の表面には多孔体等で構成された拡散層を配置することもできる。これについては、以下の実施の形態についても同様である。
【0045】
また、この発明の実施の形態では、アニオン交換膜10の両側に一対の電極(アノード極20とカソード極30)が配置され、その両側に集電板40や反応ガス経路50、60が配置されている1のMEAのみを有する燃料電池について説明した。しかし、この発明において燃料電池は図1に示す構造に限るものではない。例えば、1のMEAのみを有するものではなく、MEAを、集電板を含むセパレータを介して直列に複数接続したスタック構造を有する燃料電池とすることもできる。この場合にも各MEAのカソード極30を上記のように触媒層32と捕捉層34とを有する構造とすることで、各MEAのアニオン交換膜10の劣化を防止しつつ、燃料電池の発電性能を向上させることができる。なお、この場合にも同様に、アノード極20とカソード極30の触媒層の表面にそれぞれ拡散層を配置したものであってもよい。これについては、以下の実施の形態についても同様である。
【0046】
また、実施の形態1では、燃料電池としてアニオン交換膜10を用いたアルカリ型燃料電池を用いる場合について説明した。しかし、この発明はこのような燃料電池に限るものではなく、例えばアニオン交換膜10に替えて、KOH等の陰イオンを通過させる電解質を用いたアルカリ電池等であってもよい。この場合にも、電解質への過酸化水素イオンの浸入を抑えることで、電解質の劣化を抑えることができる。また、実施の形態1の電極は、アルカリ型燃料電池に適用するのが効果的であるが、この発明はアルカリ型燃料電池に限るものでもなく、プロトン交換膜を電解質膜とする固体高分子型燃料電池等に用いることもできる。この場合にもカソード極での過酸化水素イオンの発生を抑えることができ、同時に過酸化水素イオンから効果的に水酸化物イオンを生成することができるため、電解質膜の劣化を抑えるとともに、発電効率を向上させることができる。これについては、以下の実施の形態についても同様である。
【0047】
実施の形態2.
図5はこの発明の実施の形態2における燃料電池について説明するための模式図である。図5は、図1の点線Aで囲まれた部分を拡大して表したものである。図5の燃料電池は、カソード極30の構成が異なる点を除いて図1の燃料電池と同じ構成を有している。図5に示すように、燃料電池のアニオン交換膜10の両側にはアノード極20とカソード極70とが配置されている。アノード極20は、実施の形態1のアノード極20と同じものである。
【0048】
一方、カソード極70は、複数の電極層71〜75に積層された構造を有している。アニオン交換膜10から最も離れて外側に配置された電極層71は、アノード極20と同様に構成されている。即ち、担体22に触媒粒子24を担持させた触媒担持体(以下「触媒担持体」とする)のみが電解質溶液に混合されて塗布されたものである。
【0049】
一方、アニオン交換膜10に接する電極層75は、実施の形態1の捕捉層34と同じ構造となっている。つまり、担体36に酸化チタン38を担持させた捕捉担持体のみが電解質溶液に混合されて、アニオン交換膜10表面に塗布されたものである。
【0050】
最外層の電極層71と、内側の電極層75との間の電極層72〜74には、触媒担持体と、捕捉担持体とが混在する。触媒担持体と捕捉担持体との全担持体に対する捕捉担持体の比率は、アニオン交換膜10に接する電極層71で100[%]であり、アニオン交換膜10に近い内側から順に、電極層72、電極層73、74となるに連れて、その比率が小さくなり、最外層の電極層71では0[%]となる。逆に、全担持体に対する触媒担持体の量は、アニオン交換膜10に接する電極層71で0[%]であり、アニオン交換膜10から離れた層になるに従って、電極層72、73、74と順に高くなり、最外層の電極層75で100[%]となるように構成されている。
【0051】
大気は、カソード極70の外側に接するように配置された酸素経路60から供給される。従って、酸素経路60に接する最外層の電極層75付近では、酸素から水酸化物イオンを発生させる触媒反応を活性化する必要がある。従って、最外層の電極層75は通常の触媒担持体が100%とされ、酸素経路60から離れて内側になるに従って、触媒担持体の比率は低くなるように構成される。
【0052】
一方、アニオン交換膜10に接する付近では、最外層で形成された水酸化物イオンを通過させると共に、過酸化水素イオンが生成されて内側に移動してきた場合には、その過酸化水素イオンがアニオン交換膜10に浸入するのを防止する必要がある。従って、過酸化水素イオンをトラップあるいは過酸化水素イオンを水酸化物イオンとするように作用する捕捉用担持体の比率が、アニオン交換膜10に近くなるに連れて高くなるように設定されている。また、確実にアニオン交換膜10への過酸化水素イオンの浸入を防ぐため、アニオン交換膜10に接する電極層71では、その比率が100[%]とされている。
【0053】
このように、触媒担持体と捕捉担持体との比率を変化させた電極層71〜75を積層した構造とすることで、効率良く酸素から水酸化物イオンを生成する触媒反応を起こしつつ、同時に、発生する過酸化水素イオンのアニオン交換膜10への浸入を抑制することができる。
【0054】
なお、実施の形態2では、カソード極70が、外側になるに連れて次第に触媒担持体の比率が高くなるようにした5層の電極層71〜75によって構成される場合について説明した。しかしカソード極70の電極層の積層数はこれに限るものではなく、2層以上に構成されているものであれば、他の積層数であってもよい。
【0055】
また、このように5層に区別した電極層によって、捕捉担持体と触媒担持体の比率を調整するものに限らず、カソード極を一層として、その一層の中で、捕捉担持体がアニオン交換膜10に近い部分に多く、触媒担持体がアニオン交換膜10から遠い外側の部分に多くなるように、両担持体の分布を調整して混入させたものであってもよい。
【0056】
実施の形態3.
図6は、この発明の実施の形態3における燃料電池を表す模式図であり、図3は、図1の点線Aに対応する部分を表している。図6の燃料電池は、カソード極の捕捉層が異なる点を除いて、図1の燃料電池と同じ構成を有している。
【0057】
具体的に図6の燃料電池のカソード極80は、触媒層32の内側に捕捉層82を有している。捕捉層82は、フラーレン(C60)84を触媒層に混入させて形成された層である。具体的に、フラーレン(C60)84の混入量は、電解質溶液を含む捕捉層82全体の重量に対して5〜30[wt.%]の範囲内である。また、捕捉層82の厚さは5〜40[μm]とされる。捕捉層82は、触媒担持体とフラーレン(C60)84とを電解質溶液に混ぜて、これをアニオン交換膜10の表面に塗布することで形成される。
【0058】
フラーレンC60には、過酸化水素イオンをトラップし、あるいは過酸化水素イオンを水酸化物イオンに還元する反応に対する触媒作用を有する。従って、実施の形態1の酸化チタン38を含む補足担持体に替えて、触媒層にフラーレン(C60)84を混入した捕捉層82を用いることで、過酸化水素イオンがアニオン交換膜10に浸入してこれを劣化させるのを防ぐことができる。
【0059】
図7(a)は、この発明の実施の形態3の燃料電池において、捕捉層82内のフラーレン(C60)84の混入量[wt.%]を変化させた場合のセル電圧[V]を検出した結果を表す図である。図7(a)は、捕捉層82の厚さを30[μm]とし、電流密度を0.05[A/cm2]とした場合の結果を表している。図7(a)から、添加量が0の場合、即ち、従来の捕捉層を有さないMEAの場合に比較すると、フラーレン(C60)84の添加量に関わらずセル電圧が高くなっていることが判る。また、特に添加量は30[Wt.%]をピークとし、10〜50の範囲では何れも高くなっていることが判る。但し、セル抵抗等を考慮すると、フラーレン(C60)84の添加量は、5〜30[wt.%]程度とすることが好ましい。
【0060】
図7(b)は、実施の形態3の燃料電池の捕捉層82の厚さを変化させた場合のセル電圧[V]の変化を表す図である。図7(b)は、捕捉層82中のフラーレン(C60)84の添加量を30[wt.%]とし、電流密度を0.05[A/cm2]とした場合の結果を表している。図7(b)に示すように、膜厚が0の場合、即ち、捕捉層82を有さない従来のMEAの場合に比較すると、捕捉層82の厚さに関わらず、セル電圧が向上していることがわかる。また、特に膜厚30[μm]をピークとし、少なくとも10〜50[μm]の範囲では確実にセル電圧が上昇していることがわかる。但し、セル抵抗等を考慮した場合には、捕捉層82の厚さは5〜40[μm]の範囲とすることが好ましい。
【0061】
但し、捕捉層は10〜50[μm]に限らず、他の厚さに形成したものであっても良い。また捕捉層82の厚さは、触媒層32の厚さを考慮して決定することが望ましい。具体的には、捕捉層82は、触媒層32の厚さに対し15〜150[%]、より好ましくは50〜100[%]の厚さとする。この範囲とすることにより、効果的に捕捉層82の高い機能を発揮することができる。
【0062】
なお、実施の形態3では、触媒層にフレーレン(C60)84を混入させて捕捉層として機能する場合について説明したい。しかし、ここで用いる捕捉層用の粒子はフラーレンC60に限られるものではなく、例えばC70、C84、C60の二量体や、C120、C180等、他のフラーレンを用いたものであっても良い。
【0063】
以上の実施の形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数に限定されるものではない。また、実施の形態において説明する構造や、方法におけるステップ等は、特に明示した場合や明らかに原理的にそれに特定される場合を除いて、この発明に必ずしも必須のものではない。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】この発明の実施の形態1における燃料電池について説明するための模式図である。
【図2】この発明の実施の形態1における燃料電池の電極触媒について説明するための図である。
【図3】この発明の実施の形態1の燃料電池の電極触媒の捕捉層とセル電圧との関係を説明するための図である。
【図4】この発明の実施の形態1の燃料電池の捕捉層として用いられる捕捉粒子と、アニオン交換膜の耐久性との関係を説明するための図である。
【図5】この発明の実施の形態2の燃料電池について説明するための模式図である。
【図6】この発明の実施の形態3の燃料電池について説明するための模式図である。
【図7】この発明の実施の形態3の燃料電池の捕捉層と、セル電圧との関係を説明するための図である。
【符号の説明】
【0065】
10 アニオン交換膜
20 アノード極
22 担体
24 触媒粒子
30 カソード極
32 触媒層
34 捕捉層
36 担体
38 酸化チタン
40 集電板
50 燃料経路
60 酸素経路
70 カソード極
71〜75 電極層
80 カソード極
82 捕捉層
84 フラーレンC60

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質と、
前記電解質を挟んで配置された一対の電極であるアノード極と、カソード極と、を備え、
前記カソード極は、
酸素から水酸化物イオンを生成する反応に対する触媒作用を有する触媒粒子と、
前記過酸化水素イオンを捕捉する機能を有する捕捉粒子と、
を備えることを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
前記捕捉粒子は、過酸化水素イオンから、水酸化物イオンを生成する反応に対する触媒作用をも有することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
前記捕捉粒子は、酸化ニオブ、酸化チタン、合成ゼオライト、活性炭及び希土類元素からなる群のうち1以上の粒子を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料電池。
【請求項4】
前記捕捉粒子は、フラーレンであることを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料電池。
【請求項5】
前記カソード極は、
前記電解質の一面側に接するように配置され、前記捕捉粒子を含んで構成された捕捉層と、
前記捕捉層に接するように配置され、前記触媒粒子を含んで構成された触媒層と、
を備えることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の燃料電池。
【請求項6】
前記カソード極は、
前記電解質に接するように配置され、前記触媒粒子及び/又は前記捕捉粒子を含む複数の電極層を、備え、
前記複数の電極層は、前記電解質に接する側の電極層から順に、前記電解質から離れるにつれて、該電極層中の前記触媒粒子と前記捕捉粒子とを含む全粒子に対する前記捕捉粒子の比率が、小さくなるように配置されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の燃料電池。
【請求項7】
前記電解質は、陰イオンを選択的に通過させる機能を有する電解質であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−288140(P2008−288140A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−134119(P2007−134119)
【出願日】平成19年5月21日(2007.5.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】