説明

燃料電池

【課題】従来の燃料電池では、燃料電池スタックの外周を覆うフードと、これらを収容するケースとの間に高密度な充填材を設けていたため、熱衝撃によりケースに膨張・収縮が生じるとフードにかかる負担が大きいという問題点があった。
【解決手段】複数枚のセルユニットCを互いに隙間を介して積層して成る燃料電池スタック1と、燃料電池スタック1の外周を覆うフード2と、これらを収容するケース3を同軸状態に備え、フード2とケース3との間に形成したガス流路7を通して燃料電池スタック1のセルユニットC同士の隙間にガスを供給する構造を有する燃料電池FCであって、フード2の軸線方向の両端部のうちの少なくとも一端部に、フード2とケース3との間を閉塞し且つ軸線方向に弾性変形可能な接続部材11を備えたことにより、熱衝撃でケース3が膨張・収縮した場合でも、フード2にかかる負担を軽減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質型の燃料電池に関し、とくに、燃料電池スタックを収容したケース内に反応用ガスを流通させるようにした燃料電池の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、上記したような燃料電池としては、例えば、特許文献1に記載されているものがあった。特許文献1に記載の燃料電池は、複数枚のセルユニットを積層して燃料電池スタックを構成し、この燃料電池スタックをケースに収容した構造である。セルユニットは、電解質層を燃料極層と空気極層とで挟んだ構造を有する単セルと、単セルの燃料極層との間に閉空間(ガス流路)を形成するセパレータを備えており、空気極層がユニット外部に露出している。
【0003】
上記の燃料電池は、燃料電池スタックの各セルユニットの内部にアノードガスを導入して、そのアノードガスを燃料極層に供給する。また、ケース内にカソードガスを導入して、セルユニット同士の間に流通させ、そのカソードガスを空気極層に供給する。このようにして、各セルユニットにおいて電気化学反応により電気エネルギを発生する。
【0004】
また、この種の燃料電池では、発電効率の向上を図るために、燃料電池スタックの外周に筒状のフードを配置して、フードとケースとの間にガス流路を形成したものがある。この燃料電池は、ケース内に導入したカソードガスをガス流路に通すことにより予熱し、予熱したカソードガスを燃料電池スタックに供給するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−141767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記したような従来の燃料電池にあっては、燃料電池スタックに対するカソードガスの供給効率を高めるために、フードとケースとの間に高密度な充填材を詰め込んで両者間の気密性を維持していた。このため、燃料電池の運転・停止に伴う温度変化によりケースに膨張・収縮が生じると、ケースが充填材を介してフードを押圧し、これが繰り返し行われるので、フードにかかる負担が大きいという問題点があり、このような問題点を解決することが課題であった。
【0007】
本発明は、上記従来の課題に着目して成されたものであって、複数枚のセルユニットを積層して成る燃料電池スタックと、燃料電池スタックの外周を覆うフードと、これらを収容するケースを同軸状態に備えた燃料電池において、熱衝撃によりケースが膨張・収縮した場合でも、フードにかかる負担を軽減することができる燃料電池を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の燃料電池は、複数枚のセルユニットを互いに隙間を介して積層して成る燃料電池スタックと、燃料電池スタックの外周を覆うフードと、これらを収容するケースを同軸状態に備えている。この燃料電池は、フードの外周面とケースの内周面との間に形成したガス流路にガスを通して予熱し、予熱したガスを燃料電池スタックのセルユニット同士の隙間に供給する構造になっている。
【0009】
そして、燃料電池は、フードの軸線方向の両端部のうちの少なくとも一端部に、フードとケースとの間を閉塞し且つ軸線方向に弾性変形可能な接続部材を備えた構成としており、上記構成をもって課題を解決するための手段としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、複数枚のセルユニットから成る燃料電池スタックと、燃料電池スタックの外周を覆うフードと、これらを収容するケースを同軸状態に備えた燃料電池において、熱衝撃によりケースが膨張・収縮した場合でも、フードにかかる負担を軽減することができる。これにより、フードの薄肉化や軽量化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る燃料電池の一実施形態を説明する断面図(A)及び要部の拡大断面図(B)である。
【図2】燃料電池スタックを説明する断面図である。
【図3】図1に示すフード及び接続部材の斜視図である。
【図4】図1に示す接続部材を説明する平面図(A)及び半分を省略した斜視図(B)である。
【図5】本発明に係る燃料電池の他の実施形態を説明する断面図(A)及び要部の拡大断面図(B)である。
【図6】図5に示すフード及び接続部材の斜視図である。
【図7】図5に示す接続部材を説明する平面図(A)及び側面図(B)である。
【図8】本発明に係る燃料電池のさらに他の実施形態を説明する断面図(A)及び要部の拡大断面図(B)である。
【図9】図8に示すフード、接続部材及び緩衝部材を説明する斜視図である。
【図10】図8に示すフード、接続部材及び緩衝部材を説明する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1に示す燃料電池FCは、固体電解質型の燃料電池であって、複数枚のセルユニットを積層して成る燃料電池スタック1と、燃料電池スタック1の外周を覆うフード2と、これらを収容するケース3を同軸状態に備えている。
【0013】
前記燃料電池スタック1は、図2に示すように、複数枚のセルユニットCで構成してある。セルユニットCは、電解質層を燃料極層と空気極層とで挟んだ構造を有する単セルと、単セルの燃料極層との間に密閉空間を形成するセパレータを備え、空気極層をユニット外部に露出させた構造である。また、各セルユニットCは、中心部に、アノードガス(水素)の排出孔を有すると共に、排出孔の外周部に、アノードガスの供給孔を有し、その内部には、供給孔から排出孔に至るガス流路を形成している。
【0014】
上記のセルユニットCは、互いに隙間を介して多段に積層することで燃料電池スタック1を構成し、この際、供給孔同士及び排出孔同士を互いに軸線方向に連続させて、アノードガスの供給路4A及び排出路4Bを形成する。
【0015】
前記フード2は、図3に示すように、円筒形状を成す金属製の部材であって、軸線方向の両端部に、全周にわたるフランジ部2A,2Aを有すると共に、胴部の180度異なる対向位置に、導入用開口部2Bと排出用開口部2Cを有している。これらの開口部2B,2Cは、胴部の軸線方向にわたって形成してある。
【0016】
また、フード2は、排出用開口部2Cの両側に、カソードガス(空気)の供給管2D,2Dが一体的に設けてある。両供給管2Dは、フード2の壁部を二重構造にすることで形成され、胴部の軸線方向にわたって連続していると共に、円周方向において互いに相反する位置にカソードガスの噴出部2Eを有している。
【0017】
前記ケース3は、図1に示す如く円筒形状を成す金属製の部材であって、図示例の場合は、胴部を形成する本体部5と、本体部3Aの下端に連結した環状部6とで構成してある。また、ケース3は、軸線方向の両端部に、燃料電池スタック1の前記供給路4Aや排出路4Bを通過させる開口を有し、各開口の縁部が、内向きフランジ部3A,3Aになっている。
【0018】
燃料電池FCは、上記のケース3に、燃料電池スタック1及びフード2を同軸状態に収容し、この際、フード2の外周面とケース3内周面との間に円弧状のガス流路7を形成する。また、フード2の排出用開口部2Cには、図外の排出管を配置する。
【0019】
このようにして、燃料電池FCは、フード2の外周面とケース3の内周面との間に形成したガス流路7により燃料電池スタック1にガス(カソードガス)を予熱供給する構造を有するものとなっている。
【0020】
すなわち、燃料電池FCは、燃料電池スタック1において、供給路4Aからアノードガスを各セルユニットCに導入して、そのアノードガスを燃料極層に供給する。なお、アノードオフガスは、排出路4Bから外部に排出する。
【0021】
また、燃料電池FCは、上記の如くアノードガスを流通させる一方で、フード2の供給管2Dの噴出部2Eからカソードガスをガス流路7に導入し、燃料電池スタック1を熱源にしてガス流路7中のカソードガスを予熱する。次いで、予熱したカソードガスを導入用開口部2Bからフード2の内側に導入する。これにより、カソードガスを燃料電池スタック1のセルユニットC同士の隙間に流通させて、ユニット外部に露出している空気極層に供給する。なお、カソードオフガスは、図示しない排出管を通して外部に排出する。
【0022】
そして、上記の燃料電池FCは、フード2の軸線方向の両端部のうちの少なくとも一端部に、フード2とケース3との間を閉塞し且つ軸線方向に弾性変形可能な接続部材11を備えている。この実施形態では、フード2の軸線方向の両端部(図1では上下端部)に、接続部材11,11が夫々設けてある。
【0023】
接続部材11は、図4にも示すように、リング状の部材であって、この実施形態では、軸線方向に連続した波形断面を有するベローズ形状を成しており、その形状により、軸線方向に弾性変形可能なものとなっている。また、接続部材11は、フード2及びケース3に対して気密的に接合し得るように、両端が平坦面になっている。この接続部材11は、その材料がとくに限定されるものではないが、高クロム鋼又はニッケル合金等の耐熱金属で形成することがより望ましい。
【0024】
接続部材11は、フード2のフランジ部2Aと、ケース3の内向きフランジ部3Aとの間に介装され、この際、フード2及びケース3に対して、溶接や金属製ロウ材により、全周にわたって気密的に接合してある。これにより、フード2とケース3との間に形成したガス流路7の両端部(上下端部)を密閉して、カソードガスの漏出を阻止する。これにより、燃料電池スタック1に対するカソードガスの供給効率が高められる。
【0025】
上記構成を備えた燃料電池FCは、熱衝撃によりケース3が膨張・収縮した場合、具体的には、当該燃料電池FCの運転・停止に伴う温度変化によりケース3に膨張・収縮が生じた場合でも、接続部材11が弾性変形してケース3の変位を吸収し、フード2にかかる負担を大幅に軽減することができる。したがって、フード2の薄肉化や軽量化を実現することができ、これに伴って、ガス流路7に流通するカソードガスの予熱効率の向上や、燃料電池自体の軽量化などにも貢献することができる。
【0026】
また、接続部材11は、フード2の軸線方向の両端部のうちの一端部に設ければ、所定の効果が得られるが、上記実施形態のようにフード2の軸線方向の両端部に設ければ、フード2にかかる負担を軽減する機能や、ガス流路7を密閉する機能をより一層高めることができる。
【0027】
さらに、燃料電池FCでは、接続部材11を高クロム鋼又はニッケル合金等の耐熱金属で形成したことから、固体電解質型燃料電池の高い運転温度に対する耐熱性が充分に確保され、長期にわたって機能を維持することができる。また、フード2と接続部材11、及び接続部材11とケース3を、溶接や金属製ロウ材により夫々接合したことから、長期にわたってガス流路7の気密性を維持することができる。
【0028】
図5〜図7は、本発明の燃料電池の他の実施形態を説明する図である。なお、以下の各実施形態において、図1に示す先の実施形態と同一の構成部位は、同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0029】
図5に示す燃料電池FCは、フード2の軸線方向の両端部に、フード2とケース3との間を閉塞し且つ軸線方向に弾性変形可能な接続部材21を備えている。この実施形態の接続部材21は、図6及び図7に示すように、軸線方向に連続した波形断面を有するベローズ形状を成すと共に、フード2の端面に対応する外形寸法の一端部と、ケース3の内法に対応する外形寸法の他端部を有している。
【0030】
図示例の燃料電池FCでは、フード2及びケース3が円筒形状を成しているので、接続部材21は、フード2のフランジ部2Aの環状端面に対応する直径の小径端部(一端部)と、ケース3の内径に対応する直径の大径端部(他端部)を有しており、とくに図7(B)に示すように、全体的には扁平な概略円錐台形状を成している。
【0031】
上記の燃料電池FCにあっても、先の実施形態と同様に、接続部材21により、フード2とケース3の間のガス流路7を密閉し、カソードガスの漏出を阻止して、燃料電池スタック1に対するカソードガスの供給効率を高めている。そして、熱衝撃によりケース3が膨張・収縮した場合でも、その変位を接続部材11が吸収して、フード2にかかる負担を大幅に軽減することができる。
【0032】
また、上記の燃料電池FCは、接続部材21が、フード2の端面に対応する外形寸法の一端部(大径端部)と、ケース3の内法に対応する外形寸法の他端部(小径端部)を有するものとしたので、とくに、ケース3内への位置決めが非常に容易になる。このとき、接合部材21は、予めケース3内に配置しても良いし、図6に示す如く予めフード2に接合しても良い。
【0033】
図8〜図10は、本発明の燃料電池のさらに他の実施形態を説明する図である。
図8に示す燃料電池FCは、フード2の軸線方向の両端部に、フード2とケース3との間を閉塞し且つ軸線方向に弾性変形可能な接続部材11を備えている。この実施形態の接続部材11は、図1に示す実施形態と同様のものである。
【0034】
そして、燃料電池FCは、フード2の軸線方向の両端部のうちの一端部の外周面とケース3の内周面との間に、フード2の軸線に直交する方向に弾性変形可能な緩衝部材31を備えている。この実施形態では、フード2の軸線方向の両端部の外周面とケース3の内周面との間において、図9及び10に示すように、フード2の軸線回りに90度間隔で合計4個の緩衝部材31が配置してある。
【0035】
緩衝部材31は、平板を波形状に曲成して弾性変形可能としたものであって、その材料がとくに限定されるものではないが、接続部材11と同様に、高クロム鋼又はニッケル合金等の耐熱金属で形成することがより望ましい。また、緩衝部材31は、その数がとくに限定されることはないが、多すぎるとフード2の全周を拘束した状態になり、ケース3側からの負荷を逃がす効果が低下するので、フード2の大きさに応じて、2〜6個程度を所定間隔で配置するのが望ましい。
【0036】
上記の燃料電池FCにあっても、先の実施形態と同様に、接続部材11により、フード2とケース3の間のガス流路7を密閉し、カソードガスの漏出を阻止して、燃料電池スタック1に対するカソードガスの供給効率を高めている。
【0037】
そして、燃料電池FCは、熱衝撃によりケース3が膨張・収縮した場合でも、軸線方向の変位を接続部材11が吸収し、フード2の軸線に直交する方向すなわち半径方向の変位を緩衝部材31が吸収して、フード2にかかる負担を大幅に軽減する。また、この実施形態では、軸線方向に弾性変形する接続部材11と、半径方向に弾性変形する緩衝部材31により、ケース3内においてフード2を定位置に保持する機能も得ることができる。
【0038】
本発明の燃料電池は、その構成が上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成の細部を適宜変更することが可能であり、例えば、円筒形状以外の形状を有するフードやケースであっても良い。
【符号の説明】
【0039】
C セルユニット
FC 燃料電池
1 燃料電池スタック
2 フード
3 ケース
7 ガス流路
11 接続部材
21 接続部材
31 緩衝部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚のセルユニットを積層して成る燃料電池スタックと、燃料電池スタックの外周を覆うフードと、これらを収容するケースを同軸状態に備え、
フードの外周面とケースの内周面との間に形成したガス流路により燃料電池スタックにガスを予熱供給する構造を有する燃料電池であって、
フードの軸線方向の両端部のうちの少なくとも一端部に、フードとケースとの間を閉塞し且つ軸線方向に弾性変形可能な接続部材を備えたことを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
接続部材が、軸線方向に連続した波形断面を有するベローズ形状を成していることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
接続部材が、フードの端面に対応する外形寸法の一端部と、ケースの内法に対応する外形寸法の他端部を有していることを特徴とする請求項2に記載の燃料電池。
【請求項4】
フードの軸線方向の両端部のうちの一端部の外周面とケースの内周面との間に、フードの軸線に直交する方向に弾性変形可能な緩衝部材を備えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池。
【請求項5】
緩衝部材が、フードの軸線回りに所定間隔で配置してあることを特徴とする請求項4に記載の燃料電池。
【請求項6】
接続部材が、高クロム鋼又はニッケル合金等の耐熱金属で形成してあることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の燃料電池。
【請求項7】
フードと接続部材、及び接続部材とケースが、溶接により夫々接合してあることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の燃料電池。
【請求項8】
フードと接続部材、及び接続部材とケースが、金属製ロウ材により夫々接合してあることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−33658(P2013−33658A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−169491(P2011−169491)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】