説明

燃料電池

【課題】熱によるガス誘導部材の変形を防いで、セルスタックの破損や信頼性の低下を回避するとともに、出力,効率の低下を防止する。
【解決手段】本発明は、複数のセルユニット11を互いに間隙をもって積層してなるセルスタック10をケース40に収容しているとともに、そのケース10に反応用ガスを導入するためのガス導入部50と、ケース10内に導入された反応用ガスを排出するためのガス排出部と、ガス導入部50からセルスタック10の外周縁部に沿ったガス誘導部材20,20を設けることにより、ガス誘導部材20,20とケース10との間に反応用ガスを流通させるためのガス流通路αを区画形成している燃料電池において、上記ガス導入部50から導入した反応用ガスをガス流通路αに向けて吐出するガス吐出口35を有し、かつ、張殻構造にしたガス吐出体Bをガス誘導部材20,20の外面に一体的に設けている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の例えば固体電解質型セルユニットを積層させて形成したセルスタックをケースに収容した構成の燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の燃料電池として、特許文献1に開示されたものがある。
特許文献1に開示された燃料電池は、複数の固体電解質型セルユニットを互いに間隙をもって積層してなるセルスタックをケースに収容しているとともに、そのケースに反応用ガスを導入するためのガス導入部と、当該ケース内に導入された反応用ガスを排出するためのガス排出部とを有するものであり、上記ガス導入部からセルスタックの外周縁部に沿ったガス誘導部材を設けたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−117283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に開示された燃料電池では、ガス誘導部材を通してガス導入部を流れる反応用ガスへセルスタックからの熱を伝える場合に、ガス誘導部材の軽薄化によっていっそう効率的な熱伝導を図れる。
一方でガス誘導部材の軽薄化はガス誘導部材の強度低下を招くおそれがある。具体的には熱によってガス誘導部材が変形して、そのガス誘導部材とセルスタックの距離が広がり、この結果、セルスタックからガス誘導部材への伝熱量が減少して、セルスタックからの抜熱を十分に行なうことができないものとなるおそれがある。
【0005】
そこで本発明は、軽薄化に伴う熱によるガス誘導部材の変形を防いで、出力,効率の低下を防止できる燃料電池の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明は、複数のセルユニットを互いに間隙をもって積層してなるセルスタックをケースに収容しているとともに、そのケースに反応用ガスを導入するためのガス導入部と、当該ケース内に導入された反応用ガスを排出するためのガス排出部と、このガス導入部からセルスタックの外周縁部に沿ったガス誘導部材を設けることにより、そのガス誘導部材と上記ケースとの間に反応用ガスを流通させるためのガス流通路を区画形成している燃料電池において、上記ガス導入部から導入した反応用ガスをガス流通路に向けて吐出するガス吐出口を有し、かつ、張殻構造にしたガス吐出体を上記ガス誘導部材の外面に一体的に設けたことを特徴としている。
【0007】
この構成によれば、ガス誘導部材の外面に、軽薄化に伴うガス流通路に向けたガス吐出口を有する張殻構造にしたガス吐出体を設けたことにより、熱によるガス誘導部材の変形を防いで、出力、効率の低下を防いでいる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、軽薄化に伴う熱によるガス誘導部材の変形を防いで、出力,効率の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第一の実施形態に係る燃料電池の斜視図である。
【図2】本発明の第二の実施形態に係る燃料電池の斜視図である。
【図3】本発明の第三の実施形態に係る燃料電池の斜視図である。
【図4】(A)は、本発明の第四の実施形態に係る燃料電池の斜視図、(B)は、(A)に包囲線Iで示す部分の拡大図である。
【図5】本発明の第五の実施形態に係る燃料電池の斜視図である。
【図6】本発明の第六の実施形態に係る燃料電池の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。図1は、本発明の第一の実施形態に係る燃料電池の斜視図である。
【0011】
本発明の第一の実施形態に係る燃料電池A1は、図1に示すように、セルスタック10、一対のガス誘導部材20,20及びガス吐出体B,Bをケース40内に配設したものである。
セルスタック10は、複数の固体電解質型セルユニット(以下、たんに「セルユニット」という。)11…を互いに間隙Sをもって積層してなるものである。
【0012】
ケース40は、平面視円形にした底壁41と上壁42の全周にわたり周壁43を囲繞形成した気密性を有する円筒形に形成されている。
また、上壁42には、周壁43の近傍に反応用ガスを外部から導入するためのガス導入部であるガス導入管50,50が配設されている。
さらに、周壁43の内側であって、それらガス導入管50,50の間には、当該ケース20内に導入された反応用ガスを排出するためのガス排出部(図示しない)が配設されている。
【0013】
また、本実施形態において、ガス導入管50から導入される反応用ガスは空気であり、その反応ガスを一方の反応用ガスといい、セルユニット11内に導入する燃料ガスを他方の反応用ガスという。
【0014】
ガス誘導部材20,20は、詳細を後述するガス吐出体B,Bからケース40内に導入した反応用ガスを、セルスタック10の外周縁部に沿って周回させ、かつ、そのセルスタック10の上記間隙Sを通じてガス排出部に誘導する機能を有している。
【0015】
ガス誘導部材20,20は、セルスタック10の高さ寸法とほぼ同じ幅寸法にしているとともに、そのセルスタック10の外周縁部の約2/3を覆う長さにした横長方形の板材を、当該外周縁部に沿う一円周をなすように曲成したものである。
【0016】
ガス誘導部材20,20の開放端間には、ケース40内に導入された一方の反応用ガスを上記セルスタック10内に誘うための開口域が区画形成されている。
また、ガス誘導部材20,20は、平面視において中心軸線Oを通る直径線を中心として線対称に曲成されており、そのガス誘導部材20,20とケース40の周壁43内面との間に、一方の反応用ガスを流通させるためのガス流通路α,αが区画形成されている。
【0017】
ガス導入管50は円筒形に形成されており、これの下端部にガス吐出体B,Bが接続されている。換言すると、ガス吐出体B,Bを、ガス導入部50,50近傍に配設している。
本実施形態において示すガス吐出体Bは、上記ガス流通路α,αに向けたガス吐出口を有する張殻構造(モノコック構造)にしたものであり、上記ガス誘導部材20,20の外面に一体に形成していることにより、そのガス誘導部材20に作用する応力の一部を担っている。
【0018】
ガス吐出体Bは、吐出口形成板30、閉塞板31及び外壁板32、上壁板33及び下壁板34によって所要の容積にし、かつ、ガス誘導部材20とケース40の内壁面で区画形成されるガス流通路αに沿った輪郭形状にしている。
吐出口形成板30は、ガス導入管50から導入された反応用ガスをガス流通路αに吐出させるための吐出口35を形成したものである。
【0019】
本実施形態において示す吐出口35は、ガス誘導部材20の高さ寸法H1よりやや短い高さ寸法H2にし、かつ、所要の幅にして形成された縦長の開口として形成されている。
高さ寸法H2は、セルスタック10の高さにほぼ一致しており、換言すると、ガス吐出口35を、セルスタック10の発熱部を含む帯域に開口している。
【0020】
閉塞板31は、吐出形成板30と同じ形状に形成されている。
上壁板33,下壁板34は、それぞれガス流通路αの曲率に一致して略扇形に曲成されており、そのうちの上壁板33の端部には、上記ガス導入管50が接続されている。
外壁板32は、ケース40の内面の曲率に一致して形成されているとともに、ガス誘導部材20の高さ寸法H1とほぼ同じ高さ寸法にして形成されている。
【0021】
本実施形態における一方の反応用ガスの流動状態は、次のとおりである。
ガス導入管50及びガス排出部Bを介してケース40内に流入した一方の反応用ガスは、ガス誘導部材20,20の外面側に沿い、換言するとガス流通路α,αを通じ、それらガス誘導部材20,20の各開放端に向けて流動する。
ガス誘導部材20,20の各開放端に到達した一方の反応用ガスは、当該開放端においてセルスタック10に向けてそれぞれ回り込んだ後、そのセルスタック10の各間隙Sを通じてガス排出部に向けて流動し、そのガス排出部を介してケース40外に排出される。
【0022】
上記の構成からなる第一の実施形態に係る燃料電池A1によれば、次の効果を得ることができる。
軽薄化に伴う熱によるガス誘導部材の変形を防いで、セルスタックの破損や信頼性の低下を回避するとともに、出力、効率の低下を防止することができる。
【0023】
すなわち、軽薄化に伴う熱によるガス誘導部材の変形を防止できるので、ガス流通路が狭くなることがなく、その狭くなった部分におけるガス流量の低下や熱を運べなくなるということが生じない。
そのため、セルスタックからの抜熱量の低下やセルスタックが過熱して所望の出力を引き出せず、温度分布での熱応力による燃料電池スタックの破損や信頼性の低下を生じることがない。
また、熱によってガス誘導部材とカソード間に隙間が生じることがないので、その隙間から、発電に寄与しない反応用ガスが抜け出すことがなく、これに起因する出力、効率の低下を防止できる。
【0024】
張殻構造にしたガス吐出体Bをガス誘導部材20に一体的に形成しているので、そのガス誘導部材20の強度を向上させられる結果、ガス誘導部材20を軽薄に形成することができる。
また、ガス吐出体Bをガス導入部に配設しているので、特に冷却スポットとなるガス導入部を補強することができる。
【0025】
さらに、ガス吐出体Bが、予備予熱空間となって、カソードガス導入部分(ガス導入部)の温度分布を緩和することができる。すなわち、一番温度変化が大きく、熱応力が大きな部位を集中して補強することができる。
【0026】
図2は、本発明の第二の実施形態に係る燃料電池の斜視図、図3は、本発明の第三の実施形態に係る燃料電池の斜視図、図4(A)は、本発明の第四の実施形態に係る燃料電池の斜視図、(B)は、(A)に包囲線Iで示す部分の拡大図である。なお、上述した実施形態において説明したものと同等のものについては、それらと同一の符号を付して説明を省略する。
【0027】
本発明の第二の実施形態に係る燃料電池A2は、図2に示すように、ガス吐出体Bに形成したガス吐出口の形状が相違している。
本実施形態において示すガス吐出口35Aは、ガス誘導部材20の高さ寸法H1よりやや短い高さ寸法範囲に、円形にした複数の吐出孔36を、互いに一定の間隔にして列設したものである。
具体的には、開口面積を減少させられるとともに、ガス吐出孔36をセルスタック10の発熱部に沿って開口させることにより、機械的強度を高めることができる。
【0028】
本発明の第三の実施形態に係る燃料電池A3は、図3に示すように、外壁板32の内壁面の所要の領域に、熱伝導性の低い例えばイットリア安定化ジルコニア(YSZ)等のコーティングCを施したものである。この場合、冷却スポット抑制(温度分布緩和)による変形・破損を防止できる。
【0029】
本発明の第四の実施形態に係る燃料電池A4は、図4(A),(B)に示すように、ガス誘導部材20の高さ寸法H1よりやや短い高さ寸法範囲に、上部側から下部側にかけて小径から大径にした円形の吐出孔37a〜37hを互いに一定の間隔にして列設したガス吐出口35Bを形成したものである。
【0030】
換言すると、吐出孔の開口面積を、ガス導入部Bの入口から出口に向かって次第に大きくしている。
この構成により、ガス流通路α内に吐出した反応用ガスの流れを乱して、熱交換効率を向上させることができる。
【0031】
図5は、本発明の第五の実施形態に係る燃料電池の斜視図、図6は、本発明の第六の実施形態に係る燃料電池の斜視図である。なお、上述した実施形態において説明したものと同等のものについては、それらと同一の符号を付して説明を省略する。
【0032】
本発明の第五の実施形態に係る燃料電池A5は、図5に示すように、上述した吐出口形成板30とガス誘導部材20の終端縁との間に、ガス吐出口35から吐出された反応用ガスを、セルスタック10の発熱部に沿って流通させるように流通帯域を規制する一対のガス流通規制板60,61を設けたものである。
【0033】
ガス流通規制板60,61の互いの間隔は、セルスタック10の発熱部を挟む間隔にしている。
本実施形態においては、ガス流通規制板60,61のガス誘導部材20の終端縁側に、反応用ガスの逆流を防止するための逆流防止片62,63を配設している。
具体的には、ガス流通規制板60の上側に形成される空部β1、ガス流通制限板61の下側に形成される空部β2に、反応用ガスが浸入することを防止するためのものである。
【0034】
この構成によれば、ガス流通規制板60,61を設けることによって、セルスタック10の発熱部を集中的に補強することができるとともに、その発熱部に反応用ガスを集中的に流すことができ、効果的に熱交換を行なわせることができる。
【0035】
本発明の第六の実施形態に係る燃料電池A6は、上述したガス吐出体Bを、上記開口域の近傍に延出して形成したものである。換言すると、ガス誘導部材20の終端縁近傍まで延設したものである。
また、上壁板33と下壁板34との間の高さ寸法H3は、一方の反応用ガスを、セルスタック10の発熱部に沿って流通させられるようにしている。
【0036】
この構成によれば、ガス吐出体Bで補強される軽量で強固なガス誘導部材を形成することができる。
セルスタック10の発熱部にのみ予熱したい反応用ガスを導入することにより、熱交換を効果的に行なうことができるとともに、ガス誘導部材20上部を通過してのカソードガスのリークを防止できる。
【0037】
なお、本発明は上述した実施形態に限るものではなく、次のような変形実施が可能である。
以上詳細に説明したが、いずれにしても、上記各実施形態において説明した各構成は、それら各実施形態にのみ適用することに限らず、一の実施形態において説明した構成を、他の実施形態に準用若しくは適用し、さらには、それを任意に組み合わせることができるものである。
【符号の説明】
【0038】
10 セルスタック
11 固体電解質型セルユニット
20 ガス誘導部材
40 ケース
50 ガス導入部(ガス導入管)
B ガス排出体
α ガス流通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のセルユニットを互いに間隙をもって積層してなるセルスタックをケースに収容しているとともに、そのケースに反応用ガスを導入するためのガス導入部と、当該ケース内に導入された反応用ガスを排出するためのガス排出部と、このガス導入部からセルスタックの外周縁部に沿ったガス誘導部材を設けることにより、そのガス誘導部材と上記ケースとの間に反応用ガスを流通させるためのガス流通路を区画形成している燃料電池において、
上記ガス導入部から導入した反応用ガスをガス流通路に向けて吐出するガス吐出口を有し、かつ、張殻構造にしたガス吐出体を上記ガス誘導部材の外面に一体的に設けたことを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
ガス吐出体の高さ寸法をガス誘導部材の高さ寸法にほぼ一致させて形成している請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
ガス吐出体をガス導入部近傍に配設している請求項1又は2に記載の燃料電池。
【請求項4】
セルスタックの発熱部を含む帯域に反応用ガスが流通するようにガス吐出口を開口している請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池。
【請求項5】
ガス吐出口を、複数の吐出孔から構成しているとともに、それら吐出孔の開口面積を、ガス導入部の入口側から出口側に向かって次第に大きくしている請求項1〜4のいずれか1項に記載の燃料電池。
【請求項6】
ケース内に導入された一方の反応用ガスを上記セルスタック内に誘うための開口域がガス誘導部材の開放端間に区画形成されており、
ガス吐出体をガス導入部近傍に配設しているとともに、そのガス吐出体から開口域の近傍に、ガス吐出口から吐出された反応用ガスを、セルスタックの発熱部を含む帯域に流通させるように規制する一対のガス流通規制板を設けている請求項1〜5のいずれか1項に記載の燃料電池。
【請求項7】
ケース内に導入された一方の反応用ガスを上記セルスタック内に誘うための開口域がガス誘導部材の開放端間に区画形成されており、
ガス吐出体を、上記ガス導入部近傍から開口域の近傍に延出させて形成している請求項1〜5のいずれか1項に記載の燃料電池。
【請求項8】
反応用ガスの逆流を防止するとともに補強を兼ねる逆流防止片を配設した請求項6又は7に記載の燃料電池。
【請求項9】
ガス吐出体の内壁面に熱伝導性の低いコーティング材を塗布している請求項1〜8のいずれか1項に記載の燃料電池。
【請求項10】
ガス吐出体をガス誘導部材とケース内壁面で区画形成されるガス流通路に沿った輪郭形状にしている請求項1〜9のいずれか1項に記載の燃料電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−38034(P2013−38034A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−175581(P2011−175581)
【出願日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】