燃料電池
【課題】簡単な構成で、電解質・電極構造体の各種の特性を良好且つ高精度に測定することを可能にする。
【解決手段】燃料電池10は、電解質膜・電極構造体12を第1セパレータ14及び第2セパレータ16で挟持する。燃料電池10は、電解質膜・電極構造体12の両面に配置される一対の計測用端子部材42、44を備え、前記計測用端子部材42、44は、前記電解質膜・電極構造体12の電極面に接触する計測用電極層の一部にガス通過部位を設けている。
【解決手段】燃料電池10は、電解質膜・電極構造体12を第1セパレータ14及び第2セパレータ16で挟持する。燃料電池10は、電解質膜・電極構造体12の両面に配置される一対の計測用端子部材42、44を備え、前記計測用端子部材42、44は、前記電解質膜・電極構造体12の電極面に接触する計測用電極層の一部にガス通過部位を設けている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質の両側に電極が設けられた電解質・電極構造体と、セパレータとが積層される燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、固体高分子型燃料電池は、高分子イオン交換膜からなる固体高分子電解質膜を採用している。この燃料電池は、固体高分子電解質膜の両側に、それぞれ電極触媒(電極触媒層)と多孔質カーボン(ガス拡散層)からなるアノード電極及びカソード電極を配設した電解質膜・電極構造体(MEA)を、セパレータ(バイポーラ板)によって挟持する発電セルを構成している。通常、燃料電池では、発電セルを所定の数だけ積層した燃料電池スタックが、例えば、車載用燃料電池スタックとして使用されている。
【0003】
この種の燃料電池では、燃料ガスがアノード側からカソード側に固体高分子電解質膜を透過する一方、酸化剤ガスが前記カソード側から前記アノード側に前記固体高分子電解質膜を透過する場合がある。
【0004】
このため、アノード側及びカソード側では、水素と酸素とが反応して過酸化水素(H2O2)が発生し易い(H2+O2→H2O2)。この過酸化水素は、電極中のカーボン担体や白金(Pt)上で分解し、例えば、ヒドロキシラジカル(・OH)が発生する。これにより、固体高分子電解質膜及び電極触媒を劣化させるという問題がある。
【0005】
そこで、例えば、特許文献1に開示されている燃料電池の電極電位測定装置が知られている。この従来技術では、図15に示すように、単位セル1を一対のセパレータ2で挟持する燃料電池スタックに電極電位測定装置3が組み込まれている。単位セル1は、固体高分子電解質1aを酸素極1bと燃料極1cとにより挟持して構成されている。
【0006】
電極電位測定装置3は、検出部4と、電圧計5と、導線6a、6bとを備えている。検出部4は、酸素極1b内に設けられた検出片4aと、前記検出片4aの表面に接続された検出端子4bと、前記検出端子4bを保護する保護部材4cとを備えている。検出片4aは、酸素極1bの一部を切り出して、絶縁部4dを介して前記酸素極1bから絶縁状態に設けられている。
【0007】
検出片4aは、固体高分子電解質1aに接触し、この固体高分子電解質1aとの間で、イオン導電可能に構成されている。これにより、燃料極1c側に空気(酸素)が偏在した場所での異常電位を検出することができる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4269599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の特許文献1では、検出端子4bが絶縁部4dに周回されて酸素極1bのガス拡散層1bg上に設けられている。このため、ガス拡散層1bgでは、絶縁部4dが配置されている領域内におけるガス拡散性が低下するおそれがある。従って、各セパレータ2のガス流路に対しそれぞれ所望のガスを供給して各種の測定を行う際に、良好な測定精度が得られないという問題がある。
【0010】
本発明は、この種の問題を解決するものであり、簡単な構成で、電解質・電極構造体の各種の特性を良好且つ高精度に測定することが可能な燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、電解質の両側に電極が設けられた電解質・電極構造体と、セパレータとが積層される燃料電池に関するものである。この燃料電池は、電解質・電極構造体の両面に配置される一対の計測用端子部材を備え、少なくとも一方の前記計測用端子部材は、前記電解質・電極構造体の電極面に接触する計測用電極層の一部にガス通過部位を設けている。
【0012】
また、この燃料電池では、計測用電極層は、計測用電極部と絶縁部とを有し、ガス通過部位は、前記計測用電極部及び前記絶縁部に形成された複数本のスリット状切り欠き部位により構成されることが好ましい。
【0013】
さらに、この燃料電池では、計測用電極層は、計測用電極部と多孔質絶縁部とを有し、ガス通過部位は、前記計測用電極部に形成された複数の孔部及び前記多孔質絶縁部により構成されることが好ましい。
【0014】
さらにまた、この燃料電池では、電極は、電極触媒層及びガス拡散層を有し、前記電極触媒層は、複数のセグメントに分割されるとともに、計測用端子部材の計測用電極層は、分割された前記電極触媒層と前記ガス拡散層との間に介装されることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電解質・電極構造体の両面に計測用端子部材が配置されるとともに、少なくとも一方の前記計測用端子部材は、前記電解質・電極構造体の電極面に接触する計測用電極層の一部にガス通過部位を設けている。このため、計測用端子部材の設置部位におけるガス拡散性が有効に向上し、簡単な構成で、電解質・電極構造体の各種の特性を良好且つ高精度に測定することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る燃料電池の要部分解斜視説明図である。
【図2】前記燃料電池を構成する電解質膜・電極構造体の正面説明図である。
【図3】前記燃料電池の、図1中、III−III線断面図である。
【図4】前記燃料電池を構成する計測用端子部材の斜視説明図である。
【図5】膜抵抗の算出処理の説明図である。
【図6】前記膜抵抗の算出処理の等価回路の説明図である。
【図7】水素透過量の算出処理及び有効白金表面積の算出処理の説明図である。
【図8】前記水素透過量の算出処理の等価回路の説明図である。
【図9】前記有効白金表面積の算出処理の等価回路の説明図である。
【図10】過酸化水素の算出処理の説明図である。
【図11】前記過酸化水素の算出処理の等価回路の説明図である。
【図12】本発明の第2の実施形態に係る燃料電池を構成する計測用端子部材の要部斜視説明図である。
【図13】本発明の第3の実施形態に係る燃料電池を構成する計測用端子部材の要部斜視説明図である。
【図14】本発明の第4の実施形態に係る燃料電池を構成する計測用端子部材の要部斜視説明図である。
【図15】特許文献1の電極電位測定装置を備えた燃料電池スタックの断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1に示すように、本発明の第1の実施形態に係る燃料電池10は、複数積層されることにより、例えば、燃料電池電気自動車等の燃料電池車両に搭載される車載用燃料電池スタックを構成する。
【0018】
燃料電池10は、電解質膜・電極構造体(電解質・電極構造体)12を第1セパレータ14及び第2セパレータ16で挟持する。第1セパレータ14及び第2セパレータ16は、例えば、鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム板、めっき処理鋼板、あるいはその金属表面に防食用の表面処理を施した金属板や、カーボン部材等で構成されている。
【0019】
燃料電池10の矢印C方向(図1中、鉛直方向)の上端縁部には、積層方向である矢印A方向に互いに連通して、酸化剤ガス、例えば、酸素含有ガスを供給するための酸化剤ガス入口連通孔18aと、燃料ガス、例えば、水素含有ガスを供給するための燃料ガス入口連通孔20aとが、矢印B方向(水平方向)に配列して設けられる。
【0020】
燃料電池10の矢印C方向の下端縁部には、矢印A方向に互いに連通して、燃料ガスを排出するための燃料ガス出口連通孔20bと、酸化剤ガスを排出するための酸化剤ガス出口連通孔18bとが、矢印B方向に配列して設けられる。
【0021】
燃料電池10の矢印B方向の一端縁部には、冷却媒体を供給するための一対の冷却媒体入口連通孔22aが設けられるとともに、前記燃料電池10の矢印B方向の他端縁部には、前記冷却媒体を排出するため一対の冷却媒体出口連通孔22bが設けられる。
【0022】
第1セパレータ14の電解質膜・電極構造体12に向かう面14aには、酸化剤ガス入口連通孔18aと酸化剤ガス出口連通孔18bとに連通する酸化剤ガス流路26が設けられる。第2セパレータ16の電解質膜・電極構造体12に向かう面16aには、燃料ガス入口連通孔20aと燃料ガス出口連通孔20bとに連通する燃料ガス流路28が形成される。酸化剤ガス流路26及び燃料ガス流路28は、鉛直方向に向かって酸化剤ガス及び燃料ガスを流通させる。
【0023】
第1セパレータ14の面14aとは反対の面14bと、第2セパレータ16の面16aとは反対の面16bとの間には、冷却媒体入口連通孔22aと冷却媒体出口連通孔22bとに連通する冷却媒体流路30が形成される。冷却媒体流路30は、水平方向に向かって冷却媒体を流通させる。
【0024】
第1セパレータ14の面14a、14bには、この第1セパレータ14の外周端部を周回して、第1シール部材32が一体化されるとともに、第2セパレータ16の面16a、16bには、この第2セパレータ16の外周端部を周回して、第2シール部材34が一体化される。
【0025】
第1シール部材32及び第2シール部材34は、例えば、EPDM、NBR、フッ素ゴム、シリコーンゴム、フロロシリコーンゴム、ブチルゴム、天然ゴム、スチレンゴム、クロロプレーン又はアクリルゴム等のシール材、クッション材、あるいはパッキン材が用いられる。
【0026】
図1及び図2に示すように、電解質膜・電極構造体12は、例えば、パーフルオロスルホン酸の薄膜に水が含浸された固体高分子電解質膜36と、前記固体高分子電解質膜36を挟持するアノード電極38及びカソード電極40とを備える。固体高分子電解質膜36は、フッ素系電解質の他、HC(炭化水素)系電解質が使用されるとともに、アノード電極38及びカソード電極40よりも大きな表面積に設定される。
【0027】
アノード電極38及びカソード電極40は、図3に示すように、固体高分子電解質膜36の両面に接合される電極触媒層38a、40aと、前記電極触媒層38a、40aに配設されるカーボンペーパ等からなるガス拡散層38b、40bとを有する。電極触媒層38a、40aは、固体高分子電解質膜36を挟んで対称な平面形状を有する。電極触媒層38a、40aは、白金合金が表面に担持された多孔質カーボン粒子及びイオン交換成分を固体高分子電解質膜36の両面に一様に塗布して形成される。電極触媒層38a、40aは、それぞれ複数のセグメントに分割形成される(図1及び図2参照)。
【0028】
電解質膜・電極構造体12の両面には、それぞれ複数の計測用端子部材42、44が、互いに積層方向(矢印A方向)に重なり合って配置される。計測用端子部材42は、アノード電極38側の電極面内に、前記アノード電極38を構成する電極触媒層38aとガス拡散層38bとの間に介装される。図1に示すように、計測用端子部材42は、分割された各電極触媒層38aの中、例えば、矢印B方向外方に配置されるそれぞれ3つずつの前記電極触媒層38aに対応して設けられる。
【0029】
図3に示すように、計測用端子部材44は、カソード電極40側の電極面内に、前記カソード電極40を構成する電極触媒層40aとガス拡散層40bとの間に介装される。図2に示すように、計測用端子部材44は、分割された各電極触媒層40aの中、例えば、矢印B方向外方に配置されるそれぞれ3つずつの前記電極触媒層40aに対応して設けられる。
【0030】
図3及び図4に示すように、計測用端子部材42は、アノード電極38の電極触媒層38aに接触する計測用電極部46を備える。計測用電極部46は、矩形状を有し、例えば、金(Au)で形成されるとともに、2本の導電ライン48a、48bに接続される。計測用電極部46及び導電ライン48a、48bを覆って絶縁部50が設けられる。絶縁部50は、例えば、PEM膜やポリスチレン及び耐食性の液晶ポリマー等で形成される。
【0031】
計測用電極部46及び絶縁部50には、積層方向に対して電極触媒層38aに重なる範囲内にガス通過部位、例えば、それぞれ複数本のスリット状切り欠き部位52a、52bが前記積層方向の同一位置に形成される。すなわち、計測用電極部46及び絶縁部50により構成される計測用電極層には、それぞれ複数本のスリット状切り欠き部位52a、52bを介して積層方向(矢印A方向)に貫通するガス通過部位が形成される。スリット状切り欠き部位52a、52bは、燃料ガス流路28での燃料ガスの流れ方向(矢印C1方向)に交差する矢印B方向に長尺である。
【0032】
計測用端子部材44は、カソード電極40の電極触媒層40aに接触する計測用電極部54を備える。計測用電極部54は、矩形状を有し、例えば、金(Au)で形成されるとともに、2本の導電ライン56a、56bに接続される。計測用電極部54及び導電ライン56a、56bを覆って絶縁部58が設けられる。絶縁部58は、例えば、PEM膜やポリスチレン及び耐食性の液晶ポリマー等で形成される。
【0033】
計測用電極部54及び絶縁部58には、積層方向に対して電極触媒層40aに重なる範囲内にガス通過部位、例えば、それぞれ複数本のスリット状切り欠き部位60a、60bが前記積層方向の同一位置に形成される。すなわち、計測用電極部54及び絶縁部58により構成される計測用電極層には、それぞれ複数本のスリット状切り欠き部位60a、60bを介して積層方向(矢印A方向)に貫通するガス通過部位が形成される。スリット状切り欠き部位60a、60bは、酸化剤ガス流路26での酸化剤ガスの流れ方向(矢印C1方向)に交差する矢印B方向に長尺である。
【0034】
なお、第1の実施形態では、計測用端子部材42、44の両方に、ガス通過部位が形成されているが、これに限定されるものではない。例えば、計測用端子部材44のみに、又は計測用端子部材44のみに、ガス通過部位を設けてもよい。また、以下に説明する第2以降の実施形態においても同様である。
【0035】
このように構成される燃料電池10の動作について、以下に説明する。
【0036】
図1に示すように、酸化剤ガス入口連通孔18aには、酸素含有ガス等の酸化剤ガス(例えば、空気)が供給されるとともに、燃料ガス入口連通孔20aには、水素含有ガス等の燃料ガス(例えば、水素ガス)が供給される。また、冷却媒体入口連通孔22aには、純水やエチレングリコール等の冷却媒体が供給される。
【0037】
酸化剤ガスは、酸化剤ガス入口連通孔18aから第1セパレータ14の酸化剤ガス流路26に導入され、矢印C方向に移動して電解質膜・電極構造体12のカソード電極40に供給される。一方、燃料ガスは、燃料ガス入口連通孔20aから第2セパレータ16の燃料ガス流路28に導入される。燃料ガスは、燃料ガス流路28に沿って矢印C方向に移動し、電解質膜・電極構造体12のアノード電極38に供給される。
【0038】
従って、各電解質膜・電極構造体12では、カソード電極40に供給される酸化剤ガスと、アノード電極38に供給される燃料ガスとが、電極触媒層40a、38a内で電気化学反応により消費されて発電が行われる。
【0039】
次いで、カソード電極40に供給されて少なくとも一部が消費された酸化剤ガスは、酸化剤ガス出口連通孔18bに沿って矢印A方向に排出される。同様に、アノード電極38に供給されて少なくとも一部が消費された燃料ガスは、燃料ガス出口連通孔20bに沿って矢印A方向に排出される。
【0040】
また、冷却媒体入口連通孔22aに供給された冷却媒体は、第1セパレータ14と第2セパレータ16との間の冷却媒体流路30に導入された後、矢印B方向に流通する。この冷却媒体は、電解質膜・電極構造体12を冷却した後、冷却媒体出口連通孔22bから排出される。
【0041】
次いで、電解質膜・電極構造体12の膜抵抗(膜厚方向の抵抗値)を検出する方法について、以下に説明する。
【0042】
先ず、図5に示すように、アノード電極38には、加湿された水素ガス(燃料ガス)が供給されるとともに、カソード電極40には、加湿された空気(酸化剤ガス)が供給されて、発電が行われている。
【0043】
一方、計測用端子部材42及び44では、図6の等価回路に示すように、交流4端子法によるインピーダンス測定が行われる。計測用端子部材42は、一方の導電ライン48aが電圧計測用とし、他方の導電ライン48bが交流電流源として使用される。計測用端子部材44は、一方の導電ライン56aが電圧計測用とし、他方の導電ライン56bが交流電流源として使用される。そして、固体高分子電解質膜36の膜抵抗値(R)が算出され、電解質膜・電極構造体12の発電面全面の膜抵抗値が得られるとともに、前記膜抵抗値から発電面全面の含水分布が測定される。
【0044】
この場合、第1の実施形態では、図4に示すように、計測用電極部46及び絶縁部50により構成される計測用電極層には、それぞれ複数本のスリット状切り欠き部位52a、52bを介して積層方向(矢印A方向)に貫通するガス通過部位が形成されている。同様に、計測用電極部54及び絶縁部58により構成される計測用電極層には、それぞれ複数本のスリット状切り欠き部位60a、60bを介して積層方向(矢印A方向)に貫通するガス通過部位が形成されている。
【0045】
このため、電解質膜・電極構造体12では、計測用電極部46が配置されている領域内にも、スリット状切り欠き部位52a、52bを介して水素ガスを良好に供給することができるとともに、計測用電極部54が配置されている領域内にも、スリット状切り欠き部位60a、60bを介して空気を供給することが可能になる。従って、計測用端子部材42、44の設置部位におけるガス拡散性が有効に向上し、簡単な構成で、電解質膜・電極構造体12の発電面全面の膜抵抗値を良好且つ高精度に測定することが可能になるという効果が得られる。
【0046】
しかも、金属線等とは異なり、計測対象の面積を規定できるため、単位面積当たりの電気的情報を正確に得ることができる。その上、電解質膜・電極構造体12のMEA面方向に広がるセンサ構造であるため、前記電解質膜・電極構造体12が積層された状態で、測定が可能であり、該電解質膜・電極構造体12の解析を良好に遂行することができる。
【0047】
また、第1の実施形態では、サイクリックボルタンメトリ(CV)による電気化学測定を用いて、電流−電位曲線を取得することができる。
【0048】
さらに、図7に示すように、アノード電極38には、加湿された水素ガス(燃料ガス)が供給されるとともに、カソード電極40には、加湿された窒素ガスが供給されて、前記アノード電極38側への水素透過量の算出や、有効白金表面積の算出が行われる。具体的には、図8には、水素透過量を算出する際に等価回路が示される一方、図9には、有効白金表面積を算出する際の等価回路が示されている。その際、計測された電流値から、水素透過量や有効白金表面積が算出される。
【0049】
さらにまた、図10には、過酸化水素の算出を行う際のガス供給方法が示されるとともに、図11には、前記過酸化水素の算出を行う際の等価回路が示されている。過酸化水素の算出を行う際には、図10に示すように、アノード電極38には、加湿された水素ガス(燃料ガス)が供給される一方、カソード電極40には、先ず、加湿された窒素ガスが供給されている。次に、カソード電極40には、加湿された空気(酸化剤ガス)が供給されている。このため、図11に示すように、計測された電流値から過酸化水素量が算出される。
【0050】
これにより、第1の実施形態では、計測用端子部材42、44の設置部位におけるガス拡散性が有効に向上し、簡単な構成で、電解質膜・電極構造体12の各種の特性を良好且つ高精度に測定することが可能になる。
【0051】
図12は、本発明の第2の実施形態に係る燃料電池70を構成する計測用端子部材72、74の要部斜視説明図である。なお、第1の実施形態に係る燃料電池10と同一の構成要素には、同一の参照符号を付して、その詳細な説明は省略する。また、以下に説明する第3以降の実施形態においても同様に、その詳細な説明は省略する。
【0052】
計測用端子部材72は、アノード電極38の電極触媒層38aに接触する計測用電極部76を備えるとともに、前記計測用電極部76及び絶縁部50には、それぞれ複数本のスリット状切り欠き部位78a、78bが積層方向の同一位置に形成される。スリット状切り欠き部位78a、78bの先端側は、外部に開放される。
【0053】
計測用端子部材74は、カソード電極40の電極触媒層40aに接触する計測用電極部80を備えるとともに、前記計測用電極部80及び絶縁部58には、それぞれ複数本のスリット状切り欠き部位82a、82bが積層方向の同一位置に形成される。スリット状切り欠き部位82a、82bの先端側は、外部に開放される。
【0054】
このため、第2の実施形態では、計測用端子部材72、74のガス通過部位の先端が外部に開放されており、特に水滴が排出され易くなる。従って、滞留水による短絡の発生を可及的に抑制することが可能になるという効果が得られる。
【0055】
図13は、本発明の第3の実施形態に係る燃料電池90を構成する計測用端子部材92、94の要部斜視説明図である。
【0056】
計測用端子部材92は、アノード電極38の電極触媒層38aに接触する計測用電極部96を備えるとともに、前記計測用電極部96及び絶縁部50には、それぞれ複数本のスリット状切り欠き部位98a、98bが積層方向の同一位置に形成される。スリット状切り欠き部位98a、98bは、燃料ガス流れ方向に平行な矢印C方向に延在する。
【0057】
計測用端子部材94は、カソード電極40の電極触媒層40aに接触する計測用電極部100を備えるとともに、前記計測用電極部100及び絶縁部58には、それぞれ複数本のスリット状切り欠き部位102a、102bが積層方向の同一位置に形成される。スリット状切り欠き部位102a、102bは、酸化剤ガス流れ方向に平行な矢印C方向に延在する。
【0058】
このように構成される第3の実施形態では、計測用端子部材92、94の設置部位におけるガス拡散性が有効に向上し、簡単な構成で、電解質膜・電極構造体12の各種の特性を良好且つ高精度に測定することが可能になる等、上記の第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【0059】
図14は、本発明の第4の実施形態に係る燃料電池110を構成する計測用端子部材112、114の要部斜視説明図である。
【0060】
計測用端子部材112は、アノード電極38の電極触媒層38aに接触する計測用電極部116を備えるとともに、前記計測用電極部116には、複数の孔部118が形成される。絶縁部50には、計測用電極部116に対応して多孔質絶縁部位120が設けられ、多孔質絶縁部位120及び複数の孔部118によりガス通過部位が構成される。
【0061】
計測用端子部材114は、アノード電極38の電極触媒層38aに接触する計測用電極部122を備えるとともに、前記計測用電極部122には、複数の孔部124が形成される。絶縁部58には、計測用電極部122に対応して多孔質絶縁部位126が設けられ、多孔質絶縁部位126及び複数の孔部124によりガス通過部位が構成される。
【0062】
このように構成される第4の実施形態では、通電距離が可及的に短尺化するとともに、空孔面積を最大化することができる。しかも、ガス透過性が良好になる等の効果が得られる。
【符号の説明】
【0063】
10、70、90、110…燃料電池 12…電解質膜・電極構造体
14、16…セパレータ 18a…酸化剤ガス入口連通孔
18b…酸化剤ガス出口連通孔 20a…燃料ガス入口連通孔
20b…燃料ガス出口連通孔 22a…冷却媒体入口連通孔
22b…冷却媒体出口連通孔 26…酸化剤ガス流路
28…燃料ガス流路 30…冷却媒体流路
36…固体高分子電解質膜 38…アノード電極
38a、40a…電極触媒層 38b、40b…ガス拡散層
40…カソード電極
42、44、72、74、92、94、112、114…計測用端子部材
46、54、76、80、96、100、116、122…計測用電極部
48a、48b、56a、56b…導電ライン
50、58…絶縁部
52a、52b、60a、60b、78a、78b、82a、82b、98a、98b、102a、102b…スリット状切り欠き部位
118、124…孔部
120、126…多孔質絶縁部位
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質の両側に電極が設けられた電解質・電極構造体と、セパレータとが積層される燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、固体高分子型燃料電池は、高分子イオン交換膜からなる固体高分子電解質膜を採用している。この燃料電池は、固体高分子電解質膜の両側に、それぞれ電極触媒(電極触媒層)と多孔質カーボン(ガス拡散層)からなるアノード電極及びカソード電極を配設した電解質膜・電極構造体(MEA)を、セパレータ(バイポーラ板)によって挟持する発電セルを構成している。通常、燃料電池では、発電セルを所定の数だけ積層した燃料電池スタックが、例えば、車載用燃料電池スタックとして使用されている。
【0003】
この種の燃料電池では、燃料ガスがアノード側からカソード側に固体高分子電解質膜を透過する一方、酸化剤ガスが前記カソード側から前記アノード側に前記固体高分子電解質膜を透過する場合がある。
【0004】
このため、アノード側及びカソード側では、水素と酸素とが反応して過酸化水素(H2O2)が発生し易い(H2+O2→H2O2)。この過酸化水素は、電極中のカーボン担体や白金(Pt)上で分解し、例えば、ヒドロキシラジカル(・OH)が発生する。これにより、固体高分子電解質膜及び電極触媒を劣化させるという問題がある。
【0005】
そこで、例えば、特許文献1に開示されている燃料電池の電極電位測定装置が知られている。この従来技術では、図15に示すように、単位セル1を一対のセパレータ2で挟持する燃料電池スタックに電極電位測定装置3が組み込まれている。単位セル1は、固体高分子電解質1aを酸素極1bと燃料極1cとにより挟持して構成されている。
【0006】
電極電位測定装置3は、検出部4と、電圧計5と、導線6a、6bとを備えている。検出部4は、酸素極1b内に設けられた検出片4aと、前記検出片4aの表面に接続された検出端子4bと、前記検出端子4bを保護する保護部材4cとを備えている。検出片4aは、酸素極1bの一部を切り出して、絶縁部4dを介して前記酸素極1bから絶縁状態に設けられている。
【0007】
検出片4aは、固体高分子電解質1aに接触し、この固体高分子電解質1aとの間で、イオン導電可能に構成されている。これにより、燃料極1c側に空気(酸素)が偏在した場所での異常電位を検出することができる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4269599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の特許文献1では、検出端子4bが絶縁部4dに周回されて酸素極1bのガス拡散層1bg上に設けられている。このため、ガス拡散層1bgでは、絶縁部4dが配置されている領域内におけるガス拡散性が低下するおそれがある。従って、各セパレータ2のガス流路に対しそれぞれ所望のガスを供給して各種の測定を行う際に、良好な測定精度が得られないという問題がある。
【0010】
本発明は、この種の問題を解決するものであり、簡単な構成で、電解質・電極構造体の各種の特性を良好且つ高精度に測定することが可能な燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、電解質の両側に電極が設けられた電解質・電極構造体と、セパレータとが積層される燃料電池に関するものである。この燃料電池は、電解質・電極構造体の両面に配置される一対の計測用端子部材を備え、少なくとも一方の前記計測用端子部材は、前記電解質・電極構造体の電極面に接触する計測用電極層の一部にガス通過部位を設けている。
【0012】
また、この燃料電池では、計測用電極層は、計測用電極部と絶縁部とを有し、ガス通過部位は、前記計測用電極部及び前記絶縁部に形成された複数本のスリット状切り欠き部位により構成されることが好ましい。
【0013】
さらに、この燃料電池では、計測用電極層は、計測用電極部と多孔質絶縁部とを有し、ガス通過部位は、前記計測用電極部に形成された複数の孔部及び前記多孔質絶縁部により構成されることが好ましい。
【0014】
さらにまた、この燃料電池では、電極は、電極触媒層及びガス拡散層を有し、前記電極触媒層は、複数のセグメントに分割されるとともに、計測用端子部材の計測用電極層は、分割された前記電極触媒層と前記ガス拡散層との間に介装されることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電解質・電極構造体の両面に計測用端子部材が配置されるとともに、少なくとも一方の前記計測用端子部材は、前記電解質・電極構造体の電極面に接触する計測用電極層の一部にガス通過部位を設けている。このため、計測用端子部材の設置部位におけるガス拡散性が有効に向上し、簡単な構成で、電解質・電極構造体の各種の特性を良好且つ高精度に測定することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る燃料電池の要部分解斜視説明図である。
【図2】前記燃料電池を構成する電解質膜・電極構造体の正面説明図である。
【図3】前記燃料電池の、図1中、III−III線断面図である。
【図4】前記燃料電池を構成する計測用端子部材の斜視説明図である。
【図5】膜抵抗の算出処理の説明図である。
【図6】前記膜抵抗の算出処理の等価回路の説明図である。
【図7】水素透過量の算出処理及び有効白金表面積の算出処理の説明図である。
【図8】前記水素透過量の算出処理の等価回路の説明図である。
【図9】前記有効白金表面積の算出処理の等価回路の説明図である。
【図10】過酸化水素の算出処理の説明図である。
【図11】前記過酸化水素の算出処理の等価回路の説明図である。
【図12】本発明の第2の実施形態に係る燃料電池を構成する計測用端子部材の要部斜視説明図である。
【図13】本発明の第3の実施形態に係る燃料電池を構成する計測用端子部材の要部斜視説明図である。
【図14】本発明の第4の実施形態に係る燃料電池を構成する計測用端子部材の要部斜視説明図である。
【図15】特許文献1の電極電位測定装置を備えた燃料電池スタックの断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1に示すように、本発明の第1の実施形態に係る燃料電池10は、複数積層されることにより、例えば、燃料電池電気自動車等の燃料電池車両に搭載される車載用燃料電池スタックを構成する。
【0018】
燃料電池10は、電解質膜・電極構造体(電解質・電極構造体)12を第1セパレータ14及び第2セパレータ16で挟持する。第1セパレータ14及び第2セパレータ16は、例えば、鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム板、めっき処理鋼板、あるいはその金属表面に防食用の表面処理を施した金属板や、カーボン部材等で構成されている。
【0019】
燃料電池10の矢印C方向(図1中、鉛直方向)の上端縁部には、積層方向である矢印A方向に互いに連通して、酸化剤ガス、例えば、酸素含有ガスを供給するための酸化剤ガス入口連通孔18aと、燃料ガス、例えば、水素含有ガスを供給するための燃料ガス入口連通孔20aとが、矢印B方向(水平方向)に配列して設けられる。
【0020】
燃料電池10の矢印C方向の下端縁部には、矢印A方向に互いに連通して、燃料ガスを排出するための燃料ガス出口連通孔20bと、酸化剤ガスを排出するための酸化剤ガス出口連通孔18bとが、矢印B方向に配列して設けられる。
【0021】
燃料電池10の矢印B方向の一端縁部には、冷却媒体を供給するための一対の冷却媒体入口連通孔22aが設けられるとともに、前記燃料電池10の矢印B方向の他端縁部には、前記冷却媒体を排出するため一対の冷却媒体出口連通孔22bが設けられる。
【0022】
第1セパレータ14の電解質膜・電極構造体12に向かう面14aには、酸化剤ガス入口連通孔18aと酸化剤ガス出口連通孔18bとに連通する酸化剤ガス流路26が設けられる。第2セパレータ16の電解質膜・電極構造体12に向かう面16aには、燃料ガス入口連通孔20aと燃料ガス出口連通孔20bとに連通する燃料ガス流路28が形成される。酸化剤ガス流路26及び燃料ガス流路28は、鉛直方向に向かって酸化剤ガス及び燃料ガスを流通させる。
【0023】
第1セパレータ14の面14aとは反対の面14bと、第2セパレータ16の面16aとは反対の面16bとの間には、冷却媒体入口連通孔22aと冷却媒体出口連通孔22bとに連通する冷却媒体流路30が形成される。冷却媒体流路30は、水平方向に向かって冷却媒体を流通させる。
【0024】
第1セパレータ14の面14a、14bには、この第1セパレータ14の外周端部を周回して、第1シール部材32が一体化されるとともに、第2セパレータ16の面16a、16bには、この第2セパレータ16の外周端部を周回して、第2シール部材34が一体化される。
【0025】
第1シール部材32及び第2シール部材34は、例えば、EPDM、NBR、フッ素ゴム、シリコーンゴム、フロロシリコーンゴム、ブチルゴム、天然ゴム、スチレンゴム、クロロプレーン又はアクリルゴム等のシール材、クッション材、あるいはパッキン材が用いられる。
【0026】
図1及び図2に示すように、電解質膜・電極構造体12は、例えば、パーフルオロスルホン酸の薄膜に水が含浸された固体高分子電解質膜36と、前記固体高分子電解質膜36を挟持するアノード電極38及びカソード電極40とを備える。固体高分子電解質膜36は、フッ素系電解質の他、HC(炭化水素)系電解質が使用されるとともに、アノード電極38及びカソード電極40よりも大きな表面積に設定される。
【0027】
アノード電極38及びカソード電極40は、図3に示すように、固体高分子電解質膜36の両面に接合される電極触媒層38a、40aと、前記電極触媒層38a、40aに配設されるカーボンペーパ等からなるガス拡散層38b、40bとを有する。電極触媒層38a、40aは、固体高分子電解質膜36を挟んで対称な平面形状を有する。電極触媒層38a、40aは、白金合金が表面に担持された多孔質カーボン粒子及びイオン交換成分を固体高分子電解質膜36の両面に一様に塗布して形成される。電極触媒層38a、40aは、それぞれ複数のセグメントに分割形成される(図1及び図2参照)。
【0028】
電解質膜・電極構造体12の両面には、それぞれ複数の計測用端子部材42、44が、互いに積層方向(矢印A方向)に重なり合って配置される。計測用端子部材42は、アノード電極38側の電極面内に、前記アノード電極38を構成する電極触媒層38aとガス拡散層38bとの間に介装される。図1に示すように、計測用端子部材42は、分割された各電極触媒層38aの中、例えば、矢印B方向外方に配置されるそれぞれ3つずつの前記電極触媒層38aに対応して設けられる。
【0029】
図3に示すように、計測用端子部材44は、カソード電極40側の電極面内に、前記カソード電極40を構成する電極触媒層40aとガス拡散層40bとの間に介装される。図2に示すように、計測用端子部材44は、分割された各電極触媒層40aの中、例えば、矢印B方向外方に配置されるそれぞれ3つずつの前記電極触媒層40aに対応して設けられる。
【0030】
図3及び図4に示すように、計測用端子部材42は、アノード電極38の電極触媒層38aに接触する計測用電極部46を備える。計測用電極部46は、矩形状を有し、例えば、金(Au)で形成されるとともに、2本の導電ライン48a、48bに接続される。計測用電極部46及び導電ライン48a、48bを覆って絶縁部50が設けられる。絶縁部50は、例えば、PEM膜やポリスチレン及び耐食性の液晶ポリマー等で形成される。
【0031】
計測用電極部46及び絶縁部50には、積層方向に対して電極触媒層38aに重なる範囲内にガス通過部位、例えば、それぞれ複数本のスリット状切り欠き部位52a、52bが前記積層方向の同一位置に形成される。すなわち、計測用電極部46及び絶縁部50により構成される計測用電極層には、それぞれ複数本のスリット状切り欠き部位52a、52bを介して積層方向(矢印A方向)に貫通するガス通過部位が形成される。スリット状切り欠き部位52a、52bは、燃料ガス流路28での燃料ガスの流れ方向(矢印C1方向)に交差する矢印B方向に長尺である。
【0032】
計測用端子部材44は、カソード電極40の電極触媒層40aに接触する計測用電極部54を備える。計測用電極部54は、矩形状を有し、例えば、金(Au)で形成されるとともに、2本の導電ライン56a、56bに接続される。計測用電極部54及び導電ライン56a、56bを覆って絶縁部58が設けられる。絶縁部58は、例えば、PEM膜やポリスチレン及び耐食性の液晶ポリマー等で形成される。
【0033】
計測用電極部54及び絶縁部58には、積層方向に対して電極触媒層40aに重なる範囲内にガス通過部位、例えば、それぞれ複数本のスリット状切り欠き部位60a、60bが前記積層方向の同一位置に形成される。すなわち、計測用電極部54及び絶縁部58により構成される計測用電極層には、それぞれ複数本のスリット状切り欠き部位60a、60bを介して積層方向(矢印A方向)に貫通するガス通過部位が形成される。スリット状切り欠き部位60a、60bは、酸化剤ガス流路26での酸化剤ガスの流れ方向(矢印C1方向)に交差する矢印B方向に長尺である。
【0034】
なお、第1の実施形態では、計測用端子部材42、44の両方に、ガス通過部位が形成されているが、これに限定されるものではない。例えば、計測用端子部材44のみに、又は計測用端子部材44のみに、ガス通過部位を設けてもよい。また、以下に説明する第2以降の実施形態においても同様である。
【0035】
このように構成される燃料電池10の動作について、以下に説明する。
【0036】
図1に示すように、酸化剤ガス入口連通孔18aには、酸素含有ガス等の酸化剤ガス(例えば、空気)が供給されるとともに、燃料ガス入口連通孔20aには、水素含有ガス等の燃料ガス(例えば、水素ガス)が供給される。また、冷却媒体入口連通孔22aには、純水やエチレングリコール等の冷却媒体が供給される。
【0037】
酸化剤ガスは、酸化剤ガス入口連通孔18aから第1セパレータ14の酸化剤ガス流路26に導入され、矢印C方向に移動して電解質膜・電極構造体12のカソード電極40に供給される。一方、燃料ガスは、燃料ガス入口連通孔20aから第2セパレータ16の燃料ガス流路28に導入される。燃料ガスは、燃料ガス流路28に沿って矢印C方向に移動し、電解質膜・電極構造体12のアノード電極38に供給される。
【0038】
従って、各電解質膜・電極構造体12では、カソード電極40に供給される酸化剤ガスと、アノード電極38に供給される燃料ガスとが、電極触媒層40a、38a内で電気化学反応により消費されて発電が行われる。
【0039】
次いで、カソード電極40に供給されて少なくとも一部が消費された酸化剤ガスは、酸化剤ガス出口連通孔18bに沿って矢印A方向に排出される。同様に、アノード電極38に供給されて少なくとも一部が消費された燃料ガスは、燃料ガス出口連通孔20bに沿って矢印A方向に排出される。
【0040】
また、冷却媒体入口連通孔22aに供給された冷却媒体は、第1セパレータ14と第2セパレータ16との間の冷却媒体流路30に導入された後、矢印B方向に流通する。この冷却媒体は、電解質膜・電極構造体12を冷却した後、冷却媒体出口連通孔22bから排出される。
【0041】
次いで、電解質膜・電極構造体12の膜抵抗(膜厚方向の抵抗値)を検出する方法について、以下に説明する。
【0042】
先ず、図5に示すように、アノード電極38には、加湿された水素ガス(燃料ガス)が供給されるとともに、カソード電極40には、加湿された空気(酸化剤ガス)が供給されて、発電が行われている。
【0043】
一方、計測用端子部材42及び44では、図6の等価回路に示すように、交流4端子法によるインピーダンス測定が行われる。計測用端子部材42は、一方の導電ライン48aが電圧計測用とし、他方の導電ライン48bが交流電流源として使用される。計測用端子部材44は、一方の導電ライン56aが電圧計測用とし、他方の導電ライン56bが交流電流源として使用される。そして、固体高分子電解質膜36の膜抵抗値(R)が算出され、電解質膜・電極構造体12の発電面全面の膜抵抗値が得られるとともに、前記膜抵抗値から発電面全面の含水分布が測定される。
【0044】
この場合、第1の実施形態では、図4に示すように、計測用電極部46及び絶縁部50により構成される計測用電極層には、それぞれ複数本のスリット状切り欠き部位52a、52bを介して積層方向(矢印A方向)に貫通するガス通過部位が形成されている。同様に、計測用電極部54及び絶縁部58により構成される計測用電極層には、それぞれ複数本のスリット状切り欠き部位60a、60bを介して積層方向(矢印A方向)に貫通するガス通過部位が形成されている。
【0045】
このため、電解質膜・電極構造体12では、計測用電極部46が配置されている領域内にも、スリット状切り欠き部位52a、52bを介して水素ガスを良好に供給することができるとともに、計測用電極部54が配置されている領域内にも、スリット状切り欠き部位60a、60bを介して空気を供給することが可能になる。従って、計測用端子部材42、44の設置部位におけるガス拡散性が有効に向上し、簡単な構成で、電解質膜・電極構造体12の発電面全面の膜抵抗値を良好且つ高精度に測定することが可能になるという効果が得られる。
【0046】
しかも、金属線等とは異なり、計測対象の面積を規定できるため、単位面積当たりの電気的情報を正確に得ることができる。その上、電解質膜・電極構造体12のMEA面方向に広がるセンサ構造であるため、前記電解質膜・電極構造体12が積層された状態で、測定が可能であり、該電解質膜・電極構造体12の解析を良好に遂行することができる。
【0047】
また、第1の実施形態では、サイクリックボルタンメトリ(CV)による電気化学測定を用いて、電流−電位曲線を取得することができる。
【0048】
さらに、図7に示すように、アノード電極38には、加湿された水素ガス(燃料ガス)が供給されるとともに、カソード電極40には、加湿された窒素ガスが供給されて、前記アノード電極38側への水素透過量の算出や、有効白金表面積の算出が行われる。具体的には、図8には、水素透過量を算出する際に等価回路が示される一方、図9には、有効白金表面積を算出する際の等価回路が示されている。その際、計測された電流値から、水素透過量や有効白金表面積が算出される。
【0049】
さらにまた、図10には、過酸化水素の算出を行う際のガス供給方法が示されるとともに、図11には、前記過酸化水素の算出を行う際の等価回路が示されている。過酸化水素の算出を行う際には、図10に示すように、アノード電極38には、加湿された水素ガス(燃料ガス)が供給される一方、カソード電極40には、先ず、加湿された窒素ガスが供給されている。次に、カソード電極40には、加湿された空気(酸化剤ガス)が供給されている。このため、図11に示すように、計測された電流値から過酸化水素量が算出される。
【0050】
これにより、第1の実施形態では、計測用端子部材42、44の設置部位におけるガス拡散性が有効に向上し、簡単な構成で、電解質膜・電極構造体12の各種の特性を良好且つ高精度に測定することが可能になる。
【0051】
図12は、本発明の第2の実施形態に係る燃料電池70を構成する計測用端子部材72、74の要部斜視説明図である。なお、第1の実施形態に係る燃料電池10と同一の構成要素には、同一の参照符号を付して、その詳細な説明は省略する。また、以下に説明する第3以降の実施形態においても同様に、その詳細な説明は省略する。
【0052】
計測用端子部材72は、アノード電極38の電極触媒層38aに接触する計測用電極部76を備えるとともに、前記計測用電極部76及び絶縁部50には、それぞれ複数本のスリット状切り欠き部位78a、78bが積層方向の同一位置に形成される。スリット状切り欠き部位78a、78bの先端側は、外部に開放される。
【0053】
計測用端子部材74は、カソード電極40の電極触媒層40aに接触する計測用電極部80を備えるとともに、前記計測用電極部80及び絶縁部58には、それぞれ複数本のスリット状切り欠き部位82a、82bが積層方向の同一位置に形成される。スリット状切り欠き部位82a、82bの先端側は、外部に開放される。
【0054】
このため、第2の実施形態では、計測用端子部材72、74のガス通過部位の先端が外部に開放されており、特に水滴が排出され易くなる。従って、滞留水による短絡の発生を可及的に抑制することが可能になるという効果が得られる。
【0055】
図13は、本発明の第3の実施形態に係る燃料電池90を構成する計測用端子部材92、94の要部斜視説明図である。
【0056】
計測用端子部材92は、アノード電極38の電極触媒層38aに接触する計測用電極部96を備えるとともに、前記計測用電極部96及び絶縁部50には、それぞれ複数本のスリット状切り欠き部位98a、98bが積層方向の同一位置に形成される。スリット状切り欠き部位98a、98bは、燃料ガス流れ方向に平行な矢印C方向に延在する。
【0057】
計測用端子部材94は、カソード電極40の電極触媒層40aに接触する計測用電極部100を備えるとともに、前記計測用電極部100及び絶縁部58には、それぞれ複数本のスリット状切り欠き部位102a、102bが積層方向の同一位置に形成される。スリット状切り欠き部位102a、102bは、酸化剤ガス流れ方向に平行な矢印C方向に延在する。
【0058】
このように構成される第3の実施形態では、計測用端子部材92、94の設置部位におけるガス拡散性が有効に向上し、簡単な構成で、電解質膜・電極構造体12の各種の特性を良好且つ高精度に測定することが可能になる等、上記の第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【0059】
図14は、本発明の第4の実施形態に係る燃料電池110を構成する計測用端子部材112、114の要部斜視説明図である。
【0060】
計測用端子部材112は、アノード電極38の電極触媒層38aに接触する計測用電極部116を備えるとともに、前記計測用電極部116には、複数の孔部118が形成される。絶縁部50には、計測用電極部116に対応して多孔質絶縁部位120が設けられ、多孔質絶縁部位120及び複数の孔部118によりガス通過部位が構成される。
【0061】
計測用端子部材114は、アノード電極38の電極触媒層38aに接触する計測用電極部122を備えるとともに、前記計測用電極部122には、複数の孔部124が形成される。絶縁部58には、計測用電極部122に対応して多孔質絶縁部位126が設けられ、多孔質絶縁部位126及び複数の孔部124によりガス通過部位が構成される。
【0062】
このように構成される第4の実施形態では、通電距離が可及的に短尺化するとともに、空孔面積を最大化することができる。しかも、ガス透過性が良好になる等の効果が得られる。
【符号の説明】
【0063】
10、70、90、110…燃料電池 12…電解質膜・電極構造体
14、16…セパレータ 18a…酸化剤ガス入口連通孔
18b…酸化剤ガス出口連通孔 20a…燃料ガス入口連通孔
20b…燃料ガス出口連通孔 22a…冷却媒体入口連通孔
22b…冷却媒体出口連通孔 26…酸化剤ガス流路
28…燃料ガス流路 30…冷却媒体流路
36…固体高分子電解質膜 38…アノード電極
38a、40a…電極触媒層 38b、40b…ガス拡散層
40…カソード電極
42、44、72、74、92、94、112、114…計測用端子部材
46、54、76、80、96、100、116、122…計測用電極部
48a、48b、56a、56b…導電ライン
50、58…絶縁部
52a、52b、60a、60b、78a、78b、82a、82b、98a、98b、102a、102b…スリット状切り欠き部位
118、124…孔部
120、126…多孔質絶縁部位
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質の両側に電極が設けられた電解質・電極構造体と、セパレータとが積層される燃料電池であって、
前記電解質・電極構造体の両面に配置される一対の計測用端子部材を備え、
少なくとも一方の前記計測用端子部材は、前記電解質・電極構造体の電極面に接触する計測用電極層の一部にガス通過部位を設けることを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池において、前記計測用電極層は、計測用電極部と絶縁部とを有し、
前記ガス通過部位は、前記計測用電極部及び前記絶縁部に形成された複数本のスリット状切り欠き部位により構成されることを特徴とする燃料電池。
【請求項3】
請求項1記載の燃料電池において、前記計測用電極層は、計測用電極部と多孔質絶縁部とを有し、
前記ガス通過部位は、前記計測用電極部に形成された複数の孔部及び前記多孔質絶縁部により構成されることを特徴とする燃料電池。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池において、前記電極は、電極触媒層及びガス拡散層を有し、前記電極触媒層は、複数のセグメントに分割されるとともに、
前記計測用端子部材の前記計測用電極層は、分割された前記電極触媒層と前記ガス拡散層との間に介装されることを特徴とする燃料電池。
【請求項1】
電解質の両側に電極が設けられた電解質・電極構造体と、セパレータとが積層される燃料電池であって、
前記電解質・電極構造体の両面に配置される一対の計測用端子部材を備え、
少なくとも一方の前記計測用端子部材は、前記電解質・電極構造体の電極面に接触する計測用電極層の一部にガス通過部位を設けることを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池において、前記計測用電極層は、計測用電極部と絶縁部とを有し、
前記ガス通過部位は、前記計測用電極部及び前記絶縁部に形成された複数本のスリット状切り欠き部位により構成されることを特徴とする燃料電池。
【請求項3】
請求項1記載の燃料電池において、前記計測用電極層は、計測用電極部と多孔質絶縁部とを有し、
前記ガス通過部位は、前記計測用電極部に形成された複数の孔部及び前記多孔質絶縁部により構成されることを特徴とする燃料電池。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池において、前記電極は、電極触媒層及びガス拡散層を有し、前記電極触媒層は、複数のセグメントに分割されるとともに、
前記計測用端子部材の前記計測用電極層は、分割された前記電極触媒層と前記ガス拡散層との間に介装されることを特徴とする燃料電池。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2013−93277(P2013−93277A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235943(P2011−235943)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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