説明

燃焼状態診断装置および燃焼状態診断方法

【課題】入力熱量に拘わらず、空気比をより高精度に特定すると共に、並行して入力熱量も導出する。
【解決手段】燃焼状態診断装置100は、燃焼時の火炎光を特徴付ける所定の複数の波長に対する発光強度を測定する発光強度測定部と、複数の波長から選択された相異なる2つの組み合わせそれぞれにおける、発光強度の差または比に基づいて、それぞれの組み合わせに対応した2つの指標を導出する指標導出部130と、2つの指標に基づき、予め定められたテーブルまたは第1関数を参照して空気比を導出する空気比導出部132とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火炎の状態を検知することで燃焼状態を診断する燃焼状態診断装置および燃焼状態診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
民生用ボイラや工業加熱炉等に代表される燃焼炉内の火炎の状態(火炎状態)を検知し、その検知結果に応じて燃焼炉を制御することで、燃焼炉の運転状態を正常に保つことができる。例えば、燃焼炉の点火および保炎のために利用されるパイロットバーナの火炎状態を検知し、一過性の不具合や経年劣化により、本来の燃焼状態が維持されていないと判断されれば、それによる被害の回避処理を実行する。
【0003】
そこで、例えば、CHラジカルとCラジカルとの自発光強度を検知して、燃焼炉の燃焼状態を判断する技術が公開されている(例えば、非特許文献1、特許文献1〜3)。特に非特許文献1には、CHラジカルの自発光強度ICHとCラジカルの自発光強度IC2とを変数とする関数f(IC2/ICH)に基づいて空気比を求める技術が示されている。
【0004】
また、CHラジカルとCラジカルとの自発光強度に加え、固体輻射スペクトルも参照して燃焼状態を判断する技術(例えば、特許文献4)や、HOガスの放出光強度(近赤外光)を参照して燃焼状態を判断する技術(例えば、特許文献5)や、パワースペクトルを参照して燃焼状態を判断する技術(例えば、特許文献6)も開示されている。CHラジカルやCラジカルを利用しない技術としては、OH発光強度と燃料流量を利用して空気比を求める技術も公開されている(例えば、特許文献7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60−169015号公報
【特許文献2】特開平3−207912号公報
【特許文献3】特開平8−270931号公報
【特許文献4】特許第3035389号
【特許文献5】特許第3423124号
【特許文献6】特許第3852051号
【特許文献7】特開平5−029810号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「火炎色光検知による光ファイバー式空気比センサー−実用化と空気比制御による性能評価−」、山口貴弘、山田朝治、内山寛信、光学第24巻第10号(1995年10月)、p.638-p.644
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献および非特許文献によると、CHラジカルの自発光強度ICHとCラジカルの自発光強度IC2によって燃焼炉の燃焼状態、特に空気比を求めることができる。しかし、実際には多くの実用バーナにおいて空気比は入力熱量にも依存しており、入力熱量が一定の条件下でなくては、空気比を一意に特定することができなかった。また、燃焼炉の燃焼状態として空気比等を単独で推定する技術は存在しているが、空気比と入力熱量とを総合的に判断する技術は存在していなかった。
【0008】
また、CHラジカルの自発光強度ICHとCラジカルの自発光強度IC2による空気比の推定は、青色成分の占有度が高い火炎(青炎)を対象としており、先混合火炎等、輝炎部分を含む火炎に関してまで空気比を正確に特定することができなかった。
【0009】
本発明は、このような課題に鑑み、入力熱量に拘わらず、空気比をより高精度に特定すると共に、並行して入力熱量も導出することが可能な燃焼状態診断装置および燃焼状態診断方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の燃焼状態診断装置は、バーナの燃焼時の火炎光を特徴付ける所定の複数の波長に対する発光強度を測定する発光強度測定部と、複数の波長から選択された相異なる2つの組み合わせそれぞれにおける、発光強度の差または比に基づいて、それぞれの組み合わせに対応した2つの指標を導出する指標導出部と、2つの指標に基づき、予め定められたテーブルまたは第1関数を参照して空気比を導出する空気比導出部と、を備えることを特徴とする。
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の他の燃焼状態診断装置は、バーナの燃焼時の火炎光を特徴付ける所定の複数の波長に対する発光強度を測定する発光強度測定部と、複数の波長から選択された相異なる2つの組み合わせそれぞれにおける、発光強度の差または比に基づいて、それぞれの組み合わせに対応した2つの指標を導出する指標導出部と、2つの指標に基づき、予め定められたテーブルまたは第2関数を参照して入力熱量を導出する入力熱量導出部と、を備えることを特徴とする。
【0012】
火炎光は、特性が異なる複数の発光成分が混合した光であり、指標導出部は、対象となる波長を形成する発光成分以外の発光成分の影響を排除して2つの指標を導出してもよい。
【0013】
バーナは、火炎光を放つ火炎の直前で燃焼ガスと燃焼用空気とを混合し、混合した先混合ガスを燃焼させるとしてもよい。
【0014】
上記課題を解決するために、本発明の燃焼状態診断方法は、バーナの燃焼時の火炎光を特徴付ける所定の複数の波長に対する発光強度を測定し、複数の波長から選択された相異なる2つの組み合わせそれぞれにおける、発光強度の差または比に基づいて、それぞれの組み合わせに対応した2つの指標を導出し、2つの指標に基づき、予め定められたテーブルまたは第1関数を参照して空気比を導出することを特徴とする。
【0015】
上記課題を解決するために、本発明の他の燃焼状態診断方法は、バーナの燃焼時の火炎光を特徴付ける所定の複数の波長に対する発光強度を測定し、複数の波長から選択された相異なる2つの組み合わせそれぞれにおける、発光強度の差または比に基づいて、それぞれの組み合わせに対応した2つの指標を導出し、2つの指標に基づき、予め定められたテーブルまたは第2関数を参照して入力熱量を導出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、入力熱量に拘わらず、空気比をより高精度に特定すると共に、並行して入力熱量も導出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】燃焼状態診断装置の概略的な構成を示した機能ブロック図である。
【図2】発光強度測定部によって測定される5つの波長を説明するための説明図である。
【図3】数式3と数式4とを説明するための説明図である。
【図4】燃焼状態診断方法の全体的な流れを示したフローチャートである。
【図5】数式7による空気比の推定結果を説明するための説明図である。
【図6】燃焼状態診断装置による空気比と入力熱量の導出精度を示した説明図である。
【図7】ニューラルネットワークを説明するための説明図である。
【図8】変形例を説明するための機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0019】
本実施形態における燃焼状態診断装置は、火炎の状態(火炎状態)を検知することで燃焼炉の燃焼状態を診断することを目的とし、診断された燃焼状態に応じて燃焼炉を制御し、燃焼炉の運転状態を正常に保つ。ここでは、特に、パイロットバーナの火炎光等の火炎状態を検知し、パイロットバーナの空気比と入力熱量とを導出することで、本来求められる燃焼状態を維持できているか、また、一過性の不具合や経年劣化が生じていないか、総合的に判断する。
【0020】
(燃焼状態診断装置100)
図1は、燃焼状態診断装置100の概略的な構成を示した機能ブロック図である。燃焼状態診断装置100は、燃焼炉1におけるパイロットバーナ2の燃焼状態を診断する。パイロットバーナ2は、燃焼炉1の燃焼領域3に延伸する円筒管2aを含んで形成され、空気を導入する空気導入孔2bと、燃焼ガスを燃焼領域3側に案内するガス案内管2cとを備える。したがって、燃焼ガスと燃焼用空気とがパイロットバーナ2の円筒管2a内で混合されるので(先混合)、パイロットバーナ2の火炎色は、比較的波長の短い青炎の発光のみならず、比較的波長の長い輝炎の発光も含まれる。
【0021】
また、パイロットバーナ2の噴出方向の逆側(背面側)端部には、監視窓(監視孔)2dが設けられ、パイロットバーナ2の火炎状態を火炎背面から監視できるようになっている。本実施形態の燃焼状態診断装置100は、かかる監視窓2dからパイロットバーナ2による火炎光を検知する。したがって、監視窓2dからは上記青炎と輝炎をその延伸方向に観察することとなるので、両方の成分の火炎光を重畳させ一度に抽出することができる。
【0022】
燃焼状態診断装置100は、集光レンズ110と、光ファイバ112と、分光器114と、演算ユニット116と、表示部118とを含んで構成される。
【0023】
集光レンズ110は、パイロットバーナ2背面側の監視窓2d近辺に配置され、パイロットバーナ2の火炎光を集光する。光ファイバ112は、集光レンズ110を挟んで火炎と対向した位置に配され、集光レンズ110で集光された火炎光を分光器114に伝達する。分光器114は、プリズム114a等を介して波長毎に分光し、受光素子114bを通じて、それぞれの波長の発光強度を検知する。
【0024】
演算ユニット116は、中央処理装置(CPU)、プログラム等が格納されたROM、ワークエリアとしてのRAM等を含む半導体集積回路により、燃焼状態診断装置100全体を管理および制御する。また、演算ユニット116は、指標導出部130、空気比導出部132、入力熱量導出部134、異常判定部136としても機能する。かかる機能部は後ほど詳述する。表示部118は、液晶ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等で構成され、燃焼炉1の燃焼状態や、その燃焼状態に対する制御量等を、画像を通じてオペレータに報知する。
【0025】
上記集光レンズ110、光ファイバ112、分光器114は、発光強度測定部として機能する。発光強度測定部では、パイロットバーナ2の火炎光の発光スペクトルを検知し、火炎光を特徴付ける所定の複数の波長に対する発光強度を測定する。ここで、複数の波長として、例えば、5つの波長を挙げる。
【0026】
図2は、発光強度測定部によって測定される5つの波長を説明するための説明図である。図2(a)では、本実施形態が対象とする先混合ガスの火炎を示し、図2(b)では、青炎に輝炎が加わっている火炎の発光スペクトルを示し、図2(c)では、青炎のみが含まれる火炎の発光スペクトルを示す。図2(b)および図2(c)では、350〜900nmの波長域において分光分析が遂行され、当該波長域における発光スペクトルを求めると共に、5つの波長の発光強度を取得している。ただし、本実施形態のように測定対象となる波長が予め定められている場合、その波長のみの発光強度を取得しても目的を達成できる。また、ここでは、測定器の都合上350〜900nmの波長域を対象に分光分析を行っているが、分光分析の対象がかかる範囲に限られないのは言うまでもない。
【0027】
対象となる波長は、CHラジカル自発光強度ICH、Cラジカル自発光強度IC2、および、固体輻射自発光強度ISOOTと、CHラジカル自発光強度ICH、Cラジカル自発光強度IC2の単独の値を導出するための補正発光強度I、Iである。CHラジカル自発光強度ICHは、青炎のうちの青色成分に特徴的な自発光強度であり、Cラジカル自発光強度IC2は、青炎のうちの緑色成分に特徴的な自発光強度である。固体輻射自発光強度ISOOTは、輝炎(すすの発光)を特徴付け、かつ、他の化学発光等とは干渉しない任意の波長(ここでは635nm)の発光強度である。補正発光強度I、Iは、CHラジカル自発光強度ICH、Cラジカル自発光強度IC2に対し、それぞれ、例えば2.5nm長い波長を選択する。したがって、CHラジカル波長ICH=431.5nm、Cラジカル波長IC2=516.5nmとしたとき、補正波長I=434nm、補正波長I=519nmとなる。このような補正波長の発光強度を利用する理由を以下に述べる。
【0028】
本実施形態では、図1における監視窓2dから火炎の延伸方向に観察しており、図2(b)と図2(c)とを比較して理解できるように、青炎と輝炎を同時にサンプルすることとなる。したがって、輝炎が含まれると、輝炎発光のピーク近傍(ここでは、例えば635nm)の発光強度のみならず、青色〜緑色の波長領域に亘っても発光強度が生じるので、図2(b)の波長依存性を示す曲線150に示すように、青色の波長から徐々に発光強度が増加することとなる。これは、青炎の発光強度に、輝炎の発光強度が影響することを意味している。また、青炎の発光(CHラジカル、Cラジカル)と輝炎の発光(すすの黒体輻射)以外にも、400〜600nm付近になだらかに広く存在するCO−O結合反応の発光など、その他の発光成分が重畳することも知られている。
【0029】
例えば、図2(c)のCHラジカル自発光強度ICHとCラジカル自発光強度IC2とはその発光強度に極端な差が生じていないが、輝炎を含む図2(b)では、その発光強度の右上がりの曲線150で示されるスペクトル強度に応じて、そのスペクトル強度分、Cラジカル自発光強度IC2の発光強度が、CHラジカル自発光強度ICHの発光強度より明らかに高くなる。したがって、ここでは、その輝炎によるスペクトル強度分を排除して、図2(b)中突出して示される青炎による独立した発光強度を導出する。
【0030】
具体的に、CHラジカル近傍であり、かつ、CHラジカルの影響を受けていない輝炎やその他の成分による発光強度を検知し(ここでは、補正波長I=434nmの発光強度)、それをCHラジカル=431.5nmのCHラジカル自発光強度ICHから減算する。こうして、対象となる青炎発光以外の、意図せざる発光成分の影響を排除し、純粋なCHラジカルの発光強度を導出することができる。同様に、Cラジカル近傍であり、かつ、Cラジカルの影響を受けていない輝炎やその他の成分による発光強度を検知し(ここでは、補正波長I=519nmの発光強度)、それをCラジカル=516.5nmのCラジカル自発光強度IC2から減算して、図2(b)中突出して示される純粋なCラジカルの発光強度を導出する。
【0031】
本実施形態において、2つの補正波長は、CHラジカルやCラジカルに2.5nm加算した波長を用いているが、かかる場合に限らず、CHラジカルやCラジカルの突出量を表現できれば、CHラジカルやCラジカルに加算する波長は任意に設定することができ、また、加算ではなく、減算としてもよい。
【0032】
また、輝炎発光の波長領域も、CO−O結合反応等、他の発光成分の影響を受けているので、Cラジカル近傍の補正波長I=519nmの発光強度を、固体輻射の周波数=635nmの固体輻射自発光強度ISOOTから減算する。こうして、対象となる輝炎発光以外の、意図せざる発光成分の影響を排除し、純粋な固体輻射の発光強度を導出することができる。
【0033】
指標導出部130は、発光強度測定部によって測定された複数の波長から選択された相異なる2つの組み合わせそれぞれにおける、発光強度の差または比に基づいて、それぞれの組み合わせに対応した2つの指標を導出する。ここでは2つの組み合わせに対応した2つの指標を導出する例を挙げているが、少なくとも2つあれば足りることの意であり、さらに多くの組み合わせによって多くの指標を導出することも本実施形態の範疇である。この2つの指標のうち、第1指標は、CHラジカル自発光強度ICHとCラジカル自発光強度IC2との比であるが、上述したように、輝炎もしくはその他の成分による影響を除くため、その比は以下の数式1で示される。
【数1】

…(数式1)
また、第2指標は、固体輻射の発光強度であるが、これも、CO−Oなどの他の成分からの発光の影響を除くため、その値は以下の数式2で示される。
【数2】

…(数式2)
【0034】
ここで、後述する空気比導出部132の処理の前提となる、第1指標および第2指標と、空気比λおよび入力熱量Eとの関係に言及する。かかる第1指標と第2指標は、数式3および数式4に示すように、空気比λと入力熱量Eとを変数とした関数で示すことができる。
【数3】

…(数式3)
【数4】

…(数式4)
【0035】
図3は、上記の数式3と数式4とを説明するための説明図であり、図3(a)で、空気比λおよび入力熱量Eと、第1指標との関係を示し、図3(b)で、空気比λおよび入力熱量Eと、第2指標との関係を示している。
【0036】
上述した数式3および数式4は、本実施形態を遂行する準備段階で、以下のように求められる。例えば、パイロットバーナ2の火炎に対する空気比λと入力熱量Eとを別途の手段で客観的に求め、そのときの火炎光における5つの発光強度(CHラジカル自発光強度ICH、Cラジカル自発光強度IC2、固体輻射自発光強度ISOOT、補正発光強度I、I)を測定する。そして、空気比λと入力熱量Eに対して第1指標をプロットし、その近似曲面を生成すると図3(a)のような、空気比λおよび入力熱量E対第1指標の関係を導出できる。同様に、空気比λと入力熱量Eに対して第2指標をプロットし、その近似曲面を生成すると図3(b)のような、空気比λおよび入力熱量E対第2指標の関係を導出できる。
【0037】
かかる図3を参照して理解できるように、第1指標や第2指標は空気比λと入力熱量Eが定まれば、それぞれ1の値が定まることとなる。以下では、このような関係を利用して、逆に、第1指標や第2指標から空気比λと入力熱量Eとを導出する。
【0038】
空気比導出部132は、2つの指標(第1指標、第2指標)に基づいて空気比を導出する。かかる空気比λは、数式3および数式4の連立方程式の解である、第1関数としての数式5によって導出することができる。
【数5】

…(数式5)
【0039】
したがって、実験等により数式3および数式4の関係を予め求めておけば、それから数式5を導出することができる。こうして、火炎光における5つの波長の発光強度(CHラジカル自発光強度ICH、Cラジカル自発光強度IC2、固体輻射自発光強度ISOOT、補正発光強度I、I)によって第1指標および第2指標を特定しさえすれば、空気比λを容易に導出することが可能となる。
【0040】
入力熱量導出部134は、2つの指標(第1指標、第2指標)に基づいて入力熱量を導出する。かかる入力熱量Eは、数式3および数式4の連立方程式の解である、第2関数としての数式6によって導出することができる。
【数6】

…(数式6)
【0041】
したがって、数式5同様、実験等により数式3および数式4の関係を予め求めておけば、それから数式6を導出することができる。こうして、火炎光における5つの発光強度によって第1指標および第2指標を特定しさえすれば、入力熱量Eを容易に導出することが可能となる。
【0042】
ただし、数式5および数式6は、数式3および数式4の連立方程式の解に相当するので、その次数は高次にわたることが多く、演算ユニット116の処理能力が低い場合、空気比導出部132や入力熱量導出部134における処理負荷が増大するおそれがある。そこで、ここでは、当該数式5および数式6を、均等に分割された複数の第1指標と、均等に分割された複数の第2指標とによって空気比λや入力熱量Eを一意に導き出すテーブルで表すこととする。かかるテーブルを用いることで、処理負荷の高い計算を行わずとも空気比λや入力熱量Eを正確かつ迅速に導き出せる。このとき、第1指標や第2指標の代表値ではない部分に関しては、即ち、テーブルに具体的な数値が設定されていない部分に関しては、空気比λや入力熱量Eの近傍の値を用いて補間(例えば線形補間)するとよい。ただし、数式5や数式6の直接の導出を行ってもよいのは言うまでもない。
【0043】
異常判定部136は、空気比導出部132が導出した空気比λや、入力熱量導出部134が導出した入力熱量Eが、予め定められた許容範囲に含まれるか否か判定し、含まれなければ、その旨、例えば表示部118を通じてオペレータに報知する。以下に、燃焼状態診断装置100の全体的な動作の流れを説明する。
【0044】
(燃焼状態診断方法)
図4は、燃焼状態診断方法の全体的な流れを示したフローチャートである。当該燃焼状態診断方法は、予め定められた時間間隔の定期的なタイマ割込によって処理が開始される。
【0045】
タイマ割込が生じると、まず、燃焼状態診断装置100の発光強度測定部は、パイロットバーナ2の燃焼時の火炎光を特徴付ける5つの波長に対する発光強度(CHラジカル自発光強度ICH、Cラジカル自発光強度IC2、固体輻射自発光強度ISOOT、補正発光強度I、I)を測定し(S200)、指標導出部130は、複数の波長から選択された相異なる2つの組み合わせそれぞれにおける、発光強度の差または比(数式1に示した、CHラジカル自発光強度ICH、Cラジカル自発光強度IC2それぞれから、補正発光強度I、Iを減算した値の比、および、数式2に示した、固体輻射自発光強度ISOOTと補正発光強度Iの差分)に基づいて2つの指標を導出する(S202)。
【0046】
続いて、空気比導出部132は、上記2つの指標に基づき、予め定められたテーブルを参照して空気比λを導出し(S204)、入力熱量導出部134は、上記2つの指標に基づき、予め定められたテーブルを参照して入力熱量Eを導出する(S206)。そして、異常判定部136は、空気比導出部132が導出した空気比λや、入力熱量導出部134が導出した入力熱量Eが、予め定められた許容範囲に含まれるか否か判定し(S208)、含まれていなければ(S208におけるNO)、その旨、外部に報知する(S210)。許容範囲に含まれていれば(S208におけるYES)、当該処理を終え、割込待機状態に戻る。
【0047】
このような燃焼状態診断装置100や燃焼状態診断方法によって、入力熱量に拘わらず、空気比をより高精度に特定すると共に、並行して入力熱量も導出することが可能となる。
【0048】
(効果の検証)
以下、本実施形態による燃焼状態診断装置100の効果を検証する。空気比λは、CHラジカル自発光強度ICHとCラジカル自発光強度IC2に依存する。従来では、CHラジカル自発光強度ICHとCラジカル自発光強度IC2を変数とする関数である数式7に基づいて空気比λを求めていた。
【数7】

…(数式7)
しかし、かかる数式7は、入力熱量が一定の条件下では成り立つが、入力熱量が不明な状態で、空気比を一意に特定することができなかった。
【0049】
図5は、数式7による空気比の推定結果を説明するための説明図である。例えば、本実施形態の対象となるパイロットバーナ2において、図5(a)に示すように、5つの空気比(0.30、0.40、0.50、0.60、0.70)と、5つの入力熱量(3.07kW、3.45kW、3.84kW、4.22kW、4.61kW)とを掛け合わせた5×5=25通りの組み合わせによって火炎を生じさせ、CHラジカル自発光強度ICHとCラジカル自発光強度IC2を検出し、図5(b)の如く、指標IC2/ICHのピーク比を導出した。
【0050】
数式7によると、空気比λは、指標IC2/ICHによって一意に決まる。したがって、指標IC2/ICHが固定値を示せば、空気比λも固定値になるはずである。しかし、図5(b)において、例えば、指標IC2/ICH=1.4の位置には、入力熱量に応じて、空気比が0.5、0.6、0.7の3つの値を取り得る。即ち、指標IC2/ICHが固定値であっても、その指標IC2/ICHからは空気比λを特定できないことが理解できる。
【0051】
これに対し、本実施形態における燃焼状態診断装置100では、以下のような効果を得ることができる。ここでは、パイロットバーナ2の火炎に対する空気比λと入力熱量Eとを別途の手段で客観的に求め、そのときの火炎光における5つの発光強度を測定し、数式3に相当する数式8、および、数式4に相当する数式9を予め導出している。
【数8】

…(数式8)
【数9】

…(数式9)
そして、数式8および数式9に基づき、空気比λと入力熱量Eをそれぞれ様々な組み合わせで変化させたときの第1指標と第2指標の値をとり、それぞれ空気比λと入力熱量Eに関してテーブル化する。
【0052】
測定準備が整った後、従来同様、図5(a)に示した25通りの組み合わせによって火炎を生じさせ、5つの波長に対する発光強度(CHラジカル自発光強度ICH、Cラジカル自発光強度IC2、固体輻射自発光強度ISOOT、補正発光強度I、I)を測定し、第1指標と第2指標を求め、上記のテーブルを参照して数式8と数式9を矛盾無く満たす空気比λと入力熱量Eとを求める。
【0053】
図6は、本実施形態における燃焼状態診断装置100による空気比λと入力熱量Eの導出精度を示した説明図である。図6(a)では、空気比λの精度を示し、図6(b)では、入力熱量Eの精度を示している。図6(a)、(b)では、空気比λおよび入力熱量Eの実際に設定した真値と、本実施形態の燃焼状態診断装置100による推定値との誤差を把握することができる。かかる図6(a)、(b)によると、空気比λの誤差は、大凡±0.1の範囲に、入力熱量Eの誤差は、大凡±1kWの範囲に含まれることが理解できる。したがって、従来では、入力熱量によって0.2以上真値と異なる場合があったが、本実施形態の燃焼状態診断装置100では、0.1以下といったように高精度に推定することが可能となる。
【0054】
以上説明した、燃焼状態診断装置100および燃焼状態診断方法により、入力熱量Eに拘わらず、空気比λをより高精度に特定すると共に、入力熱量Eも導出することが可能となる。かかる空気比λと入力熱量Eとは、同一の2つの指標(第1指標および第2指標)から求めることができるので、第1指標および第2指標を導出しさえすれば、容易に空気比λと入力熱量Eを同時に導出することが可能となる。
【0055】
また、燃焼炉1に設置されているパイロットバーナ2の火炎状態を外付けの燃焼状態診断装置100で容易に診断できるため、新設または既設に拘わらず空気比λと入力熱量Eを高精度に推定することができ、また、構成要素が小型軽量なので携帯性にも優れ、常設または移動利用のどちらの用途にも適用することが可能である。
【0056】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0057】
例えば、上述した実施形態では、5つの発光強度(CHラジカル自発光強度ICH、Cラジカル自発光強度IC2、固体輻射自発光強度ISOOT、補正発光強度I、I)から数式5および数式6またはテーブルを用いて空気比λと入力熱量Eを一意に求める例を挙げて説明したが、かかる場合に限らず、図7に示すような、ニューラルネットワーク等様々な手段を通じて空気比λと入力熱量Eを導出してもよい。ここでは、以下の数式10および数式11を用いている。
【数10】

…(数式10)
【数11】

…(数式11)
まず、入力信号Pと教師信号Tとを用いてネットワークを構築する。即ち、重みV、WとバイアスB、Cを求める。そして、構築したネットワークを利用して入力信号Pの入力のみで出力層Rを求める。出力層Rは推定値であり、教師信号Tに近い方がよい。ここで、入力信号Pは本実施形態の指標1と指標2に相当し、また、出力層Rは空気比λと入力熱量Eに相当する。
【0058】
また、上述した実施形態においては、集光レンズ110、光ファイバ112、分光器114といった組み合わせによって発光強度測定部を構成したが、かかる場合に限らず、図8(a)のように、光ファイバ112の代わりに回折格子等の分光素子160を配し、分光された光を複数の受光素子162それぞれで受光する構成や、図8(b)のように、回折格子等の分光素子160の代わりに、特定の波長のみを反射する複数の波長フィルタ164を配し、受光素子162で受光する構成等、様々な構成を適用することができる。また、上記分光計測法のみならず、カラー撮像装置を用いた画像計測法等も用いることが可能である。
【0059】
また、コンピュータを、燃焼状態診断装置100として機能させるプログラムや当該プログラムを記録した、コンピュータで読み取り可能なフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、EPROM、EEPROM、CD、DVD、BD等の記憶媒体も提供される。ここで、プログラムは、任意の言語や記述方法にて記述されたデータ処理手段をいう。
【0060】
なお、本明細書の燃焼状態診断方法における各工程は、必ずしもフローチャートして記載された順序に沿って時系列に処理する必要はなく、並列的あるいはサブルーチンによる処理を含んでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、火炎の状態を検知することで燃焼状態を診断する燃焼状態診断装置および燃焼状態診断方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 …燃焼炉
2 …パイロットバーナ
100 …燃焼状態診断装置
110 …集光レンズ
112 …光ファイバ
114 …分光器
116 …演算ユニット
118 …表示部
130 …指標導出部
132 …空気比導出部
134 …入力熱量導出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バーナの燃焼時の火炎光を特徴付ける所定の複数の波長に対する発光強度を測定する発光強度測定部と、
前記複数の波長から選択された相異なる2つの組み合わせそれぞれにおける、発光強度の差または比に基づいて、それぞれの組み合わせに対応した2つの指標を導出する指標導出部と、
前記2つの指標に基づき、予め定められたテーブルまたは第1関数を参照して空気比を導出する空気比導出部と、
を備えることを特徴とする燃焼状態診断装置。
【請求項2】
バーナの燃焼時の火炎光を特徴付ける所定の複数の波長に対する発光強度を測定する発光強度測定部と、
前記複数の波長から選択された相異なる2つの組み合わせそれぞれにおける、発光強度の差または比に基づいて、それぞれの組み合わせに対応した2つの指標を導出する指標導出部と、
前記2つの指標に基づき、予め定められたテーブルまたは第2関数を参照して入力熱量を導出する入力熱量導出部と、
を備えることを特徴とする燃焼状態診断装置。
【請求項3】
前記火炎光は、特性が異なる複数の発光成分が混合した光であり、
前記指標導出部は、対象となる波長を形成する発光成分以外の発光成分の影響を排除して前記2つの指標を導出することを特徴とする請求項1または2に記載の燃焼状態診断装置。
【請求項4】
前記バーナは、前記火炎光を放つ火炎の直前で燃焼ガスと燃焼用空気とを混合し、混合した先混合ガスを燃焼させることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の燃焼状態診断装置。
【請求項5】
バーナの燃焼時の火炎光を特徴付ける所定の複数の波長に対する発光強度を測定し、
前記複数の波長から選択された相異なる2つの組み合わせそれぞれにおける、発光強度の差または比に基づいて、それぞれの組み合わせに対応した2つの指標を導出し、
前記2つの指標に基づき、予め定められたテーブルまたは第1関数を参照して空気比を導出することを特徴とする燃焼状態診断方法。
【請求項6】
バーナの燃焼時の火炎光を特徴付ける所定の複数の波長に対する発光強度を測定し、
前記複数の波長から選択された相異なる2つの組み合わせそれぞれにおける、発光強度の差または比に基づいて、それぞれの組み合わせに対応した2つの指標を導出し、
前記2つの指標に基づき、予め定められたテーブルまたは第2関数を参照して入力熱量を導出することを特徴とする燃焼状態診断方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図2】
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