説明

燻蒸用シート

【課題】燻蒸用シートを薄く軽量化することにより、燻蒸用シートを燻蒸作業の現場まで運ぶ場合のように人の手で様々に取り扱う際に作業が比較的容易にできるようにし、なおかつ薄く軽量でも燻蒸作業に十分な強度及びガスバリヤ性を有する燻蒸用シートを提供する。
【解決手段】燻蒸用シートは、単層構造を有し、ポリビニルアルコールのみでつくられた層で構成されている。燻蒸用シートの厚さは40μmであり、比重は1.25〜1.30である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は 燻蒸用シートに関するものである。更に詳しくは、生分解性と、対象木を燻蒸する際の殺虫効果を所要期間維持する上で十分なガスバリヤ性を備えると共に、軽量であり林地で運搬する際などの取り扱い性に優れた燻蒸用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年のマツクイムシによる松の枯死は全国的に問題になっており、松の被害を予防するために様々な対策が講じられている。松の枯死は、一般に「マツクイムシによる被害」といわれているが、実際はその殆どがマツノザイセンチュウによるものであって、それを伝播しているのがマツノマダラカミキリである。マツノマダラカミキリがマツノザイセンチュウを伝播する範囲は2〜3kmにも及ぶといわれており、伝播を防止することは容易ではない。
【0003】
松の被害の拡散を防ぐ有効な手段としては、松林に対する予防的な殺虫剤の散布、または枯死した松を伐倒して小分けし、これを林地においてシートで包んで殺虫剤で燻蒸し、材の中に残っているマツノザイセンチュウや、これを伝播するマツノマダラカミキリ及びその幼虫を殺虫する方法などがある。
【0004】
一方で、松は植物学上、遷移の途上にあり、マツノザイセンチュウが原因で松林が減少するのも、むしろそれが自然の成り行きであって、これを阻止するために上記殺虫剤の広域散布や殺虫剤による燻蒸など予防対策を様々に施すことは、周辺地域に居住する人たちへの身体的な影響や森林の動植物の生態系の破壊につながり、この問題の方が松の被害と比較してより深刻であるという指摘もある。
【0005】
とはいえ、例えば防風林としての松林の機能性を考えたときに、これが失われることは周辺地域にとって大変な問題であり、さらには、観光地における観光資源としての重要性を考えたときにも、松林の減少は周辺地域の死活問題にまで発展する可能性があり、とても無視できるものではない。
【0006】
松の被害の拡散を防ぐ有効な手段のひとつである伐倒した松材を林地において殺虫剤で燻蒸する方法においては、松材は上記したように燻蒸用のシートで包まれる。このようなシートとしては、例えば特許文献1記載のものがある。
【0007】
このシートは、生分解性樹脂に対し、紫外線吸収剤、無機フィラーなどを所要割合で添加した樹脂組成物でつくられたシートで、好ましくは厚さが0.05〜0.3mmのものであり、太陽光によりシートの劣化が助長されることを抑制するようにして、シートが必要以上に早く劣化または分解してガスバリヤ性がなくなってしまう問題を緩和しようとするものである。
【0008】
【特許文献1】特開2003−147096
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1記載の燻蒸用シートには次のような課題があることもわかってきた。
すなわち燻蒸作業は、伐倒した松材などに対し行われるために、その作業箇所は林地である。自動車では途中までしか入れない所が多く、たいていは伐倒用の機器とともに途中から人の手により作業箇所まで運搬されている。
しかも、シートは、作業箇所において現場の状況に合わせて切断されて使用されるが、作業箇所までは所要幅(4〜4.5m)、所要長(30m)のシートをロール状にした形態のままで運ばれている。このため、上記燻蒸用シートのように0.05〜0.3mmの厚さでは相当に重い(例えば0.1mm厚のものでは、15kg程度)ため、平坦でない斜面が多く、障害物もある林地を歩く作業者にかかる負担は大きい。
【0010】
(本発明の目的)
本発明の目的は、燻蒸用シートを薄く軽量化することにより、燻蒸用シートを燻蒸作業の現場まで運ぶ場合のように人の手で様々に取り扱う際に作業が比較的容易にできるようにし、なおかつ薄く軽量でも燻蒸作業に十分な強度及びガスバリヤ性を有する燻蒸用シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために本発明が講じた手段は次のとおりである。
本発明は、ポリビニルアルコールを含む単層構造であり、厚さが35〜45μmになるよう構成されている、燻蒸用シートである。
【0012】
ポリビニルアルコール(Poly-Vinyl Alcohol:PVA)は、親水性が強く、温水に可溶という特性を持つ合成樹脂である。一般的には、接着剤、バインダーとして利用されるほか、その強い親水性を生かして、界面活性剤としても利用されている。また、生分解性を有し、良好なガスバリヤ性も有している。燻蒸用シートは、ポリビニルアルコールのみでつくられていてもよいし、他の合成樹脂などと混合してもよい。
【0013】
シートの厚さが35μmに満たない場合は、引き裂き強度や突き刺し強度など、全体的な強度が十分に確保できなくなる傾向がある。
シートの厚さが45μmを超える場合は、人の手で運搬するときなど、重く取り扱いがしにくく、作業者に大きな負担がかかる傾向がある。
【0014】
なお、燻蒸用シートは、ポリビニルアルコールの層を含む複層(例えば二層、三層、四層あるいはそれ以上の数の層)につくることも可能である。その場合は、ポリビニルアルコールの層以外の層は必ずしもガスバリヤ性を有する必要はないが、少なくとも必要十分な強度と生分解性を有するものが採用される。また、全体の厚さについては軽量化のため35〜45μmに設定するのが好ましい。
【0015】
(作用)
本発明に係る燻蒸用シートの作用を説明する。
燻蒸用シートを林地の燻蒸作業の現場まで運搬する。多くの場合、途中まで自動車で運び、その後はチェーンソーなど伐倒用の機器とともに人の手により運搬する。
燻蒸用シートは、厚さが35〜45μmに設定されているので、従来のものより薄く軽量であるので、運搬を含む様々な取り扱いが比較的容易にでき、伐倒用の機器とともに運搬する場合も、作業者にかかる負担を軽減することができる。
【0016】
また、燻蒸用シートは、良好なガスバリヤ性を有するポリビニルアルコールを含んで単層につくられている。これにより、枯死した松を伐倒して小分けし、林地において燻蒸用シートで包んで殺虫剤で燻蒸する際の殺虫効果を必要な期間(例えば二週間程度)維持することができる。さらに、有害物質を含む燻蒸用の殺虫剤が周囲へ拡散することを防ぎ、周辺に居住する人たちへ身体的な影響を及ぼすことや森林の動植物の生態系の破壊などを防止または軽減することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、燻蒸用シートを薄く軽量化することにより、燻蒸用シートを燻蒸作業の現場まで運ぶ場合のように、人の手で様々に取り扱う際に作業が比較的容易にでき、なおかつ薄く軽量でも燻蒸作業に十分な強度及びガスバリヤ性を有する燻蒸用シートを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明を図に示した実施例に基づき詳細に説明する。
【実施例】
【0019】
本発明に係る燻蒸用シートは、単層構造を有し、ポリビニルアルコールのみでつくられた層で構成されている。燻蒸用シートの厚さは40μmである。
また、燻蒸用シートの比重は1.25〜1.30であり、4m幅、30m長のものをロール状にしたもの(一般的な製品形態)の重さが約8kgである。
【0020】
(実験1)
本発明に係る燻蒸用シートを使用してガスバリヤ性に関して性能試験を実施した。
比較対象として、マツクイムシの駆除に使用できるものとして一般に市販されている燻蒸用のシートA、シートBを使用し、本発明に係る燻蒸用シートと同じ条件下で性能試験を実施した。
【0021】
【表1】

【0022】
(試料)
(1) 本願シート:ポリビニルアルコール(PVA) 40μm 比重:1.25〜1.30
(2) シートA:ポリエチレン(PE) 90μm 比重:0.91〜0.96
(3) シートB:ポリブチレンアジペート・テレフタレート(PBAT)
90μm 比重:1.28〜1.30
使用薬剤(MITC:メチルイソチオシアネート)
【0023】
(試験方法)
MITC 0.1gをテフロン(登録商標)製の皿に入れ、上部が開口した試験容器の投入層に設置後、試料(本願シート、シートA、シートB)をグリースでシールして試験容器の開口部を塞ぎ、円環状で板状の封止体を乗せて試験容器にセットした。試験容器は、排気ダクトを備えた実験室に室温で静置した。所要時間(試験時間)経過後、投入層のMITC濃度を水素炎イオン化検出器付ガスクロマトグラフで測定した。
【0024】
(水素炎イオン化検出器付ガスクロマトグラフ(GC/FID)の分析条件)
測定装置:Hewlett Packard 製 HP5890
カラム:G-250 20m×1.2mmφ 膜厚 1μm
カラム温度:50℃
注入口温度:200℃
検出器温度:200℃
キャリアガス:He
流量:20mL/min
注入方法:全量注入
注入量:0.05mL
検出器:水素炎イオン化検出器(FID)
【0025】
(考察)
表1から分かるとおり、本発明に係る燻蒸用シートは、二日経過後にはMITC濃度がやや低下したが、その後は7日経過後までほぼ同じ濃度が維持された。14日経過後も7日経過後の濃度の約1/3の濃度が依然として維持されていた。
これにより、一般的な燻蒸期間である二週間の間、十分な濃度での燻蒸を行うことができ、殺虫効果を維持できることが分かった。
なお、比較対象としたシートA、シートBは、本発明に係る燻蒸用シートの二倍以上の厚さを有しているにも関わらず、それぞれ一日経過後には、MITCはほとんど残留していなかった。
【0026】
(実験2)
本発明に係る燻蒸用シートを使用して引裂き強度に関して性能試験を実施した。
比較対象として、上記実験1と同様にマツクイムシの駆除に使用する市販の燻蒸用のシートA、シートBを使用し、本発明に係る燻蒸用シートと同じ条件下で性能試験を実施した。
【0027】
【表2】

【0028】
(考察)
本発明に係る燻蒸用シートは、比較対象としたシートA、シートBと比べて、1/2以下の厚さしかないのにも関わらず、引裂き強度については、ほぼ同等(対シートA)か、それ以上(対シートB)の強度があることが分かった。
【0029】
(実験3)
本発明に係る燻蒸用シートを使用して、燻蒸後のマツノザイセンチュウに対する殺虫効果に関して性能試験を実施した。本試験においては、枯死した松を伐倒し、これらを適当な長さに切断して試料AないしO(計15本)をつくった。
そして、これらを3グループ(G1、G2、G3)に分け、グループG1については一週間燻蒸後、グループG2については二週間燻蒸後、グループG3については三週間燻蒸後のそれぞれの殺虫結果を調べた。
【0030】
試験場所:秋田県山本郡山本町
使用薬剤:NCS(ヤシマ産業株式会社)
【0031】
【表3】

【0032】
【表4】

【0033】
【表5】

【0034】
(考察)
本発明に係る燻蒸用シートは、表3ないし表5から分かるように、すべての試料で100%の駆除率を示し、極めて良好な殺虫効果が認められた。また、グループG1では、一週間の燻蒸期間でも100%の駆除率であったことから、燻蒸期間以外の条件はグループG1とほぼ同等であるグループG2、G3も一週間の燻蒸期間で十分な殺虫効果があることが推測できる。さらに、この結果には、本発明に係る燻蒸用シートの十分なガスバリヤ性が大きく寄与していることが推測できる。
【0035】
なお、燻蒸用シートは、三週間経過後も目に見える程の劣化や破れはなかったが、ポリビニルアルコール自体の生分解性は認められており、経年により環境衛生上問題のない生分解性を発揮できることは想定できる。
【0036】
また、燻蒸用シートの比重は1.25〜1.30であり、4m幅、30m長のものをロール状にしたものの重さは約8kgである。これに対し、比較対象である上記シートA、シートBの同様のものの重さは約15kgである。
したがって、燻蒸用シートはシートA、シートBと比較して約1/2の重さであり、作業者が伐倒用の機器と一緒に林地を歩いて運搬した際も比較的容易に取り扱うことができたので、作業者にとって大きな負担は感じられなかった。
【0037】
なお、本明細書で使用している用語と表現は、あくまで説明上のものであって限定的なものではなく、上記用語、表現と等価の用語、表現を除外するものではない。また、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、技術思想の範囲内において種々の変形が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコールを含む単層構造であり、厚さが35〜45μmになるよう構成されている、
燻蒸用シート。

【公開番号】特開2007−321129(P2007−321129A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−156430(P2006−156430)
【出願日】平成18年6月5日(2006.6.5)
【出願人】(304021325)CROSSEED株式会社 (6)
【出願人】(599099526)株式会社光和 (9)
【Fターム(参考)】