説明

爆破処理容器の余寿命予測装置、余寿命予測方法、及び爆破処理施設

【課題】 有害物質又は爆発物を内部で爆破処理するための爆破チャンバ10の余寿命を適切に予測できる余寿命予測方法を提供する。
【解決手段】 前記爆破チャンバ10に歪ゲージ30を設置し、1回の爆破処理ごとに、爆破チャンバ10に生じる高周波の繰返し歪を測定する。そして、1回の爆破処理において前記歪ゲージ30で得られた歪波形データを解析することにより、当該処理回における爆破処理によって前記爆破チャンバ10に生じる高周波での繰返し負荷による累積疲労損傷度を算出する。その上で、爆破チャンバ10の使用開始時からの前記累積疲労損傷度の累計値を基に、爆破チャンバ10の余寿命を予測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有害物質又は爆発物を内部で爆破処理する爆破処理容器の余寿命を予測する装置及び方法に関し、更には、その余寿命予測装置を備える爆破処理施設に関する。
【背景技術】
【0002】
化学兵器等(例えば、銃弾、爆弾、地雷、機雷)の軍事用の弾薬の構成としては、鋼製の弾殻の内部に、炸薬と、人体に有害な化学剤が充填されたものが知られている。化学剤の例としては、人体に有害なマスタードやルイサイト等である。
【0003】
そして、このような化学兵器や、有機ハロゲン等の有害物質の処理・無害化の一つの方法として、爆破による処理方法が知られている。軍事用弾薬の爆破による処理は、解体作業が不要であることから、保存状態が良好な弾薬のみならず、経年劣化・変形などにより解体が困難になった弾薬も処理可能であり、また、爆発に基づく超高温・超高圧によって化学剤のほとんど全てを分解できる利点がある。このような処理方法は、例えば特許文献1に開示されている。
【0004】
この爆破処理は、化学剤の外部漏洩防止の観点や、爆破処理による音や振動などの環境への影響を低減する観点から、密閉された耐圧容器(爆破処理容器)内で行うことが多く行われている。また、耐圧容器の内部を真空引きした状態で爆破処理を行い、処理後も耐圧容器内を負圧に保つこととすると、化学剤の外部漏洩を確実に防止できる利点がある。
【特許文献1】特開平7−208899号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1のような方法で爆破処理する場合、処理対象物たる化学爆弾を爆破することに伴って爆破処理容器は強い衝撃的な負荷を受ける。この点、爆破処理容器は一般に、爆破処理によって塑性変形や破壊を起こさないように、強固な金属材料で製作され、衝撃に耐える構造となるよう設計されている。しかしそれでも、爆破処理が繰返し行われることによって、爆破処理容器の金属疲労が蓄積(疲労損傷度が累積)し、遂には、累積された疲労損傷度が構成材固有の限界値に達すると亀裂が発生して、破壊に至ることになる。このため、共通の爆破処理容器を用いながら複数回爆破処理を行うにあたっては、当該爆破処理容器の金属疲労の進行の程度を常時把握していることが必要になる。
【0006】
しかしながら、通常の圧力容器では作用圧力が静的であり、圧力の大きさは時間あるいは日単位という緩慢な周期で変化するに過ぎないのに対し、上記のような爆破処理に用いられる爆破処理容器では、容器に作用する負荷は動的で、爆発に基づく非常に強大かつ衝撃的(瞬間的)なものであって、それによる疲労現象が十分に解明されていなかった。また、疲労現象の解明のために構造に加わっている負荷を把握するためには、一般に歪測定が用いられるが、歪が最も大きくなる部位は、形状が複雑で歪測定装置の設置が困難な場所であることが多く、また、応力集中等のために歪分布が局部的に且つ急激に変化するために、測定位置の僅かなズレが大きな測定結果の誤差をもたらす。従って、歪が最も大きくなる部位の寿命を正確に測定することは、従来、現実的に困難とされていた。
【0007】
このため、爆破処理施設の運営にあたっては、爆破処理容器の余寿命の予測の立たない状態での運転を強いられており、スケジュール管理が非常に困難であった。また、運転管理上、頻繁に処理を中断して保守点検を行ったり、あるいは、亀裂の発生など金属疲労による破壊の予兆を発見するために、種々の非破壊検査方法などを用いて爆破処理容器を検査したりしていた。従って、爆破処理施設の処理能力が相当に低下し、ランニングコストが上昇していたのである。
【0008】
なお、近時、日本国政府は化学兵器禁止条約に批准し、旧日本軍によって中国に遺棄された化学兵器を廃棄する条約上の義務を負うことになった。内閣府遺棄化学兵器処理担当室が平成14年10月に発表した「中国における旧日本軍遺棄化学兵器処理事業の概要」では、中国各地に各種の遺棄化学兵器が約70万発存在するものと推定され、その処理施設の設計に当たっては、3年間で70万発の処理を行うことを想定し、1時間に120発程度の処理能力を有するように考慮すべきとしている。従って、爆破処理施設の処理能力を向上させることは、近年、重要な課題として認識されてきているのである。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0009】
そこで、発明者らは爆破処理によって爆破処理容器に加わる負荷を精査するために、爆破処理時に爆破処理容器に発生する歪の高精度な測定と解析手法の検討を行い、これによって爆破処理容器の疲労損傷を予測することに成功し、本発明に至ったものである。以下、この課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0010】
◆本発明の第1の観点によれば、有害物質又は爆発物を内部で爆破処理するための爆破処理容器の余寿命予測装置であって、1回の爆破処理ごとに前記爆破処理容器の疲労損傷度を定量的に評価することにより、当該爆破処理容器の余寿命を予測する、余寿命予測装置が提供される。
【0011】
これにより、爆破処理容器の余寿命を常時予測しながら運転することが可能になるので、適切な運転スケジュールを立案することが極めて容易になり、処理能力の低下やランニングコストの上昇を回避できる。
【0012】
◆前記の爆破処理容器の余寿命予測装置においては、以下のように構成することが好ましい。前記爆破処理容器に設置され、爆破処理容器に生じる高周波の繰返し歪を1回の爆破処理ごとに測定する歪測定装置と、前記1回の爆破処理において前記歪測定装置で得られた歪波形データを解析することにより、当該処理回における爆破処理によって前記爆破処理容器に生じる高周波での繰返し負荷による累積疲労損傷度を算出する、累積疲労算出手段と、前記累積疲労損傷度の使用開始時からの累計値を記憶する累計値記憶手段と、を備える。
【0013】
これにより、1回ごとの爆破処理の条件(例えば、爆薬量)が異なっても、正確に爆破処理容器の余寿命を予測することができる。
【0014】
◆前記の爆破処理容器の余寿命予測装置においては、前記累積疲労算出手段は、前記1回の爆破処理において前記歪測定装置で得られた歪波形データから、歪振幅の大きさを取得し、爆破処理容器の構成材料の疲労曲線と比較することにより、それぞれの振幅の歪がもたらす疲労損傷度を計算し、それらを合計することによって当該処理回における累積疲労損傷度を算出することが好ましい。
【0015】
これにより、累積疲労損傷度を適切に算出でき、正確に余寿命を予測することができる。
【0016】
◆前記の爆破処理容器の余寿命予測装置においては、以下のように構成することが好ましい。前記歪測定装置が取り付けられている部位の歪の大きさと、その取付箇所以外の特定部位との歪の大きさの相関関係を記憶しておく記憶手段を備える。前記累積疲労算出手段は、前記歪測定装置の波形データから、前記の記憶手段に記憶された相関関係に基づいて、前記特定部位の歪を算出して、当該特定部位の累積疲労損傷度を算出する。
【0017】
これにより、歪測定装置による特定部位の歪の測定が困難な場合でも、それとは別の、歪を正確に測定することが容易な場所に歪測定装置を取り付け、上記の相関関係に基づいて、前記特定部位での累積疲労損傷度を適切に算出することができる。従って、簡素な構成にすることができる。
【0018】
◆前記の爆破処理容器の余寿命予測装置においては、前記歪測定装置は前記特定部位の近傍に取り付けられることが好ましい。
【0019】
これにより、特定部位の歪ないし累積疲労損傷度をより精度良く算出できる。
【0020】
◆前記の爆破処理容器の余寿命予測装置においては、1回の爆破処理ごとに余寿命の予測値を出力可能な出力手段を備えることが好ましい。
【0021】
これにより、1回の爆破ごとに余寿命が出力されるので、オペレータは余寿命を常時把握しながら運転管理を行うことができる。
【0022】
◆本発明の第2の観点によれば、前記の爆破処理容器と、前記の余寿命予測装置とを備えることを特徴とする、爆破処理施設が提供される。
【0023】
これにより、運転スケジュールの立案が容易で、施設の処理能力を効率よく発揮させることができる。また、ランニングコストの低い処理施設とすることができる。
【0024】
◆本発明の第3の観点によれば、有害物質又は爆発物を内部で爆破処理するための爆破処理容器の余寿命予測方法であって、1回の爆破処理ごとに前記爆破処理容器の疲労損傷度を定量的に評価することにより、当該爆破処理容器の余寿命を予測する、余寿命予測方法が提供される。
【0025】
これにより、爆破処理容器の余寿命を常時予測しながら運転することが可能になるので、適切な運転スケジュールを立案することが極めて容易になり、処理能力の低下やランニングコストの上昇を回避できる。
【0026】
◆前記の爆破処理容器の余寿命予測方法においては、以下のように行うことが好ましい。前記爆破処理容器に設置した歪測定装置により、1回の爆破処理ごとに、爆破処理容器に生じる高周波の繰返し歪を測定する。前記1回の爆破処理において前記歪測定装置で得られた歪波形データを解析することにより、当該処理回における爆破処理によって前記爆破処理容器に生じる高周波での繰返し負荷による累積疲労損傷度を算出する。前記累積疲労損傷度の使用開始時からの累計値に基づき、爆破処理容器の余寿命を予測する。
【0027】
これにより、1回ごとの爆破処理の条件(例えば、爆薬量)が異なっても、正確に爆破処理容器の余寿命を予測することができる。
【0028】
◆前記の爆破処理容器の余寿命予測方法においては、前記1回の爆破処理において前記歪測定装置で得られた歪波形データから、歪振幅の大きさを取得し、爆破処理容器の構成材料の疲労曲線と比較することにより、それぞれの振幅の歪がもたらす疲労損傷度を計算し、それらを合計することによって当該処理回における累積疲労損傷度を算出することが好ましい。
【0029】
これにより、累積疲労損傷度を適切に算出でき、正確に余寿命を予測することができる。
【0030】
◆前記の爆破処理容器の余寿命予測方法においては、以下のように行うことが好ましい。前記歪測定装置が取り付けられている部位の歪の大きさと、その取付箇所以外の特定部位との歪の大きさの相関関係を予め求めておく。前記歪測定装置の波形データから、前記の相関関係に基づいて前記特定部位の歪を算出して、当該特定部位の累積疲労損傷度を算出する。
【0031】
これにより、歪測定装置による特定部位の歪の測定が困難な場合でも、それとは別の、歪を正確に測定することが容易な場所に歪測定装置を取り付け、上記の相関関係に基づいて、前記特定部位での累積疲労損傷度を適切に算出することができる。従って、簡素な構成で余寿命を適切に予測できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る爆破処理施設の一実施形態について説明する。
【0033】
まず、本実施形態に係る爆破処理施設で爆破処理する爆発物の一例として、化学兵器である化学爆弾について図2に基づいて説明する。図2は、化学爆弾の概略構成を示した断面図である。
【0034】
図2に示すように、化学爆弾(爆発物)100は、弾頭110と、炸薬筒111と、爆弾殻120と、姿勢制御羽根130とから構成されている。炸薬筒111には、炸薬(爆薬)112が収容されている。弾頭110には、炸薬筒111内の炸薬112を炸裂させる信管113が内設されている。爆弾殻120は、炸薬筒111を収容する状態で弾頭110に接続され、内部に液状の化学剤(有害物質)121が充填されている。姿勢制御羽根130は、爆弾殻120の弾頭110の反対側に配設され、投下時における化学爆弾100の姿勢を制御するものである。尚、爆弾殻120の上部には、この化学爆弾100を飛行機に搭載するために、この化学爆弾100を吊り上げる吊り環140が付設されている。
【0035】
このように、処理される爆発物100は、少なくとも爆薬112と、化学剤121を有する化学爆弾の全部又は一部である。なお、爆発物として、上述の如く化学剤121が充填された状態の化学爆弾100を爆破処理する場合に限らず、爆発物として、化学爆弾を解体した後の炸薬部のみを耐圧容器内で爆破処理する場合にも適用することができる。
【0036】
上記の爆薬としては、TNT、ピクリン酸、ROX等軍事用爆薬に適用することができる。また、化学剤として、マスタード、ルイサイド等のびらん剤、DC、DA等のくしゃみ剤、ホスゲン、サリン、青酸等に適用することができる。
【0037】
なお、例示した化学爆弾100のみならず、例えば有機ハロゲン等の有害物質を容器に入れた状態で爆破処理する場合も、本実施形態の爆破処理施設で処理することが可能である。
【0038】
次に、上述の化学爆弾100等の爆発物を爆破処理する施設の一例として、屋外の爆破処理施設について図1に基づいて説明する。図1は、爆破処理施設の概略構成を示した模式図である。
【0039】
図1に示すように、爆破処理施設1は、爆破チャンバ(爆破処理容器)10と、この爆破チャンバ10を内部に収容したチャンバテント20と、を主要な構成として備えている。
【0040】
爆破チャンバ10は、鉄等により形成された防爆構造の耐圧容器であり、内部で化学爆弾100等の爆発物を爆破処理する際に、その爆圧に耐えられるように堅固に構成している。爆破チャンバ10の片側側面部には、着脱可能な耐圧蓋11が備えられている。耐圧蓋11は、本体から取り外した状態とすることで、搬送されてくる化学爆弾100等の爆発物を内部に導き入れることができる。そして、化学爆弾100等を搬入し、図示されない固定手段で爆破チャンバ10の内部に固定して、前記の耐圧蓋11を本体に取り付けると、内部が密閉状態になって、この状態で化学爆弾100等の爆発物を爆破処理するように構成されている。
【0041】
また、前記爆破チャンバ10には歪ゲージ(歪測定装置)30・30が取り付けられており、この歪ゲージ30・30は図略の高速データ取得装置に接続され、この高速データ取得装置は、図示しないコンピュータに電気的に接続されている。コンピュータの詳細な構成は図示しないが、演算手段(累積疲労算出手段)としてのCPU、記憶手段(累計値記憶手段)としてのROMやRAMやハードディスクドライブ、出力手段としてのディスプレイやプリンタ等を備えている。
【0042】
爆破チャンバ10の上部には、複数の注入口12が備えられている。これらの注入口12は、爆破処理前に爆破チャンバ10内に酸素を注入したり、爆破処理後の除染作業の際に爆破チャンバ10内に空気、水、洗浄剤等を注入したりすることができるように構成されている。
【0043】
また、爆破チャンバ10の上部及び耐圧蓋11の反対側の側面部には、排気口13が備えられている。排気口13は、真空ポンプ13aを用いて爆破処理前に爆破チャンバ10内からフィルタ13bを通して空気を排気して減圧状態又は真空状態にしたり、爆破処理後にベッセルベント等の槽類廃気を爆破チャンバ10内からフィルタ13cを通して排気したりすることができるように構成されている。
【0044】
更に、爆破チャンバ10の底部には、排水口14が備えられている。排水口14は、除染作業後の廃液を処理槽15に排水することができるように構成されている。
【0045】
尚、爆破チャンバ10の外部には、爆破チャンバ10内に固定された化学爆弾100等の爆発物を点火するための図示されない点火装置を備えており、遠隔操作により爆破処理が行えるようになっている。
【0046】
なお、化学爆弾100等の爆発物が万一仮に爆破チャンバ10を打ち破った場合であっても、チャンバテント20を保護できるように、爆破チャンバ10の周囲に強固な壁を設置することが好ましい。チャンバテント20には図示しないドアが備えられており、ドアを開状態にして、爆破チャンバ10や化学爆弾100等の爆発物を内部に搬入するように構成されている。また、チャンバテント20には、排気口21が備えられており、ブロア21aを用いて、チャンバテント20の内部から活性炭等のフィルタ21bを通して排気することができるように構成されている。
【0047】
このように、本実施形態では、少なくとも爆破チャンバ10を有する爆破処理施設1によって、前述の化学爆弾100の爆破処理が行われる。
【0048】
次に、この爆破処理施設1の運営に用いられる爆破チャンバ10の余寿命予測装置について説明する。この余寿命予測装置は、前述の爆破チャンバ10に取り付けられた歪ゲージ30と、その歪ゲージ30に接続される高速データ取得装置と、この高速データ取得装置のデータを取得可能な図略のコンピュータとからなる。
【0049】
この余寿命予測装置を用いた予測方法を、図3のフロー等に基づいて説明する。即ち、前述のコンピュータには、図3のフロー(少なくとも、ステップ103〜ステップ108までの処理)を実現可能なプログラムがインストールされ、記憶手段に記憶されている。
【0050】
図3のフローに従って説明すると、まずステップ101で、爆破チャンバ10の内部の所定位置で爆発が生じたときの爆破チャンバ10の歪分布を理論解析する。この理論解析(シミュレーション)は、歪ゲージ30を接続したコンピュータ上で行っても良いし、他のコンピュータで行っても構わない。例えば図4には、爆破チャンバ10の内圧が加わったときの有限要素法解析の解析結果が、上半断面図として示されている。
【0051】
その上で、上記の歪分布の解析結果から、爆破チャンバ10の部位のうち、爆破チャンバ10の寿命を代表し得るような特徴的な部位を評価点として選定する(ステップ102)。評価点の選定方法は様々であるが、爆破チャンバ10の中で最も寿命が短いと考えられる部位を評価点として選定するのが典型的である。
【0052】
なお、この評価点は、歪ゲージ30を取り付けることが可能な部位である場合もあるし、不可能な場合もある。このように評価点に歪ゲージ30を取り付けることが不可能な場合等、正確な測定が困難な場合は、歪ゲージ30を評価点の近傍の取付可能な部位に取り付けるとともに、その歪ゲージ30の取付部位の歪と評価点の部位の歪との相関関係を、前記の理論解析等により予め求め、コンピュータのRAM等の記憶手段に予め記憶させておく。
【0053】
次に、実際に図1のように化学爆弾100を爆破チャンバ10内の所定の場所に設置し、爆破処理を行う(ステップ103)。この爆破処理にあたっては、図示しない高速データ取得装置を用いて、前記歪ゲージ30から出力される歪波形データを取得して記録する。この高速データ取得装置は、本実施形態では、ミリsec以下の周期でサンプリング・測定が可能なものを用いている。高速データ取得装置で得られた歪波形データは、例えば図5に示すような高周波での繰返し歪波形とされ、これがコンピュータに送信される。
【0054】
次にコンピュータは、得られた歪波形について、直ちにノイズ除去などの前処理を行う(ステップ104)。この結果、図5の波形データが図6のように整形される。なお、この前処理は、当初からノイズの少ないデータが得られている場合等は、省略しても構わない。また、この前処理は、コンピュータ側でなく、高速データ取得装置側で行っても構わない。
【0055】
次にコンピュータは、得られた歪波形を解析し、前記評価点での、振動している歪の一つ一つの歪振幅(εa)の大きさを取得する(ステップ105)。なお、評価点と異なる部位に歪ゲージ30が取り付けられている場合は、歪ゲージ30が取得した歪の値から評価点での歪を、ステップ102の説明の部分で前述した相関関係に基づいて求めた上で、同様に一つ一つの歪振幅の大きさを計測すれば良い。
【0056】
次のステップ106では、コンピュータは、それぞれの歪振幅εaに対して材料の疲労曲線(予めコンピュータに記憶させておく)から求まる許容回数N(εa)から、その歪振幅εaの疲労損傷度を算出するとともに、すべての歪振幅に対する疲労損傷度の総和として、今回の処理回における累積疲労損傷度を算出する。
【0057】
次に、コンピュータのRAM等(累計値記憶手段)に記憶されている累計値に、ステップ106での累積疲労損傷度を加算して、再記憶する(ステップ107)。更に、この累計値から、爆破チャンバ10の余寿命を計算し、ディスプレイ等に出力する(ステップ108)。
【0058】
本実施形態の余寿命予測装置では、以上のステップS103〜S108の処理が1回の爆破処理ごとにコンピュータ上で行われる結果、ディスプレイには、1回の爆破処理ごとに、余寿命が徐々に減少しながら表示されることになる。これにより、検査時期などのスケジュール管理や、爆破チャンバ10の交換時期の予測を容易に行うことができる。なお、爆破チャンバ10を交換するときは、それに伴って前述の累計値の値をゼロにリセットする。
【0059】
上記の余寿命予測装置で予測された余寿命をグラフで示した例を図7に示す。図7のグラフにおいて、縦軸は余寿命で、使用開始前の新品の状態を余寿命=1、寿命が尽きるときを余寿命=0とし、横軸は爆破処理回数としている。予測される余寿命は、爆破処理回数を重ねるにつれ徐々に減少する、右下がりの傾向を示している。このグラフでは各回ごとの爆薬の使用量が一定でない場合の例を示したが、それに伴って、余寿命の減少の度合いも各回ごとに異なっている。なお、爆薬量が大きく爆破容器への負荷が大きかった回が、余寿命が相対的に大きく減少していることは言うまでもない。
【0060】
なお、上記の図7のグラフでは余寿命が1.0000から始まっていない曲線があるが、これは、コンピュータによる余寿命予測前にも相当程度の回数の爆破処理を行った爆破チャンバ10について示したものであって、その間の疲労による寿命減少分を別途計算して、前述の累積疲労損傷の累計値(ステップS107)に最初から反映させたためである。
【0061】
以上に説明したように、本実施形態の爆破処理施設1では、1回の爆破処理ごとに前記爆破チャンバ10の疲労損傷度を定量的に評価することにより、当該爆破チャンバの余寿命を予測するように構成されている。これにより、爆破チャンバ10の余寿命を常時予測しながら運転することが可能になるので、適切な運転スケジュールを立案することが極めて容易になり、処理能力の低下やランニングコストの上昇を回避できる。
【0062】
また、本実施形態の余寿命予測装置は、前記爆破チャンバ10に設置され、当該爆破チャンバ10に生じる高周波の繰返し歪を1回の爆破処理ごとに測定する歪ゲージ30と、コンピュータとを備える。そしてこのコンピュータは、前記1回の爆破処理において前記歪ゲージ30で得られた歪波形データを解析することにより、当該処理回における爆破処理によって前記爆破チャンバ10に生じる高周波での繰返し負荷による累積疲労損傷度を算出するとともに、前記累積疲労損傷度の使用開始時からの累計値を計算して再記憶する(ステップ103〜ステップ107)。これにより、1回ごとの爆破処理の条件(例えば、爆薬量)が異なっても、正確に余寿命を予測することができる。
【0063】
また、前述のコンピュータは、前記1回の爆破処理において前記歪ゲージ30で得られた前記歪測定装置で得られた歪波形データから、一つ一つの歪振幅εaの大きさを取得し、爆破チャンバ10の構成材料の疲労曲線と比較することにより、それぞれの振幅の歪がもたらす疲労損傷度を計算し、それらを合計することによって当該処理回における累積疲労損傷度を算出している(ステップ105、ステップ106)。従って、累積疲労損傷度を適切に算出でき、正確に余寿命を予測することができる。
【0064】
また、前述のコンピュータは、評価点の部位(特定部位)に歪ゲージ30を取り付けることができない場合に、前記歪ゲージ30が取り付けられる部位の歪の大きさと、評価点の歪の大きさの相関関係を記憶しておく、RAM等の記憶手段を備える。そして、歪ゲージ30の波形データから、前記の記憶された相関関係に基づいて評価点の歪を算出して、当該評価点の累積疲労損傷度を算出するようになっている。従って、簡素な構成で、評価点での累積疲労損傷度を適切に算出することができる。特に、前記歪ゲージ30が評価点の近傍に取り付けられていると、評価点の歪を精度よく算出できる。
【0065】
また、本実施形態の余寿命予測装置においては、1回の爆破処理ごとに、余寿命をステップ103〜ステップ108に従って定量的に予測し、その予測結果を直ちにディスプレイに出力するように構成している(図3のステップ108)。従って、1回の爆破ごとに余寿命が直ちに再計算され表示されるので、オペレータは余寿命を常時把握しながら運転管理を行うことができる。
【0066】
なお、余寿命の表し方は、0〜1の数値で表すことに限定されず、例えば0〜100%等のように表されても良い。また、ディスプレイへの余寿命の表示は、数値で表しても良いし、棒グラフ等により視覚的に表しても良い。また、1回の爆破処理ごとにプリンタで余寿命をプリントするように構成しても良い。
【0067】
また、例示した化学爆弾100のみならず、例えば有機ハロゲン等の有害物質を容器に入れた状態で爆破処理する場合も、爆破チャンバ10に対し上記実施形態の余寿命予測装置を適用することが可能である。また、上記の実施形態では屋外の爆破処理施設(図1)を説明したが、この場合に限定されず、爆発物を密閉した爆破チャンバを地下に埋設した状態で爆破処理を行う場合についても本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の一実施形態に係る爆破処理施設の全体的な構成を示した模式図。
【図2】化学爆弾の概略構成を示す断面図。
【図3】本実施形態の余寿命予測装置を使用した爆破チャンバの管理方法を示すフロー図。
【図4】爆破チャンバの歪分布の解析例を示す説明図。
【図5】歪ゲージで実際に測定された歪データのグラフ図。
【図6】ノイズ除去処理を施された歪データのグラフ図。
【図7】爆破処理回数と予測された余寿命との関係を表すグラフ図。
【符号の説明】
【0069】
1 爆破処理施設
10 爆破チャンバ(爆破処理容器)
30 歪ゲージ(歪測定装置)
100 化学爆弾(爆発物、処理対象物)
121 化学剤(有害物質)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有害物質又は爆発物を内部で爆破処理するための爆破処理容器の余寿命予測装置であって、
1回の爆破処理ごとに前記爆破処理容器の疲労損傷度を定量的に評価することにより、当該爆破処理容器の余寿命を予測することを特徴とする、爆破処理容器の余寿命予測装置。
【請求項2】
請求項1に記載の爆破処理容器の余寿命予測装置であって、
前記爆破処理容器に設置され、爆破処理容器に生じる高周波の繰返し歪を1回の爆破処理ごとに測定する歪測定装置と、
前記1回の爆破処理において前記歪測定装置で得られた歪波形データを解析することにより、当該処理回における爆破処理によって前記爆破処理容器に生じる高周波での繰返し負荷による累積疲労損傷度を算出する、累積疲労算出手段と、
前記累積疲労損傷度の使用開始時からの累計値を記憶する累計値記憶手段と、
を備えることを特徴とする、爆破処理容器の余寿命予測装置。
【請求項3】
請求項2に記載の爆破処理容器の余寿命予測装置であって、
前記累積疲労算出手段は、前記1回の爆破処理において前記歪測定装置で得られた歪波形データから、歪振幅の大きさを取得し、爆破処理容器の構成材料の疲労曲線と比較することにより、それぞれの振幅の歪がもたらす疲労損傷度を計算し、それらを合計することによって当該処理回における累積疲労損傷度を算出することを特徴とする、爆破処理容器の余寿命予測装置。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の爆破処理容器の余寿命予測装置であって、
前記歪測定装置が取り付けられている部位の歪の大きさと、その取付箇所以外の特定部位との歪の大きさの相関関係を記憶しておく記憶手段を備え、
前記累積疲労算出手段は、前記歪測定装置の波形データから、前記の記憶手段に記憶された相関関係に基づいて前記特定部位の歪を算出して、当該特定部位の累積疲労損傷度を算出することを特徴とする、爆破処理容器の余寿命予測装置。
【請求項5】
請求項4に記載の爆破処理容器の余寿命予測装置であって、前記歪測定装置は前記特定部位の近傍に取り付けられることを特徴とする、爆破処理容器の余寿命予測装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5までの何れか一項に記載の爆破処理容器の余寿命予測装置であって、1回の爆破処理ごとに余寿命の予測値を出力可能な出力手段を備えることを特徴とする、爆破処理容器の余寿命予測装置。
【請求項7】
前記の爆破処理容器を備えるとともに、請求項1から請求項6までの何れか一項に記載の余寿命予測装置を備えることを特徴とする、爆破処理施設。
【請求項8】
有害物質又は爆発物を内部で爆破処理するための爆破処理容器の余寿命予測方法であって、
1回の爆破処理ごとに前記爆破処理容器の疲労損傷度を定量的に評価することにより、当該爆破処理容器の余寿命を予測することを特徴とする、爆破処理容器の余寿命予測方法。
【請求項9】
請求項8に記載の爆破処理容器の余寿命予測方法であって、
前記爆破処理容器に設置した歪測定装置により、1回の爆破処理ごとに、爆破処理容器に生じる高周波の繰返し歪を測定し、
前記1回の爆破処理において前記歪測定装置で得られた歪波形データを解析することにより、当該処理回における爆破処理によって前記爆破処理容器に生じる高周波での繰返し負荷による累積疲労損傷度を算出し、
前記累積疲労損傷度の使用開始時からの累計値に基づき、爆破処理容器の余寿命を予測することを特徴とする、爆破処理容器の余寿命予測方法。
【請求項10】
請求項9に記載の爆破処理容器の余寿命予測方法であって、
前記1回の爆破処理において前記歪測定装置で得られた歪波形データから、歪振幅の大きさを取得し、爆破処理容器の構成材料の疲労曲線と比較することにより、それぞれの振幅の歪がもたらす疲労損傷度を計算し、それらを合計することによって当該処理回における累積疲労損傷度を算出することを特徴とする、爆破処理容器の余寿命予測方法。
【請求項11】
請求項9又は請求項10に記載の爆破処理容器の余寿命予測方法であって、
前記歪測定装置が取り付けられている部位の歪の大きさと、その取付箇所以外の特定部位との歪の大きさの相関関係を予め求めておき、
前記歪測定装置の波形データから、前記の相関関係に基づいて前記特定部位の歪を算出して、当該特定部位の累積疲労損傷度を算出することを特徴とする、爆破処理容器の余寿命予測方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2006−292514(P2006−292514A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−112426(P2005−112426)
【出願日】平成17年4月8日(2005.4.8)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】