説明

爪ケラチン増加作用を有するテトラペプチドの製造方法

【課題】副作用が弱く、爪ケラチン増加作用を有するテトラペプチドの製造方法を提供する。
【解決手段】Cys−His−Arg−Cysの構造を持つテトラペプチドであり、いずれもL型アミノ酸であり、ペプチド結合により結合している爪ケラチン増加作用を有するテトラペプチド。また、マダラ科、タラ科、ニシン科の魚より得られる卵膜1重量に対して、ローヤルゼリー0.5〜2重量、紅麹菌0.002〜0.02重量を添加し、発酵させた発酵物に、プロテアーゼ0.03〜0.5倍量を添加し、加温する工程からなるテトラペプチドの製造方法。さらに、上記テトラペプチドの食品製剤、化粧料及び医薬品製剤の有効成分としての利用、及び上記テトラペプチドを用いた付け爪の接着剤やマニキュア剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、爪ケラチン増加作用を有するテトラペプチドの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、日本では爪の変性や割れが多発し、生活に支障をきたす場合も認められている。その原因は、高齢者による栄養失調が考えられる。
【0003】
一方、若い女性でも爪の異常が認められる。その原因は付け爪の接着剤やマニキュア剤による爪の障害である。
【0004】
そこで、爪の接着剤やマニキュア剤には安全性の高い溶剤が用いられているという問題点がある。
【0005】
さらに積極的に爪の状態を改善する方法が必要である。そこで、爪の構成成分であるケラチンの生成を増加させる工夫がなされている。
【0006】
ケラチンを利用した発明としてケラチン結合性ポリペプチドの発明があるものの、ケラチンそのものの利用であり、ケラチンの増加には関与していない。(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2008−5003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来から使用している爪の接着剤やマニキュア剤には爪のケラチンを減少させ、爪を障害させる問題点がある。
【0009】
この発明は上記のような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、副作用が弱く、優れた爪ケラチン増加作用を有するテトラペプチドを効率良く製造することができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、マダラ科、タラ科、ニシン科の魚より得られる卵膜およびローヤルゼリーに紅麹菌を添加し発酵させた発酵物にプロテアーゼを添加し、加温する工程からなるCys−His−Arg−Cysの構造を持つ爪ケラチン増加作用を有するテトラペプチドの製造方法に関するものである。
【発明の効果】
【0011】
この発明は、以上のように構成されているため、次のような効果を奏する。
【0012】
請求項1に記載の製造方法によれば、効率良くCys−His−Arg−Cysの構造を持つ爪ケラチン増加作用を有するテトラペプチドを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0014】
まず、本実施形態の爪ケラチン増加作用を有するテトラペプチドは、Cys−His−Arg−Cysの構造を持つものである。
【0015】
Cysは、L型システインである。Hisは、L型ヒスチジンである。ArgはL型アルギニンである。これらのアミノ酸はペプチド結合により結合している。ここでいう爪ケラチン増加作用とは、爪を修復させるケラチンの増殖作用のことである。このCys−His−Arg−Cysからなるテトラペプチドは爪のケラチン生成酵素を活性化し、爪のケラチンを増加させる。
【0016】
このテトラペプチドは水溶性であることから、溶解性が高く、爪組織に浸透しやすく、爪組織のケラチンを増加させ、爪の修復が可能となる。このテトラペプチドは、付け爪用の接着剤やマニキュア剤として使用することにより、爪ケラチンの増加をもたらして爪を増強する。
【0017】
また、従来から利用されている爪接着剤やマニキュア剤に混ぜて使用することにより、従来の爪接着剤やマニキュアによる爪の障害を抑制し、爪の健康状態を改善することができる。
【0018】
医薬品として経口剤又は非経口剤として利用され、医薬部外品としては、錠剤、カプセル剤、ドリンク剤、石鹸、歯磨き粉等に配合されて利用される。
【0019】
経口剤としては、錠剤、カプセル剤、散剤、シロップ剤、ドリンク剤等が挙げられる。前記の錠剤及びカプセル剤に混和される場合には、結合剤、賦形剤、膨化剤、滑沢剤、甘味剤、香味剤等とともに用いることができる。
【0020】
前記の錠剤は、シェラック又は砂糖で被覆することもできる。また、前記のカプセル剤の場合には、上記の材料にさらに油脂等の液体担体を含有させることができる。前記のシロップ剤及びドリンク剤の場合には、甘味剤、防腐剤、色素香味剤等を含有させることができる。
【0021】
このテトラペプチドを含有する化粧料としては、爪用の化粧品やマニキュア剤として爪の増強に用いることができ、さらに、毛髪の育毛剤としても利用することができる。
【0022】
さらに、軟らかい素材でできた付け爪の接着剤として用いることは、軟らかい素材でできた付け爪が爪の形状に適合し、ケラチンの合成が促進できることから、好ましい。こうすることにより、爪のケラチン形成がより高められることから、より好ましい。
【0023】
加えて、前記のテトラペプチドには、粘着作用があることから、付け爪の接着剤として用いる場合には、接着性が増し、合成の接着剤の量を減らすことができる点から、さらに好ましい。
【0024】
このテトラペプチドの製造方法とはマダラ科、タラ科、ニシン科の魚より得られる卵膜およびローヤルゼリーに紅麹菌を添加し発酵させた発酵物にプロテアーゼを添加し、加温する工程からなる。
【0025】
原料として用いる卵膜とはマダラ科、タラ科、ニシン科のいずれかの魚より得られた卵膜である。原料の産地は、いずれの国でも、良い。新鮮であることから、日本近郊で採取されることが好ましい。
【0026】
マダラ科の魚として、マダラ学名Godus macrocephalusは、漁獲量が豊富であり、卵としてマダラコを採取し、食用として摂取しており、マダラコの卵膜の安全性も確認されていることから、好ましい。
【0027】
タラ科の魚として、スケトウダラ、コマイ、タラが用いられる。このうち、スケトウダラ学名Theragra chalcogrammaは、漁獲量が豊富であり、卵としてタラコを採取し、食用として摂取しており、タラコの卵膜の安全性も確認されていることから、好ましい。
【0028】
ニシン科の魚には、ニシン学名Clupea pallasiiが用いられ、漁獲量が豊富であり、卵としてカズノコを採取し、食用として摂取しており、カズノコの卵膜の安全性も確認されていることから、好ましい。
【0029】
捕獲された魚は凍結保存又は低温保存された後に、解凍して解体された卵膜も用いることができる。
【0030】
卵膜は、血液や付着物を除去され、清浄な水又は海水で洗浄される。洗浄が不足の場合、次のプロテアーゼによる分解工程の効率が低下するおそれがある。
【0031】
卵膜は、採取されてから、凍結又は低温で保存されるのが好ましい。大量に収穫される場合、凍結保存が好ましい。
【0032】
製造工程の効率が良いことから、卵膜を粉砕機などで粉砕されることは好ましく、粉砕物の大きさは、10〜10000μmが好ましい。
【0033】
また、原料として用いられるローヤルゼリーとは、蜂の生産するたんぱく質と脂質に富む栄養素である。
【0034】
日本、中国などのアジア諸国、ドイツなどのヨーロッパ諸国、アメリカ、ブラジルなどのアメリカ大陸諸国、オーストラリア、ニュ−ジーランドで採取されたいずれのものでも好ましく、凍結乾燥、低温乾燥により粉末にしたものが好ましい。
【0035】
また、タンパク質をエタノールにより沈殿させたローヤルゼリータンパク質を凍結乾燥により乾燥させたものも好ましい。
【0036】
ローヤルゼリー粉末は、タラ卵膜とともにテトラペプチドの供給元となり、さらに、納豆キナーゼの働きを助けることから、好ましい。
【0037】
卵膜1重量に対してローヤルゼリーは0.5〜2重量が安定してテトラペプチドを得ることができるために好ましい。
【0038】
発酵に用いる紅麹菌とは、食用にも用いられる安全性の高い有用な食用菌であり、沖縄や鹿児島などの日本産、中国や台湾の東南アジア原産の菌種が用いられる。
【0039】
このうち、紅麹本舗の製造である中国原産で学名Monascaceaeである紅麹菌が高い反応性を呈することから好ましい。この紅麹菌により、米糠の成分と大豆成分の両成分を同時に発酵させる条件が整えられる。
【0040】
前記の発酵に関するそれぞれの添加量は、卵膜1重量に対して紅麹菌は0.002〜0.02重量が好ましい。
【0041】
紅麹菌は発酵される前に、前培養することは、発酵の初発時間を短縮し、発酵時間が短縮されることから好ましい。
【0042】
前記の発酵は清浄な培養用タンクで実施され、滅菌された水道水により前記の材料を混合することは好ましい。
【0043】
また、この発酵は、38〜51℃に加温され、発酵は、1日間から14日間行われる。
【0044】
発酵後に、抽出を効率良く実施するために、滅菌した水道水で希釈される。
【0045】
前記の発酵により生成された発酵物は35〜40℃の含水エタノールで抽出されることは、生成物を効率良く回収でき、次の工程が実施しやすいことから、好ましい。
【0046】
発酵された発酵物はプロテアーゼにより処理される。
【0047】
ここでプ用いるロテアーゼは、中性、酸性、塩基性プロテアーゼのいずれでも用いられ、酸性、塩基性プロテアーゼに比して中和工程の手間を省くため、中性プロテアーゼが好ましい。
【0048】
前記の中性プロテアーゼとしては、熱に対する安定性の点から、プロテアーゼA、プロテアーゼN、プロテアーゼM、スミチームFP、スミチームLP、デナチームAPが好ましく、特に、処理能力が高い点から、天野エンザイム製プロテアーゼN、スミチームLPがより好ましい。これらのプロテアーゼは、組み合わせて用いることもできる。
【0049】
前記のプロテアーゼの添加量は、卵膜1重量に対して、0.01〜0.1倍量が好ましく、0.05〜0.04倍量がより好ましく、0.08〜0.03倍量がさらに好ましい。
【0050】
前記のプロテアーゼの添加量が0.01倍量を下回る場合、プロテアーゼ処理が十分に行われない場合があり、0.1倍量を上回る場合、プロテアーゼが高価であるため、経済的に価格が高くなるおそれがある。
【0051】
前記のプロテアーゼは、添加され、加温される。その加温温度は、30〜41℃が好ましい。この処理温度が30℃を下回る場合、プロテアーゼによる処理が進行しないおそれがある。
【0052】
また、この加温温度が41℃を上回る場合、卵膜やローヤルゼリー由来のペプチドやタンパク質が変質し、ペプチドとしての働きが低下するおそれがある。
【0053】
前記のプロテアーゼ処理は、処理の効率的な実施のため、攪拌状態で行われる。攪拌速度は、20〜100回/分が好ましく、30〜80回/分がより好ましく、30〜70回/分がさらに好ましい。
【0054】
前記のプロテアーゼで加温処理された後、ろ過される。ろ過は、ろ紙によるろ過が用いられ、時間が短縮できる点から吸引ろ過が好ましい。
【0055】
ろ過された液は、80〜95℃で、5〜20分間煮沸された後、冷却されることが好ましい。この煮沸の温度が80℃を下回る場合、プロテアーゼの不活性化が実施されないおそれがある。また、95℃を上回る場合、得られるテトラペプチドの活性が低下するおそれがある。
【0056】
前記の煮沸時間が5分間を下回る場合、プロテアーゼの不活性化が実施されないおそれがある。また、20分間を上回る場合、得られるテトラペプチドの活性が低下するおそれがある。
【0057】
前記の加熱された液は、1〜15℃に保存される。この工程は、プロテアーゼを不活性化し、消毒し、かつ、不安定な生成物を除外する目的がある。つまり、分解されない物質や不安定な物質が低温に放置された場合、析出する場合がある。これらの不溶物を除外する。
【0058】
前記の温度での放置時間は、1〜18時間が好ましく、2〜10時間がより好ましく、3〜8時間がさらに好ましい。
【0059】
前記のように、放置された後、ろ過される。ろ過は、ろ紙によるろ過が用いられ、時間が短縮できる点から吸引ろ過が好ましい。
【0060】
前記のろ過により得られたろ過液は、液体のまま、濃縮液、凍結乾燥された状態でテトラペプチドを得る。得られたテトラペプチドは、種々のペプチドの混合物である。その容量を少なし、安定性を持続する点から、凍結乾燥が好ましい。
【0061】
さらに、凍結又は低温で保管されることは、安定性を維持する点から好ましい。このようにしてテトラペプチドLys−Glu−Ileを含有する抽出物が得られる。
【0062】
さらに、テトラペプチドLys−Glu−Ileを分離し、精製することにより、高い純度のテトラペプチドLys−Glu−Ileを得ることから好ましい。上記のテトラペプチドを抽出用溶媒に混合し、抽出用溶媒に抽出された抽出物を分離用担体又は樹脂に供し、分離用溶媒により溶出させる。
【0063】
以下、前記実施形態を実施例及び試験例を用いて具体的に説明する。
【実施例1】
【0064】
日本海で収穫されたマダラを収穫後、解体し、卵膜がついたまま、タラコを採取した。このタラコより卵膜を摘出し、この卵膜を水道水にて洗浄した。この水洗された卵膜をミキサー(高速粉砕機、日本リーイング製)にて粉砕した。
【0065】
このタラ卵膜の粉砕物を清浄な50L用発酵用タンクに添加し、精製水10kgを添加した。
【0066】
さらに、中国産のローヤルゼリーの凍結乾燥品をアピ株式会社より購入して、この1kgを添加した。
【0067】
これに株式会社紅濱製の紅麹菌10gを添加し、発酵させた。発酵は、42℃で2日間行った。
【0068】
得られた発酵物に、プロテアーゼN(天野エンザイム製)45gを添加した。この混合物を39℃で2時間加温し、平均45回/分の速度で攪拌した。得られた溶液をろ紙(東洋濾紙社製、No2)でろ過し、得られたろ液を得た。
【0069】
このろ過液を92℃で、10分間煮沸し冷却した。この冷却された液を再度、前記のろ紙で濾過し、ろ液を凍結乾燥機(東洋理工製)にて凍結乾燥し、粉末29gを得た。
【0070】
前記の粉末より、爪ケラチン増加作用を有するテトラペプチドを分離し、精製した。すなわち、前記の抽出物をDEAEセルロース(和光純薬)充填カラム(3.5cm径、50cm長)を配備した装置に供し、水で洗浄後、1M塩化ナトリウム水溶液を流して分離した。
【0071】
さらに、この画分をセファロースに供し、水を流し、凍結乾燥して目的とする画分1.9gを得た。これを検体1とした。
【0072】
得られた画分について高速液体クロマトグラフィ(HPLC)に供し目的とするテトラペプチドを分析した。なお、分画の検出には、以下に記載したマウス爪細胞のケラチン量を指標とした。
【0073】
以下に、HPLC及び核磁気共鳴装置(NMR)による爪ケラチン増加作用を有するテトラペプチドの分析について説明する。
(試験例1)
【0074】
本試験では、爪ケラチン増加作用を有するテトラペプチドを解析した。すなわち、前記の実施例1で得られた検体1及びタカラバイオにより化学合成したテトラペプチドCys−His−Arg−Cysについてフォトダイオードアレイ(島津製作所製)を装着したHPLCに供して解析を行った。
【0075】
その結果、検体1には分子量300〜500の分画に、テトラペプチドが存在することが判明した。それは、化学合成されたテトラペプチドの分析結果と同一であった。
【0076】
また、検体1をCAPCELLPACKC18カラムによるHPLCを実施した。さらに、NMR(バリアン製)による解析の結果、Cys−His−Arg−Cysの構造が同定された。
【0077】
以下に、マウス由来爪細胞を用いた爪のケラチン増加作用の検出について説明する。
(試験例2)
【0078】
妊娠17日の妊娠マウスを安楽致死させ、子宮を摘出した。これより胎児を採取し、コラゲナーゼ処理により爪部分を分離した。
【0079】
前記の爪細胞10000個を35mm径のシャーレに播種し、37℃、5%炭酸ガス下で、培養液(10%ウシ胎児血清含有MEM培地)を用いて培養した。2日間培養後、前記の実施例1で得られた検体1の水溶液を0.1mg/mLの最終濃度で添加し、培養して添加48時間後の細胞数を計数した。
【0080】
その後、得られた細胞内のケラチン量をHPLC(島津製作所ClassVPシステム)により定量した。
【0081】
その結果、検体1を添加した場合、そのケラチン増殖率は、溶媒を添加した対照群に比して244%となり、ケラチンの著しい増加が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の爪ケラチンの増加作用を示すテトラペプチド及びその製造方法は、爪の障害に悩む患者のQOLを改善する。かつ、化粧品、医療分野、食品業界及び医薬品業界に貢献する。
【0083】
爪接着剤に利用することより、付け爪による障害を減少させ、爪を健康的に維持することが可能であり、エステティク業界に貢献できる。また、マニキュア剤に混入することによりマニキュア剤による爪の障害を改善し、爪の健康状態の増進に貢献する。
【0084】
タラなどの魚の卵膜は産業廃棄物として廃棄されており、環境を汚染する危険性がある。この廃棄物を有効に利用することにより、環境の改善に寄与する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マダラ科、タラ科、ニシン科の魚より得られる卵膜およびローヤルゼリーに紅麹菌を添加し発酵させた発酵物にプロテアーゼを添加し、加温する工程からなるCys−His−Arg−Cysの構造を持つ爪ケラチン増加作用を有するテトラペプチドの製造方法

【公開番号】特開2011−87501(P2011−87501A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−242929(P2009−242929)
【出願日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【出願人】(505425683)美肌倶楽部有限会社 (1)
【出願人】(309024284)株式会社安理ジャパン (2)
【Fターム(参考)】