説明

爪又は人工爪被覆用硬化性樹脂組成物

【課題】とりわけ、塗布後の外観に優れるばかりか、耐水性及び擦過性に優れ、かつ臭気、爪へのダメージ、皮膚刺激性等が少なく、従って、人体への安全性が高いのみならず、保存安定性にも優れた、爪又は人工爪被覆用硬化性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明は、(A)活性エネルギー線照射により重合反応し得る官能基を含む重合体の水性エマルジョン、(B)ポリエチレングリコール、及び(C)光ラジカル開始剤(但し、分子中に窒素原子を含むものを除く)を含む、爪又は人工爪被覆用硬化性樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、爪又は人工爪被覆用硬化性樹脂組成物に関し、更に詳しくは、爪又は人工爪を被覆して、これらを装飾しかつ/又は保護する、爪又は人工爪被覆用硬化性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自爪に装飾を施すという目的、若しくは自爪に人工爪を接着し、これに装飾を施すという目的、又は運動などの外力によって爪が割れたり剥がれたりすることを防止するという目的で、爪に樹脂等を塗布して爪を装飾し又は補強するという、いわゆるマニキュア、ペディキュア、スカルプチュアと呼ばれる材料に対する消費者の需要が高まりつつある。ここで、装飾又は補強のために使用される角質被覆用材料としては、ニトロセルロース系のラッカーを有機溶剤に溶解し、これに各種色調の顔料を加えたものが主流となっている。これ以外にも、アルキッド樹脂等の系に顔料及び可塑剤を加えたものなど、各種の角質被覆用材料が使用されている。これらの角質被覆用材料は、爪などの角質に塗布した後、有機溶剤を揮発させて、短時間で光沢に優れた被膜を与えるものである。一方、爪上に形成された被膜は、アセトン等の有機溶剤を用いて容易に拭き取ることができるものである。
【0003】
しかし、この種の角質被覆用材料は、本質的に有機溶剤を含むものである。従って、使用時に揮発する有機溶剤を、使用者が直接吸引するという問題があった。また、形成された被膜は水で容易に除去できず、多量の有機溶剤に浸すなどして拭き取る必要があり、かつ有機溶剤は臭気も強く、使用者の健康を害するものであった。更には、有機溶剤によって、爪及び皮膚の生理機能の低下を招くおそれもあった。加えて、多くの有機溶剤は引火性であり、一般家庭で用いるには非常に危険である。
【0004】
角質被覆用材料としては、非反応性の高分子材料を含む組成物、及び反応性の硬化性樹脂を含む組成物が知られている。非反応性の高分子材料を含む組成物は、組成物中に含まれる溶剤や希釈剤が揮発することにより、高分子被膜を形成するものである。該被膜形成は化学反応を伴わない故、組成物の保存時の安定性が良好であり、かつ生理刺激性が低いという優れた特性を有している。しかし、形成された被膜は化学反応による架橋が形成されていないため、強靱な被膜とはなり得ず、角質上で形成された被膜は擦過等の刺激により容易に剥離してしまうという問題があった。
【0005】
一方、反応性の硬化性樹脂を含む組成物は、化学反応により架橋した高分子被膜を生じるため、強靱な被膜を形成することができる。しかし、人体に影響の少ない範囲で化学反応を生じさせるためには、比較的穏和な条件で反応を生じさせなければならない。故に、調製された組成物は、保存環境下において、徐々に反応が進行してしまうことがあるため、保存性に問題があった。また、人体上で化学反応が進行するために、非反応性の組成物と比べると生理刺激性が大きい。
【0006】
特許文献1には、生理学的に受容可能な媒体中に、エチレン系二重結合を含むポリマー及び所定量のフリーラジカル光開始剤を含む、光架橋性マニキュア組成物が開示されている。ここで、エチレン系二重結合を含むポリマーとして、エチレン系不飽和ポリエステル、(メタ)アクリレート側部基及び/又は末端基を含むポリエステル、(メタ)アクリレート基を含むポリウレタン及び/又はポリ尿素、(メタ)アクリレート基を含むポリエーテル、エポキシアクリレート、炭化水素ベースの側部及び/又は末端が有するエチレン系二重結合を含む少なくとも二つの官能基を含むポリ(C1−50アルキル(メタ)アクリレート)、(メタ)アクリレート又は(メタ)アクリルアミド基を含むポリオルガノシロキサン、アクリレート基を含むペルフルオロポリエーテル、並びに(メタ)アクリレート又は(メタ)アクリルアミドを有するデンドリマー及び超分岐ポリマーが挙げられている。また、該光架橋性マニキュア組成物には、上記物質以外に、マニキュアにおいて通常使用される補助剤及び添加剤、例えば、顔料及び着色剤、可塑剤、合一剤、保存剤、ワックス、増粘剤、芳香剤、UV遮蔽材、ネイルケア化粧活性剤、拡散剤、消泡剤及び分散剤を、更に加え得ることが記載されている。該発明は、高い反応性を有する低分子量分子を使用せず、隣接する生物学的基体に拡散するのを防止するために十分に大きな分子量を有する反応性成分を使用することにより、光架橋性化粧品組成物の毒性問題を解決しようとするものである。しかし、毒性問題の解決は、今なお十分とは言えず、かつ硬化後の外観も良好なものであるとは言えなかった。
【0007】
特許文献2には、重合性不飽和基含有化合物と光重合開始剤とを含有することを特徴とする光硬化性無溶剤型マニキュアが開示されている。ここで、重合性不飽和基含有化合物とは、重合性不飽和基を持つ単量体及びオリゴマーであり、例えば、ポリエチレングリコールジアクリレート、エトキシジエチレングリコールアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート等の多数の物質が挙げられている。また、該光硬化性無溶剤型マニキュアには、上記物質以外に、光重合開始助剤、着色剤、パール光沢剤、艶消剤、香料、紫外線吸収剤、湿潤剤、消泡剤、カップリング剤、揺変剤等が加えられ得ることが記載されている。該発明は、無溶剤型マニキュアを提供することを目的とするものである。しかし、無溶剤であることから、重合性不飽和基含有化合物、光重合開始剤及びその他の添加剤を希釈することなく人体に直接塗布する故に、人体に対する悪影響が少なからず存在していた。また、無溶剤であることから、マニキュア自体の粘度が高くなり、爪に均一に塗布することが容易ではないと言う問題もあった。
【0008】
特許文献3には、マニキュア用有機溶媒系中に光硬化性樹脂と塗膜剥離剤とを混合したネイルマニキュアが開示されている。ここで、光硬化性樹脂として、α‐ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンが使用されており、かつ塗膜剥離剤として、ポリエステルウレタンアクリレートが使用されている。また、ペースコート剤とカラーポリッシュ剤との組み合わせから成る態様においては、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエーテル変性シリコーンオイル、エポキシメタアクリレート、エポキシアクリレートが、更に使用されている。該発明は、速乾性であると共に、自爪の表面を傷めることなく剥がすことができると言う効果を有するものである。しかし、非水系であることから、やはり、人体への安全性が十分ではなく、かつ、取扱いには十分な注意が必要であった。
【0009】
特許文献4には、界面活性剤及び/又はα,β‐モノエチレン性不飽和酸を含むエチレン性不飽和分子の付加重合体を分散剤として含む水性顔料分散液を水性樹脂エマルジョンに配合した水性マニキュア剤及びその製造方法が開示されている。ここで、水性樹脂エマルジョンとしては、例えば、α,β‐エチレン性不飽和カルボン酸、メタアクリル酸エステル、アクリル酸エステル及びスチレンから成る群から選ばれるモノマーと、反応性界面活性剤とを重合して得られる水性樹脂エマルジョンが挙げられている。また、特許文献5には、α,β‐エチレン性不飽和カルボン酸、メタアクリル酸エステル、アクリル酸エステル及びスチレンから成る群から選ばれるモノマーと、反応性界面活性剤とを重合して得られる樹脂を含む水性マニキュア剤が開示されている。これらのマニキュア剤には、pH調節剤、顔料、染料、分散助剤、薬剤、紫外線吸収剤、殺菌剤、防腐剤、香料、可塑剤、例えば、グリコール系の皮膜形成剤、被膜平滑剤及び増粘剤等を含み得ることが記載されている。これらのマニキュア剤は、水性であることから健康障害や爪の劣化等の問題がない。加えて、爪に対する密着性、及び光沢と色調に優れた塗膜を与えるばかりではなく、得られた塗膜が耐水性にも優れると言うものである。しかし、該水性マニキュア剤は、上記のように非反応性の高分子材料を含むもの故、被膜の爪への密着性は十分ではなく、摩擦等の刺激により容易に剥離してしまうと言う問題があった。
【0010】
特許文献6には、ガラス転移温度の差が10℃以上である二種以上のアクリル系ポリマーエマルジョンを含有する水系美爪料が開示されている。該水系美爪料には、これら物質のほか、皮膜形成助剤、可塑剤、顔料、染料、防腐剤、香料及び増粘剤等を含め得ることが記載されている。皮膜形成助剤及び可塑剤の例として、エチレングリコール、プロピレングリコール、ペンタエリスリトール、グリセリン、流動パラフィン、塩素化パラフィン、マシン油等の非常に多数の物質が挙げられている。該水系美爪料は、単なるアクリル系ポリマーエマルジョンを使用した水性マニキュアに比べると、所定の二種以上のアクリル系ポリマーエマルジョンを使用するものであることから、光沢、密着性及び塗膜強度に関して、ある程度の改良がなされているものであった。しかし、密着性、耐擦過性、皮膜の強じん性等の耐久力に関しては、未だ十分であるとは言えなかった。
【0011】
特許文献7には、自己乳化可能なビニル系ポリマー及びセルロース誘導体を含む水性乳化液を含有することを特徴とする水性マニキュアが開示されている。該水性マニキュアには、これらの物質のほか、可塑剤、成膜助剤、顔料、増粘剤、染料、防腐剤及び香料等を含め得ることが記載されている。該水性マニキュアは、密着性、耐摩擦性、耐水性等に優れ、良好な光沢及び持ちを有するものである。しかし、その耐水性は十分ではなく、日常生活での使用中に容易に剥がれてしまうという欠点があり、実用に耐えるものとは言えなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2002−322034号公報
【特許文献2】特開2002−161025号公報
【特許文献3】特開2006−312596号公報
【特許文献4】特開平8−40832号公報
【特許文献5】特開平5−163118号公報
【特許文献6】特開平4−103513号公報
【特許文献7】特開平10−306016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、とりわけ、塗布後の外観に優れるばかりか、耐水性及び耐擦過性に優れ、かつ臭気、爪へのダメージ、皮膚刺激性等が少なく、従って、人体への安全性が高いのみならず、保存安定性にも優れた、爪又は人工爪被覆用硬化性樹脂組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、まず、上記従来技術に関して種々の検討を加えた。その結果、特許文献2及び3に記載されているような無溶媒及び非水系の組成物では、人体、とりわけ、爪への安全性を十分に回避できない。一方、特許文献4及び5に記載されているように、水系の組成物であれば人体への安全性には優れる。しかし、使用する高分子材料が非反応性のものであっては、得られた被膜の爪への密着性を十分には確保することができず、摩擦等の刺激により該被膜は容易に剥離してしまう。そこで、得られた被膜の爪への密着性を改善するために、特許文献6及び7に記載されているように、使用するポリマーの性状等に着目することも考えられる。しかし、非反応性のポリマーを使用する限り、密着性の改善には限界があることが分かった。このように、水系であれば、有機溶剤の使用を回避でき、かつ使用するポリマー等の含有物の人体への影響を緩和し得て、より安全性の高い組成物を製造することができる。加えて、使用する材料を反応性のもの、即ち、爪上で硬化するものにすれば、得られた被膜の爪への十分な密着性をも確保することができる。しかし、爪上で硬化する材料を使用すれば、たとえ水系の組成物であっても人体への十分な安全性を確保することはできない。例えば、特許文献1記載の発明では、人体への安全性を確保すべく、低分子量の反応性モノマーの使用を排除する。しかし、これだけでは、やはり、人体への十分な安全性を確保し得なかった。そこで、本発明者らは、如何にすれば、得られた被膜の爪への十分な密着性を確保したまま、人体への安全性を更に向上させることができるかについて、更に検討を重ねた。その結果、下記所定の成分(A)及び(C)に、成分(B)ポリエチレングリコールを加えれば、単なる粘度調整のみならず、硬化皮膜形成時に成分(A)をベースとした樹脂ネットワーク中に侵入して、硬化後に僅かに残存する成分(A)の未反応官能基を包接することにより、未反応官能基が爪と反応することを防ぐことを見出し、加えて、成分(C)として、分子中に窒素原子を含まないものを使用すれば、爪又は人工爪に塗布した際に、殆ど臭気がなくかつ着色もなく、更に、時間の経過に伴う変色等も生じないことを見出した。その結果、爪又は人工爪被覆用硬化性樹脂組成物の生理刺激性を低減させ、かつ上記全ての課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。また、従来技術において、上記のように種々の添加剤を含め得ることが記載されている。しかし、水系の爪又は人工爪被覆用硬化性樹脂組成物において、爪等の人体上で硬化反応を生ずる材料を使用した際に、更に、ポリエチレングリコールを含めれば、水系組成物の特徴である人体への安全性を確保しつつ、かつ、反応性材料の特徴である爪等への優れた密着性を維持したまま、反応性材料の欠点である強い生理刺激性を緩和して人体への安全性を確保し得るばかりではなく、塗布後の外観をも著しく良好なものに改良し得ることは、従来技術において全く知られていないことである。
【0015】
即ち、本発明は、
(1)(A)活性エネルギー線照射により重合反応し得る官能基を含む重合体の水性エマルジョン、(B)ポリエチレングリコール、及び(C)光ラジカル開始剤(但し、分子中に窒素原子を含むものを除く)を含む、爪又は人工爪被覆用硬化性樹脂組成物である。
【0016】
また、好ましい態様として、
(2)活性エネルギー線照射により重合反応し得る官能基が、(メタ)アクリロイル基である、上記(1)記載の爪又は人工爪被覆用硬化性樹脂組成物、
(3)活性エネルギー線照射により重合反応し得る官能基を含む重合体が、主鎖構造としてポリアクリル系骨格又はポリウレタン系骨格を有する、上記(1)又は(2)記載の爪又は人工爪被覆用硬化性樹脂組成物、
(4)活性エネルギー線照射により重合反応し得る官能基を含む重合体が、主鎖構造としてポリアクリル系骨格を有する、上記(1)又は(2)記載の爪又は人工爪被覆用硬化性樹脂組成物、
(5)活性エネルギー線照射により重合反応し得る官能基を含む重合体が、上記の水性エマルジョン(A)中に25〜55質量%含まれる、上記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の爪又は人工爪被覆用硬化性樹脂組成物、
(6)活性エネルギー線照射により重合反応し得る官能基を含む重合体の数平均分子量が、10,000〜500,000である、上記(1)〜(5)のいずれか一つに記載の爪又は人工爪被覆用硬化性樹脂組成物、
(7)活性エネルギー線照射により重合反応し得る官能基を含む重合体が、該官能基を分子内に少なくとも2個含む、上記(1)〜(6)のいずれか一つに記載の爪又は人工爪被覆用硬化性樹脂組成物、
(8)(B)ポリエチレングリコールを、上記の水性エマルジョン(A)に含まれる、活性エネルギー線照射により重合反応し得る官能基を含む重合体100質量部に対して、0.1〜30質量部含む、上記(1)〜(7)のいずれか一つに記載の爪又は人工爪被覆用硬化性樹脂組成物、
(9)(B)ポリエチレングリコールを、上記の水性エマルジョン(A)に含まれる、活性エネルギー線照射により重合反応し得る官能基を含む重合体100質量部に対して、2〜20質量部含む、上記(1)〜(7)のいずれか一つに記載の爪又は人工爪被覆用硬化性樹脂組成物、
(10)(B)ポリエチレングリコールを、上記の水性エマルジョン(A)に含まれる、活性エネルギー線照射により重合反応し得る官能基を含む重合体100質量部に対して、3〜15質量部含む、上記(1)〜(7)のいずれか一つに記載の爪又は人工爪被覆用硬化性樹脂組成物、
(11)(B)ポリエチレングリコールの重量平均分子量が1,000〜2,000である、上記(1)〜(10)のいずれか一つに記載の爪又は人工爪被覆用硬化性樹脂組成物、
(12)(C)光ラジカル開始剤を、上記の水性エマルジョン(A)に含まれる、活性エネルギー線照射により重合反応し得る官能基を含む重合体100質量部に対して、1〜10質量部含む、上記(1)〜(11)のいずれか一つに記載の爪又は人工爪被覆用硬化性樹脂組成物、
(13)(C)光ラジカル開始剤が、2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルホスフィン酸エチル、1−ベンゾイル−1−シクロヘキサノール又はこれらの混合物である、上記(1)〜(12)のいずれか一つに記載の爪又は人工爪被覆用硬化性樹脂組成物、
(14)(D)天然物由来のワックスを更に含む、上記(1)〜(13)のいずれか一つに記載の爪又は人工爪被覆用硬化性樹脂組成物、
(15)(D)天然物由来のワックスを、上記の水性エマルジョン(A)に含まれる、活性エネルギー線照射により重合反応し得る官能基を含む重合体100質量部に対して、0.1〜15質量部含む、上記(1)〜(13)のいずれか一つに記載の爪又は人工爪被覆用硬化性樹脂組成物、
(16)(D)天然物由来のワックスを、上記の水性エマルジョン(A)に含まれる、活性エネルギー線照射により重合反応し得る官能基を含む重合体100質量部に対して、5〜10質量部含む、上記(1)〜(13)のいずれか一つに記載の爪又は人工爪被覆用硬化性樹脂組成物、
(17)(D)天然物由来のワックスが、カルナバワックス、ミツロウ、パームロウ、漆ロウ及びイボタロウより成る群から選ばれる一つ以上である、上記(14)〜(16)のいずれか一つに記載の爪又は人工爪被覆用硬化性樹脂組成物
を挙げることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の爪又は人工爪被覆用硬化性樹脂組成物は、塗布後の外観に優れると共に、耐水性及び耐擦過性に優れることから、塗布後、長時間に亘って、被膜が剥がれ落ちることがない。従って、爪等に塗布された被膜はいつまでも美しく、かつ爪の保護及び補強にも有用である。また、臭気、爪へのダメージ、皮膚刺激性等が少なく、人体への安全性が高い。従って、GHS(「化学品の分類及び表示に関する世界調和システム(Globally Harmonized System of Classification and Labeling of Chemicals)」)に基づく危険表示及びリスクフレーズの記載が不要である。加えて、保存安定性にも優れている。
【発明を実施するための形態】
【0018】
成分(A)の水性エマルジョン中に含まれる重合体が有する活性エネルギー線照射により重合反応し得る官能基は、光ラジカル反応により重合し得るものであれば特に制限はない。例えば、上記の特許文献1に記載されているような種々のエチレン系二重結合を含む官能基を挙げることができる。好ましくは、(メタ)アクリロイル基が挙げられる。これらの基は、重合体1分子内に好ましくは2個以上含まれる。該基の数の上限に特に制限はないが、好ましくは5個である。これにより、硬化後に十分に架橋した重合体を得ることができる。
【0019】
上記の官能基を含む、骨格となる重合体自体についても特に制限はない。上記と同様に、特許文献1に記載されているような種々の重合体、例えば、ポリエステル、ポリウレタン、ポリ尿素、ポリエーテル、ポリオルガノシロキサン、ペルフルオロポリエーテル等を挙げることができる。また、これらに加えて(メタ)アクリル樹脂が挙げられる。本発明においては、これらのうち、主鎖構造としてポリアクリル系骨格又はポリウレタン系骨格を有する重合体が好ましい。爪に対する浸透性によるダメージが小さいこと及び均一な硬さの硬化物が得られることから、主鎖構造としてポリアクリル系骨格を有する重合体が特に好ましい。
【0020】
成分(A)の水性エマルジョン中に含まれる、活性エネルギー線照射により重合反応し得る官能基を含む重合体には、上記の骨格となる各種重合体に、同じく上記の各種官能基が結合したものが含まれる。例えば、エチレン系不飽和ポリエステル、(メタ)アクリレート側鎖基及び/又は末端基を含むポリエステル、(メタ)アクリレート基を含むポリウレタン及び/又はポリ尿素、C1−4アルキレングリコールホモポリマー又はコポリマーのヒドロキシル基末端を(メタ)アクリル酸でエステル化して得られた(メタ)アクリレート基を含むポリエーテル、エポキシアクリレート、炭化水素ベースの側鎖及び/又は末端が有するエチレン系二重結合を含む少なくとも二つの官能基を含むポリ(C1−50アルキル(メタ)アクリレート)、(メタ)アクリレート又は(メタ)アクリルアミド基を含むポリオルガノシロキサン、アクリレート基を含むペルフルオロポリエーテル、並びに(メタ)アクリレート又は(メタ)アクリルアミドを有するデンドリマー及び超分岐ポリマーを挙げることができる。本発明においては、活性エネルギー線照射により重合反応し得る官能基が(メタ)アクリロイル基であり、かつ骨格となる重合体が、主鎖構造としてポリアクリル系骨格を有する重合体が特に好ましい。
【0021】
本発明において、活性エネルギー線照射により重合反応し得る官能基を含む重合体の数平均分子量の上限は、好ましくは500,000、より好ましくは300,000であり、下限は、好ましくは10,000、より好ましくは50,000である。上記上限を超えては、粘度が大きくなり過ぎるため、エマルジョンとしての安定性が低下し、更には塗工時の作業性にも問題が生じる。一方、上記下限未満では、架橋硬化後の塗膜が十分に成長できず、柔軟性を有した塗膜とならないために爪や付け爪に対する追従性が十分に得られないため、剥がれにくい塗膜を得ることが難しく、更には重合体に起因する毒性が大きくなって、成分(B)ポリエチレングリコールの添加によっても、十分な人体への安全性を確保できないことがある。
【0022】
本発明の好ましい態様である、活性エネルギー線照射により重合反応し得る官能基が(メタ)アクリロイル基であり、かつ骨格となる重合体が主鎖構造としてポリアクリル系骨格を有する重合体は、従来の公知の方法、例えば、下記の方法により製造することができる。
【0023】
主鎖構造としてポリアクリル系骨格を有する重合体は、例えば、(メタ)アクリル系モノマーやオリゴマー、更に必要に応じて少量のその他のモノマーを共重合することにより得られる。このようにして得られた主鎖構造としてポリアクリル系骨格を有する重合体は、重合体の末端又は側鎖に水酸基、イソシアネート基、アミノ基、カルボキシル基等の反応性基を有するものが好ましい。次いで、該重合体に(メタ)アクリロイル基を導入する。重合体が水酸基を有するものである場合には、例えば、2−(メタクリロイルオキシ)エチルイソシアナートのようなイソシアネート基を有するアクリル基含有化合物を反応させることにより、ウレタン結合により結合した(メタ)アクリロイル基を導入することができる。同様に、重合体がアミノ基を有する場合には、例えば、カルボキシ基を有するアクリル基含有化合物を反応させることにより、また、重合体がイソシアネート基を有する場合には、例えば、水酸基又はアミド基を有するアクリル基含有化合物を反応させることにより、(メタ)アクリロイル基を導入することができる。上記の方法以外にも、リビングラジカル重合等により、主鎖構造としてポリアクリル系骨格を有する重合体の末端又は側鎖に、直接、(メタ)アクリロイル基を導入することもできる。
【0024】
ここで、(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸n−ブチル、メタクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソプロピル、メタクリル酸イソプロピル、アクリル酸イソブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;アクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸ヒドロキシブチル、メタクリル酸ヒドロキシブチル等のヒドロキシル基含有アクリル酸エステル;2‐(1‐ヒドロキシエチル)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−エチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド誘導体;アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル等のグリシジル基含有(メタ)アクリル化合物等が挙げられる。これらは、一部にオリゴマー構造を有するマクロモノマーであってもよい。これらのうち、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸n−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸n−ブチル、アクリル酸ヒドロキシエチル及びメタクリル酸ヒドロキシエチルが好ましい。
【0025】
その他の共重合可能なモノマーとしては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、(メタ)アクリロニトリル、弗化ビニル、弗化ビニリデン等が挙げられる。
【0026】
上記のようにして得られた活性エネルギー線照射により重合反応し得る官能基を含む重合体は、エマルジョン化のため、好ましくはアルカリ処理が施される。該アルカリ処理は、成分(A)の水性エマルジョンのpHが好ましくは6.5〜9.5、より好ましくは7.0〜8.0となるように実行される。pHが上記下限未満では、水性エマルジョンの分散性が不十分となり、一方、pHが上記上限を超えては、時間の経過と共に加水分解反応が生じて、重合体の分子が切断されることがある。該アルカリ処理により、更に人体に対する安全性及び保存安定性を高めることができる。該処理に使用する物質は、特に、主鎖構造としてポリアクリル系骨格を有する重合体においては、該重合体が有するカルボキシル基又はそのエステルと反応し得るもの等が好ましく用いられる。例えば、アンモニア、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−フェニルジエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、2−アミノ−2−エチル−1−プロパノール等の有機アミン類、リチウム、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属類、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムの無機アルカリ類等が挙げられる。本発明においては、この中でも、人体に対する安全性の観点からアルカリ金属類、無機アルカリ類等が好ましい。また、これら物質は、単独又は2種以上混合して使用することができる。
【0027】
本発明においては、成分(A)の水性エマルジョン中の重合体に、更に、架橋性基含有モノマーを共重合させることができる。該架橋性基含有モノマーは、本発明の組成物が爪又は人工爪に施与された際、自己架橋し得るばかりではなく、爪又は人工爪、及び装飾若しくは塗装された爪又は人工爪の表面に存在する水酸基と架橋し得ることができる。これにより、光硬化し難い装飾成分及び光透過し難い顔料又は染料を用いた際にも内部架橋を確実に進行させることができ、使用時の事故、特に皮膚への組成物の浸透性を極力抑制することができる。従って、人体に対する安全性をより一層高めることができる。ここで、架橋性基含有モノマーが自己架橋し得る最低温度[MFFT(min. film forming temp.)]は25℃以下であることが好ましく、10℃以下であることがより好ましい。使用される架橋性基含有モノマーとしては、例えば、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチルアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド、アクリルアミド、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0028】
活性エネルギー線照射により重合反応し得る官能基を含む重合体は、乳化重合、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、沈殿重合等の従来公知の方法で製造することができる。得られる水性エマルジョン(A)の粒子径及び安定性の観点から乳化重合法を使用して製造することが好ましい。該乳化重合法には特に制限はなく、例えば、バッチ重合法、モノマー滴下重合法、乳化モノマー滴下重合法等を使用することができる。また、水性エマルジョンの安定性をより高めるために界面活性剤を使用することもできる。ここで、得られた水性エマルジョン中のエマルジョン粒子径は、好ましくは5〜5,000nm、より好ましくは10〜1000nmである。上記下限未満では、形成される被膜の耐水性及び組成物の保存安定性が好ましくなく、上記上限を超えると、エマルジョン粒子が経時的に沈降を生じて、塗膜の透明性を損ない、白濁する傾向にある。なお、人体に対する安全性の観点から、本発明の水性エマルジョン(A)は塊状重合により製造されたものを用いることもできる。この際、特に無触媒塊状重合により製造されたものが好ましい。
【0029】
水性エマルジョン(A)中の水の量に特に制限はなく、活性エネルギー線照射により重合反応し得る官能基を含む重合体を良好に分散し得る量であればよい。好ましくは、該重合体が、水性エマルジョン(A)中に10〜70質量%、より好ましくは20〜60質量%、更に好ましくは30〜50質量%、特に好ましくは35〜45質量%含まれる。上記下限未満では、本発明の組成物を爪等に塗布した後、乾燥するまでに時間を要し、上記上限を超えては、重合体をエマルジョンとして良好に分散できずに時間の経過とともに沈降してしまうことがある。
【0030】
本発明で使用する成分(B)ポリエチレングリコールに特に制限はない。ポリエチレングリコールの重量平均分子量の上限は、好ましくは3,000、より好ましくは2,000であり、下限は、好ましくは500、より好ましくは1000である。上記上限を超えては、組成物への溶解、分散が困難となり、また硬化膜物性に悪影響を与え、具体的には硬化膜が柔らかくなり過ぎ耐擦過性が低下する。上記下限未満では、ポリエチレングリコールの特徴である上記生理刺激性低減作用を生じ難くなり、また硬化被膜に柔軟性を与えることが困難となる。成分(B)ポリエチレングリコールの含有量は、活性エネルギー線照射により重合反応し得る官能基を含む重合体100質量部に対して、上限が、好ましくは30質量部、より好ましくは20質量部、更に好ましくは15質量部であり、下限が、好ましくは0.1質量部、より好ましくは2質量部、更に好ましくは3質量部である。上記下限未満では、人体への安全性を十分には確保することができず、上記上限を超えては、水性エマルジョンの安定性を損なうことがある。
【0031】
本発明で使用する成分(C)分子中に窒素原子を含まない光ラジカル開始剤は公知である。例えば、1−ベンゾイル−1−シクロヘキサノール、2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルホスフィン酸エチル、ベンゾフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、キサントン、フルオレノン、ベンズアルデヒド、フルオレン、アントラキノン、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−[4−(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチル-1-プロパン−1−オンチオキサントン、ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド等が挙げられる。これらのうち、2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルホスフィン酸エチル、1−ベンゾイル−1−シクロヘキサノール又はこれらの混合物が好ましく使用される。該光ラジカル開始剤としては、市販品を使用することができる。市販品としては、チバスペシャリティケミカルズ株式会社製のIrugacure127、184、500、651、819、819DW、907、1700、1800、1870、2959、Darocure1173(いずれも商標)、BASF社製のLucirine TPO、TPO−L、TPO−XO(いずれも商標)等を挙げることができる。この中でも、GHS(化学品の分類及び表示に関する世界調和システム)による安全管理上の分類に基づく環境危険性、有害性、刺激性の何れにも該当しない光ラジカル開始剤、例えば、Irgacure184(1−ベンゾイル−1−シクロヘキサノール)、Irgacure 2959(1−[4−(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル-1-プロパン−1−オン)、Lucirin TPO−L(2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルホスフィン酸エチル)がより好ましい。また、人体に適用するために低臭気のものがより好ましい。Irgacure184及びTPO−Lは、特に低臭気であるため好ましい。なかでも、Irgacure184は安全性がより高いことから、GHS分類上のリスクフレーズの記載が不要である。また、爪に塗布した際の着色性が少なく、更には、エネルギー線の吸収率が高いために、硬化被膜を深部まで硬化させることができる。その結果、塗膜形成初期から良好な接着性を発現し得る故に、耐擦過性に優れた塗膜を形成できる。このようなことから、Irgacure184が特に好ましく使用される。なお、本発明の組成物において、成分(C)光開始剤は分子中に窒素原子を含まないものである。本発明の組成物は、爪及び付け爪に塗布するものであるため、塗布した塗膜の外観は無色であることが好ましく、臭気も少ない方が好ましい。しかし、分子中に窒素原子を含む光開始剤には臭気があり、かつ硬化開始時及びその後の時間経過に伴う着色性が強い。従って、該光開始剤を爪又は人工爪被覆用硬化性樹脂組成物に使用すると、塗布時に不快な臭気があり、また、塗布後、一定時間太陽光に曝されると、爪上で変色などを生じることがあるため好ましくない。
【0032】
成分(C)光ラジカル開始剤の含有量は、活性エネルギー線照射により重合反応し得る官能基を含む重合体100質量部に対して、上限が好ましくは10質量部、より好ましくは6質量部であり、下限が好ましくは1質量部、より好ましくは3質量部である。上記上限を超えると、保存中にゲル化するなどの問題が生じ、組成物の保存性に問題を有する。上記下限未満では、短時間又は少ないエネルギーで硬化させることができず、反応性に問題を有する。
【0033】
本発明の爪又は人工爪被覆用硬化性樹脂組成物は、上記の成分(A)、(B)及び(C)に加えて、硬化被膜に良好な光沢と耐湿性、耐熱性を加える目的で、更に、成分(D)天然物由来のワックスを含むことができる。天然物由来のワックスとしては、例えば、カルナバワックス、ミツロウ、パームロウ、漆ロウ、イボタロウ等を挙げることができる。成分(D)天然物由来のワックスの含有量は、活性エネルギー線照射により重合反応し得る官能基を含む重合体100質量部に対して、上限が、好ましくは15質量部、より好ましくは10質量部であり、下限が、好ましくは0.1質量部、より好ましくは0.5質量部である。上記下限未満では、硬化被膜に良好な光沢と耐湿性、耐熱性を与えることができず、上記上限を超えては、硬化被膜の接着性を低下させ、耐擦過性を著しく低減させてしまう。
【0034】
本発明の爪又は人工爪被覆用硬化性樹脂組成物には、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、例えば、粘度調整剤、例えば、ポリウレタン、ノニオニックポリウレタン、キサンタンガム、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アルコールアルコキシレート、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコール等;レベリング剤;消泡剤(破泡剤);分散剤;基材湿潤剤;合成ワックス;ツヤ消し剤;界面活性剤;表面調整剤;香料、例えば、芳香剤、消臭剤等;紫外線吸収剤;充填剤、例えば、硫酸バリウム、酸化珪素(フュームドシリカ)、タルク、クレー等;骨剤;顔料(色剤);重合禁止剤、例えば、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル等を配合することができる。
【0035】
以下、実施例において本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0036】
物質
実施例及び比較例において使用した物質は下記の通りである。
【0037】
<成分(A):活性エネルギー線照射により重合反応し得る官能基を含む重合体の水性エマルジョン>
水性エマルジョン(1):アクリル系自己架橋性光硬化型エマルジョン、官能基:アクリロイル基、固形分含有量:約40質量%、重合体の数平均分子量:約100,000、Cray Valley社製CRAYMUL−2717(商標)
水性エマルジョン(2):ウレタン系非自己架橋性光硬化型エマルジョン、官能基:アクリロイル基、固形分含有量:約40質量%、重合体の数平均分子量:約100,000、Alberdingk社製LUX−2411(商標)
【0038】
<比較成分(A)>
アクリレートモノマー:ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、UCB社製Ebecry140(商標)
ポリエーテルアクリレート:アミン変性ポリエーテルアクリレート、UCB社製Ebecry83(商標)
ウレタンアクリレート:ウレタンアクリレートオリゴマー、Cray Valley社製Craynor435(商標)
【0039】
<成分(B):ポリエチレングリコール>
ポリエチレングリコール:Sasol社製LIPOXOL1500(商標)、重量平均分子量:約1,500
【0040】
<比較成分(B)>
ヒドロキシエチルセルロース:ダウ(DOW)社製METHOCEL K4MSPCG(商標)
アルギン酸プロピレングリコール:エヴォニク(Evonik)社製TEGO COSMO PGA(商標)
カルボキシメチルセルロースナトリウム:CP Kelco社製Kecol2000(商標)
ポリアクリル酸ナトリウム:コグニス(Cognis)社製Cosmedia SP(商標)
シリカ:日本アエロジル株式会社製アエロジル200(商標)
【0041】
<成分(C):光ラジカル開始剤>
Irgacure 184(商標、チバスペシャリティケミカルズ株式会社製、1−ベンゾイル−1−シクロヘキサノール)
Irgacure 500(商標、チバスペシャリティケミカルズ株式会社製、1−ベンゾイル−1−シクロヘキサノールとベンゾフェノンとの質量比で1:1の混合物)
Lucirin TPO−L(商標、BASF社製、2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルホスフィン酸エチル)
ベンゾフェノン(和光純薬製、試薬)
【0042】
<比較成分(C)>
Irgacure 369(商標、チバスペシャリティケミカルズ株式会社製、2−ベンジル−2−ジメチルアミン−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1)
【0043】
<成分(D):天然物由来のワックス>
カルナバワックス:東亜化成株式会社製Carnaubawax(商標)
【0044】
<その他の成分>
レベリング・消泡剤:破泡性ポリシロキサン、Byk Chemie社製BYK028(商標)、破泡性ポリシロキサン、疎水性粒子及びポリグリコールから成る混合物
【0045】
試験法
実施例及び比較例において使用した試験法は下記の通りである。
【0046】
<保存安定性>
実施例及び比較例において得られた各組成物を室温23℃で24時間静置した後、分離及び沈降の有無を目視観察することにより判定した。判定結果を下記の記号で示した。
◎:全く変化が見られなかった
×:分離及び沈降が見られた
【0047】
<耐水性>
実施例及び比較例において得られた各組成物をポリプロピレン製つけ爪[スーパーネイルセンター社製SNC nail tips(商標)]に塗布し、光硬化させた。ここで、光硬化は、36ワット(9ワット×4本)の紫外線照射装置を使用して2分間照射することにより実施した(以下の試験法において全て同じである)。次いで、40℃の温水に8時間浸漬した後、硬化物の剥離及び溶解の有無を目視にて判断した。判定結果を下記の記号で示した。
◎:全く変化が見られなかった
×:一部分にでも剥離及び溶解が見られた
【0048】
<耐擦過性>
実施例及び比較例において得られた各組成物を、耐水性と同一手順で光硬化させた。次いで、硬化物表面を爪で軽く擦り、このときの傷の有無を目視にて判断した。判定結果を下記の記号で示した。
◎:全く傷が見られなかった
×:小さな傷が見られた
【0049】
<臭気>
実施例及び比較例において得られた各組成物を、耐水性と同一手順で硬化した。硬化前後における臭気を人間の嗅覚により判断した。判定結果を下記の記号で示した。
◎:全く又は殆ど臭気が無い
○:弱い臭気がある
Δ:臭気が有る
×:非常に強い臭気が有る
【0050】
<爪へのダメージ>
実施例及び比較例において得られた各組成物を、人間の爪上に約1mmφの大きさに塗布し、光硬化させた。30分間放置した後、硬化物を爪上から剥がし、剥がした爪の部分を目視にて観察した。判定結果を下記の記号で示した。
◎:爪表面に変化が生じていない
○:爪表面が僅かに白化した
×:爪表面が白化した
【0051】
<皮膚刺激性>
実施例及び比較例において得られた各組成物を、人間の爪付近の皮膚上に一滴垂らした。そのまま1時間放置した後、石けん水で洗浄して、皮膚の外観変化を目視にて判断した。判定結果を下記の記号で示した。
◎:皮膚の外観に全く変化がない
×:皮膚が少しでも赤く変化した
【0052】
<硬化前後の外観>
実施例及び比較例において得られた各組成物を、人間の爪上に塗布し、硬化前の外観を判定した。次いで、各組成物を光硬化して硬化後の外観を判定した。判定結果を下記の記号で示した。また、下記の記号に該当せず、着色のあったものは着色状態を示した。実施例1〜12及び比較例1〜6については、硬化後の外観のみを評価した。
◎:表面に明確に光沢が残り、天井の蛍光灯がはっきり映った
○:表面にある程度の光沢が残り、天井の蛍光灯が映った
Δ:表面に僅かに光沢が認められた
×:塗膜表面に光沢が認められなかった
【0053】
<GHS表示>
実施例及び比較例において得られた各組成物について、GHS(「化学品の分類及び表示に関する世界調和システム(Globally Harmonized System of Classification and Labeling of Chemicals)」)に基づく危険表示の必要性の有無を判断した。判定結果を下記の記号で示した。
◎:製品ラベル中に危険表示不要
Xi:刺激性表示の義務あり
Xn:有害性表示の義務あり
C:腐食性表示の義務あり
N:環境危険性表示の義務あり
【0054】
<リスクフレーズ>
実施例及び比較例において得られた各組成物について、欧州連合で制定された有害性化学物質のリスクの内容を表す分類番号のいずれに該当するかを判断した。判定結果及び分類番号の内容は下記の通りである。
◎:リスクフレーズ不要
R10:引火性がある
R36:眼に刺激性がある
R50:水生生物に強い毒性がある
R52:水生生物に有害性がある
R53:水生環境中で長期悪影響を引き起こすおそれがある
R66:暴露の繰り返しにより皮膚の乾燥又はひび割れを引き起こすことがある
R67:気体は眠気やめまいを引き起こすおそれがある
【0055】
<引火性>
実施例及び比較例において得られた各組成物について、クリーブランド開放式引火点測定により引火性の有無を調べた。判定結果を下記の記号で示した。
◎:引火性なし
×:引火性有り
【0056】
(実施例1〜12及び比較例1〜12)
周囲を遮光した調合用容器を準備した。次いで、表1及び2に示した量(質量部)の各成分を該調合用容器に取り、次いで、室温で十分に攪拌混合することにより均一な組成物を得た。次いで、該組成物に関して、上記の各試験を実施して評価した。評価結果を表1及び2に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
実施例1〜9及び12は、成分(A)として水性エマルジョン(1)、即ち、活性エネルギー線照射により重合反応し得る官能基がアクリロイル基であり、かつ主鎖構造としてポリアクリル系骨格を有する重合体を使用したものである。いずれも良好な評価結果が得られた。成分(C)として、Irgacure184及びLucirin TPO−Lを使用した実施例2、Irgacure500を使用した実施例8、Irgacure500及びLucirin TPO−Lを使用した実施例9、並びにベンゾフェノンを使用した実施例12においても、Irgacure184を使用した実施例1と同様に良好な評価結果を示した。実施例3及び6は、成分(B)ポリエチレングリコールの配合量を変化させたものである。実施例3及び6は、実施例1に比べると多少、硬化後外観、耐水性、耐擦過性及び硬化前の臭気の点において劣るものの、本発明の効果を十分に発揮するものであった。実施例10及び11は、成分(A)として水性エマルジョン(2)、即ち、活性エネルギー線照射により重合反応し得る官能基がアクリロイル基であり、かつ主鎖構造としてポリウレタン系骨格を有する重合体を使用したものである。いずれも、水性エマルジョン(1)、即ち、活性エネルギー線照射により重合反応し得る官能基がアクリロイル基であり、かつ主鎖構造としてポリアクリル系骨格を有する重合体を使用した実施例1及び2と同様に良好な評価結果を示した。
【0060】
一方、比較例1〜3は、従来、爪又は人工爪被覆用硬化性樹脂組成物に使用されていたアクリレートモノマー、ポリエーテルアクリレート、ウレタンアクリレートを夫々使用し、かつ成分(B)ポリエチレングリコールを使用しなかったものである。いずれも、爪へのダメージ及び皮膚刺激性が大きいばかりか、硬化前の臭気も強いものであった。比較例4は、比較例1における成分(C)Irgacure500をIrgacure184に代えたものである。比較例1と同様に、爪へのダメージ及び皮膚刺激性が大きく、かつ硬化前の臭気も強いものであった。比較例5及び6は、夫々、ポリエーテルアクリレートとウレタンアクリレートに水を配合したものである。水性エマルジョンを使用したものに比べて著しく悪い結果になった。比較例7は、比較例6における成分(C)Irgacure500をIrgacure184に代えたものである。比較例6と同様に、水性エマルジョンを使用したものに比べて著しく悪い結果になった。比較例8は、成分(C)の代わりに、分子中に窒素原子を含む光ラジカル開始剤を使用したものである。硬化後の外観に光沢がなく淡黄色となり、爪又は人工爪被覆用硬化性樹脂組成物としての使用に耐えられるものではなかった。比較例9は、成分(B)ポリエチレングリコールを使用しなかったものである。耐擦過性が著しく悪く、かつ強い皮膚刺激性があった。
【0061】
(実施例13〜17及び比較例10〜14)
上記と同一にして、表3に示した量(質量部)の各成分を使用して基本組成物を製造した。次いで、表4に示した量(質量部)の基本組成物と、成分(B)又は比較成分(B)とを使用して、均一な組成物を得た。次いで、該組成物に関して、硬化前後の外観を評価した。評価結果を表4に示す。
【0062】
【表3】

【0063】
【表4】

【0064】
実施例13〜17は、成分(B)ポリエチレングリコールの配合量を変化させたものである。硬化後の外観に大きな変化はないが、成分(B)の配合量を多くした実施例17では、硬化前の外観が多少悪くなった。しかし、爪又は人工爪被覆用硬化性樹脂組成物としての機能を損なうものではなかった。
【0065】
一方、比較例10〜14は、実施例13における成分(B)ポリエチレングリコールに代えて、夫々、ヒドロキシエチルセルロース、アルギン酸プロピレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム及びシリカを使用したものである。いずれも硬化前の外観が著しく悪くなった。従って、これらの組成物を爪に塗布する際に表面に凹凸がない滑らかな塗膜を形成することができなかった。比較例11及び12では、硬化後の外観も劣り、比較例13及び14では、硬化後の外観は著しく悪くなった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の爪又は人工爪被覆用硬化性樹脂組成物は、塗布後の外観に優れると共に、耐水性及び耐擦過性に優れることから、塗布後、長時間に亘って、被膜が剥がれ落ちることがなく、かつ臭気、爪へのダメージ、皮膚刺激性等が少なく、人体への安全性が高い。従って、装飾用としてはもちろんのこと、爪の割れ等を防止する保護及び補強等の用途として有用であり、例えば、マニキュア、ペディキュア、スカルプチュア等のネイルケア商品として利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)活性エネルギー線照射により重合反応し得る官能基を含む重合体の水性エマルジョン、(B)ポリエチレングリコール、及び(C)光ラジカル開始剤(但し、分子中に窒素原子を含むものを除く)を含む、爪又は人工爪被覆用硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
活性エネルギー線照射により重合反応し得る官能基が、(メタ)アクリロイル基である、請求項1記載の爪又は人工爪被覆用硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
活性エネルギー線照射により重合反応し得る官能基を含む重合体が、主鎖構造としてポリアクリル系骨格又はポリウレタン系骨格を有する、請求項1又は2記載の爪又は人工爪被覆用硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
活性エネルギー線照射により重合反応し得る官能基を含む重合体が、上記の水性エマルジョン(A)中に25〜55質量%含まれる、請求項1〜3のいずれか一つに記載の爪又は人工爪被覆用硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
活性エネルギー線照射により重合反応し得る官能基を含む重合体の数平均分子量が、10,000〜500,000である、請求項1〜4のいずれか一つに記載の爪又は人工爪被覆用硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
(B)ポリエチレングリコールを、上記の水性エマルジョン(A)に含まれる、活性エネルギー線照射により重合反応し得る官能基を含む重合体100質量部に対して、0.1〜30質量部含む、請求項1〜5のいずれか一つに記載の爪又は人工爪被覆用硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
(C)光ラジカル開始剤を、上記の水性エマルジョン(A)に含まれる、活性エネルギー線照射により重合反応し得る官能基を含む重合体100質量部に対して、1〜10質量部含む、請求項1〜6のいずれか一つに記載の爪又は人工爪被覆用硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
(D)天然物由来のワックスを更に含む、請求項1〜7のいずれか一つに記載の爪又は人工爪被覆用硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
(D)天然物由来のワックスを、上記の水性エマルジョン(A)に含まれる、活性エネルギー線照射により重合反応し得る官能基を含む重合体100質量部に対して、0.1〜15質量部含む、請求項1〜7のいずれか一つに記載の爪又は人工爪被覆用硬化性樹脂組成物。

【公開番号】特開2011−121867(P2011−121867A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278268(P2009−278268)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(000132404)株式会社スリーボンド (140)
【Fターム(参考)】