説明

物体検出手段の試験装置、及び試験車両

【課題】物体検出手段の試験コストを低く抑えつつ、試験精度を向上させることが可能な物体検出手段の試験装置、及び試験車両を提供する。
【解決手段】試験装置10は、物体検出手段20,22を取り付ける取付部12と、物体60を検出する検出位置である第1位置と物体60との衝突を回避する第2位置との間で、取付部12を位置切換可能に支持する支持部14と、支持部14を駆動して第1位置と第2位置との間で取付部12の位置を切り換える駆動部16と、を備える。この試験装置10が車両40の荷台42に搭載され、試験車両100が構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体検出手段の試験装置、及び試験車両に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の衝突を試験する装置として、例えば特許文献1に開示されたものがある。この装置では、撮影ピット上の走行路に沿ってテスト車両を走行させ、衝突の様子を側方から撮影している。
【特許文献1】特開2003−50179号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記したように、車両の衝突を解析するのであれば、実際に車両を衝突させる必要がある。しかしながら、車両に搭載されたレーダなどの物体検出手段を試験するのであれば、車両が衝突するまでの情報が重要であり、実際に衝突するときの検出結果は不要である。従って、このような物体検出手段の試験においては、実際に車両を衝突させたのでは、費用の無駄が生じてしまう。
【0004】
一方で、物体検出手段の試験においては、実際に車両を衝突させるのではなく、テストドライバーによる運転で衝突直前にターゲットを回避するようにして試験することもできる。しかしながら、ターゲットを回避する必要性から、データ取得に限界があって試験精度の向上にも限界があり、また危険を伴うおそれもあった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、物体検出手段の試験コストを低く抑えつつ、試験精度を向上させることが可能な物体検出手段の試験装置、及び試験車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る物体検出手段の試験装置は、物体検出手段を取り付ける取付部と、物体を検出する検出位置である第1位置と物体との衝突を回避する第2位置との間で、取付部を位置切換可能に支持する支持部と、支持部を駆動して第1位置と第2位置との間で取付部の位置を切り換える駆動部と、を備えることを特徴とする。
【0007】
この試験装置では、物体検出手段を取付部に取り付け、駆動部によりこの取付部を支持する支持部を駆動することで、物体検出手段を物体の検出位置である第1位置とその物体との衝突を回避する第2位置との間で位置切換できる。すなわち、車両と比較して重量の軽い物体検出手段の方を位置切換できる。従って、衝突の寸前まで物体検出手段を試験しつつ物体との衝突を回避することが可能となり、試験コストを低く抑えつつ、試験精度を向上させることができる。
【0008】
支持部は、駆動部により駆動されて中心軸周りに回転可能な支持棒を含み、取付部は、支持棒から垂下され、支持棒と一体回転することで、第1位置と第2の位置との間で位置切換されることを特徴としてもよい。このようにすれば、支持棒と一体回転させて取付部を振り上げたり下ろしたりすることで、物体検出手段の位置切換を容易に行うことができる。
【0009】
支持部は、駆動部により駆動されて先端部が水平方向に屈曲可能な支持棒を含み、取付部は、支持棒の前記先端部から垂下され、先端部と一体に移動することで、第1位置と第2の位置との間で位置切換されることを特徴としてもよい。このようにすれば、支持棒の先端部を屈曲させて取付部を水平方向に移動させることで、物体検出手段の位置切換を容易に行うことができる。
【0010】
支持部は、駆動部により駆動されて長手方向にスライド可能な支持棒を含み、取付部は、支持棒から垂下され、支持棒と一体で長手方向にスライドすることで、第1位置と第2の位置との間で位置切換されることを特徴としてもよい。このようにすれば、支持棒と一体に長手方向に取付部をスライドさせることで、物体検出手段の位置切換を容易に行うことができる。
【0011】
物体検出手段は、送出した信号波の物体からの反射波を受信して物体を検出するレーダを含むことを特徴としてもよい。このようなレーダの場合、物体からの反射特性が実使用時と同等のものでなければ適切な試験結果が得られないが、本発明の試験装置によれば、物体からの反射特性として実使用時のものと同等のものが得られるため、特に好ましい。
【0012】
本発明に係る物体検出手段の試験車両は、上記した物体検出手段の試験装置と、試験装置を荷台に搭載して移動可能な車両と、を備えることを特徴とする。
【0013】
この物体検出手段の試験車両によれば、車両により試験装置を移動させることができるため、車両に搭載された状態での物体検出手段の試験に近付けることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0015】
図1は、実施形態に係る物体検出手段の試験装置(以下、単に試験装置ともいう。)を搭載した試験車両を示す側面図であり、図2は、図1の試験車両の平面図である。図1及び図2に示すように、試験車両100は、試験装置10と、荷台42を有する車両40とを備えている。
【0016】
試験装置10は、物体検出手段を取り付ける取付部12と、取付部12を位置切換可能に支持する支持棒14と、支持棒14を駆動して取付部12の位置を切り換えるエアシリンダ(駆動部)16と、を有している。
【0017】
取付部12は、図3に示すように、平行に配置される一対の縦枠12aと、この縦枠12a間に横架される一対の横枠12bとを有している。下側の横枠12bの中央には、物体検出手段としてミリ波レーダ20が取り付けられている。また上側の横枠12bの中央には、物体検出手段としてステレオカメラ22が取り付けられている。
【0018】
支持棒14は、図1及び図2に示すように、車両40の荷台42に搭載された立体状の支持枠46により、自身の中心軸X周りに回転可能に基端部で支持されている。支持棒14の先端部14aは、車両40の荷台42から側方に突出しており、この先端部14aに上記した取付部12が垂下されている。従って、物体検出手段20,22は、車両40から側方に離間して設けられている。
【0019】
この支持棒14が中心軸X周りに回転することで、物体検出手段20,22を取り付けた取付部12は、相手車両(物体)60の検出位置である第1位置と、相手車両60との衝突を回避する第2位置との間で、位置が切り換えられる。すなわち、図4(a)に示すように、データ取得時において取付部12は支持棒14から鉛直下方に垂下された第1位置にあり、相手車両60と物体検出手段20,22とが相対的に接近して衝突する寸前に、支持棒14が90度程度回転して取付部12が上方に振り上げられ、図4(c)に示すように、相手車両60との衝突を回避する第2位置に位置が切り換えられる。ここで、相手車両60との衝突が回避できるのであれば、支持棒14の回転角度は90度程度に限定されるものではない。
【0020】
なお、車両40の荷台42上で支持棒14を支持する高さは、物体検出手段20,22で検出する物体の高さよりも高く設定される。そして、支持棒14に垂下された取付部12に取り付けられる物体検出手段20,22の高さは、通常のデータ取得時の高さに設定される。例えば、ミリ波レーダ20はフロントグリルに搭載したときの高さに設定され、ステレオカメラ22はフロントウィンドウの上縁部に取り付けられたときの高さに設定される。
【0021】
エアシリンダ(駆動部)16は、エアの力で伸縮されるピストン16aを有している。このエアシリンダ16のピストン16aが支持棒14から延びるアーム14aを押すことで、支持棒14が回転して取付部12が振り上げられる。一方で、エアシリンダ16のピストン16aが支持棒14から延びるアーム14aを引くことで、支持棒14が回転して取付部12が元の位置に戻される。
【0022】
車両40は、上記した試験装置10を荷台42に搭載して移動可能である。この車両40の荷台42の側面であって支持棒14が設けられた位置よりも前方には、相手車両60の接近を検出するセンサ44が設けられている。このセンサ44とエアシリンダ16とは図示しない制御部を介して電気的に接続されており、このセンサ44が相手車両60を検出したときに、エアシリンダ16が駆動され支持棒14が回転されて、取付部12が振り上げられる。そして、相手車両60の検出時から所定時間が経過した時点で、エアシリンダ16が再び駆動され支持棒14が逆方向に回転されて、取付部12が元の位置に戻される。
【0023】
次に、上記した試験装置10を搭載した試験車両100により、接近して来る相手車両60を検出する場合における作用及び効果について説明する。
【0024】
図4(a)に示すように、ミリ波レーダ20とステレオカメラ22を取り付けた取付部12は、データ取得時において支持棒14から鉛直下方に垂下された第1位置に位置決めされている。この状態で、検出対象である相手車両60と自車両40とを接近させながら、ミリ波レーダ20により信号波を送出すると共に相手車両60からの反射波を受信して、相手車両60に関するデータを取得する。また、ステレオカメラ22により相手車両60に関する画像データを取得する。
【0025】
次に、相手車両60が接近してセンサ44が相手車両60を検出すると、図4(b)に示すように、エアシリンダ16が駆動され支持棒14が回転されて、取付部12が振り上げられる。そして、図4(c)に示すように、支持棒14が90度程度回転して取付部12がほぼ水平の位置まで振り上げられ、この状態で相手車両60が通過することで、相手車両60と物体検出手段20,22との衝突が回避される。
【0026】
次に、相手車両60の検出時から所定時間が経過した時点で、エアシリンダ16が再び駆動され支持棒14が逆方向に回転されて、図4(d)及び図4(e)に示すように、取付部12が元の位置に戻される。
【0027】
このように、本実施形態に係る試験装置10では、物体検出手段20,22を取付部12に取り付け、エアシリンダ16によりこの取付部12を支持する支持棒14を回転駆動することで、物体検出手段20,22を相手車両60の検出位置である第1位置と相手車両60との衝突を回避する第2位置との間で容易に位置切換できる。すなわち、重量物である相手車両60を衝突寸前に移動させようとすると衝突回避が難しいが、本実施形態に係る試験装置10では、相手車両60と比較して重量の軽い物体検出手段20,22の方を容易に位置切換できる。従って、衝突の寸前まで物体検出手段20,22を試験しつつ相手車両60との衝突を回避することが可能となり、試験コストを低く抑えつつ、試験精度を向上させることができる。
【0028】
また、支持棒14をエアシリンダ16により回転させるだけであるため、支持棒14と一体回転させて取付部12を振り上げたり下ろしたりすることで、物体検出手段20,22の位置切換を容易に行うことができる。
【0029】
特に、ミリ波レーダ20は、相手車両60からの反射特性が実使用時と同等のものでなければ適切な試験結果が得られないが、本実施形態に係る試験装置10によれば、相手車両60からの反射特性として実使用時のものと同等のものが得られるため、試験精度を効果的に高めることができる。
【0030】
また、本実施形態に係る試験車両100は、上記した試験装置10を車両40の荷台42に搭載しているため、試験装置10を移動させることが可能になり、車両に搭載された状態での物体検出手段20,22の試験に近付けて、試験精度をより向上させることが可能となる。
【0031】
本発明は上述した実施形態に限定されることなく、種々の変形が可能である。例えば、上述した実施形態においては、図5(a)に示すように、支持棒14を回転させることで物体検出手段20,22と相手車両60との衝突を回避していたが、衝突回避の方法はこれに限定されるものではない。すなわち、図5(b)に示すように、先端部14aが水平方向に屈曲可能な支持棒14を設け、取付部12を、支持棒14の先端部14aから垂下し、図示しない駆動部により先端部14aと一体に移動させることで、試験位置である第1位置と衝突回避位置である第2の位置との間で位置切換されるものであってもよい。このようにすれば、支持棒14の先端部14aを屈曲させて取付部12を水平方向に移動させることで、物体検出手段20,22の位置切換を容易に行い、相手車両60との衝突を回避することができる。
【0032】
或いは、図6(a)及び図6(b)に示すように、長手方向にスライド可能な支持棒14を設け、取付部12を、支持棒14の先端部12aから垂下し、図示しない駆動部により支持棒14と一体で長手方向にスライドさせることで、試験位置である第1位置と衝突回避位置である第2の位置との間で位置切換されるものであってもよい。このようにすれば、支持棒14と一体に長手方向に取付部12をスライドさせることで、物体検出手段20,22の位置切換を容易に行い、相手車両60との衝突を回避することができる。なお、スライドの仕方としては、支持棒14の長さを変えずにスライドさせる場合や、支持棒14を伸縮させることでスライドさせる場合などが挙げられる。
【0033】
また上記実施形態では、図7(a)に示すように、取付部12の縦枠12aを直線状に設け、ステレオカメラ22とミリ波レーダ20の取付位置を前後方向に関して同列にしたものの、図7(b)に示すように、取付部12の縦枠12aの下端部をL字型に屈曲し、実際の車両取付位置に合わせて、ミリ波レーダ20を前方に取り付けると共に、ステレオカメラ22をこれより後方に取り付けてもよい。図7(a)に示す場合は、ステレオカメラ22の画像データとミリ波レーダ20で取得したデータとを融合させる場合に、ステレオカメラ22が仮想的に後方に取り付けられているデータとなるようにデータの補正が必要となるが、図7(b)に示す場合は、データ補正が不要である。
【0034】
また上記実施形態では、物体検出手段としてミリ波レーダ20とステレオカメラ22の双方を取付部12に取り付けた場合について説明したが、これらのうち一方のみを取り付けたものであってもよい。また、物体検出手段はこれらに限定されず、赤外線レーダなど他の検出手段であってもよい。
【0035】
また上記実施形態では、センサ44が相手車両60を検出したときに自動的にエアシリンダ16が駆動されて、相手車両60と物体検出手段20,22との衝突を回避するようにしていたが、センサ44を設けることなく、操作者のボタン操作によりエアシリンダ16を駆動するようにしてもよい。
【0036】
また、駆動部としてエアシリンダ16により支持棒14を回転させていたが、これ以外にも支持棒14を回転させたり、支持棒14の先端部14aを屈曲させたり、支持棒14をスライドさせたりできるものであれば、それを適用可能である。例えば、駆動部はロープの繰り出し及び巻取りを可能とするリール機構を有し、ロープを支持棒14とリール機構との間に巻回して、ロープを繰り出したり巻き取ったりすることで、支持棒14を回転させるようにしてもよい。
【0037】
また、支持棒14は車両40の側方でなく後方に延びるものであってもよい。また、相手車両60の検出においては、相手車両60と自車両40の双方を走らせてもよく、片方のみ走らせてもよい。また、試験装置10は車両40に搭載することなく所定位置に設置して使用してもよい。また、検出の対象である物体は車両60に限られず、看板や自転車、オートバイ、人体ダミーなどであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施形態に係る試験装置を搭載した試験車両を示す側面図である。
【図2】図1の試験車両の平面図である。
【図3】物体検出手段としてのミリ波レーダ及びステレオカメラが取り付けられた取付部を示す図である。
【図4】図1の試験車両による物体検出の試験の様子を示す図である。
【図5】試験装置の変形例を示す平面図である。
【図6】試験装置の他の変形例を示す平面図である。
【図7】取付部の変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0039】
10…試験装置、12…取付部、14…支持棒(支持部)、16…エアシリンダ(駆動部)、20…ミリ波レーダ(物体検出手段)、22…ステレオカメラ(物体検出手段)、40…車両、42…荷台、60…相手車両(物体)、100…試験車両。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体を検出する物体検出手段の試験装置であって、
前記物体検出手段を取り付ける取付部と、
前記物体を検出する検出位置である第1位置と該物体との衝突を回避する第2位置との間で、前記取付部を位置切換可能に支持する支持部と、
前記支持部を駆動して前記第1位置と前記第2位置との間で前記取付部の位置を切り換える駆動部と、
を備えることを特徴とする物体検出手段の試験装置。
【請求項2】
前記支持部は、前記駆動部により駆動されて中心軸周りに回転可能な支持棒を含み、
前記取付部は、前記支持棒から垂下され、該支持棒と一体回転することで、前記第1位置と前記第2の位置との間で位置切換されることを特徴とする請求項1に記載の物体検出手段の試験装置。
【請求項3】
前記支持部は、前記駆動部により駆動されて先端部が水平方向に屈曲可能な支持棒を含み、
前記取付部は、前記支持棒の前記先端部から垂下され、該先端部と一体に移動することで、前記第1位置と前記第2の位置との間で位置切換されることを特徴とする請求項1に記載の物体検出手段の試験装置。
【請求項4】
前記支持部は、前記駆動部により駆動されて長手方向にスライド可能な支持棒を含み、
前記取付部は、前記支持棒から垂下され、該支持棒と一体で長手方向にスライドすることで、前記第1位置と前記第2の位置との間で位置切換されることを特徴とする請求項1に記載の物体検出手段の試験装置。
【請求項5】
前記物体検出手段は、送出した信号波の前記物体からの反射波を受信して物体を検出するレーダを含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の物体検出手段の試験装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の物体検出手段の試験装置と、
前記試験装置を荷台に搭載して移動可能な車両と、
を備えることを特徴とする物体検出手段の試験車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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