説明

物理量センサの製造方法及びリードフレーム

【課題】 物理量センサに使用するリードフレームにおいて、樹脂の充填に伴う物理量センサチップの傾斜角度の変化を抑制できるようにする。
【解決手段】 物理量センサチップ3,5を載置する少なくとも2つのステージ部7,9と、これを囲む平面視略矩形の枠状に形成された矩形枠部15と、前記ステージ部7,9と前記矩形枠部15とを連結する連結部13とを有する金属製薄板からなり、前記連結部13は、前記矩形枠部15に対して前記金属製薄板の厚さ方向に直交する基準軸線L3を中心に前記各ステージ部7,9を傾斜させる易変形部23を有し、2つの前記ステージ部7,9が、前記矩形枠部15によって区画される矩形状の内方領域S1の周縁のうち、前記矩形枠部15の対角線L2を挟んで相対する一対の角部15e,15gにそれぞれ連結されていることを特徴とするリードフレーム1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、磁気や重力等の物理量の方位や向きを測定する物理量センサを製造する方法、及び物理量センサの製造に使用するリードフレームに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機等の携帯端末装置には、ユーザの位置情報を表示させるGPS(Global Positioning System)機能を持つものが登場している。このGPS機能に加え、地磁気を正確に検出する機能や加速度を検出する機能を持たせることで、ユーザが携帯する携帯端末装置の三次元空間内の方位や向きあるいは移動方向の検知を行うことができる。
上述した機能を携帯端末装置に持たせるためには、磁気センサ、加速度センサ等の物理量センサを携帯端末装置に内蔵させることが必要となる。また、このような物理量センサにより三次元空間での方位や加速度を検知可能とするためには、物理量センサチップの設置面を傾斜させることが必要となる。
【0003】
ここで、上述した物理量センサは、現在様々なものが提供されており、例えば、その1つとして、磁気を検出すると共に上述したものとは異なり設置面が傾斜しない磁気センサが知られている。この磁気センサは、基板の表面上に載置されて該表面に沿って互いに直交する2方向(X,Y方向)の外部磁界の磁気成分に対して感応する一方の磁気センサチップ(物理量センサチップ)と、基板の表面上に載置されて該表面に直交する方向(Z方向)の外部磁界の磁気成分に対して感応する他方の磁気センサチップとを有している。
そして、この磁気センサはこれら一対の磁気センサチップにより検出された磁気成分により、地磁気成分を3次元空間内のベクトルとして測定を行っている。
【0004】
ところが、この磁気センサは、他方の磁気センサチップを基板の表面に対して垂直に立てた状態で載置していたため、厚み(Z方向に対する高さ)が増してしまう不都合がある。したがって、この厚みを極力小さくする意味においても、始めに説明したように設置面が傾斜する物理量センサ(例えば、特許文献1から3参照。)が好適に用いられている。
【0005】
さらに、この種の物理量センサとして、上記特許文献1に記載されているような加速度センサがある。この片側ビーム構造の加速度センサは、搭載基板に対して予め加速度センサチップ(物理量センサチップ)を傾斜させているため、センサパッケージングを搭載基板の表面上に載置したとしても、傾斜方向に応じた所定軸方向の感度を高く保ち、基板の表面に沿う方向を含む他軸方向の感度を低減することができる。
【0006】
ところで、この種の物理量センサを製造する際には、例えば、図9に示すように、物理量センサチップ51,53を載置するステージ部55,57と、このステージ部55,57を囲むフレーム部59と、ステージ部55,57をフレーム部59に対して連結する連結部61とを備えたリードフレーム50を用いる。
すなわち、図10に示すように、矩形枠部59や連結部61に対して物理量センサチップ51,53を配したステージ部55,57を金型P,Q内で傾斜させた状態で、溶融した樹脂を金型P,Q内に射出し、樹脂モールド部を形成する。
【特許文献1】特開平9−292408号公報
【特許文献2】特開2002−156204号公報
【特許文献3】特開2004−128473号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、物理量センサの製造において溶融樹脂を充填する際には、矩形枠部59に対して各ステージ部55,57が溶融樹脂の流れに押されて、ステージ部55,57及び物理量センサチップ51,53の傾斜角度が不意に変化する虞があった。特に、溶融樹脂の流れに押されて、矩形枠部59に対するステージ部55,57及び物理量センサチップ51,53の傾斜角度が小さくなると、2つの物理量センサチップ51,53により三次元空間内の方位や向き、あるいは移動方向を検知することが困難になるという問題がある。
この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、樹脂の充填に伴う物理量センサチップの傾斜角度の変化を抑制できる物理量センサの製造方法及びリードフレームを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
請求項1に係る発明は、物理量センサチップを載置する少なくとも2つのステージ部と、これを囲む平面視略矩形の枠状に形成された矩形枠部と、前記ステージ部と前記矩形枠部とを連結する連結部とを有する金属製薄板からなるリードフレームであって、前記連結部は、前記矩形枠部に対して前記金属製薄板の厚さ方向に直交する基準軸線を中心に前記各ステージ部を傾斜させる易変形部を有し、2つの前記ステージ部が、前記矩形枠部によって区画される矩形状の内方領域の周縁のうち、前記矩形枠部の対角線を挟んで相互に隣接する一対の辺、若しくは、相対する一対の角部にそれぞれ連結されていることを特徴とするリードフレームを提案している。
【0009】
この発明に係るリードフレームを利用して物理量センサを製造する際には、はじめに、物理量センサチップをステージ部の表面に配し、次いで、ステージ部が基準軸線を中心に移動するように易変形部を変形させて、ステージ部及び物理量センサチップを矩形枠部に対して傾斜させる。その後、これらステージ部及び物理量センサチップの傾斜状態を保持したまま、リードフレームを金型内に収容する。最後に、金型により形成される樹脂形成空間に溶融した樹脂を射出して、リードフレーム及び物理量センサチップを一体的に固定する樹脂モールド部を形成する。
【0010】
ここで、2つのステージ部が、対角線を挟んで相互に隣接する一対の辺や、相対する一対の角部に連結されている場合には、対角線上に位置すると共に前記一対の辺に隣接しない内方領域の一方の角部から、対角線上に樹脂モールド部を形成する溶融樹脂を射出する。この射出の際、樹脂形成空間における溶融樹脂は、対角線上に位置する他方の角部や、この他方の角部に隣接する前記一対の辺や前記一対の角部に向けて広がって流れる。このため、溶融樹脂の流れによってステージ部及び物理量センサチップを押す力は、矩形枠部に対するステージ部の傾斜角度が小さくなる方向に作用しない。
【0011】
また、2つのステージ部は、一方の角部から離れて位置する一対の辺や一対の角部に連結されているため、溶融樹脂の射出の際に、ステージ部及び物理量センサチップが溶融樹脂によって押される力を小さくすることもできる。
なお、2つのステージ部を前記一対の角部に連結する場合には、溶融樹脂を他方の角部から射出しても、前述と同様に、矩形枠部に対するステージ部の傾斜角度が小さくなる方向に作用することがなく、また、ステージ部及び物理量センサチップが溶融樹脂によって押される力を小さくすることもできる。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のリードフレームにおいて、前記基準軸線が、前記対角線と平行に配されることを特徴とするリードフレームを提案している。
この発明に係るリードフレームによれば、ステージ部及び物理量センサチップを矩形枠部に対して傾斜させても、ステージ部や物理量センサチップの表面が対角線に対して略平行に配されることになるため、対角線の方向から流入する溶融樹脂の流れが妨げられることを確実に防止できると共に、ステージ部及び物理量センサチップが、樹脂形成空間内に射出される溶融樹脂によって押されることを確実に防止できる。
【0013】
また、2つのステージ部を矩形枠部の表面に突出させるように傾斜させた状態でリードフレームを金型内に収容する際には、矩形枠部の裏面側を金型の表面に当接させるため、基準軸線の近傍に位置する金型の表面とステージ部との隙間は小さくなる。ここで、樹脂モールド部を形成する際には、溶融樹脂が基準軸線に対して略平行な方向に射出されるため、溶融樹脂がステージ部から抵抗を受けることなく前記隙間に容易に流れ込むことになる。したがって、基準軸線近傍に位置する金型とステージ部との微少な隙間にも溶融樹脂を容易に流し込むことができる。
【0014】
請求項3に係る発明は、物理量センサチップを載置する2つのステージ部と、これを囲む平面視略矩形の枠状に形成された矩形枠部と、前記矩形枠部によって区画される矩形状の内方領域の周縁のうち、前記矩形枠部の一方の対角線を挟んで相互に隣接する一対の辺に2つの前記ステージ部をそれぞれ連結する連結部とを有する金属製薄板からなるリードフレームを用意する準備工程と、前記各ステージ部に前記物理量センサチップを接着する接着工程と、前記連結部を変形させて前記各ステージ部を前記矩形枠部に対して傾斜させるステージ傾斜工程と、前記リードフレームを金型内に収容すると共に、前記金型内に樹脂を射出して前記リードフレームおよび前記物理量センサチップを樹脂により一体的にモールドするモールド工程とを備え、前記モールド工程において、前記一方の対角線上に位置すると共に前記一対の辺に隣接しない前記内方領域の一方の角部から他方の角部に向けて前記樹脂を射出することを特徴とする物理量センサの製造方法を提案している。
【0015】
請求項4に係る発明は、物理量センサチップを載置する2つのステージ部と、これを囲む平面視略矩形の枠状に形成された矩形枠部と、前記矩形枠部によって区画される矩形状の内方領域の周縁のうち、前記矩形枠部の一方の対角線を挟んで相対する一対の角部に2つの前記ステージ部をそれぞれ連結する連結部とを有する金属製薄板からなるリードフレームを用意する準備工程と、前記各ステージ部に前記物理量センサチップを接着する接着工程と、前記連結部を変形させて前記各ステージ部を前記矩形枠部に対して傾斜させるステージ傾斜工程と、前記リードフレームを金型内に収容すると共に、前記金型内に樹脂を射出して前記リードフレームおよび前記物理量センサチップを樹脂により一体的にモールドするモールド工程とを備え、前記モールド工程において、前記一方の対角線上に位置する前記内方領域の一方の角部から他方の角部に向けて前記樹脂を射出することを特徴とするリードフレームの製造方法を提案している。
【0016】
請求項5に係る発明は、請求項3又は請求項4に記載のリードフレームの製造方法において、前記モールド工程において、前記一方の角部に位置して前記樹脂を射出する射出口から、前記ステージ部の表面若しくは裏面が見えることを特徴とするリードフレームの製造方法を提案している。
【0017】
これらの発明に係る物理量センサの製造方法によれば、モールド工程においては、溶融した樹脂が、前記一対の辺に隣接しない内方領域の一方の角部から、他方の角部や前記一対の辺、前記一対の角部に向けて広がって流れる。このため、溶融樹脂の流れによってステージ部及び物理量センサチップを押す力は、矩形枠部に対するステージ部の傾斜角度を小さくする方向に作用しない。特に、モールド工程において、射出口から傾斜したステージ部の裏面が見えている場合には、ステージ部の傾斜角度が大きくなるように射出口から流入された溶融樹脂がステージ部の裏面を押すため、溶融樹脂の流れがステージ部の傾斜角度を小さくする方向に作用することを確実に防止できる。
【0018】
また、2つのステージ部は、前記一方の角部に位置する溶融樹脂の射出口から離れて位置する一対の辺や一対の角部に連結されているため、溶融樹脂の射出の際に、ステージ部及び物理量センサチップが溶融樹脂によって押される力を小さくすることができる。
なお、2つのステージ部を一対の角部に連結する場合には、他方の対角線上に位置する2つの角部のいずれから溶融樹脂を射出しても、前述と同様に、矩形枠部に対するステージ部の傾斜角度を小さくする方向に作用することがなく、また、ステージ部及び物理量センサチップが溶融樹脂によって押される力を小さくすることができる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、請求項1、及び、請求項3から請求項5に係る発明によれば、樹脂モールド部を形成する際に、ステージ部及び物理量センサチップが溶融樹脂によって押される力を小さくすることができるため、樹脂の充填に基づく物理量センサチップの傾斜角度の変化を抑制することができる。また、矩形枠部に対してステージ部の傾斜角度が小さくなることを防止できるため、2つの物理量センサチップを相互に所定角度以上で傾斜させておくことができる。したがって、2つの物理量センサチップにより三次元空間内の方位や向きあるいは移動方向を検知することができる物理量センサを提供できる。
【0020】
また、請求項1及び請求項2に係る発明によれば、基準軸線近傍に位置する金型とステージ部との微少な隙間にも溶融樹脂を容易に流し込むことができるため、樹脂形成空間内に樹脂が充填されない空間(ボイド)が発生することを防止できる。
さらに、請求項2に係る発明によれば、溶融樹脂の流れが、ステージ部及び物理量センサチップに妨げられることなく、金型の表面とステージ部との隙間に回り込むため、ステージ部及び物理量センサチップが、樹脂形成空間内に射出される溶融樹脂によって押されることを確実に防止でき、樹脂モールド部を形成する際に物理量センサチップの傾斜角度が変化することを確実に防ぐことができる。したがって、2つの物理量センサチップの相対的な傾斜角度を精度良く設定することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1から図6は、本発明の一実施形態を示しており、この実施の形態に係る磁気センサ(物理量センサ)は、相互に傾斜させた2つの磁気センサチップにより外部磁界の向きと大きさを測定するものであり、薄板状の銅材等からなる金属製薄板にプレス加工及びエッチング加工を施して形成されるリードフレームを用いて製造されるものである。
リードフレーム1は、図1,2に示すように、平面視矩形の板状に形成された磁気センサチップ(物理量センサチップ)3,5を載置する2つのステージ部7,9と、ステージ部7,9を支持するフレーム部11と、各ステージ部7,9及びフレーム部11を相互に連結する連結部13とを備えており、これらステージ部7,9、フレーム部11及び連結部13は一体的に形成されている。
【0022】
フレーム部11は、ステージ部7,9を囲むように平面視略正方形の枠状に形成された矩形枠部15と、この矩形枠部15によって区画される矩形状の内方領域S1の各辺15a〜15dから内方側に突出する複数のリード17とを備えている。
リード17は、矩形枠部15の各辺15a〜15dにそれぞれ複数(図示例では7つずつ)設けられており、磁気センサチップ3,5のボンディングパッド(図示せず)と電気的に接続することを目的としたものである。
【0023】
2つのステージ部7,9は、その表面7a,9aにそれぞれ磁気センサチップ3,5を載置するように平面視略正方形状に形成されており、その表面7a,9aの対角線が矩形枠部15の第1の対角線L1上に位置するように並べて配されている。また、これら2つのステージ部7,9は、矩形枠部15の第2の対角線(一方の対角線)L2を中心として相互に対称な位置に配されている。
相互に対向する各ステージ部7,9の一端部7b,9b側には、ステージ部7,9の裏面7c,9c側に突出する一対の突出片19,21がそれぞれ形成されている。これら突出片19,21は、ステージ部7,9を傾斜させるためのものである。なお、各ステージ部7,9の一対の突出片19,21は、ステージ部7,9の相互に隣り合う2つの辺7e,7f,9e,9fに各々設けられ、第1の対角線L1に対して互いに対称な位置に配されている。
【0024】
連結部13は、内方領域S1の周縁のうち、第1の対角線L1上に位置する各角部15e,15gから各ステージ部7,9の他端部7d,9dに向けて突出しており、各ステージ部7,9の他端部7d,9d側に形成された易変形部23とを備えている。すなわち、2つのステージ部7,9は、内方領域S1の周縁のうち、第2の対角線L2を挟んで相対する一対の角部15e,15gにそれぞれ連結されている。
易変形部23は、矩形枠部15の厚さ方向に直交する基準軸線L3を中心にステージ部7,9を傾斜させるために、容易に変形可能に形成されている。なお、各基準軸線L3は、矩形枠部15の第2の対角線L2と平行に配されている。
【0025】
次に、上述したリードフレーム1を用いて磁気センサを製造する方法を説明する。
はじめに、上述したリードフレーム1を用意し(準備工程)、各ステージ部7,9の表面7c,9cにそれぞれ磁気センサチップ3,5を接着する(接着工程)と共に、ワイヤー(図示せず)を配して磁気センサチップ3,5の表面に配されたボンディングパッド(図示せず)とリード17とを電気的に接続する(配線工程)。なお、ワイヤーを配する際には、ステージ部7,9を傾斜させる段階において、ワイヤーと磁気センサチップ3,5とのボンディング部分、およびリード17とのボンディング部分が互いに変化するため、このワイヤー23の材質は、曲げやすく柔らかいことが好ましい。
【0026】
次いで、図3に示すように、凹部E1を有する金型Eの表面E2にリードフレーム1の矩形枠部15を配する。この際には、矩形枠部15の内側にあるリード、磁気センサチップ3,5、ステージ部7,9、連結部13及び突出片19,21は、凹部E1の上方に配される。なお、この状態においては、凹部E1側から上方側に向けて、磁気センサチップ3,5、ステージ部7,9、突出片19,21が順番に配されている。
そして、突出片19,21の上方には、平坦面(内面)F1を有する金型Fが配され、前述した金型Eと共にリードフレーム1の矩形枠部15を上下方向から挟み込むように構成されている。
【0027】
その後、金型Fを金型Eに近づける方向に移動させ、図4に示すように、これら一対の金型E,Fにより矩形枠部15を挟み込むと共に、金型Fの平坦面F1により突出片19,21を押圧する(ステージ傾斜工程)。この際には、基準軸線L3上に位置する易変形部23が変形し、ステージ部7,9がフレーム部11に対して基準軸線L3を中心に移動することになる。これにより、ステージ部7,9と共に磁気センサチップ3,5が、矩形枠部15や平坦面F1に対して所定の角度で傾斜することになる。
その後、金型Fの平坦面F1により突出片19,21を押圧した状態で、金型E,Fの凹部E1及び平坦面F1により画定される樹脂形成空間に溶融した樹脂を射出し、磁気センサチップ3,5を樹脂の内部に埋める樹脂モールド部を形成する(モールド工程)。
【0028】
このモールド工程の際に、溶融樹脂は、図1に示すように、第2の対角線L2上に位置する矩形枠部15の一方の角部15h側に設けられたゲート(射出口)Gから射出され、この一方の角部15hの対角に位置する他方の角部15fや、第1の対角線L1上に位置する一対の角部15e,15g、他方の角部15f側に位置する2つの辺15a,15bに向けて広がって流れる。
【0029】
ここで、溶融樹脂の主な射出方向は、2つのステージ部7,9の間を通る第2の対角線L2に略一致している。また、各ステージ部7,9を傾斜させる基準軸線L3が溶融樹脂の射出方向となる第2の対角線L2に略平行に配されている、すなわち、矩形枠部15に対して傾斜したステージ部7,9や磁気センサチップ3,5の表面3b,5b,7a,9aが第2の対角線L2に対して略平行に配されることになる。
このため、ゲートGから射出された溶融樹脂が2つのステージ部7,9及び磁気センサチップ3,5によって妨げられることを確実に防止できる。すなわち、溶融樹脂の射出の際に、ステージ部7,9及び磁気センサチップ3,5が溶融樹脂によって押されることを確実に防止できる。
【0030】
なお、図4に示すように、2つのステージ部7,9を矩形枠部15の表面15i側に突出させるように傾斜させた状態でリードフレーム1を金型E,F内に収容する際には、矩形枠部15の裏面15j側を金型Fの表面F1に当接するため、基準軸線L3の近傍に位置する金型Fの表面F1とステージ部7,9との隙間S1は小さくなる。
ここで、前述したように、各ステージ部7,9を傾斜させる基準軸線L3は溶融樹脂の射出方向となる第2の対角線L2に略平行に配されており、樹脂モールド部を形成する際には、溶融樹脂が基準軸線L3に対して略平行な方向に射出されることになるため、溶融樹脂がステージ部7,9から抵抗を受けることなく隙間S1に容易に流れ込むことになる。したがって、基準軸線L3近傍に位置する微少な隙間S1にも溶融樹脂を容易に充填することができる。
【0031】
上述したモールド工程を行うことにより、図5,6に示すように、磁気センサチップ3,5が、相互に傾斜した状態で樹脂モールド部29の内部に固定されることになる。なお、ここで用いる樹脂は、樹脂の流動によって磁気センサチップ3,5の傾斜角度が変化しないように、流動性が高い材質であることが好ましい。
最後に、矩形枠部15を切り落として連結部13及びリード17を個々に切り分け、磁気センサ30の製造が終了する。
【0032】
以上のように製造された磁気センサ30の樹脂モールド部29は、前述した矩形枠部15と同様の平面視略矩形状に形成されている。また、連結部13の裏面13b及びリード17の裏面は、樹脂モールド部29の下面29a側に露出している。さらに、リード17の一端部は、金属製のワイヤー(図示せず)により磁気センサチップ3,5と電気的に接続されており、その接続部分は樹脂モールド部29の内部に埋まっている。
【0033】
磁気センサチップ3,5は、樹脂モールド部29の内部に埋まっており、樹脂モールド部29の下面29aに対して傾斜している。また、相互に対向する磁気センサチップ3,5の一端部3a,5aが樹脂モールド部29の上面29c側に向くと共に、その表面3b,5bが相互に鋭角に傾斜している。ここで鋭角とは、ステージ部7の表面7aと、ステージ部9の裏面9cとのなす角度θを示している。
【0034】
磁気センサチップ3は、外部磁界の2方向の磁気成分に対してそれぞれ感応するものであり、これら2つの感応方向は、磁気センサチップ3の表面3bに沿って互いに直交する方向(A方向およびB方向)となっている。
また、磁気センサチップ5は、外部磁界の2方向の磁気成分に対して感応するものであり、これら2つの感応方向は、磁気センサチップ5の表面5bに沿って互いに直交する方向(C方向およびD方向)となっている。
ここで、A,C方向は2つの磁気センサチップ3,5の配列方向となる第1の対角線L1に直交する方向で、互いに逆向きとなっている。また、B,D方向は第1の対角線L1と平行な方向で、互いに逆向きとなっている。
【0035】
さらに、磁気センサチップ3の表面3bに沿ってA,B方向により画定される平面(A−B平面)と、磁気センサチップ5の表面5bに沿ってC,D方向により画定される平面(C−D平面)とは、互いに鋭角な角度θで交差している。
なお、A−B平面とC−D平面とがなす角度θは、0°よりも大きく、90°以下であり、理論上では、0°よりも大きい角度であれば3次元的な地磁気の方位を測定できる。ただし、実際上は20°以上であることが好ましく、30°以上であることがさらに好ましい。
この磁気センサ30は、例えば、図示しない携帯端末装置内の基板に搭載され、この携帯端末装置では、磁気センサ30により測定した地磁気の方位を携帯端末装置の表示パネルに示すようになっている。
【0036】
上記のリードフレーム1及び磁気センサ30の製造方法によれば、ステージ部7,9及び磁気センサチップ3,5が、樹脂形成空間内に射出される溶融樹脂によって押されることを確実に防止できるため、樹脂モールド部29を形成する際に磁気センサチップ3,5の傾斜角度が変化することを確実に防止でき、2つの磁気センサチップ3,5の相対的な傾斜角度を精度良く設定することができる。
【0037】
また、基準軸線L3近傍に位置する金型Fとステージ部7,9との微少な隙間S1にも溶融樹脂を容易に流し込むことができるため、樹脂形成空間内に樹脂が充填されない空間(ボイド)が発生することを防止できる。
さらに、2つのステージ部7,9は、溶融樹脂を射出するゲートGから離れて位置する一対の角部15e,15gに連結されているため、モールド工程においてステージ部7,9の裏面7c,9cが溶融樹脂によって押されたとしても、この押す力を小さくすることができる。したがって、樹脂の充填に基づく磁気センサチップ3,5の傾斜角度の変化を最小限に抑えることができる。
【0038】
なお、上記の実施の形態において、溶融樹脂は、一方の角部15hから射出されるとしたが、これに限ることはなく、第2の対角線L2上に位置する他方の角部15fから射出されるとしても構わない。
さらに、2つのステージ部7,9は、第1の対角線L1上に配され、また、各ステージ部7,9の基準軸線L3が第2の対角線L2に平行に配されるとしたが、隙間S1への溶融樹脂の流れ込みやすさを考慮しない場合には、少なくとも各ステージ部7,9や各基準軸線L3が第2の対角線L2を中心に相互に対称な位置に配されていればよい。すなわち、例えば、図7,8に示すように、2つのステージ部7,9を第1の対角線L1からずれた位置に配すると共に、各ステージ部7,9の基準軸線L4,L5を相互に直交させる方向に配するとしても構わない。
【0039】
この構成の場合でも、溶融樹脂の射出方向は、2つのステージ部7,9の対称軸線となる第2の対角線L2に略一致しているため、ゲートGから射出された溶融樹脂が2つのステージ部7,9及び磁気センサチップ3,5によって妨げられることを防止できる。すなわち、溶融樹脂の射出の際に、ステージ部7,9及び磁気センサチップ3,5が溶融樹脂によって押される力を小さくすることができ、樹脂の充填に基づく物理量センサチップの傾斜角度の変化を抑制することができる。
【0040】
なお、図7,8に示した構成においては、連結部13が、リード17と同様に樹脂モールド部29の各辺から内方側に複数突出している。すなわち、連結部13は、リードフレームを構成する矩形枠部15の内方領域S1の周縁のうち、矩形枠部15の第2の対角線L2を挟んで相互に隣接する一対の辺15a,15bから突出して設けられている。
同一の辺から突出する複数の連結部13の先端からは、連結部13と同じ幅のステージ用リード31が延出しており、これら複数のステージ用リード31により各ステージ部7,9が構成されている。また、各ステージ部7,9を傾斜させるための突出部19,21は、各ステージ部7,9を構成するステージ用リード31の先端からステージ部7,9の裏面側に各々突出している。
【0041】
上記構成の磁気センサを製造する際には、モールド工程において、矩形枠部15の第2の対角線L2上に位置すると共にステージ部7,9を連結した一対の辺15a,15bに隣接しない内方領域の一方の角部15hから他方の角部15fに向けて溶融樹脂を射出する。この際に溶融樹脂は、一方の角部15hから他方の角部15fや、第1の対角線L1上に位置する一対の角部15e,15g、前記一対の辺15a,15bに向けて広がって流れる。
【0042】
なお、モールド工程においては、ゲートGからステージ部7,9の裏面7c,9cが見える状態になっているため、上述のように流入した溶融樹脂は傾斜したステージ部7,9の裏面7c,9cを押すことになる。ただし、2つのステージ部7,9は、ゲートGから離れて位置する一対の辺15a,15bにそれぞれ連結されているため、溶融樹脂がステージ部7,9を押す力を小さく抑えることができる。したがって、樹脂の充填に基づく磁気センサチップ3,5の傾斜角度の変化を抑制することができる。
【0043】
また、上述のことから、溶融樹脂によってステージ部7,9及び磁気センサチップ3,5を押す力は、矩形枠部15に対するステージ部7,9の傾斜角度を小さくするように作用しない。すなわち、2つの磁気センサチップ3,5を相互に所定の角度以上で傾斜させておくことができる。したがって、2つの磁気センサチップ3,5により三次元空間の方位や向きを確実に検知できる磁気センサを提供することができる。
【0044】
さらに、上記の実施の形態において、2つのステージ部7,9は、矩形枠部15の第2の対角線L2を中心として相互に対称な位置に配されるとしたが、これに限ることはなく、少なくとも第2の対角線L2を挟んで相互に隣接する一対の辺15a,15b、若しくは、相対する一対の角部15e,15gにそれぞれ連結されていればよい。すなわち、例えば、2つのステージ部7,9やこれに載置する磁気センサチップ3,5を、第2の対角線L2に跨って配するとしてもよい。この構成の場合でも上述した同様の効果を得ることができる。
【0045】
また、モールド工程における溶融樹脂の射出方向は、矩形枠部15の第2の対角線L2に略一致するとしたが、これに限ることはなく、少なくとも2つのステージ部7,9の間を通り、かつ、2つのステージ部7,9から均等な距離に位置する対称軸線に略一致していればよい。すなわち、2つのステージ部7,9は、溶融樹脂の射出方向となる対称軸線を中心として互いに線対称な位置に配されていればよい。
【0046】
また、突出片19,21は、相互に対向するステージ部7,9の他端部7c,9cに形成されるとしたが、これに限ることはなく、少なくともステージ部7,9の裏面7c,9c側に突出していればよい。
さらに、ステージ部7,9は、突出片19,21を利用して傾斜させるとしたが、これに限ることはなく、少なくとも樹脂モールド部29を形成する前に2つの磁気センサチップ3,5が相互に傾斜していればよい。
【0047】
また、ステージ部7,9は、平面視で略正方形状に形成されるとしたが、これに限ることはなく、少なくとも磁気センサチップ3,5が表面7a,9aに接着可能に形成されていればよい。すなわち、ステージ部7,9は、例えば、平面視で長方形、円形、楕円形に形成されるとしてもよいし、厚さ方向に貫通する穴を設けたものや、網目状に形成したものとしても構わない。また、2つのステージ部7,9は、同じ大きさや形状に形成されることに限らず、相互に異なる大きさや形状であっても良い。
【0048】
さらに、樹脂モールド部29によって、磁気センサチップ3,5、ステージ部7,9及びリード17を一体的に固定するとしたが、これに限ることはなく、例えば、パッケージとしての箱体の内部に磁気センサチップ3,5、ステージ部7,9及びリード17を収納し、これらを一体的に固定するとしても構わない。
また、リードフレーム1の矩形枠部15は、平面視略正方形の枠状に形成されるとしたが、これに限ることはなく、例えば、平面視略長方形状に形成されるとしても構わない。
【0049】
また、本発明の実施形態では、3次元空間内の磁気方向を検出する磁気センサに適用して説明したが、これに限ることはなく、少なくとも3元空間内の方位や向きを測定する物理量センサであればよい。ここで物理量センサは、例えば、磁気センサチップの代わりに加速度の大きさや方向を検出する加速度センサチップを搭載した加速度センサであってもよい。
【0050】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施形態に係るリードフレームに磁気センサチップを搭載した状態を示す平面図である。
【図2】図1のH−H矢視断面図である。
【図3】図1のリードフレームにおいて、ステージ部を傾斜させる方法を示す断面図である。
【図4】図1のリードフレームにおいて、ステージ部を傾斜させる方法を示す断面図である。
【図5】図1のリードフレームを用いて製造される磁気センサを示す平面図である。
【図6】図5のI−I矢視断面図である。
【図7】本発明の他の実施形態に係るリードフレームにより製造される磁気センサを示す平面図である。
【図8】図7のJ−J矢視断面図である。
【図9】従来のリードフレームを示す平面図である。
【図10】図9のリードフレームにおいて、ステージ部を傾斜させた状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0052】
1・・・リードフレーム、3,5・・・磁気センサチップ(物理量センサチップ)、7,7c,9c・・・裏面、9・・・ステージ部、13・・・連結部、15・・・矩形枠部、15a,15b・・・辺、15e,15g・・・角部、15f・・・他方の角部、15h・・・一方の角部、23・・・易変形部、30・・・磁気センサ(物理量センサ)、E,F・・・金型、G・・・ゲート(射出口)、L2・・・第2の対角線(一方の対角線)、L3,L4,L5・・・基準軸線、S1・・・内方領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物理量センサチップを載置する少なくとも2つのステージ部と、これを囲む平面視略矩形の枠状に形成された矩形枠部と、前記ステージ部と前記矩形枠部とを連結する連結部とを有する金属製薄板からなるリードフレームであって、
前記連結部は、前記矩形枠部に対して前記金属製薄板の厚さ方向に直交する基準軸線を中心に前記各ステージ部を傾斜させる易変形部を有し、
2つの前記ステージ部が、前記矩形枠部によって区画される矩形状の内方領域の周縁のうち、前記矩形枠部の対角線を挟んで相互に隣接する一対の辺、若しくは、相対する一対の角部にそれぞれ連結されていることを特徴とするリードフレーム。
【請求項2】
前記基準軸線が、前記対角線と平行に配されることを特徴とする請求項1に記載のリードフレーム。
【請求項3】
物理量センサチップを載置する2つのステージ部と、これを囲む平面視略矩形の枠状に形成された矩形枠部と、前記矩形枠部によって区画される矩形状の内方領域の周縁のうち、前記矩形枠部の一方の対角線を挟んで相互に隣接する一対の辺に2つの前記ステージ部をそれぞれ連結する連結部とを有する金属製薄板からなるリードフレームを用意する準備工程と、
前記各ステージ部に前記物理量センサチップを接着する接着工程と、
前記連結部を変形させて前記各ステージ部を前記矩形枠部に対して傾斜させるステージ傾斜工程と、
前記リードフレームを金型内に収容すると共に、前記金型内に樹脂を射出して前記リードフレームおよび前記物理量センサチップを樹脂により一体的にモールドするモールド工程とを備え、
前記モールド工程において、前記一方の対角線上に位置すると共に前記一対の辺に隣接しない前記内方領域の一方の角部から他方の角部に向けて前記樹脂を射出することを特徴とする物理量センサの製造方法。
【請求項4】
物理量センサチップを載置する2つのステージ部と、これを囲む平面視略矩形の枠状に形成された矩形枠部と、前記矩形枠部によって区画される矩形状の内方領域の周縁のうち、前記矩形枠部の一方の対角線を挟んで相対する一対の角部に2つの前記ステージ部をそれぞれ連結する連結部とを有する金属製薄板からなるリードフレームを用意する準備工程と、
前記各ステージ部に前記物理量センサチップを接着する接着工程と、
前記連結部を変形させて前記各ステージ部を前記矩形枠部に対して傾斜させるステージ傾斜工程と、
前記リードフレームを金型内に収容すると共に、前記金型内に樹脂を射出して前記リードフレームおよび前記物理量センサチップを樹脂により一体的にモールドするモールド工程とを備え、
前記モールド工程において、前記一方の対角線上に位置する前記内方領域の一方の角部から他方の角部に向けて前記樹脂を射出することを特徴とする物理量センサの製造方法。
【請求項5】
前記モールド工程において、前記一方の角部に位置して前記樹脂を射出する射出口から、前記ステージ部の裏面が見えることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の物理量センサの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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