説明

物質が有するげっ歯類哺乳動物組織における発がん性の予測方法

【課題】多額の費用と長期の試験期間を要する哺乳動物実験の実施とを要することなく、物質が有するげっ歯類哺乳動物組織における発がん性を予測する新たな方法を提供する。
【解決手段】被験物質をげっ歯類哺乳動物に1〜90日の範囲内の一定期間投与する工程(i)と、工程(i)の後、所定の遺伝子若しくはその塩基配列と実質的に同一の塩基配列を有する遺伝子のmRNAの、前記げっ歯類哺乳動物組織における発現量値Tを測定する工程(ii)と、前記被験物質を投与していないげっ歯類哺乳動物組織における前記mRNAの発現量値Cを用意する工程(iii)と、前記発現量値Tと前記発現量値Cとの比に基づいて、前記被験物質のげっ歯類哺乳動物組織における発がん性を予測する予測式を用意する工程(iv)と、前記発現量値Tと前記発現量値Cとの比を前記式に入力して、前記被験物質のげっ歯類哺乳動物組織における発がん性を予測する工程(v)と、を含む被験物質のげっ歯類哺乳動物組織における発がん性の予測方法等。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の遺伝子の発現変動を指標とした物質が有するげっ歯類哺乳動物組織における発がん性の予測方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
物質の有害性(ハザード)の評価項目の一つに長期毒性の評価がある。通常、物質の発がん性を評価する哺乳動物実験では、試験哺乳動物にがんが出現するまで、または、試験哺乳動物が死亡するまで物質の連続投与が行われる。がんは長い潜伏期間を経て出現するため、長期にわたる哺乳動物実験が必要になる。
このように、発がん性等の物質の長期毒性を評価するには、多額の費用と長期の試験期間を要する哺乳動物実験の実施とが必要とされる。
一方、近年のゲノム情報に関する技術の著しい発展により、遺伝子レベルで物質の有害性評価が行われるようになっている。具体的には例えば、物質に曝露された組織及び細胞における遺伝子の発現の差異を検出することにより、物質の肝毒性の機構を予測する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−304888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
物質が引き起こす遺伝子レベルでの発がんメカニズムは未だ充分には解明されておらず、当該発がんメカニズムは物質によって多様であると考えられている。更に、物質が生体に及ぼす作用は多様且つ複雑であり、発がんメカニズムとは異なる要因によって発現量が変動する遺伝子であっても、発がんメカニズムに起因して発現量が変動する遺伝子と関連して、その発現量が変動する可能性がある。従って、物質の発がん性を遺伝子発現量から予測するため、発現量が発がん性因子に特異的に影響され変動する遺伝子又は遺伝子の組合せを見出すことが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、かかる状況の下、被験物質をラットに投与したときの登録番号群1又は2に記載されているUnigene番号で特定される遺伝子のmRNAの発現量の測定結果によって、げっ歯類哺乳動物肝における発がん性が予測可能であることを見出し、本発明に至った。
【0006】
即ち、本発明は、
1. 被験物質をげっ歯類哺乳動物に1〜90日の範囲内の一定期間投与する工程(i)と、
工程(i)の後、後記の登録番号群1又は2に記載されているUnigene番号で特定される、少なくとも1の遺伝子若しくはその塩基配列と実質的に同一の塩基配列を有する遺伝子(以下、総じて本遺伝子と記すこともある。)のmRNAの、前記げっ歯類哺乳動物組織における発現量値Tを測定する工程(ii)と、
前記被験物質を投与していないげっ歯類哺乳動物組織における前記mRNAの発現量値Cを用意する工程(iii)と、
前記発現量値Tと前記発現量値Cとの比に基づいて、前記被験物質のげっ歯類哺乳動物組織における発がん性を予測する予測式を用意する工程(iv)と、
前記発現量値Tと前記発現量値Cとの比を前記式に入力して、前記被験物質のげっ歯類哺乳動物組織における発がん性を予測する工程(v)と、
を含む被験物質のげっ歯類哺乳動物組織における発がん性の予測方法(以下、本発明予測方法と記すこともある。)
<登録番号群1>
Rn.812、Rn.22885、Rn.43737、Rn.223、Rn.11139、Rn.11120、Rn.1742、Rn.72896、Rn.144660、Rn.82692、Rn.91133、Rn.217495、Rn.92022、Rn.3334、Rn.94004、Rn.44576、Rn.102781、Rn.101464、Rn.6228、Rn.160666、Rn.129282、Rn.198150、Rn.8396、Rn.1086、Rn.6886、Rn.3175、Rn.12038、Rn.106017、Rn.57036、Rn.23516、Rn.42903、Rn.24733、Rn.17071、Rn.17902、Rn.220059、Rn.23417、Rn.98327、Rn.13486、Rn.206214、Rn.107990、Rn.46850、Rn.202605、Rn.4220、Rn.90858、Rn.169535、Rn.203065、Rn.122206、Rn.34330、Rn.145222、Rn.220000、Rn.159796、Rn.22226、Rn.101331、Rn.3514、Rn.92645、Rn.199361、Rn.21775、Rn.65516、Rn.145692、Rn.65866、Rn.203229、Rn.195259、Rn.163277、Rn.45930、Rn.165750、Rn.214849、Rn.199064、Rn.144972、Rn.29936、Rn.3609、Rn.262、Rn.31786、Rn.2695、Rn.33324、Rn.9912、Rn.196348、Rn.34842、Rn.5788、Rn.54439、Rn.97792、Rn.71224、Rn.92909、Rn.49121、Rn.18315、Rn.37805、Rn.104175、Rn.166116、Rn.8038、Rn.7927、Rn.19335、Rn.1589、Rn.16371、Rn.7771、Rn.144939、Rn.28608、Rn.100446、Rn.95276、Rn.203804、Rn.10511、Rn.218799、Rn.209056、Rn.196543、Rn.3421、Rn.1869、Rn.82693、Rn.29909、Rn.92100、Rn.13592、Rn.23381、Rn.806、Rn.12122
<登録番号群2>
Rn.88085、Rn.977、Rn.10817、Rn.81058、Rn.25201、Rn.164881、Rn.162221、Rn.166414、Rn.112577、Rn.103390、Rn.205626、Rn.16736、Rn.8555;
2. 前記予測式は、2以上の発がん物質及び2以上の非発がん物質のそれぞれをげっ歯類哺乳動物に1〜90日の範囲内の一定期間投与することと、
前記の登録番号群1又は2に記載されているUnigene番号で特定される、少なくとも1の遺伝子若しくはその塩基配列と実質的に同一の塩基配列を有する遺伝子(即ち、本遺伝子)のmRNAの、前記げっ歯類哺乳動物組織における発現量値T0を測定することと、
前記被験物質を投与していないげっ歯類哺乳動物組織における前記mRNAの発現量値C0を用意することと、
前記発現量値T0と前記発現量値C0との比を、分類器に入力することと、を含む方法によって構築される式であることを特徴とする前項1記載の予測方法;
3. 前記げっ歯類哺乳動物が、ラット、マウス、ハムスター及びモルモットからなる群から選ばれる哺乳動物であることを特徴とする前項1又は2記載の予測方法;
4. 前記げっ歯類哺乳動物組織が、肝臓組織であることを特徴とする前項1、2又は3記載の予測方法;
5. 前項1〜3のいずれかに記載される予測方法により予測された、物質が有するげっ歯類哺乳動物組織における発がん性に基づきげっ歯類哺乳動物組織における発がん性を有する物質を除去する工程を有することを特徴とする薬剤の有効成分となる物質の探索方法;
6. 物質が有するげっ歯類哺乳動物組織における発がん性を予測する予測式を構築するための後記の登録番号群1又は2に記載されているUnigene番号で特定される、少なくとも1の遺伝子若しくはその塩基配列と実質的に同一の塩基配列を有する遺伝子(即ち、本遺伝子)の使用
<登録番号群1>
Rn.812、Rn.22885、Rn.43737、Rn.223、Rn.11139、Rn.11120、Rn.1742、Rn.72896、Rn.144660、Rn.82692、Rn.91133、Rn.217495、Rn.92022、Rn.3334、Rn.94004、Rn.44576、Rn.102781、Rn.101464、Rn.6228、Rn.160666、Rn.129282、Rn.198150、Rn.8396、Rn.1086、Rn.6886、Rn.3175、Rn.12038、Rn.106017、Rn.57036、Rn.23516、Rn.42903、Rn.24733、Rn.17071、Rn.17902、Rn.220059、Rn.23417、Rn.98327、Rn.13486、Rn.206214、Rn.107990、Rn.46850、Rn.202605、Rn.4220、Rn.90858、Rn.169535、Rn.203065、Rn.122206、Rn.34330、Rn.145222、Rn.220000、Rn.159796、Rn.22226、Rn.101331、Rn.3514、Rn.92645、Rn.199361、Rn.21775、Rn.65516、Rn.145692、Rn.65866、Rn.203229、Rn.195259、Rn.163277、Rn.45930、Rn.165750、Rn.214849、Rn.199064、Rn.144972、Rn.29936、Rn.3609、Rn.262、Rn.31786、Rn.2695、Rn.33324、Rn.9912、Rn.196348、Rn.34842、Rn.5788、Rn.54439、Rn.97792、Rn.71224、Rn.92909、Rn.49121、Rn.18315、Rn.37805、Rn.104175、Rn.166116、Rn.8038、Rn.7927、Rn.19335、Rn.1589、Rn.16371、Rn.7771、Rn.144939、Rn.28608、Rn.100446、Rn.95276、Rn.203804、Rn.10511、Rn.218799、Rn.209056、Rn.196543、Rn.3421、Rn.1869、Rn.82693、Rn.29909、Rn.92100、Rn.13592、Rn.23381、Rn.806、Rn.12122
<登録番号群2>
Rn.88085、Rn.977、Rn.10817、Rn.81058、Rn.25201、Rn.164881、Rn.162221、Rn.166414、Rn.112577、Rn.103390、Rn.205626、Rn.16736、Rn.8555;
等を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
多額の費用と長期の試験期間を要する哺乳動物実験の実施とを要することなく、物質が有するげっ歯類哺乳動物組織における発がん性を予測する新たな方法が提供可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明において「Unigene番号」とは、米国の国立生物情報センター(National Center of Biotechnology Information:NCBI)が提供するUnigeneデータベースで付与される番号を意味する。
本発明において「げっ歯類哺乳動物」としては、具体的には例えば、ラット、マウス、ハムスター、モルモット等を挙げることができる。
本発明方法は、
(1)被験物質をげっ歯類哺乳動物に1〜90日の範囲内の一定期間投与する工程(i)と、
(2)工程(i)の後、前記の登録番号群1又は2に記載されているUnigene番号で特定される、少なくとも1の遺伝子若しくはその塩基配列と実質的に同一の塩基配列を有する遺伝子(即ち、本遺伝子)のmRNAの、前記げっ歯類哺乳動物組織における発現量値Tを測定する工程(ii)と、
(3)前記被験物質を投与していないげっ歯類哺乳動物組織における前記mRNAの発現量値Cを用意する工程(iii)と、
(4)前記発現量値Tと前記発現量値Cとの比に基づいて、前記被験物質のげっ歯類哺乳動物組織における発がん性を予測する予測式を用意する工程(iv)と、
(5)前記発現量値Tと前記発現量値Cとの比を前記式に入力して、前記被験物質のげっ歯類哺乳動物組織における発がん性を予測する工程(v)と、
を含む。
工程(iv)における「前記発現量値Tと前記発現量値Cとの比」における「比」(及び、「前記発現量値T0と前記発現量値C0との比」における「比」)としては、例えば、TとCとの関係を示す数値であれば任意の数値を用いることができる。通常の商(T/C)に加えて、log2比、log10比等を用いてもよい。好ましいものとしては、例えば、log2比等を挙げることができる。
ここで「実質的に同一の塩基配列」とは、各Unigene番号で特定される遺伝子が有する塩基配列からなる核酸と、高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができる塩基配列を意味する。そして「高ストリンジェントな条件」とは、6×SSC(sodium chloride/sodium citrate)中45℃でのハイブリダイゼーション反応の後、0.2×SSC/0.1% SDS中65℃での一回以上の洗浄を意味する。例えば、各Unigene番号で特定される遺伝子の塩基配列と実質的に同一の塩基配列としては、各Unigene番号で特定される遺伝子の塩基配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上の相同性を有する塩基配列が挙げられる。本発明における塩基配列の相同性は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、次の条件「期待値=10;ギャップを許す;フィルタリング=ON;マッチスコア=1;ミスマッチスコア=−3」にて計算することができる。
尚、当業者に明らかなように、特定の塩基配列を有するmRNAの発現量を測定する目的においては、当該塩基配列に特徴的な部分である塩基配列を有する遺伝子の発現量を測定すればよい。
【0009】
本発明予測方法における工程(i)は、被験物質をげっ歯類哺乳動物に投与する工程を含む。
投与時の被験物質の形態は、固体、粉体、液体又はこれらの混合物のいずれであってもよい。尚、液体には溶液及び分散液が含まれる。
被験物質を溶解又は分散させる溶媒としては、例えば、非発がん性の溶媒等が好適に用いられる。溶媒は、油溶性か水溶性か等の被験物質の特性に応じて、被験物質が溶解又は分散可能なものを適宜選択すればよい。具体的な溶媒としては、例えば、トウモロコシ油、精製水等の、哺乳動物実験に汎用的に使用される溶媒等を挙げることができる。被験物質を溶液中に分散させるには、発がん性のない界面活性剤等の分散剤を好適に用いることができる。
【0010】
げっ歯類哺乳動物への被験物質の投与方法としては、例えば、経口投与(強制経口投与又は飲料水や餌に混じる混餌投与)、非経口投与(静脈内投与、腹腔内投与、筋肉内投与、皮下投与等)等の種々の方法が用いられる。投与方法は、被験物質の特性、投与期間等の種々の条件に応じて適宜選択すればよい。
投与量、投与回数及び投与期間は、例えば、全身状態、全身諸器官組織等に重篤な影響を及ぼさない範囲内(例えば投与量は、最大耐量)とすればよい。
被験物質の投与量は、被験物質の刺激により、げっ歯類哺乳動物組織における前記の登録番号群1又は2に記載されているUnigene番号で特定される、少なくとも1の遺伝子若しくはその塩基配列と実質的に同一の塩基配列を有する遺伝子(即ち、本遺伝子)のmRNAの発現量に適度な増加又は減少を引き起こす量とすることが望ましい。投与量を決定するにあたっては、被験物質のげっ歯類哺乳動物に対するLD50値を基準とすることができる。1日あたりの投与量は、LD50値の1/250〜1/2とすることが好ましく、1/50〜1/2とすることがより好ましく、1/10〜1/2とすることが更に好ましい。
【0011】
げっ歯類哺乳動物への被験物質の投与期間は、具体的な時間又は日数に限定されるものではなく、例えば、1〜90日の範囲内の任意の日数とすることができる。予測結果を迅速に得る観点からは投与期間は短い方が好ましい。一方、発がん性の検出の精度の観点からは、投与期間は長い方が好ましい。具体的には例えば、1〜90日、好ましくは15〜90日、より好ましくは21〜90日、更に好ましくは25〜31日、特に好ましくは27〜29日、最も好ましくは28日等を挙げることができる。当該投与期間によって、前記発現量値Tを測定する対象となる遺伝子は異なりうる。逆に、前記発現量値Tを測定する対象となる遺伝子に応じて、当該投与期間を設定することもできる。また、高い予測精度を得るためには、被験物質の投与期間は、後述のトレーニング物質の投与期間に近い長さであることが好ましい。具体的には例えば、被験物質の投与期間は、好ましくはトレーニング物質の投与期間±3日、より好ましくはトレーニング物質の投与期間±1日、更に好ましくはトレーニング物質の投与期間と同じ長さである。
【0012】
投与期間中の被験物質の投与頻度は特に限定されるものではないが、1日1〜数回、好ましくは1日1回とすることができる。
また、被験物質については、変異原性が明らかになっていることが好ましい。従って、本発明予測方法は、被験物質の変異原性を調べる工程を更に含んでいてもよい。被験物質の変異原性は、例えば、Ames試験等の復帰突然変異試験、動物培養細胞を用いる染色体異常試験等の試験、定量的構造活性相関手法等による予測等によって調べることができる。また、被験物質が公知の物質である場合には、変異原性を調べる工程は文献調査等によって行ってもよい。
【0013】
当該工程(i)における被験物質の経口投与は、具体的には例えば、以下の手順で行えばよい。
まず、投与液の作製に関して、被験物質を必要量秤量し、これをそのまま投与液とする。必要に応じて適当な溶媒(コーンオイルや約0.25〜0.5%のメチルセルロース溶液等)を用いて溶液又は均一な懸濁液を作製する。経口投与は注射筒及び弾性カテーテル等を用いて1匹当たり望ましくは5mL/kg/day以下の液量で少なくとも1日1回以上経口投与する。これを所定期間継続して行う。
【0014】
当該工程(i)における被験物質の混餌投与は、具体的には例えば、以下の手順で行えばよい。
まず、所定濃度の被験物質を含有する飼料の作製に関して、当該被験物質を必要量秤量し、これをそのまま、若しくは必要に応じて適当な溶媒(コーンオイル等)を用いて溶液又は均一な懸濁液を作製する。作製された溶液又は均一な懸濁液と基礎飼料とを混合することにより、調製飼料を作製する。この調製飼料を給餌器に入れて、当該調製飼料を動物が自由摂食できるよう供与する。通常、1週間に1回の頻度で新しい調製飼料と交換する。これを所定期間継続して行う。
【0015】
本発明予測方法における工程(ii)は、工程(i)の後、前記の登録番号群1又は2に記載されているUnigene番号で特定される、少なくとも1の遺伝子若しくはその塩基配列と実質的に同一の塩基配列を有する遺伝子(即ち、本遺伝子)のmRNAの、前記げっ歯類哺乳動物組織における発現量値Tを測定する工程を含む。
mRNAは、投与期間終了後、前記げっ歯類哺乳動物から組織を採取して、その組織からmRNAを抽出及び精製することによって取得する。抽出方法及び精製方法については、公知の方法を好適に用いることができる。
抽出対象となる「組織」としては、肝臓、腸、肺、腎臓、胃、脾臓、脳、血液等を挙げることができる。好ましくは肝臓等が挙げられる。
【0016】
具体的には例えば、まず、最終投与の翌日、げっ歯類哺乳動物をエーテル等の適切な麻酔薬により麻酔する。次に、麻酔されたげっ歯類哺乳動物の腹大動脈から採血し致死させた後、当該げっ歯類哺乳動物から肝臓を摘出する。摘出された肝臓について、紙ウエス等により水分を吸収させた後、定法に準じて天秤用いて肝臓の湿重量を測定するとよい。
尚、次の工程に即座に着手できない場合には、重量測定後、肝臓をRNA later中にて保存するか、又は、例えば、液体窒素等を用いて肝臓を即座に凍結し、−80℃で保存すればよい。
【0017】
次に、げっ歯類哺乳動物組織における登録番号群1又は2に記載されているUnigene番号で特定される、少なくとも1の遺伝子若しくはその塩基配列と実質的に同一の塩基配列を有する遺伝子(即ち、本遺伝子)の発現量値Tを測定する。
登録番号群1又は2に記載されているUnigene番号で特定される、少なくとも1の遺伝子若しくはその塩基配列と実質的に同一の塩基配列を有する遺伝子(即ち、本遺伝子)の発現量値Tの測定としては、単位量の組織当たりの本遺伝子のmRNAの発現量値を測定する方法等を挙げることができる。
【0018】
上記のようにして被験物質が投与されたげっ歯類哺乳動物組織における登録番号群1又は2に記載されているUnigene番号で特定される、少なくとも1の遺伝子若しくはその塩基配列と実質的に同一の塩基配列を有する遺伝子(即ち、本遺伝子)の発現量値Tの測定値を、当該遺伝子の発現量値Tの対照値と比較し、その差異に基づいて前記組織における物質が有するげっ歯類哺乳動物組織における発がん性の有無或いはその発生程度を簡便に事前想像してもよい。尚、本遺伝子のmRNAの発現量値Tの対照値としては、例えば、被験物質を投与していないげっ歯類哺乳動物組織における当該遺伝子のmRNAの発現量値の値を挙げることができる。かかる対照値は、被験物質を投与していないげっ歯類哺乳動物組織における本遺伝子のmRNAの発現量値を、被験物質を投与したげっ歯類哺乳動物組織における当該遺伝子のmRNAの発現量値と併行して測定して求めてもよいし、別途測定して求めてもよい。
【0019】
前記所定の遺伝子のmRNAの発現量の測定方法としては、例えば、DNAマイクロアレイ(マイクロプレートを含む)、ノーザンブロッティング[J.Sambrook, E.F.Frisch,T.Maniatis著;モレキュラ−・クロ−ニング第2版(Molecular Cloning 2nd edition)、コ−ルドスプリング・ハ−バ−・ラボラトリ−(Cold Spring Harbor Laboratory)発行、1989年]、定量的RT−PCR、RNaseプロテクションアッセイ等の公知の方法を挙げることができる。
【0020】
DNAマイクロアレイを用いる方法では、発現量値を測定すべきmRNAと相補的な塩基配列を有するcDNA又はDNAが固定されたマイクロアレイを用いて、mRNAから調製した蛍光標識化cDNA又はcRNAをマイクロアレイ上に結合させ、マイクロアレイ上の蛍光強度を測定することによって、mRNAの発現量値を測定することができる。マイクロアレイには、Gene Chip(商品名、アフィメトリクス社製)、Rat Oligo Microarray Kit(商品名、アジレント社製)等の市販品を利用することができる。
この際、げっ歯類哺乳動物組織におけるmRNAの発現量値Tが恒常的に一定であることが知られている遺伝子(以下、対照遺伝子と記す。)、例えば、β−actin遺伝子(Nucl.Acids.Res., vol.12,No.3, p.1687,1984)や36B4(Acidic Ribosomal Phosphoprotein)(Nucl.Acids.Res., vol.19,No.14, p.3998,1991)遺伝子等のmRNA量を同時に測定しても良い。そして、対照遺伝子のmRNAの発現量値当たりの登録番号群1又は2に記載されているUnigene番号で特定される、少なくとも1の遺伝子若しくはその塩基配列と実質的に同一の塩基配列を有する遺伝子(即ち、本遺伝子)のmRNAの発現量値を算出することにより、本遺伝子の発現量値T(内部標準補正値)を求めてもよい。
【0021】
(1.ノーザンブロッティング法)
まず、mRNAの発現量値を測定しようとする本遺伝子のDNAを調製し、次いで、その全部又は一部からなるDNAを標識してプロ−ブを調製する。
上記遺伝子は、市販のcDNA(例えば宝酒造から入手)又は以下に示した方法により調製したcDNAを鋳型にしてPCR等によって調製することができる。例えば、まず当該遺伝子を発現する組織から、塩酸グアニジン/フェノ−ル法、SDS−フェノ−ル法、グアニジンチオシアネ−ト/CsCl法等の通常の方法によって全RNAを抽出する。例えばISOGEN(ニッポンジ−ン製)等の市販のキットを利用して全RNAを抽出してもよい。
抽出された全RNAから、例えば、以下のようにしてmRNAを調製する。まず、オリゴdTをリガンドとして有するポリAカラムを5倍カラム容量以上のLoading buffer[20mMトリス塩酸緩衝液(pH7.6)、0.5M NaCl、1mM EDTA、0.1%(w/v)SDS]を用いて、平衡化し、続いて前述の方法で調製された全RNAをカラムにかけ、10倍カラム容量のloading bufferで洗浄する。更に5倍カラム容量のWashing buffer[20mMトリス塩酸緩衝液(pH7.6)、0.1M NaCl、1mM EDTA、0.1%(w/v)SDS]で洗浄する。続いて、3倍カラム容量のelution buffer[10mMトリス塩酸緩衝液(pH7.6)、1mM EDTA、0.05%(w/v)SDS)でmRNAを溶出させることによってmRNAを得る。
次いで、オリゴdTプライマ−を前記全RNA又はmRNAのポリA鎖にアニ−ルさせ、例えば、cDNA合成キット(宝酒造)のプロトコ−ルに従って、一本鎖cDNAを合成する。この時、鋳型とするRNAは、全RNA又はmRNAのどちらでも良いが、mRNAを用いる方がより好ましい。
前記一本鎖cDNAを鋳型にして、TaKaRa taq(宝酒造)等のDNA polymeraseを用いてPCRすることにより、DNAを増幅する。PCRの条件は、測定対象とするげっ歯類哺乳動物の種類、使用するプライマ−の配列等により異なるが、例えば、反応緩衝液[10mMトリス塩酸緩衝液(pH8.3)、50mM KCl,1.5mM MgCl2]中、2.5mM NTP存在下で、94℃,30秒間次いで40℃〜60℃,2分間更に72℃,2分間の保温を1サイクルとしてこれを30〜55サイクル行う条件等を挙げることができる。
【0022】
このようにして増幅された登録番号群1又は2に記載されているUnigene番号で特定される、少なくとも1の遺伝子若しくはその塩基配列と実質的に同一の塩基配列を有する遺伝子(即ち、本遺伝子)のDNAはpUC118等のベクタ−に挿入してクロ−ニングしておいてもよい。当該DNAの塩基配列は、Maxam Gilbert法 (例えば、Maxam,A.M&W.Gilbert, Proc.Natl.Acad.Sci.,74,560,1977 等に記載される)やSanger法(例えばSanger,F.&A.R.Coulson,J.Mol.Biol.,94,441,1975 、Sanger,F,& Nicklen and A.R.Coulson., Proc.Natl.Acad.Sci.,74,5463,1977等に記載される)等により確認することができる。
【0023】
このようにして調製された本遺伝子のDNAの全部又はその一部を、次のようにして放射性同位元素や蛍光色素等で標識することによりプロ−ブを調製することができる。例えば、上記のようにして調製されたDNAを鋳型とし、当該DNAの塩基配列の部分配列を有するオリゴヌクレオチドをプライマ−に用いて、[α−32P]dCTP又は[α−32P]dATPを含むdNTPを反応液に添加してPCRを行うことにより32Pで標識されたプロ−ブが得られる。また、上記のようにして調製されたDNAを、例えば、Random prime labeling Kit(ベ−リンガ−マンハイム社)、MEGALABEL(宝酒造)等の市販の標識キットを用いて標識してもよい。
【0024】
次に、上記プロ−ブを使用して、ノーザンブロッティング分析を行う。具体的には、登録番号群1又は2に記載されているUnigene番号で特定される、少なくとも1の遺伝子若しくはその塩基配列と実質的に同一の塩基配列を有する遺伝子(即ち、本遺伝子)のmRNAの発現量値を測定しようとするげっ歯類哺乳動物組織から全RNA又はmRNAを調製する。調製された全RNA 20μg又はmRNA 2μgをアガロ−スゲルで分離し、10×SSC(1.5M NaCl、0.35Mクエン酸ナトリウム)で洗浄した後、ナイロンメンブラン[例えば、Hybond−N(アマシャム製)等]に移す。ポリエチレン袋にメンブランを入れ、ハイブリダイゼ−ションバッファ−〔6×SSC(0.9M NaCl、0.21Mクエン酸ナトリウム)、5×デンハルト溶液[0.1%(w/v)フィコ−ル400、0.1%(w/v)ポリビニルピロリドン、0.1%BSA]、0.1%(w/v)SDS,100μg/ml変性サケ精子DNA、50%ホルムアミド〕25mlを加えて、50℃、2時間インキュベ−トした後、ハイブリダイゼ−ションバッファ−を捨て、新たに2ml〜6mlのハイブリダイゼ−ションバッファ−を加える。更に上記方法で得られたプロ−ブを加え、50℃、一晩インキュベ−トする。ハイブリダイゼ−ションバッファ−としては、上記のほかに、市販のDIG EASY Hyb(ベ−リンガ−マンハイム社)等を用いることができる。メンブランを取り出して、50〜100mlの2×SSC、0.1% SDS中で室温、15分間インキュベ−トし、更に同じ操作を1回繰り返し行い、最後に50〜100mlの0.1×SSC、0.1% SDS中で68℃、30分間インキュベ−トする。メンブラン上の標識量を測定することにより、本遺伝子のmRNAの発現量値を測定することができる。
【0025】
(2.定量的RT−PCR)
登録番号群1又は2に記載されているUnigene番号で特定される、少なくとも1の遺伝子若しくはその塩基配列と実質的に同一の塩基配列を有する遺伝子(即ち、本遺伝子)のmRNAの発現量値を測定しようとするげっ歯類哺乳動物組織から上記(1 ノーザンブロッティング法)に記載された方法と同様の方法でmRNAを調製する。調製されたmRNAに例えばMMLV(東洋紡)等の逆転写酵素を添加し、反応緩衝液[50mMトリス塩酸緩衝液(pH8.3)、3mM MgCl2、75mM KCl、10mM DTT]中、0.5mM dNTP及び25μg/mlオリゴdT存在下で42℃、15分間〜1時間反応させ、対応するcDNAを調製する。cDNA合成キット(宝酒造)を用いて対応するcDNAを調製しても良い。調製されたcDNAを鋳型にして、登録番号群1又は2に記載されているUnigene番号で特定される、少なくとも1の遺伝子若しくはその塩基配列と実質的に同一の塩基配列を有する遺伝子(即ち、本遺伝子)の塩基配列の一部分を有するDNAをプライマ−としてPCRを行う。プライマ−としては、例えば、本遺伝子の部分塩基配列を有するプライマ−を挙げることができる。PCRの条件としては、例えば、例えば、TAKARA taq(宝酒造)を使用し、反応緩衝液[10mMトリス塩酸緩衝液(pH8.3)、50mM KCl,1.5mM MgCl2]中、2.5mM dNTP及び[α32P]−dCTP存在下で、例えば、94℃,30秒間次いで40℃〜60℃,2分間更に72℃,2分間の保温を1サイクルとしてこれを30〜55サイクル行う条件を挙げることができる。増幅されたDNAをポリアクリルアミドゲル電気泳動に供し、分離されたDNAの放射活性量を測定することにより、本遺伝子のmRNAの発現量値を測定することができる。或いはまた、例えば、TAKARA taq(宝酒造)を使用し、反応緩衝液[10mMトリス塩酸緩衝液(pH8.3)、50mM KCl,1.5mM MgCl2]中、SYBR Green PCR ReagentsPCR(ABI社) 25μlを含む50μlの反応液を調製し、ABI7700(ABI社)を用いて、50℃,2分間次いで95℃,10分間の保温の後、95℃,15秒間次いで60℃,1分間の保温を1サイクルとしてこれを40サイクル実施する条件でPCRを行う。増幅されたDNAの蛍光を測定することにより、登録番号群1又は2に記載されているUnigene番号で特定される、少なくとも1の遺伝子若しくはその塩基配列と実質的に同一の塩基配列を有する遺伝子(即ち、本遺伝子)のmRNAの発現量値を測定することができる。
【0026】
(3.DNAアレイ解析)
登録番号群1又は2に記載されているUnigene番号で特定される、少なくとも1の遺伝子若しくはその塩基配列と実質的に同一の塩基配列を有する遺伝子(即ち、本遺伝子)のmRNAの発現量値の測定には、ナイロンメンブラン等のメンブランフィルタ−等に本遺伝子のcDNAをスポットして作製されるマクロアレイ、スライドガラス等に本遺伝子のcDNAをスポットして作製されるマイクロアレイ、スライドガラス上に本遺伝子の塩基配列の部分配列を有するオリゴヌクレオチド(通常18〜25merの鎖長)を光化学反応を利用して固定して作製されるプロ−ブアレイ等、公知の技術に基づいたDNAアレイを利用することができる。これらのアレイの作製は、例えばゲノム機能研究プロトコ−ル 実験医学別冊(羊土社刊)等に記載された方法に準じて行うことができる。またAffymetrix社等から市販されているGenechip等を利用することもできる。
【0027】
以下、DNAアレイを用いて本遺伝子のmRNAの発現量値を測定する方法の一例を示す。
(3−1.マクロアレイによる定量)
登録番号群1又は2に記載されているUnigene番号で特定される、少なくとも1の遺伝子若しくはその塩基配列と実質的に同一の塩基配列を有する遺伝子(即ち、本遺伝子)のmRNAの発現量値を測定しようとするげっ歯類哺乳動物組織から上記(1 ノ−ザンハイブリダイゼ−ション法)に記載された方法と同様の方法でmRNAを調製する。調製されたmRNAに、例えばMMLV(東洋紡社)等の逆転写酵素を添加し、反応緩衝液[例えば50mMトリス塩酸緩衝液(pH8.3)、3mM MgCl2、75mM KCl、及び10mM DTTを含む液]中、0.5mMdNTP、[α32P]−dCTP、及び25μg/mlオリゴdT存在下で42℃、15分間〜1時間反応させて、標識DNAを調製し、これをプロ−ブとする。このとき、cDNA合成キット(宝酒造)等を用いても良い。メンブランフィルタ−に登録番号群1又は2に記載されているUnigene番号で特定される、少なくとも1の遺伝子若しくはその塩基配列と実質的に同一の塩基配列を有する遺伝子(即ち、本遺伝子)のcDNAをスポットして作製されたマクロアレイをポリエチレン袋に入れ、ハイブリダイゼ−ションバッファ−〔6×SSC(0.9M NaCl、0.21Mクエン酸ナトリウム)、5×デンハルト溶液[0.1%(w/v)フィコ−ル400、0.1%(w/v)ポリビニルピロリドン、0.1% BSA]、0.1%(w/v) SDS,100μg/ml変性サケ精子DNA、50%ホルムアミド〕25mlを加えて、50℃、2時間インキュベ−トした後、ハイブリダイゼ−ションバッファ−を除去し、新たに2ml〜6mlのハイブリダイゼ−ションバッファ−を添加する。更に上記プロ−ブを加え、50℃、一晩インキュベ−トする。ハイブリダイゼ−ションバッファ−としては、上記のほかに、市販のDIG EASY Hyb(ベ−リンガ−マンハイム社)等を用いることもできる。マクロアレイを取り出して、50ml〜100mlの2×SSC、0.1% SDSに浸し室温にて15分間程度インキュベ−トした後、更に同じ操作を1回繰り返し行い、最後に50ml〜100mlの0.1×SSC、0.1% SDS中で68℃、30分間インキュベ−トする。マクロアレイ上の標識量を測定することにより、本遺伝子のmRNAの発現量値を測定することができる。
【0028】
(3−2.マイクロアレイによる定量)
登録番号群1又は2に記載されているUnigene番号で特定される、少なくとも1の遺伝子若しくはその塩基配列と実質的に同一の塩基配列を有する遺伝子(即ち、本遺伝子)のmRNAの発現量値を測定しようとするげっ歯類哺乳動物組織から上記(1 ノ−ザンハイブリダイゼ−ション法)に記載された方法と同様の方法でmRNAを調製する。調製されたmRNAに、例えばMMLV(東洋紡社)等の逆転写酵素を添加し、反応緩衝液[例えば、50mMトリス塩酸緩衝液(pH8.3)、3mM MgCl2、75mM KCl、及び10mM DTTを含む液]中、0.5mM dNTP、Cy3−dUTP、(又はCy5−dUTP)及び25μg/mlオリゴdT存在下で42℃、15分間〜1時間反応させる。アルカリバッファ−(例えば、1N NaOH、20mM EDTAを含む液)を加え、65℃10分間保温した後、MicroconYM−30等を用いて遊離のCy3又はCy5を除くことにより蛍光標識DNAを調製し、これをプロ−ブとする。得られたプロ−ブを用いてマイクロアレイに対して(3−1 DNAマクロアレイによる定量)に記載された方法と同様にしてハイブリダイゼ−ションを行う。アレイ上のシグナル量をスキャナ−により測定することにより、本遺伝子のmRNAの発現量値を測定することができる。
【0029】
(3−3.プロ−ブアレイによる定量)
登録番号群1又は2に記載されているUnigene番号で特定される、少なくとも1の遺伝子若しくはその塩基配列と実質的に同一の塩基配列を有する遺伝子(即ち、本遺伝子)のmRNAの発現量値を測定しようとするげっ歯類哺乳動物組織から上記(1 ノ−ザンハイブリダイゼ−ション法)に記載された方法と同様の方法でmRNAを調製する。調製されたmRNAに、例えば、cDNA合成キット(GENSET社)等を用いてcDNAを調製する。調製されたcDNAを、例えば、ビオチンラベル化cRNA合成キット(In Vitro Transcription社)(Enzo社)等によりビオチン標識し、cRNA cleanup and quantitation キット(In Vitro Transcription社)により精製する。生成されたビオチン標識DNAをFragmentation バッファ−(200mMトリス酢酸(pH8.1)、500mM KOAc、150mM MgOAc)により断片化する。これに内部標準物質Contol Oligo B2 (Amersham社製)、100×Control cRNA Cocktail、Herring sperm DNA (Promega社製)、Acetylated BSA(Gibco−BRL社製)、2×MES Hybridization Buffer〔200mM MES、2M [Na], 40mM EDTA、0.02% Tween20 (Pierce社製)、pH6.5〜6.7〕及びDEPC処理滅菌蒸留水を加え、ハイブリカクテルを作製する。
1×MESハイブリダイゼ−ションバッファ−で満たしたプロ−ブアレイ[例えば、Genechip(Affymetrix社製)等]を、ハイブリオ−ブン内で、45℃、60rpm、10分間回転させた後、1×MESハイブリダイゼ−ションバッファ−を除去する。その後、該プロ−ブアレイに上記のハイブリカクテル200μlを添加し、ハイブリオ−ブン内で45℃、60rpm、16時間回転させる(ハイブリダイゼ−ション)。続いてハイブリカクテルを除去し、Non−Stringent Wash Buffer〔6×SSPE[20×SSPE(ナカライテスク社製)を希釈]、0.01% Tween20、及び0.005% Antifoam0−30(Sigma社)を含む〕で満たした後、GeneChip Fluidics Station 400(Affymetrix社製)の所定の位置に上記プロ−ブアレイを装着し、プロトコ−ルに従って洗浄する。次いで、MicroArray Suite(Affymetrix社)の染色プロトコ−ルEuKGE−WS2に従って該プロ−ブアレイを染色する。HP GeneArray Scanner(Affymetrix社製)により570nmの蛍光輝度を測定することにより、本遺伝子のmRNAの発現量値を測定することができる。
【0030】
(4.インサイチュ−ハイブリダイゼ−ション法)
基本的には1)組織の固定、包埋、及び切片の作製、2)プロ−ブの調製、3)ハイブリダイゼ−ションによる検出からなり、あらかじめ放射性若しくは非放射性物質で標識されたRNA又はDNAをプロ−ブとすること以外は、例えば、Heiles,H.et al., Biotechniques,6,978,1988、遺伝子工学ハンドブック 羊土社 278 1991、細胞工学ハンドブック,羊土社,214,1992、細胞工学ハンドブック,羊土社,222,1992等に記載される方法に準じて行うことができる。
RNAプロ−ブを調製する場合には、まず、例えば前記(1 ノ−ザンハイブリダイゼ−ション法)に記載した方法と同様にして登録番号群1又は2に記載されているUnigene番号で特定される、少なくとも1の遺伝子若しくはその塩基配列と実質的に同一の塩基配列を有する遺伝子(即ち、本遺伝子)のDNAを取得し、当該DNAをSP6、T7、T3RNAポリメラ−ゼプロモ−タ−をもったベクタ−(例えばStratagene社のBluescript、Promega社のpGEM等)に組み込んで大腸菌に導入し、プラスミドDNAを調製する。次いで、センス(ネガティブコントロ−ル用)、アンチセンス(ハイブリダイゼ−ション用)RNAができるようにプラスミドDNAを制限酵素で切断する。これらDNAを鋳型とし、放射性標識の場合はα−35S−UTP等、非放射性標識の場合にはディゴキシゲニンUTP又はフルオレセイン修飾UTP等を基質として、SP6、T7、T3RNAポリメラ−ゼを用いてRNAを合成しながら標識し、アルカリ加水分解によりハイブリダイゼ−ションに適したサイズに切断することによって、あらかじめ放射性若しくは非放射性物質で標識されたRNAを調製する。尚、、これらの方法に基づいたキットとしては、例えば、放射性標識用にはRNAラベリングキット(アマシャム社)が、非放射性標識用にはDIG RNAラベリングキット(ベ−リンガ−・マンハイム社)やRNAカラ−キット(アマシャム社)が市販されている。
また、DNAプロ−ブを調製する場合には、例えば、32P等で標識した放射性ヌクレオチド又はビオチン、ディゴキシゲニン若しくはフルオレセインで標識したヌクレオチドを、ニックトランスレ−ション法(J.Mol.Biol.,113,237,Molecular Cloning,A Laboratory Manual 2nd ed.,10,6−10,12,Cold Spring Harbor Lab.)又はランダムプライム法(Anal.Biochem., 132,6,Anal.Biochem.,137,266)によって取り込ませることによって、あらかじめ放射性若しくは非放射性物質で標識されたDNAを調製する。これらの方法に基づいたキットとしては、例えば、放射性標識用にはニックトランスレ−ションキット(アマシャム社)やRandom Prime Labeling Kit(ベ−リンガ−マンハイム社)が、非放射性標識用にはDIG DNA標識キット(ベ−リンガ−マンハイム社)、DNAカラ−キット(アマシャム社)等が市販されている。
具体的には、登録番号群1又は2に記載されているUnigene番号で特定される、少なくとも1の遺伝子若しくはその塩基配列と実質的に同一の塩基配列を有する遺伝子(即ち、本遺伝子)のmRNAの発現量値を測定しようとするげっ歯類哺乳動物組織をパラホルムアルデヒド等で固定し、パラフィン等に包埋した後、薄切切片を作製しスライドグラスに張り付ける。又は、上記のげっ歯類哺乳動物組織をOCTコンパウンドに包埋後、液体窒素又は液体窒素で冷却したイソペンタン中にて凍結させ、その薄切切片を作製し、スライドグラスに張り付ける。このようにしてスライド標本を得る。
次に、上記のげっ歯類哺乳動物組織中にあって使用されるプロ−ブと非特異的に反応する物質を除去するために、上記のようにして作製されたスライドグラス切片をプロテイナ−ゼK処理し、アセチル化する。次いで、該スライドグラス切片と上記のようにして調製されたプロ−ブとのハイブリダイゼ−ションを行う。例えば、上記のプロ−ブを90℃で3分間加熱した後ハイブリダイゼ−ション溶液で希釈し、該溶液を前処理の終了したスライドグラス切片上に滴下してフィルムでおおい、モイスチャ−チャンバ−中で45℃、16時間保温することにより、ハイブリッドを形成させる。ハイブリダイゼ−ションの後、非特異的吸着又は未反応プロ−ブを洗浄等(RNAプロ−ブを用いた場合はRNase処理も加える)により除去する。mRNAの発現量値は、例えば、スライドグラス切片上の標識量を測定すること、或いは薄切切片中のラジオアイソト−プ若しくは蛍光活性を示す部分の面積若しくは細胞数をカウントすることによって測定すればよい。
【0031】
本発明予測方法においては、登録番号群1又は2に記載されているUnigene番号で特定される、少なくとも1の遺伝子若しくはその塩基配列と実質的に同一の塩基配列を有する遺伝子(即ち、本遺伝子)から選ばれる1以上の遺伝子のげっ歯類哺乳動物組織におけるmRNAの発現量値を、上述のようにして測定する。mRNAの発現量値を測定する遺伝子を複数選ぶ場合には、登録番号群1又は2に示される登録番号で登録されている塩基配列を有する遺伝子又はそのオ−ソログを複数選んでもよい。
【0032】
本発明予測方法における工程(iii)は、前記被験物質を投与していないげっ歯類哺乳動物組織における前記mRNAの発現量値Cを用意する工程を含む。
前記mRNAの発現量値Cを用意するために、本発明予測方法は、前記工程(i)での投与によって被験物質を投与したげっ歯類哺乳動物からなる被験哺乳動物群の他に、被験物質を投与していないげっ歯類哺乳動物からなる対照哺乳動物群を用意する工程を含めばよい。
前記「被験物質を投与していない」げっ歯類哺乳動物としては、例えば、被験物質を溶液又は分散液の状態で被験哺乳動物群に投与した場合において、溶液又は分散液の調製に使用した溶媒を対照物質として投与した対照哺乳動物群を挙げることができる。対照哺乳動物群への溶媒の投与量は、被験哺乳動物群へ投与した被験物質の溶液又は分散液と同量とすればよい。被験哺乳動物群と対照哺乳動物群とでは投与におけるその他の条件(投与期間、投与頻度等)も同一とすればよい。
また、げっ歯類哺乳動物組織からのmRNAの抽出方法、mRNAの発現量値の測定の対象とする遺伝子、発現量の測定方法等の諸条件は、前記工程(ii)と同一とすることが好ましい。
尚、「発現量値Cの用意する」には、mRNAの通常の発現量値を文献調査等によって行ってもよい。
【0033】
本発明予測方法における工程(iv)は、前記所定の遺伝子のmRNAの発現量値Tと前記所定の遺伝子のmRNAの発現量値Cとの比に基づいて、前記被験物質のげっ歯類哺乳動物組織における発がん性を予測する予測式を用意する工程を含む。
本発明予測方法における予測式とは、被験物質のげっ歯類哺乳動物組織における発がん性を予測可能な1又は2以上の式であればよく、その構成は具体的に限定されるものではない。即ち、データを入力して結果が得られさえすればよく、具体的な数式に記載できないものでもよい。予測式の構築には、例えば、SVM、線形判別分析、ニューラルネットワーク、決定木、K近傍識別器、集団学習等の種々の機械学習手法を用いることができる。機械学習手法は、トレーング手法と言い換えてもよい。
予測式の構築方法の一例として、以下の工程A)〜D)を含む方法を挙げることができる。
【0034】
1.工程A)トレーニング手法のためのトレーニング物質のそれぞれをげっ歯類哺乳動物に1〜90日の範囲内の一定期間投与すること;
2.工程B)前記の登録番号群1又は2に記載されているUnigene番号で特定される、少なくとも1の遺伝子若しくはその塩基配列と実質的に同一の塩基配列を有する遺伝子のmRNAの、前記げっ歯類哺乳動物組織における発現量値T0を測定すること;
3.工程C)前記トレーニング物質を投与していないげっ歯類哺乳動物組織における前記mRNAの発現量値C0を用意すること;
4.工程D)前記発現量値T0と前記発現量値C0との比との比D0を用いて1又は2以上の予測式を構築すること;
【0035】
工程A)は、投与する物質が異なる以外は、投与方法、投与期間、投与頻度等の条件を、前記の「本発明予測方法における工程(i)」での被験物質の投与と同条件とすることが好ましい。但し、これらの条件は完全に同一である必要はなく、予測結果の精度を大きく低下させない範囲内で異なっていてもよい。例えば、「本発明予測方法における工程(i)」における被験物質の投与期間と、前記の工程A)におけるトレーニング物質の投与期間とのズレは、前述のように、一定の範囲内であれば許容され得る。ここで、前記の登録番号群1又は2に記載されているUnigene番号で特定される、少なくとも1の遺伝子若しくはその塩基配列と実質的に同一の塩基配列を有する遺伝子は、例えば、28日間の投与期間で最適な予測結果が得られるように選択されている場合には、当該投与期間としては、具体的には例えば、1〜90日、好ましくは15〜90日、より好ましくは21〜90日、更に好ましくは25〜31日、特に好ましくは27〜29日、最も好ましくは28日等を挙げることができる。
【0036】
工程A)におけるトレーニング手法のための「トレーニング物質」としては、発がん物質及び非発がん物質を用いるとよい。また予測精度を高めるには、2以上の発がん物質及び2以上の非発がん物質を用いることが好ましい。ここで「発がん物質及び非発がん物質」とは、げっ歯類哺乳動物組織(特に肝臓)における発がん性の有無が判明しているトレーニング物質を意味する。
好ましいトレーニング物質としては、例えば、所定のげっ歯類哺乳動物肝における被験物質の発がん性を予測したい場合には、当該所定のげっ歯類哺乳動物肝において発がん性が陽性物質及び陰性物質を挙げることができる。また「所定のげっ歯類哺乳動物」がラットである場合が好ましく、この場合には、ラット肝において発がん性が陽性物質及び陰性物質が挙げられる。
また、げっ歯類哺乳動物全般等の複数のげっ歯類哺乳動物肝における被験物質の発がん性を予測したい場合には、当該複数のげっ歯類哺乳動物肝において発がん性が陽性物質及び陰性物質を挙げることができる。また「複数のげっ歯類哺乳動物」にはラットを含むことが好ましい。
【0037】
トレーニング物質として好適に用いられる物質の具体的な例を表1〜表5に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
【表3】

【0041】
【表4】

【0042】
【表5】

【0043】
表1〜5に挙げた88種の物質は、その発がん性有無によって、表6のように分類できる。
【0044】
【表6】

【0045】
即ち、表6で「げっ歯類哺乳動物肝発がん性」に分類した物質は、ラット又はマウス等のげっ歯類哺乳動物で肝発がんを誘発することが知られている。
「げっ歯類哺乳動物肝非発がん性」に分類した物質は、ラット又はマウス等のげっ歯類哺乳動物で肝発がんを誘発しないことが知られている。
【0046】
工程B)において測定対象となる遺伝子の群(遺伝子の数が1個である場合を包含する)は、「本発明予測方法における工程(ii)」における測定対象となる遺伝子を包含していればよく、例えば、「本発明予測方法における工程(ii)」における測定対象となる遺伝子の他に、他の遺伝子を包含していてもよい。
工程B)は、「本発明予測方法における工程(ii)」と近い条件、好ましくは同一の条件で行われるとよく、例えば、「本発明予測方法における工程(ii)」における測定対象となる遺伝子と同一であることがより好ましい。即ち、「本発明予測方法における工程(ii)」における測定対象となる遺伝子が、登録番号群1又は2に記載されているUnigene番号で特定される全ての遺伝子であれば、当該工程B)における測定対象となる遺伝子も登録番号群1又は2に記載されているUnigene番号で特定される全ての遺伝子であることがより好ましく、また、「本発明予測方法における工程(ii)」における測定対象となる遺伝子が、登録番号群1又は2に記載されているUnigene番号で特定される複数の遺伝子であれば、当該工程B)における測定対象となる遺伝子も登録番号群1又は2に記載されているUnigene番号で特定される同一の複数の遺伝子であることがより好ましい。
尚、当業者に明らかなように、特定の塩基配列を有するmRNAの発現量を測定する目的においては、当該塩基配列に特徴的な部分である塩基配列を有する遺伝子の発現量を測定すればよい。また、工程B)と、「本発明予測方法における工程(ii)」(及び「本発明予測方法における工程(iii)」とで、同一の塩基配列を有するmRNAの発現量を測定する目的においては、この目的を達成できる限り、当該「特徴的な部分である塩基配列」が同一であることは必須なことではない。
【0047】
工程C)において、前記トレーニング物質を投与していないげっ歯類哺乳動物組織における前記mRNAの発現量値C0を用意するには、「本発明予測方法における工程(iii)」における、被験物質を投与していないげっ歯類哺乳動物組織におけるmRNAの発現量値Cを用意するための方法と同様な方法により行えばよい。
【0048】
工程D)において、前記発現量値T0と前記発現量値C0との比との比D0を用いて1又は2以上の予測式を構築するには、例えば、前記発現量値T0と前記発現量値C0との比との比D0を分類器に入力する方法を挙げることができる。ここで「分類器」とは、特に具体的な構成に限定されるものではなく、具体的には例えば、SVM等の判別分析法により構築されるソフトウェア、又は、それがインストールされたコンピュータシステム(即ち、学習データによりトレーニングされた判別分析のためのソフトウェア、又は、それがインストールされたコンピュータシステム)を好ましく挙げることができる。
【0049】
本発明予測方法における工程(v)は、前記発現量値Tと前記発現量値Cとの比を前記式に入力して、前記被験物質のげっ歯類哺乳動物組織における発がん性を予測する工程を含む。
【0050】
更に、上記のような本発明予測方法は、本発明予測方法により予測された、物質が有するげっ歯類哺乳動物組織における発がん性に基づき、げっ歯類哺乳動物組織における発がん性を有する物質を除去することによって、薬剤の有効成分となる物質を探索することができる。また、当該物質は、その薬学的に許容される塩(例えば、酸付加塩又は塩基付加塩)又はその水和物等の溶媒和物の形で利用してもよい。酸付加塩としては、例えば、無機酸付加塩又は有機酸付加塩が挙げられ、無機酸付加塩としては、例えば、塩酸塩、臭化水素塩、硫酸塩、燐酸塩等が挙げられ、有機酸付加塩としては、例えば、酢酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩等が挙げられる。塩基付加塩としては、例えば、無機塩基付加塩又は有機塩基付加塩が挙げられ、無機塩基付加塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等が挙げられ、有機塩基付加塩としては、例えば、アルギニン塩、リジン塩等の塩基性アミノ酸付加塩等が挙げられる。かかる塩は公知の手段によって製造することができる。
【0051】
投与剤形としては、例えば散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、座剤、注射剤、経鼻剤等が挙げられる。製剤化の際は、通常の製剤担体を用い、常法により製造することができる。即ち、経口用製剤を調製する場合には、必要に応じて結合剤、崩壊剤、潤滑剤、着色剤等を加えた後、常法により錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等とする。注射剤を調製する場合には、必要に応じてpH調節剤、緩衝剤、安定化剤、可溶化剤等を添加し、常法により注射剤とすることもできる。
このようにして得られた物質を有効成分とする薬剤の投与は、通常の投与経路、例えば経口、筋肉内、静脈内、皮下、腹腔内、鼻孔内等により行うことができる。投与量及び投与回数は投与経路、症状の程度、年齢等に基づき適宜決定すればよい。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を挙げて更に詳細に本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、以下で用いる用語の説明については、実験医学別冊、マイクロアレイデータ統計解析報告書(羊土社、2008)を参照されたい。
【0053】
実施例1 (トレーニングデータの取得)
(1)トレーニング物質における本遺伝子のmRNAの発現量値の測定
(1−1)げっ歯哺乳動物への物質の投与
日本チャールス・リバー社から入手した5週令の雄性ラット(F344、SPF系統)を4匹/群に分け、各群のラットに、表1〜表5に示す全88種の物質をそれぞれ同表に示す溶媒に溶解させて調製した溶液を、同表に示す用量で強制経口投与、又は、餌に混合して混餌投与した。投与は1日1回、28日間行った。
【0054】
(1−2)本遺伝子のmRNAの抽出
投与開始から29日目に各個体の肝臓を採取した。採取された肝臓から組織断片を切り出し、全RNA保存安定用試薬であるRNAlater(商標)RNA Stabilization Reagentに浸漬させた。これを室温で24時間放置後、RNAlater RNA Stabilization Reagentに浸漬させたまま−20℃で保存した。
ラット肝組織からAGPC法により全RNAを抽出し、QIAGEN社BioRobot 3000を用いて、QIAGEN社RNeasy Midi KitによりmRNAを精製した。精製法は製造会社の使用法に準じて行ったが、概略は以下のとおりである。
切り出した組織サンプル50−100mgと破砕用ビーズ(直径5mm、ジルコニア製)とを2mLエッペンドルフチューブに入れた。これにRLTバッファーを添加した後、Mixer Mill(QIAGEN社製)により、25Hz、4分間で2回、組織破砕を行った。破砕後の組織サンプルを5,000×g、5分間遠心し、未破砕物を沈殿させた。
上清に70%エタノールを添加し混合した後、この混合物をカラム(RNeasy Midi column)へ添加した。3,000−5,000×gで5分間の遠心分離によりカラムから通過物を除き、RW1バッファーをカラムに添加して、更に3,000−5,000×gで5分間の遠心分離により通過物を除いた。その後、DNase I溶液(QIAGEN社製)をカラムに添加し室温で15分間放置し、更にRW1バッファーを添加した。3,000−5,000×gで5分間の遠心分離によりカラムから通過物を除き、RPEバッファーを添加した。更に3,000−5,000×gで2分間の遠心分離に供した後、カラムに再度RPEバッファーを添加した。そして、3,000−5,000×gで2分間、更に3,000−5,000×gで5分間の遠心分離によって、カラムを乾燥させた。
RNase-free水をカラムに添加して5分間放置した後、3,000−5,000×gで2分間の遠心分離によりRNA溶液を回収した。濃度及び回収率を向上させるために、回収したRNA 溶液を再度カラムに添加して5分間放置した後、3,000−5,000×gで2分間遠心分離することにより、最終的な精製全RNA溶液を得た。
精製全RNAの純度を示す260nm/280nm比は、アマシャムファルマシアバイオテク社製光学的測定装置Ultrospec 3100 proを用いて測定した。
更に、精製全RNAについて、Agilent社BioAnalyser2100を用いてその電気泳動パターンを検査した。電気泳動にはRNA6000nanoチップ(Agilent社製)を用い、操作法は製造会社の使用法に準じて行った。精製全RNAの濃度測定はアマシャムファルマシアバイオテク社製光学的測定装置Ultrospec 3100 proを用いた方法で行った。
光学的測定装置として、分光光度計による場合には光路長1cmの場合1{吸光度(260nm)−吸光度(320nm)} = 40μg RNA/mLとして計算した。
【0055】
(1−3)ラベル化cRNAの調製
GeneChip(商標)Expression 3'-Amplification Reagents One-Cycle cDNA Synthesis Kit(アフィメトリックス社製)、GeneChip(商標)Expression 3'-Amplification Reagents for IVT Labeling(アフィメトリックス社製)、GeneChip(商標)Sample Cleanup Module(アフィメトリックス社製)を用い、ラベル化cRNAを調製した。調製法は製造会社の使用法に準じて行った。概略は以下のとおりである。
前記(1−2)で得た精製全RNA 5μg及びT7-Oligo(dT)プライマー100pmolを含む12μlの混合液を、70℃で10分間加熱後、氷上で冷却した。冷却後、これに5×First Strand Reaction Mix 4μl、0.1M DTT 2μl及び10mM dNTP mix 1μlを添加し、42℃で2分間加熱した。更に、これにSuper Script II RT 2μl(400U)を添加し、42℃で1時間加熱後、氷上で冷却した。冷却後、これにDEPC処理滅菌蒸留水91μl、5×Second Strand Reaction Mix 30μl、10mM dNTP mix 3μl、E.coli DNA Ligase 1μl(10U)、E.coli DNA Polymerase I 4μl(40U)、及びE.coli RNase H 1μl(2U)を添加し、16℃で2時間反応させた。次いで、T4 DNA Polymerase 2μl(10U)を加え、16℃で5分間反応させた後、0.5M EDTA 10μlを添加した。次いで、GeneChip(商標)Sample Cleanup Moduleに添付されたcDNA Cleanup Spin Columnを用い、合成されたcDNAを精製した。精製法は製造会社の使用法に従った。
更に、溶出された12μlのcDNA溶液に、DEPC処理滅菌蒸留水8μl、10×IVT Labeling buffer 4μl、IVT Labeling dNTP Mix 12μl及びIVT Labeling Enzyme Mix 4μlを添加し、37℃で16時間加熱した。再び、GeneChip(商標)Sample Cleanup Moduleに添付されたIVT cRNA Cleanup Spin Columnを用い、合成されたラベル化cRNAを精製した。精製法は製造会社の使用法に従った。
【0056】
(1−4)ラベル化cRNAのフラグメント化、プローブアレイとのハイブリダイゼーション、プローブアレイの染色及びスキャン並びにmRNAの発現量の数値化
GeneChip(商標)Rat Genome 230 2.0 アレイ(アフィメトリックス社製、以下「プローブアレイ」と称する)、GeneChip(商標)解析システム、GeneChip(商標)Expression 3’−Amplification Reagents Hybridization Control Kit(アフィメトリックス社製)及びGeneChip(商標)Hibridization,Wash, and Stain Kit(アフィメトリックス社製)を用い、本遺伝子のmRNAの発現量値を測定した。測定は製造会社の使用法に準じて行ったが、概略は以下のとおりである。
精製されたラベル化cRNA 20μg、5×Fragmentation Buffer(GeneChip(商標)Sample Cleanup Moduleに添付)8μlを含む反応液40μlを、94℃、35分間加熱後、氷冷し、フラグメント化cRNA溶液を得た。次いで、フラグメント化cRNAを、以下のようにしてプローブアレイとハイブリダイゼーションさせた。
即ち、フラグメント化cRNA溶液 40μl、3nm Contol Oligo B2 6.7μl、20×Hybridization Controls 20μl、2×Hybridization Mix 200μl、DMSO 40μl及びDEPC処理滅菌蒸留水93.3μlを混合することにより、400μlのハイブリダイゼーションカクテルを得た。得られたハイブリダイゼーションカクテルを99℃で5分間加熱、更に45℃で5分間加熱した。加熱後、室温において14,000rpmで5分間遠心分離することにより、ハイブリダイゼーションカクテル上清を得た。
一方、Pre−Hybridization Mixで満たしたプローブアレイを、ハイブリダイゼーションオーブン内で、45℃において60rpmで10分間回転させた後、Pre−Hybridization Mixを除去した。その後、これにプローブアレイにハイブリダイゼーションカクテル上清200μlを添加し、ハイブリダイゼーションオーブン内で45℃において60rpmで16時間回転させ、ハイブリダイゼーション済みプローブアレイを得た。プローブアレイからハイブリダイゼーションカクテルを除去し、プローブアレイをWash Buffer Aで満たした。
GeneChip(商標)Fluidics Station 450の所定の位置にプローブアレイを装着し、プロトコールに従って前記プローブアレイを洗浄した後、Stain Cocktail 1及び2を用いてプローブアレイを染色した。染色後、アレイをArray Holding Bufferで満たした。
プローブアレイをGeneChip(商標) Scanner 3000に供し、シグナルを570nmの蛍光輝度を測定することによって読み取った。得られた結果をGeneChip(商標)Operating Softwareにより解析し、配列番号1〜64の塩基配列を有する遺伝子のmRNAの発現量値を得た。
【0057】
(1−5)コントロール物質における本遺伝子のmRNAの発現量値の測定
溶媒のみを投与した以外は、前記と同様の手順で本遺伝子のmRNAの発現量値(溶媒対照)を得た。
【0058】
(1−6)各物質における本遺伝子のmRNAの発現量値の加工
各物質における本遺伝子のmRNAの発現量値を溶媒対照における本遺伝子のmRNAの発現量値で除算して得られた数値のLog2値を計算し、縦の項目が各物質の化合物名、横の項目が塩基配列名からなるCSV形式のファイルを作成した。
【0059】
実施例2 (予測式の作成)
(1)SVMソフトの使用
予測式であるSVMの作成には、R言語及びe1071パッケージ(Support Vector Machines, The Interface to libsvm in package e1071 by David MeyerTechnische Universitat Wien, Austria, David.Meyer@ci.tuwien.ac.at(October 21, 2007))を使用した。いずれも、オープンソースのフリーソフトで有志により管理されており、インターネットを利用してR言語のサイトより入手できる。
R言語本体は筑波大学のサイト(2008年9月時点でのホームページ:http://cran.md.tsukuba.ac.jp/)より入手した。
e1071パッケージは Misc Functions of the Department of Statistics(e1071)、ウイーン工科大学(TU Wien)で製作された物であり、同大学のサイト(製作者:Evgenia Dimitriadou,、Kurt Hornik,、Friedrich Leisch,、David Meyer and Andreas Weingessel、2008年9月時点でのホームページ: http://cran.r-project.org/web/packages/e1071/index.html)より入手したものを使用した。
【0060】
(2)トレーニングによる予測式の構築
実施例1で得られたCSV形式ファイルから、データを抽出してトレーニングデータとし、前記SVMソフトを用いて予測式F01及びF02を構築した。当該予測式による予測の妥当性を検定するために、予測式を用いて、予測式の構築に用いたトレーニングデータから、発がん性の予測を行い、その正答率を算出した。結果を表7に示す。表中の予測式F01は、登録番号群1及び2に記載されているUnigene番号で特定される遺伝子の全てを使用した場合の予測結果を示すものである。表中の予測式F02は、登録番号群2に記載されているUnigene番号で特定される遺伝子の全てを使用した場合の予測結果を示すものである。予測式F01及びF02の何れも予測精度(正答率)は良好であった。
【0061】
【表7】

【0062】
実施例3 (発がん性の予測)
(1)発がん性の予測
次に、トレーニングデータ取得時には用いなかった物質、つまりトレーニング物質以外の物質における発がん性の予測を行った。
具体的には、表8に示す6種類の被験物質1〜6を用いた。被験物質1〜6について、げっ歯類哺乳動物肝における発がん性の有無は、表8に示す通りである。
【0063】
【表8】

【0064】
各被験物質について、前記(a)欄と同様の手順によって、28日間ラットに投与し、登録番号群1又は2から選択されるUnigene番号で特定される全ての遺伝子について、のmRNAの発現量値を取得し、これを数値化した。
そして、この数値に基づき、各被検物質のげっ歯類哺乳動物肝発がん性を予測した。表8の中、「陽性」を “+”と記し、陰性を“−”と記した。また、予測が正解であったものを“T”と記し、不正解であったものを、“F”と記した。
表8に示すように、予測結果は、ピペロニルブトキシド以外の被験物質で文献情報と同一であり、予測精度は良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
多額の費用と長期の試験期間を要する哺乳動物実験の実施とを要することなく、物質が有するげっ歯類哺乳動物組織における発がん性を予測する新たな方法が提供可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験物質をげっ歯類哺乳動物に1〜90日の範囲内の一定期間投与する工程(i)と、
工程(i)の後、後記の登録番号群1又は2に記載されているUnigene番号で特定される、少なくとも1の遺伝子若しくはその塩基配列と実質的に同一の塩基配列を有する遺伝子のmRNAの、前記げっ歯類哺乳動物組織における発現量値Tを測定する工程(ii)と、
前記被験物質を投与していないげっ歯類哺乳動物組織における前記mRNAの発現量値Cを用意する工程(iii)と、
前記発現量値Tと前記発現量値Cとの比に基づいて、前記被験物質のげっ歯類哺乳動物組織における発がん性を予測する予測式を用意する工程(iv)と、
前記発現量値Tと前記発現量値Cとの比を前記式に入力して、前記被験物質のげっ歯類哺乳動物組織における発がん性を予測する工程(v)と、
を含む被験物質のげっ歯類哺乳動物組織における発がん性の予測方法。
<登録番号群1>
Rn.812、Rn.22885、Rn.43737、Rn.223、Rn.11139、Rn.11120、Rn.1742、Rn.72896、Rn.144660、Rn.82692、Rn.91133、Rn.217495、Rn.92022、Rn.3334、Rn.94004、Rn.44576、Rn.102781、Rn.101464、Rn.6228、Rn.160666、Rn.129282、Rn.198150、Rn.8396、Rn.1086、Rn.6886、Rn.3175、Rn.12038、Rn.106017、Rn.57036、Rn.23516、Rn.42903、Rn.24733、Rn.17071、Rn.17902、Rn.220059、Rn.23417、Rn.98327、Rn.13486、Rn.206214、Rn.107990、Rn.46850、Rn.202605、Rn.4220、Rn.90858、Rn.169535、Rn.203065、Rn.122206、Rn.34330、Rn.145222、Rn.220000、Rn.159796、Rn.22226、Rn.101331、Rn.3514、Rn.92645、Rn.199361、Rn.21775、Rn.65516、Rn.145692、Rn.65866、Rn.203229、Rn.195259、Rn.163277、Rn.45930、Rn.165750、Rn.214849、Rn.199064、Rn.144972、Rn.29936、Rn.3609、Rn.262、Rn.31786、Rn.2695、Rn.33324、Rn.9912、Rn.196348、Rn.34842、Rn.5788、Rn.54439、Rn.97792、Rn.71224、Rn.92909、Rn.49121、Rn.18315、Rn.37805、Rn.104175、Rn.166116、Rn.8038、Rn.7927、Rn.19335、Rn.1589、Rn.16371、Rn.7771、Rn.144939、Rn.28608、Rn.100446、Rn.95276、Rn.203804、Rn.10511、Rn.218799、Rn.209056、Rn.196543、Rn.3421、Rn.1869、Rn.82693、Rn.29909、Rn.92100、Rn.13592、Rn.23381、Rn.806、Rn.12122
<登録番号群2>
Rn.88085、Rn.977、Rn.10817、Rn.81058、Rn.25201、Rn.164881、Rn.162221、Rn.166414、Rn.112577、Rn.103390、Rn.205626、Rn.16736、Rn.8555
【請求項2】
前記予測式は、2以上の発がん物質および2以上の非発がん物質のそれぞれをげっ歯類哺乳動物に1〜90日の範囲内の一定期間投与することと、
前記の登録番号群1又は2に記載されているUnigene番号で特定される、少なくとも1の遺伝子若しくはその塩基配列と実質的に同一の塩基配列を有する遺伝子のmRNAの、前記げっ歯類哺乳動物組織における発現量値T0を測定することと、
前記被験物質を投与していないげっ歯類哺乳動物組織における前記mRNAの発現量値C0を用意することと、
前記発現量値T0と前記発現量値C0との比を、分類器に入力することと、を含む方法によって構築される式であることを特徴とする請求項1記載の予測方法。
【請求項3】
前記げっ歯類哺乳動物が、ラット、マウス、ハムスター及びモルモットからなる群から選ばれる哺乳動物であることを特徴とする請求項1又は2記載の予測方法。
【請求項4】
前記げっ歯類哺乳動物組織が、肝臓組織であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の予測方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載される予測方法により予測された、物質が有するげっ歯類哺乳動物組織における発がん性に基づきげっ歯類哺乳動物組織における発がん性を有する物質を除去する工程を有することを特徴とする薬剤の有効成分となる物質の探索方法。
【請求項6】
物質が有するげっ歯類哺乳動物組織における発がん性を予測する予測式を構築するための後記の登録番号群1又は2に記載されているUnigene番号で特定される、少なくとも1の遺伝子若しくはその塩基配列と実質的に同一の塩基配列を有する遺伝子の使用。
<登録番号群1>
Rn.812、Rn.22885、Rn.43737、Rn.223、Rn.11139、Rn.11120、Rn.1742、Rn.72896、Rn.144660、Rn.82692、Rn.91133、Rn.217495、Rn.92022、Rn.3334、Rn.94004、Rn.44576、Rn.102781、Rn.101464、Rn.6228、Rn.160666、Rn.129282、Rn.198150、Rn.8396、Rn.1086、Rn.6886、Rn.3175、Rn.12038、Rn.106017、Rn.57036、Rn.23516、Rn.42903、Rn.24733、Rn.17071、Rn.17902、Rn.220059、Rn.23417、Rn.98327、Rn.13486、Rn.206214、Rn.107990、Rn.46850、Rn.202605、Rn.4220、Rn.90858、Rn.169535、Rn.203065、Rn.122206、Rn.34330、Rn.145222、Rn.220000、Rn.159796、Rn.22226、Rn.101331、Rn.3514、Rn.92645、Rn.199361、Rn.21775、Rn.65516、Rn.145692、Rn.65866、Rn.203229、Rn.195259、Rn.163277、Rn.45930、Rn.165750、Rn.214849、Rn.199064、Rn.144972、Rn.29936、Rn.3609、Rn.262、Rn.31786、Rn.2695、Rn.33324、Rn.9912、Rn.196348、Rn.34842、Rn.5788、Rn.54439、Rn.97792、Rn.71224、Rn.92909、Rn.49121、Rn.18315、Rn.37805、Rn.104175、Rn.166116、Rn.8038、Rn.7927、Rn.19335、Rn.1589、Rn.16371、Rn.7771、Rn.144939、Rn.28608、Rn.100446、Rn.95276、Rn.203804、Rn.10511、Rn.218799、Rn.209056、Rn.196543、Rn.3421、Rn.1869、Rn.82693、Rn.29909、Rn.92100、Rn.13592、Rn.23381、Rn.806、Rn.12122
<登録番号群2>
Rn.88085、Rn.977、Rn.10817、Rn.81058、Rn.25201、Rn.164881、Rn.162221、Rn.166414、Rn.112577、Rn.103390、Rn.205626、Rn.16736、Rn.8555

【公開番号】特開2010−259382(P2010−259382A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−113361(P2009−113361)
【出願日】平成21年5月8日(2009.5.8)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】