説明

物質が有する骨格筋毒性誘発能力の検定方法

【課題】
物質が有する骨格筋毒性誘発能力をより正確にかつ簡便に検定するための方法等を提供可能とすること。
【解決手段】
物質が有する骨格筋毒性誘発能力の検定方法において、
(1)骨格筋由来培養細胞に、被験物質及び標識GGPPを接触させる第一工程、
(2)第一工程後の前記培養細胞の細胞ホモジネート中に存在し、かつ、当該細胞ホモジネートをSDS-PAGEにより分離して得られうる物質であり、当該SDS-PAGEにおいて分子量20kd及び25kdの間に電気泳動されるバンドに含まれる物質への標識GGPPの取り込みの有無又はその量を測定する第二工程、
(3)第二工程により測定された標識GGPPの取り込みの有無又はその量と、対照における標識GGPP取り込みの有無又はその量とを比較することにより得られる差異に基づき前記被験物質の骨格筋毒性誘発能力の有無又はその程度を評価する第三工程
を有することを特徴とする検定方法等。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物質が有する骨格筋毒性誘発能力の検定方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
骨格筋毒性は薬剤投与により誘発される副作用のうち重篤なものの一つである。この骨格筋毒性は種々の薬剤によって引き起こされるが、その中でもHMG−CoA(3−Hydroxy−3−methylglutaryl coenzyme A)還元酵素阻害剤投与等により誘発される骨格筋毒性(横紋筋融解症)はその重篤さゆえに臨床現場でも問題視されており、この骨格筋毒性を他の薬剤よりも高率に引き起こした薬剤の中には市場から撤退する化合物も見出される。従って(被験)物質が有する骨格筋毒性誘発能力を検定することは、(被験)物質に対する毒性スクリーニングにとって重要なステップとなる。
【0003】
骨格筋毒性誘発能力の検定方法としては、従来から、各種のモデル動物を用いた方法が知られている。用いられているモデル動物としては、ラット・ウレタン麻酔モデル(例えば、非特許文献1等参照)、ラット・Cyclosporin A(以下、CsAと記すこともある。)併用モデル(例えば、非特許文献2及び3等参照)、ラット・混餌投与モデル(例えば、非特許文献4等参照)、ラット・薬物トランスポーター(Mrp2)欠損モデル(例えば、非特許文献5等参照) 、ウサギ(例えば、非特許文献6等参照)等を挙げることができる。また骨格筋由来培養細胞を用いたin vitroでの検定方法については、ラットの骨格筋由来細胞株(L6)を用いた方法(例えば、非特許文献7及び8等参照)、新生児ラットの骨格筋より調製された初代培養骨格筋細胞を用いた方法(例えば、非特許文献9、10及び11等参照)、ヒトの初代培養骨格筋細胞を用いた方法(例えば、非特許文献12等参照)も知られている。
【0004】
【非特許文献1】Biological and Pharmaceutical Bulletin,20,104−106,1997
【非特許文献2】The Journal of Pharmacology and Experimental Thrapeutics,257,1225−1235,1991
【非特許文献3】European Heart Journal,13(Supll.B),2−6,1992
【非特許文献4】The Journal of Toxicological Sciences, 29,458,2004
【非特許文献5】第18回 日本薬物動態学会年会(2003)講演要旨集、p.290
【非特許文献6】Journal of the Neurological Sciences,113,114−117,1992
【非特許文献7】Biochemical and Biophysical Research Communication,202,1579−1585,1994
【非特許文献8】FEBS letters,438,289−292,1998
【非特許文献9】Toxicology and Applied Pharmacology,131,163−174,1995
【非特許文献10】Biochimica et Biophysica Acta,1315,217−222,1996
【非特許文献11】Toxicology and Applied Pharmacology,145,91−98,1997
【非特許文献12】Society of Toxicology,2003年Annual Meeting要項集,p.49−50
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記のモデル動物を用いた検定方法のうち、ラット・ウレタン麻酔モデルを用いた方法については、評価パラメータとされているCreatine phosphokinase (CPK)が骨格筋由来であることが確認されておらず、骨格筋傷害モデルとなりうるかが検証されていない。またラット・CsA併用モデルを用いた方法については、個体間の変動が大きく十分なn数が必要であること、またCsA併用によって引き起こされる胆汁うっ滞作用により薬剤曝露が増加することで骨格筋毒性が発症すると考えられているが、前記メカニズムを考慮すると尿排泄型薬物では当該モデルが成立しない可能性が指摘される、等の問題点が存在する。またラット・混餌投与モデルを用いた方法については、同一化合物の強制経口投与では同様の骨格筋毒性が発現しないため混餌投与が必要となること、また認められた骨格筋毒性が一過性で被験物質投与を継続しているにもかかわらず回復していることから、この骨格筋毒性発現時期を被験物質毎に見極める必要がある、等の問題点がある。またラット・薬物トランスポーター(Mrp2)欠損モデルを用いた方法については、Mrp2の基質となる被験物質に関しては有用であると考えられるが、Mrp2の基質とならない被験物質またはMrp2以外のトランスポーターからも排泄される被験物質に関して当該モデルは適用できない可能性が考えられる。さらにウサギを用いた方法については、個体間変動が多いため十分なn数が必要であり、またウサギを用いることから毒性スクリーニングにおける試験において少量の被験物質での評価が困難である等の問題を有していた。
【0006】
また骨格筋由来培養細胞を用いたin vitroでの検定方法については、いずれの報告も被験物質による細胞生存率に対する影響を指標としており、必ずしも骨格筋に対する特異性毒性が必ずしも正確に評価されていない等の問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、このような状況下において鋭意検討した結果、骨格筋由来培養細胞に骨格筋毒性誘発能力を有する物質を接触させると、前記培養細胞の細胞ホモジネート中に存在し、かつ、当該細胞ホモジネートをSDS(Sodium Dodecyl Sulfate)−PAGE(ポリアクリルアミド電気泳動)(以下、SDS−PAGEと記すこともある。)により分離して得られうる物質であり、当該SDS−PAGEにおいて分子量20kd(キロダルトン)及び25kdの間に電気泳動されるバンドに含まれる物質へのゲラニルゲラニルピロリン酸(GGPP)の取り込み量が増加するという新規な知見を見出し、本発明に至った。
【0008】
即ち、本発明は、
1.物質が有する骨格筋毒性誘発能力の検定方法において、
(1)骨格筋由来培養細胞に、被験物質及び標識GGPPを接触させる第一工程、
(2)第一工程後の前記培養細胞の細胞ホモジネート中に存在し、かつ、当該細胞ホモジネートをSDS−PAGEにより分離して得られうる物質であり、当該SDS−PAGEにおいて分子量20kd及び25kdの間に電気泳動されるバンドに含まれる物質への標識GGPPの取り込みの有無又はその量を測定する第二工程、
(3)第二工程により測定された標識GGPPの取り込みの有無又はその量と、対照における標識GGPP取り込みの有無又はその量とを比較することにより得られる差異に基づき前記被験物質の骨格筋毒性誘発能力の有無又はその程度を評価する第三工程
を有することを特徴とする検定方法(以下、本発明検定方法と記すこともある。);
2.標識GGPPがH標識GGPPであることを特徴とする請求項1記載の検定方法;
3.物質が有する骨格筋毒性誘発能力の検定のための試薬であって、標識GGPPを含有することを特徴とする試薬(以下、本発明試薬と記すこともある。);
4.請求項1又は2記載の方法により評価された、物質が有する骨格筋毒性誘発能力の有無又はその程度に基づき骨格筋毒性誘発能力を有する物質を選抜する工程を有することを特徴とする骨格筋毒性誘発能力を有する物質の探索方法(以下、本発明探索方法と記すこともある。);
等を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、物質が有する骨格筋毒性誘発能力をより正確にかつ簡便に検定するための方法等が提供可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明検定方法において用いられる培養細胞としては、骨格筋由来の培養細胞であれば特に限定されるものではなく、例えば、種々の実験動物、ヒト等の骨格筋(例えば、大腿筋)由来の初代培養細胞や株化培養細胞等を挙げることができる。尚、これらの培養細胞は、当該技術分野における通常の方法により種々の実験動物、ヒト等の組織から調製してもよいが、勿論、市販のものを用いてもよい。
【0011】
本発明検定方法の第一工程では、骨格筋由来培養細胞に、被験物質及び標識GGPPを接触させればよい。
当該培養細胞に、被験物質及び標識GGPPを接触させる時間としては、例えば、12時間以上、好ましくは12時間以上3日間以内を挙げることができる。当該接触系内の温度としては、例えば、20℃〜40℃程度、好ましくは25℃〜40℃程度が挙げられる。
標識GGPPとしては、例えば、3H標識GGPP等の放射性標識GGPP等を挙げることができる。尚、これらの化合物は、当該技術分野における通常の方法により調製してもよいが、勿論、市販のものを用いてもよい。
【0012】
本発明検定方法の第一工程における接触系内での被験物質の濃度としては、例えば、0.01μM〜100mM程度、好ましくは0.01μM〜10mM程度を挙げることができる。
本発明検定方法の第一工程における接触系内での標識GGPPの濃度としては、例えば、標識GGPPがH標識GGPPである場合には、1μCi/mL〜100μCi/mL程度、好ましくは30μCi/mL〜50μCi/mL程度が挙げられる。
本発明検定方法の第一工程における接触系内での被験物質と標識GGPPとの存在比率としては、例えば、標識GGPPがH標識GGPPである場合には、0.001〜10nモル(被験物質)/μCi(放射性標識GGPP)程度、好ましくは0.01〜10nモル/μCi程度を挙げることができる。
本発明検定方法の第一工程における接触系内での前記培養細胞の密度としては、例えば、1×103cell/cm2〜1×105cell/cm2程度、好ましくは3×103cell/cm2〜3×104cell/cm2程度が挙げられる。
【0013】
本発明検定方法の第二工程では、第一工程後の前記培養細胞の細胞ホモジネート中に存在し、かつ、当該細胞ホモジネートをSDS−PAGEにより分離して得られうる物質であり、当該SDS−PAGEにおいて分子量20kd及び25kdの間に電気泳動されるバンドに含まれる物質への標識GGPPの取り込みの有無又はその量を測定すればよい。ここで、GGPPが特異的に取り込まれる「物質」とは、第一工程後の前記培養細胞の細胞ホモジネート中に存在し、かつ、当該細胞ホモジネートをSDS−PAGEにより分離して得られうる物質であり、当該SDS−PAGEにおいて分子量20kd及び25kdの間に電気泳動されるバンドに含まれる物質(以下、本タンパク質様物質と記すこともある。)をいう。
本タンパク質様物質への標識GGPPの取り込みの有無又はその量は、当該標識GGPPを検出し又は定量できる測定方法であればいかなる方法であってもよいが、例えば、標識GGPPがH標識GGPPである場合には、Toxicology and Applied Pharmacology,145,99−110,1997等に記載されるような公知な方法を用いればよい。
具体的には、まず被験物質及び3H標識GGPPを予め接触された骨格筋由来培養細胞を、Phosphate Buffered Saline(PBS)で洗浄した後、当該培養細胞の細胞ホモジネートを当該技術分野における通常の方法により調製する。細胞ホモジネートの調製方法としては、例えば、24穴マイクロプレート上で培養された培養細胞の場合には、40mg/mL SDS、20%(V/V) グリセロール、0.1mg/mL ブロモフェノールブルー及び10%(V/V) βメルカプトエタノールを含有する0.125M トリス−塩酸緩衝液(pH 6.8)を、100μL/ウェルの割合で24穴マイクロプレートの各ウェルに添加することにより、培養細胞を溶解する。次いで、得られた溶解物を65℃で10分間熱処理することにより、細胞ホモジネートを調製すればよい。
得られた細胞ホモジネートをSDS−PAGEで分離する。
次いで当該SDS−PAGEのゲルを固定、乾燥させた後、オートラジオグラフィーを行い、当該SDS−PAGEにおいて分子量20kd及び25kdの間に電気泳動されるバンドに含まれる3H標識GGPPの量をデンシトメータ等を用いて定量することにより、前記SDS−PAGEにおいて分子量20kd及び25kdの間に電気泳動されるバンドに含まれる物質への3H標識GGPPの取り込みの有無又はその量を測定する。
【0014】
本発明方法の第三工程では、第二工程により測定された標識GGPPの取り込みの有無又はその量と、対照における標識GGPP取り込みの有無又はその量とを比較することにより得られる差異に基づき前記被験物質の骨格筋毒性誘発能力の有無又はその程度を評価すればよい。
例えば、標識GGPPがH標識GGPPである場合には、第二工程で得られた測定結果から、下記の計算式に従って本タンパク質様物質への3H標識GGPPの取り込み率(%)を求める。
【0015】
3H標識GGPPの取り込み率(%)=被験物質における測定値×100/対照(ネガティブコントロール)における測定値
【0016】
このようにして求められた取り込み率と対照(即ち、基準物質、ネガティブコントロール等)における取り込み率とを比較することにより得られる差異に基づき前記被験物質の骨格筋毒性誘発能力の有無又はその程度を評価する。この場合、被験物質処理培養細胞における3H標識GGPPの取り込み率が対照(基準物質)培養細胞における3H標識GGPPの取り込み率よりも高い値であれば、当該被験物質は当該基準物質よりも骨格筋毒性誘発能力が高いと評価する。即ち、当該被験物質は当該基準物質よりも高い骨格筋毒性誘発能力を有する物質として判断すればよい。このようにして被験物質が有する骨格筋毒性誘発能力の検定(本発明検定方法)を行うことができる。
本発明検定方法において、測定された標識GGPP取り込みの有無又はその量と対照における標識GGPP取り込みの有無又はその量とを比較する場合には、異なる2種以上の物質のうち、少なくとも一つの物質が骨格筋毒性誘発能力を有さない物質(例えば、溶媒、バックグランドとなる試験系溶液等のネガティブコントロールであってもよい。)とすることで、他方の被験物質が有する骨格筋毒性誘発能力を評価してもよいし、また前記異なる2種以上の物質のうち、少なくとも一つの物質(例えば、基準物質)が有する骨格筋毒性誘発能力を基準としながら他方の被験物質が有する骨格筋毒性誘発能力を評価してもよい。もちろん両者で評価してもよい。
【0017】
より具体的には、例えば、標識GGPPがH標識GGPPである場合には、下記の式に従って3H標識GGPP取り込み率に係る増加率(%)を求めるとよい。
【0018】
3H標識GGPP取り込み率に係る増加率(%)=被験物質における3H標識GGPPの取り込み率×100/対照(ネガティブコントロール)における3H標識GGPPの取り込み率
【0019】
例えば、対照としてネガティブコントロールを用いた場合には、骨格筋毒性誘発能力を評価するための指標となる3H標識GGPPの取り込み率に係る増加率が統計学的に有意な値を示す物質、具体的に好ましくは、例えば、上記の式における3H標識GGPPの取り込み率に係る増加率が20%以上を示す物質、より好ましくは40%以上を示す物質を、骨格筋毒性誘発能力を有する物質として選抜する。
【0020】
このようにして本発明検定方法は、骨格筋毒性誘発能力を有しない物質の探索等に利用することができる。具体的には、骨格筋毒性誘発能力を有する物質を探索するには、本発明検定方法により評価された、物質が有する骨格筋毒性誘発能力の有無又はその程度に基づき骨格筋毒性誘発能力を有する物質を選抜することによって、骨格筋毒性誘発能力を有しない物質を探索することができる。尚、当該物質は、骨格筋毒性誘発能力を有する限り、低分子化合物、蛋白質又はペプチド等のいかなる物質であってもよい。
【0021】
3H標識GGPP等の標識GGPPは、上記のように、物質が有する骨格筋毒性誘発能力の検定のための試薬(即ち、本発明試薬)として使用することができる。
【0022】
本発明は、本発明検定方法に基づくシステム工程を有する、物質が有する骨格筋毒性誘発能力を検定するための装置も含み、また本発明検定方法により検定して得られた骨格筋毒性に係る情報を有する電子情報記録媒体等も含むものである。
【実施例】
【0023】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0024】
実施例1 (ラットの骨格筋由来培養細胞株の調製及び処理)
大日本製薬(株)から購入したラット・骨格筋由来培養細胞株(L6細胞株)を使用した。当該培養細胞を以下の培養液を用いて、37℃、5%CO/95%Airの条件下、24ウェルマイクロプレート上で培養した。
培養液としては、Dulbecco's modified Eagle's medium(DMEM、GIBCO社製)500mLに下記の成分が添加されたもの(以下、L6細胞増殖培地と記すこともある。)を用いた。
【0025】
<添加された成分>
・Fetal Bovine Serum (HyClone社製、以下、FBSと記すこともある。) 10% (V/V)
・ペニシリン (最終濃度:100U/mL)−ストレプトマイシン(最終濃度:100μg/mL)
【0026】
上記の培養細胞がコンフルエントとなったことを確認した後、L6細胞増殖培地を、上記のL6細胞増殖培地のうちFBSのみが1%(V/V)とされた培地(以下、L6細胞分化培地と記すこともある。)に交換して、引き続き3日間培養することにより、L6細胞株を分化させた。次いで培養液を、骨格筋毒性を有することが知られているシムバスタチン(和光純薬社製)を3μM〜30μM含有するL6細胞分化培地に交換して、約6時間培養した後、さらに3H標識GGPP(パーキンエルマー社製)を含むL6細胞分化培地を加え(最終濃度:42μCi/mL)、約20時間培養した。因みに、3H標識GGPPは、3H標識GGPPの70%エタノール溶液で、放射能濃度18.5Mbq(0.5mCi)/mL、比放射能851.0GBq(23.0Ci)/mmolのものが用いられ、培養液中での最終濃度が42μCi/mLとなるように直接培養液に添加された。
培養終了後、前記培養細胞をPhosphate Buffered Saline(PBS)で2回洗浄した後、当該培養細胞に、SDS−PAGE用サンプルバッファー(0.125M トリス−塩酸緩衝液(pH 6.8)、SDS 40mg/mL、グリセロール 200μL/mL(V/V)、ブロモフェノールブルー 0.1mg/mL)を加え混合することにより、当該培養細胞を溶解した。このようにして得られた細胞ホモジネートを調製した。
得られた細胞ホモジネート中に含まれるタンパク質の濃度をプロテインアッセイキット(BioRad社製)を用いて測定し、適宜細胞ホモジネートを前記のSDS−PAGE用サンプルバッファーで希釈した。
【0027】
実施例2 (SDS−PAGEにおいて分子量20kd及び25kdの間に電気泳動されるバンドに含まれる物質への3H標識GGPPの取り込み量の測定)
実施例1で得られた細胞ホモジネートを、10%ポリアクリルアミド含有ゲル(レディーゲルJ、BIO−RAD)を用いてSDS−PAGEを行った(50μgタンパク質/レーン)。電気泳動終了後、前記ゲルを10%酢酸で固定(室温、30分間)し、乾燥(80℃、1時間、BIO−RAD Model543使用)させた後、当該ゲルをイメージングプレート(富士イメージングプレート、BAS−TR2040、富士写真フィルム社製)に密着して7日間露光させた。
次に、露光後のイメージングプレートについて、イメージアナライザー(FLA−5000、富士写真フィルム社製)でそのオートラジオグラフィーを読み取り、3H標識GGPPの取り込み量を、Image Gaugeソフトウェア(富士写真フィルム社製)を用いて算出した。さらに算出された3H標識GGPPの取り込み量に基づき、3H標識GGPPの取り込み率(%)を求めた(n=2の平均値)。
図1及び図2から明らかなように、SDS−PAGEにおいて分子量20kd及び25kdの間に電気泳動されるバンドに含まれる物質への3H標識GGPPの取り込み率(%)は、骨格筋毒性誘発能力が既知であるシムバスタチンの接触系内での濃度に依存しながら、増加することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明により、物質が有する骨格筋毒性誘発能力をより正確にかつ簡便に検定するための方法等が提供可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、各濃度のシムバスタチン及び3H標識GGPPを接触させたL6細胞株の細胞ホモジネートをSDS−PAGEで分離することにより得られたゲルにおけるオートラジオグラフィーの結果を示す図である。図中のレーン1は対照(0.1% DMSO)での結果であり、レーン2、3及び4はシムバスタチンの接触系内での濃度3、10及び30μMでの結果を示している。尚、図中の左側には、タンパク質スタンダード(プレシジョンPlusプロテインスタンダード、BioRad社)の電気泳動位置を示す。
【図2】図2は、実施例2(図1)で得られたオートラジオグラフィーの結果に基づき、SDS−PAGEにおいて分子量20kd及び25kdの間に電気泳動されるバンドに含まれる物質への3H標識GGPPの取り込み率(%)に係る増加率(%)を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物質が有する骨格筋毒性誘発能力の検定方法において、
(1)骨格筋由来培養細胞に、被験物質及び標識GGPPを接触させる第一工程、
(2)第一工程後の前記培養細胞の細胞ホモジネート中に存在し、かつ、当該細胞ホモジネートをSDS-PAGEにより分離して得られうる物質であり、当該SDS-PAGEにおいて分子量20kd及び25kdの間に電気泳動されるバンドに含まれる物質への標識GGPPの取り込みの有無又はその量を測定する第二工程、
(3)第二工程により測定された標識GGPPの取り込みの有無又はその量と、対照における標識GGPP取り込みの有無又はその量とを比較することにより得られる差異に基づき前記被験物質の骨格筋毒性誘発能力の有無又はその程度を評価する第三工程
を有することを特徴とする検定方法。
【請求項2】
標識GGPPがH標識GGPPであることを特徴とする請求項1記載の検定方法。
【請求項3】
物質が有する骨格筋毒性誘発能力の検定のための試薬であって、標識GGPPを含有することを特徴とする試薬。
【請求項4】
請求項1又は2記載の方法により評価された、物質が有する骨格筋毒性誘発能力の有無又はその程度に基づき骨格筋毒性誘発活性を有する物質を選抜する工程を有することを特徴とする骨格筋毒性誘発能力を有する物質の探索方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−271247(P2006−271247A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−94043(P2005−94043)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】