説明

物質のカプセル化方法

【解決手段】
部分式(I)の基を含むモノマーを供給するステップ、そのモノマーを封入物質と(必要に応じて、少なくとも1つのモノマー用溶媒、及び開始剤と共に)混合してモノマー含有混合物を調製するステップ、そのモノマー含有混合物の所定量を所望形状となるように所定区画に載置するステップ、並びにモノマーを重合させて物質が封入された所望形状のポリマーマトリックスを生成するステップにより、物質をカプセル化する。


式(I)において、R及びRは(CR又はCR10基、CRCR10基、若しくはCR10CR基の群から相互に依存せず独立に選択され(nは0、1又は2)、R及びRは水素、ハロゲン基又はヒドロカルビル基(炭化水素基)から独立に選択され、R又はR10の何れか一方が水素で他方が電子求引基であるか又はR及びR10が一緒になって電子求引基を形成し、
及びRはCH又CR11(R11は電子求引基)から独立に選択され、
点線は結合の存在又は欠如を表し、Xはそれに接する点線の結合が欠如している場合にCX基であると共にそれに接する点線の結合が存在している場合にCX基であり、Yはそれに接する点線の結合が欠如している場合にCY基であると共にそれに接する点線の結合が存在している場合にCY基であり、X、X、Y及びYは水素、フッ素又は他の置換基から独立に選択され、
は水素、ハロゲン基、ニトロ基又はヒドロカルビル基(官能基で任意に置換又は挿入されたものを含む)から選択され、
12は水素、ハロゲン基、ニトロ基、ヒドロカルビル基(官能基で任意に置換又は挿入されたものを含む)又は式(A)から選択され、


Zは電荷mの陰イオンである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は物質のカプセル化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロカプセル化手法は、少量の気体、液体又は固体の被封入物質を殻状材料内にカプセル化して封じ込めるための周知の手法である。カプセルの内容物は後の必要時に、例えばカプセル壁の機械的破壊又はカプセル壁の溶融等の当業者に周知の各種手段によって解放・放出することができる。一般的に個々のカプセルは寸法が小さく、少量の物質を包含するに過ぎない。また一般的にマイクロカプセル化工程は、混和しない複数の液相、すなわち極性相と無極性相とをマイクロカプセル化が生じるように混合する工程を含んでいる。現在までの多くの研究開発は無極性の物質のカプセル化を目的としてきたが、本出願人の先行国際特許出願である特許文献6には、極性の物質(とくに水)を容易にカプセル化できるシステムが開示されている。
【0003】
【特許文献1】国際公開第00/06610号
【特許文献2】国際公開第00/06533号
【特許文献3】国際公開第00/06658号
【特許文献4】国際公開第01/40874号
【特許文献5】国際公開第01/74919号
【特許文献6】国際公開第2007/012860号
【特許文献7】米国特許第3912693号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、所望の物質を比較的多量に封入した比較的大きなカプセルの供給技術が求められていることを理解している。また本発明者らは、そのようなカプセルを所望の大きさや形状で容易に製造できれば望ましいことを理解している。しかし、これを従来のマイクロカプセル化技術によって実現することは、従来の技術では利用するマイクロカプセル化システムの物理化学的性質によって本来的にマイクロカプセルの寸法が決まってしまうので、不可能ではないとしても容易ではない。本発明者らは、極性相と無極性相との二相システムの存在を必須としないカプセル化が実現できれば望ましく且つ便利であることに着目した。
【0005】
本発明は、少なくとも幾つかの実施例において、前述した問題点及び要望を解決するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一側面において本発明は、部分式(I)の基を含むモノマーを供給するステップ、そのモノマーを封入物質と(必要に応じて、少なくとも1つのモノマー用溶媒、及び開始剤と共に)混合してモノマー含有混合物を調製するステップ、そのモノマー含有混合物の所定量を所望形状となるように所定区画に載置するステップ、並びにモノマーを重合させて物質が封入された所望形状のポリマーマトリックスを生成するステップを備えてなる物質のカプセル化方法を提供する。

部分式(I)において、R及びRは(CR又はCR10基、CRCR10基、若しくはCR10CR基の群から相互に依存せず独立に選択され(nは0、1又は2)、R及びRは水素、ハロゲン基又はヒドロカルビル基(炭化水素基)から独立に選択され、R又はR10の何れか一方が水素で他方が電子求引基であるか又はR及びR10が一緒になって電子求引基を形成し、
及びRはCH又CR11(R11は電子求引基)から独立に選択され、
点線は結合の存在又は欠如を表し、Xはそれに接する点線の結合が欠如している場合にCX基であると共にそれに接する点線の結合が存在している場合にCX基であり、Yはそれに接する点線の結合が欠如している場合にCY基であると共にそれに接する点線の結合が存在している場合にCY基であり、X、X、Y及びYは水素、フッ素又は他の置換基から独立に選択され、
は水素、ハロゲン基、ニトロ基又はヒドロカルビル基(官能基で任意に置換又は挿入されたものを含む)から選択され、
12は水素、ハロゲン基、ニトロ基、ヒドロカルビル基(官能基で任意に置換又は挿入されたものを含む)又は式(A)から選択され、

Zは電荷mの陰イオンである。
【0007】
こうして、所望の物質を含む大きなポリマーマトリックスを実質上任意に定めた大きさ及び/又は形状で製造することできる。本発明ではカプセル化のために極性相と無極性相との二液相システムの使用を必要とせず、本発明の好ましい実施例では一相システムを用いる。
【0008】
特許文献1〜6は、ジエニル型のポリマー、それに対応するモノマー、及びそれらのポリマー及びモノマーの調製方法を開示している。それらの文献の内容は、すべて引用により本明細書の一部分に含める。また特許文献5は、単一のビニル型基を有する第4級アンモニウム種により形成されたポリマーを開示している。しかし、これらの文献は何れも、本明細書に開示するようなカプセル化手法に想到し得る事項を何ら示唆していない。
【0009】
モノマー用溶媒は、必要に応じてモノマーを溶解させるため使用するが、とくにモノマーが非液相であってモノマーが封入物質に溶けない場合に使用することが有用である。
【0010】
好ましくは、モノマー含有混合物の所定量を所望形状の型に載置し、その後のモノマーの重合により、その型に実質上応じた形状のポリマーマトリックスを生成する。
【0011】
他の好ましい実施例では、1以上の所定量のモノマー含有混合物を制御された繰り返し態様で特性の調整された1以上の表面上に堆積させ、堆積した各混合物中のモノマーをそれぞれ重合させて封入物質がカプセル化された少なくとも1つの所望形状のポリマーマトリックスを生成することにより、モノマー含有混合物の所定量の集合体によって所望形状を形成する。
【0012】
所定量のモノマー含有混合物の各々は、ポリマーマトリックスのフィルム(薄膜)が形成されるように表面上に堆積させ、または必要に応じて表面上に広げることができる。それに代えて、複数の所定量のモノマー含有混合物を表面上の分離した区画に別々に堆積させ、複数の所望形状のポリマーマトリックスを製造することができる。堆積する表面はガラス製とすることができ、必要に応じてシラン処理その他の表面処理を施したガラス表面とすることができる。
【0013】
ポリマーマトリックスに対して、熱処理を加えてもよい。
【0014】
ポリマーマトリックスは、1mm以上の寸法のカプセルとすることができる。3次元構造のマトリックスとする場合は、直交する3軸方向をそれぞれ1mm以上の寸法(径)とすることができる。本発明によれば、寸法1〜3mmの範囲のカプセルを容易に製造できるが、それより寸法の大きなカプセル、例えば寸法5mm以上のカプセルも製造可能である。また、寸法1mm未満のカプセルを製造することもできる。
【0015】
好ましい幾つかの実施例では、封入物質を液体とする。望ましくは、その液体をモノマー用溶媒とし、モノマーを封入物質と混合するステップにおいてモノマーをその液体に溶解させる。
【0016】
封入物質を液体とする場合は、その物質を純液体(ピュア液体)とし又は溶媒中に1以上の溶質が溶解した混合液体とすることができる。後者の場合は、封入物質を硝酸、リン酸、クエン酸その他の酸とすることができる。また封入物質を酸とする場合は、モノマー及びポリマーが実質的に中性となるように、式(I)のR及びR12を水素以外とすることが望ましい。
【0017】
望ましくは、封入物質に極性を有する液体(極性液体)を含める。
【0018】
それに加えて又は代えて、モノマーを封入物質と混合する際にモノマー用溶媒を追加的に混合することができ、そのモノマー用溶媒を極性液体とすることができる。
【0019】
好ましくは極性液体を水とするが、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の他の極性液体を用いてもよい。
【0020】
他の好ましい実施例では、封入物質を固体としてもよい。例えば封入物質を、二チオン酸ナトリウムその他のイオン性固体とすることができる。封入物質を固体とする場合は、モノマーを封入物質と混合するステップにおいて、少なくと1つのモノマー用溶媒を用いてモノマー含有混合物を形成することが有用であり、とくにモノマーも固体であるときは有用である。
【0021】
本発明は、様々な封入物質のカプセル化に利用することができる。本発明の1つの利点は危険な物質をカプセル化できることにあり、カプセル化によって危険物質を安全に輸送することが可能となる。従って封入物質は、殺虫剤、除草剤、酸化剤、還元剤、酸、アルカリその他の危険な化学物質とすることができる。
【0022】
更に好ましくは、ポリマーの少なくとも一部分を溶かすことにより封入物質をポリマーマトリックスから放出又は解放可能とする。ポリマーは極性液体との接触、望ましくは水との接触により溶かすことができる。部分式(I)の基を含むモノマーは、水に溶けるポリマーを容易に生成できる利点がある。
【0023】
望ましくは、紫外放射線の照射によりモノマーを重合させる。代替的に、重合条件に一定の(熱重合)開始剤の存在下で必要な熱(例えば赤外放射線等)を加えること、化学的開始剤等の他の種類の開始剤を加えること、電子ビームを用いて開始させること等を含めることができる。ここに「化学的開始剤」とは、当業界で理解されているように、例えばフリーラジカル開始剤、陽イオン・陰イオン開始剤等のイオン系開始剤のような重合を開始させる化合物を意味する。好ましい実施例では、モノマーを紫外放射線の照射により自発的に又は適当な開始剤との共存下で重合させる。適切な開始剤の一例は、2,2´−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、ベンゾフェノン(とくにアセトフェノン)のような芳香族ケトン、ジ−又はトリ−クロロアセトフェノンのような塩素化アセトフェノン、ジメトキシアセトフェノン(商品名「イルガキュア(Irgacure)651」で販売されている)のようなジアルコキシアセトフェノン、ジメチルヒドロキシアセトフェノン(商品名「ダロキュア(Darocure)1173」で販売されている)のようなジアルキルヒドロキシアセトフェノン、式(C)の化合物のような置換されたジアルキルヒドロキシアセトフェノン−アルキルエーテル(Rはアルキル基(とくに2,2−ジメチルエチル基)、Rはヒドロキシル基(水酸基)又はクロロ(塩素)等のハロゲン基、R及びRは独立に選択されたアルキル基又はクロロ(塩素)等のハロゲン基であり、その一例は商品名「ダロキュア(Darocure)1116」及び「トリゴナル(Trigonal)P1」で販売されている)、

1−ベンゾイルシクロヘキサノール−2(商品名「イルガキュア(Irgacure)184」で販売されている)、ベンゾイン又はその誘導体(酢酸ベンゾイン、ベンゾインアルキルエーテル(とくにベンゾインブチルエーテル等)、ジメトキシベンゾイン又はデオキシベンゾイン等のジアルコキシベンゾイン、ジベンジルケトン、アシルオキシムのめちる又はエチルエステル(商品名「クワンタキュレPDO(Quantaqure PDO)」で販売されている)のようなアシルオキシムエステル、アシルホスフィン酸化物、ジアルキルアシルホスフィン酸塩等のアシルホスフィン酸塩、式(D)のようなケトスルフィド(Rはアルキル基、Aはアリール基である)、

4,4´−ジアルキルベンゾイルジスルフィドのようなジベンゾイルジスルフィド、ジフェニルジチオ炭酸塩(カーボネート)、ベンゾフェノン、4,4´−ビス(N,N−ジアルキルアミノ)ベンゾフェノン、フルオレノン、チオキサントン、ベンジル、又は式(E)のような化合物(Arはフェニル等のアリール基、Rはメチル等のアルキル基であり、商品名「スピードキュアBMDS(SpeedcureBMDS」で販売されている)である。

【0024】
本明細書において「アルキル」の用語は、炭素原子の数が20個以下の適宜数、好ましくは6個以下である直鎖又は分岐鎖のアルキル基を意味する。「アルケニル」又は「アルキニル」の用語は、例えば炭素原子の数が2〜20個、好ましくは2〜6個である不飽和の直鎖又は分岐鎖を意味する。各鎖にはそれぞれ1個以上の二重結合又は三重結合を含めることができる。「アリール」の用語は、フェニル基又はナフチル基のような芳香属基を意味する。
【0025】
「ヒドロカルビル」の用語は、炭素原子と水素原子とを含む任意の構造(炭化水素基)を意味する。例えば、これらの構造をアルキル、アルケニル、アルキニル、フェニル又はナフチルのようなアリール、アリールアルキル、シクロアルキル、シクロアルケニル又はシクロアルキニルとしてもよい。これらの構造には好適には20個以下、好ましくは10個以下の炭素原子を含める。「複素環」の用語は、例えば4〜20個、好ましくは5〜10個の環状原子を有し、そのうち少なくとも1個がヘテロ原子(酸素、硫黄、窒素等)である芳香族又は非芳香族の環状構造を含む。そのような基の一例には、フリル、チエニル、ピロリル、ピロリジニル、イミダゾリル、トリアゾリル、チアゾリル、テトラゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、ピラゾリル、ピリジル、ピリミジニル、ピラジニル、ピリダジニル、トリアジニル、キノリニル、イソキノリニル、キノキサリニル、ベンズチアゾリル、ベンズオキサゾリル、ベンゾチエニル又はベンゾフリルが含まれる。
【0026】
「官能基」の用語は、例えばハロゲン、シアノ、ニトロ、オキソ、C(O)、OR、S(O)、NR、OC(O)NR、C(O)NR、OC(O)NR、−NRC(O)、−NRCONR、−C=NOR、−N=CR、S(O)NR、C(S)、C(S)OR、C(S)NR又は−NRS(O)の反応基を意味する。ここで、R、R及びRは水素又は任意に置換されたヒドロカルビル基(炭化水素基)から独立に選択するか、或いはR及びRによって更にS(O)、酸素、窒素のようなヘテロ原子を任意に含む任意に置換された環を形成する。nは1又は2の整数、tは0又は1〜3の整数である。とくに官能基を、例えばハロゲン、シアノ、ニトロ、オキソ、C(O)、OR、S(O)、NR、OC(O)NR、C(O)NR、OC(O)NR、−NRC(O)、−NRCONR、−NRCSNR、−C=NOR、−N=CR、S(O)NR又は−NRS(O)の反応基とする。R、R及びR、n及びtは前述した定義の通りである。
【0027】
本明細書において「ヘテロ原子」の用語は、例えば酸素、窒素又は硫黄原子等の炭素以外の原子を意味する。窒素原子が存在する場合は、一般的にアミノ残基の一部として存在しており、例えば水素又はアルキルによって置換されているであろう。
【0028】
「アミド」の用語は、一般的にC(O)NR(R及びRは水素又は任意に置換されたヒドロカルビル基)の化学式の基を意味すると理解されている。同様に、用語「スルホンアミド」はS(O)NRの化学式の基を意味する。好ましくはRに水素又はメチル基を含め、とくに好ましくは水素とする。
【0029】
特定の実施例においてアミノ基部分に付加される単独又は複数の電子求引基の性質は何れも、化合物内の他の官能基の性質と同様に、その活性化に必要な二重結合に対する位置に依存している。「電子求引基」の用語の範囲には、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン基のような原子の置換基が含まれ、またニトリル基、トリフルオロメチル基、アセチル基のようなアシル基、ニトロ基又はカルボニル基のような分子の置換基が含まれる。
【0030】
11を電子求引基とする場合は、R11をアセチル基のようなアシル基、ニトリル基又はニトロ基とすることが適している。
【0031】
及びRは、好ましくはフルオロ(フッ素)基、クロロ(塩素)基、アルキル基又はH(水素)から独立に選択する。アルキル基の場合はメチル基が最も好ましい。
【0032】
、X、Y及びYは、好ましくは全てを水素とする。
【0033】
代替的に、X、X、Y及びYの少なくとも1つ(可能であれば全て)を、水素又はフッ素以外の置換基とすることができる。好ましくは、X、X、Y及びYの少なくとも1つ(可能であれば全て)を、任意に置換されたヒドロカルビル基(炭化水素基)とする。そのような実施例では、好ましくはX、X、Y及びYの少なくとも1つ(最も好ましくは全て)を任意に置換されたアルキル基とする。とくに好ましい実施例ではC〜Cのアルキル基とし、とくにメチル基又はエチル基とする。代替的に、X、X、Y及びYの少なくとも1つ(好ましくは全て)を、ピリジル基、ピリミジニル基又はピリジン若しくはピリミジン含有基のようなアリール基及び/又は複素環基とする。
【0034】
好ましい実施例では、X及びYをそれぞれ点線の結合が欠如しているCX及びCYとする。従って、好ましい化合物は式(IA)の通りである。

式(IA)においてR、R、R、R、R、R、X、X、Y及びYは前述した定義の通りである。
【0035】
式(I)の点線の結合が存在する場合は、ポリアセチレン鎖からなるポリマーが生成される。これは共役系につなげることができ、その結果としての導電性ポリマーとすることができる。
【0036】
陰イオンZm−の好ましい一例は、ハロゲン化物イオン(好ましくは臭素イオンBr)、トシラート、トリフラート、ホウ化物イオン、PF、又はカルボン酸エステルの陰イオンである。
【0037】
本発明の方法で用いる好ましい化合物(モノマー)の一例は式(II)の化合物である。

とくに式(IIA)の化合物とすることが好ましい。

式(II)及び式(IIA)において、X、X、X、Y、Y、Y、R、R、R、R、及び点線の結合は何れも前述した式(I)に関して定義した通りであり、rは1以上の整数であり、Rは架橋基(橋かけ基)、任意に置換されたヒドロカルビル基、ペルハロアルキル基、シロキサン基又はアミド基である。
【0038】
式(II)及び式(IIA)の化合物において、rを1とした場合に、化合物は容易に重合してR基の性質に応じた様々な種類のポリマーを形成する。本発明の最も好ましい実施例はrを1又は2とした化合物である。rを1とした好ましいモノマーは構造式(III)で表すことができる。

式(III)において、X、X、Y、Y、R、R、R及びRは何れも式(I)に関して前述した定義した通りであり、R6´は任意に置換されたヒドロカルビル基、ペルハロアルキル基、シロキサン基又はアミド基である。
【0039】
式(II)の化合物においてrが1より大きい場合は、重合によってポリマーネットワークを生成することができる。そのようなポリマーの一例は、Rを架橋基(橋かけ基)とすると共にrを2以上の整数とした前述の式(II)の化合物であり、例えばrを2〜8とし、好ましくは2〜4としたものである。
【0040】
これらの化合物を重合する際には、R基それ自体の性質と鎖重合停止剤の存在量と使用する重合条件とに応じて、生成されるネットワークの性質を選択することができる。架橋(橋かけ)基Rの一例は特許文献1に記載されている。
【0041】
及びR6´は、任意に置換された3個以上の炭素原子を有するヒドロカルビル基とすることができ、
【0042】
またR及びR6´は、官能基で任意に置換又は挿入された直鎖又は分岐鎖のアルキル基とすることができる。R及びR6´には1〜20個の炭素原子を含めることができ、好ましくは2〜12個の炭素原子を含める。好ましい実施例では、開始物質(原料物質)を式[IV]の化合物とすることができる。本明細書において「X〜Y個の炭素原子」という表現は、誤解の生じないように説明すると、X個以上でY個以下の範囲内の炭素原子を意味しており、X個の炭素原子を含む実施例とY個の炭素原子を含む実施例との両者を含んでいる。
【0043】
好ましい実施例では、RとR又はR6´とが、それらに接する第4級化窒素と共に複素環構造を形成する。望ましくは、RとR又はR6´とが、それらに接する第4級化窒素と共に、4〜8個の環状原子を有する任意に置換された複素環構造を形成する。任意に置換された複素環構造は、5員環又は6員環とすることができる。更に望ましくは、RとR又はR6´とが、それらに接する第4級化窒素と共に、任意に置換されたピペリジン環を形成する。これらのモノマーにより生成されたポリマーマトリックスは、経時的に安定化するので、とくに酸をカプセル化するために有用である。更に、これらのモノマー及びポリマーはプロトン(H)部分が存在していないために中性化しやすいという利点も有している。特許文献7は、RとR又はR6´とがそれらに接する第4級化窒素と共に複素環構造を形成するようなモノマーの製造プロセス及び重合プロセスを開示している。この文献の内容は、すべて引用により本明細書の一部分に含める。しかし特許文献7は、本明細書に開示するようなカプセル化手法に想到し得る事項を何ら示唆していない。
【0044】
本発明の方法で用いるモノマーを式(IV)の化合物とすることができる。

【0045】
複素環構造には、RとR又はR6´とに接する第4級化窒素に加えて、少なくとも1つの他のヘテロ原子を含めることができる。他のヘテロ原子は、例えば窒素原子(N)、酸素原子(O)、又は硫黄原子(S)とすることができる。好ましくは、複素環構造に少なくとも2つの窒素ヘテロ原子を含める。そのようなモノマーの一例は式(V)の化合物である。

式(V)において、Aは、4〜8個の環状原子を有し且つ環内の任意一対の適切な位置にそれぞれ第4級化窒素が存在している複素環構造である。好ましくは、Aを、5員又は6員の複素環構造とする。Aを6員複素環構造とした実施例では、複素環を(1、2−)、(1、3−)、(1、4−)窒素置換環の何れとしてもよい。
【0046】
更に好ましくは、Aを、任意に置換されたピペラジン環とする。そのようなモノマーの一例は式(VI)の化合物である。

【0047】
他の望ましい実施例では、モノマーを式(VII)の化合物とすることができる。

式(VII)において、R13は直鎖又は分岐鎖のアルキル基(好ましくは1〜20個の炭素原子、更に好ましくは2〜12個の炭素原子を有するアルキル基)であり、R14は水素又は直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基(好ましくは1〜5個の炭素原子を有するアルキル基、更に好ましくはメチル基又はエチル基)である。
【0048】
更に好ましくは、モノマーを式(VIII)の化合物とする。

【0049】
他の好ましい実施例では、モノマーを式(IX)の化合物とすることができる。

【0050】
式(VIII)及び式(IX)の化合物において、R14はメチル基とすることが望ましい。
【0051】
最も好ましくは、陰イオンZm−を臭素イオンBrとする。この陰イオンは、生成後のポリマーに安定性を与えるので、硝酸その他の酸をカプセル化する際にとくに有用である。また陰イオンのトシラート及びトリフラートも、酸性の媒質中で安定性を有しているので、酸をカプセル化する際に用いる陰イオンZm−の最も好ましい一例となる。
【0052】
は水素、アルキル基(好ましくは3個以下の炭素原子を有するアルキル基、更に好ましくはメチル基)、又は式(B)とすることができる。

式(B)において、R15及びR16は(CR又はCR10基、CRCR10基、若しくはCR10CR基の群から相互に依存せず独立に選択され(nは0、1又は2)、R及びRは水素、ハロゲン基又はヒドロカルビル基(炭化水素基)から独立に選択され、R又はR10の何れか一方が水素で他方が電子求引基であるか又はR及びR10が一緒になって電子求引基を形成し、点線は結合の存在又は欠如を表し、Zはそれに接する点線の結合が欠如している場合にCZ基であると共にそれに接する点線の結合が存在している場合にCZ基であり、Z、Zは水素、フッ素又は他の置換基から独立に選択されたものである。
【0053】
12が式(A)以外の実施例では、

モノマーを式(IB)の化合物とすることが望ましい。式(IB)において、Rは前述した定義の通りであり、前述の定義のようなR6´としてもよい。

【0054】
好ましくは、モノマーを重合させるステップにおいてホモポリマー(1種類のモノマーからなるポリマー)を形成する。
【0055】
代替的に、モノマーを重合させるステップにおいて、モノマーを異なるモノマー単位と混合することにより共重合ポリマーを形成してもよい。異なるモノマー単位を有する共重合成分モノマーには、部分式(I)の基を含めることができる。共重合成分モノマーは、前述した何れかの化学式のものとすることができる。それに代えて、共重合成分モノマーを異なる分類に属する化合物としてもよい。共重合成分モノマーは、架橋剤(橋かけ剤)を用いて共重合させることができる。架橋剤(橋かけ剤)は、例えば前述した式(VII)の化合物とすることができ、好ましくは前述した式(VIII)又は式(IX)の化合物とする。
【0056】
好ましくは、共重合ポリマーで生成したポリマーマトリックス内にカプセル化された封入物質を、共重合ポリマーの少なくとも一部分を溶かすことにより放出又は解放する。封入物質を放出又は開放する際に、共重合ポリマーを全て溶かすこともできるが、ポリマーマトリックスの一部分を溶かすこともできる。後者の場合は、ポリマーマトリックスが元の構造を十分に保持していると予想されるので、所望量の封入物質が放出又は開放するに十分な時間が経過したのち、ポリマーマトリックスを放出又は開放位置から移動させることができる。封入物質の放出又は開放のためにポリマーマトリックスを溶かす部分の大きさは、例えばモノマー含有混合物を調製する際に用いる架橋剤(橋かけ剤)の濃度の調節によって調整可能である。
【0057】
前述した少なくとも幾つかのモノマー、すなわちRとR又はR6´とがそれらに接する第4級化窒素と共に複素環構造を形成するような少なくとも幾つかのモノマーは、それから生成されるポリマーと同様に、それ自体で新規なものである。従って、他の側面において本発明は、RとR又はR6´とがそれらに接する第4級化窒素と共に複素環構造を形成するような前述の化合物を提供し、更にそれを重合したポリマーを提供する。更に他の側面において本発明は、前述の化合物の製造方法および前述のポリマーの重合方法を提供する。本発明で利用可能な方法は本明細書において一般的に説明したとおりであるが、当業者であれば、本明細書における一般的な説明から、本発明の重合は必ずしも物質をカプセル化する方法と関連するものではないことを理解できるであろう。むしろ本発明の重合は一般的な重合ステップ、すなわちポリマー内にカプセル化すべき物質の非存在下におけるポリマーの生成ステップと関連している。RとR又はR6´とがそれらに接する第4級化窒素と共に複素環構造を形成するような化合物(モノマー)に適用可能な重合方法については、特許文献1〜3に詳述されている。
【0058】
以上、本発明について説明したが、本発明は前述した構成又は後述する実施例及び図面(及び特許請求の範囲)に記載した構成の組み合わせ又は部分的な組み合わせにも拡張される。
【図面の簡単な説明】
【0059】
以下、添付図面を参照して本発明による方法の実施例を説明する。
【図1a】は、本発明による第1の方法の実施例を示す説明図である。
【図1b】は、本発明による第2の方法の実施例を示す説明図である。
【図1c】は、本発明による第3の方法の実施例を示す説明図である。
【図2】は、二チオン酸ナトリウム含有フィルム(薄膜)の添加後のpH変化を示す実験結果の説明図である。
【図3】は、硝酸含有ペレット(粒状剤)の添加後のpH変化を示す実験結果の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0060】
図1は、本発明による方法の3つの実施例を示す。これら3実施例の全てにおいて、モノマー含有混合物10は後述する手法を用いて調製した。図1(a)に示す第1の実施例では、モノマー含有混合物10の既知量を表面12上に堆積(滴下)させ、スプレッダー14で広げてフィルム(薄膜)16を形成した。図1(b)に示す第2の実施例では、モノマー含有混合物10の予め定めた所定量を表面12上に堆積(滴下)させ、その場に留めて(すなわち広げることなく)分離した液滴(小滴)17を形成した。図1(c)に示す第3の実施例では、モノマー含有混合物10を型(鋳型)18の中に導入して堆積させた。全ての実施例において、いったん堆積(滴下)させた状態のモノマー含有混合物10に紫外放射線を照射し、モノマーを重合させた。第1の実施例では、紫外放射線の照射により封入物質がカプセル化されたポリマーフィルム(薄膜)20が形成された。第2及び第3の実施例では、紫外放射線の照射によりそれぞれ分離したカプセル22、24が形成された。
【実施例1】
【0061】
N,N−ジアリルアンモニウム−ピペリジン−ブロミド(式(1))の合成
目標分子を式(1)に示す。

【0062】
三つ口フラスコ(1リットル)に入れた1,5−ジブロモペンタン(97%、アルドリッチ社製、150g)と炭酸カリウム(99%、180g)とエチルアルコール(99+%、100ミリリットル)との混合物に、ジアリルアミン(99%、アルドリッチ社製、65g)を添加し、温度モニタリングしながら還流させた。還流するまで加熱したのち、70℃以降から反応が急速に進行した。還流させながら反応を1時間維持したのち、室温に冷却して18時間放置した。
【0063】
ジクロロメタン(GPR、100ミリリットル)を添加し、炭酸カリウムを濾過により除去したのち、溶液を水中(300ミリリットル)に混合した。その後、キシレン(100ミリリットル)を添加し、生成物が含まれる水溶液と十分に混合して黄色オイル状不純物を生成物から除去した。この工程をn−ヘキサンを用いて繰り返し、続いて真空状態で水を除去することにより、黄白色(オフホワイト)の固体生成物が得られた(収率約70%)。
【実施例2】
【0064】
第4級N,N−ジアリル−ピペリジン−ブロミドのポリマー薄膜フィルムから水中への二チオン酸ナトリウムの放出又は解放
式(1)のモノマー(2.0g)を水中(水道水0.5g,pH〜7.6)に溶かした後、Ciba社製イルガキュア(Irgacure)184光開始剤(2重量%、CPQ)を添加して十分に混合して溶解し、モノマー溶液を調製した。その溶液に、二チオン酸ナトリウム(0.60g)の細粉粒を添加して十分に混合した。
【0065】
モノマー溶液をガラス基板表面に堆積(滴下)し、手持ちスプレッダー(K−barスプレッダー)により広げて薄膜フィルム(厚さ約1mm)を生成した。その薄膜フィルムを、鉄がドーピングされた水銀ランプ(Fusion社製のUVF300S、600W/cm)の紫外放射線に速度2m/分で3段階にわたり晒して養生した。
【0066】
生成された淡黄色フィルムの全体をガラス基板から分離し、水道水(温度20度、50ミリリットル)を蓄えた小型ビーカに常時撹拌しながら投入した。フィルムを水中で溶解させながら、pHの経時的な変化をモニタリングした。対照実験として、二チオン酸ナトリウム(0.60g)を前述と同じ条件で水中に投入し、pHの経時的な変化をモニタリングした。また、二チオン酸ナトリウムを混合しないモノマー溶液を用いて前述と同じ条件で調製した薄膜フィルムを用いて、更なる対照実験を行った。これらの実験結果を図2に示す。図中の計測値30は二チオン酸ナトリウム封入ポリマーフィルムを用いた実験のpH値であり、計測値32は二チオン酸ナトリウムの存在しないポリマーフィルムを用いた対照実験のpH値であり、計測値34は二チオン酸ナトリウム水溶液を用いた対照実験のpH値である。
【0067】
二チオン酸ナトリウム封入ポリマーフィルムのグラフ、及び対照実験の二チオン酸ナトリウムのグラフは、何れも30分間で水中に完全に溶解したことを示している。両グラフの比較から、ポリマーフィルムは多少段階的に二チオン酸ナトリウムを放出又は解放させる機能を提供していることが分かる。また、使用するモノマーと二チオン酸ナトリウムとの比率の相違により、放出又は解放の特性を変化させ得ることを示唆している。
【実施例3】
【0068】
第4級N,N−ジアリル−ピペリジン−ブロミドのペレット(粒状剤)から水中への硝酸の放出又は解放
式(1)のモノマー(2.5g)を希硝酸(35重量%の水溶液0.87g)に溶かした後、Ciba社製イルガキュア(Irgacure)184光開始剤(モノマーに対して3重量%)を添加して十分に混合して溶解し、モノマー溶液を調製した。
【0069】
モノマー溶液を針の付いた注射器具に移し、非付着性のシラン処理(BDH社製のレペルコート(Repelcote VS))が施されたガラス板上に2〜3mm径の小液滴として堆積(滴下)した。その液滴の堆積したガラス板を、ガリウムがドーピングされた水銀電球(Fusion社製のUV300S、120W/cm)の紫外放射線に速度1.5m/分で2回にわたり(1回目はガラス板上面から、2回目はガラス板下面から)晒し、液滴を養生した。
【0070】
生成された固体ペレットを、更に70℃の乾燥器(オーブン)に60分間静置して乾燥させた。この乾燥ステップによりペレット中の水分は20重量%以下にまで低下した。次いで乾燥ペレットを、ガラス表面から徐々に剥離することによりガラス板と分離した。この乾燥ペレットの一部分(0.714g)を水道水(温度20度、50ミリリットル)が蓄えられた小型ビーカに常時撹拌しながら投入し、pHメータを用いてpHの経時的な変化をモニタリングした。対照実験として、ペレットに添加した同量の硝酸水溶液の経時的なpH変化を同じ条件下でモニタリングした。これらの実験結果を図3に示す。図中の計測値40は硝酸封入ポリマーペレットを用いた実験のpH値であり、計測値42は硝酸水溶液のみを用いた対照実験のpH値である。硝酸封入ポリマーペレットのグラフは、約45分間でpH=2になっていることから、本実験のペレットが封入した硝酸を直ちに放出又は解放したことを示している。硝酸を水中に直接添加した対照実験との比較から、ペレットは多少段階的に硝酸を放出又は解放させる機能を提供していることが分かる。また、使用するモノマーと硝酸との比率の相違により放出又は解放の特性を変化させ得ることを示唆している。
【実施例4】
【0071】
N,N,N´,N´−テトラアリルデカン−1,10−ジメチルアンモニウム−トリフラート(式(2))の合成
目標分子を式(2)に示す。

【0072】
エタノール(100ミリリットル)を蓄えた反応容器に、ジアリルアミン(99%、70g、0.72モル)と、1,10−ジブロモデカン(97%、100g、0.33モル)と、炭酸カリウム(99%+の乾燥、200g、0.69モル)とを投入し、96時間還流させた。反応混合液を冷却した後、ジクロロメタン(50ミリリットル)を添加し、混合液から炭酸カリウムその他の塩類を濾過により除去した。回転真空装置により溶媒及び過剰のジアリルアミンを除去してすることにより黄色オイルを生成し、その生成物をシリカ(60オングストローム)及びジクロロメタンを溶離液として用いたカラムクロマトグラフィーにより精製した。ジクロロメタンを真空状態で除去することにより、淡黄色オイル状のN,N,N´,N´−テトラアリルデカン−1,10−ジアミンの中間生成物が得られた(収率約〜75%)。
【0073】
N,N,N´,N´−テトラアリルデカン−1,10−ジアミンの中間生成物(33.26g、100mモル)を、ジクロロメタン(乾燥、230g、2.7モル)に添加して反応フラスコに入れ、加熱して還流させた。次いで、メチルトリフルオロメタンスルホン酸(98%以上、37.09g、226mモル)を60分間にわたる滴下により添加し、還流を更に3時間継続した。ジクロロメタンを真空状態で除去したのち、N,N,N´,N´−テトラアリルデカン−1,10−ジメチルアンモニウム−トリフルオロメタンスルホン酸の黄白色(オフホワイト)の固体生成物が得られた。
【実施例5】
【0074】
N,N−ジアリル−ピペリジン−ブロミドとN,N,N´,N´−テトラアリルデカン−1,10−ジメチルアンモニウム−トリフラートとの共重合ポリマーのペレット(粒状剤)から水中への硝酸の放出又は解放
N,N−ジアリル−ピペリジン−ブロミド(1.50g)とN,N,N´,N´−テトラアリルデカン−1,10−ジメチルアンモニウム−トリフラート(0.50g)とを硝酸(35重量%、0.70g)に添加した後、40℃で緩やかに加熱しながら十分に混合することにより、粘性のある溶液を生成した。溶液を冷却した後、イルガキュア2022(モノマーに対して3重量%)を添加して数分間十分に撹拌して溶液に溶解した。
【0075】
その溶液を注射器具に移し、疎水性シリコン処理が施されたガラス板(BDH社製のレペルコート(Repelcote VS))上に約1〜3mm径の小液滴として滴下した。そのガラス板を、紫外線ランプ(Fusion社製のUVF300S、ガリウムがドーピングされた電球、120W/cm、速度1.5m/分)に2回にわたり晒して液滴を養生し、次いで90℃の乾燥器(オーブン)に1時間静置することによりペレットを部分的に乾燥させてゴム状固体とした。
【0076】
生成されたペレットの一部分(0.1g)を水道水(pH〜7.6m、10ミリリットル、温度20度)に適宜撹拌しながら投入した。水道水のpHが徐々に低下し、4分後にはpH=3.6となり、10分後にはpH=3.2となったことから、封入された酸性物質がペレットから放出又は解放されたことが確認できた。また、ペレットの形状及び外観の変化は全く観察できなかった。ペレットの投入により酸性化した水溶液を濾過し、その濾液から全水分を蒸発させた残渣の重量は0.022gであった。このことから、封入した酸性物質及び開始剤の残りを放出したのち90%以上のポリマーが水に溶けずに保持されていたことが示唆された。
【実施例6】
【0077】
N,N,N´,N´−テトラアリルプロパン−1,3−ジメチルアンモニウム−トシラート(式(3))の合成
目標分子を式(3)に示す。

【0078】
A.ジアミン中間生成物の合成
五つ口rb反応フラスコに、1,3−ジブロモプロパン(99%、150.0g、0.743モル)と、ジアリルアミン(99%、160.5g、1.652モル)と、炭酸カリウム(97%、456g、3.300モル)と2−プロパノール(400ミリリットル)とを投入し、撹拌しながら還流させた。この還流を120時間継続したのち冷却した。その後、混合液を濾過し、揮発性物質を真空状態で除去した。その結果、黄色オイル状物質が生成され、その生成物をシリカ(60オングストローム)及びジクロロメタン(DCM)を溶離液として用いたカラムクロマトグラフィーにより精製した。DCMを除去することにより、淡黄色オイル状生成物が得られた(密度=0.86g/cm、収率=80%)。
【0079】
B.第3級ジアミンからの第4級アンモニウム塩の生成
ジアミン中間(120g、0.5128モル)とテトラヒドロフラン(THF、600ミリリットル)との還流により生成した混合物に、パラ−トルエンスルホン酸メチル(98%、216g、1.1598モル)を120分間にわたる滴下により添加した。
【0080】
更に120分間還流させたのち、反応性生物を冷却することにより、淡白色(ソフトホワイト)で吸湿性の固体生成物を凝結させた。上澄み液(THF及び未反応の開始物質を含む)を除去し、フラスコに約1500ミリリットルのアセトンを添加した。その後、混合物を15分間撹拌し、白色沈殿物を真空状態で濾過した(収率約87%)。その後、生成物を冷却したきれいなアセトンにより洗浄し、40℃以下で乾燥させて白色粉体を生成した(収率約65%)。
【実施例7】
【0081】
N,N−ジアリル−ピペリジン−ブロミドとN,N,N´,N´−テトラアリルプロパン−1,3−ジメチルアンモニウム−トシラートとの共重合ポリマーのペレット(粒状剤)から水中への硝酸の放出又は解放
N,N−ジアリル−ピペリジン−ブロミドとN,N,N´,N´−テトラアリルプロパン−1,3−ジメチルアンモニウム−トシラート(0.50g)とを用いた以外は、実施例5と同じ方法を使用した。
【0082】
封入酸性物質は徐々に放出又は解放され、最初の数分間は水溶液のpHを急激に低下させたが、その後は実験例5で見られた同様に緩やかに低下した。
【0083】
ポリマーはほとんど水に溶けず、溶出した残渣の割合は10%以下であった。
【実施例8】
【0084】
第4級N,N,N´,N´−テトラアリルプロパン−1,3−ジメチルアンモニウム−トシラートのペレット(粒状剤)から水中への硝酸の放出又は解放
N,N,N´,N´−テトラアリルプロパン−1,3−ジメチルアンモニウム−トシラート(0.50g)と、硝酸(35重量%、0.3g)と、イルガキュア2022(Ciba社製、0.026g)を用いた以外は、実施例5と同じ方法を使用した。
【0085】
更に、35重量%の硝酸に代えて、60重量%の硝酸を用いて同様の実験を繰り返した。
た、0.3g)と
【0086】
封入酸性物質は徐々に水中(20℃)に放出又は解放され、60重量%の硝酸を用いた場合のほうが急激に低いpHとなった。酸性物質封入ペレットを用いた場合も、同量の硝酸水溶液を用いた参照実験の場合と同様のpH値が得られ、ペレットの水中持続時間が長くなると何れのpH値もほぼ同じとなった。
【0087】
何れの濃度においても、10分後までに水中へ溶解したポリマーは非常に僅かであった。
【符号の説明】
【0088】
10…モノマー含有混合物 12…表面
14…スプレッダー 16…薄膜フィルム
17…液滴 18…型
20…フィルム状カプセル 22…カプセル
24…カプセル
30、32、34…計測値 40、42…計測値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
部分式(I)の基を含むモノマーを供給するステップ、

(部分式(I)において、R及びRは(CR又はCR10基、CRCR10基、若しくはCR10CR基の群から相互に依存せず独立に選択され(nは0、1又は2)、R及びRは水素、ハロゲン基又はヒドロカルビル基(炭化水素基)から独立に選択され、R又はR10の何れか一方が水素で他方が電子求引基であるか又はR及びR10が一緒になって電子求引基を形成し、
及びRはCH又CR11(R11は電子求引基)から独立に選択され、
点線は結合の存在又は欠如を表し、Xはそれに接する点線の結合が欠如している場合にCX基であると共にそれに接する点線の結合が存在している場合にCX基であり、Yはそれに接する点線の結合が欠如している場合にCY基であると共にそれに接する点線の結合が存在している場合にCY基であり、X、X、Y及びYは水素、フッ素又は他の置換基から独立に選択され、
は水素、ハロゲン基、ニトロ基又はヒドロカルビル基(官能基で任意に置換又は挿入されたものを含む)から選択され、
12は水素、ハロゲン基、ニトロ基、ヒドロカルビル基(官能基で任意に置換又は挿入されたものを含む)又は式(A)から選択され、

m−は電荷mの陰イオンである)
前記モノマーを封入物質と(必要に応じて、少なくとも1つのモノマー用溶媒、及び開始剤と共に)混合してモノマー含有混合物を調製するステップ、
前記モノマー含有混合物の所定量を所望形状となるように所定区画に載置するステップ、並びに
前記モノマーを重合させて前記物質が封入された所望形状のポリマーマトリックスを生成するステップを備えてなる物質のカプセル化方法。
【請求項2】
請求項1の方法において、前記モノマー含有混合物の所定量を所望形状の型に載置してなる物質のカプセル化方法。
【請求項3】
請求項1の方法において、1以上の前記所定量のモノマー含有混合物を制御された繰り返し態様で特性の調整された1以上の表面上に堆積させ、堆積した各混合物中のモノマーをそれぞれ重合させて封入物質がカプセル化された少なくとも1つの所望形状のポリマーマトリックスを生成することにより、モノマー含有混合物の所定量の集合体によって所望形状を形成してなる物質のカプセル化方法。
【請求項4】
請求項1から3の何れかの方法において、前記ポリマーマトリックスを1mm以上の寸法のカプセルとしてなる物質のカプセル化方法。
【請求項5】
請求項1から4の何れかの方法において、前記封入物質を液体としてなる物質のカプセル化方法。
【請求項6】
請求項5の方法において、前記液体をモノマー用溶媒とし、前記モノマーを封入物質と混合するステップにおいてモノマーをその液体に溶解させてなる物質のカプセル化方法。
【請求項7】
請求項5又は6の方法において、前記液体に溶媒中に溶解した1以上の溶質を含めてなる物質のカプセル化方法。
【請求項8】
請求項7の方法において、前記封入物質を酸としてなる物質のカプセル化方法。
【請求項9】
請求項8の方法において、前記酸を硝酸としてなる物質のカプセル化方法。
【請求項10】
請求項8の方法において、前記酸をリン酸又はクエン酸としてなる物質のカプセル化方法。
【請求項11】
請求項1から10の何れかの方法において、前記封入物質に極性液体を含めてなる物質のカプセル化方法。
【請求項12】
請求項1から11の何れかの方法において、前記モノマーを封入物質と混合する際にモノマー用溶媒を追加的に混合し、そのモノマー用溶媒を極性液体としてなる物質のカプセル化方法。
【請求項13】
請求項11又は12の方法において、前記極性液体を水としてなる物質のカプセル化方法。
【請求項14】
請求項1から4、12、及び請求項12に従属する請求項13の何れかの方法において、前記封入物質を固体としてなる物質のカプセル化方法。
【請求項15】
請求項14の方法において、前記固体をイオン性固体としてなる物質のカプセル化方法。
【請求項16】
請求項15の方法において、前記イオン性固体を二チオン酸ナトリウムとしてなる物質のカプセル化方法。
【請求項17】
請求項1から16の何れかの方法において、前記封入物質を、殺虫剤、除草剤、酸化剤、還元剤、酸、アルカリその他の危険な化学物質としてなる物質のカプセル化方法。
【請求項18】
請求項1から17の何れかの方法において、前記モノマーを紫外放射線の照射により重合させてなる物質のカプセル化方法。
【請求項19】
請求項1から18の何れかの方法において、陰イオンZm−を、臭素イオンBrその他のハロゲン化物イオン、トシラート、トリフラート、ホウ化物イオン、PF、又はカルボン酸エステルの陰イオンとしてなる物質のカプセル化方法。
【請求項20】
請求項1から19の何れかの方法において、前記モノマーを式(II)の化合物としてなる物質のカプセル化方法。

(式(II)において、X、Y、R、R、R、R、及び点線の結合は何れも請求項1で定義した通りであり、rは1以上の整数であり、Rは架橋基(橋かけ基)、任意に置換されたヒドロカルビル基、ペルハロアルキル基、シロキサン基又はアミド基である)
【請求項21】
請求項20の方法において、前記モノマーを式(III)の化合物としてなる物質のカプセル化方法。

(式(III)において、X、X、Y、Y、R、R、R及びRは何れも請求項1で定義した通りであり、R6´は任意に置換されたヒドロカルビル基、ペルハロアルキル基、シロキサン基又はアミド基である)
【請求項22】
請求項20又は21の方法において、R及びR6´を任意に置換された3個以上の炭素原子を有するヒドロカルビル基としてなる物質のカプセル化方法。
【請求項23】
請求項20から22の何れかの方法において、R及びR6´を官能基で任意に置換又は挿入された直鎖又は分岐鎖のアルキル基としてなる物質のカプセル化方法。
【請求項24】
請求項23の方法において、R及びR6´に1〜20個の炭素原子、好ましくは2〜12個の炭素原子を含めてなる物質のカプセル化方法。
【請求項25】
請求項20から24の何れかの方法において、RとR又はR6´とが、それらと接する第4級化窒素と共に複素環構造を形成してなる物質のカプセル化方法。
【請求項26】
請求項25の方法において、RとR又はR6´とが、それらと接する第4級化窒素と共に、4〜8個の環状原子を有する任意に置換された複素環構造を形成してなる物質のカプセル化方法。
【請求項27】
請求項26の方法において、前記任意に置換された複素環構造を5員環としてなる物質のカプセル化方法。
【請求項28】
請求項26の方法において、前記任意に置換された複素環構造を6員環としてなる物質のカプセル化方法。
【請求項29】
請求項28の方法において、RとR又はR6´とが、それらと接する第4級化窒素と共に、任意に置換されたピペリジン環を形成してなる物質のカプセル化方法。
【請求項30】
請求項29の方法において、前記モノマーを式(IV)の化合物としてなる物質のカプセル化方法。

【請求項31】
請求項26から28の何れかの方法において、前記複素環構造に、RとR又はR6´とに接する第4級化窒素に加えて、少なくとも1つの他のヘテロ原子を含めてなる物質のカプセル化方法。
【請求項32】
請求項31の方法において、前記複素環構造に少なくとも2つの窒素ヘテロ原子を含めてなる物質のカプセル化方法。
【請求項33】
請求項32の方法において、前記モノマーを式(V)の化合物としてなる物質のカプセル化方法。

(式(V)において、Aは、4〜8個の環状原子を有し且つ環内の任意一対の適切な位置にそれぞれ第4級化窒素が存在している複素環構造である)
【請求項34】
請求項33の方法において、Aを6員環としてなる物質のカプセル化方法。
【請求項35】
請求項34の方法において、Aを、任意に置換されたピペラジン環としてなる物質のカプセル化方法。
【請求項36】
請求項35の方法において、前記モノマーを式(VI)の化合物としてなる物質のカプセル化方法。

【請求項37】
請求項24の方法において、前記モノマーを式(VII)の化合物としてなる物質のカプセル化方法。

(式(VII)において、R13は直鎖又は分岐鎖のアルキル基(好ましくは1〜20個の炭素原子、更に好ましくは2〜12個の炭素原子を有するアルキル基)であり、R14は水素又は直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基(好ましくは1〜5個の炭素原子を有するアルキル基、更に好ましくはメチル基又はエチル基)であり、Zm−は請求項1で定義した通りである)
【請求項38】
請求項37の方法において、前記モノマーを式(VIII)の化合物としてなる物質のカプセル化方法。

【請求項39】
請求項38の方法において、前記モノマーを式(IX)の化合物としてなる物質のカプセル化方法。

【請求項40】
請求項37から39の何れかの方法において、R14をメチル基としてなる物質のカプセル化方法。
【請求項41】
請求項1から40の何れかの方法において、前記モノマーを重合させるステップでホモポリマーを形成してなる物質のカプセル化方法。
【請求項42】
請求項1から40の何れかの方法において、前記モノマーを重合させるステップでモノマーを異なるモノマー単位と混合することにより共重合ポリマーを形成してなる物質のカプセル化方法。
【請求項43】
請求項42の方法において、前記モノマーを架橋剤(橋かけ剤)により共重合させてなる物質のカプセル化方法。
【請求項44】
請求項42の方法において、前記架橋剤(橋かけ剤)を、請求項37で定義した式(VII)の化合物としてなる物質のカプセル化方法。
【請求項45】
請求項44の方法において、前記架橋剤(橋かけ剤)を、請求項38で定義した式(VIII)の化合物としてなる物質のカプセル化方法。
【請求項46】
請求項44の方法において、前記架橋剤(橋かけ剤)を、請求項39で定義した式(IX)の化合物としてなる物質のカプセル化方法。
【請求項47】
請求項44から46の何れかの方法において、R14をメチル基としてなる物質のカプセル化方法。

【図1a】
image rotate

【図1b】
image rotate

【図1c】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2011−502778(P2011−502778A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−533654(P2010−533654)
【出願日】平成20年11月17日(2008.11.17)
【国際出願番号】PCT/GB2008/003838
【国際公開番号】WO2009/063211
【国際公開日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(508025714)ノベル・ポリマー・ソリューションズ・リミテッド (3)
【Fターム(参考)】