説明

物質の制御された放出のための装置及び物質を放出する方法

本発明は、物質の制御された放出のための装置、及び区画から物質を制御可能に放出する方法を提供する。当該装置は、基板中に複数の区画を有し、各々の区画は少なくとも1つの放出メカニズムによって閉じられ、放出メカニズムは開いて再び閉じることができるように提供される。また本発明は、物質の制御された放出のための装置の製造方法に関し、前記装置は基板中に複数の区画を有し、各々の区画は少なくとも1つの放出メカニズムによって閉じられており、前記放出メカニズムは開いて再び閉じることが可能なように提供され、当該方法は、前記放出メカニズムを形成するために、基板上に第1の材料及び第2の材料を堆積又は作るステップを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物質の制御された放出のための装置に関する。本発明はさらに、物質を区画から制御可能に放出するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分散媒への1つ以上の化学薬品の少ない精密な量の正確な供給は、科学及び産業の多くの異なる分野において非常に重要である。医療における例は、点滴法を用いて、肺への即ち吸入方法によって又は血管ステント装置からの薬剤の放出によって、患者に薬剤を投与することを含む。診断における例は、DNA若しくは遺伝子の分析、組み合わせ化学(combinatorial chemistry)、又は環境サンプル中の特定の分子の検出を実行するために流体中に反応物を放出することを含む。分散媒への化学薬品の供給が関係する他のアプリケーションは、装置から空気へのフレグランス及び治療上の芳香の放出並びに飲料製品を生産するための液体への香味剤の放出を含む。
【0003】
事前に決められた量の物質の制御された放出のための装置は、一般に公知である。例えば、米国特許出願US 2004/0034332 A1は、薬剤の制御された供給のための植込み可能な装置を開示し、当該装置は、放出用の分子を収容するリザーバを持つマイクロチップを含む。そのマイクロチップ装置は、基板、放出用の分子を収容する前記基板中の少なくとも2つのリザーバ、前記リザーバの一部の上に又は前記リザーバの一部の中であって前記分子上に配置されたリザーバキャップを含み、分子は、前記リザーバキャップの分解若しくは断裂を通して、又はその際に、拡散によって制御可能に装置から放出される。単一のマイクロチップの各々のリザーバは、独立して放出されることができる異なる分子を収容することができる。この既知の装置の1つの欠点は、リザーバキャップが燃え尽きてしまい、結果的に、取り除かれた材料が人間の体内に残ってしまうことである。さらに、通常は薄膜であるリザーバキャップの近くでは、リザーバキャップが燃え尽きる間、温度が比較的高くなる。これは、特に医療的な理由のために投与される薬剤の場合、放出される物質を劣化させる可能性がある。更なる欠点は、リザーバの開放が非可逆的であり、すなわち一旦それが開かれると、再び閉じられることができないことである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、本発明の目的は、より柔軟に用いられることができる物質の制御された放出のための装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的は、本発明による物質の制御された放出のための装置及び方法によって達成され、当該装置は、基板中に複数の区画を有し、各々の区画は少なくとも1つの放出メカニズムによって閉じられ、前記放出メカニズムは、開いて再び閉じることができるように提供される。
【0006】
本発明による装置の利点は、多数の個々の薬剤放出区画に基づく制御された物質又は薬剤供給システムを実現することが可能であり、そのような装置は広範囲にわたるアプリケーションを持ち、製造要求と同様に制御要求が低減され、結果的に装置のコストが低減されることである。従来技術によれば、区画は、閉じられているか又は完全に開かれているかのいずれかである。結果的に、区画が部分的にのみ開かれている中間状態が無く、区画を再び閉じる可能性もない。
【0007】
本発明の更なる利点は、それによって、例えば外部薬剤供給システム(パッチ)、植込み可能な薬剤供給システム又は経口薬剤供給システム(e-pill)としてのアプリケーションが可能であることである。本発明の薬剤供給システムは、単一の薬剤の供給のために適用されることができるが、有利には、異なるいくつかの薬剤が区画の同じ配置又は同じ装置から適用されるシステムに適用されることができる。
【0008】
本発明では、部分的に開くことが可能な放出メカニズムが提供されることが非常に好ましい。それによって、区画中の物質のいわゆる基礎放出速度を達成することが可能であり、そのような基礎放出速度は、完全に開かれた区画による定期的な(又はボーラス)放出速度より低い。これは、特別な治療(例えば糖尿病の治療)に非常に有益であることができ、基礎速度及びボーラス速度の使用は非常に有用である。他の例は鎮痛であり、全ての時刻で一定の低量の鎮痛剤を投与し(基礎速度)、そして痛みが高まったときにバルブを活性化する(ボーラス投与)。
【0009】
放出メカニズムが少なくとも第1の材料及び第2の材料を有し、第1の材料が第1の熱膨張率を持ち、第2の材料が第2の熱膨張率を持ち、前記区画の開閉が第1及び第2の材料の加熱並びに/又は冷却によって行われることが、さらに好ましい。それによって、温度の変更によって繰り返し作動することが可能な非常に安定した丈夫な装置を実現することが可能である。
【0010】
さらに、装置が放出メカニズムを加熱及び/又は冷却するための手段を有することが好ましい。それによって、例えば電気抵抗又は熱電素子によって装置を駆動する単純な態様が可能である。
【0011】
本発明によれば、放出メカニズムが、複数の区画のうちの少なくとも1つ即ち複数の区画のうちの少なくとも1つの開口部を覆う蓋として提供されることが特に好ましい。それによって、製造が非常に容易な配置によって本発明の利点を実現することが可能である。特に、放出メカニズムとしての蓋を提供すること、及びその蓋の一部として第1及び第2の材料を提供することは、非常に容易である。
【0012】
蓋が、基板に固定された第1の部分、及び基板に対して可動である第2の部分を有することがさらに好ましい。それによって、前記蓋又は前記蓋の少なくとも一部のバルブのような動作が提供されることができる。
【0013】
さらに、前記蓋即ち放出メカニズムが封止手段を有し、当該封止手段は前記基板に対する前記蓋の第2の部分の運動の際に破られることが好ましい。封止手段は、使用前の区画のしっかりした閉鎖を確保するために非常に有利に提供される。結果的に、区画の製造と放出される物質の使用との間に、物質が失われる可能性はない。
【0014】
本発明によると、封止手段は、基板と第1及び/若しくは第2の材料との間の封止層又は封止層の少なくとも一部であることがさらに非常に好ましい。それに関して、物質の汚染のリスクがないように、不活性又は絶縁材料が、物質(特に薬剤)を収容するために選択されることができる。
【0015】
封止手段が第1及び/又は第2の材料の一部であることがさらに好ましい。それによって、さらに非常に容易かつ迅速に製造されることが可能な非常に費用効率が高い装置が実現されることができる。
【0016】
さらに、前記蓋が、当該蓋を加熱及び/又は冷却するための手段を有することが好ましい。それによって、非常に容易かつ非常に迅速に前記蓋を作動させることが可能である。
【0017】
本発明の他の実施例において、前記蓋を加熱及び/又は冷却するための前記手段が、前記蓋の第1の部分だけに提供されることが好ましい。これは、加熱及び/又は冷却するための前記手段が、前記蓋の第2の部分の運動の間に曲げられないという利点を有する。
【0018】
本発明によると、前記蓋を加熱及び/又は冷却するための前記手段が、前記蓋の第2の部分上に、又は前記蓋の第1の部分上に及び第2の部分上に提供されることも好ましい。それによって、熱又は温度の減少は、第1の材料と第2の材料との間の界面に非常に効果的に適用されることができる。
【0019】
蓋を加熱及び/又は冷却するための手段によって適用される温度の差は、少なくとも10℃、好ましくは少なくとも20℃であることがさらに好ましい。これは、局所的な及びちょっとした温度ピークの場合には蓋が閉じられたままでいることを可能にし、それによって、運搬される際又は別途取り扱われる際に、区画が閉じられたままであることを可能にする。
【0020】
より更なる本発明の好ましい実施の形態において、区画の第1のグループは、第1の物質の第1の量を収容するように提供され、区画の第2のグループは、第2の物質の第2の量を収容するように提供される。本発明による装置の利点は、非常に順応性がある物質放出メカニズムが、本発明の装置の構造中に実現されることができることである。例えば、異なるサイズの区画を提供することが可能であり、それによって、異なるボリュームの放出されるべき物質を収容することが可能である。例えば、所与の時点においてより多くの量の物質が放出されるべき場合、装置は適宜制御されることができ、適切なサイズの区画を開くことができ、それによって適切なボリュームの物質が放出される。これは、一定の数のより小さな区画から同じ量の物質を放出する代わりであり、同じ効果を持つ。もちろん、適切な量の物質を単一の区画から放出するほうが制御が容易であり、したがって、本発明による装置をより小さく、より軽量に、そしてより費用効率の良いものにする。したがって、第1及び第2の物質は、異なることができ、又は同一であることができる。薬剤などのような物質の放出のフレキシビリティを改善する他の態様は、装置上の異なる区画中にいくつかの異なる物質又は異なる物質混合物を提供することであり、それぞれの区画は同じサイズ又は異なるサイズである。したがって、例えば異なる2つの薬剤を、一日の間に又は他の時間間隔の間に、交互に患者に制御可能に放出することが可能である。あるいは、例えば異なるサイズの区画を提供することによって、及び異なるサイズの区画中に異なる物質を提供することによって、本発明の装置の使用のフレキシビリティをさらに高めることも可能である。本発明によれば、第1の量が第2の量の大体半分であることが好ましい。それによって、第1の容積を持つ即ち第1の量の物質を収容する区画の第1のグループ、各々が第1の量の2倍を収容する区画の第2のグループ、第1の量の4倍を収容する第3のグループ、及び第1の量の8倍を収容する区画の第4のグループを持つことが可能である。それによって、一つ以上の物質を放出するフレキシビリティがまたさらに高められる。
【0021】
本発明の更なる実施の形態は、物質の放出を制御するための制御ユニットを備えている。第1の数が、少なくとも10区画、好ましくは少なくとも100区画、より好ましくは少なくとも1,000区画、なお好ましくは少なくとも10,000区画であることがさらに好ましい。区画は、マイクロピペット又はインクジェット印刷技術によって満たされることができ、又は(区画中が全て同一の分子の場合のみ)基板が裏面を封止される前に裏側からまとめて満たされることができる。
【0022】
本発明は、基板中に複数の区画を有する装置を用いて区画から物質を制御可能に放出するための方法を含むこともでき、各々の区画は少なくとも1つの放出メカニズムによって閉じられており、放出メカニズムは開いて再び閉じることが可能なように提供され、当該方法は、前記放出メカニズムに駆動信号を適用し、それによって前記放出メカニズムを開くステップを有する。
【0023】
それによって、非常に迅速かつ容易に制御された態様で、特定の量の物質を制御可能に放出することが可能である。さらに、エネルギーは、放出メカニズムを開くために適用されなければならないだけである。
【0024】
本発明による方法の好ましい実施の形態において、前記駆動信号は前記放出メカニズムの加熱及び/又は冷却を提供し、好ましくは、前記放出メカニズムに適用される温度差は少なくとも10℃、好ましくは少なくとも20℃である。それによって、本発明の装置の制御は、非常に容易に、ほんの少量のエネルギーによって実行されることができる。
【0025】
本発明の方法の好ましい実施の形態において、複数の区画が同時に物質を放出する。これは、複数の区画が同時に開かれて、物質又は薬剤を放出する期間が各々のこれらの区画に対して集まっていることを意味する。あるいは、それらの放出期間(通常特定の区画を開くために必要とされる時間より非常に長い)が重なり合って、複数の区画による物質の放出が可能であるように複数の区画が順次開かれることも可能である。それによって非常に柔軟に物質の放出を制御することが可能である。
【0026】
本発明は、基板中に複数の区画を有する装置を用いて区画から物質を制御可能に放出するための本発明の装置の製造方法を含み、各々の区画は少なくとも1つの放出メカニズムによって閉じられ、前記放出メカニズムは開いて再び閉じることが閉可能なように提供され、当該方法は、前記放出メカニズムを形成するために、基板上に第1の材料及び第2の材料を堆積又は作るステップを有する。
【0027】
それによって、非常に迅速かつ費用効率の良い態様で、本発明の装置を製造することが可能である。
【0028】
本発明のこれらの及び他の特性、特徴及び利点は、一例として本発明の原理を説明する添付の図面と併せて以下の詳細な説明から明らかになる。説明は、一例としてのみ与えられており、本発明の範囲を制限しない。以下で引用される参照図は添付の図面を指す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明は、特定の実施の形態に関して特定の図面を参照して説明されるが、本発明はそれらには制限されず、請求の範囲のみによって限定される。記載された図は、単に概略であり、非制限的である。図面において、説明を目的としていくつかの要素のサイズは誇張されて縮尺通りに描かれていない場合がある。
【0030】
単数形の名詞は、特に別途述べられない限り、その名詞の複数を含む。
【0031】
さらに、詳細な説明及び請求の範囲中の「第1」「第2」「第3」等の用語は、同様の要素を区別するために用いられており、必ずしも逐次的な又は時間的な順序を表すものではない。そのように用いられる用語は、適切な条件の下で相互に交換可能であり、ここに記載される本発明の実施の形態は、ここに記載され又は説明されるものとは異なる順序で動作することが可能であることが理解されるべきである。
【0032】
さらに、詳細な説明及び請求の範囲中の"top""bottom""over""under"等の用語は、描写的な目的のために用いられ、必ずしも相対的な位置を説明するために用いられるものではない。そのように用いられる用語は、適切な条件の下で相互に交換可能であり、ここに記載される本発明の実施の形態は、ここに記載され又は説明されるものとは異なる配置で動作することが可能であることが理解されるべきである。
【0033】
詳細な説明や請求の範囲において用いられる「有する;含む」との用語は、それらに先立って挙げられた手段に制限されるように解釈されてはならず、それらは他の要素又はステップを除外しないことに注意すべきである。したがって、「手段A及びBを有する装置」との表現の範囲は、構成要素A及びBのみからなる装置に限定されてはならない。これは、本発明に関して、単にこの装置の重要な構成要素がA及びBであることを意味する。
【0034】
図1及び2において、従来技術による既知の装置100が概略的に示される。既知の装置100は、複数の区画20が配置される基板11を有する。区画20は、放出メカニズム30(特に閉鎖キャップ30)によって閉じられる。さらに図1から、区画20の各々に向って走る又は放出メカニズム30の各々に少なくとも向って若しくはその近くを走る電極線が存在することが分かる。接続線は図1において参照符号によって記載されていない。既知の装置100は電極領域110をさらに含む。図2は、無傷の放出メカニズム30の場合、及び、物質(特に薬剤)を拡散させ又は放出するために作動した(即ち「破壊された」)放出メカニズム30即ち閉鎖キャップ30の場合を示す。
【0035】
図3〜5において、発明の装置10の一部の概略的な表現が、本発明の2つの実施の形態によって示される。図3〜5において、明快さのために1つの区画20のみが示されているが、本発明の装置10が複数の区画20を有することは明らかであり、例えば少なくとも100区画、好ましくは少なくとも1000区画、最も好ましくは少なくとも10000区画を有する。装置10は、従来技術の装置と同程度の基板11中に区画20を有する。基板11は、その中に区画20が形成される構造体であり、例えばそれは、エッチング加工された、機械加工された又は成形加工された区画20を含む。区画20(以下においてリザーバとも呼ばれる)は、物質の容器である。公知技術の微小電気機械システム方法、マイクロ成形技術及びマイクロ機械加工技術は、様々な材料から区画20と一緒に基板11を製造するために用いられることができる。適切な基板材料の例は、金属、セラミックス、半導体、分解性及び非分解性ポリマーを含む。基板材料の生体適合性は、生体外での装置アプリケーションに対して一般的に好まれる。基板又はその一部は、使用前に、コーティングされることができ、カプセルに入れられることができ、そうでなければ生物適合性材料中に包含されることができる。基板11は、柔軟であることができ、又は剛体であることができる。一つの実施例において、基板11は、シリコン又は他の半導体材料で形成される。基板11は、成型された表面のための様々な形状を持つことができる。それは例えば、平面の又は湾曲した放出面(すなわち放出メカニズムを持つ領域)を持つことができる。基板は、例えば円板、シリンダ又は球体から選択される形状であることができる。一実施例において、放出面は、湾曲した組織表面に合致するように成型されることができる。これは特に、治療上の薬剤のその組織表面への局所的な供給のために有利である。他の実施例において、(放出面に対して遠い)裏面は、取付け面に合致するように成型される。基板11は、1つの材料のみから成ることができ、又は複合体材料即ち多積層体材料であることができ、すなわち互いに結合された同じ又は異なる基板材料のいくつかの層から成ることができる。
【0036】
図3において、1つの区画20が本発明による装置10の一部として示される。区画20は、放出メカニズム30を備えた基板11中に位置する。放出メカニズム30は、(装置10の放出面で)区画20の一方の開口20'を覆う蓋30として形成される。区画20は、基板11の(放出面から遠位側の)反対の面に第2の開口を備えていることができる。この第2の開口は、通常閉じられており、本発明の装置10によって放出されるべき物質によって区画20を満たすためにのみ開かれる。蓋30は、第1の材料31及び第2の材料32を有する。2つの材料31,32は、界面31'即ち接触面31'に沿って互いに向かい合っている。本発明では、第1の材料31は、第2の材料32とは異なる熱膨張率を持つ。第1及び第2の材料31, 32の積層の加熱は、第1及び第2の材料31, 32の積層の曲がりをもたらす。これは、区画20の開口20'におけるバルブメカニズム即ち放出メカニズム30の実現を可能にする。温度の差が閉鎖蓋30に適用されるときに、第1及び第2の材料31, 32の曲がりが制御されることができ、したがって、区画20の開口20'の開閉が実行されることができる。非常に制御されて放出されるべき物質、好ましくは薬剤又は他の物質は、区画20内に配置される。
【0037】
図4及び5において、閉鎖蓋30即ち本発明の装置10による蓋の2つの異なる実施の形態が示される。蓋30は、基板11(図4及び5に図示せず)に対して固定された第1の部分33及び基板11に対して可動である第2の部分34を有する。蓋30に温度差を適用するために、放出メカニズム30を加熱及び/又は冷却するための手段が好ましくは提供される。そのような加熱及び/又は冷却するための手段は、引用符号35によって示される。(図4に示される)第1の実施の形態において、加熱及び/又は冷却するための手段35は、放出メカニズム30の第1の部分33のみに配置される。(図5に示される)本発明の第2の実施の形態において、加熱及び/又は冷却するための手段35は、放出メカニズム30の第2の部分34にも配置される。さらに、加熱及び/又は冷却するための手段35は、第1の部分31にも位置する、加熱及び/又は冷却するための手段35の接点経路を持つ。
【0038】
図6及び7において、本発明の装置を製造するための異なる方法の概略的な実例が示される。
【0039】
図6において、装置10の製造方法の第1の例が示される。第1のステップ(図6a参照)において、基板11、好ましくはシリコン基板又はさらに一般的には半導体基板を形成する材料上に、窒化シリコン層(Si3N4)が、特にLPCVD法によって堆積される。この層は、第1及び第2の材料31, 32に対してと同様に、蓋30の加熱及び/又は冷却するための手段35の電極に対する直流絶縁部を構築する。この絶縁層は、引用符号37によって示される。絶縁層37上に、第1の材料31及び第2の材料32が堆積される。例えば、第1の材料はアルミニウム層であることができ、第2の材料は金の層であることができる。第2の材料32の上に、加熱及び/又は冷却するための手段が、特にタングステン抵抗若しくはプラチナ抵抗によって、設置されることができる。アルミニウムの熱膨張率は、22*10-6 K-1である。金の熱膨張率は、14*10-6 K-1である。タングステンの熱膨張率は、4.5*10-6 K-1である。プラチナの熱膨張率は、8.9*10-6 K-1である。図6bに示される第2のステップにおいて、区画20の容積は、等方性エッチングステップ及び/若しくは異方性エッチングステップを用いることによって、又は等方性エッチングステップを用いてその後異方性エッチングステップを用いることによって、基板11の(開口20'の放出面に対して遠位の)裏面からエッチング加工される。このエッチングステップ又はこれらのエッチングステップは、例えば、基板11の裏面上の窒化シリコンマスク(図示せず)によって実行されることができる。最終的に、バルブ即ち蓋30は、ステップ3(図6c参照)における裏面からの窒化物エッチングステップによって解放される。
【0040】
それによって、バルブ即ち蓋30と基板11との間の小さな間隔が実現され、それは物質の漏出につながる可能性がある。これを回避するために、異なる材料層のストレス差に起因して蓋30が基板11の方へ押し下げられるように、材料の積層は選択されなければならない。あるいは、蓋30と基板11との間の弱い残留結合が、例えば絶縁層37中に提供されることができ、その後封止手段36として機能し、蓋が作動する際に壊される。この場合には、システムは、(封止手段36に関して)非可逆的である。残留結合は、封止手段36とも呼ばれて、蓋30の可動端(第2の部分34)の近くに配置される。図6cにおいて、矢印は、そのような封止手段36の位置のみを指している。
【0041】
図7において、装置10の製造方法の第2の例が示される。この方法では、SOIウェーハ(Silicon on Insulator)が基板11として用いられる。上部ポリシリコン層11'は、それによって、少なくとも部分的に、第1の材料31として用いられ、一方、中間の酸化シリコン材料は絶縁層37として用いられる。両方ともSOI基板の一方の側に位置し、それは図7aに示される。
【0042】
図7bにおいて、二酸化シリコン層がSOIウェーハに適用される。二酸化シリコンは、第2の材料32として用いられる。SOIウェーハ上の二酸化シリコン層は、堆積によって、又はSOIウェーハのポリシリコン層11'の一部の熱酸化によって、実現されることができる。後者の選択肢が図7bに示され、SiO2層が第2の材料32を形成し、ポリシリコン層11'の残りが第1の材料31を形成する。図7cに示すように、蓋30を加熱及び/又は冷却するための手段を実現するために、加熱素子35が二酸化シリコン層32の上に堆積される。図7dにおいて、基板11の裏面からの区画20の作成が示される。そこで、酸化シリコン中間層(絶縁層37)は、エッチストップ層として機能する。
【0043】
本発明によると、第1の材料31に対して電気的に絶縁され、それによって第2の材料32及び加熱素子35の両方として機能する第2の材料32を提供することも可能である。本発明によれば、第1及び第2の材料31, 32を共に加熱素子として提供することも可能である。さらに、第1の材料31が絶縁体として提供される場合、基板11の材料が絶縁体として与えられる場合、第1の材料は絶縁材料としても機能することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】従来技術による装置100を概略的に示す図。原理的にそのようなタイプの装置の構造を示す。
【図2】従来技術による装置100を概略的に示す図。原理的にそのようなタイプの装置の構造を示す。
【図3】本発明の装置10の一部の2つの実施の形態を概略的に示す図。
【図4】本発明の装置10の一部の2つの実施の形態を概略的に示す図。
【図5】本発明の装置10の一部の2つの実施の形態を概略的に示す図。
【図6】本発明による装置を製造するための方法を概略的に示す図。
【図7】本発明による装置を製造するための方法を概略的に示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物質の制御された放出のための装置であって、基板中に複数の区画を有し、各々の区画は少なくとも1つの放出メカニズムによって閉じられ、前記放出メカニズムは開いて再び閉じることが可能なように提供される装置。
【請求項2】
前記放出メカニズムが部分的に開くことが可能なように提供される請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記放出メカニズムが少なくとも第1の材料及び第2の材料を有し、第1の材料が第1の熱膨張率を持ち、第2の材料が第2の熱膨張率を持ち、前記区画の開閉が、第1若しくは第2の材料の加熱及び/又は冷却によって提供される、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記放出メカニズムを加熱及び/又は冷却するための手段を有する請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記放出メカニズムが、前記複数の区画のうちの少なくとも1つを覆う蓋として提供される、請求項3に記載の装置。
【請求項6】
前記蓋が、前記基板に固定された第1の部分及び前記基板に対して可動である第2の部分を有する請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記蓋が封止手段を有し、当該封止手段は、前記基板に対する前記蓋の第2の部分の運動の際に壊される、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記封止手段が、前記基板と第1及び/又は第2の材料との間の封止層である、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記封止手段が、第1及び/又は第2の材料の一部である、請求項7に記載の装置。
【請求項10】
前記蓋が、当該蓋を加熱及び/又は冷却するための手段を有する、請求項5に記載の装置。
【請求項11】
前記蓋を加熱及び/又は冷却するための前記手段が、前記蓋の第1の部分にのみ提供される、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記蓋を加熱及び/又は冷却するための前記手段が、前記蓋の第2の部分に提供され、又は前記蓋の第1の部分及び第2の部分に提供される、請求項10に記載の装置。
【請求項13】
前記蓋を加熱及び/又は冷却するための前記手段によって適用される温度差が、少なくとも10℃である、請求項10に記載の装置。
【請求項14】
前記蓋を加熱及び/又は冷却するための前記手段によって適用される温度差が、少なくとも20℃である、請求項10に記載の装置。
【請求項15】
基板中に複数の区画を有する装置を用いて少なくとも1つの区画から物質を制御可能に放出する方法であって、各々の区画は少なくとも1つの放出メカニズムによって閉じられ、前記放出メカニズムは開いて再び閉じることが可能なように提供され、当該方法は、前記放出メカニズムに駆動信号を適用し、それによって前記放出メカニズムを開くステップを有する方法。
【請求項16】
前記駆動信号が前記放出メカニズムの加熱及び/又は冷却を提供する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記放出メカニズムに適用される温度差が少なくとも10℃である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記放出メカニズムに適用される温度差が少なくとも20℃である、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
物質の制御された放出のための装置の製造方法であって、前記装置は基板中に複数の区画を有し、各々の区画は少なくとも1つの放出メカニズムによって閉じられており、前記放出メカニズムは開いて再び閉じることが可能なように提供され、当該方法は、前記放出メカニズムを形成するために、基板上に第1の材料及び第2の材料を堆積又は作るステップを有する方法。
【請求項20】
絶縁層並びに/又は加熱及び/若しくは冷却のための手段が、第1及び第2の材料の下及び/若しくは上に堆積若しくは作成される、請求項19に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6a】
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【図6b】
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【図6c】
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【図7a】
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【図7b】
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【図7c】
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【図7d】
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【公表番号】特表2009−535082(P2009−535082A)
【公表日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−507211(P2009−507211)
【出願日】平成19年4月17日(2007.4.17)
【国際出願番号】PCT/IB2007/051375
【国際公開番号】WO2007/122552
【国際公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】