物質拡散防止方法
【課題】本発明の目的は、高分子材料内部の拡散物質が表面にブリードアウトして他の材料に当該拡散物質が侵入することを防止する物質拡散防止方法を提供することにある。さらに、高分子材料内部の拡散物質が他の材料に侵入することがない複合材料を提供することにある。
【解決手段】本発明の物質拡散防止方法は、シート状の高分子材料10に含有される添加物質の拡散を防止する方法であって、当該シート状の高分子材料10の少なくとも片面に、コロナ処理層、オゾナイザー処理層、及び摩擦処理層から選択される拡散防止層10aを設けることにより前記添加物質の拡散を防止することを特徴とする。
【解決手段】本発明の物質拡散防止方法は、シート状の高分子材料10に含有される添加物質の拡散を防止する方法であって、当該シート状の高分子材料10の少なくとも片面に、コロナ処理層、オゾナイザー処理層、及び摩擦処理層から選択される拡散防止層10aを設けることにより前記添加物質の拡散を防止することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状の高分子材料に含有される添加物質の拡散を防止する方法、及びシート状の高分子材料に含有される添加物質の拡散を防止可能とする複合材料に関する。本発明における複合材料は、例えば、電子部品のキャリアテープの基材用途に有用である。
【背景技術】
【0002】
従来から、高分子材料に含有される可塑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、架橋剤、不純物などが、高分子材料内部から表面側に移動したり、ランダムに拡散することが知られている。このような高分子材料に含有される上記拡散物質の拡散移動によって、汚染問題、表面抵抗率上昇等の問題が生じている。例えば、帯電防止剤を高分子材料中に練り込んだ場合は、帯電防止剤が高分子材料内部から表面に移動し(以下に、「ブリードアウト」と称することがある。)、当該表面に接するものへの汚染が生じる。例えば、帯電防止剤含有の第1の高分子材料に他の第2の高分子材料を積層した積層体の場合に、ブリードアウトした帯電防止剤が、当該積層された第2の高分子材料に侵入移動し、第1の高分子材料中の帯電防止剤の含有量が減少する。この帯電防止剤量の減少により、第1の高分子材料の表面低効率が低下し、帯電防止効果が低下してしまう問題がある。
【0003】
このような積層体の一方の層から他方の層に帯電防止剤が拡散してしまうことを防止する方法が多数研究検討されているが、現時点において有効な防止方法は開発されていない。そして、帯電防止のメカニズムが十分に解明されていないために、当該拡散現象を考慮して帯電防止剤の配合量を設定したり、第1の高分子材料の厚みを設定する等して対処しているのが現状である。
【0004】
また、帯電防止剤に限らず、可塑剤、酸化防止剤、架橋剤等の高分子材料に添加される物質の拡散による問題もある。例えば、可塑剤等がその表面にブリードアウトすることによる汚染や、積層体の一方の層から他方の層内部へ可塑剤が侵入することがある。なお、このように可塑剤等が拡散し表面にブリードアウトするメカニズムや他の層に侵入するメカニズムについても明確に解明されていない。また、可塑剤、酸化防止剤、架橋剤等の拡散移動は、高分子材料の物性に少なからず影響する。
【0005】
また、上記の拡散物質は、高分子材料中に練りこまれる場合に限定されず、高分子材料の表面に塗布された場合においても、高分子材料の内部に侵入し拡散することが知られている。例えば、帯電防止剤を高分子材料表面に塗布した場合に、高分子材料内部への拡散により表面の表面抵抗率が低下して行き帯電防止効果が低下する問題がある。
【0006】
そして、帯電防止剤を含有する高分子材料の単層体や、それに他の高分子材料を積層した積層体、また、それら単層体や積層体に粘着剤を塗布して構成された粘着テープが実用化されている。この積層体は、例えば、電子部品のキャリアテープに用いられる。キャリアテープにおいて、帯電防止効果が低下した場合、キャリアテープとしての機能を十分に発揮できなくなるので、帯電防止剤の拡散による帯電防止効果の影響は重大な問題である。
【0007】
そして、上記単層体や積層体及びそれらを基材とする粘着テープにおいて、帯電防止効果を電気的に測定することが知られている。例えば、単層体、積層体及び粘着テープ表面の表面抵抗率、帯電電位、電位減衰等の電気的特性の測定で、帯電防止効果の均一性評価が可能である。
【0008】
さらに、上記電気的測定方法以外に、空間電荷分布測定(例えば、特許文献1参照)により、高分子材料内部での空間電荷の形成、蓄積、移動、拡散の状態がリアルタイムでビジュアルに観察することができる。
【0009】
【特許文献1】特開2006−17517号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
既に述べたように、高分子材料中を拡散移動する拡散物質の影響による問題は深刻であり、拡散物質の拡散移動を防止する方法の開発が強く望まれていた。
【0011】
そこで、本発明の目的は、高分子材料内部の拡散物質が表面にブリードアウトして他の材料に当該拡散物質が侵入することを防止する物質拡散防止方法を提供することにある。さらに、高分子材料内部の拡散物質が他の材料に侵入することがない複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、以下に示す物質拡散方法および物質拡散防止可能な複合材料を得るに至った。
【0013】
すなわち、本発明の物質拡散防止方法は、シート状の高分子材料に含有される添加物質の拡散を防止する方法であって、
当該シート状の高分子材料の少なくとも片面に、コロナ処理層、オゾナイザー処理層、及び摩擦処理層から選択される拡散防止層を設けることにより前記添加物質の拡散を防止することを特徴とする。
【0014】
上記物質拡散防止方法において、前記シート状の高分子材料の少なくとも片面に、コロナ処理、オゾナイザー処理、及び摩擦処理から選択される表面処理を施すことにより拡散防止層を設けることが好ましい実施態様である。
【0015】
また、他の本発明の物質拡散防止方法は、シート状の高分子材料に含有される添加物質の拡散を防止する方法であって、
当該シート状の高分子材料の少なくとも片面に、化学的及び/又は物理的に処理された拡散防止層を有する拡散防止材料を設けることにより前記添加物質の拡散を防止することを特徴とする。
【0016】
また、他の本発明の物質拡散防止方法は、シート状の高分子材料に含有される添加物質の拡散を防止する方法であって、
当該シート状の高分子材料の少なくとも片面に、コロナ処理、オゾナイザー処理及び摩擦処理から選択される表面処理を施すことで拡散防止層を形成した拡散防止材料を貼り合わせることにより前記添加物質の拡散を防止することを特徴とする。
【0017】
上記物質拡散防止方法において、前記シート状の高分子材料の少なくとも片面に、拡散防止層側を貼り合わせるように構成することが好ましい実施態様である。
【0018】
また、上記物質拡散防止方法において、前記添加物質が、可塑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、及び架橋剤から選択されることが好ましい。特に、添加物質として帯電防止剤であることがより好ましい。
【0019】
上記構成の物質拡散防止方法によれば、高分子材料内部の拡散物質が表面にブリードアウトして他の材料に当該拡散物質が侵入することを好適に防止することが可能となる。また、高分子材料の物性変化(例えば、表面抵抗、体積抵抗等)を抑えることができる。
【0020】
また、他の本発明の複合材料は、添加物質を含有するシート状の高分子材料の少なくとも片面に、化学的及び/又は物理的に処理された拡散防止層を形成した拡散防止材料を少なくとも設けることを特徴とする。
【0021】
また、他の本発明の複合材料は、添加物質を含有するシート状の高分子材料の少なくとも片面に、コロナ処理、オゾナイザー処理及び摩擦処理から選択される表面処理を施すことで拡散防止層を形成した拡散防止材料を少なくとも貼り合わせて構成することを特徴とする。
【0022】
上記複合材料において、コロナ処理、オゾナイザー処理、及び摩擦処理から選択される表面処理が施された面では、直流電圧印加した場合に空間電荷形成が生じないことを特徴とする。
【0023】
また、上記複合材料は、高分子材料及び拡散防止材料からなる2層の積層構造でもよく、さらに別の高分子材料を拡散防止材料側に張り合わせてなる3層以上の積層構造でもよい。
【0024】
上記構成の複合材料によれば、高分子材料内部の拡散物質が表面にブリードアウトして複合材料を構成する他の材料に当該拡散物質が侵入することがないので、高分子材料の物性変化による影響を抑え、他の材料に対する影響も押さえることができる。例えば、高分子材料内部の帯電防止剤の他の材料に対する侵入を抑えることが可能となる。
【0025】
また、他の本発明は、上記複合材料中いずれかの複合材料を基材とし、添加物質を含有する高分子材料側面でなく拡散防止材料側面に粘着剤層を設けて構成された粘着テープである。また、本発明の複合材料又は粘着テープを電子部品のキャリアテープに用いることが好適である。これによって、添加物質が帯電防止剤である場合に帯電防止効果が低下せず、テープ剥離による静電気が電子部品に悪影響を及ぼすことがなく、キャリアテープとしての機能を十分に発揮できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について適宜図面を用いて説明する。
【0027】
(高分子材料)
本発明において適用可能な高分子材料は、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド(PI)、エチレンビニルアセテート(EVA)、塩化ビニル(PVC)等が例示される。また、後述する化学的及び/または物理的な処理効果がある高分子材料が例示される。
【0028】
本発明の高分子材料は、シート状であり、その厚みは、適宜設定可能であるが、例えば、数μm〜数mmまでの厚み範囲が例示される。なお、高分子材料の製造方法は、公知の製造方法が適用できるのでここでの詳細な説明は省略する。
【0029】
(添加物質)
高分子材料に含有される添加物質は、例えば、可塑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、架橋剤、光安定剤、紫外線吸収剤、防曇剤等が例示される。これら添加物質の種類、配合量は、高分子材料の種類や、その製造方法、さらに製品特性、所望の物性に依存して設定される。
【0030】
(拡散物質)
本発明において、各種材料を移動可能な拡散物質としては、上記添加物質で例示された可塑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、架橋剤、光安定剤、紫外線吸収剤、防曇剤等、さらに不純物などに含まれているイオンキャリヤーが例示され、例えば、無機イオンのNa+、Cl−、K+、Ca2+、Mg2+、SO42+などであり、有機酸が解離して生じたH+、COO−などが考えられる。
【0031】
(帯電防止剤)
高分子材料に練り込み型の帯電防止剤としては、表面移行型帯電防止剤の他に、表面へのブリードアウトがないと予測される永久型帯電防止剤も市販されている。しかし、このような永久型帯電防止剤であっても完全に表面にブリードアウトしないわけではない。さらにシート状に製造した場合において帯電防止剤が表面に点在することになる。本発明は、表面移行型帯電防止剤が表面に移動し、他の材料に移動しない拡散防止方法を提供するものである。また、本発明は、永久型帯電防止剤であっても表面に存在すれば、他の材料に移動することを防止できる。
【0032】
また、表面塗布型の帯電防止剤として、静電防止性コーティング剤のボンディップ(アルテック社製)や可溶性ポリアニリン(例えば、アニリード:日東電工社製)等を例示できる。
【0033】
(拡散防止材料)
本発明における拡散防止材料は、既に述べた高分子材料と複合材料を構成するものである。そして、拡散防止材料の少なくとも片面には、後述する化学的及び/または物理的な処理を施すことによって拡散防止層が形成されている。また、他の例として、高分子材料に直接に拡散防止層を形成することもできる。
【0034】
拡散防止材料は、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド(PI)、エチレンビニルアセテート(EVA)、塩化ビニル(PVC)等が例示される。また、その中でも、PE、PPがより好ましく、特にPEが好ましい。また、後述する化学的及び/または物理的な処理効果があることが必要である。
【0035】
拡散防止材料は、シート状であり、その厚みは、適宜設定可能であるが、例えば、数μm〜数mmまでの厚み範囲が例示される。なお、拡散防止材料の製造方法は、公知の製造方法が適用できるのでここでの詳細な説明は省略する。
【0036】
(表面処理方法)
表面処理方法は、化学的及び/または物理的な処理方法である。化学的表面処理方法としてオゾナイザー処理が例示され、物理的表面処理方法として摩擦処理が例示され、また、化学的及び物理的な表面処理方法としてコロナ処理が例示される。
【0037】
本発明において、例えば、コロナ処理、オゾナイザー処理、摩擦処理等の各種処理により表面層の架橋度が向上したり、配向性が改善したりして、エネルギーの深い所にトラップが生じ電荷(イオンキャリアー)の動きを止めている(拡散物質の拡散を困難にしている)と推察できる。また、公知の実験報告では、架橋度の高いPEの方が架橋度の低いPEよりも拡散速度が遅くなる事が判っており、本発明における表面処理の作用との関連が推察できる。
【0038】
(コロナ処理方法)
本発明におけるコロナ処理の方法は、被処理材料に応じて公知のコロナ処理方法が適用できるが、例えば、誘電材料を巻いたロールと処理フィルムの乗った金属ロール間でコロナ放電させるコロナ処理装置での方法が例示される。このコロナ処理装置の処理条件としては、例えば、350W出力に対してラインスピード5m/分(350W×5m/分)、450W×5m/分、450W×3m/分などの諸条件があるが、ぬれ指数が41〜43(未処理のぬれ指数は通常31〜34)になる条件が好ましい。
【0039】
(オゾナイザー処理方法)
本発明におけるオゾザイザー処理の方法は、被処理材料に応じて公知のオゾナイザー処理方法が適用できるが、例えば、平板電極を平行に設置し交流電圧を印加しコロナ放電を発生させ、その時生じるオゾンを被処理材料表面に暴露させる方法が例示される。この処理方法の処理条件としては、例えば、表面酸化度合いとしては、上記カルボニル基(COO−)における吸収係数α(=54.6)にて評価し、αが30〜60範囲での処理が好ましい。吸収係数αは下記式で算出される。
【0040】
(式)α=−(1/d)ln(I/IO)・・・(1)
式1中、d:試料の厚み、I:赤外透過強度、IO:赤外入射強度を示す。
【0041】
(摩擦処理方法)
本発明において適用可能な摩擦処理方法は、被処理材料に応じて公知の査察処理方法が適用できるが、例えば、ガーゼにて10回ほど擦る方法が例示される。
【0042】
(複合材料)
本発明の複合材料は、複数の材料(例えば、高分子材料、拡散防止材料及びその他の材料)で構成される2層若しくは3層以上の積層体として構成できる。複数の材料を積層し複合材料を形成する方法は特に制限されないが、例えば、熱溶着、インパルス溶着、高周波溶着、接着剤または粘着剤による貼り合わせ方法等が例示される。拡散物質が帯電防止剤の場合、高分子材料と拡散防止材料とを熱溶着する方法が他の方法よりも好ましい。
【0043】
また、帯電防止剤を高分子材料の表面に塗布する構成の場合、帯電防止剤を塗布していない面側に拡散防止材料を張り合わせることができる。
【0044】
また、本発明の複合材料をキャリアテープの基材として用いる場合、高分子材料/拡散防止材料/第3の材料の構成として、EVA/PE/PETとすることが強度(テープとして要求されるコシ)の点で好ましい。
【0045】
(粘着テープ)
本発明の粘着テープは、既に説明した複合材料を基材とし、添加物質を含有する高分子材料側面でなく拡散防止材料側面に粘着剤層を設けるように構成してある。また、他の粘着テープの構成として、添加物質を含有する高分子材料に拡散防止層を上記の表面処理を施すことで形成し、この拡散防止層に直接粘着剤層を設けることができる。
【0046】
粘着剤としては、公知の粘着剤が適用でき、使用目的、粘着剤層と接する面の材質等を考慮して適宜選択され、例えば、ホットメルト系粘着剤、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、熱硬化ゴム系粘着剤等が例示される。また、この粘着テープをキャリアテープに用いる場合には、粘着剤に帯電防止処理が施されていることが好ましい。
【0047】
本発明の粘着テープは、公知の用途で使用できるが、例えば、電子部品のキャリアテープとしての用途が例示される。
【0048】
(キャリアテープ)
通常、電子部品のキャリアテープは、細長い厚手の紙台紙或いはプラスチックに電子部品を収納するポケット(キャビティー)を形成し、その上下若しくはその開放面側においてレール状に帯電防止剤入りのEVAフィルム等を加熱溶着してなるものがある。また、レール状に粘着剤を塗布し、帯電防止剤入りのEVAフィルム等を貼り付けることもできる。なお、この上側若しくは開放面側に貼られたテープをトップテープと称し、下側に貼られたテープをボトムテームと称することがある。
【0049】
本発明の粘着テープをこのトップテープやボトムテープとして用いる場合、キャリアテープの形状に合わせてレール状に粘着剤を形成する必要がある。
【0050】
(複合材料等の構成)
本発明の高分子材料、複合材料、粘着テープ、キャリアテープの構成例(断面図)を図11、12を用いて説明する。図11(a)は、高分子材料10単層の片面に拡散防止層10aを形成したものである。図11(b)は、高分子材料10の片面に、拡散防止層20aを形成した拡散防止材料20を貼り合わせた2層構造の積層体である。図11(c)は、高分子材料10の片面に、拡散防止層20aを形成した拡散防止材料20を張り合わせ、さらに第3の材料30(高分子材料)を貼り合せた3層構造の積層体である。図11(d)は、上記2層構造の積層体に粘着剤層40を形成した粘着テープである。図11(e)は、上記3層構造の積層体に粘着剤層40を形成した粘着テープである。図11(f)は、上記単層構造の高分子材料10に形成した拡散防止層10aに粘着剤層40を形成した粘着テープである。図12は、キャリア台紙50aにトップテープ50b及びボトムテープ50cを貼り合わせたキャリアテープ50の一例である。トップテープ50b及びボトムテープ50cは、本発明の上記積層体で構成できる。また、レール状に粘着剤が塗布された粘着テープで構成することもできる。
【0051】
[実施例]
(評価方法その1)
本発明の物質拡散方法、複合材料等の評価の一つとして、空間電荷分布の測定がある。以下に、空間電荷分布について説明する。
【0052】
(空間電荷分布観測)
空間電荷分布は、パルス静電応力法(PEA法:Pulse Electro−Acoustic Method)によるPEA法装置にて測定できる。このPEA法及びPEA法装置の詳細な説明は、特開2005−17517号公報に記載されている。PEA法装置としては、例えば、フィボラボ社製のPEANUTS,PEA−101−BMが挙げられる。
【0053】
図10は、PEA法装置の基本的な構成を例示している。図10において、被観測体1の両端面に、電圧印加手段を構成する電極4a(正極)、電極4b(負極)が当接し、この電極4bに圧電素子5が設けられている。直流電源部6から電極4a、4bに電圧が印加され、被観測体1の内部に空間電荷1aが形成された場合、パルス電源部6aからパルス電界が印加されると、クーロン力が働き、弾性波が電極4b側に向かって発生する。この弾性波は、電極4bの裏側に設けられた圧電素子5によって検知され電圧に変換される。この変換された電圧が増幅器5aで増幅される。増幅された電圧データを記憶手段7に順次メモリーし、制御・演算処理手段8によって演算され、解析用データに変換・処理される。また、制御・演算処理手段8は、こうした演算処理機能に加え、各データを基に、直流電源部6、パルス電源部6aの動作(例えば、電圧の連続的印加あるいは間欠的印加の選択や印加電圧値など)、あるいは増幅器5aや記憶手段7の動作を制御する機能を有することができる。
【0054】
上記の構成によれば、被観測体1を両電極で挟み、所定の直流電圧及びパルス電界を印加させることで、弾性波を生じさせ、この弾性波を解析することで、被観測体1の内部の空間電荷分布の挙動(変化)を観測することができる。
【0055】
<比較例1>
比較試験用のLDPEフィルム(低密度ポリエチレンフィルム)は、スミカセン製、厚み130μmのフィルムであり、以下の製造条件で得られる。
押出機、
Tダイ:200℃、
冷却ロール:30℃、
酸化防止剤:フェノール系酸化防止剤、配合比0.1wt%以下、
その他添加剤なし。
【0056】
(2)残留空間電荷分布の観察
未処理LDPEフィルム(スミカセン、130μm)に直流電圧:20kV/mmを10分間印加後、電圧を切り1分後に、フィルム内部に残った残留ホモ電荷分布を観察した(残留空間電荷分布の観察)。電極は、直径8mmのものを用い、この電極をフィルム上でランダムに選択した5箇所の位置にセットして、残留空間電荷分布の観察を行なった。その結果を図1に示す。図1(a)〜(d)に示すように異なる5ケ所の位置でのデータ(5つの実線曲線データ)において、印加電圧の極性を反対にしたり(図1(b)、(d))、フィルムを反転(図1(c))したりして電荷分布を観察した。その結果、いずれの場合も両電極から電荷注入が起き、内部にホモ電荷が生成し、電圧OFF後も内部に残留電荷が観察された。これら残留電荷は、正負どちらかのホモ電荷となりバルク全体を覆う傾向を示した。従って、場所によりどちらからかの極性が注入生成したものと推察され、よって、フィルムの一方の面又は他方の面のいずれの面からも注入できることが確認された。図1(e)は、未処理LDPEフィルムに直流電圧印加前に電荷分布測定を行なった結果である。
【0057】
<実施例1>
(1)拡散防止材料
拡散防止材料として、LDPEフィルム(低密度ポリエチレンフィルム)を用い、その片面にコロナ処理を施して拡散防止層を形成した。この片面コロナ処理LDPEフィルムの製造条件は以下である。
フィルム厚み:60μm、
インフレーション作製:160℃、
酸化防止剤:フェノール系酸化防止剤、配合比0.1wt%以下、
その他添加剤なし、
表面処理:コロナ処理装置として誘電材料を巻いたロールと処理フィルムの乗った金属ロール間で放電させる装置を用いた。処理条件は、350W出力でラインスピード5m/分であり、ぬれ指数は、42であった。
【0058】
(2)添加物質含有高分子材料
添加物質含有高分子材料として、帯電防止剤入りEVAフィルム(帯電防止剤:ステアリン酸系界面活性剤、1wt%添加)を用いた。
【0059】
(3)残留空間電荷分布の観察
片面コロナ処理LDPEフィルム(60μm)に直流電圧:20kV/mmを10分間印加後、電圧を切り1分後に、フィルム内部に残った残留ホモ電荷分布を観察した(残留空間電荷分布の観察)。電極は、直径8mmのものを用い、この電極をフィルム上でランダムに選択した5箇所の位置にセットして、残留空間電荷分布の観察を行なった。その結果を図2に示す。図2(a)〜(d)に示すように異なる5ケ所の位置でのデータにおいて、印加電圧の極性を反対にしたり(図2(b)、(d))、フィルムを反転(図2(c))したりして電荷分布を観察した。いずれの場合もコロナ処理面と反対側でホモ電荷が生成し、蓄積、残留する事が判明した。これら残留電荷はコロナ処理面の反対側極性の正負どちらかのホモ電荷となりバルク全体を覆う傾向を示した。従って、コロナ処理面からの電荷注入・蓄積・残留が生じないことが判明した。図2(e)は、片面コロナ処理LDPEフィルムに直流電圧印加前に電荷分布測定を行なった結果である。
【0060】
(4)電圧印加時の電荷の移動の観察
片面コロナ処理LDPEフィルム(60μm)に直流電圧:20kV/mmを印加し、印加後、2分後、4分後、6分後、8分後、10分後に電荷分布を測定した。フィルムを両電極で挟み、材料内部の電荷移動の様子を観察した。結果を図3に示す。図3(a)、(b)に示すように、電圧印加時にPE内部で生じている電荷移動を観察することができ、コロナ処理面の反対側から処理面側への電荷移動が確認された。
【0061】
(5)複合材料(帯電防止剤入りEVA/片面コロナ処理LDPE)の拡散挙動観察
片面コロナ処理LDPEフィルムと帯電防止剤入りEVA(100μm厚)とを100℃にて熱融着させた後、直流電圧:50kV/mm×2時間印加し、帯電防止剤入りEVA/LDPE界面に蓄積した負の空間電荷の移動を観察した。その結果を図8に示す。図8に示すように、EVA/PE界面での負電荷形成が観察された。図8(b)は図8(a)のEVA/PE界面での負電荷形成の拡大図を示す。そして、図8(b)に示すように、EVA/PE界面での負電荷の移動はほとんど見られない。コロナ処理面が拡散防止層としてバリヤー機能を発揮し、帯電防止剤の移動拡散を阻止していることが確認された。
【0062】
<実施例2>
(1)拡散防止材料
拡散防止材料として、スミカセン社製、LDPEフィルムを用い、その片面にオゾザイザー処理を施して拡散防止層を形成した。この片面オゾナイザー処理LDPEフィルムの製造条件は以下である。
フィルム厚み:98μm
押出機、
Tダイ:200℃、
冷却ロール:30℃、
表面処理:オゾナイザーにて5時間オゾンに暴露する。表面酸化度合いとしては、カルボニル基における吸収係数α(=54.6)にて評価した。吸収係数αは、上記式(1)により算出される。
【0063】
(2)添加物質含有高分子材料
添加物質含有高分子材料として、帯電防止剤入りEVAフィルム(帯電防止剤:ステアリン酸系界面活性剤、1wt%添加)を用いた。
【0064】
(3)残留空間電荷分布の観察
片面オゾナイザー処理LDPEフィルム(98μm)に直流電圧:2kV(約20kV/mm)を10分間印加後、電圧を切り1分後に、フィルム内部に残った残留ホモ電荷分布を観察した(残留空間電荷分布の観察)。電極は、直径8mmのものを用い、この電極をフィルム上でランダムに選択した5箇所の位置にセットして、残留空間電荷分布の観察を行なった。その結果を図4に示す。図4(b)は、図4(a)に対し印加電圧の極性を反対にしたものである。いずれの場合もオゾナイザー処理面と反対側でホモ電荷が生成し、蓄積、残留する事が判明した。これら残留電荷はオゾナイザー処理面の反対側極性の正負どちらかのホモ電荷となりバルク全体を覆う傾向を示した。従って、オゾナイザー処理面からの電荷注入・蓄積・残留が生じないことが判明した。図4(c)は片面オゾナイザー処理LDPEフィルムに直流電圧印加前に電荷分布測定を行なった結果である。
【0065】
(5)複合材料(帯電防止剤入りEVA/片面オゾナイザー処理LDPE)の拡散挙動観察
帯電防止剤入りEVA(100μm厚)と片面オゾナイザー処理(酸化処理)したLDPE(100μm厚)とを100℃にて熱融着させた後、直流電圧:50kV/mmを2時間印加し、帯電防止剤入りEVA/LDPE界面に蓄積した負の空間電荷の移動を観察した。そのEVA/PE界面での負電荷形成の拡大図を図9に示す。図9に示すように、EVA/PE界面での負電荷形成が観察され、時間経過によるEVAからPEへの移動拡散はほとんど見られなかった。オゾナイザー処理面(酸化処理面)がバリヤー機能を発揮して帯電防止剤の移動拡散を阻止していることが確認された。
【0066】
<実施例3>
(1)拡散防止材料
拡散防止材料として、スミカセン社製、LDPEフィルム(低密度ポリエチレンフィルム)を用い、その片面に摩擦処理を施して拡散防止層を形成した。この片面摩擦処理LDPEフィルムの製造条件は以下である。
フィルム厚み:130μm
押出機、
Tダイ:200℃、
冷却ロール:30℃、
表面処理:LDPEフィルムの片側表面をガーゼにて10回摩擦した。
【0067】
(2)添加物質含有高分子材料
添加物質含有高分子材料として、帯電防止剤入りEVAフィルム(帯電防止剤:ステアリン酸系界面活性剤、1wt%添加)を用いた。
【0068】
(3)残留空間電荷分布の観察
片面摩擦処理LDPEフィルム(130μm)に直流電圧:20kV/mmを10分間印加後、電圧を切り1分後に、フィルム内部に残った残留ホモ電荷分布を観察した(残留空間電荷分布の観察)。電極は、直径8mmのものを用い、この電極をフィルム上でランダムに選択した3箇所の位置にセットして、残留空間電荷分布の観察を行なった。その結果を図5に示す。図5(b)は、図5(a)に対し印加電圧の極性を反対にしたものである。図5(c)に示すように、摩擦後、電圧印加前にはLDPE内部には電荷形成は観察されなかったが、電圧印加OFF後には厚み全体に残留電荷が観察された。いずれの場合も摩擦面と反対側でホモ電荷が生成し、蓄積、残留する事が判明した。これら残留電荷は摩擦処理面の反対側極性の正負どちらかのホモ電荷となりバルク全体を覆う傾向を示した。従って、摩擦処理面からの電荷注入・蓄積・残留が生じにくいことが判明した。
【0069】
<比較例2>
帯電防止剤の入っていないEVA(100μm)と未処理LDPE(100μm)を貼り合わせたシートでの内部空間電荷分布の時間変化を観察した。直流印加電圧10kV(50kV/mm)で2時間(129分)までの変化を観察した結果を図6に示した。図6に示すように、EVA/PE界面での電荷形成は見られなく、電極からのホモ電荷注入が観察されたのみであった。
【0070】
<比較例3>
帯電防止剤入りEVA(100μm)とLDPE(100μm)を貼り合わせたシートでの内部空間電荷分布の時間変化を観察した。直流印加電圧10kV(50kV/mm)で2時間(129分)までの変化を観察した結果を図7に示した。
【0071】
図7(a)には、貼り合わせ9分後の電圧印加時の空間電荷分布を示した。帯電防止剤の入っていないEVAの場合(図6)と違って、EVA/PE界面での負電荷形成が観察された。また、両電極からのホモ電荷注入も観察され、帯電防止剤添加により電荷形成し易くなったことが判明した。図7(b)には、電圧印加方法として電圧10kV(50kV/mm)を連続して2時間かけながらEVA/PE界面での負電荷挙動を測定した場合と、図7(c)には、電圧印加を不連続とした場合のEVA/PE界面での負電荷挙動を測定場合の結果を示した。いずれの場合も、EVA/PE界面での蓄積負電荷がEVA内部からPE内部への移動拡散が確認された。これによりPEの表面抵抗率が低下することが推察される。
【0072】
以上の実施例、比較例によれば、比較例3ではEVA/PE界面での蓄積負電荷の拡散移動が確認されたが、実施例1〜3ではEVA/PE界面での蓄積負電荷形成の移動がほとんどみられないことが確認された。
【0073】
従って、実施例の結果が示すように、帯電防止剤入りEVAフィルムと片面表面処理したLDPEフィルム面とを貼り合せることにより、EVAからPEへの空間電荷の移動がほとんどないことから、本発明の複合材料は、帯電防止剤のイオンキャリヤーの移動拡散を有効に防止できるものである。
【0074】
また、本発明の複合材料を基材とする粘着テープをキャリアテープに用いることで、帯電防止効果が低下することがなく、テープ剥離による静電気が電子部品に悪影響を及ぼすことがなく、キャリアテープとしての機能を十分に発揮できるものとなる。
【0075】
<別実施例>
上記実施例において、拡散物質として帯電防止剤のイオンキャアリーを想定している。しかし、本発明の物質拡散物方法及び物質拡散可能な複合材料は、その他の添加物質のイオンキャリヤーに対しても有効に機能する。
【0076】
また、上記実施例において、化学的及び/または物理的処理により拡散防止層を拡散物質材料に形成したが、拡散物質含有の高分子材料(例えば、EVA、PET)の少なくとも片面側に化学的及び/または物理的処理により拡散防止層を形成することができる。これにより、高分子材料の拡散防止層側の表面に拡散物質がブリードアウトすることがなく、他の材料を汚染することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】未処理LDPEフィルムの残留電荷分布を示す説明図
【図2】片面コロナ処理LDPEフィルムの残留電荷分布を示す説明図
【図3】片面コロナ処理LDPEフィルムの電圧印加時の電荷移動を示す説明図
【図4】片面オゾナイザー処理LDPEフィルムの残留電荷分布を示す説明図
【図5】片面摩擦処理LDPEフィルムの残留電荷分布を示す説明図
【図6】未処理LDPE/EVAでの空間電荷分布を示す説明図
【図7】未処理処理LDPEフィルム/帯電防止剤入りEVAでの空間電荷分布の時間変化を示す説明図
【図8】片面コロナ処理LDPEフィルム/帯電防止剤入りEVAでの空間電荷分布の時間変化を示す説明図
【図9】片面オゾナイザー処理LDPEフィルム/帯電防止剤入りEVAでの空間電荷分布の時間変化を示す説明図
【図10】本発明に係る観測装置の基本的な構成を例示する説明図
【図11】高分子材料、複合材料、粘着テープの構成を説明する図
【図12】キャリアテープを説明する図
【符号の説明】
【0078】
1 被観測体
1a 空間電荷
1b 弾性波
4a、4b 電極
5 圧電素子
5a 増幅器
6 直流電源部
6a パルス電源部
7 記憶手段
8 制御・演算処理手段
10 高分子材料
10a 拡散防止層
20 拡散防止材料
20a 拡散防止層
30 第3の材料
40 粘着剤層
50 キャリアテープ
50b トップテープ
50c ボトムテープ
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状の高分子材料に含有される添加物質の拡散を防止する方法、及びシート状の高分子材料に含有される添加物質の拡散を防止可能とする複合材料に関する。本発明における複合材料は、例えば、電子部品のキャリアテープの基材用途に有用である。
【背景技術】
【0002】
従来から、高分子材料に含有される可塑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、架橋剤、不純物などが、高分子材料内部から表面側に移動したり、ランダムに拡散することが知られている。このような高分子材料に含有される上記拡散物質の拡散移動によって、汚染問題、表面抵抗率上昇等の問題が生じている。例えば、帯電防止剤を高分子材料中に練り込んだ場合は、帯電防止剤が高分子材料内部から表面に移動し(以下に、「ブリードアウト」と称することがある。)、当該表面に接するものへの汚染が生じる。例えば、帯電防止剤含有の第1の高分子材料に他の第2の高分子材料を積層した積層体の場合に、ブリードアウトした帯電防止剤が、当該積層された第2の高分子材料に侵入移動し、第1の高分子材料中の帯電防止剤の含有量が減少する。この帯電防止剤量の減少により、第1の高分子材料の表面低効率が低下し、帯電防止効果が低下してしまう問題がある。
【0003】
このような積層体の一方の層から他方の層に帯電防止剤が拡散してしまうことを防止する方法が多数研究検討されているが、現時点において有効な防止方法は開発されていない。そして、帯電防止のメカニズムが十分に解明されていないために、当該拡散現象を考慮して帯電防止剤の配合量を設定したり、第1の高分子材料の厚みを設定する等して対処しているのが現状である。
【0004】
また、帯電防止剤に限らず、可塑剤、酸化防止剤、架橋剤等の高分子材料に添加される物質の拡散による問題もある。例えば、可塑剤等がその表面にブリードアウトすることによる汚染や、積層体の一方の層から他方の層内部へ可塑剤が侵入することがある。なお、このように可塑剤等が拡散し表面にブリードアウトするメカニズムや他の層に侵入するメカニズムについても明確に解明されていない。また、可塑剤、酸化防止剤、架橋剤等の拡散移動は、高分子材料の物性に少なからず影響する。
【0005】
また、上記の拡散物質は、高分子材料中に練りこまれる場合に限定されず、高分子材料の表面に塗布された場合においても、高分子材料の内部に侵入し拡散することが知られている。例えば、帯電防止剤を高分子材料表面に塗布した場合に、高分子材料内部への拡散により表面の表面抵抗率が低下して行き帯電防止効果が低下する問題がある。
【0006】
そして、帯電防止剤を含有する高分子材料の単層体や、それに他の高分子材料を積層した積層体、また、それら単層体や積層体に粘着剤を塗布して構成された粘着テープが実用化されている。この積層体は、例えば、電子部品のキャリアテープに用いられる。キャリアテープにおいて、帯電防止効果が低下した場合、キャリアテープとしての機能を十分に発揮できなくなるので、帯電防止剤の拡散による帯電防止効果の影響は重大な問題である。
【0007】
そして、上記単層体や積層体及びそれらを基材とする粘着テープにおいて、帯電防止効果を電気的に測定することが知られている。例えば、単層体、積層体及び粘着テープ表面の表面抵抗率、帯電電位、電位減衰等の電気的特性の測定で、帯電防止効果の均一性評価が可能である。
【0008】
さらに、上記電気的測定方法以外に、空間電荷分布測定(例えば、特許文献1参照)により、高分子材料内部での空間電荷の形成、蓄積、移動、拡散の状態がリアルタイムでビジュアルに観察することができる。
【0009】
【特許文献1】特開2006−17517号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
既に述べたように、高分子材料中を拡散移動する拡散物質の影響による問題は深刻であり、拡散物質の拡散移動を防止する方法の開発が強く望まれていた。
【0011】
そこで、本発明の目的は、高分子材料内部の拡散物質が表面にブリードアウトして他の材料に当該拡散物質が侵入することを防止する物質拡散防止方法を提供することにある。さらに、高分子材料内部の拡散物質が他の材料に侵入することがない複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、以下に示す物質拡散方法および物質拡散防止可能な複合材料を得るに至った。
【0013】
すなわち、本発明の物質拡散防止方法は、シート状の高分子材料に含有される添加物質の拡散を防止する方法であって、
当該シート状の高分子材料の少なくとも片面に、コロナ処理層、オゾナイザー処理層、及び摩擦処理層から選択される拡散防止層を設けることにより前記添加物質の拡散を防止することを特徴とする。
【0014】
上記物質拡散防止方法において、前記シート状の高分子材料の少なくとも片面に、コロナ処理、オゾナイザー処理、及び摩擦処理から選択される表面処理を施すことにより拡散防止層を設けることが好ましい実施態様である。
【0015】
また、他の本発明の物質拡散防止方法は、シート状の高分子材料に含有される添加物質の拡散を防止する方法であって、
当該シート状の高分子材料の少なくとも片面に、化学的及び/又は物理的に処理された拡散防止層を有する拡散防止材料を設けることにより前記添加物質の拡散を防止することを特徴とする。
【0016】
また、他の本発明の物質拡散防止方法は、シート状の高分子材料に含有される添加物質の拡散を防止する方法であって、
当該シート状の高分子材料の少なくとも片面に、コロナ処理、オゾナイザー処理及び摩擦処理から選択される表面処理を施すことで拡散防止層を形成した拡散防止材料を貼り合わせることにより前記添加物質の拡散を防止することを特徴とする。
【0017】
上記物質拡散防止方法において、前記シート状の高分子材料の少なくとも片面に、拡散防止層側を貼り合わせるように構成することが好ましい実施態様である。
【0018】
また、上記物質拡散防止方法において、前記添加物質が、可塑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、及び架橋剤から選択されることが好ましい。特に、添加物質として帯電防止剤であることがより好ましい。
【0019】
上記構成の物質拡散防止方法によれば、高分子材料内部の拡散物質が表面にブリードアウトして他の材料に当該拡散物質が侵入することを好適に防止することが可能となる。また、高分子材料の物性変化(例えば、表面抵抗、体積抵抗等)を抑えることができる。
【0020】
また、他の本発明の複合材料は、添加物質を含有するシート状の高分子材料の少なくとも片面に、化学的及び/又は物理的に処理された拡散防止層を形成した拡散防止材料を少なくとも設けることを特徴とする。
【0021】
また、他の本発明の複合材料は、添加物質を含有するシート状の高分子材料の少なくとも片面に、コロナ処理、オゾナイザー処理及び摩擦処理から選択される表面処理を施すことで拡散防止層を形成した拡散防止材料を少なくとも貼り合わせて構成することを特徴とする。
【0022】
上記複合材料において、コロナ処理、オゾナイザー処理、及び摩擦処理から選択される表面処理が施された面では、直流電圧印加した場合に空間電荷形成が生じないことを特徴とする。
【0023】
また、上記複合材料は、高分子材料及び拡散防止材料からなる2層の積層構造でもよく、さらに別の高分子材料を拡散防止材料側に張り合わせてなる3層以上の積層構造でもよい。
【0024】
上記構成の複合材料によれば、高分子材料内部の拡散物質が表面にブリードアウトして複合材料を構成する他の材料に当該拡散物質が侵入することがないので、高分子材料の物性変化による影響を抑え、他の材料に対する影響も押さえることができる。例えば、高分子材料内部の帯電防止剤の他の材料に対する侵入を抑えることが可能となる。
【0025】
また、他の本発明は、上記複合材料中いずれかの複合材料を基材とし、添加物質を含有する高分子材料側面でなく拡散防止材料側面に粘着剤層を設けて構成された粘着テープである。また、本発明の複合材料又は粘着テープを電子部品のキャリアテープに用いることが好適である。これによって、添加物質が帯電防止剤である場合に帯電防止効果が低下せず、テープ剥離による静電気が電子部品に悪影響を及ぼすことがなく、キャリアテープとしての機能を十分に発揮できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について適宜図面を用いて説明する。
【0027】
(高分子材料)
本発明において適用可能な高分子材料は、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド(PI)、エチレンビニルアセテート(EVA)、塩化ビニル(PVC)等が例示される。また、後述する化学的及び/または物理的な処理効果がある高分子材料が例示される。
【0028】
本発明の高分子材料は、シート状であり、その厚みは、適宜設定可能であるが、例えば、数μm〜数mmまでの厚み範囲が例示される。なお、高分子材料の製造方法は、公知の製造方法が適用できるのでここでの詳細な説明は省略する。
【0029】
(添加物質)
高分子材料に含有される添加物質は、例えば、可塑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、架橋剤、光安定剤、紫外線吸収剤、防曇剤等が例示される。これら添加物質の種類、配合量は、高分子材料の種類や、その製造方法、さらに製品特性、所望の物性に依存して設定される。
【0030】
(拡散物質)
本発明において、各種材料を移動可能な拡散物質としては、上記添加物質で例示された可塑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、架橋剤、光安定剤、紫外線吸収剤、防曇剤等、さらに不純物などに含まれているイオンキャリヤーが例示され、例えば、無機イオンのNa+、Cl−、K+、Ca2+、Mg2+、SO42+などであり、有機酸が解離して生じたH+、COO−などが考えられる。
【0031】
(帯電防止剤)
高分子材料に練り込み型の帯電防止剤としては、表面移行型帯電防止剤の他に、表面へのブリードアウトがないと予測される永久型帯電防止剤も市販されている。しかし、このような永久型帯電防止剤であっても完全に表面にブリードアウトしないわけではない。さらにシート状に製造した場合において帯電防止剤が表面に点在することになる。本発明は、表面移行型帯電防止剤が表面に移動し、他の材料に移動しない拡散防止方法を提供するものである。また、本発明は、永久型帯電防止剤であっても表面に存在すれば、他の材料に移動することを防止できる。
【0032】
また、表面塗布型の帯電防止剤として、静電防止性コーティング剤のボンディップ(アルテック社製)や可溶性ポリアニリン(例えば、アニリード:日東電工社製)等を例示できる。
【0033】
(拡散防止材料)
本発明における拡散防止材料は、既に述べた高分子材料と複合材料を構成するものである。そして、拡散防止材料の少なくとも片面には、後述する化学的及び/または物理的な処理を施すことによって拡散防止層が形成されている。また、他の例として、高分子材料に直接に拡散防止層を形成することもできる。
【0034】
拡散防止材料は、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド(PI)、エチレンビニルアセテート(EVA)、塩化ビニル(PVC)等が例示される。また、その中でも、PE、PPがより好ましく、特にPEが好ましい。また、後述する化学的及び/または物理的な処理効果があることが必要である。
【0035】
拡散防止材料は、シート状であり、その厚みは、適宜設定可能であるが、例えば、数μm〜数mmまでの厚み範囲が例示される。なお、拡散防止材料の製造方法は、公知の製造方法が適用できるのでここでの詳細な説明は省略する。
【0036】
(表面処理方法)
表面処理方法は、化学的及び/または物理的な処理方法である。化学的表面処理方法としてオゾナイザー処理が例示され、物理的表面処理方法として摩擦処理が例示され、また、化学的及び物理的な表面処理方法としてコロナ処理が例示される。
【0037】
本発明において、例えば、コロナ処理、オゾナイザー処理、摩擦処理等の各種処理により表面層の架橋度が向上したり、配向性が改善したりして、エネルギーの深い所にトラップが生じ電荷(イオンキャリアー)の動きを止めている(拡散物質の拡散を困難にしている)と推察できる。また、公知の実験報告では、架橋度の高いPEの方が架橋度の低いPEよりも拡散速度が遅くなる事が判っており、本発明における表面処理の作用との関連が推察できる。
【0038】
(コロナ処理方法)
本発明におけるコロナ処理の方法は、被処理材料に応じて公知のコロナ処理方法が適用できるが、例えば、誘電材料を巻いたロールと処理フィルムの乗った金属ロール間でコロナ放電させるコロナ処理装置での方法が例示される。このコロナ処理装置の処理条件としては、例えば、350W出力に対してラインスピード5m/分(350W×5m/分)、450W×5m/分、450W×3m/分などの諸条件があるが、ぬれ指数が41〜43(未処理のぬれ指数は通常31〜34)になる条件が好ましい。
【0039】
(オゾナイザー処理方法)
本発明におけるオゾザイザー処理の方法は、被処理材料に応じて公知のオゾナイザー処理方法が適用できるが、例えば、平板電極を平行に設置し交流電圧を印加しコロナ放電を発生させ、その時生じるオゾンを被処理材料表面に暴露させる方法が例示される。この処理方法の処理条件としては、例えば、表面酸化度合いとしては、上記カルボニル基(COO−)における吸収係数α(=54.6)にて評価し、αが30〜60範囲での処理が好ましい。吸収係数αは下記式で算出される。
【0040】
(式)α=−(1/d)ln(I/IO)・・・(1)
式1中、d:試料の厚み、I:赤外透過強度、IO:赤外入射強度を示す。
【0041】
(摩擦処理方法)
本発明において適用可能な摩擦処理方法は、被処理材料に応じて公知の査察処理方法が適用できるが、例えば、ガーゼにて10回ほど擦る方法が例示される。
【0042】
(複合材料)
本発明の複合材料は、複数の材料(例えば、高分子材料、拡散防止材料及びその他の材料)で構成される2層若しくは3層以上の積層体として構成できる。複数の材料を積層し複合材料を形成する方法は特に制限されないが、例えば、熱溶着、インパルス溶着、高周波溶着、接着剤または粘着剤による貼り合わせ方法等が例示される。拡散物質が帯電防止剤の場合、高分子材料と拡散防止材料とを熱溶着する方法が他の方法よりも好ましい。
【0043】
また、帯電防止剤を高分子材料の表面に塗布する構成の場合、帯電防止剤を塗布していない面側に拡散防止材料を張り合わせることができる。
【0044】
また、本発明の複合材料をキャリアテープの基材として用いる場合、高分子材料/拡散防止材料/第3の材料の構成として、EVA/PE/PETとすることが強度(テープとして要求されるコシ)の点で好ましい。
【0045】
(粘着テープ)
本発明の粘着テープは、既に説明した複合材料を基材とし、添加物質を含有する高分子材料側面でなく拡散防止材料側面に粘着剤層を設けるように構成してある。また、他の粘着テープの構成として、添加物質を含有する高分子材料に拡散防止層を上記の表面処理を施すことで形成し、この拡散防止層に直接粘着剤層を設けることができる。
【0046】
粘着剤としては、公知の粘着剤が適用でき、使用目的、粘着剤層と接する面の材質等を考慮して適宜選択され、例えば、ホットメルト系粘着剤、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、熱硬化ゴム系粘着剤等が例示される。また、この粘着テープをキャリアテープに用いる場合には、粘着剤に帯電防止処理が施されていることが好ましい。
【0047】
本発明の粘着テープは、公知の用途で使用できるが、例えば、電子部品のキャリアテープとしての用途が例示される。
【0048】
(キャリアテープ)
通常、電子部品のキャリアテープは、細長い厚手の紙台紙或いはプラスチックに電子部品を収納するポケット(キャビティー)を形成し、その上下若しくはその開放面側においてレール状に帯電防止剤入りのEVAフィルム等を加熱溶着してなるものがある。また、レール状に粘着剤を塗布し、帯電防止剤入りのEVAフィルム等を貼り付けることもできる。なお、この上側若しくは開放面側に貼られたテープをトップテープと称し、下側に貼られたテープをボトムテームと称することがある。
【0049】
本発明の粘着テープをこのトップテープやボトムテープとして用いる場合、キャリアテープの形状に合わせてレール状に粘着剤を形成する必要がある。
【0050】
(複合材料等の構成)
本発明の高分子材料、複合材料、粘着テープ、キャリアテープの構成例(断面図)を図11、12を用いて説明する。図11(a)は、高分子材料10単層の片面に拡散防止層10aを形成したものである。図11(b)は、高分子材料10の片面に、拡散防止層20aを形成した拡散防止材料20を貼り合わせた2層構造の積層体である。図11(c)は、高分子材料10の片面に、拡散防止層20aを形成した拡散防止材料20を張り合わせ、さらに第3の材料30(高分子材料)を貼り合せた3層構造の積層体である。図11(d)は、上記2層構造の積層体に粘着剤層40を形成した粘着テープである。図11(e)は、上記3層構造の積層体に粘着剤層40を形成した粘着テープである。図11(f)は、上記単層構造の高分子材料10に形成した拡散防止層10aに粘着剤層40を形成した粘着テープである。図12は、キャリア台紙50aにトップテープ50b及びボトムテープ50cを貼り合わせたキャリアテープ50の一例である。トップテープ50b及びボトムテープ50cは、本発明の上記積層体で構成できる。また、レール状に粘着剤が塗布された粘着テープで構成することもできる。
【0051】
[実施例]
(評価方法その1)
本発明の物質拡散方法、複合材料等の評価の一つとして、空間電荷分布の測定がある。以下に、空間電荷分布について説明する。
【0052】
(空間電荷分布観測)
空間電荷分布は、パルス静電応力法(PEA法:Pulse Electro−Acoustic Method)によるPEA法装置にて測定できる。このPEA法及びPEA法装置の詳細な説明は、特開2005−17517号公報に記載されている。PEA法装置としては、例えば、フィボラボ社製のPEANUTS,PEA−101−BMが挙げられる。
【0053】
図10は、PEA法装置の基本的な構成を例示している。図10において、被観測体1の両端面に、電圧印加手段を構成する電極4a(正極)、電極4b(負極)が当接し、この電極4bに圧電素子5が設けられている。直流電源部6から電極4a、4bに電圧が印加され、被観測体1の内部に空間電荷1aが形成された場合、パルス電源部6aからパルス電界が印加されると、クーロン力が働き、弾性波が電極4b側に向かって発生する。この弾性波は、電極4bの裏側に設けられた圧電素子5によって検知され電圧に変換される。この変換された電圧が増幅器5aで増幅される。増幅された電圧データを記憶手段7に順次メモリーし、制御・演算処理手段8によって演算され、解析用データに変換・処理される。また、制御・演算処理手段8は、こうした演算処理機能に加え、各データを基に、直流電源部6、パルス電源部6aの動作(例えば、電圧の連続的印加あるいは間欠的印加の選択や印加電圧値など)、あるいは増幅器5aや記憶手段7の動作を制御する機能を有することができる。
【0054】
上記の構成によれば、被観測体1を両電極で挟み、所定の直流電圧及びパルス電界を印加させることで、弾性波を生じさせ、この弾性波を解析することで、被観測体1の内部の空間電荷分布の挙動(変化)を観測することができる。
【0055】
<比較例1>
比較試験用のLDPEフィルム(低密度ポリエチレンフィルム)は、スミカセン製、厚み130μmのフィルムであり、以下の製造条件で得られる。
押出機、
Tダイ:200℃、
冷却ロール:30℃、
酸化防止剤:フェノール系酸化防止剤、配合比0.1wt%以下、
その他添加剤なし。
【0056】
(2)残留空間電荷分布の観察
未処理LDPEフィルム(スミカセン、130μm)に直流電圧:20kV/mmを10分間印加後、電圧を切り1分後に、フィルム内部に残った残留ホモ電荷分布を観察した(残留空間電荷分布の観察)。電極は、直径8mmのものを用い、この電極をフィルム上でランダムに選択した5箇所の位置にセットして、残留空間電荷分布の観察を行なった。その結果を図1に示す。図1(a)〜(d)に示すように異なる5ケ所の位置でのデータ(5つの実線曲線データ)において、印加電圧の極性を反対にしたり(図1(b)、(d))、フィルムを反転(図1(c))したりして電荷分布を観察した。その結果、いずれの場合も両電極から電荷注入が起き、内部にホモ電荷が生成し、電圧OFF後も内部に残留電荷が観察された。これら残留電荷は、正負どちらかのホモ電荷となりバルク全体を覆う傾向を示した。従って、場所によりどちらからかの極性が注入生成したものと推察され、よって、フィルムの一方の面又は他方の面のいずれの面からも注入できることが確認された。図1(e)は、未処理LDPEフィルムに直流電圧印加前に電荷分布測定を行なった結果である。
【0057】
<実施例1>
(1)拡散防止材料
拡散防止材料として、LDPEフィルム(低密度ポリエチレンフィルム)を用い、その片面にコロナ処理を施して拡散防止層を形成した。この片面コロナ処理LDPEフィルムの製造条件は以下である。
フィルム厚み:60μm、
インフレーション作製:160℃、
酸化防止剤:フェノール系酸化防止剤、配合比0.1wt%以下、
その他添加剤なし、
表面処理:コロナ処理装置として誘電材料を巻いたロールと処理フィルムの乗った金属ロール間で放電させる装置を用いた。処理条件は、350W出力でラインスピード5m/分であり、ぬれ指数は、42であった。
【0058】
(2)添加物質含有高分子材料
添加物質含有高分子材料として、帯電防止剤入りEVAフィルム(帯電防止剤:ステアリン酸系界面活性剤、1wt%添加)を用いた。
【0059】
(3)残留空間電荷分布の観察
片面コロナ処理LDPEフィルム(60μm)に直流電圧:20kV/mmを10分間印加後、電圧を切り1分後に、フィルム内部に残った残留ホモ電荷分布を観察した(残留空間電荷分布の観察)。電極は、直径8mmのものを用い、この電極をフィルム上でランダムに選択した5箇所の位置にセットして、残留空間電荷分布の観察を行なった。その結果を図2に示す。図2(a)〜(d)に示すように異なる5ケ所の位置でのデータにおいて、印加電圧の極性を反対にしたり(図2(b)、(d))、フィルムを反転(図2(c))したりして電荷分布を観察した。いずれの場合もコロナ処理面と反対側でホモ電荷が生成し、蓄積、残留する事が判明した。これら残留電荷はコロナ処理面の反対側極性の正負どちらかのホモ電荷となりバルク全体を覆う傾向を示した。従って、コロナ処理面からの電荷注入・蓄積・残留が生じないことが判明した。図2(e)は、片面コロナ処理LDPEフィルムに直流電圧印加前に電荷分布測定を行なった結果である。
【0060】
(4)電圧印加時の電荷の移動の観察
片面コロナ処理LDPEフィルム(60μm)に直流電圧:20kV/mmを印加し、印加後、2分後、4分後、6分後、8分後、10分後に電荷分布を測定した。フィルムを両電極で挟み、材料内部の電荷移動の様子を観察した。結果を図3に示す。図3(a)、(b)に示すように、電圧印加時にPE内部で生じている電荷移動を観察することができ、コロナ処理面の反対側から処理面側への電荷移動が確認された。
【0061】
(5)複合材料(帯電防止剤入りEVA/片面コロナ処理LDPE)の拡散挙動観察
片面コロナ処理LDPEフィルムと帯電防止剤入りEVA(100μm厚)とを100℃にて熱融着させた後、直流電圧:50kV/mm×2時間印加し、帯電防止剤入りEVA/LDPE界面に蓄積した負の空間電荷の移動を観察した。その結果を図8に示す。図8に示すように、EVA/PE界面での負電荷形成が観察された。図8(b)は図8(a)のEVA/PE界面での負電荷形成の拡大図を示す。そして、図8(b)に示すように、EVA/PE界面での負電荷の移動はほとんど見られない。コロナ処理面が拡散防止層としてバリヤー機能を発揮し、帯電防止剤の移動拡散を阻止していることが確認された。
【0062】
<実施例2>
(1)拡散防止材料
拡散防止材料として、スミカセン社製、LDPEフィルムを用い、その片面にオゾザイザー処理を施して拡散防止層を形成した。この片面オゾナイザー処理LDPEフィルムの製造条件は以下である。
フィルム厚み:98μm
押出機、
Tダイ:200℃、
冷却ロール:30℃、
表面処理:オゾナイザーにて5時間オゾンに暴露する。表面酸化度合いとしては、カルボニル基における吸収係数α(=54.6)にて評価した。吸収係数αは、上記式(1)により算出される。
【0063】
(2)添加物質含有高分子材料
添加物質含有高分子材料として、帯電防止剤入りEVAフィルム(帯電防止剤:ステアリン酸系界面活性剤、1wt%添加)を用いた。
【0064】
(3)残留空間電荷分布の観察
片面オゾナイザー処理LDPEフィルム(98μm)に直流電圧:2kV(約20kV/mm)を10分間印加後、電圧を切り1分後に、フィルム内部に残った残留ホモ電荷分布を観察した(残留空間電荷分布の観察)。電極は、直径8mmのものを用い、この電極をフィルム上でランダムに選択した5箇所の位置にセットして、残留空間電荷分布の観察を行なった。その結果を図4に示す。図4(b)は、図4(a)に対し印加電圧の極性を反対にしたものである。いずれの場合もオゾナイザー処理面と反対側でホモ電荷が生成し、蓄積、残留する事が判明した。これら残留電荷はオゾナイザー処理面の反対側極性の正負どちらかのホモ電荷となりバルク全体を覆う傾向を示した。従って、オゾナイザー処理面からの電荷注入・蓄積・残留が生じないことが判明した。図4(c)は片面オゾナイザー処理LDPEフィルムに直流電圧印加前に電荷分布測定を行なった結果である。
【0065】
(5)複合材料(帯電防止剤入りEVA/片面オゾナイザー処理LDPE)の拡散挙動観察
帯電防止剤入りEVA(100μm厚)と片面オゾナイザー処理(酸化処理)したLDPE(100μm厚)とを100℃にて熱融着させた後、直流電圧:50kV/mmを2時間印加し、帯電防止剤入りEVA/LDPE界面に蓄積した負の空間電荷の移動を観察した。そのEVA/PE界面での負電荷形成の拡大図を図9に示す。図9に示すように、EVA/PE界面での負電荷形成が観察され、時間経過によるEVAからPEへの移動拡散はほとんど見られなかった。オゾナイザー処理面(酸化処理面)がバリヤー機能を発揮して帯電防止剤の移動拡散を阻止していることが確認された。
【0066】
<実施例3>
(1)拡散防止材料
拡散防止材料として、スミカセン社製、LDPEフィルム(低密度ポリエチレンフィルム)を用い、その片面に摩擦処理を施して拡散防止層を形成した。この片面摩擦処理LDPEフィルムの製造条件は以下である。
フィルム厚み:130μm
押出機、
Tダイ:200℃、
冷却ロール:30℃、
表面処理:LDPEフィルムの片側表面をガーゼにて10回摩擦した。
【0067】
(2)添加物質含有高分子材料
添加物質含有高分子材料として、帯電防止剤入りEVAフィルム(帯電防止剤:ステアリン酸系界面活性剤、1wt%添加)を用いた。
【0068】
(3)残留空間電荷分布の観察
片面摩擦処理LDPEフィルム(130μm)に直流電圧:20kV/mmを10分間印加後、電圧を切り1分後に、フィルム内部に残った残留ホモ電荷分布を観察した(残留空間電荷分布の観察)。電極は、直径8mmのものを用い、この電極をフィルム上でランダムに選択した3箇所の位置にセットして、残留空間電荷分布の観察を行なった。その結果を図5に示す。図5(b)は、図5(a)に対し印加電圧の極性を反対にしたものである。図5(c)に示すように、摩擦後、電圧印加前にはLDPE内部には電荷形成は観察されなかったが、電圧印加OFF後には厚み全体に残留電荷が観察された。いずれの場合も摩擦面と反対側でホモ電荷が生成し、蓄積、残留する事が判明した。これら残留電荷は摩擦処理面の反対側極性の正負どちらかのホモ電荷となりバルク全体を覆う傾向を示した。従って、摩擦処理面からの電荷注入・蓄積・残留が生じにくいことが判明した。
【0069】
<比較例2>
帯電防止剤の入っていないEVA(100μm)と未処理LDPE(100μm)を貼り合わせたシートでの内部空間電荷分布の時間変化を観察した。直流印加電圧10kV(50kV/mm)で2時間(129分)までの変化を観察した結果を図6に示した。図6に示すように、EVA/PE界面での電荷形成は見られなく、電極からのホモ電荷注入が観察されたのみであった。
【0070】
<比較例3>
帯電防止剤入りEVA(100μm)とLDPE(100μm)を貼り合わせたシートでの内部空間電荷分布の時間変化を観察した。直流印加電圧10kV(50kV/mm)で2時間(129分)までの変化を観察した結果を図7に示した。
【0071】
図7(a)には、貼り合わせ9分後の電圧印加時の空間電荷分布を示した。帯電防止剤の入っていないEVAの場合(図6)と違って、EVA/PE界面での負電荷形成が観察された。また、両電極からのホモ電荷注入も観察され、帯電防止剤添加により電荷形成し易くなったことが判明した。図7(b)には、電圧印加方法として電圧10kV(50kV/mm)を連続して2時間かけながらEVA/PE界面での負電荷挙動を測定した場合と、図7(c)には、電圧印加を不連続とした場合のEVA/PE界面での負電荷挙動を測定場合の結果を示した。いずれの場合も、EVA/PE界面での蓄積負電荷がEVA内部からPE内部への移動拡散が確認された。これによりPEの表面抵抗率が低下することが推察される。
【0072】
以上の実施例、比較例によれば、比較例3ではEVA/PE界面での蓄積負電荷の拡散移動が確認されたが、実施例1〜3ではEVA/PE界面での蓄積負電荷形成の移動がほとんどみられないことが確認された。
【0073】
従って、実施例の結果が示すように、帯電防止剤入りEVAフィルムと片面表面処理したLDPEフィルム面とを貼り合せることにより、EVAからPEへの空間電荷の移動がほとんどないことから、本発明の複合材料は、帯電防止剤のイオンキャリヤーの移動拡散を有効に防止できるものである。
【0074】
また、本発明の複合材料を基材とする粘着テープをキャリアテープに用いることで、帯電防止効果が低下することがなく、テープ剥離による静電気が電子部品に悪影響を及ぼすことがなく、キャリアテープとしての機能を十分に発揮できるものとなる。
【0075】
<別実施例>
上記実施例において、拡散物質として帯電防止剤のイオンキャアリーを想定している。しかし、本発明の物質拡散物方法及び物質拡散可能な複合材料は、その他の添加物質のイオンキャリヤーに対しても有効に機能する。
【0076】
また、上記実施例において、化学的及び/または物理的処理により拡散防止層を拡散物質材料に形成したが、拡散物質含有の高分子材料(例えば、EVA、PET)の少なくとも片面側に化学的及び/または物理的処理により拡散防止層を形成することができる。これにより、高分子材料の拡散防止層側の表面に拡散物質がブリードアウトすることがなく、他の材料を汚染することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】未処理LDPEフィルムの残留電荷分布を示す説明図
【図2】片面コロナ処理LDPEフィルムの残留電荷分布を示す説明図
【図3】片面コロナ処理LDPEフィルムの電圧印加時の電荷移動を示す説明図
【図4】片面オゾナイザー処理LDPEフィルムの残留電荷分布を示す説明図
【図5】片面摩擦処理LDPEフィルムの残留電荷分布を示す説明図
【図6】未処理LDPE/EVAでの空間電荷分布を示す説明図
【図7】未処理処理LDPEフィルム/帯電防止剤入りEVAでの空間電荷分布の時間変化を示す説明図
【図8】片面コロナ処理LDPEフィルム/帯電防止剤入りEVAでの空間電荷分布の時間変化を示す説明図
【図9】片面オゾナイザー処理LDPEフィルム/帯電防止剤入りEVAでの空間電荷分布の時間変化を示す説明図
【図10】本発明に係る観測装置の基本的な構成を例示する説明図
【図11】高分子材料、複合材料、粘着テープの構成を説明する図
【図12】キャリアテープを説明する図
【符号の説明】
【0078】
1 被観測体
1a 空間電荷
1b 弾性波
4a、4b 電極
5 圧電素子
5a 増幅器
6 直流電源部
6a パルス電源部
7 記憶手段
8 制御・演算処理手段
10 高分子材料
10a 拡散防止層
20 拡散防止材料
20a 拡散防止層
30 第3の材料
40 粘着剤層
50 キャリアテープ
50b トップテープ
50c ボトムテープ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状の高分子材料に含有される添加物質の拡散を防止する方法であって、
当該シート状の高分子材料の少なくとも片面に、コロナ処理層、オゾナイザー処理層、及び摩擦処理層から選択される拡散防止層を設けることにより前記添加物質の拡散を防止する物質拡散防止方法。
【請求項2】
前記シート状の高分子材料の少なくとも片面に、コロナ処理、オゾナイザー処理、及び摩擦処理から選択される表面処理を施すことにより拡散防止層を設けることを特徴とする請求項1に記載の物質拡散防止方法。
【請求項3】
シート状の高分子材料に含有される添加物質の拡散を防止する方法であって、
当該シート状の高分子材料の少なくとも片面に、化学的及び/又は物理的に処理された拡散防止層を有する拡散防止材料を設けることにより前記添加物質の拡散を防止する物質拡散防止方法。
【請求項4】
シート状の高分子材料に含有される添加物質の拡散を防止する方法であって、
当該シート状の高分子材料の少なくとも片面に、コロナ処理、オゾナイザー処理及び摩擦処理から選択される表面処理を施すことで拡散防止層を形成した拡散防止材料を貼り合わせることにより前記添加物質の拡散を防止する物質拡散防止方法。
【請求項5】
前記高分子材料と拡散防止材料とを張り合わせる際に、当該高分子材料の少なくとも片面に、拡散防止層側を貼り合わせるように構成した請求項3又は請求項4に記載の物質拡散防止方法。
【請求項6】
前記添加物質が、可塑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、及び架橋剤から選択されることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の物質拡散防止方法。
【請求項7】
前記添加物質が、帯電防止剤であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の物質拡散防止方法。
【請求項8】
添加物質を含有するシート状の高分子材料の少なくとも片面に、化学的及び/又は物理的に処理された拡散防止層を形成した拡散防止材料を少なくとも設けた複合材料。
【請求項9】
添加物質を含有するシート状の高分子材料の少なくとも片面に、コロナ処理、オゾナイザー処理及び摩擦処理から選択される表面処理を施すことで拡散防止層を形成した拡散防止材料を少なくとも貼り合わせて構成した複合材料。
【請求項10】
コロナ処理、オゾナイザー処理、及び摩擦処理から選択される表面処理が施された面では、直流電圧印加した場合に空間電荷形成が生じないことを特徴とする請求項9に記載の複合材料。
【請求項11】
請求項8から請求項10のいずれか1項に記載の複合材料を基材とし、添加物質を含有する高分子材料側面でなく拡散防止材料側面に粘着剤層を設けることを特徴とする粘着テープ。
【請求項12】
請求項8から請求項10のいずれか1項に記載の複合材料又は請求項11に記載の粘着テープを用いた電子部品のキャリアテープ。
【請求項1】
シート状の高分子材料に含有される添加物質の拡散を防止する方法であって、
当該シート状の高分子材料の少なくとも片面に、コロナ処理層、オゾナイザー処理層、及び摩擦処理層から選択される拡散防止層を設けることにより前記添加物質の拡散を防止する物質拡散防止方法。
【請求項2】
前記シート状の高分子材料の少なくとも片面に、コロナ処理、オゾナイザー処理、及び摩擦処理から選択される表面処理を施すことにより拡散防止層を設けることを特徴とする請求項1に記載の物質拡散防止方法。
【請求項3】
シート状の高分子材料に含有される添加物質の拡散を防止する方法であって、
当該シート状の高分子材料の少なくとも片面に、化学的及び/又は物理的に処理された拡散防止層を有する拡散防止材料を設けることにより前記添加物質の拡散を防止する物質拡散防止方法。
【請求項4】
シート状の高分子材料に含有される添加物質の拡散を防止する方法であって、
当該シート状の高分子材料の少なくとも片面に、コロナ処理、オゾナイザー処理及び摩擦処理から選択される表面処理を施すことで拡散防止層を形成した拡散防止材料を貼り合わせることにより前記添加物質の拡散を防止する物質拡散防止方法。
【請求項5】
前記高分子材料と拡散防止材料とを張り合わせる際に、当該高分子材料の少なくとも片面に、拡散防止層側を貼り合わせるように構成した請求項3又は請求項4に記載の物質拡散防止方法。
【請求項6】
前記添加物質が、可塑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、及び架橋剤から選択されることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の物質拡散防止方法。
【請求項7】
前記添加物質が、帯電防止剤であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の物質拡散防止方法。
【請求項8】
添加物質を含有するシート状の高分子材料の少なくとも片面に、化学的及び/又は物理的に処理された拡散防止層を形成した拡散防止材料を少なくとも設けた複合材料。
【請求項9】
添加物質を含有するシート状の高分子材料の少なくとも片面に、コロナ処理、オゾナイザー処理及び摩擦処理から選択される表面処理を施すことで拡散防止層を形成した拡散防止材料を少なくとも貼り合わせて構成した複合材料。
【請求項10】
コロナ処理、オゾナイザー処理、及び摩擦処理から選択される表面処理が施された面では、直流電圧印加した場合に空間電荷形成が生じないことを特徴とする請求項9に記載の複合材料。
【請求項11】
請求項8から請求項10のいずれか1項に記載の複合材料を基材とし、添加物質を含有する高分子材料側面でなく拡散防止材料側面に粘着剤層を設けることを特徴とする粘着テープ。
【請求項12】
請求項8から請求項10のいずれか1項に記載の複合材料又は請求項11に記載の粘着テープを用いた電子部品のキャリアテープ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−1778(P2008−1778A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−171617(P2006−171617)
【出願日】平成18年6月21日(2006.6.21)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年6月21日(2006.6.21)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】
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